JP3721343B2 - バイオセラミックス含有セル構造体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、生体骨との結合、置換が可能な生体内分解吸収性のバイオセラミックス含有セル構造体に関する。
【0002】
【従来の技術】
医療用途を目的とする生体内分解吸収性のセル構造体(多孔体)としては、特公昭63−64988号に開示された生体内分解吸収性スポンジや、特開平2−63465号に開示された歯周組織再建用素材などが知られている。
【0003】
前者の生体内分解吸収性スポンジは、手術時の止血や生体の軟組織(例えば肝臓等の臓器)の縫合時の補綴材料として使用されるもので、分子量(重量平均分子量)が2千〜60万のポリ乳酸等から形成された連続気泡構造を有する柔軟なスポンジである。このスポンジは、上記のポリ乳酸等をベンゼン又はジオキサンに溶解させ、そのポリマー溶液を凍結乾燥する方法によって製造されるものである。
【0004】
また、後者の歯周組織再建用素材は、重量平均分子量が4万〜50万の乳酸−カプロラクトン共重合体等から形成された多孔質の柔軟なフィルム状もしくはシート状の肉薄の素材であり、この素材も上記と同様の溶剤を用いて凍結乾燥法により製造されるものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記のスポンジや歯周組織再建用素材は生体内分解吸収性の多孔質素材であるが、生体内で骨組織を素材内部に誘導形成する生体活性な物質を含まないため、生体骨との結合性、誘導性、伝導性、骨組織との置換が悪いので、完全に置換して骨組織が再建されるまでにかなりの長期間を要する。
【0006】
また、上記の素材が凍結乾燥法により製造されるときは、1mm以上の厚いものを得ることが難しい。1mm以下の薄肉の素材を生体骨損傷部位の複雑で比較的大きな三次元空間に形状的にあてはめて、一時的な補綴材としての機能を発揮させながら立体的な損傷部位の再建を図ることは困難である。
【0007】
更に、凍結乾燥法で製造される素材は発泡倍率が低く、このような発泡倍率の低い素材は生体内で分解、吸収される過程において一時的に多量の分解細片を生成するため、分解細片の異物反応による一過性の炎症を引き起こす心配が多分にある。しかも、凍結乾燥のためにベンゼンやジオキサン等の有害な溶剤を使用するので、溶剤が残留していると生体に悪影響を及ぼす危険性がある。
【0008】
これらの問題があるため、従来の凍結乾燥法で製造された多孔質素材は、生体骨損傷部位の再建用の充填材、補綴材あるいは足場のための生体材料として使用することが困難であった。また、生体骨との結合性がないため、人工関節その他のインプラントと生体骨との間に多孔質素材を介在させてインプラントの固定強度を向上させるというような目的にも使用できなかった。
【0009】
本発明は、上記の問題を一挙に解決して生体骨損傷部位の再建用生体材料等として好適に使用できるバイオセラミックス含有セル構造体を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明のバイオセラミックス含有セル構造体は、生体内分解吸収性ポリマーから形成された連続気孔を有するセル構造体であって、前記ポリマーがポリ乳酸、乳酸−グリコール酸共重合体、乳酸−カプロラクトン共重合体のいずれか一種のポリマー又は二種以上の混合ポリマーからなり、前記ポリマーの粘度平均分子量が、10万〜70万であり、セル構造体の内部に粒子の大きさが0.1〜100μmの生体内吸収性のバイオセラミックスが含有されており、前記バイオセラミックスが湿式ハイドロキシアパタイトの粉体で平均含有量が5〜60重量%であり、該粉体がセル壁の表面に保持され、セル構造体の発泡倍率が、2〜30倍であることを特徴とするものである。
【0011】
ここに、セル構造体とは、気孔を取り囲む一つの構造単位であるセルの壁が相互につながったネットワークからなる固体のことであり、多孔体や発泡体と表現しても本質的な差異がないものである。
【0012】
上記のバイオセラミックス含有セル構造体は、生体内分解吸収性ポリマーをその溶剤とその溶剤より高沸点の非溶剤との混合溶媒に溶解させると共に、バイオセラミックスの粉体を分散させた懸濁液を調製し、この懸濁液から混合溶媒を溶剤の沸点より低温で揮散させて、バイオセラミックスの粉体を内包する生体内分解吸収性ポリマーを沈殿させることを特徴とする本発明の製造方法によって、容易に製造することができる。そのセル構造形成の原理は、以下のように考察される。
【0013】
即ち、上記の懸濁液から混合溶媒を溶剤の沸点より低温で気散させると、沸点の低い溶剤が優先的に気散して沸点の高い非溶剤の比率が次第に上昇し、溶剤と非溶剤がある比率に達すると溶剤はポリマーを溶解できなくなる。そのためポリマーが析出・沈殿を開始し、当初から沈降を開始しているバイオセラミックスの粉体を内包し、析出・沈殿したポリマーが高比率の非溶剤により収縮、固化してバイオセラミックスの粉体を含有したまま固定化され、連結したポリマーの薄いセル壁に混合溶媒が内包された状態のセル構造が形成される。そして、残りの溶剤がセル壁の一部分を破壊しながら細孔をつくって気散・消失し、沸点の高い非溶剤も該細孔を通じて徐々に気散して、遂には完全に気散・消失する。その結果、ポリマーのセル壁に包まれていた混合溶媒の溜め跡が気孔として残り、基本的に気孔が連続した連続気孔を備える。かくしてセル壁の表面又は内部にバイオセラミックスの粉体を保持したバイオセラミックス含有セル構造体が形成される。
【0014】
その場合、上記の懸濁液のポリマー濃度を調整すると、セル構造体の発泡倍率を2〜30倍の広範囲に調節でき、しかも、歪みのないバイオセラミックス含有セル構造体を形成することができる。また、上記の懸濁液の粘度や、混合溶媒の気散する速さをコントロールすると、1mm以上の厚さを有するバイオセラミックス含有セル構造体を容易に形成することができる。
【0015】
このようにして形成されたバイオセラミックス含有セル構造体は、バイオセラミックス粉体が当初から沈降を開始し、且つ、その沈降速度がポリマーの析出・沈殿速度よりかなり速い場合は、セル構造体の片面側(上面側)から反対面側(下面側)に近づくにつれてバイオセラミックス粉体の含有量が漸増している。つまり、バイオセラミックス粉体の沈降方向に含有量の勾配を有するセル構造体となるのである。
【0016】
上記のようなバイオセラミックス含有セル構造体を生体骨の損傷部位に適用すると、連続気孔を通じて体液がセル構造体の内部へ浸透し、体液と接触したセル壁が徐々に加水分解すると共に、セル壁の表面又は内部に保持されているバイオセラミックス粉体によって、骨組織がセル構造体の内部に誘導形成され、セル構造体が生体骨と結合する。そして、最終的にはセル構造体全体が加水分解して吸収され、誘導形成された骨組織と置換して消失する。
【0017】
その場合、セル構造体のバイオセラミックス粉体の含有量が多い方の片側部分(下側部分)は、セル壁の見掛け上の加水分解による劣化が速やかに進行すること、また高い濃度のバイオセラミックス粉体による骨組織の誘導形成能(生体活性の度合)が大きいため、生体骨との結合性が良好である。これに対し、バイオセラミックス粉体の含有量が少ない方の片側部分(上側部分)は骨組織の誘導形成能があまり大きくないけれども、バイオセラミックス粉体の含有量が少ない分だけ脆さがなく強度があり、セル壁の加水分解もそれほど速くないため、生体内で数ケ月間は実用的強度と形状を維持する。
【0018】
バイオセラミックス粉体の平均含有率は5〜60重量%の範囲内であることが望ましく、平均含有率が60重量%より高くなると、骨組織の誘導形成能は全体的に向上するが、セル構造体の全体的な強度が低下し、見掛け上の加水分解による劣化の速度も必要以上に速くなるといった不都合を生じる。一方、バイオセラミックス粉体の平均含有率が5重量%より低くなると、セル構造体の全体的な強度は向上するが、骨組織の誘導形成能が全体的に低下し、加水分解速度もかなり遅くなるので望ましくない。
【0019】
また、このバイオセラミックス含有セル構造体の表面には、コロナ放電処理やプラズマ処理や過酸化水素処理などの表面活性化のための酸化処理を施すことが望ましく、かかる酸化処理を施すと、表面が体液とよく濡れるようになるので、セル構造体表層部における骨組織の誘導形成が一層活発になり、生体骨との結合性が更に向上する。
【0020】
上記のように本発明のバイオセラミックス含有セル構造体は、生体骨に対する良好な結合性と、生体内での数ケ月にわたる実用的強度及び保形性を併せ持ち、最終的に全てが骨組織と置換して消失するため、生体骨損傷部位の再建用足場などの生体材料として極めて有用である。これは単に硬組織用のみに限らず、軟組織再建のための足場である組織工学のための材料としても有効である。
【0021】
特に、1mm以上の厚いセル構造体は、生体内の損傷部位の複雑な三次元空間に形状的にあてはめて、一時的な補綴材としての機能を発揮させながら立体的な損傷部位の再建を図ることができる。更に、発泡倍率の高いセル構造体はポリマーが量的に稀薄であり、分解・吸収の過程で一時的に急激に多くの分解細片を生成することがないため、分解細片の異物反応による一過性の炎症をなくすこともできる。
【0022】
また、例えば人工関節などのインプラントとリーミングした生体骨との間に不可避的にできる隙間に本発明のバイオセラミックス含有セル構造体を介在させて両者を密着させると、最終的にセル構造体が骨組織と置換して、この骨組織がインプラントの形状に沿ってよく密着するため、インプラントの生体骨への固定を向上させることができる。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の具体的な実施形態を詳述する。
【0024】
本発明のバイオセラミックス含有セル構造体に用いる生体内分解吸収性ポリマーとしては、10万〜70万の粘度平均分子量を有するポリ乳酸、乳酸−グリコール酸共重合体、乳酸−カプロラクトン共重合体などが好適であり、これらは単独で又は二種以上混合して使用される。
【0025】
ポリ乳酸としては、L−乳酸のホモポリマーや、L−乳酸とD−乳酸のランダムあるいはブロックコポリマーが使用され、また、共重合体としては、乳酸とグリコール酸、あるいは乳酸とカプロラクトンのモル比が99:1〜75:25の範囲にあるものが使用される。グリコール酸やカプロラクトンの比率が上記範囲より高くなると、セル構造体の耐加水分解性が低下して早期に強度劣化を招く恐れがあり、高発泡倍率のセル構造体を形成することも難しくなる。尚、これらの共重合体以外に、ポリ乳酸とポリエチレングリコールの共重合体や、ポリ乳酸とポリプロピレングリコールとの共重合体なども使用できる。
【0026】
これらのポリ乳酸や共重合体は、上記のように粘度平均分子量が10万〜70万の範囲にあるものを使用することが望ましく、このような高分子量のポリ乳酸や共重合体を用いると、非多孔質の固体の重合体よりは低いが、多孔体としては比較的高い強度(引張強度や曲げ強度)があり、且つ、生体内での強度維持期間が2ケ月までの短いものから数ケ月と長いものまで高発泡倍率のセル構造体を形成することができる。
【0027】
ポリマーのポリ乳酸の比率や平均分子量が高くなればなるほど、セル構造体の硬度や強度、強度保持期間等は向上するが、粘度平均分子量が70万を越えるとポリマーが溶剤に溶け難くなるので、高発泡倍率のセル構造体を得ることが難くなる。一方、粘度平均分子量が10万より低くなると、セル構造体の強度が低下し、生体内での強度維持期間も短くなる。ポリ乳酸や共重合体の更に望ましい粘度平均分子量の範囲は15万〜60万である。
【0028】
なお、上記の高分子量域のポリ乳酸や共重合体には、低分子量のものを適量配合してもよい。低分子量のものを配合すると、セル構造体の初期の加水分解速度を適度に速めることが可能となる。
【0029】
本発明のセル構造体に含有させるバイオセラミックスの粉体としては、表面生体活性な焼結ハイドロキシアパタイト、バイオガラス系もしくは結晶化ガラス系の生体用ガラス(例えばバイオグラスやA−Wガラスセラミックス等)、生体内吸収性の湿式ハイドロキシアパタイト、ジカルシウムホスフェート、トリカルシウムホスフェート、テトラカルシウムホスフェート、オクタカルシウムホスフェート、ジオプサイト、カルサイトなどの粉体が好適であり、これらは単独で又は二種以上混合して使用される。
【0030】
これらのバイオセラミックス粉体は、その粒子の大きさが0.1〜100μmの範囲にあるものを使用することが望ましい。また、より好ましくは数μm〜数10μmである。100μmより大きいバイオセラミックス粉体を使用すると、後述するようにポリマーとバイオセラミックス粉体を沈殿させてセル構造体を形成するとき、バイオセラミックス粉体の沈降速度が速すぎるために、その大部分の粉体が下部に沈積し、上部にはバイオセラミックス粉体を殆ど含まないセル構造体が形成されることになる。このようなセル構造体は、バイオセラミックス粉体が大量に沈積している下面側が強度的に極めて脆く、バイオセラミックス粉体を殆ど含まない上面側は、ポリマー本来の性質のみが発現するので骨組織の誘導形成能に乏しく、両者間の物性と機能の差が著しく違いがある上に、両者が容易に分離しやすいので、本発明の目的を良好に達成しがたい。
【0031】
バイオセラミックスの粉体は、一般にその粒子が小さくなるほど沈降速度が遅くなり、セル構造体の上面側と下面側の粉体含有量の差が少なくなるので、バイオセラミックス粉体の大きさを上記の範囲内で選択し、ポリマー溶液濃度を調整して粘度を選択すれば、セル構造体の粉体含有量の勾配をほどよくコントロールすることができる。
【0032】
本発明のバイオセラミックス含有セル構造体は、前記の生体内分解吸収性ポリマーをその溶剤とその溶剤より高沸点の非溶剤との混合溶媒に溶解させると共に、前記のバイオセラミックス粉体を懸濁させた懸濁液を調製し、この懸濁液を型に入れて混合溶媒を溶剤の沸点より低温で揮散させることにより、バイオセラミックスの粉体を内包した生体内分解吸収性ポリマーを沈殿させて形成したものであり、そのセル構造形成原理は既述した通りである。
【0033】
かかる方法で形成されたバイオセラミックス含有セル構造体は、連続した気孔を取り囲むポリマーのセル壁がネットワーク状につながり、該セル壁の表面又は内部にバイオセラミックス粉体が保持された構造をしている。また、ポリマー濃度、バイオセラミックス粉体の粒径、溶剤と非溶剤の比率を選択することによって、該粉体の含有量がセル構造体の上面側から下面側に近づくにつれて(即ち、沈降方向に向かって)漸増しているものも得られ、その濃度勾配もまた調整することができる。
【0034】
上記の懸濁液の調製は、生体内分解吸収性ポリマーを溶剤に溶解したポリマー溶液と、バイオセラミックス粉体を非溶剤に分散させた分散液とを混合して調製することが望ましく、このように調製すると、ポリマーの溶解とバイオセラミックス粉体の懸濁を容易に行うことができる。
【0035】
溶剤としては、前記の生体内分解吸収性ポリマーを溶解でき、常温よりやや高い温度で気散しやすい低沸点の溶剤、例えば塩化メチレン(CH_2Cl_2)、クロロホルム(CHCl_3)、1,1−ジクロルエタン(CH_3CHCl_2)などが使用される。この中では、最も低い沸点と最も高い蒸気圧を示す低毒性の塩化メチレンが最適であり、クロロホルムも好適である。
【0036】
一方、非溶剤は、その沸点が上記の溶剤より高く、且つ、上記の溶剤と相溶性があるものを使用する必要があり、相溶性に劣る非溶剤を用いると、発泡倍率が高く均一で微細な気孔を有するバイオセラミックス含有セル構造体を得ることが困難になる。この非溶剤の沸点は上限が110℃付近(1気圧)までであり、溶剤と非溶剤との組み合わせを決める場合、溶剤の沸点よりもかなり高い沸点の非溶剤を選ぶことが望ましい。非溶剤が110℃より高い沸点を有するものであると、常温での蒸気圧が低く常温での気散が遅すぎるために、セル構造体の形成に時間がかかり、非溶剤がセル内に残留しやすくなる。また、非溶剤と溶剤の沸点差が約15℃より小さい場合は、溶剤が非溶剤と共に気散し易くなるので、非溶剤の沈殿剤としての働きが低下する。
【0037】
好ましい非溶剤としては、前記の塩化メチレン等の溶剤と相溶性があり、沸点が60℃〜110℃(1気圧下)の範囲内にある一価アルコール、例えばメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール)、2−ブタノール、ter−ブタノール、ter−ペンタノールなどが挙げられるが、毒性、臭などを考慮すると、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールが特に好適に使用される。また、これらの一価アルコールに少量の水を加えた非溶剤も好適に使用される。水はアルコールよりもより強い沈殿剤としての働きを有し、ポリマーの沈殿を促進するからである。
【0038】
表1に、好ましい溶剤と非溶剤を列挙し、それぞれの沸点と20℃における蒸気圧を示す。また、表2に、塩化メチレン、クロロホルムと各非溶剤との沸点差及び蒸気圧差を示す。溶剤と非溶剤の組合わせは、この表1の沸点と蒸気圧を勘案して適宜選択すればよく、溶剤に塩化メチレンやクロロホルムを選んだときは、表2に示す沸点差と蒸気圧差を勘案して非溶剤を選択すればよい。
【表1】
【表2】
【0039】
混合溶媒の溶剤と非溶剤の比率は、体積比で10:1〜10:10の範囲とすることが重要であり、かかる比率の範囲内であればセル構造体を形成することができる。溶剤の比率が上記範囲より大きい場合は、混合溶媒の気散終了時までポリマーの溶解が続いてポリマーの沈殿が生じず、気散後にバイオセラミックス粉体の大部分が底面に沈殿した状態の気泡のない透明なポリマー塊を得るのみである。一方、溶剤の比率が上記範囲よりも小さい場合は、僅かの溶剤が気散しただけでポリマーがバイオセラミックス粉体と共に一挙に沈殿するため、セル間の溶着が不完全となり、セル間の物理的つながりのない脆いセル構造体、あるいはセル間がつながっていない粉粒体が出来上がったり、型の形状とは全く異なる収縮、変形したセル構造体ができるので良くない。三次元空間的にセルが連結してしっかりした形状の安定なセル構造体が形成されるにふさわしい比率の範囲は、溶剤と非溶剤の種類によって異なるが、10:1〜10:7である。
【0040】
上記のような溶剤と非溶剤との混合溶媒に生体内分解吸収性ポリマーを溶解させると共にバイオセラミックス粉体を懸濁させた溶液は、型内に充填した後、溶剤の沸点より低い温度、好ましくは20℃以下の温度で、常圧又は減圧下に混合溶媒を気散させることが重要である。溶剤の沸点以上の温度で気散させると、溶剤が沸騰してセル壁を破壊し、溶着するので、良質のセル構造体を得ることはできない。この気散の工程を、気散した溶媒を回収することのできる密閉された装置の中で行うと、回収された溶媒を何度も繰り返して使用することができ、操作中に吸入することもないので安全かつ省資源的である。
【0041】
このように懸濁液から混合溶媒を気散させると、数100μm以下の薄いフィルム状やシート状のバイオセラミックス含有セル構造体であれば、見ている間の短時間に形成することができる。そして、1mm以上の厚肉のプレート状又は異形状のバイオセラミックス含有セル構造体の場合も、型の深さや形状を変えて懸濁液の充填量を増加させるだけで、少し長い時間を要するが、同様に簡単に形成することができる。このとき混合溶媒が型の全面から均等に気散できるように、型として、ポリマーを通過させないが混合溶媒を通過させる微細な通気孔を無数に有する多孔質の型、例えば素焼きの陶器製の型などを使用することも一つの好ましい方法である。
【0042】
また、形成されるセル壁を固定化してセル構造体の陥没や変形を避けること、バイオセラミックス粉体の沈降速度を遅くして粉体含有量の勾配を少なくすること、混合溶媒の気散を速めること等を目的として、懸濁液を攪拌しながら約10℃以下の低温にて増粘し、減圧下に静置して溶媒を強制的に気散させる操作を採ることも望ましい一つの方法である。但し、混合溶媒の気散速度は、ポリマーの分子量、種類、濃度、形成するセル構造体の厚さ、形状、発泡倍率等によって微妙に調節する必要がある。このようにすれば、5cm以上もの厚さをもつブロック状あるいは異形状に成形された、バイオセラミックス粉体含有量の勾配が比較的少ないセル構造体を容易に形成することができる。
【0043】
バイオセラミックス含有セル構造体の発泡倍率は2〜30倍であり、5〜25倍のものが比較的容易に得られ、このような高発泡倍率のセル構造体は、生体内での加水分解による細片の生成量が少ないため、分解細片の一時的多量発生によって生ずる異物反応による一過性の炎症を起こす心配が殆どないという利点を有する。
【0044】
発泡倍率を決定する要因としては、ポリマー濃度(懸濁液の粘度)、ポリマーの分子量、混合溶媒の組成比、気散速度等が挙げられるが、溶剤から析出したポリマーがバイオセラミックス粉体と共に沈殿してセル構造体を形成する原理からすれば、ポリマー濃度が最も重要な要因の一つである。
【0045】
ポリマー濃度と発泡倍率は反比例の関係にあり、ポリマー濃度が高くなるほど発泡倍率は低くなる。そして、混合溶媒中のポリマー濃度が10重量%以上になると、5倍以上の発泡倍率を有するセル構造体を形成することが難しくなる。従って、高発泡倍率のセル構造体を得るためには、ポリマー濃度を下げる必要がある。混合溶媒中のポリマー濃度が2重量%程度であると、混合溶媒の組成比によって差異はあるが、20〜30倍前後の高発泡倍率を有するセル構造体を形成することができる。しかし、ポリマー濃度を更に下げて1重量%以下にすると、却って満足なセル構造体を得ることが困難となる。また同時にバイオセラミックス粉体の沈積が増大し、一方向に偏りすぎたセル構造体となる。
【0046】
ポリマーの分子量と発泡倍率の関係は、ある分子量領域で発泡倍率が最も高くなり、分子量がその領域より大きくなっても小さくなっても発泡倍率は低下する傾向がある。発泡倍率が最も高くなる粘度平均分子量は、前記のポリ乳酸や共重合体では20万〜35万程度であり、10万より低くなると発泡倍率の高いバイオセラミックス含有セル構造体を形成することが困難となる。
【0047】
また、混合溶媒の組成比と発泡倍率との関係については、セル構造体の形成が可能な前記の比率の範囲内において、非溶剤の比率が高くなるほど、発泡倍率が高くなる関係にある。
【0048】
従って、ポリマー濃度、ポリマーの分子量、混合溶媒の組成比等を種々変化させれば、セル構造体の発泡倍率を自由にコントロールすることができ、2〜30倍の発泡倍率を有するバイオセラミックス含有セル構造体を形成することができる。このような発泡倍率のセル構造体は、連続気孔の平均孔径が3〜300μm程度であり、特に150〜300μm程度の平均孔径を有するセル構造体は、生体骨の損傷部位に埋入したときに体液や軟組織又は硬組織細胞の侵入が容易であって、セル壁の表面又は内部に存在するバイオセラミックス粉体により、特に骨組織の誘導形成が効果的に行われるため、骨組織再建用の生体材料として有用である。
【0049】
本発明のバイオセラミックス含有セル構造体は、既述したように、バイオセラミックス粉体の含有量がセル構造体の片面側(上面側)から反対面側(下面側)に向かって漸増するような勾配を有することにも特徴があるが、バイオセラミックス粉体の平均含有率は5〜60重量%の範囲内に設定することが望ましい。平均含有率が60重量%より高くなると、バイオセラミックス粉体による骨組織の誘導形成能などの生体活性の度合は全体的に向上するが、セル構造体の全体的な強度が低下し、加水分解による見掛け上の劣化も必要以上に速くなるといった不都合を生じるので好ましくない。一方、バイオセラミックス粉体の平均含有率が5重量%より低くなると、セル構造体の全体的な強度はポリマー自体のセル構造体と同程度にまで向上するが、生体活性の度合が全体的に低下し、加水分解による見掛け上の劣化もかなり遅くなるといった不都合を生じるので、やはり好ましくない。
【0050】
このバイオセラミックス含有セル構造体にはコロナ放電処理などの酸化処理を施すことが望ましく、かかる処理が表面に施されていると、ポリマーと生体液との濡れ特性が増すので、セル構造体の表層部における生体活性の度合が顕著に発現され、生体骨との結合性などの特性が更に向上する。
【0051】
以上のような本発明のバイオセラミックス含有セル構造体は、生体骨に対する良好な結合性に代表される生体活性の性質と、生体内での数ケ月にわたる実用的強度及び保形性の維持を併せ持ち、最終的に全てが周囲の骨組織と置換して消失するため、生体骨損傷部位の再建用の生体材料として、あるいは組織再建のための足場として、あるいは組織工学のための材料として極めて有用である。特に、1mm以上の厚いセル構造体は、損傷部位の複雑な三次元空間に形状的にあてはめて、一時的な補綴材としての機能を発揮させながら立体的な損傷部位の再建を図ることが可能であり、また、発泡倍率の高いセル構造体は、ポリマーが量的に稀薄であって、分解・吸収の過程で一時的に急激に多くの分解細片を生成することがないため、分解細片の異物反応による一過性の炎症を引き起こす心配も殆どないので実に有効である。
【0052】
更に、本発明のバイオセラミックス含有セル構造体は、人工関節(例えば股関節骨頭)などのインプラントと生体骨との間に介在させると、最終的にセル構造体が骨組織と置換し、この骨組織がインプラントに密着するため、インプラントの固定強度を向上させるのに有効である。
【0053】
図1はその一例を示す部分断面図であって、超高分子量ポリエチレンで成形した人工関節の一方の半球殻体1を生体骨2の端部に固定するときに、半球殻状に形成した本発明のバイオセラミックス含有セル構造体3をスペーサとして半球殻体1と生体骨2と間に介在させたものである。このようにバイオセラミックス含有セル構造体3を介在させると、その内部に骨組織が誘導形成され、セル構造体3の分解・吸収に伴って置換、再建された生体骨が半球殻体1の表面に密着して半球殻体1の固定が確実となる。その場合、半球殻体1の表層部にもバイオセラミックスの粉体を埋入しておくと、該表層部が生体骨と結合し、固定性が一層向上する。
【0054】
【実施例】
次に、本発明の更に具体的な実施例と比較例を説明する。
【0055】
[比較例1]
溶剤として塩化メチレン(CH_2Cl_2)を使用し、この溶剤に粘度平均分子量30万のポリ−L−乳酸を4g/dlの割合で溶解すると共に、平均粒径が3μmの未焼成ハイドロキシアパタイト粉体(U−HA粉体)を2.7g/dlの割合(U−HA粉体含有率:40重量%)で分散させて懸濁液を調製した。そして、この懸濁液を直径が10cmのシャーレに液面が13mmの高さとなるように注入し、そのまま蓋をして室温(10〜20℃)で大気圧下に24時間静置して、溶剤を気散させた。
【0056】
しかし、セル構造体は形成されず、底面付近にU−HA粉体を多く含む厚さ0.7mmのシートが形成された。これは、溶剤が気散完了するまでポリマーを溶解しながら気散するので、溶剤の抜けがらの孔が溶着し、セル構造体を形成しなかったためである。
【0057】
このシートについて、37℃のリン酸緩衝液中における加水分解実験と、擬似体液中におけるハイドロキシアパタイト形成実験を行った。その結果、加水分解実験については図3に示すような結果が得られた。また、ハイドロキシアパタイト形成実験については、2週間浸漬後、該シートのU−HA粉体含有量が多い底面において、ハイドロキシアパタイトの結晶が点在して形成されていることが電子顕微鏡で確認できたが、含有量の少ない上面では結晶の形成が確認できなかった。
【0058】
[実施例1]
溶剤として塩化メチレン(CH_2Cl_2)、非溶剤としてエタノール(C_2H_5OH)を使用し、溶剤と非溶剤の体積比(溶剤/非溶剤)を10/1、10/3、10/5、10/7、10/9に変化させた5種類の混合溶媒に、粘度平均分子量30万のポリ−L−乳酸を4g/dlの割合で溶解すると共に、平均粒径が3μmのU−HA粉体を2.7g/dlの割合で分散させた5種類の懸濁液を調製した。
【0059】
これらの懸濁液を、直径が10cmのシャーレに液面が13mmの高さとなるように注入し、そのまま蓋をして室温(10〜20℃)で大気圧下に静置してU−HA粉体含有セル構造体(U−HA粉体の平均含有率:40重量%)を形成した。24時間後には懸濁液中の混合溶媒が蒸散しており、混合溶媒の組成比(溶剤/非溶剤)が10/7と10/9のもののみが僅かにエタノール臭を残しているに過ぎなかった。その後、減圧乾燥すると、ガスクロマトグラフで溶媒を検知できなくなった。得られた各セル構造体の性状等を下記の表3にまとめて示す。
【0060】
次に、各セル構造体の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、気孔の大きさとU−HA粉体の分布状態を調べた。その結果、各セル構造体の気孔の大きさは下記の表3に示す通りであり、いずれのセル構造体も、U−HA粉体が上面側で粗に分布し、下面側に近づくにつれて密に分布していた。
【0061】
また、各セル構造体の曲げ強度と引張強度を測定したところ、表3に示す結果が得られた。なお、曲げ強度は3点曲げ試験方法(JIS K 7221)により、引張強度は万能試験機による試験方法(JIS K 7113)により測定したものである。
【表3】
【0062】
この表3に示す結果から判るように、塩化メチレンとエタノールの混合溶媒の場合は、溶媒の組成比(塩化メチレン/エタノール)が10/1〜10/6で比較的良好なセル構造体が得られる。そして、溶媒組成比が10/5の場合に発泡倍率が10.0倍という高い値のセル構造体が得られ、発泡倍率とともにセル構造体が厚くなっている。これは懸濁液の外気と接触している表面からポリマーが溶剤の気散により直ちに沈殿、固化し、セル壁を形成して固定化したために厚みが維持されたものと考えられる。この事実は、ある発泡倍率のある厚みのセル構造体を要求するときには、溶媒の組成比とポリマー溶液の濃度を調節すればよいことを示唆している。
【0063】
溶剤の比率が高い場合は、溶剤の気散により体積が減少し、その分だけ厚みが低下したところで沈殿、固化してセル壁の固定化がなされるために、セル構造体の厚みと発泡倍率が低下したと考えられる。逆に、初期の非溶剤の比率が高い場合は、溶剤のわずかな気散によって直ちに非溶剤の沈殿剤としての効果が発現され、沈殿が一気に生成する。このとき、ポリマーを溶解して連続したセル壁を形成するだけの量の溶剤が残っていないので、孔が生成するときに大きく収縮したり、沈殿したポリマーの粒子が単に溶着して連結体を形成し、それが気孔を介在したような一種の焼結体のごときセル構造体を形成すると考えられる。実際に、溶媒組成比が10/7では沈殿、固化するときの収縮が厳しく、表面に多くの皺のある変形したセル構造体が得られ、溶媒組成比が10/9では脆くて粒子が容易に脱落するセル構造体が得られた。しかし、セル構造体を形成する比率の上限は10/10と考えられる。この事実は本発明のセル構造の生成機構を良く裏付けている。
【0064】
また、溶媒組成比が10/1、10/3、10/5となるに従って発泡倍率は大きくなり、それにともなって曲げ強度、引張り強度ともに小さくなっている。これは、発泡倍率が大きくなると、気孔の数あるいはその大きさが大きくなるために、セルの壁の厚さが薄くなって強度が低下したものと考えられる。
【0065】
次に、溶媒組成比が10/5の懸濁液から形成した前記のU−HA粉体含有セル構造体について、37℃のリン酸緩衝液中における加水分解実験と、擬似体液中におけるハイドロキシアパタイト形成実験を行った。
【0066】
その結果、加水分解実験については、図2に示すように、比較例1の非セル構造のシートよりも加水分解が速く、12〜16週間の浸漬により、PLLAの粘度平均分子量が初期の粘度平均分子量の約1/2〜1/3まで低下した。これは、上記のセル構造体が高発泡倍率で、表面の細孔からリン酸緩衝液が容易に浸透して接触面積が拡がるために、加水分解が速くなったと考えられる。
【0067】
また、ハイドロキシアパタイト形成実験については、4週間浸漬後、セル構造体のU−HA粉体含有量が多い下面側の表層部において、ハイドロキシアパタイトの結晶がかなり広い面積の縞状に形成され、含有量の少ない上面側の表層部でも、結晶が点在して少し形成されていることが確認できた。このことから、U−HA粉体は、生体骨と同質のハイドロキシアパタイトの形成を促進する働きが顕著であり、高発泡倍率のセル構造体にU−HA粉体が含有されて内部のセル壁に保持されていると、表面の細孔から浸透する擬似体液と充分接触して、内部までハイドロキシアパタイトを速やかに誘導形成できることが分かる。これに対し、比較例1の非セル構造のシートは、表面に露出するU−HA粉体が僅かに擬似体液と接触するだけであるから、既述したようにハイドロキシアパタイトの形成は僅かであり、ポリ乳酸の加水分解によるシートの崩壊に伴って多量のハイドロキシアパタイトが形成されるまでには長期間を要する。従って、U−HA粉体含有セル構造体を生体内に埋入すれば、非セル構造のU−HA粉体含有シートよりも遥かに速やかに骨組織を誘導形成して生体骨と強く結合し、比較的短期間のうちに全体が骨組織と置換すると推定できる。
【0068】
[実施例2]
溶媒の組成比(CH_2Cl_2/C_2H_5OH)を10/5とした懸濁液から形成した実施例1のU−HA粉体含有セル構造体を、常温、常圧下で5cmの距離から5分間コロナ放電処理し(京都電機器(株)製の処理機器を使用)、このコロナ放電処理したセル構造体について擬似体液中におけるハイドロキシアパタイト形成実験を行った。
【0069】
その結果、1〜2週間浸漬後には、セル構造体のU−HA粉体含有量が多い下面側の表層部のほぼ全体を覆うようにハイドロキシアパタイトの結晶が多量に形成され、含有量の少ない上面側の表層部でも結晶の形成量が増加していることが確認できた。このことから、コロナ放電処理はハイドロキシアパタイトの形成を顕著に助長し、骨組織の誘導形成を更に向上させる手段として有用であることが分かる。
【0070】
[実施例3]
溶媒の組成比(CH_2Cl_2/C_2H_5OH)を10/5に固定すると共に、バイオセラミックス粉体として最大粒径45μm、平均粒径10μmのバイオグラス(USバイオマテリアルズ社製、登録商標)の配合量を40重量%に固定し、実施例1のポリ−L−乳酸の濃度を1.0、2.0、3.0、4.0、5.0、7.0g/dlに変えて6種類の懸濁液を調製した。そして、各懸濁液を実施例1と同様にシャーレに充填してバイオグラス含有セル構造体を形成した。
【0071】
得られたセル構造体の性状と、曲げ強度、引張強度を下記の表4にまとめて示す。
【表4】
【0072】
この表4の結果から、発泡倍率が濃度に逆比例的に依存することが明らかである。また、ポリマー濃度が小さくなると、セル構造体の発泡倍率は大きくなるが、それに伴って曲げ強度、引張強度は小さくなった。これはポリマー濃度の減少に伴ってセル構造体の気孔の数と大きさが増加するため、セル壁の強度が脆くなったからと考えられる。
【0073】
[実施例4]
溶媒の組成比(CH_2Cl_2/C_2H_5OH)を10/5、ポリマー濃度を2g/dl、バイオセラミックス粉体として900℃で焼成したハイドロキシアパタイト(HA)(最大粒径150μm、平均粒径30μm)の配合量を1.35g/dlに固定し、粘度平均分子量が約40万、約30万、約18.5万のポリ−L−乳酸をそれぞれ用いて、実施例1と同様の方法でHA粉体含有セル構造体(HA粉体の平均含有率;40重量%)を形成した。
【0074】
得られた各セル構造体の性状と、曲げ強度、引張り強度を表5に示す。
【表5】
【0075】
その結果、ポリ−L−乳酸の粘度平均分子量が大きくなると、セル構造体の曲げ強度、引張り強度とも大きくなった。また、粘度平均分子量が約30万のものと約18.5万のものを比較すれば、18.5万のセル構造体の方が発泡倍率が小さいにもかかわらず、曲げ強度、引張り強度とも小さな値を示した。これは、分子量の違いがセル構造体の形成の難易とセル質の良否とに関係し、粘度平均分子量が約30万のセル構造体の方が、約18.5万のセル構造体よりも、セルの均質さ、気孔の大きさ、数、セル壁の硬さ等の点で良質のセル構造となったためと考えられる。
【0076】
[比較例2]
粘度平均分子量が約9万のポリ−L−乳酸を使用し、実施例4と同様にしてHA粉体含有セル構造体を形成した。このものは、実施例4のセル構造体とは異なり、多孔質粒子が集合してくっついたような脆いセル構造体であった。
【0077】
このセル構造体の曲げ強度と引張り強度を測定したが、実測できるような強度は得られなかった。つまり、実施例4のセル構造体の値と比較すると、極めて脆弱なものであった。このことから、実用に適した強度を有するHA粉体含有セル構造体を形成するには、粘度平均分子量が約10万以上のポリ−L−乳酸を使用することが必要であることが分かる。
【0078】
[実施例5]
溶媒の組成比(CH_2Cl_2/C_2H_5OH)を10/5、粘度平均分子量30万のポリ−L−乳酸の濃度を4g/dlに固定し、バイオセラミックス粉体としてA−W(アパタイト−ウォラステナイト)ガラスセラミックス粉体(最大粒径50μm、平均粒径10μm)の配合量を1.7、2.7、4.0g/dlに変えて懸濁液を調製し、実施例1と同様にして、A−Wガラスセラミックス粉体の平均含有率が30、40、50重量%のセル構造体を形成した。
【0079】
得られた各セル構造体の性状と、曲げ強度、引張強度を下記の表6にまとめて示す。
【表6】
【0080】
この表6から判るように、A−Wガラスセラミックス粉体の含有率が大きくなると、セル構造体の曲げ強度も引張強度も低下した。これは、該粉体の含有率が増加すると、セル壁が脆くなるためと考えられる。そこで、使用目的、使用部位に適した含有率のセル構造体を適宜選択することが望ましいと考えられる。
【0081】
また、得られた各セル構造体について、擬似体液中におけるハイドロキシアパタイト形成実験を行った。その結果、いずれのセル構造体も、A−Wガラスセラミックス粉体の含有量が多い下面側の表層部の方が、含有量の少ない上面側の表層部よりも、ハイドロキシアパタイトの結晶の形成量が遥かに多かった。そして、A−Wガラスセラミックス粉体の平均含有率が高いセル構造体ほど、下面側表層部も上面側表層部も、ハイドロキシアパタイトの結晶の形成量が増加していることが確認できた。
【0082】
[比較例3]
A−Wガラスセラミックス粉体の配合量を0.5、8.0g/dlに変えた以外は実施例5と同様にして、A−Wガラスセラミックス粉体の平均含有率が11重量%、67重量%のセル構造体を形成した。そして、各セル構造体について、擬似体液中におけるハイドロキシアパタイト形成実験を行った。
【0083】
その結果、A−Wガラスセラミックス粉体の平均含有率が11重量%のセル構造体は、1ケ月浸漬後、下面側にようやく僅かのハイドロキシアパタイトの結晶の形成を認められにすぎなかった。これに対し、A−Wガラスセラミックス粉体の平均含有率が67重量%のセル構造体は、浸漬して1週間後に、上下両面の表層部にハイドロキシアパタイトの結晶が多量に形成された。しかし、このセル構造体は、表面に粉体が露出して容易に脱落する上に、強度が小さく、非常に脆いため、実用には適さないものである。
【0084】
[実施例7]
グリコール酸(GA)とL−乳酸(LLA)の共重合体[GA/LLA:80/20(モル比)、重量平均分子量Mw:53.9万、メディソーブテクニーク社製]を、クロロホルムとイソプロピルアルコールの混合溶媒(10/3の体積比)に4g/dlの濃度で溶解し、バイオセラミックス粉体として未焼成ハイドロキシアパタイト(U−HA)粉末(平均粒径3.0μm)を使用し、その配合量を30重量%にして、実施例1と同様の方法でシャーレに充填してU−HA粉体含有セル構造体を得た。
【0085】
得られたセル構造体は、GA/LLAの共重合体であるため、実施例1のものと比較すると軟らかいセル構造体であった。このセル構造体は、早期に骨組織を誘導し、且つ、約3ケ月以内に生体内で分解吸収する生体材料として有用である。
【0086】
【発明の効果】
以上の説明から理解できるように、本発明のバイオセラミックス含有セル構造体は、生体組織に対する良好な生体活性と、生体内での数ケ月にわたる実用的強度及び保形性を併せ持ち、最終的に全てが骨組織と置換して消失するため、例えば生体骨損傷部位の再建用、補綴や足場のための生体材料として極めて適しており、特に、1mm以上の厚いセル構造体は、損傷部位の複雑な三次元空間に形状的にあてはめて、一時的な補綴材としての機能を発揮させながら立体的な損傷部位の再建を図ることができ、また、発泡倍率の高いセル構造体は、分解・吸収の過程で一時的に急激に多くの分解細片を生成することがないため、分解細片の異物反応による一過性の炎症を引き起こす心配も解消することができる。更に、コロナ放電処理などの表面の酸化処理を行ったものは、表面の濡れが良いので組織の親和性が増して誘導形成能が一層向上し、極めて生体活性である。しかも、本発明のバイオセラミックス含有セル構造体は、有害なベンゼン等の溶剤が全く含有、残存しないため安全性に優れており、また、インプラントと生体骨との間に介在させればインプラントの固定強度を向上させることも可能である。
【0087】
そして、本発明の製造方法は、特別な装置を使用することなく均質なセル構造体を簡単に製造することができ、発泡倍率の調整や厚みの調整も容易に行えるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のバイオセラミックス含有セル構造体の一使用例を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施例のバイオセラミックス含有セル構造体の加水分解期間と粘度平均分子量との関係を示すグラフである。
【図3】比較例のバイオセラミックス含有シートの加水分解期間と粘度平均分子量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 人工関節の一方の半球殻体
2 生体骨
3 本発明のバイオセラミックス含有セル構造体
Claims (1)
- 生体内分解吸収性ポリマーから形成された連続気孔を有するセル構造体であって、前記ポリマーがポリ乳酸、乳酸−グリコール酸共重合体、乳酸−カプロラクトン共重合体のいずれか一種のポリマー又は二種以上の混合ポリマーからなり、前記ポリマーの粘度平均分子量が、10万〜70万であり、セル構造体の内部に粒子の大きさが0.1〜100μmの生体内吸収性のバイオセラミックスが含有されており、前記バイオセラミックスが湿式ハイドロキシアパタイトの粉体で平均含有量が5〜60重量%であり、該粉体がセル壁の表面に保持され、セル構造体の発泡倍率が、2〜30倍であることを特徴とするバイオセラミックス含有セル構造体。
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