JP3910740B2 - リチウム二次電池 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、放電深度が深くなった場合でも出力の低下が小さく、また、内部抵抗が小さく充放電サイクル特性が良好であり、特に電気自動車等のモータ駆動用電池として好適に使用されるリチウム二次電池に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、環境保護運動の高まりを背景として、自動車業界ではガソリン車等の化石燃料を使用する自動車に替えて、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入を促進すべく、EV実用化の鍵を握るモータ駆動用電池の開発が鋭意行われている。
【0003】
このEV、HEV用電池として、近年、エネルギー密度の大きいリチウム二次電池が注目されており、これにより、従来の鉛蓄電池やニッケル水素電池を使用した場合に比べて、一充電当たりの走行距離を長くすることができる。
【0004】
リチウム二次電池は、正極活物質にリチウム化合物を用い、一方、負極には種々の炭素質材料を用いて、充電時には正極活物質中のリチウムイオンが負極活物質中へ移動し、放電時には逆に負極に捕捉されていたリチウムイオンが正極へ移動することで、充放電が行われるものである。
【0005】
このようなリチウム二次電池における電池反応の場である内部電極体の構造は、捲回型と積層型とに大別され、捲回型の内部電極体は、図4に示すように、正極板2と負極板3とをセパレータ4を介して巻芯11の外周に捲回しつつ、正極板2と負極板3に、それぞれ集電用リード線としてのタブ5を取り付けることで作製される。そして、この円柱状の内部電極体1を電解液と共に筒状容器に収納して密閉することで単電池が作製される。このような捲回型の内部電極体1を用いた単電池の構造は、大面積の電極板(正極板及び/又は負極板)を用いつつ、コンパクトな電池を作製するのに適している。また、この捲回型の内部電極体1にあっては、正負各電極板2、3からのタブ5の数は最低1本あればよく、正負各電極板2、3からの集電抵抗を小さくしたい場合でも、タブ5の数を増加させればよい。
【0006】
一方、図5に示されるように、積層型の内部電極体7は、正極板8と負極板9とをセパレータ10を介しながら交互に積層して形成され、正極板8等の1枚当たりの面積が大きくない場合であっても、複数段に積層することによって電池全体の電極面積を大きくすることができる。作製される内部電極体7の形状は、正負各電極板8、9の形状と積層数により、直方体型や円板型あるいは円筒型と任意に設計することができるため、電池形状に制約がある場合の使用に適するが、正負各電極板8、9ごとにタブ6が必要となること等から、電池内部の構造が複雑化し、電池の組立作業性の点からは捲回型の方が優れる。
【0007】
いずれの電池構造を採用した場合であっても、リチウム二次電池は端子電圧が約4Vあるために水溶液系電解液が使用できず、水溶液系電解液に比べてリチウムイオン伝導度が低い有機系電解液を使用する必要がある。そのため、電池の内部抵抗が大きくなり易いが、EVあるいはHEV用電池においては、電池の内部抵抗及び出力特性が主に加速性能、登坂性能等を決定するため、電池の内部抵抗を小さくし、出力特性の安定化を図ることが重要となる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
EV用電池としてのリチウム二次電池について、例えば、社団法人自動車技術会学術講演会前刷集971(1997年)の53頁から56頁に、正極活物質にLiCoO2を使用し、負極活物質としてハードカーボンを使用したものの特性が記載されている。
【0009】
ここで、電池の放電特性としては、各放電深度(以下「DODと記す)における10秒目の放電出力密度が示されており、4Vを満充電とした場合、DODが0%のときに1540W/kg、DODが80%のときに500W/kgが得られているが、DODが80%のときの出力密度はDODが0%のときの約32%程度にしか達しない。また、4.2Vを満充電とした場合、DODが0%のときに1740W/kg、DODが80%のときに620W/kgであり、DODが80%のときの出力密度はDODが0%のときの約36%程度である。
【0010】
このように、従来のリチウム二次電池においては、DODが深くなると、DODが浅い場合に比べて出力が大きく低下するという問題がある。この原因の一つとして、正極活物質中でのリチウムイオンの拡散が、正極活物質として使用されているLiCoO2の結晶構造中のリチウム面方向に限定され、二次元的にしかリチウムイオンが拡散できず、その結果、内部抵抗が大きくなることが考えられる。
【0011】
即ち、DODが深くなるにつれて、リチウムイオンを取り込むLiCoO2中のサイトが減少し、更にリチウムイオンの拡散方向が限定されることによって、リチウムイオンのLiCoO2への取り込み速度が遅くなってリチウムイオンの負極から正極への移動が妨げられて内部抵抗値が高くなり、出力低下が引き起こされるものと考えられる。このリチウムイオンの拡散は、当然ながらLiCoO2粒子表面から起こるため、特に粒子表面でこの現象が顕著であると考えられる。なお、このことは、LiCoO2と同様に正極活物質に用いられるニッケル酸リチウム(LiNiO2)についても同様である。
【0012】
このようにDODが深い場合の出力低下が大きい場合には、電池の残容量によって、特に大きな出力を必要とする加速時の加速性能に差が生ずる。こうして、加速性能が低下した場合には、背後から追突されるおそれや、他車の走行を妨げ、渋滞を引き起こすこと等も懸念される。従って、EVやHEV用電池では、DODが深い場合、即ち、電池の残存容量が小さい場合でも所定の加速性能を発揮する必要があり、DODの深さの変化にともなう内部抵抗の上昇及び出力低下が小さい電池が必要である。
【0013】
これに対して、DODが深い場合においても、十分な加速性能を得るに必要な出力が得られる程度に、電池全体の容量を大きくすることもできるが、電池体積が大きくなるために自動車のスペースユーティリティが悪化する、車重が全体として重くなり電池の利用効率が悪くなる、増えた電池の分だけコストが増大するという数々の点で不利である。
【0014】
また、正極活物質に使用されているLiCoO2に関しては、構成物質であるCoの生産量が世界的にみても必ずしも多いとはいえず、比較的高価な材料であるために、汎用部品としての利用にはコスト的に問題がある。更に、原産国が限られているために、原料の確保、安定な市場への製品の供給といった面での問題もある。
【0015】
なお、EVやHEV用電池では、上述したDODの問題以外にも、充放電サイクルに伴う放電容量の減少を抑えることもまた重要となる。ここで、上述した捲回型の内部電極体1においては、タブ5を複数取り付けて集電抵抗を低減する場合であっても、タブ5の取付位置を適切なものとしなければ、内部電極体1内部において電流密度の分布が生じ、大電流が流れやすい部分で劣化が進み易くなる問題を生ずる。また、複数のタブ5を取り付ける場合には、タブ5の取付位置が電池の組立作業性にも影響を与えるので、生産性が高まるように、タブ5の取付位置を決定することが重要となる。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述した従来技術の問題点に鑑み、主に正極活物質にマンガン酸リチウムを、負極活物質に黒鉛系炭素材料を使用し、EV及びHEV用単電池として必要と考えられる5Ah以上の大容量リチウム二次電池を作製し、そのDODと内部抵抗及び出力との関係を明らかにすることにより、DOD80%での内部抵抗がDOD0%での内部抵抗の120%以下である電池、及びDOD80%での出力がDOD0%での出力の60%以上である電池が、EV及びHEV用電池として適していることを見出すとともに、捲回型の内部電極体を用いた場合のタブの取付位置を適切なものとすることによって、サイクル特性の低下を抑制すると同時に、生産性をも高めるに至った。
【0017】
即ち、本発明によれば、正極板と負極板とをセパレータを介して捲回した内部電極体を電池ケースに収容し、有機電解液を用いてなるリチウム二次電池であって、前記内部電極体を構成する前記正極板が、アルミニウムからなる集電体及び前記集電体の両面に配設されたスピネル型の結晶構造を有する、Li/Mn比が0.5以上のマンガン酸リチウムを含む正極活物質層から形成されるとともに、前記内部電極体を構成する前記負極板が、銅からなる集電体及び前記集電体の両面に配設された黒鉛又は高黒鉛化炭素材料を含む負極活物質層から形成されてなり、かつ前記正極板及び前記負極板を構成するそれぞれの集電体には、複数箇所から集電する集電用タブが複数取り付けられた構成を有し、前記正極板及び前記負極板に取り付けられた複数の集電用タブは、それぞれ、各電極板を平面に展開した状態で、隣接するタブ間の距離が、捲回後の内部電極体の外周長さ以下、前記外周長さの1/4以上であり、かつ、捲回後の内部電極体の一端面上及び他端面上の略同一動径上にくるように配設されてなり、さらに放電深度80%における出力が、放電深度0%のときの出力の60%以上であることを特徴とするリチウム二次電池が提供される。
【0018】
また、本発明によれば、正極板と負極板とをセパレータを介して捲回した内部電極体を電池ケースに収容し、有機電解液を用いてなるリチウム二次電池であって、
前記内部電極体を構成する前記正極板が、アルミニウムからなる集電体及び前記集電体の両面に配設されたスピネル型の結晶構造を有する、Li/Mn比が0.5以上のマンガン酸リチウムを含む正極活物質層から形成されるとともに、前記内部電極体を構成する前記負極板が、銅からなる集電体及び前記集電体の両面に配設された黒鉛又は高黒鉛化炭素材料を含む負極活物質層から形成されてなり、かつ
前記正極板及び前記負極板を構成するそれぞれの集電体には、複数箇所から集電する集電用タブが複数取り付けられた構成を有し、
前記正極板及び前記負極板に取り付けられた複数の集電用タブは、それぞれ、各電極板を平面に展開した状態で、隣接するタブ間の距離が、捲回後の内部電極体の外周長さ以下、前記外周長さの1/4以上であり、かつ、捲回後の内部電極体の一端面上及び他端面上の略同一動径上にくるように配設されてなり、さらに
放電深度80%における内部抵抗が、放電深度0%のときの内部抵抗の120%以下であることを特徴とするリチウム二次電池、が提供される。
【0019】
このようなリチウム二次電池は、電気自動車(EV)もしくはハイブリッド電気自動車(HEV)用に好適に用いられ、単電池の電池容量は好ましくは5Ah以上に設定される。
【0020】
ここで、1群のタブが略同一動径上に配設されていると、タブの集合接続が容易となって生産性が向上するとともに、タブに加わる円周方向の応力が低減されて、タブの破損が効果的に回避される。また、正極板及び負極板にそれぞれ取り付けられた隣接するタブ間の距離は、内部電極体の外周長さ以下で、かつ、その外周長さの1/4以上とすることが好ましい。
【0021】
【発明の実施の形態】
上述の通り、本発明のリチウム二次電池は、出力のDOD依存性が小さく、しかも内部抵抗が小さく、サイクル特性に優れるという特徴を有するため、特にEV用電池として好適に使用することができる。
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではない。
【0022】
本発明のリチウム二次電池に用いられる内部電極体は、負極板と正極板とを多孔性ポリマーからなるセパレータを介して負極板と正極板とが直接に接触しないように捲回して構成されるもので、具体的には、先に図4に示した構造のもの、即ち、内部電極体1、7が挙げられる。図4からわかるように、本発明のリチウム二次電池は、正極板2、8及び負極板3、9を構成する集電体の複数箇所から集電する構成を有している。
【0023】
正極板としては、正極活物質に導電性を向上させるためのカーボン粉末を混合した正極材料を集電体となるアルミニウム箔の両面に塗布して正極活物質層を形成したものが好適に用いられる。ここで本発明においては、正極活物質としてマンガン酸リチウム(LiMn2O4)が好適に用いられ、特に、立方晶系に属し、スピネル型の結晶構造を有するマンガン酸リチウム(LiMn 2 O 4 スピネル)を用いることが好ましく、これによりDODに対する出力の安定性の保持と内部抵抗の低減が図られる。但し、後述する実施例に記すように、LiCoO2を用いた場合であっても、特定の負極活物質との組み合わせることにより、内部抵抗と出力のDOD依存性が、LiMn2O4スピネルを用いた場合よりは大きいが従来の電池よりも小さい電池を作製することが可能である。
【0024】
なお、本発明のリチウム二次電池に用いられるLiMn2O4スピネルは、このような化学量論組成を有するものに限定されるものではなく、結晶構造が維持される限度において、陽イオンが欠損しあるいは過剰に存在し、一方、酸素イオンが欠損しあるいは過剰に存在していても構わない。更に、Mnの一部を他のイオン、例えば、Li、Fe、Mn、Ni、Mg、Zn、B、Al、Co、Cr、Si、Ti、Sn、P、V、Sb、Nb、Ta、Mo、W等の置換元素Mの中から選ばれた1種類以上の陽イオンで一部置換したものであってもよい。
【0025】
また本発明においては、上述したLiMn2O4の中でも、特に、Li/Mn比が0.5より大きいものを用いると、化学量論組成のものを用いた場合と比較して、内部抵抗が更に低減され、高出力電池を得ることができ、好ましい。Li/Mn比が0.5より大きいものの例としては、Mnの一部をLiで置換したLi(LiXMn2-X)O 4 や、Mnの一部をLi以外の前記置換元素Mで置換したLiMXMn2-XO4 等を挙げることができる。なお、前者のLi/Mn比は(1+X)/(2−X)、後者のLi/Mn比は1/(2−X)でそれぞれ与えられるので、X>0の場合には両者のLi/Mn比は0.5より必ず大きくなる。
【0026】
さて、LiMn2O4スピネルを用いた場合であっても、放電深度が深くなるにつれてリチウムイオンの配位サイトは減少し、リチウムイオンの拡散が遅くなるため、出力の低下を完全になくすることは困難である。しかしながら、LiMn2O4スピネルは、前述したLiCoO2やLiNiO2のようにリチウムイオンの拡散面が結晶構造中のリチウム面に限定されず、リチウムイオンの拡散が三次元的に起こる点で、LiCoO2やLiNiO2よりも有利である。即ち、正極活物質におけるリチウムイオンの空の配位サイト数がこれらの活物質において同じである場合には、リチウムイオンの拡散経路が多いLiMn2O4スピネルを用いた場合に、空の配位サイトへのリチウムイオンの配位がスムーズに進むと推測される。
【0027】
また、このように拡散経路が三次元的であることは、正極活物質粉末を金属箔に塗布して正極板としたときにも拡散経路が確保されることを示している。即ち、LiCoO2のように二次元的なリチウムイオンの拡散経路しかもたない粉末を金属箔に塗布した場合に、上述した拡散面の入口が他の粒子や金属箔との接触より閉塞されてしまった粒子は、リチウムイオンの拡散面の入口でない表面が電解液との界面を形成していたとしても実質的に電極活物質として機能しないこととなるが、三次元の拡散経路を有するLiMn2O4スピネルでは、粉体の全表面が閉塞されない限り、LiCoO2よりも電極板を形成したときのイオン拡散経路が確保されやすい。こうして、LiMn2O4スピネルを用いた場合には、LiCoO2を用いた場合よりも深い放電深度における出力密度の低下が抑制されると考えられる。
【0028】
更に、放電時にリチウムイオンが正極活物質中の配位サイトへの均一に拡散・配位するように、正極活物質粉末としては、粒度分布範囲の狭い粒子であって、形状の整ったものが好ましい。
【0029】
ここで、物質によっては結晶化学的性質、例えば結晶構造の異方性から均一な形状の粒子の作製が困難である場合が多々ある。しかし、LiMn2O4スピネルは立方晶系という対称性のよい結晶構造を有するため、種々の合成法、粉末処理法により、均一な粒径の粒子を得ることが比較的容易である。
【0030】
但し、どのような形状や粒径を有する電極活物質粉末を用いた場合であっても、それらの粉末を金属箔に塗布して固定した場合に、結果的に単位重量当たりの電極板として機能する電極活物質粉末と電解液との界面の面積が小さくなったり、あるいは、電極活物質粉末と電解液との界面の面積は大きく取れたが、導電性が低下して電極板の内部抵抗が大きくなってしまうといった状況は回避しなければならない。つまり、電極活物質粉末の特性が電極板として十分に発現できることが必要とされる。
【0031】
なお、上述の通り、リチウムイオンの正極活物質粉末への拡散経路が確保されているということは良好な放電特性が得られることを示しているが、反対に、正極活物質からのリチウムイオンの拡散もまた良好に行われる、即ち、充電特性にも優れていることを示している。
【0032】
こうして選定された正極活物質に添加するカーボン粉末としては、アセチレンブラックやグラファイト粉末等を例示することができる。また、正極板を構成するアルミニウム箔としては、電池の電気化学反応による腐食による電池性能の低下を防止するために、高純度の素材を使用することが好ましい。
【0033】
次に、負極板としては、負極活物質としてのソフトカーボンやハードカーボンといったアモルファス系炭素質材料や天然黒鉛等の炭素質粉末を銅箔の両面に塗布して負極活物質層を形成したものを使用することができるが、本発明においては、負極活物質として、結晶内でのリチウムイオンの拡散が容易であり、比重が大きく、単位重量当たりに保持できる充放電に寄与するリチウムイオンの割合が大きい黒鉛又は人造黒鉛等の高黒鉛化炭素材料が特に好ましい。
【0034】
なお、負極板を構成する集電体として使用される銅箔についてもまた、正極板に使用されるアルミニウム箔と同様に、電気化学反応による腐食に耐えるために、高純度の材料を使用することが好ましい。
【0035】
また、セパレータとしては、マイクロポアを有するリチウムイオン透過性のポリエチレンフィルム(PEフィルム)を、多孔性のリチウムイオン透過性のポリプロピレンフィルム(PPフィルム)で挟んだ三層構造としたものが好適に用いられる。これは、内部電極体の温度が上昇した場合に、PEフィルムが約130℃で軟化してマイクロポアが潰れ、リチウムイオンの移動即ち電池反応を抑制する安全機構を兼ねたものである。そして、このPEフィルムをより軟化温度の高いPPフィルムで挟持することによって、PEフィルムが軟化した場合においても、PPフィルムが形状を保持して正極板と負極板の接触・短絡を防止し、電池反応の確実な抑制と安全性の確保が可能となる。
【0036】
電解液としては、電解質としてのLiPF6をエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合溶液に溶解したもの等が好適に使用される。また、電池構造に特に限定はなく、小型のリチウム二次電池の構造を相似的に拡大した構造を採用することが可能である。また、本発明者らは先に、特願平9−202963号において種々の圧力解放機構を適所に配設した電池構造を提案しており、このような電池構造も好適に採用され得る。
【0037】
このような本発明において好適とされる種々の材料を用いて作製したリチウム二次電池は、DOD80%における出力がDOD0%のときの出力の60%以上である優れた出力特性を示すとともに、DOD80%における内部抵抗がDOD0%のときの内部抵抗の120%以下という低い内部抵抗上昇特性を示す。これにより、本発明のリチウム二次電池は、EV及びHEV用電池として好適に用いられる。
【0038】
このような電池特性は、正極活物質であるLiMn2O4粉末中のリチウムイオンの配位サイトがDODの深まりとともに少なくなっていくにもかかわらず、空の配位サイトへのリチウムイオンの拡散が空の配位サイトが多く存在するDODの浅い状態と大差のない状態にある、即ち、配位サイトが正極板に均一に分布し、リチウムイオンの拡散経路の確保と均一な拡散が行われていることに最も大きく起因し、更に、このようなリチウムイオンの拡散が行われるべく、負極板からのリチウムイオンの拡散もまた良好に行われていることを示していると考えられる。
【0039】
ところで、以上は本発明のリチウム二次電池の特徴を、主にDODの面から説明したものであるが、特に図4に示したような捲回型の内部電極体1を用いた場合に、タブ5の取付位置を最適化することで、内部電極体1からの集電抵抗を低減し、また電流密度の高低分布を低減してサイクル特性を向上させるとともに、生産性をも高めることが可能となる。
【0040】
図6(a)、(b)は、内部電極体1の端面の平面図であるが、本発明においては、図6(a)に示されるように、内部電極体1の端面において、少なくとも1群のタブ5が、中心角45゜以内の領域21に取付位置の中心が入るように取り付けられることが好ましい。また、1群のタブ5は、図6(b)に示される複数の群(図6(b)では4群)のように、複数ほど設けられていても構わない。理論的はこの中心角を考えると、8群のタブを設けることが可能であるが、電池の組立作業性を考えると、4群以下とすることが好ましい。
【0041】
ここで、図7(a)は図6(a)と対応する内部電極体1の端面構造の別の実施形態を示す平面図であるが、1群のタブ5が領域21内であっても、特に略同一動径(X軸における一方の半径)上に配設されていると、タブ5の集合接続が容易となって生産性が向上するとともに、タブ5に加わるねじれ応力が低減されて、タブ5の破損が効果的に回避される。同様に図7(b)は図6(b)に対応する内部電極体1の端面構造の別の実施形態を示しており、ほぼX軸とY軸上に位置するようにタブ5が取り付けられている。
【0042】
さて、正極板2に取り付けられた隣接するタブ5間の距離は、内部電極体1の外周長さ以下で、かつ、その外周長さの1/4以上とすることが好ましい。この条件は負極板3についても同様である。前述したように、タブ5の取付位置は略同一動径上にあるように設定することが好ましく、ここでタブ5の枚数が多いほど内部抵抗が小さくなることは明らかである。その一方で、後述する実施例に示すように、タブ5間の距離を概略一定とすることでサイクル特性における劣化が小さいことを、発明者らは実験的に確認している。そこで、隣接するタブ5の距離(間隔)は、最外周のタブ間距離を基準として、なるべくその他のタブ間距離がこの基準値と等しくなるようにして、しかも、略同一動径上に揃うようにタブ5の取付位置を決定することが望ましい。
【0043】
例えば、図7(a)に示したように、1群のタブ5のみを設ける場合には、最外周部における隣接するタブ5間の距離を基準とする。このとき、外周部では1巻き当たりに1枚のタブが配設されることとなり、隣接するタブ間距離は、概略、内部電極体の外周長さとなる。この場合、内周部においては、正負各電極板2、3の1巻き当たりの捲回長さが短くなるため、複数巻き当たりに1枚のタブ5が取り付けられることとなる。
【0044】
また、図7(b)に示したように、4群のタブ5を設ける場合には、隣接するタブ5間の距離は内部電極体1の外周長さの約1/4となる。このとき内周部においては、正負各電極板2、3それぞれについて、1巻き当たりに4枚のタブ5を設けることは不可能となるので、1巻き当たりについて4群の内の少なくとも1群にタブが設けられるか、もしくは1巻き当たりにタブ5が取り付けられない部分も生じ得る。そして外周に向かうにつれて1巻き当たりのタブの取付数が2から3そして4へと増えることとなる。逆に言えば、タブ間距離を内部電極体1の外周長さの1/4未満とすると、内周部では正負各電極板2、3において、1巻当たりに4枚のタブを取り付けることができるが、最外周においては、4群に収まらない数のタブ5を取り付けなければならない事態を生ずる。
【0045】
【実施例】
次に、本発明のリチウム二次電池の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0046】
(電池の作製)
化学量論組成を有するLiMn2O4スピネル(Li/Mn比=0.5)を正極活物質として、これに導電性を向上させるための炭素粉末(アセチレンブラック)を添加、混合したものをアルミニウム箔に塗布し、電極面形状が捲回方向長さ3400mm×幅200mmの正極板を作製した。一方、負極板は、高黒鉛化炭素材料(繊維状粉末)を銅箔に塗布することで、捲回方向長さ3600mm×幅200mmのものを作製した。こうして作製した正極板と負極板とをポリプロピレン製のマイクロポーラスセパレータを用いて絶縁しながら捲回して内部電極体を作製した。
【0047】
次に、作製した内部電極体を円筒形の電池ケースに嵌挿し、その一端を図1に示す封止構造により封止した後、LiPF6電解質をエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合溶液に溶解した電解液を充填し、他端もまた図1に示す封止構造で封止することにより電池を密閉した。
【0048】
図1において、正極板又は負極板のいずれか一方の電極板(図示せず)に接続された集電用のタブ32は、電池ケース39封止用の円板34に取り付けられた金属製のリベット33に接続される。そして、円板34には一定圧力で破裂する放圧弁35が設けられ、金属リング36を介して外部端子37が円板34と電気的に接続されるように、かつ、円板34と金属リング36及び外部端子37が電池ケースとは電気的に絶縁されるように、エチレンプロピレンゴム38を介して電池ケース39にかしめ加工される。こうして、電池ケース39の一端に正負極いずれか一方の外部端子が配設された円筒型両端端子型の電池が作製される。なお、電池ケース39としては、アルミニウムからなる外径50mm、肉厚1mm、長さ245mmの円筒形のものを用い、円板34としては、正極側はアルミニウム製のものを、負極側は銅製のものをそれぞれ用いた。
【0049】
なお、正負各電極板からの集電は正負各電極板に設けられた集電用タブに溶接されたタブを用いて行った。ここで集電用タブは、上記電池構造とするために、内部電極体の各端面に分かれて形成されるよう設けられている。そして、各電極板を平面に展開した状態で、隣合う集電用タブ間の距離は、電池の円周長より長くならないように約100mm前後の間隔で、図7(a)記載の構造を有するように捲回後に各集電用タブが内部電極体の端面上の同一動径上にくるように設定した。使用したタブは30枚であり、内周部においては複数巻き当たりに1枚のタブが配設されている。こうして作製した電池を実施例1の電池とする。なお、実施例1の電池は、内部抵抗等測定用とサイクル特性評価用に2個作製した。
【0050】
次に、実施例2の電池として、正極活物質にLi/Mn比が0.55のLiMn2O4スピネルを用い、その他の材料は実施例1と同じものを使用し、実施例1と同じ構造を有する電池を作製した。
【0051】
また、比較例1の電池として、正極活物質にLiCoO2粉末を用い、その他の材料は実施例1と同じものを使用し、実施例1と同じ構造を有する電池を作製した。
【0052】
一方、比較例2の電池として、上述した実施例1〜2と同様の構造を有する電池を、正極活物質として比較例1に用いたものと同じLiCoO2を、負極活物質としてハードカーボンをそれぞれ用いて作製した。
【0053】
更に、比較例3の電池として、実施例1と同じ材料を用い、タブの取付についてのみ、捲回後に各集電用タブが内部電極体の端面上の同一動径上にくるように、かつ、1巻き当たりに1枚のタブを取り付けた電池を作製した。従って、使用したタブは40枚と実施例1よりも多く、隣接するタブ間距離は実施例1のような概略等間隔ではない。
【0054】
(充電条件とDODの調整)
作製した実施例1〜2及び比較例1〜2の電池について、10A定電流−4.1V定電圧充電により満充電した。満充電時の電池容量は、実施例1で25Ah、実施例2で22Ah、比較例1及び比較例2で30Ahであった。この満充電の状態をDOD0%として、この状態から放電レート0.2C(5時間率)に相当する電流(実施例1では25A×0.2=5A、実施例2では22A×0.2=4.4A、比較例1及び比較例2では30A×0.2=6A)で1時間定電流放電することにより、DODを20%とした。同様にして、DODが40%、60%、80%の状態を準備する。
【0055】
(電池の内部抵抗及び出力の測定)
各DODにおける内部抵抗の測定は、開回路状態から放電レート0.2Cの電流を印加し、開回路電圧と電流印加直後の電圧の差を電流値で割ることにより求め、DOD0%での内部抵抗を100%として規格化した。
また、各DODでの出力の測定は、放電開始10秒後に2.5Vを下回らないような電流値で10秒間の定電流放電を行い、10秒目の電圧と電流の積により求め、DOD0%のときの出力を100%として規格化した。
【0056】
(サイクル特性の評価)
実施例1及び比較例3の電池を用いて、図8に示される充放電サイクルを1サイクルとして、これを繰り返すことにより耐久試験を行った。1サイクルは50%の充電状態の電池を10C(放電レート)相当の電流250Aにて9秒間放電した後18秒間休止し、その後175Aで6秒間充電後、続いて45Aで27秒間充電し、再び50%の充電状態とするパターンに設定した。なお、充電の2回目(45A)の電流値を微調整することにより、各サイクルにおけるDODのずれを最小限に止めた。また、この耐久試験中の電池容量の変化を知るために、適宜、0.2Cの電流強さで充電停止電圧4.1V、放電停止電圧2.5Vとした容量測定を行い、所定のサイクル数における電池容量を初回の電池容量で除した値により電池容量の変化率を求めた。
【0057】
(試験結果〜内部抵抗及び出力とDODとの関係)
図2に内部抵抗の変化率とDODとの関係を示す。比較例2においては、DODが深くなるにつれて内部抵抗値が徐々に大きくなり、DOD80%のときの内部抵抗値は、DOD0%のときの128%にまで上昇した。これに対し、実施例1、2においては、内部抵抗の上昇はほとんど見られず、DODが80%に至るまで実質的に変化はみられなかった。また、比較例1においては、DOD80%のときの内部抵抗はDODが0%のときの約116%に上昇した。従って、実施例1、2と比較例1との比較から、正極活物質におけるリチウムイオンの拡散経路の違いによる拡散抵抗の差が内部抵抗値の上昇に現れていると考えられる。また、比較例1と比較例2との比較から、負極活物質とリチウムイオンとの反応性の差もまた、内部抵抗の上昇に影響を与える要因となっていると推測されるが、その効果は、正極活物質によるものよりは小さいと推定される。
【0058】
なお、DOD0%での内部抵抗は、実施例1で4.0mΩであったが、実施例2では3.1mΩと、実施例1よりも約20%ほど小さい値が得られた。このことから、LiMn2O4スピネルであっても、そのLi/Mn比が0.5より大きい場合には、内部抵抗自体の低減の効果もまた得られることが明らかとなった。
【0059】
次に、図3に出力の変化率とDODとの関係を示す。実施例1、2においては、DODが深くなっても放電出力密度の低下が小さく、DODが80%のときにおいても、DODが0%のときの約82%の放電出力密度が得られた。また、比較例1では、DODが80%のときの出力が、DODが0%のときの約69%までの低下にとどまった。これに対し、比較例2においては、前述の引用文献に記載された内容をほぼ再現し、DODが80%のときの出力は、DODが0%のときの約36%にしか達しなかった。
【0060】
なお、DOD0%での出力密度は実施例1で1000W/kgであったが、実施例2では1200W/kgと、実施例1よりも約20%ほど大きい値が得られた。このことは、Li/Mn比が0.5より大きいLiMn2O4スピネルを用いることにより電池の内部抵抗自体が低減されたことに起因すると考えられる。
【0061】
以上の結果から、DODが深くなることにともなう電池の内部抵抗の上昇が、電池の出力低下の唯一の原因ではないが、電池の内部抵抗の上昇が小さいもので出力の低下が抑えられているという傾向は顕著に現れている。従って、正極活物質にLiMn2O4を用いることが、内部抵抗及び出力のDOD依存性を小さくし、広範なDOD範囲において、安定した出力を得る目的に適している。また、負極活物質のみが異なる比較例1と比較例2の内部抵抗及び出力のDOD依存性を比較すると明らかなように、負極活物質としては高黒鉛化炭素材料を用いることが好ましい。
【0062】
(試験結果〜サイクル特性)
試験結果を図9に示す。タブを概略等間隔に取り付けた実施例1の電池で放電容量の低下が抑制されている。これは、実施例1では、1枚のタブが受け持つ正極板及び負極板の集電面積がほぼ等しいために、内部電極体内での電流分布が生じ難い一方、比較例3では、タブ間距離の短い内周部において大電流が流れ易くなっているために内部電極体内で電流分布が生じた結果、内周部における劣化が進み、サイクル特性が低下したものと考えられる。
【0063】
【発明の効果】
以上、本発明のリチウム二次電池によれば、放電深度が深くなった場合であっても内部抵抗値の上昇率が小さく、また、出力の低下が小さいために、使用状態に依存せずに常に必要とされる大きな出力を得ることができ、充放電特性が良好であるという優れた効果を奏する。更に、Li/Mn比が0.5よりも大きいLiMn2O4を正極活物質として用いることにより、内部抵抗自体の低減が図られ、電池の高出力化が図られるという顕著な効果を奏する。また、本発明は、捲回型内部電極体を用いた場合にあっては、タブの取付位置を適切なものとすることで、前述した内部抵抗の低減を更に助長すると共に、内部電極体内の電流密度の高低分布を低減してサイクル特性を向上させ、更に生産性の向上が図られるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1〜2、比較例1において作製したリチウム二次電池の端部構造を示す断面図である。
【図2】 実施例1〜2及び比較例1〜2の放電深度と内部抵抗変化率の関係を示すグラフである。
【図3】 実施例1〜2及び比較例1〜2の放電深度と出力変化率の関係を示すグラフである。
【図4】 捲回型内部電極体の構造を示す斜視図である。
【図5】 積層型内部電極体の構造を示す斜視図である。
【図6】 捲回型内部電極体の端面の構造の一実施形態を示す平面図である。
【図7】 捲回型内部電極体の端面の構造の一実施形態を示す平面図である。
【図8】 サイクル試験における充放電パターンを示す説明図である。
【図9】 サイクル試験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
1…内部電極体、2…正極板、3…負極板、4…セパレータ、5…タブ、6…タブ、7…内部電極体、8…正極板、9…負極板、10…セパレータ、11…巻芯、21…領域、32…タブ、33…リベット、34…円板、35…放圧弁、36…金属リング、37…外部端子、38…エチレンプロピレンゴム、39…電池ケース。
Claims (4)
- 正極板と負極板とをセパレータを介して捲回した内部電極体を電池ケースに収容し、有機電解液を用いてなるリチウム二次電池であって、
前記内部電極体を構成する前記正極板が、アルミニウムからなる集電体及び前記集電体の両面に配設されたスピネル型の結晶構造を有する、Li/Mn比が0.5以上のマンガン酸リチウムを含む正極活物質層から形成されるとともに、前記内部電極体を構成する前記負極板が、銅からなる集電体及び前記集電体の両面に配設された黒鉛又は高黒鉛化炭素材料を含む負極活物質層から形成されてなり、かつ
前記正極板及び前記負極板を構成するそれぞれの集電体には、複数箇所から集電する集電用タブが複数取り付けられた構成を有し、
前記正極板及び前記負極板に取り付けられた複数の集電用タブは、それぞれ、各電極板を平面に展開した状態で、隣接するタブ間の距離が、捲回後の内部電極体の外周長さ以下、前記外周長さの1/4以上であり、かつ、捲回後の内部電極体の一端面上及び他端面上の略同一動径上にくるように配設されてなり、さらに
放電深度80%における出力が、放電深度0%のときの出力の60%以上であることを特徴とするリチウム二次電池。 - 正極板と負極板とをセパレータを介して捲回した内部電極体を電池ケースに収容し、有機電解液を用いてなるリチウム二次電池であって、
前記内部電極体を構成する前記正極板が、アルミニウムからなる集電体及び前記集電体の両面に配設されたスピネル型の結晶構造を有する、Li/Mn比が0.5以上のマンガン酸リチウムを含む正極活物質層から形成されるとともに、前記内部電極体を構成する前記負極板が、銅からなる集電体及び前記集電体の両面に配設された黒鉛又は高黒鉛化炭素材料を含む負極活物質層から形成されてなり、かつ
前記正極板及び前記負極板を構成するそれぞれの集電体には、複数箇所から集電する集電用タブが複数取り付けられた構成を有し、
前記正極板及び前記負極板に取り付けられた複数の集電用タブは、それぞれ、各電極板を平面に展開した状態で、隣接するタブ間の距離が、捲回後の内部電極体の外周長さ以下、前記外周長さの1/4以上であり、かつ、捲回後の内部電極体の一端面上及び他端面上の略同一動径上にくるように配設されてなり、さらに
放電深度80%における内部抵抗が、放電深度0%のときの内部抵抗の120%以下であることを特徴とするリチウム二次電池。 - 電気自動車又はハイブリッド電気自動車用に用いられることを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウム二次電池。
- 5Ah以上の電池容量を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
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