JP3761022B2

JP3761022B2 - 非鉄金属圧延プロセス用ロール

Info

Publication number: JP3761022B2
Application number: JP2001190689A
Authority: JP
Inventors: 翼松本; 貢吉田
Original assignee: Tocalo Co Ltd
Current assignee: Tocalo Co Ltd
Priority date: 2001-06-25
Filing date: 2001-06-25
Publication date: 2006-03-29
Anticipated expiration: 2021-06-25
Also published as: JP2003001306A

Description

【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、圧延プロセス用ロールに係り、とくに、アルミニウム、銅、チタンまたはそれらの合金といった非鉄金属材料の板を製造する圧延工程で主として用いられる圧延プロセス用ロールに関する。
【０００２】
【従来の技術】
非鉄金属板は、通常、所望の組成の鋳塊を所定の温度に加熱し熱間圧延により熱延板としたのち、該熱延板を冷間圧延により所定板厚の冷延板とし、必要に応じ、熱処理を施したのち、所定の寸法に切断されて製品板とされる。
このような非鉄金属板の製造ラインの各工程においては、その作業目的に合致した、例えば、圧延用ロール、搬送用ロール等の圧延プロセス用ロールが使用されている。このような非鉄金属圧延プロセス用ロールとして、要求される特性は、まず通板材に対し適正な摩擦係数を有すること、また通板材に対しすり疵、圧痕等の表面疵を発生させないこと、さらに表面に金属系、非金属系粉塵が付着がしにくいこと、などである。
【０００３】
このような特性を有するロールとしては、表面に硬質クロムめっきを施したロールがあり、従来から圧延プロセス用ロールとして使用されてきた。しかしながら、硬質クロムめっきロールは、通板材に対し表面疵を発生させない点においては優れているが、高温に長時間曝されると、硬さが低下し耐摩耗性が極端に低下するという問題があった。さらに、硬質クロムめっきロールは、冷間圧延工程ではスリップ現象を生じ、その時の摩擦熱で通板材の擦過微粉がロールの表面に付着しやすいという問題もあった。
【０００４】
このような問題に対し、例えば、特開昭64-87006号公報には、表面に気孔率1.8 ％以下、表面粗さR _max3.0 μm 以下のサーメット溶射皮膜を有する非鉄金属圧延プロセス用ロールが提案されている。特開昭64-87006号公報に記載された技術では、ロール表面に形成されるサーメット溶射皮膜を、タングステンカーバイト（ＷＣ）とコバルトまたはニッケル−クロム合金との混合物からなる炭化物サーメットを溶射して形成するのがよいとしている。
【０００５】
【発明の解決しようとする課題】
しかしながら、特開昭64-87006号公報に記載された技術を利用して製造されたＷＣサーメット溶射皮膜を有するロールを用いて、長期にわたってアルミニウム板を支持、搬送すると通板材であるアルミニウムの一部が溶射皮膜の極微小くぼみに固着して推定厚さ１μｍ以下の付着層が形成されることがしばしば発生した。この付着層は、今までに焼付きと呼ばれている現象の一例と考えることができるが、ロール表面皮膜の曇りを発生させ、製品板の表面品質の低下につながるという問題があった。
【０００６】
本発明は、上記した従来技術の問題を有利に解決し、アルミニウム板等の非鉄金属圧延プロセス用として好適な、耐焼付き性に優れた非鉄金属圧延プロセス用ロールを提案することを目的とする。なお、本発明でいう「耐焼付き性に優れた」とは、非鉄金属材料との親和性が低く、かつ、それ自身がごくわずか摩耗し、表面に付着した付着物を系外に脱離・移動することを促進し、ロール表面の巨視的な平滑性を維持する特性というものとする。
【０００７】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するため、サーメット溶射皮膜を有する非鉄金属圧延プロセス用ロールの耐焼付き性におよぼす各種要因について鋭意研究した。
本発明者らは、まずＷＣサーメット溶射皮膜を有するロールを用いて長期にわたってアルミニウム板を支持、搬送すると発生する付着層の形成現象について考察した。その結果、ＷＣサーメット溶射皮膜がアルミニウム板に対し高い耐摩耗性を示すために、皮膜表面にごく軽度に形成したAl付着物が表面から系外に離脱・移動することなく時間とともに成長・拡大することにより上記した付着層が形成されることを想到した。
【０００８】
このような考えのもとに、本発明者らはさらに研究した結果、ロール表面に形成される皮膜の具備すべき条件として、▲１▼ＷＣサーメット溶射皮膜に匹敵する平滑仕上げ性（到達可能な表面あらさ）を有し、▲２▼表面に付着したAl付着物が表面から系外に離脱・移動することを促進しかつ自身の平滑性を維持できる耐摩耗性（硬さ特性）を有することが挙げられ、このような皮膜としてはクロム炭化物サーメット溶射皮膜が有効であることを見い出した。
【０００９】
まず、本発明者らの行った基礎的実験結果について説明する。
耐摩耗性についてはJIS H 8503に規定されるスガ式摩耗試験機を用い引っ掻き摩耗特性を調べた。その結果を図１に示す。図１から、クロム炭化物サーメット溶射皮膜はＷＣサーメット溶射皮膜に比べ常温での耐摩耗性が、低いことがわかる。
【００１０】
つぎにJIS K 7218に規定される大越式摩耗試験機を用いて、すべり率２％で、Al材をＷＣサーメット溶射皮膜あるいはクロム炭化物サーメット皮膜を表面に形成した試験片に押し付け摺動させ、皮膜表面へAl材の焼付き付着性を調べた。得られた結果を表１に示す。
【００１１】
【表１】

【００１２】
表１から、クロム炭化物サーメット溶射皮膜のAl材に対する耐焼付き付着性はＷＣサーメット溶射皮膜のそれにくらべてすぐれることが示唆される。本発明は、上記した知見に基づきさらに検討して完成されたものである。
すなわち、本発明は、ロール表面にサーメット溶射皮膜を有する非鉄金属圧延プロセス用ロールであって、前記サーメット溶射皮膜が、クロム炭化物サーメットを溶射し得られた、質量％で 70 〜 80 ％のクロム炭化物を含有する皮膜であり、気孔率1.0 ％以下を有し、かつ該サーメット溶射皮膜の表面粗さを、Ｒ_aで0. 2μm 以下とすることを特徴とする耐焼付き性に優れた非鉄金属圧延プロセス用ロールであり、また、本発明では、前記クロム炭化物サーメットがクロム炭化物とクロム−ニッケル合金との混合物または複合物からなることが好ましく、また、本発明では、前記クロム炭化物が、Cr₃C₂、Cr₇C₃、Cr₂₃C₆のうち１種または２種以上であることが好ましい。また、本発明では、前記クロム炭化物サーメット溶射皮膜が微小硬さ 650〜950Hv を有することが好ましい。
【００１３】
【発明の実施の形態】
本発明の非鉄金属圧延プロセス用ロールは、表面にサーメット溶射被膜を有するロールである。このサーメット溶射被膜に要求される基本的機能は、ひとつにアルミニウム等の非鉄金属材料との低親和性であり、これが耐焼付き性の発現に寄与する。他は被圧延材である非鉄金属板のスリップを伴う擦過通過における耐摩耗性である。ここで要求される耐摩耗性は、非鉄金属板の擦過通過により皮膜自体がごくわずか摩耗する耐摩耗性である。この耐摩耗性の発揮によってロール表面の巨視的な平滑性が維持され、製品板への疵の発生が抑制され、耐焼付き性が向上すると考えられる。
【００１４】
本発明では、ロール表面に、クロム炭化物サーメットを溶射して、サーメット溶射皮膜を形成する。溶射材料として使用するクロム炭化物サーメットは、クロム炭化物と金属との混合物または複合物であり、本発明ではクロム炭化物を、Cr₃C₂、Cr₇C₃、Cr₂₃C₆のうち１種または２種以上、すなわちCr₃C₂、あるいはCr₇C₃、あるいはCr₂₃C₆、あるいはそれらの混合物、あるいはそれらの複合物とし、金属を、ニッケルークロム合金、あるいはCo、Crとするのが好ましい。
【００１５】
本発明では、溶射皮膜の膜厚は、40〜 300μｍとするのが好ましい。膜厚が40μｍ未満では、膜厚が薄すぎて所期の目的が達成できない。一方、300 μｍを超えると膜厚が厚すぎて、密着性が低下する。
本発明におけるサーメット溶射皮膜は、ＷＣサーメット溶射皮膜にくらべて低い適度な硬さである微小硬さ 650〜950Hv を有することが好ましい。この硬さに起因する耐摩耗性は、環境からの擦過履歴に対して皮膜自体がごくわずか摩耗し、系外離脱することによって、皮膜表面に生成した軽度のAl等付着物のさらなる成長を未然に防止するという特徴を有する。このような皮膜を形成することにより、ロールの耐焼付き性が向上する。
【００１６】
本発明のロールに形成されるクロム炭化物サーメット溶射皮膜は、質量％で70〜80％のクロム炭化物を含有する。クロム炭化物の含有量が70％未満では、耐摩耗性、平滑研削性が劣化する。一方、80％を超えて含有すると、皮膜密着性が低下し皮膜が剥離しやすくなる。また、皮膜そのものの脆性が高くなるという問題もある。なお、クロム炭化物としては、上記したようにCr₃C₂、Cr₇C₃、Cr₂₃C₆のうち１種または２種以上とするのが好ましく、中でもCr₃C₂とすることがより好ましい。
【００１７】
サーメット溶射皮膜の形成方法は、特に限定する必要はなく、通常公知の溶射方法がいずれも適用可能であるが、中でも、高速ガス炎溶射法が好ましい。
本発明では、形成される溶射皮膜の気孔率を1.0 ％以下に調整する必要がある。気孔率が1.0 ％を超えると、研磨後のロール表面にピットが生成し、通板材に転写されるなど不適当なロール表面となる。高速ガス尖溶射法を用いれば、溶射被皮膜の気孔率を1.0 ％以下にすることは容易となる。
【００１８】
また本発明のロールは、サーメット溶射皮膜を形成したのち、該皮膜の表面粗さをＲ_a（算術平均粗さ）で、0.2 μm 以下、好ましくは 0.1μm 以下、より好ましくは0. 1〜0.03μm の鏡面に仕上げるものとする。表面粗さの調整は、ダイヤモンド砥石を利用した研磨により行うことが好ましい。表面粗さがＲ_aで、0. 2μm を超えると、製品板に疵が発生する。なお、さらに好ましくは表面粗さがＲ_aで、0.06〜0.03μm である。なお、Ｒ_aは JIS B 0601 に規定される算術平均粗さをいう。
【００１９】
【実施例】
(実施例１）
板状試片（材質：Ｓ45Ｃ、サイズ：100 φ×50mm）の片側表面に、つぎに示す炭化物サーメット、
（ａ）ＷＣ（73質量％）−CrNi合金（Ni：７質量％、Cr：20質量％）
（ｂ）Cr₃C₂（75質量％）−NiCr合金（Ni：20質量％、Cr：５質量％）
を溶射材料として用いて、表２に示す膜厚と気孔率を有する溶射皮膜を形成した。溶射方法は、高速ガス炎溶射法を用いた。なお、溶射なしの場合も比較例として実施した。板状試験片は、表面に溶射皮膜を形成したのち、人造ダイヤモンド砥石で皮膜表面を研磨し、表２に示す表面粗さとした。
【００２０】
なお、溶射皮膜の気孔率は、溶射皮膜の断面組織を光学顕微鏡を用いて撮像し、画像解析装置により空孔部の面積率を求め、その数値を気孔率とした。また、表面粗さは、触針式表面粗さ計により、JIS B 0601の規定に準拠して、算術平均粗さ、Ｒ_aを測定した。また、溶射皮膜の硬さは、断面をVickers 微小硬度計（荷重 300gf）により測定し、求めた。
【００２１】
片側表面にサーメット溶射皮膜を形成した板状試験片を用いて、焼付き試験を実施し、耐焼付き性を調査した。焼付き試験は、図２に示す焼付き試験機を用いて、板状試験片の皮膜面に、リング状に形成した通板材としてのアルミニウム板（回転円板）を、試験片と接触可能に取り付けて、周速８ m／min ですべらせながら、試験片を所定の圧力P(0.1MPa）で、所定時間（0.1 ｈ）接触させたのち、試験片表面のアルミニウムの有無を目視で観察し、試験片の耐焼付き性を評価した。試験片表面に、薄くアルミニウムが付着する場合を○、所々に強固にアルミニウムが付着する場合を△、全面にアルミニウムが付着する場合を×として、評価した。
【００２２】
これらの結果を表２に示す。
【００２３】
【表２】

【００２４】
本発明例はいずれも、通板材であるアルミニウムの付着は見られず、安定して耐焼付き性に優れていることがわかる。一方、炭化物をＷＣとし本発明の範囲を外れる比較例 (No.1-1〜No.1-4）では、一部の試験片にアルミニウムの付着が見られ、耐焼付き性が低下し、安定して優れた耐焼付き性を確保できていない。溶射被膜を形成しない場合（試験片No.1-9）には、試験片表面全面にアルミニウムが付着している。
【００２５】
(実施例２）
アルミニウム板圧延設備（冷間圧延機）の各種プロセスロール（ブライドルロールおよびパスラインロール）に、表３に示す溶射皮膜（サーメット溶射被膜）を有するロールを組み込み、90日間実機テストを実施し、ロールの耐焼付き性を評価した。耐焼付き性の評価は、試験後にロール表面を目視観察し、通板材（アルミニウム板）の付着の有無を調査した。得られた結果を表３に示す。
【００２６】
【表３】

【００２７】
本発明例はいずれも、通板材であるアルミニウムの付着は見られず、安定して耐焼付き性に優れていることがわかる。一方、炭化物をＷＣとし本発明の範囲を外れる比較例ロール (No.2-1、No.2-2）では、一部にわずかにアルミニウムの付着が見られ、耐焼付き性が低下している。
【００２８】
【発明の効果】
本発明によれば、非鉄金属圧延プロセス用として好適な、耐焼付き性に優れた非鉄金属圧延プロセス用ロールを安価にが製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明は、アルミニウム等非鉄金属の圧延が、焼付きの発生もなく、安定して高能率に行うことができるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【図１】引っ掻き摩耗量に及ぼすサーメット溶射皮膜の種類の影響を示すグラフである。
【図２】焼付き試験機の概要を模式的に示す説明図である。

Claims

ロール表面にサーメット溶射皮膜を有する非鉄金属圧延プロセス用ロールであって、前記サーメット溶射皮膜が、クロム炭化物サーメットを溶射して得られた、質量％で 70 〜 80 ％のクロム炭化物を含有する皮膜であり、気孔率1.0 ％以下を有し、かつ該サーメット溶射皮膜の表面粗さを、Ｒ_aで0. 2μm 以下とすることを特徴とする耐焼付き性に優れた非鉄金属圧延プロセス用ロール。
前記クロム炭化物サーメットが、クロム炭化物とクロム−ニッケル合金との混合物からなることを特徴とする請求項１に記載の非鉄金属圧延プロセス用ロール。
前記クロム炭化物が、Cr₃C₂、Cr₇C₃、Cr₂₃ C₆のうちの１種または２種以上からなることを特徴とする請求項１または２に記載の非鉄金属圧延プロセス用ロール。
前記クロム炭化物サーメット溶射皮膜が微小硬さ 650〜950Hv を有することを特徴とする請求項１ないし３のいずれかに記載の非鉄金属圧延プロセス用ロール。