JP3992978B2 - 耐熱構造体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、焼成炉等の炉壁に用いて好適な耐熱性構造体の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
電子部品の焼成炉等においては、壁体からの発塵が極力小さいことが望まれる。一方で、焼成炉の炉壁に用いられる断熱材としては、耐熱性が高く低熱容量であることから、主としてアルミノシリケート質繊維を用いてなる耐熱構造体が採用されている。しかし、アルミノシリケート質繊維を用いた耐熱構造体は、発塵が比較的多いという問題があり、半導体やディスプレイといった電子部品などクリーン性が求められる製造環境の利用には向いていない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本願の発明者らは、上記問題を解消するものとして、先に特願2000−386896(特開2001−278680)で改良された耐熱構造体を提案している。
前記耐熱構造体とは、無機繊維質成形体(以下、耐熱基材と呼ぶ)の表面に、コロイダルシリカ等の無機バインダーに有機バインダー(例えば、ポリエチレンオキサイド)を加えて調製してなるコーティング剤を塗布し、耐熱被覆層を形成した構造体である。
【0004】
前記コーティング剤の組成物である無機バインダーは、得られる耐熱被覆層にある程度の強度を付与するために必要なものであり、一方、有機バインダーは、コーティング剤を塗布し易い粘度に調製するために必要なものとしている。
【0005】
しかし、上記コーティング剤による耐熱被覆層を有する耐熱構造体にあっては、炉内の処理温度の上昇により被覆層に含まれる有機バインダーが揮発して被加熱製品が汚染されたり、被膜にクラックが生じてしまうといった不都合が生じることが懸念される。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、より高い耐熱性を有し、かつ表面からの発塵を抑制できると共に加熱時に被加熱製品を汚染する有害物質を発生することのない改良された耐熱構造体を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、耐熱基材に耐熱被覆層を形成してなる耐熱構造体であって、前記耐熱被覆層は、粉末状耐熱材料60〜90重量%と、無機バインダー5〜30重量%と、平均粒子径5〜40nmのフュームドシリカ0.5〜5重量%からなるコーティング剤とで形成されていることを要旨とする。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載の耐熱構造体において、前記コーティング剤は、1〜20重量%の繊維状耐熱材料をさらに含むことを要旨とする。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載の耐熱構造体において、前記耐熱被覆層の表面には、コロイダルシリカを主材とするコーティング層が形成されていることを要旨とする。
【0012】
請求項4の発明は、請求項3に記載の耐熱構造体において、前記コロイダルシリカを主材とするコーティング層は、平均粒子径50〜600nmのコロイダルシリカ70〜95重量%と、無機バインダー5〜30重量%とからなるコーティング剤で形成されることを要旨とする。
【0013】
請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれか1つに記載の耐熱構造体において、前記耐熱基材は、無機質成形体で形成されていることを要旨とする。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の好ましい実施の形態としては、耐熱基材に耐熱被覆層を形成してなる耐熱構造体において、前記耐熱被覆層を、粉末状耐熱材料60〜90重量%と、無機バインダー5〜30重量%と、増粘材0.5〜5重量%とからなるコーティング剤で形成する。
【0015】
前記耐熱被覆層によれば、耐熱基材に繊維質成形体が用いられた場合でも、繊維質成形体から発生する発塵を抑えることができる。
【0016】
前記コーティング剤に用いる耐熱材料としては、アルミナ、ムライト、シリカ、コージェライト、マグネシア、ジルコニア等の耐熱性のある無機材料から任意に選択されればよく、2種以上の材料を混合して用いても良い。耐熱性の観点からは好ましくはアルミナまたはムライトを使用することが望まれる。
【0017】
また、前記耐熱被覆層の熱膨張係数は、耐熱基材の熱膨張係数に対して−25〜+25%、好ましくは−10〜+10%、さらに好ましくは−5〜+5%の範囲になるようにすることが好ましい。
【0018】
一般的に、接触する2つの材料の熱膨張係数が異なると、加熱した際、一方の材料の熱膨張が他方の熱膨張を拘束し、熱応力が発生する。この熱応力が材料の亀裂や破壊、剥離等の原因となる。
【0019】
この場合、高温時においても前記耐熱基材と耐熱被覆層との熱膨張差から生じる亀裂や破壊、剥離等を防ぐことができ、耐熱性を高めることができる。ここで、前記耐熱基材および耐熱被覆層の熱膨張率は、JIS−R1618:ファインセラミックスの熱機械分析による熱膨張の測定方法に準じた測定方法で測定されればよく、測定した耐熱基材の熱膨張率をもとに前記コーティング剤に用いる耐熱性材料の熱膨張率を考慮して、その耐熱材料の中から任意に選択して耐熱被覆層の熱膨張率を調整すればよい。
【0020】
また、コーティング剤に用いる耐熱材料には、粉末状耐熱材料のほかに、繊維状耐熱材料が含まれていても良い。この場合、耐熱被覆層の亀裂進展抵抗力としての靭性が向上し、亀裂を発生させる応力集中を緩和させることができる。したがって、耐熱被覆層の破壊には大きなエネルギーが必要となり、その結果、クラックの伝搬を防止することができる。
【0021】
上記コーティング剤としては、平均粒子径1〜40μmの粉末状耐熱材料60〜90重量%と、平均粒子径1〜50nmのコロイダルシリカを主成分とするバインダー5〜30重量%と、平均繊維長30〜200μmの繊維状耐熱材料1〜20重量%と、増粘材0.5〜5重量%とを含有する組成物からなるコーティング剤が好ましい。
【0022】
上記コーティング剤は、耐熱基材の表面にスプレーなどを用いて塗布し、例えば室温で30分程度乾燥させたのち、約105℃の乾燥機内で1時間以上乾燥させればよい。こうして耐熱基材の表面には厚さ50μm〜1mmの耐熱層が形成される。また、コーティング剤の塗布にはハケやヘラ、ローラーなどを使用した公知の方法で塗布してもよい。
【0023】
コーティング剤の塗布量としては、耐熱基材の表面に固形分換算で0.01〜1g/cm2の面密度で塗布することが好ましく、コーティングの耐熱被覆層の厚さは50μm〜1mmの範囲であることが好ましい。耐熱被覆層が50μmより小さいと強度も弱く低発塵の効果が得られにくく、1mmを超えると乾燥時のクラック発生の原因となるので好ましくない。
【0024】
上記のようにして得られる耐熱被覆層は、後述する実施例にも示されるように、1200℃程度までの耐熱性に加えて、優れた低発塵性、平滑性を有している。また、製造工程における乾燥時や熱衝撃を受けた際に亀裂が生じたりすることがない。これは、上述したように繊維材による補強対策を行っていることと、耐熱基材と熱膨張係数を揃えることによって熱応力を緩和しているためと推察される。このことは、耐熱被覆層として考えた場合に熱衝撃を受けることで、発塵し易くなったり、剥がれやすくなったりする問題を抑える点で有効なものとなる。
【0025】
前記コーティング剤に使用されるコロイダルシリカとしては、市販のもの(粒子径1〜50nm)でよいが、好ましくは、その粒度を調整する必要がある。好ましい粒子径の範囲は、一般的に1〜40nmであり、粒子径が1nm未満であると、バインド力は強いが脱水縮合時の収縮が大きくなり、マイクロクラックが発生しやすくなる。一方、粒子径が40nmを超えるとバインダーとしての強度が弱くなり、発塵しやすくなるので好ましくない。特に好ましい粒子径の範囲は1〜30nmである。
【0026】
コーティング剤の組成物中のコロイダルシリカの割合は5〜30重量%とされるが、好ましくは、10〜25重量%である。割合が10重量%未満になると、バインダーとしての作用が不十分となり、機械的強度が低下し十分な接着力が得られない。一方、25重量%を超えると一般的に機械的強度が増加するが、耐熱材料の割合が減少するために耐熱被覆層に亀裂が生じやすくなり、加えて耐熱被覆層の機械的強度が小さくなるという不都合を生じるので好ましくない。
【0027】
また、前記コーティング剤に添加される粉末状耐熱材料としては、アルミナ、ムライト、シリカ、コージェライト、マグネシア、ジルコニアといった耐熱性の無機材料を挙げることができる。また、熱膨張係数を調節するためにこれら2種以上の材料を混合して用いてもよい。耐熱性の観点からは好ましくはアルミナまたはムライトを使用することが望まれる。また、熱膨張係数を調節するために、上記材料から選択されればよい。前記粉末状耐熱材料の平均粒径は1〜40μmとされるが、好ましくは、1〜30μmである。平均粒子径が1μm未満になると、亀裂が発生しやすくなり、30μmを超えるとコーティングの強度低下、平滑性の低下を引き起こすので好ましくない。
【0028】
また、前記粉末状耐熱材料は、平均粒径分布の異なる大粒径の粉末状耐熱材料と小粒径の粉末状耐熱材料とを併用することがさらに好ましい。こうした場合、大粒径の粉末状耐熱材料同士の隙間に小粒径の粉末状耐熱材料が入り込むことができる。したがって、コーティングによる耐熱被覆層において粉末状耐熱材料の充填密度が高くなり、耐熱被覆層の強度が増す。
【0029】
コーティング剤の組成物中の粉末状耐熱材料の割合は、一般的に固形分換算で60〜90重量%、好ましくは65〜85重量%とされる。粉末状耐熱材料の割合が65重量%未満になると相対的に繊維量が減りクラックが発生しやすくなるという不都合を生じる。一方、85重量%を超えると強度が弱くなるので好ましくない。
【0030】
さらに、コーティング剤に添加される繊維状耐熱材料としては、アルミナ繊維、ムライト繊維、アルミノシリケート繊維といった耐熱性の無機繊維を挙げることができる。これらの材料は、熱膨張係数を調整するために任意に選択されればよい。また、これら2種以上の材料を混合して用いてもよい。さらにまた、これらの無機繊維においては、無機繊維中のショット含有率が5重量%以下であることが望ましい。ここで、ショットとは、無機繊維を製造過程において、繊維とならなかった非繊維のことをいう。ショットは、溶融状態の繊維の出発材料を飛ばして繊維化する際に飛翔する先端部(この先端部が飛んだ後に尾を引いた部分が繊維となる)が最終的に残存することで生成される。
【0031】
無機繊維材料の平均繊維長を30〜200μmとするのは、コーティング剤として要求される要求事項を満足するためである。
無機繊維材料は、その存在によって得られるコーティング層(耐火被覆層)を補強し、クラックが発生しにくくするものである。
しかし、平均繊維長が30μm以下では補強効果が小さく、目的とする強度を有したコーティング層が得られない。また、繊維長が200μm以上となると、コート剤を塗布した際に繊維が凝集あるいは絡み合い、適当な分散性が得られなくなるので好ましくない。即ち、コート層中で繊維が凝集しあるいは絡み合い、適当な分散性が得られなくなると、コーティング層の材質に局所的な粗密が生成され、クラックが発生しやすくなるので、そうならないようにするために繊維長は200μm以下とすることが好ましい。
【0032】
また、無機繊維の配合割合を1〜20重量%とするのは、塗布性(塗布のしやすさ)を満足しつつ、同時に必要とする補強効果を得るためである。
また、コーティング剤中の無機繊維材料は、基材に含まれる無機繊維材料と同じ材料とすることが好ましい。こうすることで、基材とコート層の熱膨張率あるいは熱的な性質を近づけることができ、クラックの発生やコート層の剥離の問題をさらに抑制できる。
【0033】
コーティング剤に添加される増粘材としては、例えば、ベントナイトやスメクタイトといった粘土が使用されてもよい。
【0034】
増粘材は、コーティング層を塗布しやすく、また必要とする物性を有するコーティング層(耐火被覆層)を得るために重要な役割を果たす。
増粘材は0.5〜5重量%とすることで、良好な塗布性に必要とされるコーティング剤の伸び(良好な塗布性)が得られ、またコーティング層を形成する際に必要な保水性が得られる。
保水性が適当でないと、コーティング剤を塗布した際にコロイダルシリカ等の無機バインダーが耐熱基材にしみ込み過ぎ、コーティング層を保持するのに必要なバインド効果が得られなくなる。また、無機バインダーが基材にしみ込むことで無機粒子が表面に浮いた存在となり、期待に反して無機粒子が飛散しやすい状態となってしまう。即ち、かえって粉っぽいものとなってしまう。
また、保水性を適当なものとすることで、無機バインダーが適度に基材にしみこみ、耐熱基材とコーティング層との結合力を高くし、コーティング層が耐熱基材から剥離しにくいものが得られる。
増粘材の配合量を上記範囲とすることで、上述した適当な保水性を有したコーティング剤を得ることができる。
【0035】
前記増粘材には平均粒子径100nm未満のアルミナ、ムライト、シリカ、コージェライト、マグネシア、ジルコニアといった耐熱性の無機材料からなる微粉末状耐熱材料が含有されることが好ましい。さらに、このような微粉末状耐熱材料としては、フュームドシリカがより好ましい。
【0036】
ここで、フュームドシリカ(Fumed Silica)とは、酸水素炎中に揮発性シラン化合物、主として四塩化珪素をガス状態で導入し高温下で加水分解することにより得られる平均粒径5〜40nmの超微粉末状のシリカをいう。このフュームドシリカによれば、個々のフュームドシリカ粒子の表面にあるシラノール基が水素結合して三次元網目構造を形成するため、液体に少量添加することにより、その流動性を大きく改善することができる。その結果、有機物を用いずに組成物の粘度を高めることができる。こうした場合、有機物を添加することなくコーティング剤を製造することができるので、加熱時に発煙や臭いを発する問題もなく、使用時においても被加熱製品が汚染されることがなくなる。
【0037】
増粘材に含有される微粉末状耐熱材料の平均粒子径は5〜40nm、好ましくは5〜30nmである。微粉末状耐熱材料の平均粒子径が5nmより小さいと増粘性が強すぎ、40nmを超えると微粉末状耐熱材料の比表面積が小さくなり増粘性が弱くなり好ましくはない。
【0038】
さらに、コーティング剤組成物は、水の添加により任意の粘度とすることができ、1〜5000cPの範囲が好ましい。組成物中の水分量は、固形分合計100重量部に対して、50〜150重量部であることが好ましく、80〜100重量部であることがさらに好ましい。
【0039】
また、本発明の耐熱構造体は、前記コーティング剤の耐熱被覆層の表面に、その耐熱被覆層と組成の異なるコーティング剤による耐熱被覆層(以下、平滑層と呼称する)が形成されていてもよい。
【0040】
ここで、前記平滑層の組成とは、後述する耐熱材料の種類や配合割合の違いだけでなく、使用される耐熱材料の粒径の違いを含む。例えば、このような違いは顕微鏡などを使用して前記耐熱被覆層と平滑層の境目を目視で確認できれば良い。
【0041】
上記平滑層を実現するために、例えば、平均粒子径50〜600nmのコロイダルシリカ70〜95重量%と、平均粒子径1〜50nmのコロイダルシリカ5〜30重量%とを含有する組成物からなるコーティング剤が提供されればよい。
【0042】
上記コーティング剤は、前記耐熱被覆層の表面にスプレーなどを用いて塗布され、例えば室温で30分程度乾燥させたのち、約105℃の乾燥機内で1時間以上乾燥させればよい。こうして耐熱基材の表面または前記耐熱被覆層の表面には厚さ5〜100μmの平滑層が形成される。また、コーティング剤の塗布にはハケやローラーのようなもので塗布されてもよい。
【0043】
このようにして得られる平滑層は、後述される実施例にも示すように、1200℃程度までの耐熱性に加えて、優れた低発塵性、平滑性を有している。また、製造工程における乾燥時や熱衝撃を受けた際に亀裂が生じたりすることがない。これは、平滑層に用いる粒子が微細であることと同時にミクロンオーダーでの多孔性を持っているため、耐熱衝撃性が良好であるとともに剥離や発塵を防止できるためと推察される。このことは、平滑層として考えた場合に熱衝撃を受けることで、発塵し易くなったり、剥がれやすくなったりする問題を抑える点で有効なものとなる。
【0044】
平滑層コーティング剤の塗布量としては、前記耐熱基材の表面に固形分換算で0.003〜0.05g/cm2の面密度で塗布することが好ましく、層の厚さは5〜100μmの範囲であることが好ましい。5μm未満であると十分な平滑性が得られず、100μmを超えると乾燥時の割れ等を引き起こすので好ましくない。
【0045】
前記組成物に使用されるコロイダルシリカとしては、市販のもの(平均粒子径1〜50nm)でよいが、好ましくは、その粒度を調整する必要がある。好ましい平均粒子径の範囲は、一般的に1〜40nmであり、粒子径が1nm未満であると、バインド力は強いが脱水縮合時の収縮が大きくなり、マイクロクラックが発生しやすくなる。一方、粒子径が40nmを超えるとバインダーとしての強度が弱くなるため、発塵しやすくなるので好ましくない。特に好ましい粒子径の範囲は1〜30nmである。
【0046】
平滑層を形成するコーティング剤組成物中の平均粒子径1〜50nmのコロイダルシリカの割合は、5〜30重量%とされるが、好ましくは、10〜25重量%である。割合が10重量%未満になると、バインダーとしての作用が不十分となり、機械的強度が低下し十分な接着力が得られない。一方、25重量%を超すと一般的に機械的強度が増加するが、耐熱材料としての割合が減少するために平滑層に亀裂が生じやすくなり、加えて平滑層の機械的強度が小さくなるという不都合を生じるので好ましくない。
【0047】
また、前記平滑層を形成するコーティング剤組成物に使用されるコロイダルシリカには平均径5〜20nm、平均長40〜300nmの細長い形状をしたものが使用されてもよい。このような形状のコロイダルシリカによれば、粒状のコロイダルシリカと比べて、周囲の粒子との絡みつきが良くなり、耐熱基材への浸透が防止されて良好な被膜性を得ることができる。また、容易に増粘性を高めることができ、溶媒としての水が耐熱基材へ浸透することを防止できる。その結果、粒子間のバインド力が強くなり平滑層の表面は良好な平滑性が得られる。
【0048】
また、平滑層を形成するコーティング剤組成物中には、平均粒径0.1〜5μmの粉末状耐熱材料が1〜30重量%含有されていてもよい。この粉末状耐熱材料によれば、例えば、加熱時に脱水縮合によってコロイダルシリカが収縮した場合でも、粉末状耐熱材料がわずかに熱膨張することによってコロイダルシリカの収縮量を埋め合わせをすることができる。その結果、高温時に発生する微細なクラックの発生を防止することができる。
【0049】
前記コーティング剤組成物中に添加される耐熱材料としては、アルミナ、ムライト、シリカ、コージェライト、マグネシア、ジルコニアといった耐熱性の無機材料を挙げることができる。また、これら2種以上の材料を混合して用いてもよい。
【0050】
さらに、上記組成物は水の添加により任意の粘度とすることができ、1〜5000cPの範囲が好ましい。組成物中の水分量は、固形分合計100重量部に対して、100〜300重量部であることが好ましく、150〜250重量部であることがより好ましい。
【0051】
本発明に係る前記耐熱被覆層および平滑層を形成するコーティング剤を製造する際に、バインダーと耐熱性材料およびその他の補助剤の混合方法としては公知の方法を用いることができ、通常、羽根撹拌、ライカイ器などによる混合、ボールミルなどによる混合などが使用できる。
【0052】
本発明において、前記耐熱被覆層が形成される耐熱基材としては、例えば、アルミナ繊維やアルミノシリケート繊維といった耐熱性繊維の成形体からなる繊維質断熱材や、耐熱性材料からなる多孔質成形断熱材、ケイ酸カルシウム質成形断熱材などの公知の断熱材などが適当であり、耐熱性をはじめとして、上述した諸特性を付与することができる。特に高温域での耐熱性および低発塵性を備えていることから電子部品の焼成炉などで用いられる断熱材として好適である。
【0053】
【実施例】
以下に本発明の実施例および比較例を挙げて具体的に説明する。
実施例1
水85重量部に対しバインダーとしてのコロイダルシリカ(平均粒径20nm)13重量部と、粉末状耐熱性材料としての平均粒径7μmのムライト粉末50重量部と、同じく粉末状耐熱性材料としての平均粒径2μmのムライト粉末27重量部と、繊維状耐熱材料としてのアルミノシリケート繊維(平均繊維長50μm、平均繊維径2μm)8重量部と、増粘材としてのフュームドシリカ(平均粒径10nm)2重量部とを混合し、良く撹拌して耐熱被覆層用のコーティング剤を得た。
【0054】
耐熱基材としては、アルミノシリケート繊維100重量部、コロイダルシリカ8重量部、有機バインダー(ポリアクリルアミド)1重量部を混合調製したスラリーから吸引脱水成形法により厚さ50mm、幅300mm、長さ300mmの成形体を形成し、それを乾燥させて密度0.25g/cm3、熱膨張係数4.1×10−6/℃のアルミノシリケート繊維質断熱材を得た。
【0055】
次に、前記耐熱基材としてのアルミノシリケート繊維質断熱材の表面に、前記コーティング剤を固形分換算で0.045g/cm2の面密度でスプレーで塗布し、室温で30分乾燥させた後、約105℃の乾燥機で1時間以上乾燥させ、厚さ500μm、熱膨張係数4.0×10−6/℃の耐熱被覆層が耐熱基材上に形成された耐熱構造体を得た。
【0056】
実施例2
水180重量部に対しバインダーとして平均粒径5nmの球状のコロイダルシリカ6重量部と、同じくバインダーとして平均粒径10nm、平均長100nmの細長い形状のコロイダルシリカ6重量部と、耐熱材料としてのコロイダルシリカ(平均粒径500nm)88重量部とを混合し、良く撹拌して平滑層用のコーティング剤を得た。
【0057】
実施例1で得た耐熱構造体(アルミノシリケート繊維質断熱材の耐熱基材の表面に耐熱被覆層が形成された)の表面に前記平滑層用コーティング剤を固形分換算で0.006g/cm2の面密度で塗布し、室温で30分乾燥させた後、約105℃の乾燥機で1時間以上乾燥させ、前記耐熱被覆層の表面に厚さ約30μmの平滑層が形成された耐熱構造体を得た。
【0058】
実施例3
水85重量部に対しバインダーとしてのコロイダルシリカ(平均粒径20nm)13重量部と、粉末状耐熱性材料としての平均粒径5μmのアルミナ粉末77重量部と、繊維状耐熱材料としてのアルミノシリケート繊維(平均繊維長50μm、平均繊維径2μm)8重量部と、増粘材としてのフュームドシリカ(平均粒径10nm)2重量部とを混合し、良く撹拌して耐熱被覆層用のコーティング剤を得た。
【0059】
耐熱基材としては、アルミナ繊維30重量部、アルミナ粒子70重量部、コロイダルシリカ8重量部、有機バインダー(ポリアクリルアミド)1重量部を混合調製したスラリーから吸引脱水成形法により厚さ50mm、幅300mm、長さ300mmの成形体を形成し、それを乾燥させて密度0.70g/cm3、熱膨張係数6.0×10−6/℃のアルミナ繊維質断熱材を得た。
【0060】
次に、前記耐熱基材としてのアルミナ繊維質断熱材の表面に、前記コーティング剤を固形分換算で0.045g/cm2の面密度でスプレー塗布し、室温で30分乾燥させた後、約105℃の乾燥機で1時間以上乾燥させ、アルミナ繊維質断熱材の表面に厚さ約600μm、熱膨張係数6.2×10−6/℃の耐熱被覆層を形成し、さらに、この耐熱被覆層の表面に実施例2で得た平滑用コーティング剤を固形分換算で0.006g/cm2の面密度で塗布し、室温で30分乾燥させた後、約105℃の乾燥機で1時間以上乾燥させ、耐熱層の表面に厚さ約30μmの平滑層が形成された耐熱構造体を得た。
【0061】
実施例4
耐熱基材として、生石灰30重量部、珪石30重量部、ワラストナイト33重量部、シリカ2重量部、カーボンファイバー5重量部を混合調製したスラリーから脱水プレス成形法により厚さ50mm、幅300mm、長さ300mmの成形体を形成し、オートクレーブにて養生して、それを乾燥させて密度が0.80g/cm3、熱膨張係数6.5×10−6/℃のケイ酸カルシウム質断熱材を得た。
【0062】
次に前記耐熱基材としてのケイ酸カルシウム質断熱材の表面に、実施例3の耐熱被覆層用のコーティング剤を固形分換算で0.045g/cm2の面密度でスプレー塗布し、室温で30分乾燥させた後、約105℃の乾燥機で1時間以上乾燥させ、基材表面に厚さ600μm、熱膨張係数6.2×10−6/℃の耐熱被覆層を形成し、さらに実施例2の平滑層用のコーティング剤を固形分換算で0.010g/cm2の面密度でスプレーで塗布し、室温で30分乾燥させた後、約105℃の乾燥機で1時間以上乾燥させ、ケイ酸カルシウム質断熱材の表面に厚さ約50μmの平滑層が形成された耐熱構造体を得た。
【0063】
比較例1
実施例1で用いた耐熱基材であるアルミノシリケート繊維質断熱材(熱膨張係数4.0×10−6/℃)の表面に、水85重量部に対しバインダーとして平均粒径20μmのコロイダルシリカ13重量部と、平均粒径7μmのムライト粉末50重量部と、平均粒径2μmのムライト粉末27重量部と、平均繊維長50μm、平均繊維径2μmのアルミノシリケート繊維8重量部と、ポリエチレンオキサイド0.6重量部と、メチルセルロース1.4重量部とを混合して得たコーティング剤を固形分換算で0.045g/cm2の面密度でスプレーで塗布し、室温で30分乾燥させた後、約105℃の乾燥機で1時間以上乾燥させ、アルミノシリケート繊維質断熱材の表面に、厚さ約600μm、熱膨張係数4.0×10−6/℃の耐熱被覆層が形成し、さらにその表面に、実施例2の平滑用コーティング剤を固形分換算で0.010g/cm2の面密度でスプレー塗布し、室温で30分乾燥させた後、約105℃の乾燥機で1時間以上乾燥させ、厚さ約50μmの平滑層が形成された耐熱構造体を得た。
【0064】
比較例2
実施例3で用いた耐熱基材であるアルミナ繊維質断熱材(熱膨張係数6.0×10−6/℃)の表面に、比較例1で用いた耐熱被覆層のコーティング剤を固形分換算で0.045g/cm2の面密度でスプレーで塗布し、室温で30分乾燥させた後、約105℃の乾燥機で1時間以上乾燥させ、アルミナ繊維質断熱材の表面に、厚さ約600μm、熱膨張係数4.0×10−6/℃の耐熱被覆層を形成し、さらにこの耐熱被覆層の表面に比較例1で得た平滑層用のコーティング剤を固形分換算で0.006g/cm2の面密度で塗布し、室温で30分乾燥させた後、約105℃の乾燥機で1時間以上乾燥させ、耐熱被覆層の表面に厚さ約30μmの平滑層が形成された耐熱構造体を得た。
上記各実施例および比較例で得られた耐熱構造体について、熱衝撃性および発塵性、平滑性を評価した。
【0065】
ここで、熱衝撃性の評価は、1200℃に保持された電気炉に耐熱構造体を投入し、30分保持した後に炉から取り出し、それを強制空冷により冷却した後に被覆表面の状態を目視により観察し、亀裂などの発生のないものを「○」、亀裂などが発生しているが致命的でないものを「△」、使用に耐えないレベルの亀裂等が発生しているものを「×」、として評価した。
【0066】
また、発塵性の評価は、下記のような方法で得られる発塵指数で評価した。
▲1▼サンプル(耐熱構造体)の上面からサンプルの表面に圧力3×104N/m2で「ニチバン製セロテープ;CT−24 幅24mm」を貼り付ける。
▲2▼5秒の静置後、サンプルから粘着テープを剥がす。
▲3▼剥がした粘着テープを黒色紙上に貼り付け、明度指数を測定する。
▲4▼次式により発塵指数を得る。
【0067】
発塵指数=サンプルの明度指数−ブランクの明度指数(n=5)
ここで、白色度とは、色彩色差計(形式「CR−300」、測定ヘッド91mm幅×201mm高さ×60mm奥行×670g重量×測定径8mm、ミノルタ社製)を用いて測定されれば良く、テープに付着する発塵の量が多くなるにしたがって発塵指数は高い数値を示し、付着する発塵の量が少ないほど低い数値を示す。また、ブランクとは粘着テープに何も付着させない状態で黒色紙上に貼り付けたときの明度指数を示す。
【0068】
また、平滑性の評価はSEMによる観察で行った。亀裂が発生せず、かつ表面形状が平坦になっているものを「◎」、亀裂は発生していないが表面形状がやや劣っているものを「○」、亀裂が発生しているものや表面形状が著しく悪いものを「×」として評価した。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示すように、本発明による各実施例の耐熱構造体はすべての評価ともに優れた結果が得られている。しかし、比較例1の耐熱構造体では、使用に耐えないレベルではないが亀裂が生じる。これは、1000℃を超えた温度条件で耐熱被覆層に含まれる有機バインダー由来の有機成分が揮発することに伴い、耐熱被覆層に熱衝撃が加わり微細なクラックが生じてしまったと考えられる。
また、比較例2は、耐熱基材の熱膨張係数に対して、耐熱被覆層の熱膨張係数が25%を下回っているために、耐熱基材と耐熱被覆層との間で熱膨張差による亀裂が発生し、全ての評価において不満足なものになっている。
【0071】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、耐熱性に優れ、表面からの発塵がより抑制された耐熱構造体を提供することができる。
Claims (5)
- 耐熱基材に耐熱被覆層を形成してなる耐熱構造体であって、前記耐熱被覆層は、粉末状耐熱材料60〜90重量%と、無機バインダー5〜30重量%と、平均粒子径5〜40nmのフュームドシリカ0.5〜5重量%からなるコーティング剤とで形成されていることを特徴とする耐熱構造体。
- 前記コーティング剤は、1〜20重量%の繊維状耐熱材料をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の耐熱構造体。
- 前記耐熱被覆層の表面には、コロイダルシリカを主材とするコーティング層が形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の耐熱構造体。
- 前記コロイダルシリカを主材とするコーティング層は、平均粒子径50〜600nmのコロイダルシリカ70〜95重量%と、無機バインダー5〜30重量%とからなるコーティング剤で形成されることを特徴とする請求項3に記載の耐熱構造体。
- 前記耐熱基材は、無機質成形体で形成されていることを特徴とする請求項1〜4いずれか1つに記載の耐熱構造体。
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