JP3821425B2 - 耐火電線 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、火災等の非常時に高熱や火炎に対して所要の耐火性能や電気特性を備えた耐火電線に関する。
【0002】
【従来の技術】
消防庁告示平成9年第10号の基準に規定された耐火電線の総称である電線・ケーブルは、規定の耐火性能を満足するとともに、電気用品取締法および電気設備技術基準法に規定された構造、寸法や電気的・機械的特性を満足するものとされている。
【0003】
図3は、従来の耐火電線の代表例として、特開平11−345524号公報に記載のものを一部模式的に示す断面図である。この場合の耐火電線1は、銅撚り線などの導体2上に耐火層3および絶縁体4を設けて絶縁線心5を形成し、この絶縁線心5上にシース6を設けてなっている。
【0004】
耐火層3は、ガラスマイカテープの複数枚を導体2上にラップ巻き(回し巻き)または縦添え巻きして形成されている。ガラスマイカテープは、無機質のガラステープを基材(裏打ち材)にしてこの片面に軟質の集成マイカ箔などを貼り付けたものであり、集成マイカ箔面を導体2に対面させて複数枚を重ね巻きしている。また、絶縁体4は、代表的にはポリエチレンなどのエチレン系樹脂組成物または塩化ビニル系樹脂などを耐火層3上に押し出して被覆成形されている。そのようにして形成された絶縁線心5上にさらに、ポリオレフィン系樹脂または塩化ビニル系樹脂などを押し出してシース6が被覆成形されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、この図3に示す公報記載の耐火電線1、および他の従来の耐火電線に共通して次の問題点がある。
【0006】
1つは、ガラスマイカテープの複数枚を導体2上に重ね巻きして耐火層3を形成した後、絶縁体4の成形時にポリエチレンなどの溶融樹脂を耐火層3上に押し出すと、樹脂圧力で下層の耐火層3が変形してしまうことである。耐火層3が変形すると規定の電気特性に影響して満足しないものとなる。耐火層3のそうした樹脂圧力による変形を防止するには、ガラスマイカテープをきつく巻き付けてテープ張力を高めておくことが考えられる。ところが、ガラスマイカテープの張力を高めると、テープ端のガラス繊維がささくれ、図3中の符号3aで示す「ケバ」となって絶縁体4の内部に入り込み、これまた電気特性を低下させる原因となる。
【0007】
また1つは、ポリエチレン溶融樹脂をかかる耐火層3上に押し出して絶縁体4を成形中、その溶融樹脂の熱でもって耐火層3のガラスマイカテープ内に存在する気体が膨脹し、絶縁体4内に入り込んで「空洞(ボイド)」として残留することで絶縁性など電気特性に影響を及ぼすことである。ボイド発生の防止対策として、一般にはポリエチレン溶融樹脂を押し出した直後、水冷により固化させて絶縁体4を成形する冷却処理を行っている。しかし、絶縁体4の厚さ寸法が2.5mmを超えると、冷却が絶縁体4の厚さ全域に行き渡って完了するまでにかなりの時間を要する。そのため、ボイドの発生を十分に抑止しきれないといった問題がある。
【0008】
さらに1つは、特に図3の従来例のように、ガラスマイカテープによる耐火層3を上からポリエステルテープ(図示せず)で押さえ巻きしているため、配線現場において電線端末の段剥き処理を行う作業時、そのポリエステルテープを皮剥ぎする作業手間が余分に増えてしまうことである。
【0009】
したがって、本発明の目的は、耐火層を形成するガラスマイカテープのガラス繊維から生じるケバや、耐火層内の気体が膨脹して絶縁体中に侵入してボイドを発生するのを有効に抑制して所要の耐火性能や電気特性を満足するとともに、段剥き処理作業時にガラスマイカテープを押さえ巻きするテープの皮剥ぎする作業手間を不要とした耐火電線を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明にかかる請求項1に記載の耐火電線は、導体11と、導体11上にガラスマイカテープを巻き付けて設けた耐火層12と、耐火層12上に押出し成形して設けた絶縁体13とによって絶縁線心15を形成してなっているものであって、融点の異なる内層と外層の表裏二層からなるラミネートテープを、前記絶縁体13よりも融点の高い内層を前記耐火層12に対面させ、前記絶縁体13とほぼ同一またはそれ以下の融点の低い外層をその絶縁体13に対面させて、前記耐火層12上に巻き付けることによりラミネートテープ遮蔽層14を形成してなっていることを特徴とする。
【0011】
以上の構成により、耐火層12上に巻き付けて設けたラミネートテープ遮蔽層14は次のように機能する。
(1)ラミネートテープを適度なテープ張力でガラスマイカテープの耐火層12上にラップ巻きすると、絶縁体13を押出し成形中の樹脂圧で耐火層12が変形せず、また樹脂熱で膨脹した耐火層12内の気体の圧力によってテープ自体浮き上がることはない。結果、耐火層12のガラス繊維のケバが絶縁体13内に侵入するのを阻止でき、また膨脹した気体が絶縁体13内に入り込んでボイドを発生するのを抑制でき、電気特性の低下を抑えられる。それに対して、ラミネートテープを縦添え巻きにした場合、テープ張力が不足するので上記ラップ巻きのような効果を期待できない。
(2)ラミネートテープの外層の融点は、対面する絶縁体13と融点がほぼ同一かそれ以下であるので、その外層が絶縁体13の押出し樹脂熱で溶融し、絶縁体13の内面に一体的に融着する。その際、溶融した外層がラップ巻きによるテープ巻き目を融着して封止し、絶縁体13よりも融点が高い内層は溶融しないで残る。すなわち、ラミネートテープ遮蔽層14の全体が、あたかも内層上に外層を溶融させてコーティングしたような筒状となり、耐火層12中の気体が膨脹して絶縁体13内に侵入しようとするが、そのように筒状化したラミネートテープ遮蔽層14が絶縁体13の内側に一体に融着して防壁になって阻止し、絶縁体13内でのボイド発生を有効に抑制できる。
(3)上記(2)のように、ラミネートテープ遮蔽層14が筒状化して絶縁体13の内側に一体化して防壁となることで、配線現場において電線端末の段剥き処理を行う作業時、絶縁体13を皮剥ぎするとそれと一緒にラミネートテープ遮蔽層14もまた同時に皮剥ぎされる。そのため、絶縁体13の皮剥後に改めてラミネートテープ遮蔽層14を剥離処理する必要がなく、作業手間が省ける。すなわち、従来の押さえ巻きテープのように、わざわざ皮剥ぎする作業手間が省けるので、作業能率がアップする。
【0012】
また、請求項2に記載の耐火電線は、前記ラミネートテープ遮蔽層14が、内層をポリエステル層とし、外層をポリエチレン層としてなっていることを特徴とする。
【0013】
この場合、請求項1の記載のラミネートテープ遮蔽層14を構成する内層および外層の材質の具体例として、内層を絶縁体13の融点よりも高いポリエステルを用い、外層を絶縁体13の融点とほぼ同一もしくはそれ以下のポリエチレンを用いている。絶縁体13の材質は一般にはエチレン系樹脂組成物からなっている。したがって、そうした絶縁体13の押出し成形中の樹脂熱によって同材質の外層のポリエチレンが溶融し、絶縁体13の内面に一体的に融着する。それにより、ラミネートテープ遮蔽層14が内層のポリエステル層上に溶融した外層のポリエチレン層をコーティングした筒状化する。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明にかかる耐火電線の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1は、本実施の形態の耐火電線10を示す断面図である。銅撚り線などの導体11上に耐火層12が形成され、この耐火層12は、図3の従来例で説明したように、無機質のガラステープを裏打ち材にしてその片面に軟質の集成マイカ箔を貼り付け、そうしたガラスマイカテープの複数枚を集成マイカ箔面を導体11側に向けて好ましくはラップ巻きして重ね巻きすることにより形成される。
【0016】
また、図2の拡大した部分断面図のように、耐火層12を形成するガラスマイカテープの最外層となる表面に、本発明の要旨であるラミネートテープを巻き付けてラミネートテープ遮蔽層14が設けられている。このラミネートテープ遮蔽層14は、ポリエステルとポリエチレンの各材料をフィルム加工などしたものを表裏面にして貼り合わせてラミネートテープとし、ポリエステル層を内層にして耐火層12に対面させ、ポリエチレン層を外層にして次工程で設けられる絶縁体13に対面させて耐火層12上にラップ巻きして形成される。
【0017】
また、絶縁体13はそうしたラミネートテープ遮蔽層14の外層のポリエチレン層上に押し出して被覆成形される。一般に、絶縁体13の材料にはエチレン系樹脂組成物であるポリエチレンが多用され、本例においても絶縁体13としてポリエチレン樹脂を用いており、融点のほぼ同じかそれ以下の同材質のポリエチレン層をラミネートテープ遮蔽層14の外層とすることで後述する数々の好結果が得られる。
【0018】
以上のように、導体11上に、耐火層12、ラミネートテープ遮蔽層14および絶縁体13をそれぞれ設けて絶縁線心15が形成される。図1および図2のように、本実施の形態では絶縁線心15の上にポリオレフィン樹脂系などのプラスチックシース16を押し出して被覆成形した単心の耐火電線10が示されている。それに対して、上記絶縁線心15の複数本を撚り合わせなどして束ね、それら複数線心間に介在物を充填して設けてから押さえテープ巻きし、その上に上記シース16を押出し成形することで、耐火ケーブルとすることができる。
【0019】
本実施の形態の耐火電線10にあっては、かかる絶縁線心15を備えて次のように作用する。
【0020】
導体11上に設けられる耐火層12としては、複数枚のガラスマイカテープをラップ巻きできつく巻き付けてテープ張力を高めることができる。耐火層12上にラミネートテープ遮蔽層14を介して絶縁体13を設ける際、ポリエチレン溶融樹脂の押出し成形中の樹脂圧で耐火層12が変形しようとするが、耐火層12はきつく巻き付けられているので、ラミネートテープ遮蔽層14を介在させていることと相まって絶縁体13の樹脂圧が働いても変形しない。耐火層12の変形を防止することによって、規定の電気特性を満足させることができる。
【0021】
ところで、耐火層12をきつく巻き付けると変形防止に有効である反面、きつく巻き付けてテープ張力が高まることでガラスマイカテープのテープ端面からガラス繊維がケバとなって生じることがある。仮に耐火層12からそのようにガラス繊維のケバが発生した場合でも、ラミネートテープ遮蔽層14によって上から抑圧されているため、絶縁体13中にガラス繊維のケバが侵入するのを阻止でき、そのケバ侵入阻止によって電気特性の低下を防げる。
【0022】
このように、耐火層12上にラミネートテープを巻き付けて形成されるラミネートテープ遮蔽層14としては、ラップ巻きすることで十分なテープ張力をもっているから、上記のようなガラス繊維のケバを阻止できると同時に、耐火層12中の気体が絶縁体13の押出し成形中の樹脂熱で膨脹してもテープ自体浮き上がることはない。それにより、膨脹した気体が絶縁体13中に侵入してボイドとなるのを抑制できる。
【0023】
また、ラミネートテープ遮蔽層14上にポリエチレン溶融樹脂を押出し成形して絶縁体13を設ける際、ラミネートテープ遮蔽層14は次のように作用する。ポリエチレン溶融樹脂の押出し中、その樹脂熱でラミネートテープ遮蔽層14の外層であるポリエチレン層が溶融して一体的に絶縁体13に融合する。それはあたかもラミネートテープ遮蔽層14において、その内層のポリエステル層の上に外層のポリエチレン層をコーティングしたような状態になる。またその際、溶融した外層のポリエチレン層がラップ巻きしたテープ巻き付け目に流入して融着して封止し、溶融しない内層のポリエステル層の一面にわたって外層のポリエチレン層が隙間無くコーティングされた筒状となる。そのように筒状化したラミネートテープ遮蔽層14が耐火層12と絶縁体13との間に介在することになる。
【0024】
そこで、ポリエチレン溶融樹脂を押し出して絶縁体13を被覆成形中、その樹脂熱で耐火層12中の気体が膨脹し、層外に出て絶縁体13中に侵入してボイドを生じようとするが、それを上記のように筒形状したラミネートテープ遮蔽層14が防壁となって阻止する。
【0025】
一方、本実施の形態の耐火電線10にあっては、配線現場での電線端末を皮剥処理などする施工作業時に次の効果をもたらす。電気的接続に備えて導体11を露出状態にするために最外層のシース16から最内層の耐火層12まで順番に段剥きされる。そうした段剥き作業時、絶縁体13を皮剥ぎした段階でその内側にラミネートテープ遮蔽層14が一緒に付着するので、絶縁体13の皮剥ぎ処理後に改めてラミネートテープ遮蔽層14を剥ぎ取り処理する作業が省けることである。それは、絶縁体13の押出し成形中、その溶融樹脂熱でラミネートテープ遮蔽層14の外層のポリエチレン層が融着してあたかも筒状になって絶縁体13と一体化しているからである。
【0026】
なお、本実施の形態の耐火電線10にあっては、ラミネートテープ遮蔽層14を形成する内外層の材質にポリエチレンとポリエステルを用いた例が示されたが、本発明にかかる技術思想を満足すれば、他の材質でも構成することができる。すなわち、外層としては絶縁体13と融点がほぼ同一かそれ以下の材質であって、絶縁体13の押出し成形中の樹脂熱でその外層が溶融して一体化することが必要である。また、内層としては絶縁体13よりも融点の高い材質のものであって、絶縁体13の押出し成形中の樹脂熱でも溶融しないで残ることが望まれる。
【0027】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明にかかる請求項1に記載の耐火電線は以下の効果がある。
(1)ラミネートテープを適度なテープ張力でガラスマイカテープの耐火層上にラップ巻きすると、絶縁体を押出し成形中の樹脂圧で耐火層が変形せず、また樹脂熱で膨脹した耐火層内の気体の圧力によってテープ自体浮き上がることはない。結果、耐火層のガラス繊維のケバが絶縁体内に侵入するのを阻止でき、また膨脹した気体が絶縁体内に入り込んでボイドを発生するのを抑制でき、電気特性の低下を抑えられる。それに対して、ラミネートテープを縦添え巻きにした場合、テープ張力が不足するので上記ラップ巻きのような効果を期待できない。
(2)ラミネートテープの外層の融点は、対面する絶縁体と融点がほぼ同一かそれ以下であるので、その外層が絶縁体の押出し樹脂熱で溶融し、絶縁体の内面に一体的に融着する。その際、溶融した外層がラップ巻きによるテープ巻き目を融着して封止し、絶縁体よりも融点が高い内層は溶融しないで残るので、ラミネートテープ遮蔽層の全体があたかも内層上に外層を溶融させてコーティングしたような筒状となり、耐火層中の気体が膨脹して絶縁体内に侵入しようとするが、そのように筒状化したラミネートテープ遮蔽層が絶縁体の内側に一体に融着して防壁になって阻止し、絶縁体内でのボイド発生を有効に抑制できる。
(3)ラミネートテープ遮蔽層が筒状化して絶縁体の内側に一体化して防壁となることで、配線現場において電線端末の段剥き処理を行う作業時、絶縁体を皮剥ぎするとそれと一緒にラミネートテープ遮蔽層もまた同時に皮剥ぎされ、絶縁体の皮剥後に改めてラミネートテープ遮蔽層を剥離処理する必要がなく、作業手間が省け、従来の押さえ巻きテープのように、わざわざ皮剥ぎする作業手間が省けるので、作業能率がアップする。
【0028】
また、請求項2に記載の耐火電線は、ラミネートテープ遮蔽層を構成する内層および外層の材質の具体例として、内層に絶縁体の融点よりも高いポリエステルを用い、外層に絶縁体の融点とほぼ同一もしくはそれ以下のポリエチレンを用いている。絶縁体は一般にはエチレン系樹脂組成物が用いられるので、そうした材質の絶縁体を押出し成形すると、その樹脂熱によって同材質のラミネートテープ遮蔽層の外層ポリエチレンが一緒に溶融し、絶縁体の内面に一体的に融着する。すなわち、ラミネートテープ遮蔽層では、内層のポリエステル層上に外層のポリエチレン層をコーティングしたような筒状となり、上記請求項1に記載された効果が一層顕著となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる耐火電線の実施の形態を示す断面図である。
【図2】本実施の形態の要部を拡大して示す断面図である。
【図3】従来例の耐火電線を示す断面図である。
【符号の説明】
10 耐火電線
11 導体
12 耐火層
13 絶縁体
14 ラミネートテープ遮蔽層
15 絶縁線心
16 シース
Claims (2)
- 導体と、導体上にガラスマイカテープを巻き付けて設けた耐火層と、耐火層上に押出し成形して設けた絶縁体とによって絶縁線心を形成してなっている耐火電線であって、
融点の異なる内層と外層の表裏二層からなるラミネートテープを、前記絶縁体よりも融点の高い内層を前記耐火層に対面させ、前記絶縁体とほぼ同一またはそれ以下の融点の低い外層を該絶縁体に対面させて、前記耐火層上に巻き付けることによりラミネートテープ遮蔽層を形成してなっていることを特徴とする耐火電線。 - 前記ラミネートテープ遮蔽層が、内層をポリエステル層とし、外層をポリエチレン層としてなっていることを特徴とする請求項1に記載の耐火電線。
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