JP3724143B2 - ガスセンサ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はガスセンサに関する。本発明に係るガスセンサは、例えばにおい成分を測定するにおい測定装置に利用することができ、食品や香料の品質検査、悪臭公害の定量検知、焦げ臭検知による火災警報機、食品や香料の品質検査、更には、人物の追跡、識別、認証や薬物検査等の犯罪捜査等の、幅広い分野に用いることができる。
【0002】
【従来の技術】
においセンサは、空気(又は供給されたガス)中に含まれるにおい成分がセンサの感応面に付着することにより生ずる該センサの物理的変化を電気的(又は光学的)に測定するものである。
【0003】
上記においセンサとして、従来、感応膜に金属酸化物半導体を用い、その抵抗値変化を利用するものが実用化されている。また、このセンサを複数用いた「電子鼻」と呼ばれるものが、仏国プライムテック社にて商品化されている。この種のにおいセンサでは、感応膜を高温(350℃以上)に加熱し、該膜表面に付着したにおい成分との間で酸化還元反応を生じさせる。この過程で電子の移動が起こり、感応膜中の電子密度や空乏層の厚さが変化して電気抵抗が変化する。
【0004】
従って、金属酸化物半導体の感応膜を利用したにおいセンサでは、酸化還元反応を生じる物質のみしか検出することができず、また、上記温度で熱分解する物質は検出できない等、対象物質が極めて限定されていた。また、分析時にセンサが上記動作温度まで上昇して安定するのを待たなければならず、特に、繰り返し測定時に長い測定時間を要していた。更には、感応膜表面の状態が比較的不安定であるため、経時変化が大きく、信頼性に乏しいという問題もあった。
【0005】
これに対し、例えば特開昭61−147145号公報には、導電性高分子を利用したガスセンサが提案されている。また、感応膜にポリピロールを主体とした導電性高分子を用い、その抵抗値変化を利用するにおいセンサが英国アロマスキャン社及びネオトロニクス社にて商品化されている。このようなセンサでは、感応膜を常温に維持したまま分析を行なうことができる。
【0006】
また、このような導電性高分子を利用したにおいセンサでは、におい成分と導電性高分子との相互作用による電気的特性の変化のみならず、におい成分とドーパント(導電性高分子の導電率を上げるために添加される材料)との相互作用による電気的特性の変化も生じるため、導電性高分子やドーパントを適当に選定することにより多種類のにおい成分の物質を検出できると考えられる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本願発明者らは、この種のガスセンサにおいて、ガス成分の検出感度と導電率との間に関係があり、所定の導電率の範囲(10-1〜10-5〔S/cm〕程度)において比較的高い検出感度が得られることを既に見い出した(平成9年7月8日出願の特許願参照)。このような導電率の制御は、導電性高分子へのドーパントの導入量を制御することにより可能である。ところが、従来のガスセンサでは、一旦、導電率が所定範囲に収まるように調整された感応膜を作成しても、時間経過に伴い導電率が変動し検出感度が低下することがある。また、熱を加えると同様に導電率が変動し検出感度が低下してしまうという問題がある。
【0008】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、経時変化や加熱に対して安定した検出感度を得ることができるガスセンサを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために成された本発明は、絶縁基板上に形成した二個以上の電極間に感応膜を設け、該感応膜にガス中の対象成分が付着した際の前記電極間の抵抗変化を測定するガスセンサにおいて、前記感応膜は、導電性高分子から成る膜をポリ酸又はポリ酸塩を含む溶液中に浸漬し、該ポリ酸類又はポリ酸塩類を膜中にドーパントとして導入することにより形成されることを特徴としている。
【0010】
ここで、ポリ酸類又はポリ酸塩類とはイソポリ酸及びヘテロポリ酸とその塩であって、例えば、メタタングステン酸、パラモリブデン酸、パラタングステン酸、タングストケイ酸、タングストリン酸、モリブドケイ酸、モリブドリン酸、タングステン酸アンモニウム、タングストリン酸アンモニウム、モリブデン酸アンモニウム等のことである。
【0011】
【発明の実施の形態】
従来の導電性高分子による感応膜において、時間経過に伴い導電率が変動する原因の一つはドーパントが導電性高分子の隙間で移動し易く不安定であるためであると推定されている。このような不安定さの要因として、本願発明者はそのドーパントの分子の大きさに着目した。すなわち、小さな(分子量の小さな)分子を有するドーパントは導電性高分子の間で容易に移動し、経時変化や加熱により脱落や偏在が生じ易いのではないかと考えた。
【0012】
そこで、本発明に係るガスセンサでは、比較的大きな分子量を有することをドーパントの条件とし、更に、導電性高分子中にそのドーパントを溶液浸漬法によって導入するためにルイス酸であって且つプロトン酸であることを条件として、ポリ酸類又はポリ酸塩類をドーパントとして用いている。
【0013】
導電性高分子に導入されたこのドーパントは、適当な大きさを有しているので導電性高分子の間で移動しにくい。また、このドーパントは、導電性高分子の主鎖の電子を引き抜き主鎖側を正に帯電させる一方、自らは負イオンとなる。このため、該ドーパントは電気的な引力によっても導電性高分子の近傍に留まり易い。これにより、経時的にも又熱に対して安定であると考えられる。このことは、後記の実験により実証された。
【0014】
【実施例】
以下、本発明に係るガスセンサの一実施例を説明する。図1は、本実施例のガスセンサ10の構造の一例を示す平面図(a)、その平面図のA部分の拡大図(b)及び断面図(c)である。ガラス等の絶縁体材料から成る基板11上に金等の金属から成る厚さ約150nmの電極12a、12bが5μm間隔の櫛形状に形成されており、該電極12a、12bにリード線13a、13bが接続されている。基板11上には、電極12a、12bを被覆して後述のような方法により作成される感応膜14が設けられている。
【0015】
上記ガスセンサ10の製造方法の一例は次の通りである。まず、基板11上に周知のリフトオフ法によって電極12a、12bを形成する。次に、感応膜を構成する導電性高分子が溶解している溶液を、その電極12a、12bを被覆するように塗布することにより感応膜を形成する。
【0016】
すなわち、チオフェンC4H4Sの3位をヘキシル基C6H13に置換した3−ヘキシルチオフェン(東京化成社製)を酸化重合法により重合してポリ(3−ヘキシルチオフェン)を作成する。そして、これをクロロホルム溶媒に溶解して濃度0.1mol/Lの溶液を作成する。この溶液を上記基板11上にスピンコート法にて塗布し、膜厚約300nmの膜体を形成する。このような膜体を形成するには、例えば、回転数1500rpmで10秒間スピナーを作動させるとよい。
【0017】
その後、ニトロメタン溶媒にポリ酸類の一種であるタングストリン酸を溶解して濃度0.01mol/Lの溶液を作成し、その溶液中に上記膜体を形成した基板を60分間浸漬する。これにより、適度な量のタングストリン酸がポリ(3−ヘキシルチオフェン)膜中にドーパントとして導入され、導電率が高められた感応膜14ができあがる。なお、リード線13a、13bは感応膜14を形成した後に所定箇所の膜を除去して電極12a、12bに接続してもよいし、予め該所定箇所に膜が形成されないようにマスクしておいてもよい。
【0018】
基板11上にポリ(3−ヘキシルチオフェン)の膜体を形成した状態では、その導電率は10-7〔S/cm〕以下の低い値であるが、上記のようにドーパントを膜中に導入することにより、10-2〜10-4〔S/cm〕の範囲の好ましい導電率に調整することができる。
【0019】
このようにして形成された感応膜中の分子レベルの構造は完全に解明されているわけではないが、概念的には図2に示すような構造を有していると推定される。すなわち、導電性高分子30の隙間に比較的大きな分子量を有するドーパント31の分子が入り込んでいる。タングストリン酸は、ルイス酸且つプロトン酸の一種であるので、浸漬中にポリ(3−ヘキシルチオフェン)と反応する際に、電子を受容する。このため、導電性高分子30は正に帯電する一方ドーパント31は負に帯電し、ドーパント31は単に導電性高分子30の隙間に入り込むのみならず、正と負の電荷によって互いに引き合い比較的強く結合した状態にある。この結果、ドーパント31は安定に位置し、脱落や移動が生じにくい。
【0020】
図3は、上記ガスセンサ10のガス応答を調べるための評価装置の構成図である。清浄空気の流路20には、バルブ21、フローセル23、ポンプ24が設けられ、該ポンプ24の吸引によって流路20に清浄空気が流通する。バルブ21には試料容器22に連なるガス流路が接続されており、バルブ21の操作により清浄空気中に適宜量の試料ガスが混入されるようにしている。フローセル23内には上記ガスセンサ10が配置され、該センサ10の電極の抵抗変化を抵抗計25にて測定する。
【0021】
まず、乾燥剤(シリカゲル)、活性炭及びモレキュラシーブスを通過した後の清浄空気を200mL/分の流速で10秒間流し、これによりセンサ10の感応膜に付着している不純物を脱離させて除去する。その後、清浄空気に試料成分として酢酸ブチルを混入させたガスを同じ流速で30秒間流す。そして、最後に再び清浄空気のみを流す。上記手順の間に、ガスセンサ10の電極間の抵抗を抵抗計25により連続的に測定する。
【0022】
図4は、このガスセンサ10の応答特性の実測結果を示す図である。図4に示されているように、10秒経過後に試料成分を含むガスが流れ始めると即座且つ急峻に抵抗値が上昇する。つまり、検出の応答速度は極めて迅速である。また、試料成分の有無に対する抵抗値の差異は大きいので、検出感度も高く、微量成分の検出にも有効であることがわかる。
【0023】
図5は、本実施例のガスセンサと比較対象のガスセンサとの抵抗の経時変化の実測結果を示す図である。比較対象のガスセンサの感応膜は、導電性高分子として本実施例と同一のポリ(3−ヘキシルチオフェン)を用い、ドーパントとして塩化第二鉄FeCl3を本実施例と同様(但し、溶液濃度や浸漬時間は異なる)の溶液浸漬法により導入したものである。なお、両者の初期的な抵抗値はほぼ同程度になるように、そのドーパントの量は制御されている。図5より明らかなように、本実施例のガスセンサではより抵抗の経時変化が小さく、特に8日目迄の間の初期変動後には極めて安定している。他方、比較対象のガスセンサでは、抵抗値の初期変動が大きく、その後も抵抗値の安定性がよくない。
【0024】
また、本実施例のガスセンサと上記比較対象のガスセンサとの熱に対する抵抗変化の実測を行なった。すなわち、75℃の空気雰囲気中に両ガスセンサを10分間放置したときの抵抗値の変化率(ΔR/R%)を測定した。その結果、本実施例のガスセンサでは変化率が1.4%、比較対象物の変化率は16.0%であった。つまり、本実施例のガスセンサでは1/10以下の変化しか生じておらず、熱に対しても導電率が安定である。
【0025】
なお、上記実施例において、ガスセンサの形状や寸法等は適宜に変えることができる。また、製造時の濃度等の各数値も適宜に変えることができる。
【0026】
【発明の効果】
以上の説明のように、本発明に係るガスセンサでは、導電性高分子から成る感応膜の中でポリ酸又はポリ酸塩から成るドーパントが安定して位置する。このため、時間経過や熱に対して感応膜の導電率の変動が小さいので、安定した検出感度を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例であるガスセンサの構成図。
【図2】 本実施例のガスセンサにおける感応膜の分子レベル構造の概念図。
【図3】 ガスセンサの評価装置の構成図。
【図4】 本実施例のガスセンサの応答特性を示すグラフ。
【図5】 本実施例のガスセンサの抵抗の経時変化を示すグラフ。
【符号の説明】
11…基板
12a、12b…電極
13a、13b…リード線
14…感応膜
30…導電性高分子
31…ドーパント
Claims (1)
- 絶縁基板上に形成した二個以上の電極間に感応膜を設け、該感応膜にガス中の対象成分が付着した際の前記電極間の抵抗変化を測定するガスセンサにおいて、前記感応膜は、導電性高分子から成る膜をポリ酸又はポリ酸塩を含む溶液中に浸漬し、該ポリ酸類又はポリ酸塩類を膜中にドーパントとして導入することにより形成されることを特徴とするガスセンサ。
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