JP3882759B2 - 時計用歯車の研磨方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、時計用歯車を研磨加工する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
時計用歯車は、ムーブメントの小型化・薄型化を図るために極めて微細に構成されている。また、時計用歯車は、計時精度を高めるため、或いは、省エネルギー化を図るために、噛み合い効率の向上や防錆上の観点から、極めて滑らかな歯面を備えていることが要求される。このため、従来から、時計用歯車を研磨加工することが一般的に行われている。この研磨方法のうち従来から行われていた典型的な方法として、木材または特殊な紙で作られた超太径のねじまたはウォーム状の歯溝を備えた研磨材(加工回転体)にラップ剤を塗布して研磨加工を行う方法が知られている(たとえば、以下の非特許文献1参照)。
【0003】
【非特許文献1】
「世界の腕時計 60 ワールド・ムック395 通巻395号 平成14年12月20日発行」(P.119、本文3)歯ミガキ工程、及び、図15参照)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の研磨方法においては、上記研磨材を回転させながら手作業でレバーを押し下げることにより歯車に当てるといった方法で研磨を行っていた。このため、高度な職人技が必要であり、熟練者でなければ、歯形精度の維持と、歯形表面の表面粗さの低減とをバランスさせることが困難であるという問題点があった。たとえば、作業者の感を頼りに研磨度合を把握していたために、研磨時間の不足によって表面粗さの向上が不十分であったり、研磨時間の過剰により歯形精度の劣化が著しくなったりするという問題点がある。また、研磨時間をタイマーなどによって正確に設定しても、作業中において一定の研磨圧を維持することは難しく、また、作業者毎に研磨圧が異なるため、歯車の仕上げ状態に大きなばらつきが生ずるという問題点もある。
【0005】
そこで本発明は上記問題点を解決するものであり、その課題は、歯車の研磨方法及び研磨装置において、作業の自動化及び制御を行うことにより、従来よりも歯形精度と表面粗さのバランスを向上させることができ、歯形精度及び表面粗さの向上並びにこれらの再現性の向上を図ることの可能な技術を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明では、時計用歯車を軸線回りに回転自在に保持し、前記時計用歯車の外周部に対して歯溝付きの木製の加工回転体を回転させながら研磨剤を介して当接させ、前記時計用歯車を回転させながら研磨を行う時計用歯車の研磨方法において、前記時計用歯車が跳ね飛ばされたり損傷しないような移動速度で前記加工回転体と前記時計用歯車を接触させるときに発生する応力を応力センサによって検出し、前記応力の値が予め定めた第1応力値に到達したときの前記時計用歯車と前記加工回転体の相対的位置関係を求めるキャリブレーション工程と、前記相対的位置関係を基準として研磨加工を開始し、研磨加工に最適な移動速度で前記加工回転体と前記時計用歯車を接触させながら前記応力の値が前記第1応力値より大きな第2応力値になるまで研磨加工を実施する研磨加工工程とを備え、研磨加工の準備作業として、前記加工回転体の外周部にドレッシング工具で切削を行って前記外周部の振れを除去した後、前記加工回転体を前記時計用歯車に当接させて前記外周部に前記歯溝を形成させる倣い加工を行うことを特徴とする。
そして、本発明では、前記加工回転体が木製であることにより、取り扱い性もよく、歯溝の転写性が良好であるとともに研磨特性も良好である。たとえば、セラミックスを用いた場合には、割れやすい上に歯溝の転写が事実上不可能である。また、プラスチックでは倣い加工や研磨時の発熱によって軟化したり変質したりしやすい。金属では歯溝の転写が不可能である。加工回転体としては、ブナ、樫、楢、栗、桜などを用いることができるが、特にブナが望ましい。また、十分に乾燥したものを用いることが望ましい。さらに、材木の軸線方向に沿って切り出した板材を用いることによって均質性を確保できる。
そして、研磨加工の準備作業において、前記加工回転体の外周部にドレッシング工具で切削を行って前記外周部の振れを除去した後、前記加工回転体を前記歯車に当接させて前記加工回転体の外周部に前記歯溝を形成する倣い加工を行うので、研磨対象である歯車の歯形に対応する歯溝を確実に形成することができる。ここで、倣い加工をキャリブレーション工程に連続して行うことによって、研磨加工前の段取りを迅速に行うことが可能になる。
【0007】
この発明によれば、キャリブレーション工程において、応力を検出して当該応力の値が第1応力値に到達したときの歯車と加工回転体の相対的位置関係を求め、研磨加工工程においては、上記の相対的位置関係を基準とした研磨条件により研磨加工を実施するようにしたことにより、歯車と加工回転体の相対的位置関係を定量的かつ客観的に把握することができるため、この相対的位置関係に基づいた研磨条件で研磨加工することにより、ばらつきの少ない安定した研磨加工を実現できる。また、上記の相対的位置関係を基準として研磨加工を施すことによって、歯車の歯形精度と表面粗さとのバランスを確保することも可能になる。特に、歯溝付きの加工回転体を木製や紙製とする場合には、研磨加工時における加工回転体の損耗が激しくなるため、上記相対的位置関係を把握することによって加工回転体外周を常に一定の損耗状況に保ちながら研磨加工を施すことが可能になる。
【0008】
ここで、相対的位置関係を基準とした研磨条件とは、研磨条件の中に相対的位置関係を基準とする所定位置に依存する条件が存在することを言い、たとえば、相対的位置関係を基準とした所定位置において研磨加工を行ったり、相対的位置関係を基準とした所定位置から所定範囲内を移動しながら研磨加工を行ったり、相対的位置関係を基準とした所定位置に到達してから所定の時間経過後に研磨加工を終了させたりすることが含まれる。また、歯車と加工回転体とを相互に接近させる方法としては、歯車を固定し、加工回転体のみを歯車に接近させる方法、加工回転体を固定し、歯車が加工回転体に接近移動していく方法、歯車と加工回転体の両者が移動しながら接近していく方法のいずれであってもよい。
【0009】
本発明において、前記研磨加工工程の研磨加工開始前に前記歯車と前記加工回転体を相互に接近させる過程において、前記相対的位置関係よりも所定距離離間した位置関係に到達した時点で前記歯車と前記加工回転体の接近速度を低下させることが好ましい。通常、研磨加工工程では、歯車と加工回転体とを接近させて相互に当接させることによって研磨を開始するが、研磨加工前において歯車と加工回転体とを相互に接近させる過程においては、研磨加工工程のサイクルタイムを短縮するために高速で接近させると歯車を跳ね飛ばしてしまったり歯車に損傷を与えてしまったりすることがあり、また、低速で接近させると上記サイクルタイムの短縮が難しくなる。したがって、当初は高速で歯車と加工回転体とを急接近させ、途中から減速して低速でゆっくりと接近させるようにすることにより、サイクルタイムの短縮と、歯車の跳ね飛ばしや損傷の防止とを両立させることができる。そして、速度を変えるタイミングの最適値は上記相対的位置関係に依存するため、この相対的位置関係を基準として、相対的位置関係よりも所定距離離間した位置関係に到達した時点を上記タイミングに設定することによって、常に確実な効果を得ることができる。ここで、上記の接近過程において上記タイミングの前後の速度が一定である必要はなく、所定の減速態様で徐々に速度を低下させていっても構わない。この場合における上記時点に対応する位置に何ら限定はなく、減速開始位置に対応するものであってもよく、減速終了位置に対応するものであってもよく、減速過程の中間位置に対応するものであってもよい。
【0010】
本発明において、前記研磨加工工程では、前記歯車と前記加工回転体とを接近させていく過程において前記応力の値が前記第1応力値よりも大きい第2応力値に到達した時点から一定時間経過後に研磨加工を終了させることが好ましい。これによって、研磨圧をほぼ一定の値にした状態で一定時間研磨を行うことができるため、研磨状態の再現性を高めることができる。
【0011】
本発明において、前記応力の値が前記第1応力値よりも大きな第2応力値に到達した時点において前記歯車と前記加工回転体との接近動作を停止して研磨加工を行うことが望ましい。これによれば、研磨圧が所定の応力値に到達した状態で歯車と加工回転体の位置関係が固定されるので、研磨圧の変化も生じにくくなり、より再現性の高い研磨加工を行うことが可能になる。
【0012】
本発明において前記研磨加工工程では、前記歯車と前記加工回転体とを接近させながら研磨加工を行い、前記応力の値が前記第1応力値よりも大きな第2応力値に到達した時点で研磨加工を終了させることが好ましい。この方法によれば、研磨加工の終了時点での研磨圧がほぼ一定になるため、研磨状態の再現性を高めることができる。
【0024】
【発明の実施の形態】
次に、添付図面を参照して本発明に係る歯車の研磨方法及び研磨装置、歯車、機器並びに時計の実施形態について詳細に説明する。
【0025】
図1は、本実施形態の歯車の研磨装置の主要部分の構成を示す概略構成図であり、図2は、研磨装置の全体構成を示す概略構成図である。図2に示すように、本実施形態の研磨装置100は、研磨機構100Aと、この研磨機構100Aを制御する制御部100Bとを有する。
【0026】
図1に示すように、研磨機構100Aには、加工回転体111を備えた加工部110と、加工対象である歯車Gを保持するための保持部120とが設けられている。加工部110においては、加工回転体111を回転駆動するための電動モータ等で構成される駆動源112を有する。また、加工回転体111及び駆動源112を図示上下に移動させるための移動機構113を備えている。この移動機構113としては、例えば、図示例のように、電動モータ(ステッピングモータ)等で構成される駆動源113aと、ナット113b及びネジ軸113cを含む送りねじ機構(或いはボールネジ機構)と、被ガイド体113d及びガイド軸113eを含むガイド機構とを有する構成を採ることができる。
【0027】
保持部120には、基台101上に設置された位置決め台(XYθテーブル)121を有する。この位置決め台121上には、応力センサ(ロードセル)122が設置されている。応力センサ122には応力を受ける検出部122aが設けられている。この検出部122aには、支持台123が固定され、この支持台123上に一対の位置決め台(XYテーブル)124L,124Rが設置されている。位置決め台124L上にはL字状等の支持具127Lが固定されている。また、位置決め台124R上には取付具125を介して位置決め具(昇降軸ガイド)126が取り付けられ、この位置決め具126に支持具127Rが固定されている。
【0028】
支持具127L,127Rには、それぞれ保持部材128L,128Rが取り付けられ、これらの保持部材128L,128Rは相互に所定の間隔をもって対向配置されている。保持部材128L,128Rは支持具127L,127Rに対して回転可能かつ軸線方向に移動可能な状態で取り付けられている。保持部材128L,128Rはそれぞれ略円盤形状を有する。また、保持部材の外周部には、図7に示すように、凹溝128aが形成されている。この凹溝128aを図示例のようにV溝とすることによって、後述する歯車Gの軸部或いは歯車Gを貫通するシャフトの外周面が円筒面に形成されている場合、軸部又はシャフトの支持接触部を線接触状とすることにより、歯車Gの回転抵抗を低減することができる。
【0029】
保持部材128L,128Rの外周部には複数の凹溝128aが分散形成されている。これらの複数の凹溝128aには、異なる深さ又は幅を有する異なる寸法の凹溝が含まれる。また、外周部の内側の板面には、位置決め孔128b,128c,128d(貫通孔でも止め穴でもよい。)がそれぞれ軸線回りに複数形成されている。位置決め孔128b,128c,128dは相互に異なる半径位置に形成されていて、それぞれの軸線回りの角度位置が上記凹溝128aのいずれか一つの角度位置に対応するように構成されている。そして、一組の位置決め孔128b,128c,128dの角度位置に対応してそれぞれ同じ寸法を有する凹溝(すなわち図示例では3つの凹溝)128aが形成されている。軸線回りSに隣接する位置決め穴128b、128c、128dは相互に軸線回りSにずれた位置に形成され、これによって位置決め孔の径を大きくしても相互に干渉しないように構成されている。なお、位置決め孔の径を大きくすることによって保持部材に対する回転方向の位置決め精度を高めることができる。
【0030】
再び図1に戻って説明すると、支持具127L,127Rには、上記位置決め孔128b,128c,128dに対応する半径位置にそれぞれ貫通孔(図示せず)が設けられ、これらの複数の貫通孔のいずれか一つに位置決めピン129L,129Rが挿通され、その先端は上記位置決め孔128b,128c,128dのいずれか一つに嵌合している。このように構成されていることにより、上記の位置決めピン129L,129Rによって左右の保持部材128L,128Rの軸線回りの角度位置を支持具127L,127Rに対して固定できるように構成されている。
【0031】
研磨機構100Aには、基台101に立設された支柱102上に支持台103が固定され、この支持台103上に、送りガイド131、固定台132、位置決め台133などを介して、ドレッシング工具134が固定されている。ドレッシング工具134は、先端に形成された切り刃134aによって加工回転体111の外周部を切削加工可能に構成された、例えばバイトなどの、切削工具となっている。このドレッシング工具134を所定位置に位置決めし、加工回転体111を回転駆動した状態でドレッシング工具134を加工回転体111の外周部に当接させることによって当該外周部を切削加工することができる。
【0032】
図2に示すように、制御部100Bの外面上には、電源オン操作部(スイッチ)104A、電源オフ操作部(スイッチ)104B、応力表示部(ロードセル表示部)105、パネル操作部(タッチパネル)106、報音部(ブザー用スピーカ)107、安全装置(漏電ブレーカ)108が配置されている。制御部100Bには、図4に示すように、装置全体の制御・演算を行う制御装置100Pと、この制御装置100Pに接続された、入力部100I(電源オン操作部104A、電源オフ操作部104B、パネル操作部106)と、表示部100D(応力表示部105、報音部107)とを有する。制御装置100Pとしては、MPU(マイクロプロセッサユニット)やプログラマブルコントローラなどを用いることができる。また、制御装置100Pには、研磨機構100B内に設置された複数の位置センサ100Sが接続されている。これらの位置センサ100Sとしては、各動作部のリミットセンサ(たとえば移動機構113の上下限センサなど)、変速位置センサ(たとえば移動機構113の変速位置を決定するセンサなど)、安全装置用センサなどが挙げられる。さらに、制御装置100Pには、上記応力センサ122の出力が接続されている。この応力センサ122の出力は、制御装置100Pにて制御データとして用いられる他に、上記応力表示部105に表示される。また、応力表示部105にて適宜に設定した比較データ(応力の閾値その他の基準値)と比較されて所定の出力を得るために用いられる場合もある。
【0033】
制御部100Bには、メモリ、ハードディスク、磁気テープなどの各種ストレージなどで構成される記憶装置100Tが設けられ、制御装置100Pに接続されている。制御装置100Pは、上記入力部100Iにおける操作内容や予め組み込まれたプログラムに従って各種データを記憶装置100Tに書き込み、或いは、記憶装置100Tに記録された各種データを読み出すようになっている。
【0034】
制御装置100Pは駆動源112に接続され、駆動源112を制御・駆動して、適宜の回転速度で加工回転体111を回転でき、また、適宜のタイミングで停止できるように構成されている。また、加工回転体111の回転方向を制御できるように構成されていてもよい。さらに、制御装置100Pは駆動源113aにも接続され、駆動源113aを制御・駆動して、移動機構113により適宜の移動速度で加工回転体111を上下に移動させることができ、また、適宜の位置にて停止させることができるように構成されている。
【0035】
以上説明した研磨装置100においては、加工回転体111を木材で形成することが好ましい。また、木材としては、ブナ、樫、楢、栗、桜などが好ましいが、特にブナが望ましい。また、木材で加工回転体111を構成する場合、硬度の均一性を高め、反りなどの影響を低減するために、木材の軸線方向に沿って切り出した板材を用いることが好ましい。これは、木材の軸線と直交する方向に切り出した板材を用いた場合における、年輪による硬度のばらつきや、南側部分と北側部分とで年輪の粗密があることによる硬度のばらつきなどを回避することができ、場所による特性のばらつき幅を低減できるからである。これにより、加工回転体外周の研磨工程における摩耗を均一にすることができ、倣い加工による溝も均一に自生される。
【0036】
加工回転体111は、全体として略円盤状に構成されている。特に、図3に示すように、板面外周寄りが外縁に向かうほど肉薄になるようにテーパ状に構成されている。加工回転体111の外周部111aは基本的に小さな幅の円筒面となっている。このような外周部111aの形状は、図1に示すドレッシング工具134によって成形される。
【0037】
歯車Gは、図1に示すように、保持部材128L,128Rの上記凹溝128a(図7参照)に対してその軸部(ホゾ)或いは歯車Gに挿通したシャフトを嵌合支持させた状態で配置される。歯車Gと保持部材128L,128Rとの位置関係は、歯車Gの形状に応じて適宜に変更される。たとえば、歯車Gの軸部或いは歯車Gを貫通したシャフトの径が左右で異なる場合には左右の保持部材128L,128Rにおいて異なる寸法の凹溝128aを選定したり、或いは、位置決め部126を上下方向に移動させて支持具127Lと127Rの高さを変えたりする。凹溝128aの寸法と支持部の左右の高さはいずれか一方のみを変えてもよく、また、両者を共に変えてもよい。
【0038】
図10には、歯車G1〜G3と、保持部材128L,128Rとの保持状態のバリエーションを示す。図10(a)に示す歯車G1は携帯時計の五番カナであり、左右の保持部材128L,128Rの凹溝128aの深さを変え、或いは、支持具127L,127Rの左右の高さを変えることによって、歯車G1の軸線が水平となるように保持した状態を示す。ここで、歯車G1(五番カナ)には左右に飛び出したホゾがあるが、このホゾの最も小径の先端部分は軸支される部分であるため、当該先端部分に傷を付けないように非接触状態とし、その代わりに、歯車部分に近い、より大径の根元部分を凹溝128aで支持した状態としてある。
【0039】
図10(b)に示す歯車G2は携帯時計の三番カナであり、上記と同様に左右の支持高さを変えてある。また、この歯車G2の場合には歯車部分が軸線方向に長いため、左右の保持部材128L,128Rの間隔を大きくしてある。保持部材128L,128Rの間隔は、支持具127L,127Rに対する保持部材128L,128Rの取付位置を変更することによって容易に調整できるように構成されている。
【0040】
図10(c)に示す歯車G3は、携帯時計の二番カナであり、その中心に軸孔が形成されたものである。この場合には、歯車G3の軸孔にシャフトSTを挿通させ、このシャフトSTを左右の保持部材128L,128Rにて保持する。これによって歯車G3を支障なく回転自在な状態に保持することができる。
【0041】
図3(a)は加工回転体111と歯車Gとを示す正面図、図3(b)は加工回転体111と歯車Gとの関係を示す平面図である。加工回転体111は、歯車Gの歯車部分の軸線に対して傾斜角度θにて僅かに傾斜した板面を有する姿勢とされる。この傾斜角度θは、加工回転体111の外径(直径)をD、歯車Gの歯の標準ピッチをP、加工回転体111の1回転分で送られる歯車Gの歯数をZとすると、
πDsinθ=ZP…(1)
の関係があるので、
θ=sin−1(ZP/πD)…(2)
によって傾斜角度θを設定すればよい。この傾斜角度θの設定は、通常、位置決め台121(図1参照)のθ軸の調整によって行われる。傾斜角度θを大きくするほど、加工回転体111の1回転分で送られる歯数Zは大きくなるが、歯形精度は低下する。したがって、傾斜角度θとしては、通常、0.5〜3[deg]の範囲内で設定することが好ましい。特に、1.0〜2.0[deg]の範囲内とすることがより望ましい。
【0042】
図3(c)は、加工回転体111の外周部111a近傍の断面形状を示すものである。加工回転体111を回転駆動しながら、その外周部111aを歯車Gに対して上記式(2)を満たす傾斜角度θで接触させると、加工回転体111の外周部111aは、歯車Gを回転駆動しながら、歯車Gの歯によって削られ、歯溝111bが形成される。この歯溝111bは、加工回転体111の回転方向に対して傾斜角度θだけ傾斜した方向に伸びるように形成される。このような倣い加工を行うことによって、加工回転体111の外周部111aは、当該歯車Gの研磨加工に適した形状になる。すなわち、歯溝111bは、ねじ又はウォーム状のものである。このように一旦歯車Gによって倣い加工された加工回転体111は、同形の歯車Gに対してはそのまま用いることができる。ただし、歯形精度及び研磨効果を高めるためには、同形の歯車であっても加工される歯車G毎に上記倣い加工を行ってから研磨加工を行うようにしてもよい。
【0043】
歯溝111bは、加工回転体111の外周部111aにおいて常に2条〜3条程度形成されていることが好ましい。1条だけでは歯車Gの研磨効率が低下するとともに歯車Gの回転駆動能力も劣ることになり、また、4条以上になると歯車Gの歯形を劣化させる可能性があるからである。
【0044】
なお、図1に示すように、歯車Gの保持位置に視野が設定された撮像手段(たとえばCCDカメラ)141が設けられている。撮像手段141は好ましくはテレセントリック光学系などの拡大光学系142を介して歯車Gの保持姿勢を撮影する。そして、その撮影画像はパネル操作部106などに表示されるようになっている。したがって、作業者は、保持部120に保持された歯車Gの姿勢を拡大画像によって確認することができる。このようにすると、歯車Gが小さい場合(たとえば本実施形態の装置では直径0.5mm〜数mm、長さ1mm〜十数mm程度の小型歯車を対象としている。)には、歯車Gの保持姿勢の良否を肉眼で判定することが困難であるからである。
【0045】
次に、図5及び図6を参照して、以上説明した研磨装置100の動作及びこれを用いて研磨する方法について説明する。この研磨装置100では、最初に、研磨加工の準備工程として以下のような作業(加工回転体の準備加工、保持部の調整・設定、加工回転体の成形)を行う。まず、上記のように加工回転体111を回転させながらドレッシング工具134によって加工回転体111の切削を行う。この作業においては、加工回転体111の振れを除去するとともに、形状出しを行う。次に、歯車Gを保持部材128L,128Rにセットする。このとき、歯車Gの軸線が水平になるように、保持部材の高さや回転方向の角度位置を設定し、位置決め台121や位置決め具126の調整も行う。また、上記傾斜角度θも位置決め台121により調整・設定する。その後、加工回転体111を歯車Gに当接させ、歯車Gの歯形を外周部111aに転写するようにして倣い加工を行う。これによって上述のように加工回転体111の歯溝111bが形成される。
【0046】
次に、加工回転体111を研磨するときの研磨装置100の動作及び方法について順次に説明する。上記のように加工回転体111が既に倣い加工を受けている場合には、研磨装置100の電源オン操作部104Aを操作(押圧)して、電源を投入し、図2に示すパネル操作部106の原点復帰ボタンを押すと、図5(a)に示す移動位置設定が自動的に行われる。この移動位置設定では、最初に移動機構113によって加工回転体111が原点位置まで移動し、図示しない原点位置センサの原点信号を読み込んだときの位置座標を記憶し、その後、待機位置に移動して停止する。
【0047】
上記のように移動機構113の移動位置の設定が完了すると、次に、図5(b)に示すキャリブレーション動作を行う。このキャリブレーション工程においては、まず、加工回転体111が待機位置以外の位置にあるときには待機位置に移動させる。そして、この待機位置から高速下降移動を行う。そして、移動経路の途中位置に設定されたセンサ(上記の変速位置センサ)が移動機構113の移動部分を検出すると、下降移動の速度を低下させ、低速下降移動に移行する。そして、このようにゆっくりと下降しているときに、応力センサ122の出力が変化すると、その位置(以下、単に「接触位置」という。)からさらに下降して予め設定されたオフセット量だけ高い閾値(第1応力値)を検出したときに、その位置(以下、単に「第1応力値検出位置」という。)を記憶する。その後、待機位置まで上昇する。
【0048】
上記のキャリブレーション動作によって得られた研磨開始位置は、研磨時の基準位置として用いられる。そして、この研磨開始位置を基準として、所定距離だけ戻った、加工回転体111が歯車Gに接触しない位置(以下、単に「近接位置」という。)を設定する。また、研磨開始位置を基準として所定距離だけ下降し第2応力値を検出する位置(以下、単に「第2応力値検出位置」)を設定することもできる。なお、各種パラメータの設定操作は上記パネル操作部106にて行われる。
【0049】
上記研磨装置100では、移動機構113の位置(図示例では上下位置)に応じて移動機構113の移動速度を設定できるように構成されている。すなわち、▲1▼移動速度V1:待機位置〜近接位置
▲2▼移動速度V2:近接位置〜第1応力値検出位置
▲3▼移動速度V3:第1応力値検出位置〜第2応力値検出位置
▲4▼移動速度V4:第2応力値検出位置〜待機位置
【0050】
ここで、上記移動速度V1は高速であって、研磨領域まで短時間に到達することを目的として設定される。また、移動速度V2はV1よりも低速であって、加工回転体111が歯車Gに高速で当接したときに歯車Gが跳ね飛ばされたり、損傷を受けたりすることを防止することを目的として設定される。この移動速度V2は、応力センサの出力が第1応力値より低い値に維持されるフィードバック制御によって決定されるように構成してもよい。さらに、移動速度V3は研磨に最適な移動速度を適宜に設定入力できるように構成されている。なお、この移動速度V3についても、一定の研磨圧が得られるように速度制御の対象としても構わない。移動速度V4は、研磨終了時から待機位置まで戻るときの速度であり、通常は高速に設定される。
【0051】
上記のキャリブレーション工程は、新たな歯車Gがセットされる毎に、下記の研磨加工工程の前に行われることが好ましいが、所定数(任意の自然数)の歯車Gが研磨加工される毎に行ってもよい。これは、歯車Gの研磨加工を行うことによって、加工回転体111の外周部111aが削られるため、加工回転体111の外径Dが変化し、それによって上記研磨開始位置もまた変化するからである。
【0052】
図6は、自動的に行われる研磨加工動作(自動運転)の手順を示すものである。この研磨加工工程では、予め、加工回転体111の外周部111aにアルミナなどの砥粒を含む研磨材を塗布しておく。研磨材に含まれる砥粒は、研磨精度によって適宜に設定できるが、時計用の小型歯車に対しては平均粒径が1μm程度(メッシュ8000番程度)であることが好ましい。また、砥粒をオイルなどの液体媒質に分散させたスラリー液を調製し、上記研磨材として用いることが好ましい。
【0053】
この研磨加工工程では、最初に研磨加工時に用いる各種パラメータを入力部100Iにおいて設定する。この各種パラメータとしては、加工回転体111の回転方向及び回転速度、上記移動速度V1〜V4、研磨時の応力値、研磨時間などがある。次に、駆動源113aを稼動させて加工回転体111を回転させる。そして、歯車Gが保持部120にセットされると、スタートボタンを押すことにより高速下降移動が開始される。そして、上記近接位置において低速下降移動に移行し、応力センサの検出する応力値(以下、「研磨圧」とも言う。)を読み込み、指定研磨圧に達したときに加工回転体111の下降を停止させる。そして、研磨時間タイマーを稼動させ、指定研磨時間が経過すると、研磨が終了し、中速上昇移動を行って加工回転体111を歯車Gから離間させ、その後、近接位置を通過すると高速上昇移動に移行する。その後、歯車Gが保持部120から除去されると、研磨加工工程は終了する。上記工程において、研磨時間としては0.5〜3.5秒の範囲内であることが好ましい。特に、1.5〜2.5秒程度であることが望ましい。なお、研磨時の加工回転体111の回転数は300〜1000rpm程度であることが好ましい。
【0054】
なお、図6に示す研磨加工工程では、指定の研磨圧(第2応力値)が検出されると加工回転体111の下降移動を停止し、研磨を実施し、予め設定された指定の研磨時間(たとえば2秒)が経過すると研磨を終了させるようにしている。しかしながら、このような方法ではなく、予め設定された上記の研磨終了位置まで強制的に既定の移動速度V3にて移動しながら研磨を継続し、研磨終了位置に到達した時点で研磨を終了させてもよい。また、研磨開始位置から研磨終了位置までを予め設定された指定の研磨圧になるように制御された移動速度V3で移動させてもよい。
【0055】
以上のようにして研磨した歯車Gは適宜の洗浄液により洗浄され、表面に付着した砥粒などが十分に除去される。図8は、上記図6に示す方法で研磨加工を行ったときの上記指定研磨圧と、研磨後の歯車Gの歯表面の表面粗さRa[μm]及び歯表面に残存した(埋め込まれた)砥粒(メディア)の個数との関係を示すものである。これを見ると、指定研磨圧が25〜60[kPa](0.25〜0.60[kg・f])の範囲内にあるときに表面粗さRaが最も小さくなるとともに残存したメディア個数が最小となった。さらに、27〜40[kPa]の範囲内であるときに非常に高い効果が得られる。特に、表面粗さRaについては、歯切り後(研磨前)の歯車Gの歯表面の粗さがRa=0.20[μm]程度であったものが、Ra=0.01[μm]程度まで劇的に低下した。研磨前後の歯車Gの歯の拡大写真を図9に示す。これらの図に示すように、きわめて滑らかな歯表面が得られている。また、歯形精度についても全く支障がなく、歯形精度の再現性も十分に高いものであった。
【0056】
[時計用歯車及び時計]
図11は、本発明に係る機器或いは時計としての携帯時計1の内部構造を模式的に示す概略構成図、図12及び図13は携帯時計1の内部構造を示す部分断面図である。図11に示すように、携帯時計1には、発電ユニット20と、時計駆動部30とが含まれている。発電ユニット20は、発電用ロータ21、発電用ステータ22、コイル23及び磁心24を有する小型発電機を備えている。上記の発電用ロータ21には、図13に示すように、ロータカナ21aが取り付けられている。ロータカナ21aは伝え車25に噛合し、伝え車25は錘車26に噛合している。錘車26は、回転錘27に固定されている。コイル23は図示しない蓄電回路を介して2次電池や大容量キャパシタなどに接続されている。
【0057】
また、時計駆動部30には、ロータ31、ステータ32、コイル33及び磁心34を有するステッピングモータが設けられている。ここで、図12にも示すように、ロータ31にはロータカナ31aが取り付けられている。ロータカナ31aは三番車35に噛合し、三番車35は二番車36に噛合している。二番車36は日の裏車37を介して筒車38を回転駆動するようになっている。分針41は二番車36に取り付けられ、時針42は筒車38に取り付けられている。なお、上記ステッピングモータのコイル33は図示しない時計駆動回路に接続されている。この時計駆動回路は、上記2次電池又は大容量キャパシタから電力供給を受けるようになっている。
【0058】
なお、図12及び図13において、2は地板、3は輪列受けであり、これらによって上記各歯車が回転自在に軸支される。また、4は文字盤である。
【0059】
この携帯時計1の上記駆動部30においてステッピングモータのロータ31に取り付けられたロータカナ31aを上記方法で研磨し、このロータカナ31aを用いて上記輪列を構成したところ、従来品(Ra=0.2μm程度であったもの。)よりも駆動用輪列における回転駆動力の伝達効率が30%向上した。これにより、分針41、時針42の針を大きくすることができ、視認性が向上された。また、上記携帯時計1の発電ユニット20のロータ21に取り付けられたロータカナ21aについても上記方法で研磨したところ、発電効率が30%向上し、歯車の音も滑らかに聞こえるようになった。
【0060】
また、本実施形態の歯車を各種機器に用いることによって、歯車の噛合部における静電気の発生が抑制され、歯車の磨耗の低減、歯車表面の酸化や腐食の防止それに伴う美観向上、静電気のスパークに起因するIC(時計回路など)その他の回路部の不良の抑制を図ることができる。これらの効果は、特に各種機器(電子機器)の歩留まり向上、故障の低減、耐久性の向上に大きく寄与する。
【0061】
尚、本発明の歯車の研磨方法及び研磨装置、歯車、機器並びに時計は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る研磨装置の研磨機構の構成を示す概略構成図。
【図2】 研磨装置の全体構成を示す概略構成図。
【図3】 歯車と加工回転体の位置関係を示す正面図(a)、平面図(b)及び加工回転体の外周部の拡大断面図(c)。
【図4】 研磨装置の制御部の構成を示す概略構成ブロック図。
【図5】 移動位置設定の手順を示す概略フローチャート(a)及びキャリブレーションの手順を示す概略フローチャート(b)。
【図6】 研磨加工工程(自動運転)の手順を示す概略フローチャート。
【図7】 保持部材の形状を示す拡大側面図。
【図8】 研磨圧と、歯車の表面粗さ及びメディア残数との関係を示すグラフ。
【図9】 研磨前と研磨後の歯車の歯表面を示す写真(a)及び(b)。
【図10】 歯車G1〜G3の保持部材による保持状態を示す説明図(a)〜(c)。
【図11】 携帯時計の主要部の概略構成斜視図。
【図12】 携帯時計の部分断面図。
【図13】 携帯時計の異なる部分を示す部分断面図。
【符号の説明】
100…研磨装置、100A…研磨機構、100B…制御部、110…加工部、111…加工回転体、112…駆動源、113…移動機構、113a…駆動源、121…位置決め台、122…応力センサ、128L,128R…保持部材、134…ドレッシング工具、100P…制御装置、100I…入力部、100S…位置センサ、100T…記憶装置、1…携帯時計、21a,31a…ロータカナ
Claims (4)
- 時計用歯車を軸線回りに回転自在に保持し、前記時計用歯車の外周部に対して歯溝付きの木製の加工回転体を回転させながら研磨剤を介して当接させ、前記時計用歯車を回転させながら研磨を行う時計用歯車の研磨方法において、
前記時計用歯車が跳ね飛ばされたり損傷しないような移動速度で前記加工回転体と前記時計用歯車を接触させるときに発生する応力を応力センサによって検出し、前記応力の値が予め定めた第1応力値に到達したときの前記時計用歯車と前記加工回転体の相対的位置関係を求めるキャリブレーション工程と、
前記相対的位置関係を基準として研磨加工を開始し、研磨加工に最適な移動速度で前記加工回転体と前記時計用歯車を接触させながら前記応力の値が前記第1応力値より大きな第2応力値になるまで研磨加工を実施する研磨加工工程とを備え、
研磨加工の準備作業として、前記加工回転体の外周部にドレッシング工具で切削を行って前記外周部の振れを除去した後、前記加工回転体を前記時計用歯車に当接させて前記外周部に前記歯溝を形成させる倣い加工を行うことを特徴とする時計用歯車の研磨方法。 - 前記研磨加工工程の研磨加工開始前に前記時計用歯車と前記加工回転体を相互に接触させる過程において、前記相対的位置関係よりも所定距離離間した位置関係に到達した時点で前記時計用歯車と前記加工回転体の接触速度を低下させることを特徴とする請求項1に記載の時計用歯車の研磨方法。
- 前記研磨加工工程では、前記時計用歯車と前記加工回転体とを接触させていく過程において前記応力の値が前記第1応力値よりも大きい第2応力値に到達した時点から一定時間経過後に研磨加工を終了させることを特徴とする請求項1又は2に記載の時計用歯車の研磨方法。
- 前記研磨加工工程では、前記時計用歯車と前記加工回転体とを接触させながら研磨加工を行い、前記応力の値が前記第1応力値より大きな第2応力値に到達した時点で研磨加工を終了させることを特徴とする請求項1又は2に記載の時計用歯車の研磨方法。
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