JP3898387B2 - 高剛性鋼 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高いヤング率を有する高剛性鋼に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、構造用金属材料としては、鋼や鉄系合金が広く利用されている。これらの金属材料は、その使用目的に応じて、強度、延性、靱性等の機械的性質が付与されている。この機械的性質の付与は、合金元素の添加や熱処理などを施すことにより、極めて多様な組織変化を生じさせることでなされている。
【0003】
このような構造用金属材料を用いた実部品において、その性能を左右する材料特性のひとつに、剛性がある。この剛性を表す指標として、ヤング率(縦弾性係数)をあげることができる。
【0004】
金属材料のヤング率は、金属材料を構成する原子間の結合力を反映する物性値である。このため、鋼や鉄系合金においては、上記の多様な組織変化にもかかわらず、ヤング率は190〜210GPa程度の固有な値であり、このヤング率を大幅に向上させることは困難である。
【0005】
このような実状において、鋼や鉄系合金のヤング率を向上させる手段としては、高ヤング率の化合物相をFe基マトリックスに分散させ、複合化させることが唯一の現実的な手段であった。
【0006】
剛性を向上させた高剛性鉄基合金については、たとえば、特開平7−188874号公報に開示されている。この高剛性鉄基合金は、鉄または鉄系合金からなるマトリックスに、4A族元素を主体とするホウ化物の少なくとも1種以上を分散させた鉄基合金である。さらに、この高剛性鉄基合金の製造方法も開示されている。
【0007】
しかしながら、特開平7−188874号に記載の高剛性鉄基合金は、ホウ化物の複合化により高ヤング率が得られるが、ホウ素がホウ化物の化学量論比より過剰になると、過剰なホウ素は鉄または鉄基合金のマトリックス中にほとんど固溶できないため、マトリックスの鉄あるいは鉄基合金成分と結合して、鉄ホウ化物や鉄−合金成分−ホウ素の複合ホウ化物を形成する。また一方、4A族元素が大幅に過剰になると、同様にマトリックスの鉄あるいは鉄基合金成分と結合して、ラーベス相等の金属間化合物を形成する。ここで、鉄ホウ化物、複合ホウ化物相およびラーベス相は、原子間の結合力が4A族元素のホウ化物ほど高くないため、マトリックス中に鉄ホウ化物やラーベス相を一定以上の割合で有するとヤング率が低下するとともに、マトリックスが著しく硬化・脆化して実部品に適用しうる鋼としての特性を失うという問題があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、高いヤング率を有する高剛性鋼およびその製造方法を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明者等は、マトリックスに分散される4A族元素のホウ化物とともに、他のホウ素を含む化合物ならびに4A族元素を含む金属間化合物の量を調整することで上記課題を解決できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明の高剛性鋼は、鉄または鉄合金よりなるマトリックスと、マトリックス中に分散保持された4A族元素のホウ化物と、からなる高剛性鋼であって、全体を100体積%とした場合、4A族元素のホウ化物は5〜65体積%を占め、かつ4A族元素のホウ化物の全体積を100とした場合、16以下のマトリックスの鉄あるいは鉄合金成分と結合して形成された鉄ホウ化物、合金成分−ホウ素の化合物、鉄−合金成分−ホウ素の複合ホウ化物、鉄−4A族元素、合金元素(成分)−4A族元素の金属間化合物の少なくとも1種を含み、4A族元素とホウ素との配合比率が原子比で0.603〜0.80となるように調整された原料から製造されてなることを特徴とする。
【0011】
本発明の高剛性鋼は、高ヤング率の4A族元素のホウ化物を鉄系のマトリックスに分散させることで鉄系合金に剛性を付与し、同時に4A族元素のホウ化物以外のホウ化物および4A族元素を含む金属間化合物の量を制御することで、鋼としての特性である靱性、延性を保ちながら、その剛性を向上させている。
【0015】
【発明の実施の形態】
(高剛性鋼)
本発明の高剛性鋼は、鉄または鉄合金よりなるマトリックスと、マトリックス中に分散保持された4A族元素のホウ化物と、からなる高剛性鋼である。
【0016】
本発明の高剛性鋼は、4A族元素のホウ化物をマトリックスに分散させることで、剛性を向上させている。すなわち、マトリックスに高ヤング率の粒子を分散させることで、鋼のヤング率を高くしている。
【0017】
4A族元素のホウ化物は、規則的に4A族元素とホウ素が配置された結晶構造を有し、共有性結合によって構成原子が強固に結合している。このため、構成原子の結合力が反映されるヤング率が高くなっている。また、4A族元素のホウ化物は、鉄合金中で熱力学的に極めて安定であるため、異種元素の侵入・置換、あるいは他の複合化合物の形成など、マトリックスとの間に反応に起因する結晶学的および冶金学的な変化を生じない。
【0018】
本発明の高剛性鋼は、全体を100体積%とした場合、4A族元素のホウ化物が5〜65体積%を占める。すなわち、4A族元素のホウ化物を5〜65体積%とすることで、剛性を向上させる。ここで、4A族元素のホウ化物が、5体積%未満では高剛性化の効果が得られず、65体積%を超えるとホウ化物どうしの凝集や、合体が生じ、鋼の機械的特性が低下するようになる。
【0019】
本発明の高剛性鋼は、4A族元素のホウ化物の全体積を100とした場合、16以下のマトリックスの鉄あるいは鉄合金成分と結合して形成された鉄ホウ化物、合金成分−ホウ素の化合物、鉄−合金成分−ホウ素の複合ホウ化物、鉄−4A族元素、合金元素(成分)−4A族元素の金属間化合物の少なくとも1種を含む。4A族元素のホウ化物以外のホウ素を含む化合物とは、たとえば、鉄のホウ化物や、請求項2〜5に記載の合金元素が添加された場合には、鉄とこれらの合金元素との複ホウ化物等をいう。また、金属間化合物とは、たとえば、鉄と4A族元素との金属間化合物であるFe2M(ラーベス相)等や、請求項2〜5に記載の合金元素が添加された場合には、これらの合金元素と4A族元素との金属間化合物等をいう。
【0020】
マトリックスの鉄あるいは鉄合金成分と結合して形成された鉄ホウ化物、合金成分−ホウ素の化合物、鉄−合金成分−ホウ素の複合ホウ化物、鉄−4A族元素、合金元素(成分)−4A族元素の金属間化合物が、マトリックスに16体積%を超えて析出すると、高剛性鋼中での4A族元素のホウ化物量が相対的に減少し、鉄系合金のヤング率の向上の効果が低下するとともに、マトリックスが著しく硬化・脆化して実部品に適用しうる鋼としての特性を失うという問題があった。
【0021】
4A族元素のホウ化物は、4A族元素である、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)のホウ化物の一種以上が用いられる。ホウ化物は、単体としてのヤング率が少なくとも25000kgf/mm2以上であれば、その分散により高剛性化の確かな効果が得られる。中でも、MB2(M:4A族元素)で示される4A族元素の二ホウ化物が、特に高いヤング率を有するため、好ましい。
【0022】
本発明の高剛性鋼は、マトリックス中で4A族元素のホウ化物の粒径が100μm以下となっていることが好ましい。4A族元素のホウ化物の粒径が100μm以下となることで、実用レベルの機械的性質を高剛性鋼にもたらすことができる。より好ましい粒径は、20μm以下である。
【0023】
マトリックスは、鉄または鉄合金よりなる。すなわち、純鉄あるいは鉄系合金をマトリックスとして用いることができる。また、鉄合金としては、フェライト系、オーステナイト系、あるいはマルテンサイト系など、広範囲な鉄合金を用いることができる。
【0024】
マトリックスは、マトリックス全体を100重量%とした場合、V、Crの1種以上を、その合計が25.0重量%以下含むことが好ましい。これらの元素はマトリックスの二つの基本結晶構造のうち、より高ヤング率なBCC構造のフェライトを安定化し、本高剛性鋼においてさらなる高ヤング率化を促進する。これらの元素が25.0重量%を超えると鉄との脆性化合物として有名なシグマ相が析出し、マトリックスを著しく脆化させる。
【0025】
マトリックスは、マトリックス全体を100重量%とした場合、Ni、Coの1種以上を、その合計が25.0重量%以下含むことが好ましい。これらの元素をマトリックスに含むことで、マトリックスにFCC構造のオーステナイトを導入し、フェライトのみのマトリックスに比べ、破壊靱性を向上させる。これらの元素が25.0重量%を超えるとオーステナイト主体のマトリックスとなり、フェライト主体のマトリックスに対し、ヤング率が大幅に低下する。
【0026】
マトリックスは、マトリックス全体を100重量%とした場合、Cuを10.0重量%以下含むことが好ましい。ここで、Cuをマトリックスが含むという状態は、マトリックスがCuを固溶している状態、およびε−Cu相として析出している状態の両方を示す。マトリックスがCuを含むことで、鋼の強度が向上するが、特にCuが超微細整合析出をした場合、鋼が著しく高強度化される。ここで、Cuが10.0重量%を超えるとマトリックスのヤング率が低下するとともに、熱間加工時に液相割れなどを起こしやすくなり、実用上の問題が生じるようになる。Cuは、0.2重量%以上であることがより好ましい。Cuが0.2重量%以上で、マトリックスの強度の向上の効果が実用上において、十分となる。
【0027】
マトリックスは、マトリックス全体を100重量%とした場合、Mo、Nb、Ta、W、Hfの1種以上の元素を、その合計が10.0重量%以下含むことが好ましい。これらの元素は、マトリックス中において、固溶もしくは析出状態で、マトリックスの強度を向上させ、得られる高剛性鋼の強度を向上させる。ここで、これらの元素量が10.0重量%を超えるとフェライト相を著しく硬化させるとともに、多量の析出物が生じ、マトリックスを著しく脆化させる。
【0028】
マトリックスは、マトリックス全体を100重量%とした場合、Cを0.5重量%以下含むことが好ましい。Cを0.5重量%以下にすることで、マトリックスに分散される4A族元素のホウ化物の熱力学的安定性が保たれるようになる。すなわち、高温においても、ホウ化物の4A族元素とCにより、炭化物や炭ホウ化物が形成されることが抑制される。このため4A族元素のホウ化物による高ヤング率化の効果を最大限に引き出す。ここで、Cが0.5重量%を超えると、上記炭化物や炭ホウ化物が多量に形成され、高剛性鋼の破壊脆性を著しく低下させるので、実用上好ましくなくなる。
【0029】
本発明の高剛性鋼は、上記した組成および構成をもつものであればよく、その製造方法によって、限定されるものではない。
【0030】
本発明の高剛性鋼は、次の方法によって確実に製造することができる。すなわち、本発明の高剛性鋼は、原料混合工程と、成形工程と、焼結工程と、を施してなることが好ましい。すなわち、調整された粉末原料を所定の形状に成形した後に、焼結させることで製造できる。
【0031】
原料混合工程は、4A族元素のホウ化物原料粉末と、マトリックス原料粉末とを、混合する工程である。
【0032】
4A族元素のホウ化物原料粉末は、4A族元素のホウ化物そのものの粉末、および/または4A族元素粉末、ホウ素粉末、4A族元素を含有した4A族元素原料粉末、ホウ素を含有したホウ素含有粉末、を焼結したときに4A族元素のホウ化物を形成可能に組み合わせてなる粉末である。すなわち、本発明の高剛性鋼は、4A族元素のホウ化物があらかじめ形成された原料粉末を配合するか、あるいは/および4A族元素粉末とホウ素原料粉末とを混合してその後の焼結工程において両元素の反応により生成させることでマトリックスに分散させる。
【0033】
ホウ化物原料粉末は、4A族元素とボロンとの配合比率が原子比で0.603〜0.80に調整されている。4A族元素とボロンとの配合比率を原子比で0.603〜0.80に調整することで、4A族元素のホウ化物以外のホウ素を含む化合物であるホウ化鉄や、4A族元素を含む金属間化合物相を形成することを抑制することができる。
【0034】
ホウ化物原料粉末は、それぞれ公知の方法により調整されたものや市販の粉末を用いることができる。また、ホウ化物原料粉末として4A族元素のホウ化物粉末を用いる場合は、その平均粒径が数μm以下の粉末を用いることが好ましい。このため、粒径が大きな粉末の場合には、ボールミル、振動ミル、アトライタ等の装置により粉砕しておくことが好ましい。
【0035】
マトリックス原料粉末は、鉄または鉄合金から選択される1種以上の粉末である。また、このマトリックス原料粉末は、市販のもの、あるいは公知の方法により作成されたものなど、いずれの鉄粉末あるいは鉄合金粉末を用いてもよい。たとえば、アトマイズ法により作製された市販の純鉄粉、ステンレス粉末等の粉末をそのまま用いることができる。
【0036】
マトリックス原料粉末は、たとえば平均粒径が180μm以下の普通粒度のものを用いることができる。より好ましくは、平均粒径が45μm以下の粉末である。すなわち、平均粒径を45μm以下とすることで焼結体の緻密化が促進されること、4A族元素のホウ化物粉末を用いる場合にその分散を容易に均一化出来るようになる。また、このことは、マトリックス原料粉末の粒径が、45μmより大きな粉末の使用を排除するものではない。
【0037】
原料混合工程は、4A族元素のホウ化物原料粉末とマトリックス原料粉末とを均一に混合させる工程である。また、本発明においては、特殊な混合方法や、前処理を行わなくてもよいため、通常の粉末の混合方法に用いられる粉末の混粉装置を採用することができる。たとえば、V型、ダブルコーン型等の混粉機、ボールミル、あるいは振動ミルをあげることができる。ここで、ホウ化物原料粉末に4A族元素のホウ化物粉末を用いた場合において、該粉末が二次粒子等を形成している場合には、アトライタ等の高エネルギーミルにより不活性ガス雰囲気中で粉砕処理することが好ましい。
また、原料混合工程は、4A族元素の鉄化合物よりなる粉末と、ホウ素の鉄化合物よりなる粉末と、を4A族元素とホウ素との配合比率が原子比で0.45〜0.80となるように調整し、混合する工程である。
【0038】
成形工程は、原料粉末混合工程において混合された混合粉末を所定の形状に圧粉成形する工程である。この成形工程における成形方法は、所望の形状に成形できる成形方法であれば、いずれの成形方法を用いてもよい。たとえば、金型成形、CIP成形等をあげることができる。
【0039】
また、成形工程における成形圧力は、2ton/cm2以上が好ましい。すなわち、2ton/cm2以上で成形することで、得られる成形体を焼結させたときの緻密化が十分に行われる。
【0040】
焼結工程は、成形工程により得られた成形体を焼結して焼結体を形成する工程である。
【0041】
焼結は、真空中、不活性ガス雰囲気、あるいは還元性ガス雰囲気中でなされることが好ましい。すなわち、焼結は、マトリックスの鉄系合金が反応(酸化)しない雰囲気下でなされる。
【0042】
焼結は、1100〜1300℃の温度範囲に加熱されることが好ましい。加熱温度が1100℃未満では、焼結体の密度が十分に向上せず、1300℃を超えるとホウ化物の種類によっては、多量の液相を生じ、焼結体の形状が維持できなくなる。また、加熱時間は、0.5〜4時間であることが好ましい。加熱時間が0.5時間未満では焼結体の密度が十分に向上せず、4時間を超えるとさらなる緻密化等の得られる効果に対して、作業工数や加熱に要するエネルギーのロスが大きくなるためである。
【0043】
また、本発明の高剛性鋼は、4A族元素の純金属あるいは4A族元素の鉄化合物と、ホウ素の鉄化合物とを、4A族元素とボロンとの配合比率が原子比で0.603〜0.80となるように配合し、これに、マトリックス組成を得るための鉄あるいは鉄合金原料を加えて、すべての原料を真空中あるいは不活性ガス雰囲気中で完全に溶融させた後、金型あるいはセラミックス型へ鋳造して鋼塊を製造してなることが好ましい。ここで、4A族元素を含有する合金原料としては、たとえば、フェロチタン、フェロジルコニウムをあげることができ、ボロンを含有する合金原料には、たとえば、フェロボロンをあげることができる。また、溶融設備としては、セラミックス製るつぼを用いた高周波誘導真空溶解炉、アルゴンアーク溶解炉、プラズマ溶解炉、水冷銅るつぼを用いた高周波誘導真空溶解炉あるいは高周波誘導浮遊溶解炉など、従来の溶融設備を用いることができる。
【0044】
本発明の高剛性鋼は、焼結工程あるいは溶融、鋳造後に熱間加工を施す熱間加工工程を有することが好ましい。すなわち、たとえば、焼結工程のみでは焼結体の緻密化が不十分で、さらなる緻密化が要求される場合には、焼結体に熱間加工を施すことにより真密度にまで容易に緻密化できる。また、溶融、鋳造により製造された鋼塊の場合には、鋳造時に内部に生成したポロシティを低減できるとともにホウ化物を微細化できるので、強度特性の信頼性が向上する。この熱間加工としては、鍛造、圧延押出し、スエージ等のさまざまな加工方法をあげることができる。
【0045】
熱間加工は、900〜1200℃の範囲で行われることが好ましい。900℃未満となると加工時の変形抵抗が大きく、1200℃を超えると液相を生じるおそれがあるため好ましくない。
【0046】
また、熱間加工工程のかわりに、焼結工程後にHIP(熱間静水圧プレス)処理を施すことで、焼結体を緻密化することもできる。このHIP処理における処理条件としては、900〜1200℃、500〜2000気圧、1〜10時間の範囲内で行うことが好ましい。
【0047】
本発明の高剛性鋼は、通常の粉末冶金技術あるいは溶融、鋳造技術に沿った製造方法で製造できるため、その製造に従来の焼結材あるいは特殊鋼等の製造に用いられた設備を用いることができる。
【0048】
本発明の高剛性鋼は、ターボシャフト等の回転軸、ピストン等の往復運動部品に用いることが好ましい。
【0049】
すなわち、本発明の高剛性鋼を回転軸に用いると、共振周波数が高周波側にシフトするため、より高速回転をさせることができる。具体的には、回転軸を用いた装置においては、共振による過負荷、あるいは破壊の危険を避けるため、共振周波数を大きく下回る速度でしか運転ができなくなっていた。このため、共振周波数が大きくなることは、回転速度を大きくすることができるようになる。
【0050】
また、本発明の高剛性鋼は、高い剛性を有するため、往復運動部品を小型化、薄肉化できる。このように小型化、薄肉化させることで、往復運動部品自身が軽量化される。このため、往復運動の運動速度を引き上げる、あるいは、少ないエネルギーで往復運動を生じさせることができるようになる。
【0051】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。
【0052】
本発明の実施例として、高剛性鋼を作製した。
【0053】
(第一実施例)
第一実施例は、Fe−Cr系合金マトリックスと、このマトリックスに分散された20vol%のTiB2粒子と、を有する高剛性鋼である。具体的には、マトリックスとして、ステンレス鋼(SUS430)粉末とフェロチタン(FeTi)粉末よりなる合金組成に調整されたマトリックスに、20vol%のTiB2粒子が分散されている。
【0054】
ここで、第一実施例は、その組成が試料1のFe−14.6wt%Cr−8.9wt%Ti−4.0wt%Bを基本とし、このマトリックスに20vol%のTiB2粒子が分散されている。具体的には、第一実施例の高剛性鋼は、試料1の組成を基本とし、試料2〜4となるのにしたがって、Ti含有量が増加している合金である。
【0055】
(第一実施例の製造方法)
まず、SUS430粉末(45μm以下)、TiB2粉末(平均粒径4μm)、FeTi粉末(45μm以下)の各粉末を表1に示される重量に秤量した。ここで、SUS430粉末、TiB2粉末およびFeTi粉末は、市販のものが用いられた。
【0056】
【表1】
【0057】
つづいて、これらの粉末をAr雰囲気のアトライタに投入した後に、約15分間混合機を稼働させて均一に混合した。ここで、原料粉末におけるTiとBとの原子比を表1にあわせて示した。
【0058】
均一に混合された原料粉末を成形金型に投入し、4ton/cm2の成形圧力で油圧プレスにより、直径20mm、高さ33mmの円柱状に成形した。
【0059】
得られた円柱状成形体を真空雰囲気下、1250℃で1時間加熱して、焼結させることで、高剛性鋼試料が製造された。
【0060】
(評価)
第一実施例の評価として、各試料に含まれるTiB2、およびその他の化合物の体積率ならびに各試料のヤング率を測定した。この測定結果を図1に示した。
【0061】
測定は、まず、各試料をビレットとし、機械的プレスによる熱間押出しを行い、直径7mmの円柱状試料とした。この押出し材から試料を採取し、抽出残滓法によりTiB2およびその他の化合物量を測定した。
【0062】
また、この押出し材から3×4×30mmの試験片をワイヤーカットにより作製した。作製された試験片は、水晶振動子との共振を利用した複合振動子法を用いて、ヤング率が測定された。
【0063】
図1より、試料1〜4において、化合物種としては、TiB2のほか、クロムと鉄を含有するホウ化物M2B(M=Cr、Fe)や、クロム、鉄とチタンから構成されるラーベス相M2Ti(M=Cr、Fe)が認められた。また、図1より、試料1〜4において、原料中のFeTi粉末量の増加にともない、M2B相が減少し、TiB2相が増加している。また、試料4においては、ラーベス相の発生が見られる。このことは、TiB2はチタン、ホウ素で構成されるが、いずれの元素も鉄や鉄合金には固溶しにくいため、TiB2の化学量論比に対して過不足があれば、TiB2以外の化合物種を形成すると解釈される。
【0064】
また、図1にあわせて示された各試料のヤング率から、TiB2粒子による高ヤング率化の効果が同等に認められる。具体的には、本実施例の試料2〜4のヤング率は260〜270GPaにまで向上している。一般的な鉄、鋼等の鉄合金のヤング率は最大で210GPa程度であるので、本実施例の試料は、M2BやM2Tiなど、意図しない化合物種を含有するにもかかわらず、TiB2粒子による高ヤング率化の効果が十分に保たれている。
【0065】
(第一参考例)
第一参考例は、Fe系合金マトリックスと、このマトリックスに分散されたおよそ20vol%のTiB2粒子と、を有する高剛性鋼である。具体的には、マトリックスとしてさまざまな合金成分を有するFe系合金と、このマトリックスにおよそ20vol%のTiB2粒子が分散されている。ここで、第一参考例は、その基本的な組成がFe−9wt%Ti−4.0wt%Bであり、この他に各試料ごとに固有の合金成分をマトリックス中に含有している。
【0066】
なお、試料5は基本組成そのままであり、マトリックスに添加元素を含有しない比較材である。また、試料6、7にはCuが、試料8、9にはWが、試料10〜12にはMoが、試料13、14にはCoが、試料15、16にはNbが、マトリックスに添加されている。
【0067】
第一参考例の製造は、表2に示される配合とした原料粉末を用いた以外は、第一実施例の製造方法と同様な手順によりなされた。具体的には、原料粉末の成形体を焼結させて、製造する方法である。なお、第一参考例においては、原料粉末に含まれるTiとBとを、その後の焼結工程において反応させることで、TiB2を生成させるとともに、マトリックスに分散させた。ここで、表2に示される原料粉末の配合量は、マトリックス中に生成されるTiB2粒子が20体積%をしめることを目標に決定されている。
【0068】
なお、それぞれの原料粉末におけるTiとBとの原子比は0.5とした。
【0069】
【表2】
【0070】
ここで、鉄粉には普通純鉄粉(180μm以下)が、Ti源粉末にはフェロチタン粉末(45μm以下)が、B源粉末にはフェロボロン粉末(75μm以下)が、用いられた。さらに、W添加にはフェロタングステン粉末が、Mo添加にはフェロモリブデン粉末が、Co添加には電解コバルト粉末が、Nb添加にはフェロニオブ粉末が、Cu添加には電解銅粉末が、それぞれ用いられた。
【0071】
なお、第一参考例の各試料の製造は、原料粉末の混合に大気雰囲気中でV型混合機で1時間混合した以外は、第一実施例の各試料の製造方法を用いて製造された。
【0072】
すなわち、所定量に秤量された原料粉末を、V型混合機に投入し、大気雰囲気条件下で1時間混合機を稼働させて、原料粉末を均一に混合させた。その後、この混合粉末を成形、焼結させ、各試料が製造された。
【0073】
試料番号6〜16の場合、4A族元素のホウ化物以外に生成する化合物とは、Fe2B等の鉄ホウ化物、合金に添加された添加元素と鉄との複ホウ化物、添加元素と4A族元素との金属間化合物であった。その量は、4A族元素のホウ化物の全体積を100とした場合に、いずれも50以下であった。
【0074】
(評価)
第一参考例の評価として、第一参考例の各試料のヤング率、比ヤング率、引張強さおよびこのときの伸びを測定した。この測定結果を図2〜5に示した。また、各試料のマトリックスに分散されたTiB2量も測定し、表2にあわせて示した。
【0075】
ここで、評価において、ヤング率のみならず比ヤング率を求めた理由としては、一般に比重の大きいモリブデン、タングステンなどの金属はヤング率も大きいので、これらの影響を考慮するためには比ヤング率(単位比重あたりのヤング率)で比較するのがよいためである。
【0076】
ここで、測定に用いられた試験片は、3×4×30mmの角材試験片および直径6mmの円柱試験片が用いられた。これらの試験片は、第一実施例の評価において行われた試験片の作製方法と同様に、押出し材を作製した後に、機械加工を施すことにより角材試験片および円柱試験片が製造された。
【0077】
なお、ヤング率の測定は、第一実施例の評価において用いられた共振を利用した複合振動子法を用いたヤング率の測定方法が用いられた。
【0078】
図2には、各試料のヤング率の測定結果が示された。図2より、各試料のヤング率の測定結果は、いずれも、235〜260GPaとヤング率が向上している。すなわち、第一実施例の評価において述べたように、普通鋼のヤング率は200GPa程度であり、第一参考例の各試料は、ヤング率が向上している。
【0079】
図3には、各試料の比ヤング率が示された。図3より、各試料の比ヤング率は、合金元素の有無にかかわらずほぼ一定の値となっている。すなわち、試料6〜16に添加された各元素は、本質的にTiB2粒子による高ヤング率化を阻害せず、マトリックスのヤング率をその比重に応じて変化させたため、図2では、ヤング率がばらついているように見える。
【0080】
図4には、各試料の引張強さの測定結果を示した。図4より、Cu、W、Mo、Nbを添加した試料は、引張強さが大きく向上している。このように、Cu、W、Mo、Nb等の元素をマトリックスに含ませることで、高剛性鋼の強度を高めることができる。また、鉄鋼材料の強度はさまざまであるが、普通炭素鋼の引張強さは400〜600MPa位であり、本参考例の各試料の引張強さより低くなっている。
【0081】
図5には、引張強さの試験後の試料の伸びを示した。図5より、Coをマトリックスに固溶させることで、高剛性鋼が高い延性を有するようになることがわかる。
【0082】
ここで、引張強さの測定は、インストロン型万能試験機(最大荷重5t)を用い、0.5mm/minのクロスヘッド速度で実施された。
【0083】
第一参考例より、TiB2粒子による高ヤング率化が維持されたまま、Cu、Mo、W、Nbをマトリックスに添加することによって高強度化を、Coの添加によって延性向上が達成できる効果を有することが明らかとなった。
【0084】
(第二参考例)
第二参考例は、Fe系合金マトリックスと、このマトリックスに分散されたおよそ20vol%のTiB2粒子と、を有する高剛性鋼である。具体的には、マトリックスに異なる量の炭素を含むFe系合金と、このマトリックスにおよそ20vol%のTiB2粒子が分散されている。ここで、第二参考例は、その基本的な組成がFe−9wt%Ti−4wt%Bであり、各試料ごとに異なる量の炭素をマトリックス中に固溶している。
【0085】
(第二参考例の製造方法)
第二参考例の製造は、表3に示される配合とした原料粉末を用いた以外は、第一参考例の製造方法と同様な手順によりなされた。具体的には、原料粉末の成形体を焼結させて、製造する方法である。ここで、表3に示される原料粉末の配合量は、マトリックス中に生成されるTiB2粒子が20体積%をしめることを目標に決定されている。なお、それぞれの原料粉末におけるTiとBとの原子比は0.5とした。
【0086】
【表3】
【0087】
なお、第二参考例の各試料の原料粉末の鉄粉、FeTiには、第一参考例と同様な粉末材料が用いられた。また、黒鉛には、平均粒径が5μm程度の粉末が用いられた。
【0088】
第二参考例の製造は、第一参考例と同様の製造方法を用いて行われた。すなわち、原料粉末を所定量に秤量した後に、均一に混合し、つづいて、成形を行い、焼結させることで製造された。
【0089】
(評価)
第二参考例の評価として、各試料のヤング率の測定および曲げ試験を行った。この試験結果を図6および7に示した。また、各試料のマトリックスに分散されたTiB2量も測定し、表3にあわせて示した。
【0090】
ここで、測定に用いられた試験片は、角材試験片および円柱試験片が用いられた。これらの試験片は、第一実施例および第一参考例の評価において行われた試験片の作製方法と同様に、押出し材を作製した後に、機械加工を施すことにより角材試験片および円柱試験片が製造された。
【0091】
なお、ヤング率の測定は、第一実施例および第一参考例の評価において用いられた共振を利用した複合振動子法を用いたヤング率の測定方法が用いられた。
【0092】
図6には、各試料のヤング率の測定結果が示された。図6より、各試料のヤング率の測定結果は、いずれも、250〜280GPaとヤング率が普通鋼と比較して向上している。ここで、前述したように普通鋼のヤング率は200GPa程度である。また、各試料に含まれる炭素量が増加するに連れてヤング率は微増している。
【0093】
図7には、曲げ試験における各試料の最大たわみ量および最大曲げ荷重が示された。図7より、炭素量が0.5%を超えると最大たわみ量は著しく低下し、試料51〜53ではわずかの荷重で破断する脆い材料になっていることがわかる。なお、光学顕微鏡およびX線回折により組織を観察した結果、試料52、53には、チタン−鉄の複合化合物や鉄ホウ炭化物が多量に形成されていた。
【0094】
このことから、炭素をマトリックスに配合することでヤング率の向上を阻害することなく合金の靱性を向上させることができる。しかしながら、許容量を超える炭素は、チタンおよびホウ素と結合し、チタンホウ化物の形成を阻害するばかりか、多量の脆弱な化合物相の形成によって機械的性質に悪影響をおよぼすことが明らかとなった。
【0095】
【発明の効果】
本発明の高剛性鋼は、マトリックスに高ヤング率の4A族元素のホウ化物を分散させることで、全体のヤング率を向上させている。また、高剛性鋼中の4A族元素の他のホウ化物およびラーベス相を制御し、これらの生成を抑えることで4A族元素のホウ化物によるヤング率の向上効果が阻害されることを防いでいる。本発明の高剛性鋼は、ターボシャフト等の回転軸、ピストン等の往復運動部品に用いると、高い剛性を有することから、高速での運転が可能になる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 第一実施例の試料に含まれる化合物種および各試料のヤング率の測定結果を示した図である。
【図2】 第一参考例の試料のヤング率の測定結果を示した図である。
【図3】 第一参考例の試料の比ヤング率を示した図である。
【図4】 第一参考例の試料の引張強さを示した図である。
【図5】 第一参考例の試料の引張強さ試験後の試料の伸びを示した図である。
【図6】 第二参考例の試料のヤング率の測定結果を示した図である。
【図7】 第二参考例の試料の曲げ試験における最大曲げ荷重およびたわみ量を示した図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、高いヤング率を有する高剛性鋼に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、構造用金属材料としては、鋼や鉄系合金が広く利用されている。これらの金属材料は、その使用目的に応じて、強度、延性、靱性等の機械的性質が付与されている。この機械的性質の付与は、合金元素の添加や熱処理などを施すことにより、極めて多様な組織変化を生じさせることでなされている。
【0003】
このような構造用金属材料を用いた実部品において、その性能を左右する材料特性のひとつに、剛性がある。この剛性を表す指標として、ヤング率(縦弾性係数)をあげることができる。
【0004】
金属材料のヤング率は、金属材料を構成する原子間の結合力を反映する物性値である。このため、鋼や鉄系合金においては、上記の多様な組織変化にもかかわらず、ヤング率は190〜210GPa程度の固有な値であり、このヤング率を大幅に向上させることは困難である。
【0005】
このような実状において、鋼や鉄系合金のヤング率を向上させる手段としては、高ヤング率の化合物相をFe基マトリックスに分散させ、複合化させることが唯一の現実的な手段であった。
【0006】
剛性を向上させた高剛性鉄基合金については、たとえば、特開平7−188874号公報に開示されている。この高剛性鉄基合金は、鉄または鉄系合金からなるマトリックスに、4A族元素を主体とするホウ化物の少なくとも1種以上を分散させた鉄基合金である。さらに、この高剛性鉄基合金の製造方法も開示されている。
【0007】
しかしながら、特開平7−188874号に記載の高剛性鉄基合金は、ホウ化物の複合化により高ヤング率が得られるが、ホウ素がホウ化物の化学量論比より過剰になると、過剰なホウ素は鉄または鉄基合金のマトリックス中にほとんど固溶できないため、マトリックスの鉄あるいは鉄基合金成分と結合して、鉄ホウ化物や鉄−合金成分−ホウ素の複合ホウ化物を形成する。また一方、4A族元素が大幅に過剰になると、同様にマトリックスの鉄あるいは鉄基合金成分と結合して、ラーベス相等の金属間化合物を形成する。ここで、鉄ホウ化物、複合ホウ化物相およびラーベス相は、原子間の結合力が4A族元素のホウ化物ほど高くないため、マトリックス中に鉄ホウ化物やラーベス相を一定以上の割合で有するとヤング率が低下するとともに、マトリックスが著しく硬化・脆化して実部品に適用しうる鋼としての特性を失うという問題があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであり、高いヤング率を有する高剛性鋼およびその製造方法を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明者等は、マトリックスに分散される4A族元素のホウ化物とともに、他のホウ素を含む化合物ならびに4A族元素を含む金属間化合物の量を調整することで上記課題を解決できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明の高剛性鋼は、鉄または鉄合金よりなるマトリックスと、マトリックス中に分散保持された4A族元素のホウ化物と、からなる高剛性鋼であって、全体を100体積%とした場合、4A族元素のホウ化物は5〜65体積%を占め、かつ4A族元素のホウ化物の全体積を100とした場合、16以下のマトリックスの鉄あるいは鉄合金成分と結合して形成された鉄ホウ化物、合金成分−ホウ素の化合物、鉄−合金成分−ホウ素の複合ホウ化物、鉄−4A族元素、合金元素(成分)−4A族元素の金属間化合物の少なくとも1種を含み、4A族元素とホウ素との配合比率が原子比で0.603〜0.80となるように調整された原料から製造されてなることを特徴とする。
【0011】
本発明の高剛性鋼は、高ヤング率の4A族元素のホウ化物を鉄系のマトリックスに分散させることで鉄系合金に剛性を付与し、同時に4A族元素のホウ化物以外のホウ化物および4A族元素を含む金属間化合物の量を制御することで、鋼としての特性である靱性、延性を保ちながら、その剛性を向上させている。
【0015】
【発明の実施の形態】
(高剛性鋼)
本発明の高剛性鋼は、鉄または鉄合金よりなるマトリックスと、マトリックス中に分散保持された4A族元素のホウ化物と、からなる高剛性鋼である。
【0016】
本発明の高剛性鋼は、4A族元素のホウ化物をマトリックスに分散させることで、剛性を向上させている。すなわち、マトリックスに高ヤング率の粒子を分散させることで、鋼のヤング率を高くしている。
【0017】
4A族元素のホウ化物は、規則的に4A族元素とホウ素が配置された結晶構造を有し、共有性結合によって構成原子が強固に結合している。このため、構成原子の結合力が反映されるヤング率が高くなっている。また、4A族元素のホウ化物は、鉄合金中で熱力学的に極めて安定であるため、異種元素の侵入・置換、あるいは他の複合化合物の形成など、マトリックスとの間に反応に起因する結晶学的および冶金学的な変化を生じない。
【0018】
本発明の高剛性鋼は、全体を100体積%とした場合、4A族元素のホウ化物が5〜65体積%を占める。すなわち、4A族元素のホウ化物を5〜65体積%とすることで、剛性を向上させる。ここで、4A族元素のホウ化物が、5体積%未満では高剛性化の効果が得られず、65体積%を超えるとホウ化物どうしの凝集や、合体が生じ、鋼の機械的特性が低下するようになる。
【0019】
本発明の高剛性鋼は、4A族元素のホウ化物の全体積を100とした場合、16以下のマトリックスの鉄あるいは鉄合金成分と結合して形成された鉄ホウ化物、合金成分−ホウ素の化合物、鉄−合金成分−ホウ素の複合ホウ化物、鉄−4A族元素、合金元素(成分)−4A族元素の金属間化合物の少なくとも1種を含む。4A族元素のホウ化物以外のホウ素を含む化合物とは、たとえば、鉄のホウ化物や、請求項2〜5に記載の合金元素が添加された場合には、鉄とこれらの合金元素との複ホウ化物等をいう。また、金属間化合物とは、たとえば、鉄と4A族元素との金属間化合物であるFe2M(ラーベス相)等や、請求項2〜5に記載の合金元素が添加された場合には、これらの合金元素と4A族元素との金属間化合物等をいう。
【0020】
マトリックスの鉄あるいは鉄合金成分と結合して形成された鉄ホウ化物、合金成分−ホウ素の化合物、鉄−合金成分−ホウ素の複合ホウ化物、鉄−4A族元素、合金元素(成分)−4A族元素の金属間化合物が、マトリックスに16体積%を超えて析出すると、高剛性鋼中での4A族元素のホウ化物量が相対的に減少し、鉄系合金のヤング率の向上の効果が低下するとともに、マトリックスが著しく硬化・脆化して実部品に適用しうる鋼としての特性を失うという問題があった。
【0021】
4A族元素のホウ化物は、4A族元素である、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)のホウ化物の一種以上が用いられる。ホウ化物は、単体としてのヤング率が少なくとも25000kgf/mm2以上であれば、その分散により高剛性化の確かな効果が得られる。中でも、MB2(M:4A族元素)で示される4A族元素の二ホウ化物が、特に高いヤング率を有するため、好ましい。
【0022】
本発明の高剛性鋼は、マトリックス中で4A族元素のホウ化物の粒径が100μm以下となっていることが好ましい。4A族元素のホウ化物の粒径が100μm以下となることで、実用レベルの機械的性質を高剛性鋼にもたらすことができる。より好ましい粒径は、20μm以下である。
【0023】
マトリックスは、鉄または鉄合金よりなる。すなわち、純鉄あるいは鉄系合金をマトリックスとして用いることができる。また、鉄合金としては、フェライト系、オーステナイト系、あるいはマルテンサイト系など、広範囲な鉄合金を用いることができる。
【0024】
マトリックスは、マトリックス全体を100重量%とした場合、V、Crの1種以上を、その合計が25.0重量%以下含むことが好ましい。これらの元素はマトリックスの二つの基本結晶構造のうち、より高ヤング率なBCC構造のフェライトを安定化し、本高剛性鋼においてさらなる高ヤング率化を促進する。これらの元素が25.0重量%を超えると鉄との脆性化合物として有名なシグマ相が析出し、マトリックスを著しく脆化させる。
【0025】
マトリックスは、マトリックス全体を100重量%とした場合、Ni、Coの1種以上を、その合計が25.0重量%以下含むことが好ましい。これらの元素をマトリックスに含むことで、マトリックスにFCC構造のオーステナイトを導入し、フェライトのみのマトリックスに比べ、破壊靱性を向上させる。これらの元素が25.0重量%を超えるとオーステナイト主体のマトリックスとなり、フェライト主体のマトリックスに対し、ヤング率が大幅に低下する。
【0026】
マトリックスは、マトリックス全体を100重量%とした場合、Cuを10.0重量%以下含むことが好ましい。ここで、Cuをマトリックスが含むという状態は、マトリックスがCuを固溶している状態、およびε−Cu相として析出している状態の両方を示す。マトリックスがCuを含むことで、鋼の強度が向上するが、特にCuが超微細整合析出をした場合、鋼が著しく高強度化される。ここで、Cuが10.0重量%を超えるとマトリックスのヤング率が低下するとともに、熱間加工時に液相割れなどを起こしやすくなり、実用上の問題が生じるようになる。Cuは、0.2重量%以上であることがより好ましい。Cuが0.2重量%以上で、マトリックスの強度の向上の効果が実用上において、十分となる。
【0027】
マトリックスは、マトリックス全体を100重量%とした場合、Mo、Nb、Ta、W、Hfの1種以上の元素を、その合計が10.0重量%以下含むことが好ましい。これらの元素は、マトリックス中において、固溶もしくは析出状態で、マトリックスの強度を向上させ、得られる高剛性鋼の強度を向上させる。ここで、これらの元素量が10.0重量%を超えるとフェライト相を著しく硬化させるとともに、多量の析出物が生じ、マトリックスを著しく脆化させる。
【0028】
マトリックスは、マトリックス全体を100重量%とした場合、Cを0.5重量%以下含むことが好ましい。Cを0.5重量%以下にすることで、マトリックスに分散される4A族元素のホウ化物の熱力学的安定性が保たれるようになる。すなわち、高温においても、ホウ化物の4A族元素とCにより、炭化物や炭ホウ化物が形成されることが抑制される。このため4A族元素のホウ化物による高ヤング率化の効果を最大限に引き出す。ここで、Cが0.5重量%を超えると、上記炭化物や炭ホウ化物が多量に形成され、高剛性鋼の破壊脆性を著しく低下させるので、実用上好ましくなくなる。
【0029】
本発明の高剛性鋼は、上記した組成および構成をもつものであればよく、その製造方法によって、限定されるものではない。
【0030】
本発明の高剛性鋼は、次の方法によって確実に製造することができる。すなわち、本発明の高剛性鋼は、原料混合工程と、成形工程と、焼結工程と、を施してなることが好ましい。すなわち、調整された粉末原料を所定の形状に成形した後に、焼結させることで製造できる。
【0031】
原料混合工程は、4A族元素のホウ化物原料粉末と、マトリックス原料粉末とを、混合する工程である。
【0032】
4A族元素のホウ化物原料粉末は、4A族元素のホウ化物そのものの粉末、および/または4A族元素粉末、ホウ素粉末、4A族元素を含有した4A族元素原料粉末、ホウ素を含有したホウ素含有粉末、を焼結したときに4A族元素のホウ化物を形成可能に組み合わせてなる粉末である。すなわち、本発明の高剛性鋼は、4A族元素のホウ化物があらかじめ形成された原料粉末を配合するか、あるいは/および4A族元素粉末とホウ素原料粉末とを混合してその後の焼結工程において両元素の反応により生成させることでマトリックスに分散させる。
【0033】
ホウ化物原料粉末は、4A族元素とボロンとの配合比率が原子比で0.603〜0.80に調整されている。4A族元素とボロンとの配合比率を原子比で0.603〜0.80に調整することで、4A族元素のホウ化物以外のホウ素を含む化合物であるホウ化鉄や、4A族元素を含む金属間化合物相を形成することを抑制することができる。
【0034】
ホウ化物原料粉末は、それぞれ公知の方法により調整されたものや市販の粉末を用いることができる。また、ホウ化物原料粉末として4A族元素のホウ化物粉末を用いる場合は、その平均粒径が数μm以下の粉末を用いることが好ましい。このため、粒径が大きな粉末の場合には、ボールミル、振動ミル、アトライタ等の装置により粉砕しておくことが好ましい。
【0035】
マトリックス原料粉末は、鉄または鉄合金から選択される1種以上の粉末である。また、このマトリックス原料粉末は、市販のもの、あるいは公知の方法により作成されたものなど、いずれの鉄粉末あるいは鉄合金粉末を用いてもよい。たとえば、アトマイズ法により作製された市販の純鉄粉、ステンレス粉末等の粉末をそのまま用いることができる。
【0036】
マトリックス原料粉末は、たとえば平均粒径が180μm以下の普通粒度のものを用いることができる。より好ましくは、平均粒径が45μm以下の粉末である。すなわち、平均粒径を45μm以下とすることで焼結体の緻密化が促進されること、4A族元素のホウ化物粉末を用いる場合にその分散を容易に均一化出来るようになる。また、このことは、マトリックス原料粉末の粒径が、45μmより大きな粉末の使用を排除するものではない。
【0037】
原料混合工程は、4A族元素のホウ化物原料粉末とマトリックス原料粉末とを均一に混合させる工程である。また、本発明においては、特殊な混合方法や、前処理を行わなくてもよいため、通常の粉末の混合方法に用いられる粉末の混粉装置を採用することができる。たとえば、V型、ダブルコーン型等の混粉機、ボールミル、あるいは振動ミルをあげることができる。ここで、ホウ化物原料粉末に4A族元素のホウ化物粉末を用いた場合において、該粉末が二次粒子等を形成している場合には、アトライタ等の高エネルギーミルにより不活性ガス雰囲気中で粉砕処理することが好ましい。
また、原料混合工程は、4A族元素の鉄化合物よりなる粉末と、ホウ素の鉄化合物よりなる粉末と、を4A族元素とホウ素との配合比率が原子比で0.45〜0.80となるように調整し、混合する工程である。
【0038】
成形工程は、原料粉末混合工程において混合された混合粉末を所定の形状に圧粉成形する工程である。この成形工程における成形方法は、所望の形状に成形できる成形方法であれば、いずれの成形方法を用いてもよい。たとえば、金型成形、CIP成形等をあげることができる。
【0039】
また、成形工程における成形圧力は、2ton/cm2以上が好ましい。すなわち、2ton/cm2以上で成形することで、得られる成形体を焼結させたときの緻密化が十分に行われる。
【0040】
焼結工程は、成形工程により得られた成形体を焼結して焼結体を形成する工程である。
【0041】
焼結は、真空中、不活性ガス雰囲気、あるいは還元性ガス雰囲気中でなされることが好ましい。すなわち、焼結は、マトリックスの鉄系合金が反応(酸化)しない雰囲気下でなされる。
【0042】
焼結は、1100〜1300℃の温度範囲に加熱されることが好ましい。加熱温度が1100℃未満では、焼結体の密度が十分に向上せず、1300℃を超えるとホウ化物の種類によっては、多量の液相を生じ、焼結体の形状が維持できなくなる。また、加熱時間は、0.5〜4時間であることが好ましい。加熱時間が0.5時間未満では焼結体の密度が十分に向上せず、4時間を超えるとさらなる緻密化等の得られる効果に対して、作業工数や加熱に要するエネルギーのロスが大きくなるためである。
【0043】
また、本発明の高剛性鋼は、4A族元素の純金属あるいは4A族元素の鉄化合物と、ホウ素の鉄化合物とを、4A族元素とボロンとの配合比率が原子比で0.603〜0.80となるように配合し、これに、マトリックス組成を得るための鉄あるいは鉄合金原料を加えて、すべての原料を真空中あるいは不活性ガス雰囲気中で完全に溶融させた後、金型あるいはセラミックス型へ鋳造して鋼塊を製造してなることが好ましい。ここで、4A族元素を含有する合金原料としては、たとえば、フェロチタン、フェロジルコニウムをあげることができ、ボロンを含有する合金原料には、たとえば、フェロボロンをあげることができる。また、溶融設備としては、セラミックス製るつぼを用いた高周波誘導真空溶解炉、アルゴンアーク溶解炉、プラズマ溶解炉、水冷銅るつぼを用いた高周波誘導真空溶解炉あるいは高周波誘導浮遊溶解炉など、従来の溶融設備を用いることができる。
【0044】
本発明の高剛性鋼は、焼結工程あるいは溶融、鋳造後に熱間加工を施す熱間加工工程を有することが好ましい。すなわち、たとえば、焼結工程のみでは焼結体の緻密化が不十分で、さらなる緻密化が要求される場合には、焼結体に熱間加工を施すことにより真密度にまで容易に緻密化できる。また、溶融、鋳造により製造された鋼塊の場合には、鋳造時に内部に生成したポロシティを低減できるとともにホウ化物を微細化できるので、強度特性の信頼性が向上する。この熱間加工としては、鍛造、圧延押出し、スエージ等のさまざまな加工方法をあげることができる。
【0045】
熱間加工は、900〜1200℃の範囲で行われることが好ましい。900℃未満となると加工時の変形抵抗が大きく、1200℃を超えると液相を生じるおそれがあるため好ましくない。
【0046】
また、熱間加工工程のかわりに、焼結工程後にHIP(熱間静水圧プレス)処理を施すことで、焼結体を緻密化することもできる。このHIP処理における処理条件としては、900〜1200℃、500〜2000気圧、1〜10時間の範囲内で行うことが好ましい。
【0047】
本発明の高剛性鋼は、通常の粉末冶金技術あるいは溶融、鋳造技術に沿った製造方法で製造できるため、その製造に従来の焼結材あるいは特殊鋼等の製造に用いられた設備を用いることができる。
【0048】
本発明の高剛性鋼は、ターボシャフト等の回転軸、ピストン等の往復運動部品に用いることが好ましい。
【0049】
すなわち、本発明の高剛性鋼を回転軸に用いると、共振周波数が高周波側にシフトするため、より高速回転をさせることができる。具体的には、回転軸を用いた装置においては、共振による過負荷、あるいは破壊の危険を避けるため、共振周波数を大きく下回る速度でしか運転ができなくなっていた。このため、共振周波数が大きくなることは、回転速度を大きくすることができるようになる。
【0050】
また、本発明の高剛性鋼は、高い剛性を有するため、往復運動部品を小型化、薄肉化できる。このように小型化、薄肉化させることで、往復運動部品自身が軽量化される。このため、往復運動の運動速度を引き上げる、あるいは、少ないエネルギーで往復運動を生じさせることができるようになる。
【0051】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。
【0052】
本発明の実施例として、高剛性鋼を作製した。
【0053】
(第一実施例)
第一実施例は、Fe−Cr系合金マトリックスと、このマトリックスに分散された20vol%のTiB2粒子と、を有する高剛性鋼である。具体的には、マトリックスとして、ステンレス鋼(SUS430)粉末とフェロチタン(FeTi)粉末よりなる合金組成に調整されたマトリックスに、20vol%のTiB2粒子が分散されている。
【0054】
ここで、第一実施例は、その組成が試料1のFe−14.6wt%Cr−8.9wt%Ti−4.0wt%Bを基本とし、このマトリックスに20vol%のTiB2粒子が分散されている。具体的には、第一実施例の高剛性鋼は、試料1の組成を基本とし、試料2〜4となるのにしたがって、Ti含有量が増加している合金である。
【0055】
(第一実施例の製造方法)
まず、SUS430粉末(45μm以下)、TiB2粉末(平均粒径4μm)、FeTi粉末(45μm以下)の各粉末を表1に示される重量に秤量した。ここで、SUS430粉末、TiB2粉末およびFeTi粉末は、市販のものが用いられた。
【0056】
【表1】
【0057】
つづいて、これらの粉末をAr雰囲気のアトライタに投入した後に、約15分間混合機を稼働させて均一に混合した。ここで、原料粉末におけるTiとBとの原子比を表1にあわせて示した。
【0058】
均一に混合された原料粉末を成形金型に投入し、4ton/cm2の成形圧力で油圧プレスにより、直径20mm、高さ33mmの円柱状に成形した。
【0059】
得られた円柱状成形体を真空雰囲気下、1250℃で1時間加熱して、焼結させることで、高剛性鋼試料が製造された。
【0060】
(評価)
第一実施例の評価として、各試料に含まれるTiB2、およびその他の化合物の体積率ならびに各試料のヤング率を測定した。この測定結果を図1に示した。
【0061】
測定は、まず、各試料をビレットとし、機械的プレスによる熱間押出しを行い、直径7mmの円柱状試料とした。この押出し材から試料を採取し、抽出残滓法によりTiB2およびその他の化合物量を測定した。
【0062】
また、この押出し材から3×4×30mmの試験片をワイヤーカットにより作製した。作製された試験片は、水晶振動子との共振を利用した複合振動子法を用いて、ヤング率が測定された。
【0063】
図1より、試料1〜4において、化合物種としては、TiB2のほか、クロムと鉄を含有するホウ化物M2B(M=Cr、Fe)や、クロム、鉄とチタンから構成されるラーベス相M2Ti(M=Cr、Fe)が認められた。また、図1より、試料1〜4において、原料中のFeTi粉末量の増加にともない、M2B相が減少し、TiB2相が増加している。また、試料4においては、ラーベス相の発生が見られる。このことは、TiB2はチタン、ホウ素で構成されるが、いずれの元素も鉄や鉄合金には固溶しにくいため、TiB2の化学量論比に対して過不足があれば、TiB2以外の化合物種を形成すると解釈される。
【0064】
また、図1にあわせて示された各試料のヤング率から、TiB2粒子による高ヤング率化の効果が同等に認められる。具体的には、本実施例の試料2〜4のヤング率は260〜270GPaにまで向上している。一般的な鉄、鋼等の鉄合金のヤング率は最大で210GPa程度であるので、本実施例の試料は、M2BやM2Tiなど、意図しない化合物種を含有するにもかかわらず、TiB2粒子による高ヤング率化の効果が十分に保たれている。
【0065】
(第一参考例)
第一参考例は、Fe系合金マトリックスと、このマトリックスに分散されたおよそ20vol%のTiB2粒子と、を有する高剛性鋼である。具体的には、マトリックスとしてさまざまな合金成分を有するFe系合金と、このマトリックスにおよそ20vol%のTiB2粒子が分散されている。ここで、第一参考例は、その基本的な組成がFe−9wt%Ti−4.0wt%Bであり、この他に各試料ごとに固有の合金成分をマトリックス中に含有している。
【0066】
なお、試料5は基本組成そのままであり、マトリックスに添加元素を含有しない比較材である。また、試料6、7にはCuが、試料8、9にはWが、試料10〜12にはMoが、試料13、14にはCoが、試料15、16にはNbが、マトリックスに添加されている。
【0067】
第一参考例の製造は、表2に示される配合とした原料粉末を用いた以外は、第一実施例の製造方法と同様な手順によりなされた。具体的には、原料粉末の成形体を焼結させて、製造する方法である。なお、第一参考例においては、原料粉末に含まれるTiとBとを、その後の焼結工程において反応させることで、TiB2を生成させるとともに、マトリックスに分散させた。ここで、表2に示される原料粉末の配合量は、マトリックス中に生成されるTiB2粒子が20体積%をしめることを目標に決定されている。
【0068】
なお、それぞれの原料粉末におけるTiとBとの原子比は0.5とした。
【0069】
【表2】
【0070】
ここで、鉄粉には普通純鉄粉(180μm以下)が、Ti源粉末にはフェロチタン粉末(45μm以下)が、B源粉末にはフェロボロン粉末(75μm以下)が、用いられた。さらに、W添加にはフェロタングステン粉末が、Mo添加にはフェロモリブデン粉末が、Co添加には電解コバルト粉末が、Nb添加にはフェロニオブ粉末が、Cu添加には電解銅粉末が、それぞれ用いられた。
【0071】
なお、第一参考例の各試料の製造は、原料粉末の混合に大気雰囲気中でV型混合機で1時間混合した以外は、第一実施例の各試料の製造方法を用いて製造された。
【0072】
すなわち、所定量に秤量された原料粉末を、V型混合機に投入し、大気雰囲気条件下で1時間混合機を稼働させて、原料粉末を均一に混合させた。その後、この混合粉末を成形、焼結させ、各試料が製造された。
【0073】
試料番号6〜16の場合、4A族元素のホウ化物以外に生成する化合物とは、Fe2B等の鉄ホウ化物、合金に添加された添加元素と鉄との複ホウ化物、添加元素と4A族元素との金属間化合物であった。その量は、4A族元素のホウ化物の全体積を100とした場合に、いずれも50以下であった。
【0074】
(評価)
第一参考例の評価として、第一参考例の各試料のヤング率、比ヤング率、引張強さおよびこのときの伸びを測定した。この測定結果を図2〜5に示した。また、各試料のマトリックスに分散されたTiB2量も測定し、表2にあわせて示した。
【0075】
ここで、評価において、ヤング率のみならず比ヤング率を求めた理由としては、一般に比重の大きいモリブデン、タングステンなどの金属はヤング率も大きいので、これらの影響を考慮するためには比ヤング率(単位比重あたりのヤング率)で比較するのがよいためである。
【0076】
ここで、測定に用いられた試験片は、3×4×30mmの角材試験片および直径6mmの円柱試験片が用いられた。これらの試験片は、第一実施例の評価において行われた試験片の作製方法と同様に、押出し材を作製した後に、機械加工を施すことにより角材試験片および円柱試験片が製造された。
【0077】
なお、ヤング率の測定は、第一実施例の評価において用いられた共振を利用した複合振動子法を用いたヤング率の測定方法が用いられた。
【0078】
図2には、各試料のヤング率の測定結果が示された。図2より、各試料のヤング率の測定結果は、いずれも、235〜260GPaとヤング率が向上している。すなわち、第一実施例の評価において述べたように、普通鋼のヤング率は200GPa程度であり、第一参考例の各試料は、ヤング率が向上している。
【0079】
図3には、各試料の比ヤング率が示された。図3より、各試料の比ヤング率は、合金元素の有無にかかわらずほぼ一定の値となっている。すなわち、試料6〜16に添加された各元素は、本質的にTiB2粒子による高ヤング率化を阻害せず、マトリックスのヤング率をその比重に応じて変化させたため、図2では、ヤング率がばらついているように見える。
【0080】
図4には、各試料の引張強さの測定結果を示した。図4より、Cu、W、Mo、Nbを添加した試料は、引張強さが大きく向上している。このように、Cu、W、Mo、Nb等の元素をマトリックスに含ませることで、高剛性鋼の強度を高めることができる。また、鉄鋼材料の強度はさまざまであるが、普通炭素鋼の引張強さは400〜600MPa位であり、本参考例の各試料の引張強さより低くなっている。
【0081】
図5には、引張強さの試験後の試料の伸びを示した。図5より、Coをマトリックスに固溶させることで、高剛性鋼が高い延性を有するようになることがわかる。
【0082】
ここで、引張強さの測定は、インストロン型万能試験機(最大荷重5t)を用い、0.5mm/minのクロスヘッド速度で実施された。
【0083】
第一参考例より、TiB2粒子による高ヤング率化が維持されたまま、Cu、Mo、W、Nbをマトリックスに添加することによって高強度化を、Coの添加によって延性向上が達成できる効果を有することが明らかとなった。
【0084】
(第二参考例)
第二参考例は、Fe系合金マトリックスと、このマトリックスに分散されたおよそ20vol%のTiB2粒子と、を有する高剛性鋼である。具体的には、マトリックスに異なる量の炭素を含むFe系合金と、このマトリックスにおよそ20vol%のTiB2粒子が分散されている。ここで、第二参考例は、その基本的な組成がFe−9wt%Ti−4wt%Bであり、各試料ごとに異なる量の炭素をマトリックス中に固溶している。
【0085】
(第二参考例の製造方法)
第二参考例の製造は、表3に示される配合とした原料粉末を用いた以外は、第一参考例の製造方法と同様な手順によりなされた。具体的には、原料粉末の成形体を焼結させて、製造する方法である。ここで、表3に示される原料粉末の配合量は、マトリックス中に生成されるTiB2粒子が20体積%をしめることを目標に決定されている。なお、それぞれの原料粉末におけるTiとBとの原子比は0.5とした。
【0086】
【表3】
【0087】
なお、第二参考例の各試料の原料粉末の鉄粉、FeTiには、第一参考例と同様な粉末材料が用いられた。また、黒鉛には、平均粒径が5μm程度の粉末が用いられた。
【0088】
第二参考例の製造は、第一参考例と同様の製造方法を用いて行われた。すなわち、原料粉末を所定量に秤量した後に、均一に混合し、つづいて、成形を行い、焼結させることで製造された。
【0089】
(評価)
第二参考例の評価として、各試料のヤング率の測定および曲げ試験を行った。この試験結果を図6および7に示した。また、各試料のマトリックスに分散されたTiB2量も測定し、表3にあわせて示した。
【0090】
ここで、測定に用いられた試験片は、角材試験片および円柱試験片が用いられた。これらの試験片は、第一実施例および第一参考例の評価において行われた試験片の作製方法と同様に、押出し材を作製した後に、機械加工を施すことにより角材試験片および円柱試験片が製造された。
【0091】
なお、ヤング率の測定は、第一実施例および第一参考例の評価において用いられた共振を利用した複合振動子法を用いたヤング率の測定方法が用いられた。
【0092】
図6には、各試料のヤング率の測定結果が示された。図6より、各試料のヤング率の測定結果は、いずれも、250〜280GPaとヤング率が普通鋼と比較して向上している。ここで、前述したように普通鋼のヤング率は200GPa程度である。また、各試料に含まれる炭素量が増加するに連れてヤング率は微増している。
【0093】
図7には、曲げ試験における各試料の最大たわみ量および最大曲げ荷重が示された。図7より、炭素量が0.5%を超えると最大たわみ量は著しく低下し、試料51〜53ではわずかの荷重で破断する脆い材料になっていることがわかる。なお、光学顕微鏡およびX線回折により組織を観察した結果、試料52、53には、チタン−鉄の複合化合物や鉄ホウ炭化物が多量に形成されていた。
【0094】
このことから、炭素をマトリックスに配合することでヤング率の向上を阻害することなく合金の靱性を向上させることができる。しかしながら、許容量を超える炭素は、チタンおよびホウ素と結合し、チタンホウ化物の形成を阻害するばかりか、多量の脆弱な化合物相の形成によって機械的性質に悪影響をおよぼすことが明らかとなった。
【0095】
【発明の効果】
本発明の高剛性鋼は、マトリックスに高ヤング率の4A族元素のホウ化物を分散させることで、全体のヤング率を向上させている。また、高剛性鋼中の4A族元素の他のホウ化物およびラーベス相を制御し、これらの生成を抑えることで4A族元素のホウ化物によるヤング率の向上効果が阻害されることを防いでいる。本発明の高剛性鋼は、ターボシャフト等の回転軸、ピストン等の往復運動部品に用いると、高い剛性を有することから、高速での運転が可能になる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 第一実施例の試料に含まれる化合物種および各試料のヤング率の測定結果を示した図である。
【図2】 第一参考例の試料のヤング率の測定結果を示した図である。
【図3】 第一参考例の試料の比ヤング率を示した図である。
【図4】 第一参考例の試料の引張強さを示した図である。
【図5】 第一参考例の試料の引張強さ試験後の試料の伸びを示した図である。
【図6】 第二参考例の試料のヤング率の測定結果を示した図である。
【図7】 第二参考例の試料の曲げ試験における最大曲げ荷重およびたわみ量を示した図である。
Claims (9)
- 鉄または鉄合金よりなるマトリックスと、該マトリックス中に分散保持された4A族元素のホウ化物と、からなる高剛性鋼であって、
全体を100体積%とした場合、該4A族元素のホウ化物は5〜65体積%を占め、かつ該4A族元素のホウ化物の全体積を100とした場合、16以下の該マトリックスの鉄あるいは鉄合金成分と結合して形成された鉄ホウ化物、合金成分−ホウ素の化合物、鉄−合金成分−ホウ素の複合ホウ化物、鉄−4A族元素、合金元素(成分)−4A族元素の金属間化合物の少なくとも1種を含み、
4A族元素とホウ素との配合比率が原子比で0.603〜0.80となるように調整された原料から製造されてなることを特徴とする高剛性鋼。 - 前記マトリックスは、該マトリックス全体を100重量%とした場合、銅(Cu)を10.0重量%以下含む請求項1記載の高剛性鋼。
- 前記マトリックスは、該マトリックス全体を100重量%とした場合、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ハフニウム(Hf)の1種以上の元素を、その合計が10.0重量%以下含む請求項1記載の高剛性鋼。
- 前記マトリックスは、該マトリックス全体を100重量%とした場合、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)の1種以上を、その合計が25.0重量%以下含む請求項1記載の高剛性鋼。
- 前記マトリックスは、該マトリックス全体を100重量%とした場合、バナジウム(V)、クロム(Cr)の1種以上を、その合計が25.0重量%以下含む請求項1記載の高剛性鋼。
- 前記マトリックスは、該マトリックス全体を100重量%とした場合、炭素(C)を0.5重量%以下含む請求項1記載の高剛性鋼。
- 4A族元素のホウ化物そのものの粉末、および/または4A族元素粉末、ホウ素粉末、4A族元素を含有した合金粉末、ホウ素を含有したホウ素源粉末、の4種の粉末から、焼結したときに4A族元素のホウ化物が形成可能な組み合わせで、4A族元素とボロンとの配合比率が原子比で0.603〜0.80となるように調整された4A族元素のホウ化物原料粉末と、鉄または鉄合金から選択される1種以上のマトリックス原料粉末とを、混合する原料混合工程と、
該原料粉末混合工程において混合された混合粉末を所定の形状に圧粉成形する成形工程と、
前記成形工程により得られた成形体を焼結して焼結体を形成する焼結工程と、
を施してなる請求項1記載の高剛性鋼。 - 4A族元素の鉄化合物よりなる粉末と、ホウ素の鉄化合物よりなる粉末と、を4A族元素とホウ素との配合比率が原子比で0.603〜0.80となるように調整し、混合する原料混合工程と、
該原料粉末混合工程において混合された混合粉末を所定の形状に圧粉成形する成形工程と、
前記成形工程により得られた成形体を焼結して焼結体を形成する焼結工程と、
を施してなる請求項1記載の高剛性鋼。 - 4A族元素の純金属あるいは4A族元素の鉄化合物と、ホウ素の鉄化合物とを、4A族元素とボロンとの配合比率が原子比で0.603〜0.80となるように配合し、これに、マトリックス組成を得るための鉄あるいは鉄合金原料を加えて、すべての原料を真空中あるいは不活性ガス雰囲気中で完全に溶融させた後、金型あるいはセラミックス型へ鋳造してなる請求項1記載の高剛性鋼。
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