JP3864215B2 - 酵素を用いたフタル酸エステルの分解処理方法及びその処理システム - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、コレステロールエステラーゼによる酵素反応を利用したフタル酸エステルの分解処理技術に関するものである。更に詳しくは、本発明は、フタル酸エステルによって汚染されている物質又は材料中のフタル酸エステルを効率よく分解処理して、これらの物質又は材料を浄化処理する方法及びその浄化処理システムに関するものである。本発明は、フタル酸エステルによって汚染された土壌、地下水、大気などの環境浄化、あるいはフタル酸エステルを除去することによる食品、血液などの安全性の向上などの分野で広く用いることができる。
【0002】
【従来の技術】
フタル酸エステルによる環境汚染は、広範囲でみられ、土壌、水、大気、食品、生体などほとんどすべてにフタル酸エステルが検出されている。例えば、ポリ塩化ビニル( 塩ビ)などのプラスチック系廃棄物の最終埋め立て処分場の土壌、地下水には、廃棄物から溶け出たフタル酸エステルが高い濃度で存在している。また、フタル酸エステルが含まれる容器包装・器具などが用いられた食品、血液などでも汚染が確認されている。
【0003】
ところで、塩ビは、その耐久性、低コストまた多目的性から、世界中で最も汎用されているプラスチックの一つであるが、塩ビそのままでは硬質なため、軟らかくする目的で多い時で40%も可塑剤が添加されている。可塑剤が入っていない硬質塩ビは、排水用パイプや、住宅用サイディング材として利用される。一方、可塑剤の添加によって、塩ビは、農業用フィルム、電線被覆、血液バッグ、ホース、玩具類、ワイヤーやケーブル、フローリングやシャワー・カーテンなどへと製品用途は大きく拡大される。
【0004】
これらの製品に用いられる可塑剤としては、フタル酸エステルが全体の約8割を占め、国内の年間生産量は40万トンとされており、その大部分が国内消費されている。フタル酸エステルは、構成するアルコール鎖構造の違いによって多くの種類があるが、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DEHP)がフタル酸エステル生産量の半分近くを占めている。
【0005】
近年、妊娠中のラットへのフタル酸エステル投与によって、産まれた子供ラットの精巣の萎縮や***数の減少、乳ガン細胞増殖試験や組み換え酵母によるインビトロ試験でのエストロゲン活性が報告されている。更に、この物質は、甲状腺機能を変化させる作用によって、成長・発達に悪影響を与えるともいわれている。フタル酸エステルは、生殖機能や甲状腺機能などの内分泌攪乱というこれまで気づかれていなかった作用によって、生体に影響を及ぼす可能性のあることが明らかになってきた。
【0006】
日本においては、1998年5月に環境庁から発表された「環境ホルモン戦略計画SPEED’98」にある「内分泌攪乱作用を有すると疑われる化学物質」に係る物質として、フタル酸エステルとしてDEHP以外に、フタル酸ブチルベンジル(BBP)、フタル酸ジ−n−ブチル(DBP)、フタル酸ジシクロヘキシル(DCHP)、フタル酸ジエチル(DEP)がリストアップされている。
【0007】
フタル酸エステルは、プラスチックと化合していないため、温度や時間の経過とともに基材から分離して放出され易い。そのため、この物質は、容器包装・器具などへの使用による食品汚染、食品加工工程などでの器具からの汚染ばかりでなく、使用後の大量の廃棄塩ビ製品からの放出によって、水・土壌・大気へ広範囲にフタル酸エステル汚染が引き起こされ、内分泌攪乱化学物質による環境汚染問題の原因物質の一つになっている。したがって、当該分野においては、難分解性で内分泌攪乱性を有する可能性のあるフタル酸エステルを効率よく分解除去することが可能なフタル酸エステルの分解処理技術を確立することが強く要請されていた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
このような状況の中で、本発明者らは、上記課題を確実に解決することが可能な新しいフタル酸エステルの分解処理方法を開発することを目標として鋭意研究を行った結果、ブタ膵臓由来の粗精製リパーゼ製剤中にフタル酸エステルを強く加水分解する活性の存在を見出した。更に、本発明者らは、この未知の活性物質の実体について探索を行った結果、粗精製リパーゼ製剤中に含まれるコレステロールエステラーゼが、これらフタル酸エステルを加水分解する実体であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、難分解性で内分泌攪乱性を有する可能性のあるフタル酸エステルの、酵素を用いた効率的分解処理方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記フタル酸エステルを分解処理するためのフタル酸エステル分解処理用酵素製剤を提供することを目的とする。
更に、本発明は、フタル酸エステルによって汚染されている物質又は材料中のフタル酸エステルを効率よく分解処理して、上記物質又は材料を浄化処理する方法及びその浄化処理システムを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)フタル酸エステルを分解処理する方法であって、フタル酸エステルを含む被処理物をコレステロールエステラーゼを用いて分解処理することを特徴とするフタル酸エステルの分解処理方法。
(2)フタル酸エステルを含む被処理物が、フタル酸エステルによって汚染されている物質又は材料である前記(1)記載の方法。
(3)フタル酸エステルによって汚染されている物質又は材料が、土壌、水、大気、食品、又は血液材料である前記(1)記載の方法。
(4)コレステロールエステラーゼが、哺乳動物の組織、又は遺伝子組換え体を用いて調製されたものである前記(1)記載の方法。
(5)フタル酸エステルによって汚染されている物質又は材料を浄化処理する方法であって、当該物質又は材料を含む被処理物をコレステロールエステラーゼで処理して、当該被処理物中に含まれるフタル酸エステルを分解処理することを特徴とする上記汚染物質又は材料の浄化処理方法。
(6)フタル酸エステルを含む被処理物中のフタル酸エステルを分解処理するための酵素製剤であって、コレステロールエステラーゼを有効成分として含むことを特徴とする上記フタル酸エステル分解処理用酵素製剤。
(7)フタル酸エステルを含む被処理物が、フタル酸エステルによって汚染されている物質又は材料である前記(6)記載の酵素製剤。
(8)フタル酸エステルによって汚染されている物質又は材料を浄化処理するための浄化処理システムであって、前記(7)記載の酵素製剤を担体に固定化した処理手段を含むことを特徴とする上記浄化処理システム。
【0011】
【発明の実施の形態】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
コレステロールエステラーゼは、哺乳動物においては肝及び膵に多く存在し、生体内においては非イオン化脂肪酸とコレステロールをエステル結合させ、また、コレステロールエステルの加水分解を行う酵素であることが知られている。このコレステロールエステラーゼが、コレステロールエステルとは化学構造が全く異なるフタル酸エステルに対しても、加水分解活性を有していることを本発明者らは初めて明らかした。
【0012】
すなわち、本発明は、新たに見いだされたコレステロールエステラーゼのフタル酸エステルに対する強い加水分解活性を利用することによって、それら内分泌攪乱化学物質の酵素分解処理を行うことを特徴とする。分解処理対象となるのは、フタル酸エステルによって汚染されている水、土壌、大気、食品、生物などである。コレステロールエステラーゼはブタ、ウシなどの哺乳動物の膵臓、肝臓、血液などを出発原料として、あるいは遺伝子組換え体を用いて、各種のクロマト手法を組み合わせることによって調製される。得られた遊離あるいは担体に固定化したコレステロールエステラーゼを、処理対象物と接触させることによってフタル酸エステルを分解することが可能となる。
【0013】
本発明においては、フタル酸エステルを含む物質又は材料は、被処理物として、すべてその分解処理対象とされる。フタル酸エステルを含む被処理物としては、フタル酸エステルによって汚染されているあらゆる種類の物質、材料が含まれる。それらの代表的なものとして、例えば、フタル酸エステルによって汚染されている水、土壌、大気、食品、生物材料などが例示される。しかし、本発明は、これらのものに制限されるものではなく、フタル酸エステルを含むすべての被処理物が、その分解処理対象とされる。これらは、例えば、予め所定の濃度に調整した後、所定の条件でコレステロールエステラーゼを用いて分解処理される。本発明において、フタル酸エステルには、DEHPだけではなく、その他のフタル酸エステル(DEP、DB、BBP)を含むすべてのフタル酸エステル類が含まれる。
【0014】
本発明の方法は、上記フタル酸エステルを含む被処理物を、コレステロールエステラーゼを含む酵素製剤で所定の条件で処理することにより実施される。本発明で用いられるコレステロールエステラーゼとしては、好適には、例えば、哺乳動物の膵臓、肝臓、血液などの生体組織由来のコレステロールエステラーゼ(EC3.1.1.13)、及び遺伝子組換え体を用いて遺伝子工学の手法で調製されたコレステロールエステラーゼなどが例示される。
【0015】
しかし、本発明は、これらに制限されるものではなく、これらと同効のものであれば同様に使用することができる。すなわち、上記コレステロールエステラーゼと同等の化学構造を有し、同等の活性を有するものであれば、同様に使用することができる。本発明において、「コレステロールエステラーゼ」とは、その構造及び機能について、上記コレステロールエステラーゼと同等もしくは類似のものであって、フタル酸エステル分解活性があるものをすべて包含するものであることを意味する。
【0016】
【作用】
本発明では、フタル酸エステルを含む被処理物を、コレステロールエステラーゼを用いて分解処理することにより、上記被処理物に含まれるフタル酸エステルを分解除去して浄化することができる。これにより、被処理物中に含まれるフタル酸エステル(DEHP)、その他のフタル酸エステル(DEP、DBP、BBP)を高い分解率で分解することができる。後記する実施例に示されるように、固定化酵素を用いた一定時間の分解処理により、DBP及びBBPは95%以上、DEPは75%程度、DEHPは30%程度の分解率で分解されることが分かった。
【0017】
フタル酸エステルは、環境汚染物質として自然環境中に広範囲に存在しており、しかも、難分解性で内分泌攪乱性を有することから、その対策が強く求められているが、本発明の方法を利用することにより、上記環境汚染物質を効率よく分解処理することが可能であり、本発明は、環境浄化方法として有用であることが分かった。
【0018】
DEHPに代表されるフタル酸エステルは酸、アルカリに対しても抵抗性を有する難分解性化合物である。微生物由来のフタル酸エステル分解酵素はいくつかの報告例があるが、プラスチック可塑剤として最も消費量の多いDEHPを分解できる酵素についてはほとんど報告がない。本発明は、内分泌攪乱物質であるフタル酸エステルの酵素分解に対して有力な手段を提供するものである。
【0019】
また、フタル酸エステルによって汚染されている水、土壌、大気、食品、あるいは生物などを、遊離あるいは固定化したコレステロールエステラーゼを用いて処理することによって、フタル酸エステルの分解が可能である。環境中に汚染が広がったフタル酸エステル、例えば、土壌汚染などを物理・化学的処理するのは経済的にコスト高となるが、本発明のコレステロールエステラーゼによる酵素処理は、広範囲の汚染に対して、従来の物理・化学的処理よりも安価な処理が可能である。
【0020】
【実施例】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例1
フタル酸エステルを分解できる酵素を探索するため、動物、植物、微生物起源のリパーゼ製剤を用いて検討した。これらの製剤の例として、例えば、ブタ膵臓(シグマ社製L−3126)、麦芽(シグマ社製L−3001)、Rhizopus arrhizus(シグマ社製L−4384)、Mucor javanicus(シグマ社製L−8906)、Mucor meihei(シグマ社製L−9031)由来のリパーゼ製剤が例示される。これらの酵素とフタル酸エステル(DEHP)を37℃、24時間反応させ、その反応液を酢酸エチルで抽出・濃縮して薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応生成物の定性分析を行った。
【0021】
その結果、ブタ膵臓由来の粗精製リパーゼ製剤を用いた場合にのみ反応生成物であるモノエステルが検出され、DEHPがブタ膵臓由来の粗精製リパーゼ製剤中に含まれる未知成分によって加水分解されることがわかった。この未知成分による加水分解活性は、DEHPに対してだけでなく、その他のフタル酸エステル(DEP、DBP、BBP)に対しても活性を示した。
【0022】
ブタ膵臓由来の粗精製リパーゼ製剤中に含まれる未知成分は、フタル酸エステルを基質として化1に示すようにな反応形式で加水分解反応を行うことが明らかになった。
【0023】
【化1】
【0024】
この未知成分によるDEHPの加水分解率を調べるため、DEHP(1mg)とブタ膵臓由来のリパーゼ製剤(25、50、100mg)を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)11ml中37℃で6、12、24時間反応させた。その反応液を酢酸エチルで抽出・濃縮して高速液体クロマトグラフィーで定量分析し、DEHPの分解率を求めた。その結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
表1の結果より、DEHP量の約100倍量のリパーゼ製剤に含まれる未知成分によって、24時間で93%のDEHPが加水分解されることが明らかになった。また、この未知成分によるDEHP加水分解反応の至適pHは7〜8であった。
【0027】
実施例2
ブタ膵臓由来の粗精製リパーゼ製剤中に含まれるDEHP加水分解能を有する未知成分がリパーゼであるか否か確かめるため、比活性が約240倍高いより精製されたブタ膵臓由来リパーゼ製剤( シグマ社製L−0382、比活性:35、500単位/mgタンパク質)を用いて、DEHPの加水分解反応を37℃、24時間行った。反応生成物のTLCによる定性分析を行った。その結果を図1に示す。
【0028】
図1のTLC結果が示すように、反応液中に加水分解反応生成物のモノエステルは検出されず、DEHPを加水分解する未知成分はリパーゼでないことが明らかになった。
【0029】
実施例3
DEHP加水分解能を有する未知成分を特定するために、ブタ膵臓由来の粗精製リパーゼ製剤中に含まれるコレステロールエステラーゼに着目し、同様の加水分解反応を他のフタル酸エステルも含めて行った。その結果、ブタ膵臓由来コレステロールエステラーゼ製剤(シグマ社C−9464)にDEHP加水分解活性を見いだした。特に、アルコール炭素鎖の短いフタル酸エステルであるDEP、DBPは強く加水分解される傾向があり、0.1mgのDEPは約5単位のコレステロールエステラーゼによって37℃、24時間でほぼ完全に加水分解された。同じ約5単位のウシ膵臓由来コレステロールエステラーゼ製剤(シグマ社C−3766)を用いてもほぼ同様の加水分解活性が認められたこと。これらのことから、加水分解活性はブタ膵臓由来に限定されるものでなく、哺乳動物由来のコレステロールエステラーゼであれば同様の活性を有することもわかった。TLC解析の結果を図2に示す。
【0030】
実施例4
上記実施例3で用いたシグマ社製ブタ膵臓由来コレステロールエステラーゼ製剤は、精製度が低く、コレステロールエステラーゼ以外にも多くのタンパク質を含んでいるため、より精製度が高いオリエンタル酵母社製(Cat.:46701003)のウシ膵臓由来コレステロールエステラーゼを用いて、フタル酸エステルの加水分解実験を行った。
【0031】
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE)にて純度検定を行ったところ、オリエンタル酵母社製の本酵素製剤は分子量約67、500のコレステロールエステラーゼ以外に夾雑タンパク質をほとんど含んでいないことを確認した。図3にSDS−PAGEの解析結果を示す。
【0032】
この酵素製剤約10単位とDEP、DBP、BBP、DEHP(1000−2000ppm)を37℃、24時間反応させ、これらフタル酸エステルに対する加水分解活性を調べた。反応生成物をTLC解析したところ、これらのフタル酸エステルがコレステロールエステラーゼによって加水分解されていることを確認した。図4にその結果を示す。
【0033】
上記実施例3と同様に、特にアルコール炭素鎖の短いフタル酸エステルであるDEP、DBPが強く加水分解される傾向があり、反応24時間後にはTLC上で出発物質のDEP、DBPのバンドは全く検出されなかった。0.1mgのDEP、0.14mgのDBPは約10単位(0.4mgタンパク質)のコレステロールエステラーゼによって37℃、27時間でほぼ完全に加水分解された。
【0034】
実施例5
酵素製剤15mg(363U)とシランカップリング剤で表面修飾したセラミックス多孔体ビーズ1.6gを4℃で10時間攪拌し、酵素をビーズ上に固定化した。この固定化酵素を用い、各種フタル酸エステル類(DEP、DBP、BBP、DEHP)への加水分解活性を調べた。固定化酵素50mgを、フタル酸エステル5mg(1667ppm)と10%の2−プロパノールを含むリン酸緩衝液3mlに加え、30℃で反応を行った。適時HPLCにより反応物を測定した結果を表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
この固定化酵素によって、DBPは17時間、BBPは45時間で95%以上加水分解された。また、DEPは、60時間で75%程度加水分解が進行した。DEHPに対しては、110時間の反応時間で、約30%の加水分解が起こることが明らかとなった。
【0037】
以上の結果より、フタル酸エステル加水分解活性を示す粗精製リパーゼ製剤中の未知成分の実体は、コレステロールエステラーゼであること、このコレステロールエステラーゼを用いることによりフタル酸エステルを効率よく分解処理できることが分かった。
【0038】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明は、酵素を用いたフタル酸エステルの分解処理方法及びその処理システムに係るものであり、本発明により、以下のような格別の効果が奏される。
(1)環境汚染物質であるフタル酸エステル類を効率よく分解処理することができるフタル酸エステルの分解処理方法を提供することができる。
(2)フタル酸エステルによって汚染されている物質又は材料を簡単な操作で浄化処理することができる。
(3)フタル酸エステルを含む被処理物中のフタル酸エステルを酵素的手段で効率よく分解除去することができる。
(4)上記分解処理に有用な酵素製剤を提供することができる。
(5)上記酵素製剤を担体に固定化した処理手段を含むフタル酸エステル分解処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】精製されたブタ膵臓由来リパーゼ製剤によるDEHPの加水分解反応の結果を示す(1:反応前、2:反応後)。
【図2】各種コレステロールエステラーゼ製剤によるフタル酸エステル(DEP)の加水分解反応の結果を示す(1:反応前、2:反応後(細菌由来)、3:反応後(ブタ膵臓由来)、4:反応後(ウシ膵臓由来))。
【図3】ウシ膵臓由来精製コレステロールエステラーゼ製剤のSDS−PAGEの結果を示す(1:分子マーカー、2:コレステロールエステラーゼ製剤)。
【図4】ウシ膵臓由来精製リパーゼ製剤によるフタル酸エステルの加水分解反応の結果を示す(DEP・・・1:反応前、2:反応後、DBP・・・3:反応前、4:反応後、BBP・・・5:反応前、6:反応後、DEHP・・・7:反応前、8:反応後)。
【発明の属する技術分野】
本発明は、コレステロールエステラーゼによる酵素反応を利用したフタル酸エステルの分解処理技術に関するものである。更に詳しくは、本発明は、フタル酸エステルによって汚染されている物質又は材料中のフタル酸エステルを効率よく分解処理して、これらの物質又は材料を浄化処理する方法及びその浄化処理システムに関するものである。本発明は、フタル酸エステルによって汚染された土壌、地下水、大気などの環境浄化、あるいはフタル酸エステルを除去することによる食品、血液などの安全性の向上などの分野で広く用いることができる。
【0002】
【従来の技術】
フタル酸エステルによる環境汚染は、広範囲でみられ、土壌、水、大気、食品、生体などほとんどすべてにフタル酸エステルが検出されている。例えば、ポリ塩化ビニル( 塩ビ)などのプラスチック系廃棄物の最終埋め立て処分場の土壌、地下水には、廃棄物から溶け出たフタル酸エステルが高い濃度で存在している。また、フタル酸エステルが含まれる容器包装・器具などが用いられた食品、血液などでも汚染が確認されている。
【0003】
ところで、塩ビは、その耐久性、低コストまた多目的性から、世界中で最も汎用されているプラスチックの一つであるが、塩ビそのままでは硬質なため、軟らかくする目的で多い時で40%も可塑剤が添加されている。可塑剤が入っていない硬質塩ビは、排水用パイプや、住宅用サイディング材として利用される。一方、可塑剤の添加によって、塩ビは、農業用フィルム、電線被覆、血液バッグ、ホース、玩具類、ワイヤーやケーブル、フローリングやシャワー・カーテンなどへと製品用途は大きく拡大される。
【0004】
これらの製品に用いられる可塑剤としては、フタル酸エステルが全体の約8割を占め、国内の年間生産量は40万トンとされており、その大部分が国内消費されている。フタル酸エステルは、構成するアルコール鎖構造の違いによって多くの種類があるが、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DEHP)がフタル酸エステル生産量の半分近くを占めている。
【0005】
近年、妊娠中のラットへのフタル酸エステル投与によって、産まれた子供ラットの精巣の萎縮や***数の減少、乳ガン細胞増殖試験や組み換え酵母によるインビトロ試験でのエストロゲン活性が報告されている。更に、この物質は、甲状腺機能を変化させる作用によって、成長・発達に悪影響を与えるともいわれている。フタル酸エステルは、生殖機能や甲状腺機能などの内分泌攪乱というこれまで気づかれていなかった作用によって、生体に影響を及ぼす可能性のあることが明らかになってきた。
【0006】
日本においては、1998年5月に環境庁から発表された「環境ホルモン戦略計画SPEED’98」にある「内分泌攪乱作用を有すると疑われる化学物質」に係る物質として、フタル酸エステルとしてDEHP以外に、フタル酸ブチルベンジル(BBP)、フタル酸ジ−n−ブチル(DBP)、フタル酸ジシクロヘキシル(DCHP)、フタル酸ジエチル(DEP)がリストアップされている。
【0007】
フタル酸エステルは、プラスチックと化合していないため、温度や時間の経過とともに基材から分離して放出され易い。そのため、この物質は、容器包装・器具などへの使用による食品汚染、食品加工工程などでの器具からの汚染ばかりでなく、使用後の大量の廃棄塩ビ製品からの放出によって、水・土壌・大気へ広範囲にフタル酸エステル汚染が引き起こされ、内分泌攪乱化学物質による環境汚染問題の原因物質の一つになっている。したがって、当該分野においては、難分解性で内分泌攪乱性を有する可能性のあるフタル酸エステルを効率よく分解除去することが可能なフタル酸エステルの分解処理技術を確立することが強く要請されていた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
このような状況の中で、本発明者らは、上記課題を確実に解決することが可能な新しいフタル酸エステルの分解処理方法を開発することを目標として鋭意研究を行った結果、ブタ膵臓由来の粗精製リパーゼ製剤中にフタル酸エステルを強く加水分解する活性の存在を見出した。更に、本発明者らは、この未知の活性物質の実体について探索を行った結果、粗精製リパーゼ製剤中に含まれるコレステロールエステラーゼが、これらフタル酸エステルを加水分解する実体であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、難分解性で内分泌攪乱性を有する可能性のあるフタル酸エステルの、酵素を用いた効率的分解処理方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記フタル酸エステルを分解処理するためのフタル酸エステル分解処理用酵素製剤を提供することを目的とする。
更に、本発明は、フタル酸エステルによって汚染されている物質又は材料中のフタル酸エステルを効率よく分解処理して、上記物質又は材料を浄化処理する方法及びその浄化処理システムを提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)フタル酸エステルを分解処理する方法であって、フタル酸エステルを含む被処理物をコレステロールエステラーゼを用いて分解処理することを特徴とするフタル酸エステルの分解処理方法。
(2)フタル酸エステルを含む被処理物が、フタル酸エステルによって汚染されている物質又は材料である前記(1)記載の方法。
(3)フタル酸エステルによって汚染されている物質又は材料が、土壌、水、大気、食品、又は血液材料である前記(1)記載の方法。
(4)コレステロールエステラーゼが、哺乳動物の組織、又は遺伝子組換え体を用いて調製されたものである前記(1)記載の方法。
(5)フタル酸エステルによって汚染されている物質又は材料を浄化処理する方法であって、当該物質又は材料を含む被処理物をコレステロールエステラーゼで処理して、当該被処理物中に含まれるフタル酸エステルを分解処理することを特徴とする上記汚染物質又は材料の浄化処理方法。
(6)フタル酸エステルを含む被処理物中のフタル酸エステルを分解処理するための酵素製剤であって、コレステロールエステラーゼを有効成分として含むことを特徴とする上記フタル酸エステル分解処理用酵素製剤。
(7)フタル酸エステルを含む被処理物が、フタル酸エステルによって汚染されている物質又は材料である前記(6)記載の酵素製剤。
(8)フタル酸エステルによって汚染されている物質又は材料を浄化処理するための浄化処理システムであって、前記(7)記載の酵素製剤を担体に固定化した処理手段を含むことを特徴とする上記浄化処理システム。
【0011】
【発明の実施の形態】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
コレステロールエステラーゼは、哺乳動物においては肝及び膵に多く存在し、生体内においては非イオン化脂肪酸とコレステロールをエステル結合させ、また、コレステロールエステルの加水分解を行う酵素であることが知られている。このコレステロールエステラーゼが、コレステロールエステルとは化学構造が全く異なるフタル酸エステルに対しても、加水分解活性を有していることを本発明者らは初めて明らかした。
【0012】
すなわち、本発明は、新たに見いだされたコレステロールエステラーゼのフタル酸エステルに対する強い加水分解活性を利用することによって、それら内分泌攪乱化学物質の酵素分解処理を行うことを特徴とする。分解処理対象となるのは、フタル酸エステルによって汚染されている水、土壌、大気、食品、生物などである。コレステロールエステラーゼはブタ、ウシなどの哺乳動物の膵臓、肝臓、血液などを出発原料として、あるいは遺伝子組換え体を用いて、各種のクロマト手法を組み合わせることによって調製される。得られた遊離あるいは担体に固定化したコレステロールエステラーゼを、処理対象物と接触させることによってフタル酸エステルを分解することが可能となる。
【0013】
本発明においては、フタル酸エステルを含む物質又は材料は、被処理物として、すべてその分解処理対象とされる。フタル酸エステルを含む被処理物としては、フタル酸エステルによって汚染されているあらゆる種類の物質、材料が含まれる。それらの代表的なものとして、例えば、フタル酸エステルによって汚染されている水、土壌、大気、食品、生物材料などが例示される。しかし、本発明は、これらのものに制限されるものではなく、フタル酸エステルを含むすべての被処理物が、その分解処理対象とされる。これらは、例えば、予め所定の濃度に調整した後、所定の条件でコレステロールエステラーゼを用いて分解処理される。本発明において、フタル酸エステルには、DEHPだけではなく、その他のフタル酸エステル(DEP、DB、BBP)を含むすべてのフタル酸エステル類が含まれる。
【0014】
本発明の方法は、上記フタル酸エステルを含む被処理物を、コレステロールエステラーゼを含む酵素製剤で所定の条件で処理することにより実施される。本発明で用いられるコレステロールエステラーゼとしては、好適には、例えば、哺乳動物の膵臓、肝臓、血液などの生体組織由来のコレステロールエステラーゼ(EC3.1.1.13)、及び遺伝子組換え体を用いて遺伝子工学の手法で調製されたコレステロールエステラーゼなどが例示される。
【0015】
しかし、本発明は、これらに制限されるものではなく、これらと同効のものであれば同様に使用することができる。すなわち、上記コレステロールエステラーゼと同等の化学構造を有し、同等の活性を有するものであれば、同様に使用することができる。本発明において、「コレステロールエステラーゼ」とは、その構造及び機能について、上記コレステロールエステラーゼと同等もしくは類似のものであって、フタル酸エステル分解活性があるものをすべて包含するものであることを意味する。
【0016】
【作用】
本発明では、フタル酸エステルを含む被処理物を、コレステロールエステラーゼを用いて分解処理することにより、上記被処理物に含まれるフタル酸エステルを分解除去して浄化することができる。これにより、被処理物中に含まれるフタル酸エステル(DEHP)、その他のフタル酸エステル(DEP、DBP、BBP)を高い分解率で分解することができる。後記する実施例に示されるように、固定化酵素を用いた一定時間の分解処理により、DBP及びBBPは95%以上、DEPは75%程度、DEHPは30%程度の分解率で分解されることが分かった。
【0017】
フタル酸エステルは、環境汚染物質として自然環境中に広範囲に存在しており、しかも、難分解性で内分泌攪乱性を有することから、その対策が強く求められているが、本発明の方法を利用することにより、上記環境汚染物質を効率よく分解処理することが可能であり、本発明は、環境浄化方法として有用であることが分かった。
【0018】
DEHPに代表されるフタル酸エステルは酸、アルカリに対しても抵抗性を有する難分解性化合物である。微生物由来のフタル酸エステル分解酵素はいくつかの報告例があるが、プラスチック可塑剤として最も消費量の多いDEHPを分解できる酵素についてはほとんど報告がない。本発明は、内分泌攪乱物質であるフタル酸エステルの酵素分解に対して有力な手段を提供するものである。
【0019】
また、フタル酸エステルによって汚染されている水、土壌、大気、食品、あるいは生物などを、遊離あるいは固定化したコレステロールエステラーゼを用いて処理することによって、フタル酸エステルの分解が可能である。環境中に汚染が広がったフタル酸エステル、例えば、土壌汚染などを物理・化学的処理するのは経済的にコスト高となるが、本発明のコレステロールエステラーゼによる酵素処理は、広範囲の汚染に対して、従来の物理・化学的処理よりも安価な処理が可能である。
【0020】
【実施例】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例1
フタル酸エステルを分解できる酵素を探索するため、動物、植物、微生物起源のリパーゼ製剤を用いて検討した。これらの製剤の例として、例えば、ブタ膵臓(シグマ社製L−3126)、麦芽(シグマ社製L−3001)、Rhizopus arrhizus(シグマ社製L−4384)、Mucor javanicus(シグマ社製L−8906)、Mucor meihei(シグマ社製L−9031)由来のリパーゼ製剤が例示される。これらの酵素とフタル酸エステル(DEHP)を37℃、24時間反応させ、その反応液を酢酸エチルで抽出・濃縮して薄層クロマトグラフィー(TLC)で反応生成物の定性分析を行った。
【0021】
その結果、ブタ膵臓由来の粗精製リパーゼ製剤を用いた場合にのみ反応生成物であるモノエステルが検出され、DEHPがブタ膵臓由来の粗精製リパーゼ製剤中に含まれる未知成分によって加水分解されることがわかった。この未知成分による加水分解活性は、DEHPに対してだけでなく、その他のフタル酸エステル(DEP、DBP、BBP)に対しても活性を示した。
【0022】
ブタ膵臓由来の粗精製リパーゼ製剤中に含まれる未知成分は、フタル酸エステルを基質として化1に示すようにな反応形式で加水分解反応を行うことが明らかになった。
【0023】
【化1】
【0024】
この未知成分によるDEHPの加水分解率を調べるため、DEHP(1mg)とブタ膵臓由来のリパーゼ製剤(25、50、100mg)を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)11ml中37℃で6、12、24時間反応させた。その反応液を酢酸エチルで抽出・濃縮して高速液体クロマトグラフィーで定量分析し、DEHPの分解率を求めた。その結果を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
表1の結果より、DEHP量の約100倍量のリパーゼ製剤に含まれる未知成分によって、24時間で93%のDEHPが加水分解されることが明らかになった。また、この未知成分によるDEHP加水分解反応の至適pHは7〜8であった。
【0027】
実施例2
ブタ膵臓由来の粗精製リパーゼ製剤中に含まれるDEHP加水分解能を有する未知成分がリパーゼであるか否か確かめるため、比活性が約240倍高いより精製されたブタ膵臓由来リパーゼ製剤( シグマ社製L−0382、比活性:35、500単位/mgタンパク質)を用いて、DEHPの加水分解反応を37℃、24時間行った。反応生成物のTLCによる定性分析を行った。その結果を図1に示す。
【0028】
図1のTLC結果が示すように、反応液中に加水分解反応生成物のモノエステルは検出されず、DEHPを加水分解する未知成分はリパーゼでないことが明らかになった。
【0029】
実施例3
DEHP加水分解能を有する未知成分を特定するために、ブタ膵臓由来の粗精製リパーゼ製剤中に含まれるコレステロールエステラーゼに着目し、同様の加水分解反応を他のフタル酸エステルも含めて行った。その結果、ブタ膵臓由来コレステロールエステラーゼ製剤(シグマ社C−9464)にDEHP加水分解活性を見いだした。特に、アルコール炭素鎖の短いフタル酸エステルであるDEP、DBPは強く加水分解される傾向があり、0.1mgのDEPは約5単位のコレステロールエステラーゼによって37℃、24時間でほぼ完全に加水分解された。同じ約5単位のウシ膵臓由来コレステロールエステラーゼ製剤(シグマ社C−3766)を用いてもほぼ同様の加水分解活性が認められたこと。これらのことから、加水分解活性はブタ膵臓由来に限定されるものでなく、哺乳動物由来のコレステロールエステラーゼであれば同様の活性を有することもわかった。TLC解析の結果を図2に示す。
【0030】
実施例4
上記実施例3で用いたシグマ社製ブタ膵臓由来コレステロールエステラーゼ製剤は、精製度が低く、コレステロールエステラーゼ以外にも多くのタンパク質を含んでいるため、より精製度が高いオリエンタル酵母社製(Cat.:46701003)のウシ膵臓由来コレステロールエステラーゼを用いて、フタル酸エステルの加水分解実験を行った。
【0031】
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE)にて純度検定を行ったところ、オリエンタル酵母社製の本酵素製剤は分子量約67、500のコレステロールエステラーゼ以外に夾雑タンパク質をほとんど含んでいないことを確認した。図3にSDS−PAGEの解析結果を示す。
【0032】
この酵素製剤約10単位とDEP、DBP、BBP、DEHP(1000−2000ppm)を37℃、24時間反応させ、これらフタル酸エステルに対する加水分解活性を調べた。反応生成物をTLC解析したところ、これらのフタル酸エステルがコレステロールエステラーゼによって加水分解されていることを確認した。図4にその結果を示す。
【0033】
上記実施例3と同様に、特にアルコール炭素鎖の短いフタル酸エステルであるDEP、DBPが強く加水分解される傾向があり、反応24時間後にはTLC上で出発物質のDEP、DBPのバンドは全く検出されなかった。0.1mgのDEP、0.14mgのDBPは約10単位(0.4mgタンパク質)のコレステロールエステラーゼによって37℃、27時間でほぼ完全に加水分解された。
【0034】
実施例5
酵素製剤15mg(363U)とシランカップリング剤で表面修飾したセラミックス多孔体ビーズ1.6gを4℃で10時間攪拌し、酵素をビーズ上に固定化した。この固定化酵素を用い、各種フタル酸エステル類(DEP、DBP、BBP、DEHP)への加水分解活性を調べた。固定化酵素50mgを、フタル酸エステル5mg(1667ppm)と10%の2−プロパノールを含むリン酸緩衝液3mlに加え、30℃で反応を行った。適時HPLCにより反応物を測定した結果を表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
この固定化酵素によって、DBPは17時間、BBPは45時間で95%以上加水分解された。また、DEPは、60時間で75%程度加水分解が進行した。DEHPに対しては、110時間の反応時間で、約30%の加水分解が起こることが明らかとなった。
【0037】
以上の結果より、フタル酸エステル加水分解活性を示す粗精製リパーゼ製剤中の未知成分の実体は、コレステロールエステラーゼであること、このコレステロールエステラーゼを用いることによりフタル酸エステルを効率よく分解処理できることが分かった。
【0038】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明は、酵素を用いたフタル酸エステルの分解処理方法及びその処理システムに係るものであり、本発明により、以下のような格別の効果が奏される。
(1)環境汚染物質であるフタル酸エステル類を効率よく分解処理することができるフタル酸エステルの分解処理方法を提供することができる。
(2)フタル酸エステルによって汚染されている物質又は材料を簡単な操作で浄化処理することができる。
(3)フタル酸エステルを含む被処理物中のフタル酸エステルを酵素的手段で効率よく分解除去することができる。
(4)上記分解処理に有用な酵素製剤を提供することができる。
(5)上記酵素製剤を担体に固定化した処理手段を含むフタル酸エステル分解処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】精製されたブタ膵臓由来リパーゼ製剤によるDEHPの加水分解反応の結果を示す(1:反応前、2:反応後)。
【図2】各種コレステロールエステラーゼ製剤によるフタル酸エステル(DEP)の加水分解反応の結果を示す(1:反応前、2:反応後(細菌由来)、3:反応後(ブタ膵臓由来)、4:反応後(ウシ膵臓由来))。
【図3】ウシ膵臓由来精製コレステロールエステラーゼ製剤のSDS−PAGEの結果を示す(1:分子マーカー、2:コレステロールエステラーゼ製剤)。
【図4】ウシ膵臓由来精製リパーゼ製剤によるフタル酸エステルの加水分解反応の結果を示す(DEP・・・1:反応前、2:反応後、DBP・・・3:反応前、4:反応後、BBP・・・5:反応前、6:反応後、DEHP・・・7:反応前、8:反応後)。
Claims (8)
- フタル酸エステルを分解処理する方法であって、フタル酸エステルを含む被処理物をコレステロールエステラーゼを用いて分解処理することを特徴とするフタル酸エステルの分解処理方法。
- フタル酸エステルを含む被処理物が、フタル酸エステルによって汚染されている物質又は材料である請求項1記載の方法。
- フタル酸エステルによって汚染されている物質又は材料が、土壌、水、大気、食品、又は血液材料である請求項1記載の方法。
- コレステロールエステラーゼが、哺乳動物の組織、又は遺伝子組換え体を用いて調製されたものである請求項1記載の方法。
- フタル酸エステルによって汚染されている物質又は材料を浄化処理する方法であって、当該物質又は材料を含む被処理物をコレステロールエステラーゼで処理して、当該被処理物中に含まれるフタル酸エステルを分解処理することを特徴とする上記汚染物質又は材料の浄化処理方法。
- フタル酸エステルを含む被処理物中のフタル酸エステルを分解処理するための酵素製剤であって、コレステロールエステラーゼを有効成分として含むことを特徴とする上記フタル酸エステル分解処理用酵素製剤。
- フタル酸エステルを含む被処理物が、フタル酸エステルによって汚染されている物質又は材料である請求項6記載の酵素製剤。
- フタル酸エステルによって汚染されている物質又は材料を浄化処理するための浄化処理システムであって、請求項7記載の酵素製剤を担体に固定化した処理手段を含むことを特徴とする上記浄化処理システム。
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