JP3916541B2 - 透過型電子顕微鏡 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、スパッタ法により基板上に形成される薄膜の初期成長過程を観察する透過型電子顕微鏡に関する。
【0002】
【従来の技術】
半導体等の電子デバイス、例えば磁気記録HDD(hard disk drive:ハードディスクドライブ)などの磁気記録媒体の製造工程では、例えばガラス、アルミニウムなどにより形成された基板表面上に多層の薄膜を形成する。
【0003】
薄膜形成には、例えば蒸着法又はスパッタ法がある。蒸着法は、真空雰囲気中において物質を加熱して蒸発又は昇華させ、この蒸気を基板表面上で凝縮させて薄膜を形成する。
【0004】
スパッタ法は、ターゲットに対して基板を対向配置し、ターゲットの前方にプラズマを発生させ、かつ電圧を印加することにより正のアルゴンイオンがターゲット表面上をたたくことにより、ターゲットを構成する原子の結合が切られて飛び出し、この飛び出したスパッタ原子が基板表面上に堆積し、薄膜を形成する。現在、記録媒体上の薄膜形成は、例えば組成制御の困難性などからスパッタ法が用いられている。
【0005】
基板上に所望の特性を有する薄膜を形成するには、薄膜の初期成長過程、例えば基板上に数原子層以内の薄膜層が形成される状況を観察することが重要である。すなわち、薄膜の初期成長では、例えば基板を構成する原子の結晶方位例えば(111)(100)など、界面結晶組織状態、酸化状態、汚れなどによってその薄膜成長状況が変化すると考えられる。例えば、原子の結晶方位であれば、結晶方位によって数原子層の堆積する状態が異なり、原子が基板表面上に均一に堆積する結晶方位と、そうでない結晶方位とがあると思われる。
【0006】
このような数原子層以内の薄膜の初期成長過程は、最終的な薄膜の成長結果、多層膜の形成結果に影響を及ぼす。すなわち、原子が基板表面上に均一に数原子層堆積すれば、最終的な薄膜が均一な厚さで形成されるが、原子が基板表面上に不均一に堆積すれば、最終的な薄膜も不均一な厚さで形成されてしまう。
【0007】
従って、数原子層以内の薄膜の初期成長過程をリアルタイムで観察することが要望される。例えば、被処理体を透過した電子線による被処理体の画像を撮影する技術として特許文献1がある。
【0008】
【特許文献1】
特開2000−299077公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
薄膜の観察方法としては、電子顕微鏡内において蒸着法によって基板表面上に薄膜を形成し、この薄膜成長を観察する手法はある。しかしながら、現在、電子デバイスなどにおいて実際に行なわれている薄膜形成はスパッタ法が主であるが、このスパッタ法により電子顕微鏡内において薄膜を形成し、この薄膜成長を観察する手法は現存しない。
【0010】
そこで本発明は、スパッタ法により形成される薄膜の初期成長過程をリアルタイムで観察できる透過型電子顕微鏡を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、電子線を被処理体に照射し、この被処理体を透過した電子線に基づいて被処理体を観察する透過型電子顕微鏡において、真空状態の透過型電子顕微鏡筐体内に設けられ、当該透過型電子顕微鏡筐体内でプラズマを発生させたときにターゲットから飛び出したスパッタ粒子を出射して被処理体上に堆積させる直径10〜18mmに形成されたスパッタ銃手段と、被処理体を透過した電子線を入射し、被処理体上に形成される薄膜の成長初期過程を撮像する撮像手段と、この撮像手段により撮像された薄膜の成長初期過程の画像を少なくとも表示する画像処理手段とを具備したことを特徴とする透過型電子顕微鏡である。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の第1の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0013】
図1は透過型電子顕微鏡(TEM)の外観構成図である。架台1には、円筒状の透過型電子顕微鏡筐体2が立設されている。この透過型電子顕微鏡筐体2の内部には、同筐体2の上方から下方に電子銃Gや収束レンズ(TEMポールピース)L1、対物レンズ(TEMポールピース)L2、投影レンズL3などの電子レンズ、さらに図示しないが蛍光板が設けられている。
【0014】
この透過型電子顕微鏡筐体2の内部は、例えば5×10 −3 Pa以下の真空度に保たれている。なお、電子銃Gや収束レンズL1、対物レンズL2、投影レンズL3などの電子レンズの制御系は、既知の技術の構成と同一であり、その詳しい説明は省略する。
【0015】
透過型電子顕微鏡筐体2の側面には、被処理体として例えば磁気記録HDDに用いられる例えばガラス、アルミニウムなどにより形成された基板3を保持する基板ホルダ4が挿脱可能に設けられている。この基板ホルダ4は、透過型電子顕微鏡筐体2内部において収束レンズL1と対物レンズL2との間に挿脱される。
【0016】
この基板ホルダ4は、基板3を保持するホルダ板4aと、このホルダ板4aを所定の傾き、例えば45度の傾きで先端に支持するホルダアーム4bと、このホルダアーム4bを透過型電子顕微鏡筐体2の内部に挿脱操作する操作端部4cとからなる。
【0017】
従って、電子銃Gから出射された電子線は、収束レンズL1により収束されて基板3上に照射される。この基板3を透過した電子線は、対物レンズL2と投影レンズL3とによって蛍光板に結像され、基板像として観察される。
【0018】
透過型電子顕微鏡筐体2の下部には、基板ホルダ4上に保持されている基板3を透過した電子銃を撮像してその画像信号を出力するCCDカメラ(撮像手段)5が設けられている。
【0019】
画像処理装置6は、CCDカメラ5から出力された画像信号を逐次入力し、この画像信号を画像処理して基板表面の画像をリアルタイムに表示装置7に表示する。又、画像処理装置6は、CCDカメラ5から出力された画像信号を逐次入力し、この画像信号を画像処理してその画像データを作成し、この画像データを記憶装置8に記憶する。
【0020】
従って、CCDカメラ5により基板3を撮像するときは、蛍光板が電子線の軌道上から外され、この状態で、電子銃Gから出射された電子線が収束レンズL1により収束されて基板3上に照射され、この基板3を透過した電子線が対物レンズL2と投影レンズL3とによってCCDカメラ5上に結像される。
【0021】
図2は透過型電子顕微鏡筐体2における主要部の構成図である。基板3の斜め上方で、収束レンズL1と対物レンズL2との間には、スパッタ銃装置10が設けられている。このスパッタ銃装置10は、スパッタ粒子を出射して基板3の表面上に堆積させる。
【0022】
図3はマグネトロン方式を採用したスパッタ銃装置10の構成図である。アノード(中空筐体)11は、円筒状に形成され、その先端部にノズル形状のシールドキャップ12が取り付けられている。なお、アノード11におけるシールドキャップ12の取り付けられた側を前方側、それとは逆側を後方側とする。
【0023】
これらアノード11及びシールドキャップ12は、例えばSUS304により直径10〜18mmに形成されている。そして、これらアノード11及びシールドキャップ12は、接地電位となっている。なお、アノード11及びシールドキャップ12は、後述するターゲットカソード16に対して正の電位となる。又、これらアノード11及びシールドキャップ12の内部は、スパッタリングを行うのに必要な例えば10 0 Pa乃至10 −2 Pa範囲の真空度に保たれている。
【0024】
シールドキャップ12は、ノズル形状の先端に例えば直径0.5mmの円形の微小孔13が形成されている。このシールドキャップ12は、微小孔13が形成された先端がターゲットカソード16の軸方向よりも下方に傾いて、例えばターゲットカソード16の軸方向に対して45度下方に傾いてアノード11に取り付けられる。
【0025】
従って、シールドキャップ12の微小孔13から飛び出したスパッタ粒子Sの多くは、基板ホルダ4上の基板3の表面に対して略垂直方向に当たる。なお、スパッタ粒子Sの飛ぶ方向は、厳密にみれば、基板3の表面に対して略垂直方向でない方向に飛ぶものもあるが、殆どのスパッタ粒子Sは、基板3の表面に対して略垂直方向に飛ぶ。
【0026】
アノード11の中空内部には、例えば銅により形成された配管(以下、銅管と称する)15がアノード11に対して同軸上に挿入されている。この銅管15は、例えば直径15mmの円筒状に形成され、その先端にはターゲットカソード16がリング状のターゲット押え17によって固定されている。
【0027】
このターゲットカソード16は、例えばCo(コバルト)、Co−Cr(クロム)又はAl(アルミニウム)などから成るもので、直径15mmの円板状に形成されている。ターゲット押え17は、BN又はSUSなどの絶縁物により形成される。このターゲットカソード16は、当該ターゲットカソード16の前方側のシールドキャップ12との間にプラズマを発生するに必要な大きさの空間を形成するような位置に配置される。
【0028】
又、銅管15の先端部には、段差18が形成され、この段差18内にはマグネット押え19を介してマグネット20が設けられている。従って、ターゲットカソード16の後方側にマグネット20が設けられる。
【0029】
図4はマグネット20の外観構成図であって、このマグネット20は、例えばNd(ネオジム)−Fe(鉄)−B(ホウ素)により形成され、ターゲットカソード16の前方側に磁界を発生させる。このマグネット20は、冷却水流通用の複数の孔、例えば4つの孔20a〜20dが形成されている。なお、マグネット20により発生する磁界は、電子線の軌道を偏向する程の大きさでないことは実験により確認されている。
【0030】
マグネット押え19は、例えば炭素鋼により円板状に形成されている。このマグネット押え19は、冷却水流通用の複数の孔、例えば4つの孔19a〜19dが形成され、マグネット20の各孔20a〜20dとそれぞれ位置合わせして設けられる。
【0031】
銅管15内には、仕切り部材21が設けられている。この鋼管15内には、冷却水供給装置22によって冷却水23が供給される。この冷却水23は、例えば仕切り部材21を挟んで上流側と下流側との流れに分かれ、マグネット押え19の各孔19a〜19dを通してマグネット20の各孔20a〜20d内に流れ、マグネット20及びターゲットカソード16の両方を直接冷却する。なお、マグネット20及びターゲットカソード16を直接冷却するのは冷却水に限らず、他の冷却媒体を用いてもよい。
【0032】
アノード11と銅管15との間には、ガス供給装置24によってプラズマ発生用の反応ガス、例えば高純度のアルゴンガス(Arガス)が供給される。このアルゴンガスは、アノード11と銅管15との間を通ってターゲットカソード16の前方側に導入される。
【0033】
なお、スパッタ銃装置10は、透過型電子顕微鏡筐体2に対して真空漏れを防止する手段が講じられている。
【0034】
スパッタ銃装置10には、本体ボックス25が設けられている。この本体ボックス25内には、例えば冷却水供給装置22及びガス供給装置24が設けられている。なお、これら冷却水供給装置22及びガス供給装置24は、本体ボックス25内に限らず、別の箇所に設けてもよい。
【0035】
又、スパッタ銃装置10には、電源ケーブル26を介してスパッタ電源14が接続されている。このスパッタ電源14は、スパッタ銃装置10におけるアノード11とターゲットカソード16との間に電界を加えるもので、アノード11を接地電位とすると共に、ターゲットカソード16を負極(−極)に印加する。
【0036】
なお、アノード11と銅管15との間には、放電発生を防止するための絶縁物27が設けられている。この絶縁物27は、例えばアルミナが用いられる。
【0037】
次に、上記の如く構成された透過型電子顕微鏡を用いての薄膜の初期成長過程の観察動作について説明する。
【0038】
アノード11及びシールドキャップ12の内部は、プラズマを発生させるのに必要な例えば10 0 Pa乃至10 −2 Pa範囲の低真空度に保たれる。
【0039】
この真空状態に、アノード11と銅管15との間には、ガス供給装置24によってプラズマ発生用の反応ガス、例えば高純度のアルゴンガスが供給される。このアルゴンガスは、アノード11と銅管15との間を通ってターゲットカソード16の前方側に導入される。
【0040】
これと共にスパッタ電源14は、スパッタ銃装置10におけるアノード11を接地電位とすると共に、ターゲットカソード16を負極(−極)に印加し、アノード11とターゲットカソード16との間に電界を加える。
【0041】
このようにアノード11とターゲットカソード16との間に電界が加わると、これらアノード11とターゲットカソード16との間にグロー放電が発生する。このグロー放電の発生によりターゲットカソード16の前方にはアルゴンプラズマが生成される。なお、不純物雰囲気の影響を受けないようにできるだけスパッタ堆積速度を早くするためアルゴンプラズマに大きな電力を供給するためターゲットカソード16には高電位を印加するのがよい。かくして、電界Eと磁界Bとのベクトル積E×Bを利用して二次電子を捕獲し、アルゴンプラズマの密度を高めている。
【0042】
このとき、ターゲットカソード16の温度上昇を抑えるために、鋼管15内には、冷却水供給装置22によって冷却水23が供給される。この冷却水23は、マグネット押え19の各孔19a〜19dを通してマグネット20の各孔20a〜20d内に流れ、マグネット20及びターゲットカソード16の両方を直接冷却する。
【0043】
アノード11とターゲットカソード16との間に発生するグロー放電によりプラズマ中における正に帯電したアルゴンイオン(Ar+)は、電圧降下により加速されてターゲットカソード16の表面をたたく。アルゴンイオンの運動量は、ターゲットカソード16に衝突してターゲットカソード16を構成する原子、例えばCo原子に与えられその結合が切られ、Co原子が真空中に飛び出す。これらCo原子は、殆どが中性であり、アルゴンプラズマ中を飛んでシールドキャップ12の微小孔13からスパッタ粒子Sとして透過型電子顕微鏡筐体2の内部に飛び出す。
【0044】
一方、透過型電子顕微鏡筐体2の内部は、例えば5×10 −3 Pa以下の高真空度の周囲雰囲気、すなわちスパッタを行うに最適な高真空度の周囲雰囲気に保たれている。
【0045】
従って、アノード11及びシールドキャップ12の内部は、上記の通り例えば10 0 Pa乃至10 −2 Pa範囲の低真空度に保たれているので、透過型電子顕微鏡筐体2の内部の例えば5×10 −3 Pa以下の高真空度の周囲雰囲気との間で差圧排気方式が採られることになる。
【0046】
この結果、シールドキャップ12の微小孔13から飛び出したスパッタ粒子Sは、基板ホルダ4上の基板3の表面上に堆積する。これにより、基板3の表面上には、数原子層以内の薄膜が初期成長していく。
【0047】
このとき、透過型電子顕微鏡は、基板3の表面上における数原子層以内の薄膜の初期成長過程をリアルタイムで観察する。すなわち、電子銃Gから出射された電子線は、収束レンズL1により収束されて基板3上に照射される。この基板3を透過した電子線は、対物レンズL2と投影レンズL3とによってCCDカメラ5上に結像される。このCCDカメラ5は、入射した電子線を撮像し、その画像信号を逐次出力する。
【0048】
画像処理装置6は、CCDカメラ5から出力された画像信号を逐次入力し、この画像信号を画像処理して基板表面の画像をリアルタイムに表示装置7に表示する。従って、表示装置7には、基板3の表面上に形成される薄膜の初期成長過程の状況、すなわち基板3の表面上に原子aが1層々順次堆積される状況がリアルタイムに表示される。
【0049】
これと共に画像処理装置6は、CCDカメラ5から出力された画像信号を逐次入力し、この画像信号を画像処理して基板3の表面上に順次堆積される例えば数原子層の状況の画像データを作成し、この画像データを記憶装置8に記憶する。
【0050】
薄膜の初期成長過程においてリアルタイムに表示観察されるのは、例えば図5(a)〜(c)に示すように数原子層以内の基板3の表面上の原子aの堆積の状況であって、同図(a)は基板3の表面上に原子aが均一に堆積している状況を示し、同図(b)は原子aが均一に堆積している部分とそうでない部分とが存在する状況を示し、同図(c)は原子aが基板3の表面上に堆積しにくい状況を示す。
【0051】
これら薄膜の初期成長過程の状況は、基板3の材質とスパッタ粒子Sである原子aの種類との関係、又は基板3を構成する原子の結晶方位例えば(111)(100)と原子aの種類との関係、界面結晶組織状態、基板3の表面上の酸化状態、基板3の表面上の汚れなどによって変化する。
【0052】
例えば、基板3の材質とスパッタ粒子Sである原子aの種類との関係であれば、基板3の材質として例えばSiやPtなどが用いられ、スパッタ粒子Sとして例えばCo、Co−Cr又はAlなどが用いられるが、これら基板3の材質と原子aの種類とが全て相性がよく、基板3の表面上に原子aが図5(a)に示すように均一に堆積するとは限らず、例えば同図(b)又は同図(c)に示すように不均一に堆積することも考えられる。
【0053】
このような原子aの堆積の状況は、基板3を構成する原子の結晶方位例えば(111)(100)と原子aの種類との関係、界面結晶組織状態、基板3の表面上の酸化状態、基板3の表面上の汚れなどによっても同様に、基板3の表面上に原子aが均一に堆積する場合と不均一に堆積する場合とがあるものと考えられる。
【0054】
このような薄膜の初期成長過程であれば、その後、薄膜の成長が進行すると、上記図5(a)に示すように薄膜の初期成長過程において原子aが均一に堆積した場合であれば、その後も図6(a)に示すように均一に原子aが堆積して薄膜の形成が良好に進行する。
【0055】
これとは反対に上記図5(a)(b)に示すように薄膜の初期成長過程において原子aが不均一に堆積した場合であれば、その後も図6(a)(b)に示すように原子aの不均一な堆積の状態が続く。
【0056】
従って、上記透過型電子顕微鏡であれば、かかる基板3の表面上に原子aが1層々順次堆積される薄膜の初期成長過程の状況がリアルタイム観察でき、この観察結果から基板3の材質とスパッタ粒子Sである原子aの種類との関係、又は基板3を構成する原子の結晶方位例えば(111)(100)と原子aの種類との関係、界面結晶組織状態、基板3の表面上の酸化状態、基板3の表面上の汚れなどにおける薄膜の初期成長過程の状況の各データを取得することが出来る。
【0057】
なお、基板3を透過した電子線を対物レンズL2と投影レンズL3とによって蛍光板に結像すれば、基板3の表面上に原子aが1層々順次堆積される薄膜の初期成長過程の状況が基板像としてリアルタイムに観察できる。
【0058】
このように上記第1の実施の形態においては、透過型電子顕微鏡筐体2に対してマグネトロン方式のスパッタ銃装置10を取り付け可能に構成し、このスパッタ銃装置10からスパッタ粒子Sを出射して基板3の表面上に堆積させるので、透過型電子顕微鏡筐体2内部の例えば5×10 −3 Pa以下の真空度に保たれた真空雰囲気内にスパッタ銃装置10を取り付けるだけで、透過型電子顕微鏡筐体2内部で基板3の表面上に薄膜を形成できる。
【0059】
この結果、透過型電子顕微鏡を用いて基板3の表面上に原子aが1層々順次堆積される薄膜の初期成長過程の状況を表示装置7においてリアルタイムに表示でき、かつその画像データを記憶装置8に記憶できる。
【0060】
従って、薄膜の初期成長過程の状況の観察結果から基板3の材質とスパッタ粒子Sである原子aの種類との関係、又は基板3を構成する原子の結晶方位例えば(111)(100)と原子aの種類との関係、界面結晶組織状態、基板3の表面上の酸化状態、基板3の表面上の汚れなどにおける薄膜の初期成長過程の状況の各データを取得することができ、これらデータから基板3の表面上に均一に原子aが堆積する基板3の材質と原子aの種類との関係、又は基板3を構成する原子の結晶方位例えば(111)(100)と原子aの種類との関係、界面結晶組織状態、基板3の表面上の酸化状態、基板3の表面上の汚れなど、さらにはこれらの組み合わせによる堆積状態の情報を得ることができる。
【0061】
この結果、実際に起こっている基板3の表面上での薄膜形成の初期過程を明らかにすることができ、界面のナノ構造制御に関して新しい知見を得ることができる。この得られた新しい知見に基づき、基板3及びターゲットカソード16に用いる各材質を組み合わせることにより、将来の半導体等の電子デバイス、例えば磁気記録HDDなどの超高密度磁気記録媒体の開発を加速することができる。
【0062】
電子・情報産業を支える電子デバイスは、益々微細化していく傾向にあり、従って、材料・電子デバイス等の界面制御技術は、材料・電子デバイス等の高性能、高機能化のキーとなる技術である。本発明の透過型電子顕微鏡であれば、スパッタによる基板3の表面上での薄膜形成の初期過程を明らかにできて界面のナノ構造制御に不可欠な技術であり、今後の電子・情報産業の基礎となる。
【0063】
一方、スパッタ銃装置10であれば、微小孔13が形成されかつ内部が真空雰囲気に保たれた円筒状のアノード11と、このアノード11内に配置されたターゲットカソード16と、このターゲットカソード16の前方側にプラズマを発生させ、ターゲットカソード16から飛び出したスパッタ粒子Sを微小孔13から出射させるためのマグネット20とにより構成し、アノード11とターゲットカソード16との間にスパッタ電源14を接続したので、アノード11及びシールドキャップ12を例えば直径10〜18mmの小型に形成でき、既存の透過型電子顕微鏡筐体2内に挿入するだけの簡単な構成で、透過型電子顕微鏡筐体2内の例えば5×10 −3 Pa以下の真空雰囲気内において基板2の表面上に薄膜を形成できる。
【0064】
ターゲットカソード16は、例えばCo、Co−Cr又はAlなどから成るものであり、これらのターゲットカソード16を選択的に交換することにより、基板2の表面上に例えばCo、Co−Cr又はAlなどの薄膜を任意に形成できる。
【0065】
又、スパッタ銃装置10では、例えば高純度のアルゴンガスなどのプラズマ発生用の不活性ガスを、アノード11と銅管15との間を通ってターゲットカソード16の前方側に導入でき、かつターゲットカソード16の温度上昇を抑えるための冷却水23を鋼管15内に循環してターゲットカソード16及びマグネット20を直接冷却できる。
【0066】
又、透過型電子顕微鏡筐体2内にスパッタ銃装置10を取り付けても、スパッタ銃装置10内のマグネット20の磁界により透過型電子顕微鏡筐体2内の電子線の軌道を偏向することはなく、透過型電子顕微鏡の観察像に影響を与えることはない。
【0067】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、図1乃至図3と同一部分には同一符号を付してその詳しい説明は省略する。
【0068】
図7は透過型電子顕微鏡筐体2における主要部の構成図である。透過型電子顕微鏡筐体2には、複数のスパッタ銃装置10−1〜10−nが透過型電子顕微鏡筐体2の円周上に例えば所定角度毎に取り付けられている。なお、図7では2つのスパッタ銃装置10−1〜10−2が取り付けられている。
【0069】
これらスパッタ銃装置10は、それぞれ図3に示すターゲットカソード16の材質が異なる。これらスパッタ銃装置10−1〜10−nにそれぞれ導入する高純度のアルゴンガス、キセノンなどのプラズマ発生用の不活性ガスは、共通のガス供給装置24を用いるのがよい。又、これらスパッタ銃装置10−1〜10−nへの冷却水の供給も共通の冷却水供給装置22を用いるのがよい。これらスパッタ銃装置10−1〜10−nにおけるアノード11とターゲットカソード16との間の電界の印加も共通のスパッタ電源14を用いるのがよい。なお、これらガス供給装置24、冷却水供給装置22及びスパッタ電源14は、各スパッタ銃装置10別に用意してもよい。
【0070】
基板ホルダ4は、ホルダアーム4bの先端においてホルダ板4aが例えば45度で傾いた状態で回転可能に取り付けられている。従って、ホルダ板4a上に保持される基板3は、各スパッタ銃装置10−1〜10−nのシールドキャップ12の微小孔13に対して対面して配置できる。
【0071】
このような構成の透過型電子顕微鏡であれば、スパッタ銃装置10−1〜10−nのうち1本のスパッタ銃装置10−1からスパッタ粒子Sを出射させる。このとき、基板ホルダ4によって基板3の表面は、スパッタ銃装置10−1の微小孔13に対して対面して配置されているので、当該基板3の表面上には、ターゲットカソード16から飛び出した原子のスパッタ粒子Sが堆積して薄膜が形成される。
【0072】
次に、スパッタ銃装置10−2からスパッタ粒子Sを出射させる。このとき、基板ホルダ4によって基板3の表面は、スパッタ銃装置10−2の微小孔13に対して対面して配置されるので、先に基板3の表面上に形成された薄膜の上に、ターゲットカソード16から飛び出した別の原子のスパッタ粒子Sが堆積して薄膜が形成される。
【0073】
以下同様に、スパッタ銃装置10−2〜10−nから順次スパッタ粒子Sを出射させることにより、基板3の表面上に順次薄膜を形成する。この結果、基板3の表面上には、図8に示すように多層膜y1〜ymが形成できる。
【0074】
従って、透過型電子顕微鏡では、多層膜y1〜ymの各層y1、y2,…、ymが形成されるときの基板3の表面上に原子aが1層々順次堆積される各層y1、y2,…、ymの初期成長過程の状況を表示装置7においてリアルタイムに表示でき、かつその画像データを記憶装置8に記憶できる。
【0075】
この結果、上記第1の実施の形態で説明したように基板3の表面上に薄膜を形成するときの基板3の材質とスパッタ粒子Sである原子aの種類との関係、又は基板3を構成する原子の結晶方位例えば(111)(100)と原子aの種類との関係、界面結晶組織状態、基板3の表面上の酸化状態、基板3の表面上の汚れなどにおける薄膜の初期成長過程の状況の各データだけでなく、多層膜y1〜ymの各層y1、y2,…、ymの種類などによる各層y1、y2,…、ym間の親和性等の薄膜の初期成長過程の状況の各データを取得できる。
【0076】
基板3の表面上に多層膜を形成するときは、例えば第1層y1の形成が終了したら、次の第2層y2を直ぐに形成する必要があるが、透過型電子顕微鏡筐体2内では、ホルダ板4aを回転するだけで対応でき、多層膜の形成に影響を与えない。
【0077】
なお、本発明は、上記第1及び第2の実施の形態に限定されるものでなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。
【0078】
さらに、上記実施形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示されている複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出できる。例えば、実施形態に示されている全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出できる。
【0079】
上記第1及び第2の実施の形態では、透過型電子顕微鏡筐体2内にスパッタ銃装置10を取り付けることによって透過型電子顕微鏡筐体2内で基板3の表面上に薄膜を形成し、この薄膜の初期成長過程の状況をリアルタイムに観察できるものとしたが、スパッタ銃装置10は、透過型電子顕微鏡筐体2内に取り付けるのに限らず、真空雰囲気が保持された各種装置内であれば取り付けることが可能であり、その各種装置内でスパッタ法により薄膜を形成することが可能である。
【0080】
又、上記第2の実施の形態では、複数のスパッタ銃装置10−1〜10−nを取り付けて多層の薄膜形成を行うが、複数のスパッタ銃装置10−1〜10−nを予め用意し、これらを選択的に1本づつ高速に透過型電子顕微鏡筐体2内に交換する高速交換機構を設けることによっても、多層の薄膜形成を実現できる。
【0081】
又、シールドキャップ12は、アノード11の軸方向よりも下方に傾いて設けられ、かつホルダ板4aはホルダアーム4bの先端において傾いた状態で取り付けられているが、これに限らず、基板3の表面上に薄膜が形成されるのであれば、如何なるシールドキャップ12の形状、如何なるホルダ板4aの傾きであってもよい。
【0082】
さらに、基板3の材質及びターゲットカソード16の材質は、上記第1及び第2の実施の形態に記載した材質に限らず、スパッタ可能な基板3の材質及びターゲットカソード16の材質の全てが適用できる。
【0083】
又、上記第1及び第2の実施の形態では、スパッタ銃装置10は、ターゲットカソード16の後方側にマグネット20を設けているが、これに限らず、例えば2枚のターゲットカソードを対向配置すると共に、これらターゲットカソードの外側にそれぞれ各マグネットを配置し、2枚のターゲットカソード間にプラズマを発生させ、これらターゲットカソードからスパッタ粒子が飛び出すような構成にしてもよい。又、スパッタ銃装置10は、既知のスパッタ発生装置を小型にしたものであれば、その全てを適用できる。
【0084】
【発明の効果】
以上詳記したように本発明によれば、高真空度の透過型電子顕微鏡筐体内に、低真空度でプラズマを発生させてスパッタ粒子を透過型電子顕微鏡筐体内に飛び出させて被処理体体上に堆積させる小型のスパッタ銃手段を設け、スパッタ法により形成される数原子層の薄膜の初期成長過程をリアルタイムで観察できる透過型電子顕微鏡を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わる透過型電子顕微鏡の第1の実施の形態を示す外観構成図。
【図2】本発明に係わる透過型電子顕微鏡の第1の実施の形態における透過型電子顕微鏡筐体の主要部の構成図。
【図3】本発明に係わる透過型電子顕微鏡の第1の実施の形態における小型スパッタ装置の構成図。
【図4】本発明に係わる透過型電子顕微鏡の第1の実施の形態におけるマグネットの外観構成図。
【図5】数原子層以内の基板表面上の原子の堆積の状況例を示す図。
【図6】薄膜の成長が進行した原子の堆積の状況例を示す図。
【図7】本発明に係わる透過型電子顕微鏡の第2の実施の形態における透過型電子顕微鏡筐体の主要部の構成図。
【図8】基板表面上に形成された多層膜を示す図。
【符号の説明】
1:架台
2:透過型電子顕微鏡筐体
G:電子銃
L1:収束レンズ(TEMポールピース)
L2:対物レンズ(TEMポールピース)
L3:投影レンズ
3:基板
4:基板ホルダ
4a:ホルダ板
4b:ホルダアーム
4c:操作端部
5:CCDカメラ
6:画像処理装置
7:表示装置
8:記憶装置
10:スパッタ銃装置
10−1〜10−n:スパッタ銃装置
11:アノード(中空筐体)
12:シールドキャップ
13:微小孔
14:スパッタ電源
15:銅管
16:ターゲットカソード
17:ターゲット押え
18:段差
19:マグネット押え
19a〜19d:孔
20:マグネット
20a〜20d:孔
21:仕切り部材
22:冷却水供給装置
23:冷却水
24:ガス供給装置
25:本体ボックス
26:電源ケーブル
27:絶縁物
a:原子
y1〜ym:多層膜
Claims (9)
- 電子線を被処理体に照射し、この被処理体を透過した前記電子線に基づいて前記被処理体を観察する透過型電子顕微鏡において、
高真空度の前記透過型電子顕微鏡筐体内に設けられ、低真空度の内部に保たれ、当該内部にプラズマを発生させたときにターゲットから飛び出したスパッタ粒子を前記透過型電子顕微鏡筐体内の高真空度と当該内部の前記低真空度との間の差圧により前記透過型電子顕微鏡筐体内に飛び出させて前記被処理体上に堆積させる直径10〜18mmに形成された小型のスパッタ銃手段と、
前記被処理体を透過した前記電子線を入射し、前記被処理体上に形成される数原子層の薄膜の成長初期過程を撮像する撮像手段と、
この撮像手段により撮像された数原子層の前記薄膜の成長初期過程の画像を少なくとも表示する画像処理手段と、
を具備したことを特徴とする透過型電子顕微鏡。 - 前記透過型電子顕微鏡筐体内における前記被処理体が配置された周囲雰囲気は、5×10 −3 Pa以下の前記高真空度であり、
前記スパッタ銃手段内において前記プラズマが発生する雰囲気は、10 −0 Pa乃至10 −2 Pa範囲の低真空度である、
ことを特徴とする請求項1記載の透過型電子顕微鏡。 - 前記スパッタ銃手段の先端部は、先端に前記スパッタ粒子が飛び出す直径0.5mmの微小孔が形成され、かつ前記スパッタ粒子が前記被処理体に対して略垂直方向に飛び出すように下方に傾けてノズル形状に形成されたことを特徴とする請求項1記載の透過型電子顕微鏡。
- 前記スパッタ銃手段は、前記透過型電子顕微鏡筐体内に対して少なくとも1つ設けられ、かつそれぞれ材質の異なる前記各ターゲットを保持することを特徴とする請求項1記載の透過型電子顕微鏡。
- それぞれ材質の異なる前記各ターゲットを保持する複数の前記スパッタ銃手段を有し、
これらスパッタ銃手段は、前記被処理体上に形成されるそれぞれ特性の異なる前記各薄膜に応じて前記透過型電子顕微鏡筐体内に対して選択挿入され、
前記被処理体上に数原子層の多層薄膜を形成するときの前記各層毎の前記薄膜の成長初期過程の前記画像を少なくとも表示することを特徴とする請求項1記載の透過型電子顕微鏡。 - 前記スパッタ銃手段は、先端に前記スパッタ粒子が飛び出す直径0.5mmの微小孔が形成され、かつ前記スパッタ粒子が前記被処理体に対して略垂直方向に飛び出すように下方に向いてノズル形状に形成されたシールドキャップが取り付けられ、かつ前記シールドキャップと共に内部が前記低真空度に保たれた中空筐体と、
この中空筐体内に前記微小孔に対向して配置されたターゲットと、
前記中空筐体内における前記ターゲットの前方側の前記シールドキャップとの間にプラズマを発生させ、前記ターゲットから飛び出したスパッタ粒子を前記微小孔から出射させ、前記微小孔の前方に配置された前記被処理体上に前記スパッタを堆積させるスパッタ堆積手段と、
を有することを特徴とする請求項1、3、4又は5のうちいずれか1項記載の透過型電子顕微鏡。 - 前記スパッタ堆積手段は、前記中空筐体と前記ターゲットとの間に電界を加えるスパッタ電源と、
前記ターゲットの前方側に磁界を発生させるマグネットと、
前記ターゲットの前方側にプラズマ発生用の反応ガスを供給するガス供給手段と、
を有することを特徴とする請求項6項記載の透過型電子顕微鏡。 - 前記スパッタ堆積手段における前記中空筐体内には、当該中空筐体に対して同軸上に配管が挿入され、この配管内の先端部には、前記ターゲットと、このターゲットの前方側に磁界を発生させるマグネットとが保持され、
かつ当該配管内には、前記ターゲット及び前記マグネットを直接冷却する冷却媒体が供給され、
前記中空筐体と前記配管との間には、前記ターゲットの前方側のプラズマ発生用の不活性ガスが供給されることを特徴とする請求項7項記載の透過型電子顕微鏡。 - 前記スパッタ銃手段は、先端に前記スパッタ粒子が飛び出す直径0.5mmの微小孔が形成され、かつ前記スパッタ粒子が前記被処理体に対して略垂直方向に飛び出すように下方に傾いてノズル形状に形成されたシールドキャップが取り付けられ、かつ前記シールドキャップと共に内部が前記低真空度に保たれた中空筐体と、
この中空筐体内に対して同軸上に挿入された配管と、
前記微小孔に対向して前記配管内の先端部に保持されたターゲットと、
前記配管内の先端部における前記ターゲットの裏側に設けられ、このターゲットの前方側に磁界を発生させるマグネットと、
前記配管内に流れて前記ターゲット及び前記マグネットを直接冷却する冷却媒体と、
前記中空筐体と前記配管との間を通して前記ターゲットの前方側に供給されるプラズマ発生用の不活性ガスと、
前記中空筐体と前記ターゲットとの間に電界を加えるスパッタ電源と、
を有し、
前記透過型電子顕微鏡筐体内に対して1つ、又は複数のうち前記被処理体上に形成されるそれぞれ特性の異なる前記各薄膜に応じて1つ選択挿入され、前記被処理体上に原子の1層又は多層薄膜を形成するときの前記各層毎の前記薄膜の成長初期過程の前記画像を少なくとも表示することを特徴とする請求項1項記載の透過型電子顕微鏡。
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