JP4032185B2 - 低屈折率及び撥水性を有する被膜 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルコキシ基含有珪素化合物のポリマー溶液から基材上に形成される被膜の改良に関する。特に本発明は、特定組成を有するアルコキシ基含有珪素化合物を水の不存在下に共縮合させてなるポリシロキサンの溶液からなる塗膜を、基材表面上で熱硬化させることにより当該基材表面に密着して形成され、且つ、低屈折率及び大きい水接触角を有する被膜に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、基材の屈折率よりも低い屈折率を示す被膜を当該基材の表面に形成させると、当該被膜の表面から反射する光の反射率が低下することが知られている。そしてこのような低下した光反射率を示す被膜は、光反射防止膜として利用され、種々の基材表面に適用されている。
特開平5−105424号公報には、Mg源としてのマグネシウム塩、アルコキシマグネシウム化合物などと、F源としてのフッ化物塩とを反応させることにより生成させたMgF2 微粒子のアルコール分散液、又はこれに膜強度向上のためにテトラアルコキシシランなどを加えた液を塗布液とし、これをブラウン管等ガラス基材上に塗布し、そして100〜500℃で熱処理することにより、当該基材上に低屈折率を示す反射防止膜を形成させる方法が開示されている。
【0003】
特開平6−157076号公報には、テトラアルコキシシラン、メチルトリアルコキシシラン、エチルトリアルコキシシランなどの加水分解縮重合物であって、平均分子量の異なる2種以上とアルコール等溶剤とを混合することによりコーティング液となし、当該コーティング液から被膜を形成するに当たって上記混合の際の混合割合、相対湿度のコントロールなどの手段を加えて被膜をつくり、そしてこれを加熱することにより、1.21〜1.40の屈折率を示し、且つ、50〜200nmの径を有するマイクロピット又は凹凸を有する厚さ60〜160nmの薄膜を、ガラス基板上に形成させた低反射ガラスが開示されている。
【0004】
特公平3−23493号公報には、ガラスと、その表面に形成させた高屈折率を有する下層膜と、更にその表面に形成させた低屈折率を有する上層膜とからなる低反射率ガラスが開示されている。この公報には、その上層膜の形成方法の詳細として、CF3(CF2)2C2H4Si(OCH3)3 等ポリフルオロカーボン鎖を有する含フッ素シリコーン化合物と、これに対し5〜90重量%のSi(OCH3)4等シランカップリング剤とを、アルコール溶媒中、酢酸等触媒の存在下に室温で加水分解させた後、濾過することにより共縮合体の液を調製し、次いでこの液を上記下層膜上に塗布し、120〜250℃で加熱することからなる方法が記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記特公平3−23493号公報に記載の、基材上に多層に被膜を形成させる方法では、塗布工程と焼成工程を繰り返す必要があり効率的でないのみならず、焼成工程の繰り返しによって、被膜にクラックが生じたり、生成被膜も不均一になりやすく、更に基材の変形も起こりやすい。更にこの加水分解の方法で得られる塗布液から形成される上層膜に低い屈折率を付与するには、シランカップリング剤1モルに対して1.1モル以上もの多量の含フッ素シリコーン化合物の使用を必要とし、このような場合でも1.33より低い屈折率を有する被膜は得られない。そしてこの加水分解の方法で得られる塗布液を直接に基材の上に塗布し、そしてその塗膜を加熱する方法によって得られた被膜は、十分な硬度を有しない。
【0006】
上記特開平5−105422号公報に記載の方法では、MgF2 微粒子間の結合力が弱いため、形成された被膜は機械的強度に乏しく、そして基材との密着力も十分でないのみならず、MgF2 からなるこの被膜は本質的に1.38より小さい屈折率を示さず、基材の種類によっては十分な光反射防止性を発現しない。
上記特開平6−157076号公報に記載の方法では、異なる分子量を有する縮合物の製造、その配合などにかなりの煩雑さを伴い、更に被膜形成時に相対湿度、被膜表面凹凸のコントロールなどを要し、この方法は実用性に乏しい。
【0007】
上記特開平5−105422号公報に記載の被膜、上記特開平6−157076号公報に記載の被膜のいずれも、その表面は実用中に汚れやすく、これを防止するために、その表面に更に撥水性の高い処理剤、例えば、含フッ素化合物からなる防汚処理剤を塗布することが行われている。
本発明は、簡便に且つ効率よく、基材上に改良された被膜を形成させる方法を提供しようとするものであり、特に、基材上に、1.28〜1.38の屈折率と90〜115度の水接触角を示し、且つ、当該基材の表面に密着して形成された被膜を提供しようとするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の被膜は、下記一般式(1)
Si(OR)4 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (1)
(但し、Rは1〜5個の炭素原子を有するアルキル基を表す。)で示される珪素化合物(A)と、下記一般式(2)
CF3 (CF2 )n CH2 CH2 Si(OR1 )3 ・・・ (2)
(但し、R1 は、1〜5個の炭素原子を有するアルキル基を表し、そしてnは、0から12の整数を表す。)で示される珪素化合物(B)と、下記一般式(3)
R2 CH2 OH ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (3)
(但し、R2 は、水素原子又は1〜12個の炭素原子を有する非置換の若しくは置換基を有するアルキル基を表す。)で示されるアルコール(C)と、蓚酸(D)とを、珪素化合物(A)1モルに対して珪素化合物(B)0.05〜0.43モルの比率に、珪素化合物(A)と珪素化合物(B)に含まれる全アルコキシ基1モルに対してアルコール(C)0.5〜100モルの比率に、そして珪素化合物(A)と珪素化合物(B)に含まれる全アルコキシ基1モルに対して蓚酸(D)0.2〜2モルの比率に含有する反応混合物を形成させ、そしてこの反応混合物を、その中の珪素原子から換算された0.5〜10重量%のSiO2 濃度に維持すると共に水の不存在を維持しながら、当該反応混合物中珪素化合物(A)及び珪素化合物(B)の全残存量が5モル%以下となるまで、50〜180℃で加熱することにより、これにより生じたポリシロキサンの溶液を生成させ、次いで当該ポリシロキサンの溶液を含有する塗布液を基材表面に塗布し、そしてこの塗布により得られた塗膜を80〜450℃で熱硬化させることにより上記基材表面に密着して形成され、そしてこの被膜は1.28〜1.38の屈折率及び90〜115度の水接触角を示す。
【0009】
上記ポリシロキサンの溶液は透明であって、ゲル状のポリシロキサンは含有していない。多量のアルコール(C)と比較的多量の蓚酸(D)とは共存するが、水が存在しない反応混合物中で珪素化合物(A)と珪素化合物(B)とは加熱されるから、このポリシロキサンは、珪素化合物(A)と珪素化合物(B)の加水分解物の縮合によって生成したものではない。アルコール溶媒中加水分解の方法でアルコキシシランからポリシロキサンを生成させるときは、加水分解の進行につれて液に濁りが生じたり、不均一なポリシロキサンが生成しやすいが、本発明による上記反応混合物ではそのようなことは起こらない。
【0010】
本発明による上記ポリシロキサンは、その化学構造は複雑であって特定しがたいが、おそらく珪素化合物(A)及び珪素化合物(B)と蓚酸(D)との反応により生成した中間体にアルコール(C)が作用して重合が進行するために、分岐構造は有していても、溶液を形成する程度の重合度を有し、そして比較的に揃った構造を有する珪素化合物(A)と珪素化合物(B)の共縮合体ポリシロキサンが生成するものと考えられる。
【0011】
基材上に塗布された上記ポリシロキサンの溶液を含有する塗膜の加熱により、当該塗膜から揮発成分の除去と当該塗膜中でポリシロキサンの硬化反応が進行することによって、当該基材表面に密着し、そして低屈折率と撥水性を有する不溶性の被膜が生成する。珪素化合物(A)の量に対する珪素化合物(B)の量のモル比が大きい程、この被膜の屈折率は低くなり、そして水との接触角は大きくなる。けれども、本発明の被膜は、前記特公平3−23493号公報に記載の上層膜とは相違して、珪素化合物(B)の含有率の低い塗布液から形成されるにも係わらず、上記上層膜の示す屈折率より低い屈折率を有する。
【0012】
【発明の実施の形態】
前記一般式(1)に含まれるアルキル基Rの例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルなどが挙げられ、好ましい珪素化合物(A)の例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランなどが挙げられる。これらの中でもテトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどが特に好ましい。
【0013】
前記一般式(2)に含まれるアルキル基R1 の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルなどが挙げられ、好ましい珪素化合物(B)の例としては、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン、トリデカフルオロオクチルトリエトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロデシルトリエトキシシランなどが挙げられ、これらは単独で又は二種以上組み合わせて用いることができる。
【0014】
前記一般式(3)に含まれる非置換のアルキル基R2 の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチルなどが挙げられ、そして置換基を有するアルキル基R2 の例としては、ヒドロキシメチル、メトキシメチル、エトキシメチル、ヒドロキシエチル、メトキシエチル、エトキシエチルなどが挙げられる。好ましいアルコール(C)の例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、n-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどが挙げられ、これらは単独で又は二種以上組み合わせて用いることができる。これらの中でも特にエタノールが好ましい。
【0015】
珪素化合物(A)1モルに対して珪素化合物(B)を0.43モル以上使用した反応混合物からは、均一性を有するポリシロキサンの溶液が得られない。そして珪素化合物(A)1モルに対して珪素化合物(B)を0.05モル以下使用した反応混合物からは、1.38以下の屈折率を有する被膜が形成されず、そしてその被膜は、水の接触角90度以上を示す撥水性を示さない。珪素化合物(A)1モルに対して珪素化合物(B)を0.05〜0.25モル使用するのが特に好ましい。
【0016】
珪素化合物(A)と珪素化合物(B)に含まれる全アルコキシ基の1モル当たり、0.5モルより少ない量のアルコールを使用すると、ポリシロキサンを生成させるのに長時間を要し、そして得られたポリシロキサン含有液からは、硬度の高い被膜が生成しない。反対に、珪素化合物(A)と珪素化合物(B)に含まれる全アルコキシ基の1モル当たり、100モルより多い量のアルコールを使用すると、得られたポリシロキサン含有液のSiO2 濃度が不足し、塗布前に濃縮を必要とし効率的でない。珪素化合物(A)と珪素化合物(B)に含まれる全アルコキシ基の1モルに対してアルコールを1〜50モル使用するのが特に好ましい。
【0017】
珪素化合物(A)と珪素化合物(B)に含まれる全アルコキシ基の1モル当たり、0.2モルより少ない量の蓚酸(D)を使用すると、得られたポリシロキサン含有液からは、硬度の高い被膜が生成しない。反対に、珪素化合物(A)と珪素化合物(B)に含まれる全アルコキシ基の1モル当たり、2モルより多い量の蓚酸(D)を使用すると、得られたポリシロキサン含有液中は、相対的に多量の蓚酸(D)を含有し、かかる液からは目的とする性能の被膜が得られない。珪素化合物(A)と珪素化合物(B)に含まれる全アルコキシ基の1モルに対して、蓚酸(D)を0.25〜1モル使用するのが特に好ましい。
【0018】
反応混合物の形成には、上記珪素化合物(A)、珪素化合物(B)、アルコール(C)及び蓚酸(D)の他に、所望に応じて、例えば、珪素化合物(A)1モルに対して0.02〜0.2モル程度の変成剤(E)としてのアルキルアルコキシシランを併用しても良い。好ましい変成剤(E)の例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどのトリアルコキシシラン、及びジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランなどのジアルコキシシランが挙げられる。これらは単独で又は二種以上組み合わせて用いることができる。
【0019】
これらの変成剤(E)は、基材上の塗膜を硬化させるための温度を低下させることができ、そして被膜の基材に対する密着性を向上させる。
上記珪素化合物(A)、珪素化合物(B)、アルコール(C)及び蓚酸(D)を含有する反応混合物は、これらを混合することにより、或いはこれらに更に上記変成剤(E)を加えることにより形成させることができる。この反応混合物には水は加えられない。そしてこの反応混合物は、好ましくは溶液状の反応混合物として加熱するのが好ましく、例えば、あらかじめアルコール(C)に蓚酸(D)を加えて蓚酸のアルコール溶液を形成させた後、当該溶液と珪素化合物(A)、珪素化合物(B)、上記変成剤(E)などを混合することにより得られる溶液状の反応混合物として加熱するのが好ましい。通常、珪素化合物(A)、珪素化合物(B)、アルコール(C)及び蓚酸(D)の上記比率の反応混合物は、これに含まれる珪素原子をSiO2 に換算すると0.5〜10重量%のSiO2 濃度を有する。上記変成剤(E)を含有する反応混合物の場合にも、これに含まれる珪素原子をSiO2 に換算して0.5〜10重量%のSiO2 濃度を有するように上記変成剤(E)は含有される。そしてこれら反応混合物の加熱の間、これら反応混合物は上記SiO2 濃度と水の不存在が維持される。この加熱は、通常の反応器中液温50〜180℃で行うことができ、好ましくは、反応器から液の蒸発、揮散などが起こらないように、例えば、密閉式容器中で又は還流下に行われる。
【0020】
ポリシロキサンを生成させるための加熱を50℃より低い温度で行うと、濁りを有したり、不溶解物を含有する液が生成しやすいので、この加熱は50℃より高い温度で行われ、高温ほど短時間に終了させることができる。けれども、180℃より高い温度での加熱は、付加的利益をもたらさず非効率的である。加熱時間には特に制限はなく、例えば50℃では8時間程度、78℃の還流下では3時間程度で十分であり、通常、珪素化合物(A)及び珪素化合物(B)の全仕込量に対してこれら珪素化合物の残存量が5モル%以下となった時点で加熱は停止される。用いられた珪素化合物(A)及び珪素化合物(B)の全量に対してこれら珪素化合物が5モル%よりも多く残存するポリシロキサン含有液は、これを基材表面に塗布し、次いでその塗膜を80から450℃で熱硬化させたとき、得られた被膜にピンホールが生じたり、或いは十分な硬度を有する被膜が得られない。
【0021】
上記加熱により得られたポリシロキサンの溶液は、そのまま次の塗布工程に塗布液として使用することができるが、所望に応じ、濃縮又は希釈することにより得られる液を塗布液として、他の溶媒に置換することにより得られる液を塗布液として、或いは所望の添加物(F)と混合することにより得られる塗布液として使用することができる。この添加物(F)の例として、コロイド状無機微粒子のゾルの形態であるシリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル、フッ化マグネシウムゾル、セリアゾルが挙げられ、これらは単独で又は二種以上組み合わせて用いることができる。そして、これらのゾルとしてはオルガノゾルが好ましく、特にアルコール(C)を分散媒とするオルガノゾルが特に好ましい。
またゾルの添加量は、塗布液の熱硬化固形分全重量に対してコロイド状無機微粒子重量が70重量%以下であれば、所望の量を任意に選ぶことができる。その他添加物(F)としては、金属塩、金属化合物なども挙げられる。これらは被膜の撥水性を調節するのに好都合である。
【0022】
塗布工程に使用されるこの塗布液としては、その中に上記ポリシロキサンの透明溶液に由来する珪素原子をSiO2 に換算して0.5〜10重量%含有する液が好ましく、このSiO2 濃度が0.5重量%より小さいと、一回の塗布で形成される被膜の厚さが薄くなりやすく、そしてこの濃度が10重量%より高いと、この塗布液の貯蔵安定性が不足しやすい。この塗布液のSiO2 濃度としては2〜8重量%が特に好ましい。
【0023】
基材としては、この上に密着性被膜の生成を許容するものであれば特に制限はないが、特に光反射防止被膜を形成させるには、通常のガラス、プラスチックなど被膜の屈折率より高い屈折率を有する基材が望ましい。
上記ポリシロキサンの溶液又はこれを含有する塗布液は、通常の方法、例えば、ディップ法、スピンコート法、刷毛塗り法、ロールコート法、フレキソ印刷法などで基材上に塗布することができる。
【0024】
基材上に形成された塗膜は、そのまま熱硬化させても良いが、これに先立ち室温〜80℃、好ましくは50〜80℃で乾燥させた後、80〜450℃、好ましくは、100〜450℃で加熱される。この加熱の時間としては5〜60分程度で十分である。この加熱温度が80℃より低いと、得られた被膜の硬度、耐薬品性などが不足しやすい。一般にガラスのような耐熱性基材に対しては、300℃以上の温度で加熱するのが良いが、450℃より高い温度は、得られた被膜に十分な撥水性を与えない。これら加熱は、通常の方法、例えばホットプレート、オーブン、ベルト炉などを使用することにより行うことができる。
【0025】
【実施例】
実施例1
還流管を備えつけた4つ口反応フラスコにエタノール70.8gを投入し、撹拌下にこのエタノールに蓚酸12.0gを少量づつ添加することにより、蓚酸のエタノール溶液を調製した。次いでこの溶液をその還流温度まで加熱し、還流下のこの溶液中にテトラエトキシシラン11.0gとトリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン6.2gの混合物を滴下した。滴下終了後も、還流下に加熱を5時間続けた後冷却することによりポリシロキサンの溶液(L1) を調製した。
【0026】
この溶液(L1) をガスクロマトグラフィーで分析したところ、アルコキシドモノマーは検出されなかった。この溶液(L1) をフッ化カルシウム基板の表面に塗布した後、その塗膜を300℃で30分加熱することにより、このフッ化カルシウム基板の表面に密着した被膜を生成させた。次いでこの被膜について、赤外線分光器を使用して透過光のスペクトルを測定したところ、3200cm-1付近と980cm-1付近にシラノール基による吸収を、2800cm-1付近にメチレン基による吸収を、1100cm-1付近にSi−O−Siによる吸収を、そして1200cm-1付近にC−Fによる吸収をそれぞれ観測した。
【0027】
実施例2
還流管を備えつけた4つ口反応フラスコにエタノール72.4gを投入し、撹拌下にこのエタノールに蓚酸12.0gを少量づつ添加することにより、蓚酸のエタノール溶液を調製した。次いでこの溶液をその還流温度まで加熱し、還流下のこの溶液中にテトラエトキシシラン12.5gとトリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン3.1gの混合物を滴下した。滴下終了後も、還流下に加熱を5時間続けた後冷却することによりポリシロキサンの溶液(L2) を調製した。この溶液(L2) をガスクロマトグラフィーで分析したところ、アルコキシドモノマーは検出されなかった。
【0028】
実施例3
還流管を備えつけた4つ口反応フラスコにエタノール70.6gを投入し、撹拌下にこのエタノールに蓚酸12.0gを少量づつ添加することにより、蓚酸のエタノール溶液を調製した。次いでこの溶液をその還流温度まで加熱し、還流下のこの溶液中に、テトラエトキシシラン9.4gとトリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン6.2gとγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1.2gとγ−アミノプロピルトリメトキシシラン0.6gの混合物を滴下した。滴下終了後も、還流下に加熱を5時間続けた後冷却することによりポリシロキサンの溶液(L3) を調製した。この溶液(L3) をガスクロマトグラフィーで分析したところ、アルコキシドモノマーは検出されなかった。
【0029】
実施例4
実施例3で得られた溶液(L3)100gに、粒子径8nmのコロイド状シリカをSiO2として15.7重量%含有するメタノール分散シリカゾルを51.0gとエタノール149gを加えて十分に混合することにより、ポリシロキサンの溶液(L4) を調製した。
【0030】
実施例5
実施例3で得られた溶液(L3)100gに、粒子径8nmのコロイド状シリカをSiO2として15.7重量%含有するメタノール分散シリカゾルを76.4gとエタノール223.6gを加えて十分に混合することにより、ポリシロキサンの溶液(L5) を調製した。
【0031】
比較例1
還流管を備えつけた4つ口フラスコにエタノール43.7gとテトラエトキシシラン16.6gとトリデカフルオロオクチルトリメトキシシラン9.3gを投入して混合することによりエタノール溶液を調製した。次いでこの溶液をその還流温度まで加熱し、還流下のこの溶液に、エタノール24.9gと水5.4gと触媒として硝酸0.1gの混合物を滴下した。滴下終了後も、還流下に5時間加熱を続けた後冷却することにより、アルコキシシランの加水分解物からなる液(L6) を調製した。
【0032】
比較例2
還流管を備えつけた4つ口反応フラスコにエタノール72.0gを投入し、撹拌下のこのエタノールに蓚酸11.4gを少量づつ添加することにより、蓚酸のエタノール溶液を調製した。次いでこの溶液をその還流温度まで加熱し、還流下のこの溶液に、テトラエトキシシラン11.0gとオクタデシルトリメトキシシラン5.6gの混合物を滴下した。滴下終了後も、還流下に5時間加熱を続けた後冷却することによりポリシロキサン含有液(L7) を調製した。
【0033】
比較例3
還流管を備えつけた4つ口反応フラスコにエタノール53.7gとテトラエトキシシラン20.8gを投入して混合することにより、テトラエトキシシランのエタノール溶液を調製した。次いでこの溶液をその還流温度まで加熱し、還流下のこの溶液に、エタノール20.0gと水5.4gと触媒として硝酸0.1gの混合物を滴下した。滴下終了後も、還流温度で5時間加熱を続けた後冷却することによりアルコキシシランの加水分解物からなる液を調製した。次いでこの液全量に、粒子径12nmのコロイド状シリカをSiO2として30重量%含有するメタノール分散シリカゾルを100gとエタノール700gを加えて十分に混合することにより、混合液(L8) を調製した。
【0034】
実施例6
上記液(L1)〜(L8)を塗布液として、それぞれ基板上にスピンコートして塗膜を形成させた後、この塗膜をホットプレート上80℃で5分乾燥し、次いで焼成炉中表1に示す温度で加熱することにより、基板表面上に被膜を形成させた。次いで得られた被膜について、下記方法により鉛筆硬度、屈折率、反射率、水接触角及び膜厚の各測定を行った。
【0035】
上記鉛筆硬度の測定及び反射率の測定では、被膜は、1.52の屈折率と4〜5%の反射率を有するソーダライムガラス基板の表面に形成され、そして上記屈折率の測定では、被膜はシリコン基板の表面に形成された。
鉛筆硬度の測定法: JIS K 5400 に規定の方法による。
屈折率の測定法 : 溝尻光学(株)製のエリプソメターDVA−36Lを使用して、波長633nmの光の屈折率を測定した。
【0036】
反射率の測定法 : (株)島津製作所製の分光光度計UV3100PCを使用して、波長550nmの光の入射角5度での光の反射率を測定した。
水接触角の測定法: 協和界面科学(株)製の自動接触角計CA−Z型を使用して、純水3マイクロリットルを滴下したときの接触角を測定した。
【0037】
膜厚の測定法 : 乾燥後の塗膜にカッターで傷を付けた後熱硬化させ、得られた被膜について、ランクテイラーホブソン社製のタリステップを使用して、段差を測定することにより測定した。
これら測定結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
表1に示されたように、実施例の塗布液(L1) の塗膜を300℃、350℃、450℃のいずれの温度で加熱しても本発明の被膜が得られたが、塗布液(L1) の塗膜を550℃で加熱すると、10度以下の水接触角と1.39の屈折率を示す比較例の被膜が形成された。
【0039】
実施例の塗布液(L2) を300℃で、実施例の塗布液(L3) を100℃で、実施例の塗布液(L4) を100℃で、そして実施例の塗布液(L5) を300℃でそれぞれ加熱して得られた被膜はいずれも良好であった。
加水分解法により得られた比較例塗布液(L6)、及び珪素化合物(B)を使用しないで調製した比較例塗布液(L7)の塗膜を300℃で加熱することにより得られた被膜はいずれも、1.38以下の屈折率を示さなかった。
【0040】
テトラアルコキシシランの加水分解液とコロイド状シリカを含有する比較例の塗布液(L8) を、300℃で加熱することにより形成された被膜は、1.33の屈折率を示したが、10度以下の水接触角を示した。
【0041】
【発明の効果】
本発明の被膜の形成に用いられるポリシロキサンの溶液は、常温で約6ヶ月の保存に耐える安定性を有するから、工業製品としても提供することができる。そして本発明の被膜は、この工業製品の溶液を含有する塗布液を基材表面に塗布する工程と、その塗膜を熱硬化させる工程とにより容易に得ることができる。
【0042】
本発明の被膜の屈折率より高い屈折率を有する基材、例えば、通常のガラスの表面に、本発明の被膜を形成させることにより、この基材を容易に光反射防止性の基材に変換させることができる。本発明の被膜の厚さは、塗膜の厚さによっても調節することができるが、塗布液のSiO2 濃度を調節することによって容易に調節することができる。本発明の被膜は、基材表面に単一の被膜として使用しても有効であるが、高屈折率を有する下層被膜の上に上層被膜として使用することもできる。
【0043】
屈折率aを有する被膜の厚さd(nm)と、この被膜による反射率の低下を望む光の波長λ(nm)との間には、d=(2b−1)λ/4a(但し、bは1以上の整数を表す。)の関係式が成立することが知られている。従って、この式を利用して被膜の厚さを定めることにより、容易に所望の光の反射を防止することができる。例えば、1.32の屈折率を有する被膜によって、可視光の中心波長550nmを有する光のガラス表面からの反射防止は、上式のλとaにこれらの数値とbに1を代入することによって得られる104nmの被膜厚さ、或いはbに2を代入することによって得られる312nmの被膜厚さを採用することによって容易に達成することができる。
光の反射防止が望まれるガラス製のブラウン管、コンピューターのディスプレー、ガラス表面を有する鏡、ガラス製ショウケース、その他種々の製品表面に、本発明の被膜を適用することができる。本発明の被膜はまた、良好な撥水性を有するから、この被膜を親水性の基材表面に形成させることによって、汚れやすいこの親水性基材表面を防汚性の表面に変換させることもできる。
Claims (6)
- 下記一般式(1)
Si(OR)4 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (1)
(但し、Rは1〜5個の炭素原子を有するアルキル基を表す。)で示される珪素化合物(A)と、下記一般式(2)
CF3 (CF2 )n CH2 CH2 Si(OR1 )3 ・・・ (2)
(但し、R1 は、1〜5個の炭素原子を有するアルキル基を表し、そしてnは、0から12の整数を表す。)で示される珪素化合物(B)と、下記一般式(3)
R2 CH2 OH ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (3)
(但し、R2 は、水素原子又は1〜12個の炭素原子を有する非置換の若しくは置換基を有するアルキル基を表す。)で示されるアルコール(C)と、蓚酸(D)とを、珪素化合物(A)1モルに対して珪素化合物(B)0.05〜0.43モルの比率に、珪素化合物(A)と珪素化合物(B)に含まれる全アルコキシ基1モルに対してアルコール(C)0.5〜100モルの比率に、そして珪素化合物(A)と珪素化合物(B)に含まれる全アルコキシ基1モルに対して蓚酸(D)0.2〜2モルの比率に含有する反応混合物を形成させ、そしてこの反応混合物を、その中の珪素原子から換算された0.5〜10重量%のSiO2 濃度に維持すると共に水の不存在を維持しながら、当該反応混合物中珪素化合物(A)及び珪素化合物(B)の全残存量が5モル%以下となるまで、50〜180℃で加熱することにより、これにより生じたポリシロキサンの溶液を生成させ、次いで当該ポリシロキサンの溶液を含有する塗布液を基材表面に塗布し、そしてこの塗布により得られた塗膜を80〜450℃で熱硬化させることを特徴とする、1.28〜1.38の屈折率と90〜115度の水接触角を示す被膜を当該基材表面に密着して形成させる方法。 - 反応混合物の形成において、珪素化合物(A)、珪素化合物(B)、アルコール(C)及び蓚酸(D)の他に、変成剤(E)としてメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン及びジメチルジエトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも一種のアルキルアルコキシシランを珪素化合物(A)1モルに対して0.02〜0.2モルの比率に併用する請求項1記載の方法。
- 塗布液の添加物(F)として、シリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル、フッ化マグネシウムゾル及びセリアゾルからなる群から選ばれる少なくとも一種のゾルを併用する請求項1又は2記載の方法。
- 下記一般式(1)
Si(OR)4 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (1)
(但し、Rは1〜5個の炭素原子を有するアルキル基を表す。)で示される珪素化合物(A)と、下記一般式(2)
CF3 (CF2 )n CH2 CH2 Si(OR1 )3 ・・・ (2)
(但し、R1 は、1〜5個の炭素原子を有するアルキル基を表し、そしてnは、0から12の整数を表す。)で示される珪素化合物(B)と、下記一般式(3)
R2 CH2 OH ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (3)
(但し、R2 は、水素原子又は1〜12個の炭素原子を有する非置換の若しくは置換基を有するアルキル基を表す。)で示されるアルコール(C)と、蓚酸(D)とを、珪素化合物(A)1モルに対して珪素化合物(B)0.05〜0.43モルの比率に、珪素化合物(A)と珪素化合物(B)に含まれる全アルコキシ基1モルに対してアルコール(C)0.5〜100モルの比率に、そして珪素化合物(A)と珪素化合物(B)に含まれる全アルコキシ基1モルに対して蓚酸(D)0.2〜2モルの比率に含有する反応混合物を形成させ、そしてこの反応混合物を、その中の珪素原子から換算された0.5〜10重量%のSiO2 濃度に維持すると共に水の不存在を維持しながら、当該反応混合物中珪素化合物(A)及び珪素化合物(B)の全残存量が5モル%以下となるまで、50〜180℃で加熱することにより、これにより生じたポリシロキサンの溶液を生成させ、次いで当該ポリシロキサンの溶液を含有する塗布液を基材表面に塗布し、そしてこの塗布により得られた塗膜を80〜450℃で熱硬化させることにより上記基材表面に密着して形成され、且つ、1.28〜1.38の屈折率と90〜115度の水接触角を示す被膜。 - 反応混合物の形成において、珪素化合物(A)、珪素化合物(B)、アルコール(C)及び蓚酸(D)の他に、変成剤(E)としてメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、ヘプチルトリエトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、ヘキサデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン及びジメチルジエトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも一種のアルキルアルコキシシランを珪素化合物(A)1モルに対して0.02〜0.2モルの比率に併用する請求項4記載の被膜。
- 塗布液の添加物(F)として、シリカゾル、アルミナゾル、チタニアゾル、ジルコニアゾル、フッ化マグネシウムゾル及びセリアゾルからなる群から選ばれる少なくとも一種のゾルを併用する請求項4又は5記載の被膜。
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