JP3736310B2 - パワートレーンの制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、複数の駆動力源を備え、かつ、いずれかの駆動力源が故障した場合に対処するためのパワートレーンの制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、異なる種類の駆動力源、例えばエンジンおよび電動機を駆動力源を搭載したハイブリッド車が知られている。このハイブリッド車においては、車両の走行状態に基づいて、エンジンおよび電動機の駆動・停止を制御することにより、排気ガスの低減、燃費の向上、騒音の低減などを図ることができる。このように、エンジンおよび電動機を搭載したハイブリッド車の駆動制御装置の一例が、特開平10−196427号公報に記載されている。
【0003】
この公報に記載されたハイブリッド車は、駆動力源としてエンジンおよびモータ・ジェネレータが搭載されている。また、エンジンから変速機に至る動力の伝達経路には第1のクラッチが設けられており、モータ・ジェネレータから変速機に至る動力の伝達経路には第2のクラッチが設けられている。さらに、モータ・ジェネレータには、インバータを介してバッテリが接続されている。そして、エンジンおよびモータ・ジェネレータが共に正常である場合は、予め定められている通常用の制御モードに基づいて、第1のクラッチおよび第2のクラッチの係合・解放が制御されるとともに、エンジンまたはモータ・ジェネレータの少なくとも一方の動力により車両が走行する。
【0004】
一方、エンジンまたはモータ・ジェネレータの少なくとも一方が故障した場合には、通常用の制御モードとは異なる故障用の制御モードが選択される。具体的には、燃料噴射量、スロットル弁開度、エンジン回転数などからエンジンが正常に作動しているか否かを判断し、通常用の制御モードと故障用の制御モードとを切り換えるものである。例えば、エンジンが正常に作動していないと判断されて故障用の制御モードが選択された場合は、第1のクラッチが解放されて、エンジンから変速機に至る動力の伝達経路が遮断されるとともに、第2のクラッチが係合されて、モータ・ジェネレータを動力源として車両が走行する。このような制御により、エンジンの故障にともなう駆動トルクの変動を抑制できるものとされている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記のようなハイブリッド車においては、一方の駆動力源が故障した場合は、他方の駆動力源のみにより車両が走行する、いわゆる退避走行をおこなうことになる。このような退避走行をおこなう際には、他方の駆動力源による走行可能距離が長い方が、車両を運転者の意図する場所まで移動させやすい。しかしながら、上記公報においては、エンジンの故障時に、モータ・ジェネレータによる走行距離を伸ばすという課題については認識が無く、この点で改善の余地があった。
【0006】
この発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、一方の駆動力源の故障時に、他方の駆動力源による車両の走行距離を長くすることのできるパワートレーンの制御装置を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段およびその作用】
上記の目的を達成するために請求項1の発明は、モータ・ジェネレータと燃料系統から燃料が供給されるエンジンとを駆動力源として備え、そのエンジンのクランクシャフトがクラッチを介して動力伝達軸に連結されたパワートレーンの制御装置において、前記エンジンによって駆動される他のモータ・ジェネレータが設けられており、前記燃料系統の異常を判断する手段と、前記燃料系統の異常が判断された場合に前記モータ・ジェネレータの動力を車輪に伝達するとともに前記クラッチを解放する手段と、前記燃料系統の異常が判断された場合に前記エンジンの回転力によって前記他のモータ・ジェネレータを発電機として機能させるとともに、前記他のモータ・ジェネレータの回生制動力によりエンジンの回転数を低下させる手段とを備えていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項1の発明によれば、燃料系統に異常が生じると、クラッチが解放されることにより、エンジンが動力伝達軸に対して遮断され、また車輪にはモータ・ジェネレータから動力が伝達されるので、エンジンの引き摺りが防止されて電力の無駄な消費を抑制でき、モータ・ジェネレータによる車両の走行距離を長くすることができる。
【0010】
また、請求項1の発明によれば、他のモータ・ジェネレータの回生制動力によりエンジン回転数を速やかに低下させることができるので、違和感を抑制できるとともに、エンジンでのウォーターハンマ現象を防止でき、更にモータ・ジェネレータによる車両の走行距離を長くすることができる。
【0016】
【発明の実施の形態】
つぎにこの発明を図に示す具体例に基づいて説明する。図2は、この発明の制御を適用することのできる第1実施形態の車両の構成(つまりパワートレーン)を示す概念図である。図2に示す車両は、駆動力源としてエンジン1およびモータ・ジェネレータ2を有する、いわゆるハイブリッド車である。エンジン1は、燃料の燃焼による熱エネルギーを機械エネルギーに変換し、これを動力(言い換えればトルク)として出力する装置であって、エンジン1としては、内燃機関、例えば、ガソリンエンジンまたはディーゼルエンジンまたはLPGエンジンなどを採用することができる。以下、この実施形態においては、エンジン1として便宜上ガソリンエンジンを用いた場合について説明する。エンジン1は、吸気装置30、燃料供給装置31、点火装置32、排気装置33などを備えた公知の構造のものである。
【0017】
吸気装置30は、燃焼室34に接続されたインテークマニホルド35、インテークマニホルド35に設けられた電子スロットルバルブ36、電子スロットルバルブ36を制御するアクチュエータ37、燃焼室34とインテークマニホルド35との間の通路を開閉する吸気弁34Aとを有している。点火装置3は、イグナイタ37A、スパークプラグ38を有している。燃料供給装置31は、燃料を貯留するフューエルタンク39、フューエルタンク39から燃料を汲み出すフューエルポンプ40、フューエルポンプ40により汲み上げられた燃料をインテークマニホルド35側に噴射するインジェクタ41を有している。つまり、フューエルタンク39からインテークマニホルド35に至る燃料の供給経路に、フューエルポンプ40およびインジェクタ41が直列に配置されている。図2においては、フューエルポンプ40は、電動モータ40Aにより駆動されるように構成されている。
【0018】
排気装置33は、燃焼室34に接続されたエキゾストパイプ42と、燃焼室34とエキゾストパイプ42との間の通路を開閉する排気弁34Bと、エキゾストパイプ42に設けられた酸素濃度センサ42Aを有している。エンジン1のシリンダ43の内部には、ピストン44が往復動自在に配置されており、ピストン44の上方に燃焼室34が形成されている。なお、そしてピストン44とクランクシャフト7とがコネクティングロッド45により連結されている。
【0019】
一方、クランクシャフト7の一端側には、クラッチ8を介して動力伝達軸9が連結されている。このクラッチ8としては、摩擦式クラッチまたは流体式クラッチまたは電磁式クラッチなどを用いることができる。このクラッチ8として流体式クラッチを用いる場合は、入力側部材から出力側部材に伝達されるトルクを増幅する機能を備えたトルクコンバータと、入力側部材と出力側部材との間における動力伝達状態を切り換えるために係合・解放されるロックアップクラッチとが設けられる。
【0020】
前記モータ・ジェネレータ2は、電気エネルギー(電力)を機械エネルギーに変換して出力する電動機としての機能と、機械エネルギーを電気エネルギーに変換する発電機としての機能とを兼ね備えたものである。このモータ・ジェネレータ2としては、例えば固定永久磁石型同期モータなどを使用することができる。つまり、エンジン1とモータ・ジェネレータ2とを比較すると、動力の発生原理が異なる。そして、モータ・ジェネレータ2のロータ(図示せず)と動力伝達軸9とが連結されている。
【0021】
動力伝達軸9におけるクラッチ8とは反対側の端部が、変速機10の入力軸10Bに連結されている。この変速機10は、その変速比を自動的に制御することのできる自動変速機である。この自動変速機は、有段変速機または無段変速機のいずれでもよい。変速機10の出力軸10C側には最終減速機10Aを介して車輪11が連結されている。
【0022】
一方、クランクシャフト7に対して動力伝達可能なモータ・ジェネレータ12が設けられている。モータ・ジェネレータ12は、電力が供給されてトルクを出力する電動機としての機能と、発電機としての機構とを兼ね備えたものであり、モータ・ジェネレータ12としては、例えば固定永久磁石型同期モータなどを使用することができる。そして、モータ・ジェネレータ12の主軸12Aとクランクシャフト7とが、巻き掛け伝動装置により50により連結されている。
【0023】
また、モータ・ジェネレータ2,12には、それぞれインバータ13,14を介してバッテリ15が接続されている。このバッテリ15にはDCDCコンバータ49を介して補機バッテリ49Aが接続されている。そして、バッテリ15の電圧がDCDCコンバータ49により低下されて補機バッテリ49Aに充電される。さらに、補機バッテリ49Aの電力が電動モータ40Aに供給されるように構成されている。なお、アクチュエータ37およびイグナイタ37Aならびにスパークプラグ38は、補機バッテリ49Aの電力により駆動されるように構成されている。
【0024】
さらに、インバータ13,14およびバッテリ15には電子制御装置(ECU)16が接続されている。この電子制御装置16は、中央演算処理装置(CPUまたはMPU)および記憶装置(RAMおよびROM)ならびに入出力インタフェースを主体とするマイクロコンピュータにより構成されている。この電子制御装置16には、エンジン回転数センサ17の信号、冷却水温センサ18の信号、イグニッションスイッチ19の信号、吸入空気量センサ20の信号、バッテリ15,49Aの充電状態(SOC:state of charge )を示す信号、エアコンスイッチ21の信号、シフトポジションセンサ22の信号、フットブレーキスイッチ23の信号、アクセル開度センサ24の信号、電子スロットルバルブ36の開度を検出するスロットル開度センサ25の信号、変速機10の入力回転数センサ26の信号、変速機10の出力回転数センサ27の信号、酸素濃度センサ42Aの信号、フューエルポンプ40の故障(もしくは異常)を検出するフューエルポンプセンサ46の信号、フューエルタンク39内における燃料の残量を検出する残量検出センサ47の信号、インジェクタ41の故障(もしくは異常)を検出するインジェクタセンサ48の信号、吸気装置30の故障を検出する吸気装置故障検出センサ54の信号、点火装置32の故障を検出する点火装置故障検出センサ55の信号などが入力される。前記出力回転数センサ27の信号に基づいて車速が演算される。
【0025】
これに対して、電子制御装置16からは、点火装置32を制御する信号、燃料供給装置31制御する信号、アクチュエータ37を制御する信号、インバータ13,14を介してモータ・ジェネレータ2,12を制御する信号、クラッチ8の係合・解放を制御するアクチュエータ28に対する信号、変速機10の変速比を制御する油圧制御装置29に対する信号などが出力される。
【0027】
上記の構成を有するハイブリッド車においては、電子制御装置16に入力される信号、および電子制御装置16に予め記憶されているデータに基づいて、車両全体が制御される。たとえば、イグニッションスイッチ19によりエンジン始動要求が検出されると、モータ・ジェネレータ12が駆動されてエンジン1が初期回転するとともに、燃料供給装置31による燃料噴射制御および点火装置32による点火制御がおこなわれて、エンジン1が自律回転する。
【0028】
ここで、燃料供給装置31における燃料の供給経路を説明すれば、先ずフューエルタンク39内の燃料がフューエルポンプ40により汲み上げられるとともに、この燃料がインジェクタ41によりインテークマニホルド35に噴射されて、空気と燃料とが混合され、その混合気が燃焼室34に供給される。そして、公知の吸入行程、圧縮行程、膨張(爆発)行程、排気行程が繰り返され、エンジン1が自律回転する。
【0029】
また、電子制御装置16には、駆動力源制御マップが設けられており、車両のシステムが正常である場合は、この駆動力源制御マップに基づいて、エンジン1およびモータ・ジェネレータ2の駆動・停止が制御される。この駆動力源制御マップにおいては、アクセル開度および車速に基づいて、エンジン駆動領域およびモータ・ジェネレータ駆動領域が設定されている。モータ・ジェネレータ駆動領域においては、基本的にはモータ・ジェネレータ2が駆動され、エンジン1が停止される。
【0030】
これに対して、エンジン駆動領域においては、基本的にはエンジン1が駆動され、かつ、モータ・ジェネレータ2が停止される。例えば、エンジン効率が悪い低負荷領域においては、エンジン1が停止され、モータ・ジェネレータ2が駆動される。なお、エンジン駆動領域において、要求出力に対するエンジントルクの不足分をモータ・ジェネレータ2のトルクにより補うこともできる。なお、図2のパワートレーンにおいては、モータ・ジェネレータ2から車輪11に至る動力伝達経路に変速機10が配置されているため、モータ・ジェネレータ2の動力が変速機10を経由して車輪11に伝達される。
【0031】
さらに、車両の走行時は、車速およびアクセル開度に基づいて、エンジンに対する要求出力を算出し、最適燃費線(図示せず)からエンジン回転数を求める。一方、吸入空気量、燃料噴射量、点火時期などを制御することにより、エンジン出力が制御されるとともに、変速機10の変速比を制御してエンジン回転数を制御する。ここで、目標燃料噴射量は、例えば、吸入空気量、エンジン回転数、目標空燃比などの条件に基づいて算出される。また、目標空燃比は、酸素濃度センサ42Aの信号、要求出力、経済性などの条件に基づいて算出される。そして、インジェクタ41から噴射される実際の燃料を、目標燃料噴射量に近づけるように、インジェクタ41を制御する。
【0032】
一方、エンジン1の動力により車両が走行している状態で、バッテリ15の充電量が不足している場合は、エンジン1の動力の一部をモータ・ジェネレータ2に伝達して、モータ・ジェネレータ2を発電機として機能させ、その電力をバッテリ15に充電することができる。さらに、車両の減速時(言い換えれば惰力走行時)には、車輪11の動力をモータ・ジェネレータ2に伝達し、かつ、モータ・ジェネレータ2を発電機として機能させ、その電力をバッテリ15に充電することにより、回生制動力を生じさせることもできる。
【0033】
車両のシステムが正常な状態で上記の各種の制御をおこなう際に、エンジントルクを車輪11に伝達する場合はクラッチ8が係合され、モータ・ジェネレータ2を単独で駆動させ、そのトルクを車輪11に伝達する場合は、クラッチ8を解放することができる。さらに、モータ・ジェネレータ2による回生制動時には、クラッチ8を解放し、モータ・ジェネレータ2の発電効率を高めることができる。
【0034】
つぎに、図2に示すパワートレーンにおいて、エンジン1の出力制御装置に異常(もしくは故障)が発生した場合に、この異常に対処するための制御例を、図1のフローチャートに基づいて説明する。エンジン1の出力制御装置としては、燃料供給装置31、吸気装置30、点火装置32が挙げられるが、ここでは、便宜上、燃料供給装置31の故障を対象として説明する。燃料系統の故障時処理のルーチンが開始されると、先ず、燃料供給装置31(言い換えれば燃料系統)に異常があるか否かが判断される(ステップS1)。このステップS1の判断は、フューエルポンプセンサ46の信号、残量検出センサ47の信号、インジェクタセンサ48の信号、酸素濃度センサ42Aの信号などの信号のうち、少なくとも一つの信号に基づいておこなわれる。
【0035】
上記各種のセンサの信号のうち、酸素濃度センサ42A以外の信号によれば、燃料供給装置31の故障を直接的に判断することができる。これに対して、酸素濃度センサ42Aの信号によれば、燃料供給装置31の故障を間接的に判断することができる。すなわち、エンジン1は、空燃比によりその出力が変化する特性を有している。したがって、要求出力に基づいて目標燃料噴射量を算出し、かつ、この算出結果に対応する燃料噴射制御をおこなった後に、エキゾーストパイプ42における実際の酸素濃度と、目標燃料噴射量から算出される目標酸素濃度とを比較することにより、燃料供給装置31の故障を間接的に判断できる。
【0036】
このステップS1で判断することのできる故障の態様としては、燃料の過剰供給および燃料の供給不足が挙げられる。燃料の過剰供給とは、目標燃料噴射量よりも実際の燃料噴射量の方が多い状態を意味しており、燃料の過剰供給は、例えばインジェクタ41が故障した場合に生じる。燃料の供給不足とは、目標燃料噴射量よりも実際の燃料噴射量の方が少なくなる状態を意味しており、燃料の供給不足は、例えば、フューエルタンク39の燃料残量がなくなった場合、フューエルポンプ40が故障した場合、電動モータ40Aが故障した場合、インジェクタ41が故障した場合などに生じる。
【0037】
そして、前述した各種のセンサの信号の少なくとも一つの信号に基づいて、ステップS1で肯定的に判断された場合は、故障用の制御モードを選択して(ステップS2)、リターンされる。このステップS2で選択される故障用の制御モードを具体的に説明する。まず、ステップS1において、燃料の過剰供給または燃料の供給不足のいずれが生じていた場合でも、ステップS2では第1の制御モードを選択することができる。この第1の制御モードが選択された場合は、モータ・ジェネレータ2の動力を車輪11に伝達する制御(つまり、MG走行制御)がおこなわれる。したがって、燃料供給装置31が故障した場合でも、このMG走行制御をおこなうことにより、モータ・ジェネレータ2の動力性能に応じた退避走行をおこなうことができる。
【0038】
また、ステップS1において、燃料の過剰供給または燃料の供給不足のいずれが生じていた場合でも、ステップS2では第2の制御モードを選択することもできる。この第2の制御モードが選択されると、モータ・ジェネレータ2の動力を車輪11に伝達する制御、およびクラッチ8を解放する制御がおこなわれる。この第2の制御モードが選択されると、第1の制御モードの場合と同様の効果を得られる他に、モータ・ジェネレータ2の動力によりエンジン1が連れ回りすること(エンジン1の引きずり)を防止することができる。したがって、モータ・ジェネレータ2に供給される電力が無駄に消費されることを抑制でき、モータ・ジェネレータ2による車両の走行距離が可及的に長くなる。
【0039】
さらに、燃料の過剰供給が生じてステップS1で肯定的に判断されていた場合に、ステップS2で第2の制御モードを選択すれば、エンジン1側でウォーターハンマ現象が発生することを防止することができ、振動を抑制できる。ウォーターハンマ現象とは、燃料が充分に気化せずに燃焼室34に供給されるとともに、ピストン44の動作による圧縮行程において、燃料が圧縮されないためにコネクティングロッド45やクランクシャフト7に過大な負荷が作用して、コネクティングロッド45やクランクシャフト7が変形もしくは破損する現象を意味している。
【0040】
さらに、燃料の過剰供給が生じてステップS1で肯定的に判断されていた場合は、ステップS2において第3の制御モードを選択することができる。この第3の制御モードが選択された場合は、モータ・ジェネレータ2の動力を車輪11に伝達する制御、およびクラッチ8を解放する制御、ならびにエンジン1の回転力によりモータ・ジェネレータ12を発電機として機能させ、かつ、その電力をバッテリ15に充電する制御がおこなわれる。この第3の制御モードにおいては、第1の制御モードと同様の効果を得られる他に、モータ・ジェネレータ12の回生制動力により、エンジン回転数を速やかに零に低下させることができ、運転者が違和感を持つことを抑制できる。また、このようにエンジン回転数を速やかに低下させることにより、前記ウォーターハンマ現象を防止する機能が一層向上する。さらに、モータ・ジェネレータ12の発電によりバッテリ15の充電量が増加して、モータ・ジェネレータ2の駆動による走行距離が可及的に長くなる。
【0041】
さらにまた、インジェクタ41の故障により燃料の過剰供給が生じてステップS1で肯定的に判断されていた場合は、ステップS2において、第4の制御モードを選択することができる。この第4の制御モードが選択された場合は、モータ・ジェネレータ2の動力を車輪11に伝達する制御、およびフューエルポンプ(F/P)40を停止する制御がおこなわれる。第4の制御モードが選択された場合は、第1の制御モードと同様の効果を得られる他に、フューエルポンプ40を駆動するための電力が節約されるため、バッテリ15から補機バッテリ49Aに供給する電力を低減することができる。したがって、モータ・ジェネレータ2の駆動による走行距離が長くなる。また、燃焼室34に燃料が供給されなくなるため、ウォーターハンマを防止する機能が一層向上する。なお、ステップS1で否定的に判断された場合は、そのままリターンされる。
【0042】
図3は、燃料供給装置31の故障に対応する他の制御例を示すフローチャートである。図3のステップS11の内容は、図1のステップS1の内容と同様であるためその説明を省略する。ステップS11で肯定的に判断された場合は、故障用の制御モードを選択して(ステップS12)、リターンされる。このステップS12の制御を具体的に説明する。例えば、インジェクタ41の故障により燃料の供給不足が生じてステップS11で肯定的に判断された場合は、ステップS12において第5の制御モードを選択することができる。この第5の制御モードが選択された場合は、モータ・ジェネレータ2の動力を車輪11に伝達する制御、およびクラッチ8を係合させる制御、ならびにフューエルポンプ40を停止させる制御、さらには電子スロットルバルブ36の開度を増加(開度を全開に)して、インテークマニホルド45内の通気面積を拡大する制御がおこなわれる。
【0043】
この第5の制御モードが選択された場合は、第1の制御モードと同様の効果を得られる他に、クラッチ8が係合されているため、モータ・ジェネレータ2の動力によりエンジン1が連れ回されるが、燃焼室34と大気側とが連通される(燃焼室34内への吸入空気量が増加する)ために、ピストン44の作動抵抗が低減されて、モータ・ジェネレータ2により連れ回されるエンジン1の回転抵抗(フリクション)が減少する。したがって、モータ・ジェネレータ2の動力が、車両の走行以外のことに浪費されることが抑制され、モータ・ジェネレータ2の駆動による退避走行距離を長くすることができる。さらに、フューエルポンプ40が停止されるため、補機バッテリ49Aの電力の浪費が抑制され、結果的にバッテリ15から補機バッテリ49Aに供給する電力を低減することができる。したがって、車両の退避走行距離が一層長くなる。なお、ステップS11で否定的に判断された場合は、そのままリターンされる。
【0044】
図4は、第2実施形態の車両のパワートレーンを示す概念図である。図4においては、クランクシャフト7の一端側に、クラッチ8を介して変速機10の入力軸10Bが連結されている。また、変速機10の出力軸10Cにモータ・ジェネレータ2のロータが連結され、かつ、出力軸10C側には最終減速機10Aが連結されている。さらに、図4のパワートレーンのその他の構成は、図2の実施形態と同様にすることができる。この図4のパワートレーンにおいては、変速機10と車輪11との間の動力伝達経路にモータ・ジェネレータ2が配置されているため、モータ・ジェネレータ2の動力が変速機10を経由することなく車輪11に伝達される。そして、図4の車両に対しても、図1または図3の制御を適用することができる。すなわち、図4のパワートレーンを有する車両に対しても、前述した第1の制御モードないし第5の制御モードをおこなうことができる。ここで得られる効果は、前述した第1の制御モードないし第5の制御モードと同様である。
【0045】
図5は、第3実施形態の車両のパワートレーンを示す概念図である。図5においては、クランクシャフト7の一端側にモータ・ジェネレータ2のロータが連結されているとともに、そのクランクシャフト7に対して、クラッチ8を介して変速機10の入力軸10Bが連結されている。また、変速機10の出力軸10C側に最終減速機10Aが連結されている。つまり、エンジン1およびモータ・ジェネレータ2から変速機10に至る動力伝達経路にクラッチ8が配置されている。なお、図5のパワートレーンのその他の構成は、図2の実施形態と同様にすることができる。
【0046】
この図5に示されたパワートレーンの車両に対しても、図1または図3の制御を適用することができる。すなわち、図5の車両に対して図1の制御例を適用し、ステップS2において、前述した第1の制御モードまたは第4の制御モードをおこなうことができる。ここで、クラッチ8が係合されていれば、前述した第1の制御モードないし第3の制御モードと同様の効果を得られる。また図5の車両に対して、図3の制御例を適用する場合は、ステップS12において、第5の制御モードを選択することができる。この図5のパワートレーンにおいては、クランクシャフト7にモータ・ジェネレータ2のロータが連結されているため、第5の制御モードを選択すると、モータ・ジェネレータ2の動力によりエンジン1が連れ回されるが、図2のパワートレーンに対して第5の制御モードを適用した場合と同様の理由により、図5のパワートレーンにおいても同様の効果を得られる。
【0047】
図6は、第4の実施形態の車両のパワートレーンおよびその制御系統を示す概念図である。図6の実施形態は、パワートレーンのレイアウトが図5と同様に構成されており、燃料供給装置31Aおよびその駆動系統の構成が、図2の実施形態とは異なる。図6においては、フューエルポンプ51が機械的な動力により駆動されるように構成され、このフューエルポンプ51により汲み上げられた燃料がインジェクタ41に供給されるように構成されている。また、クランクシャフト7とフューエルポンプ51の主軸51Aとが、クラッチ52および巻き掛け伝動装置53を介して連結されている。また、このクラッチ52の係合・解放はアクチュエータ28により制御される。なお、図6のその他の構成は、図2および図5の構成と同様であるため、その説明を省略する。
【0048】
図6の実施形態においては、モータ・ジェネレータ2およびエンジン1が停止している状態において、エンジン1を始動する際には、クラッチ52が係合される。すると、モータ・ジェネレータ12の動力によりエンジン1が初期回転されるとともに、モータ・ジェネレータ12の動力によりフューエルポンプ51が駆動され、フューエルポンプ51により汲み上げられた燃料が、インジェクタ41を介して燃焼室34に供給される。なお、エンジン1の自律回転状態では、エンジン1の動力によりフューエルポンプ51が駆動される。
【0049】
これに対して、エンジン1が停止し、かつ、モータ・ジェネレータ2の動力により車両が走行している状態からエンジン1を始動させる場合は、クラッチ8およびクラッチ52を係合させて、モータ・ジェネレータ2の動力によりエンジン1を初期回転させるとともに、モータ・ジェネレータ2の動力によりフューエルポンプ51を駆動し、前述と同様にして燃料が燃焼室34に供給される。この図6の実施形態においては、エンジン1のクランクシャフト7にモータ・ジェネレータ2のロータが直接連結されているために、モータ・ジェネレータ2の駆動時にエンジン1が連れ回される。
【0050】
この図6の実施形態に対しても、図1および図3の制御例を適用することができる。ここで、図6の実施形態において、第1の制御モードおよび第4の制御モードをおこなうことができ、前述の場合と同様の効果を得られる。なお、図6の実施形態に第4の制御モードを適用する場合は、ステップSS2で、クラッチ8を係合してモータ・ジェネレータ2の動力を車輪11に伝達し、かつ、クラッチ52が解放され、フューエルポンプ51の駆動を停止する。その結果、モータ・ジェネレータ2の動力が、車両の走行以外のことに消費されることを抑制でき、バッテリ15の電力が無駄に消費されることを防止できる。したがって、モータ・ジェネレータ2の駆動による退避走行(いわゆるリンプフォーム走行)距離が長くなる。
【0051】
さらに、図6の実施形態に第5の制御モードを適用する場合は、ステップS12において、クラッチ8を係合してモータ・ジェネレータ2の動力を車輪11に伝達する。また、ステップS12においては、電子スロットルバルブ36を開放する制御、またはクラッチ52を開放する制御のいずれか一方が選択される。この制御をおこなうことにより、モータ・ジェネレータ2により連れ回されるエンジン1の回転抵抗もしくはモータ・ジェネレータ2の負荷が軽減される。その結果、モータ・ジェネレータ2の動力が、車両の走行以外のことに消費されることが抑制され、バッテリ15の電力が無駄に消費されることを防止できる。したがって、モータ・ジェネレータ2の駆動による退避走行距離が長くなる。
【0052】
なお、図1および図3の制御例において、インジェクタ41の故障により燃料供給量が過剰となった場合に、フューエルポンプ40,51からインジェクタ41に供給される燃料供給量を減少させる制御としては、フューエルポンプ40,51を停止させる制御の他に、フューエルポンプ40,51を駆動したまま、その吐出量を減少させる制御が挙げられる。また、図1および図3の制御例は、エンジン1が駆動し、かつ、モータ・ジェネレータ2が停止している場合、またはエンジン1およびモータ・ジェネレータ2が両方とも駆動している場合、あるいはエンジン1が停止し、かつ、モータ・ジェネレータ2が駆動している場合のいずれの条件下においても、実施することができる。なお、エンジン1の停止中に、前述した第3の制御モードを選択する場合でも、モータ・ジェネレータ12による発電はおこなわれない。
【0053】
上記各パワートレーンの実施形態においては、蓄電装置としてバッテリ15が用いられているが、バッテリに代えてキャパシタを用いることもできる。また、ステップS1およびステップS11において、吸気装置30、点火装置32、燃料供給装置31,31Aの少なくとも一つの故障の有無を判断することもできるとともに、ステップS2およびS12において、吸気装置30、点火装置32、燃料供給装置31,31Aの少なくとも一つの駆動を停止するように構成することもできる。これら吸気装置30、点火装置32も補機バッテリ49Aの電力により駆動されるように構成されているために、その駆動を停止することによりバッテリ15から補機バッテリ49Aに供給する電力を低減でき、結果的にモータ・ジェネレータ2を駆動力源とする車両の退避走行距離を長くすることができる。
【0054】
さらに、吸気装置30の吸気弁34Aの動作を、エンジン回転数に応じて制御するために、公知の可変バルブタイミング制御装置が設けられている場合は、ステップS12において、可変バルブタイミング制御装置で吸気弁34Aの開度を強制的に広げることにより、燃焼室34内に吸入される空気量を増加して、モータ・ジェネレータ2により連れ回されるエンジン1の回転抵抗を低減することもできる。
【0055】
ここで、図1および図3に示す機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すれば、ステップS1の機能的手段が、この発明の燃料系統の異常を判断する手段に相当し、ステップS2の機能的手段が、この発明のクラッチを解放する手段および他のモータ・ジェネレータを発電機として機能させる手段に相当する。
【0056】
【発明の効果】
以上のように請求項1の発明によれば、燃料系統に異常が生じると、クラッチが解放されることにより、エンジンが動力伝達軸に対して遮断され、また車輪にはモータ・ジェネレータから動力が伝達されるので、エンジンの引き摺りが防止されて電力の無駄な消費を抑制でき、モータ・ジェネレータによる車両の走行距離を長くすることができる。
【0057】
また、請求項1の発明によれば、他のモータ・ジェネレータの回生制動力によりエンジン回転数を速やかに低下させることができるので、違和感を抑制できるとともに、エンジンでのウォーターハンマ現象を防止でき、更にモータ・ジェネレータによる車両の走行距離を長くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明に係る制御の一実施例を示すフローチャートである。
【図2】 この発明が適用されるハイブリッド車のパワートレーンおよびその制御系統を示す図である。
【図3】 この発明に係る制御の他の実施例を示すフローチャートである。
【図4】 この発明が適用されるハイブリッド車のパワートレーンを示す図である。
【図5】 この発明が適用されるハイブリッド車のパワートレーンを示す図である。
【図6】 この発明が適用されるハイブリッド車のパワートレーンおよびその制御系統を示す図である。
【符号の説明】
1…エンジン、 2…モータ・ジェネレータ、 7…クランクシャフト、 9…動力伝達軸、 12…モータ・ジェネレータ、 30…吸気装置、 31,31A…燃料供給装置、 32…点火装置、 39…フューエルタンク、 40,51…フューエルポンプ、 41…インジェクタ、 52…クラッチ、 53…巻き掛け伝動装置。
Claims (1)
- モータ・ジェネレータと燃料系統から燃料が供給されるエンジンとを駆動力源として備え、そのエンジンのクランクシャフトがクラッチを介して動力伝達軸に連結されたパワートレーンの制御装置において、
前記エンジンによって駆動される他のモータ・ジェネレータが設けられており、
前記燃料系統の異常を判断する手段と、
前記燃料系統の異常が判断された場合に前記モータ・ジェネレータの動力を車輪に伝達するとともに前記クラッチを解放する手段と、
前記燃料系統の異常が判断された場合に前記エンジンの回転力によって前記他のモータ・ジェネレータを発電機として機能させるとともに、前記他のモータ・ジェネレータの回生制動力によりエンジンの回転数を低下させる手段と
を備えていることを特徴とするパワートレーンの制御装置。
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