JP3773378B2 - 回転運動伝達機構 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、自動車の駆動力伝達部において、駆動軸と従動軸とを入力側および出力側等速ジョイントによって連結し、駆動軸の回転運動を従動軸に伝達する回転運動伝達機構に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、自動車の駆動力伝達部では、駆動軸の回転運動を従動軸に連結された各車軸へ伝達するために、2つの等速ジョイントを有する回転運動伝達機構が使用されている。
【0003】
従来技術に係る回転運動伝達機構1を図18に示す。この回転運動伝達機構1には、伝達軸2の一端側に駆動軸4を有するトリポート型の入力側等速ジョイント6aが設けられ、前記伝達軸2の他端側には従動軸8を有するトリポート型の出力側等速ジョイント6bが設けられている。
【0004】
前記入力側および出力側等速ジョイント6a、6bは、それぞれアウタ部材10を備え、アウタ部材10の内面には軸線方向に沿って3本の案内溝12が形成される。アウタ部材10の内側には伝達軸2の端部に設けられたインナ部材14が配設され、インナ部材14には半径方向外方に向かって略円柱状に膨出する3つのトラニオン16が形成される。各トラニオン16の外周面には球面ローラ20が回転可能に設けられ、該球面ローラ20は前記案内溝12を構成する壁部にその軸線方向に沿って転動する。
【0005】
このように、球面ローラ20が案内溝12の壁部を転動する等速ジョイント6a、6bが設けられた回転運動伝達機構1では、入力側等速ジョイント6aのトラニオン16と出力側等速ジョイント6bのそれぞれのトラニオン16との位相角度差により、図20に示すように、伝達軸2に付与される軸方向荷重(誘起スラスト力)が変化する。図20の位相角度差に対する誘起スラスト力の特性曲線から諒解されるように、位相角度差が60°のときに誘起スラスト力が一番小さくなることから、従来技術に係る回転運動伝達機構1では、入力側等速ジョイント6aと出力側等速ジョイント6bのそれぞれのトラニオン16を、図19に示すように、位相角度差が60°となるように設定することにより軸方向荷重を低減させて、この軸方向荷重に起因する振動を抑制する方法が採用されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の従来技術に係る回転運動伝達機構と比較して軸方向荷重をさらに減少させ、より一層振動特性を向上させることが可能な回転運動伝達機構を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するために、本発明は、駆動軸が設けられた入力側等速ジョイントから伝達軸を介して出力側等速ジョイントに設けられた従動軸に回転運動を伝達する回転運動伝達機構において、
前記入力側等速ジョイントおよび前記出力側等速ジョイントは、それぞれ所定間隔離間し軸線方向に沿って延在する複数の案内溝と、前記案内溝の相互に対向する側面にそれぞれ形成され軸線方向に沿って延在する摺動面とを有し、前記駆動軸または前記従動軸に連結されるカップ状のアウタ部材と、
前記アウタ部材の開口部内に挿入されて前記伝達軸に連結されるインナ部材と、
前記案内溝に向かって膨出形成されるとともに前記摺動面に沿って摺動自在な滑動部材を有する3つのトラニオンと、
をそれぞれ備え、
前記滑動部材の一方の側面には前記トラニオンの球面と摺動自在に接触する凹部が形成され、他方の側面には前記摺動面と摺動自在に接触し回転力を伝達する平面が形成され、
前記回転運動伝達機構が回転する際に前記入力側等速ジョイントのアウタ部材から滑動部材に回転力が伝達される位置と、前記伝達軸を経由し前記出力側等速ジョイントの滑動部材からアウタ部材に回転力が伝達される位置とが同位相に設定され、
前記同位相とは、前記入力側等速ジョイントのアウタ部材から滑動部材に回転力が伝達される入力側駆動力伝達点と、前記出力側等速ジョイントの滑動部材からアウタ部材に回転力が伝達される出力側駆動力伝達点とを結ぶ仮想線が、前記伝達軸の軸線と平行であることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、駆動軸、従動軸に対して伝達軸が傾斜している際、入力側等速ジョイントの滑動部材と出力側等速ジョイントの滑動部材がともに案内溝を同一方向に摺動することにより伝達軸に同一方向の軸方向荷重が付与され、前記伝達軸に付与される軸方向荷重が出力側から入力側に向かって作用することにより、出力側に伝達されることが阻止される。従って、前記軸方向荷重に起因する振動の発生が抑制される。
【0010】
また、前記滑動部材の一方の側面に前記トラニオンの球面と摺動自在に接触する凹部が形成され、他方の側面に前記摺動面と摺動自在に接触し回転力を伝達する平面が形成されると、アウタ部材に対してトラニオンが所定角度傾斜した際に、滑動部材は案内溝の摺動面に沿って摺動変位するとともに、トラニオンの球面に沿って摺動変位する。従って、滑動部材が面接触する摺動面の面圧が低下することにより、前記摺動面における潤滑性が向上する。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明に係る回転運動伝達機構について、好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
【0012】
図1において、参照符号30は、本実施の形態に係る回転運動伝達機構を示す。この回転運動伝達機構30は、伝達軸36の一端側に接続され図示しない自動車のエンジンから回転駆動力が付与される駆動軸32を有するトリポート型の入力側等速ジョイント34aと、該伝達軸36の他端側に接続されたトリポート型の出力側等速ジョイント34bとを備える。出力側等速ジョイント34bには図示しない車輪に前記回転駆動力を伝達する従動軸38が設けられている。
【0013】
なお、入力側等速ジョイント34aと出力側等速ジョイント34bとは、駆動軸32と従動軸38とが異なる他は同様に構成されているため、以下、入力側等速ジョイント34aについて説明し、出力側等速ジョイント34bについては入力側等速ジョイント34aの各構成要素を示す参照符号中、記号aをbに代えて、その詳細な説明を省略する。
【0014】
この入力側等速ジョイント34aは、図2に示すように、前記駆動軸32の端部に一体的に形成されて開口部を有するカップ状のアウタ部材40aと、伝達軸36の一端部に固着されてアウタ部材40aの開口部内に収納されるインナ部材42aとから構成される。
【0015】
アウタ部材40aの開口部側の端部には、図1に示すように、蛇腹状に形成された等速ジョイント用ブーツ43aの大径部がリング状のブーツバンド45aによって装着され、等速ジョイント用ブーツ43aの小径部は前記伝達軸36の端部から所定間隔離間した位置にリング状のブーツバンド47aによって装着される。前記アウタ部材40aの内周面には、図3に示されるように、軸線方向に沿って延在し、軸心の回りに約120°の間隔をおいて3本の案内溝44a、46a、48aが形成される。それぞれの案内溝44a、46a、48aは、断面が曲線状に形成された湾曲部50aと、前記湾曲部50aの両側に相互に対向して形成され、後述する滑動部材52a、54aが摺動する平面状の摺動面56a、58aとから構成される。
【0016】
伝達軸36にはリング状のスパイダ60aが外嵌され、前記スパイダ60aの外周面には、それぞれ案内溝44a、46a、48aに向かって膨出し軸心の回りに120°の間隔をおいて3本のトラニオン62a、64a、66aが一体的に形成される。前記摺動面56a、58aと対峙する各トラニオン62a、64a、66aの外表面は、球面状に形成されている。
【0017】
各トラニオン62a、64a、66aと各案内溝44a、46a、48aの摺動面56a、58aとの間には、略円盤状に形成された一組の滑動部材52a、54aがそれぞれ介装される。該滑動部材52a、54aの一方の側面は、図4に示すように、前記トラニオン62a、64a、66aの球面に対応して内壁面が球面形状に形成された凹部68aからなり、摺動面56aに面接触する他方の側面は、摺動面56aに対応して平面部70aが形成される。従って、滑動部材52a、54aは、トラニオン62a、64a、66aの外表面および摺動面56a、58aにそれぞれ摺動自在に面接触している。
【0018】
この場合、滑動部材52a、54aの凹部68aの形状は、断面が円弧状に形成される球面(図5A参照)に限定されるものではなく、トラニオン62a、64a、66aに線接触する断面くの字状の凹部72aが形成された滑動部材53a、55aでもよいし(図5B参照)、あるいは、前記断面くの字状の凹部72aの中心に貫通する孔部74aが形成された滑動部材57a、59aでもよい(図5C参照)。この場合、特に前記孔部74aを設けることにより応力の集中を回避するとともに、トラニオン62a、64a、66aと滑動部材52a、54aとの摺動面に対して潤滑油を容易に注入することができるという利点がある。
【0019】
なお、前記滑動部材52a、54aは金属製または樹脂製材料を用いて、図6に示されるように、一面が矩形状となるように形成してもよい。
【0020】
図7は、入力側の方向から見た回転運動伝達機構30の入力側等速ジョイント34aのG−G線縦断面および出力側等速ジョイント34bのH−H線縦断面をそれぞれ平面的に表したものである。図7において、回転運動伝達機構30が矢印A方向に回転するとき、入力側等速ジョイント34aのアウタ部材40aから滑動部材52aに対して回転力が伝達される平面部70aの中心の点(入力側駆動力伝達点)T1 と、出力側等速ジョイント34bの滑動部材54bからアウタ部材40bに対して回転力を伝達する平面部70bの中心の点(出力側駆動力伝達点)T2 とは、同位相(位相角度差が0°)に設定されている。なお、前記同位相とは、点T1 と点T2 とを結ぶ仮想線78が伝達軸36の軸線と平行となる状態をいう。
【0021】
この場合、図7において上方を0°とすると、回転運動伝達機構30が矢印A方向に回転して入力側等速ジョイント34aの点T1 が0°の位置にあるとき、出力側等速ジョイント34bの点T2 も0°の位置にある。
【0022】
本実施の形態に係る回転運動伝達機構30は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、前記回転運動伝達機構30の作用効果について説明する。
【0023】
図示しないエンジンから駆動軸32に矢印A方向の回転駆動力が付与されると(図1、図3参照)、入力側等速ジョイント34aのアウタ部材40aが回転する。この回転運動は案内溝44a、46a、48aを構成する一方の摺動面56aから一方の滑動部材52aの平面部70aに伝達され、さらに凹部68aを構成する曲面からトラニオン62a、64a、66aに伝達されてスパイダ60aが回転する。このため、伝達軸36が矢印A方向に回転する。
【0024】
そして、伝達軸36の回転運動は出力側等速ジョイント34bのトラニオン62b、64b、66bから他方の滑動部材54bに伝達され、さらに、該滑動部材54bの平面部70bから他方の摺動面58bに伝達され、アウタ部材40bが回転し、従動軸38が矢印A方向に回転する。このため、従動軸38に連結された車輪(図示せず)が回転する。
【0025】
例えば、自動車が傾斜した路面を走行するとき等、入力側等速ジョイント34aにおいて、固定側の駆動軸32の軸線に対して伝達軸36の軸線が角度θだけ傾斜すると(図1参照)、球状に形成されたトラニオン62a、64a、66aはその軸芯を回動中心として滑動部材52a、54aの一方の側面に形成された球面の凹部68aに沿って矢印B方向(図3参照)並びに矢印C方向(図8参照)に所定角度摺動変位する。前記トラニオン62a、64a、66aが所定角度摺動変位すると同時に、滑動部材52a、54aは、他方の側面に形成された平面部70aを介して摺動面56a、58aに沿って摺動変位する。この場合、滑動部材52a、54aは、摺動面56a、58aの軸線と平行な矢印D方向(図2参照)および前記軸線と直交する矢印E方向(図3参照)を含む摺動面56a、58aの全方向に沿って摺動変位自在である。このため、駆動軸32の回転運動は伝達軸36の傾斜角度に影響されることなく該伝達軸36に伝達される。
【0026】
出力側等速ジョイント34bにおいて、伝達軸36に対して従動軸38が角度θだけ傾斜している場合も、前述の入力側等速ジョイント34aと同様に伝達軸36の回転運動が従動軸38の傾斜角度に影響されることなく該従動軸38に伝達される。
【0027】
このように、本実施の形態では、トラニオン62a、62b、64a、64b、66a、66bと摺動面56a、56b、58a、58bとの間に、前記トラニオン62a、62b、64a、64b、66a、66bおよび摺動面56a、56b、58a、58bに対してそれぞれ面接触し摺動自在な滑動部材52a、52b、54a、54bを介装している。従って、摺動部位の面圧を低下させることにより、該摺動部位の油膜切れを引き起こすことがなく潤滑性の安定化を図ることができる。
【0028】
次に、点T1 と点T2 との位相角度差が0°、すなわち同位相に設定された本実施の形態に係る回転運動伝達機構30と、図9に示すように、点T1 と点T2 との位相角度差が60°、すなわち逆位相に設定された比較例に係る回転運動伝達機構71とを対比して以下に説明する。
【0029】
なお、図9は、比較例に係る回転運動伝達機構71において、入力側の方向から見た入力側等速ジョイント34cおよび出力側等速ジョイント34dの縦断面をそれぞれ平面的に表したものであり、図7に示す本実施の形態と同一の構成要素には同一の参照数字に符号c、dを付して示す。また、図9において、アウタ部材40c、40dの中心点Oから上方の位置を0°とする。
【0030】
図示しないエンジン側から伝達された回転駆動力は、一体的に回転する入力側等速ジョイント34a、34c、伝達軸36および出力側等速ジョイント34b、34dを介して図示しない車輪に伝達される。この場合、図示しない車輪に荷重が付与されて出力側等速ジョイント34b、34dが変位することにより、入力側等速ジョイント34a、34cおよび出力側等速ジョイント34b、34dのそれぞれの軸線(駆動軸32および従動軸38の軸線)に対して伝達軸36の軸線が所定角度傾斜した状態となる(図10A、図10B、図11Aおよび図11B参照)。
【0031】
前記伝達軸36が所定角度傾斜することにより、入力側等速ジョイント34aおよび出力側等速ジョイント34bを構成する滑動部材52a、52bが案内溝44a、44b、46a、46b、48a、48bに沿って摺動変位することにより、入力側および出力側等速ジョイント34a、34bには、それぞれ軸方向荷重が発生する。この軸方向荷重は、滑動部材52a、52bの平面部70a、70bと案内溝44a、44b、46a、46b、48a、48bとの間に発生して伝達軸36に付与される軸方向荷重とアウタ部材40a、40bに付与される軸方向荷重とを含む。
【0032】
そこで、前記軸方向荷重について本実施の形態と比較例とを比較検討する。
【0033】
比較例に係る回転運動伝達機構71、すなわち、入力側等速ジョイント34cと出力側等速ジョイント34dとが逆位相に設定された状態において、図10Aに示されるように、伝達軸36に付与される軸方向荷重F1 、F2 の向きが入力側等速ジョイント34cと出力側等速ジョイント34dとではそれぞれ反対方向となるとともに、アウタ部材40c、40dに付与される軸方向荷重F3 、F4 の向きも入力側等速ジョイント34cと出力側等速ジョイント34dとではそれぞれ反対方向となる。
【0034】
すなわち、図10Aに示されるように、入力側等速ジョイント34cでは、伝達軸36が所定角度傾斜し案内溝44cに沿って滑動部材52cが矢印X1 方向に摺動変位することにより、伝達軸36に付与される軸方向荷重F1 が前記矢印X1 方向に向かって発生する。一方、出力側等速ジョイント34dでは、伝達軸36が所定角度傾斜し案内溝44dに沿って滑動部材54dが矢印X2 方向に摺動変位することにより、伝達軸36に付与される軸方向荷重F2 が前記矢印X2 方向に向かって発生する。従って、比較例に係る回転運動伝達機構71では、入力側等速ジョイント34cおよび出力側等速ジョイント34dにおいてそれぞれ発生する伝達軸36に付与される軸方向荷重F1 、F2 の向きが相互に接近する方向で且つ反対方向となる。この場合、前記軸方向荷重F1 、F2 は、伝達軸36に対し圧縮する力として作用する。
【0035】
なお、比較例に係る回転運動伝達機構71が図10Aの状態から180°回転した状態では、図10Bに示されるように、入力側等速ジョイント34cおよび出力側等速ジョイント34dにおいてそれぞれ発生し伝達軸36に付与される軸方向荷重F1 、F2 の向きが相互に離間する方向で且つ反対方向となる。この場合、前記軸方向荷重F1 、F2 は、伝達軸36に対し引張する力として作用する。
【0036】
また、入力側等速ジョイント34cでは、図10Aに示されるように、前記伝達軸36に付与される軸方向荷重F1 の反作用としてアウタ部材40cに付与される軸方向荷重F3 が矢印X2 方向に向かって発生し、一方、出力側等速ジョイント34dでは、前記伝達軸36に付与される軸方向荷重F2 の反作用としてアウタ部材40dに付与される軸方向荷重F4 が矢印X1 方向に向かって発生する。なお、図10Bの状態では、アウタ部材40c、40dに付与される軸方向荷重F3 、F4 が前記とは反対に、それぞれ矢印X1 、X2 方向に向かって発生する。従って、比較例に係る回転運動伝達機構71では、入力側等速ジョイント34cおよび出力側等速ジョイント34dにおいてそれぞれ発生しアウタ部材40c、40dに付与される軸方向荷重F3 、F4 の向きが互いに反対方向となる。
【0037】
このように、比較例に係る回転運動伝達機構71では、伝達軸36に付与される軸方向荷重F1 、F2 によって伝達軸36を圧縮・引張する力が作用し、前記圧縮する力と引張する力とが略平衡することにより、伝達軸36は、後述するように、フローティング状態を保持しながらその中心で略固定された状態、換言すると突っ張った状態となる。
【0038】
これに対して、本実施の形態に係る回転運動伝達機構30、すなわち、入力側等速ジョイント34aと出力側等速ジョイント34bとが同位相に設定された状態では、図11Aに示されるように、伝達軸36に付与される軸方向荷重f1 、f2 の向きが入力側等速ジョイント34aと出力側等速ジョイント34bとではそれぞれ同方向となるとともに、アウタ部材40a、40bに付与される軸方向荷重f3 、f4 の向きも入力側等速ジョイント34aと出力側等速ジョイント34bとではそれぞれ同方向となる。
【0039】
すなわち、入力側等速ジョイント34aでは、図11Aに示されるように、伝達軸36が所定角度傾斜し案内溝44aに沿って滑動部材52aが矢印X2 方向に沿って摺動変位することにより、伝達軸36に付与される軸方向荷重f1 が前記矢印X2 方向に向かって発生する。一方、出力側等速ジョイント34bでは、伝達軸36が所定角度傾斜し案内溝44bに沿って滑動部材54bが矢印X2 方向に沿って摺動変位することにより、伝達軸36に付与される軸方向荷重f2 が前記矢印X2 方向に向かって発生する。従って、本実施の形態に係る回転運動伝達機構30では、入力側等速ジョイント34aおよび出力側等速ジョイント34bにおいてそれぞれ発生し伝達軸36に付与される軸方向荷重f1 、f2 の向きが入力側に向かって同方向となる。換言すると、本実施の形態に係る回転運動伝達機構30において、伝達軸36に付与される軸方向荷重f1 、f2 は、出力側等速ジョイント34bから逃げる方向に作用し、出力側等速ジョイント34bに伝達されることがない。
【0040】
なお、本実施の形態に係る回転運動伝達機構30が図11Aの状態から180°回転した状態では、図11Bに示されるように、入力側等速ジョイント34aおよび出力側等速ジョイント34bにおいてそれぞれ発生し伝達軸36に付与される軸方向荷重f1 、f2 の向きが出力側に向かって同方向となる。
【0041】
また、入力側等速ジョイント34aでは、図11Aに示されるように、前記伝達軸36に付与される軸方向荷重f1 の反作用としてアウタ部材40aに付与される軸方向荷重f3 が矢印X1 方向に向かって発生し、一方、出力側等速ジョイント34bでは、前記伝達軸36に付与される軸方向荷重f2 の反作用としてアウタ部材40bに付与される軸方向荷重f4 が矢印X1 方向に向かって発生する。なお、図11Bの状態では、アウタ部材40a、40bに付与される軸方向荷重f3 、f4 が前記と反対に矢印X2 方向となる。従って、本実施の形態に係る回転運動伝達機構30では、入力側等速ジョイント34aおよび出力側等速ジョイント34bにおいてそれぞれ発生するアウタ部材40a、40bに付与される軸方向荷重f3 、f4 の向きがそれぞれ同方向となる。
【0042】
本実施の形態に係る回転運動伝達機構30では、このように伝達軸36に付与される軸方向荷重f1 、f2 が入力側および出力側に向かってそれぞれ同方向に発生することから、前記伝達軸36は前記軸方向荷重f1 、f2 の作用下にその軸線方向に沿って変位しやすくなる。しかも、伝達軸36に付与される軸方向荷重f1 、f2 が入力側に向かって同方向に発生する場合、前記軸方向荷重f1 、f2 は、出力側等速ジョイント34bから逃げる方向に作用して出力側等速ジョイント34bに対する伝達が阻止される。この結果、本実施の形態に係る回転運動伝達機構30では、比較例に係る回転運動伝達機構71と比較して伝達軸36に付与される軸方向荷重f1 、f2 を減少させることができる。
【0043】
続いて、伝達軸36の動き(伝達軸36の直径方向および軸方向の変位)について本実施の形態と比較例とを比較検討する。
【0044】
逆位相に設定された比較例では、図12に示されるように、伝達軸36の中心点37を中心として前記伝達軸36の入力側の一端部36cが周方向(矢印A方向)に沿って回転するとともに、前記伝達軸36の出力側の他端部36dが前記とは逆位相で周方向(矢印A方向)に沿って回転する。なお、参照符号80は、入力側等速ジョイント34cのアウタ部材40cの軸線と出力側等速ジョイント34dのアウタ部材40dの軸線とを結んだ直線を示す。
【0045】
これに対して、同位相に設定された本実施の形態では、図13に示されるように、入力側等速ジョイント34aのアウタ部材40aの軸線と出力側等速ジョイント34bのアウタ部材40bの軸線とを結んだ直線80を中心として、伝達軸36の入力側の一端部36aと出力側の他端部36bと伝達軸36の中心点37とが一体的に同一の位相で周方向(矢印A方向)に沿って回転する。換言すると、前記伝達軸36の軸線と直線80とが略平行に保持された状態で、該伝達軸36が直線80の同一の周方向に沿って回転する。
【0046】
伝達軸36の直径方向の変位について比較例と本実施の形態とを比較検討すると、逆位相に設定された比較例では、前述したように、相互に接近する方向に沿って伝達軸36に付与される軸方向荷重F1 、F2 によって圧縮する力が伝達軸36に作用するとともに、相互に離間する方向に沿って伝達軸36に付与される軸方向荷重F1 、F2 によって引張する力が伝達軸36に作用するため、前記伝達軸36の中心点37が略固定された状態となる。このことは、図14に示されるように、伝達軸36の回転に伴って入力側の一端部36cの位置と出力側の他端部36dの位置とがそれぞれ直径方向に沿って変位しているが、伝達軸36の回転角度が増大しても伝達軸36の中心点37は略一定に保持されていることからも諒解される。
【0047】
これに対して、同位相に設定された本実施の形態では、直線80を中心として、伝達軸36の入力側の一端部36aと出力側の他端部36bと伝達軸36の中心点37とが一体的に周方向に沿って回転するため、図15に示されるように、伝達軸36の中心点37と伝達軸36の一端部36aおよび他端部36bの位置が同じように変位する。
【0048】
次に、伝達軸36の軸方向の変位について比較例と本実施の形態とを比較検討すると、図16に示されるように、比較例では、伝達軸36が1回転する間に該伝達軸36の中心点37が1往復だけ軸方向に沿って変位するのに対し、本実施の形態では、伝達軸36が1回転する間に該伝達軸36の中心点37が3往復だけ軸方向に沿って変位する。
【0049】
比較例では、入力側等速ジョイント34cで発生する軸方向荷重F1 と出力側等速ジョイント34dで発生する軸方向荷重F2 とが僅かに釣り合わないために伝達軸36の中心点37が1往復するものと思われる。
【0050】
これに対して、本実施の形態では、入力側および出力側等速ジョイント34a、34bでそれぞれ発生する軸方向荷重f1 、f2 が、入力側および出力側に向かってそれぞれ同方向に作用するため、入力側の伝達軸36に付与される軸方向荷重f1 と出力側の伝達軸36に付与される軸方向荷重f2 とが釣り合うことがない。従って、本実施の形態では、伝達軸36が軸方向に沿って変位しやすく突っ張ることがないとともに、出力側から入力側に向かって逃げる方向に軸方向荷重f1 、f2 が発生するために出力側に軸方向荷重f1 、f2 が伝達されることが阻止される。この結果、本実施の形態では、比較例に比べ、伝達軸36に付与される軸方向荷重f1 、f2 を減少させることができる。
【0051】
図17に、点T1 と点T2 との位相角度差を変化させた際に、伝達軸36に付与される軸方向荷重(誘起スラスト力)の大きさを示す。この特性曲線から諒解されるように、位相角度差が20〜100°の範囲では誘起スラスト力が比較的大きいが、位相角度差が0°であるときに誘起スラスト力が最も小さくなっている。従って、位相角度差が0°のとき、すなわち同位相のときに前記軸方向荷重f1 、f2 に起因する振動の発生が最も抑制されることがわかった。
【0052】
なお、本実施の形態において、入力側等速ジョイント34aと出力側等速ジョイント34bとを同位相に設定する場合、伝達軸36に付与されるねじれ荷重を考慮して設定すると好適である。
【0053】
【発明の効果】
本発明に係る回転運動伝達機構によれば、以下のような効果ならびに利点が得られる。
【0054】
駆動軸、従動軸に対して伝達軸が傾斜している際、回転運動伝達機構が回転して入力側と出力側のそれぞれの等速ジョイントに設けられた滑動部材が案内溝の摺動面を摺動することによって伝達軸に軸方向荷重が付与されるが、入力側と出力側とで同一方向に力が付与されるため、しかも、出力側から入力側に向かって逃げる方向に作用することになり、前記軸方向荷重が出力側等速ジョイントに伝達されることがない。従って、回転運動伝達機構の回転によって伝達軸に軸方向荷重が発生しても、この軸方向荷重は出力側に伝達されず、従来技術と比較してより一層振動特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係る回転運動伝達機構の一部省略縦断面図である。
【図2】図1の回転運動伝達機構に使用される等速ジョイントの一部拡大縦断面図である。
【図3】図2の等速ジョイントのIII−III線断面図である。
【図4】図2の等速ジョイントに使用されるトラニオンと該トラニオンに係合する一組の滑動部材とを示す一部拡大斜視図である。
【図5】図5A〜図5Cは、図4に示す滑動部材の変形例の縦断面図である。
【図6】図4に示す滑動部材の変形例の一部省略斜視図である。
【図7】図1の回転運動伝達機構に使用される入力側等速ジョイントのG−G線断面図および出力側等速ジョイントのH−H線断面図である。
【図8】図3の等速ジョイントのVIII−VIII線断面図である。
【図9】比較例に係る回転運動伝達機構に使用される入力側等速ジョイントおよび出力側等速ジョイントの縦断面図である。
【図10】図9の比較例に係る回転運動伝達機構の模式図であり、図10Aは、入力側等速ジョイントのトラニオンが上方に位置している状態を示し、図10Bは、図10Aに対して回転運動伝達機構が180°回転した状態を示す図である。
【図11】図1の本実施の形態に係る回転運動伝達機構の模式図であり、図11Aは、入力側等速ジョイントのトラニオンが下方に位置している状態を示し、図11Bは、図11Aに対して回転運動伝達機構が180°回転した状態を示す図である。
【図12】図9の比較例に係る回転運動伝達機構に使用される伝達軸の運動を示す模式図である。
【図13】図1の本実施の形態に係る回転運動伝達機構に使用される伝達軸の運動を示す模式図である。
【図14】図9の比較例に係る回転運動伝達機構に使用される伝達軸の端部の回転角度に対する変位量を示す特性図である。
【図15】図1の本実施の形態に係る回転運動伝達機構に使用される伝達軸の端部の回転角度に対する変位量を示す特性図である。
【図16】図7の本実施の形態および図9の比較例に係る回転運動伝達機構に使用される伝達軸の回転角度に対する軸線方向の変位量を示す特性図である。
【図17】図1の回転運動伝達機構において、点T1 と点T2 の位相角度差を変化させたときの伝達軸に付与される誘起スラスト力の大きさを示す特性図である。
【図18】従来技術に係る回転運動伝達機構の一部省略縦断面図である。
【図19】図18の回転運動伝達機構に使用される入力側等速ジョイントのJ−J線断面図および出力側等速ジョイントのK−K線断面図である。
【図20】図18の回転運動伝達機構の入力側等速ジョイントと出力側等速ジョイントのそれぞれのトラニオンの位相角度差に対する誘起スラスト力の大きさを示す特性図である。
【符号の説明】
30、71…回転運動伝達機構 32…駆動軸
34a〜34d…等速ジョイント 36…伝達軸
38…従動軸 40a〜40d…アウタ部材
42a、42b…インナ部材
44a〜44d、46a〜46d、48a〜48d…案内溝
52a、52b、53a、53b、54a、54b、55a、55b、57a、57b、59a、59b…滑動部材
56a、56b、58a、58b…摺動面
62a、62b、64a、64b、66a、66b…トラニオン
Claims (1)
- 駆動軸が設けられた入力側等速ジョイントから伝達軸を介して出力側等速ジョイントに設けられた従動軸に回転運動を伝達する回転運動伝達機構において、
前記入力側等速ジョイントおよび前記出力側等速ジョイントは、それぞれ所定間隔離間し軸線方向に沿って延在する複数の案内溝と、前記案内溝の相互に対向する側面にそれぞれ形成され軸線方向に沿って延在する摺動面とを有し、前記駆動軸または前記従動軸に連結されるカップ状のアウタ部材と、
前記アウタ部材の開口部内に挿入されて前記伝達軸に連結されるインナ部材と、
前記案内溝に向かって膨出形成されるとともに前記摺動面に沿って摺動自在な滑動部材を有する3つのトラニオンと、
をそれぞれ備え、
前記滑動部材の一方の側面には前記トラニオンの球面と摺動自在に接触する凹部が形成され、他方の側面には前記摺動面と摺動自在に接触し回転力を伝達する平面が形成され、
前記回転運動伝達機構が回転する際に前記入力側等速ジョイントのアウタ部材から滑動部材に回転力が伝達される位置と、前記伝達軸を経由し前記出力側等速ジョイントの滑動部材からアウタ部材に回転力が伝達される位置とが同位相に設定され、
前記同位相とは、前記入力側等速ジョイントのアウタ部材から滑動部材に回転力が伝達される入力側駆動力伝達点と、前記出力側等速ジョイントの滑動部材からアウタ部材に回転力が伝達される出力側駆動力伝達点とを結ぶ仮想線が、前記伝達軸の軸線と平行であることを特徴とする回転運動伝達機構。
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