JP4029523B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として電力用変圧器の鉄心材料として用いられる方向性電磁鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
方向性電磁鋼板の製造に際しては、インヒビターと呼ばれる析出物を利用して最終仕上焼鈍中に二次再結晶させることが一般的な技術として用いられている。例えば、特公昭40−15644 号公報に記載のAlN,MnSを使用する方法および特公昭51−13469 号公報に記載のMnS、MnSeを使用する方法等がその代表的なもので、いずれも工業的に実用化されている。
また、かかるインヒビターの使用については、その他にも、CuSeとBNを添加する技術(特公昭58−42244 号公報)や、Ti,Zr,Vの窒化物を使用する方法(特公昭46−40855 号公報)など数多くが知られている。
【0003】
これらのインヒビターを用いる方法は、安定して二次再結晶粒を発達させるのに有用な方法ではあるが、析出物を微細に分散させる必要があるので、熱延前のスラブ加熱を1300℃以上の高温で行わなければならない。
しかしながら、スラブの高温加熱は、加熱を実現する上での設備コストが嵩み、また熱延時に生成するスケール量も多大になるので、歩留りが低下するだけでなく、設備のメンテナンス等の問題も多くなる。
【0004】
また、結晶組織の観点からすると、このようなスラブの高温加熱はスラブ結晶組織の過度の粗大化を引き起こす。スラブの結晶組織は、熱延安定方位であり、かつ再結晶しにくい{100}<011>方位に集積しているので、このようなスラブ組織の粗大化は、結果的に二次再結晶を大きく阻害し、磁気特性を大きく劣化させる。
【0005】
かようなスラブ組織の粗大化の防止策として、インヒビター用いる従来技術では、鋼中にCを0.03wt%以上含有させることにより、γ→α変態を介して熱延組織の微細化を図っている。
そして、Cは、最終製品に残留すると磁気特性を劣化させるので、冷間圧延後に湿潤水素中で行う脱炭焼鈍により除去している。
【0006】
ところで、脱炭焼鈍を行うためには、湿潤水素を使用可能とする高コストの生産設備が必要であるだけでなく、脱炭に必要な均熱時間は2分以上、板厚が厚い場合には3分以上の時間を必要とするので生産能率が非常に悪い。しかも、脱炭焼鈍時には、過度な表面酸化によって表面の平滑度が低下するので、磁気特性を劣化させる要因にもなっている。
【0007】
上記の問題の解決策として、Cを低減した素材を使用する技術が幾つか提案されている。
たとえば、特公昭61−14209 号公報には、AlNをインヒビターとして使用し、スラブを1300℃以下で加熱することによって二次再結晶させる技術が、特公昭62−83421 号公報には、AlNをインヒビターとして使用し、熱延後の巻取り温度を600 ℃以下とする方法が、特開平1−209924号公報には、AlNとMnSをインヒビターとして使用し、スラブ加熱温度を1270℃以下とする方法が、特公2784637 号には、AlNをインヒビターとして使用し、スラブを1280℃未満の温度で加熱し、熱延条件を改良する方法が、それぞれ開示されている。
しかしながら、これらのインヒビターを使用する方法では、低温のスラブ加熱ではインヒビターの固溶が不完全なので、磁気特性が安定しないという問題がある。
【0008】
さらに、インヒビターを使用する技術の問題点は、最終仕上焼鈍後にこれらの成分が残存すると磁気特性が劣化するという点である。
そのため、インヒビター成分であるAl,N,Se,S等を鋼中より除去するために、二次再結晶完了後、引き続いて1100℃以上の水素雰囲気中で数時間にわたる純化焼鈍を必要とする。
しかしながら、かかる高温純化焼鈍のために鋼板の機械強度が低下し、コイルの下部が座屈して、製品の歩留りが著しく低下するという問題がある。
【0009】
上記の問題を解決するために、インヒビターを使用せずに方向性電磁鋼板を製造する方法が、特開昭64−55339 号、特開平2−57635 号、特開平7−76732 号および特開平7−197126号各公報に提案されている。
これらの技術に共通していることは、表面エネルギーを駆動力として{110}面を優先的に成長させることを意図していることである。
【0010】
ところで、表面エネルギー差を有効に利用するためには、表面の寄与を大きくするために板厚を薄くすることが必然的に要求される。
例えば、特開昭64−55339 号公報に開示の技術では板厚が 0.2mm以下、特開平2−57635 号公報に開示の技術では板厚が0.15mm以下に制限されている。また、特開平7−76732 号公報に開示の技術では、板厚は制限されていないものの、実施例1によると、板厚が0.30mmの場合には磁束密度B8 は 1.700T以下と方位集積度が極めて低く、実施例中で良好な磁束密度が得られている板厚は0.10mmに限られている。同様に、特開平7−197126号公報に開示の技術でも、板厚は制限されていないが、この技術は50〜75%の三次冷間圧延を施す技術であるため、必然的に板厚は薄くなり、実施例では0.10mm厚である。
現在使用されている方向性電磁鋼板の板厚は0.20mm以上がほとんどであるので、これら通常の製品を上記したような表面エネルギーを使用する方法で得ることは難しい。
【0011】
さらに、表面エネルギーを使用するためには、表面酸化物の生成を抑制した状態で、高温の最終仕上焼鈍を行わなければならない。
例えば、特開昭64−55339 号公報に開示の技術では、焼鈍雰囲気として、真空中または不活性ガス、あるいは水素ガスまたは水素ガスと窒素ガスの混合ガスを用い、1180℃以上の温度で焼鈍することが記載されている。また、特開平2−57635 号公報に開示の技術では、 950〜1100℃の温度で、不活性ガス雰囲気または水素ガスまたは水素ガスと不活性ガスの混合雰囲気を用い、しかもこれらを減圧することを推奨している。さらに、特開平7−197126号公報に開示の技術でも、1000〜1300℃の温度で、酸素分圧が0.5 Pa以下の非酸化性雰囲気または真空中で最終仕上焼鈍を行うことを提案している。
【0012】
上述したように、表面エネルギーを利用して良好な磁気特性を得ようとする場合、最終仕上焼鈍の雰囲気としては不活性ガスや水素が必要となり、さらに推奨される条件は真空とすることであるが、高温と真空の両立は設備的に極めて難しく、コスト高となる。また、表面エネルギーを利用した場合には、原理的には{110}面の選択のみが可能であり、圧延方向に<001>方向が揃ったゴス粒のみの成長が選択されるわけではない。
方向性電磁鋼板は、圧延方向に磁化容易軸<001>を揃えてこそ、磁気特性の向上が望めるのであるから、{110}面の選択のみでは原理的に良好な磁気特性は得られない。
そのため、表面エネルギーを利用する方法で良好な磁気特性を得ることができる圧延条件や焼鈍条件は極めて限られたものとなり、その結果、磁気特性の安定化は望み得ない。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、Cを含有する素材に必要不可欠であった脱炭焼鈍を省略すると共に、インヒビターを使用する場合の、熱延前の高温スラブ加熱や純化焼鈍に付随する諸問題を有利に回避した、インヒビターを使用しない画期的な方向性電磁鋼板の製造方法を提案することを目的とする。
また、本発明は、インヒビターを使用せず表面エネルギーを利用した場合に必然的に付随する、鋼板板厚の制約や二次再結晶方位集積度の劣化をも効果的に解決したものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
以下、本発明の解明経緯について説明する。
さて、発明者らは、従来から、ゴス方位粒が二次再結晶する機構について鋭意研究を重ねた結果、一次再結晶組織における方位差角が20〜45°である粒界が重要な役割を果たしていることを見出し、Acta Material 45巻 (1997) 85ページに報告した。
【0015】
図1は、方向性電磁鋼板の一次再結晶組織における方位差角が20〜45°である粒界の存在頻度を示したものであるが、ゴス方位が最も高い頻度を持つ。方位差角:20〜45°の粒界は、C.G.Dunnらによる実験データ(AIME Transaction 188巻 (1949) P.368 )によれば、高エネルギー粒界である。高エネルギー粒界は、粒界内の自由空間が大きく乱雑な構造をしている。粒界拡散は、粒界を通じて原子が移動する過程であるので、粒界中の自由空間の大きい高エネルギー粒界の方が粒界拡散が速い。
二次再結晶は、インヒビターと呼ばれる析出物の拡散律速による成長に伴って発現することが知られている。高エネルギー粒界上の析出物は、仕上焼鈍中に優先的に粗大化が進行するので、優先的にピン止めがはずれて、粒界移動を開始しゴス粒が成長すると考えられる。
【0016】
発明者らは、上記の研究をさらに発展させて、ゴス方位粒の二次再結晶の本質的要因は、一次再結晶組織中の高エネルギー粒界の分布状態にあり、インヒビターの役割は、高エネルギー粒界と他の粒界の移動速度差を生じさせることにあることを突き止めた。
従って、この理論に従えば、インヒビターを用いなくとも、粒界の移動速度差を生じさせることができれば、二次再結晶をさせることが可能となる。
【0017】
鋼中に存在する不純物元素は、粒界とくに高エネルギー粒界に偏析し易いため、不純物元素を多く含む場合には、高エネルギー粒界と他の粒界の移動速度に差がなくなっているものと考えられる。
従って、素材の高純度化によって、上記のような不純物元素の影響を排除してやれば、高エネルギー粒界の構造に依存する本来的な移動速度差が顕在化して、ゴス方位粒の二次再結晶が可能になることが期待される。
【0018】
以上の考察に基づいて、さらに研究を進めた結果、発明者らは、Cを低減したインヒビター成分を含まない成分系において、素材の高純度化と一次再結晶粒径の適正化を図ることによって、効果的に二次再結晶を生じさせ得ることを全く新規に知見し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0019】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.Si:2.0〜8.0 wt%およびMn:0.005〜1.0 wt%を含有し、かつCを0.010 wt%以下、Alを 100 ppm未満、そしてSe,S,OおよびNをそれぞれ30 ppm以下に低減し、残部は Fe および不可避的不純物の組成になる鋼スラブを、熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施し、ついで再結晶焼鈍後、必要に応じて焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上焼鈍を施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
再結晶焼鈍後の平均結晶粒径を30〜130 μm の範囲に制御することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【0020】
2.上記1において、鋼スラブが、さらにNi:0.01〜1.50wt%、Sn:0.01〜0.50wt%、Sb:0.01〜0.50wt%、Cu:0.01〜0.50wt%、Mo:0.01〜0.50wt%およびCr:0.01〜1.50wt%のうちから選んだ少なくとも一種を含有する組成になることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【0021】
3.上記1または2において、再結晶焼鈍を、焼鈍温度:800 〜1000℃、雰囲気露点:50℃以下の条件下で行うことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【0022】
4.上記1,2または3において、最終冷延前の平均結晶粒径を200 μm 以下とし、かつ最終冷延の圧下率を70%以上、91%以下とすることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【0023】
この発明は、結晶粒界における析出物や不純物を排除する点で従来の二次再結晶手法と全く逆の思想であり、また表面エネルギーを利用する技術とも異なるので、鋼板表面に酸化物が存在しても二次再結晶を生じさせることができる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を成功に導くに至った実験結果について説明する。
実験1
Si:3.22wt%およびMn:0.070 wt%を含み、かつ不純物元素についてはそれぞれC:30 ppm, Al:20 ppm, Se:3 ppm, S:18 ppm, O:10 ppm、N:5 ppmまで低減した鋼スラブを、連続鋳造にて製造した。ついで、1100℃に加熱後、熱間圧延により 2.5mm厚の熱延板としたのち、窒素雰囲気中で1000℃, 1分間の均熱処理を施してから、急冷した。ついで、冷間圧延を行って0.35mmの最終板厚に仕上げたのち、雰囲気露点が−25℃の乾燥Ar雰囲気中にて、温度と時間を種々に変更して再結晶焼鈍を行った。
その後、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上焼鈍を行った。最終仕上焼鈍は、窒素雰囲気中にて20℃/hの速度で1050℃まで加熱して、終了させた。
【0025】
最終仕上焼鈍後に磁気特性を調査した結果、再結晶焼鈍温度が 800〜1000℃程度の時に二次再結晶が生じ、再結晶焼鈍温度がこの範囲より低かったり高い場合にはいずれも、二次再結晶が起こらないことが判明した。
この知見に基づき,鋭意研究を進めたところ、再結晶焼鈍後における一次再結晶粒の平均粒径が二次再結晶の発現に支配的な影響を及ぼしていることが究明された。
【0026】
図2に、最終仕上焼鈍後の磁束密度B8 に及ぼす、再結晶焼鈍後の一次再結晶粒の平均粒径Dの影響について調べた結果を示す。
同図に示したとおり、一次再結晶粒径が30〜130 μm の範囲で高い磁束密度が得られている。
また、最終仕上焼鈍後の組織についても調査したところ、一次再結晶粒の平均粒径が上記の範囲で二次再結晶粒が発達していることが分かった。
【0027】
なお、インヒビターを使用する技術でも、一次再結晶粒径を適正範囲に制御する技術は幾つか開示されているが、インヒビターとしてAlN,SまたはSeを使用する特開平10−176221号公報に開示の技術では、一次粒径を5〜30μm の範囲に、また脱炭焼鈍完了後、二次再結晶完了までに窒化処理を行い、AlNをインヒビターとして形成させる特開平5−125445号公報に開示の技術では、一次再結晶粒径を18〜30μm の範囲に規定しており、本発明のインヒビターを使用しない場合の好適範囲に比べると、はるかに小さな粒径となっている。
【0028】
次に、発明者らは、再結晶焼鈍における雰囲気露点の影響について検討を進めた。
実験2
上述した実験1と同じ工程で冷間圧延まで行ったのち、水素:75%、窒素:25%の雰囲気中で 940℃, 30秒間の再結晶焼鈍を行い、その際、焼鈍雰囲気の露点を種々に変更した。その後、実験1と同様にして、最終仕上焼鈍を施した。
【0029】
図3に、再結晶焼鈍における雰囲気露点が製品板の磁束密度に及ぼす影響について調べた結果を示す。
同図から明らかなように、雰囲気露点が低いほど磁束密度が向上し、露点:50℃以下の通常の脱炭焼鈍が行われない範囲、特に露点が20℃以下の範囲で良好な結果が得られることが新たに知見された。
【0030】
さらに、発明者らは、低Cでインヒビターを使用しない高純度素材を用いた場合に、安定して良好な磁気特性が得られる冷延条件を見出すべく、以下のような実験を行った。
実験3
Si:3.32wt%およびMn:0.050 wt%を含み、かつ不純物元素についてはそれぞれC:40 ppm, Al:50 ppm, Se:6 ppm, S:13 ppm, O:10 ppm, N:5ppmまで低減した鋼スラブを、連続鋳造にて製造した。ついで、1100℃に加熱後、熱間圧延により 3.2mm厚の熱延板としたのち、水素雰囲気中で 950℃, 1分間の均熱処理を施してから、急冷した。ついで、中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延により0.22mmの最終板厚に仕上げた。この時、中間焼鈍時の板厚および中間焼鈍の均熱温度と時間を種々に変化させて、最終冷延前の粒径と最終冷延圧下率を変化させた。ついで、露点:−30℃の窒素雰囲気にて 950℃, 15秒間の再結晶焼鈍を行った。なお、再結晶粒の平均粒径はいずれも75μm であった。
その後、窒素雰囲気中にて10℃/hの速度で1020℃まで昇温する最終仕上焼鈍を行った。
【0031】
図4に、最終冷延前の平均結晶粒径および最終冷延圧下率が製品の磁束密度に及ぼす影響について調べた結果を示す。
同図によれば、最終冷延前の粒径が 200μm 以下で、かつ最終冷延の圧下率が70〜91%の範囲を満足する場合に、磁束密度B8 >1.82Tの方向性電磁鋼板として使用可能な良好な値が得られることが分かる。
なお、実験を行った範囲の全ての冷延前粒径および冷延圧下率で二次再結晶は完了しており、磁束密度の差異は二次再結晶組織中におけるゴス組織の集積度の違いによるものであった。
【0032】
インヒビター成分を含まない成分系において、素材の高純度化と一次再結晶粒径を適正範囲に制御することにより、二次再結晶が生じ、高い磁束密度が得られる理由は、必ずしも明確に解明されたわけではないが、発明者らは以下のように考えている。
本発明におけるインヒビターを含まない高純度材では、粒界の動き易さは粒界構造を反映したものであると考えられる。この点、不純物元素、中でも粒界とくに方位差角が20〜45°の高エネルギー粒界に優先的に偏析し易いSe,S,O,Nを多く含む場合には、高エネルギー粒界と他の粒界との移動速度差がなくなるものと考えられる。
素材の高純度化により、そのような不純物元素の影響を排除すれば、高エネルギー粒界の移動速度の優位性が生じて、ゴス方位粒の二次再結晶が可能になるものと推定される。また、高純度化により粒界移動が容易となるので、インヒビターを使用した技術の場合により小さい粒成長駆動力、すなわち大きな一次再結晶粒径で、高エネルギー粒界の選択的な移動が可能になるものと推定される。
しかしながら、一次再結晶の粒径が130 μm よりも大きい場合には、粒成長駆動力が不足するため二次再結晶不良になり、一方、粒径が30μm 未満と小さい場合には、粒成長の駆動力が大きすぎるために、個々の結晶粒の粒径差を駆動力として粒成長が進行してしまい、高エネルギー粒界の選択的移動が効果的に行われなくなるものと推定される。
【0033】
また、本発明は、インヒビターを使用しない成分系であるため、スラブの高温加熱を行う必要がないから、熱延板組織において以後の工程に引き継がれて結果的には二次再結晶を阻害する{100}<001>方位のバンド組織が発達しない。従って、インヒビターを使用する技術のように、インヒビターを固溶させるために行うスラブ高温加熱の際に発達するバンド組織を、鋼中C量を高めγ→α変態を利用して軽減する意味がない。
従って、素材成分におけるC量を低減できるのである。
【0034】
次に、再結晶焼鈍における雰囲気露点を低下させることによって磁束密度が向上する理由としては、非磁性である酸化層が減少すること、および表面酸化物が減少することにより、表面が平滑化することが主に考えられるが、仕上焼鈍時に表面酸化物が酸素の供給源として内部酸化を進行させて、板厚表層から発生すると考えられている二次再結晶核の形成に影響を与えていることなども考えられる。
【0035】
さらに、最終冷延前における平均結晶粒径を 200μm 以下とし、かつ最終冷延の圧下率を70〜91%の範囲に制限することによって、良好な磁束密度が得られる理由としては、最終冷延前粒径を小さく抑え、かつ冷延圧下率を高めにすることにより、再結晶焼鈍時に粒界からの再結晶核形成を促進させ、ゴス方位との方位差角が20〜45°の範囲にある{111}結晶粒を増加させ、最終仕上焼鈍時に方位差角が20〜45°である高エネルギー粒界の優先的移動によってゴス方位粒が二次再結晶するのに有利な集合組織が形成されることによるものと考えられる。
【0036】
また、本発明の技術は、次の点で表面エネルギーを利用する技術に対して優位性を持つ。
まず、粒界エネルギーを駆動力とした二次再結晶であるので、板厚の制限がない。例えば、板厚が1mm以上のものも二次再結晶可能であり、そのような板厚の厚い製品は鉄損値は劣化するものの、透磁率が高いので磁気シールド材として使用することができる。
次に、最終仕上焼鈍の雰囲気も真空や高価な不活性ガスを用いる必要がなく、最も通常的に用いられている安価な窒素を主体として行うことができる。また、表面酸化を効果的に抑制する目的で水素を混合または単独で使用してもよい。
【0037】
次に、本発明において、素材スラブの成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。
Si:2.0 〜8.0 wt%
Siは、電気抵抗を高め、鉄損を改善する有用元素であるが、含有量が 2.0wt%に満たないとその添加効果に乏しく、またγ変態を生じ、熱延組織が大きく変化する他、最終仕上焼鈍において変態し、良好な磁気特性を得ることができない。一方、Si量が 8.0wt%を超えると、製品の二次加工性が悪化し、さらに飽和磁束密度も低下するので、Si量は 2.0〜8.0 wt%の範囲に制限した。
【0038】
Mn:0.005 〜1.0 wt%
Mnは、熱間加工性を良好にするために必要な元素であるが、0.005 wt%未満ではその添加効果に乏しく、一方 1.0wt%を超えると磁束密度が低下するので、Mn量は 0.005〜1.0 wt%の範囲に制限した。
【0039】
C:0.010 wt%以下
本発明では、γ→α変態による熱延組織の微細化を図る必要がないので、積極的にCを含有させる必要はない。従って、C量は、磁気時効を起こさない範囲である 0.010wt%以下、望ましくは 50ppm以下に低減することが有利であり、この範囲であれば、再結晶焼鈍雰囲気における露点の低下を可能とし、平滑な表面を得て、良好な磁気特性を得ることができる。
【0040】
Al:100 ppm 未満、Se,S,OおよびN:30 ppm以下
これらの元素はいずれも、二次再結晶の発現を阻害し、しかも地鉄中に残存して鉄損を劣化させる有害元素である。そこで、Alは 100 ppm未満、またSe,S,OおびNはいずれも 30ppm以下(望ましくは20ppm 以下)に低減した。
【0041】
以上、必須成分および抑制成分について説明したが、本発明ではその他、以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
まず、磁束密度を向上させるためにNiを添加することができる。しかしながら、添加量が0.01wt%に満たないと磁気特性の向上量が小さく、一方1.50wt%を超えると{110}<001>組織の発達が不十分で満足いく磁気特性が得られないので、添加量は0.01〜1.50wt%とする。
また、鉄損を向上するためには、Sn:0.01〜0.50wt%、Sb:0.01〜0.50wt%、Cu:0.01〜0.50wt%、Mo:0.01〜0.50wt%、Cr:0.01〜1.50wt%を添加することができる。これらの元素はいずれも、上記の範囲より添加量が少ない場合には鉄損改善効果がなく、一方添加量が多い場合には{110}<001>組織が発達しなくなり鉄損の劣化を招く。
【0042】
上記の好適成分組成に調整した溶鋼から、通常、造塊法や連続鋳造法を用いてスラブを製造する。また、直接鋳造法を用いて 100mm以下の厚さの薄鋳片を直接製造してもよい。
スラブは、通常の方法で加熱して熱間圧延するが、鋳造後、加熱せずに直ちに熱延に供してもよい。また、薄鋳片の場合には、熱間圧延を行っても良いし、熱間圧延を省略してそのまま以後の工程に進めてもよい。
スラブ加熱温度は、素材成分にインヒビター成分を含まないので、熱間圧延が可能な最低温度の1100℃程度で十分である。
【0043】
ついで、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、必要に応じて中間焼鈍を挟む1回以上の冷延を施し、しかるのち再結晶焼鈍を行う。
熱延板焼鈍は、磁気特性の向上に有用である。また、中間焼鈍を冷間圧延の間に挟むことは、磁気特性の安定化に有用である。しかしながら、いずれも生産コストを上昇させることになるので、経済的観点および一次再結晶粒径を適正範囲にする必要から、熱延板焼鈍や中間焼鈍の取捨選択および焼鈍温度と時間が決定される。
なお、最終冷間圧延後あるいは再結晶焼鈍後に、浸珪法によってにSi量を増加させる技術を併用してもよい。
【0044】
本発明では、再結晶焼鈍後の平均結晶粒径を30〜130 μm とすることが二次再結晶を発現させるために不可欠の要件である。この範囲の結晶粒径とするためには、再結晶焼鈍を 800〜1100℃の温度範囲で行うのが有効である。特に 900℃以上で10s以内の短時間連続焼鈍は生産性を高める上で効果的である。
また、再結晶焼鈍雰囲気は非酸化性であれば良く、窒素、水素、Arやそれらの混合雰囲気などが使用できる。特に良好な磁束密度を得るためには、再結晶焼鈍の雰囲気露点を50℃以下、好ましくは20℃以下とすることが望ましい。
さらに、良好な磁束密度を得るためには、最終冷延前の平均結晶粒径を 200μm 以下で、かつ最終冷延圧下率を70%以上91%以下とすることが有効である。この範囲外では二次再結晶組織におけるゴス組織の集積度が低下して磁束密度が低下する。
【0045】
上記したような再結晶焼鈍後、必要に応じてMgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上焼鈍を施す。最終仕上焼鈍は、ほぼ二次再結晶完了温度が850 〜1050℃の範囲であるので、この温度まで任意の速度で昇温し、この温度範囲に20時間以上滞留させて行うことが望ましい。焼鈍雰囲気については非酸化性であれば良く、窒素、水素、Arやそれらの混合雰囲気などが使用できる。
【0046】
鋼板を積層して使用する場合には、鉄損を改善するために、鋼板表面に絶縁コーティングを施すことが有効である。この目的のためには2種類以上の被膜からなる多層膜であってもよい。また用途に応じて、樹脂等を混合させたコーティングを施してもよい。
【0047】
【実施例】
実施例1
C:10 ppm, Si:3.70wt%, Mn:0.20wt%, Al:40 ppm, Se:6 ppm, S:15ppm , N:7 ppmおよびO:9 ppmを含み、残部はFe および不可避的不純物の組成になる鋼スラブを、連続鋳造にて製造した。ついで、1120℃で 200分間のスラブ加熱後、熱間圧延により2.8 mm厚の熱延板としたのち、 950℃, 60秒の熱延板焼鈍を施し、ついで冷間圧延により0.35mmの最終板厚に仕上げた。
ついで、表1に示す条件で再結晶焼鈍を行ったのち、水素:75%、窒素:25%の乾燥雰囲気中にて15℃/hの昇温速度で1050℃まで昇温する方法で最終仕上焼鈍を施した。その後、重クロム酸アルミニウム、エマルジョン樹脂、エチレングリコールを混合したコーティング液を塗布し、 300℃で焼き付けて製品とした。
かくして得られた製品板の磁気特性および再結晶焼鈍後の平均粒径について測定した結果を、表1に併記する。
【0048】
【表1】
【0049】
同表から明らかなように、再結晶焼鈍後の平均結晶粒径が30〜130 μm の場合に良好な磁気時性が得られている。
【0050】
実施例2
表2に示す成分組成になる鋼スラブを、連続鋳造にて製造した。ついで、スラブを加熱することなく、連続鋳造後、直接熱間圧延により 4.0mmに仕上げ、 900℃, 30秒の熱延板焼鈍後、1回目の冷間圧延により 2.0mmの中間板厚とし、950℃, 30秒の中間焼鈍後、最終冷間圧延で0.23mmの最終板厚に仕上げた。ついで、水素:75%、窒素:25%で露点:−20℃の雰囲気中にて 950℃, 10秒間の再結晶焼鈍を施した。引き続き、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、乾燥水素雰囲気中にて5℃/hの昇温速度で1120℃まで昇温する方法で最終仕上焼鈍を行った。その後、燐酸塩を主体とする無機コーティング液を塗布し、 800℃で平坦化焼鈍を施して製品とした。
かくして得られた製品板の磁気特性および再結晶焼鈍後の平均粒径について測定した結果を、表3に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
表2,3から明らかなように、Cを 100 ppm以下、Alを 100 ppm未満、そしてSe,S,N,Oの含有量をそれぞれ 30ppm以下に低減した溶鋼を用いた場合に、磁束密度B8 >1.85Tの良好な磁気特性を有する製品が得られている。
【0054】
実施例3
C:44 ppm, Si:3.40wt%, Mn:0.15wt%, Al:20 ppm, Se:3 ppm, S:5ppm , N:3 ppmおよびO:7ppm を含み、残部はFe および不可避的不純物の組成になる鋼スラブを、連続鋳造にて製造した。ついで、1100℃で 300分間のスラブ加熱後、熱間圧延により3.0 mmの熱延板とした。
ついで、表4に示す条件で冷間圧延、中間焼鈍を行い、最終冷延前の平均粒径を測定したのち、最終冷間圧延により0.18mmの最終板厚に仕上げた。
その後、露点:0℃の水素雰囲気中にて 950℃, 10秒間の再結晶焼鈍を行い、再結晶焼鈍後の平均粒径を測定したのち、水素:75%、窒素:25%の乾燥雰囲気中にて15℃/ h の昇温速度で1050℃まで昇温する方法で最終仕上焼鈍を行った。
かくして得られた製品板の磁気特性、最終冷延前の平均粒径および再結晶焼鈍後の平均粒径について測定した結果を、表4に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
表4に示したとおり、最終冷延前の平均粒径が 200μm 以下で、かつ最終冷延圧下率が70〜91%の範囲のときに良好な磁気特性が得られている。
【0057】
実施例4
C:40 ppm, Si:3.35wt%, Mn:0.15wt%, Al:80 ppm, Se:3 ppm, S:10ppm , N:10 ppmおよびO:15ppmを含み、残部はFe および不可避的不純物の組成になる板厚:4.5mmの薄鋳片を、直接鋳造法で製造した。ついで、水素雰囲気中で 900℃, 1分間の熱延板焼鈍後、冷間圧延にて0.80mmの最終板厚に仕上げた。
ついで、表5に示す再結晶焼鈍を、露点:−30℃の水素雰囲気中で施した。その後、窒素:50%、水素:50%の乾燥雰囲気中にて1000℃まで5℃/hで昇温する方法で最終仕上焼鈍を施し、製品とした。
かくして得られた製品板の磁気特性および再結晶焼鈍後の平均粒径について測定した結果を、表5に併記する。
【0058】
【表5】
【0059】
表5に示したとおり、再結晶焼鈍後の平均結晶粒径が30〜130 μm の範囲で透磁率の高い製品が得られている。
【0060】
【発明の効果】
かくして、本発明によれば、Cを低減し、かつインヒビター成分を含有しない高純度素材を用いて、一次再結晶焼鈍後の平均結晶粒径30〜130 μm の範囲に制御することにより、最終仕上焼鈍時に良好に二次再結晶を生じさせることができ、その結果、簡略された工程での方向性電磁鋼板の製造が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 方向性電磁鋼板の一次再結晶組織における方位差角が20〜45°である粒界の存在頻度を示した図である。
【図2】 最終仕上焼鈍後の磁束密度B8 に及ぼす、再結晶焼鈍後の一次再結晶平均粒径Dの影響を示したグラフである。
【図3】 再結晶焼鈍における雰囲気露点が製品板の磁束密度に及ぼす影響を示したグラフである。
【図4】 最終冷延前の平均結晶粒径および最終冷延圧下率が製品板の磁束密度に及ぼす影響を示したグラフである。
Claims (4)
- Si:2.0〜8.0 wt%およびMn:0.005〜1.0 wt%を含有し、かつCを0.010 wt%以下、Alを 100 ppm未満、そしてSe,S,OおよびNをそれぞれ30 ppm以下に低減し、残部は Fe および不可避的不純物の組成になる鋼スラブを、熱間圧延し、必要に応じて熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施し、ついで再結晶焼鈍後、必要に応じて焼鈍分離剤を塗布してから、最終仕上焼鈍を施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
再結晶焼鈍後の平均結晶粒径を30〜130 μm の範囲に制御することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。 - 請求項1において、鋼スラブが、さらにNi:0.01〜1.50wt%、Sn:0.01〜0.50wt%、Sb:0.01〜0.50wt%、Cu:0.01〜0.50wt%、Mo:0.01〜0.50wt%およびCr:0.01〜1.50wt%のうちから選んだ少なくとも一種を含有する組成になることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
- 請求項1または2において、再結晶焼鈍を、焼鈍温度:800 〜1000℃、雰囲気露点:50℃以下の条件下で行うことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
- 請求項1,2または3において、最終冷延前の平均結晶粒径を200μm 以下とし、かつ最終冷延の圧下率を70%以上、91%以下とすることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
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