JP3844416B2 - 急結性セメントコンクリートの施工方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、急結剤を配合していないセメントコンクリートの粉末凝結調整材であり、それを用いて長時間硬化しないようにしたセメントコンクリートを、急結剤の併用により、必要時期に使用可能とする優れた粉末凝結調整材、及びそれを用いた急結性セメントコンクリートの施工方法に関する。
【0002】
なお、本発明でいうセメントコンクリートとは、モルタル及びコンクリートを総称するものである。
【0003】
【従来の技術】
従来、セメントコンクリートを現場で使用する際、セメントコンクリートの流動性を確保し、長時間使用が可能となるように凝結遅延材が用いられている。
【0004】
しかしながら、セメントコンクリートに凝結遅延材を混合してセメントコンクリートの硬化時間を5〜24時間になるように調整し、その後急結剤を混合して硬化させると、硬化後の強度が凝結遅延材を混入しないものに比較して著しく低下し、必要なセメントコンクリートの物性を得るのが難しいという課題があった。
【0005】
又、凝結遅延材として例えば、クエン酸と消石灰をスラリー化したものをコンクリートミキサー車へ添加した場合、クエン酸と消石灰のカルシウム成分とが化学反応して、スラリー水が発熱する、セメントコンクリートが凝結硬化しにくくなる、スラリー水中に小さな凝固物が生成してセメントコンクリートを混合、圧送しにくくなる等の課題があった。
【0006】
さらに、生コンプラントは通常夜間に稼働しないため、夜間施工でセメントコンクリートを使用しなければならない場合、夜間工事の現場ではで生コンプラントを設置しなければならず、経済的に極めて不利である等の課題があった。特に、トンネル工事の現場では、トンネル内に生コンプラントを設置するのが難しく、問題であった。
【0007】
前記課題を解消するため、セメントコンクリートに、縮合リン酸塩、クエン酸、消石灰、及び炭酸ソーダ等を加え、使用直前にアルミン酸アルカリや有機酸を混合する方法や、セメントコンクリートにポリカルボン酸塩系混和材を加えて長時間流動性を確保し、吹付時に急結剤を加える方法等が提案されている(特開平2−248351号公報、特開平3−153550号公報)。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記方法だと、高性能減水剤を使用し、水セメント比を小さくした高強度タイプのセメントコンクリートに対して、凝結遅延効果が極端に落ちる等の課題があった。
【0009】
さらに、吹付セメントコンクリートが長時間使用できるように凝結遅延材の使用量を多くした場合、コンクリート分離が発生しやすく、又、急結剤添加後の初期凝結が遅れる等の課題があった。
【0010】
本発明者は前記課題を解消すべく種々検討した結果、特定の材料を使用することにより、高性能減水剤を使用した高強度配合のセメントコンクリートでも、施工現場が必要とする時間以上、流動性を確保でき、圧送性が良く、セメントコンクリートの分離も少なく、必要な時に急結剤を混入すると短時間で急結性セメントコンクリートを凝結硬化でき、初期強度発現性が大きいなどの知見を得て本発明を完成するに至った。
【0011】
【課題を解決するための手段】
即ち、急結剤を配合していない吹付セメントコンクリートに、消石灰とカーバイド滓からなる群のうちの1種以上100質量部、クエン酸塩4〜200質量部、及び、II型無水石膏や天然石膏からなる群のうちの1種以上20〜200質量部を含有してなる粉末凝結調整材を、セメント100質量部に対して、1〜10質量部混合し、粉末凝結調整材と別個に減水剤を、セメント100質量部に対して固形分換算で、0.6〜1.6質量部混合してセメントコンクリートとし、該セメントコンクリートの使用直前にカルシウムアルミネート急結剤を、セメント100質量部に対して、5〜15質量部混入して施工することを特徴とする急結性セメントコンクリートの施工方法であり、セメントコンクリートの水/セメント比が30〜55%であることを特徴とする該急結性セメントコンクリートの施工方法であり、減水剤がポリエチレングリコールである該急結性セメントコンクリートの施工方法である。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0013】
本発明に係るセメントとしては、通常市販されている普通、早強、中庸熱、及び超早強等の各種ポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントにフライアッシュや高炉スラグ等を混合した各種混合セメント、並びに市販の微粒子セメント等が挙げられる。又、各種ポルトランドセメントや各種混合セメントを微粉末化して使用してもよい。
【0014】
本発明に係る粉末凝結調整材は、急結剤を配合していないセメントコンクリートと混合する材料である。
【0015】
本発明に係る消石灰類は、急結剤を配合していないセメントコンクリートが長時間凝結硬化しないという効果を有する。
【0016】
さらに、有機酸類等を多く使用しても、又、予定より早く急結剤を混合しても、急結剤と併存することによってセメントコンクリートの凝結硬化を促進するという効果を有するものである。
【0017】
具体的には、消石灰や、カルシウムカーバイトからアセチレンを発生させる際副生するカーバイド滓等が挙げられる。これらの中では、急結剤と混合した後の強度発現性が最もよく、しかも、副生品のため安価で経済的である点から、カーバイド滓が好ましい。
【0018】
消石灰類の粒子径は、特に限定されるものではないが、100μm以下が好ましく、60μm以下がより好ましい。
【0019】
本発明に係る有機酸類としては、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、及びリンゴ酸等の各種水溶性カルボン酸やこれらの塩の一種又は二種以上の使用が可能である。塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩が好ましい。これらの中では、使用量と正比例して凝結時間が長くなり、コントロールがしやすい点で、有機酸塩が好ましく、クエン酸ナトリウムがより好ましい。
【0020】
有機酸類の使用量は、消石灰類100質量部に対して、1〜400質量部が好ましく、4〜200質量部がより好ましく、6〜50質量部が最も好ましい。1質量部未満だと凝結遅延効果やスランプ保持性が良くないおそれがあり、400質量部を越えると凝結硬化しにくくなるおそれがある。
【0021】
本発明に係る石膏は市販のいずれの石膏も使用できるが、強度発現性の点で、II型無水石膏や天然石膏が好ましい。
【0022】
石膏の粒度はブレーン値で3000cm2/g以上が好ましく、4000〜7000cm2/gがより好ましい。3000cm2/g未満だと初期強度発現性が低下するおそれがある。
【0023】
石膏の使用量は、消石灰類100質量部に対して、10〜500質量部が好ましく、20〜200質量部がより好ましい。10質量部未満だと強度発現性や圧送性が小さいおそれがあり、500質量部を越えると初期凝結しにくいおそれがある。
【0024】
粉末凝結調整材の使用量は、セメント100質量部に対して、0.5〜15質量部が好ましく、1〜10質量部がより好ましい。0.5質量部未満だと凝結遅延効果やスランプ保持性が良くないおそれがあり、15質量部を越えると凝結硬化しにくいおそれがある。
【0025】
本発明では、急結剤を配合していないセメントコンクリートに粉末凝結調整材を混合し、吹付施工時に急結剤を混入して急結性吹付セメントコンクリートとするものである。
【0026】
本発明に係る急結剤は、吹付セメントコンクリートと混入できるものであれば特に制限はなく、急結剤としては、アルミン酸ナトリウムやケイ酸ナトリウム等の無機塩系や、カルシウムアルミネート類等のセメント鉱物系等が挙げられる。これらの中では、セメントコンクリートの凝結硬化が早い等の凝結性状が優れ、強度発現性が良好な点で、セメント鉱物系急結剤の使用が好ましく、カルシウムアルミネート類がより好ましい。
【0027】
急結剤の使用量は、セメント100質量部に対して、3〜25質量部が好ましく、5〜15質量部がより好ましい。3質量部未満だと凝結性状が遅れ、吹付時の跳ね返り損失が大きくなるおそれがあり、25質量部を越えると吹付時の跳ね返り損失が大きくなるおそれがある。
【0028】
本発明では、凝結遅延効果を持続させるために、セメントコンクリートに減水剤を混合することが好ましい。減水剤は、液体や粉体いずれも使用できる。
【0029】
減水剤としては、ポリオール誘導体、リグニンスルホン酸塩やその誘導体、及び高性能減水剤等が挙げられ、これらの一種又は二種以上が使用できる。これらの中では、凝結遅延効果、流動性、及び圧送性が大きい点で、高性能減水剤が好ましい。
【0030】
高性能減水剤としては、ポリエチレングリコール、ナフタレンスルホン酸塩、メラミンスルホン酸塩、及びアルキルアリールスルホン酸塩のホルマリン縮合物、並びに、ポリカルボン酸系高分子化合物等が挙げられ、液状や粉状いずれも使用できる。これらの中では、凝結遅延効果、流動性、及び圧送性が大きい点で、ポリエチレングリコールが好ましい。
【0031】
減水剤の使用量は、セメント100質量部に対して固形分換算で、0.4〜2.0質量部が好ましく、0.6〜1.6質量部がより好ましい。0.4質量部未満だと凝結遅延効果、流動性、及び圧送性が小さいおそれがあり、2.0質量部を越えるとセメントコンクリートが分離するおそれがある。
【0032】
本発明に係る水セメント比(W/C)は30〜70%が好ましく、30〜55%がより好ましく、35〜50%が最も好ましい。30%未満だと吹付セメントコンクリートの粘性が大きく吹付作業性が低下し、凝結遅延効果が小さいおそれがあり、70%を越えると強度発現性や凝結性に悪影響を与えるおそれがある。
【0033】
消石灰類、有機酸類、及び石膏の混合順序等の混合条件は、急結剤を添加する前のセメントコンクリートに均一に混合されれば、特に、制限されるものでなく、分割混合も充分可能である。減水剤は、粉末凝結調整材と別個にセメントコンクリートと混合することが好ましい。
【0034】
【実施例】
以下、実験例を説明する。
【0035】
実験例1
W/C=45%、セメント/骨材比(C/S)=1/2のモルタルを調製した。なお、骨材として細骨材を用いた。このモルタルに、消石灰類100質量部、有機酸類25質量部、及び表1に示す質量部の石膏からなる粉末凝結調整材を、セメント100質量部に対して6質量部添加した。その後、急結剤をセメント100質量部に対して7質量部添加し、圧縮強度と凝結時間を測定した。結果を表1に示す。
【0036】
(使用材料)
セメント:市販品、普通ポルトランドセメント
細骨材:新潟県姫川産天然砂、比重2.62
急結剤:カルシウムアルミネート系急結剤
消石灰類:カーバイト滓、粒子径60μm以下
有機酸類:市販品、クエン酸ナトリウム
石膏:市販品、天然石膏、ブレーン値4000cm2/g
【0037】
(測定方法)
圧縮強度:JIS R 5201に準じて、20℃、所定の材齢で測定した。
凝結時間:土木学会基準「吹付けコンクリート用急結剤品質規格(JSCED−102)」に準じて測定した。
【0038】
【表1】
【0039】
実験例2
セメント450kg/m3、粗骨材519kg/m3、細骨材1200kg/m3、及び水203kg/m3、減水剤5.4kg/m3とし、スランプ20cmのコンクリートを調製した。このコンクリートに、消石灰類100質量部、有機酸類25質量部、及び表2に示す質量部の石膏からなる粉末凝結調整材を、セメント100質量部に対して6質量部添加し、スランプ保持時間と圧送性を測定した。結果を表2に示す。
【0040】
(使用材料)
粗骨材:姫川産砂利、比重2.65
減水剤:高性能減水剤、ポリエチレングリコール、液状、市販品
【0041】
(測定方法)
スランプ保持時間:粉末凝結調整材を添加、混練りした直後から、スランプが20cmになるまでの時間で示した。なお、スランプはJIS A 1101に準じて測定した。
圧送性:コンクリートに粉末凝結調整材を混合してコンクリートポンプによりホース圧送した。ホースに脈動がなく、コンクリートを連続的に圧送できた場合を○、ホースに脈動はあるが、コンクリートを殆ど連続的に圧送できた場合を△、ホースに脈動があり、コンクリートを連続的に圧送できなかった場合を×とした。
【0042】
【表2】
【0043】
実験例3
消石灰類100質量部、表3に示す質量部の有機酸類、及び石膏100質量部からなる粉末凝結調整材を使用して凝結時間を測定したこと以外は、実験例1と同様に行った。結果を表3に示す。
【0044】
【表3】
【0045】
実験例4
消石灰類100質量部、表4に示す質量部の有機酸類、及び石膏100質量部からなる粉末凝結調整材を使用したこと以外は、実験例2と同様に行った。結果を表4に示す。
【0046】
【表4】
【0047】
実験例5
消石灰類100質量部、有機酸類25質量部、及び石膏100質量部からなる粉末凝結調整材を、セメント100質量部に対して表5に示す質量部使用したこと以外は、実験例3と同様に行った。結果を表5に示す。
【0048】
【表5】
【0049】
実験例6
消石灰類100質量部、有機酸類25質量部、及び石膏100質量部からなる粉末凝結調整材を、セメント100質量部に対して表6に示す質量部使用したこと以外は、実験例2と同様に行った。結果を表6に示す。
【0050】
【表6】
【0051】
実験例7
消石灰類100質量部、有機酸類25質量部、及び石膏100質量部からなる粉末凝結調整材を使用し、急結剤をセメント100質量部に対して表7に示す質量部添加したこと以外は、実験例3と同様に行った。結果を表7に示す。
【0052】
【表7】
【0053】
実験例8
セメント450kg/m3、粗骨材519kg/m3、細骨材1200kg/m3、減水剤5.4kg/m3、及び水203kg/m3 とし、プレーンスランプ20cmのコンクリートを調製した。このコンクリートに、消石灰類100質量部、有機酸類25質量部、及び石膏100質量部からなる粉末凝結調整材を、セメント100質量部に対して6質量部添加した。その後、急結剤をセメント100質量部に対して表8に示す質量部添加し、跳ね返り損失(リバウンド率)を測定した。結果を表8に示す。
【0054】
(測定方法)
跳ね返り損失:幅5.5m×高さ5.5mの馬蹄径のトンネルにコンクリートを吹付け、(跳ね返り落下した急結性吹付コンクリートの量)/(吹付に使用した急結性吹付コンクリート全体の量)×100(%)で示した。
【0055】
【表8】
【0056】
実験例9
減水剤をセメント100質量部に対して固形分換算で表9に示す質量部使用し、消石灰類100質量部、有機酸類25質量部、及び石膏100質量部からなる粉末凝結調整材を使用したこと以外は、実験例2と同様に行い、スランプ、圧送性、及び分離性を測定した。結果を表9に示す。
【0057】
(測定方法)
スランプ:粉末凝結調整材を添加、混練りした直後から、所定時間のスランプをJIS A 1101に準じて測定した。
分離性:吹付コンクリートの分離性を測定した。2000mlのメスシリンダーに吹付コンクリート2000mlを投入し、10分間静置した。その後、メスシリンダー1000mlのラインより上のコンクリートを採取し、目開き5mmの篩でふるい、篩上に残ったものの質量を測定した。
【0058】
【表9】
【0059】
【発明の効果】
本発明に係る粉末凝結調整材を使用することにより、施工現場が必要とする時間以上の流動性を確保でき、必要な時に急結剤を混入すると短時間で急結性セメントコンクリートを凝結硬化でき、又、圧送性、遅延性、凝結性、及び強度発現性が共に良好となる。従って、本発明に係る粉末凝結調整材は、水セメント比が小さく、かつ、高性能減水剤を使用している高強度吹付セメントコンクリートの凝結遅延材として使用できる。
Claims (3)
- 急結剤を配合していない吹付セメントコンクリートに、消石灰とカーバイド滓からなる群のうちの1種以上100質量部、クエン酸塩4〜200質量部、及び、II型無水石膏や天然石膏からなる群のうちの1種以上20〜200質量部を含有してなる粉末凝結調整材を、セメント100質量部に対して、1〜10質量部混合し、粉末凝結調整材と別個に減水剤を、セメント100質量部に対して固形分換算で、0.6〜1.6質量部混合してセメントコンクリートとし、該セメントコンクリートの使用直前にカルシウムアルミネート急結剤を、セメント100質量部に対して、5〜15質量部混入して施工することを特徴とする急結性セメントコンクリートの施工方法。
- セメントコンクリートの水/セメント比が30〜55%であることを特徴とする請求項1記載の急結性セメントコンクリートの施工方法。
- 減水剤がポリエチレングリコールである請求項1又は2記載の急結性セメントコンクリートの施工方法。
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