JP3967416B2 - 光学薄膜の成膜方法および成膜装置 - Google Patents
光学薄膜の成膜方法および成膜装置 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は反射防止膜等の光学薄膜をスパッタリング法によって成膜する方法及びこの方法に使用される成膜装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
反射防止膜などの光学薄膜を光学部品等の基板に成膜する場合、材料を加熱し蒸発させて基板に付着させる真空蒸着法が従来、主に使われてきた。この真空蒸着法に対して、スパッタリング法は自動化・省力化・大面積基板への適用性などの点で有利であり、このため近年、スパッタリング法による成膜が多く行われている。
【0003】
ところで、反射防止膜を構成する物質としては、SiO2 やZrO2 などの金属酸化物の他に、屈折率が低いなどの理由により、CaF2 やMgF2 などの金属フッ化物がしばしば用いられている。これらのCaF2 やMgF2 などの金属フッ化物は300℃程度の基板加熱を行いながら真空蒸着する場合は、光吸収が少なく、機械的強度の高い良質な薄膜となる。これに対し、これらの金属フッ化物をスパッタリングする場合には、スパッタ粒子のエネルギーが蒸着粒子に比べて1〜2桁高いため基板を加熱する必要がない反面、スパッタリングの際にフッ素が金属フッ化物から解離し易く、これにより成膜した膜に可視域の光吸収が生じ易いという問題がある。
【0004】
このようなことから、スパッタガスとしてフッ素を含有するガスを用いることにより、解離したフッ素を補充することがなされており、特開平4−289165号公報には、金属フッ化物をスパッタリングする際に、不活性ガスとフッ素ガスまたはフッ素含有化合物ガスとの混合ガスをスパッタガスとして用いることが記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら特開平4−289165号公報等の従来技術によって成膜したMgF2 等の金属フッ化物の薄膜は目視では透明であるが、分光光度計で測定した結果では、可視域での光吸収が充分少ないものではなく、反射防止膜等の光学薄膜としての機能を充分に有してはいない。又、補充するフッ素ガスやフッ素含有化合物ガスなどのフッ素系ガスは、腐食性が極めて高く、この腐食性によって成膜装置に使用されている真空チャンバーやポンプ、真空油などを劣化させる問題を有している。さらに人体にも有害で、特別な排ガス処理装置が必要となるなど、生産性、安全性の点でも問題点がある。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、MgF2 等の金属フッ化物を用いスパッタリング法によって成膜するのに際して、光吸収が少なく、しかも機械的強度を有し、さらには腐食性で有害なフッ素系等のガスを補充することなく成膜することができる光学薄膜の成膜方法を提供することを目的とする。又、本発明はこの方法を好適に実施できる成膜装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する請求項1の光学薄膜の成膜方法は、真空槽内に放電ガスを導入し、少なくとも金属フッ化物を含む材料をターゲットとし、制御手段により制御される高周波電力により前記ターゲット上に前記放電ガスのプラズマを発生させ、このプラズマにより前記ターゲットをスパッタリングして基板上に薄膜を形成するのに際し、前記プラズマ中における前記金属フッ化物を構成する分子に由来する第1の発光強度と、前記金属フッ化物を構成する原子又は前記放電ガスに由来する第2の発光強度とを計測し、これらの第1及び第2の発光強度に基づいて前記高周波電力を制御することを特徴とする。
【0008】
又、請求項2の成膜方法は、請求項1記載の薄膜の成膜方法において、前記第1の発光強度と、前記第2の発光強度との比に基づいて前記記高周波電力を制御することを特徴とする。
【0009】
このような方法に用いる金属フッ化物としては、MgF2 を始めとして、AlF3 、LiF、NaF、CaF2 、SrF2 、BaF2 、CeF3 、NdF3 、LaF3 、SmF3 、Na3 AlF6 、Na5 AlF14、NaAlF14、NaAlF3 等の内の一種又は2種以上を選択することができる。また、ターゲットは以上の金属フッ化物を主成分とするものであれば良く、金属酸化物等の他の材料が混合されていても良い。
【0010】
一般に、通常のスパッタリング法では、水冷されたバッキングプレートに結合された板状の金属フッ化物、例えばMgF2 をターゲットとしてArなどの希ガスを含むガス中でスパッタリングするが、この場合のプラズマの発光を分光してスペクトルとすると、図1のように放電ガス(Ar)以外ではMg原子(285nm付近や518nm付近)の発光しか観察できない。これは、プラズマ中に存在して飛散する粒子が主にMg原子であることを示しており、放電ガスのイオンがターゲットに衝突した際に、ターゲットであるMgF2 がMgとFとに解離してスパッタリングされていることを示している。このような状態で成膜された膜はFが不足し、化学量論比から外れた状態となり、光吸収が生じる。このため、上述した従来方法では、フッ素系ガスを成膜室内に導入して、解離したFを補充するものである。
【0011】
これに対し、本発明者らがターゲットの形態や放電ガスの種類、ガス圧力、投入する高周波電力など種々の条件を変えて実験を行い、鋭意研究を重ねた結果、条件によっては図2のように放電ガス(この場合はO2 ガス)を構成する原子及びMg原子の他にMgF分子の発光(395nm付近)がプラズマ中で観察できることを見い出した。このようにMgF分子の発光があるということは、飛散する粒子にMgF2 分子があることを示している。又、本発明者らが、この相関々係を検討した結果、MgF分子の発光強度が強くなる、すなわちMgF2 分子の状態で飛散する確率が高くなると、逆に、Fが解離することが少なくなり、結果として成膜される膜の光吸収が少なくなることを見い出した。
【0012】
このMgF分子の発光が出現する条件は、一義的に規定できないが、例えばMgF2 の顆粒状材料や熱的に断熱されたMgF2 の板状材料などをターゲットとし、O2 やH2 O、あるいはN2 ガスなどを放電ガスに用い、ガス圧力を0.05〜5Pa程度に保ち、2W/cm2 程度以上の高周波電力を投入したときなどに、良く発現する。
【0013】
さらに、本発明者らが鋭意研究した結果、放電ガスやMg原子の発光強度に対するMgF分子の発光強度が低くすぎる場合には、膜の光吸収が充分に少なくならない反面、放電ガスやMg原子の発光強度に対してMgF分子の発光強度が高くなりすぎる場合には、膜の光吸収は少なくなり、特に、後者においては、基板加熱を行わないとき、膜の機械的強度が低くなり易いことが判明した。
【0014】
以上のことから光吸収が少なく、且つ機械的強度の高い膜を得るためには、金属フッ化物を構成する分子であるMgF分子の発光強度と、金属フッ化物を構成する金属原子であるMg原子及び放電ガス(原子、分子を含む)の発光強度との相対的な強度関係を適切な範囲内に保つ必要がある。このためには、具体的にMgF分子の発光強度と、Mg原子や放電ガスの発光強度との演算結果を適切な値に制御することにより可能であり、より好ましくはMgF分子とMg原子の発光強度の比あるいはMgF分子と放電ガスの発光強度の比を適切な値に制御することにより可能となる。
【0015】
一方、Mg原子や放電ガスに対するMgF分子の発光強度は、既述したようにターゲット材料の形態や状態、放電ガスの種類、ガス圧力、高周波電力などの種々の条件によって変化する。これら全ての条件を完全に一定に保つことは難しく、Mg原子や放電ガスに対するMgF分子の発光強度が不安定になったり、再現性に乏しい場合が多い。これらの条件について、検討した結果、高周波電力を変えることにより、図3に示すように、Mg原子や放電ガスに対するMgF分子の発光強度を容易に調整することができることが判明した。
【0016】
以上のことから、本発明は、金属フッ化物を構成する分子(この場合は、MgF分子)の発光強度と、金属フッ化物を構成する金属原子(この場合は、Mg原子)及び放電ガスの発光強度との演算結果を良質な膜が得られるような所望の値となるようにフィードバックして、高周波電力を制御するものである。このように金属フッ化物を構成する分子の発光強度と、金属フッ化物を構成する金属原子及び放電ガスの発光強度との相対的な強度関係を適切な範囲内に安定して保つためのフィードバックの演算としては、ターゲットである金属フッ化物を構成する分子とその金属原子の発光強度の比、あるいはターゲットの金属フッ化物を構成する分子と放電ガスの発光強度の比が所望の値となるように行うことが望ましい。以上のような本発明では、スパッタリング時のフッ素の解離が少ないため、解離した分を補充するために有害なフッ素系ガスを用いる必要がなく、しかも低温で成膜が可能であることから生産性及び安全性も高くなる。
【0017】
図3から明らかなように高周波電力が変化するに従い、MgF分子の発光強度が変化している。これは、プラズマ中のMgF分子の存在量、すなわち基板に向かって飛散する粒子の量(成膜速度)が変化していることを示唆している。図4はMgF分子とMg原子との発光強度の比及びMgF分子と放電ガスのO原子との発光強度の比を成膜速度との関係でプロットした特性図であり、「○」がMgF分子/Mg原子の比、「□」がMgF分子/O原子の比である。図4から、MgF分子/Mg原子の比と、MgF分子/O原子の比との間に、正の相関々係があることが認められる。
【0018】
図5は、MgF分子とMg原子との発光強度の比及びMgF分子と放電ガスのO原子との比をターゲットへの高周波電力との関係でプロットした特性図であり、これらの比と高周波電力との間に相関々係があることが分かる。図6はターゲットへの高周波電力を変化させたときの成膜速度を示し、これらの間にも相関々係が認められる。従って、図4及び図5から、プラズマ中の金属フッ化物を構成する分子の発光強度と、金属フッ化物を構成する金属原子及び放電ガスの内のいずれか1つ以上の発光強度とを監視し、この2つ以上の発光強度を組み合わせて演算し、その演算結果を監視することにより、膜の成膜速度を監視できる。また、図5および図6から演算結果を所望の値となるようにフィードバックして、高周波電力を制御することにより成膜速度も制御することができる。そして、成膜速度が制御できることにより、成膜時間に基づいた膜厚の制御も可能で、これにより所望の膜厚の光学薄膜を容易に成膜することができる。
【0019】
請求項3の成膜装置は、真空槽に放電ガスを導入するガス導入手段と、少なくとも金属フッ化物を含む材料からなるターゲットが載置されるカソードと、このカソードに高周波電力を供給して前記ターゲット上に前記放電ガスのプラズマを発生させる高周波電源と、プラズマ中の金属フッ化物を構成する分子の発光強度と、金属フッ化物を構成する原子及び放電ガスの内のいずれか1つ以上の発光強度とを監視する監視手段と、これらの発光強度を組み合わせて演算する演算手段と、この演算結果に基づいて前記高周波電源を介して前記高周波電力を制御する制御手段と、を備えていることを特徴とする。
【0020】
このような成膜装置は、プラズマ中の金属フッ化物を構成する分子の発光強度と、金属フッ化物を構成する金属原子及び放電ガスの内のいずれか1つ以上の発光強度とを監視手段が監視し、演算手段がこれらの発光強度を組み合わせて演算し、制御手段がこの演算結果に基づいてターゲットへの高周波電力を制御するため、金属フッ化物を構成する分子の発光強度と、金属フッ化物を構成する金属原子及び/又は放電ガスの発光強度との相対的な強度関係を適切な範囲内に保つことができる。従って、この装置では光吸収が少なく、且つ基板加熱を行わなくても機械的強度の高い光学薄膜を生産性良く安全に得ることができると共に、成膜速度を制御しながら成膜することができるため、所望の膜厚の光学薄膜を成膜することが可能となる。
【0021】
【発明の実施の形態】
(実施の形態1)
図7は成膜装置を示す。同図において、成膜室としての真空槽1の内部にはターゲット3が上面に充填された状態の石英製の皿4が配置されている。この皿4は直径4インチ程度のマグネトロンカソード5に載置されており、カソード5はスパッタリング用高周波電源6に接続されている。ターゲット3としては、粒径0.5〜1mmの顆粒状のMgF2 が使用される。
【0022】
真空槽1の上方には光学薄膜を成膜するための基板2が配置される。この基板2は回転可能に真空槽1内に設けられるものである。この基板2とターゲット3との間にはシャッター14が設けられている。このシャッター14はシャッター開閉装置15によって回転駆動されることにより、ターゲット3及び基板2の間に進退して、これらの間を開閉する。
【0023】
また、真空槽1の側面には、放電ガスの導入管7が挿入されている。この導入管7からの放電ガスはマスフローコントローラ8によって、その流量が制御され、これにより真空室1内の放電ガスのガス圧が制御される。さらに、真空槽1の側面には、ガイド通路10が延びており、このガイド通路10の終端に石英製の監視窓11が取り付けられている。この監視窓11は真空槽1内で発生したプラズマ9からの発光が通過し、監視窓11を通過した光は、監視窓11に臨むように配置した分光器12に取り込まれる。分光器12はプラズマ9内の分子又は原子の発光強度を検出するものである。
【0024】
図7において、13は制御手段としての制御回路である。この制御回路13は分光器12が検出したプラズマ9中の分子又は原子の発光強度が入力され、この入力によってスパッタリング用高周波電源6を制御し、これによりターゲット3に投入される高周波電力が制御される。なお、この制御回路13はシャッター開閉装置15の制御をも行う。
【0025】
上記構成において、基板2として屈折率1.52のBK7からなる光学ガラスを用い、この基板2を真空槽1内にセットすると共に、MgF2 からなるターゲット3が充填された皿4をマグネトロンカソード5上に載置し、この状態で真空ポンプ(図示省略)により真空槽1内を1×10-4Paの真空度まで排気する。このとき基板12の加熱を行わなかった。その後、放電ガスとしてのO2 ガスをマスフローコントローラ8により流量を制御しながら、ガス導入管7から真空室1内に導入し、真空室1内を3×10-1Paの真空度とした。
【0026】
この状態で高周波電源6から高周波電力をマグネトロンカソード5に投入して、プラズマ9を発生させた。このプラズマ9により、MgF2 ターゲット3が加熱され、同時にプラズマ9中の放電ガスのイオンにより、スパッタリングされてターゲットが飛散する。
【0027】
一方、プラズマ9からの発光は波長200〜2000nm程度の波長光を透過する監視窓11を通過し、真空槽1外に設置された分光器12に取り込まれる。この分光器12は波長220〜800nmの範囲の光を分光し、ラインセンサーにより瞬時にそれぞれの波長の相対強度を測定する。なお、監視窓11はガイド通路16によってターゲット3から充分に離れているため、飛散した粒子が監視窓11に付着して発光強度に影響を与えることを無視することができる。
【0028】
この実施の形態では、プラズマ9からの発光を分光器12によって分光して、MgF分子の359nm付近の発光強度とMg原子の285nm付近の発光強度の比(MgF/Mg)が1.5になるように、高周波電力を上昇させ、さらにその発光強度比が一定となるように、制御回路13により高周波電力を制御した。この時、高周波電力は450〜550W程度であった。
【0029】
この状態で基板2を回転させ、シャッター開閉装置15によりシャッター14を開き、基板2上にMgF2 膜を成膜した。MgF/Mgの発光強度比が1.5のとき、実験から求めたMgF2 の成膜速度が50nm/分程度であることが予め判明しているので、MgF2 膜の膜厚を物理的膜厚にして100nmとするために、120秒間でシャッターを閉じた。このように本実施の形態では、スペクトル強度から成膜速度を予測し、所望の膜厚になるようにシャッター14の開放時間を制御した。
【0030】
以上のようにして成膜されたMgF2 膜の屈折率は1.38と真空蒸着法で成膜したものと同程度に低く、しかも光学膜厚も138nm(100nmの物理的膜厚に相当)程度となっていた。図8はこのMgF2 膜の分光反射特性を示し、波長430nm〜650nmの範囲で反射率が2%以下であり、可視域の反射防止膜として極めて有効であった。又、可視域(波長400〜700nm)での光吸収も0.5%以下と真空蒸着法で得た膜と同程度に少なく、光学的に何ら問題はなかった。さらには基板2の加熱を行っていないにも関わらず、密着性、擦傷性等の膜の機械的強度も充分に高いものであった。
【0031】
なお、この実施の形態では、MgF2 以外の金属フッ化物であるAlF3 、LiF、NaF、CaF2 、SrF2 、BaF2 、CeF3 、NdF3 、LaF3 、SmF3 、Na3 AlF6 、Na5 AlF14、NaAlF3 、NaAlF14を用いて成膜しても同様な効果を得ることができた。さらに、単層の反射防止膜としたが、TiO2 、Ta2 O5 等の他の高屈折率の酸化物からなる薄膜と組み合わせた多層膜としても良く、これにより反射防止膜以外のエッジフィルターやビームスプリッター等の光学薄膜を作製することができる。
【0032】
(実施の形態2)
この実施の形態においても、MgF2 をターゲットとし、図7の成膜装置を使用して成膜した。まず、1×10-4Paまで排気した真空槽1内に、放電ガスとしてのO2 ガスを導入し、真空槽1内を3×10-1Paの真空度とした。この状態でMgF分子の359nm付近の発光強度とO原子の777nm付近の発光強度との差(MgF−O)が600になるように、高周波電力を上昇させ、さらにその発光強度の差が一定となるように、制御回路13により高周波電力を制御した。この時、高周波電力は470〜570W程度であった。
【0033】
この状態で、基板2を回転させ、シャッター開閉装置15によりシャッター14を開き、基板2上にMgF2 膜を成膜した。発光強度の差(MgF−O)の発光強度の差が600のとき、実験から求めたMgF2 の成膜速度は60nm/分程度であることが予め判明しているので、MgF2 膜の膜厚を物理的膜厚にして100nmとするため、100秒間でシャッターを閉じた。従って、この実施の形態では発光強度の差から成膜速度を予測し、所望の膜厚となるようにシャッター14の開放時間を制御するものである。
【0034】
以上のようにして得られたMgF2 膜は、実施の形態1と同様に、可視域での光吸収も少なく、可視域の反射防止膜として極めて有効であった。また、密着性、擦傷性等の膜の機械的強度も実用上、充分に高いものであった。
【0035】
(実施の形態3)
この実施の形態においては、AlF3 をターゲットとし、図7の成膜装置を使用して成膜した。まず、1×10-4Paまで排気した真空槽1内に、放電ガスとしてN2 ガスを導入し、真空槽1内を1Paの真空度とした。この状態でAlF分子の278nm付近の発光強度とN2 分子の654nm付近の発光強度との比(AlF/N2 )が10となるように、高周波電力を上昇させ、さらにその発光強度比が一定となるように、制御回路13により高周波電力を制御した。この時、高周波電力は400〜500W程度であった。
【0036】
この状態で、基板2を回転させ、シャッター開閉装置15によりシャッター14を開き、基板2上にAlF3 膜を成膜した。AlF/N2 の発光強度の比が10のとき、実験から求めたAlF3 の成膜速度は300nm/分程度であることが予め判明しているので、MgF2 膜の膜厚を物理的膜厚にして100nmとするため、20秒間でシャッターを閉じた。このような実施の形態の形態では、発光強度の比から成膜速度を予測し、所望の膜厚になるようにシャッター14の開放時間を制御するものである。
【0037】
以上のようにして成膜されたAlF3 の屈折率は1.38と低く、光学的膜厚も138nm(100nmの物理的膜厚に相当)程度となっていた。また可視域(波長400〜700nm)での膜の光吸収も0.5%以下と真空蒸着法で得たものと同程度に少なく、光学的に何ら問題はなかった。また、基板の加熱を行っていないにも関わらず、密着性、擦傷性等の膜の機械的強度も実用上十分に高いものであった。
【0038】
(比較例)
この比較例においては、MgF2 をターゲットとし、図7の成膜装置を使用して成膜した。放電ガスとしてのO2 ガスの圧力は1.5×10-1Paとし、高周波電力を500Wに固定した。このときスペクトルの発光強度は経時的に不安定であり、膜の成膜速度が70〜300nm/分と安定せず、また、膜の光吸収が若干増えたり、膜の機械的強度が若干劣化するなど、再現性に乏しかった。
【0039】
また、MgF/Oの発光強度の比を15となるように制御回路13により高周波電力を制御した。この場合に得られた膜の機械的強度は実用上十分であったが、波長400nmでの光吸収が4%以上あり、反射防止膜としての実用上問題であった。さらに、MgF/Mgの発光強度の比が35になるように、制御回路13で高周波電力を制御した。この場合に得られた膜は可視域での光吸収が0.5%以下と少なかったが、基板2の加熱を行わない限り、膜の機械的強度が不十分であり、実用上問題であった。
【0040】
以上、説明した本発明は、以下の発明を包含するものである。
(1) 真空槽内に放電ガスを導入し、少なくとも金属フッ化物を含む材料をターゲットとし、制御手段により制御される高周波電力により前記ターゲット上に前記放電ガスのプラズマを発生させ、このプラズマにより前記ターゲットをスパッタリングして基板上に薄膜を形成するのに際し、前記プラズマ中における金属フッ化物を構成する分子の発光強度と、金属フッ化物を構成する金属原子及び放電ガスの内、いずれか1つ以上の発光強度とを監視し、これらの2つ以上の発光強度を組み合わせて演算し、この演算結果が所望の値となるようにフィードバックして前記高周波電力を制御することを特徴とする光学薄膜の成膜方法。
【0041】
(2) 前記フィードバックするための演算は、ターゲット中の金属フッ化物を構成する分子と金属原子の発光強度との比、或いはターゲット中の金属フッ化物を構成する分子と放電ガスの発光強度の比を演算することを特徴とする上記(1)項記載の光学薄膜の成膜方法。
【0042】
(3) 真空槽内に放電ガスを導入し、少なくとも金属フッ化物を含む材料をターゲットとし、制御手段により制御される高周波電力により前記ターゲット上に前記放電ガスのプラズマを発生させ、このプラズマにより前記ターゲットをスパッタリングして基板上に薄膜を形成するのに際し、前記プラズマ中における金属フッ化物を構成する分子に由来する第1の発光強度と、金属フッ化物を構成する原子又は放電ガスに由来する第2の発光強度とを計測し、これらの第1の発光強度と第2の発光強度との比が所望の値となるように前記高周波電力を制御することを特徴とする光学薄膜の成膜方法。
【0043】
【発明の効果】
以上のように、請求項1の発明では、プラズマ中の金属フッ化物の分子の発光強度と、金属フッ化物の原子又は放電ガスの発光強度とを計測し、これらの発光強度の演算の結果に基づいて高周波電力を制御するため、光吸収が少なく、機械的強度が大きな光学薄膜を形成でき、有毒なフッ素ガスが不要となると共に、制御がさらに容易となり、膜厚の制御も簡単となる。
【0044】
請求項2の発明では、請求項1記載の薄膜の成膜方法において、前記第1の発光強度と、前記第2の発光強度との比に基づいて前記高周波電力を制御することで、請求項1記載の発明と同様な効果を奏する光学薄膜の製造方法を提供できる。
【0045】
請求項3及び4の発明では、監視手段がプラズマ中の金属フッ化物の分子の発光強度と、金属フッ化物の原子又は放電ガスの発光強度とを監視し、演算手段がこれらの発光強度の演算処理し、制御手段が演算結果に基づいて高周波電力を制御するため、発光強度の相対的な強度関係を適切な範囲とすることができ、光吸収が少なく、機械的な強度が大きな光学薄膜を作製することができる。また、請求項5,6,7の発明では、プラズマ中における前記金属フッ化物を構成する分子に由来する第1の発光強度と、前記金属フッ化物を構成する原子又は前記放電ガスに由来する第2の発光強度とに基づく演算結果から膜の成膜速度を監視または制御もしくは成膜時間を制御するので、前記所望の膜厚の光学薄膜を容易に成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】スパッタリング時に発生するプラズマのスペクトルの特性図である。
【図2】MgF2 をターゲットとしたときのプラズマ中のスペクトルの特性図である。
【図3】高周波電力を変化させたときのプラズマの特性図である。
【図4】プラズマの発光強度の比と成膜速度との関係を示す特性図である。
【図5】発光強度の比と高周波電力との関係を示す特性図である。
【図6】成膜速度と高周波電力との関係を示す特性図である。
【図7】成膜装置の構成を示す断面図である。
【図8】実施の形態1の反射防止膜の反射率特性図である。
【符号の説明】
1 真空槽
2 基板
3 ターゲット
5 マグネトロンカソード
6 高周波電源
9 プラズマ
12 分光器
13 制御回路
Claims (7)
- 真空槽内に放電ガスを導入し、少なくとも金属フッ化物を含む材料をターゲットとし、制御手段により制御される高周波電力により前記ターゲット上に前記放電ガスのプラズマを発生させ、このプラズマにより前記ターゲットをスパッタリングして基板上に薄膜を形成するのに際し、前記プラズマ中における前記金属フッ化物を構成する分子に由来する第1の発光強度と、前記金属フッ化物を構成する原子又は前記放電ガスに由来する第2の発光強度とを計測し、これらの第1及び第2の発光強度に基づいて前記記高周波電力を制御することを特徴とする薄膜の成膜方法。
- 前記第1の発光強度と、前記第2の発光強度との比に基づいて前記高周波電力を制御することを特徴とする請求項1記載の薄膜の成膜方法。
- 真空槽に放電ガスを導入するガス導入手段と、少なくとも金属フッ化物を含む材料からなるターゲットが載置されるカソードと、このカソードに高周波電力を供給して前記ターゲット上に前記放電ガスのプラズマを発生させる高周波電源と、プラズマ中の金属フッ化物を構成する分子の発光強度と、金属フッ化物を構成する原子及び放電ガスの内のいずれか1つ以上の発光強度とを監視する監視手段と、これらの発光強度を組み合わせて演算する演算手段と、この演算結果に基づいて前記高周波電源を介して前記高周波電力を制御する制御手段と、を備えていることを特徴とする光学薄膜の成膜装置。
- 前記第1の発光強度と、前記第2の発光強度との比に基づいて前記記高周波電力を制御することを特徴とする請求項3記載の薄膜の成膜装置。
- 真空槽内に放電ガスを導入し、少なくとも金属フッ化物を含む材料をターゲットとし、制御手段により制御される電源により前記ターゲット上に前記放電ガスのプラズマを発生させ、このプラズマにより前記ターゲットをスパッタリングして基板上に薄膜を形成するのに際し、前記プラズマ中における前記金属フッ化物を構成する分子に由来する第1の発光強度と、前記金属フッ化物を構成する原子又は前記放電ガスに由来する第2の発光強度とを監視し、これらの第1及び第2の発光強度に基づく演算結果から膜の成膜速度を監視することを特徴とする薄膜の成膜方法。
- 真空槽内に放電ガスを導入し、少なくとも金属フッ化物を含む材料をターゲットとし、制御手段により制御される電源により前記ターゲット上に前記放電ガスのプラズマを発生させ、このプラズマにより前記ターゲットをスパッタリングして基板上に薄膜を形成するのに際し、前記プラズマ中における前記金属フッ化物を構成する分子に由来する第1の発光強度と、前記金属フッ化物を構成する原子又は前記放電ガスに由来する第2の発光強度とを監視し、これらの第1及び第2の発光強度に基づく演算結果から膜の成膜速度を制御することを特徴とする薄膜の成膜方法。
- 真空槽内に放電ガスを導入し、少なくとも金属フッ化物を含む材料をターゲットとし、制御手段により制御される電源により前記ターゲット上に前記放電ガスのプラズマを発生させ、このプラズマにより前記ターゲットをスパッタリングして基板上に薄膜を形成するのに際し、前記プラズマ中における前記金属フッ化物を構成する分子に由来する第1の発光強度と、前記金属フッ化物を構成する原子又は前記放電ガスに由来する第2の発光強度とを監視し、これらの第1及び第2の発光強度に基づく演算結果から膜の成膜時間を制御することを特徴とする薄膜の成膜方法。
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