JP3913993B2 - 自動二輪車におけるアンチロックブレーキ制御方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ブレーキ液圧の増減により車輪ブレーキのアンチロック制御を実行する際に、車輪速度センサで得た車輪速度に基づくスリップ率の演算値を減少側にオフセットしたオフセット付スリップ率が、車輪速度の加速状態で設定スリップ率未満となるのに応じてブレーキ液圧の増圧開始を許可するようにした自動二輪車におけるアンチロックブレーキ制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
スリップ率は、車輪速度に基づいて推定した推定車体速度と、制御対象車輪の車輪速度とを用いて算出するものであり、制動時に、そのスリップ率が大きくならないように車輪ブレーキのアンチロック制御を行うのであるが、自動二輪車では、その車体挙動の安定性を優先するために演算スリップ率から減少側にオフセットしたオフセット付スリップ率を、アンチロック制御に用いるようにしたものがある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上述のようなオフセット付スリップ率を用いたアンチロック制御を実行すると、摩擦係数が低い路面を走行中には、ブレーキ液圧の増大に車輪速度が速やかに反応して車輪速度が低下するので、制御対象の車輪の実際のスリップ率が大きくなり易い。
【0004】
特に、自動二輪車の前輪および後輪用車輪ブレーキを同時にアンチロック制御しているときに、前輪の実際のスリップ率が大きくなると、車体の挙動安定性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、低摩擦係数の走行路面で車輪の実際のスリップ率が大きくなることを防止するようにした自動二輪車におけるアンチロックブレーキ制御方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、個別にブレーキ操作可能な前輪用および後輪用車輪ブレーキを備えると共に、ブレーキ操作時にロック状態に陥りそうな車輪に対し、ブレーキ液圧の増減により対応する車輪ブレーキのアンチロック制御を個別に実行可能である自動二輪車におけるアンチロックブレーキ制御方法であって、前輪用および後輪用車輪ブレーキのアンチロック制御を実行する際に、車輪速度センサで得た車輪速度に基づくスリップ率の演算を行い、そのスリップの演算値を減少側にオフセットしたオフセット付スリップ率が車輪速度の加速状態で設定スリップ率未満となるのに応じてブレーキ液圧の増圧開始を許可するようにした制御方法において、前輪用または後輪用車輪ブレーキのアンチロック制御を個別に実行しているときには、走行路面の摩擦係数を判定すると共に、その制御対象車輪について、所定値以下の摩擦係数の路面での前記オフセット付スリップ率の演算スリップ率からのオフセット量を、所定値を超える摩擦係数の路面でのそれに比べて小さくし、また前輪用および後輪用車輪ブレーキのアンチロック制御を同時に実行しているときには、走行路面の摩擦係数を判定すると共に、前輪のみについて、所定値以下の摩擦係数の路面での前記オフセット付スリップ率の演算スリップ率からのオフセット量を、所定値を超える摩擦係数の路面でのそれに比べて小さくすることを特徴とする。
【0007】
このような本発明の方法によれば、前輪用または後輪用車輪ブレーキのアンチロック制御を個別に実行しているときに、実低摩擦係数の路面では、その制御対象車輪について、オフセット付スリップ率の演算スリップ率からのオフセット量が小さく抑えられることになり、制御対象車輪の車輪ブレーキのアンチロック制御での増圧開始のタイミングを高摩擦係数の路面でのアンチロック制御時に比べて遅らせることができるため、ブレーキ液圧の増大に車輪速度が速やかに反応し易い低摩擦係数の路面で、制御対象車輪の実際のスリップ率が大きくなるのを極力抑えることができ、車体の挙動安定性に悪影響を及ぶのを防止できる。
【0008】
また前輪用および後輪用車輪ブレーキのアンチロック制御を同時に実行しているときに、実低摩擦係数の路面では前輪についてだけ、オフセット付スリップ率の演算スリップ率からのオフセット量が小さく抑えられることになり、前輪用車輪ブレーキのアンチロック制御での増圧開始のタイミングを高摩擦係数の路面でのアンチロック制御時に比べて遅らせることができるため、ブレーキ液圧の増大に車輪速度が速やかに反応し易い低摩擦係数の路面で、前輪の実際のスリップ率が大きくなるのを極力抑えることができ、車体の挙動安定性に悪影響を及ぶのを防止することができる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を、添付図面に示す本発明の一実施例に基づいて説明する。
【0010】
図1および図2は本発明の一実施例を示すものであり、図1は自動二輪車用ブレーキ装置の液圧回路図、図2はブレーキ液圧制御のタイミングを車輪速度に対応させて示す図である。
【0011】
先ず図1において、スクータ型である自動二輪車には、乗員が右手で操作する右ブレーキレバー1の操作に応じて液圧を出力する第1マスタシリンダMAと、乗員が左手で操作する左ブレーキレバー2の操作に応じて液圧を出力する第2マスタシリンダMBとが搭載される。一方、自動二輪車の前輪には、一対のポッド3,4を有する前輪用車輪ブレーキBFが搭載されており、この前輪用車輪ブレーキBFには、第1マスタシリンダMAが制御弁手段6Aを介して接続されるとともに第2マスタシリンダMBが制御弁手段6B1および遅延弁5を介して接続される。また後輪に装着された後輪用車輪ブレーキBRには第2マスタシリンダMBが制御弁手段6B2を介して接続される。
【0012】
制御弁手段6Aは、前輪用車輪ブレーキBFのポッド3および第1マスタシリンダMA間に設けられる常開型電磁弁7と、該常開型電磁弁7に並列に接続されるチェック弁8と、前輪用車輪ブレーキBFのポッド3およびリザーバ10A間に設けられる常閉型電磁弁9とで構成されるものであり、第1マスタシリンダMAおよび前輪用車輪ブレーキBFのポッド3間の連通・遮断と、前輪用車輪ブレーキBFのポッド3およびリザーバ10A間の連通・遮断とを切換え可能である。
【0013】
リザーバ10Aには、該リザーバ10Aのブレーキ液を汲上げて第1マスタシリンダMA側に圧送する戻しポンプ11Aの吸入側が吸入弁12Aを介して接続されており、この戻しポンプ11Aの吐出側は、吐出弁13Aを介して第1マスタシリンダMAに接続される。
【0014】
制御弁手段6B1は、上記制御弁手段6Aと同様に常開型電磁弁7、チェック弁8および常閉型電磁弁9で構成されるものであり、前輪用車輪ブレーキBFのポッド4に接続される遅延弁5および第2マスタシリンダMB間の連通・遮断と、前記遅延弁5およびリザーバ10B間の連通・遮断とを切換え可能である。
【0015】
また制御弁手段6B2は、上記制御弁手段6A,6B1と同様に常開型電磁弁7、チェック弁8および常閉型電磁弁9で構成されるものであり、後輪用車輪ブレーキBRおよび第2マスタシリンダMB間の連通・遮断と、後輪用車輪ブレーキBRおよびリザーバ10B間の連通・遮断とを切換え可能である。
【0016】
リザーバ10Bには、該リザーバ10Bのブレーキ液を汲上げて第2マスタシリンダMB側に圧送する戻しポンプ11Bの吸入側が吸入弁12Bを介して接続されており、この戻しポンプ11Bの吐出側は、吐出弁13Bを介して第2マスタシリンダMBに接続される。
【0017】
前記両戻しポンプ11A,11Bには共通な単一のモータ16が連結されており、該モータ16により両戻しポンプ11A,11Bが駆動される。
【0018】
このような制御弁手段6A,6B1,6B2において、右及び左ブレーキレバー1,2によるブレーキ操作時に車輪がロック状態に入りそうになったときのアンチロックブレーキ制御時には、常開型電磁弁7…のうちロック状態に入りそうである車輪に対応する常開型電磁弁を通電により閉弁すると共に常閉型電磁弁9…のうち上記車輪に対応する常閉型電磁弁を通電により開弁する。そうすると、ブレーキ液圧の一部がリザーバ10Aあるいは10Bに逃がされて減圧されることになる。またブレーキ液圧を保持する際には、常開型電磁弁7…を通電により閉弁すると共に常閉型電磁弁9…を非通電により閉弁状態に保持すればよく、ブレーキ液圧の増圧開始を許可する際には、常開型電磁弁7…を非通電により開弁すると共に常閉型電磁弁9…を非通電により閉弁状態に保持すればよい。
【0019】
一対の戻しポンプ11A,11Bを共通に駆動するモータ16は、上記アンチロックブレーキ制御の開始に応じて作動を開始するものであり、リザーバ10A,10Bに逃がされたブレーキ液が戻しポンプ11A,11Bから第1及び第2マスタシリンダMA,MB側に戻される。したがってリザーバ10A,10Bに逃がした分だけ第1及び第2マスタシリンダMA,MBにおけるブレーキレバー1,2の操作量が増加することはない。
【0020】
各制御弁手段6A,6B1,6B2における常開型電磁弁7…および常閉型電磁弁9…の非通電・通電、ならびにモータ16の作動は、前輪および後輪の車輪速度を個別に検出する車輪速度センサ19F,19Rの検出信号が入力される制御ユニット18により制御されるものであり、制御ユニット18は、前記車輪速度センサ19F,19Rの検出信号に基づいて車輪がロック状態に入りそうであると判断したときには、ブレーキ液圧の減・増圧サイクルを繰返すように各制御弁手段6A,6B1,6B2の作動を制御することで、前輪用および後輪用車輪ブレーキBF,BRのアンチロック制御を実行する。
【0021】
また制御ユニット18は、前記各制御弁手段6A,6B1,6B2のいずれか1つによるアンチロックブレーキ制御の開始に伴ってモータ16の作動を開始する。
【0022】
ところで、アンチロック制御にあたって車輪がロック状態に陥りそうであるか否かを判断する指標の1つとして車輪のスリップ率が用いられるものであり、このスリップ率Sは、車輪速度センサ19F,19Rで得られる制御対象車輪の車輪速度をVWとし、車輪速度センサ19F,19Rで検出した前輪および後輪の車輪速度に基づいて推定した推定車体速度をVRとしたときに、
S=(VR−VW)/VR
で得られるものである。
【0023】
これに対し、制御ユニット18は、上記演算式で得たスリップ率の演算値Sを減少側にオフセットしたオフセット付スリップ率S′をアンチロック制御に用いるようにしており、このオフセット付スリップ率S′は、オフセット速度をΔVとしたときに、
S′=(VR−VW−ΔV)/VR
で得られるものであり、(VW+ΔV)をオフセット車輪速度VW′とすると、
S′=(VR−VW′)/VR
であり、演算スリップ率Sの減少側へのオフセット量(S−S′)を大きくするにはオフセット車輪速度VW′を高く、すなわちオフセット速度ΔVを大きくすればよく、演算スリップ率Sの減少側へのオフセット量(S−S′)を小さくするにはオフセット速度ΔVを小さくしてオフセット車輪速度VW′を低くすればよい。
【0024】
また制御ユニット18は、そのアンチロック制御時に、制御対象車輪の車輪速度が加速状態にあるときに前記オフセット付スリップ率S′が設定スリップ率未満となるのに応じてブレーキ液圧の増圧開始を許可するように制御弁手段6A,6B1,6B2の作動を制御する。
【0025】
しかも制御ユニット18は、走行路面の摩擦係数が所定値以下であるか否かを判定可能であり、所定値以下の摩擦係数の路面では、前記オフセット付スリップ率S′の演算スリップ率Sからのオフセット量(S−S′)を、所定値を超える摩擦係数の路面に比べて小さくすべく、オフセット付スリップ率S′の演算に用いるオフセット速度ΔVを小さくしている。
【0026】
次にこの実施例の作用について図2を参照しながら説明すると、ブレーキ液圧の減・増圧サイクルを繰返すアンチロック制御を前輪用車輪ブレーキBFおよび後輪用車輪ブレーキBRで同時に実行しているときに、走行路面の摩擦係数μが所定値よりも高いときには、前輪での前記オフセット付スリップ率S′の演算スリップ率Sからのオフセット量(S−S′)が比較的大きいので、前輪の車輪速度が比較的低いライン(鎖線で示すライン)でオフセット付スリップ率S′が設定スリップ率未満となるのに対して、走行路面の摩擦係数μが所定値以下のときには、前輪での前記オフセット付スリップ率S′の演算スリップ率Sからのオフセット量(S−S′)が比較的小さいので、前輪の車輪速度が比較的高いライン(実線で示すライン)でオフセット付スリップ率S′が設定スリップ率未満となる。
【0027】
而して制御ユニット18は、車輪速度の加速状態で前輪のオフセット付スリップ率S′が設定スリップ率未満となるのに応じて前輪用車輪ブレーキBFでのブレーキ液圧の増圧開始を許可するのであるが、低い摩擦係数μの路面ではオフセット付スリップ率S′の演算スリップ率Sからのオフセット量(S−S′)が小さく抑えられるので、アンチロック制御での前輪用車輪ブレーキBFの増圧開始のタイミングを高い摩擦係数μの路面でのアンチロック制御時に比べて時間ΔTだけ遅らせることができる。
【0028】
これによりブレーキ液圧の増大に車輪速度が速やかに反応し易い低い摩擦係数μの路面で、前輪の実際のスリップ率が大きくなるのを極力抑えることができ、車体の挙動安定性に悪影響を及ぶのを防止することができる。
【0029】
また前輪用車輪ブレーキBFまたは後輪用車輪ブレーキBRのアンチロック制御を個別に実行しているときには、上述のように、制御対象車輪でのオフセット付スリップ率S′の演算スリップ率Sからのオフセット量(S−S′)を、低い摩擦係数μの路面では小さく抑えるようにしており、これにより、制御対象の車輪の実際のスリップ率が大きくなるのを極力抑えることができる。
【0030】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【0031】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、低摩擦係数の路面では前輪のオフセット付スリップ率の演算スリップ率からのオフセット量が小さく抑えられることになり、低摩擦係数の路面で前輪の実際のスリップ率が大きくなるのを極力抑えることができ、車体の挙動安定性に悪影響を及ぶのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 自動二輪車用ブレーキ装置の液圧回路図である。
【図2】 ブレーキ液圧制御のタイミングを車輪速度に対応させて示す図である。
【符号の説明】
19F,19R・・・車輪速度センサ
BF,BR・・・車輪ブレーキ
Claims (1)
- 個別にブレーキ操作可能な前輪用および後輪用車輪ブレーキ(BF,BR)を備えると共に、ブレーキ操作時にロック状態に陥りそうな車輪に対し、ブレーキ液圧の増減により対応する車輪ブレーキ(BF,BR)のアンチロック制御を個別に実行可能である自動二輪車におけるアンチロックブレーキ制御方法であって、
前輪用および後輪用車輪ブレーキ(BF,BR)のアンチロック制御を実行する際に、車輪速度センサ(19F,19R)で得た車輪速度に基づくスリップ率の演算を行い、そのスリップの演算値を減少側にオフセットしたオフセット付スリップ率が車輪速度の加速状態で設定スリップ率未満となるのに応じてブレーキ液圧の増圧開始を許可するようにした制御方法において、
前輪用または後輪用車輪ブレーキ(BF,BR)のアンチロック制御を個別に実行しているときには、走行路面の摩擦係数を判定すると共に、その制御対象車輪について、所定値以下の摩擦係数の路面での前記オフセット付スリップ率の演算スリップ率からのオフセット量を、所定値を超える摩擦係数の路面でのそれに比べて小さくし、
また前輪用および後輪用車輪ブレーキ(BF,BR)のアンチロック制御を同時に実行しているときには、走行路面の摩擦係数を判定すると共に、前輪のみについて、所定値以下の摩擦係数の路面での前記オフセット付スリップ率の演算スリップ率からのオフセット量を、所定値を超える摩擦係数の路面でのそれに比べて小さくすることを特徴とする、自動二輪車におけるアンチロックブレーキ制御方法。
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