JP3907859B2 - プロピレン系樹脂組成物およびその成形体 - Google Patents
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Description
【発明の技術分野】
本発明は、ポリプロピレンにエチレン系重合体を配合したプロピレン系樹脂組成物およびその成形体に関する。
【0002】
【発明の技術的背景】
ポリプロピレンは、剛性、硬度および耐熱性などに優れており、射出成形、カレンダー成形、押出成形などの種々の成形方法によって容易に所望する形状にすることができ、しかも安価であるため、広範な用途、たとえば家電製品のハウジング、フィルム用途、容器用途、自動車内装用途、フェンダー、バンパー、サイドモール、マッドガード、ミラーカバー等の自動車外装用途、一般雑貨用途などに広く利用されている。
【0003】
また、このような種々用途に応じて、ポリプロピレンに、ポリエチレンあるいはゴム成分たとえばポリイソブチレン、ポリブタジエン、非晶性あるいは低結晶性エチレン・1-ブテン共重合体(EBR)などを配合して柔軟性や耐衝撃性を付与したポリプロピレン組成物も知られているが、ゴム成分の配合により剛性、表面硬度が低下するという問題がある。
【0004】
また、最近ではエチレン・α- オレフィン共重合体をプロピレン系樹脂に添加し、透明性、柔軟性および耐衝撃性を改善する方法が提案されている。(特開平8−269263号公報)。しかしながら、この方法では、耐衝撃性は改善されるものの、表面硬度の低下が大きいという問題がある。また、この組成物は、エチレン・α- オレフィン共重合体がその構成成分としてジエン、トリエン等を含んでいないため、架橋物を得ることが困難であり、耐摩耗性、耐油性に問題がある。
【0005】
本発明者らは、このような状況に鑑み鋭意研究した結果、特定のエチレン系重合体をプロピレン系樹脂の改質材として用いると、透明性、耐衝撃性および表面硬度のバランスに優れた成形体を製造できるプロピレン系樹脂組成物が得られ、さらにこの組成物を架橋して得られる成形体は耐摩耗性、耐油性にも優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
【発明の目的】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであって、透明性、耐衝撃性および表面硬度のバランスに優れた成形体、さらには、透明性、耐衝撃性および表面硬度のバランスに優れるとともに、耐摩耗性および耐油性にも優れる成形体を製造できるプロピレン系樹脂組成物およびその成形体を提供することを目的としている。
【0007】
【発明の概要】
本発明に係るプロピレン系樹脂組成物は、[I]エチレンと、1種以上の炭素原子数4〜20のα- オレフィンと、ジエンおよび/またはトリエンとからなり、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.01〜10dl/gの範囲にあり、GPCにより測定した分子量分布(Mw/Mn)が4以下であり、エチレン含量が40〜65モル%であり、ジエンおよび/またはトリエンの総含量が0.1〜10モル%であり、かつ、DSC法により結晶融解ピークが観測されないエチレン系重合体:1〜90重量部と、[II]プロピレン系樹脂:99〜10重量部(成分[I]と[II]の合計量は100重量部とする)とを含有してなることを特徴としている。
【0008】
前記エチレン系重合体[I]を構成する炭素原子数4〜20のα- オレフィンの少なくとも1種は、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1- ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセンおよび1-エイコセンからなる群から選ばれることが好ましい。
【0009】
前記エチレン系重合体[I]を構成するジエンとしては、ジシクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、シクロオクタジエン、1,6-オクタジエン、7-メチル-1,6- オクタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ブタジエンおよびイソプレンからなる群から選ばれる少なくとも1種のジエンが好ましい。
【0010】
前記エチレン系重合体[I]を構成するトリエンとしては、4-エチリデン-8- メチル-1,7- ノナジエン、4-エチリデン-1,7- ウンデカジエン、および4,8-ジメチル-1,4,8- デカトリエンからなる群から選ばれる少なくとも1種のトリエンが好ましい。中でも、非共役トリエンである4-エチリデン-1,7- ウンデカジエンが特に好ましい。
【0011】
前記エチレン系重合体[I]としては、下式(I)または(II)で表わされる遷移金属錯体(a)と、イオン化イオン性化合物(b)、有機アルミニウム化合物(c)およびアルモキサン(d)の中から選択される1種以上の化合物とからなるメタロセン系触媒を用いて調製された共重合体が好ましい。
【0012】
【化2】
【0013】
[式(I)、(II)中、Mは、Ti、Zr、Hf、Rn、Nd、SmまたはRuであり、
Cp1およびCp2は、Mとπ結合しているシクロペンタジエニル基、インデニル基、フルオレニル基またはそれらの誘導体基であり、
X1 およびX2 は、アニオン性配位子または中性ルイス塩基配位子であり、
Yは、窒素原子、酸素原子、リン原子、または硫黄原子を含有する配位子であり、
Zは、C、O、B、S、Ge、SiまたはSn原子あるいはこれらの原子を含有する基である。]
前記プロピレン系樹脂[II]の64℃n-デカン不溶部の立体規則性指標[M5 ]は0.970〜0.995であることが望ましい。
【0014】
本発明に係るプロピレン系樹脂組成物は、架橋剤の存在下に加熱され、または架橋剤の存在下もしくは非存在下に電子線照射され、前記エチレン系重合体[I]が架橋されていることが望ましい。
【0015】
本発明に係る成形体は、上記のような、本発明に係るプロピレン系樹脂組成物からなることを特徴としている。
本発明に係る成形体には、非架橋タイプのプロピレン系樹脂組成物からなる成形体と架橋タイプのプロピレン系樹脂組成物からなる成形体とがあり、透明性、耐衝撃性および表面硬度のバランスが良く優れている。本発明に係る成形体のうち、架橋タイプのプロピレン系樹脂組成物からなる成形体は、透明性、耐衝撃性および表面硬度のバランスに優れるだけでなく、耐油性、耐摩耗性にも優れている。
【0016】
【発明の具体的説明】
以下、本発明に係るプロピレン系樹脂組成物およびその成形体について具体的に説明する。
【0017】
本発明に係るプロピレン系樹脂組成物は、エチレン系重合体[I]と、プロピレン系樹脂[II]とを含有している熱可塑性エラストマー組成物であり、非架橋タイプと架橋タイプとに大別することができる。
【0018】
まず、本発明に係るプロピレン系樹脂組成物を形成する各成分について説明する。
エチレン系重合体[I]
本発明で用いられるエチレン系重合体[I]は、エチレンと、1種以上の炭素原子数4〜20のα- オレフィンと、ジエンおよび/またはトリエンとからなり、DSC法により結晶融解ピークが観測されない、三元系以上のランダム共重合体である。ここに、「DSC法により結晶融解ピークが観測されない」とは、吸熱曲線における最大ピークの融解熱量が2.0J/g以下であることを意味し、エチレン系重合体[I]が非晶性のランダム共重合体すなわちエラストマーであることを意味する。
【0019】
本発明では、DSC法により結晶融解ピークが観測されないエチレン系重合体[I]を用いるため、耐白化性に優れたプロピレン系樹脂組成物が得られる。
エチレン系重合体[I]を構成する炭素原子数4〜20のα- オレフィンとしては、具体的には、1-ブテン、1-ヘキセン、3-メチル-1- ペンテン、3-エチル-1- ペンテン、4-メチル-1- ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-エイコセンなどが挙げられる。中でも、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1- ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-エイコセンが好ましく、特に1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1- ペンテン、1-オクテンが好ましく用いられる。本発明では、炭素原子数4〜20のα- オレフィンを2種以上用いる場合には、少なくとも1種は、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1- ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセンおよび1-エイコセンからなる群から選ばれることが好ましい。
【0020】
エチレン系重合体[I]におけるエチレン含量は、炭素原子数4〜20のα- オレフィンの種類により異なるが、通常30〜70モル%、好ましくは35〜68モル%、さらに好ましくは40〜65モル%であることが望ましい。炭素原子数4〜20のα- オレフィンが1-ブテンである場合、エチレン含量は好ましくは30〜60モル%、さらに好ましくは30〜55モル%である。また、炭素原子数が1-オクテンである場合、好ましくは35〜70モル%、さらに好ましくは40〜65モル%である。
【0021】
エチレン系重合体[I]を構成するジエンとしては、具体的には、1,4-ペンタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,4-ヘキサジエン、1,4-オクタジエン、1,5-オクタジエン、1,6-オクタジエン、1,7-オクタジエン、シクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエン、7-メチル-1,6- オクタジエン、4-エチリデン-8- メチル-1,7- ノナジエン等の非共役ジエン;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエンなどが挙げられる。中でも、ジシクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ブタジエン、イソプレンが好ましい。
【0022】
上記のようなジエンは、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
エチレン系重合体[I]を構成するトリエンとしては、具体的には、
6,10- ジメチル-1,5,9- ウンデカトリエン、
4,8-ジメチル-1,4,8- デカトリエン、
5,9-ジメチル-1,4,8- デカトリエン、
6,9-ジメチル-1,5,8- デカトリエン、
6,8,9-トリメチル-1,5,8- デカトリエン、
6-エチル-10-メチル-1,5,9- ウンデカトリエン、
4-エチリデン-1,6,- オクタジエン、
7-メチル-4- エチリデン-1,6- オクタジエン、
4-エチリデン-8- メチル-1,7- ノナジエン(EMND)、
7-メチル-4- エチリデン-1,6- ノナジエン、
7-エチル-4- エチリデン-1,6- ノナジエン、
6,7-ジメチル-4- エチリデン-1,6- オクタジエン、
6,7-ジメチル-4- エチリデン-1,6- ノナジエン、
4-エチリデン-1,6- デカジエン、
7-メチル-4- エチリデン-1,6- デカジエン、
7-メチル-6- プロピル-4- エチリデン-1,6- オクタジエン、
4-エチリデン-1,7- ノナジエン、
8-メチル-4- エチリデン-1,7- ノナジエン、
4-エチリデン-1,7- ウンデカンジエン等の非共役トリエン;
1,3,5-ヘキサトリエン等の共役トリエンが挙げられる。中でも、4,8-ジメチル-1,4,8- デカトリエン、4-エチリデン-8- メチル-1,7- ノナジエン(EMND)が好ましい。
【0023】
上記のようなトリエンは、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。また、トリエンとジエンとを組み合わせて用いることもできる。エチレン系重合体[I]におけるジエンおよび/またはトリエンの総含量は、0.1〜10モル%、好ましくは0.1〜8モル%、さらに好ましくは0.1〜6であることが望ましく、ヨウ素価表示では、5〜80、好ましくは5〜60、さらに好ましくは5〜50であることが望ましい。
【0024】
本発明で用いられるエチレン系重合体[I]は、135℃デカリン中で測定される極限粘度[η]が、通常0.01〜10dl/g、好ましくは0.05〜10dl/gの範囲にあることが望ましい。エチレン系重合体[I]の極限粘度[η]が上記範囲内にあると、耐摩耗性、耐油性などの特性に優れたプロピレン系樹脂組成物が得られる。
【0025】
このエチレン系重合体[I]は、GPCにより測定した分子量分布(Mw/Mn、ポリスチレン換算、Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)は、4.0以下であることが好ましい。このエチレン系重合体[I]のMw/Mnが上記範囲にあると、プロピレン系樹脂[II]との相溶性に優れ、耐傷付き性、耐衝撃性に優れた成形体を製造できるプロピレン系樹脂組成物が得られるため好ましい。
【0026】
[エチレン系重合体[I]の製造]
本発明で用いられるエチレン系重合体[I]は、たとえばエチレンと、1種以上の炭素原子数4〜20のα- オレフィンと、ジエンおよび/またはトリエンとを、下記に示すメタロセン系触媒の存在下に共重合させることにより得られる。
【0027】
このようなメタロセン系触媒としては、
下記式(I)、(II)で表わされる遷移金属錯体(a):
【0028】
【化3】
【0029】
[式(I)、(II)中、Mは、Ti、Zr、Hf、Rn、Nd、SmまたはRuであり、
Cp1 およびCp2 は、Mとπ結合しているシクロペンタジエニル基、インデニル基、フルオレニル基またはそれらの誘導体基であり、
X1 およびX2 は、アニオン性配位子または中性ルイス塩基配位子であり、
Yは、窒素原子、酸素原子、リン原子、または硫黄原子を含有する配位子であり、
Zは、C、O、B、S、Ge、SiまたはSn原子あるいはこれらの原子を含有する基である。]と、
下記成分(b)、(c)および(d)の中から選択される1種以上の化合物と、からなる少なくとも1つの触媒系が用いられる。
(b):成分(a)中の遷移金属Mと反応し、イオン性の錯体を形成する化合物(イオン化イオン性化合物とも言う。)
(c):有機アルミニウム化合物
(d):アルモキサン。
【0030】
まず本発明で用いられる下記式(I)で表わされる遷移金属錯体(a)について説明する。
<遷移金属錯体(a)>
【0031】
【化4】
【0032】
式(I)中、Mは、Ti、Zr、Hf、Rn、Nd、SmまたはRuであり、好ましくはTi、ZrまたはHfであり、
Cp1 およびCp2 は、Mとπ結合しているシクロペンタジエニル基、インデニル基、フルオレニル基またはそれらの誘導体基であり、
X1 およびX2 は、アニオン性配位子または中性ルイス塩基配位子であり、
Zは、C、O、B、S、Ge、SiまたはSn原子あるいはこれらの原子を含有する基である。
【0033】
式(I)中、結合基Zは、特にC、O、B、S、Ge、Si、Snから選ばれる1個の原子であることが好ましく、この原子はアルキル基、アルコキシ基などの置換基を有していてもよく、Zの置換基は、互いに結合して環を形成していてもよい。これらのうちでは、Zは、O、SiおよびCから選択されることが好ましい。
【0034】
Cp1 、Cp2 は、遷移金属に配位する配位子であり、シクロペンタジエニル基、インデニル基、4,5,6,7-テトラヒドロインデニル基、フルオレニル基などのシクロペンタジエニル骨格を有する配位子であり、このシクロペンタジエニル骨格を有する配位子は、アルキル基、シクロアルキル基、トリアルキルシリル基、ハロゲン原子などの置換基を有していてもよい。
【0035】
X1 およびX2 は、アニオン性配位子または中性ルイス塩基配位子であり、具体的には、炭素原子数が1〜12の炭化水素基、アルコキシ基、アリーロキシ基、スルホン酸含有基(−SO3 Ra 、ただし、Ra はアルキル基、ハロゲン原子で置換されたアルキル基、アリール基、ハロゲン原子で置換されたアリール基またはアルキル基で置換されたアリール基である。)、ハロゲン原子、水素原子などが挙げられる。
【0036】
以下に、Mがジルコニウムであり、かつ、シクロペンタジエニル骨格を有する配位子を2個含むメタロセン化合物を例示する。
シクロヘキシリデン- ビス(インデニル)ジメチルジルコニウム、
シクロヘキシリデン- ビス(インデニル)ジルコニウムジクロリド、
イソプロピリデン- ビス(インデニル)ジルコニウムジクロリド、
イソプロピリデン(シクロペンタジエニル- フルオレニル)ジルコニウムジクリド、
ジフェニルシリレン- ビス(インデニル)ジルコニウムジクロリド、
メチルフェニルシリレン- ビス(インデニル)ジルコニウムジクロリド、
rac-ジメチルシリレン- ビス(2-メチル-1- インデニル)ジルコニウムジクロリド、
rac-ジメチルシリレン- ビス(4,7-ジメチル-1- インデニル)ジルコニウムジクロリド、
rac-ジメチルシリレン- ビス(2,4,7-トリメチル-1- インデニル)ジルコニウムジクロリド、
rac-ジメチルシリレン- ビス(2,4,6-トリメチル-1- インデニル)ジルコニウムジクロリド、
rac-ジメチルシリレン- ビス(4-フェニル-1- インデニル)ジルコニウムジクロリド、
rac-ジメチルシリレン- ビス(2-メチル-4- フェニル-1- インデニル)ジルコニウムジクロリド、
rac-ジメチルシリレン- ビス(2-メチル-4-(α-ナフチル)-1- インデニル)ジルコニウムジクロリド、
rac-ジメチルシリレン- ビス(2-メチル-4-(β-ナフチル)-1- インデニル)ジルコニウムジクロリド、
rac-ジメチルシリレン- ビス(2-メチル-4-(1-アントリル)-1- インデニル)ジルコニウムジクロリド、
ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)フルオレニルジルコニウムジクロリド、
イソプロピル(シクロペンタジエニル-1- フルオレニル)ハフニウムジクロリド、
イソプロピル(シクロペンタジエニル-1- フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、
ジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)フルオレニルジルコニウムジクロリドなど。
【0037】
また、上記のような化合物においてジルコニウム金属を、チタニウム金属、ハフニウム金属に置き換えたメタロセン化合物を例示することもできる。
上記のようなメタロセン化合物は、単独でまたは2種以上組合わせて用いることができる。
【0038】
また、上記のようなメタロセン化合物は、粒子状担体に担持させて用いることもできる。
このような粒子状担体としては、具体的には、SiO2 、Al2O3、B2O3、MgO、ZrO2 、CaO、TiO2 、ZnO、SnO2 、BaO、ThO等の無機担体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1- ブテン、ポリ4-メチル-1- ペンテン、スチレン- ジビニルベンゼン共重合体等の有機担体を用いることができる。これらの粒子状担体は、単独でまたは2種以上組合わせて用いることができる。
【0039】
本発明では、上記式(I)で示される繊維金属化合物(メタロセン化合物)だけでなく、下記式(II)で示される遷移金属化合物(メタロセン化合物)を用いることもできる。
【0040】
【化5】
【0041】
式(II)中、Mは、周期率表第4族またはランタニド系列の遷移金属であり、具体的には、Ti、Zr、Hf、Rn、Nd、Sm、Ruであって、好ましくはTi、Zr、Hfであり、
Cp1 は、Mとπ結合しているシクロペンタジエニル基、インデニル基、フルオレニル基またはそれらの誘導体基であり、
X1 およびX2 は、アニオン性配位子または中性ルイス塩基配位子であり、
Yは、窒素原子、酸素原子、リン原子、または硫黄原子を含有する配位子であり、
Zは、炭素、酸素、イオウ、ホウ素または周期率表第14族の元素(たとえばケイ素、ゲルマニウムまたはスズ)であり、好ましくは炭素、酸素、ケイ素のいずれかであり、Zは置換基を有していてもよく、
ZとYとで縮合環を形成してもよい。
【0042】
さらに詳説すると、Cp1 は、遷移金属に配位する配位子であり、シクロペンタジエニル基、インデニル基、フルオレニル基あるいはそれらの誘導体基などのシクロペンタジエニル骨格を有する配位子であり、このシクロペンタジエニル骨格を有する配位子は、アルキル基、シクロアルキル基、トリアルキルシリル基、ハロゲン原子などの置換基を有していてもよい。
【0043】
また、Zは、C、O、B、S、Ge、Si、Snから選ばれる原子であり、Zは、アルキル基、アルコキシ基などの置換基があってもよく、Zの置換基は互いに結合して環を形成していてもよい。
【0044】
X1 およびX2 は、アニオン性配位子または中性ルイス塩基配位子であり、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子もしくはハロゲン原子であるか、または20個以下の炭素原子、ケイ素原子もしくはゲルマニウム原子を含有する炭化水素基、シリル基もしくはゲルミル基である。
【0045】
このような式(II)で示される化合物としては、具体的に、
(t-ブチルアミド)ジメチル(フルオレニル)シランチタンジメチル、
(ジメチル(t-ブチルアミド)(テトラメチル-η5- シクロペンタジエニル)シリレン)チタンジクロリド、
((t-ブチルアミド)(テトラメチル-η5- シクロペンタジエニル)-1,2- エタンジイル)チタンジクロリド、
(ジメチル(フェニルアミド)(テトラメチル-η5- シクロペンタジエニル)シリレン)チタンジクロリド、
(ジメチル(t-ブチルアミド)(テトラメチル-η5- シクロペンタジエニル)シリレン)チタンジメチル、
(ジメチル(4-メチルフェニルアミド)(テトラメチル-η5- シクロペンタジエニル)シリレン)チタンジクロリド、
(ジメチル(t-ブチルアミド)(η5-シクロペンタジエニル)シリレン)チタンジクロリド、
(テトラメチル(t-ブチルアミド)(テトラメチル-η5- シクロペンタジエニル)ジシリレン)チタンジクロリドなどが挙げられる。
【0046】
本発明においては、オレフィン重合用触媒として、上記のようなメタロセン系触媒が好ましく用いられる。
次に、メタロセン系触媒を形成する
(b):成分(a)中の遷移金属Mと反応し、イオン性の錯体を形成する化合物(すなわちイオン化イオン性化合物)、
(c):有機アルミニウム化合物、および
(d):アルモキサン(アルミニウムオキシ化合物)について説明する。
【0047】
<(b)イオン化イオン性化合物>
(b)イオン化イオン性化合物は、(a)遷移金属錯体成分中の遷移金属Mと反応してイオン性の錯体を形成する化合物であり、このような(b)イオン化イオン性化合物としては、ルイス酸、イオン性化合物、ボラン化合物およびカルボラン化合物を例示することができる。
【0048】
ルイス酸としては、BR3 (式中、Rはフッ素原子、メチル基、トリフルオロメチル基などの置換基を有していてもよいフェニル基またはフッ素原子である。)で示される化合物が挙げられ、たとえばトリフルオロボロン、トリフェニルボロン、トリス(4-フルオロフェニル)ボロン、トリス(3,5-ジフルオロフェニル)ボロン、トリス(4-フルオロメチルフェニル)ボロン、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボロン、トリス(p-トリル)ボロン、トリス(o-トリル)ボロン、トリス(3,5-ジメチルフェニル)ボロンなどが挙げられる。
【0049】
イオン性化合物としては、トリアルキル置換アンモニウム塩、N,N-ジアルキルアニリニウム塩、ジアルキルアンモニウム塩、トリアリールホスフォニウム塩などを挙げることができる。具体的に、トリアルキル置換アンモニウム塩としては、たとえばトリエチルアンモニウムテトラ(フェニル)ホウ素、トリプロピルアンモニウムテトラ(フェニル)ホウ素、トリ(n-ブチル)アンモニウムテトラ(フェニル)ホウ素などが挙げられる。ジアルキルアンモニウム塩としては、たとえばジ(1-プロピル)アンモニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ホウ素、ジシクロヘキシルアンモニウムテトラ(フェニル)ホウ素などが挙げられる。さらにイオン性化合物として、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、フェロセニウムテトラ(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどを挙げることもできる。
【0050】
ボラン化合物としては、デカボラン(14)、ビス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕ノナボレート、ビス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕デカボレート、ビス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕ビス(ドデカハイドライドドデカボレート)ニッケル酸塩(III)などの金属ボランアニオンの塩などが挙げられる。
【0051】
カルボラン化合物としては、4-カルバノナボラン(14)、1,3-ジカルバノナボラン(13)、ビス〔トリ(n-ブチル)アンモニウム〕ビス(ウンデカハイドライド-7-カルバウンデカボレート)ニッケル酸塩(IV)などの金属カルボランアニオンの塩などが挙げられる。
【0052】
上記のような(b)イオン化イオン性化合物は、単独でまたは2種以上組合わせて用いることができる。
前記(d)有機アルミニウムオキシ化合物または(b)イオン化イオン性化合物は、上述した粒子状担体に担持させて用いることもできる。
【0053】
また触媒を形成するに際しては、(d)有機アルミニウムオキシ化合物および/または(b)イオン化イオン性化合物とともに以下のような(c)有機アルミニウム化合物を用いてもよい。
【0054】
<(c)有機アルミニウム化合物>
(c)有機アルミニウム化合物としては、分子内に少なくとも1個のAl−炭素結合を有する化合物が利用できる。このような化合物としては、たとえば下記一般式で表わされる有機アルミニウム化合物が挙げられる。
【0055】
(R1 )mAl(O(R2 ))nHpXq
(式中、R1 およびR2 は、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素原子数が通常1〜15、好ましくは1〜4の炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子を示し、mは0<m≦3、nは0≦n<3、pは0≦p<3、qは0≦q<3を満たす数であって、しかも、m+n+p+q=3である。)
【0056】
<(d)有機アルミニウムオキシ化合物(アルモキサン)>
(d)有機アルミニウムオキシ化合物は、従来公知のアルミノキサンであってもよく、また特開平2−78687号公報に例示されているようなベンゼン不溶性の有機アルミニウムオキシ化合物であってもよい。
【0057】
従来公知のアルミノキサン(アルモキサン)は、具体的には、下記一般式で表わされる。
【0058】
【化6】
【0059】
式中、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭化水素基であり、好ましくはメチル基、エチル基、特に好ましくはメチル基である。
mは2以上の整数であり、好ましくは5〜40の整数である。
【0060】
ここで、アルミノキサンは式(OAl(R1))で表わされるアルキルオキシアルミニウム単位および式(OAl(R2))で表わされるアルキルオキシアルミニウム単位(ここで、R1 およびR2 は、Rと同様の炭化水素基であり、R1 およびR2 は相異なる基を示す。)からなる混合アルキルオキシアルミニウム単位から形成されていてもよい。
【0061】
なお、(d)有機アルミニウムオキシ化合物は、少量のアルミニウム以外の金属の有機化合物成分を含有していてもよい。
本発明では、上記エチレン系重合体[I]製造用の触媒(オレフィン系触媒)としては、上記のようなメタロセン系触媒が好ましく用いられるが、場合によっては上記メタロセン系触媒以外の、従来より公知の(1) 固体状チタン触媒成分と有機アルミニウム化合物とからなるチタン系触媒、(2) 可溶性バナジウム化合物と有機アルミニウム化合物とからなるバナジウム系触媒を用いることもできる。
【0062】
本発明では、通常、上記のようなメタロセン系触媒の存在下に、エチレンと1-ブテン等のα- オレフィンと、ジエンおよび/またはトリエンなどを通常液相で共重合させる。この際、一般に炭化水素溶媒が用いられるが、プロピレンを溶媒として用いてもよい。この共重合はバッチ法または連続法のいずれの方法でも行なうことができる。
【0063】
メタロセン系触媒を用い、共重合をバッチ法で実施する場合には、重合系内の(a)遷移金属錯体(メタロセン化合物)の濃度は、重合容積1リットル当り、通常0.00005〜1ミリモル、好ましくは0.0001〜0.5ミリモルの量で用いられる。
【0064】
(d)有機アルミニウムオキシ化合物(アルモキサン)は、(a)メタロセン化合物中の遷移金属原子(M)に対するアルミニウム原子(Al)のモル比(Al/M)で、1〜10000、好ましくは10〜5000となるような量で用いられる。
【0065】
(b)イオン化イオン性化合物は、(a)メタロセン化合物に対する(b)イオン化イオン性化合物のモル比((b)/(a))で、0.5〜20、好ましくは1〜10となるような量で用いられる。
【0066】
また、(c)有機アルミニウム化合物が用いられる場合には、重合容積1リットル当り、通常約0〜5ミリモル、好ましくは約0〜2ミリモルとなるような量で用いられる。
【0067】
共重合反応は、通常、温度が−20〜150℃、好ましくは0〜120℃、さらに好ましくは0〜100℃の範囲で、圧力が0を超えて〜80kg/cm2 、好ましくは0を超えて〜50kg/cm2 の範囲の条件下に行なわれる。
【0068】
また、反応時間(共重合が連続法で実施される場合には平均滞留時間)は、触媒濃度、重合温度などの条件によっても異なるが、通常5分間〜3時間、好ましくは10分間〜1.5時間である。
【0069】
上記プロピレン、エチレン、炭素原子数4〜20のα- オレフィン、ジエン(またはトリエン)由来の成分の共重合用モノマーは、上述のようなエチレン系重合体[I]が得られるような量でそれぞれ重合系に供給される。なお、共重合に際しては、水素などの分子量調節剤を用いることもできる。
【0070】
上記のようにしてプロピレン、エチレン、炭素原子数4〜20のα- オレフィン、ジエン(またはトリエン)由来の成分の共重合用モノマーを共重合させると、エチレン系重合体[I]は、通常これを含む重合液として得られる。この重合液は常法により処理され、エチレン系重合体[I]が得られる。
【0071】
本発明においては、エチレン系重合体[I]は、エチレン系重合体[I]およびプロピレン系樹脂[II]の合計量100重量部に対して、1〜90重量部、好ましくは10〜90重量部、さらに好ましくは20〜80重量部の割合で用いられる。
【0072】
プロピレン系樹脂[ II ]
本発明で用いられるプロピレン系樹脂[II]は、メルトフローレート(MFR;ASTM D 1238,230℃、2.16kg荷重)が0.1〜200g/10分であることが好ましく、0.1〜100g/10分であることがさらに好ましい。
【0073】
また、このプロピレン系樹脂[II]の64℃n-デカン不溶成分量は、通常は99.9〜80重量%であり、好ましくは99.9〜90重量%である。
プロピレン系樹脂[II]の64℃n-デカン不溶成分は、具体的には、試料(プロピレン系樹脂)5gを、沸騰n-デカン200cc中に5時間浸漬して溶解した後、64℃まで冷却して、析出した固相をG4ガラスフィルターで濾別して、固相(不溶成分)を乾燥することにより得ることができる。
【0074】
また、この64℃n-デカン不溶成分の沸騰ヘプタン不溶成分は、
下記式(1)により求められる立体規則性指標[M5]の値が0.970〜0.995であり、
下記式(2)により求められる立体規則性指標[M3]の値が0.0020〜0.0050であることが望ましい。
【0075】
この沸騰ヘプタン不溶成分の立体規則性指標[M5]は、沸騰ヘプタン不溶成分の13C−NMRスペクトルにおけるPmmmm、Pw、Sαγ、Sαδ+ 、Tδ+ δ+ の吸収強度から下記式(1)により求められ、
立体規則性指標[M5]は、13C−NMRスペクトルにおけるPmmrm、Pmrmr、Pmrrr、Prmrr、Prmmr、Prrrr、Pw、Sαγ、Sαδ+ 、Tδ+ δ+ の吸収強度から下記式(2)により求められる。
【0076】
【数1】
【0077】
(式中、
[Pmmmm] :プロピレン単位が5単位連続してアイソタクチック結合した部位における第3単位目のメチル基に由来する吸収強度であり、
[Pw] :プロピレン単位のメチル基に由来する吸収強度であり、
[Sαγ] :主鎖中の2級炭素であって、該2級炭素から最も近い2個の3級炭素のうち、一方がα位にあり、他方がγ位にあるような2級炭素に由来する吸収強度であり、
[Sαδ+] :主鎖中の2級炭素であって、該2級炭素から最も近い2個の3級炭素のうち、一方がα位にあり、他方がδ位またはδ位より離れた位置にあるような2級炭素に由来する吸収強度であり、
[Tδ+δ+ ]:主鎖中の3級炭素であって、該3級炭素から最も近い2個の3級炭素のうち、一方がδ位またはδ位より離れた位置にあり、他方がδ位またはδ位より離れた位置にあるような3級炭素に由来する吸収強度である。)
【0078】
【数2】
【0079】
[Pw]、[Sαγ」、[Sαδ+ ]および[Tδ+ δ+ ]は、上記式(1)と同様である。)
上記のようなプロピレン系樹脂[II](沸騰n-ヘプタン不溶成分)の立体規則性の評価に用いられる立体規則性指標[M5 ]および[M3 ]について具体的に説明する。
【0080】
プロピレン系樹脂[II]がプロピレンの単独重合体である場合、該不溶成分は、たとえば下記式(A)のように表わすことができる。
【0081】
【化7】
【0082】
で表わされるプロピレン単位5連鎖中の3単位目のメチル基(たとえばMe3、Me4)に由来する13C−NMRスペクトルにおける吸収強度をPmmmmとし、プロピレン単位中の全メチル基(Me1、Me2、Me3・・・)に由来する吸収強度をPwとすると、上記式(A)で表わされる沸騰ヘプタン不溶成分の立体規則性は、PmmmmとPwとの比、すなわち下記式(1A)から求められる値により評価することができる。
【0083】
【数3】
【0084】
また、プロピレン系樹脂[II]がプロピレン単位以外の他のオレフィンから誘導される構成単位、たとえばエチレン単位を少量含む場合、該不溶成分は、たとえば下記式(B-1)または(B-2)のように表わすことができる。なお式(B-1)は、プロピレン単位連鎖中に1個のエチレン単位が含まれる場合を示し、式(B-2)は、プロピレン単位連鎖中に、2個以上のエチレン単位からなるエチレン単位連鎖が含まれる場合を示している。
【0085】
【化8】
【0086】
このような場合、プロピレン単位5連鎖中の3単位目のメチル基以外のメチル基(上記式(B-1)、(B-2)では、Me4、Me5、Me6およびMe7)に由来する吸収強度は立体規則性を評価する際、原理的に除外すべきものである。しかしこれらのメチル基の吸収は他のメチル基の吸収と重なって観測されるため、定量することは困難である。
【0087】
そこで、プロピレン系樹脂[II]の沸騰n-ヘプタン不溶成分が式(B-1)で示されるような場合には、エチレン単位中の2級炭素であって、プロピレン単位中の3級炭素(Ca)と結合している2級炭素(C1)に由来する13C−NMRスペクトルにおける吸収強度(Sαγ)、およびプロピレン単位中の2級炭素であって、エチレン単位中の2級炭素(C2)と結合している2級炭素(C3)に由来する吸収強度(Sαγ)を用いてこれを除外する。
【0088】
すなわち、主鎖中の2級炭素であって、該2級炭素(C1またはC3)から最も近い2個の3級炭素のうち、一方(CaまたはCb)がα位にあり、他方(CbまたはCa)がγ位にあるような2級炭素に由来する吸収強度(Sαγ)を2倍したものをPwから引くことにより、プロピレン単位5連鎖中の3単位目のメチル基以外のメチル基(Me4、Me5、Me6およびMe7)に由来する吸収強度を除外する。
【0089】
また、プロピレン系樹脂[II]の沸騰n-ヘプタン不溶成分が式(B-2)で示されるような場合は、2個以上のエチレン単位からなるエチレン単位連鎖中の2級炭素であって、プロピレン単位中の3級炭素(Cd)と結合している2級炭素(C4)に由来する13C−NMRスペクトルにおける吸収強度(Sαδ+)、およびプロピレン単位中の2級炭素であって、2以上のエチレン単位連鎖中の2級炭素(C5)と結合している2級炭素(C6)に由来する吸収強度(Sαδ+)を用いてこれを除外する。
【0090】
すなわち、主鎖中の2級炭素であって、該2級炭素(C4またはC6)から最も近い2個の3級炭素のうち、一方(CdまたはCe)がα位にあり、他方(CeまたはCd)がδ位またはδ位より離れた位置にあるような2級炭素に由来する吸収強度(Sαδ+)を2倍したものをPwから引くことにより、プロピレン単位5連鎖中の3単位目のメチル基以外のメチル基(Me4、Me5、Me6およびMe7)に由来する吸収強度を除外する。
【0091】
したがって、上記式(B-1)、(B-2)で表わされるプロピレン系樹脂[II]の沸騰n-ヘプタン不溶成分の立体規則性は、下記式(1B)から求められる値により評価することができる。
【0092】
【数4】
【0093】
さらに、プロピレン系樹脂[II]の沸騰n-ヘプタン不溶成分が少量のエチレン単位を含み、かつ、エチレン単位連鎖中に1個のプロピレン単位が含まれる場合には、該不溶成分は、たとえば下記式(C)のように表わすことができる。
【0094】
【化9】
【0095】
このような場合、上記(1B)式をそのまま適用すると、除外すべきメチル基が5個(Me4、Me5、Me6、Me7およびMe8)であるにもかかわらず、SαγまたはSαδ+ に該当するメチル基が4個あるため、プロピレン単位5連鎖中の中央のメチル基以外のメチル基を、3個多く除外することになるため、さらに補正が必要となる。
【0096】
そこで、エチレン単位連鎖中に含まれるプロピレン単位中の3級炭素に由来する13C−NMRスペクトルにおける吸収強度を用いてこれを補正する。すなわち主鎖中の3級炭素であって、該3級炭素から最も近い2個の3級炭素(Cf、Cg)のうち、一方(Cf)がδ位またはδ位より離れた位置にあり、他方(Cg)がδ位またはδ位より離れた位置にあるような3級炭素(C7)に由来する吸収強度(Tδ+ δ+ )を3倍したものをPwに加えることによりこれを補正する。
【0097】
したがって、プロピレン系樹脂[II]の沸騰n-ヘプタン不溶成分の立体規則性は、上記式(1)により求めた立体規則性指標[M5]の値により評価することができる。
【0098】
なお、(1A)式および(1B)式は、(1)式と異なるものではなく、(1)式の特殊なケースと位置づけられる。なお、沸騰n-ヘプタン不溶成分に含まれるプロピレン単位以外の構成単位単位によっては、上記の補正が不要となる場合もある。
【0099】
また立体規則性指標[M3]を求める上記式(2)中、 [Pmmrm]、[Pmrmr]、[Pmrrr]、[Prmrr]、[Prmmr]、[Prrrr]は、プロピレン単位連鎖中における5個の連続するプロピレン単位のメチル基のうち、3個が同一方向、2個が反対方向を向いた構造(以下「M3 構造」ということがある)を有するプロピレン単位5連鎖中の第3単位目のメチル基に由来する吸収強度を示している。すなわち上記(2)により求められる立体規則性指標[M3]の値は、プロピレン単位連鎖中におけるM3 構造の割合を示している。
【0100】
本発明で用いられるプロピレン系樹脂[II]の沸騰n-ヘプタン不溶成分は、上記式(1)により求められる立体規則性指標[M5]の値が0.970〜0.995の範囲にあり、沸騰n-ヘプタン不溶成分の上記式(2)により求められる立体規則性指標[M3]の値が0.0020〜0.0050の範囲にあるため、極めて長いメソ連鎖(α- メチル炭素が同一方向に向いているプロピレン単位連鎖)を有している。
【0101】
この[M3]の値は、好ましくは0.0023〜0.0045、より好ましくは0.0025〜0.0040である。
一般にプロピレン系樹脂[II]は、立体規則性指標[M3]の値が小さい方がメソ連鎖が長い。しかし立体規則性指標[M5]の値が極めて大きく、立体規則性指標[M3]の値が非常に小さい場合には、立体規則性指標[M5]の値がほぼ同じであれば立体規則性指標[M3]の値が大きい方がメソ連鎖が長くなる場合がある。
【0102】
たとえば下記に示すような構造(イ)を有するプロピレン系樹脂と、構造(ロ)を有するプロピレン系樹脂とを比較すると、M3 構造を有する構造(イ)で表わされるプロピレン系樹脂は、M3 構造を有しない構造(ロ)で表わされるプロピレン系樹脂に比べ長いメソ連鎖を有している。(ただし下記構造(イ)、構造(ロ)は、いずれも1003単位のプロピレン単位からなるものとする)
【0103】
【化10】
【0104】
上記構造(イ)で表わされるプロピレン系樹脂の立体規則性指標[M5]の値は0.986であり、上記構造(ロ)で表わされるプロピレン系樹脂の立体規則性指標[M5]の値は0.985であり、構造(イ)で表わされるプロピレン系樹脂および構造(ロ)で表わされるプロピレン系樹脂の立体規則性指標[M5]の値は、ほぼ等しい値である。しかしながら、M3 構造を有する構造(イ)で表わされるプロピレン系樹脂では、メソ連鎖に含まれるプロピレン単位は、平均497単位であり、M3 構造を含有しない構造(ロ)で表わされるプロピレン系樹脂では、メソ連鎖に含まれるプロピレン単位は、平均250単位となる。すなわち立体規則性指標[M5]の値が極めて大きいプロピレン系樹脂では、プロピレン単位連鎖中に含まれるr(racemo)で示される構造の割合が極めて小さくなるので、r(racemo)で示される構造が集中して存在するプロピレン系樹脂(M3構造を有するプロピレン系樹脂)は、r(racemo)で示される構造が分散して存在するプロピレン系樹脂(M3構造を有しないプロピレン系樹脂)より長いメソ連鎖を有することになる。
【0105】
上記のような立体規則性指標値[M5]および[M3]は、下記のように測定される沸騰n-ヘプタン不溶成分の13C−NMRの各々の構造に基づくピーク強度あるいはピーク強度の総和とから求めることができる。
【0106】
13C−NMRは、該不溶成分0.35gをヘキサクロロブタジエン2.0ml に加熱溶解させる。この溶液をグラスフィルター(G2)で濾過した後、重水素化ベンゼン0.5ml を加え、内径10mmのNMRチューブに装入し、日本電子(株)製GX−500型NMR測定装置を用い、120℃で13C−NMR測定を行なう。積算回数は10,000回以上である。
【0107】
プロピレン系樹脂[II]の64℃n-デカン不溶成分は、上記のような沸騰n-ヘプタン不溶成分量を、通常80重量%以上、好ましくは85重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは93重量%以上、特に好ましくは94重量%以上の量で含有している。
【0108】
なお、この沸騰n-ヘプタン不溶成分は、上記64℃n-デカン不溶成分1.5gを6時間以上n-ヘプタンでソックスレー抽出して、抽出残渣として得られ、沸騰n-ヘプタン不溶成分量は、64℃n-デカン可溶成分が、沸騰n-ヘプタンにも可溶と仮定して算出されるものである。
【0109】
本発明では、沸騰n-ヘプタン不溶成分の結晶化度は、60%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは68%以上であることが望ましい。
この結晶化度は、試料を180℃の加圧成形機にて厚さ1mmの角板に成形した後、直ちに水冷して得たプレスシートを用い、理学電機(株)製ローターフレックス RU300測定装置を用いて測定することにより求めることができる(出力50kV、250mA)。この際の測定法としては、透過法を用い、またサンプルを回転させながら測定を行なう。
【0110】
本発明では、上記のようなプロピレン系樹脂[II]の64℃n-デカン不溶成分は、上記のような特性を満たせば、ホモポリプロピレンからなっても、あるいはプロピレンと他のオレフィン類との共重合体からなっていてもよい。
【0111】
他のオレフィン類としては、たとえばエチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ヘキサデセン、4-メチル-1- ペンテン等のα- オレフィン、ビニルシクロペンテン、ビニルシクロヘキサン、ビニルノルボルナン等のビニル化合物、酢酸ビニル等のビニルエステル、無水マレイン酸等の不飽和有機酸またはその誘導体などが挙げられる。
【0112】
これらのうちでも、ホモポリプロピレンからなることが望ましい。
また、この64℃n-デカン不溶成分を形成するポリプロピレン成分は、たとえば3-メチル-1- ブテン、3,3-ジメチル-1- ブテン、3-メチル-1- ペンテン、3-メチル-1- ヘキセン、3,5,5-トリメチル-1- ヘキセン、ビニルシクロペンテン、ビニルシクロヘキサン、ビニルノルボルナンなどの単独重合体または共重合体をたとえば予備重合により形成される予備重合体として含有していてもよく、このような予備重合体を少量たとえば1重量ppm〜3重量%程度の量で含んでいると、結晶化速度が大きくなるため好ましい。
【0113】
上記のようなプロピレン系樹脂[II]は、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
上記のようなプロピレン系樹脂[II]は、エチレン系重合体[I]およびプロピレン系樹脂[II]の合計量100重量部に対して、10〜99重量部、好ましくは10〜90重量部、さらに好ましくは20〜80重量部の割合で用いられる。
【0114】
架橋剤
本発明で必要に応じて用いられる架橋剤としては、有機過酸化物、イオウ系化合物などが挙げられるが、中でも有機過酸化物が好ましく用いられる。
【0115】
有機過酸化物としては、具体的には、ジクミルパーオキサイド、ジ-t- ブチルパーオキサイド、ジ-t- ブチルパーオキシ-3,3,5- トリメチルシクロヘキサン、t-ブチルヒドロパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5- ジ(t-ブチルパーオキシン)ヘキシン-3、2,5-ジメチル-2,5- ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5- モノ(t-ブチルパーオキシ)- ヘキサン、α,α’- ビス(t-ブチルパーオキシ-m- イソプロピル)ベンゼンなどが挙げられる。中でも、ジクミルパーオキサイド、ジ-t- ブチルパーオキサイド、ジ-t- ブチルパーオキシ-3,3,5- トリメチルシクロヘキサンが好ましく用いられる。
【0116】
本発明においては、有機過酸化物は、上記エチレン系重合体[I]およびプロピレン系樹脂[II]の合計量100重量部に対して、0.01〜2重量部、好ましくは0.01〜1重量部、さらに好ましくは0.01〜0.5重量部の割合で用いられる。
【0117】
有機過酸化物を上記のような割合で用いると、透明性、耐衝撃性および表面硬度のバランスに優れるとともに、耐摩耗性および耐油性に優れた成形体(架橋物)を製造できるプロピレン系樹脂組成物が得られる。
【0118】
架橋剤として有機過酸化物を使用するときは、架橋助剤を併用することが好ましい。
このような架橋助剤としては、具体的には、硫黄;p-キノンジオキシム等のキノンジオキシム系化合物;ポリエチレングリコールジメタクリレート等のメタクリレート系化合物;ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート等のアリル系化合物;その他マレイミド系化合物;ジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0119】
架橋助剤は、上記エチレン系重合体[I]およびプロピレン系樹脂[II]の合計量100重量部に対して、0.01〜5重量部、好ましくは0.01〜2重量部、さらに好ましくは0.01〜1重量部の割合で用いられる。
【0120】
架橋剤として用いられるイオウ系化合物としては、具体的には、イオウ、塩化イオウ、二塩化イオウ、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、ジメチルジチオカルバミン酸セレンなどが挙げられる。中でも、イオウが好ましく用いられる。
【0121】
イオウ系化合物は、上記エチレン系重合体[I]およびプロピレン系樹脂[II]の合計量100重量部に対して、0.1〜10重量部、好ましくは0.1〜8重量部、さらに好ましくは0.1〜6重量部の割合で用いられる。イオウ系化合物を上記のような割合で用いると、透明性、耐衝撃性および表面硬度のバランスに優れるとともに、耐摩耗性および耐油性に優れた成形体(架橋物)を製造できるプロピレン系樹脂組成物が得られる。
【0122】
架橋剤としてイオウ系化合物を使用するときは、加硫促進剤を併用することが好ましい。
このような加硫促進剤としては、具体的には、N-シクロヘキシル-2- ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N-オキシジエチレン-2- ベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N-ジイソプロピル-2- ベンゾチアゾールスルフェンアミド、2- メルカプトベンゾチアゾール、2-(2,4-ジニトロフェニル)メルカプトベンゾチアゾール、2-(2,6-ジエチル-4- モルホリノチオ)ベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド等のチアゾール系化合物;
ジフェニルグアニジン、トリフェニルグアニジン、ジオルソニトリルグアニジン、オルソニトリルバイグアナイド、ジフェニルグアニジンフタレート等のグアニジン化合物;
アセトアルデヒド−アニリン反応物、ブチルアルデヒド−アニリン縮合物、ヘキサメチレンテトラミン、アセトアルデヒドアンモニア等のアルデヒドアミンまたはアルデヒド−アンモニア系化合物;
2-メルカプトイミダゾリン等のイミダゾリン系化合物;
チオカルバニリド、ジエチルチオユリア、ジブチルチオユリア、トリメチルチオユリア、ジオルソトリルチオユリア等のチオユリア系化合物;
テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等のチウラム系化合物;
ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジ-n- ブチルジチオカルバミン酸亜鉛、エチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ブチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸セレン、ジメチルジチオカルバミン酸テルル等のジチオ酸塩系化合物;
ジブチルキサントゲン酸亜鉛等のザンテート系化合物;
亜鉛華などを挙げることができる。
【0123】
これらの加硫促進剤は、上記エチレン系重合体[I]およびプロピレン系樹脂[II]の合計量100重量部に対して、0.1〜20重量部、好ましくは0.1〜10重量部の割合で用いられる。
【0124】
その他の成分
本発明のプロピレン系樹脂組成物には、必要に応じて、無機充填剤、有機充填剤、核剤、耐候安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、スリップ防止剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、顔料、染料、可塑剤、軟化剤、老化防止剤、塩酸吸収剤、酸化防止剤等の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。また、本発明の目的から逸脱しない限りにおいて他の合成樹脂を少量ブレンドすることができる。
【0125】
[無機充填材および有機充填剤]
無機充填剤として、具体的には、微粉末タルク、カオリナイト、焼成クレー、バイロフィライト、セリサイト、ウォラスナイト等の天然珪酸または珪酸塩、沈降性炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物、酸化亜鉛、亜鉛華、酸化マグネシウム等の酸化物、含水珪酸カルシウム、含水珪酸アルミニウム、含水珪酸、無水珪酸等の合成珪酸または珪酸塩などの粉末状充填剤;
マイカなどのフレーク状充填剤;
塩基性硫酸マグネシウムウィスカー、チタン酸カルシウムウィスカー、ホウ酸アルミニウムウィスカー、セピオライト、PMF(Processed Mineral Fiber)、ゾノトライト、チタン酸カリ、エレスタダイトなどの繊維状充填剤;
ガラスバルン、フライアッシュバルンなどのバルン状充填剤などを用いることができる。
【0126】
本発明では、これらのうちでもタルクが好ましく用いられ、特に平均粒径0.01〜10μmの微粉末タルクが好ましく用いられる。
なお、タルクの平均粒径は、液相沈降方法によって測定することができる。
【0127】
また、本発明で用いられる無機充填材特にタルクは、無処理であってもよいし、予め表面処理されていてもよい。この表面処理の例としては、具体的には、シランカップリング剤、高級脂肪酸、脂肪酸金属塩、不飽和有機酸、有機チタネート、樹脂酸、ポリエチレングリコールなどの処理剤を用いる化学的または物理的処理が挙げられる。このような表面処理が施されたタルクを用いると、ウェルド強度、塗装性、成形加工性にも優れたプロピレン系樹脂組成物を得ることができる。
【0128】
上記のような無機充填剤は、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。
また、本発明では、このような無機充填剤とともに、ハイスチレン類、リグニン、再ゴムなどの有機充填剤を用いることもできる。
【0129】
プロピレン系樹脂組成物の調製
本発明に係るプロピレン系樹脂組成物は、従来公知の任意の方法を採用して調製することができる。
【0130】
たとえば本発明に係る非架橋タイプのプロピレン系樹脂組成物は、エチレン系重合体[I]、プロピレン系樹脂[II]、および必要に応じて上記無機充填剤等の添加剤を、押出機、二軸混練機、ニーダー、バンバリーミキサー、ロール等の混練装置を用いて溶融混練することにより調製することができる。
【0131】
本発明に係る架橋タイプのプロピレン系樹脂組成物は、エチレン系重合体[I]、プロピレン系樹脂[II]、架橋剤、および必要に応じて上記架橋助剤、加硫促進剤、無機充填剤等の添加剤を、押出機、ニーダー等を用い、通常100〜250℃、好ましくは150〜250℃で溶融混練することにより得ることができる。
【0132】
また、本発明に係る架橋タイプのプロピレン系樹脂組成物は、エチレン系重合体[I]、プロピレン系樹脂[II]、および必要に応じて架橋剤、架橋助剤、加硫促進剤、上記無機充填剤等の添加剤を、押出機を用いて溶融混練し、造粒して得られたペレットに、0.1〜10MeV、好ましくは0.3〜2MeVのエネルギーを有する電子を、吸収線量が0.1〜50Mrad、好ましくは1〜30Mradになるように照射して得ることもできる。
【0133】
本発明に係るプロピレン系樹脂組成物は、通常、上記成分を押出機などの混練装置で混練した後、混練物をペレット状に成形して使用される。
プロピレン系樹脂組成物の調製に際して、上記各成分を混練装置に添加する順序は限定されず、同時でもよく別々でもよい。
【0134】
成形体
本発明に係る成形体には、非架橋タイプの成形体と架橋タイプの成形体がある。これらの成形体は、それぞれ従来公知の方法を用いて製造することができる。
【0135】
【発明の効果】
本発明に係るプロピレン系樹脂組成物は、プロピレン系樹脂に、特定のエチレン系重合体を特定の割合で配合しているので、透明性、耐衝撃性および表面硬度のバランスに優れた成形体を提供することができる。中でも、本発明に係る架橋タイプのプロピレン系樹脂組成物は、透明性、耐衝撃性および表面硬度のバランスに優れるだけでなく、耐摩耗性および耐油性にも優れる成形体を提供することができる。
【0136】
本発明に係る成形体は、上記のような諸特性に優れている。
【0137】
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、これらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0138】
なお、実施例等におけるヘイズ、アイゾット衝撃強度(IZ)、ロックウェル硬度(HR)、スプリング硬さ、耐油性および耐摩耗性の試験は、下記の方法に従って行なった。
【0139】
(1)ヘイズ
[シートの作製]
プレス板上に、厚さ0.1mmのアルミシート、ポリエチレンテレフタレート(PET)シート、および中央を15cm×15cm角に切り取った厚さ1mmのアルミシートをこの順に敷き、この中央(切り抜かれた部分)に22gの試料(ポリマー)を置いた。次いで、PETシート、アルミ製の板、プレス板をこの順にさらに重ねる。
【0140】
次いで、上記プレス板で挟まれた試料を200℃のホットプレスの中に入れ、約7分間の予熱を行なった後、試料内の気泡を取り除くため、加圧(50kg/cm2-G)脱圧操作を数回繰り返す。次いで、最後に100kg/cm2 -G に昇圧し、2分間加圧加熱する。脱圧後プレス板をプレス機から取り出し、0℃に圧着部が保たれた別のプレス機に移し100kg/cm2 -G で4分間加圧冷却を行なった後、脱圧し、試料を取り出す。このようにして1mmの均一な厚さのシートを得た。
【0141】
[ヘイズの測定]
上記のようにして得られた厚さ1mmのプレスシートについて、日本電色工業(株)製のデジタル濁度計「NDH−20D」にてヘイズ[%]を測定した。
【0142】
(2)アイゾット衝撃強度(IZ)
アイゾット衝撃強度(IZ)は、ASTM D 256に準拠して、厚さ1/4インチの試験片(後ノッチ)を用いて、23℃で測定した。
【0143】
(3)ロックウェル硬度(HR)
ロックウェル硬度(HR)は、ASTM D 785に準拠して、厚さ2mm×縦120mm×横130mmの角板を用いて測定した。
【0144】
(4)スプリング硬さ
スプリング硬さは、JIS K 6301に記載のJIS Aタイプ法で測定した。
【0145】
(5)耐油性
JIS K 6258に準拠して、50℃で336時間、JIS 3号油に浸漬した後の体積変化率ΔVを測定し、この体積変化率ΔVを耐油性の指標とした。
【0146】
(6)耐摩耗性
JIS K 7204に準拠して、摩耗輪CS−17、荷重1000g、60rpm、1000回転の条件で摩耗量を測定し、この摩耗量を耐摩耗性の指標とした。
【0147】
また、実施例、比較例におけるオレフィン重合体の融点(Tm)、極限粘度[η]およびMw/Mnは、下記の方法ないし条件で測定した。
(1)融点(Tm)
DSCの吸熱曲線を求め、最大ピーク位置の温度をTmとする。
【0148】
示差走査熱量計(DSC)を用いて、試料をアルミパンに詰め、100℃/分で200℃まで昇温し、200℃で5分間保持した後、10℃/分で−150℃まで降温し、次いで10℃/分で昇温する際の吸熱曲線より求めた。
(2)極限粘度[η]
極限粘度[η]は、135℃デカリン中で測定した。
(3)Mw/Mn
Mw/Mnは、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用い、オルトジクロロベンゼン溶媒で、140℃で測定した。
【0149】
【製造例1】
[ジルコニウム化合物Aとメチルアルモキサンとの予備接触、触媒溶液の調製]所定量のジルコニウム化合物A(rac- ジメチルシリレン- ビス(2,7-ジメチル-4- フェニル-1- インデニル)ジルコニウムジクロライド)と、メチルアルモキサンのトルエン溶液(アルミニウム原子に換算して1.2ミリグラム原子/ml)とを、暗所において室温下で、30分間撹拌することにより混合して、ジルコニウム化合物Aとメチルアルモキサンとが溶解されたトルエン溶液を調製した。
【0150】
このトルエン溶液のZr濃度は0.004ミリモル/mlであり、メチルアルモキサン濃度は、アルミニウム原子に換算して1.2ミリグラム原子/mlである。
【0151】
次いで、このトルエン溶液に、トルエンに対して5倍の容積のヘキサンを撹拌下に添加して、下記のようなZr濃度およびメチルアルモキサン濃度の触媒溶液を調製して、これを重合反応用触媒として用いた。
【0152】
Zr濃度:0.00067ミリモル/ml(0.67ミリモル/リットル)
メチルアルモキサン濃度(Al原子に換算して):0.20ミリモル/ml(200ミリモル/リットル)
[重 合]
撹拌翼を備えた15リットル容量のステンレス製重合器を用いて、連続的にエチレンと、1-ブテンと、5-エチリデン-2- ノルボルネンとを下記のようにして共重合させた。
【0153】
まず、重合器上部から重合器内に、脱水精製したヘキサンを毎時3.185リットル、上記で得られた触媒溶液を毎時0.015リットル、トリイソブチアルミニウムのヘキサン溶液(濃度17ミリモル/リットル)を毎時0.3リットル、5-エチリデン-2- ノルボルネン(以下、ENBともいう)のヘキサン溶液(濃度0.15リットル/リットル)を毎時1.5リットル、それぞれ連続的に供給した。
【0154】
また、重合器上部から、エチレンを毎時150リットル、1-ブテンを毎時280リットル、それぞれ連続的に供給した。
共重合反応は、90℃で、かつ平均滞留時間が1時間(すなわち重合スケール5リットル)となるように行なった。
【0155】
一方、重合器下部から抜き出した重合溶液に、メタノールを少量添加して、重合反応を停止させ、スチームストリッピング処理にて共重合体を溶媒から分離した後、100℃、減圧(100mmHg)の条件下に、24時間乾燥した。
【0156】
上記のようにして、エチレン・1-ブテン・ENBランダム共重合体が毎時108gの量で得られた。
得られたランダム共重合体は、エチレンから導かれる構成単位と、1-ブテンから導かれる構成単位とを、52/48(モル比)で含有していた。また、エチリデンノルボルネン(ENB)から導かれる単位を2.3モル%の量で含有していた。
【0157】
このランダム共重合体のヨウ素価は、16であり、135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]は、1.9dl/gであった。
【0158】
【製造例2】
[重 合]
撹拌翼を備えた15リットル容量のステンレス製重合器を用いて、連続的にエチレンと、1-オクテンと、ジシクロペンタジエンとを下記のようにして共重合させた。
【0159】
まず、重合器上部から重合器内に、脱水精製したヘキサンを毎時3.185リットル、製造例1と使用した触媒溶液と同じ触媒溶液を毎時0.015リットル、トリイソブチアルミニウムのヘキサン溶液(濃度17ミリモル/リットル)を毎時0.3リットル、ジシクロペンタジエン(以下、DCPDともいう)のヘキサン溶液(濃度0.15リットル/リットル)を毎時1.5リットル、それぞれ連続的に供給した。
【0160】
また、重合器上部から、エチレンを毎時200リットル、1-オクテンを毎時4.5リットル、それぞれ連続的に供給した。
共重合反応は、90℃で、かつ平均滞留時間が1時間(すなわち重合スケール5リットル)となるように行なった。
【0161】
一方、重合器下部から抜き出した重合溶液に、メタノールを少量添加して、重合反応を停止させ、スチームストリッピング処理にて共重合体を溶媒から分離した後、100℃、減圧(100mmHg)の条件下に、24時間乾燥した。
【0162】
上記のようにして、エチレン・1-オクテン・DCPDランダム共重合体が毎時80gの量で得られた。
得られたランダム共重合体は、エチレンから導かれる構成単位と、1-オクテンから導かれる構成単位とを、62/38(モル比)で含有していた。また、ジシクロペンタジエン(DCPD)から導かれる構成単位を2.5モル%の量で含有していた。
【0163】
このランダム共重合体のヨウ素価は、16であり、135℃デカリン中で測定した極限粘度[η]は、1.8dl/gであった。
【0164】
【実施例1】
(株)グランドポリマー製ホモポリプロピレン(商品名 グランドポリプロ;J105)75重量部と、製造例1で得られたエチレン・1-ブテン・5-エチリデン-2- ノルボルネンランダム共重合体(エチレン/1-ブテン(モル比)=52/48、5-エチリデン-2- ノルボルネン含量=2.3モル%、ヨウ素価=16、Mw/Mn=2.1、極限粘度[η]=1.9dl/g、Tg=−60.1℃;以下、EB−ENBと略す場合がある))25重量部とをヘンシェルミキサーで混合し、ペレタイザー付き押出機を用い、200℃で溶融混練し、造粒して非架橋タイプのプロピレン系樹脂組成物のペレットを得た。
【0165】
得られたプロピレン系樹脂組成物のペレットを用い、ヘイズ、ロックウェル硬度(HR)およびアイゾット衝撃強度(IZ)について、上記方法に従って試験を行なった。その結果、この組成物のヘイズは22%であり、ロックウェル硬度(HR)は55であり、アイゾット衝撃強度(IZ)については試験片は破壊しなかった。
【0166】
【実施例2】
実施例1において、製造例1で得られたEB−ENBの代わりに、製造例2で得られたエチレン・1-オクテン・ジシクロペンタジエンランダム共重合体(エチレン/1-オクテン(モル比)=62/38、ジシクロペンタジエン含量=2.5モル%、ヨウ素価=16,Mw/Mn=2.0、極限粘度[η]=1.8dl/g、Tg=−72℃;以下、EO−DCPDと略す場合がある)を用いた以外は、実施例1と同様にして、非架橋タイプのプロピレン系樹脂組成物のペレットを得た。
【0167】
得られたプロピレン系樹脂組成物のペレットを用い、ヘイズ、ロックウェル硬度(HR)およびアイゾット衝撃強度(IZ)について、上記方法に従って試験を行なった。その結果、この組成物のヘイズは28%であり、ロックウェル硬度(HR)は60であり、アイゾット衝撃強度(IZ)については試験片は破壊しなかった。
【0168】
【実施例3】
(株)グランドポリマー製ホモポリプロピレン(商品名 グランドポリプロ;J105)30重量部と、製造例1で得られたEB−ENB70重量部とを、ヘンシェルミキサーで混合し、ペレタイザー付き押出機を用い、200℃で溶融混練し、造粒してプロピレン系樹脂組成物のペレットを得た。
【0169】
次いで、タンブラーブレンダーに、このプロピレン系樹脂組成物のペレット100重量部と、架橋剤としてパーヘキシン25B(商品名;日本油脂(株)製の有機過酸化物)を0.2重量部、架橋助剤としてジビニルベンゼン(DVB)を0.3重量部添加し、ペレット表面に架橋剤と架橋助剤を均一に付着させた。
【0170】
次いで、ペレタイザー付き押出機を用い、このペレットを再び210℃で溶融混練し、造粒して架橋タイプのプロピレン系樹脂組成物のペレットを得た。
得られたプロピレン系樹脂組成物のペレットを用い、ヘイズ、アイゾット衝撃強度(IZ)、スプリング硬さ、耐油性(ΔV)および耐摩耗性(摩耗量)について、上記方法に従って試験を行なった。その結果、この組成物のヘイズは21%であり、アイゾット衝撃強度は破壊せずであり、スプリング硬さは75であり、ΔVは110%、摩耗量は5mgであった。
【0171】
【実施例4】
実施例3において、製造例1で得られたEB−ENBの代わりに、製造例2で得られたEO−DCPDを用いた以外は、実施例3と同様にして、架橋タイプのプロピレン系樹脂組成物のペレットを得た。
【0172】
得られたプロピレン系樹脂組成物のペレットを用い、ヘイズ、アイゾット衝撃強度(IZ)、スプリング硬さ、耐油性(ΔV)および耐摩耗性(摩耗量)について、上記方法に従って試験を行なった。その結果、この組成物のヘイズは18%であり、アイゾット衝撃強度(IZ)は破壊せずであり、スプリング硬さは78であり、ΔVは100%であり、摩耗量は5mgであった。
【0173】
【比較例1】
実施例1において、製造例1で得られたEB−ENBの代わりに、エチレン・1-ブテンランダム共重合体(エチレン/1-ブテン(モル比)=53/47、極限粘度[η]=2.9dl/g、Mw/Mn=2.1)を用いた以外は、実施例1と同様にして、非架橋タイプのプロピレン系樹脂組成物のペレットを得た。
【0174】
得られたプロピレン系樹脂組成物のペレットを用い、ヘイズ、ロックウェル硬度(HR)およびアイゾット衝撃強度(IZ)について、上記方法に従って試験を行なった。その結果、この組成物のヘイズは30%であり、ロックウェル硬度(HR)は50であり、アイゾット衝撃強度は400J/mであった。
【0175】
【比較例2】
実施例3において、製造例1で得られたEB−ENBの代わりに、エチレン・1-ブテンランダム共重合体(エチレン/1-ブテン(モル比)=53/47、極限粘度[η]=2.9dl/g、Mw/Mn=2.1)を用いた以外は、実施例3と同様にして、架橋タイプのプロピレン系樹脂組成物のペレットを得た。
【0176】
得られたプロピレン系樹脂組成物のペレットを用い、ヘイズ、アイゾット衝撃強度(IZ)、スプリング硬さ、耐油性(ΔV)および耐摩耗性(摩耗量)について、上記方法に従って試験を行なった。その結果、この組成物のヘイズは23%であり、アイゾット衝撃強度(IZ)は破壊せずであり、スプリング硬さは55であり、ΔVは290%であり、摩耗量は10mgであった。
【0177】
【表1】
【0178】
【表2】
Claims (9)
- [I]エチレンと、1種以上の炭素原子数4〜20のα- オレフィンと、ジエンおよび/またはトリエンとからなり、135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.01〜10dl/gの範囲にあり、GPCにより測定した分子量分布(Mw/Mn)が4以下であり、エチレン含量が40〜65モル%であり、ジエンおよび/またはトリエンの総含量が0.1〜10モル%であり、かつ、DSC法により結晶融解ピークが観測されないエチレン系重合体:1〜90重量部と、[II]プロピレン系樹脂:99〜10重量部(成分[I]と[II]の合計量は100重量部とする)とを含有してなることを特徴とするプロピレン系樹脂組成物。
- 前記エチレン系重合体[I]を構成する炭素原子数4〜20のα- オレフィンの少なくとも1種が、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1- ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセンおよび1-エイコセンからなる群から選ばれることを特徴とする請求項1に記載のプロピレン系樹脂組成物。
- 前記エチレン系重合体[I]を構成するジエンが、ジシクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、シクロオクタジエン、1,6-オクタジエン、7-メチル-1,6- オクタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ブタジエンおよびイソプレンからなる群から選ばれる少なくとも1種のジエンであることを特徴とする請求項1に記載のプロピレン系樹脂組成物。
- 前記エチレン系重合体[I]を構成するトリエンが、4-エチリデン-8- メチル-1,7- ノナジエン、4-エチリデン-1,7- ウンデカジエンおよび4,8-ジメチル-1,4,8- デカトリエンからなる群から選ばれる少なくとも1種のトリエンであることを特徴とする請求項1に記載のプロピレン系樹脂組成物。
- 前記エチレン系共重合体(A)が、下式(I)または(II)で表わされる遷移金属錯体(a)と、イオン化イオン性化合物(b)、有機アルミニウム化合物(c)およびアルモキサン(d)の中から選択される1種以上の化合物とからなるメタロセン系触媒を用いて調製された共重合体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のプロピレン系樹脂組成物;
Cp1およびCp2は、Mとπ結合しているシクロペンタジエニル基、インデニル基、フルオレニル基またはそれらの誘導体基であり、
X1 およびX2 は、アニオン性配位子または中性ルイス塩基配位子であり、
Yは、窒素原子、酸素原子、リン原子、または硫黄原子を含有する配位子であり、
Zは、C、O、B、S、Ge、SiまたはSn原子あるいはこれらの原子を含有する基である。]。 - 前記プロピレン系樹脂[II]の64℃n-デカン不溶部の立体規則性指標[M5 ]が0.970〜0.995であることを特徴とする請求項1に記載のプロピレン系樹脂組成物。
- 前記プロピレン系樹脂組成物が架橋剤の存在下に加熱され、前記エチレン系重合体[I]が架橋していることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のプロピレン系樹脂組成物。
- 前記プロピレン系樹脂組成物が架橋剤の存在下もしくは非存在下に電子線照射され、前記エチレン系重合体[I]が架橋していることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のプロピレン系樹脂組成物。
- 請求項1〜8のいずれかに記載のプロピレン系樹脂組成物からなることを特徴とする成形体。
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