JP3885763B2 - 焼入用溶融亜鉛系めっき鋼板とその製造方法及び用途 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車のボデー構造部品、足回り部品等を初めとする機械構造部品の製造に使用するのに適した、焼入用溶融亜鉛系めっき鋼板に関し、より詳しくは、合金化のための加熱工程を含むことがある溶融亜鉛系めっき工程の後も、十分なプレス成形性を有し、かつ亜鉛が蒸発しない低温で焼入処理しても、高強度化が可能な、焼入用溶融亜鉛系めっき鋼板に関する。本発明はまた、このめっき鋼板および焼入強化部材の製造方法にも関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車の軽量化のため、鋼材の高強度化を図り、使用重量を減ずる努力が進んでいる。自動車に広く使用される薄鋼板においては、鋼板強度の増加に伴って、プレス成形性が低下し、複雑な形状を製造することが困難になってきている。具体的には、延性が低下して加工度が高い部位で破断が生じるスプリングバックや、壁反りが大きくなって寸法精度が劣化する、といった問題が発生している。従って、高強度、特に780 MPa 級以上の鋼板を用いて、プレス成形により部品を製造することは容易ではない。プレス成形ではなく、ロール成形によれば、高強度の鋼板の加工が可能であるが、ロール成形は長手方向に一様な断面を有する部品にしか適用できない。引張強さが500 MPa 以下の鋼板は、プレス成形により容易に加工できる。
【0003】
このような問題を解決するため、特開平6−116630号公報 (特許文献1) では、高強度鋼板を使用せず、成形性のよい鋼板を用いてプレス成形により所定の車体形状に加工した後、強度が必要な車体の特定箇所を局部的に加熱して焼入処理を施し、その箇所の強度を向上させる方法を提案している。
【0004】
一方、自動車車体の耐食性向上のため、素材鋼板として亜鉛めっき鋼板を適用する傾向も高まっている。しかし、亜鉛めっき鋼板を用いて上記方法のようにプレス成形後に局部的に焼入処理しようとすると、通常の焼入処理は900 ℃以上、例えば、1000℃といった高い温度から行われるため、沸点が907 ℃である亜鉛が蒸発し始める。そのため、めっきの一部が失われ、代わりに酸化スケールが生成して、焼入部の耐食性が劣化する。
【0005】
従って、亜鉛めっき鋼板を用いて上記のように成形後に部分焼入するには、亜鉛の沸点より低温で焼入処理できる亜鉛めっき鋼板が必要である。
これに関して、特開2000−248338号公報 (特許文献2) には、 800〜1000℃の加熱温度で高周波焼入処理が可能な鋼板と、この鋼板を基材とする溶融亜鉛めっき鋼板とが提案されている。
【0006】
【特許文献1】
特開平6−116630号公報
【特許文献2】
特開2000−248338号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特許文献2に記載の鋼板では、焼入性を高めるC量及びMn量が軟鋼と比べて多いため、連続的な溶融亜鉛めっき処理と合金化処理(以後、これらの処理を一括してCGL処理と表記)により鋼板強度が増大する傾向があり、CGL後の鋼板強度を安定して引張強さ500 MPa 以下にして、良成形性を確保することは困難である。そこで、上記公報の多くの実施例では、CGL処理後の引張強さが500 MPa 以下となるように、めっき前素材の熱間圧延において非常に高い巻取温度(660℃以上)を採用している。しかし、巻取温度が高いと、酸化スケールの発生が顕著になったり、巻取後の冷却中に変態膨張して鋼板に傷が付いたりするという問題があるので、通常は上記のような高い巻取温度は好ましくない。
【0008】
一方、単純にCやMnの含有量を減じて良成形性を確保しようとすると、今度は焼入後の強度(引張強さ1200 MPa以上が求められる)が確保できないという問題と、Ac3 変態点が上昇するため、900 ℃を超える高温での焼入処理が必要になって、めっき蒸発による耐食性の劣化が起こりやすくなるという問題がある。
【0009】
本発明の目的は、CGL処理後も十分なプレス成形性を有し、かつ、亜鉛が蒸発しない900 ℃以下という低温で焼入しても高強度化が可能な、焼入用溶融亜鉛系めっき鋼板とその製造方法、ならびに焼入強化部材の製造方法を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、CGL処理後も十分なプレス成形性を有し、かつ低温で焼入しても高強度化が可能な焼入用溶融亜鉛系めっき鋼板を開発するための鋼板組成について検討した。
【0011】
その結果、焼入性の改善のためCとMnの含有量を多くしても、CrとTiの適正添加と熱延条件の制御もしくはCGL処理前の焼鈍処理により、CGL処理後の引張強さが安定して500 MPa 以下になり、良成形性の確保が可能になることを見出した。さらに、C、Mn、Cr、Ti及びBの量を特定範囲内に収めることで、最高加熱温度850 ℃という低い加熱温度で焼入処理した後に引張強さ1200 MPa以上という高強度の確保が可能となることを見出した。また実際にこの鋼板を用いて成形部材を作製し、強度必要部位に850 ℃で高周波焼入処理を施した結果、その部位の引張強さが1200 MPa以上になることを確認した。さらに、低温焼入により実用上問題のない耐食性を具備することも確認した。
【0012】
本発明によれば、質量%で、C: 0.1〜0.3 %、Si:0.01〜0.5 %、Mn: 0.8〜3.0 %、P: 0.003〜0.05%、S:0.05%以下、Cr: 0.1〜0.5 %、Ti:0.01〜0.1 %、Al:1%以下、B:0.0002〜0.004 %、N:0.01%以下を含有し、または、C: 0.1〜0.3 %、Si:0.01〜0.5 %、Mn: 0.5〜3.0 %、P: 0.003〜0.05%、S:0.05%以下、Cr: 0.1〜0.5 %、Ti:0.01〜0.1 %、Al:1%以下、B:0.0002〜0.004 %、N:0.01%以下に、Cu:1%以下、Ni:2%以下、Mo:1%以下、V:1%以下、およびNb:1%以下から選ばれた1種または2種以上をさらに含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼組成を持つ鋼板を基材とする焼入用溶融亜鉛系めっき鋼板であって、焼入処理前の引張強さが500 MPa 以下、850 ℃からの焼入処理後の引張強さが1200 MPa以上であることを特徴とする、焼入用溶融亜鉛系めっき鋼板が提供される。
【0013】
本発明によればまた、上記鋼組成を持つ鋼板からなる基材を、連続溶融亜鉛めっき設備において、めっき前の最高加熱温度が(Ac1点+10℃)以上、(Ac1点+80℃)以下で、前記最高加熱温度から溶融亜鉛系めっき浴浸漬までの平均冷却速度が前記基材の臨界冷却速度未満となる条件で溶融亜鉛系めっきを施すめっき工程を含むことを特徴とする溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法も提供される。
【0014】
前記基材は、好ましくは、仕上温度:Ar3 点以上、巻取温度: 560〜650 ℃の条件で熱間圧延された熱延または冷延鋼板である。
或いは、めっき工程の前に、前記基材を非酸化性雰囲気中で(Ac1点−50℃)以上、(Ac1点+30℃)以下の温度範囲にて1〜10時間均熱した後、3〜20℃/hの冷却速度で冷却する焼鈍工程をさらに含むことが好ましい。
【0015】
本発明によればさらに、上記溶融亜鉛系めっき鋼板、または上記方法により製造された溶融亜鉛系めっき鋼板、を所定の形状に成形し、次いで所定の部位に、好ましくは 800〜1000℃の温度から焼入処理を施すことを特徴とする、焼入強化部材の製造方法も提供される。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明を詳しく説明する。以下の説明で、合金元素の含有量に関する「%」は「質量%」を表す。
【0017】
本発明において、「溶融亜鉛系めっき鋼板」とは、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、および溶融亜鉛合金めっき鋼板 (例、溶融5%Al−Zn合金めっき鋼板) を包含する。以下では、主に合金化溶融亜鉛めっき鋼板を対象にして本発明を説明するが、めっき後の合金化処理を省略して、溶融亜鉛めっき鋼板としてもよく、あるいは溶融亜鉛浴の代わりに溶融亜鉛合金浴をめっき浴として使用し、溶融亜鉛合金めっき鋼板としてもよく、これらの変更は当業者であれば容易になしうる。
【0018】
1. 基材(以下、「鋼板」ともいう)の鋼組成
C: 0.1 〜 0.3 %
Cは、鋼板の焼入性を高め、かつ焼入後強度を主に決定する、非常に重要な元素である。さらに、Ac3 点を下げ、焼入処理温度の低温化を促進する元素でもある。しかし、C含有量が0.1 %未満では、その効果は十分ではない。一方、C含有量が0.3 %を超えると、焼入部の靱性劣化を招く。好ましいC含有量は0.12〜0.24%である。
【0019】
Mn : 0.5 〜 3.0 %
Mnも、Cと同様に、鋼板の焼入性を高め、かつ焼入後強度を安定して確保するのに非常に効果のある元素である。さらに、Ac3 点を下げ、焼入処理温度の低温化を促進する元素でもある。しかし、Mn含有量が0.5 %未満ではその効果は十分ではない。一方、Mn含有量が3.0 %を超えると、その効果は飽和し、さらに焼入部の靱性劣化を招く。好ましいMn含有量は0.8 %以上、2.0 %未満であり、より好ましいMn含有量は 1.0〜1.8 %である。
【0020】
Cr : 0.1 〜 0.5 %
Crも、鋼板の焼入性を高め、かつ焼入後強度を安定して確保するのに効果のある元素であるが、それ以上に、CGL処理後の鋼板の低強度化に非常に有効な元素である。しかし、Cr含有量が0.1 %未満ではその効果は十分ではない。一方、Cr含有量が0.5 %を超えると、その効果は飽和し、いたずらにコスト増を招く。好ましいCr含有量は0.15〜0.30%である。Crの効果については、後でより詳細に説明する。
【0021】
Ti:0.01〜0.1 %
Tiも、鋼板の焼入性を高め、かつ焼入後強度を安定して確保するために効果のある元素である。さらに、焼入部の靱性も向上させる効果を有する。本発明では、Crに加えてTiも添加することで、CGL処理後のプレス成形性と低温焼入性を両立させることが可能となる。しかし、Ti含有量が0.01%未満では、その効果は十分ではない。一方、Ti含有量が0.1 %をこえると、その効果は飽和し、いたずらにコスト増を招く。好ましいTi含有量は 0.015〜0.03%である。
【0022】
B: 0.0002 〜 0.004 %
Bは、鋼板の焼入性を高め、かつ焼入後強度の安定確保をさらに高める重要な元素である。しかし、B含有量が0.0002%未満ではその効果は十分ではない。一方、B含有量が0.004 %を超えると、その効果は飽和し、かつコスト増を招く。好ましいB含有量は0.0005〜0.0025%である。
【0023】
Si : 0.01 〜 0.5 %
Siは、溶融亜鉛のめっき濡れ性を阻害し、めっきの合金化速度を遅くする元素である。めっき濡れ性を確保するためには、0.5 %以下にする必要がある。またSiを低減させると合金化速度が速くなるため、合金化炉温を低下したり、通板速度を増加させることができ、生産性が向上する。しかし過度の低Si化は、耐パウダリング性を劣化させるので、下限を0.01%とする。好ましい範囲は0.02〜0.1 %、さらに好ましい範囲は0.02〜0.05%である。
【0024】
P: 0.003 〜 0.05 %
Pは、めっきの合金化速度を遅くする元素であるため、0.05%以下にする必要がある。Pを低減させると合金化速度が速くなるため、合金化炉温を低下したり、通板速度を増加させることができ、生産性が向上する。しかし過度の低P化は、耐パウダリング性を劣化させるので、下限を0.003 %とする。好ましい範囲は0.005 〜0.015 %以下、さらに好ましい範囲は0.005 〜0.010 %である。
【0025】
S: 0.05 %以下、 Ni :2%以下、 Cu :1%以下、 Mo :1%以下、V:1%以下、 Nb :1%以下、 Al :1%以下、N: 0.01 %以下
これらの元素も、鋼板の焼入性を高めかつ焼入後強度の安定確保に効果の有る元素である。しかし、上に示した上限値以上に含有させてもその効果は小さく、かついたずらにコスト増を招くか、逆に弊害が出るため、各合金元素の含有量は上述の範囲とする。
【0026】
上記元素のうち、S、Al、およびNは一般に鋼中に普通に含有される元素であるので、上限が上記範囲となるように存在させる。好ましい含有量は、Sは0.01%以下、Alは0.1 %以下、Nは0.005 %以下である。
【0027】
残りのNi、Cu、Mo、V、Nbは、1種または2種以上を添加しうる。これらの添加効果を十分に得るには、いずれも0.005 %以上の量で添加することが好ましい。添加量の好ましい上限は、いずれの元素も0.2 %である。2種以上添加する場合の合計量は1%以下にすることが好ましい。
【0028】
2 .溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法
めっきの基材鋼板としては、熱延鋼板と冷延鋼板のいずれを使用してもよい。
熱間圧延:
熱間圧延は、圧延の安定性の観点から、オーステナイト域 (即ち、仕上げ温度がAr3 点以上) で行う。熱間圧延後の巻取温度が低くなりすぎると、マルテンサイト組織が出現し、強度が上昇して、連続溶融亜鉛めっきラインの通板や冷間圧延が困難になり、得られた溶融亜鉛めっき鋼板の成形性も劣化する。一方、巻取温度が高すぎると、酸化スケールが厚くなり、引き続き行う酸洗の効率が低下したり、また、酸洗を行わず直接めっきする場合は、めっき密着性が劣化する。従って、巻取温度は 560〜650 ℃とする。より好ましくは 580〜630 ℃である。また、この温度範囲で巻取処理を行うことにより、セメンタイト中へのCr濃化が促進され、セメンタイトが安定し、後述するCrの効果が顕著となる。
【0029】
なお、後述する焼鈍処理をCGL処理に先立って施す場合には、溶融亜鉛めっき鋼板の成形性は巻取温度の影響を受けなくなるので、かかる観点から巻取温度の下限が限定されることはない。例えば、焼鈍処理前に冷間圧延を施す場合には、冷間圧延が可能な巻取温度を採用すればよい。
【0030】
冷間圧延:
冷延鋼板とする場合の冷間圧延は常法によって行うことができる。本発明の鋼板はC量やMn量が多いため、過度の圧下率で冷間圧延するとミルの負担が大きくなる。また、加工硬化により冷間圧延後の強度が高くなりすぎると、連続溶融亜鉛めっきラインにてコイル接続時の溶接強度やライン通板能力が問題となる。従って、圧下率は80%以下が好ましく、さらに70%以下が好ましい。冷間圧延はコスト増となるので、熱間圧延で製造可能な板厚、板幅の鋼板については、冷間圧延を省略し、熱間圧延ままの鋼板を用いるのが好ましい。
【0031】
このようにして製造された熱延鋼板と冷延鋼板のいずれについても、鋼板組織は通常は主にフェライト相(または加工歪みが蓄積したフェライト相)+セメンタイト相から構成される。
【0032】
CGL ( 溶融亜鉛めっき+合金化 ) 処理:
溶融亜鉛めっき鋼板は、加熱炉、冷却ゾーン、溶融亜鉛浴および合金化炉が連続して配置された連続溶融亜鉛めっき設備 (連続溶融亜鉛めっきライン) を利用して製造されるのが普通である。
【0033】
本発明で使用するようなC及びMn量が多い鋼組成の鋼板の場合、連続溶融亜鉛めっきラインを通してCGL処理を施すと、処理後の鋼板の引張強さが500 MPa 以上となりやすく、成形性が劣化するという問題が発生する。この問題を解決するのに有効な手段は、連続溶融亜鉛めっきラインにおけるヒートパタンの最適化とCrの適正添加である。
【0034】
連続溶融亜鉛めっきラインのめっき前の加熱炉における最高加熱温度 (この温度はCGL処理中の最高加熱温度でもあるので、以下ではCGL処理時の最高加熱温度ともいう) は、通常はAc1 点以上に設定されている。これは鋼板(主にフェライト相)の回復、再結晶が促進され、鋼板が軟質化することが期待されるためである。しかし、C量やMn量の多い鋼板では、鋼板の回復、再結晶の進行とともに、セメンタイト相から優先的にオーステナイト相が出現する。そして冷却速度が速い場合、オーステナイト相がベイナイト相またはマルテンサイト相に変態し、その結果、鋼板の強度が高くなりやすい。
【0035】
しかし、本発明では、Crを添加することで、セメンタイト相からオーステナイト相への逆変態を抑制することができる。これは、セメンタイト相中にCrが多量に固溶しているため、オーステナイト相への逆変態がCrの拡散律速になるためである。従って、Crの添加により、オーステナイト相への逆変態が抑制され、フェライト相の回復、再結晶が主として進行し、鋼板の軟質化が促進される。
【0036】
しかし、CGL処理時の最高加熱温度が(Ac1+80℃)以上になると、セメンタイト相からオーステナイト相への逆変態が進行しやすくなり、オーステナイト相が多量に出現する。このオーステナイト相からのマルテンサイト相やベイナイト相への変態を抑制するためには、冷却速度は極力遅い方が望ましく、少なくともその鋼の臨界冷却速度未満であることが必要である。しかし、冷却速度を遅くするのは実操業上限界があるため、オーステナイト相からのマルテンサイト相やベイナイト相への変態を完全に抑制することができない。従ってオーステナイト相への逆変態を効率よく抑制するために、CGL処理において、めっき前の最高加熱温度を(Ac1+80℃)以下にし、かつ、この最高加熱温度からめっき浴浸漬までの平均冷却速度を鋼板の臨界冷却速度未満となるようにする。
【0037】
一方、最高加熱温度を(Ac1点+10℃)未満に設定した場合、鋼板の回復は進行するが、再結晶が起きにくいため、鋼板の軟質化(引張強さ500 MPa 以下)はかなり困難であるので、最高加熱温度の範囲は、(Ac1点+10℃)以上、かつ(Ac1+80℃)以下である。このようなめっき前のヒートパタン (最高加熱温度と冷却速度) および鋼板へのCr添加によって、CGL処理後の引張強さが500 MPa 以下と良成形性の溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができる。
【0038】
溶融亜鉛めっき段階では、常法により、溶融した亜鉛または亜鉛合金めっき浴に鋼板を浸漬した後、引き上げる。めっき付着量の制御は、引き上げ速度やノズルより吹き出すワイピングガスの流量調整により行う。
【0039】
合金化処理段階では、めっき浴から出た溶融亜鉛めっき鋼板を、合金化炉内で酸化性雰囲気中にて加熱する。合金化炉は、ガス炉や誘導加熱炉等でよい。この加熱中に、めっき層表面の酸化ばかりでなく、めっき層と基材の鋼板との間で金属拡散が行われ、合金化が進行する。このときの加熱温度は、500 ℃以上、Ac1 点以下とすることが好ましく、550 ℃以上、650 ℃以下とすることがさらに好ましい。
【0040】
めっきに先立って行う加熱の前に、基材の鋼板を均熱炉での加熱と徐冷により焼鈍処理してもよい。この焼鈍処理は、セメンタイト球状化を促進し、CGL処理前の基材鋼板強度を低下させ、かつセメンタイト中へのCr濃化も促進させるため、CGL処理後の低強度化 (良成形性確保) をさらに進行させる。
【0041】
焼鈍温度 (均熱炉での加熱温度) が(Ac1点−50℃)より低いと、上記効果は低くなる。一方、焼鈍温度が(Ac1点+30℃)より高いと、セメンタイトの再固溶−逆変態が進行し過ぎ、その後の冷却過程でパーライト変態が生じやすくなって、上記効果はやはり低くなる。従って、焼鈍温度は(Ac1点−50℃)以上、かつ(Ac1点+30℃)以下の温度範囲とする。均熱時間は、1時間未満では上記効果が十分には得られず、10時間を超えても効果は飽和し、いたずらにエネルギーの浪費を招くので、1〜10時間とする。
【0042】
均熱処理後の冷却過程では、冷却速度が速いとパーライト変態が生じるため、できるだけ遅いほうが好ましい。しかし遅すぎると処理効率の低下をいたずらに招くだけであるため、冷却速度は3〜20℃/hとする。焼鈍処理時の炉内雰囲気は鋼板表面の酸化を防止するため、非酸化性雰囲気とするが、窒素ガスの混入が少なく、露点のできるだけ低い、水素を95容積%以上含むガスが好ましい。
【0043】
なお、この焼鈍工程は、溶融亜鉛めっき工程の直前に行う必要はなく、熱間圧延または冷間圧延の後に行ってもよい。
CGL処理後に、鋼板の平坦矯正や表面粗度の調整の目的で、調質圧延を行ってもよい。
【0044】
3 .溶融亜鉛めっき鋼板の特性
上記基材鋼板に上記方法によりCGL処理を施すことにより製造された本発明に係る溶融亜鉛めっき鋼板は、CGL処理後も引張強さが500 MPa 以下と良成形性を保持している。従って、プレス成形により容易に所定形状に加工することができる。
【0045】
しかし、この鋼板は成形性と同時に焼入性にも優れており、850 ℃という低い焼入温度で焼入処理した場合でも、引張強さ1200 MPa以上まで高強度化され、場合により1400 MPa以上、さらには1600 MPa以上にまで高強度化することもある。850 ℃という温度は亜鉛の沸点より低いため、焼入処理による耐食性の劣化を実質的に防止することができる。
【0046】
焼入処理は、急速加熱および急速冷却を達成できる方法であれば、どのような方法を採用してもよい。例えば、高周波加熱焼入法や通電加熱焼入法等が挙げられる。冷却は、水冷と空冷のいずれでもよい。
【0047】
4 .焼入強化部材の製造方法
上記方法で製造された本発明に係る溶融亜鉛めっき鋼板は、良加工性と低温焼入性とを兼ね備えるため、成形後に焼入を行う焼入強化部材 (例、自動車ボディーのパーツ) の製造に適している。
【0048】
その場合、成形はプレス成形により行うことができるが、ロール成形等の他の成形方法を単独で、またはプレス成形と併用して利用することもできる。
得られた成形部材の強化が必要な箇所に焼入を施す。焼入は、成形品の一部または全体に適用することができる。焼入温度 (焼入のための最高加熱温度) は、鋼板のAc3 点以上 (通常は 800℃以上) 、1000℃以下とすることが好ましく、より好ましくは 800〜950 ℃、最も好ましくは 800〜900 ℃である。亜鉛の沸点は907 ℃であるが、特開平2000−248338号にも記載されているように、加熱時間が短い焼入処理の場合、最高加熱温度が1000℃以下であれば、耐食性の劣化はかなり防止される。しかし、亜鉛の沸点より低い900 ℃以下で焼入を実施すれば、めっきの損耗による耐食性の劣化はより確実に防止され、耐食性をより確実に確保することができる。
【0049】
本発明では、上述したように、850 ℃での焼入処理によって1200 MPa以上の引張強さを確保することができるので、900 ℃以下で焼入処理を施すことによって、めっき鋼板の耐食性を確保しつつ、成形部材の必要箇所に実用上十分な高強度を付与することができる。
【0050】
【実施例】
めっき基材として、表1に示した鋼組成を有し、表2に示す条件で熱間圧延を受けた冷延鋼板(板厚:1.2 mm) を作製した。これらの鋼板は、実験室にて溶製したスラブを、表2に示した仕上温度および巻取温度の条件で熱間圧延した後、冷間圧延または冷間圧延後に表2に示した焼鈍処理を施して作製した。冷間圧延の圧下率は75%であった。
【0051】
それらの鋼板に、図1に示したヒートパタン(最高加熱温度は表2の通り)に従って、CGL処理 (溶融亜鉛めっき及び合金化処理) を行って、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(片面当たりの亜鉛付着量:45 g/m2)を製造した。図中、460 ℃×22S の部分が溶融亜鉛めっき浴への浸漬を意味する。
【0052】
得られた溶融亜鉛めっき鋼板 (より正確には合金化溶融亜鉛めっき鋼板) から、JIS 5号引張試験片を採取し、引張強さを測定した結果を表2に併記する。なお、CGL処理で得られた溶融亜鉛めっき鋼板の引張強さ (表2の「焼入前の引張強さ」) が500 MPa を超えていたものは、プレス成形性が悪く、本発明の対象外であるため、そこで試験を中止し、塗膜密着性や塗装後耐食性は試験しなかった。
【0053】
CGL処理後 (焼入前) の引張強さが500 MPa 以下であった溶融亜鉛めっき鋼板について、幅100 mm×長さ500 mmの大きさの試験片を用いて、図2に示すようにして、所定の温度に高周波加熱したのち、直ちに急冷することにより、試験片の全体に焼入処理を施した。図3に、この焼入処理時の温度履歴例を示す。焼入処理した試験片から、各種試験片(JIS 5号引張試験片、塗膜密着性試験片、塗装後耐食性試験片)を採取し、それぞれの試験を行った結果を表2に示す。この場合も、焼入後の引張強さが1200 MPaより低かったものは本発明の対象外であるため、そこで試験を中止し、塗膜密着性や塗装後耐食性は試験しなかった。
【0054】
別に、表2の試験No. 1の溶融亜鉛めっき鋼板に対して、図4に示すように、ハット型にプレス成形した後、部分高周波焼入(焼入温度850 ℃)を施した。その焼入部位から各種試験片(JIS1 3B 引張試験片、塗膜密着性試験片、塗装後耐食性試験片)を採取し、それぞれの試験を行った。結果を表3に示す。
【0055】
塗膜密着性試験及び塗装後耐食性試験の試験方法は次の通りである。
(1)塗膜密着性試験
溶融亜鉛めっき鋼板の試験片に、日本パーカライジング製PBL-3080を用いて通常の化成処理条件により燐酸亜鉛処理したのち、関西ペイント製電着塗料GT-10 を電圧200 Vのスロープ通電で電着塗装し、焼付け温度150 ℃で20分焼付け塗装した。塗膜厚みは20μmであった。
【0056】
得られた塗装試験片を、50℃のイオン交換水に浸漬し、240 時間後に取り出して、カッターナイフで1mm幅の碁盤目状に傷を入れ、ニチバン製のポリエステルテープで剥離テストを行った。塗膜の残存マス数を比較して、塗膜密着性を評価した。全マス数は100 個であった。評価基準は、残存マス数90〜100 個を良好:評価記号○、0 〜89個を不良:評価記号×とした。
【0057】
(2)塗装後耐食性試験
溶融亜鉛めっき鋼板の試験片に上記(1) と同様に燐酸亜鉛処理と電着塗装を施して得た塗装試験片の塗膜に、カッターナイフで鋼板素地に達するスクラッチ傷を入れた後、JIS Z2371 に規定された塩水噴霧試験を480 時間行った。傷部からの塗膜膨れ幅および錆幅を測定し、塗装後耐食性を評価した。評価基準は、錆幅、塗膜膨れ幅のいずれか大きい方の値で、0mm以上〜4mm未満を良好:評価記号○、4mm以上を不良:評価記号×とした。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
【表3】
【0061】
表1、2に示すように、鋼組成が本発明の範囲内で、かつ製造条件も本発明の範囲内である試験No.1〜6では、CGL処理後の引張強さは全て500 MPa 以下で、成形性が良好であり、かつ焼入温度850 ℃で得られる引張強さは全て1200 MPa以上と高く、プレス成形性と低温焼入による高強度化とが両立していた。また、焼入後も含めて、塗膜密着性及び塗装後耐食性が良好であった。
【0062】
さらに、表3に示すように、ハット型成形品を部分高周波焼入した場合も、焼入部の引張強さは1200 MPa以上であり、かつ、塗膜密着性及び塗装後耐食性も良好であった。表2の試験No.1と比べると、部分焼入でも、全体焼入に近い高強度化が達成されている。
【0063】
試験No.7〜9 に示すように、CGL処理時の最高加熱温度が本発明で規定するより高すぎるか、低すぎる場合、または熱間圧延時の巻取温度が低すぎると、いずれもCGL処理後に得られる溶融亜鉛めっき鋼板の引張強さ (焼入前の引張強さ) が500 MPa を超える高さとなり、成形性が不良となる。鋼組成が本発明の範囲外である鋼板は、熱間圧延条件やCGL処理条件が本発明の範囲内であっても、焼入前の引張強さが500 MPa を超えるか、または焼入後の引張強さが1200 MPaより低く、成形性と低温焼入性が両立したものはなかった。
【0064】
【発明の効果】
本発明によれば、溶融亜鉛めっき処理後の引張強さが500 MPa 以下と、十分なプレス成形性を有し、かつ低温で焼入しても高強度化が可能な焼入性に優れた、成形後の部分焼入に適した焼入用亜鉛系めっき鋼板と焼入強化部材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例におけるCGL処理に採用したヒートパタンを示す。
【図2】実施例で採用した、試験片全体を高周波焼入する方法を示す模式図である。
【図3】上記高周波焼入における焼入温度履歴の例を示す。
【図4】実施例で採用した、ハット型成形品の高周波による部分焼入の方法を示す模式図である。
Claims (10)
- 質量%で、C:0.1〜0.3%、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.8〜3.0%、P:0.003〜0.05%、S:0.05%以下、Cr:0.1〜0.5%、Ti:0.01〜0.1%、Al:1%以下、B:0.0002〜0.004%、N:0.01%以下を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼組成を持つ鋼板を基材とする焼入用溶融亜鉛系めっき鋼板であって、焼入処理前の引張強さが500MPa以下、850℃からの焼入処理後の引張強さが1200MPa以上であることを特徴とする、焼入用溶融亜鉛系めっき鋼板。
- 質量%で、C:0.1〜0.3%、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.003〜0.05%、S:0.05%以下、Cr:0.1〜0.5%、Ti:0.01〜0.1%、Al:1%以下、B:0.0002〜0.004%、N:0.01%以下を含有し、Cu:1%以下、Ni:2%以下、Mo:1%以下、V:1%以下、およびNb:1%以下から選ばれた1種または2種以上をさらに含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼組成を持つ鋼板を基材とする焼入用溶融亜鉛系めっき鋼板であって、焼入処理前の引張強さが500MPa以下、850℃からの焼入処理後の引張強さが1200MPa以上であることを特徴とする、焼入用溶融亜鉛系めっき鋼板。
- 前記基材が、仕上温度:Ar3点以上、巻取温度:560〜650℃の条件で熱間圧延された熱延または冷延鋼板である、請求項1または2に記載の焼入用溶融亜鉛系めっき鋼板。
- 質量%で、C:0.1〜0.3%、Si:0.01〜0.5%、Mn:0.5〜3.0%、P:0.003〜0.05%、S:0.05%以下、Cr:0.1〜0.5%、Ti:0.01〜0.1%、Al:1%以下、B:0.0002〜0.004%、N:0.01%以下を含有し、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼組成を持ち、仕上温度:Ar3点以上、巻取温度:560〜650℃の条件での熱間圧延を経た熱延または冷延鋼板からなる基材を、連続溶融亜鉛めっき設備において、めっき前の最高加熱温度が(Ac1点+10℃)以上、(Ac1点+80℃)以下で、前記最高加熱温度から溶融亜鉛系めっき浴浸漬までの平均冷却速度が前記基材の臨界冷却速度未満となる条件で溶融亜鉛系めっきを施すめっき工程を含むことを特徴とする、溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
- 請求項2に記載の鋼組成を持ち、仕上温度:Ar 3 点以上、巻取温度:560〜650℃の条件での熱間圧延を経た熱延または冷延鋼板からなる基材を、連続溶融亜鉛めっき設備において、めっき前の最高加熱温度が(Ac 1 点+10℃)以上、(Ac 1 点+80℃)以下で、前記最高加熱温度から溶融亜鉛系めっき浴浸漬までの平均冷却速度が前記基材の臨界冷却速度未満となる条件で溶融亜鉛系めっきを施すめっき工程を含むことを特徴とする、溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
- 請求項1または2に記載の鋼組成を持つ鋼板からなる基材を、非酸化性雰囲気中で(Ac1点−50℃)以上、(Ac1点+30℃)以下の温度範囲にて1〜10時間均熱した後、3〜20℃/hの冷却速度で冷却する焼鈍工程と、焼鈍後の基材を、連続溶融亜鉛めっき設備において、めっき前の最高加熱温度が(Ac1点+10℃)以上、(Ac1点+80℃)以下で、前記最高加熱温度から溶融亜鉛系めっき浴浸漬までの平均冷却速度が前記基材の臨界冷却速度未満となる条件で溶融亜鉛系めっきを施すめっき工程とを含むことを特徴とする、溶融亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
- 前記めっき工程において、めっき浴から出た鋼板を加熱する合金化処理が行われる、請求項4〜6のいずれかに記載の方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の溶融亜鉛系めっき鋼板を所定の形状に成形し、次いで所定の部位に焼入処理を施すことを特徴とする、焼入強化部材の製造方法。
- 請求項4〜7のいずれかに記載の方法により製造された溶融亜鉛系めっき鋼板を所定の形状に成形し、次いで所定の部位に焼入処理を施すことを特徴とする、焼入強化部材の製造方法。
- 前記焼入処理の加熱温度が800〜1000℃の範囲である、請求項8または9に記載の方法。
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