JP3883985B2 - 銅基低熱膨張高熱伝導部材の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、Siチップやセラミックス基板等と同等の熱膨張係数とともに、高い放熱性が要求されるヒートシンクに好適な銅基低熱膨張高熱伝導部材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ヒートシンク等の低い熱膨張係数と、高い放熱性が要求される部材には、銅−モリブデン系、銅−タングステン系の材料が用いられている。
これらの材料は銅の高い熱伝導率と、モリブデンやタングステンの低い熱膨張率を兼ね備えさせることを目的としたもので、例えば特開昭62−284032号公報では、銅粉末とモリブデン粉末との混合粉末を圧粉成形した後、銅の液相が発生する温度で液相焼結して、銅マトリックスにモリブデン相が分散する組織の材料とすることが開示されている。また、特開昭59−21032号公報には、モリブデンまたはタングステンの粉末を高温で焼結してスケルトンを構成した後、銅溶浸を施して、モリブデンまたはタングステンのスケルトン中に銅が分散した材料が開示されている。
【0003】
また、一方で、熱伝導性が高い銅に、熱膨張係数が小さく不変鋼とも呼ばれるインバー合金やスーパーインバー合金を分散させた材料が特開平2−213452号公報や特開平9−13102号公報等で開示されている。
【0004】
【特許文献1】
特開昭62−284032号公報
【特許文献2】
特開昭59−21032号公報
【特許文献3】
特開平2−213452号公報
【特許文献4】
特開平9−13102号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記特許文献1、2のような材料は、原料とするモリブデン粉末やタングステン粉末が高価であるため、材料費自体が嵩むことが大きな問題である。また、前者の場合には、液相焼結するため、変形しやすく、寸法バラツキが大きいため、焼結後に、加工が必要であるが、モリブデンは硬く、加工性が低いという欠点を有しており、このような相が分散する材料も加工性は低いという問題を有している。また、後者の場合は、スケルトンの全ての隙間に銅を溶浸することが難しいため、熱伝導性が劣るとともに品質にバラツキが生じやすく、また予め高温焼結した後、銅を溶浸するため工程費が嵩むものである。さらに、加工性の問題については前者と同様である。
【0006】
さらに両者に共通であるが、ヒートシンクはハンダ付けのためニッケルメッキが施される場合があるが、機械加工後、モリブデンやタングステンが露出するためニッケルメッキを施し難いという欠点も有する。
【0007】
また、上記特許文献3には、焼結温度が800℃以上であることが記載され、上記特許文献4には、750℃以上で焼結した場合にインバー成分がCu中に拡散して熱伝導性が劣化するため、インバー合金粉末表面に拡散防止被膜を設けることを骨子としており、インバー合金粉末と銅粉末の焼結が難しいことを示している。
【0008】
本発明は、モリブデンやタングステンのような高価な材料を使用せずに、寸法精度がよく、加工性に優れ、さらに、ニッケルメッキが可能な高熱伝導部材を提供するにあたり、銅系マトリックス中にインバー合金が分散する焼結材料の簡便な改良された製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の銅基低熱膨張高熱伝導部材の製造方法は、銅粉末に、100℃までの熱膨張係数が6×10-6/K以下の鉄基合金粉末を、質量比で5〜60%を添加し、混合した混合粉末を用い、相対密度で93%以上に圧縮成形した後、400〜600℃で焼結することを特徴とする。
また、前記銅粉末が、−100メッシュの粉末で、かつ粒径50μm以上の粉末の含有量が60%以下の粉末であるとともに、前記鉄基合金粉末が、−100メッシュで、かつ、粒径50μm以下の粉末の含有量が60%以下の粉末であることを特徴とする。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明は、100℃までの熱膨張係数が6×10-6/K以下の鉄基合金粉末が分散するとともに、鉄基合金粉末表面が僅に、マトリックスと拡散して強固に結合した金属組織を呈する銅基低熱膨張高熱伝導部材を製造することを目的とする。
【0011】
このような銅マトリックスと鉄基合金粉末の拡散状態を形成するために、焼結は400〜600℃の温度範囲で行う必要がある。すなわち、焼結温度が400℃より低いと銅マトリックス自体が十分に拡散されず、熱伝導性および強度が劣ることになり、600℃を越えると鉄基合金粉末が銅マトリックス中に必要以上に拡散して、熱膨張の抑制機能および銅マトリックスの熱伝導率が低下することとなる。特に、鉄基合金粉末として、ニッケルを含む鉄基合金を用いる場合、銅とニッケルは全率固溶であるので、ニッケルの銅マトリックスへの拡散が著しくなり、これらの不具合の度合が大きい。
【0012】
また、鉄基合金粉末のマトリックスへの拡散を抑制することを目的とした400〜600℃の焼結温度では、ほとんど緻密化しない。このため、マトリックスの熱伝導率を高くするためには、予め相対密度で93%以上に圧縮成形しておく必要がある。一方で、銅の液相が発生しないため、寸法精度も優れるという利点も有する。
【0013】
上記の100℃までの熱膨張係数が6×10-6/K以下の鉄基合金としては、インバー(Fe−36Ni)、スーパーインバー(Fe−31Ni−5Co)、ステンレスインバー(Fe−52.3Co−10.4Cr)、コバール(Fe−29Ni−17Co)、42アロイ(Fe−42Ni)等の合金や、Fe−17B合金等がある。これらの合金は上記のモリブデンやタングステンに比べて安価であり、加工性にも優れたものである。
【0014】
上記の鉄基合金粉末は、マトリックス中の分散量が多くなるにしたがい、熱膨張抑制の効果が大きくなるが、マトリックスの量の減少にしたがい、熱伝導性は低下する。鉄基合金粉末は、質量比で5%未満であると、熱膨張抑制の効果が乏しく、60%を越えるとマトリックスが少なくなり、マトリックスのCuの連続性が著しく低下するため熱伝導性が低下する。また、前記のような100℃までの熱膨張係数が6×10-6/K以下の鉄基合金どうしは、上記温度範囲ではほとんど焼結しないため結合性が低く、一層熱伝導性が低下することとなる。以上より、鉄基合金粉末の添加量は、5〜60%の範囲にする必要がある。
【0015】
このような低熱膨張高熱伝導複合部材は、銅粉末に、上記鉄基合金粉末を、質量比で5〜60%を添加混合した混合粉末を用いて、圧縮成形した後、上記温度で焼結することで容易に製造することができる。
【0016】
上記のようなマトリックスを構成する銅粉末は微粉末を用いることによりネック形成部を増加させ拡散を進行させることができる。さらに、銅粉末の粒度分布を鉄基合金粉末の粒度分布より細かくすることによって、マトリックスである銅の連続性は高まり、熱伝導性を向上させることができる。このことを前提とした上で、全体の粒度が細かくなりすぎると、粉末の流動性の低下や型かじり等の不具合が発生するだけでなく、鉄基合金粉末のネック形成部が増加することにより、マトリックスへの拡散量が多くなり、マトリックスの熱伝導性の低下や、鉄基合金粉末の成分組成が変化することによる熱膨張抑制作用の低下が生じる。一方、全体の粒径が逆に大きくなりすぎると、マトリックス中に均一に分散できなくなるため、局部的に熱膨張抑制の効果が弱まる箇所が生じ、効果的に熱膨張を抑制できなくなる。
【0017】
これらのことから鉄基合金粉末として、−100メッシュ(100メッシュ篩通過)のものが好ましく、かつ、粒径50μm以下の粉末の含有量が60%以下の粉末を用いることが一層好ましい。粒度構成として、50μm以下の粉末が60%を越えるような鉄基合金粉末は、微粉の量が多く、熱伝導性が低くなる。また、マトリックス用の銅粉末としては、上記鉄基合金粉末よりも粒度が小さくなるように、−100メッシュの粉末で、かつ粒径50μm以上の粉末の含有量が60%以下の粉末を用いることが好ましい。このように鉄基合金粉末とマトリックス粉末の粒度を調整することによって、より一層の効率的な熱伝導と熱膨張抑制の作用が得られる。
【0018】
【実施例】
<実施例1>
(鉄基合金粉末の熱膨張係数、添加量、焼結温度の影響)
表1に示す100℃までの熱膨張係数の値を有し、50μm以下の粉末を40%含有するような粒度構成に調整した−100メッシュの鉄基合金粉末を用意した。
【0019】
【表1】
【0020】
−100メッシュで粒径50μm以上の粉末を40%含有するように調整した銅粉末に、これらの鉄基合金粉末を、表2に示す配合割合で添加し、1470MPaで圧粉成形した後、アンモニア分解ガス雰囲気中、表2に示す温度で焼結を行い試料番号01〜31の試料を作製した。これらの試料につき、熱伝導率と、熱膨張係数について測定した結果を表2に併せて示す。また表2の測定結果について、グラフ化したものを図1〜4に示す。
【0021】
【表2】
【0022】
表2の試料番号01〜09は銅粉末に対して鉄基合金粉末(Fe−36Ni)の添加量を変えたものである。これらの試料を比較することによって、鉄基合金粉末の添加量が熱伝導率と熱膨張係数に及ぼす影響がわかる。これをグラフ化したのが図1である。これらより、鉄基合金粉末の添加量が5質量%の試料02は、無添加(銅100%)の試料01に比べて、熱伝導率および熱膨張係数が小さい値を示し、熱膨張係数が改善されていることがわかる。
また、鉄基合金粉末の添加量が増加するにしたがって熱伝導率および熱膨張係数は低下する傾向を示すことがわかる。しかし、鉄基合金粉末の添加量が60質量%を越える試料09では、熱膨張係数が逆に増加している。これは、500℃の焼結温度では焼結により結合していない鉄基合金粉末が多く、銅の膨張を抑制しきれないで熱膨張係数が増加傾向に転じたものと考えられる。すなわち、銅粉末と接触している鉄基合金粉末は表層で結合しているが、鉄基合金粉末どうしは結合していないため、銅の熱膨張に際して、結合していない鉄基合金粉末どうしの界面でずれが生じて熱膨張抑制の効果が得られなかったと考える。
【0023】
また、試料番号10〜14、15〜19、20〜24は鉄基合金粉末(Fe−36Ni−5Co)の添加量がそれぞれ30質量%、40質量%および50質量%において、焼結温度を変えたものである。これらの試料を比較することにより、焼結温度が熱伝導率と熱膨張係数に及ぼす影響がわかる。これをグラフ化したものが図2および図3である。これらより、焼結温度が上昇するとともに、熱伝導率は400℃、500℃から600℃にかけて低下する傾向を示し、1000℃では、著しく低下することがわかる。一方、熱膨張係数は、400から500℃で低下した後、それ以上の温度で増加する傾向を示し、1000℃では著しい増加を示すことがわかる。これは、1000℃の焼結温度では、銅粉末と鉄基合金粉末どうしが拡散し、特性が劣化したためと考える。なお、焼結温度300℃では、マトリックスの焼結が進行しておらず、強度が乏しいものであった。以上の傾向は鉄基合金粉末の添加量に依らずいずれも同様の傾向を示しており、これらのことから、焼結温度は400〜600℃の範囲の範囲が適切であることがわかる。
【0024】
さらに、試料番号06、17、26、29、31は組成の異なる鉄基合金粉末を40質量%添加し、500℃で焼結したものである。これらの試料を比較することにより鉄基合金粉末の種類が熱伝導率と熱膨張係数に及ぼす影響がわかる。これをグラフ化したものが図4である。これらのいずれの試料においても100℃までの熱膨張係数が6×10-6/K以下の鉄基合金粉末であると鉄基合金粉末の種類による熱伝導率の変化はほとんどなく、かつ熱膨張係数は小さく抑制されていることがわかる。
【0025】
以上より、銅マトリックス中に、100℃までの熱膨張係数が6×10-6/K以下の鉄基合金粉末が、質量比で、5〜60%分散し、400〜600℃で焼結した試料は熱伝導率が著しく低下することなく、かつ熱膨張係数は小さいことが確認された。
【0026】
<実施例2>
(粒度構成の影響)
−100メッシュの銅粉末と、鉄基合金粉末として−100メッシュのFe−36Ni粉末を用い、表3の試料番号06、32〜39に示す割合のものを1470MPaで圧粉成形した後、アンモニア分解ガス雰囲気中、500℃で焼結を行った。これらの試料につき、熱伝導率と、熱膨張係数について測定した結果を表3に併せて示す。
【0027】
【表3】
【0028】
試料番号06、32〜36は、50μm以上の粉末の量が60%の銅粉末に対して、50μm以下の粉末の量の異なる鉄基合金粉末を配合したものである。これらを比較することで、鉄基合金粉末の50μm以下の粉末の含有量の熱膨張係数および熱伝導率への影響がわかる。表3より、熱膨張係数は一定であるが、鉄基合金粉末の50μm以下の粉末の量が減少するにつれ熱伝導率は向上していることがわかる。特に、50μm以下の粉末が60%以下の試料では熱伝導率が100W/m・Kを越える良好な値を示している。
【0029】
試料番号06、37〜39は、50μm以上の粉末の量が異なる銅粉末に対して、50μm以下の粉末の量が40%の鉄基合金粉末を配合したものである。これらを比較することで、50μm以上の銅粉末の含有量の違いによる熱膨張係数と熱伝導率への影響がわかる。50μm以上の銅粉末の含有量が増加するにつれて、熱伝導率は低下していることがわかる。50μm以上の銅粉末の量が60%以下の試料では熱伝導率が100W/m・Kを越える良好な値を示している。
【0030】
以上より、マトリックス粉末が、−100メッシュの粉末で、かつ粒径50μm以上の粉末が60%以下の粉末であるとともに、前記鉄基合金粉末が、−100メッシュで、かつ、粒径50μm以下の粉末が60%以下の粉末を用いると、特に効果が高いことが確認された。
【0031】
【発明の効果】
本発明による銅基低熱膨張高熱伝導部材の製造方法によれば、簡便な工程で、銅マトリックス中に、100℃までの熱膨張係数が6×10-6/K以下の鉄基合金粉末が僅かにマトリックスと拡散した金属組織を呈する、高い熱伝導性と低い熱膨張率を兼ね備えた銅基低熱膨張高熱伝導部材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】鉄基合金粉末の添加量と熱伝導率および熱膨張係数との関係を示すグラフである。
【図2】鉄基合金粉末の各添加量における、焼結温度と熱伝導率との関係を示すグラフである。
【図3】鉄基合金粉末の各添加量における、焼結温度と熱膨張係数との関係を示すグラフである。
【図4】鉄基合金粉末の種類と、熱伝導率および熱膨張係数との関係を示すグラフである。
Claims (2)
- 銅粉末に、100℃までの熱膨張係数が6×10-6/K以下の鉄基合金粉末を、質量比で5〜60%を添加し、混合した混合粉末を用い、相対密度で93%以上に圧縮成形した後、400〜600℃で焼結することを特徴とする銅基低熱膨張高熱伝導部材の製造方法。
- 前記銅粉末が、−100メッシュの粉末で、かつ粒径50μm以上の粉末の含有量が60%以下の粉末であるとともに、前記鉄基合金粉末が、−100メッシュで、かつ、粒径50μm以下の粉末の含有量が60%以下の粉末であることを特徴とする請求項1に記載の銅基低熱膨張高熱伝導部材の製造方法。
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