JP3814720B2 - 耐塩温水2次密着性に優れた高強度高延性冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
耐塩温水2次密着性に優れた高強度高延性冷延鋼板およびその製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電着塗装後の耐塩温水2次密着性に優れた高強度高延性冷延鋼板およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、地球環境の保全という観点から、自動車の燃費改善が求められている。また、衝突時における乗員保護の観点から、自動車車体の安全性の向上も要求されている。そのため、自動車車体の軽量化および強化が積極的に進められている。
自動車車体の軽量化と強化を両立させるには、部品素材を高強度化することが効果的であると言われており、最近では、自動車部品に対して高強度鋼板が積極的に使用されている。
【0003】
また、鋼板を素材とする自動車部品の多くがプレス加工によって成形されることから、自動車部品用鋼板にはプレス成形性に優れることも要求されている。優れたプレス成形性を実現するには、まず第一に高い延性を確保することが肝要である。さらに、自動車部品のプレス成形においては、伸びフランジ変形も多用される。特に、自動車車体の強度を確保するための骨格部材であるメンバーやリンフォース等を構成する部品では、伸びフランジ変形を多用した部品成形が行われることが多い。
このため、自動車部品用鋼板には、高い延性と共に、伸びフランジ性に優れることが強く求められている。
【0004】
延性に優れる高強度鋼板としては、フェライトとマルテンサイトの複合組織を有する二相組織鋼板が代表的である。
また、近年では、例えば(社)日本鉄鋼協会編「材料とプロセス vol.4 (1991) P.1942」に記載されているように、0.11mass%CにSi, Mnを適量添加し、残留オーステナイトに起因する変態誘起塑性(Transformation Induced Plasticity:TRIP)を利用した高延性鋼板も実用化の段階に至っている。
しかしながら、このような中炭素鋼は、(社)日本鉄鋼協会編「鉄と鋼 vol.8(1995) No.9, P.26 」にも紹介されているように、Fe−C平衡状態図上での固相線温度近傍で包晶反応(δ+L→γ)とA4 変態(δ→γ)を伴うため、凝固が不均一になり易く、このため連続鋳造機の鋳型内で縦割れや横割れといった表面割れが発生し易いという問題があった。
【0005】
また、鋳込み後の2次冷却帯においては、(社)日本鉄鋼協会編「第3版 鉄鋼便覧II 製銑・製鋼 P.649」に記載されているように、AlやNb,V,Cuなどの合金元素の添加によって生成する炭化物や窒化物が原因で粒界脆化が起こり、スラブの表面割れが発生し易いため、低速鋳込み、緩冷却などの処置をとりながら生産されているのが現状である。
このような製造条件は、鉄鋼業の上流工程である製鋼部門での生産性を大幅に低下させ、最終的には製鉄所全体の生産性を阻害する元凶となっている。
【0006】
さらに、この種の鋼板の重大な問題点は、Siが多量に含有されていることから、焼鈍時にSiの酸化物が鋼板表面に濃化し、電着塗装後の鋼板が塩温水のような劣悪な環境に曝された場合に、通常の鋼板に比べて塗膜が剥がれ易くなるという点である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の実状に鑑み開発されたもので、鋼組成を特定範囲に規制することによって、上述した製鋼段階で抱える問題を解決すると共に、上記した鋼組成の規制に併せて鋼組織を制御することにより、自動車部品用素材として好適な、高延性で高伸びフランジ性という優れた機械的特性を確保し、さらには電着塗装後の耐塩温水2次密着性にも優れた高強度高延性冷延鋼板を、その有利な製造方法と共に提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、上記の目的を達成するため、スラブの表面割れを防止し、しかも鋼板の延性および伸びフランジ性を最適化する、鋼板の成分組成、ミクロ組織および表面性状について鋭意研究を重ねた。
その結果、
(1) TiとNを適量添加することによって、低温で析出するAlNやNb系炭化物,V系炭化物が結晶粒界に優先的に析出するのを防止することができる、
(2) 連続焼鈍後に得られる高強度冷延鋼板の組織を、フェライト、残留オーステナイトおよび低温変態相からなる複合組織とし、各相の体積率を所定の比率とすることによって、鋼板に優れた延性を発現させることができる、
(3) 上記した複合組織の主体であるフェライトの結晶粒径を微細化することによって、高延性に加えて優れた伸びフランジ性が得られる
ことの知見を得た。また、
(4) 焼鈍後における鋼板表面の酸化物の濃化形態を制御することによって、耐塩温水2次密着性が大幅に改善される
ことも併せて見出した。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0009】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で、
C:0.05〜0.35%、
Si:0.5 〜3.0 %、
Mn:0.5 〜3.0 %、
P:0.05%以下、
S:0.005 %以下、
Al:0.10%未満、
N:0.0020〜0.0100%および
Ti:0.001 〜0.20%
を含み、かつ
Caおよび/またはREM :0.0010〜0.010 %
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、さらにフェライト、残留オーステナイトおよび低温変態相からなる複合組織であって、該フェライトを体積率で30%以上、該残留オーステナイトを体積率で2%以上を含む鋼組織を有し、しかも該フェライトの平均結晶粒径が15μm 以下で、かつ鋼板の最表層から10nm深さまでのGDS分析によるSiとFeの強度比Si/Feが 6.0以下であることを特徴とする、耐塩温水2次密着性に優れた高強度高延性冷延鋼板。
【0010】
2.質量%で、
C:0.05〜0.35%、
Si:0.5 〜3.0 %、
Mn:0.5 〜3.0 %、
P:0.05%以下、
S:0.005 %以下、
Al:0.10%未満、
N:0.0020〜0.0100%および
Ti:0.001 〜0.20%
を含み、かつ
Caおよび/またはREM :0.0010〜0.010 %
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、さらにフェライト、残留オーステナイトおよび低温変態相からなる複合組織であって、該フェライトを体積率で30%以上、該残留オーステナイトを体積率で2%以上を含む鋼組織を有し、しかも該フェライトの平均結晶粒径が15μm 以下で、かつ鋼板の表層におけるFT−IR分析によるSiO2とMn2SiO4 の強度比SiO2/Mn2SiO4 が1.5 以下であることを特徴とする、耐塩温水2次密着性に優れた高強度高延性冷延鋼板。
【0011】
3.上記1または2において、鋼板がさらに、質量%で、
NbおよびVのうちから選んだ1種または2種合計:0.001 〜0.30%
を含有する組成になることを特徴とする、耐塩温水2次密着性に優れた高強度高延性冷延鋼板。
【0012】
4.上記1,2または3において、鋼板がさらに、質量%で、
Cr:1.5 %以下、
Mo:0.5 %以下および
B:0.010 %以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成になることを特徴とする、耐塩温水2次密着性に優れた高強度高延性冷延鋼板。
【0013】
5.質量%で、
C:0.05〜0.35%、
Si:0.5 〜3.0 %、
Mn:0.5 〜3.0 %、
P:0.05%以下、
S:0.005 %以下、
Al:0.10%未満、
N:0.0020〜0.0100%および
Ti:0.001 〜0.20%
を含み、かつ
Caおよび/またはREM :0.0010〜0.010 %
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼スラブを、熱間圧延した後、冷間圧延し、ついで連続焼鈍によりAc1変態点以上の温度に加熱した後、10℃/s以上の冷却速度で 300〜500 ℃の温度域に冷却し、この温度域に60秒以上滞留させたのち、冷却中あるいは冷却後に酸洗処理および/またはブラシ処理を施して、鋼板の最表層から10nm深さまでのGDS分析によるSiとFeの強度比Si/Feを 6.0以下とすることを特徴とする、耐塩温水2次密着性に優れた高強度高延性冷延鋼板の製造方法。
【0014】
6.質量%で、
C:0.05〜0.35%、
Si:0.5 〜3.0 %、
Mn:0.5 〜3.0 %、
P:0.05%以下、
S:0.005 %以下、
Al:0.10%未満、
N:0.0020〜0.0100%および
Ti:0.001 〜0.20%
を含み、かつ
Caおよび/またはREM :0.0010〜0.010 %
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼スラブを、熱間圧延した後、冷間圧延し、ついで連続焼鈍により、炉内の雰囲気露点が−30℃以上の条件下でAc1変態点以上の温度に加熱して、鋼板の表層におけるFT−IR分析による SiO 2 と Mn 2 SiO 4 の強度比 SiO 2 / Mn 2 SiO 4 を 1.5 以下とした後、10℃/s以上の冷却速度で 300〜500 ℃の温度域に冷却し、この温度域に60秒以上滞留させたのち冷却することを特徴とする、耐塩温水2次密着性に優れた高強度高延性冷延鋼板の製造方法。
【0015】
7.上記5または6において、鋼スラブがさらに、質量%で、
NbおよびVのうちから選んだ1種または2種合計:0.001 〜0.30%
を含有する組成になることを特徴とする、耐塩温水2次密着性に優れた高強度高延性冷延鋼板の製造方法。
【0016】
8.上記5,6または7において、鋼スラブがさらに、質量%で、
Cr:1.5 %以下、
Mo:0.5 %以下および
B:0.010 %以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成になることを特徴とする、耐塩温水2次密着性に優れた高強度高延性冷延鋼板の製造方法。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明において、鋼板の成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C:0.05〜0.35%
Cは、鋼の高強度化に不可欠の元素であり、また残留オーステナイトや低温変態相の生成にも有効な元素である。しかしながら、C量が0.05%に満たないと所望の高強度を得ることができず、一方0.35%を超えると溶接性の劣化を招く。このため、Cは0.05〜0.35%の範囲に限定した。より好ましくは0.10〜0.25%である。
【0018】
Si:0.5 〜3.0 %
Siは、固溶強化によって鋼の強化に寄与するだけでなく、オーステナイトを安定化して残留オーステナイト相の生成を促進させる元素でもある。しかしながら、含有量が 0.5%に満たないとその添加効果に乏しく、一方 3.0%を超えて含有させると延性の劣化を招く。このため、Siは 0.5〜3.0 %の範囲に限定した。より好ましくは 1.0〜2.0 %である。
【0019】
Mn:0.5 〜3.0 %
Mnは、固溶強化によって鋼を強化するだけでなく、鋼の焼入性を向上させて残留オーステナイトや低温変態相の生成を促進させる作用がある。このような作用は、Mn量が 0.5%以上で認められる。一方、 3.0%を超えて含有させても効果は飽和に達し、含有量に見合うだけの効果が期待できなくなり、むしろコストの上昇を招く。このため、Mnは 0.5〜3.0 %の範囲に限定した。より好ましくは 1.0〜2.0 %である。
【0020】
P:0.05%以下
Pは、固溶強化元素であり、通常、高強度鋼板を得る上で有用な元素ではあるが、0.05%超の含有はスポット溶接性の低下を招くので、本発明では、0.05%を上限として含有させるものとした。より好ましくは 0.020%以下である。
【0021】
S:0.005 %以下
Sは、鋼中にMnSを形成し、鋼板の伸びフランジ性を低下させる有害元素である。このため、Sの混入は極力低減することが好ましいが、0.005 %以下であれば許容できる。より好ましくは 0.003%以下である。
【0022】
Al:0.10%未満
Alは、製鋼段階での脱酸剤として有効に寄与し、穴拡げ性を低下させる非金属介在物をスラグ中に分離するために必要な元素である。しかしながら、0.10%以上の含有は合金コストを上昇させてしまうので、本発明では0.10%未満で含有させるものとした。好ましい範囲は0.02〜0.09%である。
【0023】
N:0.0020〜0.0100%
Nは、通常、歪時効を生じさせる不純物元素であるが、本発明のような組織強化型の鋼板では、歪時効は起こらず、むしろTiNなどの析出物により、スラブの表面割れを防止する有用元素である。このようなスラブの表面割れを防止するためには、0.0020%以上の含有を必要とするが、0.0100%超のNを含有させることは、製鋼上難しく、またコスト高ともなるため、Nは0.0020〜0.0100%の範囲に限定した。より好ましくは0.0025〜0.0080%である。
【0024】
Ti:0.001 〜0.20%
Tiは、連続焼鈍時の加熱段階におけるフェライト相の成長を抑え、鋼組織を微細化して、穴拡げ性を著しく向上させるのに有用な元素である。また、Tiは、スラブ冷却時に、高温でTi系炭窒化物や硫化物を析出して、比較的低温で生成するAlNや、結晶粒微細化の目的で添加されるNb, Vによって粒界に生成するNb系やV系の炭化物の析出物を抑制し、スラブ表面割れを防止する上でも有効な元素である。このような効果を発現させるためには、少なくとも 0.001%の含有を必要とする。一方、0.20%を超える含有は、合金コストの上昇を招くだけでなく、TiCの析出量を増大させて、TRIP効果を発現させるための残留オーステナイトを減少させてしまう他、析出強化能が大きくなりすぎ、高延性が得られなくなる不利が生じる。従って、本発明ではTiの含有量は 0.001〜0.20%の範囲に限定した。好ましくは 0.010〜0.10%である。
【0025】
Caおよび/またはREM :0.0010〜0.010 %
CaおよびREM は、硫化物系介在物の形態を制御する作用を有し、これにより鋼板の伸びフランジ性の向上に有効に寄与する。しかしながら、Ca, REM のうちから選んだ1種または2種の合計量が0.0010%に満たないとその添加効果に乏しく、一方 0.010%を超えると効果は飽和に達する。このため、CaおよびREM は、単独添加または複合添加いずれの場合も0.0010〜0.010 %の範囲で含有させるものとした。より好ましい範囲は0.0010〜0.005 %である。
【0026】
以上、必須成分について説明したが、本発明ではその他にも、以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
NbおよびVのうちから選んだ1種または2種合計:0.001 〜0.30%
NbおよびVはいずれも、Tiと同様、NbC,VCを析出して、連続焼鈍時の加熱段階でのフェライト相の成長を抑え、鋼組織を微細化して、穴拡げ性を著しく向上させるのに有用な元素である。かかる効果を発現させるためには、少なくとも 0.001%の添加を必要とする。一方、0.30%超の含有は析出強化によりYSが上昇し、加工性が低下してしまうだけでなく、TRIP効果を発現させるための残留オーステナイトを減少させてしまう不利が生じる。また、Nb,Vは、Tiよりも低温で炭化物を生成し、これが結晶粒界に優先的に析出するとスラブの表面割れの原因となる。従って、本発明では、Nb,Vは、単独添加または複合添加いずれの場合も 0.001〜0.30%の範囲で含有させるものとした。より好ましい範囲は 0.001〜0.10%である。
【0027】
Cr:1.5 %以下、Mo:0.5 %以下およびB:0.010 %以下のうちから選んだ1種または2種以上
Cr,MoおよびBはいずれも、鋼の焼入性を向上させ、低温変態相の生成を促進す作用を有する有用元素である。しかしながら、上記の作用は、Crが 1.5%超、Moが 0.5%超、Bが 0.010%超の含有では、その効果が飽和し、含有量に見合うだけの効果が期待できず、むしろ経済的な不利を生じる。従って、Crは 1.5%以下、Moは 0.5%以下、Bは 0.010%以下で含有させるものとした。なお、より好ましい範囲は、Cr, Mo, Bのうちから選んだ1種または2種合計で0.0005〜1.0%である。
【0028】
以上、本発明の好適成分組成について説明したが、本発明では、鋼組織も重要で、フェライト、残留オーステナイトおよび低温変態相からなる複合組織とすることが肝要である。
フェライト
フェライトは、鉄炭化物を含まない軟質な相であり、高い変形能を有し、鋼板の延性を向上させる。本発明の鋼板では、このようなフェライトを、体積率で30%以上含有させる必要がある。というのは、フェライト量が30%未満では、顕著な延性向上効果が期待できないからである。より好ましいフェライト量は50%以上である。
【0029】
残留オーステナイト
残留オーステナイトは、加工時にマルテンサイトに歪誘起変態し、局所的に加えられた加工歪を広く分散させ、鋼板の延性を向上させる作用を有する。本発明の鋼板では、このような残留オーステナイトを、体積率で2%以上含有させるものとした。というのは、残留オーステナイト量が2%未満では、顕著な延性の向上が期待できないからである。より好ましい残留オーステナイト量は5%以上である。
【0030】
低温変態相
本発明でいう低温変態相とは、マルテンサイトあるいはベイナイトを指す。
マルテンサイトおよびベイナイトは、ともに硬質相であり、組織強化によって鋼板の強度を増加させる作用を有している。また、変態生成時に可動転位の発生を伴うため、鋼板の降伏比を低下させる作用も有する。そして、上記の作用を十分に得るためには、低温変態相はマルテンサイトとするのがより好適である。なお、この低温変態相の量は特に限定されず、鋼板の強度に応じて適宜配分すればよい。
【0031】
また、本発明では、上記したフェライトの結晶粒径も重要である。
すなわち、結晶粒の微細化は、鋼板の伸びフランジ性の向上に有効に寄与する。そこで、本発明では、複合組織中のフェライトの平均結晶粒径を15μm 以下に制限することにした。その理由は、フェライトの平均結晶粒径が15μm を超えると、伸びフランジ性の顕著な向上作用が期待できないからである。より好ましくは10μm 以下である。
【0032】
さらに、本発明では、鋼板の表面性状も重要であり、鋼板最表層から10nm深さまでのGDS分析によるSiとFeの強度比Si/Feを 6.0以下とするか、あるいは鋼板の表層におけるFT−IR分析によるSiO2とMn2SiO4 の強度比SiO2/Mn2SiO4を 1.5以下とする必要がある。
というのは、上記した強度比(Si/Fe)が 6.0を超えると、鋼板表面のSi酸化物が原因となって、電着塗装後、塩温水のような劣悪な環境に曝された場合に、塗膜の2次密着性が著しく劣化するからである。より好ましい範囲は、Si/Fe≦3.0 である。
【0033】
また、鋼板表面に生成するSi酸化物は、SiO2とMn2SiO4 が主であるが、このうちMn2SiO4 は化成処理性に悪影響を及ぼさず、SiO2がMn2SiO4 に比較して少ない場合には、良好な化成処理性を呈することが判明した。そして、生成した酸化物をFT−IRによって分析した場合、SiO2とMn2SiO4 の強度比SiO2/Mn2SiO4 が1.5 を超えると、塩温水環境において鋼板と塗膜との間で酸化還元反応が生じ易くなり、塗膜の二次密着性が劣化することが分かった。
そこで、FT−IR分析を利用した場合におけるSiO2とMn2SiO4 の強度比SiO2/Mn2SiO4 は 1.5以下、好ましくは 1.2以下としたのである。
ここで、SiO2とMn2SiO4 の強度比SiO2/Mn2SiO4 は、FT−IR分析でのWave number :1250 /cm近傍部に現れるSiO2ピークと Wave number:1000 /cm近傍部に現れるMn2SiO4 ピークの高さ比で求めるものとする。
【0034】
なお、上記したGDS分析によるSiとFeの強度比Si/Feが 6.0以下、あるいはFT−IR分析によるSiO2とMn2SiO4 の強度比SiO2/Mn2SiO4 が 1.5以下のうちいずれか一方を満足すれば、塗膜の二次密着性は確保できるけれども、SiとFeの強度比Si/Feが 6.0以下とSiO2とMn2SiO4 の強度比SiO2/Mn2SiO4 が 1.5以下の両方を満たせばより好ましいことは言うまでもない。
【0035】
また、鋼板の最表層から10nm超えの深さ領域は、耐塩温水2次密着性には何ら影響を及ぼさないため、本発明では、GDS分析によってSiとFeの強度比を測定すべき深さを鋼板の最表層から10nm深さまでとした。なお、FT−IR分析によるSiO2とMn2SiO4 の強度比については、測定深さはあえて問わない。
【0036】
次に、本発明の鋼板の製造方法について説明する。
上記の好適成分組成に調製した溶鋼を、公知の方法で鋳造し、常法に従って熱間圧延ついで冷間圧延したのち、連続焼鈍による加熱後、冷却し、その途中、所定の温度で保持処理を行ったのち、冷却して製品とする。
【0037】
本発明では、上記の製造工程において、連続焼鈍の際にAc1変態点以上の温度に加熱すること、冷却の際に10℃/s以上の速度で急冷すること、急冷の終了温度を 300〜500 ℃とし、この温度域に60秒以上滞留させること、そして冷却中あるいは冷却後に酸洗処理および/またはブラシ処理を施して、鋼板最表層から10nm深さまでのGDS分析によるSiとFeの強度比Si/Feを 6.0以下にすること、あるいは上記の連続焼鈍工程において、炉内の雰囲気露点を−30℃以上とすることにより、鋼板最表層から10nm深さまでのFT−IR分析によるSiO2とMn2SiO4 の強度比SiO2/Mn2SiO4 を1.5 以下とすることが重要である。
【0038】
以下、製造条件を、上記の範囲に限定した理由について説明する。
加熱温度:Ac1変態点以上
連続焼鈍における加熱温度はAc1変態点以上にしなければならない。その理由は、(α+γ)2相域まで加熱しないことには残留オーステナイトが得られず、TRIP効果が発現しないからである。従って、本発明では加熱温度の下限をAc1変態点とした。なお、加熱温度が 850℃を超えて高くなるとフェライト粒径が大きくなって、伸びフランジ性が低下するおそれがあることから、加熱温度の上限は850 ℃程度とすることが好ましい。
【0039】
また、Ac1変態点以上の温度域における炉内の雰囲気露点を−30℃以上とすることで、前述したSiO2/Mn2SiO4 比を 1.5以下とすることができる。Ac1変態点以上の温度域での炉内雰囲気露点が−30℃未満では、SiO2のMn2SiO4 に対する生成量が多くなり、強度比SiO2/Mn2SiO4 が 1.5を超えてしまう。Ac1変態点未満の温度域についてはSiO2の生成量が少ないので、特に炉内雰囲気の露点調整を行う必要はない。
なお、後述する酸洗処理あるいはブラシ処理により、SiとFeの強度比Si/Feを 6.0以下とする場合には、Ac1変態点以上の温度域における雰囲気露点の調整は必ずしも必要ではない。
【0040】
冷却速度:10℃/s以上
冷却速度を10℃/sとした理由は、10℃/sに満たない冷却速度では、オーステナイト相はパーライトもしくはべイナイトに変態し、残留オーステナイトが消失してしまうため、TRIP効果が得られなくなるからである。 より好ましくは20℃/s以上の速度である。
【0041】
急冷終了温度:300 〜500 ℃
急冷終了温度を 300〜500 ℃にした理由は、 300℃を下回る温度まで急冷すると、オーステナイト相は全てマルテンサイトに変態してしまうからであり、また500 ℃超の温度ではオーステナイト相はほとんどがパーライトもしくはベイナイトに変態してしまい、TRIP効果が期待できなくなるからである。 より好ましい温度域は 350〜450 ℃である。
【0042】
保持時間:60秒以上
急冷後、 300〜600 ℃の温度域に60秒以上に滞留させるのは、60秒未満の短時間で 300℃未満の温度域に達すると、ほとんどの残留オーステナイトがマルテンサイトに変態してしまうため、プレス加工時にTRIP効果が発現しなくなるからである。 一方、あまりに長時間では、べイナイト変態の生成ノーズにかかり、残留オーステナイトが減少するので好ましくない。 特に好ましい保持時間は60〜1200秒である。
【0043】
冷却中あるいは冷却後の酸洗処理および/またはブラシ処理
塗装後の耐塩温水2次密着性を向上させるためには、鋼板表面に濃化したSi酸化物を除去し、GDS分析によるSiとFeの強度比Si/Feを 6.0以下とすることが不可欠である。 このために、上記の冷却中あるいは冷却後に酸洗処理および/またはブラシ処理を行う。
酸洗処理によりSi/Feを 6.0以下とするには、例えば、50℃の(1%塩酸+25%硝酸)混合液中に10秒以上浸漬して酸洗する方法が挙げられるが、これに限定されるものではない。
また、ブラシ処理によりSi/Feを 6.0以下とするには、例えば♯240 のSiCを埋め込んだ芯材を有する300 mmφのブラシロールを少なくとも1rpm 以上の回転速度で回転させながら、圧力:29.4 N/cm2以上の圧力で鋼板に対して押し付け、鋼板表面をこすることが好適である。
なお、前述した連続焼鈍時に、Ac1変態点以上の温度域における雰囲気露点を−30℃以上に制御した場合には、かような酸洗処理やブラシ処理は必ずしも必要ではない。
【0044】
また、上記したような連続焼鈍後、形状矯正や粗度調整の目的で調質圧延を行うことは有利である。ただし、かような調質圧延を施さなくても、特に材質上の問題はない。
【0045】
【実施例】
実施例1
表1に示す成分組成になる溶鋼を、転炉にて溶製し、連続鋳造によりスラブとした。得られたスラブを、板厚:3.0 mmまで熱間圧延し、ついで酸洗後、冷間圧延により板厚:1.6 mmの冷延鋼板とした。
ついで、これらの冷延鋼板を、連続焼鈍ラインにて、表2に示す条件で、加熱保持したのち、冷却し、冷却後、53℃の(0.6%HCl + 26%HNO3)混合液中に6〜21秒間浸漬する酸洗処理または55℃の5%HCl 溶液中に17秒間浸漬する酸洗処理あるいはブラシ処理を施し、ついで水洗、乾燥後、圧下率:0.5 %の調質圧延を施して製品とした。
得られた鋼板のミクロ組織および表面性状について調べた結果を、表2に併記する。
また、スラブ製造時における表面割れの発生状況、製品板の機械的特性および耐塩温水2次密着性について調査した結果を、表3に示す。
【0046】
スラブの割れについては、目視で判定し、割れの有無で評価した。
また、スラブから高温引張り試験用のサンプルを切り出し、引張り試験片に加工後、1200℃で10分間の溶体化処理を施し、 100℃/分の冷却速度で 800℃まで冷却し、20分間保持してのち、引張り試験を行い、原断面直径(D0 )と引張り後の破断面直径(D)から、次式
絞り比(%)=(D0 −D)/D0 ×100
により、絞り比を求めた。
【0047】
鋼板のミクロ組織は、鋼板の圧延方向断面を光学顕微鏡または走査型電子顕微鏡で観察することにより調査した。 倍率:1000倍の断面組織写真を用いて、画像解析により任意に設定した 100mm四方の正方形領域内に存在するフェライト相の占有面積率を求め、該当相の体積率とした。
また、残留オーステナイト量は、鋼板を板厚方向の中心面まで研磨し、板厚中心面での回折X線強度測定により求めた。入射X線には MoKα線を使用し、残留オーステナイト相の{111}、{200}、{220}、{311}各面の回折X線強度比を求め、これらの平均値を残留オーステナイトの体積率とした。
フェライト粒径は、JIS Z 0552に規定の方法に準拠して結晶粒度を測定し、平均結晶粒径に換算した。
【0048】
鋼板の機械的特性は、以下の引張り試験および穴拡げ試験などにより測定した。
引張り特性は、鋼板から圧延直角方向に採取したJIS Z 2204に規定の5号試験片を用いて、JIS Z 2241に規定の方法に準拠して、耐力(YS) ,引張り強さ(TS)、破断伸び(El)、降伏伸び(YEl) を測定した。
伸びフランジ性は、JFS T 1001に規定の方法に準拠して穴拡げ率(A) を測定し、この値で評価した。
【0049】
耐塩温水2次密着性は、市販の液を用いて 150mm×75mmの試験片に化成処理を施したのち、厚さが25μm になるように電着塗装し、ついでカッターナイフで、(長さ:45mm、3本)/試験片の切り込みを入れて、5%NaCl, 55℃の塩温水中に 240時間浸漬したのち、セロハンテープを切り込み上に貼って、剥がしたあとのはく離幅を測定して、評価した。 ここに、最大はく離全幅が 5.0mm以下であれば、耐塩温水2次密着性は良好といえる。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
表2,3に示したとおり、本発明の要件を満足する発明例はいずれも、強度−延びバランス(TS×El)が 20000 MPa・%以上と極めて良好な値を示し、また強度−穴拡げバランス(TS×λ)が 40000 MPa・%以上と伸びフランジ性にも優れていた。さらに、スラブ製造時に表面割れの発生がなく、また電着塗装後の耐塩温水2次密着性も良好であった。
また、本発明の鋼板は、表面粗度形態を制御しているので摩擦係数が非常に小さく、プレス成形性に優れていることも確認されている。
【0054】
実施例2
表4に示す成分組成になる溶鋼を、転炉にて溶製し、連続鋳造によりスラブとした。得られたスラブを、板厚:3.0 mmまで熱間圧延し、ついで酸洗後、冷間圧延により板厚:1.4 mmの冷延鋼板とした。
ついで、これらの冷延鋼板を、連続焼鈍ラインにて、表5に示す条件で加熱保持したのち、冷却し、圧下率:0.5 %の調質圧延を施して製品とした。
得られた鋼板のミクロ組織および表面性状について調べた結果を、表5に併記する。
また、スラブ製造時における表面割れの発生状況、製品板の機械的特性および耐塩温水2次密着性について調査した結果を、表6に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
【表5】
【0057】
【表6】
【0058】
表5,6に示したとおり、本発明の要件を満足する発明例はいずれも、強度−延びバランス(TS×El)が 20000 MPa・%以上と極めて良好な値を示し、また強度−穴拡げバランス(TS×λ)が 40000 MPa・%以上と伸びフランジ性にも優れていた。さらに、スラブ製造時に表面割れの発生がなく、また電着塗装後の耐塩温水2次密着性も良好であった。
また、本発明の鋼板は、表面粗度形態を制御しているので摩擦係数が非常に小さく、プレス成形性に優れていることも確認されている。
【0059】
【発明の効果】
かくして、本発明によれば, 高延性でかつ、優れた伸びフランジ性を有する高強度冷延鋼板を、安価にしかも安定して製造することができる。
従って、本発明の冷延鋼板を自動車部品用素材として適用することにより、自動車の軽量化、低燃費化が可能になり、ひいては地球環境の改善に大きく貢献する。
Claims (8)
- 質量%で、
C:0.05〜0.35%、
Si:0.5 〜3.0 %、
Mn:0.5 〜3.0 %、
P:0.05%以下、
S:0.005 %以下、
Al:0.10%未満、
N:0.0020〜0.0100%および
Ti:0.001 〜0.20%
を含み、かつ
Caおよび/またはREM :0.0010〜0.010 %
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、さらにフェライト、残留オーステナイトおよび低温変態相からなる複合組織であって、該フェライトを体積率で30%以上、該残留オーステナイトを体積率で2%以上を含む鋼組織を有し、しかも該フェライトの平均結晶粒径が15μm 以下で、かつ鋼板の最表層から10nm深さまでのGDS分析によるSiとFeの強度比Si/Feが 6.0以下であることを特徴とする、耐塩温水2次密着性に優れた高強度高延性冷延鋼板。 - 質量%で、
C:0.05〜0.35%、
Si:0.5 〜3.0 %、
Mn:0.5 〜3.0 %、
P:0.05%以下、
S:0.005 %以下、
Al:0.10%未満、
N:0.0020〜0.0100%および
Ti:0.001 〜0.20%
を含み、かつ
Caおよび/またはREM :0.0010〜0.010 %
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、さらにフェライト、残留オーステナイトおよび低温変態相からなる複合組織であって、該フェライトを体積率で30%以上、該残留オーステナイトを体積率で2%以上を含む鋼組織を有し、しかも該フェライトの平均結晶粒径が15μm 以下で、かつ鋼板の表層におけるFT−IR分析によるSiO2とMn2SiO4 の強度比SiO2/Mn2SiO4 が1.5 以下であることを特徴とする、耐塩温水2次密着性に優れた高強度高延性冷延鋼板。 - 請求項1または2において、鋼板がさらに、質量%で、
NbおよびVのうちから選んだ1種または2種合計:0.001 〜0.30%
を含有する組成になることを特徴とする、耐塩温水2次密着性に優れた高強度高延性冷延鋼板。 - 請求項1,2または3において、鋼板がさらに、質量%で、
Cr:1.5 %以下、
Mo:0.5 %以下および
B:0.010 %以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成になることを特徴とする、耐塩温水2次密着性に優れた高強度高延性冷延鋼板。 - 質量%で、
C:0.05〜0.35%、
Si:0.5 〜3.0 %、
Mn:0.5 〜3.0 %、
P:0.05%以下、
S:0.005 %以下、
Al:0.10%未満、
N:0.0020〜0.0100%および
Ti:0.001 〜0.20%
を含み、かつ
Caおよび/またはREM :0.0010〜0.010 %
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼スラブを、熱間圧延した後、冷間圧延し、ついで連続焼鈍によりAc1変態点以上の温度に加熱した後、10℃/s以上の冷却速度で 300〜500 ℃の温度域に冷却し、この温度域に60秒以上滞留させたのち、冷却中あるいは冷却後に酸洗処理および/またはブラシ処理を施して、鋼板の最表層から10nm深さまでのGDS分析によるSiとFeの強度比Si/Feを 6.0以下とすることを特徴とする、耐塩温水2次密着性に優れた高強度高延性冷延鋼板の製造方法。 - 質量%で、
C:0.05〜0.35%、
Si:0.5 〜3.0 %、
Mn:0.5 〜3.0 %、
P:0.05%以下、
S:0.005 %以下、
Al:0.10%未満、
N:0.0020〜0.0100%および
Ti:0.001 〜0.20%
を含み、かつ
Caおよび/またはREM :0.0010〜0.010 %
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼スラブを、熱間圧延した後、冷間圧延し、ついで連続焼鈍により、炉内の雰囲気露点が−30℃以上の条件下でAc1変態点以上の温度に加熱して、鋼板の表層におけるFT−IR分析による SiO 2 と Mn 2 SiO 4 の強度比 SiO 2 / Mn 2 SiO 4 を 1.5 以下とした後、10℃/s以上の冷却速度で 300〜500 ℃の温度域に冷却し、この温度域に60秒以上滞留させたのち冷却することを特徴とする、耐塩温水2次密着性に優れた高強度高延性冷延鋼板の製造方法。 - 請求項5または6において、鋼スラブがさらに、質量%で、
NbおよびVのうちから選んだ1種または2種合計:0.001 〜0.30%
を含有する組成になることを特徴とする、耐塩温水2次密着性に優れた高強度高延性冷延鋼板の製造方法。 - 請求項5,6または7において、鋼スラブがさらに、質量%で、 Cr:1.5 %以下、
Mo:0.5 %以下および
B:0.010 %以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成になることを特徴とする、耐塩温水2次密着性に優れた高強度高延性冷延鋼板の製造方法。
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