JP3841993B2 - 収差補正光学素子とピックアップ装置及び情報再生装置並びに情報記録装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば光ディスクなどの情報記録媒体に対して情報記録又は情報再生を行う際に収差補正を行う収差補正光学素子と、その収差補正光学素子を備えたピックアップ装置並びに情報記録再生装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
光学的に情報記録又は情報再生が行われる情報記録媒体として、CD(Compact disk)、DVD(Digital Video Disk又はDigital Versatile Disk)等の光ディスクが知られており、再生専用の光ディスク、情報を追記録することが可能な追記型光ディスク、情報の消去及び再記録が可能な書換え型光ディスク等、種類の異なる光ディスクが開発されている。
【0003】
また、光ディスクの高密度化と、その高密度化に対応するピックアップ装置と情報記録再生装置の研究開発が進められると共に、種類の異なる光ディスクを利用することが可能ないわゆる互換性を有したピックアップ装置と情報記録再生装置の研究開発も進められている。
【0004】
この光ディスクの高密度化に対応するため、ピックアップ装置に備えられている対物レンズの開口数(numerical aperture:NA)を大きくすることにより、照射径の小さな光ビームを光ディスクに照射することが考えられている。また、短波長の光ビームを用いることで、高密度化に対応することが考えられている。
【0005】
ところが、対物レンズの開口数NAを大きくしたり短波長の光ビームを用いると、光ディスクによる光ビームへの収差の影響が大きくなり、情報記録と情報再生の精度を向上させることが困難になるという問題が生じる。
【0006】
例えば、対物レンズの開口数NAを大きくすると、光ディスクに対する光ビームの入射角度範囲が広くなるため、入射角度に依存した量である複屈折量の光ディスク瞳面での分布幅も大きくなる。このため、この複屈折に起因する球面収差の影響が大きくなるという問題を生じる。また、対物レンズの開口数NAを大きくして短波長の光ビームを用いると、情報記録又は情報再生の際に光ディスクが傾いて、光ディスクの法線方向に対する光ビームの入射角度(チルト角)が傾いた場合に、コマ収差の影響が無視できなくなる。
【0007】
また、光ディスクは、CDとDVDのように種類によって構造と記録密度が異なるため、上記の球面収差やコマ収差などの収差の影響が光ディスクの種類に応じて異なることになり、互換性を有するピックアップ装置と情報記録再生装置の開発が困難になる。
【0008】
こうした収差の影響を低減するため、従来、収差補正用の液晶ユニットを備えたピックアップ装置が提案されている(特開平10−20263号公報)。
【0009】
この液晶ユニットは、図14に模式的に示すように、互いに対向する透明電極A,B間に液晶素子Cを挟んだ構造を有し、透明電極A,B間の印加電圧を調節することで液晶素子Cの配向状態を変化させ、一方の透明電極A(又はB)側に入射する光が液晶素子C中を通る際に、その光に対して配向状態に応じた複屈折変化を与えて他方の透明電極B(又はA)側へ射出するようになっている。
【0010】
更に、透明電極A,Bの少なくとも一方は、例えば、複数の透明電極a1,a2,a3とb1,b2,b3に分割して形成され、また透明電極a1,a2,a3同士が電気的に分離されると共に、透明電極b1,b2,b3同士も電気的に分離されている。
【0011】
このため、互いに正対関係にある透明電極間、例えば透明電極a1,b1間と、透明電極a2,b2間と、透明電極a3,b3間に、それぞれ異なった電圧を印加すると、液晶素子Cを複数の異なった配向状態に調節することができ、入射する光に対してそれぞれの配向状態に応じた複屈折変化を同時に与えるようになっている。
【0012】
そして、この液晶ユニットは、レーザ光を射出する光源と対物レンズ間の光路中に配置されている。光源からレーザ光が射出されると、液晶ユニットがそのレーザ光に上記の複数の配向状態に応じた複屈折変化を与えて対物レンズ側へ透過し、透過したレーザ光を対物レンズが収束することで光ビームを生成して光ディスクに照射するようになっている。また、光ディスクへの上記光ビームの照射によって生じる反射光が対物レンズを介して液晶ユニットに入射すると、その反射光に上記の複数の配向状態に応じた複屈折変化を与えて透過し、その透過した反射光を光検出器によって検出させるようになっている。そして、液晶ユニットの上記複数の配向状態を適宜に調節することで、球面収差やコマ収差などの収差の影響を低減するようにしている。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記従来の液晶ユニットは、上記複数の透明電極a1,a2,a3とb1,b2,b3をそれぞれ電気的に分離するために、図14に示すように、それぞれの透明電極の間には電気的絶縁のための隙間SPが設けられている。つまり、透明電極a1,a2,a3のそれぞれの境界部分に沿って隙間SPが設けられると共に、透明電極b1,b2,b3のそれぞれの境界部分に沿って隙間SPが設けられている。
【0014】
このため、これらの隙間SPには電圧が印加されず、したがって、これらの隙間SPに対応する液晶素子C中の配向状態を制御できない構造となっている。この結果、透明電極a1,a2,a3とb1,b2,b3を通る光ビーム或いは反射光に対しては収差補正を行うことができるのに対し、隙間SP分を通る光ビーム或いは反射光に対しては収差補正を行うことができず、このため、光ビーム或いは反射光に対して全体的に精度の良い収差補正を施すことができない場合が生じていた。
【0015】
また、収差の影響を細かく補正しようとして透明電極の分割数を増やそうとすると、レーザ光或いは反射光が通過する限られた有効光路範囲内に多くの透明電極を電気的に絶縁して形成することになるため、上記の隙間SPの数と占有面積も多くなって、結果的に細かな収差補正が困難になるという問題があった。
【0016】
また、互いに隣り合う透明電極にそれぞれ異なった電圧を印加すると、それらの隙間SPに対応する液晶素子C中の配向状態が急峻な不連続状態になるという問題もあった。
【0017】
本発明は、こうした従来技術の課題を克服するためになされたものであり、情報記録媒体による収差の影響を精度よく補正することを可能にする収差補正光学素子と、ピックアップ装置並びに情報記録再生装置を提供することを目的とする。
【0018】
また、情報記録媒体の高密度化に伴う収差の影響を精度よく補正することを可能にする収差補正光学素子と、ピックアップ装置並びに情報記録再生装置を提供することを目的とする。
【0019】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明は、光源と、前記光源から射出される光を情報記録媒体に照射する光学素子との間の光路中に配置され、前記光路の光軸に対して交差する複数の収差補正領域によって前記情報記録媒体で生じる光の収差を補正する収差補正光学素子であって、所定の電圧により所定の配向状態を示す液晶素子と、前記液晶素子に電圧を印加すべく前記液晶素子を挟んで前記光軸方向において互いに正対関係で対向すると共に、電気的絶縁のための隙間部分を介して、前記複数の各収差補正領域を画成する電極を有し、前記正対関係で対向する電極の少なくとも一方の電極は、前記隙間部分を補うようにして前記光軸方向に配列された多層構造の複数の電極で形成されていることを特徴とする。
【0022】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の収差補正光学素子において、前記正対関係で対向する電極には、情報記録媒体による収差特性とは逆特性の電気光学効果を生じさせる電圧が印加されることを特徴とする。
【0023】
これら請求項1,2に係る本発明の収差補正光学素子によれば、互いに対向する電極に印加する電圧を調節することによって、情報記録媒体による収差特性とは逆特性の電気光学効果を液晶素子中に生じさせることができ、この電気光学効果によって液晶素子中を透過する光の収差を補正することができる。更に、互いに対向する電極の少なくとも一方を多層構造の複数の電極で形成すると、それら複数の電極を隙間なく液晶素子側に向けることができる。このため、それら複数の電極に電圧を印加すると、液晶素子中に隙間なく電気光学効果を生じさせ、収差を漏れなく補正することが可能となる。また。収差を細かく補正することが可能となる。
【0024】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の収差補正光学素子を備えるピックアップ装置であって、前記情報記録媒体で反射されて前記収差補正光学素子を透過する反射光を検出する光検出器を備えることを特徴とする。
【0025】
請求項3に記載の発明によると、収差の影響が補正された反射光に基づいて、精度の良い情報再生を行うことが可能となる。
【0026】
請求項5に記載の発明は、請求項3に記載のピックアップ装置を備える情報再生装置であって、前記収差補正光学素子の前記電極に前記電圧を印加する制御手段と、前記光源に、前記光として情報再生用の光を射出させる駆動手段と、前記光検出器の出力に基づいて情報を再生する再生手段と、を備えることを特徴とする。かかる構成によると、収差の影響が補正された反射光に基づいて、精度の良い情報再生を行うことが可能となる。
【0027】
請求項6に記載の発明は、請求項3に記載のピックアップ装置を備える情報記録装置であって、前記収差補正光学素子の前記電極に前記電圧を印加する制御手段と、前記光源に、前記光として情報記録用の光を射出させる駆動手段と、を備えることを特徴とする。かかる構成によると、情報記録媒体から反射され収差の影響が補正された反射光に基づいて、精度の良い情報再生を行うことが可能となる。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は、情報記録再生装置に設けられたピックアップ装置の構成を示す図である。
【0029】
図1において、本ピックアップ装置PUは、レーザ光H1を射出する光源1と、偏光ビームスプリッタ3、収差補正光学素子4、対物レンズ5、集光レンズ6、光検出器7を備えて構成され、これらの構成要素1〜7は、光軸OAに沿って配置されている。また、収差補正光学素子4を制御するための制御回路8が、本ピックアップ装置PU又は情報記録再生装置内に設けられている。
【0030】
ここで、収差補正光学素子4は、電界によって電気光学効果(electro-optic effect)が変化する電気光学素子で形成されている。より具体的には、制御回路8によって印加される制御電圧Viに応じて複屈折(birefringence)変化をもたらす液晶光学素子で形成されている。
【0031】
すなわち、この可変光学素子4は、図2に模式的に示すように、2枚の透明なガラス基板等の絶縁基板10,11で挟まれた間に液晶(liquid crystal)素子14が封入された構成を有し、互いに対向するガラス基板10,11の対向面には、電極部12,13、絶縁膜23,24、液晶配向膜21,22が形成されている。
【0032】
電極部12,13の間に制御電圧Viが印加されると、その制御電圧Viによって生じる電界Eiに応じて液晶素子14の配列が変化する。その結果、液晶素子14中を通る光は、液晶素子14の複屈折を受けて偏光状態(位相)が変化し、その偏光状態(位相)は、液晶素子14に印加される制御電圧Viによって制御することができる。
【0033】
また、この収差補正光学素子4は、双方向の光透過性を有しており、絶縁基板10,11のどちら側を対物レンズ5側に向けて配置してもよいようになっている。
【0034】
また、収差補正光学素子4を光軸OA側から見ると、図3の平面図に示すように、光ディスク9で生じる収差の分布に対応付けて決められた複数の収差補正領域AR1,AR2〜ARiに区画されており、これらの収差補正領域AR1,AR2〜ARiは、電極部12,13に形成されている透明電極(ITO)層によって実現されている。尚、図3は、光ディスク9によって生じる球面収差を補正するための収差補正領域AR1,AR2〜ARiの典型例を示しており、実際には、光ディスク9の収差の分布に対応付けて、様々な形状に区画されている。例えば、情報記録又は情報再生の際に光ディスク9が傾くことによって生じるコマ収差を補正する場合には、図6に示すような形状の収差補正領域BR1〜BR9が設けられる。また、これら収差補正領域の区画数も光ディスク9の収差の分布に対応付けて決められている。
【0035】
図3のような同心円状の収差補正領域AR1〜ARiを設ける場合には、図4の断面図(図3のX−X線に沿った断面構造を示す図)に示すように、電極部12は、透明な絶縁層15中に互いに電気的に分離して埋設された透明電極層A1,A2〜Aiと、各透明電極層A1,A2〜Ai間に複数存在する隙間W1に対向して絶縁層15中に埋設された透明電極層B1,B2〜Bjを備えた構造となっている。また、透明電極層A1,A2〜Aiの群と透明電極層B1,B2〜Bjの群は、絶縁層15中に光軸OAに沿って2段構造で形成されている。尚、説明の便宜上、図4の断面図では、絶縁膜23,24と液晶配向膜21,22を省略して示している(以下、図5,図7、図11、図12,図13も同じとする)。
【0036】
ここで、透明電極層A1は、収差補正領域AR1に合わせた形状(図3で言うと円形状)に形成され、透明電極層A2は、収差補正領域AR2に合わせた形状(図3で言うと円環状)に形成され、残余の透明電極層A3〜Aiも同様に、収差補正領域AR3〜ARiに合わせた形状となっている。
【0037】
また、透明電極層B1は、透明電極層A1とA2とを電気的に分離するための隙間W1の形状に合わせて極めて幅の狭い円環状に形成され、透明電極層B2も同様に、透明電極層A2とA3とを電気的に分離するための隙間W1の形状に合わせて極めて幅の狭い円環状に形成され、残余の透明電極層B3,Bjも同様に形成されている。
【0038】
換言すれば、図3に示した収差補正領域AR1,AR2〜ARiは、透明電極層A1,A2〜Aiを電気的に分離して形成することで実現され、収差補正領域AR1,AR2〜ARi間の各隙間BK1,BK2〜BKjは、透明電極層B1,B2〜Bjが形成されることで実現されている。
【0039】
尚、これらの透明電極層B1,B2〜Bjは、存在する全ての隙間W1に対向して設けても良いが、補正すべき収差の特徴に応じて必要な数又は隙間W1に対向して形成しても良い。
【0040】
一方、電極部13も同様に、透明な絶縁層16中に互いに電気的に分離して埋設された透明電極層C1,C2〜Ciの群と、各透明電極層C1,C2〜Ci間に複数存在する隙間W2に対向して絶縁層16中に埋設された透明電極層D1,D2〜Djの群とが2段構造となっており、透明電極層C1,C2〜Ciは、電極部12の透明電極層A1,A2〜Aiと正対関係、透明電極層D1,D2〜Djは、電極部12の透明電極層B1,B2〜Bjと正対関係になっている。
【0041】
尚、これらの透明電極層D1,D2〜Djも、存在する全ての隙間W2に対向して設けても良いが、補正すべき収差の特徴に応じて必要な数又は隙間に対向して形成しても良い。
【0042】
そして、図5に模式的に示すように、制御回路8からの制御電圧Viによって、互いに正対関係にある収差補正領域AR1〜ARiの各透明電極層間(A1,C1)〜(Ai,Ci)と、隙間BK1〜BKjの各透明電極層間(B1,D1)〜(Bj,Di)のそれぞれに異なった固有の電圧V1〜Vkが印加されると、それらの印加電圧V1〜Vkに液晶素子14中に複数の配向状態が発生する。尚、これらの電圧V1〜Vkは、それぞれの収差補正領域AR1〜ARiと隙間BK1〜BKjにおける液晶素子14の配向状態が光ディスク9によって生じる収差の特性とは逆の特性となるような電圧に決められる。
【0043】
このように、収差補正領域AR1〜ARiの間に隙間BK1〜BKjがあっても、それらの隙間BK1〜BKjには透明電極層B1〜Bj,D1〜Djが設けられているので、液晶素子14の全領域にわたって、収差補正のための配向状態に調節できると共に、その配向状態を細かく調節することが可能となっている。
【0044】
また、各透明電極層間(B1,D1)〜(Bj,Di)の電圧V1〜Vkを適宜に調節すると、それらの配向状態を透明電極層間(A1,C1)〜(Ai,Ci)によって生じる配向状態に対して急峻な変化ではなく、連続的な変化にすることができる。
【0045】
また、図6に示したコマ収差補正用の収差補正領域BR1〜BR9を備えた収差補正光学素子4の場合にも、図7の断面図(図6のX−X線に沿った断面構造を示す図)に示すように、電極部12,13のそれぞれに収差補正領域BR1〜BR9に対応する透明電極層(符号省略)と、収差補正領域BR1〜BR9間の隙間に対応する透明電極層が2段構造で形成される。尚、図7では、収差補正領域BR1〜BR9間の隙間に対応する透明電極層を、符号F1〜F4,G1〜G4にて示すように、全ての隙間に対向して形成するのではなく特にコマ収差の影響を低減すべき隙間の箇所だけに設けた場合を示している。
【0046】
次に、かかる構造の収差補正光学素子4を備えたピックアップ装置PUの動作を図1、図6〜図10を参照して説明する。また、代表例として、図6及び図7に示したコマ収差補正用の収差補正光学素子4をピックアップ装置PUに設けた場合の動作を説明する。
【0047】
情報記録再生装置のいわゆるクランプ位置に光ディスク9が装填され、ユーザーから情報再生開始の指示がなされると、情報記録再生装置に設けられているシステムコントローラ(図示省略)が、制御回路8に指令してコマ収差を補正するための制御電圧Viを出力させる。これにより、図6及び図7に示した収差補正光学素子4の各収差補正領域BR1〜BR9に対応する正対関係にある透明電極層間と、隙間に対応する正対関係にある透明電極層F1〜F4,G1〜G4間にそれぞれ適切な電圧が印加され、それらの印加電圧によって生じる電界に応じた複数の配向状態変化が液晶素子14中に発生する。
【0048】
次に、上記システムコントローラが、情報記録再生装置に設けられているスピンドルモータ(図示省略)を回転駆動させると共に、本ピックアップ装置PUを光ディスク9の半径方向に移動させるためのキャリッジ(図示省略)を駆動することで、所定の線速度で光ディスク9を回転させる。
【0049】
更に、上記システムコントローラが光源1へ所定電力の駆動信号を供給することで、光源1から一定パワーの直線偏光のレーザ光H1が射出される。このレーザ光H1は、コリメータレンズ2で平行光とされ、偏光ビームスプリッタ3を透過して、収差補正光学素子4に入射する。
【0050】
収差補正光学素子4に入射するレーザ光は収差補正光学素子4中を透過する際に、液晶素子14の配向状態に応じて複屈折され、その複屈折されたレーザ光が対物レンズ5で収束されることで、照射径の小さな光ビームとなって光ディスク9に照射される。
【0051】
更に、上記光ビームが光ディスク9の瞳面で反射されて生じる反射光が対物レンズ5に入射し、更に対物レンズ5を透過した反射光が収差補正光学素子4で再び複屈折されて透過し、偏光ビームスプリッタ3で集光レンズ6側へ反射される。そして、集光レンズ6がこの反射光を集光し光検出器7に受光させる。また、光検出器7は、受光した反射光を光電変換することで、光ディスク9に記録されていた情報を有する光電変換信号を出力して、情報記録再生装置に設けられている再生信号処理回路(図示省略)に供給し、再生信号処理回路が光電変換信号に基づいていわゆるデコード処理や復号処理等を行うことで、オーディオ信号やビデオ信号等の再生信号を生成する。
【0052】
ここで、光ディスク9が傾いて、光ディスク9の法線方向に対して上記光ビームの入射角度(チルト角)が傾いた場合に、光ディスク9の瞳面でコマ収差が発生する。
【0053】
図8は、光ディスク9の瞳面で生じるコマ収差の影響を正規化した波面収差量として示した特性図であり、横軸を対物レンズ5の有効光路範囲(レンズ径)として示している。
【0054】
図8に示したコマ収差が発生した場合、収差補正光学素子4は、上記したように偏光ビームスプリッタ3側から入射するレーザ光に対してコマ収差の影響を低減するように複屈折を与えることで、対物レンズ5を介して予めコマ収差の影響を低減し得る光ビームを光ディスク9に照射させる。更に、この光ビームがコマ収差の影響を受けて光ディスク9から戻ってくる反射光が対物レンズ5を介して収差補正光学素子4に入射する際にも、複屈折を与えることで再び反射光のコマ収差の影響を低減して偏光ビームスプリッタ3側へ透過する。このため、コマ収差の影響が抑制された反射光が集光レンズ6を介して光検出器7に入射することになり、精度の良い情報再生を可能にする。
【0055】
更に、図6及び図7に示したように、収差補正光学素子4の収差補正領域BR1〜BR9間の隙間には、透明電極層F1〜F4,G1〜G4が対向して設けられているため、収差補正光学素子4の全領域においてコマ収差を低減することができると共に、コマ収差を精度良く低減することができる。
【0056】
図9は、収差補正光学素子4によって低減されたコマ収差の影響を正規化した波面収差量として示した特性図であり、横軸を対物レンズ5の有効光路範囲(レンズ径)として示している。同図から明らかなように、図8に示した補正前のコマ収差に比して大幅な改善が見られる。
【0057】
また、図10は、収差補正光学素子4の収差補正領域BR1〜BR9間の隙間に透明電極層を設けず、収差補正領域BR1〜BR9のみで収差補正を行った場合、すなわち、図7に示した透明電極層F1〜F4,G1〜G4を設けないで収差補正を行った場合に得られたコマ収差の影響を、図9の特性図と対比して示した図である。
【0058】
図10の特性図では、透明電極層F1〜F4,G1〜G4が設けられていない部分での収差に大きなピークP1〜P4が生じているのに対し、図9の特性図では、これらのピークが大幅に低減されているのが分かる。
【0059】
かかる実験結果からも明らかなとおり、本実施形態の収差補正光学素子4によれば、収差補正領域BR1〜BR9間の隙間に透明電極層F1〜F4,G1〜G4を設けたことにより、コマ収差の影響を大幅に低減できることが確認された。
【0060】
次に、情報記録の際のピックアップ装置PUの動作を説明する。
ユーザから情報記録開始の指示がなされると、情報記録再生装置に設けられている上記システムコントローラが記録信号処理回路(図示省略)に指令し、外部から供給されるオーディオ信号やビデオ信号等の入力信号に基づいて変調処理やエンコード処理等を行わせ、それによって生成される記録用信号を光源1に供給し、その記録用信号で変調されたレーザ光H1を射出させる。
【0061】
このレーザ光H1は、コリメータレンズ2で平行光とされ、偏光ビームスプリッタ3を透過して、収差補正光学素子4に入射する。ここで、収差補正光学素子4に入射するレーザ光は収差補正光学素子4中を透過する際に、液晶素子14の配向状態に応じて複屈折され、その複屈折されたレーザ光が対物レンズ5で収束されることで、照射径の小さな光ビームとなって光ディスク9に照射され、光ビームの光エネルギーによって情報記録が行われる。
【0062】
更に、上記光ビームが光ディスク9の瞳面で反射されて生じる反射光が対物レンズ5に入射し、更に対物レンズ5を透過した反射光が収差補正光学素子4で再び複屈折されて透過し、偏光ビームスプリッタ3で集光レンズ6側へ反射される。そして、集光レンズ6がこの反射光を集光し光検出器7に受光させる。また、光検出器7は、受光した反射光を光電変換することで、その光電変換信号を情報記録再生装置に設けられているサーボ回路(図示省略)に供給する。
【0063】
ここで、上記のサーボ回路は、例えば非点収差法によって、フォーカスエラーの検出を行い、その検出結果に基づいて対物レンズ5をフォーカスサーボする。このフォーカスサーボの際にも、コマ収差の影響が大幅に低減された光電変換信号に基づいてフォーカスサーボが行われるため、精度の良いフォーカスサーボが可能となっている。
【0064】
尚、図3及び図4に示した球面収差補正用の収差補正光学素子4を設けた場合にも、図6及び図7に示したコマ収差補正用の収差補正光学素子4を設けた場合と同様の効果が得られるため、各種の収差の影響を大幅に低減することができる。
【0065】
このように、本実施形態のピックアップ装置PUと情報記録再生装置によれば、ピックアップ装置PUに収差補正光学素子4を備えると共に、図4及び図7に示したように、収差補正光学素子4の収差補正領域間に生じる隙間に対応して透明電極層を設けたので、光ディスク9による収差の影響を大幅に低減することができると共に、収差の低減を細かく制御することができる。
【0066】
尚、以上の実施形態では、収差補正光学素子4の収差補正領域間に生じる隙間に対応して透明電極層を設ける場合を説明したが、本発明の収差補正光学素子は、かかる構造に限定されるものではない。
【0067】
図11の断面図に示すように、一方の電極部12には、収差補正領域間に生じる隙間に対応して透明電極層を設け、他方の電極部13には、有効光路範囲の全面に透明電極層17を設け、透明電極層17をいわゆるコモン電極として、電極部13中の各透明電極層と透明電極層17の間に、それぞれ固有の電圧を印加するようにしても良い。
【0068】
また、図12の断面図に示すように、各電極部12,13中に、光軸OAに沿って、複数の透明電極層を重なり合うにした多段構造で形成し、収差補正領域に対応する形状の互いに正対関係にある透明電極層間に、それぞれ固有の電圧を印加するようにしてもよい。つまり、液晶素子14側に解放されている各透明電極層の部分を収差補正領域の形状に合わせることで、収差補正が可能となる。かかる構造によれば、収差補正領域間に隙間が生じないため、図4及び図7に示したような隙間に対応する透明電極層が不要になると共に、透明電極層に電圧を印加するための配線数の低減や、印加すべき電圧の種類を減らすことができることで制御回路8の簡素化等を実現することができる等の効果が得られる。
【0069】
尚、図12の場合において、一方の電極部12(又は13)に、図11に示した透明電極層17と同様の一層の透明電極層を形成し、この一層の透明電極層をコモン電極としてもよい。
【0070】
更に又、図13の断面図に示すように、収差補正領域に対応する形状の透明電極層を光軸OAに沿って多段構造に形成し、互いに正対関係にある透明電極層間に固有の電圧を印加するようにしても良い。
【0071】
かかる構造によれば、透明電極層の形状を収差補正領域の形状に合わせて形成することができるので、液晶素子14中に生じさせるべき配向状態を細かく調節することができる。このため、より精度の良い収差補正光学素子を実現することができる。また、透明電極層間に隙間が生じないので、図4及び図7に示したような隙間に対応する透明電極層が不要になると共に、透明電極層に電圧を印加するための配線数の低減や、印加すべき電圧の種類を減らすことができることで制御回路8の簡素化等を実現することができる等の効果が得られる。
【0072】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、収差補正光学素子の液晶素子に電圧を印加するための互いに対向する電極の少なくとも一方を多層構造の複数の電極で形成するので、それら複数の電極を隙間なく液晶素子側に向けることができる。これにより、それら複数の電極に電圧を印加すると、液晶素子中に隙間なく電気光学効果を生じさせ、収差を漏れなく補正することが可能となる。また。収差を細かく補正することが可能となる。
【0073】
更に、情報記録媒体による収差を適切に補正できる結果、情報記録媒体の高密度化に伴う対物レンズの高NA化や光源から射出される光に短波長化を促進することができ、上記高密度化にとって有効な収差補正光学素子を提供することができる。
【0074】
また、本発明のピックアップ装置と情報再生装置及び情報記録装置は、上記の収差補正光学素子を備えて収差補正を行うので、精度の良い情報記録と情報再生を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施形態に係る情報記録再生装置に設けられたピックアップ装置の構成を示す図である。
【図2】ピックアップ装置に設けられた収差補正光学素子の動作原理を説明するための図である。
【図3】収差補正光学素子を光軸側から見たときの形状を示す平面図である。
【図4】収差補正光学素子の縦断面構造を示す断面図である。
【図5】収差補正光学素子による収差補正原理を説明するための図である。
【図6】他の収差補正光学素子を光軸側から見たときの形状を示す平面図である。
【図7】他の収差補正光学素子の縦断面構造を示す断面図である。
【図8】コマ収差の特性を示す特性図である。
【図9】収差補正光学素子によってコマ収差を低減した結果を示す特性図である。
【図10】コマ収差が十分に低減されていない場合の特性を示す特性図である。
【図11】収差補正光学素子の他の構造を示す断面図である。
【図12】収差補正光学素子の更に他の構造を示す断面図である。
【図13】収差補正光学素子の更に他の構造を示す断面図である。
【図14】従来の液晶ユニットにおける問題点を説明するための図である。
【符号の説明】
PU…ピックアップ装置
1…光源
2…コリメータレンズ
3…偏光ビームスプリッタ
4…収差補正光学素子
5…対物レンズ
6…集光レンズ
7…光検出器
8…制御回路
9…光ディスク
10,11…絶縁基板
12,13…電極部
14…液晶素子
15,16…絶縁層
17,A1〜Ai,B1〜Bj,C1〜Ci,D1〜Dj…透明電極層
AR1〜ARi…収差補正領域
BK1〜BKj…隙間
PU…ピックアップ
Claims (6)
- 光源と、前記光源から射出される光を情報記録媒体に照射する光学素子との間の光路中に配置され、前記光路の光軸に対して交差する複数の収差補正領域によって、前記情報記録媒体で生じる光の収差を補正する収差補正光学素子であって、
所定の電圧により所定の配向状態を示す液晶素子と、
前記液晶素子に電圧を印加すべく前記液晶素子を挟んで前記光軸方向において互いに正対関係で対向すると共に、電気的絶縁のための隙間部分を介して、前記複数の各収差補正領域を画成する電極を有し、
前記正対関係で対向する電極の少なくとも一方の電極は、前記隙間部分を補うようにして前記光軸方向に配列された多層構造の複数の電極で形成されていることを特徴とする収差補正光学素子。 - 前記正対関係で対向する電極には、情報記録媒体による収差特性とは逆特性の電気光学効果を生じさせる電圧が印加されることを特徴とする請求項1に記載の収差補正光学素子。
- 請求項2に記載の収差補正光学素子を備えるピックアップ装置であって、
前記情報記録媒体で反射されて前記収差補正光学素子を透過する反射光を検出する光検出器を備えることを特徴とするピックアップ装置。 - 前記収差補正光学素子の前記電極に前記電圧を印加する制御手段を備えることを特徴とする請求項3に記載のピックアップ装置。
- 請求項3に記載のピックアップ装置を備える情報再生装置であって、
前記収差補正光学素子の前記電極に前記電圧を印加する制御手段と、
前記光源に、前記光として情報再生用の光を射出させる駆動手段と、
前記光検出器の出力に基づいて情報を再生する再生手段と、を備えることを特徴とする情報再生装置。 - 請求項3に記載のピックアップ装置を備える情報記録装置であって、
前記収差補正光学素子の前記電極に前記電圧を印加する制御手段と、
前記光源に、前記光として情報記録用の光を射出させる駆動手段と、を備えることを特徴とする情報記録装置。
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