JP3812108B2 - 中心部特性に優れる高張力鋼およびその製造方法 - Google Patents
中心部特性に優れる高張力鋼およびその製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、900MPa以上の引張強さを有する溶接性と中心部靭性に優れる高張力鋼、とくに、天然ガスや原油輸送用ラインパイプ、各種圧力容器等に利用される高張力鋼およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
天然ガス、原油等を長距離輸送するパイプラインにおいて、輸送コストの低減は普遍的なニーズであり、操業圧力の上昇による輸送効率の改善が必要とされている。操業圧力を高めるには、従来の強度グレードのパイプの肉厚を増加させる方法が考えられるが、この方法では現地での溶接施工能率を低下させるとともに構造物の重量増加による施工効率の低下を生じる問題がある。これに対しパイプ素材そのものを高強度化し肉厚の増大を制限するニーズが高まっており、たとえば、米国石油協会(API)においてX80グレード鋼が規格化され実用に供されている。
【0003】
X80より高強度のラインパイプ用鋼材として、Mn含有率を高くしたX100グレード超の高強度鋼およびその製造方法が、特開平8−199292号公報、特開平8−209290号公報、特開平8−209291号公報、特開平8−269544号公報、特開平8−269545号公報、特開平8−269546号公報に開示されている。
【0004】
Mnを高めた高強度鋼は安価に高強度化することが可能であるが、Mnが2%を超えるような高強度鋼を連続鋳造法によって鋳造すると鋳片中心部へのMnの偏析が著しくなるために、特にX100グレードを超える高強度鋼では低温靱性や耐水素誘起割れ性(耐HIC性)などの特性が悪くなる。
【0005】
一方、Mnを2%以下とした高強度鋼において、近年ではCuの時効析出を利用したX100グレードを超える高強度鋼およびその製造方法が、特開平8−104922号公報、特開平8−209287号公報、特開平8−209288号公報に開示されている。しかしながら、Cuの析出強化を利用する方法によると、母材の高強度と優れた現地溶接性は得られるものの、マトリックス中に分散したCu析出物のために優れた靭性を兼ね備えるには不十分である。
【0006】
これらに対し、Mnを1.5%以下に制限して高強度鋼を製造する方法が特開平8−269542号公報に開示されている。この方法によれば、Cu含有率を0.5%以上という比較的低めに設定するにもかかわらず高強度を得ることが可能である。しかし、B含有率を0.0004%以下に制限しているために十分な焼入性を得ることができず、使用状態の鋼の靭性を左右する中心部の靭性に最も好適な下部ベイナイトとマルテンサイトの混合組織を得ることができない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、900MPa以上の引張強さを満足する溶接性と中心部特性に優れた高張力鋼を提供することにある。具体的には下記の性質を全て備える高張力鋼およびその製造方法を提供することにある。
【0008】
母材 :(1)TS≧900MPa (2)vEー40≧120J
溶接部:(1)TS≧900MPa (2)vE-20≧70J
耐HIC性:NACEの定めるTM0177溶液中での割れ率1%以下
現地溶接性:y開先溶接割れ試験において予熱なしの条件で割れなし
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは母材の引張強さが900MPa以上の各種の鋼について実験を行い下記の事項を確認することができた。
【0010】
(a)Mnを2%以下(好ましくは1.7%未満)に抑えると、中心部の偏析を大幅に軽減することができる。その結果、中心部の耐HIC性が大幅に向上する。
【0011】
(b)Mn低下にともなう焼入性の低下、およびそれに起因する強度と靭性の低下等は、Cuの析出強化を利用することなくCr、Mo、Bの増量により補うことができ、かつ高Mn鋼に比較して一層良好な靭性を確保することができる。
【0012】
(c)上記(b)のB、Cr、Moの増量の程度は、焼入性を向上させ、全板厚にわたってつぎの金属組織が得られるようにする。すなわち、マルテンサイトと下部ベイナイトの混合組織が、体積率で90%以上となるようにし、かつ該混合組織中の下部ベイナイトの体積率を10%以上とする。
【0013】
本発明は上記事項を組み合わせて現場試作を経て完成されたもので、その要旨は下記の高張力鋼およびその製造方法にある。
【0014】
(1)質量%にて、C:0.02〜0.1%、Si:0.6%以下、Mn:0.2%〜2%、Ni:0.2〜1.2%、Ti:0.005〜0.03%、Al:0.1%以下、N:0.001〜0.006%、B:0.0005〜0.0025%、Cr:0.6%超え1.2%以下、Mo:0.6%超え1.2%以下、 P:0.015% 以下及び S:0.003% 以下を含有し、さらに、Cu:0.6%以下、Nb:0.1%以下、V:0.1%以下およびCa:0.006%以下のうちの1種または2種以上を含み、残部 Fe および不可避的不純物元素からなり、下部ベイナイトとマルテンサイトの混合組織の体積率が金属組織全体の90%以上、該混合組織のなかでの下部ベイナイトの体積率が10%以上であり、かつ旧オーステナイト粒のアスペクト比が3以上である引張強さが900MPa以上の中心部特性に優れた高張力鋼。
【0015】
(2)鋳片を、900〜1200℃に加熱後圧延し、オーステナイトの未再結晶温度域での累積圧下率を50%以上とし、Ar3点以上で圧延を終了し、Ar3点以上から10〜45℃/sの範囲内の冷却速度で少なくとも500℃まで冷却する上記(1)に記載する高張力鋼の製造方法。
【0016】
(3)さらに、Ac1点未満で焼戻処理を加える上記(2)の製造方法。
【0017】
上記各発明において、金属組織中にオーステナイトが残留する場合はX線回折によりその体積率を求める。そのほか、上部ベイナイト、パーライト等はピクラール等でエッチした金属面を光学顕微鏡で観察することにより下部ベイナイトおよびマルテンサイトとの混合組織と識別することができる。また、これらの組織中に生成する炭化物もそれぞれの組織内で形態的な特徴を有するので、炭化物を抽出したレプリカを2000倍程度の倍率で電子顕微鏡観察することにより識別でき、したがって下部ベイナイトとマルテンサイトの混合組織の比率を求めることができる。この体積率は10〜30視野で平均化した体積率をさす。さらに判別が困難な場合は、薄膜を電子顕微鏡により透過観察を行う。この場合には倍率が5000倍以上となるので、視野数を20〜50視野程度に増やして平均するのがよい。
【0018】
旧オーステナイト粒のアスペクト比とは、圧延方向に延伸したオーステナイト粒の径(長径)を板厚方向の径(短径)で除した値をさす。
【0019】
未再結晶温度域は再結晶が生じない温度域をさす。900MPa以上の引張強さを満たすほど合金元素を含む鋼の場合、未再結晶温度域は975℃以下Ar3点以上の温度域が該当する。累積圧下率はこの未再結晶温度域での累積圧下率をさし、(975℃での肉厚−Ar3点での肉厚)/(975℃での肉厚)をいう。
【0020】
圧延後の冷却速度および冷却停止温度等は、肉厚中心部における冷却速度および冷却停止温度等をさす。
【0021】
【発明の実際の形態】
つぎに、本発明を上記のように限定した理由を詳述する。以後の説明において合金元素の含有率の「%」は「質量%」を表示する。
【0022】
1.化学組成
C:0.02〜0.1%
Cは強度上昇に有効な元素であり、本発明鋼において所望の強度を得るためには0.02%以上が必要である。しかし、0.1%を超えると鋼の靱性を劣化させるだけでなく、現地での溶接施工性を著しく劣化させるため、上限を0.1%と制限する。
【0023】
Si:0.6%以下
Siは脱酸に有効な元素であるが、0.6%を超えると溶接熱影響部(HAZ:Heat Affected Zone)の靭性を低下させるだけでなく、加工性を劣化させるため上限を0.6%とする。Si含有率は実質的に0でも良いが、Siを0にすると脱酸時にAlの損失が大きくなるので、通常は脱酸をおこなって残存する程度の含有率、例えば0.01%程度が下限として望ましい。
【0024】
Mn:0.2〜2%
Mnは強度上昇に有効な元素であり、そのためには、0.2%以上の含有率とする。しかし、2%を超えると中心部の特性が劣化するため、引張強さにおいて900MPa以上の高強度鋼を製造する場合には、Mn含有率を2%以下に制限することが必要であり、望ましくは1.7%未満に抑える必要がある。さらに望ましくは1.5%未満にするのが良い。
【0025】
Ni:0.2〜1.2%
Niは強度上昇に有効な元素であると同時に、靱性および脆性亀裂の伝播停止特性を改善する効果を有する。このためにNiは0.2%以上とする。しかし、1.2%を超えるとコストアップに見合うだけの強度上昇と靭性の改善が得られないので上限を1.2%とする。
【0026】
Ti:0.005〜0.03%
Tiはスラブ加熱時のオーステナイト結晶粒の微細化に有効な元素であり、0.005%以上とする。特にNb含有鋼の場合には、Nbによって助長される連続鋳造スラブ表面のヒビワレを抑制するのに微量Tiが有効である。0.005%以上含有することによりこのような効果を発揮する。しかしながら0.03%を超えると、TiNが粗大化しオーステナイト結晶粒の微細化効果が消滅するため、Tiの上限は0.03%とする。
【0027】
Al:0.1%以下
Alは、通常、脱酸剤として鋼に添加される。酸素と結合せずに鋼中に残留するAl、すなわちsolAlは、AlNの析出による組織の微細化作用を有しており、母材靱性の改善からも有用な元素である。上記Alは、solAlおよび酸素と結合したAlすなわちinsolAlの両方をさす。過剰なAlは酸化物等の介在物の粗大化を招き鋼の清浄度を害するため、その上限を0.1%とする。好ましい上限値は0.06%さらに好ましくは0.05%である。
【0028】
N:0.001〜0.006%
NはTiとともにTiNを形成しスラブ再加熱時および溶接時のオーステナイト粒の粗大化を抑制する作用を有する。このような効果を得るための下限値は0.001%である。一方、Nの増加はスラブ品質の劣化および固溶Nの増加によるHAZ靱性の劣化を生じるためその上限値を0.006%とする。
【0029】
B:0.0005〜0.0025%
Bは0.0005%未満では強度確保ができないので、0.0005%以上とする。一方、0.0025%を超えると靭性が劣化するため、上限を0.0025%とする。
【0030】
Cr:0.6%超え1.2%以下
Crは高Mn含有による中心部特性の劣化を回避し、かつ強度を満足させるために添加する。強度確保のためには0.6%を超えて含有させることが必要である。しかしながら1.2%を超えるとCr系の炭化物量が増加し靭性が劣化するため、上限を1.2%とする。
【0031】
Mo:0.6%超え1.2%以下
Moは、Mnを高めることなく焼入性を確保することができ、中心部特性の劣化を回避しかつ強度を満足させるので、0.6%を超える含有率とする。しかしながら1.2%を超えるとMo系の炭化物量が増加し靭性が劣化するため、上限を1.2%とする。
【0032】
本発明にかかる高張力鋼は、上記の合金元素に加えて、次のとおり、Cu、Nb、V及びCaのうちの1種または2種以上を含有させる必要がある。
Cu:0.6%以下
Cuは強度上昇に有効な元素である。添加する場合には、0.2%以上の含有率とすることが望ましい。しかし、0.6%を超えると靭性が劣化するため、上限は0.6%とする。
【0033】
Nb:0.1%以下
Nbは制御圧延においてオーステナイト結晶粒の微細化に有効な元素である。添加する場合には、0.01%以上含有させることが望ましい。しかし0.1%を超えると靭性が劣化するばかりか現地での溶接施工性を著しく劣化するため、上限を0.1%とする。
【0034】
V:0.1%以下
Vは強度上昇に有効な元素である。TS900MPaを確保するために添加する場合には0.01%以上含有させるのが望ましい。しかし、0.1%を超えると靭性を劣化させるため、上限を0.1%とする。強度と靭性の両方をともに良好にするには、0.02〜0.06%程度含有させるのが望ましい。
【0035】
Ca:0.006%以下
CaはMnSの形態を制御し鋼の圧延方向と直角方向の靱性を向上させる作用がある。添加する場合には、0.0003%以上含有させるのが望ましい。一方、0.006%を超えると鋼中の非金属介在物が増加し内部欠陥の原因となるので0.006%以下とする。
【0036】
P:0.015%以下、S:0.003%以下
PやSの含有率は鋼の靱性に著しい影響を及ぼすため含有率の低減を図る必要がある。Pの低減はスラブの中心偏析を軽減するとともに、粒界での脆性破壊を低減する。SはMnSとなって鋼中に析出し、これが圧延により延伸し靱性に悪影響を及ぼす。これらの悪影響を抑制するためには、Pを0.015%以下、かつSを0.003%以下とする。
【0037】
個々の合金元素の制限に加えて本発明ではさらに炭素当量(=C+(Mn/6)+{(Cu+Ni)/15}+{(Cr+Mo+V)/5}:単位 wt% )を0.4〜0.65%の範囲に制限することが望ましい。炭素当量の制限により母材のみならずHAZにおいても下部ベイナイトとマルテンサイトの混合組織とすることができ、靱性劣化を伴うことなく広い製造範囲で所望の組織を有する鋼を得ることが可能である。炭素当量が0.4%未満の場合には焼入性の不足から母材の引張強さを900MPa以上とすることが困難となり、また、炭素当量が0.65%を超える場合には焼入性は過度に上昇しHAZ靱性および鋼板表面での靱性が劣化する場合がある。
【0038】
2.金属組織
母材の強度と靱性を同時に満たすためには下部ベイナイトとマルテンサイトの混合組織とし、両組織をあわせて体積率90%以上とする。上限は100%であってもよい。ここでいう下部ベイナイトとはラス状ベイニティックフェライト内部に同フェライトの端面と60度の角度をなす面上にセメンタイトが整列析出した組織をいう。すなわち、セメンタイトとフェライトとは当該フェライト端面において一定の方位関係を満足する。したがって、1つのベイニティックフェライト内部の析出面は1つのみである。焼戻マルテンサイトもマルテンサイトラス内部にセメンタイトが析出した組織であるが、セメンタイトの析出面に4つのバリアント(立方晶のなかで等価な4つの面)が存在することが下部ベイナイト中のセメンタイトとの相違点である。下部ベイナイトとマルテンサイトの混合組織の靱性が優れる要因は、マルテンサイトに先んじて生成する下部ベイナイトが「壁」となってオーステナイト粒を細分し、マルテンサイトの成長およびパケット(脆性破壊の破面単位に一致する)の粗大化を抑制するためである。強度を満足しつつ、靱性を向上させるためには、下部ベイナイトの体積率はマルテンサイトと下部ベイナイトの総計の10%以上とする。すなわち、マルテンサイトと下部ベイナイトの混合組織のなかでの体積率を10%以上とする。ただし、あまり下部ベイナイトの体積率が増えると引張強さが低下して900MPaを満足することができない場合があるので、混合組織中の下部ベイナイトの体積率は75%以下とすることが望ましい。
【0039】
強度を満たすことを前提に、下部ベイナイトとマルテンサイトの混合組織で靱性をより一層改善するためには、下部ベイナイトを微細に分散させることが重要である。このためには、後記するように圧延後未再結晶状態のオーステナイトから変態させる必要がある。これにより下部ベイナイトの核生成サイトが増加し、オーステナイト粒界および粒内の多くのサイトから下部ベイナイトを生成させることができる。こうした効果を出現させるために必要な未再結晶オーステナイトの扁平度はアスペクト比にして3以上必要である。ここで、オーステナイト粒のアスペクト比はオーステナイト粒の圧延方向の直径(長径)を板厚方向の直径(短径)で除した値をさす。
【0040】
3.製造方法
次に製造方法について詳説する。本製造方法において最も肝要なのは、オーステナイト粒界のみならず熱間圧延によって導入された集積転位を保存したオーステナイトの粒内からも下部ベイナイトとマルテンサイトを核生成させ、これを適当な体積率とすることである。鋳片加熱温度については、加熱時のオーステナイト結晶粒の粗大化を防止するために1200℃以下とし、一方、圧延中の結晶粒の微細化および圧延後の析出強化に有効なMo、Nb等の炭窒化物を固溶させるために900℃以上、望ましくは950℃以上とする。圧延温度については十分に管理される必要がある。オーステナイト粒内からのベイニティックフェライトを核生成させ、かつベイニティックフェライトの成長を抑えるためには高密度の転位が必要であり、そのためにはオーステナイトの未再結晶温度域で累積圧下率50%以上の圧延を行うことが必須である。一方、オーステナイトの未再結晶温度域での累積圧下率が90%を超えると機械的性質の異方性が著しくなるので、未再結晶温度域での累積圧下率は90%以下とすることが望ましい。
【0041】
Ar3点未満の温度域を緩冷却されるとき生成する上部ベイナイトを抑制するためには、Ar3点以上から一定範囲の冷却速度で冷却しなければならない。この圧延後の冷却速度は、下部ベイナイトとマルテンサイトの混合組織を上記の体積率とするために必要であり、肉厚中心部の冷却速度で10〜45℃/sの範囲とする。冷却速度が10℃/s未満の場合は上部ベイナイトが生成し、下部ベイナイトとマルテンサイトの混合組織の体積率が90%未満、とくに合金元素が低めの場合には60%未満となるので強度と靱性、アレスト性が劣化する。一方45℃/sを超えると下部ベイナイト組織が生成せずマルテンサイトのみの組織となり、靱性とアレスト性が劣化する。上記冷却速度での冷却は、少なくとも350℃まではおこなう。その後は脱水素のために徐冷してもよい。
【0042】
【実施例】
つぎに実施例により、本発明の効果について説明する。
【0043】
供試鋼板は、表1および表2に示す化学成分を有する鋼を常法により溶製し、連続鋳造し得られた鋳片を表3に示す種々の条件で圧延したもので、板厚は12〜35mmである。表1〜表2の鋼のAr3点は、500〜600℃の範囲にある。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
これらの鋼板の板厚中心部より試験片(引張試験片: JIS Z 2201 10号、衝撃試験片:JIS Z 2202 4号)を採取し、引張試験(JIS Z 2241)および2mmVノッチシャルピー衝撃試験(JIS Z 2242)をおこなった。また、市販のフラックスと100キロハイテン用のワイヤを用いてサブマージアーク溶接による突き合わせ溶接継手についても引張試験とシャルピー衝撃試験をおこなった。
【0048】
また、現地溶接施工性を評価するために、y開先溶接割れ試験(JIS Z 3158)を行った。溶接材料は市販の100キロハイテン用SMAW(Shielded Metal Arc Welding :手溶接)の棒を用い、溶接時溶着金属に含まれる拡散性水素量が1.5cc/100gとなるように吸湿条件を一定に整えた。また、原油や天然ガスと接するので、耐HIC特性の評価をおこなった。短冊状の試験片は4点曲げ拘束治具に装着され試験片中央部に母材の降伏強さの応力がかかるように曲げが加えられ、NACEの定めるTM0177溶液中に720時間浸漬され、割れの有無が調査された。
【0049】
表4はこれら試験の結果を示す一覧表である。
【0050】
【表4】
【0051】
本発明の限定範囲内の化学組成の鋼を用いたにもかかわらず、比較例である試験番号11、12は未再結晶域での累積圧下率が不足したためアスペクト比が3未満となった。その結果、オーステナイト粒内から下部ベイナイトが核発生しないために靭性が低くなった。また、試験番号13、14は冷却速度が小さいために本発明の限定範囲内の組織とならず、引張強さを確保できなかった。試験番号15はC含有率が高すぎ靭性が低く、16はC含有率が低すぎ引張強さを確保できなかった。試験番号17、18、19、21は、それぞれSi、Mn、Cu、Crが高いために引張強さは高いが、靭性が低い。とくにMn含有率の高い18は、中心偏析を反映してHIC特性およびy開先拘束割れ試験も好ましくない結果となった。試験番号20は、Crが少ないために下部ベイナイトとマルテンサイトの混合組織が得られず、強度が不足した。試験番号22はMoが本発明の限定範囲より低いために引張強さが低下し、23はMoが高すぎたので靭性が劣化した。試験番号24、25はそれぞれV、Nbが高いために靭性が劣化し、さらに25ではHIC特性もy開先拘束割れ試験も好ましくない結果となった。試験番号26または28は、TiまたはBが低い場合であるが、いずれの場合も引張強さが低くなった。Tiが低い場合は、NをTiによりTiNとして十分固定できず、Bの大部分がBNを形成してしまいBの焼入性向上効果が発揮されなかったと推定された。TiまたはBが過剰の試験番号27または29はともに靭性が劣化した。Alが過剰の試験番号30は靭性およびy開先拘束割れ試験の性能劣化が著しいものとなった。N含有率が低い試験番号31または高い32はともに靭性が劣化し、かつHIC特性も芳しい結果とならなかった。
【0052】
これに対して、本発明例の試験番号1〜10では900MPa以上の引張強さと−40℃でのシャルピー衝撃試験において120J以上の吸収エネルギーが得られた。また、溶接部について継手部の引張試験およびシャルピー衝撃試験についても、引張強さで900MPa以上、シャルピー衝撃試験では−20℃における吸収エネルギーが70J以上となっている。さらに現地溶接施工において予熱なしで溶接をおこなっても溶接部に割れが発生しなかった。耐HIC特性は割れ率が1%以下となった。
【0053】
【発明の効果】
本発明により、引張強さ900MPa以上を具備し、かつ中心部において靭性、耐HIC特性および溶接性の良好な高張力鋼を得ることができる。その結果、パイプラインの施工能率および輸送効率を飛躍的に改善することが可能となった。
Claims (3)
- 質量%にて、C:0.02〜0.1%、Si:0.6%以下、Mn:0.2%〜2%、Ni:0.2〜1.2%、Ti:0.005〜0.03%、Al:0.1%以下、N:0.001〜0.006%、B:0.0005〜0.0025%、Cr:0.6%超え1.2%以下、Mo:0.6%超え1.2%以下、 P:0.015% 以下及び S:0.003% 以下を含有し、さらに、Cu:0.6%以下、Nb:0.1%以下、V:0.1%以下およびCa:0.006%以下のうちの1種または2種以上を含み、残部 Fe および不可避的不純物元素からなり、下部ベイナイトとマルテンサイトの混合組織の体積率が金属組織全体の90%以上、該混合組織のなかでの下部ベイナイトの体積率が10%以上であり、かつ旧オーステナイト粒のアスペクト比が3以上であることを特徴とする引張強さが900MPa以上の中心部特性に優れた高張力鋼。
- 鋳片を、900〜1200℃に加熱後圧延し、オーステナイトの未再結晶温度域での累積圧下率を50%以上とし、Ar3点以上で圧延を終了し、Ar3点以上から10〜45℃/sの範囲内の冷却速度で少なくとも500℃まで冷却することを特徴とする請求項1に記載する高張力鋼の製造方法。
- さらに、Ac1点未満で焼戻処理を加えることを特徴とする請求項2に記載する製造方法。
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