JP3986992B2 - バッテリの放電可能容量推定方法及び装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、バッテリの放電可能な容量を推定するバッテリの放電可能容量推定方法及び装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
バッテリは放電或いは充放電によって取り出せる電気量である放電可能容量が時々刻々変化するが、バッテリからの電力供給によって負荷を適切に動作する上で、この放電可能容量を把握することが求められる。例えば、車載のバッテリでは、 車両の種類によってその求められる機能が若干相違するものの、以下のような理由で、その放電可能容量が適切に把握される必要がある。
【0003】
例えば、駆動動力源が燃料の燃焼によって回転力を発生する内燃機関(以下エンジンという。)であるエンジン搭載車では、エンジンの始動を行うためのスタータモータへの電力供給をバッテリから行われるが、バッテリがスタータモータを回転動作させる電力を供給することができなければ、エンジンを始動することができなくなる。エンジンを始動させた後は、エンジンによって駆動させるジェネレータが電力を発生するので、この電力によってバッテリへの充電が行われるとともに、他の負荷が動作されるようになり、バッテリは補助的な位置づけとなる。勿論、ジェネレータが故障したときいは、バッテリは電気的負荷を駆動するための唯一無二の電力供給源となり、重要な役割を果たさなければならなくなる。
【0004】
また、駆動動力源がバッテリからの電力の供給を受けて回転力を発生する電動モータとなっている電気自動車では、バッテリが唯一無二の電力供給源であり、バッテリが電動モータを回転動作する電力を供給することができなければ、自動車の走行が停止してしまう。
【0005】
その他、駆動動力源としてエンジンとバッテリからの電力の供給を受けて回転する電動モータの両方を有するハイブリット車では、バッテリの補助的機能が、走行途中でエンジンを停止し、エンジンに代わって走行の駆動力を発生する電動モータに電力供給する機能分高められているが、基本的には、エンジン搭載車と同様に、エンジンの始動するためのスタータモータを回転動作するだけの電力をバッテリが供給できなければ、エンジンを始動することができなくなる。
【0006】
以上のような背景で、少なくとも、エンジン搭載車においてはスタータモータによってエンジンを始動することができること、或いは、電気自動車においては電動モータによって走行可能なうちにバッテリへの充電が行われることを目安に、バッテリの放電可能容量を把握することが必要とされている。さらに、電気自動車におけるバッテリの放電可能容量はエンジン搭載車における燃料残量に相当するものであるので、容量の量的な把握を行うことも求められる。
【0007】
ところで、バッテリから取り出すことのできる電気量である充電状態は一般にSOCで表され、これに対し、実際に負荷を動作できるような電気量を取り出すことができる放電可能な容量は一般にADCで表される。ADCについては、電流時間積Ahで表される満充電時の充電状態SOCと放電終止電圧時の充電状態SOCとの差に相当する電気量として把握され、場合によっては、満充電時を100%、放電終止電圧時を0%とする容量に対する百分率%で表すこともある。
【0008】
なお、バッテリのSOCは、充放電によってバッテリ内に発生する各種の分極が解消している平衡状態にあるときのバッテリの開放端子電圧である開回路電圧に対し、一定の関係にあることが知られており、この関係を利用して推定或いは実測したバッテリの開回路電圧から求めることが一般に行われる(例えば特許文献1参照。)。勿論、SOCは電流時間積で表されるものであるので、充放電によりバッテリ端子を通じて流れる電流を測定して時間積を取ることによって、時々刻々変化するSOCを把握することもできる。
【0009】
【特許文献1】
特開2002−236157号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように求めたSOCはバッテリから取り出せる電気量ではあるが、バッテリには内部抵抗が存在し、この内部抵抗によって放電電流に応じた大きさの電圧降下が内部的に発生してバッテリ端子電圧が低下するようになる。このため、バッテリの端子電圧が負荷を駆動できる電圧(放電終止電圧)以下に低下するようなSOCとなるような状況の容量は、負荷を駆動するために放電可能な容量とはみることができない。
【0011】
上述した従来のADCの捉え方では、現在のSOCと放電終止電圧に対応するSOCとの差を単にバッテリの放電可能な容量としているため、バッテリに放電可能な容量があるにも拘わらず、負荷を実際に駆動しようとしたとき、駆動することができなくなる状況が発生しかねない。したがって、負荷を確実に駆動できる容量を放電可能な容量として推定する方法及び装置を求める要求がある。
【0012】
よって、本発明は、負荷を確実に駆動できる容量を放電可能な容量として推定するバッテリの放電可能容量推定方法及び装置を提供することを課題としている。
【0013】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決する請求項1乃至請求項5記載の本発明は、バッテリの放電可能容量推定方法に、請求項6乃至請求項8記載の本発明は、バッテリの放電可能容量推定装置にそれぞれ関し、いずれの発明も、それ以上に大きな電圧降下は発生しないという、負荷への高率放電時の最大電流に対応するバッテリの内部抵抗による電圧降下を推定し、これをバッテリの放電可能な容量を推定するために利用することによって、負荷の駆動ができなくなることがなく、負荷を確実に駆動できる放電可能な容量を推定するできるようにしたものである。
【0016】
上記課題を解決するためなされた請求項1記載の発明は、バッテリの放電可能な容量を推定する方法であって、負荷への高率放電時の最大電流を流し続けたときのバッテリ端子電圧の電圧降下を推定し、前記最大電流による放電時にバッテリに許容される最大の電圧降下幅に対する前記推定した最大の電圧降下の割合を求め、任意の充電状態において放電可能な電気量から前記割合に基づいて求めた電気量分を差し引いた残余の電気量を、前記最大電流に相当する大きさの電流を前記バッテリから前記負荷を通じて持続的に放電することができる放電可能な容量として推定することを特徴するバッテリの放電可能容量推定方法に存する。
【0017】
上述した請求項1記載の手順によれば、負荷への高率放電時の最大電流を流し続けたときのバッテリ端子電圧の推定した電圧降下の最大電流による放電時にバッテリに許容される最大の電圧降下幅に対する割合分、任意の充電状態において放電可能な電気量から差し引いた残余を、最大電流に相当する大きさの電流をバッテリから負荷を通じて持続的に放電することができる放電可能な容量として推定しているので、高率放電時の推定した割合によって、任意の充電状態において放電可能な電気量からこの割合に基づいて求めた電気量分を差し引いた残余の電気量の有る限り、負荷を通じて最大電流を流すことができるバッテリの放電可能容量を管理することができる。
【0018】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のバッテリの放電可能容量推定方法において、前記最大の電圧降下幅は、バッテリについて既知の満充電開回路電圧と、バッテリについて既知の放電終止電圧が前記最大電流の放電により発生することを特徴するバッテリの放電可能容量推定方法に存する。
【0019】
上述した請求項2記載の手順によれば、最大の電圧降下幅は、バッテリについて既知の満充電開回路電圧と、負荷を通じて最大電流の放電を行うことができなくなる負荷時放電終止電圧との差電圧であるので、最大電流が定まれば既知の値として予め定めることができ、高率放電時に最大の電圧降下が推定されることで、この電圧降下の最大の電圧降下幅に対する割合を簡単に求めることができる。
【0020】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のバッテリの放電可能容量推定方法において、前記推定した電圧降下は、前記高率放電時に推定した当該バッテリの純抵抗による推定純抵抗電圧降下、バッテリの充電状態に応じて変化する最大の純抵抗変化分による純抵抗増加電圧降下、及び前記最大電流によって発生する分極による最大の電圧降下である飽和分極電圧降下を含むことを特徴するバッテリの放電可能容量推定方法に存する。
【0021】
上述した請求項3記載の発明によれば、推定した電圧降下が、高率放電時に推定した当該バッテリの純抵抗による推定純抵抗電圧降下、バッテリの充電状態に応じて変化する最大の純抵抗変化分による純抵抗増加電圧降下、及び最大電流によって発生する分極による最大の電圧降下である飽和分極電圧降下を含むので、最大電流で放電し続けたときに飽和点に向かって増大する分極を含む最大の電圧降下となり、かつ、推定純抵抗電圧降下のうちには、充電状態、温度や劣化によって増減する純抵抗変動分も含まれることになり、最大電流を流す必要のある負荷を確実に駆動できるバッテリの放電可能容量を全ての変動要因を含めて適切に管理することができる。
【0022】
請求項4記載の発明は、請求項3記載のバッテリの放電可能容量推定方法において、前記飽和分極電圧降下は、負荷への高率放電時の放電電流と該放電電流に対応するバッテリ端子電圧とを周期的に測定して得たデータ対に基づいて作成した電流−電圧特性の近似曲線式から純抵抗電圧降下分を除いた分極電圧降下のみの電流−分極特性の近似曲線式を得、該電流−分極特性の近似曲線式を用いて求めた電流に対する最大点の分極電圧降下として推定されることを特徴とするバッテリの放電可能容量推定方法に存する。
【0023】
上述した請求項4記載の発明によれば、飽和分極電圧降下が、負荷への高率放電時の放電電流とこの放電電流に対応するバッテリ端子電圧とを周期的に測定して得たデータ対に基づいて作成した電流−電圧特性の近似曲線式から純抵抗電圧降下分を除いて得た分極電圧降下のみの電流−分極特性の近似曲線式を用いて求めた電流に対する最大点の分極電圧降下として推定されるので、高率放電時に推定した純抵抗を用いて、分極による飽和電圧降下も推定することができる。
【0024】
請求項5記載の発明は、バッテリの放電可能な容量を推定する方法であって、負荷への高率放電時の最大電流を流し続けたときのバッテリ端子電圧の最大の電圧降下を推定し、任意の充電状態において放電可能な電気量から前記推定した最大の電圧降下に基づいて求めた電気量分を減らした電気量を、前記バッテリから前記負荷を通じて前記最大電流を持続的に放電することができる放電可能な容量として推定することを特徴するバッテリの放電可能容量推定方法に存する。
【0025】
上述した請求項5記載の手順によれば、負荷への高率放電時の最大電流を流し続けたときのバッテリ端子電圧の推定した最大の電圧降下に相当する分、任意の充電状態において放電可能な電気量から減じ、これを前記バッテリから前記負荷を通じて前記最大電流を持続的に放電することができる放電可能な容量として推定しているので、放電可能容量は最大電流を流し続けたときに発生する最大の電圧降下の全てを除いたものとなり、よって、放電可能な容量の残余の有る限り、最大電流を流す必要のある負荷を確実に駆動できるバッテリの放電可能容量を適切に管理することができる。
【0028】
請求項6記載の発明は、図1に示す基本構成図に示すように、バッテリの放電可能な容量を推定するバッテリの放電可能容量推定装置であって、負荷への高率放電時の最大電流を流し続けたときのバッテリ端子電圧の電圧降下を推定する電圧降下推定手段23a−1と、該電圧降下推定手段により推定した電圧降下に基づいて求めた放電できない電気量分を任意の充電状態において放電可能な電気量から減らした電気量を、前記バッテリから前記負荷を通じて前記最大電流を持続的に放電することができる放電可能な容量として推定する放電可能容量推定手段23a−2とを備え、前記放電可能容量推定手段23a−2が、バッテリについて既知の満充電開回路電圧と前記負荷を通じて前記最大電流の放電を行うことができなくなる負荷時放電終止電圧との差電圧に対する前記推定した電圧降下の割合を求める割合算出手段23a−21と、前記高率放電時のバッテリの充電状態に応じた前記負荷時放電終止電圧まで放電できる電気量のうち、前記求めた割合分任意の電気量から減じて求めた電気量を放電可能な容量として推定する容量推定手段23a−22とを有することを特徴するバッテリの放電可能容量推定装置に存する。
【0029】
上述した請求項6記載の発明によれば、電圧降下推定手段23a−1が負荷への高率放電時の最大電流を流し続けたときのバッテリ端子電圧の電圧降下を推定し、放電可能容量推定手段23a−2が電圧降下推定手段23a−1により推定した電圧降下に基づいて求めた放電できない電気量分を任意の充電状態において放電可能な電気量から減らした電気量を、バッテリから負荷を通じて最大電流を持続的に放電することができる放電可能な容量として推定し、放電可能容量推定手段23a−2が、バッテリについて既知の満充電開回路電圧と負荷を通じて最大電流の放電を行うことができなくなる負荷時放電終止電圧との差電圧に対する推定した電圧降下の割合を求め、高率放電時のバッテリの充電状態に応じた負荷時放電終止電圧まで放電できる電気量のうち、求めた割合分任意の電気量から減じて求めた電気量を放電可能な容量として推定しているので、推定した電圧降下に基づいて求めた放電できない電気量分を任意の充電状態において放電可能な電気量から減らした電気量の有る限り、負荷を通じて最大電流を流すことができるバッテリの放電可能容量を管理することができ、また、最大電流が定まれば既知の値として予め定めることができる差電圧に対して求めた、高率放電時に推定した最大の電圧降下の割合を用いて簡単に任意の時点での放電可能な容量求めることができる。
【0032】
請求項7記載の発明は、図1に示す基本構成図に示すように、請求項6記載のバッテリの放電可能容量推定装置において、前記電圧降下推定手段23a−1は、前記高率放電時に推定した当該バッテリの純抵抗による純抵抗電圧降下を推定する純抵抗電圧降下推定手段23a−11と、バッテリの充電状態に応じて変化する最大の純抵抗変化分による純抵抗増加電圧降下を算出する純抵抗増加電圧降下算出手段23a−12と、前記最大電流によって発生する分極による最大電圧降下である飽和分極電圧降下を推定する飽和分極電圧降下推定手段23a−13とを含み、各手段によって推定或いは算出した電圧により最大の電圧降下を推定することを特徴するバッテリの放電可能容量推定装置に存する。
【0033】
上述した請求項7記載の発明によれば、電圧降下推定手段23a−1は、前記高率放電時に当該バッテリの純抵抗による推定純抵抗電圧降下を推定し、バッテリの充電状態に応じて変化する最大の純抵抗変化分による純抵抗増加電圧降下を算出し、前記最大電流によって発生する分極による最大電圧降下である飽和分極電圧降下を推定することによって、推定或いは算出した電圧により最大の電圧降下を推定するので、最大電流で放電し続けたときに飽和点に向かって増大する最大の分極を含む電圧降下となり、かつ、推定純抵抗電圧降下のうちには、充電状態、温度や劣化によって増減する純抵抗変動分も含まれることになり、最大電流を流す必要のある負荷を確実に駆動できるバッテリの放電可能容量を全ての変動要因を含めて適切に管理することができる。
【0034】
請求項8記載の発明は、請求項7記載のバッテリの放電可能容量推定装置において、前記飽和分極電圧降下推定手段23a−13は、負荷への高率放電時の放電電流と該放電電流に対応するバッテリ端子電圧とを周期的に測定して得たデータ対に基づいて作成した電流−電圧特性の近似曲線式から純抵抗電圧降下分を除いた分極抵抗電圧降下のみの電流−分極特性の近似曲線式を得て、該電流−分極特性の近似曲線式を用いて求めた電流に対する最大の電圧降下を前記飽和分極電圧降下として推定することを特徴とするバッテリの放電可能容量推定装置に存する。
【0035】
上述した請求項8記載の発明によれば、前記飽和分極電圧降下推定手段23a−13は、負荷への高率放電時の放電電流と該放電電流に対応するバッテリ端子電圧とを周期的に測定して得たデータ対に基づいて作成した電流−電圧特性の近似曲線式から純抵抗電圧降下分を除いた分極抵抗電圧降下のみの電流−分極特性の近似曲線式を得て、該電流−分極特性の近似曲線式を用いて求めた電流に対する最大の電圧降下を前記飽和分極電圧降下として推定するので、高率放電時に推定した純抵抗を用いて、分極による飽和電圧降下も推定することができる。
【0036】
【発明の実施の形態】
以下、本発明によるバッテリの放電可能容量推定方法を、図2を参照して本発明によるバッテリの放電可能容量推定装置の一実施形態と共に説明する前に、本発明の基本的な考え方を図3〜図5を参照して説明する。
【0037】
一般に、バッテリの端子電圧は、バッテリの充電状態を反映した電圧値を示し、その内部の状態、すなわち、平衡状態にあるときと不平衡状態にあるときで異なるだけでなく、バッテリから放電電流が流れることによって、バッテリ内部に発生する電圧降下を反映した値をとることも知られている。そこで、本発明は、このようなことに着目し、高率放電時にバッテリ内部において発生する電圧降下の内訳を特定の条件下で明確にすることによって、バッテリの放電可能容量を特定の負荷を確実に駆動する放電可能な容量として推定するようにしたものである。
【0038】
例えば、車載バッテリでは、エンジンの始動の際にスタータモータを通じて放電が行われるが、このとき、突入電流と一般に呼ばれる、定常電流値と比べて非常に大きな値の最大電流値まで短時間に増大し最大電流値から定常電流値まで短時間に減少する放電電流が流れる。一般に、このような放電を高率放電と呼ぶが、この高率放電時の放電電流とバッテリ端子電圧を高速サンプリングによって測定して得たデータ対について例えば最小自乗法を用いた近似処理を施し二次近似特性曲線を求め、横軸を放電電流、縦軸を端子電圧とするグラフにプロットすると、図3に示すような放電電流−端子電圧の関係を示す特性曲線が描かれる。
【0039】
二次近似特性曲線のうち電流増加方向についての特性曲線に現れる放電電流の増大に伴う端子電圧の低下要因には、バッテリの内部抵抗による各種の電圧降下が含まれているが、図4を参照して、放電電流の最大電流(ピーク電流)の電流軸に着目して電圧降下の内訳を検討してみる。
【0040】
先ず、最大電流での電圧降下には、バッテリのそのときの充電状態における内部純抵抗Rjを最大電流Ipが流れることによる電圧降下(Rj×Ip)が含まれている。なお、この内部純抵抗Rjは、例えば上述した高率放電時にサンプリングによって得たデータ対によって得られる2つの二次近似曲線を解析することによって推定することができるが、ここではその具体的な方法の詳細な説明は省略する。
【0041】
この内部純抵抗Rjには、バッテリの充電状態、すなわち、そのときのSOCの減少に伴う増加分、温度や劣化による変化分も含まれている。バッテリの充電状態に応じた純抵抗の増加分については、満充電時の最小値と放電終止時の最大値の間で変化し、最大の純抵抗電圧降下の増加分としては、バッテリ設計仕様によって決まる既知の値である満充電純抵抗Rfと放電終止純抵抗Reとの差(ΔR=Re−Rf)に相当する純抵抗の増加によるもので、(Re−Rf)×Ipなる計算式によって求めることができる。
【0042】
次に、純抵抗による電圧降下(Rj×Ip)以外の電圧降下は、バッテリ内に発生する分極による電圧降下である。したがって、放電電流−端子電圧の二次近似特性曲線から純抵抗による電圧降下分を除去することによって、図5に示すような分極電圧降下の二次近似特性曲線を得ることができる。
【0043】
なお、ダヴィット・リンデン著の「最新電池ハンドブック」P10図2.1「作動電流の関数としてのセル」によれば、分極はある程度大きな放電電流を流したとき、その大きさに応じた一定値に飽和する飽和分極電圧降下が存在するといえる。
【0044】
そこで、分極電圧降下の二次近似特性曲線の最大電圧降下点の電圧Vppと放電開始前端子電圧Vxとの差ΔVを高率放電時の最大電流Ipにおける最大の分極電圧降下である飽和分極電圧降下(Vpip)として推定することができる。この飽和分極電圧降下(Vpip)の具体的な求め方については、分極電圧降下の二次近似特性曲線の求め方とともに後述する。
【0045】
そこで、最大電流Ipでの放電を持続したときにバッテリ内部に発生する最大の電圧降下として、現時点での内部純抵抗Rjによる電圧降下(Rj×Ip)に、最大の純抵抗電圧降下の増加分(ΔR×Ip)と図5に示すような飽和分極電圧降下(Vpip)とを加算したものを総電圧降下(Vmax)として推定する。このような電圧降下がバッテリ内に発生することによって、この電圧降下分放電可能な容量が減少することになる。
【0046】
一方、最大電流で放電したとき現実にはないが想定される内部に発生する最小の電圧降下、すなわち、満充電純抵抗Rfに最大電流Ipを乗じて求めた電圧降下(Rf×Ip)を、既知の放電終止電圧(Ve)に加算することによって、最大電流での放電によって許容される最大の電圧降下値に対応する電圧として負荷時放電終止電圧(Vef)を求める。この負荷時放電終止電圧は、バッテリについて既知の放電終止電圧が最大電流の放電により発生する満充電時純抵抗分降下した電圧である。
【0047】
そして、この負荷時放電終止電圧(Vef)と満充電開回路電圧(Vf)との差電圧(Vadc=Vf−Vef)に占める上記総電圧降下(Vmax=Rj×Ip+ΔR×Ip+Vpip))の割合分(Vmax/Vadc)を、元々放電できるとされた容量より差し引いて実際に放電できる割合を示すADC率[=100%−(Vmax/Vadc)×100%]を求め、これを実測又は推定したOCVから推定した放電可能な容量、すなわち、該OCVに対応するSOCjと負荷時放電終止電圧に対応するSOCefとの差(ΔSOC)に乗じて求めたものを、高率放電時の最大電流で放電し続けたときに放電可能な容量(ADCip)として推定する。
【0048】
上述した分極電圧降下の二次近似特性曲線は、電流増大時の放電電流−端子電圧の二次近似特性曲線から純抵抗Rjによる電圧降下分を除去することによって得られ、得られた分極電圧降下の二次近似特性曲線を
V=aI2 +bI+c
とする。このバッテリの端子電圧Vは、バッテリの純抵抗Rj以外の内部抵抗による電圧降下Vを表したものである。
【0049】
この式から、単位電流当たりの純抵抗以外の内部抵抗による電圧降下ΔV/ΔIを求めるため微分すると、次式が得られる。
ΔV/ΔI=2aI+b
【0050】
この式のΔV/ΔIが零になった点が飽和点であり、上記近似曲線の最大値であるので、
0=2aI+b
なる式が得られ、この式を整理すると、
I=−b/2a
となる。
【0051】
したがって、この電流値Iを分極電圧降下の二次近似特性曲線を表す近似式に代入することによって、最大電流Ipにおける最大の分極電圧降下である飽和分極電圧降下(Vpip)を求めることができる。
【0052】
なお、何等かの分極が残っている非平衡状態から放電が開始した場合、放電開始時点において推定した平衡状態の開回路電圧OCVと端子電圧の差に相当する電圧は、上述したようにして近似式から求めた最大電流Ipにおける分極電圧降下に含まれていないので、近似式から求めた飽和分極電圧降下(Vpip)に加算したものを飽和分極電圧降下とする必要がある。
【0053】
図2は本発明のバッテリの放電可能容量推定方法を適用した本発明の一実施形態に係る車載バッテリの放電可能容量推定装置の概略構成を一部ブロックにて示す説明図であり、図中符号1で示す本実施形態の装置は、エンジン3に加えてモータジェネレータ5を有するハイブリッド車両に搭載されている。
【0054】
そして、このハイブリッド車両は、通常時はエンジン3の出力のみをドライブシャフト7からディファレンシャルケース9を介して車輪11に伝達して走行させ、高負荷時には、バッテリ13からの電力によりモータジェネレータ5をモータとして機能させて、エンジン3の出力に加えてモータジェネレータ5の出力をドライブシャフト7から車輪11に伝達し、アシスト走行を行わせるように構成されている。
【0055】
また、このハイブリッド車両は、減速時や制動時にモータジェネレータ5をジェネレータ(発電機)として機能させ、運動エネルギを電気エネルギに変換してバッテリ13を充電させるように構成されている。
【0056】
なお、車両の場合、イグニッションスイッチ又はアクセサリ(ACC)スイッチがオンされることによって、そのときオン状態にある負荷への電源供給に伴い、バッテリの放電電流が流れる。モータジェネレータ5はさらに、図示しないスタータスイッチのオンに伴うエンジン3の始動時に、エンジン3のフライホイールを強制的に回転させるスタータモータとして用いられるが、その場合にモータジェネレータ5には、短時間に大きな突入電流が流される。スタータスイッチのオンによりモータジェネレータ5によってエンジン3が始動されると、イグニッションキー(図示せず。)の操作解除に伴って、スタータスイッチがオフになってイグニッションスイッチのオン状態に移行し、これに伴ってバッテリ13から流れる放電電流は、負荷に応じた定常電流に移行する。
【0057】
話を構成の説明に戻すと、本実施形態の装置1は、アシスト走行用のモータやスタータモータとして機能するモータジェネレータ5等、電装品に対するバッテリ13の放電電流Iや、ジェネレータとして機能するモータジェネレータ5からのバッテリ13に対する充電電流を検出する電流センサ15と、バッテリ13に並列接続した1Mオーム程度の抵抗値を有し、バッテリ13の端子電圧Vを検出する電圧センサ17とを備えている。
【0058】
また、本実施形態の装置1は、上述した電流センサ15及び電圧センサ17の出力がインタフェース回路(以下、「I/F」と略記する。)21におけるA/D変換後に取り込まれるマイクロコンピュータ(以下、「マイコン」と略記する。)23をさらに備えている。
【0059】
そして、前記マイコン23は、CPU23a、RAM23b、及び、ROM23cを有しており、このうち、CPU23aには、RAM23b及びROM23cの他、前記I/F21が接続されており、また、上述した図示しないスタータスイッチ、イグニッションスイッチやアクセサリスイッチ、モータジェネレータ5以外の電装品(負荷)のスイッチ等が、さらに接続されている。
【0060】
前記RAM23bは、各種データ記憶用のデータエリア及び各種処理作業に用いるワークエリアを有しており、前記ROM23cには、CPU23aに各種処理動作を行わせるための制御プログラムが格納されている。
【0061】
なお、上述した電流センサ15及び電圧センサ17の出力である電流値及び電圧値は、短い周期で高速にサンプリングされてI/F21を介して、マイコン23のCPU23aに取り込まれ、取り込まれた電流値及び電圧値は、各種の処理のために使用される。
【0062】
次に、前記ROM23cに格納された制御プログラムに従いCPU23aが行う処理を、図6のフローチャートを参照して説明する。
【0063】
イグニッション(IG)スイッチがオンされバッテリ13からの給電を受けてマイコン23が起動しプログラムがスタートすると、CPU23aは、比較的長いサンプリング周期での放電電流及び端子電圧のサンプリングを開始し(ステップS1)、電流センサ15の検出したバッテリ13の放電電流Iと電圧センサ17の検出したバッテリ13の端子電圧VとのA/D変換値を対にしてI/F21を介して測定データを読み込む処理を実行して放電電流が予め定めた所定値を越えるのを監視する。放電電流が所定値を越えたときには、突入電流が流れ始めたと判断し、サンプリング周期を例えば100μsecの短い周期に切り替えて近似式を求めるための処理に入る(ステップS2)。放電電流の最大電流(ピーク電流)を検出する近似式を求めるための処理の途中で行われる。
【0064】
なお、近似式を求める処理は、最小自乗法が用いられ、サンプリングした放電電流と端子電圧とに基づいて、電流増加時の近似式を求めるための各Σ項の演算を行い、サンプリング値が連続してn回減少しているとき、放電電流がピーク値から減少に転じていると判断し、以後、サンプリングした放電電流と端子電圧とに基づいて、電流減少時の近似式を求めるための各Σ項の演算を行う。その後に、放電電流が予め定めた所定値を越えて減少するかどうかを監視し、放電電流が所定値を越えて減少したとき、突入電流が終了したと判断して近似式を求めるための処理を終了し(ステップS3)、演算した電流増加時の各Σ項を用いて電流増加時の近似式を、演算した電流減少時の各Σ項を用いて電流減少時の近似式をそれぞれ求める(ステップS4)。
【0065】
なお、図6のフローチャートには明記していないが、求めた近似式が有効なものであるかどうかの判定を行うことが当然に必要であり、この判定は、近似式の各係数を決定するための各Σ項の演算結果を利用して求めることができる電流増加時と電流減少時の相関係数と、ピーク電流の大きさとを予め定めた値と比較することによって行うことができる。特に、2つの所定値を設けることによって、誤差要因を取り除くことができる。
【0066】
上述のようにして求まった二次近似式からバッテリの純抵抗を求めるための演算処理を実行する(ステップS5)。この演算処理においては、二次式に濃度分極成分による電圧降下が含まれている場合、この濃度分極電圧降下を除いた修正二次近似式を求める修正二次近似式算出処理を行い、この修正二次近似式を用いてバッテリの純抵抗を求めるための演算処理を実行することになり、この場合には、増加する放電電流及び減少する放電電流に対する電流−電圧特性の2つの修正二次近似式のピーク値での微分値を算出した上で、2つの微分値の中間の値をバッテリの純抵抗として求める演算を行う。そして、この求めたバッテリの純抵抗は種々の目的で使用するため、RAM23bのデータエリアに格納されて記憶される。
【0067】
この微分値の中間の値を求める方法としては、突入電流の流れ方によって2つの方法がある。
突入電流の増加方向の時間と減少方向の時間とがほぼ等しいときには、2つの微分値の加算平均値を純抵抗Rjとして求める演算を行う。
これに対して、突入電流の増加方向の時間と減少方向の時間とが大きく異なるときには、増加する放電電流に対する電流−電圧特性の修正二次近似式のピーク値での微分値に、放電電流の総時間に占める増加する放電電流の流れた時間の比率を乗じたものと、減少する放電電流に対する電流−電圧特性の2つの修正二次近似式のピーク値での微分値に、放電電流の総時間に占める減少する放電電流の流れた時間の比率を乗じたものとを加算した加算値を純抵抗として求める演算を行う。いずれの方法で純抵抗を求めた場合にも、バッテリの純抵抗Rjは2つの微分値の中間の値として求められる。
【0068】
また、上述した例では、第1及び第2の近似式が共に二次近似式としているが、第1の近似式が一次近似式であるときには、修正近似式を求める処理は当然に不要になる。そして、この場合には、一次式の傾きを微分値に代えて利用することになる。
【0069】
次に、上述したステップS5において算出した純抵抗Rjを利用し、ステップS4において算出した、電流増大時の近似式から純抵抗による電圧降下分を削除し、電流増大時の純抵抗以外の要因による電圧降下の近似式、すなわち、電流増大時の分極近似式を求める(ステップS6)。ステップSにおいて算出した純抵抗とステップS6で求めた分極近似式は、次のステップS7の総電圧降下推定処理において、純抵抗電圧降下及び飽和分極電圧降下を求めるために利用される。
【0070】
ステップS7の総電圧降下推定処理においては、ステップS5において算出したバッテリの純抵抗Rjによる純抵抗電圧降下(Rf×Ip)と、バッテリの充電状態に応じて変化する最大の純抵抗変化分による純抵抗増加電圧降下と、最大電流によって発生する分極による最大の電圧降下である飽和分極電圧降下Vpipとを含む、最大電流で放電し続けたときに飽和点に向かって増大する分極を含む最大の電圧降下である総電圧降下を推定する。
【0071】
純抵抗電圧降下については、算出した純抵抗Rjに最大電流Ipを乗じることによって求められ、これには充電状態、温度や劣化によって増減する純抵抗変動分が含まれる。純抵抗増加電圧降下については、バッテリの充電状態に応じた純抵抗の最大の増加分によって発生するもので、バッテリ設計仕様によって決まる既知の値である満充電純抵抗Rfと放電終止純抵抗Reとの差(ΔR=Re−Rf)に相当する純抵抗の増加によるもので、(Re−Rf)×Ipなる計算式によって求めることができる。また、飽和分極電圧降下Vpipについては、ステップS6の処理よって求めた電流増大時の分極電圧降下の近似式を用い求めた電流に対する分極電圧降下の最大点電圧降下として推定することができる。
【0072】
ステップS7の総電圧降下推定処理によって、最大の電圧降下が求まったら、次のステップS8において、ADC率算出処理を行う。このADC率は、負荷への高率放電時の最大電流を流し続けたとき推定されるバッテリ端子電圧の最大の電圧降下の、最大電流による放電時にバッテリに許容される最大の電圧降下幅に対する割合分減少した実際に放電できる容量の割合であり、具体的には次のようにして求める
【0073】
すなわち、ADC率は、負荷時放電終止電圧(Vef)と満充電開回路電圧(Vf)との差電圧(Vadc=Vf−Vef)に占める上記総電圧降下(Vmax=Rj×Ip+ΔR×Ip+Vpip))の割合分(Vmax/Vadc)を、元々放電できるとされた容量より差し引いて実際に放電できる割合を示し、100%−(Vmax/Vadc)×100%なる式の計算を実行することによって求められる。
【0074】
ステップS8におけるADC率の算出が終わったら、これを用いた推定するADCを求めるADCの算出処理を行う(ステップS9)。具体的には、実測又は推定したOCVから推定した放電可能な容量、すなわち、該OCVに対応するSOCjと負荷時放電終止電圧に対応するSOCefとの差(ΔSOC)にADC率を乗じて求めたものを、高率放電時の最大電流で放電し続けたときに放電可能な容量(ADCip)として推定する。
【0075】
ステップS9の処理によって推定したADC、すなわち、高率放電時の最大電流で放電し続けることのできる放電可能容量は、続くその他の処理において利用され(ステップS10)、例えば、アイドリングストップ制御の際に、アイドリングストップすべき状況が発生したときに、実際にアイドリングストップを実行して良いかどうかを判定する際に、アイドリングストップした後に再度エンジンを始動できるかどうかの判定を行う目安として利用することができる。なお、図6のフローチャートに示す処理は、イグニッションスイッチがONしている限り継続して実行される(ステップS11)。
【0076】
本実施形態の車載バッテリの放電可能容量推定装置1では、図6に示すフローチャートにおける処理を行うCPU23aが、負荷への高率放電時の最大電流を流し続けたときのバッテリ端子電圧の電圧降下を推定する電圧降下推定手段23a−1と、この推定した電圧降下に基づいて求めた放電できない電気量分を任意の充電状態において放電可能な電気量から減らした電気量を、バッテリから前記負荷を通じて前記最大電流を持続的に放電することができる放電可能な容量として推定する放電可能容量推定手段23a−2として機能する。
【0077】
よって、CPU23aは、負荷への高率放電時の最大電流を流し続けたときのバッテリ端子電圧の電圧降下を推定し、推定した電圧降下に基づいて求めた放電できない電気量分を任意の充電状態において放電可能な電気量から減らした電気量を、バッテリから負荷を通じて最大電流を持続的に放電することができる放電可能な容量として推定しているので、推定した電圧降下に基づいて求めた放電できない電気量分を任意の充電状態において放電可能な電気量から減らした電気量の有る限り、負荷を通じて最大電流を流すことができるバッテリの放電可能容量を管理することができる。
【0078】
図6に示すフローチャートにおける処理を行うCPU23aはまた、バッテリについて既知の満充電開回路電圧と負荷を通じて最大電流の放電を行うことができなくなる負荷時放電終止電圧との差電圧に対する前記推定した電圧降下の割合を求める割合算出手段23a−21と、高率放電時のバッテリの充電状態に応じた負荷時放電終止電圧まで放電できる電気量のうち、求めた割合分任意の電気量から減じて求めた電気量を放電可能な容量として推定する容量推定手段23a−22として機能する。
【0079】
よって、CPU23aは、バッテリについて既知の満充電開回路電圧と負荷を通じて最大電流の放電を行うことができなくなる負荷時放電終止電圧との差電圧に対する推定した電圧降下の割合を求め、高率放電時のバッテリの充電状態に応じた負荷時放電終止電圧まで放電できる電気量のうち、求めた割合分任意の電気量から減じて求めた電気量を放電可能な容量として推定するので、最大電流が定まれば既知の値として予め定めることができる差電圧に対して求めた、高率放電時に推定した最大の電圧降下の割合を用いて簡単に任意の時点での放電可能な容量求めることができる。
【0080】
図6に示すフローチャートにおける処理を行うCPU23aはまた、高率放電時に推定した当該バッテリの純抵抗による純抵抗電圧降下を推定する純抵抗電圧降下推定手段23a−11と、バッテリの充電状態に応じて変化する最大の純抵抗変化分による純抵抗増加電圧降下を算出する純抵抗増加電圧降下算出手段23a−12と、最大電流によって発生する分極による最大電圧降下である飽和分極電圧降下を推定する飽和分極電圧降下推定手段23a−13として機能し、高率放電時に推定した当該バッテリの純抵抗による推定純抵抗電圧降下を推定し、バッテリの充電状態に応じて変化する最大の純抵抗変化分による純抵抗増加電圧降下を算出し、最大電流によって発生する分極による最大電圧降下である飽和分極電圧降下を推定し、各手段によって推定或いは算出した電圧により最大の電圧降下を推定するので、最大電流で放電し続けたときに飽和点に向かって増大する分極を含む最大の電圧降下となり、かつ、推定純抵抗電圧降下のうちには、充電状態、温度や劣化によって増減する純抵抗変動分も含まれることになり、最大電流を流す必要のある負荷を確実に駆動できるバッテリの放電可能容量を全ての変動要因を含めて適切に管理することができる。
【0081】
図6に示すフローチャートにおける処理を行うCPU23aはまた、負荷への高率放電時の放電電流と該放電電流に対応するバッテリ端子電圧とを周期的に測定して得たデータ対に基づいて作成した電流−電圧特性の近似曲線式から純抵抗電圧降下分を除いた分極抵抗電圧降下のみの電流−分極特性の近似曲線式を得て、該電流−分極特性の近似曲線式を用いて求めた電流に対する最大の電圧降下を飽和分極電圧降下として推定する手段として機能し、高率放電時に推定した純抵抗を用いて、分極による飽和電圧降下も推定することができる。
【0082】
上述の説明では、車載バッテリの用途以外について特に言及しなかったが、バッテリの充電状態を適切に知り、効率的にバッテリの利用を図るために有効に適用できる。
【0083】
なお、本願明細書中においては、分極などの影響を受けた端子電圧を開放電圧とし、平衡状態のときの端子電圧を開回路電圧としている。
【0084】
また、適用する車両としては、一般的な14V車両や14Vと42V等の多電源車、電気自動車、通常のガソリン自動車等、種々の車両に搭載されたバッテリの開回路電圧の推定に適用可能であることは、言うまでもない。
【0085】
なお、上述の実施の形態では言及していないが、バッテリにおいては、バッテリ電極板の有効的に機能する部分の欠如や電解液の変質又は減少など、物理的或いは化学的な劣化が発生し、経時的に進行することが知られている。したがって、非劣化バッテリの初期放電可能電気量に対する任意時点の放電可能な電気量の割合、或いは、充放電に伴う充電状態と開回路電圧の変化が初期の関係と異なる割合などを、例えば、開回路電圧を推定或いは実測できる機会を捉えて、劣化度として予め求めておき、これを上述したように本発明により推定して求めた放電可能容量に乗じることによって、劣化度による変化を補正した放電可能容量を推定することができるようになる。
【0086】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1又は6記載の発明によれば、負荷を確実に駆動できる容量を放電可能な容量として推定するバッテリの放電可能容量推定方法及び装置を提供することができる。
【0087】
請求項1記載の発明によれば、推定した放電可能容量の残余の有る限り、最大電流を流す必要のある負荷を確実に駆動できるバッテリの放電可能容量を管理することができるバッテリの放電可能容量推定方法を提供することができる。
【0088】
また、高率放電時の推定した割合によって、任意の充電状態において放電可能な電気量からこの割合に基づいて求めた電気量分を差し引いた残余の電気量の有る限り、負荷を通じて最大電流を流すことができるバッテリの放電可能容量を管理することができるバッテリの放電可能容量推定方法を提供することができる。
【0089】
請求項2記載の発明によれば、最大電流が定まれば既知の値として予め定めることができ、高率放電時に最大の電圧降下が推定されることで、この電圧降下の最大の電圧降下幅に対するの割合を簡単に求めることができるバッテリの放電可能容量推定方法を提供することができる。
【0090】
請求項3記載の発明によれば、最大電流で放電し続けたときに飽和点に向かって増大する分極を含む最大の電圧降下となり、かつ、推定純抵抗電圧降下内には、充電状態、温度や劣化によって増減する純抵抗変動分も含まれることになり、最大電流を流す必要のある負荷を確実に駆動できるバッテリの放電可能容量を全ての変動要因を含めて適切に管理することができるバッテリの放電可能容量推定方法を提供することができる。
【0091】
請求項4記載の発明によれば、高率放電時に推定した純抵抗を用いて、分極による飽和電圧降下も推定することができるバッテリの放電可能容量推定方法を提供することができる。
【0092】
請求項5記載の発明によれば、放電可能容量は最大電流を流し続けたときに発生する最大の電圧降下に相当する電気量の全てを除したものとなり、よって、放電可能な電気量の残余の有る限り、最大電流を流す必要のある負荷を確実に駆動できるバッテリの放電可能容量を適切に管理することができるバッテリの放電可能容量推定方法を提供することができる。
【0094】
請求項6記載の発明によれば、推定した電圧降下に基づいて求めた放電できない電気量分を任意の充電状態において放電可能な容量から減らした電気量の有る限り、負荷を通じて最大電流を流すことができるバッテリの放電可能容量を管理することができるバッテリの放電可能容量推定装置を提供することができる。
【0095】
また、最大電流が定まれば既知の値として予め定めることができる差電圧に対して求めた、高率放電時に推定した最大の電圧降下の割合を用いて簡単に任意の時点での放電可能な容量を求めることができる。
【0096】
請求項7記載の発明によれば、最大電流で放電し続けたときに飽和点に向かって増大する最大の分極を含む電圧降下となり、かつ、推定純抵抗電圧降下のうちには、充電状態、温度や劣化によって増減する純抵抗変動分も含まれることになり、最大電流を流す必要のある負荷を確実に駆動できるバッテリの放電可能容量を全ての変動要因を含めて適切に管理することができるバッテリの放電可能容量推定装置を提供することができる。
【0097】
請求項8記載の発明によれば、高率放電時に純抵抗による電圧降下を求めるため推定した純抵抗を用いて、分極による飽和電圧降下も推定することができるバッテリの放電可能容量推定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のバッテリの放電可能容量推定装置の基本構成を示すブロック図である。
【図2】本発明のバッテリの放電可能容量推定方法を実施する本発明の推定装置の一実施形態を示す構成図である。
【図3】高率放電時の放電電流とバッテリ端子電圧の変化を示すグラフである。
【図4】本発明の放電可能容量推定方法の原理を説明するために使用するグラフである。
【図5】図4中の飽和分極電圧降下の推定の仕方を説明するために使用するグラフである。
【図6】図2中のマイコンがバッテリの放電可能容量推定のため予め定めたプログラムに従って行うメイン処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
23a−1 電圧降下推定手段(CPU)
23a−11 純抵抗電圧降下推定手段(CPU)
23a−12 純抵抗増加電圧降下算出手段(CPU)
23a−13 飽和分極電圧降下推定手段(CPU)
23a−2 放電可能容量推定手段(CPU)
23a−21 割合算出手段(CPU)
23a−22 容量推定手段(CPU)
Claims (8)
- バッテリの放電可能な容量を推定する方法であって、
負荷への高率放電時の最大電流を流し続けたときのバッテリ端子電圧の電圧降下を推定し、
前記最大電流による放電時にバッテリに許容される最大の電圧降下幅に対する前記推定した最大の電圧降下の割合を求め、
任意の充電状態において放電可能な電気量から前記割合に基づいて求めた電気量分を差し引いた残余の電気量を、前記最大電流に相当する大きさの電流を前記バッテリから前記負荷を通じて持続的に放電することができる放電可能な容量として推定する
ことを特徴するバッテリの放電可能容量推定方法。 - 前記最大の電圧降下幅は、バッテリについて既知の満充電開回路電圧と、バッテリについて既知の放電終止電圧が前記最大電流の放電により発生する満充電時純抵抗分降下した電圧との差電圧である
ことを特徴する請求項1記載のバッテリの放電可能容量推定方法。 - 前記推定した電圧降下は、前記高率放電時に推定した当該バッテリの純抵抗による推定純抵抗電圧降下、バッテリの充電状態に応じて変化する最大の純抵抗変化分による純抵抗増加電圧降下、及び前記最大電流によって発生する分極による最大の電圧降下である飽和分極電圧降下を含む
ことを特徴する請求項1又は2記載のバッテリの放電可能容量推定方法。 - 前記飽和分極電圧降下は、
負荷への高率放電時の放電電流と該放電電流に対応するバッテリ端子電圧とを周期的に測定して得たデータ対に基づいて作成した電流−電圧特性の近似曲線式から純抵抗電圧降下分を除いた分極電圧降下のみの電流−分極特性の近似曲線式を得、該電流−分極特性の近似曲線式を用いて求めた電流に対する最大点の分極電圧降下として推定される
ことを特徴とする請求項3記載のバッテリの放電可能容量推定方法。 - バッテリの放電可能な容量を推定する方法であって、
負荷への高率放電時の最大電流を流し続けたときのバッテリ端子電圧の最大の電圧降下を推定し、
任意の充電状態において放電可能な電気量から前記推定した最大の電圧降下に基づいて求めた電気量分を減らした電気量を、前記バッテリから前記負荷を通じて前記最大電流を持続的に放電することができる放電可能な容量として推定する
ことを特徴するバッテリの放電可能容量推定方法。 - バッテリの放電可能な容量を推定するバッテリの放電可能容量推定装置であって、
負荷への高率放電時の最大電流を流し続けたときのバッテリ端子電圧の電圧降下を推定する電圧降下推定手段と、
該電圧降下推定手段により推定した電圧降下に基づいて求めた放電できない電気量分を任意の充電状態において放電可能な電気量から減らした電気量を、前記バッテリから前記負荷を通じて前記最大電流を持続的に放電することができる放電可能な容量として推定する放電可能容量推定手段とを備え、
前記放電可能容量推定手段が、
バッテリについて既知の満充電開回路電圧と前記負荷を通じて前記最大電流の放電を行うことができなくなる負荷時放電終止電圧との差電圧に対する前記推定した電圧降下の割合を求める割合算出手段と、前記高率放電時のバッテリの充電状態に応じた前記負荷時放電終止電圧まで放電できる電気量のうち、前記求めた割合分任意の電気量から減じて求めた電気量を放電可能な容量として推定する容量推定手段とを有する
ことを特徴するバッテリの放電可能容量推定装置。 - 前記電圧降下推定手段は、前記高率放電時に推定した当該バッテリの純抵抗による純抵抗電圧降下を推定する純抵抗電圧降下推定手段と、バッテリの充電状態に応じて変化する最大の純抵抗変化分による純抵抗増加電圧降下を算出する純抵抗増加電圧降下算出手段と、前記最大電流によって発生する分極による最大電圧降下である飽和分極電圧降下を推定する飽和分極電圧降下推定手段とを含み、各手段によって推定或いは算出した電圧により最大の電圧降下を推定する
ことを特徴する請求項6記載のバッテリの放電可能容量推定装置。 - 前記飽和分極電圧降下推定手段は、負荷への高率放電時の放電電流と該放電電流に対応するバッテリ端子電圧とを周期的に測定して得たデータ対に基づいて作成した電流−電圧特性の近似曲線式から純抵抗電圧降下分を除いた分極抵抗電圧降下のみの電流−分極特性の近似曲線式を得て、該電流−分極特性の近似曲線式を用いて求めた電流に対する最大の電圧降下を前記飽和分極電圧降下として推定する
ことを特徴とする請求項7記載のバッテリの放電可能容量推定装置。
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