JP3933979B2 - 表面修飾された多孔性シリカおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、多孔性シリカに関し、特に、表面修飾された多孔性シリカを製造するための新しい技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
界面活性物質(界面活性剤)の集合構造(例えば、棒状ミセル)を鋳型として、その周囲(表面)で適当なシリカ源を原料としてゾルゲル反応を行わせてシリカを合成し、その後に鋳型を除くと、ナノメートルサイズの直径を持つ細孔が規則的に並んだ多孔性シリカ、所謂、メソポーラスシリカを作製できることが知れらている。このような多孔性シリカの構造は方向性が規制された異方性の非常に高い場を形成しているので、特異的物理現象や化学反応を行うための新規な環境としてナノサイエンスやナノテクノロジーの分野から注目を浴び、学究面および実用面における各種の用途が期待されている。特に、最近は多孔性シリカをそのまま用いるのではなく、細孔内表面に触媒などの官能基を固定化することによって、多孔性シリカの機能性を飛躍的に向上させようとする試みが盛んになされている。従来より多孔性シリカの内部表面を機能性の官能基で修飾する手法としては下記のものが知られているが問題点も多い。
【0003】
a)シリカ合成時に所望の官能基を同じに固定化する方法:
多孔性シリカの合成には、Si(OEt)4(略称TEOS)やSi(OMe)4(略称TMOS)などの四官能性の化合物をシリカ源として用いるが、その際に所望の官能基Rを含むシリカ化合物(RSi(OEt)3)を混合することによって、官能基Rを導入する方法が行われている。この場合官能基はシリカ全体に分散することになり、RSi(OEt)3含率を増やすと、シリカ骨格を脆弱化する。この手法では、20〜30%程度しか官能基を導入できないという欠点がある。
【0004】
b)多孔性シリカを作製した後に表面を修飾する手法
多孔性シリカを作製した後で、外部から試薬を加えることによって表面のみを修飾する方法がある。しかしながら、この場合には、孔構造の入口付近のみしか修飾できず、修飾が不均質になることが知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、如上の状況に鑑み、多孔性シリカの細孔内表面を高密度で均一に修飾することのできる新しい技術を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、シリカ合成時の鋳型となる新しいタイプの界面活性物質を設計し、これを利用することにより上記の目的を達成したものである。
かくして、本発明は、下記の一般式(1)で表わされる修飾基によりシリカの細孔内表面が共有結合を介して修飾されていることを特徴とする多孔性シリカを提供するものである。
【0007】
【化6】
【0008】
式(1)中、aは1〜3の整数、bはa+b=3を満たす整数であり、Zは炭素数1〜4のアルキル基を表わし、Xはカチオン性または非イオン性の親水性官能基または原子団を表わし、Aは下記の式(2)で表わされるアミノ酸残基またはその修飾体を表わす。
【0009】
【化7】
【0010】
式(2)中、Rは−NH−CH−CO−とともにアミノ酸残基を構成する官能基または原子団を表わし、mは1から10の整数である。
【0011】
本発明に従えば、さらに、上記の多孔性シリカを製造する方法であって、(i)下記の式(3)で表わされる界面活性物質、シリカ源、ゾルゲル反応触媒および水を含む反応溶液を調製してゾルゲル反応を行い、生じた固体をろ過した後、乾燥して粉末にする工程、および(ii)加水分解触媒を加えた有機溶媒中に前記粉末を分散させて還流する工程、を含むことを特徴とする方法が提供される。
【0012】
【化8】
【0013】
式(3)中、Z1、Z2およびZ3の少なくとも1つは炭素数1〜4のアルコキシ基またはハロゲン原子を表わし、該アルコキシ基またはハロゲン原子でないZ1、Z2およびZ3はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を表わし、Yは脂肪族炭化水素または芳香族炭化水素から成る疎水性の官能基または原子団を表わし、A’は下記の式(4)で表わされるアミノ酸残基またはその修飾体を表わし、Xは上記式(1)に関して定義したものと同じである。
【0014】
【化9】
【0015】
式(4)中、Rは−NH−CH−CO−とともにアミノ酸残基を構成する官能基または原子団を表わし、mは1から10の整数である。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明に従う多孔性シリカの製造方法は、既述の式(3)で表わされる新規な界面活性物質(界面活性剤)を用いることによって実施される。以下の記述から明らかなように、本発明で用いられるこの界面活性物質は、シリカ形成時の鋳型と成ると同時に、シリカの内表面を修飾するという二つの役割を果たすことになる。
【0017】
式(3)から理解されるように、本発明において用いられる界面活性物質は、親水部(親水頭部)Xと疎水部(疎水尾部)Yとの間にアミノ酸関連残基A’が導入され、且つ、その親水部側の末端にアルコキシシリル基またはハロゲン化シリル基が存在するような構造から成る。
【0018】
すなわち、式(3)中、Z1、Z2およびZ3の少なくとも1つは炭素数1〜4のアルコキシ基またはハロゲン原子を表わし、該アルコキシ基またはハロゲン原子でないZ1、Z2およびZ3はそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基を表わしている。また、式(3)において、Xは、カチオン性または非イオン(ノニオン)性の親水性官能基または原子団を表わすが、安定な構造体を得る点からはカチオン性の官能基または原子団から成るものが好ましい。図1に、式(3)で表わされる本発明で用いられる界面活性物質の親水部を構成するのに好ましい官能基または原子団の例を示しているが、これらに限定されるものではない。さらに、本発明で用いられる式(3)の界面活性物質において、Yは、界面活性物質の構成成分として従来より知られた各種の脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基から成る疎水部を表わす。図2に、本発明で使用される界面活性物質の疎水部を構成するのに好ましい官能基または原子団の例を示しているが、これらに限定されるものではない。
【0019】
本発明で用いられる式(3)の界面活性物質においてA’で表わされるアミノ酸関連残基とは、式(4)から明らかなようにアミノ酸残基、またはその修飾体である。修飾体とは、生体内でよく見られるようなタンパク質の変化を引き起こすような各種の反応に因りアミノ酸が変化したものであり、例えば、リン酸化、メチル化、アセチル化等に因るものが挙げられる。本発明に従えば、目的とする生体モデルに応じて、(1)式で表わされる界面活性物質に導入されているアミノ酸としてそのような修飾体を用いることもできる。
【0020】
式(4)において、Rは、以上の説明からも既に明らかなように、式(4)に示す−NH−CH−CO−とともにアミノ酸残基を構成する官能基または原子団を表わす。すなわち、Rは、例えば、CH3(アラニンの場合)、CH2Ph(フェニルアラニンの場合:Phはフェニル基)、(CH3)2CH(バリンの場合)、(CH3)2CHCH2(ロイシンの場合)、CH2−OH(セリンの場合)、CH3(OH)CH(トレオニンの場合)、CH2−SH(システインの場合)等を表わす。アミノ酸(アミノ酸残基)の数を定めるmは、原理的には特に制限はないが、得られるシリカの安定性の点から、一般に1〜10が好ましく、1〜6が特に好ましい。なお、導入されるアミノ酸(アミノ酸残基)は、必ずしも同一のアミノ酸でなく、複数種のアミノ酸であってもよく、式(4)はそのような態様も含むものとして表現している。さらに、導入するアミノ酸は、目的に応じてL体またはD体のいずれでもよく、L体およびD体を混合して導入してもよい。
【0021】
いずれの場合においても、式(3)に示されるように、アミノ酸残基またはその修飾体A’のC末端は、酸素原子(O)を介して疎水性の官能基または原子団(Y)に結合、すなわち、エステル結合を介してYに結合している。このエステル結合は、後述する還流工程により加水分解を受けることになる。
【0022】
本発明で用いられる如上の界面活性物質は、既知の合成反応を工夫することにより得られる。すなわち、概説すれば、式(3)の界面活性物質は、一般に、次のように合成される。まず、所望のアミノ酸(またはその修飾体)のC末端を脂肪族(または芳香族)アルコールとの反応で対応する脂肪族炭化水素(または芳香族炭化水素)基を持つエステルとする(O−Y部の導入)。次に、このアミノ酸のN末端に所望のアミノ酸を定法のペプチド伸張反応によって逐次的にアミノ酸を縮合してゆくこの反応により、所望の長さと組み合わせのペプチド鎖が形成される(A’部の形成)。さらにペプチド鎖のN末端を例えばブロモ酢酸ブロミドのような試薬との反応でアミド化しブロモ基を導入する。最後に、ジエトキシメチルシリルプロピルジメチルアミンなどの適当なアミンによる四級化反応を行い、親水部(X)とシリル部を導入して、式(3)の界面活性物質を合成することができる。ただし、界面活性物質の合成法はこれに限定されるものではなく、組み合わせに応じた手法がとられる。図3には、本発明において用いられる界面活性物質として好ましい例を式(3)の表現形式に沿って示しているが、界面活性物質はこれらに限定されるものではない。
【0023】
本発明に従い表面修飾された多孔性シリカを製造するには、先ず、如上の式(3)で表わされる界面活性物質、シリカ源、ゾルゲル反応触媒および水を含む反応溶液を調製してゾルゲル反応を行わせる。シリカ源としては、アルコキシド、水溶性珪酸塩、コロイダルシリカなどの種々のものが使用可能であるが、好ましいのは、テトラエトキシシラン(オルト珪酸テトラエチル:TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)、メチルトリエトキシシランなどのアルコキシドである。ゾルゲル反応触媒とは、アルコキシド等のシリカ源を加水分解し、重縮合させる反応の触媒であり、塩酸のような酸、水酸化ナトリウムのようなアルカリ、アミン等を使用することができる。
【0024】
ゾルゲル反応溶液には、必要に応じて混合を円滑にするため有機溶媒を添加してもよい。また、ゾルゲル反応は、軽く加熱した後、冷却してゲル生成を促進するように行ってもよいが、一般的には、20〜30℃の常温下に実施することができる。反応時間は、一般に、2〜10時間程度である。
【0025】
以上のような工程により、界面活性物質(界面活性剤)を鋳型として、その周囲(表面)でゾルゲル反応が進行してシリカが生成するとともに、界面活性物質がシリカの表面と反応し共有結合を作る。つまり、界面活性物質は鋳型を形成すると同時にシリカ内面を修飾するという二つの役割を同時に果たしていることになる。この界面活性物質はミセルを形成しているので、シリカ骨格自体に侵入していくことはなく表面にのみ結合するので、シリカの内部骨格は壊さない。また、シリカ内面からの修飾であるので、多孔性シリカ内表面を事実上100%覆い尽くすことができる。かくして、下記の一般式(5)で表わされる修飾基によりシリカの細孔内表面が共有結合を介して修飾されている多孔性シリカが得られる。
【0026】
【化10】
【0027】
式(5)中、a、b、ZおよびXは既述の式(1)に関して定義したものと同じであり、A’およびYは既述の式(3)に関して定義したものと同じである。図4には、図3の(1)に属する界面活性物質を用いた場合を例に、シリカ骨格の細孔内表面に界面活性物質が共有結合を介して固定されている構造が模式的に示されている(図4のII)。
【0028】
ゾルゲル反応により得られる多孔性シリカ(メソポーラスシリカ)の構造は、使用する界面活性物質、シリカ源およびゾルゲル反応触媒の種類を含む反応条件の相違によって異なる。本発明に従えば、界面活性物質として式(3)のXが第4級アンモニウムイオンを含むカチオン性官能基または原子団であり、Yが炭素数12〜18のアルキル鎖であるものを用い、シリカ源としてアルコキシドを用い、ゾルゲル反応触媒として水酸化ナトリウムのようなアルカリを用いるゾルゲル反応により、安定なキュービック相の多孔性シリカ(図5参照)が得られることが見出される。一方、同様の界面活性物質およびシリカ源を用いても、ゾルゲル反応触媒として塩酸のような酸を用いると、ヘキサゴナル相の多孔性シリカ(シリンダー状態の細胞が蜂の巣に配列したシリカ)が形成される。また、触媒によらず界面活性剤とシリカ源の量比を変えることによって、キュービック相とヘキサゴナル相を作り分けることもできる。ゾルゲル反応により生成されるこのような多孔性シリカの構造は、後述する還流工程の後も安定に保持されている(実施例参照)。
【0029】
本発明に従い表面修飾された多孔性シリカを製造するには、如上のゾルゲル反応によって得られた粉末を、次の工程として、加水分解触媒を加えた有機溶媒中に分散させて還流する。この工程により、式(3)で表わされる界面活性物質においてA’のC末端とYとを結合しているエステル結合が加水分解され、Y(疎水部を構成している脂肪族炭化水素または芳香族炭化水素)が選択的に除去されて、シリカ内の細孔が拡大される。
【0030】
かくして、本発明に従えば、既述の式(1)で表わされる修飾基によりシリカの細孔内表面が共有結合を介して修飾されている多孔性シリカが得られる。式(1)のA(アミノ酸残基)のC末端は、式(2)に示されるように、加水分解によりカルボキシル基となっている。図4には、図3の(1)に属する界面活性物質を用いた場合を例に、シリカ骨格の細孔内表面に、加水分解により疎水部(長鎖アルキル鎖)が選択除去された界面活性物質が共有結合を介して固定されている構造が模式的に示されている(図4のIII)。
【0031】
本発明に従い界面活性物質の疎水部を選択除去するための還流工程に用いられる加水分解触媒としては、有機化合物の加水分解の触媒作用をする酸、塩基または酵素が使用できるが、好ましいのは塩酸である。また、還流工程において用いられる有機溶媒は、加水分解触媒を溶解し、且つ、加水分解後に生じる脂肪族炭化水素または芳香族炭化水素(式(3)のYに由来する)に対する溶解性も良好なものが好ましい。この点から好適な有機溶媒としてTHF(テトラヒドロフラン)が挙げられる。この還流工程に要する時間は、一般に、6〜12時間程度である。還流終了後は、常法に従い、得られた固体をろ取し、乾燥することにより白色粉末として生成物を得ることができる。
【0032】
以上のようにして本発明に従えば、ナノメートルのオーダーから数十ナノメートルのオーダー(一般に1〜50nm)の直径の細孔を有する多孔性シリカ(メソポーラスシリカ)の細孔内表面の全体にわたって、式(1)で一般的に表わされ、また、図4の(III)に具体的に例示されるように、外側にアミノ酸またはペプチド構造を有する修飾基が共有結合を介して強固に固定されたシリカ構造体が得られる。特に、本発明によれば、図5に示されるような、従来のシリカ構造体では珍しいキュービック相から成る表面修飾された多孔性シリカを得ることもできる。このような構造や特性は、X線回折分析(XRD)、赤外分光法(FT−IR)、電子顕微鏡、NMRなどの手段を用いて解析することにより確認することができる(後述の実施例参照)。
【0033】
かくして、既述の式(1)であらわされる修飾基により細孔内表面が修飾された多孔性シリカ(メソポーラスシリカ)は、該修飾基を構成している特定のアミノ酸またはペプチドと特異的に反応する物質を細孔内に取り込み吸着させることにより、それらの物質を検出するセンサー、またはそれらの物質を分離する分離剤等としての用途が期待される。
【0034】
さらに、本発明は、以上のような還流による加水分解後の最終生成物としての多孔性シリカのみならず、加水分解により疎水部を除去する前の中間体としても有用な多孔性シリカを提供するものである。すなわち、既述の式(5)で表わされる修飾基によりシリカの細孔内表面が共有結合を介して修飾されている多孔性シリカ(メソポーラスシリカ)も、従来の界面活性物質(界面活性剤)を鋳型とするメソポーラスシリカとは異なる有用な特性を示す。従来得られているメソポーラスシリカでは、鋳型となっている界面活性剤はシリカ骨格に静電的な相互作用で、固定化されているだけであるので、この界面活性剤/シリカのハイブリッドは、安定性の高いものではない。例えば、薄い酸を含むエタノールなどで洗浄すると界面活性剤は除去される。一方、本発明により得られるメソポーラスシリカでは、界面活性剤がシリカ壁に共有結合を介して固定化されるため、このような処理では界面活性剤成分は全く除かれない。つまり、本発明に従い中間体として得られるメソポーラスシリカと界面活性剤のハイブリッドは、極めて安定に界面活性剤の集合構造を保持したものである。界面活性剤の作る集合構造は、疎水的な生体関連物質を吸着させるのに適当な場であり、このような構造を極めて安定に保持したメソポーラスシリカは、疎水性の生体関連物質や毒物などを選択的に認識、あるいは、除去し得る材料となり得る。
【0035】
【実施例】
以下に、本発明の特徴をさらに具体的に明らかにするため実施例を示すが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
なお、本明細書および図面中の化学構造式においては、慣用的な表現法に従い、炭素原子や水素原子を省略して示していることもある。
実施例1:キュービック相メソポーラスシリカの製造
界面活性物質(界面活性剤)として図3の(1)においてm=1、R=CH3、n=16に相当する界面活性剤を用いた。
界面活性剤、水、テトラメトキシシラン(TMOS)、0.5N NaOHを重量比(0.041/1.0/0.076/0.27g)すなわち、モル比(界面活性剤/水/TMOS/NaOH=0.12/141/1/0.27)で混合し、室温下で約4時間ゾルゲル反応させ、生じた固体をろ過によって分離した。このゾルゲル反応の後にろ過によって得られた固体のXRDパターンを図6(a)に示すが、典型的なキュービック相のパターンを示している。また、この固体のFT−IRデータを図7(a)に示すが、界面活性剤に由来するピークが、2925cm-1(νas(CH2)、アルキル鎖)、1742cm-1(ν(CO)、エステル)、1685cm-1(ν(CO)、アミド)に見られる。したがって、この固体は、界面活性剤がシリカ骨格に共有結合で固定化されたメソポーラスシリカと界面活性剤のハイブリッドである(図4のII)ことが確認された。
【0036】
次に、上記のゾルゲル反応後の固体(粉末)をTHF(20ml)中に分散させ、濃塩酸0.5gを加えて8時間還流させ加水分解に供した。得られた固体をろ取し乾燥して白色粉末とした。この加水分解後の固体(白色粉末)のXRDパターンを図6(b)に示すが、キュービック相のパターンは保持されていることが理解される。また、この固体のFT−IRデータを図7(b)に示すが、アルキル鎖に由来する2925νas(CH2))付近のピークが消失しているが、1681cm-1(ν(CO))にアミド結合に由来するピークは保持されている。このことは、加水分解操作によってアルキル鎖部分のみが除去されていることを意味している。また、1742cm-1のピークが1734cm-1にシフトしたことも、加水分解によりエステル部がカルボン酸に変換されたことを意味している。なお、窒素吸着法によると、如上の加水分解後の固体生成物は、約1.0 〜 2.0nmの細孔を有していることが示された。このように、還流による加水分解工程で、界面活性剤のエステル部分が選択的に加水分解し、アルキル鎖がシリカ骨格外に洗い流され、その結果、メソポーラスシリカ表面には、共有結合で固定化されたアミノ酸残基が残り、内表面がアミノ酸残基で密に修飾されたメソポーラスシリカが得られることが確認された。
なお、シリカ骨格自体の安定性を検討するために、この固体を500℃で6時間焼成した。それらの結果を図6(c)と図7(c)に示した。焼成操作によって、界面活性剤の有機成分は除かれたが、キュービック相のXRDパターンは保持されていた。したがって、得られたシリカの骨格自体も充分な強度を持つものであることが確認できた。
【0037】
実施例2:ヘキサゴナル相メソポーラスシリカの製造
基本的な操作は、実施例1のキュービック相のメソポーラスシリカを作製する場合と同様であるが、ゾルゲル反応の条件を変えることにより、ヘキサゴナル相メソポーラスシリカとそれを修飾したものを得ることができた。まず、テトラエトキシシラン(TEOS)、水、エタノール、HClをモル比(1/4/3/0.01)で混合し、70℃で2時間反応させることにより、ゾル液を得た。このゾル液と、界面活性剤、水、濃塩酸を重量比(0.20/0.042/0.82/0.43g)すなわち、最終的なモル比(界面活性剤/水/TMOS/HCl/エタノール=1/0.13/127/9/3)で混合し、室温下で約4時間ゾルゲル反応させ、界面活性剤がシリカ骨格に共有結合で固定化されたメソポーラスシリカと界面活性剤のハイブリッドを得た。還流条件下の加水分解によるアルキル鎖(疎水部)の除去は、実施例1に示したキュービック相の場合と同様にして行った。XRDパターン(図8)とFT−IRデータ(図9)から、キュービック相と同様なメソポーラスシリカの修飾がなされていることが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明で用いられる界面活性物質の親水部を構成するのに好ましい官能基または原子団の例の化学構造式を示す。
【図2】本発明で使用される界面活性物質の疎水部を構成するのに好ましい官能基または原子団の例の化学構造式を示す。
【図3】本発明で使用される界面活性物質として好適な例の化学構造式を示す。
【図4】本発明に従い、表面修飾された多孔性シリカ(メソポーラスシリカ)を作製する過程を界面活性物質の1例に沿って模式的に示す。
【図5】本発明によって得られるキュービック相の多孔性シリカの構造を模式的に示す。
【図6】本発明に従い表面修飾されたキュービック相の多孔性シリカを作製する各過程において測定したX線回折パターンを示す。
【図7】本発明に従い表面修飾されたキュービック相の多孔性シリカを作製する各過程において測定したFT−IRスペクトルを示す。
【図8】本発明に従い表面修飾されたヘキサゴナル相の多孔性シリカを作製する各過程において測定したX線回折パターンを示す。
【図9】本発明に従い表面修飾されたヘキサゴナル相の多孔性シリカを作製する各過程において測定したFT−IRスペクトルを示す。
Claims (7)
- キュービック相を呈していることを特徴とする請求項1に記載の多孔性シリカ。
- Xが第4級アンモニウムイオンを含むカチオン性官能基または原子団であることを特徴とする請求項1または2に記載の多孔性シリカ。
- 請求項1の多孔性シリカを製造する方法であって、(i)下記の式(3)で表わされる界面活性物質、シリカ源、ゾルゲル反応触媒および水を含む反応溶液を調製してゾルゲル反応を行い、生じた固体をろ過した後、乾燥して粉末にする工程、および(ii)加水分解触媒を加えた有機溶媒中に前記粉末を分散させて還流する工程、を含むことを特徴とする方法。
- 工程(i)において界面活性物質として式(3)のXが第4級アンモニウムイオンを含むカチオン性官能基または原子団であり、Yが炭素数12〜18のアルキル鎖であるものを用い、シリカ源としてアルコキシドを用い、ゾルゲル反応触媒として水酸化ナトリウムまたは塩酸を用いることを特徴とする請求項4に記載の多孔性シリカの製造方法。
- 工程(ii)において加水分解触媒として塩酸を用い、有機溶媒としてテトラヒドロフランを用いることを特徴とする請求項4または5に記載の多孔性シリカの製造方法。
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