JP3877429B2 - 耐火性多層シート - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、天井材、床材、間仕切り壁等の建築材料に使用される耐火性多層シートに関する。
【0002】
【従来の技術】
建築材料には、耐火性、即ち、それ自体が燃えにくく断熱性に優れ、更には火炎を裏面に廻すことがない性能が要求される。耐火性の試験方法としては、例えば表面から加熱して裏面温度を測定する方法があり、建築材料においては、表面を1000℃程度に加熱した際に裏面温度が260℃よりも低くなることが要求されている。
【0003】
このような耐火性に優れた建築材料としては、石膏、パーライト、ALC等の材料からなる耐火壁が広く用いられている。しかしながら、これらの材料に充分な耐火性を発揮させるためには、厚みを増す必要があり、厚みを増すと施工性に問題があった。
【0004】
特開昭61−1753号公報には、耐火壁の周縁に加熱膨張層を付設したものが開示されている。しかしながら、この技術は、耐火壁の収縮により目地部に隙間が発生するのを防止することによって、火炎が裏面に廻るのを阻止することを主目的とするものであり、断熱性に劣るという問題点があった。
【0005】
特開平6−80909号公報には、セメント、含水無機物等からなる組成物の微粉を吹きつける方法が開示されている。しかしながら、この方法は、現場での吹きつけ施工を必要とするため施工性に劣り、また、厚みが均一にならない場合は充分な耐火性を発揮することができなかった。更には、施工する際に微粉が飛散するために、健康面への影響が大きかった。
【0006】
施工性を向上するため、2枚の金属板の間に、不燃性の無機質材料又は樹脂からなる板を挟みこんだ建築パネルも開発されているが、1000℃で加熱した場合には、裏面温度が基準値260℃よりも高くなり、耐火性能という点では不充分であった。
【0007】
また、樹脂に加熱膨張性の無機質材料を多量に混入した耐火性樹脂シートが建築材料として検討されている。このような樹脂シートは、加熱により膨張して耐火断熱層(燃焼残渣)を形成し、耐火性能を発現する。
上記樹脂シートは、通常、燃焼時に鋼材や壁材自身の温度上昇を防ぐ目的で、柱、壁材等の建築材料に貼り合わせて使用されることが多い。このため、垂直部位に使用する場合には、燃焼時及び燃焼後共に、柱、壁材等から耐火断熱層となる燃焼残渣が崩れ落ちることなく、保持されていることが必要となる。
このため、燃焼残渣の強度(形状保持性)が、耐火性能を発現する材料の重要な性能因子である。
【0008】
上記燃焼残渣に形状保持性を付与するために、例えば金網、ステンレス板等の形状保持材で補強することが考えられるが、形状保持材が上記樹脂シートの燃焼時における膨張を阻害せずに、十分な耐火断熱層を形成するためには、樹脂シートの燃焼時における膨張力と形状保持材の剛性とのバランスが重要になる。
【0009】
しかしながら、このような樹脂シートの膨張力と形状保持材の剛性とのバランスは、実際に耐火性試験を実施して、発泡膨張した燃焼残渣が所定の耐火断熱性と強度とを有するかどうかを判断しなければならず、手間がかかるという問題点があった。また、フレキシブルな形状保持材としてセラミックブランケットの使用が考えられるが、厚みを2mm以下に薄く設定するのが困難であり、取り付けにピン等の金具を必要とするため、ピンで固定した部分の樹脂シートの発泡膨張が阻害され、この部分が局部的に温度上昇するという問題点があった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、燃焼時に発泡膨張して耐火性能にすぐれた耐火断熱層(燃焼残渣)を形成し、しかも得られた耐火断熱層が形状保持性に優れる耐火性多層シートを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明(以下、第1発明という)である耐火性多層シートは、厚みが0.5〜10mmであるA層の少なくとも片面に、厚みが0.01〜2mmであるB層が積層された耐火性多層シートであって、A層が、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質100重量部、リン化合物と中和処理された熱膨張性黒鉛とを合計量で20〜500重量部、含水無機物10〜500重量部、並びに、金属炭酸塩10〜500重量部を含有し、かつ、中和処理された熱膨張性黒鉛とリン化合物との重量比が0.01〜9である樹脂組成物(I)から形成され、
B層が、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質100重量部、リン化合物20〜300重量部、含水無機物10〜470重量、並びに、金属炭酸塩10〜470重量部を含有し、かつ、リン化合物と含水無機物と金属炭酸塩との合計量が40〜500重量部である樹脂組成物(II)から形成されてなることを特徴とする。
【0012】
上記A層は、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質からなる樹脂分、リン化合物、中和処理された熱膨張性黒鉛、含水無機物並びに金属炭酸塩を含有する樹脂組成物(I)から形成される。
【0013】
上記B層は、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質からなる樹脂分、リン化合物、含水無機物並びに金属炭酸塩を含有する樹脂組成物(II)から形成される。
【0014】
上記樹脂分としては特に限定されず、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリ(1−)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリブテン、ブチルゴム、ポリクロロプレン、ポリブタジエン、ポリイソブチレン、ニトリルゴム等が挙げられる。
【0015】
これらの中でも、クロロプレン系樹脂、塩素化ブチル系樹脂等のハロゲン化された樹脂は、それ自体難燃性が高く、さらに熱による脱ハロゲン化反応により、架橋が起こり、加熱後の残渣の強度が向上する点において好ましい。
上記樹脂分として例示したものは、非常に柔軟でゴム的性質を持っていることから、上記無機充填剤を高充填することが可能であり、得られる樹脂組成物が柔軟でフレキシブルなものとなる。より柔軟でフレキシブルな樹脂組成物を得るためには、非加硫ゴムやポリエチレン系樹脂が好適に用いられる。
【0016】
上記樹脂分は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
樹脂分の溶融粘度、柔軟性、粘着性等の調整のため、2種以上の樹脂分をブレンドしたものをベース樹脂として用いてもよい。
【0017】
上記樹脂分には、耐火性能を阻害しない範囲で、架橋や変性が施されてもよい。上記樹脂分の架橋や変性を行う場合は、予め樹脂分に架橋や変性を施してもよく、後述のリン化合物や無機充填剤等の他の成分の配合時又は配合した後で架橋や変性を施してもよい。
【0018】
上記架橋方法については、特に限定されず、上記樹脂分について通常行われる架橋方法、例えば、各種架橋剤、過酸化物等を使用する架橋方法、電子線照射による架橋方法などが挙げられる。
【0019】
上記樹脂分の溶融、軟化温度は、後述する中和処理された熱膨張性黒鉛の膨張開始温度以下であることが好ましい。
【0020】
上記リン化合物としては特に限定されず、例えば、赤リン;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム等のリン酸金属塩;ポリリン酸アンモニウム類;下記一般式(1)で表される化合物等が挙げられる。これらのうち、耐火性の観点から、赤リン、ポリリン酸アンモニウム類、及び、下記一般式(1)で表される化合物が好ましく、性能、安全性、費用等の点においてポリリン酸アンモニウム類がより好ましい。
【0021】
【化1】
【0022】
式中、R1 及びR3 は、水素原子、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又は、炭素数6〜16のアリール基を表す。R2 は、水酸基、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシル基、炭素数6〜16のアリール基、又は、炭素数6〜16のアリールオキシ基を表す。
【0023】
上記赤リンは、少量の添加で難燃効果が向上する。上記赤リンとしては、市販の赤リンを用いることができるが、耐湿性、混練時に自然発火しない等の安全性の点から、赤リン粒子の表面を樹脂でコーティングしたもの等が好適に用いられる。
【0024】
上記ポリリン酸アンモニウム類としては特に限定されず、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム等が挙げられるが、取扱い性等の点からポリリン酸アンモニウムが好適に用いられる。
市販品としては、例えば、ヘキスト社製「AP422」、「AP462」、住友化学社製「スミセーフP」、チッソ社製「テラージュC60」、「テラージュC70」、「テラージュC80」等が挙げられる。
【0025】
上記一般式(1)で表される化合物としては特に限定されず、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、2−メチルプロピルホスホン酸、t−ブチルホスホン酸、2,3−ジメチル−ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4−メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。なかでも、t−ブチルホスホン酸は、高価ではあるが、高難燃性の点においては好ましい。
上記リン化合物は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0026】
上記中和処理された熱膨張性黒鉛とは、従来公知の物質である熱膨張性黒鉛を中和処理したものである。上記熱膨張性黒鉛は、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とで処理することにより生成するグラファイト層間化合物であり、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物である。
【0027】
上述のように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛は、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和することにより、上記中和処理された熱膨張性黒鉛とする。
【0028】
上記脂肪族低級アミンとしては、特に限定されず、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等が挙げられる。
上記アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物としては、特に限定されず、例えば、カリウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム等の水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩等が挙げられる。
上記中和処理された熱膨張性黒鉛の市販品としては、例えば、東ソー社製「GREP−EG」、UCAR Carbon社製「GRAFGUARD#160」、「GRAFGUARD#220」等が挙げられる。
【0029】
上記中和処理された熱膨張性黒鉛の粒度は、20〜200メッシュが好ましい。粒度が200メッシュより小さくなると、黒鉛の膨張度が小さいため、所定の耐火断熱層が得られず、粒度が20メッシュより大きくなると、黒鉛の膨張度が大きいという利点はあるが、樹脂分と混練する際に分散性が悪くなり、物性の低下が避けられない。
【0030】
上記含水無機物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
上記水酸化アルミニウムとしては、粒径1μmの「H−42M」(昭和電工社製)、粒径18μmの「H−31」(昭和電工社製)が挙げられる。
【0032】
上記金属炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、炭酸亜鉛などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
上記炭酸カルシウムの市販品としては、例えば、粒径1.8μmの「ホワイトンSB赤」(白石カルシウム社製)、粒径8μmの「BF300」(白石カルシウム社製)等が挙げられる。
【0034】
上記含水無機物は、加熱時の脱水反応によって生成した水のために吸熱が起こり、温度上昇が低減されて高い耐熱性が得られる点、及び、加熱残渣として酸化物が残存し、これが骨材となって働くことで残渣強度が向上する点で特に好ましい。水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムは、脱水効果を発揮する温度領域が異なるため、併用すると脱水効果を発揮する温度領域が広がり、より効果的な温度上昇抑制効果が得られることから、併用することが好ましい。
【0035】
上記金属炭酸塩は、上記リン化合物としてポリリン酸アンモニウムを使用した場合、ポリリン酸アンモニウムとの反応で膨張を促進すると考えられる。また、有効な骨材として働き、燃焼後に形状保持性の高い燃焼残渣を形成する。
【0036】
上記含水無機物及び金属炭酸塩は、骨材的な働きをすることから、燃焼残渣の強度の向上や熱容量の増大に寄与すると考えられる。本発明においては、上記含水無機物及び金属炭酸塩以外に、無機充填剤が添加されてもよい。
【0037】
上記含水無機物及び金属炭酸塩の粒径としては、0.5〜100μmが好ましく、より好ましくは1〜50μmである。
また、粒径の大きいものと粒径の小さいものとを組み合わせて使用することがより好ましく、このような組み合わせによって、シート状成形体の力学的性能を維持したまま、高充填化することが可能となる。
【0038】
上記含水無機物及び金属炭酸塩は、添加量が少ないときは、分散性が性能を大きく左右するため粒径の小さいものが好ましいが、0.5μm未満では二次凝集が起こり、分散性が悪くなる。上記含水無機物及び金属炭酸塩の添加量が多いときは、高充填が進むにつれて樹脂組成物の粘度が高くなり成形性が低下するが、粒径を大きくすることで樹脂組成物の粘度を低下させることができる点から、上記範囲のなかでも粒径の大きいものが好ましい。また、粒径が100μmを超えると、成形体の表面性や樹脂組成物の力学的性質が低下する。
【0039】
上記含水無機物及び金属炭酸塩の粒径は、小さくなると嵩が大きくなって高充填化が困難となるので、脱水効果を高めるために高充填するには粒径の大きなものが好ましい。具体的には、粒径が18μmでは、1.5μmの粒径に比べて充填限界量が約1.5倍程度向上することが知られている。さらに、粒径の大きいものと小さいものとを組合わせることによって、より高充填化が可能となる。
【0040】
上記樹脂組成物(I)において、リン化合物及び中和処理された熱膨張性黒鉛の配合量は、樹脂分100重量部に対して20〜500重量部である。
配合量が、20重量部未満では加熱後の燃焼残渣量が不十分となり、500重量部を超えると樹脂組成物(I)の伸び等の物性が低下し、成形性が大幅に低下するため、良好な表面の成形体が得られなくなる。
【0041】
上記中和処理された熱膨張性黒鉛とリン化合物との重量比(熱膨張性黒鉛/リン化合物)は0.01〜9である。中和処理された熱膨張性黒鉛の配合比率が多くなると、燃焼時に膨張した黒鉛が飛散し、十分な耐火断熱層が形成されず、リン化合物との配合比率が多くなると、十分な耐火断熱層が形成されないため、十分な耐火断熱性が得られない。
【0042】
上記樹脂組成物(I)において、含水無機物の配合量は、樹脂分100重量部に対して10〜500重量部である。配合量が、10重量部未満では、燃焼時の脱水による吸熱効果が不足するため燃焼時の断熱効果が不十分となり、500重量部を超えると樹脂組成物(I)の伸び特性が著しく低下する。
【0043】
上記樹脂組成物(I)において、金属炭酸塩の配合量は、樹脂分100重量部に対して10〜500重量部である。配合量が、10重量部未満では骨材量が不足するため加熱後の燃焼残渣の強度が不十分となり、500重量部を超えると樹脂組成物(I)の伸び特性が著しく低下する。
【0044】
上記樹脂組成物(II)において、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質からなる樹脂分、リン化合物、含水無機物並びに金属炭酸塩は、樹脂組成物(I)と同様の成分が用いられる。
【0045】
上記樹脂組成物(II)において、リン化合物の配合量は、樹脂分100重量部に対して20〜300重量部である。配合量が、20重量部未満では燃焼後の燃焼残渣量が不十分となり、300重量部を超えると樹脂組成物(II)の伸び等の物性が低下し、成形性が大幅に低下するため、良好な表面の成形体が得られなくなる。
【0046】
上記樹脂組成物(II)において、含水無機物の配合量は、樹脂分100重量部に対して10〜470重量部である。配合量が、10重量部未満では燃焼時の脱水による吸熱効果が不足するため燃焼時の断熱効果が不十分となり、470重量部を超えると樹脂組成物(II)の伸び等の物性が低下し、成形性が大幅に低下するため、良好な表面の成形体が得られなくなる。
【0047】
上記樹脂組成物(II)において、金属炭酸塩の配合量は、樹脂分100重量部に対して10〜470重量部である。配合量が、10重量部未満では加熱後の燃焼残渣の強度が不十分となり、470重量部を超えると樹脂組成物(II)の伸び特性が著しく低下する。
【0048】
また、上記樹脂組成物(II)において、リン化合物、含水無機物及び金属炭酸塩の配合量の合計は、樹脂分100重量部に対して40〜500重量部である。配合量が、40重量部未満では、燃焼残渣量の不足と燃焼残渣強度不足のため、十分な断熱性能が発揮されないと共に形状保持材としての役割も発揮できない、500重量部を超えると、樹脂組成物(II)の伸び特性が著しく低下するため、柔軟性を有するシートに成形加工するのが困難、あるいは被覆する鉄骨への追従性に劣るため施工性が低下する。
【0049】
上記樹脂組成物(I)又は樹脂組成物(II)は、樹脂組成物を構成する各成分を単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、二本ロール等従来公知の混練装置に供給して溶融混練することにより得ることができる。得られた樹脂組成物を、例えば、押出成形、カレンダー成形等、従来公知の成形方法によってシート状物に成形することにより、A層用又はB層用シートを得ることができる。
【0050】
上記A層用シートの片面又は両面にB層用シートを積層することにより、本発明の耐火性多層シートを得ることができる。耐火性多層シートを得るには、例えば、A層用シートとB層用シートとを重ね合わせてプレス成形により積層する方法が挙げられる。また、樹脂組成物(I)と樹脂組成物(II)をそれぞれ別々の押出機に供給して、共押出成形することによってA層とB層とが積層された耐火性多層シートを得てもよい。
【0051】
第1発明の耐火性多層シートにおいて、A層の厚みは0.5〜10mmであり、B層の厚みは、0.01〜2mmである。
A層の厚みが、0.5mm未満では燃焼後に十分な厚みの耐火断熱層が形成されず、10mmを超えると施工性が低下する。
また、B層の厚みが、0.01mm未満では燃焼後に形成される炭化層の厚みが不足して十分な形状保持性が発現せず、2mmを超えると施工性が低下する。
【0052】
次に、請求項2記載の発明(以下、第2発明という)について説明する。
第2発明の耐火性多層シートは、厚みが0.5〜10mmであるA層の少なくとも片面に、厚みが0.01〜2mmであるC層が積層された耐火性多層シートであって、A層が、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質100重量部、リン化合物と中和処理された熱膨張性黒鉛とを合計量で20〜500重量部、含水無機物10〜500重量部、並びに、金属炭酸塩10〜500重量部を含有し、かつ、中和処理された熱膨張性黒鉛とリン化合物との重量比が0.01〜9である樹脂組成物(I)から形成され、C層が、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質100重量部、リン化合物20〜300重量部、並びに、金属炭酸塩10〜480重量部を含有し、かつ、リン化合物と金属炭酸塩との合計量が30〜500重量部である樹脂組成物 (III)から形成されてなることを特徴とする。
【0053】
第2発明において、A層は、第1発明のA層と同様のものが用いられる。
【0054】
第2発明において、C層は、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質からなる樹脂分、リン化合物並びに金属炭酸塩を含有する樹脂組成物 (III)より形成される。
【0055】
上記熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質からなる樹脂分、リン化合物並びに金属炭酸塩としては、第1発明と同様の成分が用いられる。
【0056】
上記樹脂組成物 (III)において、リン化合物の配合量は、樹脂分100重量部に対して20〜300重量部である。配合量が、20重量部未満では加熱後の燃焼残渣量が不十分となり、300重量部を超えると樹脂組成物 (III)の伸び等の物性が低下し、成形性が大幅に低下するため、良好な表面の成形体が得られなくなる。
【0057】
上記樹脂組成物 (III)において、金属炭酸塩の配合量は、樹脂分100重量部に対して10〜480重量部である。配合量が、10重量部未満では加熱後の燃焼残渣の強度が不十分となり、480重量部を超えると樹脂組成物 (III)の伸び特性が著しく低下する。
【0058】
また、上記樹脂組成物 (III)において、リン化合物及び金属炭酸塩の配合量の合計は、樹脂分100重量部に対して30〜500重量部である。
配合量が、30重量部未満では、燃焼残渣量の不足と燃焼残渣強度不足のため、十分な断熱効果が発揮されず、形状保持材としての役割も発揮できない、500重量部を超えると、樹脂組成物 (III)の伸び特性が著しく低下するため、良好な表面性を有するシートに成形加工するのが困難となる。
【0059】
上記樹脂組成物 (III)は、各成分を第1発明と同様の方法によって溶融混合することにより得られる。この樹脂組成物 (III)を使用して、第1発明と同様の方法によりC層を得、上記A層とC層とを第1発明と同様の方法により積層するこにより、第2発明の耐火性多層シートを得ることができる。
また、第1発明と同様、樹脂組成物(I)と (III)とを共押出成形することによってA層とC層とが積層された耐火性多層シートを得てもよい。
【0060】
第2発明の耐火性多層シートにおいて、第1発明の耐火性多層シートと同様の理由により、A層の厚みは0.5〜10mm、B層の厚みは0.01〜2mmとなされる。
【0061】
上記樹脂組成物(I)、(II)及び (III)には、樹脂組成物の物性を損なわない範囲で、難燃剤、酸化防止剤、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、軟化剤、顔料等が添加されてもよい。また、耐火性多層シートに粘着性を付与するために粘着付与剤が添加されてもよい。
【0062】
【作用】
第1発明の耐火性多層シートは、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質からなる樹脂分、リン化合物、中和処理された熱膨張性黒鉛、金属炭酸塩並びに含水無機物を含有する樹脂組成物(I)より形成されるA層の少なくとも片面に、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質からなる樹脂分、リン化合物、金属炭酸塩並びに含水無機物を含有する樹脂組成物(II)より形成されるB層が積層されたものであり、A層は燃焼時に膨張して燃焼残渣からなる耐火断熱層を形成し、B層は燃焼によって炭化層を形成する。B層の燃焼によって形成される炭化層は、中和処理された熱膨張性黒鉛を含有しないので、膨張倍率は小さくA層よりは断熱性能が劣るが剛性に優れるので、耐火断熱層の形状保持材として機能し、2層合わせて優れた耐火性能を発揮する。
【0063】
第2発明の耐火性多層シートは、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質からなる樹脂分、リン化合物、中和処理された熱膨張性黒鉛、金属炭酸塩並びに含水無機物を含有する樹脂組成物(I)より形成されるA層の少なくとも片面に、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質からなる樹脂分、リン化合物並びに金属炭酸塩を含有する樹脂組成物(III)より形成されるC層が積層されたものであり、燃焼時にA層は膨張して燃焼残渣からなる耐火断熱層を形成し、C層は燃焼によって炭化層を形成する。C層の燃焼によって形成される炭化層は、中和処理された熱膨張性黒鉛を含有しないので、膨張倍率は小さくA層よりは断熱性能が劣るが剛性に優れるので、耐火断熱層の形状保持材として機能し、2層合わせて優れた耐火性能を発揮する。また、C層の炭化層は、第1発明に比べて含水無機物を含有しないため吸熱効果には劣るが、より優れた剛性を有するため、耐火断熱層の形状保持材として機能する。
【0064】
本発明の耐火性多層シートは、例えば、鉄骨等の耐火被覆材として用いられる。耐火被覆材として用いる場合は、構成として鉄骨の周囲に上記耐火性多層シートを配置し、さらにその外側に不燃性材料からなるシートを配置することが好ましい。配置方法に関しては、内側から順を追って行ってもよく、鉄骨に対して、予め積層しておいた耐火性多層シートと不燃性材料からなるシートとを配置してもかまわない。
【0065】
上記耐火性多層シートは、例えば、火災の際に熱を受けて膨張することにより耐火断熱層を形成し、この耐火断熱層によって鉄骨へ熱が伝わるのを防止する。従って、この耐火断熱層は、鉄骨の全周で隙間なく形成されることが好ましい。また、上記不燃性材料からなるシートとしては、上記耐火性多層シートの膨張によって形成される耐火断熱層に追随してある程度変形し、耐火断熱層の形状が崩れないように保持し得る材料が好ましい。
【0066】
上記不燃性材料からなるシートとしては、不燃性を有するものであれば特に限定されず、例えば、鋼板、亜鉛メッキ鋼板、ステンレス板、アルミ・亜鉛合金板、アルミニウム板等の金属板材料;珪酸カルシウム板、繊維混入珪酸カルシウム板、炭酸カルシウム板、石膏ボード板、強化石膏板、パーライトセメント板、繊維強化セメント板、木片セメント板、木粉セメント板、スラグ石膏板等の無機質板;ロックウール保温板、セラミックウールブランケット、アルミナシリカ繊維フェルト、セラミック紙、水酸化アルミ紙等のシート状物が挙げられる。
上記不燃性材料からなるシートは、これらのシート状物が複数枚貼り合わされたものであってもよい。
【0067】
上記不燃性材料からなるシートとして好ましくは、厚みの薄い金属板(箔)である。厚みの薄い金属板は、耐火性シート状成形体又はシート積層体が膨張する際に変形や湾曲することによって、破れや切断を起こさずに膨張を吸収する。
上記金属板の厚みは、0.1〜1mmが好ましい。厚みが、0.1mm未満では防炎材料や形状保持材として機能せず、1mmを超えると湾曲による膨張代の確保が難しくなる。
【0068】
上記耐火性多層シートにおけるA層は、熱照射量50kW/cm2 の条件下で完全燃焼させた際に、初期厚み(D0)と燃焼後の厚み(D1)との関係が、D1 /D0 =1.1〜20であるようになされてことが好ましい。D1 /D0 が、1.1未満では加熱によって膨張しても十分な断熱性を発現せず、20を超えると発泡倍率が高くなり過ぎて燃焼残渣の強度が不足する。
【0069】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施例を説明する。
(実施例1〜4、比較例1,2)
表1に示した配合量の、樹脂分、水添石油樹脂、ポリリン酸アンモニウム、中和処理された熱膨張性黒鉛、水酸化アルミニウム、及び、炭酸カルシウムを二軸押出機に供給し溶融混練した後Tダイより押出成形して、表1に示した厚みのA層用シート、B層用シート及びC層用シートを得た。
上記A層用シート及びB層用シート又はC層用シートを、表2に示した構成で重ね合わせてプレス成形し、耐火性多層シートを得た。
尚、比較例1ではB/C層を補強するためにラス金網を使用し、比較例2ではB/C層を補強するために鉄板を使用した。
【0070】
【表1】
【0071】
尚、表1中で使用した成分は下記の通りである。
・ブチルゴム:エクソン化学社製「ブチルゴム#065」
・ポリブテン:出光石油化学社製「ポリブテン100R」
・メタロセンPE:ダウケミカル社製「EG8200」
・水添石油樹脂:トーネックス社製「エスコレッツ5320」
・ポリリン酸アンモニウム:クラリアント社製「AP422」
・中和処理された熱膨張性黒鉛:東ソー社製「GREG−EG」
・水酸アルミニウム:昭和電工社製「H−42M」
・炭酸カルシウム:白石カルシウム社製「BF300」
【0072】
上記耐火性多層シート及び各層用シートにつき下記項目の性能評価を行い、その結果を表2に示した。
【0073】
(1)膨張倍率
10cm×10cm×3mm厚の耐火性多層シート(試験片)を水平に配置した状態で、コーンカロリーメーター(アトラス社製「CONE2A」)を用いて50kW/m2 の照射熱量を照射し、スパークにより着火して完全燃焼させた後室温まで冷却した。冷却後の試験片の厚みを測定し、加熱前後の厚み比から膨張倍率(加熱後の厚み/加熱前の厚み)を算出した。
【0074】
(2)耐火性能
10cm×10cm×0.5mm厚のステンレス板の裏面に、耐火性多層シート(試験片)を重ね合わせ垂直に配置した後、コーンカロリーメーター(アトラス社製「CONE2A」)を用いて、ステンレス板側に50kW/m2 の照射熱量を照射した状態で燃焼させ、1時間経過後の試験片の裏面温度を測定した。
【0075】
(3)B層又はC層の防炎性能
(2)の耐火性能の測定時に燃焼開始から試験片の溶融時の垂れを側面から目視観察し、垂れが確認されなかったものを○、垂れが確認されたものを×、と判定した。
【0076】
(4)B層又はC層の膨張の部分阻害性
(2)の耐火性能の測定時に裏面側にサーモビュア(日本電子データム社製)を置き、燃焼時の温度むらを測定した。10cm×10cm試験片のうち、5cm×5cmの面積内で、温度分布が±10℃以内のもを○、温度分布が±10℃を超えるものを×、と表示した。
【0077】
(5)B層又はC層の膨張の阻害性
A層単独の場合と、A層及びB層又はC層の積層体との場合とで(1)の膨張倍率の測定を行い、下記式で表される膨張倍率の変化率が、5%未満であったものを○、5%以上であったものを×、で表示した。
膨張倍率の変化率=〔(A層+B層又はC層)/A層〕×100
【0078】
【表2】
【0079】
【発明の効果】
本発明の耐火性多層シートは、A層の少なくとも片面にB層又はC層を積層することにより、A層が燃焼時に発泡膨張して耐火性能にすぐれた耐火断熱層(燃焼残渣)を形成し、B層又はC層が燃焼時に炭化層を形成して形状保持材としての剛性を発揮するので、形状保持性に優れた耐火断熱層を形成する。
【発明の属する技術分野】
本発明は、天井材、床材、間仕切り壁等の建築材料に使用される耐火性多層シートに関する。
【0002】
【従来の技術】
建築材料には、耐火性、即ち、それ自体が燃えにくく断熱性に優れ、更には火炎を裏面に廻すことがない性能が要求される。耐火性の試験方法としては、例えば表面から加熱して裏面温度を測定する方法があり、建築材料においては、表面を1000℃程度に加熱した際に裏面温度が260℃よりも低くなることが要求されている。
【0003】
このような耐火性に優れた建築材料としては、石膏、パーライト、ALC等の材料からなる耐火壁が広く用いられている。しかしながら、これらの材料に充分な耐火性を発揮させるためには、厚みを増す必要があり、厚みを増すと施工性に問題があった。
【0004】
特開昭61−1753号公報には、耐火壁の周縁に加熱膨張層を付設したものが開示されている。しかしながら、この技術は、耐火壁の収縮により目地部に隙間が発生するのを防止することによって、火炎が裏面に廻るのを阻止することを主目的とするものであり、断熱性に劣るという問題点があった。
【0005】
特開平6−80909号公報には、セメント、含水無機物等からなる組成物の微粉を吹きつける方法が開示されている。しかしながら、この方法は、現場での吹きつけ施工を必要とするため施工性に劣り、また、厚みが均一にならない場合は充分な耐火性を発揮することができなかった。更には、施工する際に微粉が飛散するために、健康面への影響が大きかった。
【0006】
施工性を向上するため、2枚の金属板の間に、不燃性の無機質材料又は樹脂からなる板を挟みこんだ建築パネルも開発されているが、1000℃で加熱した場合には、裏面温度が基準値260℃よりも高くなり、耐火性能という点では不充分であった。
【0007】
また、樹脂に加熱膨張性の無機質材料を多量に混入した耐火性樹脂シートが建築材料として検討されている。このような樹脂シートは、加熱により膨張して耐火断熱層(燃焼残渣)を形成し、耐火性能を発現する。
上記樹脂シートは、通常、燃焼時に鋼材や壁材自身の温度上昇を防ぐ目的で、柱、壁材等の建築材料に貼り合わせて使用されることが多い。このため、垂直部位に使用する場合には、燃焼時及び燃焼後共に、柱、壁材等から耐火断熱層となる燃焼残渣が崩れ落ちることなく、保持されていることが必要となる。
このため、燃焼残渣の強度(形状保持性)が、耐火性能を発現する材料の重要な性能因子である。
【0008】
上記燃焼残渣に形状保持性を付与するために、例えば金網、ステンレス板等の形状保持材で補強することが考えられるが、形状保持材が上記樹脂シートの燃焼時における膨張を阻害せずに、十分な耐火断熱層を形成するためには、樹脂シートの燃焼時における膨張力と形状保持材の剛性とのバランスが重要になる。
【0009】
しかしながら、このような樹脂シートの膨張力と形状保持材の剛性とのバランスは、実際に耐火性試験を実施して、発泡膨張した燃焼残渣が所定の耐火断熱性と強度とを有するかどうかを判断しなければならず、手間がかかるという問題点があった。また、フレキシブルな形状保持材としてセラミックブランケットの使用が考えられるが、厚みを2mm以下に薄く設定するのが困難であり、取り付けにピン等の金具を必要とするため、ピンで固定した部分の樹脂シートの発泡膨張が阻害され、この部分が局部的に温度上昇するという問題点があった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、燃焼時に発泡膨張して耐火性能にすぐれた耐火断熱層(燃焼残渣)を形成し、しかも得られた耐火断熱層が形状保持性に優れる耐火性多層シートを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明(以下、第1発明という)である耐火性多層シートは、厚みが0.5〜10mmであるA層の少なくとも片面に、厚みが0.01〜2mmであるB層が積層された耐火性多層シートであって、A層が、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質100重量部、リン化合物と中和処理された熱膨張性黒鉛とを合計量で20〜500重量部、含水無機物10〜500重量部、並びに、金属炭酸塩10〜500重量部を含有し、かつ、中和処理された熱膨張性黒鉛とリン化合物との重量比が0.01〜9である樹脂組成物(I)から形成され、
B層が、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質100重量部、リン化合物20〜300重量部、含水無機物10〜470重量、並びに、金属炭酸塩10〜470重量部を含有し、かつ、リン化合物と含水無機物と金属炭酸塩との合計量が40〜500重量部である樹脂組成物(II)から形成されてなることを特徴とする。
【0012】
上記A層は、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質からなる樹脂分、リン化合物、中和処理された熱膨張性黒鉛、含水無機物並びに金属炭酸塩を含有する樹脂組成物(I)から形成される。
【0013】
上記B層は、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質からなる樹脂分、リン化合物、含水無機物並びに金属炭酸塩を含有する樹脂組成物(II)から形成される。
【0014】
上記樹脂分としては特に限定されず、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリ(1−)ブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、フェノール系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリブテン、ブチルゴム、ポリクロロプレン、ポリブタジエン、ポリイソブチレン、ニトリルゴム等が挙げられる。
【0015】
これらの中でも、クロロプレン系樹脂、塩素化ブチル系樹脂等のハロゲン化された樹脂は、それ自体難燃性が高く、さらに熱による脱ハロゲン化反応により、架橋が起こり、加熱後の残渣の強度が向上する点において好ましい。
上記樹脂分として例示したものは、非常に柔軟でゴム的性質を持っていることから、上記無機充填剤を高充填することが可能であり、得られる樹脂組成物が柔軟でフレキシブルなものとなる。より柔軟でフレキシブルな樹脂組成物を得るためには、非加硫ゴムやポリエチレン系樹脂が好適に用いられる。
【0016】
上記樹脂分は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
樹脂分の溶融粘度、柔軟性、粘着性等の調整のため、2種以上の樹脂分をブレンドしたものをベース樹脂として用いてもよい。
【0017】
上記樹脂分には、耐火性能を阻害しない範囲で、架橋や変性が施されてもよい。上記樹脂分の架橋や変性を行う場合は、予め樹脂分に架橋や変性を施してもよく、後述のリン化合物や無機充填剤等の他の成分の配合時又は配合した後で架橋や変性を施してもよい。
【0018】
上記架橋方法については、特に限定されず、上記樹脂分について通常行われる架橋方法、例えば、各種架橋剤、過酸化物等を使用する架橋方法、電子線照射による架橋方法などが挙げられる。
【0019】
上記樹脂分の溶融、軟化温度は、後述する中和処理された熱膨張性黒鉛の膨張開始温度以下であることが好ましい。
【0020】
上記リン化合物としては特に限定されず、例えば、赤リン;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム等のリン酸金属塩;ポリリン酸アンモニウム類;下記一般式(1)で表される化合物等が挙げられる。これらのうち、耐火性の観点から、赤リン、ポリリン酸アンモニウム類、及び、下記一般式(1)で表される化合物が好ましく、性能、安全性、費用等の点においてポリリン酸アンモニウム類がより好ましい。
【0021】
【化1】
【0022】
式中、R1 及びR3 は、水素原子、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又は、炭素数6〜16のアリール基を表す。R2 は、水酸基、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシル基、炭素数6〜16のアリール基、又は、炭素数6〜16のアリールオキシ基を表す。
【0023】
上記赤リンは、少量の添加で難燃効果が向上する。上記赤リンとしては、市販の赤リンを用いることができるが、耐湿性、混練時に自然発火しない等の安全性の点から、赤リン粒子の表面を樹脂でコーティングしたもの等が好適に用いられる。
【0024】
上記ポリリン酸アンモニウム類としては特に限定されず、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム等が挙げられるが、取扱い性等の点からポリリン酸アンモニウムが好適に用いられる。
市販品としては、例えば、ヘキスト社製「AP422」、「AP462」、住友化学社製「スミセーフP」、チッソ社製「テラージュC60」、「テラージュC70」、「テラージュC80」等が挙げられる。
【0025】
上記一般式(1)で表される化合物としては特に限定されず、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、2−メチルプロピルホスホン酸、t−ブチルホスホン酸、2,3−ジメチル−ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4−メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。なかでも、t−ブチルホスホン酸は、高価ではあるが、高難燃性の点においては好ましい。
上記リン化合物は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0026】
上記中和処理された熱膨張性黒鉛とは、従来公知の物質である熱膨張性黒鉛を中和処理したものである。上記熱膨張性黒鉛は、天然鱗状グラファイト、熱分解グラファイト、キッシュグラファイト等の粉末を、濃硫酸、硝酸、セレン酸等の無機酸と濃硝酸、過塩素酸、過塩素酸塩、過マンガン酸塩、重クロム酸塩、過酸化水素等の強酸化剤とで処理することにより生成するグラファイト層間化合物であり、炭素の層状構造を維持したままの結晶化合物である。
【0027】
上述のように酸処理して得られた熱膨張性黒鉛は、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和することにより、上記中和処理された熱膨張性黒鉛とする。
【0028】
上記脂肪族低級アミンとしては、特に限定されず、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン等が挙げられる。
上記アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物としては、特に限定されず、例えば、カリウム、ナトリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム等の水酸化物、酸化物、炭酸塩、硫酸塩、有機酸塩等が挙げられる。
上記中和処理された熱膨張性黒鉛の市販品としては、例えば、東ソー社製「GREP−EG」、UCAR Carbon社製「GRAFGUARD#160」、「GRAFGUARD#220」等が挙げられる。
【0029】
上記中和処理された熱膨張性黒鉛の粒度は、20〜200メッシュが好ましい。粒度が200メッシュより小さくなると、黒鉛の膨張度が小さいため、所定の耐火断熱層が得られず、粒度が20メッシュより大きくなると、黒鉛の膨張度が大きいという利点はあるが、樹脂分と混練する際に分散性が悪くなり、物性の低下が避けられない。
【0030】
上記含水無機物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
上記水酸化アルミニウムとしては、粒径1μmの「H−42M」(昭和電工社製)、粒径18μmの「H−31」(昭和電工社製)が挙げられる。
【0032】
上記金属炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム、炭酸亜鉛などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0033】
上記炭酸カルシウムの市販品としては、例えば、粒径1.8μmの「ホワイトンSB赤」(白石カルシウム社製)、粒径8μmの「BF300」(白石カルシウム社製)等が挙げられる。
【0034】
上記含水無機物は、加熱時の脱水反応によって生成した水のために吸熱が起こり、温度上昇が低減されて高い耐熱性が得られる点、及び、加熱残渣として酸化物が残存し、これが骨材となって働くことで残渣強度が向上する点で特に好ましい。水酸化マグネシウムと水酸化アルミニウムは、脱水効果を発揮する温度領域が異なるため、併用すると脱水効果を発揮する温度領域が広がり、より効果的な温度上昇抑制効果が得られることから、併用することが好ましい。
【0035】
上記金属炭酸塩は、上記リン化合物としてポリリン酸アンモニウムを使用した場合、ポリリン酸アンモニウムとの反応で膨張を促進すると考えられる。また、有効な骨材として働き、燃焼後に形状保持性の高い燃焼残渣を形成する。
【0036】
上記含水無機物及び金属炭酸塩は、骨材的な働きをすることから、燃焼残渣の強度の向上や熱容量の増大に寄与すると考えられる。本発明においては、上記含水無機物及び金属炭酸塩以外に、無機充填剤が添加されてもよい。
【0037】
上記含水無機物及び金属炭酸塩の粒径としては、0.5〜100μmが好ましく、より好ましくは1〜50μmである。
また、粒径の大きいものと粒径の小さいものとを組み合わせて使用することがより好ましく、このような組み合わせによって、シート状成形体の力学的性能を維持したまま、高充填化することが可能となる。
【0038】
上記含水無機物及び金属炭酸塩は、添加量が少ないときは、分散性が性能を大きく左右するため粒径の小さいものが好ましいが、0.5μm未満では二次凝集が起こり、分散性が悪くなる。上記含水無機物及び金属炭酸塩の添加量が多いときは、高充填が進むにつれて樹脂組成物の粘度が高くなり成形性が低下するが、粒径を大きくすることで樹脂組成物の粘度を低下させることができる点から、上記範囲のなかでも粒径の大きいものが好ましい。また、粒径が100μmを超えると、成形体の表面性や樹脂組成物の力学的性質が低下する。
【0039】
上記含水無機物及び金属炭酸塩の粒径は、小さくなると嵩が大きくなって高充填化が困難となるので、脱水効果を高めるために高充填するには粒径の大きなものが好ましい。具体的には、粒径が18μmでは、1.5μmの粒径に比べて充填限界量が約1.5倍程度向上することが知られている。さらに、粒径の大きいものと小さいものとを組合わせることによって、より高充填化が可能となる。
【0040】
上記樹脂組成物(I)において、リン化合物及び中和処理された熱膨張性黒鉛の配合量は、樹脂分100重量部に対して20〜500重量部である。
配合量が、20重量部未満では加熱後の燃焼残渣量が不十分となり、500重量部を超えると樹脂組成物(I)の伸び等の物性が低下し、成形性が大幅に低下するため、良好な表面の成形体が得られなくなる。
【0041】
上記中和処理された熱膨張性黒鉛とリン化合物との重量比(熱膨張性黒鉛/リン化合物)は0.01〜9である。中和処理された熱膨張性黒鉛の配合比率が多くなると、燃焼時に膨張した黒鉛が飛散し、十分な耐火断熱層が形成されず、リン化合物との配合比率が多くなると、十分な耐火断熱層が形成されないため、十分な耐火断熱性が得られない。
【0042】
上記樹脂組成物(I)において、含水無機物の配合量は、樹脂分100重量部に対して10〜500重量部である。配合量が、10重量部未満では、燃焼時の脱水による吸熱効果が不足するため燃焼時の断熱効果が不十分となり、500重量部を超えると樹脂組成物(I)の伸び特性が著しく低下する。
【0043】
上記樹脂組成物(I)において、金属炭酸塩の配合量は、樹脂分100重量部に対して10〜500重量部である。配合量が、10重量部未満では骨材量が不足するため加熱後の燃焼残渣の強度が不十分となり、500重量部を超えると樹脂組成物(I)の伸び特性が著しく低下する。
【0044】
上記樹脂組成物(II)において、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質からなる樹脂分、リン化合物、含水無機物並びに金属炭酸塩は、樹脂組成物(I)と同様の成分が用いられる。
【0045】
上記樹脂組成物(II)において、リン化合物の配合量は、樹脂分100重量部に対して20〜300重量部である。配合量が、20重量部未満では燃焼後の燃焼残渣量が不十分となり、300重量部を超えると樹脂組成物(II)の伸び等の物性が低下し、成形性が大幅に低下するため、良好な表面の成形体が得られなくなる。
【0046】
上記樹脂組成物(II)において、含水無機物の配合量は、樹脂分100重量部に対して10〜470重量部である。配合量が、10重量部未満では燃焼時の脱水による吸熱効果が不足するため燃焼時の断熱効果が不十分となり、470重量部を超えると樹脂組成物(II)の伸び等の物性が低下し、成形性が大幅に低下するため、良好な表面の成形体が得られなくなる。
【0047】
上記樹脂組成物(II)において、金属炭酸塩の配合量は、樹脂分100重量部に対して10〜470重量部である。配合量が、10重量部未満では加熱後の燃焼残渣の強度が不十分となり、470重量部を超えると樹脂組成物(II)の伸び特性が著しく低下する。
【0048】
また、上記樹脂組成物(II)において、リン化合物、含水無機物及び金属炭酸塩の配合量の合計は、樹脂分100重量部に対して40〜500重量部である。配合量が、40重量部未満では、燃焼残渣量の不足と燃焼残渣強度不足のため、十分な断熱性能が発揮されないと共に形状保持材としての役割も発揮できない、500重量部を超えると、樹脂組成物(II)の伸び特性が著しく低下するため、柔軟性を有するシートに成形加工するのが困難、あるいは被覆する鉄骨への追従性に劣るため施工性が低下する。
【0049】
上記樹脂組成物(I)又は樹脂組成物(II)は、樹脂組成物を構成する各成分を単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、二本ロール等従来公知の混練装置に供給して溶融混練することにより得ることができる。得られた樹脂組成物を、例えば、押出成形、カレンダー成形等、従来公知の成形方法によってシート状物に成形することにより、A層用又はB層用シートを得ることができる。
【0050】
上記A層用シートの片面又は両面にB層用シートを積層することにより、本発明の耐火性多層シートを得ることができる。耐火性多層シートを得るには、例えば、A層用シートとB層用シートとを重ね合わせてプレス成形により積層する方法が挙げられる。また、樹脂組成物(I)と樹脂組成物(II)をそれぞれ別々の押出機に供給して、共押出成形することによってA層とB層とが積層された耐火性多層シートを得てもよい。
【0051】
第1発明の耐火性多層シートにおいて、A層の厚みは0.5〜10mmであり、B層の厚みは、0.01〜2mmである。
A層の厚みが、0.5mm未満では燃焼後に十分な厚みの耐火断熱層が形成されず、10mmを超えると施工性が低下する。
また、B層の厚みが、0.01mm未満では燃焼後に形成される炭化層の厚みが不足して十分な形状保持性が発現せず、2mmを超えると施工性が低下する。
【0052】
次に、請求項2記載の発明(以下、第2発明という)について説明する。
第2発明の耐火性多層シートは、厚みが0.5〜10mmであるA層の少なくとも片面に、厚みが0.01〜2mmであるC層が積層された耐火性多層シートであって、A層が、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質100重量部、リン化合物と中和処理された熱膨張性黒鉛とを合計量で20〜500重量部、含水無機物10〜500重量部、並びに、金属炭酸塩10〜500重量部を含有し、かつ、中和処理された熱膨張性黒鉛とリン化合物との重量比が0.01〜9である樹脂組成物(I)から形成され、C層が、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質100重量部、リン化合物20〜300重量部、並びに、金属炭酸塩10〜480重量部を含有し、かつ、リン化合物と金属炭酸塩との合計量が30〜500重量部である樹脂組成物 (III)から形成されてなることを特徴とする。
【0053】
第2発明において、A層は、第1発明のA層と同様のものが用いられる。
【0054】
第2発明において、C層は、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質からなる樹脂分、リン化合物並びに金属炭酸塩を含有する樹脂組成物 (III)より形成される。
【0055】
上記熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質からなる樹脂分、リン化合物並びに金属炭酸塩としては、第1発明と同様の成分が用いられる。
【0056】
上記樹脂組成物 (III)において、リン化合物の配合量は、樹脂分100重量部に対して20〜300重量部である。配合量が、20重量部未満では加熱後の燃焼残渣量が不十分となり、300重量部を超えると樹脂組成物 (III)の伸び等の物性が低下し、成形性が大幅に低下するため、良好な表面の成形体が得られなくなる。
【0057】
上記樹脂組成物 (III)において、金属炭酸塩の配合量は、樹脂分100重量部に対して10〜480重量部である。配合量が、10重量部未満では加熱後の燃焼残渣の強度が不十分となり、480重量部を超えると樹脂組成物 (III)の伸び特性が著しく低下する。
【0058】
また、上記樹脂組成物 (III)において、リン化合物及び金属炭酸塩の配合量の合計は、樹脂分100重量部に対して30〜500重量部である。
配合量が、30重量部未満では、燃焼残渣量の不足と燃焼残渣強度不足のため、十分な断熱効果が発揮されず、形状保持材としての役割も発揮できない、500重量部を超えると、樹脂組成物 (III)の伸び特性が著しく低下するため、良好な表面性を有するシートに成形加工するのが困難となる。
【0059】
上記樹脂組成物 (III)は、各成分を第1発明と同様の方法によって溶融混合することにより得られる。この樹脂組成物 (III)を使用して、第1発明と同様の方法によりC層を得、上記A層とC層とを第1発明と同様の方法により積層するこにより、第2発明の耐火性多層シートを得ることができる。
また、第1発明と同様、樹脂組成物(I)と (III)とを共押出成形することによってA層とC層とが積層された耐火性多層シートを得てもよい。
【0060】
第2発明の耐火性多層シートにおいて、第1発明の耐火性多層シートと同様の理由により、A層の厚みは0.5〜10mm、B層の厚みは0.01〜2mmとなされる。
【0061】
上記樹脂組成物(I)、(II)及び (III)には、樹脂組成物の物性を損なわない範囲で、難燃剤、酸化防止剤、金属害防止剤、帯電防止剤、安定剤、架橋剤、滑剤、軟化剤、顔料等が添加されてもよい。また、耐火性多層シートに粘着性を付与するために粘着付与剤が添加されてもよい。
【0062】
【作用】
第1発明の耐火性多層シートは、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質からなる樹脂分、リン化合物、中和処理された熱膨張性黒鉛、金属炭酸塩並びに含水無機物を含有する樹脂組成物(I)より形成されるA層の少なくとも片面に、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質からなる樹脂分、リン化合物、金属炭酸塩並びに含水無機物を含有する樹脂組成物(II)より形成されるB層が積層されたものであり、A層は燃焼時に膨張して燃焼残渣からなる耐火断熱層を形成し、B層は燃焼によって炭化層を形成する。B層の燃焼によって形成される炭化層は、中和処理された熱膨張性黒鉛を含有しないので、膨張倍率は小さくA層よりは断熱性能が劣るが剛性に優れるので、耐火断熱層の形状保持材として機能し、2層合わせて優れた耐火性能を発揮する。
【0063】
第2発明の耐火性多層シートは、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質からなる樹脂分、リン化合物、中和処理された熱膨張性黒鉛、金属炭酸塩並びに含水無機物を含有する樹脂組成物(I)より形成されるA層の少なくとも片面に、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質からなる樹脂分、リン化合物並びに金属炭酸塩を含有する樹脂組成物(III)より形成されるC層が積層されたものであり、燃焼時にA層は膨張して燃焼残渣からなる耐火断熱層を形成し、C層は燃焼によって炭化層を形成する。C層の燃焼によって形成される炭化層は、中和処理された熱膨張性黒鉛を含有しないので、膨張倍率は小さくA層よりは断熱性能が劣るが剛性に優れるので、耐火断熱層の形状保持材として機能し、2層合わせて優れた耐火性能を発揮する。また、C層の炭化層は、第1発明に比べて含水無機物を含有しないため吸熱効果には劣るが、より優れた剛性を有するため、耐火断熱層の形状保持材として機能する。
【0064】
本発明の耐火性多層シートは、例えば、鉄骨等の耐火被覆材として用いられる。耐火被覆材として用いる場合は、構成として鉄骨の周囲に上記耐火性多層シートを配置し、さらにその外側に不燃性材料からなるシートを配置することが好ましい。配置方法に関しては、内側から順を追って行ってもよく、鉄骨に対して、予め積層しておいた耐火性多層シートと不燃性材料からなるシートとを配置してもかまわない。
【0065】
上記耐火性多層シートは、例えば、火災の際に熱を受けて膨張することにより耐火断熱層を形成し、この耐火断熱層によって鉄骨へ熱が伝わるのを防止する。従って、この耐火断熱層は、鉄骨の全周で隙間なく形成されることが好ましい。また、上記不燃性材料からなるシートとしては、上記耐火性多層シートの膨張によって形成される耐火断熱層に追随してある程度変形し、耐火断熱層の形状が崩れないように保持し得る材料が好ましい。
【0066】
上記不燃性材料からなるシートとしては、不燃性を有するものであれば特に限定されず、例えば、鋼板、亜鉛メッキ鋼板、ステンレス板、アルミ・亜鉛合金板、アルミニウム板等の金属板材料;珪酸カルシウム板、繊維混入珪酸カルシウム板、炭酸カルシウム板、石膏ボード板、強化石膏板、パーライトセメント板、繊維強化セメント板、木片セメント板、木粉セメント板、スラグ石膏板等の無機質板;ロックウール保温板、セラミックウールブランケット、アルミナシリカ繊維フェルト、セラミック紙、水酸化アルミ紙等のシート状物が挙げられる。
上記不燃性材料からなるシートは、これらのシート状物が複数枚貼り合わされたものであってもよい。
【0067】
上記不燃性材料からなるシートとして好ましくは、厚みの薄い金属板(箔)である。厚みの薄い金属板は、耐火性シート状成形体又はシート積層体が膨張する際に変形や湾曲することによって、破れや切断を起こさずに膨張を吸収する。
上記金属板の厚みは、0.1〜1mmが好ましい。厚みが、0.1mm未満では防炎材料や形状保持材として機能せず、1mmを超えると湾曲による膨張代の確保が難しくなる。
【0068】
上記耐火性多層シートにおけるA層は、熱照射量50kW/cm2 の条件下で完全燃焼させた際に、初期厚み(D0)と燃焼後の厚み(D1)との関係が、D1 /D0 =1.1〜20であるようになされてことが好ましい。D1 /D0 が、1.1未満では加熱によって膨張しても十分な断熱性を発現せず、20を超えると発泡倍率が高くなり過ぎて燃焼残渣の強度が不足する。
【0069】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施例を説明する。
(実施例1〜4、比較例1,2)
表1に示した配合量の、樹脂分、水添石油樹脂、ポリリン酸アンモニウム、中和処理された熱膨張性黒鉛、水酸化アルミニウム、及び、炭酸カルシウムを二軸押出機に供給し溶融混練した後Tダイより押出成形して、表1に示した厚みのA層用シート、B層用シート及びC層用シートを得た。
上記A層用シート及びB層用シート又はC層用シートを、表2に示した構成で重ね合わせてプレス成形し、耐火性多層シートを得た。
尚、比較例1ではB/C層を補強するためにラス金網を使用し、比較例2ではB/C層を補強するために鉄板を使用した。
【0070】
【表1】
【0071】
尚、表1中で使用した成分は下記の通りである。
・ブチルゴム:エクソン化学社製「ブチルゴム#065」
・ポリブテン:出光石油化学社製「ポリブテン100R」
・メタロセンPE:ダウケミカル社製「EG8200」
・水添石油樹脂:トーネックス社製「エスコレッツ5320」
・ポリリン酸アンモニウム:クラリアント社製「AP422」
・中和処理された熱膨張性黒鉛:東ソー社製「GREG−EG」
・水酸アルミニウム:昭和電工社製「H−42M」
・炭酸カルシウム:白石カルシウム社製「BF300」
【0072】
上記耐火性多層シート及び各層用シートにつき下記項目の性能評価を行い、その結果を表2に示した。
【0073】
(1)膨張倍率
10cm×10cm×3mm厚の耐火性多層シート(試験片)を水平に配置した状態で、コーンカロリーメーター(アトラス社製「CONE2A」)を用いて50kW/m2 の照射熱量を照射し、スパークにより着火して完全燃焼させた後室温まで冷却した。冷却後の試験片の厚みを測定し、加熱前後の厚み比から膨張倍率(加熱後の厚み/加熱前の厚み)を算出した。
【0074】
(2)耐火性能
10cm×10cm×0.5mm厚のステンレス板の裏面に、耐火性多層シート(試験片)を重ね合わせ垂直に配置した後、コーンカロリーメーター(アトラス社製「CONE2A」)を用いて、ステンレス板側に50kW/m2 の照射熱量を照射した状態で燃焼させ、1時間経過後の試験片の裏面温度を測定した。
【0075】
(3)B層又はC層の防炎性能
(2)の耐火性能の測定時に燃焼開始から試験片の溶融時の垂れを側面から目視観察し、垂れが確認されなかったものを○、垂れが確認されたものを×、と判定した。
【0076】
(4)B層又はC層の膨張の部分阻害性
(2)の耐火性能の測定時に裏面側にサーモビュア(日本電子データム社製)を置き、燃焼時の温度むらを測定した。10cm×10cm試験片のうち、5cm×5cmの面積内で、温度分布が±10℃以内のもを○、温度分布が±10℃を超えるものを×、と表示した。
【0077】
(5)B層又はC層の膨張の阻害性
A層単独の場合と、A層及びB層又はC層の積層体との場合とで(1)の膨張倍率の測定を行い、下記式で表される膨張倍率の変化率が、5%未満であったものを○、5%以上であったものを×、で表示した。
膨張倍率の変化率=〔(A層+B層又はC層)/A層〕×100
【0078】
【表2】
【0079】
【発明の効果】
本発明の耐火性多層シートは、A層の少なくとも片面にB層又はC層を積層することにより、A層が燃焼時に発泡膨張して耐火性能にすぐれた耐火断熱層(燃焼残渣)を形成し、B層又はC層が燃焼時に炭化層を形成して形状保持材としての剛性を発揮するので、形状保持性に優れた耐火断熱層を形成する。
Claims (2)
- 厚みが0.5〜10mmであるA層の少なくとも片面に、厚みが0.01〜2mmであるB層が積層された耐火性多層シートであって、A層が、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質100重量部、リン化合物と中和処理された熱膨張性黒鉛とを合計量で20〜500重量部、含水無機物10〜500重量部、並びに、金属炭酸塩10〜500重量部を含有し、かつ、中和処理された熱膨張性黒鉛とリン化合物との重量比が0.01〜9である樹脂組成物(I)から形成され、
B層が、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質100重量部、リン化合物20〜300重量部、含水無機物10〜470重量、並びに、金属炭酸塩10〜470重量部を含有し、かつ、リン化合物と含水無機物と金属炭酸塩との合計量が40〜500重量部である樹脂組成物(II)から形成されてなることを特徴とする耐火性多層シート。 - 厚みが0.5〜10mmであるA層の少なくとも片面に、厚みが0.01〜2mmであるC層が積層された耐火性多層シートであって、A層が、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質100重量部、リン化合物と中和処理された熱膨張性黒鉛とを合計量で20〜500重量部、含水無機物10〜500重量部、並びに、金属炭酸塩10〜500重量部を含有し、かつ、中和処理された熱膨張性黒鉛とリン化合物との重量比が0.01〜9である樹脂組成物(I)から形成され、
C層が、熱可塑性樹脂及び/又はゴム物質100重量部、リン化合物20〜300重量部、並びに、金属炭酸塩10〜480重量部を含有し、かつ、リン化合物と金属炭酸塩との合計量が30〜500重量部である樹脂組成物 (III)から形成されてなることを特徴とする耐火性多層シート。
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