JP3919442B2 - 車両用液圧ブレーキのエア入り検知装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ブレーキペダルからブースタ及びリザーバタンク付きのマスタシリンダを経由してホイールシリンダに至るブレーキ配管内へのエア入りを検知するための車両用液圧ブレーキのエア入り検知装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
組立ラインにおいてブレーキ液を車両に注入する場合、ブレーキ系統の配管内を真空にしてリザーバタンクから注入を行っているが、実際には真空度が低く、配管内にエアが残っている場合があるために、検査工程で制動力の計測と共に作業者の官能評価によりエア入りを判断している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、その判断には熟練を要し、結果にバラツキも生じ易い。また、正確にエア残量を計測する場合はホイールシリンダのブリーダキャップからエアを集めて合否の判断を行わなければならず、タイヤの脱着及びエアの収集作業に時間を要し、全数検査は不可能である。
【0004】
本発明は、このような点に鑑みて、ブレーキペダルの踏込み特性を基に自動的に所定量を上廻るエア混入を短時間で判断できる車両用液圧ブレーキのエア入り検知装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、この目的を達成するために、ブースタを介してブレーキペダルにより液圧を制御させるマスタシリンダからホイールシリンダに至るブレーキ配管内へのエア入りを検知するための車両用液圧ブレーキのエア入り検知装置であって、ブレーキペダルを踏込み駆動するアクチュエータと、このアクチュエータにそれぞれ付属して踏力を検知する荷重センサ及び踏込み量を検知する変位量センサと、これらの荷重センサ及び変位量センサの検知信号を入力として踏込み量に対する踏力の特性曲線データを作成するデータ作成手段と、特性曲線データを踏込み量について2階微分した2階微分曲線データを作成し、ブースタが機能し始めて踏込み量の変化に対する踏力の変化率が徐々に大きくなった後に略一定化する踏込み領域における2階微分曲線データのピーク値の標準のピーク値に対する減算値により、変化率の変化速度が標準の変化速度を所定量下廻るか否かを判断して所定量を上廻るエア入りを判断する判断手段と、その判断結果を出力する出力手段とを備えたことを特徴とする。
【0006】
データ作成手段が作成した踏込み量に対する踏力の特性曲線データにおいて、踏み込み初期は、機械的な遊び或はブースタも有効に作動せず、したがって踏込み量に対する踏力の変化量は僅かになる。この初期領域を過ぎてブースタが有効に機能し始めると、ブレーキ系に付随する種々の弾性要素が、踏込み量の増加に伴って圧縮されることにより、ブレーキ系のばね定数が徐々に大きくなって略一定化する。気泡が存在すると、そのばね特性が本来のばね特性に直列に加わり、その圧縮過程でばね定数が略一定化すのが遅れる。判断手段は、特性曲線データについて踏み込み初期を過ぎて変化率が徐々に大きくなって一定化する踏込み領域での踏力の変化率であるばね定数の変化速度が、所定量のエア混入に起因して標準の変化速度を所定量下廻るか否かを判断する。
【0007】
このために、判断手段は、特性曲線データを踏込み量について2階微分した2階微分曲線データを作成し、変化率の最大変化速度に相当する2階微分曲線のピーク値の標準のピーク値に対する減算値により、変化速度が標準の変化速度を所定量下廻るか否かを判断する。
【0008】
【発明の実施の形態】
図1乃至図3を基に本発明の実施の形態による車両用液圧ブレーキのエア入り検知装置を説明するもので、車両用液圧ブレーキは、周知のように、リザーバタンク1に貯えられたブレーキ液が、ブレーキペダル5の踏込みに応動してマスタシリンダ3でエンジンの吸気圧によって踏力の増幅を行うブースタ4により増圧されて、ブレーキホース8を介してホイールシリンダ6に供給されるブレーキ系で構成される。
【0009】
エア入り検知装置は、リザーバタンク1付きのマスタシリンダ3を経由してホイールシリンダ6に至るブレーキ配管内の液に所定量を上廻って混入するエアを検知するために、ブレーキペダル5を踏込み駆動するアクチュエータとしてのエアシリンダ10と、そのシリンダロッド11の先端に設けられて踏力を検知する荷重センサ12及び踏込み量を検知する変位量センサとしてシリンダロッド11の前進量を検知するリニアスケール13と、これらの検知信号を入力としてエア入りを判断する信号処理装置20とより構成される。
【0010】
エアシリンダ10は、シリンダロッド11をブレーキペダル5の足踏面に対接させ得るように傾斜させる基部15に支持されると共に、始動信号に応答してシリンダロッド11を所定のストロークだけ前進させ、次いで原位置に復帰させる制御回路が付属している。
【0011】
信号処理装置20はエア入りを判断するためのプログラムがインストールされるパソコンを利用し構成され、荷重センサ12及びリニアスケール13の検知信号をインタフェイス部でA/D変換して取り込み、踏込み量xに対する踏力Fの特性曲線データを作成するデータ作成手段21と、踏込み量xに対する踏力Fの標準の変化率データを格納する標準データ格納手段22と、データ作成手段21で作成された特性曲線データについてブースタ4が機能し始めて踏込み量xの増加に対する踏力Fの変化率、即ちばね定数が徐々に大きくなって一定の変化率(ばね定数)に近付く後述の踏込み領域bの変化率の変化速度が標準の変化速度を所定量下廻るか否かを判断して所定量を上廻るエア入りを判断する判断手段23と、画面表示器24aで判断データ及び合否結果を報知し、さらに光もしくは音、例えば警報ランプ24bで異常な量のエア入りを報知する出力手段24と、判断結果をメモリに逐次収録するデータ収録手段25とを備えている。エアシリンダ10には、キーボード26の操作に応答してインタフェイス部を介して始動信号が供給される。
【0012】
図2は踏込み量xに対する踏力Fの変化である典型的な踏込み−踏力の特性曲線を示するもので、実線はエアの非混入、点線はエア入りの状態である。判断手段23は、踏込み量xに対する踏力Fの変化である点線の踏込み−踏力の特性曲線データ(同図A)について先ず踏込み量xで微分してばね定数に相当する踏込み量の変化に対する踏力Fの変化率の曲線データを作成し(同図B)、次いでこの曲線をさらに踏込み量xで微分したその2階微分値、即ちばね定数の変化速度値である2階微分曲線データを作成する(同図C)。続いて、踏込み領域bで検出される2階微分のパルス状波形Aのピーク値を車両ごとに予め登録されている車体番号と共にデータ収録手段25に逐次保存させると共に、標準データ格納手段22に格納された図2の実線に対応する標準の2階微分曲線データの標準のピーク値と比較して所定量下廻るか否かにより合否を判断する。
【0013】
ブレーキペダル5からホイールシリンダ6に至るブレーキ系では、ブレーキペダルからブースタ及びリザーバタンク付きのマスタシリンダを経由してホイールシリンダに至るブレーキ系のブレーキバッド、ブレーキ液の体積弾性率、リザーバタンク1付きのマスタシリンダ3及びホイールシリンダ6間の配管の拡縮剛性等が弾性要素として作用し、エアが混入している場合にはその気泡のばね特性が直列に加わる。したがって、一般的に踏込み−踏力の特性曲線は折れ線状になる。即ち、図3は、ある車種についてブースタ作動時にブレーキペダルの往復動の周期を約10秒として踏み込み量の変化に対する踏力の実測データを示すもので、実線はエア入り無しの2回の試験結果、点線は約1ccのエア入りの2回の試験結果を示す。
【0014】
つまり、図3において、踏込み領域aは、ブレーキペダル5の踏込みの遊び或はブースタ4も有効に作動しない初期領域である。踏込み領域bは、ブースタ4が有効に作動し、ブレーキ系の前述の本来の弾性要素が気泡も加わって圧縮される過程を含むブレーキの実際の作動領域である。したがって、ブレーキの踏込み伴ってブレーキ系のばね定数が徐々に大きくなって略一定になり、その際気泡が存在する場合にはその容積が圧縮される過程でのばね定数の変化速度の相違が踏込み領域bの特性曲線に反映される。踏込み領域cは、前述のブレーキ系において残った気泡がさらに圧縮されて再度ばね定数が徐々に大きくなって略一定になって最大踏み込み量に達する作動領域、即ちブースタの作動比率が増加しストロークに対する踏力が最大となる作動領域である。この領域では気泡は実質上ばね作用を呈さない程度に圧縮された状態であり、したがって気泡が存在しても標準の特性曲線と同じ変化率の折れ線状になるだけで、同図Cの2番目のパルス波形のピーク値及び波形幅のエア混入の有無に起因する相対的な差は、踏込み領域bの始期よりも顕著でなくなる。
【0015】
このように構成されたエア抜き装置の動作は次の通りである。検査工程に搬入されてきた車両のブレーキペダル5に、エアシリンダ10のシリンダロッド11の先端に装着された荷重センサ12を対接させ、エアシリンダ10を往復作動させる。
【0016】
これにより、データ作成手段21は、荷重センサ12及びリニアスケール13のディジタル化された往動時の検知信号を取り込んで、x−F特性曲線データを作成する。判断手段23は、この特性曲線データについてばね定数が実質上立上り始める踏込み領域bの初期に発生する2階微分のパルス状波形Aを検出し、そのピーク値をばね定数の変化速度の最大値として算出し、標準のばね定数の変化速度のピーク値を所定量下廻るか否かにより異常なエア量の混入を判断する。その判断結果は、画面表示器24aに合否がパルス状波形Aのピーク値等と共に表示され、逐次各車両についてこれに関連するデータが逐次保存され、異常が検知された場合には警報ランプ24bでも報知される。パルス状波形Aのピーク値は、容易に算出されると共に、そのままエア入り度合の指標となる。
【0017】
検査対象となる車種が変わる場合には、キーボード26の操作により、標準データ格納手段22の標準データを変更し、判断手段23の判断基準値を変更する等により対応し得るように構成できる。
【0018】
また、図3に示すように、踏込み量−踏力の特性曲線はブレーキペダル5の往復度に対してヒステリシス特性を示すが、場合によりブレーキペダル5の復動時の曲線データを基に判断しても良い。ブレーキペダル5を踏込み駆動するアクチュエータとしては、ピニオン及びラックを駆動するモータとし、その際の変位量センサを回転数センサとすることも考えられる。
【0019】
さらに、本発明のブレーキ配管内エア入り検知装置を車両の製造工程に採用した場合について説明したが、短時間でエア残量が計測でき、またブレーキペダルの踏込みも自動的に行われるために、従来二人で行っていたエア入り検査作業を一人で行える。
【0020】
【発明の効果】
本発明によれば、踏込み量に対する踏力の特性曲線データについて、その変化率の変化速度のピーク値が、標準のピーク値を所定量下廻るか否かを判断して、ブレーキ系に混入した所定量のエアが自動的に検知可能となる。したがって、車両の製造ラインでエア入りを短時間で検査可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態による車両用液圧ブレーキのエア入り検知装置の構成を示すもである。
【図2】同装置の動作を説明する図である。
【図3】エア入りの有無による踏込み特性の実測データを説明する図である。
【符号の説明】
3 マスタシリンダ
4 ブースタ
5 ブレーキペダル
6 ホイールシリンダ
10 エアシリンダ
12 荷重センサ
13 リニアスケール
Claims (1)
- ブースタを介してブレーキペダルにより液圧を制御させるマスタシリンダからホイールシリンダに至るブレーキ配管内へのエア入りを検知するための車両用液圧ブレーキのエア入り検知装置であって、
前記ブレーキペダルを踏込み駆動するアクチュエータと、このアクチュエータにそれぞれ付属して踏力を検知する荷重センサ及び踏込み量を検知する変位量センサと、これらの荷重センサ及び変位量センサの検知信号を入力として前記踏込み量に対する前記踏力の特性曲線データを作成するデータ作成手段と、前記特性曲線データを踏込み量について2階微分した2階微分曲線データを作成し、前記ブースタが機能し始めて前記踏込み量の変化に対する前記踏力の変化率が徐々に大きくなった後に略一定化する踏込み領域における前記2階微分曲線データのピーク値の標準のピーク値に対する減算値により、前記変化率の変化速度が標準の変化速度を所定量下廻るか否かを判断して所定量を上廻るエア入りを判断する判断手段と、その判断結果を出力する出力手段とを備えたことを特徴とする車両用液圧ブレーキのエア入り検知装置。
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