JP3795775B2 - 下水流入量予測装置および方法、サーバ装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、下水流入量予測装置および方法、サーバ装置に関し、特に下水道処理設備に流入する下水流入量を予測する下水流入量予測装置および方法、サーバ装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
下水処理場では、流入する下水を微生物処理を用いて浄化している。通常、微生物処理はその処理が非常にゆっくりと進むため、その流入量に基づいて効率よく処置を行う必要がある。したがって、下水処理場において、下水の流入量を正確に予測することは極めて重要なファクターとなる。
従来、このような下水流入量を予測する場合、下水場周辺地域における都市設計情報、例えば下水管網の構成、地形、人口などの概略値を元にして物理法則を用いた数式を作成し、その数式を用いて下水流入量を予測していた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような従来の下水流入量の予測技術では、物理法則を用いた数式を用いているため、精度を得るためには多数の要素が必要となるが、数式で取り扱える要素には自ずと限界がある。また、大まかな都市設計情報を用いているため正確に下水流入量を予測することができないという問題点があった。例えば、下水には家庭排水、工場排水および雨水などが含まれており、下水流入量は、下水場周辺の社会変化(例えば、人口や工場の増減)のほか、降雨、さらには特定日(休祭日)や季節変動など、多くの要素の影響を受けて変動する。また、都市の下水管網は極めて複雑であり、これらを物理法則を用いた数式で正確に表すことは困難であった。
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、下水処理場に流入する下水の流入量を精度よく予測できる下水流入量予測装置および方法、サーバ装置を提供することを目的としている。
【0004】
【課題を解決するための手段】
このような目的を達成するために、本発明にかかる下水流入量予測装置は、下水処理設備へ流入する下水の流入量を予測する下水流入量予測装置において、当該下水処理設備で任意の時点に計測された下水流入量を示す第1の流入量データ、この第1の流入量データから所定の予測時間後に計測された下水流入量を示す第2の流入量データ、および第2の流入量データに対応する気象データ、を含む履歴データから作成された複数の事例を有する事例ベースを有し、予測手段で、この事例ベースを用いて、当該下水処理設備で新たに計測された下水の流入量を示す流入量パラメータと気象予測により得られた気象パラメータとからなる予測条件に対応する下水の流入量をリアルタイムで予測し、事例ベースは、履歴データの第1の流入量データと気象データとを入力変数とし、所望の出力許容誤差に応じて量子化された複数の入力空間と、これら入力空間ごとに設けられ、それぞれの入力変数の値に基づき当該入力空間内へ配置された1つ以上の履歴データの第2の流入量データを代表する出力値を持つ事例とを有し、予測手段は、予測条件の入力変数値に対応する事例を事例ベースから検索し、検索した事例の出力値を用いて予測条件に対応する流入量予測データを推定するブラックボックス予測モデルは、1つ以上の履歴データを代表する入力変数値と出力値からなる事例データを複数有する事例ベースからなり、予測手段は、事例ベースから検索した予測条件に対応する入力変数値を持つ事例データの出力値に基づき下水流入量を得るようにしたものである。
【0005】
気象データとしては、流入量データに対応する時点での、当該下水処理設備の処理対象地域における気温および降雨量を用いるようにしてもよい。
【0007】
事例ベースの更新については、適応学習手段をさらに設け、下水処理設備で新たに計測された下水流入量を示す第3の流入量データと、この第3の流入量データから予測時間前に計測された下水流入量を示す第4の流入量データと、第3の流入量データに対応する気象データとの組を用いて、この第4の流入量データおよび気象データに対応する事例ベースの所定事例の出力値を、第3の流入量に基づき改訂することにより事例ベースを更新するようにしてもよい。
【0008】
また、本発明にかかる下水流入量予測方法は、それぞれの下水処理設備へ流入する下水の流入量を各下水処理設備ごとに予測する下水流入量予測方法において、各下水処理設備と通信網を介して接続された予測データ配信サーバで、各下水処理設備のいずれかで新たに計測された下水流入量を示す流入量パラメータを当該下水処理設備から通信網を介して受信し、気象データを提供する気象データ提供センタから通信網を介して流入量パラメータに対応する気象データを気象パラメータとして取得し、当該下水処理場の事例ベースを用いて、流入量パラメータと気象パラメータとからなる予測条件に対応する下水の流入量をリアルタイムで予測し、予測により得られた流入量予測データを当該下水処理設備へ通信網を介して配信し、予測データ配信サーバで、各下水処理設備ごとに事例ベースを作成する際、当該下水処理設備で任意の時点に計測された下水流入量を示す第1の流入量データ、この第1の流入量データから所定の予測時間後に計測された下水流入量を示す第2の流入量データ、および第2の流入量データに対応する気象データ、を含む複数の履歴データを、当該履歴データの第1の流入量データと気象データとからなる入力変数の値に基づき、所望の出力許容誤差に応じて量子化された複数の入力空間へ配置して、これら入力空間ごとに当該入力空間へ配置された1つ以上の履歴データの第2の流入量データを代表する出力値を持つ代表事例を生成することにより事例ベースを作成し、下水流入量を予測する際、当該下水処理設備で新たに計測された下水の流入量を示す第1の流入量パラメータと気象予測により得られた気象パラメータとからなる予測条件の入力変数値に対応する事例を事例ベースから検索し、検索した事例の出力値を用いて予測条件に対応する流入量予測データを推定することにより下水流入量を予測する際、ブラックボックス予測モデルとして、1つ以上の履歴データを代表する入力変数値と出力値からなる事例データを複数有する事例ベースを用い、事例ベースから検索した予測条件に対応する入力変数値を持つ事例データの出力値に基づき下水流入量を得るようにしたものである。
【0010】
また、本発明にかかるサーバ装置は、複数の下水処理設備と通信網を介して接続され、それぞれの下水処理設備へ流入する下水の流入量を各下水処理設備ごとに予測し通信網を介して配信するサーバ装置であって、各下水処理設備のいずれかで新たに計測された下水流入量を示す流入量パラメータを通信網を介して受信するとともに、任意の気象データを提供する気象データ提供センタから流入量パラメータに対応する気象データからなる気象パラメータを通信網を介して取得し、これら流入量パラメータと気象パラメータとからなる予測条件に対応する下水の流入量を当該下水処理場の事例ベースを用いてリアルタイムで予測する流入量予測手段と、この流入量予測手段で得られた流入量予測データを、データ配信手段により、通信網を介して対応する下水処理設備へ配信し、事例ベース作成手段で、当該下水処理設備で任意の時点に計測された下水流入量を示す第1の流入量データ、この第1の流入量データから所定の予測時間後に計測された下水流入量を示す第2の流入量データ、および第2の流入量データに対応する気象データ、を含む複数の履歴データを、当該履歴データの第1の流入量データと気象データとからなる入力変数の値に基づき、所望の出力許容誤差に応じて量子化された複数の入力空間へ配置して、これら入力空間ごとに当該入力空間へ配置された1つ以上の履歴データの第2の流入量データを代表する出力値を持つ代表事例を生成することにより事例ベースを作成し、流入量予測手段は、当該下水処理設備で新たに計測された下水の流入量を示す第1の流入量パラメータと気象予測により得られた気象パラメータとからなる予測条件の入力変数値に対応する事例を事例ベースから検索し、検索した事例の出力値を用いて予測条件に対応する流入量予測データを推定するようにしたものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明の一実施の形態にかかる下水流入量予測装置を示すブロック図である。
以下では、家庭排水、工場排水あるいは雨水などからなる下水を微生物処理して浄化し河川へ放流する下水処理場において、流入する下水流入量を予測する場合を例として説明する。なお、本発明は下水処理場に限定されるものではなく、下水が流入する下水処理設備、例えば下水処理場の上流側に設けられたポンプ場などの設備での下水流入量を予測する場合にも適用できる。
【0013】
下水処理場10には、汚水管(下水管)から流入してきた汚水中の土砂類を取り除くための沈砂池、沈砂池からの汚水に含まれる浮遊物を数時間かけて沈殿させる最初沈殿池、最初沈殿池で得られた上澄みに微生物を含む活性汚泥を加えて空気を吹き込み微生物処理を行うエアレーションタンク、エアレーションタンクでの処理により海綿状となった活性汚泥を数時間かけて沈殿させる最終沈殿池、この最終沈殿池で得られた上澄みに次亜塩素酸ナトリウムなどの減菌液を注入して減菌する減菌池などの施設が設けられており、減菌池で処理された処理水がポンプにより河川や海へ放流される。
【0014】
下水流入量予測装置50では、過去の実績から得られる履歴データ30に基づきブラックボックス予測モデルの1つである事例ベースを生成し、予測する流入量を規定する予測条件40に基づいて、所定時間後に流入される下水の流入量を予測し流入量予測データ20として出力する。下水処理場10では、この流入量予測データ20に基づき下水浄化処理を制御する。
なお、ブラックボックス予測モデルとは、入力値と出力値との組からなる複数の履歴データを用いて抽出された、対象の入出力関係を示す予測モデルである。したがって、物理法則を用いて対象の入出力関係を示す数式を導出する必要がない。
【0015】
下水流入量予測装置50は、履歴データ30や予測条件40を取り込む入力部51と、取り込んだ履歴データ30からなる多数の履歴データ52と、この履歴データ52を用いて多数の事例からなる事例ベース54を生成する事例ベース生成部53と、新たに入力された予測条件40に基づき事例ベース54から類似事例を検索する類似事例検索部56とから構成されている。
【0016】
さらに、類似事例検索部56で検索された1つ以上の類似事例から新規予測条件40に対応する流入量を推定し、例えば60分後〜120分後さらには24時間後における流入量予測データ20を出力する出力推定部57と、新たな履歴データ30に基づき事例ベース54を部分改訂する適応学習部55が設けられている。このうち、事例ベース生成部53、類似事例検索部56、出力推定部57および適応学習部55は、それぞれソフトウェアで実現されている。
【0017】
次に、図1を参照して、本実施の形態にかかる下水流入量予測装置50の動作について説明する。
下水流入量予測装置50では、流入量の予測に先立って、入力部51を介して履歴データ30を取り込み、履歴データ52として格納する。そして、この履歴データ52を用いて事例ベース54を生成する。
履歴データ30としては、流入量データ31、時間データ32および気象データ33が用いられる。
【0018】
このうち流入量データ31は、下水処理場10の流量計で計測された1時間分の時刻流入量や1日分の総流入量など実際に流入した流入量を示すデータである。
時間データ32は流入量データ31が得られた時刻、日種別、季節などを示すデータであり、気象データ33は流入量データ31が得られたときの、当該下水処理場10またはその処理対象地域における気温、降雨量、天候などを示すデータである。
【0019】
履歴データ30のうち、流入量データ31と時間データ32については、下水処理場10で計測されたものが用いられる。また、気象データ33については、下水処理場10またはその処理対象地域で計測されたものを用いてもよく、過去の気象データを気象データ提供者から入手してもよい。
【0020】
類似事例検索部56では、このような履歴データ52に基づき生成された事例ベース54を用いて、入力部51から入力された予測条件40に基づき類似事例を検索する。そして、出力推定部57では、類似事例検索部56で検索された1つ以上の類似事例から予測条件40に対応する流入量を推定し、例えば60分後〜120分後の流入量予測データ20を出力する。
下水処理場10では、この流入量予測データ20に基づき、下水流入量の増加に対する処置を行う。
【0021】
予測条件40は、下水流入量予測装置50で予測する流入量を規定する変数であり、流入量パラメータ41、時間パラメータ42および気象パラメータ43から構成される。
このうち流入量パラメータ41は、上記流入量データ31に対応するものであり、下水処理場10の流量計で計測された時系列の流入量や1日分の総流入量など実際に流入した流入量を示す実績データからなり、予測する流入量の時間位置(例えば90分先)から数時間過去に戻った時点における実績データが用いられる。
【0022】
時間パラメータ42は、上記時間データ32に対応するものであり、予測する流入量の時間位置を示す時刻情報、その日の種別、例えば平日、休日、旧前日、祭日、年末年始、稼働日などを示す日種別情報、およびその日が属する季節を示す季節情報などの時間に関する情報が、単独であるいは組み合わせて用いられる。例えば、明日の正午における流入量を予測する場合、時刻情報として「正午」が設定され、明日が日曜日であれば日種別情報として「休日」が設定される。
【0023】
気象パラメータ43は、上記気象データ33に対応するものであり、予測する流入量の時間位置における気温情報、天候情報、降雨量情報などの環境に関する情報が単独であるいは組み合わせて用いられる。例えば、明日の正午における流入量を予測する場合、気温情報として昨日の同一時刻ここでは昨日正午における気温や明日正午の予想気温などを設定してもよい。また天候情報として明日の予想天気を設定してもよく、降雨量情報として明日の予想降雨量を設定してもよい。
【0024】
なお、気象パラメータとしては、気象データを提供する提供者から所望のパラメータを入手すればよい。例えば、降雨量については、気象庁から1時間周期で、また河川情報センターから10分周期でそれぞれ提供されている。天候については、気象庁の短時間予測や気象レーダによる天候予測値を利用すればよい。また、気温については、気象庁の短時間予測や、下水処理場の対象地区におけるアメダスのデータ、あるいは実際に地区に設置した気温計の計測データを用いればよい。
【0025】
また、履歴データ30や予測条件40で用いる個々の情報については、前述したものに限定されるものではなく、システム構成や要求予測精度に応じて、適時、変更可能である。例えば、予測する流入量と関係のある流入量、例えば予測する流入量から24時間前の流入量や前日の総流入量などの流入量に関する情報などを組み合わせて用いてもよい。このような流入量情報については過去に取り込んだデータを利用できる。
【0026】
実際には、予測時点の時刻T0から所定時間後の時刻T1の下水流入量を予測する場合、予測条件40として時刻T0以前に計測された流入量データ41、時刻T1における時間パラメータ42、および時刻T1における予想の気象パラメータ43を用いればよい。
したがって、事例ベース54を生成する場合に用いる履歴データ30については、時刻整合・時系列化処理を行うことにより、過去に経験した事例の問題に相当する(時刻T0以前に計測された)流入量データ(第1の流入量データ)と、その解答に相当する(時刻T1に計測された)流入量データ(第2の流入量データ)とを生成しておけばよい。
【0027】
適応学習部55では、下水処理設備で新たに計測された下水流入量を含む履歴データ30に基づき、事例ベース54のうちの事例が個別に改訂される。
この場合も、上記と同様に、事例ベース54を改訂する場合に用いる履歴データ30については、時刻整合・時系列化処理を行うことにより、過去に経験した事例の問題に相当する(時刻T0以前に計測された)流入量データ(第4の流入量データ)と、その解答に相当する(時刻T1に計測された)流入量データ(第3の流入量データ)とを生成しておけばよい。また、時間データ32や環境データ33については、解答に相当する流入量データに対応するデータが用いられる。
【0028】
そして、事例ベース54のうち、これら履歴データ30に対応する事例の出力値が、この履歴データ30の出力値により所定の比率で変更される。
なお、履歴データ30に対応する事例が存在しなかった場合は、新たな事例として履歴データ30へ追加される。
【0029】
このように、下水処理場で実際に測定された履歴データからブラックボックス予測モデルを作成し、その予測モデルを用いて所望の予測条件に対応する下水の流入量予測データを推定するようにしたので、実際的な運用性を有しており、下水浄化処理の所要時間を見越して将来の流入量を十分な信頼性を持って予測できる。
したがって、従来のように物理法則に基づく数式で予測する場合と比べて、比較的少ない変数で予測可能であり、大まかな都市設計情報を用いる必要もない。
【0030】
特に、下水処理場では、降雨などによる下水流入量の急な増加に対して処理が追いつかない場合は、他の下水処理場へ下水を迂回させたり、あるいは下水に塩素などの消毒剤を注入して河川へ放流するという緊急処置を行う必要がある。この際、当該下水処理場から離れた場所にあるポンプ場や消毒剤注入施設まで係員を派遣する必要があるため、これら処置の必要性を早期に(例えば、60分前に)判断する必要がある。
本発明によれば、正確な予測流入量に基づき上記処置の必要性を的確に判断でき、上記のような場合でも適切な処置を行うことができる。
【0031】
事例ベースを用いた発明者らの実験によれば、時間パラメータとして時刻を用い、気象パラメータとして、気温および降雨量を用い、これらパラメータと下水流入量の実績値を用いるだけで、流入量をオペレーションに対して十分な精度で予測でき、有用な精度で下水流入量を予測できることが確認された。
【0032】
次に、図2を参照して、本発明にかかる下水流入量予測データ配信システムについて説明する。
この下水流入量予測データ配信システムは、複数の下水処理場6A〜6N、予測データ配信サーバ7、気象データ提供センタ8、および通信網9とから構成される。
【0033】
各下水処理場6A〜6Nには、コンピュータからなるWeb端末が設けられており、インターネットなどの通信網9を介して予測データ配信サーバ7へアクセスする。
予測データ配信サーバ7は、所定のブラックボックス予測モデルを用いて下水処理場6A〜6Nごとに下水流入量を予測し、インターネットなどの通信網9を介して当該下水処理場6A〜6Nへ配信する。
この予測データ配信サーバ7には、管理部71、モデル作成部72、流入量予測部73およびデータ配信部74が設けられている。
【0034】
管理部71は、予測データ配信サービスの全般を管理する。ここでは、データ配信契約の際、登録者すなわち各下水処理場6A〜6Nごとに、利用者IDやパスワードを発行するとともに、各下水処理場6A〜6Nの位置情報や連絡先などの登録者情報を管理する。この契約については、通信網9を介して行ってもよく、郵送などのオフラインで行ってもよい。
【0035】
モデル作成部72では、予測データの配信に先だって、各下水処理場6A〜6Nの予測モデルを作成・更新する。例えば、上記図1に示した下水流入量予測装置50の事例ベース生成部53を設け、各下水処理場6A〜6Nで得られた流入量データ31を含む履歴データ30から、各下水処理場6A〜6Nのブラックボックス予測モデルすなわち事例ベース54を個別に作成すればよい。
さらに、適応学習部55を設けて、予測データ配信サービスを開始した後も、当該下水処理場で得られた履歴データから予測モデルを更新するようにしてもよい。
【0036】
流入量予測部73では、モデル作成部72で作成された下水処理場6A〜6Nごとの予測モデルを用いて、それぞれ個別に下水流入量を予測する。例えば、上記図1に示した下水流入量予測装置50の類似事例検索部56、出力推定部57および各下水処理場6A〜6Nごとの事例ベース54を設け、それぞれの事例ベース54を用いて個々の下水処理場6A〜6Nでの下水流入量を予測すればよい。
流入量予測部73では、下水流入量を予測する際に必要な予測条件40を通信網9を介して入手する。例えば、気象パラメータについては通信網9を介して接続された気象データ提供センタ8から逐次入手する。また、履歴データ30については、各下水処理場6A〜6Nから通信網9を介して入手する。
【0037】
データ配信部74は、通信網9を介して当該下水処理場6A〜6Nへ配信する。その際、利用者IDおよびパスワードに基づき登録者認証を行う。また、当該下水処理場6A〜6Nからの履歴データ30を受信し、流入量予測部73へ渡す。
これら、管理部71、モデル作成部72、流入量予測部73およびデータ配信部74を有す目予測データ配信サーバ7は、コンピュータからなる1つ以上のサーバ装置から構成されている。
【0038】
次に、図3を参照して、下水流入量予測データ配信システムの動作について説明する。図3は下水流入量予測データ配信システムの動作例を示すシーケンス図である。
以下では、下水処理場6Aが予め登録者として管理部71により登録されており、その下水処理場6Aの予測モデルについても予めモデル作成部72で作成されているものとする。
【0039】
まず、下水処理場6Aは、必要に応じて、例えば20分程度の周期で、通信網9を介して予測データ配信サーバ7のデータ配信部74へ接続し、データ配信契約の際に発行された利用者IDおよびパスワードを用いてログインする(ステップ90)。
データ配信部74では、上記利用者IDおよびパスワードを用いて認証チェックを行う(ステップ91)。そして、正当な登録者であることが確認された場合は、通信網9を介して下水処理場6Aへ認証OKを通知する(ステップ92)。
【0040】
これに応じて、下水処理場6Aでは、流入量予測データの配信を要求し、そのとき、下水流入量の予測に用いる流入量パラメータ41を、通信網9を介してデータ配信部74へアップロードする(ステップ93)。
データ配信部74では、この予測データ配信要求に応じて、その要求とともに受信した流入量パラメータ41を流入量予測部73へ渡し、流入量予測データの予測を要求する(ステップ94)。
流入量予測部73では、この予測要求に応じて、予測に用いる気象パラメータ43、ここでは気象データの提供を、通信網9を介して気象データ提供センタ8へ要求する(ステップ95)。
【0041】
気象データ提供センタ8では、この提供要求に応じて対応する気象データを、通信網9を介して予測データ配信サーバ7へ配信する(ステップ96)。
流入量予測部73では、データ配信部74から渡された下水処理場6Aからの流入量パラメータ41と、気象データ提供センタ8から取得した気象データ(気象パラメータ43)と、当該流入量予測部73で管理するカレンダー情報から得られた時間パラメータ42とを予測条件40として、下水処理場6Aの予測モデルから所望の流入量予測データ20を予測し(ステップ97)、データ配信部74へ渡す(ステップ98)。
【0042】
データ配信部74では、流入量予測部73からの流入量予測データ20を、通信網9を介して下水処理場6Aへ配信する(ステップ99)。
下水処理場6Aでは、この流入量予測データ20を受信する。これにより、その内容に基づき適切な処置が行われる。
予測データ配信サーバ7では、このような下水処理場6Aに関する一連の予測データ配信処理が、各下水処理場6A〜6Nに対して行われる。
【0043】
このように、予測データ配信サーバ7で、下水処理場6A〜6Nごとに個別の予測モデルを用いて下水処理場6A〜6Nごとに下水流入量を予測し、インターネットなどの通信網9を介して当該下水処理場6A〜6Nへ配信するようにしたので、下水流入量の予測に必要な装置を各下水処理場6A〜6Nごとに設ける必要がなくなるとともに、設備経費を大幅に削減できる。また、予測モデルの作成や流入量の予測などの作業に伴う人件費を削減できる。
【0044】
また、予測データ配信サーバ7では、予測に必要な気象パラメータ(気象データ)を通信網9を介して気象データ提供センタ8から自動的に取得するようにしたので、予測データの配信を受ける下水処理場6A〜6N側では、当該下水処理場で計測した流入量パラメータのみを送付すればよく、極めて少ない作業負担で有用な流入量予測データを入手することができる。
【0045】
次に、事例ベースを用いた下水流入量予測装置の動作について詳細に説明する。
まず、図4〜6を参照して、下水流入量予測装置50の事例ベース生成部53の動作について説明する。図4は本発明の事例ベース推論モデルで用いる位相の概念を示す説明図、図5は入力空間の量子化処理を示す説明図、図6は事例ベース生成処理を示すフローチャートである。
本発明の事例ベース推論モデルでは、数学の位相論における連続写像の概念に基づき、入力空間を量子化し位相空間とすることにより、出力許容誤差(要求精度)に応じた事例ベースと類似度の一般的な定義を行っている。
【0046】
位相論における連続写像の概念とは、例えば空間X,Yにおいて、写像f:X→Yが連続であるための必要十分条件が、Yにおける開集合(出力近傍)O逆写像f−1(O)がXの開集合(入力近傍)に相当することである、という考え方である。
この連続写像の概念を用いて、入力空間から出力空間への写像fが連続することを前提とし、図4に示すように、出力空間において出力誤差の許容幅を用いて出力近傍を定めることにより、これら出力近傍とその出力誤差の許容幅を満足する入力近傍とを対応付けることができ、入力空間を量子化し位相空間として捉えることができる。
【0047】
本発明では、この入力空間の量子化処理を図5に示すようにして行っている。履歴データは、過去に得られた入力データと出力データとの組からなり、ここでは、図5(a)に示すように、入力x1,x2と出力yとから構成されている。これら履歴データは入力空間x1−x2において、図5(b)のように分布している。これを図5(c)のように、x1,x2方向にそれぞれ所定幅を有する等間隔のメッシュで量子化する場合、図5(d)に示すように出力誤差の許容幅εを考慮して、メッシュの大きさすなわち入力量子化数を決定している。
【0048】
出力誤差の許容幅εとは、推定により得られる出力と新規入力データに対する未知の真値との誤差をどの程度まで許容するかを示す値であり、モデリング条件として予め設定される。したがって、この許容幅εを用いてメッシュの大きさを決定することにより、出力近傍の大きさに対応する入力近傍すなわち事例を定義でき、その事例に属する全ての入力データから推定される出力データの誤差が、出力誤差の許容幅εを満足することになる。
【0049】
事例ベース生成部53では、このような入力空間の量子化処理を用いて、事例ベース54を生成している。図6において、まず、履歴データ52を読み込むとともに(ステップ100)、出力誤差の許容幅εなどのモデリング条件を設定し(ステップ101)、この許容幅εに基づき各種評価指標を算出し、その評価指標に基づいて各入力変数ごとに入力量子化数を選択する(ステップ102)。そして、各メッシュに配分された履歴データ52から事例ベース54を構成する各事例を生成する(ステップ103)。
【0050】
ここで、図7〜10を参照して、評価指標を用いた入力量子化数の決定処理について説明する。図7は入力量子化数の決定処理を示すフローチャート、図8は評価指標の1つである出力分布条件を示す説明図、図9は評価指標の1つである連続性条件を示す説明図、図10は評価指標の1つである事例圧縮度条件を示す説明図である。
【0051】
入力量子化数の決定処理では、まず、評価指標の良否を判定するための基準として評価基準(しきい値)を設定する(ステップ110)。そして、各入力量子化数ごとに各評価指標を算出し(ステップ111)、得られた評価指標と評価基準とを比較して、評価基準を満足する評価指標が得られた入力量子化数のいずれかを選択する(ステップ112)。評価基準としては、出力分布条件および連続性条件をともに満たす事例が90%以上となる入力量子化数を選択するのが望ましく、システムでは90%もしくは95%の分割数が表示されるようになっている。この90%や95%という値は、統計的に考えて適切な値と考えられるからである。
【0052】
出力分布条件とは、図8に示すように、選択した入力量子化数で入力空間を量子化して得られた任意のメッシュについて、そのメッシュ内に属する履歴データの出力yの出力分布幅が出力誤差の許容幅εより小さい、という条件である。これにより1つのメッシュすなわち入力近傍が、これに対応する出力近傍に定めた条件すなわち出力誤差の許容幅εを満足するかどうか検査される。
【0053】
連続性条件とは、図9に示すように、選択した入力量子化数で入力空間を量子化して得られた任意のメッシュについて、そのメッシュで生成された事例の出力値yと、その事例の周囲に存在する周囲事例の平均出力値y’との差が、出力誤差の許容幅εより小さい、という条件である。これにより、各事例間すなわち入力近傍間での出力値の差が、これらに対応する出力近傍間に定めた条件すなわち出力誤差の許容幅εを満足するかどうか検査される。この連続性条件を満たすことにより、各事例が連続的に所望の精度を満たすように、入力空間をカバーしていると判断できる。
【0054】
事例圧縮度条件とは、事例化による履歴データの圧縮率を条件とするものである。図10に示すように、選択した入力量子化数で入力空間を量子化して得られた任意のメッシュについて、そのメッシュ内に複数の履歴データが属する場合、履歴データの事例化により、これら複数のk個の履歴データが事例を代表する1つのデータとなり1/kに圧縮されたことになる。ここでは、履歴データ全体の事例圧縮率がモデリング条件として指定された許容圧縮率を満足するかどうかが検査される。
【0055】
入力量子化数は、各入力変数ごとに順に決定される。例えば、入力変数がx1,x2,‥,xnの場合、x1からxnまで順に入力量子化数を決定していく。ここで、評価指標を算出する際、すべての入力変数に入力量子化数を割り当てる必要がある。したがって、xiに関する評価指標を求める際、x1〜xi−1については、その時点ですでに決定されている入力量子化数を用い、xi以降のxi+1,‥,xnについては、xiと同じ入力量子化数を用いる。
【0056】
前述した各条件のうち、出力分布条件と連続性条件については、評価指標として、その条件を満足する事例の全事例に対する割合すなわち評価指標充足率が用いられる。例えば、xiに関する入力量子化数mの評価指標値は、x1,x2,‥,xnの入力レンジ幅をそれぞれの入力量子化数で量子化し、量子化により生成された全事例における、その評価指標条件を満たす事例の割合で求められる。
【0057】
また、事例圧縮度条件では、xiに関する入力量子化数mの評価指標値として、すべての入力変数x1,x2,‥,xnの入力レンジ幅を入力量子化数mで量子化して求めた履歴データ全体の事例圧縮率が用いられる。
そして、その入力変数xiについて、これら全ての評価指標値が評価基準をクリアした入力量子化数からいずれかを選択し、その入力変数xiの入力量子化数として決定する。
【0058】
事例ベース生成部53では、以上のようにして入力量子化数が選択され、その入力量子化数で量子化された入力空間ここでは各メッシュに各履歴データが配分され、事例が生成される。図11は事例生成処理を示す説明図、図12は事例生成処理を示すフローチャートである。
まず、選択された入力量子化数に基づき各入力変数を量子化(分割し)、メッシュを生成する(ステップ120)。図11では、入力変数x1が10分割されるとともに入力変数x2が6分割されている。
【0059】
そして、各履歴データが各メッシュに振り分けられ(ステップ121)、履歴データが存在するメッシュが事例として選択され、その入出値および出力値が算出される(ステップ122)。同一メッシュに3つの履歴データが振り分けられた場合、これらが1つ事例として統合される。このとき、事例を代表する出力値として3つの履歴データの出力yの平均値が用いられ、事例を代表する入力値としてそのメッシュの中央値が用いられる。
【0060】
図1の下水流入量予測装置50では、このようにして生成された事例ベース54を用いて、新規に入力された予測条件40から下水流入量を推定する。
まず、類似事例検索部56では、入力部51では予測条件40をサンプリングしてそれぞれ入力変数とし、類似度を用いて事例ベース54から類似事例を検索する。図13は類似度の定義を示す説明図、図14は類似事例検索部56における類似事例検索処理を示すフローチャートである。
【0061】
類似度とは、事例ベース54が持つ入力空間に設けられた各メッシュのうち、各事例が新規の予測条件すなわち入力データに対応するメッシュとどの程度の類似性を有しているか示す尺度である。
図13では、入力データに対応する中央メッシュに事例が存在すれば、その事例と入力データとは「類似度=0」であると定義されている。また、中央メッシュの1つ隣に存在する事例とは「類似度=1」となり、以降、中央メッシュから1メッシュずつ離れていくごとに類似度が1ずつ増加していく。
【0062】
したがって、推定を行う場合、類似度iの事例による推定値は、(i+1)×出力許容幅以内の精度を持つことになる。このとき、推定を行う入力値に対してうまく両側の事例が使用された場合は、(i+1)×出力許容幅よりも良い精度の出力値である場合が予想される。また、推定を行う値に対して片側の事例のみが使用された場合は、(i+1)×出力許容幅程度の精度であることが、入出力の連続性のもとに予想される。
【0063】
類似事例検索部56では、図14に示すように、まず、入力部51でサンプリングした新規予測条件を入力データとして取り込み(ステップ130)、事例ベース54が持つ入力空間から、その入力データに対応するメッシュを選択するとともに(ステップ131)、事例検索範囲として用いる類似度を0に初期化し(ステップ132)、その類似度が示す事例検索範囲から類似事例を検索する(ステップ133)。
【0064】
ここで、入力データに対応するメッシュに事例が存在した場合は(ステップ134:YES)、その事例を類似事例として出力する(ステップ136)。
一方、ステップ134において、入力データに対応するメッシュに事例が存在しなかった場合は(ステップ134:NO)、類似度を1だけ増やして事例検索範囲を拡げ(ステップ135)、ステップ133へ戻って、再度、類似事例を検索する。
【0065】
このようにして、類似事例検索部56において、新規の予測条件に対応する類似事例が事例ベース54から検索され、出力推定部57で、これら類似事例に基づき、新規予測条件に対応する下水流入量が推定される。
例えば、図15に示すように、入力データA(22.1,58.4)に対応するメッシュ150に事例が存在した場合、その事例の出力値y=70.2が推定出力値として選択される。
【0066】
また、図16に示すように、入力データA(23.8,62.3)に対応するメッシュ151に事例が存在しなかった場合、検索範囲152を拡大して類似事例を検索する。そして、検索された事例から推定出力値を算出する。このとき、複数の事例が検索された場合は、それら各事例の出力値の平均値が推定出力値として用いられる。
このようにして、新規の予測条件40に対応する下水流入量が推定され、その推定量に基づく流入量予測データ20が、出力推定部57から下水処理場10へ指示される。
【0067】
次に、図17,18を参照して、適応学習部の動作について説明する。
適応学習部55では、入力部51から得られた新規の履歴データ30に基づき事例ベース54を更新する。このとき、履歴データ30をカレンダ機能や温度センサなどで例えば1時間ごとに自動的に得るようにしてもよく、自動運転が可能となる。
まず、事例ベース54が持つ入力空間から新規データに対応する事例が検索される。ここで、その新規データに対応する事例が存在した場合は、その事例のみを改訂する。
【0068】
図17は、対応する事例が存在する場合の適応学習動作を示す説明図である。ここでは、新規データB(23.9,66.8,48.2)に対応する事例160が存在するため、新規データBの出力値y=48.2と改訂前の事例160の出力値49.7とから、その事例の新たな出力値y=49.0を算出している。出力改訂演算式としては、忘却計数CForgetを設け、この忘却計数が示す比率で改訂前出力値Yoldと新規データBの出力値Yとを加算し、その事例の改訂後の出力値としている。
【0069】
一方、新規データに対応する事例が存在しない場合は、その新規データに基づき新たな事例を生成する。
図18は、対応する事例が存在しない場合の適応学習動作を示す説明図である。ここでは、新規データB(23.7,62.3,43.8)に対応するメッシュ161に事例が存在しないため、その新規データBに対応するメッシュの中央値を入力値とし、新規データBの出力値yを代表の出力値とする新規事例162を新たな生成して、事例ベース54に追加している。
【0070】
図19は本発明による事例ベース推論モデルを用いた場合の下水流入量の予測値170および実績値171と、雨量(1時間降水量)172とを示すシミュレーション結果である。ここでは、予測時点の時刻T0から90分後の時刻T1の下水流入量を予測するものとし、予測条件40として時刻T0における気温、時刻T1での日種別、および時刻T1から90分前(この場合は時刻T0)に得られた過去1時間分の時刻流入量を用いている。
図19に示すように、得られた予測値170は、下水処理場10で計測された下水流入量の実績値171とほとんど差がなく、時刻に応じて下水流入量が変化しても、さらには雨量172が大きく変化しても、予測値170が遅れなく追従していることがわかる。
【0071】
下水流入量予測装置50で用いる推論モデルは、事例ベース推論の枠組みをモデリングに適用したもので、位相(Topology)の概念に基づき、システムの入出力関係の連続性が成り立つ一般的な対象に適用可能なモデリング技術といえる。一般的なモデリング技術では、モデルの次数やネットワーク構造などのモデルパラメータを同定するが、本発明の事例ベース推論モデルでは、所望の出力許容誤差を指定することで入力空間の位相を同定している。
【0072】
したがって、データは同定された入力空間に事例として蓄えられ、出力推定時には入力と予め蓄積されている入力事例との位相距離(類似度)により推定出力値の信頼性が示せるという特徴を持つ。本発明では、このようなモデルを用いて将来の下水流入量を推定するようにしたので、ニューラルネットワークや回帰モデルなどの推論モデルと比較して、次のような作用効果が得られる。
【0073】
ニューラルネットワークや回帰モデルでは、
1)入出力全域の関係を規定するために特殊なモデル構造を用いているため、システムに最適な構造を見つけるためには多くの手間を必要とする。
2)多量の履歴データの学習を行う場合、モデル構造の持つ複数のパラメータを同定するための収束計算を行う必要があり、この処理に膨大な時間がかかる。3)新たなデータに基づきモデルを更新する場合にもパラメータの同定を行う必要があり、実際には適応学習が困難である。
4)推定を行う入力値に対してモデル出力値がどの程度信頼できるかどうかを把握するのが困難である。
【0074】
これに対して、本発明によれば、
1)過去に経験した事例(問題と解答)を事例ベースとして蓄積し、システムの入出力関係を内包する入出力事例を用いているため、入出力関係を表すための特殊なモデルを必要としない。
2)新たに入力された問題については、それと類似した問題を持つ既存の事例を事例ベースから検索する。このとき、入力量子化数をパラメータとして入力空間を量子化して事例ベースと類似度を定義し、評価指標値を算出して量子化数を決定している。このため収束計算を必要とせず、さらにこの評価指標値からモデルの完成度を評価でき、従来のように別途テストデータを用いてモデル評価を行う必要がない。
【0075】
また、本発明によれば、
3)検索した類似事例の解答を修正し、新たに入力された問題に対する解答を得ている。したがって、推定を行う入力値に対して検索された事例の類似の程度が判定できるため、この類似度を出力値の信頼性評価に利用できる。
4)新たに入力された問題に対する正しい解答が判明した後、その新事例を事例ベースに追加するものとしているため、新たなデータに基づき事例ベースを部分改訂でき、従来のようにパラメータの同定を行う必要がなく、容易に適応学習できる。
【0076】
従来のモデルにおける学習と収束計算の問題については、事例ベース推論(Case−Based Reasoning:CBR)において事例ベース構造と類似度の定義という問題となる。これは、従来の事例ベース推論において、対象の十分な知見がなければ定義できないという、工学上の大きな問題となっている。本発明の事例ベース推論モデルでは、数学の位相論における連続写像の概念に基づき、出力許容誤差すなわち要求精度に応じた事例ベースと類似度の一番的な定義を、入力空間を量子化し位相空間とすることで行っている。
【0077】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明にかかる下水流入量予測装置は、当該下水処理設備で任意の時点に計測された下水流入量を示す第1の流入量データ、この第1の流入量データから所定の予測時間後に計測された下水流入量を示す第2の流入量データ、および第2の流入量データに対応する気象データ、を含む履歴データから作成された複数の事例を有する事例ベースを有し、予測手段で、この事例ベースを用いて、当該下水処理設備で新たに計測された下水の流入量を示す流入量パラメータと気象予測により得られた気象パラメータとからなる予測条件に対応する下水の流入量をリアルタイムで予測し、事例ベースは、履歴データの第1の流入量データと気象データとを入力変数とし、所望の出力許容誤差に応じて量子化された複数の入力空間と、これら入力空間ごとに設けられ、それぞれの入力変数の値に基づき当該入力空間内へ配置された1つ以上の履歴データの第2の流入量データを代表する出力値を持つ事例とを有し、予測手段は、予測条件の入力変数値に対応する事例を事例ベースから検索し、検索した事例の出力値を用いて予測条件に対応する流入量予測データを推定するブラックボックス予測モデルは、1つ以上の履歴データを代表する入力変数値と出力値からなる事例データを複数有する事例ベースからなり、予測手段は、事例ベースから検索した予測条件に対応する入力変数値を持つ事例データの出力値に基づき下水流入量を得るようにしたので、実際的な運用性を有しており、下水浄化処理の所要時間を見越して将来の流入量を十分な信頼性を持って予測できる。
したがって、従来のように物理法則に基づく数式で予測する場合と比べて、比較的少ない変数で予測可能であり、大まかな都市設計情報を用いる必要もない。
【0078】
また、本発明にかかる下水流入量予測方法およびサーバ装置は、各下水処理設備と通信網を介して接続された予測データ配信サーバで、各下水処理設備のいずれかで新たに計測された下水流入量を示す流入量パラメータを当該下水処理設備から通信網を介して受信し、気象データを提供する気象データ提供センタから通信網を介して流入量パラメータに対応する気象データを気象パラメータとして取得し、当該下水処理場のブラックボックス予測モデルを用いて、流入量パラメータと気象パラメータとからなる予測条件に対応する下水の流入量をリアルタイムで予測し、予測により得られた流入量予測データを当該下水処理設備へ通信網を介して配信し、予測データ配信サーバで、各下水処理設備ごとに事例ベースを作成する際、当該下水処理設備で任意の時点に計測された下水流入量を示す第1の流入量データ、この第1の流入量データから所定の予測時間後に計測された下水流入量を示す第2の流入量データ、および第2の流入量データに対応する気象データ、を含む複数の履歴データを、当該履歴データの第1の流入量データと気象データとからなる入力変数の値に基づき、所望の出力許容誤差に応じて量子化された複数の入力空間へ配置して、これら入力空間ごとに当該入力空間へ配置された1つ以上の履歴データの第2の流入量データを代表する出力値を持つ代表事例を生成することにより事例ベースを作成し、下水流入量を予測する際、当該下水処理設備で新たに計測された下水の流入量を示す第1の流入量パラメータと気象予測により得られた気象パラメータとからなる予測条件の入力変数値に対応する事例を事例ベースから検索し、検索した事例の出力値を用いて予測条件に対応する流入量予測データを推定することにより下水流入量を予測する際、ブラックボックス予測モデルとして、1つ以上の履歴データを代表する入力変数値と出力値からなる事例データを複数有する事例ベースを用い、事例ベースから検索した予測条件に対応する入力変数値を持つ事例データの出力値に基づき下水流入量を得るようにしたものである。
【0079】
したがって、上記作用効果に加えて、下水流入量の予測に必要な装置を各下水処理設備ごとに設ける必要がなくなるとともに、設備経費を大幅に削減できる。また、予測モデルの作成や流入量の予測などの作業に伴う人件費を削減できる。また、予測データ配信サーバでは、予測に必要な気象パラメータ(気象データ)を通信網を介して気象データ提供センタから自動的に取得するようにしたので、予測データの配信を受ける下水処理設備側では、当該下水処理場で計測した流入量パラメータのみを送付すればよく、極めて少ない作業負担で有用な流入量予測データを入手することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施の形態にかかる下水流入量予測装置を示すブロック図である。
【図2】 本発明の一実施の形態にかかる下水流入量予測システムを示すブロック図である。
【図3】 下水流入量予測システムの動作を示すシーケンス図である。
【図4】 本発明の事例ベース推論モデルで用いる位相の概念を示す説明図である。
【図5】 入力空間の量子化処理を示す説明図である。
【図6】 事例ベース生成処理を示すフローチャートである。
【図7】 入力量子化数の決定処理を示すフローチャートである。
【図8】 出力分布条件を示す説明図である。
【図9】 連続性条件を示す説明図である。
【図10】 事例圧縮度条件を示す説明図である。
【図11】 事例生成処理を示す説明図である。
【図12】 事例生成処理を示すフローチャートである。
【図13】 類似度の定義を示す説明図である。
【図14】 類似事例検索処理を示すフローチャートである。
【図15】 出力推定動作(類似事例が存在する場合)を示す説明図である。
【図16】 出力推定動作(類似事例が存在しない場合)を示す説明図である。
【図17】 適応学習動作(対応事例が存在する場合)を示す説明図である。
【図18】 適応学習動作(対応事例が存在しない場合)を示す説明図である。
【図19】 本発明による事例ベース推論モデルを用いた場合のシミュレーション結果である。
【符号の説明】
10…下水処理場、20…流入量予測データ、30…履歴データ、31…流入量データ、32…時間データ、33…気象データ、40…予測条件、41…流入量パラメータ、42…時間パラメータ、43…気象パラメータ、50…下水流入量予測装置、51…入力部、52…履歴データ、53…事例ベース生成部、54…事例ベース、55…適応学習部、56…類似事例検索部、57…出力推定部、6A〜6N…下水処理場、7…予測データ配信サーバ、71…管理部、72…モデル作成部、73…流入量予測部、74…データ配信部、8…気象データ提供センタ、9…通信網。
Claims (5)
- 下水処理設備へ流入する下水の流入量を予測する下水流入量予測装置において、
当該下水処理設備で任意の時点に計測された下水流入量を示す第1の流入量データ、この第1の流入量データから所定の予測時間後に計測された下水流入量を示す第2の流入量データ、および前記第2の流入量データに対応する気象データ、を含む履歴データから作成された複数の事例を有する事例ベースと、
この事例ベースを用いて、当該下水処理設備で新たに計測された下水の流入量を示す流入量パラメータと気象予測により得られた気象パラメータとからなる予測条件に対応する下水の流入量をリアルタイムで予測する予測手段とを備え、
前記事例ベースは、前記履歴データの第1の流入量データと気象データとを入力変数とし、所望の出力許容誤差に応じて量子化された複数の入力空間と、これら入力空間ごとに設けられ、それぞれの入力変数の値に基づき当該入力空間内へ配置された1つ以上の履歴データの第2の流入量データを代表する出力値を持つ事例とを有し、
前記予測手段は、前記予測条件の入力変数値に対応する事例を前記事例ベースから検索し、検索した事例の出力値を用いて前記予測条件に対応する流入量予測データを推定する
ことを特徴とする下水流入量予測装置。 - 請求項1記載の下水流入量予測装置において、
前記気象データとして、前記流入量データに対応する時点での、当該下水処理設備の処理対象地域における気温および降雨量を用いることを特徴とする下水流入量予測装置。 - 請求項1記載の下水流入量予測装置において、
前記下水処理設備で新たに計測された下水流入量を示す第3の流入量データと、この第3の流入量データから前記予測時間前に計測された下水流入量を示す第4の流入量データと、前記第3の流入量データに対応する気象データとの組を用いて、この第4の流入量データおよび気象データに対応する前記事例ベースの所定事例の出力値を、前記第3の流入量に基づき改訂することにより前記事例ベースを更新する適応学習手段をさらに備えることを特徴とする下水流入量予測装置。 - それぞれの下水処理設備へ流入する下水の流入量を各下水処理設備ごとに予測する下水流入量予測方法において、
前記各下水処理設備と通信網を介して接続された予測データ配信サーバで、
前記各下水処理設備のいずれかで新たに計測された下水流入量を示す流入量パラメータを当該下水処理設備から通信網を介して受信し、
気象データを提供する気象データ提供センタから通信網を介して前記流入量パラメータに対応する気象データを気象パラメータとして取得し、
当該下水処理場の事例ベースを用いて、前記流入量パラメータと気象パラメータとからなる予測条件に対応する下水の流入量をリアルタイムで予測し、
予測により得られた流入量予測データを当該下水処理設備へ通信網を介して配信し、
前記予測データ配信サーバで、
前記各下水処理設備ごとに前記事例ベースを作成する際、当該下水処理設備で任意の時点に計測された下水流入量を示す第1の流入量データ、この第1の流入量データから所定の予測時間後に計測された下水流入量を示す第2の流入量データ、および前記第2の流入量データに対応する気象データ、を含む複数の履歴データを、当該履歴データの第1の流入量データと気象データとからなる入力変数の値に基づき、所望の出力許容誤差に応じて量子化された複数の入力空間へ配置して、これら入力空間ごとに当該入力空間へ配置された1つ以上の履歴データの第2の流入量データを代表する出力値を持つ代表事例を生成することにより前記事例ベースを作成し、
前記下水流入量を予測する際、当該下水処理設備で新たに計測された下水の流入量を示す第1の流入量パラメータと気象予測により得られた気象パラメータとからなる予測条件の入力変数値に対応する事例を前記事例ベースから検索し、検索した事例の出力値を用いて前記予測条件に対応する流入量予測データを推定することにより前記下水流入量を得る
ことを特徴とする下水流入量予測方法。 - 複数の下水処理設備と通信網を介して接続され、それぞれの下水処理設備へ流入する下水の流入量を各下水処理設備ごとに予測し通信網を介して配信するサーバ装置であって、
前記各下水処理設備のいずれかで新たに計測された下水流入量を示す流入量パラメータを通信網を介して受信するとともに、任意の気象データを提供する気象データ提供センタから前記流入量パラメータに対応する気象データからなる気象パラメータを通信網を介して取得し、これら流入量パラメータと気象パラメータとからなる予測条件に対応する下水の流入量を当該下水処理場の事例ベースを用いてリアルタイムで予測する流入量予測手段と、
この流入量予測手段で得られた流入量予測データを通信網を介して対応する下水処理設備へ配信するデータ配信手段と、
当該下水処理設備で任意の時点に計測された下水流入量を示す第1の流入量データ、この第1の流入量データから所定の予測時間後に計測された下水流入量を示す第2の流入量データ、および前記第2の流入量データに対応する気象データ、を含む複数の履歴データを、当該履歴データの第1の流入量データと気象データとからなる入力変数の値に基づき、所望の出力許容誤差に応じて量子化された複数の入力空間へ配置して、これら入力空間ごとに当該入力空間へ配置された1つ以上の履歴データの第2の流入量データを代表する出力値を持つ代表事例を生成することにより前記事例ベースを作成する事例ベース作成手段と
を備え、
前記流入量予測手段は、当該下水処理設備で新たに計測された下水の流入量を示す第1の流入量パラメータと気象予測により得られた気象パラメータとからなる予測条件の入力変数値に対応する事例を前記事例ベースから検索し、検索した事例の出力値を用いて前記予測条件に対応する流入量予測データを推定することにより前記下水流入量を得る
ことを特徴とするサーバ装置。
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