JP3749616B2 - 超大入熱溶接熱影響部の靱性に優れた溶接用高張力鋼 - Google Patents

超大入熱溶接熱影響部の靱性に優れた溶接用高張力鋼 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は高層建築のボックス柱の組み立てで適用されるエレクトロスラグ溶接、あるいは、造船・橋梁で適用されるエレクトロガス溶接などの超大入熱溶接における熱影響部(以下、HAZと称する)靱性に優れた溶接用高張力鋼に関するものである。特に、入熱が200kJ/cm以上で、例えば、1500kJ/cm程度でも優れたHAZ靱性を有するものである。
【0002】
【従来の技術】
最近の建築構造物の高層化に伴い、鋼製柱が大型化し、これに使用される鋼材の板厚も増してきた。このような大型の鋼製柱を溶接で組み立てる際に、高能率で溶接することが必要であり、極厚鋼板を1パスで溶接できるエレクトロスラグ溶接が広く適用されるようになってきている。また、造船・橋梁分野においても板厚が25mm程度以上の鋼板を1パスで溶接するエレクトロガス溶接が広く適用されるようになってきた。典型的な入熱の範囲は200〜1500kJ/cmであり、このような超大入熱溶接ではサブマージアーク溶接などの大入熱溶接(入熱は100〜200kJ/cm)とは異なり、HAZが受ける熱履歴において1350℃以上の高温滞留時間が極めて長くなり、オーステナイト粒の粗大化が極めて顕著であり、HAZの靱性を確保することが困難であった。最近の大地震を契機として建築構造物の信頼性確保が急務の課題であり、このような超大入熱溶接HAZ部の靱性向上を達成することは極めて重要な課題である。
【0003】
従来から大入熱溶接HAZ靱性向上に関しては以下に示すように多くの知見・技術があるが、上記のとおり超大入熱溶接と大入熱溶接とではHAZが受ける熱履歴、特に、1350℃以上における滞留時間が大きく異なるために、大入熱溶接HAZ靱性向上技術を単純に本発明の対象分野に適用することはできない。
【0004】
従来の大入熱溶接HAZ靱性向上は大きく分類すると主に二つの基本技術に基づいたものであった。その一つは鋼中粒子によるピン止め効果を利用したオーステナイト粒粗大化防止技術であり、他の一つはオーステナイト粒内フェライト変態利用による有効結晶粒微細化技術である。
【0005】
「鉄と鋼」、第61年(1975)第11号、第68頁には、各種の鋼中窒化物・炭化物についてオーステナイト粒成長抑制効果を検討し、Tiを添加した鋼ではTiNの微細粒子が鋼中に生成し、大入熱溶接HAZにおけるオーステナイト粒成長を効果的に抑制する技術が示されている。
【0006】
特開昭60−184663号公報には、Alを0.04〜0.10%、Tiを0.002〜0.02%、さらに、希土類元素(REM)を0.003〜0.05%含有する鋼において、入熱が150kJ/cmの大入熱溶接HAZ靱性を向上させる技術が開示されている。これは、REMが硫・酸化物を形成して大入熱溶接時にHAZ部の粗粒化を防止する作用を有するためである。
【0007】
特開昭60−245768号公報には、粒子径が0.1〜3.0μm、粒子数が5×103〜1×107ケ/mm3のTi酸化物、あるいはTi酸化物とTi窒化物との複合体のいずれかを含有する鋼では、入熱が100kJ/cmの大入熱溶接HAZ内でこれら粒子がフェライト変態核として作用することによりHAZ組織が微細化してHAZ靱性を向上できる技術が開示されている。
【0008】
特開平2−254118号公報には、TiとSを適量含有する鋼において大入熱溶接HAZ組織中にTiNとMnSの複合析出物を核として粒内フェライトが生成し、HAZ組織を微細化することによりHAZ靱性の向上が図れる技術が開示されている。
【0009】
特開昭61−253344号公報には、Alを0.005〜0.08%、Bを0.0003〜0.0050%含み、さらに、Ti、Ca、REMのうち少なくとも1種以上を0.03%以下含む鋼は大入熱溶接HAZで未溶解のREM・Caの酸化・硫化物あるいはTiNを起点として冷却過程でBNを形成し、これからフェライトが生成することにより大入熱HAZ靱性が向上する技術が開示されている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
「鉄と鋼」、第61年(1975)第11号、第68頁に開示されている技術はTiNをはじめとする窒化物を利用してオーステナイト粒成長抑制を図るものであり、大入熱溶接では効果が発揮されるが、本発明が対象とする超大入熱溶接では1350℃以上の滞留時間が極めて長いために、ほとんどのTiNはほとんど固溶し、粒成長抑制の効果を失う。従って、この技術を本発明が目的とする超大入熱溶接HAZの靱性には適用できない。
【0011】
特開昭60−184663号公報に開示された技術はREMの硫・酸化物を利用して大入熱溶接時にHAZ部の粗粒化を防止するものである。硫・酸化物は窒化物に比べて1350℃以上の高温における安定性は高いので、粒成長抑制効果は維持される。しかしながら、硫・酸化物を微細に分散させることは困難である。硫・酸化物の個数密度が低いために、個々の粒子のピン止め効果は維持されるとしても超大入熱溶接HAZのオーステナイト粒径を小さくすることには限度があり、これだけで靱性向上をはかることはできない。
【0012】
特開昭60−245768号公報に記載された技術はTi酸化物、あるいはTi酸化物とTi窒化物との複合体のいずれかの粒子がフェライト変態核として作用することによりHAZ組織を微細化させてHAZ靱性を向上させるものであり、Ti酸化物の高温安定性を考慮すると超大入熱溶接においてもその効果は維持される。しかしながら、粒内変態核から生成するフェライトの結晶方位は全くランダムというわけではなく、母相オーステナイトの結晶方位の影響を受ける。従って、超大入熱溶接HAZではオーステナイト粒が粗大化する場合には粒内変態だけでHAZ組織を微細化することには限度がある。
【0013】
特開平2−254118号公報に開示された技術は、TiN上にMnSを析出させた複合析出物からフェライトを変態させるものであり、大入熱溶接のように1350℃以上の滞留時間が比較的短い場合には効果を発揮するが、超大入熱溶接においては1350℃以上の滞留時間が長く、この間にTiNは固溶してしまうためにフェライト変態核が消失し、その効果が発揮できない。
【0014】
特開昭61−253344号公報に開示された技術は、REM・Caの酸化・硫化物あるいはTiN上にBNを形成し、これからフェライトを生成させることによりHAZ組織を微細化するものであり、超大入熱溶接においても同様な効果は期待できる。しかしながら、REM・Caの酸化・硫化物の個数を増加させることは困難であり、しかもTiNは固溶してフェライト生成核としての作用を発揮できず、粒内フェライト変態だけでは超大入熱溶接HAZの靱性向上には限度がある。
【0015】
本発明は高層建築物のボックス柱の組み立てで適用されるエレクトロスラグ溶接、造船・橋梁で適用されるエレクトロガス溶接などの入熱が200kJ/cm以上の超大入熱溶接におけるHAZ靱性に優れた溶接用高張力鋼を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明は、Ti−Mg−Alを主体とする低融点酸化物を鋼中に含有し、超大入熱溶接HAZにおいて粒内フェライト変態を促進し、さらに、微細な酸化物を核としてTiNが生成した酸化物−TiN複合粒子のピン止めによるオーステナイト粒(γ粒)の粗大化を抑制することより、特に超大入熱溶接のHAZ靭性の向上を図るものである。
【0017】
本発明の要旨は次のとおりである。
【0018】
(1) 重量%で、
0.04≦C≦0.2、
0.02≦Si≦0.5、
0.6≦Mn≦2.0、
P≦0.02、
S≦0.02、
0.0002≦Mg≦0.005、
0.0002≦Al≦0.01、
0.0005≦O≦0.008、
0.005≦Ti≦0.025、
0.002≦N≦0.008、
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物よりなり、かつ、 酸化物を構成する元素Ti、Mg、Al(ただしOを除く)の割合が原子%で、
(Ti+Mg+Al)≧80%、
Ti≧20%、
Mg≧30%、
Al≦40%、
を満足し、粒子径が0.2〜5.0μmの酸化物(A)を含有する鋼であることを特徴とする超大入熱溶接熱影響部の靱性に優れた溶接用高張力鋼。
【0019】
(2) 前記酸化物(A)を1平方mmあたり10〜500個含有する鋼であることを特徴とする前記(1)記載の超大入熱溶接熱影響部の靭性に優れた溶接用高張力鋼。
【0020】
(3) 酸化物を構成する元素Al、Mg(ただしOを除く)の割合が原子%で、
(Al+Mg)≧95%、
Mg≧30%
を満足し、粒子径が0.005〜0.1μmの酸化物(B)を核としてその周辺にTiNを有する大きさが0.05〜2.0μmの酸化物(B)−TiN複合粒子を含有する鋼であることを特徴とする前記(1)又は前記(2)に記載の超大入熱溶接熱影響部の靱性に優れた溶接用高張力鋼。
【0021】
(4) 酸化物を構成する元素Al、Mg(ただしOを除く)の割合が原子%で、
(Al+Mg)≧95%、
Mg:30〜40%
を満足し、粒子径が0.005〜0.1μmの酸化物(B1)を核としてその周辺にTiNを有する大きさが0.05〜2.0μmの酸化物(B1)−TiN複合粒子を含有する鋼であることを特徴とする前記(1)又は前記(2)に記載の超大入熱溶接熱影響部の靱性に優れた溶接用高張力鋼。
【0022】
(5) 酸化物を構成する元素(ただしOを除く)の割合が原子%で、
Mg:95%以上
を満足し、粒子径が0.005〜0.1μmの酸化物(B2)を核としてその周辺にTiNを有する大きさが0.05〜2.0μmの酸化物(B2)−TiN複合粒子を含有する鋼であることを特徴とする前記(1)又は前記(2)に記載の超大入熱溶接熱影響部の靱性に優れた溶接用高張力鋼。
【0023】
(6) 前記酸化物(B)−TiN複合粒子を1平方mmあたり1.0×10 〜1.0×10 個含有する鋼であることを特徴とする前記(3)ないし(5)のいずれか1つに記載の超大入熱溶接熱影響部の靭性に優れた溶接用高張力鋼。
【0024】
(7) 更に母材強度上昇元素群として、重量%で、
0.05≦Cu≦1.5、
0.05≦Ni≦2.0、
0.02≦Cr≦1.0、
0.02≦Mo≦1.0、
0.005≦Nb≦0.05、
0.005≦V≦0.1、
0.0004≦B≦0.004、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする前記(1)ないし(6)のいずれか1つに記載の超大入熱溶接熱影響部の靱性に優れた溶接用高張力鋼。
【0025】
(8) 更に硫化物形態制御元素群として、重量%で、
0.0005≦Ca≦0.003、
0.0005≦REM≦0.003、
の1種または2種を含有することを特徴とする前記(1)ないし(7)のいずれか 1 に記載の超大入熱溶接熱影響部の靱性に優れた溶接用高張力鋼
【0026】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、超大入熱溶接HAZの組織と靱性の関係に関する詳細な調査・研究を実施した結果、従来の大入熱溶接HAZの組織制御または靱性向上法を超大入熱溶接にそのまま適用しても、HAZ靱性向上は限られたものであり、粒内フェライト変態核として効果のある酸化物を従来鋼以上に微細に分散させ、さらに、粒内フェライト変態だけによるHAZ組織の微細化には限度があるので、1350℃以上で長時間晒されてもオーステナイト粒(γ粒)の粗大化を抑制することにより、粒内フェライト変態との相乗効果により超大入熱溶接HAZの靭性がさらに向上できると考えた。
【0027】
特開昭60−245768号公報において開示されている技術はTi酸化物を鋼中に分散し、この酸化物を核として粒内フェライト変態をおこさせるものである。Tiは弱脱酸元素であり、特開平5−247561号公報にも開示されているとおり、Ti酸化物(Ti23を主体とする)は凝固中に晶出する低融点酸化物である。従って、粒内フェライト変態核としての作用は有するものの、酸化物の個数は凝固速度に依存するため、超大入熱溶接に適用できる程度に酸化物個数を確保することが困難である。一方、特開昭61−253344号公報に開示された技術は、REM・Caの酸化物・硫化物からの粒内フェライト変態を目的としたものであるが、REM・Caの酸化物は晶出温度・融点が高く、この場合にも酸化物を微細に分散させることは困難である。
【0028】
一般に、粒内フェライト変態核として特に効果を発揮する酸化物の粒径は0.5μm以上である。これ以下のサイズの粒子は溶鋼中に保持されても凝集・合体、浮上の程度は少ないが、0.5μm以上の比較的大きい粒子では溶鋼中に長時間保持されると凝集・合体、浮上がしやすい。従って、0.5μm以上の酸化物を微細分散させるためには比較的低温で溶鋼中に晶出し、晶出から凝固までの保持時間が短いほうが好ましいと本発明者らは考えた。加えて、低温で晶出する酸化物は融点も低く、溶鋼との濡れ性がよい傾向にあるので、凝集・合体、浮上がおこりにくいので、さらに有利となる。ただし、上記のとおり、晶出温度が低すぎるとかえって微細分散が困難となる。
【0029】
一方、酸化物の粒内フェライト変態能は酸化物種類により大きく異なることは公知の事実であるが、本発明者らは酸化物と鋼の濡れ性が粒内フェライト変態能に深く関与しているものと考えた。すなわち、高温で晶出する高融点の酸化物は一般に鋼との濡れ性が悪く、粒内フェライト変態能に劣る。その代表的なのもはアルミナ(Al23)である。一方、晶出温度が低い低融点酸化物、例えば、Ti23(若干のMnとAlを含有する場合が多い)では鋼との濡れ性が高く、粒内フェライト変態能は高い。粒内フェライト変態能の観点からは酸化物の融点は低い方が好ましい。
【0030】
以上の観点から、0.5μm程度以上の酸化物において、粒内フェライト変態能確保と微細分散を両立させるためには、酸化物に適度な融点を持たせることが必要であるとの結論に至った。具体的には、酸化物の好ましい融点は鋼の凝固温度よりも高い範囲で、できるだけ低い温度であり、1550〜1700℃が適していると本発明者らは考えている。
【0031】
このような特性を有する酸化物について鋭意研究した結果、Ti−Mg−Alの三元系酸化物において、酸化物中のTi、Mg、Alの原子比率の特定範囲において上記の特性を満足するものが存在することを発見した。
【0032】
実験室真空溶解炉により、Ti、Mg、Al添加量を変化させた100kgの溶解鋼を製造し、酸化物組成と粒内フェライト変態能の関係を調査した。ここで、鋼板の平均組成はC:0.1%、Si:0.2%、Mn:1.5%、P:0.01%、S:0.003%とし、脱酸前の溶鋼O濃度を50〜60ppmとした状態で、Ti、Mg、Alの1種または2種以上を添加した後、溶鋼を30分保持した後に鋳造し、鋼塊を製造した。この鋼塊を熱間圧延により20mmの鋼板にした後、断面が10mm角のサンプルを加工し、高周波熱サイクル装置により超大入熱溶接HAZ再現熱サイクルを賦与した。1400℃における保持時間を40秒、800℃〜500℃の冷却時間を792秒とした。サンプル断面を研磨腐食し、X線検出装置(EDX)付き走査型電子顕微鏡(SEM)により0.5μm〜5μmの酸化物について組成分析を行い、同時に個々の酸化物からの粒内フェライト変態の有無を観察した。
【0033】
結果を図1に示す。Ti、Mg、Al以外の元素としてMn、S、などが検出されたが、これらは総計でも10%(原子%)以下であったため、(Ti+Mg+Al)を100%として図にプロットした。図から明らかなとおり、特定のTi、Mg、Alの組成の領域で粒内フェライト変態が生じることが明らかである。E.M.Levin他著、Phase Diagrams for Ceramists,American Ceramics Society (1964)、Fig.713に、MgO−Al23−TiO2三元系状態図が記載されている。これによると、酸化物の融点が1600℃程度の低温となる領域が存在し、その領域は図1において粒内フェライト変態能を有する酸化物の組成の範囲とほぼ一致し、上記の仮説が正しいことがわかる。なお、今回の実験ではTi単独脱酸を行ったものはなく、図1において、Tiの頂点に近い組成の酸化物は得られなかった。これまでのTi脱酸鋼の知見によれば、Ti23(若干のMnとAlを含有する場合が多い)から粒内フェライトが生成することは明らかである。しかしながら、上記のとおり、超大入熱溶接に適用できる程度に酸化物個数を確保することが困難であり、本発明の範囲外である。
【0034】
上記の実験結果より、酸化物の組成を図1の領域(A)に対応させて下記のように限定した。ここで、酸化物を形成する元素のうち、Oを除く酸化物構成元素を原子%で100%とする。
Ti≧20%、
Mg≧30%、
Al≦40%。
【0035】
上式を同時に満足する領域の組成を有する酸化物からは粒内フェライト変態を顕著に生成させることができる。なお、酸化物中には不可避的にMn、Ca、S、REMなどが含有されることがあるが、Ti、Mg、Al以外の元素の総量が20%未満であれば、上記の効果は維持される。従って、
(Ti+Mg+Al)≧80%
とした。
【0036】
酸化物からの粒内フェライト変態は上記の組成以外にも酸化物粒径にも依存する。粒子径が0.2μm未満では上記組成の酸化物といえども粒内フェライトを生成させることは困難となる。従って、粒子径の下限を0.2μmとした。ただし、好ましくは0.5μm以上である。逆に、粒子径が5.0μm超となると、これが脆性破壊の起点となりやすく、粒内フェライトが生成しても靭性をむしろ低下させる場合がある。従って、粒子径上限を5.0μmとした。ただし、靭性のばらつきを少なくするためには、3.0μm以下とすることが望ましい。
【0037】
上記のとおり限定した酸化物(以後、酸化物(A)とする)は融点が低く、粒内フェライト変態能が高い上に、鋼中に容易に微細分散する。酸化物からの粒内フェライト変態能は酸化物の融点に最も強く影響を受けるものであり、酸化物の結晶構造などには大きく依存しないと本発明者らは考えている。従って、酸化物の結晶構造については特に限定を設けない。
【0038】
酸化物(A)の表面上にはMnS、CuSなどの硫化物、あるいはTiNなどが析出してもよい。この場合には粒内フェライト生成はさらに促進されるので好ましい。ただし、MnSなどの析出物が完全に酸化物(A)を包含してしまうと鋼マトリックスと酸化物(A)との反応ができにくくなるので、酸化物(A)からのフェライト変態はむしろ阻害されるので好ましくない。
【0039】
上記の酸化物(A)を鋼板の1平方mmあたり少なくとも10個存在することが望ましい。これより少ないとHAZにおける粒内フェライト組織分率が低く、靭性向上効果は少なくなる。逆に、500個を超えると、延性を低下させるので好ましくない。従って、好ましい酸化物(A)の個数は1平方mmあたり10〜500個である。
【0040】
ここで、酸化物(A)の個数測定のためには、元素の二次元分布測定が可能な分析装置(例えばCMA、EPMA)により鋼板研磨面1平方mmの分析を行い、酸化物を特定すればよい。次に、個々の酸化物の構成元素の原子%を求め、上記酸化物(A)の組成範囲にある酸化物の個数をカウントする。さらに精密には、CMAあるいはEPMAで特定した個々の酸化物について、EDX付きのSEMにより酸化物の組成を分析してもよい。酸化物は溶接の熱履歴によってもほとんど変化しないので、測定用サンプルは母材あるいは溶接HAZのいずれから採取しても構わない。
【0041】
本発明は上記の酸化物(A)を核とする粒内フェライト変態生成により、特に超大入熱溶接HAZのミクロ組織を微細化してHAZ靭性の向上を図るものであるが、以下に示すように、γ粒の微細化によりさらにHAZ靭性を向上させることができる。
【0042】
γ粒の微細化には窒化物が有効とされているが、窒化物の中でも最も熱的に安定であるとされるTiNでも1350℃以上に長時間加熱されると、ほとんどが溶解し、ピン止め効果を失うために、超大入熱溶接への適用には限度がある。従って、高温で安定である酸化物粒子の利用が必須となる。しかしながら、従来技術のREMあるいはCa酸化物(酸・硫化物も含む)では、超大入熱溶接HAZのγ粒粗大化抑制に十分な程度にこれら酸化物を鋼中に微細分散させることは極めて困難である。
【0043】
本発明者らは各種の酸化物について比較検討した結果、MgとAlを主体とする酸化物または複合酸化物は溶鋼中で脱酸反応により生成した後、微細なままで存在し、凝固後の鋼中にも微細なままで残留することができることを発見した。このような特徴を有する酸化物の組成(Oを除いて計算する)は原子%で、
(Al+Mg)≧95%、
Mg≧30%
の範囲にある。AlとMgがこの条件式を満足すればこれら元素以外に、Ca、Mn、REM等が不可避的に、もしくは意図的に含有せしめてもよい。この領域内で生成する酸化物(以後、酸化物(B)とする)のうち、代表的なものはMgOおよびMgAl24(以後、スピネルと呼ぶ)である。酸化物の組成が領域(B)の範囲であれば微細分散が可能であるが、MgOおよびスピネルではTiNを容易に析出して複合粒子を形成するためにHAZのγ粒粗大化抑制に特に顕著な作用を有する。すなわち、これらの酸化物の結晶系は両者ともに立方晶であり、格子定数は各々、4.21、8.08オングストロームである。一方、TiNの結晶系も立方晶であり、格子定数は4.24オングストロームである。従って、TiNに対する格子ミスフィットは各々0.7%、5%(ただし、スピネルの場合はTiNの格子定数の2倍と比較した)であり、両者ともにTiNと極めて整合性が高い。従って、TiとNが固溶している鋼中にこれら酸化物が存在していれば、凝固後の冷却過程あるいは鋼板の熱処理過程において容易にTiNがこれら酸化物上に析出できる。これら酸化物とTiNの複合粒子が鋼中に存在していれば、特に超大入熱溶接HAZにおいて1350℃以上での滞留時間が長く(例えば、10秒以上、100秒超でも)てもこれら複合粒子によるピン止め作用によりγ粒粗大化を効果的に抑制することができる。なお、酸化物を構成する元素(ただしOを除く)の割合が原子%で、
(Al+Mg)≧95%、
Mg:30〜40%
を満足していれば、この酸化物(B1とする)は実質的にスピネルと同じ効果を発揮する。
【0044】
同様に、酸化物を構成する元素(ただしOを除く)の割合が原子%で、
Mg:95%以上
を満足していれば、この酸化物(B2とする)は実質的にMgOと同じ効果を発揮する。
【0045】
さらには、上記酸化物(B)の範囲であれば、いわゆる不均質核生成の機構によりMgOあるいはスピネルでなくてもTiNを析出させることは可能である。
【0046】
図2に、酸化物(B)−TiN複合粒子の形態を模式的に示す。酸化物(B)の粒子径は、図中に示すように、酸化物(B)2の直径であり、酸化物(B)−TiN複合粒子3の大きさは複合粒子の長辺の長さ、例えば図中のd1またはd2の値である。複合粒子としてのサイズが酸化物(B)だけの場合よりも大きくなるので、粒子1個あたりのピン止め力は強力となり、その結果として超大入熱溶接HAZのγ粒径を小さくすることができる。なお、TiN単体では1350℃以上に長時間滞留すると大部分のTiNは溶解してしまうが、特にMgOあるいはスピネル上に析出したTiNは単体のTiNに比べて安定であり、溶解し難い。その理由の詳細は不明であるが、これら酸化物とTiNの格子定数が極めて近く、これら酸化物がTiNを安定化しているものと本発明者らは考えている。なお、1350℃以上で極めて長時間保持されれば、これら酸化物(B)に析出したTiNといえども多くが固溶してしまうが、核として存在する酸化物(B)自体は固溶することなく安定である。従って、極めて厳しい熱履歴条件では酸化物(B)が粒界移動を抑制する作用を発揮するために、HAZのγ粒成長抑制を維持できると考えている。
【0047】
本発明では、酸化物(B)の粒子径を0.005〜0.1μmに限定した。0.005μm未満ではTiNの析出がし難くなる上にHAZの熱履歴でTiNが固溶した場合の粒成長抑制効果が少なくなる。逆に0.1μm超では粒子数を確保することが困難となる。また、酸化物(B)−TiN複合粒子のサイズを0.05〜2.0μmの範囲とした。0.05μm未満ではγ粒成長抑制効果が少なくなる。また、2.0μm超ではこれが破壊起点となって靭性のばらつきを大きくする可能性が高くなる。酸化物(B)−TiN複合粒子の好ましいサイズは0.5μm以下である。
【0048】
前記の酸化物(B)及び酸化物(B)−TiN複合粒子は、鋼板でも溶接後のHAZでもその形態はほぼ同じであると考えられるので、HAZでなく母材部または溶接前の母鋼板で検出されれば本発明の効果は発揮される。酸化物(B)及び酸化物(B)−TiN複合粒子は鋼板(溶接前または溶接後)から、抽出レプリカを作成し、EDX付きの透過型電子顕微鏡(TEM)で求めることができる。
【0049】
本発明の酸化物(B)は極めて微細であるので、前記のTEMの倍率は2万〜20万倍で求めることが望ましい。また、酸化物(B)−TiN複合粒子は、前記TEMの倍率として1万〜5万倍で複数視野を観察すればよい。レプリカによっては前記複合粒子がうまく抽出されない視野も存在するので、抽出された視野にて10視野程度観察し、そのTEM写真から複合粒子サイズを求めればよい。また、複合粒子の分布個数としては必ずしも限定される物ではないが、前記の10視野程度観察した視野中にて1.0×104〜1.0×107個/mm2存在することが望ましい。1.0×104個/mm2未満ではγ粒成長抑制効果にばらつきを生じる場合がありうるのであまり好ましくない。1.0×107個/mm2超では、鋼の清浄度が低下するとともに、母鋼材の靭性や延性を低下させる場合もありうるのであまり好ましくない。
【0050】
前記のTEM(倍率2万〜20万倍)で撮影した抽出レプリカ写真で、その写真の酸化物(B)の面積の円相当直径として粒子径を求めることもできる。酸化物(B)−TiN複合粒子の大きさは前記のTEM(倍率1万〜5万倍)で撮影した抽出レプリカ写真で、その写真の酸化物(B)−TiN複合粒子でd1またはd2を求めればよい。
【0051】
本発明は、微細な酸化物(B)を核としてその核からTiNが析出した特定サイズの複合粒子が超大入熱溶接熱履歴においてもγ粒のピン止め作用を有することを本発明者らが新たに見出して成し遂げたものである。TiNは酸化物(B)を核として析出すればよいので、必ずしもTiNは酸化物(B)を完全に覆う必要はない。図2の酸化物(B)−TiN複合粒子の形態に示すように、抽出レプリカのTEM写真においても酸化物(B)の界面で部分的にTiNが存在してもよい。
【0052】
上記のようなサイズおよび個数の粒子を鋼中に分散させるためにはMg、Al、O、Ti、N含有量を下記のとおり限定することが望ましい。
【0053】
Mgは酸化物(A)及び酸化物(B)の生成に必須な元素である。0.0002%未満では必要な酸化物(A)及び酸化物(B)を得ることはできない。0.005%超では粗大なMg含有酸化物が生成して靭性・延性を低下させる場合がありうる。従ってMgの範囲を0.0002〜0.005%とした。しかし、粗大なMg含有酸化物を抑制し、酸化物を微細でほぼ均一に分散するためには0.0015〜0.004%とすることが望ましい。
【0054】
AlはTi、Mgよりも脱酸力が強い元素であり、0.01%超含有するとアルミナ主体の酸化物が増加し、酸化物(A)及び酸化物(B)の生成が抑制される。従って、Al含有量の上限を0.01%とした。工業的にAlを非常に低く抑えることは困難であるので、下限を0.0002%とした。なお、酸化物(A)の中でも特に酸化物の融点を低下させるためにはTiとMgの2元系の酸化物よりもTi、Mg、Alの3元系酸化物のほうが好ましい。このためにはAlを0.0005〜0.005%含有することが望ましい。
【0055】
Oは酸化物(A)及び酸化物(B)の生成に必須の元素である。0.0005%未満では必要な粒子数を得ることはできない。0.008%超では粗大酸化物が生成して靭性・延性を低下させる場合がありうる。従ってOの範囲を0.0005〜0.008%とした。しかし、粗大な酸化物を抑制し、微細でほぼ均一に分散するためには0.0015〜0.005%とすることが望ましい。
【0056】
TiはTiN生成に必須の元素である。0.005%未満では酸化物(B)上のTiN析出量が不十分であり、0.025%を超えると粗大なTiNが生成するために靭性を低下させる場合がありうる。従って、Ti含有量を0.005〜0.025%とした。しかし、粗大なTiNを抑制し、TiNを微細でほぼ均一に分散するためには0.015%以下とすることが望ましい。
【0057】
NもTiN生成に必要な元素である。0.002%未満ではTiN析出が不十分となる。0.008%超では粗大TiNを生成して靭性を低下させる場合がありうる。従って、Nの範囲を0.002〜0.008%とした。しかし、粗大なTiNを抑制し、TiNを微細でほぼ均一に分散するためには0.006%以下とすることが望ましい。また、TiC析出による靭性低下を抑制するために、Ti/N比を3.4以下とすることが望ましい。
【0058】
また、HAZ靭性はオーステナイト粒微細化と粒内組織微細化だけでなく、合金元素により大きく変化する。また、母材の強度確保のためにも適正な合金元素を含有させる必要があるので、以下の理由により合金元素の範囲を限定した。
【0059】
Cは母材の強度を上昇できる元素である。0.04%未満では母材強度の確保が得られないので0.04%を下限値とした。逆にCを多く含有すると、脆性破壊の起点となるセメンタイトを増加させるため、母材・HAZの靱性を低下させる。0.2%を超えると靱性低下が顕著となるので、これを上限値とした。なお、母材・HAZ靭性をさらに向上させるためには、0.04〜0.15%とすることが望ましい。
【0060】
Siは母材強度上昇に有効な元素である。0.02%未満ではこの効果が得られないので下限値を0.02%とした。逆に、0.5%超含有すると、HAZ組織中に島状マルテンサイトが多量に生成し、さらに、フェライト地を硬化させるので、HAZ組織を微細化しても靱性向上は得られない。従って、上限を0.5%とした。なお、HAZ靭性を向上するためには0.3%以下とすることが望ましい。
【0061】
Mnは母材の強度上昇に有効な元素である。0.6%未満ではこの効果が得られないので下限値を0.6%とした。逆に、2.0%超含有すると靱性低下が顕著となる。従って、上限値を2.0%とした。
【0062】
Pは粒界脆化をもたらし、靱性に有害な元素であり、低いほうが望ましい。0.02%超含有すると靱性低下が顕著となるので、0.02%を上限とする。しかし、母材・HAZ靭性をさらに向上させるためには0.01%以下とすることが望ましい。
【0063】
Sは伸長MnSを生成し、板厚方向の特性を低下させる。0.02%超のSを含有すると板厚方向特性の低下が顕著となるので、上限値を0.02%とした。しかし、母材・HAZ靭性をさらに向上させるためには0.01%以下とすることが望ましい。また、酸化物(A)からの粒内フェライト変態は、この酸化物上にMnSが析出すると促進される。このような観点からSを極端に低くすることは好ましくなく、粒内フェライト変態促進のために0.003%以上とすることが好ましい。
【0064】
さらに、母材強度上昇に効果のある選択元素の限定範囲を以下の理由で決定した。
【0065】
Cuは母材強度上昇に有効な元素であり、特に、時効熱処理により微細Cu相を析出させることにより著しい強度上昇が得られる。0.05%未満では強度上昇が得られないので、0.05%を下限値とした。逆に、1.5%超含有すると母鋼材やHAZの脆化が顕著となるので上限値を1.5%とした。しかし、母鋼材及びHAZ靭性をさらに向上させるためには過度のCu析出による硬化を防ぐ必要があり、このために1.0%以下とすることが望ましい。
【0066】
Niは焼入れ性を上昇させることにより母材強度上昇に効果を有し、さらに、靱性を向上させる。0.05%未満ではこれらの効果が得られないので下限値を0.05%とした。逆に、2.0%超含有すると焼入れ性が高くなりすぎてHAZ硬化組織を生成しやすくなり、HAZ靱性を低下させる。従って、上限値を2.0%とした。しかし、HAZの硬化性を抑えて溶接性とHAZ靭性を向上させるためには1.5%以下とすることが望ましい。
【0067】
Crは母材強度上昇に効果を有する。0.02%未満ではこの効果が得られないので下限値を0.02%とした。逆に、1.0%超含有するとHAZに硬化組織を生成するので、HAZ組織が微細化してもHAZ靱性を低下させる。従って、上限値を1.0%とした。しかし、HAZの硬化性を抑えて溶接性とHAZ靭性をさらに向上させるためには0.5%以下とすることが望ましい。
【0068】
Moは母材強度上昇に効果を有する。0.02%未満ではこの効果が得られないので下限値を0.02%とした。逆に、1.0%超含有するとHAZに硬化組織を生成するため、HAZ組織が微細化してもHAZ靱性を低下させる。従って、上限値を1.0%とした。しかし、HAZの硬化性を抑えて溶接性とHAZ靭性をさらに向上させるためには0.5%以下とすることが望ましい。
【0069】
Nbは母材の強度上昇および細粒化に有効な元素である。0.005%未満ではこれらの効果が得られないので下限値を0.005%とした。逆に、0.05%超含有するとHAZにおけるNb炭窒化物の析出が顕著となり、HAZ組織が微細化してもHAZ靱性低下が著しくなる。従って、上限値を0.05%とした。しかし、過度の炭窒化物析出を抑制し、HAZ靭性をさらに向上させるためには0.02%以下とすることが望ましい。
【0070】
Vは母材の強度上昇および細粒化に有効な元素である。0.005%未満ではこれらの効果が得られないので下限値を0.005%とした。逆に、0.1%超含有するとHAZにおける炭窒化物の析出が顕著となり、HAZ組織が微細化してもHAZ靭性低下が著しくなる。従って、上限値を0.1%とした。しかし、過度の炭窒化物析出を抑制し、HAZ靭性をさらに向上させるためには0.04%以下とすることが望ましい。
【0071】
Bは制御冷却および焼入れ熱処理を施す場合に特に顕著な強度上昇の効果を発揮する。0.0004%未満の含有量では強度上昇効果が得られないので下限値を0.0004%とした。逆に、0.004%超含有すると粗大なB窒化物や炭ホウ化物を析出してこれが破壊の起点となるために、HAZ組織が微細化しても靱性を低下させる。従って、上限値を0.004%とした。しかし、過度の炭窒化物析出を抑制し、HAZ靭性をさらに向上させるためには0.002%以下とすることが望ましい。
【0072】
Ca及びREMは、硫化物を生成することにより伸長MnSの生成を抑制し、鋼材の板厚方向の特性、特に耐ラメラテアー性を改善する。Ca、REMをともに0.0005%未満では、この効果が得られないので、下限値を0.0005%とした。逆に、0.003%超含有すると、Ca及びREMの酸化物が増加し、酸化物(A)及び酸化物(B)の個数が減少する。従って、Ca及びREMの上限を0.003%とした。Ca及びREM含有量の合計をMg含有量よりも低くすることが望ましい。なお、粗大な酸化物を抑制し、酸化物(A)及び酸化物(B)を微細でほぼ均一に分散するためにはCaとREMの含有量の合計を0.0015%以下とすることが望ましい。
【0073】
本発明による溶接融合線(FL)付近および熱影響部(HAZ)における、粒内フェライト変態促進とγ粒成長抑制による靭性改善は、超大入熱溶接ばかりでなく大入熱溶接(例えば100〜200未満kJ/cm程度)でも有効である。
【0074】
鋼の溶製方法は、例えば、溶鋼の温度を1650℃以下とし、溶鋼O濃度を0.010%以下とした状態で、まず、適量のTiあるいはTi含有合金を添加して脱酸を行い、引き続き、適量のMgあるいはMg含有合金を添加して脱酸を行う。さらに、必要に応じて適量のAlを添加する。酸化物(A)は脱酸後から凝固直前の間に微細に晶出し、これが鋼塊に残留する。凝固中あるいは凝固直後に酸化物(A)上にMnS、TiNなどが析出する場合がある。酸化物(B)は酸化物(A)に比べて高融点の酸化物であり、脱酸とほぼ同時に溶鋼中に微細に晶出する。これが鋼塊に残留し、凝固後の冷却過程において図3に示すように酸化物(B)を核としてTiNが析出して、酸化物(B)とTiNからなる複合粒子を鋼中に生成する。なお、耐火物などから不可避的にAlが鋼中に混入することがあるが、酸化物(A)及び酸化物(B)の微細化を目的としてAlを含有させるためには、上記の順序で脱酸を行うことが重要であり、不可避的にAlが混入するだけではこれら酸化物を微細に分散させることは困難である。
【0075】
鋼の製造方法は、上記の酸化物(A)及び酸化物(B)−TiN複合粒子が所定量存在すればよいので、鋳造後の加熱、圧延、熱処理条件は母鋼材に必要とされる機械的性質に応じて適宜選定すればよい。さらに、本発明の鋼は厚板、鋼管、型鋼、棒鋼、条鋼、薄板(熱延鋼板、冷延鋼板)、表面処理鋼板などの用途に応じて適用可能である。
【0076】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を示す。転炉により鋼を溶製し、連続鋳造により厚さが240mmのスラブを製造した。表1に鋼材の化学成分を示す。HAZ靱性は炭素当量にも大きく依存するので、本発明の効果を確認するために、ほぼ同一の化学成分でAl、N、Ti、Mg、O、Ca、REMのみを変えた鋼を溶製して比較した。
【0077】
【表1】
Figure 0003749616
表2に鋼板の製造方法と板厚、母材の機械的性質を示す。表に示すとおり、圧延まま、制御圧延・制御冷却法、直接焼入れ焼き戻し法、直接焼入れ・二相域焼入れ・焼き戻し法、及び、焼入れ・焼戻し法により鋼板を製造した。板厚は40〜80mmとした。
【0078】
【表2】
Figure 0003749616
図3に示すエレクトロスラグ溶接とエレクトロガス溶接により溶接試験体を作成した。エレクトロスラグ溶接(a)の電流は380A、電圧は46V、速度は1.14cm/分とした。入熱は920kJ/cmである。同図に示すように、溶接融合線(FL)およびFLから3mmの位置がノッチ位置に一致するようにシャルピー衝撃試験片4を採取した。衝撃試験は0℃で行い、3本繰り返しの平均値で靱性を評価した。また、板厚を35mmにそろえて、入熱が200kJ/cmのエレクトロガス溶接(b)も実施した。電流は610A、電圧は35V、速度は4.1cm/分とした。エレクトロスラグ溶接と同じノッチ位置となるようにシャルピー衝撃試験片を採取した。また、エレクトロスラグ溶接FL直近のHAZのミクロ組織観察を実施し、粒内フェライト面積率とγ粒径を測定した。粒内フェライト面積率は100倍の光学顕微鏡組織写真からポイントカウント法により測定した。γ粒径測定には、γ粒界を現出する腐食を行ったサンプルを50〜100倍で観察し、切断法により測定した。さらに、母材について、酸化物(A)と酸化物(B)の組成と個数を上記の方法で測定した。結果を表3と表4に示す。
【0079】
【表3】
Figure 0003749616
【0080】
【表4】
Figure 0003749616
表3と表4から明らかなとおり、本発明鋼では酸化物(A)が多数存在することによりHAZの粒内フェライト分率が高く、酸化物(B)が微細分散することによりγ粒粗大化が抑制されるために、大入熱、超大入熱溶接HAZの靭性が高い。発明鋼14は酸化物(B)−TiN複合粒子が少なく、γ粒粗大化抑制効果は少ないが、酸化物(A)により粒内フェライト変態が顕著に生成するので、HAZ靭性は高い。これに対して、比較鋼のHAZ靭性向上には限度がある。この中で、比較鋼6及び7では低融点酸化物の生成が少なく、粒内フェライト分率が低いために、靭性向上に限度がある。比較鋼9及び19はTi単独脱酸鋼であり、粒内フェライト分率は高いが、γ粒が粗大化するために、超大入熱溶接HAZ靭性向上に限度がある。
【0081】
【発明の効果】
以上説明したとおり、本発明鋼では粒内フェライト変態核として有効な低融点酸化物を微細分散し、さらに、γ粒成長抑制に効果を発揮する酸化物とTiNの微細複合粒子により、特に超大入熱溶接HAZの靭性を向上させることができる。本発明を超大入熱溶接が適用される構造物に適用することにより、極めて信頼性の高い溶接構造物を製造することが可能である。従って、本発明は工業上極めて効果が大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】0.5〜5.0μmの酸化物の組成と粒内フェライト変態能の関係を示した図である。
【図2】酸化物(B)−TiN複合粒子を模式的に示した図である。
【図3】エレクトロスラグ溶接とエレクトロガス溶接の条件を示す図である。
【符号の説明】
1 TiN
2 酸化物(B)
3 酸化物(B)−TiN複合粒子
4 試験片

Claims (8)

  1. 重量%で、
    0.04≦C≦0.2、
    0.02≦Si≦0.5、
    0.6≦Mn≦2.0、
    P≦0.02、
    S≦0.02、
    0.0002≦Mg≦0.005、
    0.0002≦Al≦0.01、
    0.0005≦O≦0.008、
    0.005≦Ti≦0.025、
    0.002≦N≦0.008、
    を含有し、残部Feおよび不可避的不純物よりなり、かつ、 酸化物を構成する元素Ti、Mg、Al(ただしOを除く)の割合が原子%で、
    (Ti+Mg+Al)≧80%、
    Ti≧20%、
    Mg≧30%、
    Al≦40%、
    を満足し、粒子径が0.2〜5.0μmの酸化物(A)を含有する鋼であることを特徴とする超大入熱溶接熱影響部の靱性に優れた溶接用高張力鋼。
  2. 前記酸化物(A)を1平方mmあたり10〜500個含有する鋼であることを特徴とする請求項1記載の超大入熱溶接熱影響部の靭性に優れた溶接用高張力鋼。
  3. 酸化物を構成する元素Al、Mg(ただしOを除く)の割合が原子%で、
    (Al+Mg)≧95%、
    Mg≧30%、
    を満足し、粒子径が0.005〜0.1μmの酸化物(B)を核としてその周辺にTiNを有する大きさが0.05〜2.0μmの酸化物(B)−TiN複合粒子を含有する鋼であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の超大入熱溶接熱影響部の靱性に優れた溶接用高張力鋼。
  4. 酸化物を構成する元素Al、Mg(ただしOを除く)の割合が原子%で、
    (Al+Mg)≧95%、
    Mg:30〜40%、
    を満足し、粒子径が0.005〜0.1μmの酸化物(B1)を核としてその周辺にTiNを有する大きさが0.05〜2.0μmの酸化物(B1)−TiN複合粒子を含有する鋼であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の超大入熱溶接熱影響部の靱性に優れた溶接用高張力鋼。
  5. 酸化物を構成する元素(ただしOを除く)の割合が原子%で、
    Mg:95%以上、
    を満足し、粒子径が0.005〜0.1μmの酸化物(B2)を核としてその周辺にTiNを有する大きさが0.05〜2.0μmの酸化物(B2)−TiN複合粒子を含有する鋼であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の超大入熱溶接熱影響部の靱性に優れた溶接用高張力鋼。
  6. 前記酸化物(B、B1またはB2)−TiN複合粒子を1平方mmあたり1.0×10 〜1.0×10 個含有する鋼であることを特徴とする請求項3ないし5のいずれか1つに記載の超大入熱溶接熱影響部の靭性に優れた溶接用高張力鋼。
  7. 更に母材強度上昇元素群として、重量%で、
    0.05≦Cu≦1.5、
    0.05≦Ni≦2.0、
    0.02≦Cr≦1.0、
    0.02≦Mo≦1.0、
    0.005≦Nb≦0.05、
    0.005≦V≦0.1、
    0.0004≦B≦0.004、
    の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1つに記載の超大入熱溶接熱影響部の靱性に優れた溶接用高張力鋼。
  8. 更に硫化物形態制御元素群として、重量%で、
    0.0005≦Ca≦0.003、
    0.0005≦REM≦0.003、
    の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1ないし7のいずれか 1 に記載の超大入熱溶接熱影響部の靱性に優れた溶接用高張力鋼。
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