JP3946617B2 - 燃料電池スタック - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、燃料電池スタックに関し、一層詳細には、小型かつ軽量であり、しかも、高電流かつ高電圧を得ることが可能な燃料電池スタックに関する。
【0002】
【従来の技術】
大多数の燃料電池スタックは、例えば、特許文献1の図1および図3に示されているように、平板形状の単位セルを複数個積層するとともに、該単位セル同士を互いに電気的に接続することによって構成されている。
【0003】
単位セルは、アノード側電極、電解質およびカソード側電極が順次接合されてなる接合体が、1対のセパレータで挟持されることによって構成される。このセパレータは、通常、金属製である。
【0004】
ところで、長尺なテープ状の高分子膜からなる固体電解質の各端面にアノード側電極またはカソード側電極をそれぞれ形成することによって複数個の電極対を設け、隣接する電極対同士が電気的に接続するように円筒状基材に巻回して燃料電池を構成することが特許文献2に提案されている。
【0005】
なお、特許文献2では、電極対の一部同士を積層し、下側の電極対を構成するアノード側電極に上側の電極対を構成するカソード側電極を当接させることによって、隣接する電極対同士を電気的に接続するようにしている(図4および請求項14参照)。
【0006】
この燃料電池では、燃料ガスとしての水素ガスが円筒状基材の中空内部に供給される。この水素ガスは、円筒状基材の内周壁から外周壁に指向して透過した後、外周壁に当接したアノード側電極において、プロトンと電子とに電離する。
【0007】
このうちの電子は、外部回路を付勢する電気エネルギとなり、一方、プロトンは、カソード側電極に指向して高分子膜内を移動する。プロトンは、最終的に、円筒状基材の周囲に雰囲気ガスとして存在する空気中の酸素と、外部回路を付勢してカソード側電極に移動してきた電子と結合する。これにより、H2Oが生成する。
【0008】
特許文献2によれば、このように構成された燃料電池は、高電圧で放電させることが可能であるという利点を有し、しかも、特許文献1の図3に示されるような流路が設けられたセパレータが不要となるので、製造コストを低廉化することもできるとされている。
【0009】
【特許文献1】
特開2002−170590号公報(特に、図1および図3)
【特許文献2】
米国特許明細書第6007932号(特に、図1)
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
近年における環境保護への関心の高まりから、燃料電池スタックを駆動源とするモータの作用下に走行する燃料電池車を実用化することが試みられている。この場合、燃料電池スタックには、高電流が発生することが希求される。燃料電池スタックから高電流を取り出すことができた場合、モータ内に発生する磁界の強さも大きくなるので、その結果、モータに大きなトルクを発生させることができるからである。
【0011】
また、トルクを発生させるための電流をモータに供給するには、発生トルク、換言すれば、負荷に応じた電圧を燃料電池スタックから得ることが必要となる。すなわち、大きな発生トルクを得るために、燃料電池スタックから高電圧の出力を得ることも希求される。
【0012】
ところで、特許文献2に開示された燃料電池は、単体である。このような燃料電池のみでは、高電流および高電圧を得ることは困難である。そこで、この燃料電池を構成する電極対の数を増すことが想起される。しかしながら、この場合、燃料電池の長さ方向の寸法が大きくなり、これに伴って重量も増すという不具合がある。
【0013】
また、この燃料電池には、冷却水を導入することが可能な構成が採用されていない。このため、燃料電池の温度を制御することが容易ではないという不具合が顕在化している。
【0014】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、高電流および高電圧を得ることが可能であり、しかも、小型かつ軽量で、温度制御も容易な燃料電池スタックを提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するために、本発明は、プロトンが伝導可能な高分子膜の一端面に複数のアノード側電極が形成され、かつ前記高分子膜の他端面における前記アノード側電極の各々に対向する位置にカソード側電極が形成された接合体が、気体が透過可能な円筒状基材の外周壁に巻回されることによって構成された単位燃料電池を複数具備するとともに、前記円筒状基材の内周に燃料ガスまたは酸素含有ガスのいずれか一方が流通し、かつ外周に燃料ガスまたは酸素含有ガスの残余の一方が接触する燃料電池スタックであって、
複数の前記単位燃料電池を収容するケーシングと、
前記ケーシングの内周に嵌合されて前記円筒状基材の各端部を挿入する貫通孔が設けられた第1隔壁部材および第2隔壁部材と、
を有し、
前記接合体においては、前記高分子膜によって隔てられた各々の前記アノード側電極および前記カソード側電極によって電極対が構成され、
前記電極対は、隣接する電極対に電気的に接続され、
前記単位燃料電池のうち隣接する単位燃料電池同士は、前記電極対の巻回開始点および巻回終点がともに180°相違して互いに当接していることを特徴とする。
【0016】
この燃料電池スタックにおいては、高分子膜を介して円筒状基材に巻回された電極対が電気的に直列接続されている。このため、単位燃料電池には、直列接続された電極対によって大きな起電力が生じる。換言すれば、高電圧を発生する燃料電池スタックを構成することができる。
【0017】
また、本発明によれば、電極対の巻回開始点および巻回終点が180°ずつ相違するように単位燃料電池同士を隣接配置することにより、両単位燃料電池においてn回目に巻回された電極対同士を確実に当接させることができる。このように当接した電極対は、電気回路としては、電位点が互いに同等である電極同士が電気的に並列接続されたことと等価であり、結局、電極面積が増したことと等価である。しかも、当接した電極対同士では、電流が流れる方向が一致する。このため、燃料電池スタックは、発電に際して高電流を発生する。
【0018】
なお、隣接する単位燃料電池における両電極対において、巻回開始点および巻回終点の相違が180°でない場合には、当接した電極対の電位点が相違するとともに、電流が流れる方向が互いに異なる。このため、単位燃料電池同士を離間したり、または絶縁材を使用したりすること等によって、隣接する単位燃料電池間を絶縁する必要が生じる。しかしながら、本発明においては、上記したように巻回開始点および巻回終点の相違が180°であるので、隣接する単位燃料電池間を絶縁する必要は特にない。
【0019】
換言すれば、本発明においては、隣接する単位燃料電池における両電極対の巻回開始点および巻回終点を180°ずつ相違するようにしているため、単位燃料電池同士を離間したり、絶縁材を使用したりする必要がない。したがって、燃料電池スタックが大型化することや大重量となることを回避することができ、その結果、小型かつ軽量な燃料電池スタックを構成することができる。
【0020】
その上、本発明によれば、金属製のセパレータが不要となる。このため、燃料電池スタックの重量を著しく小さくすることができる。
【0021】
なお、6個の前記単位燃料電池を構成する前記円筒状基材の底面の中心が正六角形の各頂点位置に配置されていることが好ましい。これにより、隣接する単位燃料電池同士を互いに当接させ、かつ最も密な配置とすることができる。
【0022】
この場合、6個の前記単位燃料電池が正六角形の各頂点位置に配置されることによってその中心部に形成された間隙に挿入された冷却媒体流通管と、
前記ケーシングの内周に嵌合されて前記冷却媒体流通管の各端部を挿入する貫通孔が設けられた第3隔壁部材および第4隔壁部材と、
を有し、
前記第1隔壁部材と前記第3隔壁部材との間に燃料ガスまたは酸素含有ガスのいずれか一方が導入される第1ガス室が形成され、
かつ前記第2隔壁部材と前記第4隔壁部材との間に燃料ガスまたは酸素含有ガスの残余の一方が導入される第2ガス室が形成されることが好ましい。
【0023】
このような構成とすることにより、燃料電池スタックに冷却管を組み込むためのスペースを設ける必要がなくなる。すなわち、冷却管を組み込むことに伴って燃料電池スタックが大型化することを回避することができる。
【0024】
ここで、隣接する電極対同士を互いに電気的に接続する手段の好適な例としては、電極対の一部を隣接する電極対に積層することが挙げられる。この場合、電極対には、隣接する電極対が当接する箇所にガス透過防止処理を施すことが好ましい。これにより、例えば、任意の電極対を構成するアノード側電極に供給された水素ガスが、該電極対に隣接する電極対を構成するカソード側電極に拡散することを回避することができる。このため、水素ガスと酸素とが直接反応して水が生成することを回避することができる。
【0025】
さらに、高分子膜に漏洩防止部が設けられていることが好ましい。この漏洩防止部により、例えば、円筒状基材を通過した水素ガスが該円筒状基材の外周壁から漏洩することを回避することができる。したがって、水素ガスと酸素とが直接反応して水が生成することを回避することができる。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る燃料電池スタックにつき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
本実施の形態に係る燃料電池スタックの一部破断全体斜視図を図1に示す。この燃料電池スタック10は、その中空内部に連通する水素ガス供給管12、水素ガス排出管14、空気供給管16、空気排出管18、冷却水供給管20および冷却水排出管22が外周壁に設けられた円筒体形状のケーシング24を有する。また、該ケーシング24の外周壁からは、2本のターミナル端子26a、26bが突出している。これらターミナル端子26a、26bには、図示しないモータ等の外部負荷が電気的に接続される。
【0028】
ケーシング24の肉厚は、燃料ガスおよび酸素含有ガスが導入された際のガス圧に対して充分な耐圧性を有するように設定される。また、ケーシング24を構成する素材としては、アルミニウム等の軽合金やステンレス鋼、または各種のエンジニアリングプラスチック等の耐熱性を有するものが選定される。
【0029】
ここで、図1のII−II線またはIII−III線からの各矢視断面図を図2または図3に示す。これら図2および図3から諒解されるように、ケーシング24には、単位燃料電池28と、冷却水を流通させるための冷却管30とがそれぞれ複数個収容されている。
【0030】
この場合、単位燃料電池28は、図4に示すように、水素ガスを透過することが可能な物質からなる円筒状基材32と、該円筒状基材32に巻回された接合体34とを有する。
【0031】
図5に示すように、接合体34は、各端部に第1幅広部36および第2幅広部38がそれぞれ設けられたテープ状の高分子膜40の一端面に所定間隔で互いに離間したアノード側電極42と、高分子膜40の他端面において、各アノード側電極42に対応する位置に設けられたカソード側電極44とを有する。なお、第1幅広部36と第2幅広部38は、互いに相反する方向に突出形成されているとともに、その長手方向には、傾斜辺46a、46bを有する。これら第1幅広部36および第2幅広部38は、後述するように、円筒状基材32を透過した水素ガスを遮蔽する。すなわち、第1幅広部36および第2幅広部38は、水素ガスが円筒状基材32の外周壁から漏洩することを防止する漏洩防止部として機能する。
【0032】
高分子膜40の素材は、プロトンが伝導可能な素材からなるものであれば特に限定されるものではないが、好適な例としては、ナフィオン(登録商標)に代表されるパーフルオロスルホン系高分子、ポリケトンに強酸基を導入した高分子、ポリケトン側鎖を有する高分子に強酸基を導入した高分子、ポリスチレンに強酸基を導入した高分子、ポリスチレンの少なくとも一部をフッ化した高分子に強酸基を導入した高分子、塩基性高分子に強酸を複合あるいは共有結合させた高分子、塩基性高分子に強酸基を有する有機化合物を複合あるいは共有結合させた高分子が挙げられる。
【0033】
一方、アノード側電極42は、電極触媒層、ガス拡散層(いずれも図示せず)が高分子膜40上にこの順序で形成されてなる。電極触媒層は、白金を50%以上含有する金属粉末や、該金属粉末をカーボンブラック等の粉末炭素材の表面に担持させたものをアルコール等の溶媒でペースト状にしたものを高分子膜40に塗布した後、乾燥することによって設けることができる。塗布方法としては、スクリーン印刷法等の公知技術を採用すればよい。
【0034】
また、ガス拡散層は、カーボン繊維、カーボンクロス、カーボンペーパや、耐食処理を施した金属製の繊維、クロス、ペーパ等からなる。ガス拡散層は、このような素材を上記のようにして設けられた電極触媒層上に載置した後、例えば、ホットプレスを行うことによって形成することができる。
【0035】
または、ガス拡散層となる素材上に電極触媒層を上記のようにして設けた後、これを高分子膜40の端面に載置してホットプレスを行うようにしてもよい。
【0036】
さらに、ガス拡散層の上方に電子導電層を設けるようにしてもよい。電子導電層は、ガス拡散層を構成する素材と同様の素材、すなわち、カーボン繊維、カーボンクロス、カーボンペーパや、耐食処理を施した金属製の繊維、クロス、ペーパ等から構成することができる。
【0037】
カソード側電極44は、アノード側電極42と同様に構成されており、したがって、詳細な説明を省略する。
【0038】
上記したアノード側電極42およびカソード側電極44が高分子膜40に隔てられることによって、電極対48が構成されている。そして、本実施の形態においては、アノード側電極42とカソード側電極44とがテープ状の高分子膜40の長手方向に沿って10個ずつ設けられることにより、10個の電極対48が設けられた形態となっている。
【0039】
このように構成された接合体34は、図6に示すように、全アノード側電極42が外周壁に当接するように、かつ全カソード側電極44が露呈するように円筒状基材32に巻回される。この際、第1幅広部36の傾斜辺46aが円筒状基材32の一端部と面一となるように合わせられて巻回が開始され、巻回が終了する時点では、第2幅広部38の傾斜辺46bが円筒状基材32の他端部と面一となる。
【0040】
巻回の途中では、要部を拡大して示した図7から諒解されるように、露呈したカソード側電極44の一部に、隣接する電極対48を構成するアノード側電極42の一部が積層される。これが繰り返されることにより、隣接する電極対48同士が互いに電気的に直列接続される。
【0041】
なお、アノード側電極42およびカソード側電極44における積層箇所には、ガスが透過することを防止するためのガス透過防止処理が施されている。具体的には、カーボン粉末を含有する導電性エポキシ樹脂等の導電性ペーストが、積層箇所間に注入された上で乾燥固化されている。
【0042】
燃料電池スタック10においては、図3およびその一部を示す図8に示すように、以上の構成の単位燃料電池28が6個で1ユニットを形成している。すなわち、6個の単位燃料電池28の各々は正六角形の頂点位置に配置され、かつ隣接する単位燃料電池28同士は互いに当接している。
【0043】
前記冷却管30は、この正六角形の中心に配置されている(図3参照)。換言すれば、冷却管30は、6個の単位燃料電池28が正六角形の各頂点位置に配置されることに伴ってその中心部に形成された間隙に挿入されている。冷却管30をこのように配置した場合、冷却管30を組み込むためのスペースを設ける必要がなくなる。このため、6個の単位燃料電池28を正六角形の各頂点位置に配置し、かつ該正六角形の中心部に冷却管30を配置するようにしたことに伴って燃料電池スタック10の形状が大きくなることもない。
【0044】
また、図3から諒解されるように、ユニットU1を構成する単位燃料電池28は、該ユニットU1に隣接するユニットU2を構成する単位燃料電池28を兼ねる。同様に、任意のユニットを構成する単位燃料電池28は、該ユニットに隣接するユニットを構成する単位燃料電池28を兼ねる。
【0045】
ここで、図8に示すように、隣接する単位燃料電池28同士では、各電極対48の巻回開始点および巻回終点が180°相違している。すなわち、例えば、単位燃料電池28aにおける電極対48の巻回開始点が図8におけるA点である場合、この単位燃料電池28aに隣接する2個の単位燃料電池28b、28cは、A点から180°回転した位置にあるB点が電極対48の巻回開始点となるように、正六角形の頂点に配置されている。
【0046】
勿論、単位燃料電池28b、28cにそれぞれ隣接する単位燃料電池28d、28eにおいては、電極対48の巻回開始位置はともにA点であり、これら単位燃料電池28d、28eに隣接する単位燃料電池28fにおいては、電極対48の巻回開始位置はともにB点である。必然的に、図9に示すように、隣接する単位燃料電池28同士では、電極対48の巻回終点も180°ずつ相違する。
【0047】
このように、隣接する単位燃料電池28における各電極対48の巻回開始点および巻回終点を180°異ならせることにより、単位燃料電池28aにおいて1回目に巻回された電極対48aと、該単位燃料電池28aに隣接する単位燃料電池28b、28cにおいて1回目に巻回された電極対48a、48aとが互いに当接する。同様に、2回目〜10回目に巻回された電極対48b〜48j同士が互いに当接する。すなわち、電極対48の巻回開始点および巻回終点が180°ずつ相違するように単位燃料電池28同士を隣接配置することにより、n回目に巻回された電極対48同士を確実に当接させることができる。
【0048】
隣接した単位燃料電池28、28の電極対48、48同士がこのように当接した場合、電気回路としての観点では、電位点が互いに同等である電極同士が電気的に並列接続されたこととなり、結局、電極面積が増したことと等価となる。
【0049】
各々の円筒状基材32の各端部は、ケーシング24の内周壁に嵌合された第1隔壁部材50または第2隔壁部材52に設けられた貫通孔にそれぞれ通されている。なお、円筒状基材32と貫通孔との間は、接着性の封止剤によってシールおよび接合がなされている。
【0050】
第1隔壁部材50と第2隔壁部材52との間には、第1仕切板54および第2仕切板56が配設されている。このため、ケーシング24の内部においては、第1隔壁部材50と第1仕切板54とによって第1室58が区画されるとともに、第2隔壁部材52と第2仕切板56とによって第2室60が区画されている。
【0051】
これら第1仕切板54および第2仕切板56にも貫通孔が設けられており、該貫通孔には、円筒状基材32が通されている。なお、電極対48は、第1仕切板54と第2仕切板56との間に形成された発電室62に位置している。
【0052】
前記空気供給管16は第2室60に連通しており、その一方で、前記空気排出管18は、第1室58に連通している。また、第1仕切板54および第2仕切板56には小貫通孔64が複数個設けられており、したがって、後述するように、空気供給管16を介してケーシング24の内部に導入された空気は、第2室60、発電室62、第1室58および空気排出管18を経てケーシング24の外部へ排出される。
【0053】
第1仕切板54および第2仕切板56は、銅合金等の導電性に優れる素材からなり、ケーシング24の内周壁に位置決め固定された樹脂製グロメット66に嵌合支持されている。この樹脂製グロメット66により、第1仕切板54および第2仕切板56とケーシング24とは、互いに絶縁されている。なお、第1仕切板54および第2仕切板56を構成する素材は、銅合金に金メッキが施されたものであってもよい。
【0054】
前記ターミナル端子26a、26bは、第2仕切板56または第1仕切板54にそれぞれ当接している。この当接により、ターミナル端子26aと第2仕切板56、ターミナル端子26bと第1仕切板54とが互いに電気的に接続されている。
【0055】
そして、単位燃料電池28のうち、図2における最右端に位置する単位燃料電池28のアノード側電極42は第1仕切板54に、カソード側電極44は第2仕切板56にそれぞれ電気的に接続されている。すなわち、図10に示すように、アノード側電極42と円筒状基材32との間には通電板68aが介装されており、該通電板68aの一端部は、第2仕切板56の小貫通孔64の1つを通過して第2室60に進入した後、折曲されて第2仕切板56の一端面に着座している。
【0056】
一方、カソード側電極44においては、図11に示すように、その上端面に通電板68bが接合されており、該通電板68bの一端部は、第1仕切板54の小貫通孔64の1つを通過して第1室58に進入した後、折曲されて第1仕切板54の一端面に着座している。なお、図10および図11中、参照符号70は、導電性ペーストを示す。
【0057】
上記したように、1つの単位燃料電池28における各電極対48は、互いに電気的に直列接続されている。また、単位燃料電池28同士における各電極対48は、隣接する単位燃料電池28の電極対48と電気的に並列接続されている。このため、1個のアノード側電極42およびカソード側電極44を第2仕切板56および第1仕切板54にそれぞれ電気的に接続することにより、全アノード側電極42が第2仕切板56を介してターミナル端子26aに、全カソード側電極44が第1仕切板54を介してターミナル端子26bに電気的に接続される。換言すれば、第2仕切板56はアノード側電極42の集電板として作用し、かつ第1仕切板54はカソード側電極44の集電板として作用する。
【0058】
円筒状基材32に比して長尺な冷却管30の外周壁には、樹脂材からなる被膜(図示せず)が設けられている。この被膜が存在することによって、冷却管30と単位燃料電池28とが互いに絶縁されている。
【0059】
また、図2に示すように、冷却管30の各端部は、第1隔壁部材50および第2隔壁部材52の外方にそれぞれ配設された第3隔壁部材72および第4隔壁部材74の貫通孔に嵌合されている。そして、これら第3隔壁部材72および第4隔壁部材74は、ケーシング24の内周壁に嵌合支持されている。
【0060】
そして、ケーシング24の内部には、第3隔壁部材72と第1隔壁部材50とによって第3室76が区画されるとともに、第4隔壁部材74と第2隔壁部材52とによって第4室78が区画されている。前記水素ガス供給管12および前記水素ガス排出管14は、第3室76および第4室78にそれぞれ連通して設けられている。また、第3室76と第4室78とは、円筒状基材32の中空内部を介して連通している。
【0061】
さらに、ケーシング24の両端部は、第1蓋部材80および第2蓋部材82によってそれぞれ封止されており、このため、ケーシング24の内部には、第1蓋部材80と第3隔壁部材72とによって第5室84が区画され、かつ第2蓋部材82と第4隔壁部材74とによって第6室86が区画されている。そして、これら第5室84および第6室86には、前記冷却水供給管20および前記冷却水排出管22が連通して設けられている。
【0062】
そして、水素ガス供給管12、水素ガス排出管14、空気供給管16、空気排出管18、冷却水供給管20および冷却水排出管22に、水素ガス供給経路、水素ガス排出経路、空気供給経路、空気排出経路、冷却水供給経路および冷却水排出経路がそれぞれ接続され、燃料電池システムが構成される(いずれも図示せず)。なお、水素ガス供給経路および圧縮空気供給経路の末端には、水素貯蔵源およびコンプレッサが接続される。さらに、燃料電池スタック10には、加熱ヒータおよび温度制御機構(いずれも図示せず)が付設される。
【0063】
本実施の形態に係る燃料電池スタック10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次にその作用効果について説明する。
【0064】
この燃料電池スタック10を運転するに際しては、冷却水供給源から冷却水を流通する。冷却水は、冷却水供給管20を介して第5室84に導入され、該第5室84に臨んで開口した冷却水管の中空内部を介して第6室86に移動した後、冷却水排出管22から排出される。
【0065】
その一方で、加熱ヒータおよび温度制御機構の作用下に、燃料電池スタック10を所定温度まで昇温させる。
【0066】
次いで、水素ガス供給経路において、前記水素貯蔵源から高圧の水素ガスを供給する。この水素ガスは、所定圧力、所定流量かつ所定温度に調整された後、水素ガス供給管12を介してケーシング24の内部に設けられた第3室76に導入される。水素ガスは、さらに、第3室76に露呈した円筒状基材32の中空内部に進入して流通する。
【0067】
上記したように、円筒状基材32は、水素ガスを透過させる物質からなる。このため、水素ガスは、円筒状基材32を透過して、該円筒状基材32の外周壁に当接しているアノード側電極42のガス拡散層を通過した後、電極触媒層に到達する。
【0068】
ここで、円筒状基材32上において電極対48が存在しない箇所、例えば、両端部には、第1幅広部36または第2幅広部38が巻回されている。このため、円筒状基材32を透過した水素ガスが発電室62等に漏洩することが回避され、該発電室62において水素ガスと酸素とが直接反応して水が生成することを回避することができる。
【0069】
また、上記したように、任意の電極対48を構成するアノード側電極42と、該電極対48に隣接する電極対48を構成して前記アノード側電極42に積層されたカソード側電極44とには、導電性ペーストによってガス透過防止処理が施されている。このため、アノード側電極42に供給された水素ガスがカソード側電極44に拡散することはない。このため、積層箇所においても、水素ガスと酸素とが直接反応して水が生成することを回避することができる。
【0070】
未反応の水素ガスは、第4室78および水素ガス排出管14を通過してケーシング24の外部に排出された後、水素ガス排出経路によって処理される。
【0071】
その一方で、空気供給経路において、前記コンプレッサを介して圧縮空気を供給する。この圧縮空気は、水素ガスと同様、所定圧力、所定流量および所定温度に調整された後、空気供給管16を介して第2室60に導入される。
【0072】
第2室60に導入された圧縮空気は、第1仕切板54に設けられた小貫通孔64を通過して発電室62に進入する。圧縮空気は、その後、該発電室62に露呈したカソード側電極44のガス拡散層を通過して電極触媒層に到達する。
【0073】
そして、アノード側電極42の電極触媒層に到達した水素ガスは、プロトンと電子とに電離する。このうち、電子は、ターミナル端子26aを介して燃料電池システムの外部に取り出され、ターミナル端子26a、26bに電気的に接続されたモータ等の負荷を付勢する電気エネルギとして使用される。なお、圧縮空気中の窒素や未反応の酸素は、第1室58および空気排出管18を通過してケーシング24の外部に排出された後、空気排出経路によって処理される。
【0074】
一方、プロトンは、プロトン伝導体である高分子膜40を通過してカソード側電極44の電極触媒層に到達する。この電極触媒層において、水素イオンと、負荷およびターミナル端子26bを介してカソード側電極44に到達した電子と、カソード側電極44に供給されて該カソード側電極44のガス拡散層を通過した圧縮空気中の酸素とが反応を起こし、H2Oが生成する。
【0075】
この際、単位燃料電池28の各々においては、1回目〜10回目に巻回された電極対48が電気的に順次直列接続されている。このため、単位燃料電池28には、直列接続された電極対48によって大きな起電力が生じる。換言すれば、燃料電池スタック10は、高電圧を発生する。
【0076】
さらに、上記したように、本実施の形態においては、隣接する単位燃料電池28におけるn回目に巻回された両電極対48が互いに当接することによって、電極面積が増している状態と等価となっている。しかも、当接した電極対48同士では、電流が流れる方向が一致する。このため、燃料電池スタック10は、上記の反応が生じることに伴って高電流を発生する。
【0077】
すなわち、電極対48の巻回開始点および巻回終点が180°ずつ相違するように単位燃料電池28同士を隣接配置することにより、高電流を発生する燃料電池スタック10を構成することができる。
【0078】
なお、隣接する単位燃料電池28における両電極対48の巻回開始点および巻回終点の相違が180°でない場合には、例えば、任意の単位燃料電池28においてn回目に巻回された電極対48と、該単位燃料電池28に隣接する単位燃料電池28において(n−1)回目、または(n+1)回目に巻回された電極対48とが当接する。この場合、当接した電極対48同士では電位点が相違するため、電流が流れる方向が互いに異なる。このため、単位燃料電池28同士を離間したり、または絶縁材を使用したりすること等によって、隣接する単位燃料電池28間を絶縁する必要が生じる。
【0079】
換言すれば、本実施の形態においては、隣接する単位燃料電池28における電極対48同士の巻回開始点および巻回終点を180°ずつ相違するようにしたので、単位燃料電池28同士を離間したり、または絶縁材を使用したりする必要がない。このため、燃料電池スタック10が大型化することおよび大重量となることを回避することができ、その結果、小型かつ軽量な燃料電池スタック10を構成することができる。
【0080】
このように、本実施の形態に係る燃料電池スタック10によれば、複数個の電極対48を互いに電気的に直列接合しているので高電圧を発生する。また、隣接する単位燃料電池28における両電極対48の巻回開始点および巻回終点の相違が180°であるので、高電流を発生するとともに、小型かつ軽量な構成となる。
【0081】
その上、この燃料電池スタック10では、金属製のセパレータを組み込むことなく、各電極対48に水素ガスおよび圧縮空気を供給することができる。すなわち、本実施の形態においては、金属製のセパレータが不要となる。このため、重量が著しく小さい燃料電池スタック10を構成することができる。
【0082】
なお、上記した実施の形態においては、各端部に第1幅広部36および第2幅広部38がそれぞれ設けられたテープ状の高分子膜40に電極対48を設けるようにしているが、図12に示すように、長方形状の高分子膜90を使用するようにしてもよい。この場合、アノード側電極42およびカソード側電極44を傾斜するように高分子膜90に設けて接合体92を形成し、図13に示すように、該接合体92の長手方向を円筒状基材32の長手方向と合致させた上で該接合体92を円筒状基材32に巻回すればよい。これにより、図14に示す単位燃料電池94が構成される。この際、高分子膜90における電極対48が設けられていない箇所が漏洩防止部として機能し、例えば、円筒状基材32の両端部等から水素ガスが漏洩することが防止される。
【0083】
この場合においても、図15に示すように、任意の電極対48におけるカソード側電極44上に、該電極対48に隣接する電極対48を構成するアノード側電極42が積層される。積層箇所には、上記と同様にガス透過防止処理を施すことが好ましい。
【0084】
また、本実施の形態では、円筒状基材32の中空内部に水素ガスを流通させ、かつ酸素を含有する雰囲気に外周壁を曝露するようにしているが、中空内部に酸素を含有するガスを流通させ、かつ外周壁を囲繞する雰囲気を水素ガスとしてもよいことはいうまでもない。この場合、円筒状基材32の外周壁にカソード側電極44を当接させるとともに、アノード側電極42を露呈させればよい。
【0085】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る燃料電池スタックによれば、高分子膜上に複数の電極対を設けて接合体とした上で、該接合体を円筒状基材に巻回する際に電極対同士を互いに電気的に直列接続して単位燃料電池を構成し、さらに、複数の該単位燃料電池をケーシングに収容する際に、隣接する単位燃料電池同士における両電極対の巻回開始点および巻回終点が180°相違して互いに当接している。
【0086】
このように構成された単位燃料電池においては、直列接続された電極対によって大きな起電力が生じるので、高電圧を発生する燃料電池スタックを構成することができる。
【0087】
また、電極対の巻回開始点および巻回終点が180°ずつ相違するように単位燃料電池同士が隣接配置されているので、電気回路としては、電極面積が増したことと等価となる。しかも、当接した電極対同士では、電流が流れる方向が一致する。このため、発電の際、燃料電池スタックに高電流を発生させることができる。
【0088】
さらに、この場合、隣接する単位燃料電池間を絶縁する必要は特になく、かつ金属製のセパレータを組み込む必要もない。したがって、燃料電池スタックが大型化することや大重量となることを回避することができる。換言すれば、小型かつ軽量な燃料電池スタックを構成することができる。
【0089】
すなわち、本発明によれば、燃料電池スタックから高電流および高電圧を得ることができるとともに、該燃料電池スタックの小型化かつ軽量化を図ることができるという効果が達成される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態に係る燃料電池スタックの一部破断全体斜視図である。
【図2】図1のII−II線矢視断面図である。
【図3】図1のIII−III線矢視断面図である。
【図4】図1の燃料電池スタックを構成する単位燃料電池の概略全体正面図である。
【図5】図4の単位燃料電池を構成する接合体の一部省略正面図である。
【図6】図5の接合体を円筒状基材に巻回する状態を示す概略全体正面図である。
【図7】図6の要部拡大断面図である。
【図8】6個の単位燃料電池を正六角形の頂点位置に配置するとともに、各単位燃料電池における電極対の巻回開始点を示した概略平面図である。
【図9】図8に示す各単位燃料電池における各接合体の巻回開始点および巻回終点を示す要部斜視図である。
【図10】アノード側電極と第1仕切板とを電気的に接続する構成を説明する要部拡大断面図である。
【図11】カソード側電極と第2仕切板とを電気的に接続する構成を説明する要部拡大断面図である。
【図12】別の接合体の概略全体正面図である。
【図13】図12の接合体を円筒状基材に巻回する状態を示す概略全体正面図である。
【図14】図12の接合体が円筒状基材に巻回されて構成された単位燃料電池の概略全体正面図である。
【図15】図14に示す単位燃料電池の要部拡大断面図である。
【符号の説明】
10…燃料電池スタック 24…ケーシング
28、28a〜28f、94…単位燃料電池
30…冷却管 32…円筒状基材
34、92…接合体 36、38…幅広部
40、90…高分子膜 42…アノード側電極
44…カソード側電極 48、48a〜48j…電極対
50、52、72、74…隔壁部材 54、56…仕切板
58、60、76、78、84、86…室
62…発電室 64…小貫通孔
80、82…蓋部材
Claims (6)
- プロトンが伝導可能な高分子膜の一端面に複数のアノード側電極が形成され、かつ前記高分子膜の他端面における前記アノード側電極の各々に対向する位置にカソード側電極が形成された接合体が、気体が透過可能な円筒状基材の外周壁に巻回されることによって構成された単位燃料電池を複数具備するとともに、前記円筒状基材の内周に燃料ガスまたは酸素含有ガスのいずれか一方が流通し、かつ外周に燃料ガスまたは酸素含有ガスの残余の一方が接触する燃料電池スタックであって、
複数の前記単位燃料電池を収容するケーシングと、
前記ケーシングの内周に嵌合されて前記円筒状基材の各端部を挿入する貫通孔が設けられた第1隔壁部材および第2隔壁部材と、
を有し、
前記接合体においては、前記高分子膜によって隔てられた各々の前記アノード側電極および前記カソード側電極によって電極対が構成され、
前記電極対は、隣接する電極対に電気的に接続され、
前記単位燃料電池のうち隣接する単位燃料電池同士は、前記電極対の巻回開始点および巻回終点がともに180°相違して互いに当接していることを特徴とする燃料電池スタック。 - 請求項1記載の燃料電池スタックにおいて、6個の前記単位燃料電池を構成する前記円筒状基材の底面の中心が正六角形の各頂点位置に配置されていることを特徴とする燃料電池スタック。
- 請求項2記載の燃料電池スタックにおいて、6個の前記単位燃料電池が正六角形の各頂点位置に配置されることによってその中心部に形成された間隙に挿入された冷却媒体流通管と、
前記ケーシングの内周に嵌合されて前記冷却媒体流通管の各端部を挿入する貫通孔が設けられた第3隔壁部材および第4隔壁部材と、
を有し、
前記第1隔壁部材と前記第3隔壁部材との間に燃料ガスまたは酸素含有ガスのいずれか一方が導入される第1ガス室が形成され、
かつ前記第2隔壁部材と前記第4隔壁部材との間に燃料ガスまたは酸素含有ガスの残余の一方が導入される第2ガス室が形成されることを特徴とする燃料電池スタック。 - 請求項1〜3のいずれか1項に記載の燃料電池スタックにおいて、前記電極対の一部が隣接する電極対に積層されることによって、隣接する電極対同士が電気的に接続されていることを特徴とする燃料電池スタック。
- 請求項4記載の燃料電池スタックにおいて、前記電極対には、隣接する電極対が当接する箇所にガス透過防止処理が施されていることを特徴とする燃料電池スタック。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の燃料電池スタックにおいて、前記高分子膜に漏洩防止部が設けられていることを特徴とする燃料電池スタック。
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