JP3783894B2 - 圧電振動角速度計用振動子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は航空機、船舶、自動車等のナビゲーションシステムやこれらの姿勢制御等、或いはスチールカメラ、ビデオカメラの手振れや振動感知に使用される圧電振動角速度計に使用される圧電体振動子に関する。
【0002】
【従来の技術】
圧電振動角速度計は、振動状態にある振動子に対して回転運動に伴う角速度が与えられた場合、振動方向と角速度の外積という形でコリオリ力が発生し、振動しの振動方向と直角な方向にコリオリ力による振動が発生するという現象を利用した角速度計である。なお、このコリオリの力は次式で示される。
【0003】
【数1】
Fc=2m・(v×Ω)
但し、Fc: コリオリの力、
m : 振動子の質量、
v : 振動子の振動速度
Ω : 回転角速度
【0004】
振動角速度計としては、従来より圧電正(直接)効果、圧電逆効果を利用したGEタイプとワトソンタイプの2種類の圧電振動角速度計が良く知られている。
【0005】
GEタイプの圧電振動角速度計は図9に示すように金属(例えば、エリンバ等の恒弾性体)でできた棒状の振動子50に圧電セラミックス板51を接着し、この圧電セラミックス板51により、金属振動子50を励振するとともに振動子50の回転に伴い励振方向と垂直な方向に生じるコリオリ力を検出する。なお、振動子50の振動モードは無拘束の基本モード横振動であり通常は振動の節点において振動子50を基体に固定して使用される。
【0006】
ワトソンタイプの圧電振動角速度計は、図10に示すように4枚の圧電セラミックスバイモルフ55,56を2枚ずつ互いに直交するように重ねて音叉形状とし、駆動用の圧電バイモルフ55で音叉全体を励振し、回転に伴って生じるコリオリの力を検出用バイモルフ56により検知する。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
GEタイプの圧電振動角速度計のように、振動子として金属を用いる場合には振動子に圧電素子(圧電セラミックス等)を接合する必要があり、また、ワトソンタイプの圧電振動角速度計のように、振動子をバイモルフ型構造にする場合にも圧電セラミックス同士を接合する必要がある。そのため、振動子の励振時には、その接着剤も共に振動し検出の効率を下げたり、温度による接着剤の変化により振動状態が変化して角速度検出感度の変動を引き起こしたりしていた。さらに、これら接合工程を有するタイプでは、振動子毎に圧電素子を一つ一つ接合して行かなければならず、接合工程が量産時の生産効率を考えるうえでの阻害要因となるばかりか、個々の振動子の特性のばらつきを発生させる大きな要因にもなっていた。
【0008】
特に構造が簡単で小型化に適したGEタイプの圧電振動角速度計では、最近になって三角柱の金属振動子を用いるもの、円柱状の圧電セラミックスを振動子として用いるもの等が開発されているが、三角柱状の金属振動子を用い、その側面に圧電素子を接着するものは上記問題点に加えてさらに振動子量産時の製造工程にも複雑化を招いており、また、円柱状の圧電セラミックス振動子を用いる場合は円柱状側面にロールタイプの印刷機等を用いて電極形成をし、その後に個別に分極処理を行なわなければならない等、電極形成や分極処理における困難性が量産時の生産効率を悪くしており、共に安価に振動子を製作することにおいて問題点を有するものであった。特に、円柱状の圧電セラミックスに電極を形成したものは電極形成後分極処理できる範囲が少なく、その結果検出効率が悪くなるという欠点もあった。
【0009】
本発明は、上記のような従来の圧電振動角速度計用振動子の量産上、特性上の欠点を改良し、回転角速度の検出効率が良好であり、なおかつ低コストで量産できる圧電体振動子を提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
以上の目的を達成するため、本発明に係る圧電振動角速度計用振動子は四角柱状をなす圧電材料により構成される。そして、この四角柱状振動子の回転中心方向に分極方向が一致するように分極域を形成する。特に振動子は検出効率上及び量産効率上の観点から直方体状に形成することが望ましい。
【0011】
この四角柱状振動子には、振動子の励振を行うための励振用電極、アース接続される基準電極、発生するコリオリ力を検出するために形成される検出用電極等が形成されるが、このとき、これら電極を、振動子の長手方向軸と平行な四つの側面のうちの互いに対向する二つの側面もしくは一つの側面の上に分かれて形成するのが好ましい。
【0012】
このように構成された本発明に係る圧電振動角速度計用振動子では、圧電体振動子の圧電効果による電気−機械エネルギ変換と機械−電気エネルギ変換の両方を同時に行うことによりコリオリ力の検出を効率よく行うことができる。すなわち、励振用電極を通して交流電圧が振動子に印加されると励振用電極が形成された側面側の圧電体内部には強力な電界が生じ、圧電縦効果により電気−機械エネルギ変換が行われ、その部分の分極域は振動子の回転中心方向に伸縮運動を起こそうとする。
【0013】
一方、振動子の励振用電極が形成されていない他の側面側の圧電体内部には、より弱い電界しか生じないため、圧電縦効果による電気−機械エネルギ変換が行われてもその部分の分極域の変形は小さく、そのため励振用電極側側面の圧電体が回転中心方向に伸縮運動を起こそうとするのを抑制しようとすることになり、振動子には励振用電極面に垂直な方向(上下方向)に基本モードの屈曲振動が励起されることになる。なお、検出効率を高めるため、屈曲運動が振動子の機械的共振周波数の振動若しくはそれに近い振動となるように印加する交流電圧の発振周波数を決定する。
【0014】
この状態で回転中心の周りに回転が生じると励振速度vと加えられた回転角速度Ωに比例したコリオリ力Fcが発生し、このコリオリ力Fcにより振動子は電極面に平行な平面内で屈曲共振振動を行う。コリオリ力Fcによるこの屈曲共振振動が生じると電極面の形成された上下側面と互いに交差する他の左右2側面側において回転中心方向に伸長収縮運動が生じる。この屈曲振動に伴い、圧電縦効果による機械−電気エネルギ変換がこの左右側面側で行われて、回転中心1の方向に互いに方向の異なる分極電荷が交互に誘起されることになる。
【0015】
このため、検出用分割電極には互いに逆位相の交流電圧が検出され、この発生した交流電圧を測定することにより回転角速度を評価することができる。この場合コリオリ力による分極は検出用の基準電極と検出用電極を結ぶ方向(すなわち回転中心方向)に誘起されるので交流電圧の検出効率を落とすことはなく、またコリオリ力による振動が共振振動となるように四角柱状振動子の断面形状も決定され、検出効率が高められる。
【0016】
なお、上記振動子において、互いに対向する二つの側面上に形成する場合には、それぞれ長手方向両側に分かれて前後二群の電極群を形成し、合計四つのこれら電極群により、励振用電極、基準電極及び検出用電極を構成することができる。このとき、対向する二つの側面の一方の側面に形成された前側電極群により基準電極を構成するとともに後側電極群により励振用電極を構成し、励振用に交流電圧(電流)を印加して圧電縦効果により振動子の励振駆動を行うことができる。さらに、対向する二つの側面の他方の側面に形成された前側電極群により前記検出用電極を構成し、この後側電極群が帰還用電極を兼用し、後側電極群により検出された信号を励振駆動電源に帰還するように構成するのが好ましい。さらに、励振用電極と検出用電極との少なくとも一方を、前記長手方向軸と直角な方向に分割してもよい。また、励振用電極と検出用電極との少なくとも一方を、対称に分割してもよい。
【0017】
また、振動子の励振を行うための励振用電極、励振駆動電源に励振信号の帰還を行うための帰還用電極、アース接続される基準電極及び発生するコリオリ力を検出するために形成される検出用電極を、振動子の長手方向軸と平行な四つの側面のうちの一つの側面上に形成する場合には、この一つの側面上に、長手方向両側に分かれて前後二群の電極群を形成し、一方の電極群により基準電極を形成し、他方の電極群を幅方向に複数に分割して励振用電極、帰還用電極および検出用電極を形成することができる。このとき、他方の電極群を幅方向に三分割して幅方向に対称に位置する左右電極および中央電極を形成し、中央電極により帰還用電極を構成し、左右電極により励振用電極および検出用電極を兼用させるのが好ましい。
【0018】
本発明に係る圧電振動角速度計用振動子において、励振用電極、帰還用電極、基準電極および検出用電極を、振動子の長手方向軸と平行な四つの側面のうちの互いに対向する二つの側面上に分かれて形成し、これら対向する二つの側面上に、それぞれ長手方向両側に分かれて前後二群の電極群を形成し、合計四つのこれら電極群により、励振用電極、帰還用電極、基準電極および検出用電極を構成することもできる。
【0019】
この場合には、対向する二つの側面の一方の側面に形成された前側電極群により基準電極を構成するとともに他方の側面に形成された前側電極群により基準電極を構成し、励振用電極に交流電圧(電流)を印加して圧電すべり効果により振動子の励振駆動を行うように構成することができる。このようにしても、圧電縦効果により振動子の励振駆動を行う上記の場合と同様にコリオリ力の検出を行うことができる。なお、この場合には、一方の側面に形成された後側電極群により検出用電極を構成するとともに他方の側面に形成された後側電極群により帰還用電極を構成する。
【0020】
このように本発明に係る圧電振動角速度計用振動子では、振動子の回転中心方向にのみ分極処理がなされている。従って、製造時においては平板状の圧電材料の相対する側面に反応性エッチング等による電極パターンを形成した後、この電極を通して高電界をかけることにより単一の工程で多数の振動子分を一度に分極処理することができる。また、本発明に係る圧電振動角速度計用振動子では回転中心方向に伸びる1側面又は相対する2側面にしか電極面が形成されていない。そのため、分極処理後において平板状の圧電材料の1側面又は相対する2側面上に反応性エッチングによる電極パターンが形成されたものを精密裁断機で切断することにより、接着剤の使用されていない極めて小型の圧電体振動子を再現性よく量産することができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、図面を用いて本発明に係る最適な実施の形態について説明する。図1は本発明の第1実施形態に基づく圧電振動角速度計用振動子の基本構成を示す。この圧電体振動子10は圧電材料としてハード系のPZTセラミックスを用い、断面がほぼ正方形であって長手方向軸1に沿って伸びた長尺状の直方体に形成されている。振動子10には図2に示すように、長手方向軸1に平行な四つの面のうちの上面10aに、長手方向に分かれて前後二つの部分に分割された電極群11、12が形成されている。このうち、後側電極群12は振動子10の励振用電極として使用され、前側の電極群11が励振用基準電極(アース)として使用される。なお、後述のようにこれら電極間に励振用交流電流が付加されるものであり、便宜的に一方を励振用電極、他方を励振用基準電極と称しているだけであり、これを逆にしても良い。
【0022】
上面10aと相対向する下面10bにおいても同様に、長手方向に分かれて前後二つの部分に分割された電極群13、14が形成されている。後側の電極群14は振動子10が回転したときに発生するコリオリ力の検出用電極として使用され、前側の電極群13がその検出用基準電極(アース)として使用される。この場合に、検出用電極と検出用基準電極との間の電圧(もしくは電流)の差を検出するものであるが、便宜的に一方を検出用電極とし、他方を検出用基準電極としているだけであり、これを逆にしても良い。
【0023】
なお、これら上面10aおよび下面10bに設けられる電極の形成は銀ペースト等のスクリーン印刷、若しくはスパッタリング、蒸着、メッキ等により行うことができる。この場合、例えば、スクリーン印刷により最初から図示のようなパターンで各電極を形成しても良く、スパッタリング等により上下面全面に電極層を形成した後、各電極を分割するように各電極間の層を機械加工等により除去しても良い。また、この構成から分かるように、振動子10の左右側面10c,10dには電極は形成されていない。
【0024】
励振用電極12、励振用基準電極11は、振動子10の上面10aにおいて、幅方向(長手方向軸1と直角な方向)すなわち左右に対称に分割されており、図2(a)に示すようにそれぞれ右励振用電極12R,左励振用電極12L、右励振用基準電極11R、左励振用電極11Lとして使用される。また、検出用電極14、検出用基準電極13も振動子10の下面10bにおいて左右に対称に分割されており、図2(c)に示すようにそれぞれ右検出用電極14R、左検出用電極14L、右検出用基準電極13R、左検出用基準電極13Lとして使用される。
【0025】
左右励振用基準電極11L、11R及び左右検出用基準電極13L、13Rは共通のアース電極として使用されるものであり、それぞれ左右に分割する必要はなく、全体で一の電極11、13として構成しても良い。この場合、上述のようにスクリーン印刷等により最初からパターニングを行ってこのような電極を形成する。但し、全面に電極層を形成した後、機械加工により各電極間の層を除去する場合には、図2のような分割した電極とする方が機械加工が容易である。
【0026】
電極群11、12、13、14の長手方向軸1の方向の電極長さは任意に設定することができるが、少なくとも振動子10が励振された場合に生じる屈曲一次モードの節点2(図6(a)参照)をその中心付近に含むように決定すべきである。振動子10は屈曲1次モードの節点2において、振動子10の下面が柔らかいシリコンゴム等で保持されて使用されるので節点2付近は振動せず、従って、この部分に各電極群のリード線の接点を設けることによって振動子10の信頼性を高めることができるようになるからである。
【0027】
以上のような電極配置を有する振動子10は図3(a)(b)に矢印により示すように、その圧電体全領域において、直方体状の振動子10の長手方向軸1の方向に分極処理がなされ、分極域が形成されて構成されている。なお、図3(a)では説明の便宜上、電極11,12を省略して示している。
【0028】
以下、上記第1の実施形態に係る振動子10が用いられた圧電振動角速度計の動作原理を説明する。図4は振動子10が励振駆動されて振動を起こす動作原理を説明するための図である。左右励振用電極12R、12Lと左右励振用基準電極11R、11Lとの間に交流の励振電圧を印加すると、振動子10の上面部近傍に位置する部分(図4の斜線部)に励振用基準電極11から励振用電極12へ向かう交流電界が生じる。この交流電界による圧電縦効果によって振動子10の長手方向軸1の方向に伸長収縮運動を起こす。
【0029】
一方、検出用電極14、検出用基準電極13の形成された振動子10の下面部近傍に位置する部分(図4の白色部)では圧電縦効果による伸長収縮が生じないため自発的な変形は起こさない。このため、励振用電極12側の上面部近傍で起こる振動子10の伸縮運動を検出用電極14側の下面部近傍の自発変形を起こさない部分が抑制するように働き、振動子10の上下側面方向、すなわち、電極群が形成された上下面10a,10bに垂直な方向に折れ曲がる一次の屈曲振動が生じる。
【0030】
ここで、交流の励振駆動用電圧として圧電体振動子10の一次の機械的共振周波数foと同一周波数の交流電圧を入力すれば、振動子10には一次の屈曲共振振動が励起される。このとき、検出用電極14と検出用基準電極13との間からはこの屈曲共振振動に伴う帰還電圧信号が検出され、この信号を図示しない励振駆動用電源にフィードバックすることにより不要なスプリアス発振を防止する。この結果、振動子10は、その一次共振周波数foと同一の周波数で安定した屈曲共振振動を行う。
【0031】
このとき、右検出用電極14R、左検出用電極14Lのいずれか一方の出力を帰還用信号として使用して励振駆動用電源に帰還させてもよいし、左右検出用電極14R、14Lからの出力を加算して帰還用信号として使用してもよい。また、右励振用電極12R、左励振用電極12Lと励振用基準電極11R、11Lとの間にそれぞれ別々に励振駆動用電源を設けて励振し、右検出用電極14Rと右検出用基準電極13R間の出力電圧、左検出用電極14Lと左検出用基準電極13Lとの間の出力電圧が振幅、位相共に等しくなるように帰還制御して振動子10を電極面の形成された上下面方向に真っ直ぐ振動させれば(すなわち、左右側面10c,10dには屈曲振動が生じないようにすれば)、コリオリ信号の検出性能向上により効果がある。
【0032】
この1次の屈曲共振振動は図1の振動速度vで示される運動を与えることになる。そして、振動子10は振動の節点2を境に振動子10の中央部分と端部とで反対の向きの速度を持った無拘束条件横振動を行うことになる(図5(a)参照)。この振動状態において振動子10に長手方向軸1の周りに回転が生じ、回転角速度Ωが与えられると振動子10には電極面および長手方向軸1に垂直な方向(図1に示されるFcの方向)にコリオリ力Fcが発生する。
【0033】
振動子10にかかるコリオリ力Fcは、Fc=2m(v×Ω)で与えられることが知られており、回転角速度Ωが一定の場合には振動子10の振動速度vの大きさとその方向で決定される。いま、励振信号により屈曲共振振動を行っている振動子10は振動の節点2を境に中央部と左右端部とでその振動速度vが反対であるため、図5(b)に示すように発生するコリオリ力Fcの方向も反対となる。このため、このコリオリ力Fcは、振動速度vに比例する大きさを有し、このため、振動速度vに同期して、左右側面10c,10d内において長手方向軸1に垂直な方向の屈曲振動が励起される(図5(c))。なお、図5(c)においては説明の便宜上、上面10aに形成された電極11,12を省略して示している。
【0034】
ここで、振動子の振動とコリオリ力Fcとの関係をもう少し説明する。振動子が上述のようにしてその固有振動数と同一の周波数で振動するときに、例えば、振動子10の中央点Pの上下方向の変位xは、サイン関数で表される(例えば、x=sin(ωt) 但し、fo=1/(2πω))。このため、中央点Pの振動速度は、これを微分して得られるコサイン関数で表される(例えば、v=dx/dt=ωcos(ωt)となる)。ここでコリオリ力Fcは回転角速度Ωが一定であれば、振動速度vに比例するものであるため、コリオリ力により発生する屈曲振動、すなわち図5(c)に示す振動もコサイン関数で表される。このように、図5(a)で表される励振振動はサイン関数であるのに対して、図5(c)で表されるコリオリ力による振動はコサイン関数であり、両者の位相は90度ずれることが分かる。
【0035】
なお、本振動子10の場合、長手方向軸1に垂直な断面はほぼ正方形に形成され、振動子10の一次の屈曲共振振動とコリオリ力Fcによる屈曲振動の共振周波数が等しくなるように決定されている。従って、コリオリ力Fcによる屈曲振動も励振屈曲振動と同様に共振振動となり、振動子10の両端で同じ方向、中央部で逆方向をとり、しかも機械的な共振周波数foで変動することになる。
【0036】
このコリオリ力Fcによる一次の屈曲共振振動の大きさを評価すれば、与えられた回転角速度Ωを評価できる。本実施形態においては、この屈曲共振振動の大きさの評価に振動子10の圧電縦効果が利用される。すなわち、コリオリ力Fcの大きさは、圧電縦効果に基づく振動子10の機械的な歪みにより発生する応力誘起電荷を測定することにより決定される。
【0037】
コリオリ力Fcにより発生する応力誘起電荷の検出は、振動子10の下面10bにおいて長手方向に対し左右に分割して形成されている左右検出用電極14R、14Lと左右検出用基準電極13R、13Lとを用いて行われる。振動子10の分極方向は振動子10の振動子全体にわたって長手方向軸1の方向であり、励振信号による振動速度vの方向に垂直となる方向である。従って、振動子10が励振駆動され、上下方向(図面上、vの方向)に屈曲振動すると圧電縦効果による分極電荷が分極方向両端に生じ、励振に伴う出力電圧(帰還電圧)が同相同電圧で左右それぞれの検出用電極14R、14Lと左右検出用基準電極13R、13Lとの間から検出される。
【0038】
一方、コリオリ力Fcによる屈曲振動は励振駆動による屈曲共振振動とは異なり、これと垂直な方向に起こるため、図5(c)に示すように二つに分割された検出用電極14R、14Lがそれぞれ位置する左右側面側領域は交互に伸び縮みすることになる。すなわち、振動子10が一方の検出用電極14R側に屈曲するとその電極下の分極領域には圧縮応力が、他方の検出用電極14L側では伸長応力が働き、圧縮応力側の右検出用電極14Rと右検出用基準電極13Rとの間には負の電圧が発生し、それとは逆に、伸長応力側の左検出用電極14Lと左検出用基準電極13Lとの間には正の電圧が発生することになる。
【0039】
また、反対に振動子10が他方の左検出用電極14L側に屈曲すると、その電極下の分極領域には圧縮応力が、反対側の右検出用電極14R側では伸長応力が働き、圧縮応力側の左検出用電極14Lと左検出用基準電極13Lとの間には負の電圧が発生し、それとは逆に、伸長応力側の右検出用電極14Rと右検出用基準電極13Rとの間には正の電圧が発生することになる。従って、二つの検出用電極14Rと14Lとの間ではそれぞれ大きさが同じで符号が逆の分極電荷がコリオリ信号として発生することになる。
【0040】
従って、二つの検出用電極14R、14Lからの出力信号の差を差動回路等でとることによって同位相である励振信号は互いに相殺され、逆位相であるコリオリ信号のみを取り出すことができる。なお、励振駆動に用いる交流電圧の周波数がコリオリ力の発生する方向の機械的な共振周波数foとも一致しているため、一旦コリオリ力による屈曲が発生するとこの振動も共振振動となり、コリオリ力検出の精度を高めることができる。
【0041】
以上述べた第1の実施形態では、コリオリ力に伴う検出用電極14からの出力電圧が励振駆動に伴う出力電圧に比べて極めて小さいことを利用して検出用電極14と帰還用電極を兼用して使用し、コリオリ電圧が重畳した出力電圧をそのまま帰還電圧として使用している。本発明に係る振動子10ではこの構成に限らず左右検出用電極14R、14Lを共通の帰還用電極とし、検出用基準電極13と帰還用電極の間の電圧を帰還電圧として使用すると共に、励振用電極と検出用電極を兼用して使用し、左右励振用電極12R、12Lとの間の信号電圧の差を差動回路等でとることによってコリオリ信号のみを取り出すことも可能である。
【0042】
また、本発明に係る圧電振動角速度計用振動子においては、図6に示すように電極を形成してもよい(第2実施形態)。この振動子15は振動子10と同様に断面がほぼ矩形をした四角柱状の振動子であり、図6(b)に矢印で示すように、長手方向に分極処理されている。この振動子15の上面15aに、前後2つの部分に分割された電極群が設けられている。さらにこの二つに分割された各電極群はそれぞれ、左右方向に3等分され、振動子15の上面15aには、それぞれ等分された6つの電極が形成されている。
【0043】
振動子15の上面15aにおいて、その長手方向に伸びる中心線上に位置する電極が帰還用電極対18として使用される。また、帰還用電極対18によって左右に分割された電極がそれぞれ左駆動/検出用電極群17L、右駆動/検出用電極17R群として使用される。これら電極対および電極群はさらに、電極の一方がそれぞれ基準電極17La、17Ra、18aとして、他方がそれぞれ駆動/検出用出力電極17Lb、17Rb、帰還用出力電極18b、として使用される。なお、基準電極17La、17Ra、18aは共通のアース電極として使用するため分割して形成する必要はなく、一体に形成しても良い。
【0044】
このように構成された振動子15では、前側の基準電極17La,17Raをアースさせた状態で後側の駆動/検出用電極17Lb、17Rbに交流電圧を加えて励振し、これら駆動/検出用電極17Lb、17Rbからの出力電圧の差動出力を得ることによりコリオリ力による出力信号のみを取り出すことができる。このとき、帰還用基準電極18aと帰還用出力電極18bとの間の電圧を帰還信号として励振駆動用電源に帰還し、安定した励振を行わせる。
【0045】
次に第3実施形態について図7および図8を参照して説明する。この圧電振動子20は、断面がほぼ正方形であって長手方向に伸びた長尺状の直方体に形成され、図8(b)において矢印で示すように、長手方向に分極処理がなされている。振動子20の上面20aに、長手方向に分かれて前後二つの部分に分割された電極群21、22が形成されている。さらに、下面20bにおいても同様に、長手方向に分かれて前後二つの部分に分割された電極群23、24が形成されている。この場合に、上面20aに形成された前側電極群21により励振用電極が構成され、後側電極群22により検出用電極が構成され、さらに、下面20bに形成された前側電極群23により基準電極が構成され、後側電極群24により帰還用電極が構成される。
【0046】
励振用電極21と基準電極23は上下に対向しており、励振用電極に交流電流が加えられると、振動子20のこの部分に圧電すべり効果が生じ、振動子20は上下方向に屈曲変形する。従って、励振用電極21にの、振動子20の一次屈曲振動の共振周波数f0 交流電界を印加することにより、振動子20に、上下方向の一次屈曲共振振動を起こさせることができる。
また、このとき、帰還用電極24には、この一次屈曲共振振動に基づく圧電縦効果によって交流電荷が発生し、この信号をフィードバックすることで振動子20を効率的に励振することができる。
【0047】
この状態で、振動子20の長手方向軸まわりに回転が生じて回転角速度が発生すると、振動子には電極面および長手方向軸に垂直な方向(図7において矢印Fcで示す方向)にコリオリ力Fcが発生する。このコリオリ力による振動は、振動子20の左右方向の屈曲振動であり、この屈曲振動に基づく圧電縦効果によって、二つに分割された電極、すなわち、左検出用電極22Lと右検出用電極22Rにはそれぞれ大きさが同じで符号が逆の交流電荷が発生する。従って、これら二つの検出用電極からの出力信号の差をとることによってコリオリ力の検出が行われる。
【0048】
【発明の効果】
本発明に係る圧電振動角速度計用振動子は金属振動子に圧電素子を接着するのではなく、圧電体振動子に銀ペーストによるスクリーン印刷や蒸着、メッキ等によって電極を形成できるため、振動子表面に接着剤部分が存在せず、従って振動子の個々の特性のばらつきによる検出精度への悪影響、さらに接着剤や圧電体のの温度変化による検出精度への悪影響を受ける恐れも極めて少ない。また、振動子は四角柱状の圧電体単体であり、電極面も上下側面に設けるだけで済むため、小型の振動子を再現性よく低コストで量産することができる。
【0049】
さらに、電極を振動子の一側面上にのみ形成する場合には電極形成の際に両面のアライメントを全く行う必要がなく、製造工程において高い精度が要求されることもなくなり、より低コスト化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態に基づく圧電振動角速度計の振動子の構成例を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る振動子の電極配置を示す三面図である。
【図3】第1実施形態に係る振動子の分極方向を示す二面図である。
【図4】第1実施形態に係る振動子の励振原理を説明するための側面図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る圧電振動角速度計用振動子の動作を説明するための図であり、(a)は振動子の励振に伴う変形を示す側面図であり、(b)は振動子に係るコリオリ力の状態を示す平面図であり、(c)はコリオリ力による振動を示す平面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係る振動子の電極配置を示す三面図である。
【図7】本発明の第3実施形態に係る振動子の例を示す斜視図である。
【図8】第3実施形態に係る振動子の電極配列を示す三面図である。
【図9】従来の振動角速度計の概念図である。
【図10】従来の振動角速度計の概念図である。
【符号の説明】
1 長手方向軸
2 節点
10、15、20 振動子
11 励振用基準電極
12 励振用電極
13 検出用基準電極
14 検出電極
17 励振/検出用電極
18 帰還用電極
Ω 回転角速度
v 励振速度
Claims (9)
- 四角柱状の圧電体により構成され、長手方向軸まわりの回転角速度を検出する圧電振動角速度計用振動子であって、
前記圧電体が前記長手方向軸と平行な方向に分極処理されるとともに、
前記圧電体の前記長手方向軸と平行な四つの側面のうち互いに対向する二つの側面上に、長手方向両側に分かれて前後二群の電極群が形成され、合計四つの前記電極群によりそれぞれ形成される前記振動子の励振を行うための励振用電極、アース接続される基準電極及び発生するコリオリ力を検出するために形成される検出用電極とを備え、
前記対向する二つの側面の一方の側面に形成された前記前後二群の電極群のうちの前側電極群が前記基準電極を構成するとともに前記前後二群のうちの後側電極群が前記励振用電極を構成し、前記励振用電極に交流電圧(電流)を印加して圧電縦効果により振動子の励振駆動を行うことを特徴とする圧電振動角速度計用振動子。 - 前記対向する二つの側面の他方の側面に形成された前側電極群が前記基準電極を構成するとともに後側電極群が前記検出用電極を構成し、前記後側電極群が帰還用電極を兼用し、前記後側電極群により検出された信号が励振駆動電源に帰還されることを特徴とする請求項1に記載の圧電振動角速度計用振動子。
- 前記励振用電極と前記検出用電極とのうちの少なくとも一方は、前記長手方向軸と直角な方向に分割されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の圧電振動角速度計用振動子。
- 前記励振用電極と前記検出用電極とのうちの少なくとも一方は、対称に分割されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の圧電振動角速度計用振動子。
- 四角柱状の圧電体により構成され、長手方向軸まわりの回転角速度を検出する圧電振動角速度計用振動子であって、
前記圧電体が前記長手方向軸と平行な方向に分極処理されるとともに、
前記圧電体の前記長手方向軸と平行な四つの側面のうちの一つの側面上に、長手方向両側に分かれて前後二群の電極群が形成され、一方の電極群がアース接続される基準電極群を形成し、他方の電極群が幅方向に複数に分割されて前記振動子の励振を行うための励振用電極、励振駆動電源に励振振動の帰還を行うための帰還用電極及び発生するコリオリ力を検出するための検出用電極を形成する電極群とを備えることを特徴とする圧電振動角速度計用振動子。 - 前記他方の電極群が幅方向23分割されて幅方向に対称に位置する左右電極及び中央電極が形成され、前記中央電極が前記帰還用電極を構成し、前記左右電極が前記励振用電極及び前記検出用電極を兼用することを特徴とする請求項5に記載の圧電振動角速度計用振動子。
- 四角柱状の圧電体により構成され、長手方向軸まわりの回転角速度を検出する圧電振動各速度計用振動子であって、
前記圧電体が前記長手方向軸と平行な方向に分極処理されるとともに、
前記振動子の励振を行うための励振用電極、励振駆動電源に励振信号の帰還を行うための帰還用電極、アース接続される基準電極及び発生するコリオリ力を検出するために形成される検出用電極が、前記振動子の前記長手方向軸と平行な四つの側面のうちの互いに対向する二つの側面上に分かれて形成され、
前記対向する二つの側面上に、それぞれ長手方向両側に分かれて前後二群の電極群が形成され、合計四つのこれら電極群により、前記励振用電極、前記帰還用電極、前記基準電 極及び前記検出用電極が構成されることを特徴とする圧電振動角速度計用振動子。 - 前記対向する二つの側面の一方の側面に形成された前側電極群が前記励振用電極を構成するとともに他方の側面に形成された前側電極群が前記基準電極を構成し、前記励振用電極に交流電圧(電流)を印加して圧電すべり効果により振動子の励振駆動を行うことを特徴とする請求項7に記載の圧電振動角速度計用振動子。
- 前記一方の側面に形成された後側電極群が前記検出用電極を構成するとともに前記他方の側面に形成された後側電極群が前記帰還用電極を構成することを特徴とする請求項8に記載の圧電振動角速度計用振動子。
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Family Applications (1)
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JP17344997A Expired - Lifetime JP3783894B2 (ja) | 1997-02-19 | 1997-06-30 | 圧電振動角速度計用振動子 |
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-
1997
- 1997-06-30 JP JP17344997A patent/JP3783894B2/ja not_active Expired - Lifetime
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