JP3843958B2 - シート温度調節システム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、椅子や座席などのシートの温度を調節するシート温度調節システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、車両用シートなどにおいて、シートヒータやシート空調装置などを用いて、シートの温度を調節することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。シートヒータの場合は、例えばシート内部に埋め込んだ電気ヒータにより、シート温度を乗員により設定された設定温度に近づけるように加温する。シート空調装置は、空気を加熱・冷却する装置を用いて、シートに設けられた複数のエア吹出孔から温風や冷風を吹き出すことにより、シート温度を設定温度に近づけるように調節する。
【0003】
【特許文献1】
特表平10−504977号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来技術においては、シートに着座している着座者が疲労している場合でも、シート温度を設定温度に近づける制御が行われるため、特にシート温度が設定温度に比較して高いような状況においては、着座者が疲労している場合でもシートが冷却されていたり、あるいはシートの加温が停止されていることにより、着座者の背中、腰、ふくらはぎなど、シートと接触している部分が冷えて、血液の流れが悪くなるということがあった。このような状態でさらに着座が長時間継続されると、血管が圧迫されることにより、さらに血液の流れが悪くなり、疲労物質が蓄積して、疲労が解消されなかったり、疲労が増加したりすることになる。
【0005】
本発明は、上記点に鑑みなされたものであり、着座者の疲労軽減または疲労増加の抑制が可能なシート温度調節システムを提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明では、シート(8)を加温する加温手段(3、37)と、シート(8)に着座している着座者(7)に関する着座者情報を検出する着座者情報検出手段(2、150、160)と、着座者情報に基づいて着座者(7)の疲労の程度を示す疲労度を算出し、疲労度を基準として着座者(7)が疲労しているか否かを判定する疲労判定手段(165、170)と、疲労判定手段(165、170)による判定結果に基づいて加温手段(3、37)による加温を制御する加温制御手段(180、185、190、195)とを備え、加温制御手段(180、185、190、195)は、疲労判定手段(165、170)による判定結果としての疲労度が第1所定値以上第2所定値未満である場合は、シート(8)の目標温度を第1所定温度に設定し、疲労度が第2所定値以上である場合は、目標温度を第1所定温度より高い第2所定温度に設定して、シート(8)が目標温度に近づくように加温手段(3、37)による加温を制御することを特徴としている。
【0007】
このような構成によると、疲労判定手段により着座者が疲労していると判定されたか否かの判定結果に基づいて加温手段を制御することにより、着座者の疲労を軽減したり、あるいは疲労の増加を抑制することが可能である。加温制御手段は、着座者の疲労が検出された場合は、疲労軽減あるいは疲労増加の抑制のために適切な目標温度を設定して、シートがこの目標温度に近づくように加温手段による加温を制御すると、必要以上の加温を行うことにより着座者がシートを熱く感じたり不快に感じたりすることを回避できる。この場合、加温制御手段は、疲労判定手段により算出された疲労度に基づいて上記のように目標温度を決定するようにすると、着座者の疲労軽減あるいは疲労増加の抑制のために、より適切に目標温度を設定することができる。そして、より高い程度の疲労が検出された場合には目標温度を高めるようにすると、着座者の疲労度に応じて適切な加温を行うことができる。
【0008】
請求項2に記載の発明では、第1所定温度は、人間の皮膚温度に近い温度であることを特徴としている。
【0009】
これにより、着座者の疲労度に応じて適切な加温を行うことができる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、加温制御手段(180、185、190、195)は、疲労度が第3所定値以上第4所定値未満である場合は、所定継続時間として第1所定時間に設定し、疲労度が第4所定値以上である場合は、所定継続時間として第1所定時間より長い第2所定時間に設定し、疲労判定手段(165、170)により着座者(7)が疲労していると判定されたら、所定継続時間だけ、シート(8)が疲労度に基づいて決定した目標温度に近づくよう加温手段(3、37)による加温を制御することを特徴としている。
【0011】
これにより、加温を疲労度に基づいて決定した所定継続時間だけ行うようにすると、必要以上の時間継続して加温を行うことにより着座者がシートを熱く感じたり不快に感じたりすることを回避できる。着座者から、より高い程度の疲労が検出された場合には、加温の所定継続時間を長く設定するようにすると、着座者の疲労度に応じた適切な継続時間での加温を行うことができる。
【0012】
請求項4に記載の発明では、シート(8)を加温する加温手段(3、37)と、シート(8)に着座している着座者(7)に関する着座者情報を検出する着座者情報検出手段(2、150、160)と、着座者情報に基づいて着座者(7)の疲労の程度を示す疲労度を算出し、疲労度を基準として着座者(7)が疲労しているか否かを判定する疲労判定手段(165、170)と、疲労判定手段(165、170)による判定結果に基づいて加温手段(3、37)による加温を制御する加温制御手段(180、185、190、195)とを備え、加温制御手段(180、185、190、195)は、疲労度が第3所定値以上第4所定値未満である場合は、所定継続時間として第1所定時間に設定し、疲労度が第4所定値以上である場合は、所定継続時間として第1所定時間より長い第2所定時間に設定し、疲労判定手段(165、170)により着座者(7)が疲労していると判定されたら、加温手段(3、37)にシート(8)を所定継続時間だけ加温させることを特徴としている。
【0013】
このような構成によると、疲労判定手段により着座者が疲労していると判定されたか否かの判定結果に基づいて加温手段を制御することにより、着座者の疲労を軽減したり、あるいは疲労の増加を抑制することが可能である。特に、疲労判定手段により着座者が疲労していると判定されたら、加温制御手段により加温手段にシートを加温させるようにすると、着座者の血液の流れを促進させて、疲労軽減または疲労増加の抑制を効果的に行うことができる。また、この場合の加温は、加温を所定継続時間だけ行うようにすると、連続的に加温する場合に比較して、着座者がシートを熱く感じたり不快に感じたりすることが少なくなる。さらに、加温の継続時間が疲労度に基づいて適切に設定されるため、必要以上の時間継続して加温を行うことにより着座者がシートを熱く感じたり不快に感じたりすることを回避できる。
【0014】
請求項5に記載の発明では、シート(8)を加温する加温手段(3、37)と、シート(8)に着座している着座者(7)に関する着座者情報を検出する着座者情報検出手段(2、150、160)と、着座者情報に基づいて着座者(7)が疲労しているか否かを判定する疲労判定手段(165、170)と、疲労判定手段(165、170)による判定結果に基づいて加温手段(3、37)による加温を制御する加温制御手段(180、185、190、195)と、シート(8)を冷却する冷却手段(37)と、疲労判定手段(165、170)による判定結果に基づいて冷却手段(37)による冷却を制御する冷却制御手段(185、195)とを備え、冷却制御手段(185、195)は、疲労判定手段(165、170)により着座者(7)が疲労していると判定されたら、冷却手段(37)によるシート(8)の冷却を停止させることを特徴としている。
【0015】
このような構成によると、疲労判定手段により着座者が疲労していると判定されたか否かの判定結果に基づいて加温手段、および冷却手段を制御することにより、着座者の疲労を軽減したり、あるいは疲労の増加を抑制することが可能である。特に、疲労判定手段により着座者が疲労していると判定されたら、冷却制御手段により冷却手段によるシートの冷却を停止させるようにすると、着座者の疲労軽減あるいは疲労増加の抑制を効果的に行うことができる。
【0016】
請求項6に記載の発明では、冷却制御手段(185、195)は、疲労判定手段(165、170)により着座者(7)が疲労していると判定されたら、冷却手段(37)によるシート(8)の冷却を所定継続時間だけ停止させることを特徴としている。また、請求項7に記載の発明では、疲労判定手段(165、170)は、着座者(7)が疲労しているか否かを判定する基準として、着座者情報に基づいて着座者(7)の疲労の程度を示す疲労度を算出し、冷却制御手段(185、195)は、所定継続時間を疲労度に基づいて決定することを特徴としている。このような構成によると、着座者の疲労が検出された場合に、疲労度に基づいて決定された適切な継続時間だけ冷却が停止されるため、冷却を連続的に停止する場合に比較して、必要以上に長い時間冷却を停止することにより着座者がシートを熱く感じたり不快に感じたりすることを回避できる。
【0017】
請求項8に記載の発明では、冷却制御手段(185、195)は、疲労度が第3所定値以上第4所定値未満である場合は、所定継続時間を第1所定時間に設定し、疲労度が第4所定値以上である場合は、所定継続時間を第1所定時間より長い第2所定時間に設定することを特徴としている。このように、疲労軽減のための冷却制御を、疲労度に基づいて決定した所定継続時間だけ行うようにすると、必要以上に冷却を弱めたり停止することにより着座者がシートを熱く感じたり不快に感じたりすることを回避できる。
【0018】
請求項5に記載の発明において、請求項9に記載の発明では、疲労判定手段(165、170)は、着座者(7)が疲労しているか否かを判定する基準として、着座者情報に基づいて着座者(7)の疲労の程度を示す疲労度を算出し、冷却制御手段(185、195)は、疲労判定手段(165、170)による判定結果としての疲労度が第1所定値以上第2所定値未満である場合は、シート(8)の目標温度を第1所定温度に設定し、疲労度が第2所定値以上である場合は、目標温度を第1所定温度より高い第2所定温度に設定して、シート(8)が目標温度に近づくように冷却手段(37)による冷却を制御することを特徴としている。
【0019】
これにより、着座者の疲労が検出された場合は、疲労軽減あるいは疲労増加の抑制のために適切な目標温度を設定して、シートがこの目標温度に近づくように冷却手段による冷却を制御することで、必要以上に冷却を弱めたり停止したりすることにより着座者がシートを熱く感じたり不快に感じたりすることを回避できる。この場合、疲労判定手段により算出された疲労度に基づいて目標温度を決定することで、着座者の疲労軽減あるいは疲労増加の抑制のために、より適切に目標温度を設定することができる。そして、より高い程度の疲労が検出された場合には目標温度を高めるようにすることで、着座者の疲労度に応じて適切な冷却の軽減あるいは停止を行うことができる。
【0020】
請求項10に記載の発明では、第1所定温度は、人間の皮膚温度に近い温度であることを特徴としている。
【0021】
これにより、着座者の疲労度に応じて適切な冷却の軽減あるいは停止を行うことができる。
【0022】
請求項11に記載の発明では、冷却制御手段(185、195)は、疲労判定手段(165、170)により着座者(7)が疲労していると判定されたら、疲労度が第3所定値以上第4所定値未満である場合は、所定継続時間として第1所定時間に設定し、疲労度が第4所定値以上である場合は、所定継続時間として第1所定時間より長い第2所定時間に設定し、所定継続時間だけ、シート(8)が疲労度に基づいて決定した目標温度に近づくように冷却手段(37)による冷却を制御することを特徴としている。
【0023】
これにより、必要以上に冷却を弱めたり停止することにより着座者がシートを熱く感じたり不快に感じたりすることを回避できる。着座者から、より高い程度の疲労が検出された場合には、疲労軽減のための冷却制御の継続時間を長く設定するようにすると、着座者の疲労度に応じた適切な継続時間で疲労軽減のための冷却制御を行うことができる。
【0024】
請求項12に記載の発明では、着座者情報検出手段は、着座者(7)の生理情報、動作情報、着座継続時間の少なくとも1つを着座者情報として検出することを特徴としている。着座者が疲労しているか否かは、このような着座者の生理情報、動作情報、着座継続時間に基づいて判定すると、正確な判定が可能である。
【0025】
請求項1、4、7、9に記載の発明において、請求項13に記載の発明のように、着座者情報検出手段は、着座者情報として着座者(7)から心拍信号を検出し、疲労判定手段(165、170)は、心拍信号に基づいて疲労度を算出すると良く、特に、請求項14に記載の発明のように、疲労判定手段(165、170)は、心拍信号から着座者(7)の通常時心拍数と現在の心拍数を算出し、現在の心拍数が通常時心拍数に比較して低下した割合を疲労度として算出するようにすると良い。心拍信号は着座者から比較的簡単に検出することができるため、このように、心拍信号に基づいて疲労度を算出すると、簡単に、しかも正確に疲労度を算出することが可能である。
【0026】
請求項15に記載の発明のように、本シート温度調節システムは、車室内に配設されている座席の温度調節に用いると特に有効である。このような車両の座席の着座者はある程度の時間継続して着座していることを強いられることが多く、特に運転席に着座している運転手は運転により疲労しやすいため、本発明のシート温度調節システムにより疲労軽減のためのシート温度調節を行うと、このような着座者の疲労を軽減したり、あるいは疲労の増加を抑制したりすることができる。
【0027】
【発明の実施の形態】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係るシート温度調節システムは、車両に搭載されて、運転席の温度を調節する。図1は、シート温度調節システム1の全体構成を示している。車両のステアリングホイール上には、運転席(シート)8に着座している乗員(着座者)7から心拍情報BSを検出するための金属電極2が組み込まれており、運転席8には、シートを加温するための電気ヒータ3が埋め込まれている。乗員7は、車室内に設けられた設定スイッチ6により、電気ヒータ3を「強」と「弱」との間で切り替えることができる。
【0028】
シート温度調節ECU4は、設定スイッチ6から乗員による設定に基づく設定温度TSETを示す信号を受け取り、さらにヒータ温度センサ5から電気ヒータ3の温度を示す信号HTを受け取って、通常は、設定温度TSETおよびヒータ温度HTに基づいて、ヒータ温度が設定温度TSETに調節されるように、電気ヒータ3をON/OFFする制御信号CTLを出力する。乗員が設定スイッチ6により「強」を選択した場合の設定温度TSETは例えば50℃であり、「弱」を選択した場合の設定温度TSETは例えば40℃である。また、電気ヒータ3が40℃のときのシート8の温度は33℃くらいである。
【0029】
シート温度調節ECU4は、さらに、金属電極2により検出した乗員の心拍情報BSに基づいて、乗員の疲労を検出し、乗員が疲労していると判断した場合には、上記通常の制御に優先させて、疲労度に基づく制御を行う。
【0030】
シート温度調節ECU4は、その内部に、図示しないCPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータを備えており、車両のイグニションスイッチ(図示せず)がONであるときに、車載バッテリ(図示せず)からの電力が供給されて作動するように構成されている。シート温度調節ECU4は、ROMに記憶されているプログラムを実行することにより、つぎのように動作する。
【0031】
乗員7が車両のイグニションスイッチをONにして、最初に運転を開始してから所定時間(例えば5分)が経過したら、その時点から所定時間(例えば10分)、乗員7の心拍信号BSを金属電極2により検出して、この10分間に得られた心拍情報から、乗員7の運転時の通常の心拍数BEATnを算出する。その後、継続して乗員7の心拍信号BSを検出して蓄積し、2分ごとに、蓄積した心拍情報から乗員7の現在の心拍数BEATcを算出する。この現在の心拍数BEATcが通常時の心拍数BEATnから低下している割合を乗員7の疲労度TDとして算出する。
【0032】
疲労度TDが所定値を超えているときには、乗員7は疲労していると判断して、疲労度TDの値に基づいて電気ヒータ3の目標温度および加温時間を決定し、決定した加温時間の間だけ目標温度での加温が一時的に実行されるように、電気ヒータ3に制御信号CTLを出力する。
【0033】
一方、疲労度TDが所定値未満であるときには、通常制御を実行し、これにより、ヒータ温度が乗員7による設定に応じた設定温度TSETに連続的に維持されるように、電気ヒータ3に制御信号CTLを出力する。
【0034】
図2は、シート温度調節ECU4により実行される処理の手順を示している。シート温度調節ECU4は、車両のイグニションスイッチがONにされると作動を開始し、まずステップ100でデータ処理用メモリ(RAM)の記憶内容などの初期化を行う。このとき、後のステップで用いる運転開始フラグSFおよび一時加温時間SDが0に初期化される。
【0035】
運転開始フラグSFは、車両のイグニションスイッチがONにされて、最初に運転が開始されると1に設定され、その後、イグニションスイッチがOFFにされてシート温度調節ECU4が作動を終了するまで、継続して1に設定されている。また、一時加温時間SDは、疲労度に基づいて一時的に加温を行う場合の加温継続時間を表しており、後のステップ180において設定される。
【0036】
つぎに、ステップ110で各種センサ信号およびスイッチ信号を読み込む。このとき、車速センサ(図示せず)からの車速信号SPD、設定スイッチ6からの設定温度信号TSET、ヒータ温度センサ5からのヒータ温度信号HTなどが読み込まれる。
【0037】
ステップ120では、電気ヒータ3の目標温度ST1を設定温度TSETに設定する。
【0038】
ステップ130で、条件「SF=0 & SPD>0」が満足されているか否か判定する。YESと判定した場合は、乗員7により運転が開始されたと判断して、ステップ135において、運転開始フラグSFを1に設定し、タイマDDをスタートさせる。タイマDDにより、イグニションスイッチがONにされてから最初に運転開始後、経過した時間を測定する。ステップ135の実行が終了したら、ステップ190に進む。
【0039】
ステップ130でNOと判定した場合は、ステップ140において、タイマDDが5分未満であるか否か判定する。YESと判定した場合は、ステップ190に進む。
【0040】
ステップ140においてNOと判定した場合は、ステップ145において、タイマDDが15分未満であるか否か判定する。YESと判定した場合は、ステップ150において通常時心拍数BEATnを検出し、その後、ステップ160に進む。ステップ150における通常時心拍数BEATnの検出処理の詳細は後述する。ステップ145においてNOと判定した場合は、ステップ150を迂回して、ステップ160に進む。
【0041】
ステップ160では、現在の心拍数BEATcを検出する。この処理の詳細については後述する。ステップ165では、通常時心拍数BEATnと現在心拍数BEATcに基づいて、乗員の疲労度TDを算出する。具体的には、乗員は疲労してくると心拍数が低下する傾向があるため、つぎのような式を用いて、通常時心拍数BEATnに対して現在心拍数BEATcが低下した割合を疲労度として算出する。
【0042】
【数1】
TD=(BEATn−BEATc)/BEATn
つぎに、ステップ170で、疲労度TDが第1所定値(例えば2%)未満であるか否か判定する。YESと判定した場合は、乗員は疲労していないと判断して、そのままステップ190に進む。
【0043】
ステップ170でNOと判定した場合は、ステップ180において、疲労度TDの値に基づいて、シート8を一時的に加温するためのヒータ目標温度ST1および加温時間SDを決定し、ステップ190に進む。ステップ180における処理の詳細は後述する。
【0044】
ステップ190では、ステップ120またはステップ180において設定された目標温度ST1、ステップ180において設定された加温時間SDに基づいて、電気ヒータ3に制御信号CTLを出力する。具体的には、一時加温時間SDが0より大きい場合には、この加温時間SDの間だけ電気ヒータ3を一時的に目標温度ST1に維持するように制御され、加温時間SDが終了すると加温を停止する。加温時間SDが0である場合は、電気ヒータ3を目標温度ST1に維持するように連続的に制御される。
【0045】
また、電気ヒータ3を目標温度ST1に制御する場合は、ヒータ温度HTが目標温度ST1より低いならば、制御信号CTLにより電気ヒータ3をONにし、ヒータ温度HTが目標温度ST1以上であるならば、制御信号CTLにより電気ヒータ3をOFFにする。
【0046】
ステップ190の実行後は、ステップ110に戻って、以下のステップが繰り返し実行される。ステップ160における現在心拍数BEATcの検出処理に2分ほどの時間を要するため、ステップ150における通常時心拍数の検出が実行された後は、つまり、乗員による運転が開始されてから15分ほど経過した後は、ステップ110〜190は、2分ほどの周期で実行されることになる。
【0047】
従って、乗員7の疲労が検出された場合(疲労度TDが2%以上である場合)には、疲労度TDが2%未満に軽減されるまで、2分ほどの周期で加温が断続的に繰り返されることになる。
【0048】
図3はステップ150において実行される通常時心拍数検出処理の手順を示している。まず、ステップ200においてタイマBDをスタートさせる。ステップ205において、金属電極2から乗員の心拍信号BSを読込み、記憶する。このとき、心拍信号BSは、所定の周波数(例えば100Hz以上)でサンプリングされ、さらに、例えば6〜30Hzのバンドパスフィルタで、フィルター処理が施されてから、記憶される。ステップ210において、タイマBDが10分を超えたか否か判定し、NOと判定した場合は、ステップ205に戻って、心拍信号の読込み・記憶を繰り返し実行する。このようにして、10分間の心拍信号を蓄積する。ただし、この場合、心拍信号を蓄積する時間は、10分に限らず、乗員の運転通常時の心拍数BEATnを正確に算出するのに必要なデータが得られるような時間に設定することができる。
【0049】
ステップ210でYESと判定した場合は、ステップ220において、10分間の心拍データから、通常時心拍数BEATnを算出する。具体的には、図4に示すように、所定の閾値を超えた波をR波とし、その時間間隔(心拍間隔)をRRIとしてRRIデータを算出する。算出したRRIデータから、心拍間隔RRIの平均値RRIavgを算出し、これを用いて運転通常時の平均心拍数BEATnを次の式により求める。
【0050】
【数2】
BEATn=60/RRIavg
ステップ220の実行を終了したら、メインルーチンに戻る。
【0051】
図5は、図2に示すステップ160において実行される現在心拍数検出処理の手順を示している。まず、ステップ300においてタイマBDをスタートさせる。ステップ305において、上記ステップ205と同様にして、金属電極2から乗員の心拍信号BSを読込み、記憶する。ステップ310において、タイマBDが2分を超えたか否か判定し、NOと判定した場合は、ステップ305に戻って、心拍信号BSの読込み・記憶を繰り返し実行する。このようにして、2分間の心拍信号BSを蓄積する。ただし、この場合、心拍信号BSを蓄積する時間は、2分に限らず、乗員の現在の心拍数BEATcを正確に算出するのに必要なデータが得られるような時間に設定することができる。
【0052】
ステップ310でYESと判定した場合は、ステップ320において、2分間の心拍データから、上記ステップ220と同様にして、現在心拍数BEATcを算出する。ステップ320の実行を終了したら、メインルーチンに戻る。
【0053】
図6は、図2に示すステップ180において実行される疲労度TDに基づく目標温度ST1および加温時間SDの決定処理の手順を示している。まず、ステップ400において疲労度TDが第2所定値(例えば5%)以上であるか否か判定する。NOと判定した場合には、つまり疲労度TDが2%以上5%未満である場合には、疲労は少ないと判断して、ステップ410において、シート温度が人間の皮膚温度と同じ程度の温度(例えば34℃)になるようにヒータ目標温度ST1を例えば41℃に設定する。また、ステップ420において、加温時間SDを比較的短く、例えば10秒に設定する。その後、メインルーチンに戻る。
【0054】
一方、ステップ400においてYESと判定した場合は、ステップ430において、疲労度TDが、第2所定値(5%)より大きい所定値(例えば10%)以上であるか否か判定する。NOと判定した場合は、つまり、疲労度TDが5%以上10%未満である場合は、疲労は中程度であると判断して、ステップ440において、シート温度が人間の皮膚温度より少し高めの温度(例えば35℃)になるように、ヒータ目標温度ST1を例えば42℃に設定する。また、ステップ450において、加温時間SDを少し長く、例えば20秒に設定する。その後、メインルーチンに戻る。
【0055】
ステップ430においてYESと判定した場合は、つまり疲労度TDが10%以上である場合は、疲労が大きいと判断して、ステップ460において、シート温度がさらに高い温度(例えば37℃)になるように、ヒータ目標温度ST1を例えば44℃に設定する。またステップ470において、加温時間SDをさらに長く、例えば30秒に設定する。その後、メインルーチンに戻る。
【0056】
このようにして、疲労度TDが2%未満である場合は、電気ヒータ3は乗員7による設定温度TSETを目標温度として連続的に制御され、疲労度TDが2%以上5%未満である間は、41℃を目標温度とした10秒の加温が2分ほどの周期で断続的に繰り返される。疲労度TDが5%以上10%未満である間は、42℃を目標温度とした20秒の加温が2分ほどの周期で断続的に繰り返され、疲労度TDが10%以上である間は、44℃を目標温度とした30秒の加温が2分ほどの周期で断続的に繰り返される。
【0057】
このように、本実施形態のシート温度調節システムでは、乗員7の疲労が検出されたときには、電気ヒータ3によりシート8の加温を行うため、乗員7の血管を刺激して拡張させ、血液の流れを促進させることができる。これにより、乗員7の疲労が軽減されたり、あるいは疲労の増加が抑制されたりする。また、疲労が検出された場合のシート8の加温は、疲労度に応じた適切な目標温度、加温時間で行うため、必要以上の加温を行うことにより乗員が不快に感じたり熱く感じたりすることを回避できる。
【0058】
また、心拍信号は脳波などのような他の生理情報に比較して簡単に検出することができるため、上記のように、通常時心拍数BAETnに対する現在心拍数BEATcの低下した割合を乗員の疲労度TDとして用いると、比較的に簡単に、しかも正確に疲労度を算出することができる。
【0059】
本実施形態における金属電極2は本発明の着座者情報検出手段に対応しており、電気ヒータ3は本発明の加温手段に対応している。また、ステップ150および160は、本発明の着座者情報検出手段に対応しており、ステップ165および170は、本発明の疲労判定手段に対応しており、ステップ180および190は、本発明の加温制御手段に対応している。本実施形態における加温時間SDは本発明の所定継続時間に対応している。ステップ170において用いる第1所定値は本発明の第1所定値および第3所定値に対応しており、ステップ400において用いる第2所定値は本発明の第2所定値および第4所定値に対応している。
【0060】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係るシート温度調節システムは、上記第1実施形態と同様、車両に搭載されて、運転席の温度を調節する。図7は、本実施形態のシート温度調節システム30の全体構成を示している。車両のステアリングホイール上には、運転席8の乗員7から心拍情報を検出するための金属電極2が組み込まれており、運転席(シート)8には、その着座部および背当て部に複数のエア吹出孔40が形成されている。
【0061】
これらのエア吹出孔40は、着座部内部に形成された連通路41ならびに背当て部内部に形成された連通路42にそれぞれ連通しており、連通路41、42はエア供給管43を介して、シート加温・冷却装置37の吹出口44に接続されている。
【0062】
シート加温・冷却装置37は、その吹出口44からシート8へ温風または冷風を供給することにより、シート8の空調を行う。シート加温・冷却装置37は、電動ファン38と加温・冷却部39とを備えており、加温・冷却部39は、ペルチェ効果による熱の発生・吸収を利用した素子により構成されている。
【0063】
乗員7は車室内に設けられた設定スイッチ6により、例えば、「暖房」3レベル、「中立」、「冷房」3レベルの間で、シート加温・冷却装置37によるシート空調の温度設定を切り替えることができる。
【0064】
シート温度調節ECU34は、設定スイッチ6から乗員による設定に基づく設定温度TSETを示す信号を受け取り、さらにシート8に埋め込まれたシート温度センサ35からシート温度ASTを示す信号を受け取って、通常は、設定温度TSETおよびシート温度ASTに基づいて、シート8が設定温度TSETに調節されるように、シート加温・冷却装置37に制御信号CTL1、CTL2を出力する。乗員7が設定スイッチ6により「中立」を選択した場合の設定温度TSETは、例えば34℃である。「暖房」を選択した場合はこれより高い温度に設定され、「冷房」を選択した場合はこれより低い温度に設定される。
【0065】
さらに、シート温度調節ECU34は、金属電極2により検出した乗員の心拍情報に基づいて、乗員の疲労を検出し、乗員が疲労していると判断した場合には、上記通常の制御に優先させて、疲労度に基づく制御を行う。
【0066】
シート温度調節ECU34は、その内部に、図示しないCPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータを備えており、車両のイグニションスイッチ(図示せず)がONであるときに、車載バッテリ(図示せず)からの電力が供給されて作動するように構成されている。シート温度調節ECU34は、ROMに記憶されているプログラムを実行することにより、つぎのように動作する。
【0067】
まず、上記第1実施形態と同様の方法により、金属電極2により検出した乗員の心拍情報に基づいて乗員の疲労度TDを算出する。疲労度TDが所定値未満であるときには、通常制御を実行し、これにより、設定温度TSETに基づいて、加温・冷却装置37の吹出口44から吹き出す空気の目標吹出温度(目標温度)および風量を決定し、この目標吹出温度および風量で連続的に吹き出しが行われるように、電動ファン38および加温・冷却部39にそれぞれ制御信号CTL1、CTL2を出力する。
【0068】
一方、疲労度TDが所定値を超えているときには、乗員7は疲労していると判断して、疲労度TDに応じて決定される設定温度に基づいて目標吹出温度および風量を決定し、さらに加温時間を決定する。そして、決定した加温時間の間だけ目標吹出温度での加温が一時的に実行されるように、電動ファン38および加温・冷却部39にそれぞれ制御信号CTL1、CTL2を出力する。
【0069】
但し、この場合、疲労度TDに応じた設定温度より乗員7により設定された設定温度TSETの方が高い場合には、乗員7による設定温度TSETに基づく通常制御により、連続的な空気の吹き出しが行われるように制御される。また、吹き出される空気が冷風になる場合、つまり疲労度TDに応じた設定温度または乗員7による設定温度TSETのうち高い方(低くない方)がシート温度ASTより低い場合には、空気の吹き出しが停止される。
【0070】
図8は、シート温度調節ECU34により実行される処理の手順を示している。シート温度調節ECU34は、車両のイグニションスイッチがONにされると作動を開始し、まずステップ105でデータ処理用メモリ(RAM)の記憶内容などの初期化を行う。このとき、後のステップで用いる運転開始フラグSFおよび一時加温時間SDが0に初期化される。運転開始フラグSFは、上記第1実施形態と同様に設定されて用いられる。また、一時加温時間SDは、疲労度に基づいて一時的に温風を吹き出すことにより加温を行う場合の加温継続時間を表しており、後のステップ185において設定される。
【0071】
つぎに、ステップ115で、各種センサ信号およびスイッチ信号を読み込む。このとき、車速センサ(図示せず)からの車速信号SPD、シート温度センサ35からのシート温度信号AST、設定スイッチ6からの設定温度信号TSETなどが読み込まれる。
【0072】
ステップ125では、設定温度TSETに基づき、目標吹出温度ST2および風量SBを決定する。具体的には、設定温度TSETとシート温度ASTに基づいて、シート温度を設定温度TSETに近づけるため必要な吹出温度が目標吹出温度ST2として算出される。
【0073】
つぎに、ステップ135〜170を上記第1実施形態と同様に実行する。但し、ステップ135の実行終了後はステップ195に進む。ステップ140においてYESと判定した場合およびステップ170においてYESと判定した場合にも、ステップ195に進む。また、ステップ170でNOと判定した場合は、ステップ185に進む。
【0074】
ステップ185では、疲労度TDの値に基づいて、目標吹出温度ST2、風量SB、および加温時間SDを決定し、その後ステップ195に進む。ステップ185における処理の詳細は後述する。
【0075】
ステップ195では、ステップ125あるいはステップ185において決定した目標吹出温度ST2および風量SB、ステップ185において決定した加温時間SDに基づいて、電動ファン38および加温・冷却部39に制御信号CTL1、CTL2をそれぞれ出力する。具体的には、加温時間SDが0より大きい場合には、加温時間SDの間だけ目標温度ST2および風量SBでの空気の吹き出しが一時的に行われ、その後、空気の吹き出しが停止されるように、制御信号CTL1、CTL2が出力される。加温時間SDが0である場合は、目標吹出温度ST2および風量SBでの吹き出しが連続的に行われるように、制御信号CTL1、CTL2が出力される。
【0076】
ステップ195の実行後は、ステップ115に戻って、以下のステップが繰り返し実行され、実際には、ステップ150における通常時心拍数BEATn検出処理の実行後は、ステップ115〜195が2分ほどの周期で実行されることになる。
【0077】
図9および10は、ステップ185において実行される疲労度TDに基づく目標吹出温度ST2、風量SBおよび加温時間SDの決定処理の手順を示している。まず、ステップ610において、疲労度TDが5%以上であるか否か判定する。NOと判定した場合は、つまり疲労度TDが2%以上5%未満である場合は、ステップ612において、設定温度TSETと34℃のうち高い方(低くない方)がシート温度ASTより低いか否か判定する。YESと判定した場合は、ステップ613において風量SBを空気の吹き出しを行わないLEVEL0に設定して、メインルーチンに戻る。
【0078】
ステップ612においてNOと判定した場合は、ステップ614において、設定温度TSETが34℃以下であるか否か判定する。NOと判定した場合はメインルーチンに戻る。
【0079】
ステップ614においてYESと判定した場合は、ステップ620において、34℃を設定温度として目標吹出温度ST2を算出し、ステップ625において、風量SBを最低風量であるLEVEL1に設定する。さらにステップ630において、加温時間SDを10秒に設定する。その後、メインルーチンに戻る。
【0080】
一方、ステップ610においてYESと判定した場合は、ステップ635において疲労度TDが10%以上であるか否か判定する。NOと判定した場合は、つまり疲労度TDが5%以上10%未満である場合は、ステップ637において、設定温度TSETと35℃のうち高い方(低くない方)がシート温度ASTより低いか否か判定する。YESと判定した場合は、ステップ638において風量SBをLEVEL0に設定して、メインルーチンに戻る。
【0081】
ステップ637においてNOと判定した場合は、ステップ639において、設定温度TSETが35℃以下であるか否か判定する。NOと判定した場合はメインルーチンに戻る。
【0082】
ステップ639においてYESと判定した場合は、ステップ640において、設定温度を35℃として目標吹出温度ST2を算出し、ステップ645において、風量SBをLEVEL1より一段階高いLEVEL2に設定する。さらに、ステップ650において、加温時間SDを20秒に設定する。その後、メインルーチンに戻る。
【0083】
ステップ635においてYESと判定した場合は、つまり疲労度TDが10%以上である場合は、ステップ652において、設定温度TSETと37℃のうち高い方(低くない方)がシート温度ASTより低いか否か判定する。YESと判定した場合は、ステップ653において風量SBをLEVEL0に設定して、メインルーチンに戻る。
【0084】
ステップ652においてNOと判定した場合は、ステップ654において、設定温度TSETが37℃以下であるか否か判定する。NOと判定した場合はメインルーチンに戻る。
【0085】
ステップ654においてYESと判定した場合は、ステップ655において、設定温度と37℃として目標吹出温度ST2を算出し、ステップ660において、風量SBをLEVEL2より一段階高いLEVEL3に設定する。さらに、ステップ665において、加温時間SDを30秒に設定する。その後、メインルーチンに戻る。
【0086】
このようにして、乗員7の疲労度TDが2%以上である場合には疲労度TDの値に応じた設定温度に基づいて目標吹出温度ST2および風量SBを設定し、この目標吹出温度ST2および風量SBで所定時間SDだけ空気が吹き出され、所定時間経過後は空気の吹き出しが停止されるように制御される。実際には、疲労度TDが2%未満に下がるまで、2分ほどの周期で、空気の吹き出しが断続的に繰り返される。
【0087】
但し、乗員7の疲労度TDが2%以上である場合でも、乗員による設定温度TSETが疲労度TDの値に応じた設定温度より高い場合には、乗員による設定温度TSETに基づく通常の制御が実行される。
【0088】
また、目標吹出温度ST2の算出に用いられる設定温度、つまり乗員による設定温度TSETと疲労度TDの値に応じた設定温度のうち高い方(低くない方)がシート温度ASTより低い場合には、シート8を冷却するための冷風が吹き出されることになるため、この場合は風量SBをLEVEL0に設定することにより、冷風の吹き出しを停止させる。冷風の吹き出しは、疲労度TDが2%未満に軽減されるまで連続的に停止される。このようにして、冷風により乗員7の体が冷えて血液の流れが悪くなるようなことを回避できる。
【0089】
このように、本実施形態のシート温度調節システムにおいては、運転席8に着座している乗員7の疲労が検出されたときには、シート加温・冷却装置37によりシート8から乗員7に対して冷風ではない空気の吹き出しを行うため、乗員の血管を拡張させ、血液の流れを促進させることができる。これにより、乗員の疲労が軽減されたり、あるいは疲労の増加が抑制されたりする。また、この場合の空気の吹き出しは、疲労度TDに応じた適切な吹出温度、加温時間で行うため、必要以上に高い温度や長い時間での吹き出しを行うことにより乗員が熱く感じたり不快に感じたりすることを回避できる。
【0090】
本実施形態におけるシート加温・冷却装置37は、本発明の加温手段および冷却手段に対応している。本実施形態におけるステップ185および195は、本発明の加温制御手段および冷却制御手段に対応している。
【0091】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態に限定されることなく、つぎのように種々の変形が可能である。
【0092】
上記実施形態では、乗員からの心拍信号をステアリングホイール上に組み込まれた金属電極により検出したが、乗員に金属電極を直接装着して、この電極により心拍信号を検出してもよく、また、電極は金属電極に限らず、導電性のものであればよく、例えばジェル状の導電性物質の電極などであってもよい。さらに、乗員の心拍信号は、シート内に組み込んだ超音波センサや加速度センサなどにより検出してもよい。
【0093】
上記実施形態では、乗員の心拍数の低下に基づいて疲労を検出したが、心拍間隔の減少や心拍波形における振幅の減少に基づいて疲労を検出してもよい。また、心拍情報ではなく、その他の生理情報に基づいて疲労を検出してもよい。例えば、脳波情報、血圧情報、皮膚電気活動情報、眼球情報(瞬き、視線など)などの生体信号や、分泌物(汗,唾液などの生体物質)に関する情報に基づいて疲労を検出することができる。乗員が疲労している場合には、脳波におけるα波の増加、血圧の上昇などがみられ、さらに皮膚の電位差は0に近づき、目の開きや瞬きが少なくなったり、視線の動きがゆるやかになったりする。さらに、汗の分泌が減少し、唾液内のコルチゾールが減少する。
【0094】
また、生理情報ではなく、乗員の動作情報や着座時間情報(着座継続時間)などに基づいて疲労を検出してもよい。乗員が疲労している場合には、上体を前後左右に動かしたり、腰をうかすなどの動作が見られるため、このような動作が検出された場合には、乗員が疲労していると判定することができる。着座時間情報に基づいて疲労を検出する場合は、例えば、着座継続時間が1時間を超えたら乗員は疲労していると判断することができる。その後、着座継続時間が所定値(例えば2時間)を超えたら、さらに疲労度が増加したと判断してもよい。
【0095】
さらに、より正確に乗員の疲労度を算出するために、上記のような生理情報、動作情報、着座時間情報を組み合わせて用いてもよい。
【0096】
上記第1実施形態では、運転席の加温手段として電気ヒータを用いたが、これに限らず、運転席への温風送風装置を用いてもよく、また化学変化により発熱する媒体を利用した加温装置を用いてもよい。温風送風装置は、上記第2実施形態における加温・冷却装置の加温・冷却部を、加温のみ行う加温部で置き換えた装置によって実現することができる。加温手段として温風送風装置を用いる場合、疲労度に応じて加温するときには、疲労度に応じた設定温度に基づいて算出された目標吹出温度の温風を、疲労度に応じて決定された加温時間だけ吹き出すことにより加温し、加温が終了したら、温風を停止させてもよいし、あるいは送風に切り替えてもよい。
【0097】
上記第1実施形態では、乗員7の疲労が検出された場合には、ユーザによる設定が「弱」であるか「強」であるかに拘わらず、疲労度TDに基づいて目標温度ST1を設定したが、ユーザによる設定が「強」である場合は、疲労が検出された場合でも、目標温度ST1は設定温度TSET(50℃)に設定してもよい。また、ユーザによる設定が「強」である場合は、このように目標温度ST1を50℃に設定するだけでなく、疲労が検出された場合でも「強」に設定されている場合の通常制御を行って、ヒータ目標温度を50℃とした連続的な加温を行うようにしてもよい。
【0098】
上記第2実施形態では、疲労度に応じて算出された吹出温度で所定時間空気の吹き出しを行う場合には、所定時間経過後は空気の吹き出しを停止させたが、所定時間経過後は乗員による設定温度に基づいて算出した目標吹出温度での吹き出しを行うようにしてもよい。また、上記第2実施形態では、目標吹出温度での吹き出しを行うと冷風が吹き出されるような場合は、この冷風の吹き出しを連続的に停止させたが、所定時間だけ冷風の吹き出しを停止させて、所定時間経過後は乗員による設定温度に基づいて算出した目標吹出温度あるいは疲労度に応じて算出された目標吹出温度での吹き出しを行うようにしてもよい。
【0099】
上記実施形態では、乗員の疲労が検出された場合に、疲労度に応じた設定温度に基づいて算出された一定の目標温度(あるいは目標吹出温度)での加温を所定時間行ったが、目標温度にゆらぎをもたせてもよい。例えば、第2実施形態において、疲労度がTDが2%以上5%未満である場合に、図11に示すように、10秒の加温時間の間に吹出温度をST2±0.3℃の範囲内でゆらがせることができる。また、上記実施形態では、疲労が検出されてから疲労が2%未満に軽減されるまでの間は、2分ほどの周期で加温が断続的に繰り返されることになるが、この場合の加温時間と加温休止時間を所定の範囲でゆらがせるようにしてもよい。このように加温の温度や加温時間にゆらぎをもたせると、乗員は不快感を覚えにくい。
【0100】
上記実施形態では、乗員の疲労が検出されると、疲労度TDが2%未満に軽減されるまで、電気ヒータ3による加温あるいはシート加温・冷却装置37による空気の吹き出しが断続的に行われたが、これを連続的に行うようにしてもよい。
【0101】
上記実施形態では、疲労度TDを「2%以上5%未満」「5%以上10%未満」「10%以上」の3段階の範囲に分けて疲労度TDに基づく制御を行ったが、これと異なる範囲に区切ってもよく、また3段階に限らず、2段階や4段階以上に区切ってもよい。また、疲労が検出された場合の疲労度TDの範囲を1段階として、つまり、疲労が検出された場合(例えば疲労度TDが2%以上)と疲労が検出されない場合(疲労度TDが2%未満)のみ区別して、疲労が検出された場合は疲労度TDの値に拘わらず同様の制御を行うようにしてもよい。
【0102】
また、上記実施形態では、乗員7の疲労を検出した場合の目標温度(あるいは目標吹出温度)と加温時間を、同じ3段階の疲労度範囲に対してそれぞれ設定したが、例えば、疲労度TDが2%以上5%未満のとき、および5%以上10%未満のときはいずれも加温時間を15秒に設定するなど、目標温度と加温時間を異なる区切りで区切った疲労度範囲に対して設定するようにしてもよい。
【0103】
上記第2実施形態では、設定温度がシート温度より低い場合に吹き出される空気を冷風として、乗員7の疲労が検出された場合にはこれを停止したが、目標吹出温度ST2が25℃未満である場合に吹き出される空気を冷風として、このような場合には風量SBをLEVEL0に設定することにより、空気の吹き出しを停止するようにしてもよい。
【0104】
上記第2実施形態では、ステップ135およびステップ185において、加温・冷却装置37からの空気の目標吹出温度ST2をシート温度ASTと設定温度に基づいて決定したが、さらにシートの周囲の空気温度などを加味して決定するようにしてもよい。
【0105】
上記第2実施形態では、加温・冷却装置37の加温・冷却部39はペルチェ効果による熱の発生・吸収を利用した素子を用いて構成されていたが、熱電変換機能を有する熱電素子により構成されていてもよく、また、電子冷却素子により構成されていてもよい。
【0106】
上記実施形態において、シート温度調節のための制御は専用のシート温度制御ECUにより実行したが、エアコンECUなどにより実行するようにしてもよい。
【0107】
上記実施形態では、車両の運転席の温度調節を疲労度に応じて行ったが、助手席の温度調節も疲労度に応じて行うようにしてもよい。あるいは、疲労度に応じたシート温度調節は助手席のみとし、運転席は着座者の眠気を覚ますための制御を行うようにしてもよい。また、後部座席の温度調節を疲労度に応じて行ってもよく、後部座席に主に人が着座するような車両においては、後部座席のみ疲労度に応じた温度調節を行ってもよい。
【0108】
上記実施形態では、本発明を車両の座席の温度調節システムに適用したが、これに限らず、飛行機の座席や、歯科の椅子、床屋の椅子など、着座者が自由に立ち上ることができない状況で着座するシート、あるいは作業場や家庭での事務椅子、家庭用リクライニングシートなど、さまざまなシートのための温度調節システムに本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態に係るシート温度調節システムの全体構成図である。
【図2】シート温度調節ECUにより実行される制御処理のメインルーチンのフローチャートである。
【図3】図2に示すステップ150において実行される通常時心拍数検出処理のフローチャートである。
【図4】心拍信号の時間間隔(RRI)を示す説明図である。
【図5】図2に示すステップ160において実行される現在心拍数検出処理のフローチャートである。
【図6】図2に示すステップ180において実行される疲労度に基づく目標温度および加温時間決定処理のフローチャートである。
【図7】本発明の第2実施形態に係るシート温度調節システムの全体構成図である。
【図8】シート温度調節ECUにより実行される制御処理のメインルーチンのフローチャートである。
【図9】図8に示すステップ185において実行される疲労度に基づく目標吹出温度、風量および加温時間決定処理の前半部分のフローチャートである。
【図10】図8に示すステップ185において実行される疲労度に基づく目標吹出温度、風量および加温時間決定処理の後半部分のフローチャートである。
【図11】シート加温・冷却装置から吹き出す空気の吹出温度にゆらぎを与える場合の目標吹出温度の変化を示す図である。
【符号の説明】
2 金属電極(着座者情報検出手段)
3 電気ヒータ(加温手段)
7 乗員(着座者)
8 運転席(シート)
37 シート加温・冷却装置(加温手段・冷却手段)
Claims (15)
- シート(8)を加温する加温手段(3、37)と、
前記シート(8)に着座している着座者(7)に関する着座者情報を検出する着座者情報検出手段(2、150、160)と、
前記着座者情報に基づいて前記着座者(7)の疲労の程度を示す疲労度を算出し、前記疲労度を基準として前記着座者(7)が疲労しているか否かを判定する疲労判定手段(165、170)と、
前記疲労判定手段(165、170)による判定結果に基づいて前記加温手段(3、37)による加温を制御する加温制御手段(180、185、190、195)とを備え、
前記加温制御手段(180、185、190、195)は、前記疲労判定手段(165、170)による前記判定結果としての前記疲労度が第1所定値以上第2所定値未満である場合は、前記シート(8)の目標温度を第1所定温度に設定し、前記疲労度が第2所定値以上である場合は、前記目標温度を前記第1所定温度より高い第2所定温度に設定して、前記シート(8)が前記目標温度に近づくように前記加温手段(3、37)による加温を制御することを特徴とするシート温度調節システム。 - 前記第1所定温度は、人間の皮膚温度に近い温度であることを特徴とする請求項1記載のシート温度調節システム。
- 前記加温制御手段(180、185、190、195)は、前記疲労度が第3所定値以上第4所定値未満である場合は、所定継続時間として第1所定時間に設定し、前記疲労度が第4所定値以上である場合は、前記所定継続時間として前記第1所定時間より長い第2所定時間に設定し、前記疲労判定手段(165、170)により前記着座者(7)が疲労していると判定されたら、前記所定継続時間だけ、前記シート(8)が前記疲労度に基づいて決定した前記目標温度に近づくよう前記加温手段(3、37)による加温を制御することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のシート温度調節システム。
- シート(8)を加温する加温手段(3、37)と、
前記シート(8)に着座している着座者(7)に関する着座者情報を検出する着座者情報検出手段(2、150、160)と、
前記着座者情報に基づいて前記着座者(7)の疲労の程度を示す疲労度を算出し、前記疲労度を基準として前記着座者(7)が疲労しているか否かを判定する疲労判定手段(165、170)と、
前記疲労判定手段(165、170)による判定結果に基づいて前記加温手段(3、37)による加温を制御する加温制御手段(180、185、190、195)とを備え、
前記加温制御手段(180、185、190、195)は、前記疲労度が第3所定値以上第4所定値未満である場合は、所定継続時間として第1所定時間に設定し、前記疲労度が第4所定値以上である場合は、前記所定継続時間として前記第1所定時間より長い第2所定時間に設定し、前記疲労判定手段(165、170)により前記着座者(7)が疲労していると判定されたら、前記加温手段(3、37)に前記シート(8)を前記所定継続時間だけ加温させることを特徴とするシート温度調節システム。 - シート(8)を加温する加温手段(3、37)と、
前記シート(8)に着座している着座者(7)に関する着座者情報を検出する着座者情報検出手段(2、150、160)と、
前記着座者情報に基づいて前記着座者(7)が疲労しているか否かを判定する疲労判定手段(165、170)と、
前記疲労判定手段(165、170)による判定結果に基づいて前記加温手段(3、37)による加温を制御する加温制御手段(180、185、190、195)と、
前記シート(8)を冷却する冷却手段(37)と、
前記疲労判定手段(165、170)による判定結果に基づいて前記冷却手段(37)による冷却を制御する冷却制御手段(185、195)とを備え、
前記冷却制御手段(185、195)は、前記疲労判定手段(165、170)により 前記着座者(7)が疲労していると判定されたら、前記冷却手段(37)による前記シート(8)の冷却を停止させることを特徴とするシート温度調節システム。 - 前記冷却制御手段(185、195)は、前記疲労判定手段(165、170)により前記着座者(7)が疲労していると判定されたら、前記冷却手段(37)による前記シート(8)の冷却を所定継続時間だけ停止させることを特徴とする請求項5記載のシート温度調節システム。
- 前記疲労判定手段(165、170)は、前記着座者(7)が疲労しているか否かを判定する基準として、前記着座者情報に基づいて前記着座者(7)の疲労の程度を示す疲労度を算出し、
前記冷却制御手段(185、195)は、前記所定継続時間を前記疲労度に基づいて決定することを特徴とする請求項6記載のシート温度調節システム。 - 前記冷却制御手段(185、195)は、前記疲労度が第3所定値以上第4所定値未満である場合は、前記所定継続時間を第1所定時間に設定し、前記疲労度が第4所定値以上である場合は、前記所定継続時間を前記第1所定時間より長い第2所定時間に設定することを特徴とする請求項7記載のシート温度調節システム。
- 前記疲労判定手段(165、170)は、前記着座者(7)が疲労しているか否かを判定する基準として、前記着座者情報に基づいて前記着座者(7)の疲労の程度を示す疲労度を算出し、
前記冷却制御手段(185、195)は、前記疲労判定手段(165、170)による前記判定結果としての前記疲労度が第1所定値以上第2所定値未満である場合は、前記シート(8)の目標温度を第1所定温度に設定し、前記疲労度が第2所定値以上である場合は、前記目標温度を前記第1所定温度より高い第2所定温度に設定して、前記シート(8)が前記目標温度に近づくように前記冷却手段(37)による冷却を制御することを特徴とする請求項5記載のシート温度調節システム。 - 前記第1所定温度は、人間の皮膚温度に近い温度であることを特徴とする請求項9記載のシート温度調節システム。
- 前記冷却制御手段(185、195)は、前記疲労判定手段(165、170)により前記着座者(7)が疲労していると判定されたら、前記疲労度が第3所定値以上第4所定値未満である場合は、所定継続時間として第1所定時間に設定し、前記疲労度が第4所定値以上である場合は、前記所定継続時間として前記第1所定時間より長い第2所定時間に設定し、前記所定継続時間だけ、前記シート(8)が前記疲労度に基づいて決定した前記目標温度に近づくように前記冷却手段(37)による冷却を制御することを特徴とする請求項9または請求項10に記載のシート温度調節システム。
- 前記着座者情報検出手段は、前記着座者(7)の生理情報、動作情報、着座継続時間の少なくとも1つを前記着座者情報として検出することを特徴とする請求項1ないし11のいずれか1項に記載のシート温度調節システム。
- 前記着座者情報検出手段は、前記着座者情報として前記着座者(7)から心拍信号を検出し、
前記疲労判定手段(165、170)は、前記心拍信号に基づいて前記疲労度を算出することを特徴とする請求項1、4、7、9のいずれか1項に記載のシート温度調節システム。 - 前記疲労判定手段(165、170)は、前記心拍信号から前記着座者(7)の通常時心拍数と現在の心拍数を算出し、前記現在の心拍数が前記通常時心拍数に比較して低下した割合を前記疲労度として算出することを特徴とする請求項13記載のシート温度調節システム。
- 前記シート(8)は車室内に配設されている座席であることを特徴とする請求項1ないし14のいずれか1項に記載のシート温度調節システム。
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