JP3876384B2 - 高強度コンロッド及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、レシプロエンジンにおいて、ピストンの往復運動をクランクシャフトに伝達して回転運動に変換するコンロッド(連結棒)に係わり、特に疲労強度に優れた高強度コンロッドと、このような高強度コンロッドの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、上記したような高強度コンロッドの製造方法としては、加工部材を硬度HB300以下に形成した後、当該加工部材の機械加工を施さない部分に焼入れを施して、その硬度がHB300を越えるようにすることによって、機械加工を容易にする一方、機械加工を施さない部分の疲労耐久性を確保することが知られており、実施例においては、焼入れ手段として高周波を用いることが開示されている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開昭59−89720号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような従来の高強度コンロッドにあっては、狭い焼入れ範囲や焼き境部の引張残留応力の影響によって、焼入れ部または焼き境から疲労破壊してしまい、必ずしもコンロッドの疲労強度を十分に向上させることができないという問題点があり、このような問題点を解消して、疲労強度をさらに向上させることがコンロッドにおける従来の課題となっていた。
【0005】
この発明は、従来のコンロッドにおける上記課題に着目してなされたものであって、軽量化が達成でき、しかも疲労強度の向上が可能な高強度コンロッドと、このような高強度コンロッドの製造方法を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の高強度コンロッドは、本体である連接部と、この連接部の一端側に位置する大端部と、連接部の他端側に位置する小端部と、これら大端部及び小端部と連接部の間につなぎ部をそれぞれ有し、つなぎ部の断面積が連接部に向かって連続的に減少すると共に、連接部に最小断面積部位を持つコンロッドであって、質量比で0.73%以下のCを含有すると共に、連接部及びつなぎ部における断面が次の関係式(1)
S/D≧1/{(1−β)Ms/100+β} ・・・(1)
(式中のSは連接部及びつなぎ部の任意の部位における断面積、Dは連接部の最小断面積部位における断面積、βは(非焼入れ組織の疲労強度)/(焼戻しマルテンサイト組織の疲労強度)、Msは当該部位における焼戻しマルテンサイト組織の面積率)を満たす焼戻しマルテンサイト組織及び/又はフェライト−パーライト組織からなり、少なくとも連接部の最小断面積部位における断面全体が焼戻しマルテンサイト組織であると共に、連接部又はつなぎ部にフェライト−パーライト組織のみからなる断面を有している構成としたことを特徴としている。
【0007】
また、本発明の高強度コンロッドの製造方法においては、素材鋼を上記のようなコンロッド形状に成形したのち、誘導電流を用いて焼入れし、200〜650℃の温度で焼戻しを施すようになすことを特徴としている。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の高強度コンロッドと、その製造方法について詳細に説明する。なお、本明細書において、「%」は特記しない限り質量百分率を示すものとする。
【0009】
本発明の高強度コンロッドは、上記したような連接部、大端部、小端部及びつなぎ部を備えた形状をなし、最小断面積部位を連接部に有するコンロッドであって、質量比で0.73%以下のCを含有し、連接部及びつなぎ部における各断面が上記関係式(1)を満たす焼戻しマルテンサイト組織若しくはフェライト−パーライト組織、又はこれらの混在組織からなり、少なくとも連接部の最小断面積部位の全断面が焼戻しマルテンサイト組織であると共に、連接部又はつなぎ部に焼戻しマルテンサイト組織のない、フェライト−パーライト組織のみからなる断面が存在するようにしたものであって、これによって、完全焼入れ部及び焼き境における残留応力が軽減され、コンロッドの疲労強度が向上し、部品の軽量化がなされることになる。
【0010】
なお、本発明において、疲労強度とは疲労限度を意味する。また、つなぎ部及び連接部に存在する疲労強度変化部位においては、疲労強度が連続的に変化し、極端な落ち込みがないことが望ましい。
【0011】
本発明の高強度コンロッドの化学成分、言い換えると素材鋼の成分としては、上記したようにC含有量が0.73%以下(0を含まず)の鋼を用いることができるが、0.20〜0.43%のC、0.05〜2.0%のSi、0.30〜1.40%のMn、0.07%未満(0を含まず)のS、2.5%以下(0を含まず)のCr、0.05%以下(0を含まず)のAl、0.005〜0.03%のNを含有し、さらに0.03〜0.5%のV、0.005〜0.5%のNb若しくは0.005〜0.5%のTi、又はこれらの任意の組合わせによる元素を含有し、残部がFe及び不純物から成る合金鋼を用いることがさらに望ましく、これによって非焼入れ部の疲労強度が向上することになる。
【0012】
また、0.20〜0.43%のC、0.05〜2.0%のSi、0.30〜1.40%のMn、0.07〜0.15%のS、2.5%以下(0を含まず)のCr、0.05%以下(0を含まず)のAl、0.005〜0.03%のNを含有し、さらに0.03〜0.5%のV、0.005〜0.5%のNb若しくは0.005〜0.5%のTi、又はこれらの任意の組合わせによる元素を含有し、残部がFe及び不純物から成る合金鋼を用いることもでき、このような合金鋼、すなわちP含有量の高い合金鋼を用いることによって、同様に非焼入れ部の疲労強度が向上すると共に、加工による切欠きを起点とする破断による大端部の分離(いわゆる、かち割り)に際して、破面に塑性変形を実質的に生じさせることなく好適に破断が進行するようになり、破面を合わせたときに高い密着性が得られることから、機械的な切断に較べて低コストでコンロッドが生産されるようになる。
【0013】
さらに、2.0%以下のNi、1.0%以下のMo若しくは0.0010〜0.0030%のB、又はこれらの任意の組み合わせによる元素を添加することができ、これによって焼入れ性が向上する。
また、0.2%以下のS、0.3%以下のPb、0.1%以下のCa若しくは0.3%以下のBi、又はこれらの任意の組み合わせによる元素を添加することができ、これによって素材の被削性が向上し、機械加工が容易なものとなる。
【0014】
本発明の上記高強度コンロッドを製造するに際しては、それぞれの素材鋼を上記のようなコンロッド形状に成形し、誘導電流を用いて焼入れしたのち、200〜650℃の温度で焼戻しを施すようになすことができ、焼戻し温度については、350〜550℃の温度範囲とすることがさらに望ましく、疲労強度がさらに向上することになる。
【0015】
なお、誘導電流による焼入れに際しては、5〜200kHz、さらに好ましくは7〜50kHzの周波数の電流を用いることが望ましい。すなわち、表面硬化を目的とした通常の高周波焼入れにおいては200kHz程度の高周波で行うのに対して、本発明においては、上記のような比較的低周波側の、言わば中周波電流を適用することによって、連接部の内部まで硬化させることが望ましく、これによってコンロッドが受けるピストンからの燃焼圧力により強力に抗することができる。また、誘導電流による焼戻しに際しても、基本的に上記同様の範囲の周波数を用いることができ、コンロッド全体を均一に焼戻すことができる。
【0016】
また、本発明の製造方法においては、例えば電気炉中で焼戻し処理を行うことができるが、焼戻し処理においても焼入れと同様に誘導電流によって加熱することもでき、これによって処理時間が短縮されることになる。
【0017】
次に、本発明の高強度コンロッドにおける鋼成分の限定理由について簡単に説明する。
【0018】
C:0.73%以下
炭素は、鋼の強度(硬さ)を確保するのに必要な元素であって、0.73%を限度に添加するが、少ないと非焼入れ部の疲労強度及び焼入れ性が不足し、多過ぎると被削性が劣化する傾向があるので、0.20〜0.43%の範囲とすることが望ましい。
【0019】
Si:0.05〜2.0%
珪素は、疲労強度の向上に有効な元素であるが、0.05%未満ではこのような効果が十分に得られず、2.0%を超えて添加した場合には、被削性を悪化させる傾向があるので、0.05〜2.0%の範囲内で添加することが好ましい。
【0020】
Mn:0.30〜1.40%
マンガンは、製鋼時に脱酸剤として添加され、焼入れ性を向上し、Siと同様に疲労強度の向上に有効な元素であるが、0.30%未満ではこのような効果が顕著ではなく、1.40%を超えると、同様に被削性を悪化させる傾向があることから、0.30〜1.40%の範囲内とすることが好ましい。
【0021】
P:0.07%未満、又は0.07〜0.15%
りんは、通常は不純物とされる元素であるが、鋼中に少量存在することによって疲労強度を向上させる働きを示す。また、比較的多量に存在することによって熱間加工性を劣化させる反面、コンロッド大端部のかち割り破断時の塑性変形を減少させ、分離を容易なものとする働きを有する。
したがって、熱間加工性を損なうことなく疲労強度を向上させようとする場合には、0.07%未満の含有量となるようにすることが望ましく、大端部の破断分離を容易に行うためには、0.07〜0.15%の範囲で添加することが望ましい。なお、りん含有量が0.15%を超えると、熱間加工性が悪化するばかりでなく、焼き割れの原因となることがある。
【0022】
Cr:2.5%以下
クロムは、焼入れ性を高め、疲労強度を向上させるのに有効な元素であるが、多いと焼入れ安定性と共に、加工性が劣化する傾向があることから、2.5%を限度に添加することが望ましい。
【0023】
Al:0.05%以下
アルミニウムは、製鋼時に脱酸剤として添加される元素であって、焼入れ時の割れ(焼き割れ)を抑える働きを示すが、多量に添加すると、非金属介在物が増加して靭性を悪化させる傾向があるので、0.05%を上限として添加することが望ましい。
【0024】
N:0.005〜0.03%
窒素は、AlNを生成してオーステナイト結晶粒を微細化し、疲労強度を向上させる働きを有する元素であるが、多量に添加すると加工性が劣化する傾向が認められるので、0.005〜0.03%の範囲とすることが望ましい。
【0025】
V:0.03〜0.5%
Nb:0.005〜0.5%
Ti:0.005〜0.5%
これら元素は、疲労強度を向上させるために、単独又は2種以上を任意に組合わせて添加するが、Vについては0.3%、Nb及びTiについては0.005%に満たない場合には疲労強度向上効果が得難く、それぞれ0.5%を超えて添加した場合には被削性が劣化する傾向があるので、それぞれ上記の範囲とすることが望ましい。
【0026】
Ni:2.0%以下
Mo:1.0%以下
B:0.0010〜0.0030%
これらは、いずれも焼入れ性改善効果を有する元素であって、単独又は2種以上を任意に組合わせて添加することによって焼入れ性及び疲労強度が向上するが、B単独では、0.0010%以上添加しないと顕著な効果が得られない。一方、Ni及びMoの添加量がそれぞれ2.0%及び1.0%を超えると、加工性が劣化する傾向がある。また、B添加量が0.0030%を超えた場合には、熱間鍛造時に粒界酸化が生じて、同様に加工性が劣化する傾向となる。
【0027】
S:0.2%以下
Pb:0.3%以下
Ca:0.1%以下
Bi:0.3%以下
これら元素は、いずれも被削性改善効果を有し、単独又は2種以上を任意に組合わせて添加することによって、素材の被削性が向上して機械加工が容易なものとなる。一方、S含有量が0.2%を超えると疲労強度が低下し、Pb及びBi含有量がそれぞれ0.3%を超えると加工性が悪化し、Ca含有量が0.1%を超えると靭性が劣化する傾向が認められることから、それぞれ上記の範囲とすることが望ましい。
【0028】
なお、上記において上限値のみを示した成分については、それぞれの効果を期待して、積極的に添加するものであるからして、いずれも「0%」の場合を含まないものとする。
【0029】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0030】
(参考例)
表1に示す4種の鋼のうち、鋼種A及びDを使用し、図1に示すように、小端部A、連接部B、大端部C、つなぎ部D及びEを備えた同一のコンロッド形状にそれぞれ熱間鍛造したのち、図2に示すように、連接部Bの周囲に配置したコイルに30kHzの高周波電流を通じて、誘導電流により920℃に加熱し、それぞれ10秒間保持したのち、水中に焼き入れた。
なお、表1に示した4鋼種については、いずれもSを添加することによって被削性を向上させたものである。また、表中に示す焼入れ性とは、JIS G 0561に規定される「鋼の焼入性試験方法」(ジョミニー式一端焼入方法)によるものであって、JHRC45の測定値について、鋼種Aを1とした場合の相対値で示してある。
【0031】
【表1】
【0032】
次いで、電気炉を用いて、460℃×30分の焼戻し処理を施したのち、スチールショットを用いてアークハイト0.2mmA、カバレッジ300%のショットピーニングを施した。
そして、連接部Bの最小断面積部位P及びこの最小断面積部位Pの1.5倍の断面積を有する部位QをP部よりも大端部C寄りの位置に求め、これら両部位、P部及びQ部における組織を観察すると共に、コンロッドの全ての部位がそのP部、Q部と同一組織、硬さとなるように作製した複数本のコンロッドを用いて、小端部A及び大端部Cをチャックした状態で引張圧縮疲労試験を実施し、疲労強度(疲労限界)を測定し、P部及びQ部における疲労強度との関係を調査した。この結果を表2に示す。
【0033】
なお、表2において、両コンロッドNo.1及び2の疲労強度(疲労限界)については、No.1のコンロッドの値を「1」とする相対値で示した。また、部分的な疲労強度、すなわちP部及びQ部における疲労強度評価については、コンロッド全体をP部及びQ部と同じ組織及び硬さにしたものを用いて同様の引張圧縮疲労試験を行った場合の値を用いた。そして、これらP部及びQ部の疲労強度については、P部における値を「1」とする相対値でそれぞれ示した。
【0034】
【表2】
【0035】
この結果、Q部位における断面積と疲労強度の積が最小断面部位Pにおける断面積と疲労強度の積よりも大きいNo.1のコンロッドの疲労強度が、Q部位における断面積と疲労強度の積が最小断面部位Pにおける断面積と疲労強度の積よりも小さいNo.2のコンロッドに比べて高くなっていることが確認された。
【0036】
(実施例1)
表1に示す4種の鋼のうち、鋼種Aを使用し、図1に示すように、小端部A、連接部B、大端部C、つなぎ部D及びEを備えた同様のコンロッド形状に熱間鍛造したのち、図2に示すように、連接部Bの周囲に配置したコイルに30kHzの高周波電流を通じて、誘導電流により920℃に加熱し、それぞれ所定時間保持したのち、水中に焼き入れた。このとき、通電時間を変えることによって加熱保持時間を調整した。
【0037】
次いで、電気炉を用いて、460℃×30分の焼戻し処理を同様に施したのち、同様のショットピーニング処理を施した。
そして、連接部Bにおける最小断面積部位Pの断面積Dを測定すると共に、連接部B及びつなぎ部D,Eにおいて、焼戻しマルテンサイトが0%(すなわち、フェライト−パーライト組織のみ)となる最小断面積S0を求めた。
【0038】
次に、同一条件で作製した複数本のコンロッドを用いて、引張圧縮疲労試験を実施し、疲労強度(疲労限界)を求めた。
また、焼入れ部の疲労強度Fq及び非焼入れ部の疲労強度Fnを求め、β値(=Fn/Fq)を算出すると共に、焼戻しマルテンサイトが0%となる最小断面積部分(断面積S0)における1/{(1−β)Ms/100+β}の値として、1/βを算出した(Ms=0)。この結果を表3及び図3に示す。
【0039】
なお、表3において、焼入れ部の疲労強度としては、連接部Bに全断面が焼戻しマルテンサイト組織となっている部分があって、当該焼戻しマルテンサイト部分で疲労破断したものの疲労強度値を、非焼入れ部の疲労強度としては、焼入れを施さないコンロッドの疲労強度値をそれぞれ採用した。また、これら疲労強度の各数値は、非焼入れ部の値を「1」とする相対値で示すと共に、焼戻しマルテンサイトが0%となる最小断面積S0については、連接部Bの最小断面積Dを「1」とする相対値で示してある。
【0040】
【表3】
【0041】
その結果、S0/Dが1/{(1−β)Ms/100+β}の値である1.59以上となること、すなわち(1)式を満足することによって、疲労強度が低い焼き境部の断面積が十分に広いものとなり、当該焼き境部からの疲労破壊が防止されることから、コンロッドの疲労強度が大幅に向上していることが確認された。
【0042】
(実施例2)
表1に示す鋼種A、B及びCを使用し、上記参考例及び実施例1の場合と同様のコンロッドを熱間鍛造したのち、同様に、連接部Bの周囲に配置したコイルに30kHzの高周波電流を通じて、誘導電流により920℃に加熱し、99秒間保持したのち、水中に焼き入れた。そして、電気炉及び誘導電流を用いて、種々の条件のもとに焼戻し処理を施したのち、同様のショットピーニング処理を行って、実施例1と同様の試験を実施した。この結果を表4及び図4に示す。なお、誘導電流を用いた焼戻し処理には、焼入れ処理と同様に30kHzの高周波電流を用いた。
また、表4においても、疲労強度の数値を非焼入れ部の値を「1」とする相対値で示すと共に、焼戻しマルテンサイトが0%となる最小断面積S0を連接部Bの最小断面積Dを「1」とする相対値で示した。
【0043】
【表4】
【0044】
その結果、焼戻し温度を室温から上げていくと、200〜460℃までの範囲では、焼入れ後の内部歪の消失等により、コンロッドの疲労強度が上昇していることが判明し、さらに焼戻し温度を上げていくと疲労強度は低下し始め、A1変態点(約726℃)を超えると組織がオーステナイト化してしまうために、焼入れ・焼戻し組織(焼戻しマルテンサイト)が得られず、疲労強度が大幅に低下することが確認された。
【0045】
すなわち、図4からも明らかなように、高いコンロッドの疲労強度を得るための焼戻し温度は200〜650℃の範囲となり、コンロッドの疲労強度向上効果を求めるには350〜550℃の温度範囲での焼戻しが好ましい。
【0046】
また、誘導電流を用いて均一な温度に焼戻しを行ったコンロッドについても、電気炉を用いた場合と同等の疲労強度を確保することができ、誘導電流による焼戻しにより短時間での処理が可能であることが確認された。
【0047】
さらに、りん(P)を多量に添加してかち割り破断による分離を容易にした合金鋼(表1に示すB鋼)、及びほう素(B)を添加して焼入れ性を向上させた合金鋼(表1に示すC鋼)を用いた場合にも同等の疲労強度が得られことが判明した。
【0048】
なお、上記実施例結果は一例にすぎなく、材質や加熱設備により最適な焼入れ条件等が変化することがあり得る。
すなわち、焼入れ深さが必要な場合には、焼入れ時の周波数を低く設定し、表面のオーバーヒートを防ぐようにすることが必要となる。また、焼入れ性の低い鋼を用いる場合には、焼入れ時の冷却速度を速めることが必要となる。
【0049】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明の高強度コンロッドは、上記構成、特に連接部と大小端部、及びこれらの間につなぎ部を備え、連接部に最小断面積部位を有するコンロッドであって、0.73%以下のCを含有し、連接部及びつなぎ部の各断面が上記関係式(1)を満たす焼戻しマルテンサイト組織若しくはフェライト−パーライト組織、又はこれらの混在組織からなり、少なくとも最小断面積部位が焼戻しマルテンサイト組織であると共に、連接部又はつなぎ部にフェライト−パーライト組織のみからなる断面を備えている構成としたものであるから、完全焼入れ部及び焼き境における残留応力を軽減することができ、軽量化と共に疲労強度の向上を達成することができるというきわめて優れた効果がもたらされる。
また、本発明の製造方法においては、上記高強度コンロッドを製造するに際して、誘導電流を用いて焼入れした後、望ましくは誘導電流を用いて、200〜650℃、より望ましくは350〜550℃の温度範囲で焼戻し処理を施すようにしており、上記構成のコンロッドを容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の高強度コンロッドの形状を示す概略図である。
【図2】上記高強度コンロッドの製造方法における焼入れ要領を示す概略図である。
【図3】コンロッドの疲労強度とS/Dの関係を示すグラフである。
【図4】コンロッドの疲労強度と焼戻し温度の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
A 小端部
B 連接部
C 大端部
D,E つなぎ部
Claims (9)
- 質量比で0.73%以下のCを含有し、かつコンロッド本体をなす連接部と、該連接部の一端側に位置する大端部と、該連接部の他端側に位置する小端部と、上記大端部及び小端部と連接部の間につなぎ部を有し、当該つなぎ部の断面積が連接部に向かって連続的に減少すると共に、連接部に最小断面積部位を持つコンロッドであって、上記連接部及びつなぎ部における断面が次の関係式
S/D≧1/{(1−β)Ms/100+β} ・・・ (1)
(式中のSは連接部及びつなぎ部の任意の部位における断面積、Dは連接部の最小断面積部位における断面積、βは(非焼入れ組織の疲労強度)/(焼戻しマルテンサイト組織の疲労強度)、Msは当該部位における焼戻しマルテンサイト組織の面積率)を満たす焼戻しマルテンサイト組織及び/又はフェライト−パーライト組織からなり、少なくとも連接部の最小断面積部位における断面全体が焼戻しマルテンサイト組織であると共に、連接部又はつなぎ部にフェライト−パーライト組織のみからなる断面を有していることを特徴とする高強度コンロッド。 - 質量比で、C:0.20〜0.43%、Si:0.05〜2.0%、Mn:0.30〜1.40%、P:0.07%未満、Cr:2.5%以下、Al:0.05%以下、N:0.005〜0.03%を含有すると共に、V:0.03〜0.5%、Nb:0.005〜0.5%、及びTi:0.005〜0.5%から成る群から選ばれた少なくとも1種の元素を含有し、残部がFe及び不純物から成ることを特徴とする請求項1に記載の高強度コンロッド。
- 質量比で、C:0.20〜0.43%、Si:0.05〜2.0%、Mn:0.30〜1.40%、P:0.07〜0.15%、Cr:2.5%以下、Al:0.05%以下、N:0.005〜0.03%を含有すると共に、V:0.03〜0.5%、Nb:0.005〜0.5%、及びTi:0.005〜0.5%から成る群から選ばれた少なくとも1種の元素を含有し、残部がFe及び不純物から成ることを特徴とする請求項1に記載の高強度コンロッド。
- 質量比で、Ni:2.0%以下、Mo:1.0%以下、及びB:0.0010〜0.0030%から成る群から選ばれた少なくとも1種の元素をさらに含有することを特徴とする請求項2又は3に記載の高強度コンロッド。
- 質量比で、S:0.2%以下、Pb:0.3%以下、Ca:0.1%以下、及びBi:0.3%以下から成る群から選ばれた少なくとも1種の元素をさらに含有することを特徴とする請求項2〜4のいずれか1つの項に記載の高強度コンロッド。
- ショットピーニングが施してあることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の高強度コンロッド。
- 請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の高強度コンロッドを製造するに際して、素材鋼を上記コンロッド形状に成形し、誘導電流を用いて焼入れしたのち、200〜650℃の温度で焼戻しを施すことを特徴とする高強度コンロッドの製造方法。
- 350〜550℃の温度で焼戻しを施すことを特徴とする請求項7に記載の高強度コンロッドの製造方法。
- 誘導電流を用いて焼戻しを施すことを特徴とする請求項7又は8に記載の高強度コンロッドの製造方法。
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