JP4002061B2 - 電線又は光ファイバ被覆用難燃性樹脂組成物とそれを用いた配線材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐摩耗性、耐油性及び圧接加工性のいずれも優れ、かつ機械特性と耐熱性と難燃性を具備した電線又は光ファイバ被覆用樹脂組成物と該組成物を被覆材とする配線材、光ファイバコードに関するものである。
より詳しくは、本発明は、電気・電子機器の内部ないしは外部配線に使用される絶縁電線、電気ケーブル、電気コードや光ファイバ心線、光ファイバコードなどの被覆材として用いる難燃性樹脂組成物およびそれを用いた配線材に関し、特に、耐油性、耐摩耗性、圧接加工性に優れ、かつ、使用後のリサイクル処理に適し、環境問題対応の電線又は光ファイバ被覆用難燃性樹脂組成物とそれを用いた配線材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
電気・電子機器の内部および外部配線に使用される絶縁電線・ケーブル・コードや光ファイバ心線、光ファイバコードには、従来より、難燃性、耐熱性、機械特性(例えば、引張特性、耐摩耗性)など種々の特性が要求されている。
このため、これらの配線材に使用される被覆材料としては、ポリ塩化ビニル(PVC)コンパウンドや、分子中に臭素原子や塩素原子を含有するハロゲン系難燃剤を配合したポリオレフィンコンパウンドが主として使用されていた。
しかし、これらを燃焼した場合には、被覆材料に含まれるハロゲン化合物から腐食性ガスが発生することがあり、近年、この問題が議論されており、ハロゲン系ガスなどの発生の恐れがないノンハロゲン難燃材料で被覆した配線材の検討がおこなわれている。
ノンハロゲン難燃材料は、ハロゲンを含有しない難燃剤を樹脂に配合することで難燃性を発現させており、例えばエチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体などのエチレン系共重合体に、難燃剤として水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水和物を多量に配合した材料が配線材に使用されている。
【0003】
電気・電子機器の配線材に求められる難燃性、耐熱性、機械特性(例えば引張特性、耐摩耗性)などの規格は、UL、JISなどで規定されている。特に、難燃性に関しては、要求水準(その用途)などに応じてその試験方法が変わってくる。したがって実際は、少なくとも要求水準に応じた難燃性を有すればよい。例えば、UL1581(電線、ケーブルおよびフレキシブルコードのための関連規格(Reference Standard for Electrical Wires,Cables and Flexible Cords))に規定される垂直燃焼試験(Vertical Flame Test)(VW−1)や、JIS C 3005(ゴム・プラスチック絶縁電線試験方法)に規定される水平試験や傾斜試験に合格する難燃性などがそれぞれ挙げられる。
この中で、これまで、ノンハロゲン難燃材料に、VW−1や傾斜試験に合格するような高度の難燃性を付与する場合、エチレン系共重合体などの樹脂成分100質量部に対して、難燃剤である金属水和物を120質量部以上配合する必要があり、この結果として、被覆材料の引張特性や耐摩耗性などの機械特性が著しく低下するという問題があった。この問題を解決するために、金属水和物の配合量を減少させ(例えば、樹脂100質量部に対して、難燃剤である金属水和物を120質量部程度)、赤リンを配合する方法がとられている。
ところで、現在、電気・電子機器に使用されているポリ塩化ビニルコンパウンドやハロゲン系難燃剤を配合したポリオレフィンコンパウンドを被覆材料とする配線材は、配線材の種類や接続部を区別することを目的として、電線・電気ケーブル・電気コードの表面に印刷をおこなったり、数種類の色に着色して使用されている。
ところが、高度の難燃性と機械特性を両立させるために金属水和物と赤リンを配合したノンハロゲン被覆材料は、赤リンの発色のため、その上に印刷することやまたは任意の色に着色することができず、容易に種類や接続部を区別することができる配線材が得られないという問題がある。さらに、リンを含む難燃材料から廃棄後に放出されるリンについても、環境への影響、例えば富栄養化による水資源の汚染などが問題となっている。
【0004】
また、電気・電子機器に使用される配線材については、連続使用の状態で80℃〜105℃の耐熱性が要求される場合がある。
このような場合、配線材に高耐熱性を付与することを目的として、被覆材料を電子線架橋法や化学架橋法などによって架橋する方法がとられている。
しかしながら、架橋処理された配線材は、被覆材料の耐熱性が向上している反面、その再溶融が不可能であるため、再利用が難しく、リサイクル性が悪いことが指摘されている。例えば、導体に使用されている金属を回収する場合にも、被覆材を燃焼するなどしなければならない場合が多く、従来のハロゲン又はリンを含有する被覆材に伴う前記環境への問題を避けることができない。
このような要求に対応するものとして種々の樹脂組成物が提案されてきている。
しかしながら、このような難燃性樹脂組成物については、絶縁電線の用途の拡大とともにさらなる新しい特性(耐摩耗性、耐油性及び圧接加工性)の具備が要求されるようになっている。
例えば、一般に難燃性の高いノンハロゲン電線の場合耐油性に乏しく、耐油性が求められる部分への使用が困難であり、これに対処することが要求されている。
また、自動車用途などに使用される電線においては、非常に高い摩耗特性が求められており、従来のノンハロゲン電線は耐摩耗性に乏しく、自動車等の摩耗が求められる分野への使用は困難であった。
さらに最近電線の加工方法について、OA機器、オーディオ、パソコン等には電線を数本以上一度に加工する圧接加工性が求められるようになってきている。
圧接加工する際には電線を固定するためのプラスチック製のストレインリリーフ部で固定することが行われる。このうち金属製の端子と圧接加工する際には、金属製の端子が接触した部分の電線の被覆層のみをきれいに破ることが要求され、被覆層が余分に裂けて導体露出しないことが必要とされる。またストレインリリーフ部で固定する際には電線の被覆層がつぶれると、固定が不十分となる。また電線を通す際の水平保持性の点から、被覆層には高い硬度や電線の張りが要求される。これらの要求性能をすべて満たす電線としては、従来は、硬質のPVC電線が使用されている。
しかしながらこれまで開発されたノンハロゲンのポリオレフィン系樹脂組成物で被覆した絶縁電線の場合は、圧接時に被覆が裂けて導体が露出してしまったり、水平保持性が悪いので圧接加工時の通線性が悪かったり、ストレインリリーフ部に固定した場合の被覆層のつぶれが大きく抜けやすいという問題がある。これらのような場合圧接加工が不可能であったり、また加工時間がかかり製品の量産性に乏しくなる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、耐摩耗性、耐油性、圧接加工性に優れ、かつ高度の難燃性と優れた機械特性を有し、任意の色に着色でき、かつ、廃棄時の埋立による重金属化合物やリン化合物の溶出や、焼却による多量の煙、腐食性ガスの発生などの問題がなく量産性に優れた電線又は光ファイバ被覆用難燃樹脂組成物及び絶縁電線、光ファイバケーブルなどの配線材を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記の課題は以下の発明によって達成された。
(1)(a)ビニル芳香族化合物をその構成成分の主体とした少なくとも2個の重合体ブロックAと、共役ジエン化合物をその構成成分の主体とした少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体、および/またはこれを水素添加して得られる水添ブロック共重合体100質量部、(b)非芳香族系ゴム用軟化剤0〜130質量部、(c)エチレン・α−オレフィン共重合体400質量部を越え3800質量部以下、並びに(d)ポリプロピレン樹脂200質量部を越え2500質量部以下からなる熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対して、(e)有機パーオキサイド0.01〜0.6質量部、(f)(メタ)アクリレート系および/またはアリル系架橋助剤0.03〜1.8質量部、並びに金属水和物(B)を50〜300質量部の割合で含有し、前記金属水和物(B)は、
(i)前記金属水和物(B)が50質量部以上100質量部未満の場合は、前記熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対してシランカップリング剤で前処理された金属水和物が50質量部以上;
(ii)前記金属水和物(B)が100質量部以上300質量部以下の場合は、金属水和物(B)の少なくとも半量が、シランカップリング剤で前処理された金属水和物である
組成の混合物であって、前記熱可塑性樹脂成分(A)の溶融温度以上で加熱・混練してなる電線又は光ファイバ被覆用難燃性樹脂組成物。
(2)(a)ビニル芳香族化合物をその構成成分の主体とした少なくとも2個の重合体ブロックAと、共役ジエン化合物をその構成成分の主体とした少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体、および/またはこれを水素添加して得られる水添ブロック共重合体100質量部、(b)非芳香族系ゴム用軟化剤0〜130質量部、(c)エチレン・α−オレフィン共重合体400質量部を越え3800質量部以下、並びに(d)示差走査熱量計により測定される融点(Tm)が163℃以下であり、かつ結晶融解熱量(△Hm)が55J/g以下であるアタクチックポリプロピレン重合体を主成分とするポリプロピレン樹脂200質量部を越え3800質量部以下からなる熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対して、(e)有機パーオキサイド0.01〜0.6質量部、(f)(メタ)アクリレート系および/またはアリル系架橋助剤0.03〜1.8質量部、並びに金属水和物(B)を50〜300質量部の割合で含有し、前記金属水和物(B)は、
(i)前記金属水和物(B)が50質量部以上100質量部未満の場合は、前記熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対してシランカップリング剤で前処理された金属水和物が50質量部以上;
(ii)前記金属水和物(B)が100質量部以上300質量部以下の場合は、金属水和物(B)の少なくとも半量が、シランカップリング剤で前処理された金属水和物である
組成の混合物であって、前記熱可塑性樹脂成分(A)の溶融温度以上で加熱・混練してなる電線又は光ファイバ被覆用難燃性樹脂組成物。
(3)前記(d)ポリプロピレン樹脂が、示差走査熱量計により測定されるポリプロピレン成分の融点(Tm)が160℃以下であり、かつ結晶融解熱量(△Hm)が40J/g以下であるアタクチックポリプロピレン重合体を主成分とすることを特徴とする(1)項記載の電線又は光ファイバ被覆用難燃性樹脂組成物。
(4)前記難燃性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対して、シリコーン化合物を0.5〜12質量部加えたことを特徴とする(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の電線又は光ファイバ被覆用難燃性樹脂組成物。
(5)(1)〜(4)項のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物を導体、または光ファイバ素線または/および光ファイバ心線の外側に被覆層として有することを特徴とする配線材。
【0007】
本発明においては、樹脂成分と同時に含有される有機パーオキサイドの量、架橋助剤の量および種類を上記の範囲に適切に設定して、架橋密度の低いルーズな架橋構造としうるとともに、特定の金属水和物を選択することにより多量の金属水和物を配合することが可能になる。
またポリプロピレン樹脂の主成分として特定のアタクチックポリプロピレン重合体を使用することにより、高度の難燃性を維持しながら、特に成形部品等としたときの柔軟性に優れる組成物が得られる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず、本発明の難燃性樹脂組成物の各成分について説明する。
(A)熱可塑性樹脂成分
熱可塑性樹脂成分(A)とは、(a)ビニル芳香族化合物をその構成成分の主体とした少なくとも2個の重合体ブロックAと、共役ジエン化合物をその構成成分の主体とした少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体、および/またはこれを水素添加して得られる水添ブロック共重合体、(b)非芳香族系ゴム用軟化剤、(c)エチレン・α−オレフィン共重合体、(d)ポリプロピレン樹脂からなる。さらには後述の(g)成分が含まれる場合には、これも含める。
【0009】
(a)成分 ブロック共重合体
本発明の(a)成分は、ビニル芳香族化合物をその構成成分の主体とした少なくとも2個の重合体ブロックAと、共役ジエン化合物をその構成成分の主体とした少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体又はこれを水素添加して得られるもの、あるいはこれらの混合物であり、例えば、A−B−A、B−A−B−A、A−B−A−B−Aなどの構造を有するビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体、あるいはこれらの水素添加されたもの等を挙げることができる。上記(水添)ブロック共重合体(以下、(水添)ブロック共重合体とは、ブロック共重合体及び/又は水添ブロック共重合体を意味する)は、ビニル芳香族化合物を5〜60質量%、好ましくは、20〜50質量%含む。
ビニル芳香族化合物をその構成成分の主体とする重合体ブロックAは好ましくは、ビニル芳香族化合物のみから成るか、または50質量%より多い、好ましくは70質量%以上のビニル芳香族化合物と(水素添加された)共役ジエン化合物(以下、(水素添加された)共役ジエン化合物とは、共役ジエン化合物及び/又は水素添加された共役ジエン化合物を意味する)との共重合体ブロックである。(水素添加された)共役ジエン化合物をその構成成分の主体とする重合体ブロックBは好ましくは、(水素添加された)共役ジエン化合物のみから成るか、または50質量%より多い、好ましくは70質量%以上の(水素添加された)共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物との共重合体ブロックである。これらのビニル芳香族化合物をその構成成分の主体とする重合体ブロックA、(水素添加された)共役ジエン化合物をその構成成分の主体とする重合体ブロックBのそれぞれにおいて、分子鎖中のビニル芳香族化合物または(水素添加された)共役ジエン化合物由来の繰り返し単位の分布がランダム、テーパード(分子鎖に沿ってモノマー成分が増加または減少するもの)、一部ブロック状またはこれらの任意の組合せでなっていてもよい。ビニル芳香族化合物をその構成成分の主体とする重合体ブロックA或いは(水素添加された)共役ジエン化合物をその構成成分の主体とする重合体ブロックBが2個以上ある場合には、それぞれが同一構造であっても異なる構造であってもよい。
【0010】
(水添)ブロック共重合体を構成するビニル芳香族化合物としては、例えばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−第3ブチルスチレンなどのうちから1種または2種以上が選択でき、中でもスチレンが好ましい。また共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンなどのうちから1種または2種以上が選ばれ、中でもブタジエン、イソプレンおよびこれらの組合せが好ましい。
共役ジエン化合物をその構成成分の主体とする重合体ブロックBにおけるミクロ構造は任意に選ぶことができる。例えばポリブタジエンブロックにおいては、1,2−ミクロ構造が20〜50%、特に25〜45%であるものが好ましく、ブタジエンに基づく脂肪族二重結合の少なくとも90%が水素添加されたものが好ましい。ポリイソプレンブロックにおいては、該イソプレン化合物の70〜100質量%が1,4−ミクロ構造を有し、かつ該イソプレン化合物に基づく脂肪族二重結合の少なくとも90%が水素添加されたものが好ましい。
上記構造を有する本発明に用いる(水添)ブロック共重合体の重量平均分子量は好ましくは5,000〜1,500,000、より好ましくは10,000〜550,000、さらに好ましくは100,000〜550,000、特に好ましくは100,000〜400,000の範囲である。分子量分布(重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn))は好ましくは10以下、更に好ましくは5以下、より好ましくは2以下である。(水添)ブロック共重合体の分子構造は、直鎖状、分岐状、放射状あるいはこれらの任意の組合せのいずれであってもよい。
【0011】
これらの(水添)ブロック共重合体の製造方法としては数多くの方法が提案されているが、代表的な方法としては、例えば特公昭40−23798号公報に記載された方法により、リチウム触媒またはチーグラー型触媒を用い、不活性溶媒中にてブロック重合させて得ることができる。また、例えば、上記方法により得られたブロック共重合体に、不活性溶媒中で水素添加触媒の存在下にて水素添加することにより水添ブロック共重合体が得られる。
上記(水添)ブロック共重合体の具体例としては、SBS(スチレン・ブタジエンブロックコポリマー)、SIS(スチレン・イソプレンブロックコポリマー)、SEBS(水素化SBS)、SEPS(水素化SIS)等を挙げることができる。本発明において、特に好ましい(水添)ブロック共重合体は、スチレンをその構成成分の主体とする重合体ブロックAと、イソプレンをその構成成分の主体としかつイソプレンの70〜100質量%が1,4−ミクロ構造を有し、かつ該イソプレンに基づく脂肪族二重結合の少なくとも90%が水素添加されたところの重合体ブロックBとからなる重量平均分子量が50,000〜550,000の水添ブロック共重合体である。更に好ましくは、イソプレンの90〜100質量%が1,4−ミクロ構造を有する上記水添ブロック共重合体である。
【0012】
(b)成分 非芳香族系ゴム用軟化剤
本発明の(b)成分としては、非芳香族系の鉱物油または液状もしくは低分子量の合成軟化剤を用いることができる。
ゴム用として用いられる鉱物油軟化剤は、芳香族環、ナフテン環およびパラフィン鎖の三者の組み合わさった混合物であって、パラフィン鎖炭素数が全炭素数の50%以上を占めるものをパラフィン系とよび、ナフテン環炭素数が30〜40%のものはナフテン系、芳香族炭素数が30%以上のものは芳香族系と呼ばれて区別されている。
本発明の(b)成分として用いられる鉱物油系ゴム用軟化剤は上記区分でパラフィン系およびナフテン系のものである。芳香族系の軟化剤は、その使用により(a)成分が可溶となり、架橋反応を阻害し、得られる組成物の物性の向上が図れないので好ましくない。(b)成分としては、パラフィン系のものが好ましく、更にパラフィン系の中でも芳香族環成分の少ないものが特に好ましい。
これらの非芳香族系ゴム用軟化剤の性状は、37.8℃における動的粘度が2×10−5〜5×10−4m2/s、流動点が−10〜−15℃、引火点(COC)が170〜300℃を示すものが好ましい。
(b)成分の配合量は、(a)成分100質量部に対して0〜130質量部、好ましくは10〜100質量部、さらに好ましくは30〜100質量部である。
また、130質量部を越える配合は、軟化剤のブリードアウトを生じやすく、配線材に粘着性を与えるおそれがあり、その機械的性質も低下させる。
(b)成分の一部を、有機パーオキサイド存在下での熱処理の後に配合することもできるが、ブリードアウトを生じる要因となることがある。
(b)成分は、重量平均分子量が100〜2,000のものが好ましい。
【0013】
(c)成分 エチレン・α−オレフィン共重合体
本発明の(c)成分としては、エチレン・α−オレフィン共重合体を用いる。
エチレン・α−オレフィン共重合体(c)は、好ましくは、エチレンと炭素数3〜12のα−オレフィンとの共重合体であり、α−オレフィンの具体例としては、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセンなどが挙げられる。(c)成分において、α−オレフィンがプロピレンの場合、プロピレン成分の含有量は50%未満である。
エチレン・α−オレフィン共重合体としては、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、LDPE(低密度ポリエチレン)、VLDPE(超低密度ポリエチレン)、及びシングルサイト触媒存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体等がある。このなかでも、充填されるフィラー受容性および本発明の目的とする樹脂組成物の柔軟性を考慮すると、シングルサイト触媒存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体が好ましく、密度は、0.93g/cm3以下が好ましく、さらに好ましくは0.925g/cm3以下、特に好ましくは0.92g/cm3以下である。この密度の下限には特に制限はないが、通常0.850g/cm3を下限とする。
また、エチレン・α−オレフィン共重合体(c)としては、メルトフローインデックス(ASTM D−1238)が0.5〜30g/10分のものが好ましい。
【0014】
本発明におけるシングルサイト触媒の存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体は、その製法としては、特開平6−306121号公報や特表平7−500622号公報などに記載されている公知の方法を用いることができる。
シングルサイト触媒は、重合活性点が単一であり、高い重合活性を有するものであり、メタロセン触媒、カミンスキー触媒とも呼ばれており、この触媒を用いて合成したエチレン・α−オレフィン共重合体は、分子量分布と組成分布が狭いという特徴がある。
このようなシングルサイト触媒存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体が、高い引張強度、引裂強度、衝撃強度などを有することから、金属水和物を高充填する必要があるノンハロゲン難燃材料(配線材の被覆材料)に使用した場合、高充填された金属水和物による機械特性の低下を小さくすることができるという利点がある。
反面、シングルサイト触媒を用いて合成したエチレン・α−オレフィン共重合体を用いる場合、通常のエチレン・α−オレフィン共重合体を用いる場合と比べて、溶融粘度の上昇や溶融張力の低下がおこり、成形加工性に問題が生ずる。この点については、シングルサイト触媒として非対称な触媒を用いて長鎖分岐を導入し(Constrained Geometory Catalystic Technology)、または合成の際に2つの重合槽を連結することで分子量分布に2つのピークをつくる(Adavnced Performance Terpolymer)ことで、その成形加工性を改良したものもある。
【0015】
本発明において用いられるシングルサイト触媒の存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体(c)としては、前記成形加工性を改良したものが好ましく、このようなものとしては、Dow Chemical社から「AFFINITY」「ENGAGE」(商品名)が、Exxon Chemical社から「EXACT」(商品名)、及び宇部興産社から「ユメリット」が上市されている。
本発明の難燃性樹脂組成物において、その効果を奏するために(a)成分100質量部に対して、(c)成分の配合量は400質量部を越え3800質量部以下、好ましくは420〜3800質量部、より好ましくは500〜2500質量部、さらに好ましくは700〜2500質量部とする。これを400質量部以上に保つことにより、耐摩耗性や強度にすぐれた成形体を得ることができる。また圧接加工される電線においても、圧接加工性に優れ、圧接自動機にかけても問題なく加工可能な絶縁電線を得ることができる。
特に好ましくは(c)成分として密度0.890g/cm3以上、さらに好ましくは0.900g/cm3以上、さらに好ましくは0.910g/cm3以上のシングルサイト触媒を用いて合成されたエチレン・αオレフィン共重合体を用いることにより、優れた耐油性、さらに圧接時にストレインリリーフ部で被覆部が盛り上がらず、また圧接自動加工機の走線性に優れた成形体、絶縁電線を得ることができる。
【0016】
(d)成分 ポリプロピレン樹脂
本発明に用いることのできるポリプロピレン系樹脂としては、ホモポリプロピレン、エチレン・プロピレンランダム共重合体、エチレン・プロピレンブロック共重合体や、プロピレンと他の少量のα−オレフィン(例えば1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等)との共重合体、アタクチックポリエチレン等が挙げられる。ここでエチレン・プロピレンランダム共重合体はエチレン成分含量が1〜4質量%程度のものをいい、エチレン・プロピレンブロック共重合体はエチレン成分含量が5〜20質量%程度のものをいう。
アタクチックポリプロピレン樹脂とは、示差走査熱量計により測定された融点(Tm)が163℃以下であり、かつ結晶融解熱量(△Hm)が55J/g以下であるアタクチックポリプロピレン重合体を主成分とする。ここで「主成分とする」とは好ましくは(d)成分の50質量%以上含有することをいう。
ここで、図1を参照して、本発明における融点(Tm)および結晶融解熱量(△Hm)の測定方法について説明する。本発明においてアタクチックポリプロピレン重合体の示差走査熱量計(以下、DSCと略す)測定は、通常の条件に従い、昇温速度10℃/分、窒素雰囲気下で行う。アタクチックポリプロピレン重合体が単独重合体の場合には、温度の上昇とともに、大きな吸熱ピークが1つ観測される。アタクチックポリプロピレン重合体がプロピレン成分とその他のオレフィン成分との共重合体である場合には、吸熱ピークは2つ以上観測される。図1に示すDSCチャートは、ブテン−1成分とプロピレン成分からなるアタクチックポリプロピレン重合体のものであるが、2つの大きな吸熱ピークがみられる。図1において温度の低い方のピークがブテン−1成分に起因する吸熱ピーク、温度の高い方のピークがプロピレン成分に起因する吸熱ピークであり、T1、T2はそれぞれの吸熱のピークトップ温度を示す。T2は一般に138〜160℃に現れる。吸熱ピークが観察される前後はほとんど熱量−温度曲線は平準であり、吸熱後の熱量−温度曲線が平準な部分Dから温度が低いほうへ向かって、熱量が一定となるような直線、すなわちベースラインを引く。そのベースラインと温度T2にピークを有する吸熱曲線から延長した曲線が交わる点をBとする。このベースラインと温度T2にピークを有する吸熱曲線(及びその延長線)とで囲まれる面積から、プロピレン成分の結晶融解熱量(ΔHm)を求めることができる。(なお、Aはブテン−1成分に起因する吸熱ピークについての熱量−温度曲線の平準部であり、これを基準として引いたブテン−1成分についてのベースラインと温度T1にピークを有する吸熱曲線から延長した曲線が交わる点をCとして示した。)単独重合体の場合は、ピークが1つであるので、吸熱曲線とベースラインとで囲まれる面積が結晶融解熱量(ΔHm)となる。
【0017】
本発明で用いることのできるアタクチックポリプロピレン重合体としては、非晶性のポリプロピレンやプロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体を挙げることができる。非晶性ポリプロピレンの場合は、結晶性ポリプロピレン樹脂製造時に副生する樹脂を用いてもよいし、原料から生産してもよい。また、プロピレンと他のα−オレフィンとの共重合体は、所定のプロピレン成分を含有するように原料から製造することができる。この場合、例えば、塩化マグネシウムに担持したチタン担持型触媒とトリエチルアルミニウムを用いて水素の存在下/または水素の不存在下で原料モノマーを重合して得ることができる。
本発明で用いるアタクチックポリプロピレン重合体としては、融点が160℃以下であり、かつ、結晶融解熱量(ΔHm)が40J/g以下である共重合体が好ましい。プロピレンと共重合する代表的な単量体としては、ブテン−1が挙げられる。
このアタクチックポリプロピレン重合体の市販品としては、ATF−132、ATF−133(いずれも商品名、宇部興産社製)などを用いることもできる。
【0018】
加熱混練前に(A)に配合した(d)成分のポリプロピレン樹脂は、その後の加熱混練で、(e)成分の存在により熱分解して適度に低分子量化する。
このポリプロピレン樹脂としては、MFR(ASTM‐D‐1238、L条件、230℃)が好ましくは0.1〜15g/10分、より好ましくは0.1〜10g/10分のものを用いる。
ポリプロピレン樹脂のMFRが0.1g/10分未満では、熱処理後でもポリプロピレン樹脂の分子量が低下せず、得られる樹脂組成物(エラストマー)の成形性が悪くなることがあり、一方、MFRが15g/10分を越えると、低分子量となりすぎて、得られる樹脂組成物のゴム弾性が悪化することがある。
本発明において、a)成分100質量部に対して、(d)成分の配合量は200質量部を越え2500質量部以下とされるが、(d)成分としてアタクチックポリプロピレン重合体を主成分とする場合には、200質量部を越えて3800質量部とされる。(d)成分は(a)成分100質量部に対して、好ましくは210〜2500質量部、さらに好ましくは250〜2000質量部である。この配合量が200質量部以下になると、耐油性が著しく低下したり、圧接加工される電線においては電線が柔らかくなり、圧接自動機で加工できないという問題が生じる。また圧接コネクタにおいて電線に剛性が無いため、圧接金具部に曲がって入ってしまう等の問題が生じる。
これを200質量部を越える量に保つことにより、耐摩耗性や強度にすぐれた成形体を得ることができる。また圧接加工される電線においても、圧接加工性に優れ、圧接自動機にかけても問題なく加工可能な絶縁電線を得ることができる。
(d)成分としてアタクチックポリプロピレン重合体を主成分とする場合には、(a)成分100質量部に対し、好ましくは200〜3800質量部、さらに好ましくは210〜2500質量部である。この配合量が3800質量部を越えると伸びが低下したり、熱老化特性が悪くなる。
【0019】
(g)成分 不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性したポリオレフィン樹脂不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性されるポリオレフィン樹脂としては、直鎖状ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂が挙げられる。本発明において成分(g)とは、これらの樹脂を不飽和カルボン酸やその誘導体(以下、これらを併せて不飽和カルボン酸等という)で変性した樹脂のことである。変性に用いられる不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられ、不飽和カルボン酸の誘導体としては、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、無水マレイン酸、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水イタコン酸、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、無水フマル酸などを挙げることができる。ポリオレフィンの変性は、例えば、ポリオレフィンと不飽和カルボン酸等を有機パーオキサイドの存在下に加熱、混練することにより行うことができる。マレイン酸による変性量は通常0.1〜7質量%程度である。
この不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性したポリオレフィン樹脂は必ずしも必須成分ではないが、加えることにより強度を保持したり、摩耗性を向上させたりする効果がある。このポリオレフィン系樹脂を不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性したものは、金属水和物による機械特性の低下を緩和する効果や電線の白化を防ぐ効果もある。さらに圧接加工の際、ストレインリリーフ部の盛り上がりを抑える働きがある。
(g)成分の配合量は(A)中、0〜20質量%加えた方がよい。この成分が多すぎると、電線の伸びが著しく低下したり、圧接電線の場合、圧接刃の部分で被覆部に割れが生じたり、伸びが著しく低下するためである。
(e)成分 有機パーオキサイド
本発明で用いられる有機パーオキサイドとしては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert‐ブチルクミルパーオキサイドなどを挙げることができる。
これらのうち、臭気性、着色性、スコーチ安定性の点で、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3が最も好ましい。
有機パーオキサイド(e)の配合量は、熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対して、0.01〜0.6質量部の範囲であり、好ましくは0.1〜0.6質量部である。有機パーオキサイドをこの範囲内に選定することにより、架橋が進みすぎることがないので、ブツも発生することなく押し出し性に優れた部分架橋組成物が得られる。
【0020】
(f)成分 (メタ)アクリレート系および/またはアリル系架橋助剤
本発明の難燃性樹脂組成物またはそれに用いる熱可塑性樹脂成分(A)の製造においては、有機パーオキサイドの存在下で架橋助剤を介してビニル芳香族系熱可塑性エラストマーおよびエチレン・α−オレフィン共重合体との間で部分架橋構造を形成する。その際使用される架橋助剤としては、一般式
【0021】
【化1】
【0022】
(ここで、RはH又はCH3であり、nは1〜9の整数である。)
で表される(メタ)アクリレート系架橋助剤が挙げられる。ここで(メタ)アクリレート系架橋助剤とはアクリレート系およびメタアクリレート系架橋助剤を指す。具体的には、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、アリルメタクリレートが挙げられる。
その他にもジアリルフマレート、ジアリルフタレート、テトラアリルオキシエタン、トリアリルシアヌレートのような末端にアリル基を有するものを使用することができる。
以上の中でも特にnが1〜6の(メタ)アクリレート系架橋助剤が好ましく、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタアクリレート、テトラエチレングリコールジメタアクリレートを挙げることができる。
特に、本発明においては、トリエチレングリコールジメタクリレートが、取扱いやすく、他の成分との相溶性が良好であり、かつ有機パーオキサイド可溶化作用を有し、有機パーオキサイドの分散助剤として働くため、加熱混練時の架橋効果が均一かつ効果的で、硬さとゴム弾性のバランスのとれた部分架橋熱可塑性樹脂が得られるため、最も好ましい。このような化合物を使用することにより、架橋不足にも架橋過度にもならず、加熱混練時に均一かつ効率的な部分架橋反応が期待できる。
本発明で用いられる架橋助剤の添加量は、熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対して、0.03〜1.8質量部の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.03〜1.2質量部である。架橋助剤をこの範囲内に選定することにより、架橋が進みすぎることなくゆるやかな架橋となり、ブツも発生することなく押し出し性に優れた組成物が得られる。架橋助剤の配合量は、重量比で有機パーオキサイドの添加量の約1.5〜4.0倍とすることが好ましい。
(k)成分 シリコーン化合物
シリコーン化合物としては通常の直鎖のシロキサン構造を有しているシリコーンオイル、ポリジオルガノシロキサンを主原料としたシリコーンゴム、シリコーンゴムの主原料であるシリコーンガム、パウダー状のシリコーンレジン等が挙げられる。
この中でもシリコーンゴムの主原料であるシリコーンガムが望ましい。シリコーンガムの中でも側鎖にビニル基等の架橋基を有しているシリコーンガムが望ましい。シリコーンガムの基本的な分子構造はシロキサンの側鎖にメチル基、ビニル基、フェニル基を有しているものが挙げられるが、その他のアルキル基、アルケニル基等、芳香族基の選択も可能である。側鎖にビニル基等の架橋基を有しているシリコーンガムの使用により、コンパウンド時に行われる際の緩やかな架橋反応において、シリコーンガムと他のポリマーやシラン処理なされた金属水和物と結合し、ブリードがなく、しかも表面平滑性を向上させることができる。圧接用に使用される電線の場合、この(k)成分を加えることにより、さらに圧接の際のストレインリリーフ部における被覆材の形状変化が生じないで圧接加工を行うことが可能である。しかも電線の表面平滑性を向上させるため、自動機の量産加工性を一段と向上させることができる。
このシリコーンガムにその他配合剤として、補強充填剤、可塑剤、増量充填剤、添加剤、架橋剤等を添加しても良い。シリコーンガムとしては重合度5000〜10000程度のものが好ましいが、重合度がこれより低いものも使用しても良い。
【0023】
このシリコーン化合物の含有量は樹脂成分100質量部に対して0.5質量部〜12質量部加えた方が良い。これが0.5質量部未満であると実質的な効果が少なく、また12質量部を越えると、電線の量産性が著しく低下する。さらに圧接コネクタの電線保持力も著しく低下する。
またこのシリコーンガム等の代わりに、シリコーンでグラフトされた例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体等のエチレン系共重合体、或いはシリコーンを予め混合したポリオレフィンやエチレン共重合体を加えてもよい。その際の配合量はシリコーン部位としての重さ換算として、0.5質量%〜12質量%であればよい。この際エチレン系共重合体にグラフトされているもの、また混合されているものをあまり大量に使用すると、圧接の加工性が低下する。
(B)金属水和物
本発明において用いられる金属水和物としては、特に限定はしないが、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水和珪酸アルミニウム、水和珪酸マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイトなどの水酸基あるいは結晶水を有する化合物を単独もしくは2種以上組み合わせて使用することができる。これらの金属水和物のうち、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが好ましい。金属水和物は少なくとも一部がシランカップリング剤で処理されていることが必要であるが、表面処理されていない無処理の金属水和物や脂肪酸等他の表面処理剤で処理した金属水和物を適宜併用することができる。
【0024】
また上記金属水和物の表面処理に用いられるシランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のビニル基またはエポキシ基を末端に有するシランカップリング剤、メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプト基を末端に有するシランカップリング剤、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤などの架橋性のシランカップリング剤が好ましい。またこれらのシランカップリング剤は2種以上併用してもよい。
このような架橋性のシランカップリング剤の中でも、末端にエポキシ基および/またはビニル基を有するシランカップリング剤がさらに好ましく、これらは1種単独でも、2種以上併用して使用してもよい。
【0025】
本発明で用いることができるシランカップリング剤表面処理水酸化マグネシウムとしては、表面無処理のもの(市販品としては、キスマ5(商品名、協和化学社製)など)、ステアリン酸、オレイン酸などの脂肪酸で表面処理されたもの(キスマ5A(商品名、協和化学社製)など)、リン酸エステル処理されたものなどを上記のビニル基又はエポキシ基を末端に有するシランカップリング剤により表面処理したもの、またはビニル基又はエポキシ基を末端に有するシランカップリング剤によりすでに表面処理された水酸化マグネシウムの市販品(キスマ5LH、キスマ5PH(いずれも商品名、協和化学社製)など)がある。
また、上記以外にも、予め脂肪酸やリン酸エステルなどで表面の一部が前処理された水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムに、さらにビニル基やエポキシ基等の官能基を末端に有するシランカップリング剤を用い表面処理を行った金属水和物なども用いることができる。また同時に脂肪酸やリン酸エステルとビニル基やエポキシ基等の官能基を末端に有するシランカップリング剤を用い表面処理を行った金属水和物なども用いることができる。
【0026】
金属水和物をシランカップリング剤で処理する場合には、予めシランカップリング剤を金属水和物に対してブレンドして行うことが必要である。このときシランカップリング剤は、表面処理するに十分な量が適宜加えられるが、具体的には金属水和物に対し0.2〜2質量%が好ましい。シランカップリング剤は原液でもよいし、溶剤で希釈されたものを使用してもよい。
【0027】
金属水和物の配合量は、本発明の樹脂組成物中、熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対して、50〜300質量部であり、特に好ましくは100〜280質量部である。本発明において(i)金属水和物が50質量部以上100質量部未満の場合は、熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対してその50質量部以上を、また(ii)金属水和物が100質量部以上の場合はその少なくとも半量をシランカップリング剤で前処理した金属水和物とすることにより、多量に金属水和物を加えても強度の低下が生じず、樹脂に大量にフィラーを配合することが可能となる。金属水和物のうち、少なくとも100質量部がシランカップリング剤で処理された水酸化マグネシウムであることが特に好ましい。この所定量よりシラン処理なされている金属水和物の量が少ない場合、力学的強度が低下するだけでなく、耐油特性が著しく低下する。また熱老化特性も低下する。さらに金属水和物を300質量部より多く加えると、力学的強度や伸びが著しく低下する。
また圧接用電線に使用される電線被覆材料の場合、その少なくとも75質量%をシランカップリング剤で前処理した金属水和物とすることにより、ストレインリリーフ部の盛り上がりを最小限に抑えることができる。この金属水和物のうち50質量%より多くの金属水和物がシランカップリング処理されていない場合、圧接時のストレインリリーフ部で電線被覆部に大きな盛り上がりが生じ、電線保持力が大幅に低下する。
【0028】
通常のポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂をベース樹脂として使用し、必要とされる難燃性を満足するために金属水和物を多量に加えてゆくと、機械強度の低下が非常に大きい。特に本発明のように(d)成分のポリプロピレンや(c)成分のエチレン−αオレフィン共重合体が多い場合においては金属水和物を大量に加えて行くと、機械強度や伸びの低下が非常に大きい。それに対して、本発明における熱可塑性樹脂成分(A)は、架橋密度が低く樹脂成分同士が(f)成分を介した部分架橋状態になっており、さらに(a)成分のブロック共重合体成分が(c)成分のポリプロピレン樹脂と装用しているためフィラー受容性に優れ、このような熱可塑性樹脂成分(A)をベース樹脂として使用した場合には金属水和物を多量に配合することが可能になる。特にシランカップリング剤で処理された金属水和物を特定量配合した場合は水酸化マグネシウムと熱可塑性樹脂成分のネットワークを形成することが可能となり、金属水和物を大量に加えても機械的強度や伸びの低下は最小限に抑制され、屈曲させた際に白化を生じにくく、さらに非常に優れた耐油性を保持することができる絶縁樹脂組成物及び絶縁電線を得ることができる。加えて圧接加工される電線においては、優れた圧接加工性、及び優れた自動圧接加工性に優れた電線を得ることができる。
さらにこの際に架橋基を側鎖に有するシリコーンガムを加えることにより、表面活性と電線被覆材の弾力性が大幅に向上し、ストレインリリーフ部の変形が小さくなり、圧接加工性はさらに上昇させることができる。
【0029】
本発明の樹脂組成物の加熱・混練時の反応機構の詳細についてはまだ明確ではないが、以下のように考えられる。すなわち本発明における熱可塑性樹脂成分(A)は、加熱混練されると(e)成分の存在下、(f)成分を介して(a)成分および(c)成分が架橋される。一方、(e)成分の作用で、(d)成分は適度に低分子量化することにより樹脂組成物の溶融粘度は適度に調整され、組成物全体として押出性に優れた架橋物となる。本発明の組成物の架橋は、少量の(e)成分の存在下で行わせることもあり、通常の架橋と比較して架橋点が少ないことから、部分架橋と称することができる。
この難燃性樹脂組成物の架橋度は、目安として、熱可塑性樹脂成分(A)のゲル分率と動的弾性率によって表すことができる。ゲル分率は、試料1gを100メッシュ金網に包み、ソックスレー抽出機を用い、沸騰キシレン中で10時間抽出した後、試料1gに対する残留固形分の重量の割合で表すことができる。動的弾性率は、パラレルプレートを用いた溶融粘弾性の貯蔵弾性率で表すことができる。
本発明において架橋度は、ゲル分率で好ましくは30〜45質量%、さらに好ましくは40〜45質量%、貯蔵弾性率で好ましくは105〜107Paである。
熱可塑性樹脂成分(A)に金属水和物を充填する場合には、(e)成分および(f)成分と同時に、シランカップリング剤で処理された金属水和物を特定量配合した場合に限り、成形時の押し出し加工性を損なうことなく金属水和物を多量に配合することが可能になり、優れた難燃性を確保しながらも耐熱性、および機械特性を併せ持つとともに、使用後の再押し出しができリサイクル可能な難燃性樹脂組成物を得ることができる。
シランカップリング剤で処理された金属水和物が作用する機構についても詳細はまだ明確ではないが、以下のように考えられる。すなわちシランカップリング剤で処理することにより金属水和物表面に結合したシランカップリング剤は、一方のアルコキシ基が金属水和物と結合し、もう一方の末端に存在するビニル基やエポキシ基をはじめとする各種の反応性部位は(a)成分のビニル芳香族熱可塑性エラストマーおよび(c)成分のエチレン・α−オレフィン共重合体の未架橋部分と結合する。これにより、押し出し成形性を損なうことなく金属水和物を大量に配合することが可能になるとともに、樹脂と金属水和物の密着性が強固になり、機械強度および耐摩耗性が良好で、傷つきにくい難燃性樹脂組成物が得られる。
特に(d)成分のポリプロピレン樹脂と(c)成分のエチレン−αオレフィン共重合体成分を規定量加えることにより、優れた耐油性、耐摩耗性の樹脂組成物及び絶縁電線を得ることができる。通常(d)成分や(c)成分を所定量加えても、本発明のような部分架橋と称する加熱・混練時の反応を行わなかったり、シランカップリング剤で処理なされた金属水和物を使用しない場合においては、力学的強度が低下するのみならず、本発明のような優れた耐油特性、耐摩耗特性や優れた圧接特性を有する電線を得ることはできない。
本発明でこれらの特性が得られた作用機構については、まだ定かではないが、ポリプロピレンに(a)成分のブロック共重合体成分が相溶し、さらに金属水和物とエチレン−αオレフィン共重合体とこのブロック共重合体がネットワークを形成しているため、組成物全体がリジットになり耐油性や耐摩耗性が飛躍的に向上したものと考えられる。また圧接加工性についても組成物全体がネットワーク構造をとっており、さらに結晶性ポリマーであるポリプロピレンやエチレン−αオレフィン共重合体が樹脂成分の多くを構成しているため、圧接時に被覆部がストレインリリーフ部で盛り上がることなく加工でき、さらに自動機における加工性も優れていたものと考えられる。
【0030】
本発明の難燃性樹脂組成物には、電線、電気ケーブル、電気コードにおいて、一般的に使用されている各種の添加剤、例えば、酸化防止剤、金属不活性剤、難燃(助)剤、充填剤、滑剤、酸無水物及びその変性物などを本発明の目的を損なわない範囲で適宜配合することができる。
酸化防止剤としては、4,4'−ジオクチル・ジフェニルアミン、N,N'−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物などのアミン系酸化防止剤、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のフェノール系酸化防止剤、ビス(2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル)スルフィド、2−メルカプトベンヅイミダゾールおよびその亜鉛塩、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリル−チオプロピオネート)などのイオウ系酸化防止剤などが挙げられる。
金属不活性剤としては、N,N'−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1, 2, 4−トリアゾール、2,2'−オキサミドビス−(エチル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)などが挙げられる。
【0031】
さらに難燃(助)剤、充填剤としては、カーボン、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ほう酸亜鉛、ホワイトカーボンなどが挙げられる。
滑剤としては、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系、金属石けん系などが挙げられる。
【0032】
本発明の難燃性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で前記添加物や他の樹脂を導入することができるが、少なくとも前記熱可塑性樹脂成分(A)を主樹脂成分とする。ここで、主樹脂成分とするとは、本発明の難燃性樹脂組成物の樹脂成分中、通常70質量%以上、好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは樹脂成分の全量を前記熱可塑性樹脂成分(A)が占めることを意味する。ここで、熱可塑性樹脂成分(A)中、成分(a)、(b)、(c)及び(d)はそれぞれ前記規定範囲内の使用量を有し、熱可塑性樹脂成分(A)は成分(a)〜(d)の合計量で100質量%となる。
【0033】
以下、本発明の難燃性樹脂組成物、配線材の製造方法を説明する。
第1工程において、まず成分(a)および成分(b)の全量、成分(B)の少なくとも一部(好ましくは(B)の使用量中、50〜100質量%、さらに好ましくは70〜100質量%、特に好ましくは(B)の全量)、並びに成分(c)(d)(e)及び(f)の少なくとも一部(好ましくは、成分(c)の使用量中5〜100質量%、さらに好ましくは30〜100質量%、成分(d)(e)(f)の使用量中50〜100質量%、さらに好ましくは70〜100質量%)、場合により、更に充填剤、抗酸化剤、光安定剤、着色剤等の各種添加剤を、予め溶融混練する。混練温度は、好ましくは160〜240℃である。混練方法としては、ゴム、プラスチックなどで通常用いられる方法であれば満足に使用でき、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサーあるいは各種のニーダーなどが用いられる。この工程により、各成分が均一に分散された組成物を得ることができる。
第2工程は、第1工程で得られた組成物に、成分(g)および成分(k)を加え、更に加熱下に混練して部分架橋を生じせしめる。このときの温度は、好ましくは180〜240℃である。このように成分(a)〜成分(f)を予め溶融混練してミクロな分散を生じせしめてから、成分(g)を加えて混練を加熱処理下に行い、部分架橋物を生成させることが、特に好ましい物性をもたらす。この工程は、一般に、二軸押出機、バンバリーミキサー等を用いて混練する方法で行うことができる。
上記第1および第2工程については、単一工程とし、各成分を混合して溶融混練することも可能である。
第3工程は、第2工程で得られた部分架橋した組成物に、各成分の残量を加えて混練する。混練温度は、好ましくは180〜240℃である。混練は、一般に、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサーあるいは各種のニーダーなどを用いて行うことができる。この工程で、各成分の分散がさらに進むと同時に、反応が完了する。
また、前記第1、第2および第3工程を併せて単一工程とし、各成分を一括して溶融混練することも可能である。
また、前記第1工程において成分(c)、(d)、(e)、(f)、(B)の全量を加え、その後第2工程を経て本発明の難燃性樹脂組成物を得てもよい。
【0034】
本発明の難燃性樹脂組成物は絶縁電線、電気ケーブル、電気コードなどの被覆材として使用するもので、特に電気・電子機器の内部および外部配線に使用される配線材や光ファイバ心線、光ファイバコードなどの成形部品被覆、製造に適する。
本発明の樹脂組成物を配線材の被覆材として使用する場合には、好ましくは押出被覆により、導体の外周に形成した少なくとも1層の前記本発明の難燃性樹脂組成物からなる被覆層を有すること以外、特に制限はない。例えば、導体としては軟銅の単線又は撚線などの公知の任意のものを用いることができる。また、導体としては裸線の他に、錫メッキしたものやエナメル被覆絶縁層を有するものを用いてもよい。
本発明の配線材は、本発明の難燃性樹脂組成物を、汎用の押出被覆装置を用いて、導体周囲や絶縁電線周囲に押出被覆することにより製造することができる。このときの押出被覆装置の温度は、シリンダー部で約180℃、クロスヘッド部で約200℃程度にすることが好ましい。
本発明の配線材においては、導体の周りに形成される絶縁層(本発明の難燃性樹脂組成物からなる被覆層)の肉厚は特に限定しないが通常0.15mm〜5mm程度である。
【0035】
また、本発明の配線材においては、本発明の樹脂組成物を押出被覆してそのまま被覆層を形成することが好ましいが、さらに耐熱性を向上させることを目的として、押出後の被覆層を架橋させることも可能である。但し、この架橋処理を施すと、被覆層の押出材料としての再利用は困難になる。
架橋を行う場合の方法として、常法による電子線照射架橋法や化学架橋法が採用できる。
電子線架橋法の場合は、樹脂組成物を押出成形して被覆層とした後に常法により電子線を照射することにより架橋をおこなう。電子線の線量は1〜30Mradが適当であり、効率よく架橋をおこなうために、被覆層を構成する樹脂組成物に、トリメチロールプロパントリアクリレートなどのメタクリレート系化合物、トリアリルシアヌレートなどのアリル系化合物、マレイミド系化合物、ジビニル系化合物などの多官能性化合物を架橋助剤として配合してもよい。
化学架橋法の場合は、樹脂組成物に有機パーオキサイドを架橋剤として配合し、押出成形して被覆層とした後に常法により加熱処理により架橋をおこなう。
【0036】
本発明を光ファイバ心線または光コードに適用する場合は、汎用の押出被覆装置を使用して、本発明の難燃性樹脂組成物を被覆層として、光ファイバ素線の周囲に、または抗張力繊維を縦添えもしくは撚り合わせた光ファイバ心線の周囲に押出被覆することにより、製造される。このときの押出被覆装置の温度は、シリンダー部で180℃、クロスヘッド部で約200℃程度にすることが好ましい。
本発明の光ファイバ心線は、用途によってはさらに周囲に被覆層を設けないでそのまま使用される。
なお、本発明の光ファイバ心線またはコードは本発明の難燃性樹脂組成物を被覆層として、光ファイバ素線または心線の外周に被覆されたものすべてを包含し、特にその構造を制限するものではない。被覆層の厚さ、光ファイバ心線に縦添えまたは撚り合わせる抗張力繊維の種類、量などは、光ファイバコードの種類、用途などによって異なり、適宜に設定することができる。
【0037】
図2〜4に、本発明の光ファイバ心線およびコードの構造例を示す。
図2は、光ファイバ素線1の外周に直接、難燃性樹脂組成物からなる被覆層2を設けた本発明の光ファイバ心線の一実施例の断面図である。
図3は、複数の抗張力繊維4を縦添えした1本の光ファイバ心線3の外周に被覆層5を形成した本発明の光ファイバコードの一実施例の断面図である。
図4は、2本の光ファイバ心線3および3の外周にそれぞれ複数の抗張力繊維4を縦添えし、さらにその外周に被覆層6を形成した本発明の光ファイバコード(光ファイバ2心コード)の一実施例の断面図である。
【0038】
なお、前記の難燃性樹脂組成物は成形部品の材料としても転用でき、その形状は制限されるものではなく、例えば、電源プラグ、コネクター、スリーブ、ボックス、テープ基材、チューブ、シート等を挙げることができる。これらの成形部品は、通常の射出成形等の成形方法により本発明の難燃性樹脂組成物から成形される。
【0039】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、組成を示す部の数字は特に断わりがない場合、質量部を示す。
【0040】
(a)成分として水素化スチレン・エチレン・プロピレン・スチレン共重合体(SEPS)、(b)成分としてパラフィンオイル、(c)成分として表記載のエチレン−αオレフィン共重合体、(d)成分として表記載のポリプロピレン、(e)成分として2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペロオキシ)−ヘキサン、(f)成分としてトリエチレングリコールジメタクリレート、(g)成分としてマレイン酸変性のポリエチレン、(B)成分として水酸化マグネシウムを用い、各成分を表1、表2に示すような配合量とし組成物を調製した。
【0041】
実施例及び比較例は、すべての成分を室温でドライブレンドし、200℃でバンバリーミキサーを用いて加熱混練して、排出し、難燃性樹脂組成物を得た。排出温度は200℃で行った。
【0042】
得られた樹脂組成物から、プレスにより、各実施例、比較例に対応する1mmシートを作成した。
次に、電線製造用の押出被覆装置を用いて、導体(導体径:1.14mmφ錫メッキ軟銅撚線 構成:7本/0.18mmφ)上に、あらかじめ溶融した絶縁被覆用の樹脂組成物を押出被覆して、外径2.74mmの絶縁電線を製造した。
また圧接加工評価用電線用として電線製造用の押出被覆装置を用いて、導体(導体径:0.48mmφ錫メッキ軟銅撚線 構成:7本/0.16mmφ)上に、あらかじめ溶融した絶縁被覆用の樹脂組成物を押出被覆して、外径0.98mmの絶縁電線を製造した。
また摩耗性評価用電線用として電線製造用の押出被覆装置を用いて、導体(導体径:1.14mmφ錫メッキ軟銅撚線 構成:30本/0.18mmφ)上に、あらかじめ溶融した絶縁被覆用の樹脂組成物を押出被覆して、外径2.1mmの絶縁電線を製造した。
得られた各シートについて、引張特性(伸び(%)及び抗張力(MPa))、加熱変形特性を評価し、その結果を表1、表2に併せて示した。各特性はJISK 6723に基づいて行い、加熱変形試験は121℃で行った。
シートの各特性については、伸びは100%以上、抗張力10MPa以上を合格とし、加熱変形については変形率30%以下を合格とした。
【0043】
また、外径2.74mmの絶縁電線の被覆層について、引張特性、水平燃焼試験、60度傾斜燃焼試験、耐熱老化試験、耐油性、押し出し性試験を行い各特性を評価し、その結果を表1、表2に併せて示した。
また外径0.98mmの絶縁電線を用い圧接加工性を、また外径2.1mmの電線を用い摩耗性の評価を行った。
引張特性は、各絶縁電線の絶縁体(被覆層)の抗張力(MPa)と破断伸び(%)を、標線間隔25mm、引張速度500mm/分の条件で測定した。伸びは100%以上、強度は10MPa以上必要である。
耐熱老化試験は136℃168時間の条件で行った。伸び残率は65%以上、抗張力残率は70%以上が必要である。
耐油性試験は70℃×4時間で、JIS C 3005に基づいて評価を行った。伸び残率は65%以上、抗張力残率は70%以上が必要である。
耐摩耗性は、図5に正面図を示した試験装置を用いて評価した。長さ75cmに切断して両端部の絶縁被覆層(7a)を剥いで導体(7b)を剥き出しにした絶縁電線(7)を水平な台(8)の上にクランプ(9)で固定し、絶縁電線の軸方向に10mm以上の長さにわたり、毎分50〜60回の速さで荷重(10)700gfを掛けながらブレード(11)を(図中の矢印の向きに)往復運動させて、絶縁被覆層が摩耗により除かれてブレードが電線の導体に接触するまでに要したブレードの往復回数を測定した。図6にブレードの正面図を示すが、ブレード(11)は、なす角が90°となるように2つの面(11a、11b)により巾3mmの刃部を形成してなり、刃部の先端部の曲率半径(R)は0.125mmである。前記ブレードが電線の導体に接触するまでのブレードの往復回数が800回以上であったものを○、300回以上800回未満であったものを△、300回未満であったものを不合格として×で示した。△以上が実用上問題のないレベルであり、合格である。
【0044】
水平燃焼試験は、各絶縁電線について、JIS C 3005に規定される水平燃焼試験をおこない、30秒以内で自消したものを合格としてカウントし、10個中の合格数を示した。
60度燃焼試験は、各絶縁電線について、JIS C 3005に規定される60゜傾斜燃焼試験をおこない、30秒以内で自消したものを合格としてカウントし、10個中の合格数で示した。
なお、難燃性については、前記2種の燃焼試験の両方に合格する必要はなく、水平燃焼試験において全ての供試体が試験に合格するものを燃焼試験に合格とする。
押し出し性試験は、30mmφの押出機で押し出しを行い、モーター負荷が正常範囲内で押し出しが行えたもので外観良好なものを○、押し出し負荷がやや大きいものや外観がやや悪かったものを△、押し出し負荷が著しく大きく押し出し困難又は不可なものを×として評価した。△以上が実用上問題のないレベルであり合格である。
圧接加工性はAMP社のCTコネクタを用い、圧接加工性の評価を行い、○、×で評価を行った。これを図7に従って説明すると、同図に示すようにコネクタに絶縁電線を押し込み、固定することが行われる。
具体的には図7(イ)は平面図、同(ロ)は図7(イ)図のA−A線断面図であり、図中20は絶縁電線、21は圧接刃22を有するコネクタである。図7(イ)では圧接刃22aにより、被覆材が剥れて導体23が露出してしまっている。下方の圧接刃22bの部分ではこの故障は生じていない。絶縁電線を固定するストレインリリーフ部25では固定の際、絶縁電線はなるべく変形しないことが望まれるが、図7(ロ)の場合は固定片24により、被覆材が盛り上がり、変形が激しく、固定不良となっている。
○:ストレインリリーフ部での被覆部の盛り上がりが無いか小さく、圧接刃の部分で被覆が割れていない。
×:ストレインリリーフ部での被覆部の盛り上がりが激しいか、圧接部で被覆が割れている。
【0045】
表中に示す各化合物としては下記のものを使用した。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
表の結果から明らかなように、実施例1〜13で得られた難燃性樹脂組成物とこれを用いたシート、電線は、耐摩耗性、耐油性及び圧接加工性のいずれも優れ、かつ、通常、必要とされる伸び、抗張力を有し、燃焼試験、加熱老化試験の結果のいずれも良好で、さらに押し出し性にも優れていた。また、表1、表2に示された電線の伸び、抗張力、耐摩耗性、押し出し性により、本発明の難燃性樹脂組成物は光ファイバコードや光ファイバ心線の被覆にも好適に用いることができることがわかる。
【0055】
【発明の効果】
本発明によれば、難燃性、耐熱性、機械特性に優れ、かつ燃焼などの廃棄時においては、腐食性ガスの発生がなく、昨今の環境問題に対応した電線又は光ファイバ被覆用難燃性樹脂組成物と配線材を提供しうる。さらに本発明によれば、これらの特性を満足しながら、被覆材料の再溶融が可能なために再利用でき、傷つきにくい難燃性樹脂組成物およびそれを使用した配線材、光ファイバ心線、光ファイバコードを提供しうる。
特に、本発明の配線材は、圧接加工性に優れ、機械特性、難燃性及び耐熱性に優れるとともに、耐油性、耐摩耗性に優れる。
また、本発明の配線材の被覆層は、高い耐熱性を有しながら、被覆材料として再溶融可能な材料を用いて形成される。したがって、リサイクル性に富む配線材の提供を可能とするものである。
以上から、本発明の配線材は、環境問題を考慮した電気・電子機器用配線材、例えば電源ケーブルなどとして非常に有用なものである。
本発明の難燃性樹脂組成物は、このように配線材や、光ファイバ心線、光ファイバコード等の被覆材料として用いられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ブテン−1成分とポリプロピレン成分からなるアタクチックポリプロピレン重合体のDSCチャートである。
【図2】光ファイバ素線の外周に直接、被覆層を設けた本発明の光ファイバ心線の一実施例の断面図である。
【図3】複数の抗張力繊維を縦添えした1本の光ファイバ心線の外周に被覆層を形成した本発明の光ファイバコードの一実施例の断面図である。
【図4】2本の光ファイバ心線の外周にそれぞれ複数の抗張力繊維を縦添えし、さらにその外周に被覆層を形成した本発明の光ファイバコードの別の実施例の断面図である。
【図5】耐摩耗性の試験装置の正面図である。
【図6】図5に示した耐摩耗性の試験装置中のブレードの正面図である。
【図7】電線を固定したコネクタの説明図であり、(イ)は平面図、(ロ)は断面図である。
【符号の説明】
1 光ファイバ素線
2 被覆層
3 光ファイバ心線
4 抗張力繊維
5 被覆層
6 被覆層
7 絶縁電線
7a 絶縁被覆層
7b 導体
8 台
9 クランプ
10 荷重
11 ブレード
11a、11b ブレードの刃部の面
12 電線サンプル
20 絶縁電線
21 コネクタ
22、22a、22b 圧接刃
24 固定片
25 ストレインリリーフ部
Claims (5)
- (a)ビニル芳香族化合物をその構成成分の主体とした少なくとも2個の重合体ブロックAと、共役ジエン化合物をその構成成分の主体とした少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体、および/またはこれを水素添加して得られる水添ブロック共重合体100質量部、(b)非芳香族系ゴム用軟化剤0〜130質量部、(c)エチレン・α−オレフィン共重合体400質量部を越え3800質量部以下、並びに(d)ポリプロピレン樹脂200質量部を越え2500質量部以下からなる熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対して、(e)有機パーオキサイド0.01〜0.6質量部、(f)(メタ)アクリレート系および/またはアリル系架橋助剤0.03〜1.8質量部、並びに金属水和物(B)を50〜300質量部の割合で含有し、前記金属水和物(B)は、
(i)前記金属水和物(B)が50質量部以上100質量部未満の場合は、前記熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対してシランカップリング剤で前処理された金属水和物が50質量部以上;
(ii)前記金属水和物(B)が100質量部以上300質量部以下の場合は、金属水和物(B)の少なくとも半量が、シランカップリング剤で前処理された金属水和物である
組成の混合物であって、前記熱可塑性樹脂成分(A)の溶融温度以上で加熱・混練してなる電線又は光ファイバ被覆用難燃性樹脂組成物。 - (a)ビニル芳香族化合物をその構成成分の主体とした少なくとも2個の重合体ブロックAと、共役ジエン化合物をその構成成分の主体とした少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体、および/またはこれを水素添加して得られる水添ブロック共重合体100質量部、(b)非芳香族系ゴム用軟化剤0〜130質量部、(c)エチレン・α−オレフィン共重合体400質量部を越え3800質量部以下、並びに(d)示差走査熱量計により測定される融点(Tm)が163℃以下であり、かつ結晶融解熱量(△Hm)が55J/g以下であるアタクチックポリプロピレン重合体を主成分とするポリプロピレン樹脂200質量部を越え3800質量部以下からなる熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対して、(e)有機パーオキサイド0.01〜0.6質量部、(f)(メタ)アクリレート系および/またはアリル系架橋助剤0.03〜1.8質量部、並びに金属水和物(B)を50〜300質量部の割合で含有し、前記金属水和物(B)は、
(i)前記金属水和物(B)が50質量部以上100質量部未満の場合は、前記熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対してシランカップリング剤で前処理された金属水和物が50質量部以上;
(ii)前記金属水和物(B)が100質量部以上300質量部以下の場合は、金属水和物(B)の少なくとも半量が、シランカップリング剤で前処理された金属水和物である
組成の混合物であって、前記熱可塑性樹脂成分(A)の溶融温度以上で加熱・混練してなる電線又は光ファイバ被覆用難燃性樹脂組成物。 - 前記(d)ポリプロピレン樹脂が、示差走査熱量計により測定されるポリプロピレン成分の融点(Tm)が160℃以下であり、かつ結晶融解熱量(△Hm)が40J/g以下であるアタクチックポリプロピレン重合体を主成分とすることを特徴とする請求項1記載の電線又は光ファイバ被覆用難燃性樹脂組成物。
- 前記難燃性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂成分(A)100質量部に対して、シリコーン化合物を0.5〜12質量部加えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電線又は光ファイバ被覆用難燃性樹脂組成物。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載の難燃性樹脂組成物を導体、または光ファイバ素線または/および光ファイバ心線の外側に被覆層として有することを特徴とする配線材。
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