JP4032627B2 - ポリエーテルケトン超分岐分子、及びこれを配位子とする遷移金属錯体 - Google Patents
ポリエーテルケトン超分岐分子、及びこれを配位子とする遷移金属錯体 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリエーテルケトン超分岐分子とこれを配位子とする遷移金属錯体に関する。本発明のポリエーテルケトン超分岐分子を配位子として含有する遷移金属錯体は、該超分岐分子の有する優れた溶剤溶解性を保持し、しかも例えば金属元素がユウロピウム等のランタノイド元素の場合には、優れた色純度と大きな発光強度を兼備する発光性錯体となる。従って、かかる特徴を生かし、遷移金属元素の有するいろいろな性質(例えば発光能、高屈折率、電磁波遮蔽能、帯電防止能、等)を合成樹脂マトリクスや有機溶剤等の有機マトリクスに付与して可能となる用途、例えばディスプレイ等の発光基板、樹脂ラテックス微粒子を利用した発光分析試薬、前記の性質を有する塗料等に利用されるものである。
【0002】
【従来の技術】
遷移金属元素は、光のエネルギーによる励起とその放出による発光現象、電子線照射によるエックス線の発生、高屈折率、導電性、磁性、各種触媒作用、酸化還元作用等の様々な機能を有している。特にランタノイド元素は、特有のf軌道電子の関与する蛍光能を有し、これは高い色純度(即ち発光帯の波長半値幅が小さいこと)の特徴を有するのでブラウン管や蛍光灯等に使用される無機蛍光体の発光化学種として知られている。
【0003】
かかる遷移金属元素の特徴を実用に供するためには、特定の製品形態とするための成形加工性の付与が必要であり、この目的で、該元素を合成樹脂や有機溶剤等の有機マトリクス物質中に分散あるいは溶解させる方法が有効である。この場合、該有機マトリクスへの分散性あるいは溶解性を遷移金属元素化合物に付与せねばならず、この手段として、有機配位子による該元素の錯体化が有効である。
【0004】
例えば、Y.Okamotoら;Macromolecules,14巻,17頁(1981)、J.Heatsら編;“Metal ContainingPolymeric Systems”,Plenum Press,NewYork(1985)、あるいはY.Okamoto;高分子学会予稿集,1994年43巻(1),29頁等には、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンカルボン酸、あるいはスチレンスルホン酸等の重合性有機酸のランタノイド陽イオン錯体を合成し、かかる錯体を共重合モノマーとしてスチレンやメタクリル酸メチル等と共重合させ、該陽イオン濃度を10重量%程度まで合成樹脂マトリクス中で高める方法が報告されている。また、特開平5−86189号公報には、有機基を有するクロロシラン類と希土類元素の塩化物を原料として得られるランタノイドが高分子鎖中に取り込まれたポリシロキサンが開示されている。更に、特開平5−88026号公報には、ランタノイドのアセチルアセトン錯体のような有機溶媒への溶解性や耐酸化性に優れた錯体をポリアクリレートやポリシロキサン中に含む材料が開示されている。これらの方法は、確かに有機高分子材料中の遷移金属元素濃度を高めるのに有効であり見掛上良好な透明性を有する材料を与えるが、該元素近傍の構造が精密に制御されているわけではなく、たとえ見掛上の透明性が達成されても例えば該元素陽イオンの会合が起こり得るため、かかる発光化学種の会合に起因する濃度消光による発光能の低下等の問題は完全には解決されていなかった。
【0005】
遷移金属元素、特にその陽イオンの錯体構造を制御する方法として、超分岐構造であるデンドリマー構造を有する配位子を使用する試みが報告されている。デンドリマー構造は、溶剤溶解性に優れ、立体的にかさ高くしかもコンフォーメーション変化による空間的広がりの変化が原理的に極度に少ないので、かかる特徴により遷移金属陽イオンを効果的に包含して前記の濃度消光を抑制する効果が、M.Kawaら;Chem.Mater.,10巻,286頁(1998)において「シェル(Shell)効果」として報告されている。この場合、紫外光を吸収するポリベンジルエーテルデンドロンを配位子としているため、3価テルビウム陽イオン(Tb3+)や3価ユウロピウム陽イオン(Eu3+)の錯体において、該デンドロンが吸収する紫外光のエネルギーを効率的にTb3+やEu3+に移動してこれを強く蛍光せしめる増感作用が複合して生ずる。前記文献では、大きなデンドロンを配位子とすると急激にその増感作用が増大することから、このもう1つの効果を「アンテナ効果」として報告している。しかし、イオン種やラジカルの安定化効果を有し化学反応性に富むベンジル位炭素原子を有するポリベンジルエーテルデンドロンを使用しているので、例えば酸性条件における該ベンジルエーテル構造の安定性等、化学的安定性の点で課題を残していた。また、このデンドロンのアンテナ効果はTb3+の発光には非常に有効だがEu3+の発光には効果が小さいという欠点があった。
【0006】
同様のデンドロン配位子の使用が、遷移金属元素に対して比較的配位力の強い含窒素芳香族残基(例えばピリジン環等)をフォーカルポイントに有するポリベンジルエーテルデンドロンを2価ルテニウム陽イオン(Ru2+)に配位させる一連の研究(以下の諸文献)に報告されている。即ち、フォーカルポイントに1,10−フェナントロリン残基を有する方法がS.Serroniら;Gazzetta Chimica Italiana,124巻,423−427(1994)に、同様に2,2’−ビピリジル残基を有する方法がM.Plevoetsら;New.J.Chem.,63−69頁(1999)、およびF.Voegtleら;J.Am.Chem.Soc.、121巻、6290−6298頁(1999)にそれぞれ報告されている。Ru2+は赤色発光能を有し、前記のF.Voegtleら著の文献には芳香族デンドロンによる増感作用(アンテナ効果)が報告されている。しかしこれは、前記Kawaらの報告のランタノイド陽イオン錯体の場合に観察されたアンテナ効果に比べてはるかに小さいものであり、産業上の利用価値の点で満足できるものではなかった。さらに、同じ研究グループによりJ.Issbernerら;Chem.Eur.J.,3巻,706−712(1997)に報告されているように、2,2’−ビピリジル残基により配位を受けているRu2+は酸素による消光を受けやすいため、産業上の利用に制限があった。また、前記のポリベンジルエーテルデンドロンの化学的安定性の懸念があった。
【0007】
A.Morikawaら;Macromolecules,26巻,6324頁(1993)、T.M.Millerら;J.Am.Chem.Soc.,115巻,356頁(1993)、C.J.Hawkerら;Macromolecules,29巻,4370頁(1996)、A.Morikawa;Macromolecules,31巻,5999頁(1998)、あるいはA.Morikawaら;Macromolecules,32巻,1062頁(1999)には、化学的安定性に優れたポリエーテルケトン構造を有するデンドリマー等の超分岐分子が報告されているが、これらいずれの報告の超分岐分子も安定な遷移金属錯体の配位子となるものではなかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
前記の従来技術に鑑み、本発明は、溶剤溶解性を有し化学的安定性に優れた超分岐分子を配位子とする遷移金属錯体の提供、特に従来のアンテナ効果では発光能が不十分であったEu3+を優れた増感効果により発光せしめる該遷移金属錯体の提供を目的とした。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために、特にデンドリマーに代表される超分岐分子の合成、及びかかる超分岐分子を配位子とする遷移金属錯体の合成について鋭意系統的な検討を行った結果、ポリエーテルケトン構造を有するデンドロンが優れたアンテナ効果を発揮するランタノイド元素錯体を与えることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明の第1の要旨は、下記一般式(1)で表されるポリエーテルケトン超分岐分子に存する。
【0011】
【化2】
【0012】
(但し一般式(1)において、Aはカルボキシル基、エステル基、及びニトリル基からなる群から選ばれるフォーカルポイント官能基を、Rはアリールオキシ基、アルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群から選ばれる分岐末端基を、3つの丸括弧の内側の化学構造は超分岐構造を構成する分岐構造単位を、該丸括弧は該分岐構造単位が繰返し結合していることを、それぞれ表す。)
本発明の第2の要旨は、前記一般式(1)においてフォーカルポイント官能基Aがカルボキシル基であるポリエーテルケトン超分岐分子を配位子として含有する遷移金属錯体に存する。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
[超分岐分子]
本発明における超分岐分子とは、定性的には樹木状あるいは樹枝状に分岐した分子構造を有する分子を総称する概念であり、例えばAmerican Chemical Society刊のC.J.Hawkerら;ACS Symp.Ser.,755巻(Specialty Monomers and Polymers),107頁(2000)、あるいはY.H.Kimら;Plast.Eng.(N.Y.),53巻(Star and Hyperbranched Polymers),201頁(1999)等に詳述されている「Hyperbranched polymers」(以下HBPと略記)と同義である。つまり、通常の分岐は分子構造中に点在的に分布し分岐点間には任意の長さの直鎖構造が通常存在するが、本発明における超分岐構造は分岐構造単位の繰返し結合により構成されるものである。
【0014】
かかる分岐構造単位の例示概念として、前記のHBPについて詳述する2文献にあるような「AB2モノマー」((2)式の模式図を参照)が挙げられる。かかるAB2モノマーは1つの官能基Aと2つの官能基Bを有し、該官能基Aと官能基Bとは化学反応により新しい結合を生成する性質を有するものである。かかるAB2モノマーどうしの化学反応で生成する本発明における超分岐分子の模式図を(3)式に示す。但し(3)式において破線は該AB2モノマーどうしの化学反応により生成する新しい結合を表す。
【0015】
【化3】
【0016】
【化4】
【0017】
なお、(3)式において丸印で示した超分岐構造の開始点は「フォーカルポイント」(Focal point)と通称されているが、本発明においても同様である。また本発明においては、前記の(3)式における丸印の官能基Aに該当するフォーカルポイント末端に存在する官能基を「フォーカルポイント官能基」と呼ぶ。また、本発明においては、(3)式において四角印で囲った官能基Bに該当する超分岐の末端を「分岐末端」と呼び、該分岐末端に存在する官能基を「分岐末端基」と呼ぶ。
【0018】
(3)式の模式図でわかるように、本発明における超分岐分子を構成する超分岐構造は後述するデンドリマー構造のような規則分岐構造である必要はなく、下記一般式(1)中の分岐構造単位が任意に繰返し結合したポリエーテルケトン構造(以下PEK構造と略記)であれば良い。
【0019】
【化5】
【0020】
(但し一般式(1)において、Aはカルボキシル基、エステル基、及びニトリル基からなる群から選ばれるフォーカルポイント官能基を、Rはアリールオキシ基、アルコキシ基、及びハロゲン原子からなる群から選ばれる分岐末端基を、3つの丸括弧の内側の化学構造は超分岐構造を構成する分岐構造単位を、該丸括弧は該分岐構造単位が繰返し結合していることを、それぞれ表す。)
前記一般式(1)におけるフォーカルポイント官能基Aがとりうるカルボキシル基、エステル基、及びニトリル基のうち、後述する遷移金属錯体の形成に必要な配位能の点ではカルボキシル基及びニトリル基が優れており、特にカルボキシル基はこの点で最適である。また、エステル基とニトリル基は、多様な官能基への変換が可能な点で有用である。例えばエステル基は多様なエステル交換反応により官能基変換が可能であり、例えばアルコール類により他種のエステル類へ、アミン類によりアミド類へ、水によりカルボキシル基へ、チオール類によりチオエステル類へ、それぞれ変換される。ニトリル基は、加水分解によりカルボキシル基へ、加アルコール分解により相当するエステル基へ、還元によりアミノメチル基へ、それぞれ変換される。
【0021】
前記一般式(1)における分岐末端基Rの具体例としては、フェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、4−メトキシフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、3−メチルフェノキシ基、2−メチルフェノキシ基等のフェノキシ基誘導基あるいはピリジルオキシ基やナフチルオキシ基等のアリールオキシ基類、メトキシ基、エトキシ基、n−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ベンジルオキシ基等の炭素数7以下のアルコキシ基、及びフッ素原子、塩素原子、臭素原子、あるいはヨウ素原子等のハロゲン原子が挙げられる。これらのうち、化学的安定性と合成容易性の点では、フェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基、3−メチルフェノキシ基等のフェノキシ基誘導基、メトキシ基、エトキシ基、n−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等の炭素数4以下のアルコキシ基が好適である。また、前記のアンテナ効果の点では前記のアリールオキシ基類、中でもフェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、4−メトキシフェノキシ基、4−tert−ブチルフェノキシ基等が好適であり、フェノキシ基は最も好適である。また、分岐末端基から更に分子構造を延長したい場合に有効な反応性分岐末端基としてフッ素原子、塩素原子、臭素原子、あるいはヨウ素原子等のハロゲン原子が好ましく、中でもフッ素原子が反応性の点で更に好ましい。
【0022】
[超分岐分子の分子量分布と分岐度]
本発明の超分岐分子の分子量と分子量分布に制限はないが、通常、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法で測定される数平均分子量MnGPCと重量平均分子量MwGPCが、MnGPC≦50000及び1.0≦MwGPC/MnGPC≦15なる2つの関係を同時に満たすものとなる。該MnGPCの値が50000を超えると分子構造の空間的広がりが大きすぎ後述する遷移金属錯体の配位子として機能しにくくなるので、該MnGPCの値は、好ましくは30000以下、更に好ましくは20000以下、最も好ましくは10000以下とする。一方、前記のMwGPC/MnGPCの値が15を超えると、分子構造の空間的広がりのばらつきが大きくなりすぎ、その結果、配位子として遷移金属元素を効果的に包含する空間排除効果のばらつきも大きくなると考えられる。従って、MwGPC/MnGPCの値は小さければ小さいほど望ましいが、この値は好ましくは10以下更に好ましくは5以下とする。かかる観点から、本発明の目的に最も適した超分岐構造として後述するデンドリマー構造が挙げられる。
【0023】
本発明の超分岐分子の分岐度を定量する手段としては、例えば希薄溶液中での極限粘度と絶対分子量との関係の測定、あるいは核磁気共鳴(NMR)スペクトルによる分岐末端基を含む分岐構造単位の定量をシグナルの積分値を利用して行う方法等が挙げられるが、本発明の超分岐分子の好ましい分岐度の条件として、マススペクトル法又は光散乱法で測定される真の重量平均分子量Mwと前記のGPC法で測定される重量平均分子量MwGPCとが、Mw/MwGPC>1なる関係を与えることが挙げられる。MwがMwGPCよりも大きくなる例は、C.J.Hawkerら;J.Am.Chem.Soc.,112巻,7638頁(1990)やK.E.Uhrichら;Macromolecules,25巻,4583頁(1992)等に報告されており、これは、Mwが同一でも分岐度が高まるにつれて、良溶媒中で観測される分子鎖の空間的広がり(即ちMwGPC)は小さくなってゆくものと定性的には解釈される。なお、前記のマススペクトルの手法には分子ピークを与える限りにおいて制限はなく、例えば分子量1000以上程度の比較的高分子量の分子や不安定な分子に対して好適に用いられるMatrix assisted laser desorption ionization(MALDI)マススペクトル、高速原子暴露(FAB)マススペクトル、電子スプレーマススペクトル等の比較的新しい手法の適用が好ましい場合もある。また、本発明における全てのGPC測定は、超分岐分子の良溶媒中で行われる必要がある。Mw/MwGPCの値は通常高々3程度となるが、特に制限はない。
【0024】
[デンドリマー構造とデンドロン]
本発明における超分岐構造の好適な概念として、下記のデンドリマー構造が挙げられる。本発明におけるデンドリマー構造とは、前記のAB2モノマーにより構成される図3で模式的に表される概念であり、任意の分岐点から分岐末端側に存在する部分分子構造を考えたときにこれが線対称の化学構造である超分岐構造である(但し、図3におけるA、B、丸印、及び四角印は全て(3)式の場合と同義である)。
【0025】
【化6】
【0026】
つまり、本発明におけるデンドリマー構造は、例えば前記のAB2モノマーを分岐構造単位と考えた場合、該AB2モノマー自体が第1次分岐を形成して分岐末端基Bを2個含有する最も低分子量のデンドリマー構造((4)式中(a)に相当)と見なし、より高分子量のデンドリマー構造は該AB2モノマーが必ず2つのAB2モノマーと結合して4個の第2次分岐の分岐末端基Bを含有するものとなり((4)式中(b)に相当)、かかる4つの第2次分岐の分岐末端基Bがそれぞれ1つのAB2モノマーと結合した第3次分岐を形成すれば8個の分岐末端基Bを含有するものとなり((4)式中(c)に相当)、以下同様に第n次分岐を形成すると分岐末端基Bを2のn乗個含有するものとなる。本発明においては、前記の第n次分岐を形成したデンドリマー構造を第n世代デンドリマー構造と呼ぶ。但しここでnは自然数を表す。
【0027】
このようにデンドリマー構造は厳密に制御された超分岐構造を有するので、理想的なデンドリマー構造に分子量分布はなく前記MwGPC/MnGPCの値は原理的には1となる。
本発明においては、前記のデンドリマー構造はあくまでも部分構造の概念である。従って、本発明の超分岐分子はその超分岐構造中の一部分が該デンドリマー構造であっても構わないが、フォーカルポイントがかかるデンドリマー構造に含有されている超分岐分子が本発明の目的において好ましい。また本発明においては、超分岐分子中の超分岐構造全体が前記のデンドリマー構造である場合に超分岐分子を特別に「デンドロン」と呼び、後述する遷移金属錯体におけるアンテナ効果の点で最適である。本発明の超分岐分子で第1世代デンドロンに該当するのは、前記一般式(1)において繰返し結合を表す丸括弧を全て除去した分子である。
【0028】
本発明の超分岐分子がデンドロンである場合、その世代数に特に制限はないが、通常1〜6世代、合成の容易性から好ましくは1〜4世代、合成容易性と空間排除効果のバランスからは更に好ましくは1〜3世代とする。
本発明の超分岐分子がデンドロンである場合、デンドリマー構造の特徴の1つである同一分子量での溶液粘度や溶融粘度の大きな低減があるので、該デンドロンを配位子として含有する後述する遷移金属錯体においてもかかる特徴が保持され、該錯体の溶液としての使用(例えば塗料)に好適な特徴となる場合がある。
【0029】
本発明の超分岐分子がデンドロンである場合、該デンドロンを配位子として含有する後述する遷移金属錯体は特に優れた発光能を発揮する場合が多い。この理由として、超分岐構造の分岐の密集の度合いが、該錯体の中心に位置する遷移金属陽イオンから外側に向かうほど指数関数的に高くなるのが効率的な空間排除効果の発現の上で好ましいこと、及び線対称な分子構造がアンテナ効果の点で好ましいこと、等が推測される。
【0030】
[ポリエーテルケトン超分岐分子の製造方法]
本発明の超分岐分子は前記一般式(1)で表されるPEK構造を有するが、かかる構造を有するデンドロンは、例えば下記式(5)〜(7)に示す手順により好適に製造される。この例示手順の要点は、デンドロンの世代数の増大反応が、電子吸引性基(この場合はPEK構造中のケトン基)が結合したフッ化アリールとフェノール性水酸基とが塩基存在下縮合するエーテル合成反応である、いわゆるCovergent法デンドリマー合成戦略による点である。かかるCovergent法とは、例えばJ.M.J.Frechet;Science,263巻,1710頁(1994)や柿本雅明;化学,50巻,608頁(1995)等に説明されているように、デンドリマー構造の分岐末端側の構成単位をまず完成し、例えばこれを2つ所望の繰返し単位に結合して世代数を1つ増大させ、これを再び2つ該繰返し単位に結合してさらに世代数を増大させる、という繰返し反応により、任意世代のデンドリマー構造を構築する方法である。
【0031】
まず、下記式(5)により本発明の第1世代デンドロンの合成を説明する。
【0032】
【化7】
【0033】
基本構造単位である3,5−ビス(4−フルオロベンゾイル)アニソール(式(5)の化合物4、以下FBAと略記)の合成は、前記のA.Morikawaら著の文献(1993)に報告されているように市販の5−ヒドロキシイソフタル酸(式(5)の化合物1)を出発原料として合成可能である。即ち、まず、ジメチル硫酸を水酸化ナトリウム水溶液中で例えば80℃で30分程度作用させた後に塩酸で酸性溶液として、フェノール性水酸基をメチルエーテルに変換した化合物(式(5)の化合物2)を得る。次いで、チオニリクロリドを反応試剤兼溶媒とする常法で2つのカルボキシル基を酸塩化物基に変換(式(5)の化合物3)するが、この時少量のN,N−ジメチルホルムアミドを添加すると好ましい場合がある。過剰のチオニリクロリドは蒸留除去する。最後に、モノフルオロベンゼンを反応試剤兼溶媒とし、ここに塩化アルミニウムを添加する酸塩化物基に対して小過剰量攪拌分散しながら例えば0℃程度の低温条件で、前記で調製した式(5)の化合物3を添加するFriedel−Crafts反応により該酸塩化物基にモノフルオロベンゼンを作用させて目的とするFBA(式(5)の化合物4)を得る。生成するFBAは、水に投入した反応液の有機溶媒(例えば塩化メチレン)抽出による粗精製の後、例えば蒸留(沸点:260℃、0.5mmHg)により精製可能である。この3工程は総収率62%という高収率が可能である。
【0034】
フォーカルポイント官能基の導入による第1世代デンドロンの合成は、まず、前記で得られるFBA(式(5)の化合物4)のメトキシ基を水酸基に変換するが、これは、前記のT.M.Millerら著の文献(1993)やA.Morikawa著の文献(1998)に報告されているように、ピリジン塩酸塩(過剰当量、例えば3倍重量以上)との混合加熱で可能であり、この反応生成物は大量の水中に投入すれば単離できる(式(5)の化合物5)。次いで、4−フルオロベンゾシアニド等のハロゲン化アリール類を例えばカリウムtert−ブトキシド等の塩基存在下作用させるエーテル合成反応により、フォーカルポイント官能基としてニトリル基を有する本発明の第1世代デンドロン(式(5)の化合物6)を得ることができる。このエーテル合成反応は、例えばN,N−ジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒中で好適に進行し、必要に応じて例えば120〜150℃程度に加熱しても構わない。このニトリルデンドロンは蒸留による溶媒の除去と抽出精製の後、例えばメタノールから再結晶精製可能である。このニトリルデンドロンは、例えば、硫酸触媒のニトリル基の加水分解により相当するカルボン酸デンドロン(式(5)の化合物7)に変換可能である。かかる加水分解反応の溶媒として例えば酢酸が好適であり、生成物は反応液の水への投入により析出させて単離可能である。更にかかるカルボン酸デンドロンは、硫酸触媒のエステル化(Fischer法)を例えばメタノールやエタノール等の乾燥した低級アルコール中で行い、適宜生成する水を蒸留除去して平衡を生成物側にずらしながら相当するエステルデンドロン(例えば式(5)の化合物8)に変換可能である。該エステルデンドロンは、例えば、該ニトリルデンドロンを無水エタノール中で乾燥した塩化水素ガスを吹き込んで反応させるような加アルコール分解反応によっても得られる。これら本発明の第1世代デンドロンの精製は、例えばシリカゲルカラムクロマトグラフィ(例えば塩化メチレン、必要に応じてTHFを添加する展開溶媒系を使用)により精製可能である。
【0035】
次に、下記式(6)により、分岐末端基の変換について説明する。
【0036】
【化8】
【0037】
例えば前記で得たエステルデンドロン(式(5)の化合物8)を例に説明すると、この化合物の分岐末端基である芳香環に結合したハロゲン原子(この場合はフッ素原子)は、例えばフェノール等のヒドロキシアリール類をカリウムtert−ブトキシド等の塩基存在下作用させるエーテル合成反応により、前記式(6)の化合物9のように相当するアリールエーテル結合に変換可能である。かかるエーテル合成反応は、前記のフォーカルポイント官能基の導入による第1世代デンドロンの合成において説明したと同様の反応である。かかる分岐末端基の変換の後、後述する遷移金属錯体の配位子として利用する目的でフォーカルポイント官能基のエステル基を例えば硫酸触媒の加水分解によりカルボキシル基に変換して、相当するカルボン酸デンドロン(式(6)の化合物10)とすることができる。かかる加水分解反応の溶媒として例えばジクロロ酢酸が好適であり、例えば100℃で8時間程度といった比較的激しいプロトン酸性条件が使用可能である。かかる加水分解生成物は、例えば反応液への水の投入次いで抽出することにより単離し、更にシリカゲルクロマトグラフィで精製可能である。
【0038】
更に、第2世代のデンドロンの合成方法を下記式(7)により説明する。
【0039】
【化9】
【0040】
前記のA.Morikawaら著の文献(1999)に報告されているように、前記の基本構造単位であるFBAに対して、将来の分岐末端基を形成する試剤として例えばフェノールを適当な塩基(例えば炭酸カリウムやカリウムtert−ブトキシド等)の存在下作用させる前記同様のエーテル合成反応を行って、分岐末端単位(式(7)の化合物11)を得る。以下、前記のCovergent法によりこの分岐末端単位2分子を第1世代デンドロンにエーテル結合させて第2世代デンドロンとするが、このためにはまず該分岐末端単位のフォーカルポイント官能基であるメトキシ基を活性な水酸基に変換する必要がある。この反応は、例えば小過剰当量の塩化アルミニウムを加熱還流条件のベンゼン中で作用させる脱メチル化反応により90%以上の高収率で好適に行われ、前記式(7)の化合物12を得る。次いで、前記で合成した分岐末端基がフッ素原子である第1世代エステルデンドロン(前記式(5)の化合物8)に対して該化合物12を2分子エーテル結合して第2世代のエステルデンドロン(式(7)の化合物13)を得る。このエーテル合成反応は、前記同様に例えばカリウムtert−ブトキシド等の塩基存在下、例えばN,N−ジメチルアセトアミド等の非プロトン性極性溶媒中で好適に進行し、必要に応じて例えば120〜150℃程度に加熱しても構わない。後述する遷移金属錯体の配位子としてこの第2世代デンドロンを利用する目的で、フォーカルポイント官能基のエステル基を例えば硫酸触媒の加水分解によりカルボキシル基に変換して相当するカルボン酸デンドロン(式(7)の化合物14)とすることができる。かかる加水分解反応の条件や精製方法は、前記の第1世代デンドロンの場合と同様である。
【0041】
最後に、第3世代以上のデンドロンの合成方法を説明する。前記式(7)の第2世代のデンドリマー構造を構築するエーテル合成反応において、前記化合物8の代わりに基本構造単位である前記のFBA(前記化合物4)を用いると、前記化合物13のフォーカルポイント官能基R5がメトキシ基である第2世代デンドロンが得られる。次いで、このメトキシ基を前記式(7)におけると同様に塩化アルミニウムにより脱メチル化して、活性な水酸基に変換する。こうして得られる第2世代デンドロンの水酸基は、該エーテル合成反応により例えばFBAや前記化合物8等の任意のフッ化アリール分岐末端を有するデンドロンと縮合して、第3世代デンドロンを与える。このように、脱メチル化による水酸基の生成反応とエーテル合成反応の2種の反応を交互に行うことで、任意世代のデンドロンを構築することが可能である。
【0042】
なお、デンドロンでない本発明のPEK構造を有する超分岐分子を簡便に得るには、例えば前記のT.M.Millerら著の文献に記載の3,5−ビス(4−フルオロベンゾイル)フェノール(前記式(5)中の化合物5)を塩基性条件で縮重合させる方法において、所望のフォーカルポイント官能基を導入する目的で前記化合物6又は前記化合物8等の活性な水酸基を持たない化合物を存在させる方法が可能である。かかる縮重合反応は試薬や原料の加え方(例えば該化合物5を少しずつ添加する方法等)や反応条件(例えば温度、濃度、反応時間、等)を制御して、前記の好ましい超分岐分子を生成させることが望ましい。
【0043】
なお、以上例示の製造方法でわかるように、本発明のポリエーテルケトン超分岐分子は硫酸やジクロロ酢酸のような強酸が存在するプロトン酸性水性溶媒中で非常に安定である。これは、該PEK構造の化学的安定性を示す特徴の1つである。
[遷移金属錯体]
前記した本発明の超分岐分子のうち、特にフォーカルポイント官能基がカルボキシル基であるものは、後述する遷移金属陽イオンに配位して本発明の遷移金属錯体を与える。かかる錯体は、本発明の超分岐分子以外の配位子を含有していても構わないが、好ましくは全ての配位子を本発明の超分岐分子とする。本発明の遷移金属錯体において、該超分岐分子のフォーカルポイント官能基であるカルボキシル基(COOH)は、カルボキシレート基(COO-)に通常変換されている。
【0044】
本発明の遷移金属錯体は、電気的に中性となるために後述する遷移金属陽イオンの価数と等しい数の陰イオンを結合した形をとるが、配位水を含んだ形(例えばG.W.Popeら;J.Inorg.Nucl.Chem.,20巻,304頁(1961)やC.S.Springerら;Inorg.Chem.,6巻,1105頁(1967)等を参照)、陰イオンの一部が水酸化物イオン等の小さな陰イオンである形(前記のPopeら著の文献を参照)、アルカリ遷移金属陽イオンやオニウムイオン(例えばアンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオン等)等の1価陽イオンと陰イオンをそれぞれ1つずつ追加した形(L.R.Melbyら;J.Am.Chem.Soc.,86巻,5117頁(1964)やC.T.Horovitz編の成書”Scandium:Its Occurence,Chemistry,Physics,Metallurgy,Biology,and Technology”(Academic Press,London,1975)中のG.A.Melson著;Organic Conpounds,111〜138頁及び323〜384頁等を参照)、あるいは1つ又は2つの任意の配位子を追加した形(前記のMelby著及びMelson著の各文献、H.Bauerら;J.Am.Chem.Soc.,86巻,5125頁(1964)、あるいはJ.Selbinら;Inorg.Chem.,10巻,1383頁(1971)等を参照)等、公知のバリエーションも可能である。
【0045】
[遷移金属陽イオン]
本発明の遷移金属錯体を構成する遷移金属陽イオンとは、元素の周期表において、第3〜14族の各族に属し、かつ第4〜7周期に属する元素の陽イオンである。かかる陽イオンとしては、Sc3+,Y3+等の第3族陽イオン、Ti2+,Ti3+,Ti4+,Zr+,Zr2+,Zr3+,Zr4+,Hf+,Hf2+,Hf3+,Hf4+等の第4族陽イオン、V+,V2+,V3+,V4+,V5+,Nb+,Nb2+,Nb3+,Nb4+,Nb5+,Ta+,Ta2+,Ta3+,Ta4+,Ta5+等の第5族陽イオン、Cr+,Cr2+,Cr3+,Cr4+,Cr5+,Cr6+,Mo+ ,Mo2+,Mo3+,Mo4+,Mo5+,Mo6+,W+,W2+,W3+,W4+,W5+,W6+,等の第6族陽イオン、Mn+,Mn2+,Mn3+,Mn4+,Mn5+,Mn6+,Mn7+,Tc+,Tc2+,Tc3+,Tc4+,Tc5+,Tc6+,Tc7+,Re+,Re2+,Re3+,Re4+,Re5+,Re6+,Re7+等の第7族陽イオン、Fe+,Fe2+,Fe3+,Fe4+,Fe6+,Ru+,Ru2+,Ru3+,Ru4+,Ru5+,Ru6+,Ru7+,Ru8+,Os+,Os2+,Os3+,Os4+,Os5+,Os6+,Os7+,Os8+等の第8族陽イオン、Co+,Co2+,Co3+,Co4+,Co5+,Rh+,Rh2+,Rh3+,Rh4+,Rh5+,Rh6+,Ir+,Ir2+,Ir3+,Ir4+,Ir5+,Ir6+等の第9族陽イオン、Ni+,Ni2+,Ni3+,Ni4+,Pd+,Pd2+,Pd3+,Pd4+,Pt2+,Pt3+,Pt4+,Pt5+,Pt6+等の第10族陽イオン、Cu+,Cu2+,Cu3+,Cu4+,Ag+,Ag2+,Ag3+,Au+,Au2+,Au3+,Au5+,Au7+等の第11族陽イオン、Zn2+,Cd+,Cd2+,Hg+,Hg2+等の第12族陽イオン、La2+,La3+,Ce2+,Ce3+,Ce4+,Pr2+,Pr3+,Pr4+,Nd2+,Nd3+,Nd4+,Pm2+,Pm3+,Sm2+,Sm3+,Eu2+,Eu3+,Gd2+,Gd3+,Tb2+,Tb3+,Tb4+,Dy2+,Dy3+,Dy4+,Ho2+,Ho3+,Er2+,Er3+,Tm2+,Tm3+,Yb2+,Yb3+,Lu2+,Lu3+等のランタノイド陽イオン、Ac3+,Th4+,Pa3+,Pa4+,Pa5+,U3+,U4+,U5+,U6+,Np3+,Np4+,Np5+,Np6+,Pu3+,Pu4+,Pu5+,Pu6+,Am2+,Am3+,Am4+,Am5+,Am6+,Cm3+,Cm4+,Bk3+,Bk4+,Cf2+,Cf3+,Cf4+,Es2+,Es3+,Fm2+,Fm3+,Md2+,Md3+,No2+,No3+等のアクチノイド陽イオン、Ga2+,Ga3+,In+,In2+,In3+,Tl+,Tl2+,Tl3+等の第13族陽イオン、Si2+,Si4+,Ge2+,Ge4+,Sn2+,Sn4+,Pb2+,Pb4+等の第14族陽イオン等が挙げられる。これらのうち、Pr3+,Nd3+,Sm3+,Eu3+,Tb3+,Dy3+,Ho3+,Er3+,Tm3+,Yb3+等の3価ランタノイド陽イオンやRu2+,は近紫外〜近赤外領域での発光能点で好適であり、中でもSm3+,Eu3+,Tb3+,Dy3+等の3価ランタノイド陽イオンは更に好適であり、Eu3+とTb3+は最も好適である。また、Gd3+,Pt2+,Pt3+,Au+,Au2+,Au3+,Pb2+等の原子番号の高い陽イオンは高屈折率化及び電磁波遮蔽効果の点で好適であり、Gd3+とPb2+はX線遮蔽能が優れている。
【0046】
増感された発光能の点で本発明の遷移金属錯体に特に好適な陽イオンはEu3+であるが、これは、従来のポリベンジルエーテルデンドロンのアンテナ効果により効果的に発光するTb3+に比べて低いエネルギーで発光するEu3+には、本発明のPEK構造におけるベンゾフェノン構造のように長いπ電子共役系(低いエネルギーを吸収する)を有する配位子による増感が好適であるためと推測される。
【0047】
[遷移金属錯体の製造方法]
本発明の遷移金属錯体の製造方法に制限はないが、例えば本発明の超分岐分子でフォーカルポイント官能基がカルボキシル基であるもの(以下「カルボン酸超分岐分子」と呼ぶ)と遷移金属陽イオンの塩を接触させて陰イオン交換する方法が挙げられる。この時、該カルボン酸超分岐分子のカルボキシル基を、あらかじめあるいは反応系中でアルカリ金属陽イオンや4級アンモニウム陽イオン等を対陽イオンとするカルボキシレート基に変換しても良い。
【0048】
副生成物を除去容易である好適な反応は、遷移金属陽イオンの低級脂肪酸塩(例えば酢酸塩)を非極性溶媒中で該カルボン酸超分岐分子と接触させてカルボン酸交換反応を行い、生成する低級脂肪酸を蒸留除去して該カルボン酸交換反応の平衡を本発明の遷移金属錯体が生成する方向にずらしてゆく方法である。ここで好適に使用される遷移金属陽イオンの低級脂肪酸塩は、蟻酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、ブタン酸塩等の炭素数4以下のモノカルボン酸塩であり、中でも蟻酸塩と酢酸塩は更に好適であり、酢酸塩は最も好適である。具体的には、例えば酢酸ユウロピウム(III)や酢酸テルビウム(III)が挙げられ、これらは市販の水和物のまま用いても良いが、化学量論を正確性のために加熱して無水物として使用することが望ましい。
【0049】
かかるカルボン酸交換反応に用いられる非極性溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ナフタレン等の芳香族炭化水素類、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン、ジブロモベンゼン等のハロゲン化ベンゼン誘導体等の芳香族溶媒が溶解性の点で好適であり、中でもキシレンやクロロベンゼンは前記の酢酸塩を使用した場合に生成する酢酸よりも高い沸点を有ししかも減圧蒸留除去が容易であるので更に好適であり、クロロベンゼンは最適である。
【0050】
かかるカルボン酸交換反応は、通常20〜200℃、反応速度の向上と熱分解等好ましくない副反応をさける目的で好ましくは50〜160℃、更に好ましくは80〜150℃程度の温度条件で行う。該反応の時間は、温度条件や前記の平衡にもよるが、通常1〜1440分、反応性と生産性の点で好ましくは5〜720分、更に好ましくは10〜360分程度とする。また、遷移金属陽イオンの低級脂肪酸塩は通常前記のような非極性溶媒に難溶性なので固相−液相の2相系反応となるので、十分な攪拌条件にて行うのが望ましい。更に、高温による酸化劣化等の副反応を抑制するために窒素やアルゴン等の不活性雰囲気下で行うことが望ましい。生成する酢酸等の低級脂肪酸は、前記の非極性溶媒とともに蒸留除去しても構わない。また前記の平衡を連続的に好ましい方向にずらすために、連続的に該蒸留除去操作を行っても構わず、必要に応じて途中で溶媒を追加して反応を継続することも可能である。
【0051】
かかるカルボン酸交換反応の進行は、赤外吸収スペクトルにおいて、原料のカルボン酸超分岐分子のカルボキシル基の吸収帯(カルボニル基の伸縮振動による吸収が通常1720cm-1周辺に存在する)がカルボキシレート基に変換されると消失することで確認可能である。
本発明の遷移金属錯体に、実用化に際し、本発明の趣旨を著しく損なわない限りにおいて、任意の添加剤、例えばトリオクチルホスフィンオキシド等の有機りん化合物を遷移金属陽イオンに配位させることで、その発光能を安定化することも可能である。
【0052】
【実施例】
以下に、実施例により本発明の具体的態様を更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これらの実施例によって限定されるものではない。なお、酢酸ユウロピウム(III)と酢酸テルビウム(III)の無水塩は、ともに和光純薬(株)から供給される水和塩を乾燥窒素気流下165℃で加熱して得た。
[測定装置と条件等]
(1)NMRスペクトル・・・日本電子(株)製JNM−GSX400型を使用し、溶媒は特に断らない限りCDCl3 を使用した。
(2)赤外吸収(IR)スペクトル・・・(株)島津製作所製IR435型を使用しKBr錠剤法により測定した。
(3)発光スペクトル・・・(株)日立製作所製F−4500型蛍光光度計を使用し、光路長10mmの石英セル中、23℃で溶液のスペクトルを測定した。
【0053】
[基本構造単位の合成]
合成例1・・・3,5−ビス(4−フルオロベンゾイル)アニソールの合成
前記の基本構造単位である3,5−ビス(4−フルオロベンゾイル)アニソール(略称FBA;前記式(5)の化合物4)の合成は、前記のA.Morikawaら;Macromolecules,26巻,6324頁(1993)の記載に従い、市販の5−ヒドロキシイソフタル酸(式(5)の化合物1;1当量)を出発原料として行った。即ち、まず、ジメチル硫酸(10当量)を2モル濃度の水酸化ナトリウム水溶液中で80℃で30分作用させた後に塩酸を加えて弱酸性として、フェノール性水酸基をメチルエーテルに変換した化合物(前記式(5)の化合物2)の結晶を濾別洗浄して得た。この化合物は真空乾燥し、次いで、チオニリクロリドを反応試剤兼溶媒とし少量のN,N−ジメチルホルムアミドを添加して加熱還流させた。原料が溶解したところで過剰のチオニリクロリドを蒸留除去した後、減圧蒸留により2つのカルボキシル基を酸塩化物基に変換した化合物(前記式(5)の化合物3)を得た。最後に、塩化アルミニウム(酸塩化物基に対して1.1当量)を攪拌分散したモノフルオロベンゼン(反応試剤兼溶媒)を氷冷し、ここに前記で調製した酸塩化物のモノフルオロベンゼン溶液を滴下した。室温で3時間攪拌後、反応液を氷水に攪拌とともに投入し有機相を分液し、水相は塩化メチレンで抽出し、これらの有機相を集めて無水硫酸ナトリウムで乾燥後溶媒を留去した。このFriedel−Crafts反応生成物を減圧蒸留により精製したところ、前記報告とNMRとIRスペクトルが一致したので、目的とするFBAの生成を確認した。
【0054】
合成例2・・・3,5−ビス(4−フルオロベンゾイル)フェノールの合成
前記のA.Morikawa;Macromolecules,31巻,5999頁(1998)に報告されているように、合成例1で得たFBAをピリジン塩酸塩(FBAの3倍重量)と混合し加熱還流し、FBAの消失を市販のシリカゲル薄層クロマトグラフィ(TLC)で確認後、反応液を大量の氷水中に投入して目的物を単離した(式(5)の化合物5)。この化合物の構造は、NMRスペクトルが前記のT.M.Millerら著の文献の補遺の報告と一致したことから確認した。この化合物を以下FBPと略記する。
【0055】
合成例3・・・3,5−ビス(4−フェノキシベンゾイル)フェノールの合成
前記のA.Morikawaら;Macromolecules,32巻,1062頁(1999)に記載の方法に従って下記のように合成した。即ち、まず合成例1で得たFBAに対して、フェノール(FBAに対して2.2倍モル)を無水炭酸カリウム(FBAに対して2倍モル)の存在下、N,N−ジメチルアセトアミドとトルエンの混合溶媒中で加熱して縮合させ、この反応の完結を確認した後、溶媒を減圧留去した。この残渣を水洗と塩化メチレンによる抽出で粗精製し、酢酸から再結晶して前記式(7)中の化合物11を得た。次いで、この化合物11に対して1.5倍モルの塩化アルミニウムを加熱還流条件のベンゼン中で作用させる脱メチル化反応を行い、反応の完結を確認したところで反応液を大量の氷水に投入し水洗抽出して得た粗生成物をトルエンから再結晶して、目的とする前記式(7)中の化合物12を得た。この構造は、前記報告とNMRとIRスペクトルが一致したことから確認した。以下、この化合物をPBPと略記する。
【0056】
[第1世代デンドロンの合成]
実施例1・・・ニトリル基をフォーカルポイント官能基とするもの
合成例2で得たFBP(16.9g;50ミリモル)をN,N−ジメチルアセトアミド(80mL)に溶解し、ここにカリウムtert−ブトキシド(5.61g;50ミリモル)を加え、これが溶解するまで室温で攪拌した。その後4−フルオロベンゾシアニド(30.3g;250ミリモル)を加え、120℃に加熱して1時間攪拌し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣に水(200mL)を加え、塩化メチレンで3回抽出した。この抽出で得られた有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、減圧濃縮した。こうして得た残渣は、塩化メチレンを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製し、更にメタノールで再結晶した。この生成物の構造は、IRスペクトルにおいてニトリル基(2230cm-1)とケトンに相当するカルボニル基(1670cm-1)の各吸収帯を、プロトンNMRスペクトルにおいてニトリル基が結合するベンゼン環[7.11(ダブレット,2プロトン)、7.68(ダブレット,2プロトン)]、分岐点のベンゼン環[7.68(ダブレット,2プロトン)、7.90(トリプレット,1プロトン)]、及び分岐末端のベンゼン環[7.19(マルチプレット,4プロトン)、7.87(マルチプレット,4プロトン)]にそれぞれ結合するプロトンに帰属されるシグナルを、それぞれ観測したことから、前記式(5)中の化合物6であることを確認した。
【0057】
実施例2・・・カルボキシル基をフォーカルポイント官能基とするもの
実施例1で得たニトリル基をフォーカルポイント官能基とする第1世代デンドロン(10.98g;25ミリモル)を酢酸(80mL)に溶解し、ここに硫酸(15mL)と水(15mL)を加え、100℃で10時間攪拌した。その後、反応液を水(500mL)に投入し、生成した固体を濾別水洗した。この固体を減圧乾燥後、塩化メチレン/テトラヒドロフラン(THF)混合液(19/1)を展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製した。この生成物の構造は、この生成物の構造は、IRスペクトルにおいてカルボキシル基の水酸基(3200〜2400cm-1)、カルボキシル基のカルボニル基(1690cm-1)、及びケトンに相当するカルボニル基(1660cm-1)の各吸収帯を、プロトンNMRスペクトルにおいてカルボキシル基が結合するベンゼン環[7.11(ダブレット,2プロトン)、8.14(ダブレット,2プロトン)]、分岐点のベンゼン環[7.68(ダブレット,2プロトン)、7.90(トリプレット,1プロトン)]、及び分岐末端のベンゼン環[7.19(マルチプレット,4プロトン)、7.87(マルチプレット,4プロトン)]にそれぞれ結合するプロトンに帰属されるシグナルを、それぞれ観測したことから、前記式(5)中の化合物7であることを確認した。この化合物を以下FG1−COOHと略記する。
【0058】
実施例3・・・エステル基をフォーカルポイント官能基とするもの
実施例2で得たFG1−COOH(9.17g;20ミリモル)をエタノール(70mL)に溶解し、ここに硫酸(0.2mL)を加え加熱還流した。TLCにより原料の消失を確認後、10重量%炭酸ナトリウム水溶液(100mL)を加え、塩化メチレンで3回抽出した。この抽出で得られた有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、減圧濃縮した。こうして得た残渣は、塩化メチレンを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製し、更にメタノールで再結晶した。この生成物の構造は、IRスペクトルにおいてエステル基のカルボニル基(1700cm-1)とケトンに相当するカルボニル基(1660cm-1)の各吸収帯を、プロトンNMRスペクトルにおいてエチル基[1.38(トリプレット,3プロトン)、4.38(カルテット,2プロトン)]、エステル基が結合するベンゼン環[7.09(ダブレット,2プロトン)、8.07(ダブレット,2プロトン)]、分岐点のベンゼン環[7.66(ダブレット,2プロトン)、7.88(トリプレット,1プロトン)]、及び分岐末端のベンゼン環[7.19(マルチプレット,4プロトン)、7.87(マルチプレット,4プロトン)]にそれぞれ結合するプロトンに帰属されるシグナルを、それぞれ観測したことから、前記式(5)中の化合物8であることを確認した。この化合物を以下FG1−COOEtと略記する。
【0059】
実施例4・・・分岐末端官能基をフェノキシ基へ変換したエステルデンドロン
フェノール(1.50g;16ミリモル)をN,N−ジメチルアセトアミド(25mL)に溶解し、ここにカリウムtert−ブトキシド(1.80g;16ミリモル)を加え、これが溶解するまで室温で攪拌した。その後、実施例3で得たFG1−COOEt(3.41g;7ミリモル)を加え、150℃に加熱して2時間攪拌し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣に水(200mL)を加え、塩化メチレンで3回抽出した。この抽出で得られた有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、減圧濃縮した。こうして得た残渣は、塩化メチレンを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製した。この生成物の構造は、IRスペクトルにおいてエステル基のカルボニル基(1700cm-1)とケトンに相当するカルボニル基(1660cm-1)の各吸収帯を、プロトンNMRスペクトルにおいてエチル基[1.38(トリプレット,3プロトン)、4.38(カルテット,2プロトン)]、エステル基が結合するベンゼン環[7.09(ダブレット,2プロトン)、8.07(ダブレット,2プロトン)]、分岐点のベンゼン環[7.67(ダブレット,2プロトン)、7.90(トリプレット,1プロトン)]、ケトン基と分岐末端側で共役するベンゼン環[7.03(ダブレット,4プロトン)、7.83(ダブレット,4プロトン)]、及び分岐末端のベンゼン環[7.10(マルチプレット,4プロトン)、7.22(マルチプレット,2プロトン)、7.41(マルチプレット,4プロトン)]にそれぞれ結合するプロトンに帰属されるシグナルを、それぞれ観測したことから、前記式(6)中の化合物9であることを確認した。この化合物を以下G1−COOEtと略記する。
【0060】
実施例5・・・分岐末端官能基がフェノキシ基であるカルボン酸デンドロン
実施例4で得たG1−COOEt(3.2g;5ミリモル)をジクロロ酢酸(60mL)に溶解し、ここに硫酸(1mL)と水(5mL)を加え、100℃で8時間攪拌した。その後、反応液を水(500mL)に投入し、生成した沈殿を濾別水洗した。この固体を減圧乾燥後、トルエンから再結晶して精製した。この生成物の構造は、IRスペクトルにおいてカルボキシル基の水酸基(3200〜2400cm-1)、カルボキシル基のカルボニル基(1680cm-1)、及びケトンに相当するカルボニル基(1660cm-1)の各吸収帯を、プロトンNMRスペクトルにおいてカルボキシル基が結合するベンゼン環[7.10(ダブレット,2プロトン)、8.13(ダブレット,2プロトン)]、分岐点のベンゼン環[7.68(ダブレット,2プロトン)、7.91(トリプレット,1プロトン)]、ケトン基と分岐末端側で共役するベンゼン環[7.03(ダブレット,4プロトン)、7.83(ダブレット,4プロトン)]、及び分岐末端のベンゼン環[7.10(マルチプレット,4プロトン)、7.22(マルチプレット,2プロトン)、7.41(マルチプレット,4プロトン)]にそれぞれ結合するプロトンに帰属されるシグナルを、それぞれ観測したことから、前記式(6)中の化合物10であることを確認した。この化合物を以下G1−COOHと略記する。
【0061】
[第2世代デンドロンの合成]
実施例6・・・エステル基をフォーカルポイント官能基とするもの
合成例3で得たPBP(2.92g;6ミリモル)をN,N−ジメチルアセトアミド(2mL)に溶解し、ここにカリウムtert−ブトキシド(0.67g;6ミリモル)を加え、これが溶解するまで室温で攪拌した。その後、実施例3で得たFG1−COOEt(1.46g;3ミリモル)を加え、150℃に加熱して2時間攪拌し、溶媒を減圧留去した。得られた残渣に水(200mL)を加え、塩化メチレンで3回抽出した。この抽出で得られた有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥後濾過し、減圧濃縮した。こうして得た残渣は、塩化メチレン/酢酸エチル(混合比50/1)を展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製した。この生成物の構造は、IRスペクトルにおいてエステル基のカルボニル基(1700cm-1)とケトンに相当するカルボニル基(1660cm-1)の各吸収帯を、プロトンNMRスペクトルにおいてエチル基[1.38(トリプレット,3プロトン)、4.38(カルテット,2プロトン)]、エステル基のオルト位のベンゼン環炭素原子[8.06(ダブレット,2プロトン)]、G1部分の分岐点のベンゼン環[7.67(ダブレット,2プロトン)、7.95(トリプレット,1プロトン)]、G1部分のケトン基のオルト位のベンゼン環炭素原子(分岐末端側)[7.88(ダブレット,4プロトン)]、G2部分の分岐点のベンゼン環[7.69(ダブレット,4プロトン)、7.91(トリプレット,2プロトン)]、G2部分のケトン基と共役するベンゼン環(分岐末端側)[7.03(ダブレット,8プロトン)、7.82(ダブレット,8プロトン)]、分岐末端のベンゼン環の4位と3位[それぞれ7.22(マルチプレット,4プロトン)、7.40(マルチプレット,8プロトン)]、及びその他の3種のベンゼン環炭素[7.04〜7.12(マルチプレット,14プロトン)]にそれぞれ結合するプロトンに帰属されるシグナルを、それぞれ観測したことから、前記式(7)中の化合物13であることを確認した。
【0062】
実施例7・・・カルボキシル基をフォーカルポイント官能基とするもの
実施例6で得たエステル基をフォーカルポイント官能基とする第2世代デンドロン(2.84g;2ミリモル)をジクロロ酢酸(40mL)に溶解し、ここに硫酸(1mL)と水(5mL)を加え、100℃で8時間攪拌した。その後、反応液を水(500mL)に投入し、生成した固体を濾別水洗した。この固体を減圧乾燥後、塩化メチレン/THF(混合比20/1)を展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィにより精製した。この生成物の構造は、IRスペクトルにおいてカルボキシル基の水酸基(3200〜2400cm-1)、カルボキシル基のカルボニル基(1680cm-1)、及びケトンに相当するカルボニル基(1660cm-1)の各吸収帯を、プロトンNMRスペクトルにおいてカルボキシル基のオルト位のベンゼン環炭素原子[8.10(ダブレット,2プロトン)]、G1部分の分岐点のベンゼン環[7.67(ダブレット,2プロトン)、7.95(トリプレット,1プロトン)]、G1部分のケトン基のオルト位のベンゼン環炭素原子(分岐末端側)[7.88(ダブレット,4プロトン)]、G2部分の分岐点のベンゼン環[7.68(ダブレット,4プロトン)、7.91(トリプレット,2プロトン)]、G2部分のケトン基と共役するベンゼン環(分岐末端側)[7.03(ダブレット,8プロトン)、7.83(ダブレット,8プロトン)]、分岐末端のベンゼン環の4位と3位[それぞれ7.22(マルチプレット,4プロトン)、7.40(マルチプレット,8プロトン)]、及びその他の3種のベンゼン環炭素[7.04〜7.12(マルチプレット,14プロトン)]にそれぞれ結合するプロトンに帰属されるシグナルを、それぞれ観測したことから、前記式(7)中の化合物14であることを確認した。この化合物を以下G2−COOHと略記する。
【0063】
[Eu3+錯体の合成]
実施例8・・・第1世代デンドロン3分子を配位子とするEu3+錯体
実施例5で得たG1−COOH(1.27g;2.1ミリモル)と酢酸ユウロピウム(III)無水塩(0.23g;0.7ミリモル)をクロロベンゼン中で大気圧下沸騰条件にて攪拌し、生成する酢酸をクロロベンゼンとともに徐々に留去した。1.5時間かかる加熱を継続して最終的に減圧蒸留によりクロロベンゼンを全量留去した。残渣は乾燥シリカゲルの入ったデシケータにて保存した。この残渣のIRスペクトルにて、原料のG1−COOHのカルボキシル基の吸収帯(カルボニル基の伸縮振動;1680cm-1)が消失していたことからカルボキシレート基に変換された目的錯体の生成を確認した。この錯体を、以下(G1COO)3Euと略記する。
【0064】
[Tb3+錯体の合成]
実施例9・・・第1世代デンドロン3分子を配位子とするTb3+錯体
実施例8において、酢酸ユウロピウム(III)無水塩の代わりに酢酸テルビウム(III)無水塩を同様の化学量論で使用して、同様の操作を行った。生成物のIRスペクトルにて、原料のG1−COOHのカルボキシル基の吸収帯(カルボニル基の伸縮振動;1680cm-1)が消失していたことからカルボキシレート基に変換された目的錯体の生成を確認した。この錯体を、以下(G1COO)3Tbと略記する。
【0065】
実施例10・・・第2世代デンドロン3分子を配位子とするTb3+錯体
実施例9において、G1−COOHの代わりに実施例7で得たG2−COOHを同様の化学量論で使用して、同様の操作を行った。生成物のIRスペクトルにて、原料のG2−COOHのカルボキシル基の吸収帯(カルボニル基の伸縮振動;1680cm-1)が消失していたことからカルボキシレート基に変換された目的錯体の生成を確認した。この錯体を、以下(G2COO)3Tbと略記する。
【0066】
以下、比較例の錯体合成を説明する。
[ポリベンジルエーテルデンドロンの合成]
合成例3:第1世代のポリベンジルエーテルデンドロン(4種類)
前記のM.Kawaら著の文献(1998)に記載の方法を流用して、市販の各種ジヒドロキシ安息香酸エステル類(1当量;ベンゼン環上での酸素原子の結合位置は、3,5−、3,4−、2,5−、及び2,4−の4種類を使用した)とベンジルブロミド(2.05当量)を、18−クラウン−6エーテル(0.2当量)存在下、加熱還流アセトン中で炭酸カリウム(2.5当量)を塩基とするエーテル合成反応により、相当する第1世代デンドロンであるビス(ベンジルオキシ)安息香酸エステル類を合成した。これら4種のエステルデンドロンは、1H及び13C−NMRスペクトルにおいて各エステルに帰属されるシグナルが見られたこと、及びFT−IRスペクトルにて1720cm-1付近にエステルのカルボニル基に帰属される吸収が見られたことからその生成を確認した。次いで、上記4種のエステルデンドロンのエステル基を加水分解してカルボキシル基に変換した。即ち、該エステルデンドロンをテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、10倍当量の水酸化カリウムを含む30重量%水溶液を加えた。次いで反応液が均一となる最小量のメタノールを加え、6時間加熱還流した。薄層クロマトグラフィ(TLC)で反応完結を確認後、使用した水酸化カリウムに対し過剰当量の塩酸を含む大量の氷水中に、激しく攪拌しながら滴下した。得られた析出物を濾別し水洗後乾燥し、再結晶により精製した。こうして得た4種の第1世代のカルボン酸デンドロン(前記のベンゼン環上での酸素原子の結合位置の数字を用いて、前記の順にそれぞれ[35G1]COOH、[34G1]COOH、[25G1]COOH、及び[24G1]COOHと略)は、プロトンNMRスペクトルにおいて各アルキルエステル基に帰属されるシグナルが見られなかったこと、及びIRスペクトルにて1680cm-1付近のカルボニル基に帰属される吸収とカルボキシル基に帰属されるO−H伸縮振動が見られたことから、各エステル基は完全に加水分解を受け、カルボキシル基に変換されたものと結論した。主なスペクトル値を以下に示す。[34G1]COOH:IR(単位cm-1):3200〜2700(COOH)、1675(C=O);プロトンNMR:ベンジル位2種5.21及び5.24(ともにシングレット,2プロトン)、以下芳香族6.97(ダブレット,1プロトン)、7.30〜7.49(マルチプレット,10プロトン)、7.68(シングレット,1プロトン)、及び7.71(ダブレット,1プロトン)。[25G1]COOH:IR(単位cm-1):3250(ブロード;COOH)、1730(C=O);プロトンNMR:ベンジル位2種5.08及び5.25(ともにシングレット,2プロトン)、以下芳香族7.06(ダブレット,1プロトン)、7.18(ダブルダブレット,1プロトン)、7.30〜7.43(マルチプレット,10プロトン)、及び7.81(ダブレット,1プロトン)。[24G1]COOH:IR(単位cm-1):3250〜2400(COOH)、1670(C=O);プロトンNMR:ベンジル位2種5.11及び5.22(ともにシングレット,2プロトン)、以下芳香族6.68〜6.75(マルチプレット,2プロトン)、7.30〜7.43(マルチプレット,10プロトン)、及び8.14(ダブレット,1プロトン)。但し[35G1]COOHは前記M.Kawaら著の文献(1998)に記載の公知物質で、ここに報告の数値との一致を確認した。
【0067】
合成例4:第2世代のポリベンジルエーテルデンドロン(1種類)
前記合成例3と同様にして、3,4−ジヒドロキシ安息香酸エチルをフォーカルポイント原料とした第2世代デンドロンを調製した。即ち合成例3の手順で、ジヒドロキシ安息香酸エステル類として3,4−ジヒドロキシ安息香酸エチルを、ベンジルブロミドの代わりに東京化成(株)から供給される3,5−ビス(ベンジルオキシ)ベンジルブロミドを用いて以下同様の操作を行った。最終生成物は合成例3に記載と同様のプロトンNMR及びIRスペクトル挙動を示したので、目的とする第2世代のカルボン酸デンドロンの構造を確認した。この化合物を以下[34G2]COOHと略称する。主なスペクトル値を以下に示す。[34G2]COOH:IR(単位cm-1):3400〜2400(COOH)、1680(C=O);プロトンNMR:ベンジル位4種4.93(ダブレット,4プロトン)、4.94(ダブレット,4プロトン)、5.13(ダブレット,2プロトン)、5.16(ダブレット,2プロトン)、以下芳香族6.51(ダブレット,2プロトン)、6.69(ダブレット,2プロトン)、6.74(ダブレット,2プロトン)、6.92(ダブレット,1プロトン)、7.28〜7.35(マルチプレット,20プロトン)、7.68(シングレット,1プロトン)、及び7.70(ダブレット,1プロトン)。
【0068】
[ポリベンジルエーテルデンドロン錯体の合成]
比較例1〜5
Eu3+錯体には実施例8、Tb3+錯体には実施例9の、それぞれ記載の原料仕込みと操作を流用し、それぞれの実施例におけるPEK構造を有するデンドロンの代わりに前記で合成したポリベンジルエーテル型のカルボン酸デンドロンを使用した。但し、比較例1〜4の4種のEu3+錯体の合成には、合成例3で得た4種の第1世代カルボン酸デンドロン([35G1]COOH、[34G1]COOH、[25G1]COOH、及び[24G1]COOH)を使用して対応する4種の錯体を得た。これら4種の錯体は、順にそれぞれ[35G1]3Eu、[34G1]3Eu、[25G1]3Eu、及び[24G1]3Euと以下略記する。また、比較例5のTb3+錯体の合成には、合成例4で得た第2世代カルボン酸デンドロン[34G2]COOHを使用して対応する錯体を得た(以下[34G2]3Tbと略記する)。これら5種の比較例の錯体について、実施例8又は9の記載同様に、IRスペクトルにおける原料のカルボキシル基の吸収帯(カルボニル基の伸縮振動)の消失を確認したことから、目的とする錯体の生成を確認した。
【0069】
[錯体の発光能測定]
(1)サンプル調製
前記の実施例及び比較例で合成した全ての錯体を、金属濃度が0.01μモル/Lとなるように、新たに五酸化リンから蒸留して得た乾燥塩化メチレンにそれぞれ溶解して調製した。
(2)発光強度測定
強度を比較した発光帯は、Eu3+錯体の場合は610nm付近のピークを、Tb3+錯体の場合は542nm付近のピークとした。励起波長は、励起スペクトルの最大値を与える波長とした。但し、実施例8と比較例4の2種のEu3+錯体、及び3種のTb3+錯体については、365nmでの励起における発光強度でも評価した。結果は、比較例1の発光強度の測定値を1とする相対値で表し、表1に示した。
【0070】
【表1】
表1から、本発明の錯体である全ての実施例において、汎用の水銀灯が発する365nmの紫外線励起による発光能が認められるが、これに対して、従来技術である比較例4及び5の錯体では、290nm付近の高エネルギー紫外線での励起では優れた発光能を示すが、該365nm励起における発光能は実質的になく、実用的価値に劣ることがわかる。
【0071】
[溶解性]
実施例9の本発明のTb3+錯体はその構造中に18個のベンゼン環を含有するが、ほぼ同程度のベンゼン環を錯体構造中に含有する比較例5のTb3+錯体(ベンゼン環を21個含有する)に比べて、メタクリル酸メチルへの溶解性が優れていた。これは、カルボニル基を含有する本発明のPEK構造が、例えばメタクリル酸メチルのようなカルボニル基を有する分子に良好な親和性を有することに起因すると考えられる。従って、かかる溶解性は、配位子がデンドロンでない場合でも、該PEK構造を有する本発明の超分岐分子により一般的に発現する本発明の遷移金属錯体の1つの特徴である。メタクリル酸メチル等のアクリル樹脂モノマーのようなラジカル重合により汎用合成樹脂を与える液体へのかかる溶解性は、かかる合成樹脂に本発明の遷移金属錯体を分散した樹脂組成物を得る上で、産業上の利用価値を有する性質である。
【0072】
【発明の効果】
本発明の新規なデンドロンは高輝度のランタノイド錯体(例えばEu3+錯体あるいはTb3+錯体)を与え、優れた化学的安定性と溶剤溶解性を有する。また、従来技術では励起光源として実質的に適用不可能であった汎用の水銀灯が発する365nmの紫外線を用いても、Eu3+錯体あるいはTb3+錯体において発光能を有するので、発光物質としての実用的価値に優れる。
Claims (7)
- 前記一般式(1)においてRがフェノキシ基である請求項1に記載のポリエーテルケトン超分岐分子。
- 超分岐構造がデンドリマー構造であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエーテルケトン超分岐分子。
- 前記一般式(1)においてAがカルボキシル基である請求項1〜3のいずれかに記載のポリエーテルケトン超分岐分子。
- 請求項1〜4のいずれかに記載のポリエーテルケトン超分岐分子を配位子として含有する遷移金属錯体。
- 金属元素がランタノイド元素である請求項5に記載の遷移金属錯体。
- 金属元素がユウロピウム又はテルビウムである請求項6に記載の遷移金属錯体。
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