以下、本発明に係る塗工紙について、原紙が単層から成る場合を例に詳細に説明する。なお、本発明は必ずしも以下の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲内において、その構成を適宜変更できることはいうまでもない。
本発明に係る塗工紙(以下、「本塗工紙」と言う。)は、原紙の紙層が単層で構成されており、その表面及び裏面(表裏面)に、下塗り塗工層用塗工剤を塗工し、乾燥して下塗り塗工層を形成し、この下塗り塗工層の表面(上面)に、上塗り塗工層用塗工剤を塗工し、乾燥して上塗り塗工層を形成し、その後、上塗り塗工層の表面にカレンダー処理が施されている。
本塗工紙の塗工層は、このように下塗り塗工層と、上塗り塗工層との2層の塗工層を有する。これにより、顔料、接着剤、さらには各層の塗工剤の塗工量を細かく調整することが可能になるので、塗工層表面に適度な平坦性を得ることができ、また印刷インクの細かな浸透制御を行うことが可能になる。従って、本塗工紙は、低い白紙光沢度を有しながら、印刷後は高い印刷光沢度を得ることができ、本発明の効果を好適に発揮することができる。
本塗工紙の下塗り塗工層及び上塗り塗工層に用いられる塗工剤(以下、単に「塗工剤」と言う。)は、顔料及び接着剤を主成分とするものである。また、顔料の主成分として、炭酸カルシウムが配合され、さらにまた再生粒子が適宜配合される。
この再生粒子は、脱墨フロスを主原料とし、脱水工程、乾燥工程、焼成工程、粉砕工程を経て得られたカルシウム、ケイ素、及びアルミニウムを、酸化物換算で30〜82:9〜35:9〜35の質量割合で含有し、かつ、このカルシウム、ケイ素、及びアルミニウムの合計含有割合が90質量%以上である。このような再生粒子を配合すると、本塗工紙の嵩高性を向上させることができると共に、製造コストを低減させることができる。
以下、このような再生粒子について製造過程と共に詳説する。
本塗工紙に用いられる塗工剤に、顔料として添加される再生粒子は、脱墨フロスを主原料としている。
脱墨フロスとは、古紙を脱墨処理し、古紙パルプを製造する古紙処理工程における脱墨フロスであり、特に脱墨を行うフローテーション工程で生じる脱墨フロスを指す。脱墨フロスを主原料とするとは、この脱墨フロスを固形分で50%以上含有する原料を指す。
古紙パルプ製造工程では、安定した品質の古紙パルプを連続的に生産する目的から、古紙の選定、選別を行い、一定品質の古紙のみが使用される。そのため、古紙パルプ製造工程に持ち込まれる無機物の種類やその比率、量が基本的に一定になる。また、無機粒子の製造方法において未燃物の変動要因となるビニールやフィルムなどのプラスチック類や、砂、金属等の異物が古紙中に含まれていた場合においても、これらの異物は脱墨フロスを得る脱墨工程に至る前段階のパルパー、スクリーン、あるいはクリーナー等で除去することができる。従って、脱墨フロスは、工場排水工程や製紙原料調整工程等、他の工程で発生するスラッジと比べ、極めて安定した品質の無機粒子を製造するための原料となる。
なお、本塗工紙に添加される再生粒子は、この脱墨フロスを主原料とする限り、抄紙工程における製紙スラッジ等、他の製紙スラッジを適宜併用することができる。
次に、この脱墨フロスを脱水工程において脱水する。脱墨フロスの脱水は公知の脱水手段を適宜用いることができるが、脱水を多段工程で行うことが好ましい。すなわち、まず脱墨フロスは、例えばロータリースクリーンによって、脱墨フロスから水を分離して、水分率が95〜98%となるまで脱水される。その後、ロータリースクリーンで脱水された脱墨フロスを、例えばスクリュープレスに送り、さらに水分率が40〜70%となるまで脱水する。このように、脱墨フロスの脱水を多段工程で行い急激な脱水を避けると、無機物の流出が抑制できるので、脱墨フロスのフロックが硬くなりすぎるおそれがなくなる。
なお、脱水工程は、再生粒子の製造工程に隣接して設けることが、生産効率の面で好ましいが、古紙パルプの製造工程に隣接して脱水工程を設け、予め脱水を行った脱墨フロスを移送しても良い。
また、脱水処理においては、脱墨フロスを凝集させる凝集剤等の脱水効率を向上させる助剤を添加しても良いが、この助剤には、鉄分を含まないものを使用することが好ましい。鉄分が混入すると、鉄分が酸化してしまい、再生粒子の白色度が低下してしまう。
脱墨フロスを脱水して得られた脱水物は、トラックやベルトコンベア等の移送手段によって、脱水工程から定量供給機まで移送され、この定量供給機から乾燥工程に供給される。
この乾燥工程における乾燥手段は、脱水物が供給される乾燥容器と、この乾燥容器の底部に具備され、供給された脱水物をかきあげる一対のロールと、この一対のロール相互間から上方に熱風を吹き上げる熱風吹上手段とから主に構成されている。また、この熱風吹上手段は、乾燥容器の底部に給送流路が接続されており、この給送流路を通して、乾燥容器内に熱風が吹き込まれるように構成されている。
すなわち、乾燥手段は、脱水物を、一対のロールという有形的な手段によって、強くかつ大まかにほぐし、これに加えて熱風という無形的な手段によって、弱くかつ精細にほぐすことができるので、大きい・小さい、硬い・柔らかい等さまざまな性質を有する脱水物の水分率の制御及び粒揃えを安定的に行うことができる。従って、表面と内面との水分率の差が小さく均一であり、かつ粒が揃った乾燥物を得ることができる。
特に、乾燥容器内に供給される脱水物の水分率が40〜70%である場合、熱風吹上手段の熱風の温度を、100〜200℃、好ましくは120〜180℃、より好ましくは130〜170℃に設定する。脱水物の水分率が40〜70%の場合は、熱風の温度が100℃であっても十分に乾燥させることができる。他方、熱風の温度は200℃以下とすることが好ましい。熱風の温度が200℃を超えると、脱水物の乾燥速度が速いため、大きい・小さい、硬い・柔らかい等さまざまな性質を有する脱水物の粒揃えを十分に行うことができず、また乾燥物の表面と内部との水分率の差を少なく均一にすることが困難になる。
乾燥工程では、脱水物を、水分率が2〜20%、好ましくは3〜15%、より好ましくは3〜10%となるまで乾燥して乾燥物を生成する。焼成工程前の原料である乾燥物の水分率を2〜20%にすることにより、後工程の焼成工程において、過焼するという問題が生じにくくなる。乾燥物の水分率が2%未満となるまで乾燥させると、焼成工程において過焼されてしまう。一方、乾燥物の水分率が20%以下となるまで乾燥しないと、焼成を確実に行うことが困難になる。
乾燥物は、粒子径355〜2000μmのものが70質量%以上、好ましくは粒子径355〜2000μmのものが75質量%以上、より好ましくは粒子径355〜2000μmのものが80質量%以上となるように調整され、粒が揃えられる。粒子径355〜2000μmのものが70質量%以上となるように乾燥物を調整する、つまり小径な粒子の乾燥物を除去すると、焼成工程において、部分的な過焼を防止し、焼成を均一なものとすることができる。従って、最終的に得られる再生粒子の品質を均一にすることができる。
さらに、分級工程を乾燥工程の後に設けると、小径な粒子の乾燥物を確実に除去することができ、また処理効率も向上させることができるので好ましい。
乾燥工程で得られた乾燥物は、途中に設けられた排風ファンで勢いを増しながら移送流路を通って、次工程である焼成工程に移送される。
焼成工程は、第1焼成段階である燃焼炉と、第2焼成段階である燃焼焼成炉とにより主に構成されている。なお、焼成炉の形態は、特に限定されるものではなく、公知の種々の形態とすることができるが、サイクロン式であることが好ましい。サイクロン式であると、後述するように粒子の微細化を抑制することで未燃率を均一かつ確実に調節することができる。従って、以下では焼成炉の形態がサイクロン式である場合を例に説明する。
第1焼成段階である焼成炉では、乾燥物を、サイクロンの底部まで旋回落下させることで乾燥物の粒子の微細化を抑制し、また落下させる過程で焼成し未燃分を調整して、第1焼成物を生成する。
具体的には、焼成炉では、未燃率が5〜30質量%、好ましくは8〜25質量%、より好ましくは10〜20質量%となるまで焼成が行われて第1焼成物を生成する。第1焼成物の未燃率が5質量%未満となるまで焼成が行われると、第1焼成物の粒子表面の過焼が生じ表面が硬くなるとともに、内部の酸素不足が生じ、再生粒子の白色度が低下してしまう。一方、第1焼成物の未燃率が30質量%以下となるまで焼成が行われないと、第2焼成段階の後においても未燃分が残り、さらにはこの未燃分が残ることを防止するために焼成物の粒子表面が過焼するまで燃焼焼成してしまい、無機粒子表面が硬くなることがある。
第1焼成段階における焼成温度は510〜750℃である。具体的には、焼成炉上端部の温度が510〜750℃、燃焼焼成炉内の温度が焼成炉上端部の温度より低い500〜700℃、好ましくは焼成炉上端部の温度が550〜730℃、燃焼焼成炉内の温度が510〜680℃、より好ましくは焼成炉上端部の温度が580〜700℃、燃焼焼成炉内の温度が550〜670℃、さらに好ましくは、焼成炉上端部の温度が600〜680℃、燃焼焼成炉内の温度が580〜660℃である。このように焼成炉上端部の温度が510〜750℃、燃焼焼成炉内の温度が焼成炉上端部の温度より低い500〜700℃で焼成されると、再生粒子が製紙用填料や顔料として好適なものとなる。また、燃焼焼成炉内の温度を焼成炉上端部の温度より10〜50℃低くすると、再生粒子表面の過焼を防止しながら、未燃物を燃焼させることができる。
第1焼成段階の焼成炉で得られた第1焼成物は、第2焼成段階である燃焼焼成炉に移送され、燃焼焼成されて焼成物を生成する。
燃焼焼成炉には、ロータリーキルン炉、流動床炉、ストーカー炉、サイクロン炉、半乾留・負圧燃焼式炉等、公知の装置を用いることができる。これらの中でも特に、ロータリーキルン炉が、温度変化が少ない環境下で過大な物理的圧力を掛けることなく攪拌しながら満遍なく燃焼させることができるので好ましい。
燃焼工程で得られた燃焼物は粉砕工程に移送され、さらに微細化されて、本塗工紙の塗工剤に用いられる再生粒子が得られる。
すなわち、焼成工程で得られた燃焼物は、その後粉砕工程に移送され、ジェットミルや高速回転式ミル等の乾式粉砕機、あるいは、アトライター、サンドグラインダー、ボールミル等の湿式粉砕機を用いて粉砕され、適宜必要な粒径に微細化され、また均一化されて、本塗工紙の塗工剤に用いられる再生粒子となる。
粉砕工程に移送される燃焼物は、粉砕工程の前工程である乾燥工程や、焼成工程で、既に40μm以下の粒子が90%以上となるように処理されていることが好ましい。これにより、従来一般的に行われている乾式粉砕によって粗大粒子をある程度粉砕した後、湿式粉砕によって微粒子化するという複数段の粉砕処理を行う必要がなくなる。すなわち、湿式粉砕による1段の粉砕処理のみ行えばよくなるので、製造コストを低減させることができる。また、これによりコールターカウンター法による粒度分布の微分曲線における平均粒子径のピーク高さを30%以上とすることができる。
なお、本塗工紙の塗工剤の顔料として用いられる再生粒子の最適な粒径(顔料径)は、抄紙工程で内添用として用いられる場合は、一次粒子が平均粒子径0.01〜0.1μmであり、この一次粒子が凝集した二次粒子が平均粒子径0.1〜10μmであることが好ましい。また、再生粒子の吸油度は、吸油量が30〜100ml/100gであることが好ましい。
本塗工紙の塗工剤に添加される再生粒子は、上述したように脱水工程、乾燥工程、焼成工程、粉砕工程を経て得られるが、この他、脱墨フロスの凝集工程、造粒工程、あるいは各工程間に分級工程等の付帯工程をさらに設けても良い。
これらの中でも特に、再生粒子の粒度を、各工程で均一に揃えるための分級工程を設けることが好ましい。分級工程を設けることにより、粗大粒子や微小粒子を前工程にフィードバックすることができ、再生粒子の品質の安定化を図ることができる。
また、乾燥工程の前段階に造粒工程を設けて、脱水処理を行った脱墨フロスを造粒することが好ましい。造粒工程では、回転式、攪拌式、押し出し式等の公知の種々の造粒設備を使用することができる。更には、造粒物の粒度を均一に揃えるために分級工程をさらに設けても良い。
また、各工程の製造設備において、再生粒子以外の異物を除去することが好ましい。特に再生粒子の白色度が低下してしまうため、鉄分の混入を防止し、選択的に取り除くことが好ましい。すなわち、各工程を鉄以外の素材で設計又はライニングし、磨滅等により鉄分が系内に混入することを防止するとともに、さらに、乾燥・分級設備内等に磁石等の高磁性体を設置し選択的に鉄分を除去することが好ましい。
さらにまた、各工程の製造設備に各種センサーを設け、被処理物や設備の状態、処理速度のコントロール等を行うことが望ましい。
以上のように、脱墨フロスを主原料とし、少なくとも脱水工程、乾燥工程、焼成工程、及び粉砕工程を経て得られた再生粒子は、カルシウム、ケイ素、及びアルミニウムを酸化物換算で30〜82:9〜35:9〜35、好ましくは40〜82:9〜30:9〜30、より好ましくは60〜82:9〜20:9〜20の質量割合で含有し、かつ、このカルシウム、ケイ素、及びアルミニウムの合計含有割合が90質量%以上となるように調整されている。これにより、本塗工紙の塗工剤に顔料として用いた場合、本塗工紙を嵩高にすることができ、また製造コストも低減させることができる。
このように再生粒子のカルシウム、ケイ素及びアルミニウムの酸化物換算での質量割合の調整は、脱墨フロスにおける原料構成を調整して行うことが本筋である。すなわち、脱墨フロス中のカルシウム、ケイ素及びアルミニウムを、酸化物換算で30〜82:9〜35:9〜35の質量割合に調整する。これにより、無機粒子凝集体の細孔容積を0.15〜0.60cc/g、細孔表面積を10〜25m2/g、細孔半径を300〜1000オングストロームとすることができる。
しかしながら、乾燥工程、焼成工程、分級工程等において、出所が明確な塗工フロスや調整工程フロス等をスプレー等でいずれかの工程内に含有させる手段や、焼却炉スクラバー石灰を含有させる手段等により調整することも可能である。すなわち、カルシウムの調整には、例えば中性抄紙系の排水スラッジや、塗工紙製造工程の排水スラッジ等を用いることができる。また、ケイ素の調整には、例えば不透明度向上剤として多量添加されている新聞用紙製造系の排水スラッジ等を用いることができる。さらにまた、アルミニウムの調整には、例えば酸性抄紙系等の硫酸バンドが使用されている酸性抄紙系の排水スラッジや、タルクの使用量が多い上質紙抄造工程の排水スラッジ等を用いることができる。
上述した再生粒子は、粉砕工程を経ることで、そのまま製紙用填料として使用することができるが、さらにこの再生粒子に対し、シリカを析出させて定着させることで、再生粒子としての機能をより高めることができる。すなわち、再生粒子表面に、シリカを析出させて定着させることで、再生粒子の白色度、不透明性、印刷不透明度、吸油度、嵩高効果を効果的に発現させることができる。
以下、再生粒子にシリカを析出させて定着させるシリカ析出工程について説明する。
シリカを析出させる好適な方策としては、再生粒子を珪酸アルカリ水溶液に添加・分散してスラリーを調製した後、加熱攪拌して液温を70〜100℃に保持しながら、より好ましくは密閉容器内で所定の圧力に保持しながら、酸を添加してシリカゾルを生成させる。これにより、再生粒子表面にシリカを析出させることができる。
なお、ここで使用する珪酸アルカリ溶液は特に限定されるものではないので種々のものを使用することができるが、珪酸ナトリウム溶液(3号水ガラス)が入手性の点で望ましい。また、珪酸アルカリ溶液の濃度は水溶液中の珪酸分(SiO2換算)で3〜10質量%が好適である。10質量%を超えると、シリカゾルではなくホワイトカーボンが生成されてしまうため、再生粒子の多孔性を阻害し、再生粒子の不透明性、吸油度の向上効果が低くなる。一方、3質量%未満ではシリカ成分が低下してしまうため、再生粒子表面にシリカが析出しにくくなってしまう。
珪酸ナトリウム溶液に希硫酸などの酸を添加することにより生成される数nm程度のシリカゾル微粒子を、多孔性を有する無機微粒子の表面全体を被覆するように付着させ、シリカゾルの結晶成長にともない、無機微粒子表面上のシリカゾル微粒子と再生粒子に包含されるケイ素やカルシウム、アルミニウム間で結合が生じ、再生粒子表面にシリカが析出される。
すなわち、再生粒子の表面に析出されるシリカは、珪酸ナトリウム(水ガラス)を原料として、硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸の希釈液と高温下で反応させ、加水分解反応と珪酸の重合化により得られる粒子径10〜20nmのシリカゾル粒子である。
なお、最終反応液のpHは中性〜弱アルカリ性の範囲、すなわちpHが8〜11の範囲が好ましい。pHが7未満の酸性条件になるまで酸が添加されると、シリカゾルではなくホワイトカーボンが生成されてしまう。
シリカのより好ましい調整には、再生粒子を硅酸アルカリ水溶液中に分散後、該分散液に鉱酸を添加してpH7.0〜9.0の範囲に中和することで、再生粒子表面に硅酸由来のシリカを析出させることで調整可能である。
このようにカルシウム、ケイ素、及びアルミニウムを酸化物換算で30〜82:9〜35:9〜35の質量割合で含有し、かつ、このカルシウム、ケイ素、及びアルミニウムの合計含有割合が90質量%以上である再生粒子の表面に、さらにシリカを析出させて定着させることにより、再生粒子の吸油度や、不透明性をより向上させることができる。
このようにして得られた再生粒子は、公知のいずれの場所で添加しても良いが、原料配合チェストからインレットの間で添加することが特に好ましい。この間に添加することにより、再生粒子が分散しやすくなるため、繊維への定着性がよくなり、その結果、填料の歩留りが向上する。さらに、再生粒子を、できる限りインレットの近傍工程で添加すると、再生粒子をより均一に分散させ、繊維への定着をより向上させることができるのでより好ましい。
また、このような再生粒子は、繊維間の結合を阻害しないので、原紙の剛度が低下することもない。
しかしながら、再生粒子を含む顔料の添加率が40質量%を越えると、紙力が低下する。このため、再生粒子が塗工紙の原紙中に紙灰分として1〜30質量%、より好ましくは5〜25質量%含まれるように再生粒子を含む顔料を添加することが好ましい。
本塗工紙の下塗り塗工層に用いられる塗工剤(以下、「下塗り塗工層用塗工剤」と言う。)には、全顔料100重量部に対し、固形分換算で、重質炭酸カルシウム又は軽質炭酸カルシウムが60〜100重量部、上述した再生粒子が0〜40重量部配合されている。重質炭酸カルシウムを配合すると、白紙光沢度を高くすることができる。一方、軽質炭酸カルシウムを配合すると、印刷光沢度を高くすることができる。また、再生粒子を配合することによって、印刷光沢度を高くすることができる。従って、後述する上塗り塗工層を形成した後の、本塗工紙の白紙光沢度及び印刷光沢度のバランスを考慮して、下塗り塗工層の白紙光沢度及び印刷光沢度を細かく調整することができる。
重質炭酸カルシウム又は軽質炭酸カルシウムの配合量が、全顔料100重量部に対し、60重量部未満であると、白紙光沢度は低くなるが、印刷光沢度も低くなってしまい、一方、全量重質炭酸カルシウムとした場合は、印刷光沢度は高くなるが、白紙光沢度も高くなってしまう。従って、本塗工紙の白紙光沢度を所望の範囲である30〜50%とし、また白紙光沢度と印刷光沢度との差(以下、「ΔG」と省略する。)を所望とする30%以上とすることができない。
また、再生粒子の配合量が40重量部を超えると、印刷光沢度を高くすることはできるが、白紙光沢度も高くなり、白紙光沢度を30〜50%にすることができない。なお、後述する上塗り塗工層により、本塗工紙の所望とする印刷光沢度を得て、ΔGを30%以上にすることができれば、下塗り塗工層用塗工剤は、再生粒子の配合量を0重量部とする、すなわち再生粒子を配合しなくても良い。
次に、上塗り塗工層に用いられる塗工剤(以下、「上塗り塗工層用塗工剤」と言う。)について説明する。
上塗り塗工層用塗工剤には、全顔料100重量部に対し、固形分換算で、重質炭酸カルシウムが10〜60重量部、クレーが30〜65重量部、及び再生粒子が10〜40重量部、さらに好適には中空又は密実の有機顔料が3〜10重量部配合されている。
重質炭酸カルシウムを配合すると、上塗り塗工層の印刷光沢度を高くすることができる。また、再生粒子を配合すると、本塗工紙の印刷光沢度を高くすることができる。さらにまた、中空又は密実の有機顔料を配合すると、本塗工紙の白紙光沢度を向上させることができる。
上塗り塗工層用塗工剤中への重質炭酸カルシウムの配合量が、全顔料100重量部に対して10重量部未満であると、その配合の効果が認められにくく、印刷光沢度を高くすることができない。一方、60重量部を超えると、印刷光沢度を高くすることはできるが、同時に、白紙光沢度も高くなってしまい、白紙光沢度を本願の所望とする範囲である30〜50%にすることができない。
また、上塗り塗工層用塗工剤中への再生粒子の配合量が、全顔料100重量部に対し、10重量部未満であると、印刷光沢度を高くすることができず、また、本塗工紙の平滑度が低くなってしまう。一方、40重量部を超えると、印刷光沢度を高くすることはできるが、白紙光沢度も高くなってしまう。
さらにまた、上塗り塗工層用塗工剤中に、中空又は密実の有機顔料を配合する場合、有機顔料の配合量が3重量部未満であると、上塗り塗工層にポーラス性を付与することができず、本塗工紙を嵩高にすることができない。一方、10重量部を超えると、上塗り塗工層用塗工剤の固形分を低くしなければならず、塗工層の表面が凹凸になり、本塗工紙の表面を平坦にすることができない。また、塗工層の強度も低下するため、本塗工紙の強度も低下する。
なお、中空の有機顔料としては、スチレン・アクリル共重合体が好ましく、具体的には、例えばローム・アンド・ハース社製の「ローペイク」(登録商標)HP−1055、HP−91、OP−84J、HP−433J等の中空孔ポリマー粒子の形態で提供されているもの等、公知の種々のものを用いることができる。また、密実の有機顔料としては、V−1004(日本ゼオン製)が好ましいが、この他、公知の種々のものを用いることができる。本発明の実施例においては、ローム・アンド・ハース社製の「ローペイク」(登録商標)HP−1055を使用した。
このように、上塗り塗工層用塗工剤は、有機顔料を配合する場合であっても、有機顔料を全顔料100重量部に対し、3〜10重量部と少量しか配合せず、無機顔料を主剤としている。しかしながら、上塗り塗工層用塗工剤に、再生粒子を全顔料100重量部に対し、10〜40重量部配合することによって、白紙光沢度を低くし、印刷光沢度を高くすることができ、かつ、塗工層の表面のPPS平滑度を、本塗工紙が所望とする0.7〜1.0μmに調整することができる。
なお、塗工剤には、顔料として、上述した炭酸カルシウム、再生粒子、及び中空又は密実の有機顔料の他、用途やニーズ等に応じて、例えばクレー、サチンホワイト、二酸化チタン、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、硫酸バリウム、水酸化カルシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、ベントナイト、セリサイト、合成シリカ、タルク、活性白土等の公知の種々の無機顔料、あるいはポリスチレン樹脂、尿素ホルムアルデヒド樹脂等の合成高分子微粒子等の有機顔料を1種、又は2種以上配合しても良い。
また、塗工剤には、接着剤として、例えば、カゼイン、合成蛋白、大豆蛋白等の蛋白質類、スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス、メチルメタクリレート・ブタジエン共重合体ラテックス、スチレン・メチルメタクリレート・ブタジエン共重合体ラテックス等の共役ジエン系共重合体ラテックス、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの重合体又は共重合体ラテックス等のアクリル系ラテックス、エチレン・酢酸ビニール重合体ラテックス等のビニール系重合体ラテックス、これらに各種重合体ラテックスをカルボキシル基等の官能基含有単量体で変性したアルカリ部分溶解性又は非溶解性のラテックス、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、酸化澱粉、陽性化澱粉、ウレタンのエステル化澱粉、デキストリン等の澱粉類等の公知の種々の接着剤を使用することができる。また、これらの接着剤は単独で使用しても良いが、2種以上を混合して使用しても良い。
これらの接着剤の中でも特に、本発明においては高温での黄変化の原因の一つである接着剤のアクリロニトリル含有量を0〜10%と少なくすることによって、高温のオンマシンソフトカレンダー処理を行っても黄変化による変色を少なくでき、また接着剤のガラス転移温度(Tg)が0〜10℃となるようにブタジエンの含有量を調整することで、全顔料に対する接着剤の含有量を8〜15%と従来に比して10%程度少なくしても必要な接着強度が確保されるとともに、接着剤の含有量が少なくてすむことで、耐べたつき性が悪化するようなこともなく、ロール汚れなどの不具合の発生も抑制することができる。
また、塗工剤には、顔料及び接着剤の他、分散剤、潤滑剤、増粘剤、消泡剤、耐水化剤、着色剤などの公知の種々の助剤を使用目的やニーズに応じて適宜配合することができる。
上述した下塗り塗工層用塗工剤及び上塗り塗工層用塗工剤を原紙の表裏面に塗工して下塗り塗工層及び上塗り塗工層が形成された本塗工紙は、白紙光沢度が30〜50%であり、また白紙光沢度と印刷光沢度との差であるΔGが30%以上であり、さらにまた、写像性試験機による写像性数値が10〜35%である。
これにより、白紙光沢度が30〜50%となり、通常のマット調の塗工紙よりも高い白紙光沢度を有しながらも、マット調の塗工紙が有する艶消しの風合いを得ることができる。これにより、本塗工紙は、高級感のある落ち着いた印象を使用者に与えることができる。
また、本塗工紙は、高い印刷光沢を得ることができるので、ΔGを30%以上とすることができる。これにより、本塗工紙は、白紙光沢と印刷光沢とのバランスが最良のものとなり、コントラストに優れるので、精細な印刷(細かな文字や、画線部等の印刷)を施しても網点の欠落が少なくなり、高級感のある落ち着いた印刷面を有するようになる。
なお、以下、「白紙光沢度」とは、JIS−P8142に基づく75度鏡面光沢度試験方法により測定した光沢度をいい、また「印刷光沢度」とは、本塗工紙にRI印刷適性試験機((株)明製作所製)を用いて1回印刷を行った後のJIS−P8142に基づく75度鏡面光沢度試験方法により測定した光沢度をいう。
すなわち、白紙光沢度が30%以上であると、印刷された文字等が読み易くなるとともに、適度な平坦性を与えることができ、また高級感のある落ち着いた風合いの印象を使用者に与えることができる。さらに、印刷光沢度を十分向上させることができるため、白紙光沢、印刷光沢のバランスが最良のものとなる。
なお、白紙光沢度が30%未満であると、印刷光沢度を十分に向上させることができない。また、白紙光沢度を低く抑えるために、塗工層表面にカレンダー等の平坦化処理を行わなかったり、行っても低いニップ圧で処理するに留めたり、あるいは塗工層に配合される無機顔料の粒径を大きくする等の手段を採る。このため、印刷ムラが生じたり、印刷後の印刷画像の鮮明性が低下するだけでなく、インクの乾燥ムラも生じるため、印刷作業性が低下してしまう。
一方、白紙光沢度が50%を超えると、光沢塗工紙に印刷を行った場合に近い、コントラストが大きく眼精疲労を引き起こすような印刷画像、すなわちギラギラした印刷画像となってしまい、高級感のある落ち着いた印象を使用者に与えることができなくなる。さらに、手触り感もベタついたものになってしまう。
また、本塗工紙は、写像性試験機による写像性数値が10〜35%である。すなわち、本塗工紙は、写像性を低くすることができるため、高級感のある落ち着いた風合いを有する。このように白紙光沢度を写像性数値によっても調整することで、75度鏡面光沢度では評価できなかった白紙段階では低い光沢度であり、艶消しの落ち着いた風合いを有しながらも、印刷後は高い印刷光沢度を得ることができるので、コントラストに優れ、精細な印刷を施しても網点の欠落が少なくなる。
ここで写像性とは、従来の光沢計では測定不可能な、目視で見た際の光沢感に相関のある指標であり、塗膜表面に物体が映った時、その物体の像がどの程度鮮明に、また歪みなく映し出されるかの指標として、特に自動車ボディー塗装の美観要素を決定づける重要な特性であり、近年発展されてきた技術である。なお、本発明者らは、写像性試験機による写像性の評価が高光沢な塗工紙の評価だけでなく、本塗工紙のように白紙光沢度が低い塗工紙であっても、印刷後の印刷画像の鮮明度合いの指標として有効であることを見出している。
この写像性数値が10%未満であると、印刷後の印刷画像の鮮明性が悪く、印刷画像が「ボケ」状態になるだけでなく、印刷インクの着肉ムラや乾燥ムラが顕著になり、極めて低い印字品質になってしまう。一方、写像性数値が35%を超えると、印刷後の印刷画像の鮮明性は向上するものの、光沢塗工紙に印刷を行った場合に近い、眼精疲労を引き起こすような印刷画像となってしまう。
この写像性数値の測定方法は、JIS−H8686で規定されており、光学的装置を使用し、光学くしを通して得られた光量の波形から、写像性数値を像鮮明度として求める。すなわち、光学くしを移動させて、記録紙上の最高波形(M)及び最低波形(m)を読み取り、次の(式1)により像鮮明度を求める。なお、光学くしは暗部明部の比が1:1で、その幅は0.125mm、0.5mm、1.0mm、及び2.0mmの各種のものがある。本発明においては、これらの光学くしの幅の中でも、測定値差異が出易い2.0mm幅の光学くしにおける測定値によって評価した。
(式1)
C=(M−m)/(M+m)×100
ここで、C:像鮮明度(%)、M:最高波形、m:最低波形である。
像鮮明度Cは、値が大きければ写像性が良いことを示し、値が小さければ印刷画像の「ボケ」や「歪み」が大きいことを示す。また、本発明者の知見では、光沢計で測定した光沢値が同じ値であっても、この像鮮明度の値が大きければ、目視による見た目の光沢感が高くなり、文字部と画線部とをより明確に際立たせることができることが分かっている。さらにまた、塗工紙表面の平滑度が高いだけでなく、表面のうねり、粗さなど多種の要因の絡み合いで写像性の効果差が生じている。
写像性は、その文字の如く、塗工紙表面の印刷情報をボケることなく表現する必要があるため、一般に、扁平率の高い顔料を使用することによって写像性を調整している。しかしながら、本発明で好適に使用される再生顔料凝集体は、極めて微細な微粒子が柔軟な隗を構成している。このため、再生顔料凝集体を含有した塗工剤を用いて塗工層を形成し、製紙工程で通常用いられている適度な平坦化処理(カレンダー処理)を施すだけで、扁平率の高い顔料を使用した場合と同等ないしそれ以上の塗工層表面平坦性効果を発揮させることができる。すなわち、本発明における写像性の向上、調整を平坦化処理にて行うことが可能になる。
本塗工紙は、原紙の表裏面に、上述した下塗り塗工層用塗工剤を塗工して下塗り塗工層を形成し、また、上述した上塗り塗工層用塗工剤を、下塗り塗工層の表面に塗工して上塗り塗工層を形成し、その後、平滑化処理を施して形成される。
本塗工紙の製造方法について簡単に説明する。まず、下塗り塗工層用塗工剤が、例えばブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、ダイスロットコーター、グラビアコーター、チャンプレックスコーター、サイズプレスコーター、ビルブレードコーターなどの一般に使用されている種々の塗工装置を用いて、原紙の表裏面に塗工され、下塗り塗工層用の湿潤塗工層が形成される。
下塗り塗工層用の湿潤塗工層は、例えば蒸気加熱、熱風加熱、ガスヒーター加熱、高周波加熱、電気ヒーター加熱、赤外線ヒーター加熱、レーザー加熱、電子線加熱等の公知の種々の加熱方式によって乾燥される。なお、乾燥条件については、使用する薬品等に応じて適宜調整する必要がある。
下塗り塗工層用の湿潤塗工層を乾燥して下塗り塗工層を形成した後、上塗り塗工層用塗工剤が、上述した下塗り塗工層用塗工剤の塗工に用いられる塗工装置と同様に、例えばブレードコーター、エアナイフコーターなどの一般に使用されている種々の塗工装置を用いて、下塗り塗工層の表面に塗工され、上塗り塗工層用の湿潤塗工層が形成される。
上塗り塗工層用の湿潤塗工層は、上述した下塗り塗工層用の湿潤塗工層に用いられる加熱方式と同様に、例えば、蒸気加熱、熱風加熱等の公知の種々の加熱方式によって乾燥され、また、乾燥条件についても、使用する薬品等に応じて適宜調整する必要がある。
上塗り塗工層用の湿潤塗工層を乾燥して上塗り塗工層を形成した後、塗工紙の印刷光沢度向上、及び平滑性向上のため、上塗り塗工層の表面にカレンダー処理を施して、上塗り塗工層及び下塗り塗工層を合わせた、塗工層全体の厚みの平均が5〜12μm、本塗工紙の全体の緊度が0.8〜1.2g/cm3、またPPS平滑度が0.7〜1.0μmとなるように調整する。
このカレンダー処理は、弾性ロールに合成樹脂ロールを用いたソフトニップカレンダーや、弾性ロールにコットンロールを用いたスーパーカレンダー、この他、グロスカレンダー等の通常使用される種々のカレンダー処理装置を使用することができる。これらの中でも特に、ソフトニップカレンダーが、100〜200℃の高温領域でのカレンダー処理が可能であり、本塗工紙をより嵩高に仕上げることができるため好ましい。すなわち、ソフトニップカレンダーは、合成樹脂ロール表面の耐熱温度をコットンロールに比べて高く設定することが可能なため、高温での処理が可能である。さらに、2〜7段、より好ましくは3〜5段の多段ソフトカレンダーを使用すると、ニップ圧を強くせずに優れた平滑効果を得ることができるので、本塗工紙をより嵩高にすることができ、好ましい。
カレンダーのロール構成は、2本のロールがセットになって横に並んだタンデム方式が一般的である。しかし、近年の1300m/分を超える高速塗工の場合、ロールセットを複数段設けなければ所定の平坦性を得にくく、また、広いスペースも必要になるという問題が生じる。このため、1スタックで複数段のロール構成からなる弾性ロールと金属ロールとの組み合わせから成る多段ソフトカレンダーが、それぞれの段でロールの自重の影響を最小限に抑えながら処理することが可能となり、広いスペースも不要のため好ましいが、これに限らず、公知の種々のものを用いることができる。
また、多段ソフトカレンダーは、そのロールが垂直又は斜め方向のいずれの方向に積み重ねられたものであっても良いが、各ニップ間でニップ圧を独自に調整できる構造を有するカレンダーであると、ロール自重の影響を最小限に抑えることができ、本塗工紙をより嵩高に仕上げることができるため好ましい。
本塗工紙は、上塗り塗工層及び下塗り塗工層を合わせた塗工層全体の厚み平均を5〜12μmとすることにより、塗工剤に有機顔料を配合した場合は、塗工層の表面に中空又は密実の有機顔料を表出させ易くなる。従って、本塗工紙の白紙光沢度をより容易に所望の範囲とすることができ、また印刷光沢度を高くすることができ、そして、本塗工紙の表面のPPS平滑度を所望の範囲に調整し易くなる。上塗り塗工層及び下塗り塗工層を合わせた塗工層全体の厚みの平均が5μm未満であると原紙の凹凸による塗工層表面の平坦性が損なわれる問題がある。一方、12μmを超えると塗工量が多くなるため塗工剤のコストが高くなるばかりでなく、こわさが低い塗工紙になり、印刷後の加工時に塗工層の割れや粉落ちの問題が生じる。
また、本塗工紙の全体の緊度を0.8〜1.2g/cm3、好ましくは1.0〜1.2g/cm3とすることにより、嵩高であっても、白紙光沢度を30〜50%にすることができるため、艶消しの高級感のある落ち着いた風合いを有し、また印刷光沢度が高くなるため、精細な印刷を施しても網点の欠落が少なくなる。加えて、近年の塗工紙の軽量化や軽量化にともなう強度を維持することもできる。従って、本塗工紙に、高級感のある落ち着いた印刷面を与えることができるようになる。なお、本願における「緊度」とは、JIS−P8118に記載の「紙及び板紙−厚さ及び緊度の試験方法」に準拠して測定した緊度を言う。
さらにまた、本塗工紙は、塗工層の表面のPPS平滑度を0.7〜1.0μm、好ましくは0.7〜0.9μm、さらに好ましくは0.7〜0.8μmとすることにより白紙光沢度を所望の範囲とし、ΔGを30%以上とし、また写像性数値を10〜35%にすることができる。PPS平滑度は、ベック平滑度や正反射平滑度と異なり、塗工紙表面の微細な凹凸を評価できるため、高平滑な光沢調や凹凸が大きすぎるマット調と異なり、表面性を精査に評価できるため好適である。PPS平滑度が0.7μm未満であると、塗工紙の白紙光沢度、印刷光沢度とも低下してしまう。一方、PPS平滑度が1.0μmを超えると、塗工紙の白色度、不透明度、剛度、トラッピング性、及び吸水着肉性が低下してしまう。PPS平滑度は、ローレンツェンアンドベットレー社製のPPS TESUTER SE−115型を用い、クランプ圧力1MPaで測定した。
また、上述したようにして形成された本塗工紙の表面には、塗工剤に有機顔料を配合した場合には、中空又は密実の有機顔料が5〜15%の割合で表出している(電子顕微鏡によりA4用紙の長方向中央部、約7cm間隔5箇所の10,000倍写真(89×127mm)における割合をルーゼックス画像解析装置で分析した値の平均値)。これにより、有機顔料の配合量が少量であっても、その配合効果を十分に得ることができるので、本塗工紙の白紙光沢度を低くし、印刷光沢度を高くすることができ、かつ、塗工層の表面のPPS平滑度を、本塗工紙が所望とする0.7〜1.0μmに調整することができる。
本塗工紙の原紙に用いるパルプ原料には、古紙パルプが使用でき、原料古紙としては、新聞古紙、印刷古紙、雑誌古紙、OA古紙等が挙げられる。この他にバージンパルプも使用することができ、広葉樹材、針葉樹材の制限はなく両者の原料から得られるパルプを任意に配合できる。また、製造方法においても蒸解液によって脱リグニンされる化学的パルプ化法であるクラフトパルプ(KP)、サルファイトパルプ(SP)や機械的に砕木される砕木パルプ(GP)、リファイナー砕木パルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、ケミグランドパルプ(CGP)、セミケミカルパルプ(SCP)等の機械パルプ化法のどちらでもかまわない。これらのパルプと上述した再生粒子とを混合して塗工紙の原紙を製造しても良い。
また、紙料スラリーには、例えば澱粉類、植物性ガム、水性セルロース誘導体、ケイ酸ソーダ等の紙力増強剤、ロジン、澱粉、CMC(カルボキシルメチルセルロース)、ポリビニルアルコール、アルキルケテンダイマー、ASA(アルケニル無水こはく酸)、中性ロジン等のサイズ剤、ポリアクリルアミド及び共重合体、ケイ酸ソーダ等の歩留り向上剤等の公知の種々の添加剤を1種、又は2種以上を添加することができる。さらにまた、必要に応じて染料、顔料等の色料を添加しても良い。
このように調製された紙料は、公知の種々の抄紙機によって抄造することができる。また、本塗工紙の原紙の坪量については特に限定するものではないが、一般に、36〜112g/m2程度の範囲であると、再生粒子を使用する効果が顕著に発揮されるため好ましい。
さらにまた、表面処理やサイズ性を向上させる目的で、原紙の表面に水溶性高分子を主成分とする表面処理剤を塗布しても良い。水溶性高分子としては、酸化澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉、酵素変性澱粉、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール等の表面処理剤として通常使用されるものを単独で、あるいは数種類を混合して使用することができる。なお、表面処理剤の中には、水溶性高分子の他に、耐水化、表面強度向上を目的とした紙力増強剤やサイズ性付与を目的とした外添サイズ剤を添加することができる。
このような表面処理剤は、2ロールサイズプレスコーターやゲートロールコーター、ブレードメタリングサイズプレスコーター、ロッドメタリングサイズプレスコーター、又はシムサイザーやJFサイザー等のフィルム転写型ロールコーター等の塗工機によって塗布することができる。
以上、本発明に係る塗工紙について、原紙の紙層が単層から成り、また原紙の表裏面(両面)に下塗り塗工層及び上塗り塗工層が形成される場合について説明してきたが、本発明はこのような塗工紙に限らず、例えば原紙が2層以上の紙層から成っていても良く、さらに、原紙の表面又は裏面の少なくとも一方の面に下塗り塗工層及び上塗り塗工層の2層の塗工層が形成されていれば良い。なお、2層以上の紙層から成る複数層の場合の形成方法は、貼合による形成であっても、抄き合わせによる形成であっても良い。
かくして得られる塗工紙は、JIS−P8133に記載の「紙、板紙及びパルプ−水抽出液pHの試験方法」に準拠して測定した熱水抽出pHが6.0以上、さらには6.1以上であることが好ましく、また9.5以下、さらには9.0以下であることが好ましい。熱水抽出pHがこのような範囲の場合には、紙の劣化抑制や資源循環を図ることができる。また、紙のインク乾燥性を向上させ、インク吸収ムラを少なくしたり、劣化を十分に抑制し、保存性や助剤の定着性をさらに向上させることもできる。
さらに本塗工紙の坪量は、例えば高速オフセット印刷における紙質強度の確保、印刷不透明度の確保という点から、JIS−P8124に記載の「坪量測定方法」に準拠して測定した値で45g/m2以上、さらには50g/m2以上であることが好ましく、またその軽量化の点から、かかる坪量は125g/m2以下、さらには120g/m2以下であることが好ましい。塗工紙の坪量が45g/m2未満であると、例えば高速オフセット印刷機における強度確保が困難であり、一方、塗工紙の坪量が125g/m2を超えると、近年の軽量化、省資源に逆行することになってしまう。
紙の白色度は、その用途に応じて異なるが、印刷物としての外観を考慮すると、JIS−P8123に記載の「紙及びパルプのハンター白色度試験方法」に準拠して測定した値で、少なくとも80%以上、好ましくは85〜95%、より好ましくは90〜95%である。
紙の白紙不透明度は、印刷時の裏抜けが発生し難いという点から不透明度が高いものが求められるが、JIS−P8138に記載の「紙の不透明度試験方法」に準拠して測定した値で91%以上、さらには92〜95%であることが好ましい。
また、紙のMD方向のこわさは、その用途に応じて異なるが、例えば高速オフセット印刷に適した腰を付与するという観点から、JIS−P8143に記載の「紙のクラークこわさ試験機によるこわさ試験方法」に準拠して測定して、36.0〜42cm3/100、さらには39〜42cm3/100であることが好ましい。
さらに、紙の表面強度は、やはり高速オフセット印刷における紙質強度を考慮すると、後述するRIテスターによる測定において最低限度グレード3以上であることが好ましい。
このように本塗工紙は、印刷光沢と高精細な印刷画像とを有しながら、目に優しくて読み易く、眼精疲労が少ないものとなる。さらにまた、手触り感も良好であるので、視認性と手触り感という効果を両立させることができる。
本発明に係る塗工紙の効果を確認するため、以下のような各種の試料を作製し、これらの各試料に対する品質を評価する試験を行った。なお、本発明はこれらの実施例によって制限を受けるものではない。
まず、原紙に塗工剤を塗工して試料となる塗工紙を作成するが、その塗工剤に配合される再生粒子を表1に示すような条件で作成した。
すなわち、表1に示すように、再生粒子の製造例1は、原料として、脱墨フロスを用い、脱水工程の出口において、脱水物の水分率が40質量%となるまで脱水し、乾燥工程において130℃の温度で脱水物を、次工程である焼成工程の入口で水分率が2質量%、平均粒子径が500μm、また355〜2000μmの粒子径の割合が70質量%となるまで乾燥させて乾燥物を生成する。その後、この乾燥物は焼成工程に移送され、未燃率が28%となるまで、焼成炉上端部の温度を550℃、燃焼焼成炉内の温度を510℃で焼成して、焼成物を生成する。この焼成物を、その後湿式粉砕工程に移送し、さらに微細化して再生粒子の製造例1を得る。
表1に示すように条件を変えて、再生顔料の製造例2ないし製造例10及び比較例1ないし比較例4を同様に得る。
これらの再生粒子の製造例1ないし製造例10、及び比較製造例(比較例)1ないし比較例4について、カルシウム、ケイ素、及びアルミニウムの含有量をそれぞれ酸化物換算で求め、カルシウム、ケイ素、及びアルミニウムの合計含有割合を算出した結果は、表1に示すとおりである。
さらに、再生粒子の製造例1ないし製造例10、及び比較製造例(比較例)1ないし比較例4について、ワイヤー摩耗度(g/m2)、生産性、安定性、及び外観についても調べた結果は、表2に示すとおりである。
なお、表2中、「ワイヤー摩耗度(g/m2)」とは、日本フィルコン製摩耗試験機にて測定した値である。
また、「生産性」とは、再生粒子の生産効率を目視評価したものであり、◎印の「生産効率が非常に良い」、○印の「生産効率が良い」、△印の「生産効率が悪い」、×印の「生産効率が非常に悪い」の4段階とした。
また、「安定性」とは、再生粒子の品質の状態を目視評価したものであり、その評価基準は◎印の「非常に安定した品質を有する再生粒子が得られる」、○印の「安定した品質を有する再生粒子が得られる」、△印の「品質に多少のバラツキが出てしまう」、×印の「品質のバラツキが大きい」の4段階とした。
さらにまた「外観」とは、再生粒子の色を目視で判別した色である。
次に、表3に示すように、重質炭酸カルシウム(平均粒径1.4μm)を50重量部、クレー(平均粒径0.8μm)を30重量部、表1に示す製造例1の再生粒子を20重量部配合してなる顔料に、接着剤として、アクリロニトリル含有量が5重量%、ゲル含有率が85%、Tgが−10℃、平均粒子径が130nmであるスチレン・ブタジエンラテックスを配合して上塗り塗工層用塗工剤を形成し、この上塗り塗工層用塗工剤にアクリル酸・アクリルアミド共重合物を全顔料100重量部に対して0.08重量部配合して分散し、水を加えて固形分濃度が50%となるように調整した。
また、重質炭酸カルシウム(平均粒径11μm)を60重量部、表1に示す製造例1の再生粒子を40重量部配合して成る顔料に、ポリアクリル酸系分散剤として東亜合成化学社製のアロンT−40を0.1重量部、接着剤として、スチレン−ブタジエン系ラテックス(旭化成株式会社製のL1301)を9重量部、及びリン酸エステル化澱粉(日本食品化工株式会社製のMS4600)を1.0重量部、また、滑剤としてステアリン酸カルシウム0.4重量部を配合して下塗り塗工層用塗工剤を形成し、この下塗り塗工層用塗工剤に水を加えて固形分濃度が60%となるように調整した。
この下塗り塗工層用塗工剤を、坪量84g/m2の原紙の両面に、片面当たりの塗工量が12g/m2となるように塗工して乾燥し、原紙の両面に下塗り塗工層を形成した。続いて上塗り塗工層用塗工剤を、各下塗り塗工層の表面に片面当たりの塗工量が9g/m2となるように塗工して乾燥し、上塗り塗工層を形成し、塗工面にカレンダー処理を施して、上塗り塗工層及び下塗り塗工層を合わせた塗工層の厚みを5μmとし、また緊度が1.023g/cm3である塗工紙(実施例1)を得た。
また、上塗り塗工層用塗工剤、下塗り塗工層用塗工剤、塗工層全体の厚み、及び塗工紙の緊度を表3及び表4に示す条件に変更する他は、上述した実施例1と同様にして、実施例2ないし実施例7、及び比較例1ないし比較例16を得る。
これらの全実施例及び比較例についての品質評価、すなわち白紙光沢度、印刷光沢度、ΔG、写像性数値、PPS平滑度、熱水抽出pH、白色度、剛度、表面強度、操業性、インク吸収ムラ、及びインク乾燥性について試験を行った結果は、表5に示すとおりであった。
なお、表4中の「塗工層の厚み平均(μm)」とは、調整したA4サイズ(縦目)のサンプルの短辺方向における中央部、約4cm間隔で7箇所を、ミクロトームにて断面を更に鋭利に切って、サンプル毎に3箇所を走査型電子顕微鏡により160倍のコンポ像断面写真撮影を行い、塗工層の厚みを最大値と最小値とを除いた等間隔10箇所値の70箇所トータル平均値(7サンプル12箇所)で求めた値である。
また、表5中の「白紙光沢度(%)」とは、JIS−P8142に定める75度鏡面光沢度試験方法に基づき測定した値である。
また、「印刷光沢度(%)」とは、RI印刷適性試験機(明製作所製)を用い、大日本インキ社製のインキ(TRANS−G<N>藍)を0.5ml使用し、圧胴回転速度30rpmで印刷を行い、1回刷りの印刷物とし、この各印刷物を恒温(温度20℃、湿度50%)に24時間放置した後、塗工紙の印刷後の光沢をJIS−P8142に定める75度鏡面光沢度試験方法に基づき測定した値である。
「ΔG(%)」とは、上述したように測定した白紙光沢度と印刷光沢度との差を計算した値である。
「写像性数値(%)」とは、JIS−H8686に基づき、光学的装置を使用し、明部暗部の比が1:1で、幅が2.0mmの光学くしを通して得られた光量の波形から、上記(式1)により求められた像鮮明度の値である。
「PPS平滑度(μm)」とは、パーカープリンタオサーフ(PPS)表面平滑度試験機(機種名:SE−115 ローレンツェンアンドベットレー社製)にて、バッキングディスクとしてソフトラバー製を用い、クランプ圧力が1MPaで測定した値であり、測定値が小さいほど、平滑性が高いことを示す。
「熱水抽出pH」とは、JIS−P8133に記載の「紙及び板紙−厚さ及び緊度の試験方法」に準拠して測定した値である。
「白色度(%)」とは、JIS−P8123に記載の「紙及びパルプのハンター白色度試験方法」に準拠して測定した値である。
「剛度(cm3/100)」とは、JIS−P8143に記載の「紙のクラークこわさ試験機によるこわさ試験方法」に準拠して、紙のMD方向の剛度を測定した値である。
「表面強度」とは、紙試料の表面にRIテスター(株式会社明製作所製)で、インキタック6(東洋インキ製造株式会社製)を用いて印刷した紙について、10cm2あたりの塗工層の状態を目視にて観察して点数評価したものである。その評価基準は「1」の「塗工層の剥れがかなり有る」、「2」の「塗工層の剥れが有る」、「3」の「塗工層の剥れがやや有る」、「4」の「塗工層の剥れが僅かに有る」、「5」の「塗工層の剥れが殆どない」の5段階評価とした。なお、実用上の最低限度のグレードは「3」である。
「操業性」とは、塗工層における塗工に均一性やストリーク、スクラッチ等の塗工欠陥の有無、塗工剤の塗工量のプロファイル制御の行い易さ等の塗工適性を評価したものである。その評価基準は、◎印の「特に優れている」、○印の「優れている」、△印の「多少の問題はあるが、実用上は問題ない」、×印の「悪い」の4段階とした。
「インク吸収ムラ」とは、オフセットカラー印刷機(型番:SYSTEM C−20、株式会社小森コーポレーション製)を使用し、16万部/時の印刷速度で、藍、赤、黄、墨の順に4色カラー印刷を行った試料で、藍/赤の重色部分のインク濃度ムラを目視にて観察して評価したものである。その評価基準は、◎印の「インク濃度ムラが全く認められず、均一で鮮明な印刷画像である」、○印の「インク濃度ムラが殆ど認められず、均一な印刷画像である」、△印の「インク濃度ムラが認められ、やや不均一な印刷画像である」、×印の「インク濃度ムラが明らかであり、不均一な印刷画像である」の4段階とした。
さらにまた、「インク乾燥性」とは、インク吸収ムラの評価の場合と同じオフセットカラー印刷機を使用し、同じ印刷速度で、植物油含有量が45%のオフセット印刷用インクにて藍、赤、黄、墨の順に4色カラー印刷を行った試料を、印刷面と白紙面とが重なるように印刷物500部を重ね合わせ、5kgf(約49N)の荷重で1日間放置した後、白紙面の汚れの程度を目視にて観察して評価した。その評価基準は、◎印の「汚れが殆ど認められない」、○印の「汚れが少ししか認められない」、△印の「汚れが認められる」、×印の「汚れが著しい」の4段階とした。
表5から、本実施例によれば、実施例1ないし実施例
7、すなわち本発明に係る塗工紙は品質評価に優れることが分かる。つまり、白紙光沢度を30〜50%としても、印刷光沢度を高くすることができるので、ΔGを30%以上にすることができる。これにより近年の高齢化社会に対応し、印刷光沢と高精細な印刷画像とを有しながら、目に優しくて読み易く、眼精疲労が少ない塗工紙を提供することができる。また、本塗工紙は手触り感に優れることも分かる。