JP3881895B2 - プラズマ溶射装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、材料の表面を改質する、プラズマ溶射装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、産業機械及び海洋構造物などの大型構造物の機械商品や部材には耐食性を付与するため、金属溶射及びサーメット溶射が広く用いられている。ここで、図3は大気中での溶射による溶射皮膜を示す模式的な断面図であるが、図示するように、一般にこれらの溶射皮膜2内の溶射粒子4間の未結合部には気孔24が存在している。このような気孔24は、溶射時の空気巻き込みにより溶射粒子4が酸化されて、溶射粒子4の周りに酸化膜23が形成され、酸化膜23がそのまま皮膜2中に取り込まれて各溶射粒子4間の隙間が大きくなることにより発生する。また、上記以外にも、粒子4の溶融によって発生するヒュームが溶射粒子4に付着し皮膜2中に取り込まれたり、皮膜2の表面に付着したヒュームが積層する場合に皮膜2に取り込まれたりすることにより気孔24が生成される。
【0003】
そして、このような気孔24が金属素材(基材)1の表面に達すると開口気孔が形成され貫通欠陥となる。そして、このような貫通欠陥が生じると、使用環境中の腐食液等が浸透し、基材1が腐食して、皮膜2の割れや皮膜2の剥離等の問題が生じる。なお、気孔24が多いほど欠陥生成頻度も高くなる。
このような貫通欠陥を防止するには、飛行中の溶射粒子が大気中の酸素と結合するのを防止し、溶射粒子を十分溶融させること、また、溶射粒子の溶融によって発生するヒュームを抑制することが重要である。
【0004】
このような点に鑑みて、本願発明者らは、特願2000−9494(特開2001−200354)において、図2に示すような溶射装置を提案した。
この技術では、溶射トーチ9に冷却機構(冷却通路)12を有する空気遮断用の小型チャンバ5を取り付け、溶射トーチ9の先端から基材1近傍までを上記チャンバ5で覆っている。
【0005】
そして、小型チャンバ5により外部からの空気の流入を制限するとともに、補助ガスだまり8より不活性ガスを流す。これにより、プラズマアーク3への酸素の混入を軽減・防止して溶射粒子の酸化を防止するとともに、小型チャンバ5と基材1との間の距離を2〜20mm離隔することで、小型チャンバ5内に滞留したヒュームを安定して小型チャンバ5外に放出させる効果があるほか、小型チャンバ5内のヒューム濃度を低減でき溶射皮膜2の気孔率を低減することができる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、溶射トーチと基材との間には当然ながら適正な距離があるので、多種の溶射粒子を様々な状況において最適な条件で溶射するためには、各条件に対応した異なるチャンバが必要になるという課題がある。
また、適正条件での溶射には試行錯誤が必要となるが、多種のチャンバの交換をともなう場合、手間がかかるという課題がある。
【0007】
一方、空気の混入を減らすには大量の不活性ガスを流す必要があるが、これはランニングコストの増大を招くという課題がある。
本発明は、このような課題に鑑み創案されたもので、様々な条件への適応を容易にするとともに経済性を高めるようにした、溶射装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
このため、請求項1記載の本発明のプラズマ溶射装置は、プラズマアークにより溶射を行なう溶射装置であって、溶射トーチに該溶射トーチ先端から基材近傍までを覆う空気遮断用のチャンバが取り付けられるとともに、該チャンバが、該溶射トーチの軸方向に伸縮可能に構成されていることを特徴としている。
【0009】
また、請求項2記載の本発明のプラズマ溶射装置は、請求項1記載の構成において、該チャンバの端部に、該チャンバと該基材との間に気流カーテンを形成する気流カーテン形成手段が設けられていることを特徴としている。
また、請求項3記載の本発明のプラズマ溶射装置は、請求項2記載の構成において、該気流カーテンが、空気により形成されることを特徴としている。
また、請求項4記載の本発明のプラズマ溶射装置は、請求項3記載の構成において、該気流カーテン形成手段は、該チャンバの先端側の外周に形成された空気だまりと、外部から該空気だまり内に高圧空気を供給する空気供給ポートと、該空気供給ポートから供給される空気を噴射するための空気噴射スリットとをそなえ、該空気噴射スリットが該チャンバ先端側の円周上に形成されたスリットであって、該スリットの開口方向が該基材に対して所定の角度になるように設定されていることを特徴とする、請求項3記載のプラズマ溶射装置。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、図面により、本発明の一実施形態にかかるプラズマ溶射装置について説明すると、図1はその全体構成示す模式的な断面図である。
図中の符号9は溶射トーチを示している。この溶射トーチ9の内部には複数の小径のプラズマ生成流路14が設けられており、これらのプラズマ生成流路14は混合流路13で合流するようになっている。
【0011】
また、溶射トーチ9の内部には粉末供給ポート10が形成されており、この粉末供給ポート10の先端は混合流路13内に接続されている。
したがって、溶射時には、各プラズマ生成流路14のプラズマが混合流路13内で合流するとともに、粉末供給ポート10を通って溶射粉末11が混合流路13のプラズマの中央部に供給されるようになっている。これにより、混合流路13から基材1方向に向けて溶射粒子4が噴出し、溶射炎(プラズマアーク)3が形成されるようになっている。また、溶射粒子4はプラズマアーク3内で加熱されて溶融し、基材1に衝突後に固化して溶射皮膜2が形成されるようになっている。
【0012】
ところで、図示するように、溶射トーチ9には、溶射トーチ9の先端側全周を覆うような小型チャンバ5が嵌着されており、この小型チャンバ5により溶射時に発生したプラズマアーク3が大気から遮断されるようになっている。また、上記小型チャンバ5の一部は溶射トーチ9の外周に嵌着されて溶射トーチ9と一体化されている。
【0013】
また、小型チャンバ5の内周には、溶射トーチ9の混合流路13をとり囲む形で略リング状(ドーナツ状)の補助ガスだまり8が設けられている。この補助ガスだまり8には、外部から補助ガス供給するためのガス供給ポート8aが形成されるとともに、補助ガスだまり8の基材1方向の面には複数個の補助ガス噴射口7が形成されている。そして、このような構成により、上記の補助ガス供給ポート8aから供給される補助ガス6が、補助ガス噴出口7から基材1に向けて噴出するようになっている。なお、補助ガス6は例えば窒素ガスやアルゴンガス、あるいはこれらのガスの混合物である。
【0014】
また、図示するように、補助ガス噴出口7は、溶射トーチ9の中心軸線に対して傾いて形成され、補助ガス6が上記中心軸線(すなわち、プラズマ中心軸)に対して所定角度(例えば5〜30゜)で噴出口7から噴出するように設定されている。さらに、この補助ガス噴出口7からは、プラズマ気流に対して1〜3倍の流速で補助ガス6が噴流(噴出)するようになっている。
【0015】
一方、小型チャンバ5の基材1側の内周には、円筒状のスライディングチャンバ20が設けられている。このスライディングチャンバ20は、小型チャンバに対して軸方向に摺動可能に設けられており、摺動可能な範囲で任意に固定可能に構成されている。つまり、小型チャンバ5及びスライディングチャンバ20からなるチャンバ25が溶射トーチ9の軸方向に伸縮可能なテレスコピック機構を有しているのである。これにより、基材1と溶射トーチ9との距離が変化する場合にも、チャンバ20の端部と基材1との距離を一定にすることができる。
【0016】
また、スライドチャンバ20の先端側(基材側、即ち図中右側)には気流カーテン形成手段26が設けられている。この気流カーテン形成手段26はチャンバ25と基材1との間に気流カーテンを形成して、チャンバ25内に空気が流入するのを防止するものである。具体的に説明すると、スライドチャンバ20の先端側の外周には空気だまり21が設けられている。この空気だまり21には、外部から空気だまり21内に高圧空気を供給するため空気供給ポート24が設けられるとともに、図示するように空気供給ポート24から供給される空気を噴射するための空気噴射スリット22が形成されている。この空気噴射スリット22は円周上に形成されたスリットであって、その開口方向が基材1に対して所定の角度(例えば60〜80°)になるように設定されている。
【0017】
そして、このようなスリット22から噴出する空気により、基材1とスライディングチャンバ20との間には、気流カーテンとしての空気カーテン(エアカーテン)23が形成されるようになっている。
また、このようにして形成された空気カーテン23により、スライディングチャンバ20と基材1との間からの大気の流入が遮断され、溶射粒子4の酸化が防止されるようになっている。
【0018】
本発明の一実施形態にかかる溶射装置は、上述のように構成されているので、溶射時には、まず小型チャンバ5を溶射トーチ9に嵌着し、スライディングチャンバ20の端部と基材1との間を所定距離に調整してスライディングチャンバ20を固定する。
そして、この状態で溶射を行なうと、粉末供給ポート10を介して供給される溶射粉末11が混合流路13に供給されて、混合流路13から基材方向に向けて溶射粒子4が噴出し、プラズマアーク3が形成される。この溶射トーチ9から噴出したプラズマアーク3内の中央部には溶射粉末4が混入しており、高温のプラズマアーク3によって溶射粉末4は昇温,溶融し、基材1の表面に溶射皮膜2が形成される。また、溶融した溶射粉末4の一部はヒュームとなり、チャンバ25内で漂う。
【0019】
ところで、一般にプラズマアーク3の外周部と周囲の気体との混合は、溶射トーチ9の噴出口からの距離が大きくなるほど中心部におよぶ。したがって、周囲の流体中に酸素が含まれていると、プラズマアーク3の中心部であっても溶射トーチ9から離れると、高温となった溶射粉末4と酸素とが反応して溶射粉末4が酸化し、基材1に接触固化後、溶射粒子4の酸化膜となり溶射膜の性状が悪化する(図3参照)。
【0020】
これに対して、本発明のプラズマ溶射装置では、酸化膜の生成を防止するために、溶射トーチ9に小型チャンバ5およびスライディングチャンバ20からなる伸縮可能なチャンバ25を設けることにより、大気の自由流通が防止される。
また、基材1とスライディングチャンバ20との距離は溶射粉末4,基材性状,ヒューム発生量及び溶射条件から決まる最適な値に設定すればよい。スライディングチャンバ20は摺動可能であるためこの設定は容易である。
【0021】
また、小型チャンバ5内の補助ガスだまり8には補助ガス6が供給され、補助ガス噴射口7からこの補助ガス6を周方向にほぼ均一に噴出させる。補助ガス6は窒素ガスやアルゴンガスあるいはこれらの混合物であり、小型チャンバ5及びスライディングチャンバ20で仕切られた空間に流入し、プラズマアーク3を取りとり囲む。このように、チャンバ内5を補助ガス6で充満させることにより、プラズマアーク3を補助ガス6で保護して酸化膜の形成が極力防止され、プラズマアーク3への酸素の混入は最小限に軽減されることとなる。
【0022】
また、補助ガス6はチャンバ25内に漂うヒュームとともにスライディングチャンバ20と基材1との間から排出される。また、チャンバ25の中心部では、プラズマアーク3及び補助ガス6は基材1に衝突した後、外周方向に偏向してスライディングチャンバ20と基材1との間から流出する。このときの流速は高速であるため、チャンバ25内が大気に対して負圧気味となる。このためスライディングチャンバ20の端部付近より大気が流入しやすい状態となるが、本願発明では空気カーテン23を形成することにより大気の流入が遮断され、チャンバ25内への大気の流入が防止される。
【0023】
以上のように、本発明のプラズマ溶射装置によれば、溶射トーチ9に、軸方向に伸縮可能なチャンバ25を設けるという簡素な構成により、溶射トーチ9と基材1との距離にかかわらず、チャンバ25と基材1との間の距離を一定に保つことが可能となり、多種多様の溶射条件へ容易に適応させることができるようになる。
また、チャンバ25と基材1との間に空気カーテンを形成することにより、チャンバ25内への大気の浸入が防止でき、溶射粒子4の酸化を防止することができる。そして、これにより溶射皮膜2の性状が大幅に向上するという利点がある。さらには、チャンバ25内への大気の流入を防止できるので、その分補助ガス6の流量を低減ができ、コスト低減が図れる(即ち、経済性が増す)という利点がある。
【0024】
また、チャンバ25の外周に形成される気流カーテンを安価な空気により形成することにより、コストの増大を招くことなく大気遮断効果を得ることができるという利点がある。
なお、本願発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、上述の実施形態では、気流カーテン23を空気により形成した場合について説明したが、他の流体で気流カーテンを形成してもよい。また、小型チャンバ5とスライディングチャンバ20との間の伸縮機構についてはどのような構造のものを適用してもよい。また、小型チャンバ5やスライディングチャンバ20には、冷却通路等の冷却機構を設けてもよい。この冷却通路は溶射時の高温度の熱による加熱を防止するものである。
【0025】
【発明の効果】
以上詳述したように、請求項1記載の本発明のプラズマ溶射装置によれば、溶射トーチに溶射トーチ先端から基材近傍までを覆う空気遮断用のチャンバが取り付けられるとともに、チャンバが、溶射トーチの軸方向に伸縮可能に構成されているという構成により、溶射トーチと基材との距離にかかわらず、チャンバと基材との間の距離を一定に保つことが可能となり、多種多様の溶射条件への適応が容易になるという利点がある。
【0026】
また、請求項2記載の本発明のプラズマ溶射装置によれば、上記請求項1記載の構成に加えて、チャンバと基材との間に気流カーテンを形成する気流カーテン形成手段が設けるという構成により、チャンバ内への大気の浸入が防止でき、溶射粒子の酸化を防止することができる利点がある。また、これにより溶射皮膜の性状が大幅に向上するという利点がある。さらには、補助ガスの流量を減少することができコスト低減が図れるという利点がある。
【0027】
また、請求項3記載の本発明のプラズマ溶射装置によれば、上記請求項2記載の構成に加えて、チャンバ外周の気流カーテンを安価な空気により形成することにより、コストの増大を招くことなく大気遮断効果を得ることができるという利点がある。
また、請求項4記載の本発明のプラズマ溶射装置によれば、上記請求項3記載の構成に加えて、スリットから噴出する空気により、基材とチャンバとの間には空気カーテン(エアカーテン)を形成することができる。また、このようにして形成された空気カーテンにより、チャンバと基材との間からの大気の流入が遮断され、溶射粒子の酸化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態にかかるプラズマ溶射装置の全体構成を示す模式的な断面図である。
【図2】従来のプラズマ溶射装置の一例を示す模式図である。
【図3】従来の溶射装置により形成された溶射皮膜を示す模式的な断面図である。
【符号の説明】
1 基材
2 溶射皮膜
3 プラズマアーク
4 溶射粒子
5 小型チャンバ
6 補助ガス
7 補助ガス噴射口
8 補助ガスだまり
9 溶射トーチ
10 粉末供給ポート
11 溶射粉末
13 混合流路
14 プラズマアーク流路
20 スライディングチャンバ
21 空気だまり
22 空気噴射スリット
23 空気カーテン
24 空気供給ポート
25 チャンバ
26 気流カーテン形成手段
Claims (4)
- プラズマアークにより溶射を行なう溶射装置であって、
溶射トーチに該溶射トーチ先端から基材近傍までを覆う空気遮断用のチャンバが取り付けられるとともに、
該チャンバが、該溶射トーチの軸方向に伸縮可能に構成されている
ことを特徴とする、プラズマ溶射装置。 - 該チャンバの端部に、該チャンバと該基材との間に気流カーテンを形成する気流カーテン形成手段が設けられている
ことを特徴とする、請求項1記載のプラズマ溶射装置。 - 該気流カーテンが、空気により形成される
ことを特徴とする、請求項2記載のプラズマ溶射装置。 - 該気流カーテン形成手段は、
該チャンバの先端側の外周に形成された空気だまりと、
外部から該空気だまり内に高圧空気を供給する空気供給ポートと、
該空気供給ポートから供給される空気を噴射するための空気噴射スリットとをそなえ、
該空気噴射スリットが該チャンバ先端側の円周上に形成されたスリットであって、該スリットの開口方向が該基材に対して所定の角度になるように設定されている
ことを特徴とする、請求項3記載のプラズマ溶射装置。
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