JP3882470B2 - オーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、オ−ステナイト系ステンレス鋼板の製造方法に関し、特に熱間圧延工程におけるスケ−ル肌荒れの発生を抑制することにより、表面性状に優れた熱延鋼板または冷延鋼板を製造する方法に関する。また、スラブの表面欠陥に起因するへげ疵の発生を抑制することにより、さらに表面性状に優れた熱延鋼板または冷延鋼板を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
SUS304に代表されるオ−ステナイト系ステンレス鋼は、熱延鋼板として利用されることもあるが、特にその冷延鋼板は、耐食性、耐熱性、加工性に優れていることに加え、表面が美麗なため、厨房用、意匠用など美観を求められる用途に利用されることが多い。そして、いずれの場合も、表面疵のない表面性状に優れた製品が要求される。
【0003】
このようなステンレス鋼板は、通常、次のようにして製造される。まず、連続鋳造スラブ(厚さ:120mm〜280mm、幅:700〜1600mm、長さ:10m程度)を熱間圧延し、焼鈍、酸洗を行って熱延鋼板(厚さ:2〜10mm程度)を製造する。冷延鋼板を製造する場合には、さらに、厚さ:0.3〜2mm程度まで冷間圧延し、焼鈍および必要に応じて酸洗・洗浄を施して仕上げられる。
【0004】
オ−ステナイト系ステンレス鋼の熱延鋼板および冷延鋼板の表面疵は、上記製造工程の中で主に熱間圧延および冷間圧延の際に発生しやすい。このうち熱間圧延の際に発生する表面疵は、冷間圧延後の最終製品にも残存するため、表面性状に優れた製品を得るには、熱間圧延の際に発生する表面疵の発生を抑制しなければならない。
【0005】
オ−ステナイト系ステンレス鋼スラブを熱間圧延する際に発生する表面疵の主な原因としては、(イ)スラブを鋳造する製鋼工程で生じるスラブの表面欠陥、(ロ)熱間圧延前のスラブ加熱工程で生じるスラブ表面のスケ−ル、(ハ)熱間圧延工程で生じる被圧延材とロ−ルとの焼き付きの3つが挙げられる。特に、オ−ステナイト系ステンレス鋼については、(ロ)に起因するスケ−ル肌荒れの発生を抑制することが重要であるとともに、(イ)に起因するへげ疵の発生を抑制することも重要である。
【0006】
オ−ステナイト系ステンレス熱延鋼板の製造方法に関し、上述した(ロ)に起因するスケール肌荒れを抑制する方法として、以下のような製造方法が開示されている。
【0007】
特開平9−228000号公報には、オ−ステナイト系ステンレス鋼をスラブ加熱温度:1100〜1200℃、スラブ加熱時間:1〜4hで衝突圧:24.5MPa以上の超高圧デスケ−リング処理する熱延を行った後に酸洗を行うことにより、色調むらが小さい冷延母材を得る製造方法が開示されている。
【0008】
上記方法は、スラブ加熱温度を低くして楔状スケ−ルの成長を抑制するとともに、スラブ加熱で生じた酸化スケ−ルを超高圧デスケ−リング処理で除去することにより、熱間圧延時のスケ−ルの噛み込みに起因したスケ−ル肌荒れを防止できるという知見に基づいている。
【0009】
特開平9−256173号公報には、Si量が0.2重量%以下のオ−ステナイト系ステンレス鋼スラブを1100〜1200℃の温度範囲に加熱し、仕上げ焼鈍後、硝酸と弗酸の濃度を限定した混酸を用いて酸洗することにより、光沢性と耐食性に優れた鋼板を得る製造方法が開示されている。
【0010】
上記方法は、Si量とスラブ加熱温度を低くすることによりスラブ表面に生成するSi酸化物の層を薄くすることにより、熱延鋼板の疵や噛み込みスケ−ル等を防止できるという知見に基づいている。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
特開平9−228000号公報および特開平9−256173号公報に開示されている製造方法は、スケ−ル肌荒れの発生原因を熱間圧延時の噛み込みスケ−ルであるという認識に基づいて、それらの抑制方法を提案したものである。
【0012】
しかしながら、本発明者らがスケ−ル肌荒れの発生原因について詳細に研究した結果、オーステナイト系ステンレス熱延鋼板のスケ−ル肌荒れは、熱間圧延時の噛み込みスケ−ルに起因して発生するのではなく、別の機構により発生するということを知見した。そして、上記公報に開示されている製造方法では、必ずしもスケ−ル肌荒れの発生を有効に抑制できないことが判明した。
【0013】
熱延鋼板のスケ−ル肌荒れは、研削除去しない限り、冷延鋼板にまで持ち超され、冷延鋼板を製造する工程(焼鈍、酸洗)において除去することは事実上不可能である。さらに、熱延鋼板に発生したスケ−ル肌荒れを研削除去するには多大な工数と費用が必要となり、製造コストの上昇を招くことになる。
【0014】
また、上記公報に開示されている製造方法は、いずれもスラブ加熱工程におけるスケ−ル生成量を抑制することを解決策としており、スラブ加熱後のデスケーリング処理によるスケ−ルオフ量が少なくなるため、上述した(イ)に起因するへげ疵が発生し易くなるという問題がある。
【0015】
本発明の目的は、オ−ステナイト系ステンレス鋼板の熱間圧延工程におけるスケ−ル肌荒れの発生を抑制することにより、表面性状に優れた熱延鋼板または冷延鋼板を製造する方法を提供することにある。また、本発明の目的は、さらにスラブの表面欠陥に起因するへげ疵の発生を抑制することにより、より表面性状に優れた熱延鋼板または冷延鋼板を製造する方法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述した問題を解決すべく、上記(ロ)に起因するスケ−ル肌荒れの発生原因について詳細に研究し、さらに、オ−ステナイト系ステンレス熱延鋼板のスケ−ル肌荒れとスラブ表面欠陥に起因するへげ疵に及ぼすスラブ加熱工程において生成するスケ−ルの影響と、該スケ−ルの形態に及ぼす化学組成とスラブ加熱条件の影響とについて研究した。その結果、以下に示す新たな知見を得た。
【0017】
(A)実製造で問題となるスケ−ル肌荒れは以下のような機構により発生する。
ステンレス鋼スラブの加熱は、通常、水素あるいは炭化水素を主成分とする燃料を用いた燃焼ガスによる酸化性の加熱雰囲気中で1100〜1300℃に加熱して行われる。このスラブ加熱工程における酸化初期には、鋼中のCrが加熱雰囲気中の酸素または水蒸気と反応して、スラブ表面に0.01mm未満の薄い酸化皮膜を形成する。上記酸化皮膜は、保護皮膜となって加熱雰囲気中の酸素を遮断して、スラブ表面から内部への酸化は一時停滞する。上記酸化皮膜は、スラブ母材との熱膨張係数が相違するため、スラブ加熱の進行に伴い酸化皮膜に割れが生じるが、その部分には再び酸化Crの保護皮膜が形成される。しかし、スラブ母材表面のCr濃度が次第に欠乏してくると、Crの他にFeの酸化が起こるようになる。Feは酸化されやすい元素であるため、Feの選択酸化により保護皮膜が破壊されてスケ−ル成長速度が大きくなり、0.1mmを超える厚い酸化スケ−ルが形成される。このように酸化皮膜が破壊されてスケ−ル成長速度が変化してゆく状態は遷移酸化と呼ばれている。
【0018】
SUS304鋼に代表されるオ−ステナイト系ステンレス鋼のスラブ加熱工程において、上記のような遷移酸化はスラブ表面で部分的に発生し、スラブの表面が薄い酸化スケ−ルと厚い酸化スケ−ルとからなる不均一な酸化形態を示す場合がある。スラブ加熱工程後にデスケーリング処理を施しても酸化スケールを完全に除去することはできないので、上述したようにスラブ加熱工程においてスラブの表面が不均一な酸化形態を呈した場合には、デスケーリング処理後においてもスケール厚の不均一な酸化スケールが地鉄表面を覆うこととなる。このため、デスケーリング処理後の熱間圧延工程において、表層の酸化スケ−ルは均一に変形することができないこととなり、スケール肌荒れを引き起こす。
【0019】
(B)このようなスケール肌荒れを抑制するには、スラブ加熱工程で生じる地鉄と酸化スケ−ルとの界面の最大粗さ(Rmax)を0.1mm以下、好ましくは0.05mm以下とする必要がある。
【0020】
(C)また、スラブ表層から切り出した試験片を段削りして調査した結果、スラブの表面欠陥は、スラブ表面から表皮下0.1mm付近までの領域に高い密度で存在していた。したがって、スラブの表面欠陥に起因するへげ疵は、スラブ加熱工程におけるスケ−ル厚を0.1mm以上、好ましくは0.15mm以上となるようにして、スラブ加熱後にデスケーリング処理を施すことにより抑制できる。
【0021】
(D)上記(B)項および(C)項の方法によるスケ−ル肌荒れとへげ疵の発生の抑制は、鋼中のSi量に応じて加熱雰囲気中の酸素濃度を制御することにより可能となる。
【0022】
図1は、各加熱雰囲気中の酸素濃度条件下におけるスラブ加熱工程で生じる地鉄と酸化スケ−ルとの界面の最大粗さ(Rmax)と鋼中のSi量との関係を示すグラフである。
【0023】
同図に示すデータは実験室的に求めたものであり、水蒸気濃度を20体積%で一定とし、酸素濃度を0〜5.0体積%、残部を窒素とした加熱雰囲気中で、加熱温度:1225℃、加熱時間:1時間の加熱条件で加熱を行った試験片について、アルミナブラストによりデスケーリング処理を行った後に試験片表面を3次元粗さ測定装置により最大表面粗さを測定したものである。そして、該最大表面粗さが地鉄と酸化スケ−ルとの界面の最大粗さである。
【0024】
なお、供試材は、質量%で、C:0.060%、Mn:1.0%、P:0.030%、S:0.004%、Cu:0.20%、Ni:8.20%、Cr:18.40%、Mo:0.20%、Ti:0.001%、Al:0.003%、N:0.035%で、Si量を、0.01%、0.10%、0.30%、0.060%、1.0%にそれぞれ調整した化学組成とし、3.2mm厚×30mm×30mmの寸法で、表面を#320研磨仕上げしたものである。
【0025】
ここで、加熱雰囲気中の酸素濃度としては、環境上有害とされているNOxの発生を抑制できる実用的範囲である5体積%以下とした。以下、加熱雰囲気中の水蒸気および酸素の濃度について「体積%」を単に「%」で表す。
【0026】
同図に示すように、スラブ加熱で生じる地鉄と酸化スケ−ルとの界面の最大粗さ(Rmax)は、鋼中のSi量が0.5質量%以下(以下、鋼中のSi量の「質量%」を単に「%」で表す。)の鋼については加熱雰囲気中の酸素濃度に殆ど影響されることなく0.1mm以下となり、鋼中のSi量が0.5%を超える鋼については加熱雰囲気中の酸素濃度を1.0%以上とすると0.1mmを超える。これは、鋼中のSi量が0.5%を超えると、耐酸化性が向上して、遷移酸化によるスラブ表面の不均一な酸化が助長されたことによると考えられる。
【0027】
図2は、各加熱雰囲気中の酸素濃度条件下におけるスラブ加熱時のスケ−ル厚と鋼中のSi量との関係を示すグラフである。
同図に示すデータは、図1に示すデータについての条件と同一条件にて実験室的に求めたものである。ここで、スケール厚は、加熱後試験片について、アルミナブラストによるデスケーリング処理を行い、加熱前後の質量差から換算したものである。
【0028】
同図に示すように、鋼中のSi量が0.5%以下の鋼については、各加熱雰囲気中の酸素濃度条件下においてSi量の増加とともにスケ−ル厚が増加する。一方、鋼中のSi量が0.5%超の鋼については、加熱雰囲気中の酸素濃度が3.0%以上と高い場合には、鋼中のSi量の増加とともにスケ−ル厚が大きく減少し、加熱雰囲気中の酸素濃度が1.0%以下と低い場合には、鋼中のSi量が増加してもスケ−ル厚は一定もしくは若干低くなる。このことは、鋼中のSi量が0.5%を超える鋼は耐酸化性が向上し、加熱雰囲気中の酸素濃度が富化されると、酸化初期に形成される皮膜の保護性が高まることによると考えられる。
【0029】
以上より、鋼中のSi量(X:質量%)と加熱雰囲気中の酸素濃度(Y:体積%)が下記の条件を充足するようにスラブの加熱を行うことにより、スラブ加熱工程で生じる地鉄と酸化スケ−ルとの界面の最大粗さ(Rmax)を0.1mm以下とし、スラブ加熱工程におけるスケ−ル厚を0.1mm以上とすることが可能となる。
【0030】
(a)0≦X≦0.5の場合、0≦Y≦5.0
(b)0.5<X≦1.5の場合、0≦Y<1.0
本発明はこれらの新たな知見を基に完成させたものであり、その要旨は下記(1)、(2)および(3)項に記載のオ−ステナイト系ステンレス鋼板の製造方法にある。
【0031】
(1)スラブ加熱工程後にデスケーリング処理を施して熱間圧延を行う工程を含むオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法において、1200℃以上のスラブ均熱時間を 20 分以上とすること、およびスラブ加熱工程後における地鉄と酸化スケールとの界面の最大粗さ(Rmax)をが0.1mm以下とすることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法。
【0032】
(2)さらに、スラブ加熱工程におけるスケ−ル厚を0.1mm以上とすることを特徴とする上記(1)項に記載のオ−ステナイト系ステンレス鋼板の製造方法。
【0033】
(3)スラブ加熱工程後にデスケーリング処理を施して熱間圧延を行う工程を含むオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法において、スラブ表面温度を1200℃以上1250℃以下とする均熱を 20 分間以上行い、鋼中のSi含有量(X:質量%)と加熱雰囲気中の酸素濃度(Y:体積%)が下記の条件を充足するようにしてスラブ加熱を行うスラブ加熱工程を含むことを特徴とするオ-ステナイト系ステンレス鋼板の製造方法。
【0034】
(a)0≦X≦0.5の場合、0.1≦Y≦5.0
(b)0.5<X≦1.5の場合、0.1≦Y<1.0
【0035】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明のオ−ステナイト系ステンレス鋼板の製造方法の実施態様例について、具体的に説明する。
【0036】
化学組成;
本発明の製造方法の対象とするオ−ステナイト系ステンレス鋼は、化学組成を特に限定するものではなく、通常のオ−ステナイト系ステンレス鋼であればよい。特に、SUS304が好適である。
【0037】
スラブ;
対象とするスラブは、厚さ:120〜280mm、幅:700〜1600mm、長さ:10m程度の鋳造スラブである。通常鋳造スラブの表面は、耐酸化性の高い皮膜で覆われており、スラブ加熱時に酸化されにくい性質を有している。一方、スラブ表面をグラインダ−、ショット等により研削した後、加熱する場合もある。この場合には、上記の耐酸化性の高い皮膜が除去されているので、酸化されやすくなっている。本発明は、上述した表面無手入れのスラブおよび表面を手入れしたスラブを対象としている。
【0038】
スラブ加熱条件;
スラブ加熱は、オ−ステナイト系ステンレス鋼スラブにおいてスラブ加熱工程における地鉄と酸化スケ−ルとの界面の最大粗さ(Rmax)を0.1mm以下とし、かつスラブ加熱工程におけるスケ−ル厚を0.1mm以上とするように行う必要がある。以下に、その方法の一例として、鋼中のSi量に応じてスラブ加熱条件を制御する方法について詳述する。
【0039】
スラブ加熱する加熱雰囲気は、通常、水素または炭化水素を主成分とする燃料を用いた燃焼ガスによる水蒸気を10〜25%含有する酸化性雰囲気であり、加熱雰囲気中の酸素濃度は、空燃比を調整することにより0〜10%の範囲で制御することができる。ここで、「水素または炭化水素を主成分とする」というのは、燃料中に占める水素または炭化水素の割合が40体積%以上であるという意味である。
【0040】
スラブ加熱温度は、スラブ加熱工程におけるスケ−ル厚を0.1mm以上とするために1200℃以上とする。一方、1250℃を超えると、スラブ加熱工程における地鉄と酸化スケ−ルとの界面の最大粗さ(Rmax)が0.1mmを超える。したがって、スラブ加熱温度の上限を1250℃とする。
【0041】
加熱雰囲気中の酸素濃度は、鋼中のSi量に応じて制御する必要がある。
鋼中のSi量が0.5%以下の場合には、1200〜1250℃の加熱温度において均一な酸化形態となり、また、均熱時間を調整することによりスケ−ル厚を0.1mm以上とすることができる。したがって、加熱雰囲気中の酸素濃度の下限は0%とした。一方、上述したように酸素濃度が5.0%を超えると環境上問題とされるNOxガスの発生が懸念される。したがって、酸素濃度の上限は5.0%とする。
【0042】
鋼中のSi量が0.5%超の場合には、1200〜1250℃の加熱温度において、均熱時間を調整してスケ−ル厚を0.1mm以上とすることができる。したがって、加熱雰囲気中の酸素濃度の下限は0%とする。一方、加熱雰囲気中の酸素濃度が1.0%以上となると、スラブ加熱工程における地鉄と酸化スケ−ルとの界面の最大粗さ(Rmax)が0.1mmを超える。したがって、加熱雰囲気中の酸素濃度の上限については1.0%未満とする。
【0043】
スラブ加熱時間は、通常の1〜4時間でよい。1200℃以上の均熱時間は、スラブ加熱工程におけるスケール厚を0.1mm以上とするために、20分以上とする。
【0044】
熱間圧延;
所定の条件に加熱されたスラブは、加熱炉から抽出された後、熱間圧延に先だってデスケーリング処理が施される。デスケーリング処理としては、10〜25MPa程度の高圧水を噴射する方法が一般的である。熱間圧延は、通常の鋼板製造に用いられる連続式ロ−ル圧延法が適している。圧延温度の下限は、オ−ステナイト系ステンレス鋼の場合、900℃程度とするのが好ましい。熱延鋼板の板厚は、用途によって異なるが2〜10mm程度に仕上げられる。
【0045】
焼鈍・酸洗〜冷間圧延;
熱間圧延によって得られた熱延鋼板は、焼鈍および酸洗・洗浄により所定の機械的性質・表面性状に仕上げられる。焼鈍は、通常、連続式の焼鈍・酸洗ラインでLPG、天然ガス等の酸化性雰囲気で900〜1150℃の温度で行われる。また、酸洗は、メカニカルデスケ−リングあるいはショットブラストを施した後、硝弗酸水溶液(例えば、7質量%硝酸−2質量%弗酸水溶液)を用いて常温〜70℃程度で処理すればよい。
【0046】
また、冷延鋼板を製造するには、さらに以下の処理を行う。
冷間圧延は、ゼンジミア圧延機による圧延法または通常の連続式ロ−ル圧延法が適している。冷間圧延後の板厚は、用途により異なるが0.3〜2mm程度に仕上げられる。冷間圧延によって得られた冷延鋼板は、焼鈍により所定の機械的特性、表面性状に仕上げられる。焼鈍は、酸化性雰囲気あるいは還元性雰囲気(光輝焼鈍)で行われる。
【0047】
酸化性雰囲気焼鈍は、通常、連続式の焼鈍炉で、LPG,天然ガス等の雰囲気下、900〜1150℃程度で実施される。このとき、デスケーリング・酸洗処理を必要とし、通常、電解処理(例えば、60℃−20%Na2SO4水溶液,pH2.5)を施した後、硝弗酸水溶液(例えば、60℃−10質量%硝酸−2質量%弗酸水溶液)で処理すればよい。
【0048】
一方、光輝焼鈍は、通常、連続式焼鈍炉で、露点−40℃以下に制御された窒素−水素混合ガスの雰囲気下、900〜1150℃程度で行われる。光輝焼鈍を行う場合には、デスケーリング・酸洗処理を省略することもできる。
【0049】
【実施例】
表1に示す化学組成を有するオ−ステナイト系ステンレス鋼の連続鋳造スラブ(幅:1550mm、厚さ:130mm、長さ:約10m)およびこれら連続鋳造スラブより切り出して作製した加熱炉モニタ−試験片(幅:100mm、厚さ:25mm、長さ:100mm)を準備した。
【0050】
【表1】
加熱炉モニタ−試験片の表面は、連続鋳造時に生成したスラブの酸化皮膜が残るようにし、その面の手入れをしない試験片と、グラインダ−研削による手入れを施した試験片とを準備した。これら加熱炉モニタ−試験片の無手入れあるいは手入れ面を上にして、実スラブ上に乗せ、加熱炉に装入してスラブ加熱を行った後、スラブを加熱炉から抽出した際に取り出した。
【0051】
スラブ加熱は、本発明で規定する条件で実施して、加熱炉モニタ−試験片および実スラブより製造された熱延鋼板および冷延鋼板の表面性状を評価した。また、比較のために、本発明で規定する範囲を外れる条件でスラブ加熱を実施して、同様の評価を行った。
【0052】
加熱炉モニタ−試験片より、スラブ加熱時の地鉄と酸化スケ−ルとの界面の最大粗さおよびスラブ加熱後のスケ−ル厚を測定した。スラブ加熱時の地鉄と酸化スケ−ルとの界面の最大粗さは、アルミナブラストによりデスケーリング処理した試験片表面を3次元粗さ測定装置により測定して求めた。また、スラブ加熱後のスケ−ル厚は、スラブ加熱後に取り出した試験片をアルミナブラストによりデスケーリング処理を行い、スラブ加熱の前後の質量差から換算して求めた。
【0053】
熱延鋼板の表面疵は、各スラブより4.0mm厚の熱延鋼帯を製造し、1050℃で焼鈍後、メカニカルデスケ−リングおよび硝弗酸水溶液にてデスケーリング・酸洗処理を施して肉眼で観察した。表面疵の判定は、肉眼で疵が確認された場合を×、確認されない場合を○とした。評価×の熱延酸洗鋼帯は、表面疵を除去するためにCG(コイルグラインダ−)による研削工程へ供した。一方、評価○の熱延酸洗鋼帯は、そのまま冷間圧延工程へ供した。
【0054】
冷延鋼板の表面疵は、上記の熱延酸洗鋼帯を素材として1.0mm厚の冷延鋼帯を製造し、1050℃酸化性雰囲気焼鈍後、中性塩電解および硝弗酸酸洗処理を施して肉眼で観察した。
【0055】
上記のスラブ加熱条件と熱延鋼板および冷延鋼板の表面疵の判定結果を表2に示す。
【0056】
【表2】
表2において、試番1、2、5、6、8、10は、本発明例であり、これらの加熱チャンスに用いた加熱炉モニタ−試験片のスケ−ル厚は0.1mm以上であり、加熱後の表面粗さ(Rmax)は0.1mm以下であった。また、これら実スラブより製造された熱延鋼板の表面疵判定は○であり、これを素材として製造された冷延鋼板の表面疵判定も○であった。
【0057】
試番3は、加熱温度が本発明の規定する範囲外(低い)であり、これら加熱チャンスに用いた加熱炉モニタ−試験片の加熱後の表面粗さ(Rmax)は0.1mm以下であったが、スケ−ル厚が0.1mm未満であった。このため、熱延鋼板には、スラブ表面欠陥に起因するへげ疵が確認された。このへげ疵を除去して表面疵のない冷延鋼板を製造するために、CG(表面研削)工程を1パス要した。
【0058】
試番4、7は、加熱温度が本発明の規定する範囲外(高い)であり、これら加熱チャンスに用いた加熱炉モニタ−試験片のスケ−ル厚は0.1mm以上であったが、スラブ加熱時の地鉄と酸化スケ−ルとの界面の最大粗さ(Rmax)は0.1mmを超えていた。このため、熱延鋼板には、スケ−ル肌荒れが確認された。これら表面疵を除去して表面疵のない冷延鋼板を製造するには、CG(表面研削)工程を2〜3パス要した。
【0059】
試番9、11は、加熱雰囲気中の酸素濃度が本発明の規定する範囲外であり、これら加熱チャンスに用いた加熱炉モニタ−試験片のスケ−ル厚は0.1mm以上であったが、スラブ加熱時の地鉄と酸化スケ−ルとの界面の最大粗さ(Rmax)は0.1mmを超えていた。このため、熱延鋼板には、スケ−ル肌荒れが確認された。これら表面疵を除去して表面疵のない冷延鋼板を製造するには、CG(表面研削)工程を2パス要した。
【0060】
試番12は、加熱雰囲気中の酸素濃度が本発明の規定する範囲外であり、これら加熱チャンスに用いた加熱炉モニタ−試験片のスケ−ル厚は0.1mm未満であり、さらに、スラブ加熱時の地鉄と酸化スケ−ルとの界面の最大粗さ(Rmax)は0.1mmを超えていた。このため、熱延鋼板には、スケ−ル肌荒れとスラブ表面欠陥に起因するへげ疵の両者が確認された。これら表面疵を除去して表面疵のない冷延鋼板を製造するには、CG(表面研削)工程を3パス要した。
【0061】
【発明の効果】
本発明のオ−ステナイト系ステンレス鋼板の製造方法によれば、熱間圧延工程におけるスケ−ル肌荒れの発生を抑制することにより、表面性状に優れた熱延鋼板または冷延鋼板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】各加熱雰囲気中の酸素濃度条件下におけるスラブ加熱工程で生じる地鉄と酸化スケ−ルとの界面の最大粗さ(Rmax)と鋼中のSi量との関係を示すグラフである。
【図2】各加熱雰囲気中の酸素濃度条件下におけるスラブ加熱時のスケ−ル厚と鋼中のSi量との関係を示すグラフである。
Claims (3)
- スラブ加熱工程後にデスケーリング処理を施して熱間圧延を行う工程を含むオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法において、1200℃以上のスラブ均熱時間を 20 分以上とすること、およびスラブ加熱工程後における地鉄と酸化スケールとの界面の最大粗さ(Rmax)をが0.1mm以下とすることを特徴とするオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法。
- さらに、スラブ加熱工程後におけるスケール厚を0.1mm以上とすることを特徴とする請求項1に記載のオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法。
- スラブ加熱工程後にデスケーリング処理を施して熱間圧延を行う工程を含むオーステナイト系ステンレス鋼板の製造方法において、スラブ表面温度を1200℃以上1250℃以下とする均熱を 20 分間以上行い、鋼中のSi含有量(X:質量%)と加熱雰囲気中の酸素濃度(Y:体積%)が下記の条件を充足するようにしてスラブ加熱を行うスラブ加熱工程を含むことを特徴とするオ-ステナイト系ステンレス鋼板の製造方法。
(a)0≦X≦0.5の場合、0.1≦Y≦5.0
(b)0.5<X≦1.5の場合、0.1≦Y<1.0
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