JP3713804B2 - 成形性に優れる薄物熱延鋼板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、プレス成形などの成形加工に好適な、熱間圧延のままで用いられる薄物熱延鋼板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
薄物の鋼板には熱延鋼板と冷延鋼板とがあるが、従来から、成形性、特に深絞り成形性が要求される用途には、専ら冷延鋼板が用いられてきた。このような用途に冷延鋼板が用いられる理由は、冷延鋼板においては、より高度な集合組織制御を行うことができるので、r値(ランクフォード値)1.4以上の優れた深絞り性を達成可能であるからである。しかし、この冷延鋼板は、より多くの工程を経て製造されるために、必然的に、コスト的には不利となる。
これに対し、熱延鋼板は、コスト的には有利であるが、一般に、成形性の点では劣っている。そのため、これまでにも、熱延鋼板の成形性向上のための努力が続けられきており、非金属介在物の低減のほかに、低r値を補うための伸びの改善、成形時の潤滑特性の改善(例えば、特公平6-78568 号公報)などの技術により適用範囲を拡大するための試みが行われてきた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した従来の熱延鋼板の製造技術によっても、いまだ十分な成形性あるいは適用範囲の拡大が得られていないのが実情であった。
このように、成形加工性あるいは適用範囲の拡大が阻害されている主な要因として、次のような項目が挙げられる。
1)鋼板の幅方向の端部の板厚が、中央部の板厚より極端に薄くなる、断面形状の不均一、いわゆるエッジドロップ。
2)鋼板の幅方向の端部の硬さが、中央部の硬さより高くなる、材質の不均一。
3)鋼板の幅方向における組織(結晶粒径を含む。)の不均一。
これらの項目は、板厚3〜4mm程度までは、さほど大きな問題を生じなかった。しかし、最近の板厚の薄肉化の趨勢に伴い、2mm以下、より具体的には、1.2mm以下といった薄物の熱延鋼板を製造しようとすると、上記の要因が顕在化してくる。このために、従来の技術で、薄物鋼板を製造する際には、製品化の前に、幅方向の端部を大きくトリミングしなければならず、素材、製品の歩留り低下あるいはコスト上昇を招くという問題があった。
【0004】
そこで、本発明の目的は、鋼板のエッジドロップを抑制し、鋼板幅方向の硬さと組織を均一化した、厳しい成形加工にも耐え、冷延鋼板に代替しうる薄物熱延鋼板とその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、熱間圧延工程における、鋼帯温度の均一化、圧延方式の最適化を図ることにより、幅方向の端部でも良好な成形性を有する薄物熱延鋼板の製造方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、上記の目的を実現するために、現状の鋼板の機械的性質についての冶金的な調査を行うとともに、鋼成分組成および熱延条件について詳細な検討を行った。
その結果、熱延鋼板のなかでも、特に板厚1.2mm以下といった薄物熱延鋼板においては、鋼板のクラウン量の絶対値を規制することに加えて、これと板厚との関係を一定の範囲に規制すること、板幅方向の組織差をなくし、板幅の中央部と端部との硬度差を一定範囲内に制御すること、などによって成形性が飛躍的に向上することを知見した。
本発明は上記知見に基づいて完成したものであり、その要旨構成は下記のとおりである。
【0006】
(1) C:0.02〜0.20wt%、Si:0.005 〜 1.00wt %、Mn:0.05〜1.50wt%、P:0.04wt%以下、S:0.015wt%以下、Al:0.005〜0.150wt%、N:0.020wt%以下を含有し、残部はFe及び不可避的不純物よりなり、板厚が1.2mm以下、クラウン量が30μm以下、クラウン量/板厚が0.030未満であり、全幅方向にわたって歪みのないフェライト組織または歪のないフェライトとパーライト組織からなり、かつ幅方向中央部の表面硬さが幅方向板端5mm位置の表面硬さを下回らない、ことを特徴とする成形性に優れる薄物熱延鋼板。
【0007】
(2) C:0.02〜0.20wt%、Si:0.005 〜 1.00wt %、Mn:0.05〜1.50wt%、P:0.04wt%以下、S:0.015wt%以下、Al:0.005〜0.150wt%、N:0.020wt%以下を含み、かつNb:0.0030〜0.0400wt%、Ti:0.0030〜0.1000wt%、B:0.0005〜0.0020wt%から選ばれる1種または2種以上を含有し、残部はFe及び不可避的不純物よりなり、板厚が1.2mm以下、クラウン量が30μm以下、クラウン量/板厚が0.030未満であり、全幅方向にわたって歪みのないフェライト組織または歪のないフェライトとパーライト組織からなり、かつ幅方向中央部の表面硬さが幅方向板端5mm位置の表面硬さを下回らない、ことを特徴とする成形性に優れる薄物熱延鋼板。
【0008】
(3) C:0.02〜0.20wt%、Si:0.005 〜 1.00wt %、Mn:0.05〜1.50wt%、P:0.04wt%以下、S:0.015wt%以下、Al:0.005〜0.150wt%、N:0.020wt%以下を含み、かつCu:0.25 〜 0.50wt %、Ni:0.25 〜 0.50wt %、Cr:0.05 〜 0.50wt %から選ばれる1種または2種以上を含有し、残部はFe及び不可避的不純物よりなり、板厚が1.2mm以下、クラウン量が30μm以下、クラウン量/板厚が0.030未満であり、全幅方向にわたって歪みのないフェライト組織または歪のないフェライトとパーライト組織からなり、かつ幅方向中央部の表面硬さが幅方向板端5mm位置の表面硬さを下回らない、ことを特徴とする成形性に優れる薄物熱延鋼板。
【0009】
(4) C:0.02〜0.20wt%、Si:0.005 〜 1.00wt %、Mn:0.05〜1.50wt%、P:0.04wt%以下、S:0.015wt%以下、Al:0.005〜0.150wt%、N:0.020wt%以下を含み、かつNb:0.0030〜0.0400wt%、Ti:0.0030〜0.1000wt%、B:0.0005〜0.0020wt%から選ばれる1種または2種以上を含有し、さらにCu:0.25 〜 0.50wt %、Ni:0.25 〜 0.50wt %、Cr:0.05 〜 0.50wt %から選ばれる1種または2種以上を含有し、残部はFe及び不可避的不純物よりなり、板厚が1.2mm以下、クラウン量が30μm以下、クラウン量/板厚が0.030未満であり、全幅方向にわたって歪みのないフェライト組織または歪のないフェライトとパーライト組織からなり、かつ幅方向中央部の表面硬さが幅方向板端5mm位置の表面硬さを下回らない、ことを特徴とする成形性に優れる薄物熱延鋼板。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。
(1) 鋼成分について;
C:0.02〜0.20wt%
Cは、その量が0.20wt%を超えると、焼き入れ性が増加する結果、ホットランテーブルでの冷却制御による材質安定化を困難にするとともに、靱性の劣化を招き、深絞り成形を困難にする。一方、0.02wt%に満たない場合には、詳細な機構は必ずしも明らかではないが、全加工熱処理プロセスを通じての固溶C量の制御が困難になる。従って、C量は0.02〜0.20wt%の範囲とする必要がある。なお、さらなる材質の安定化と加工性の向上のためには、0.03〜0.15wt%の範囲とすることが望ましい。
【0013】
Si:0.005 〜 1.00wt %
Siは、鋼中の酸化物量を低減するために有用な元素であるが、1.00wt%を超えて添加すると、強度が著しく増加し、延性が低下してプレス成形が困難となる。したがって、Siの含有量は1.00wt%以下、好ましくは0.50wt%以下とする。
【0014】
Mn:0.050 〜1.50wt%
Mnは、Sによる熱間脆性に起因する表面割れを抑制するほか、組織の均一・微細化作用をもたらす有用な元素である。これらの効果は、少なくとも0.05wt%の添加により得られるが、1.50wt%を超えて添加すると、必ずしもその機構は明らかではないが、材質の均一性が低下する傾向になる。したがって、Mnの添加量は、0.05〜1.50wt%とする。なお、加工性を特に重視する場合には、0.60wt%以下とするのが望ましい。
【0015】
P:0.04wt%以下
Pは、加工性および耐食性を低下させる元素である。Pの量が0.04wt%を超えると、その影響が顕著に現れるので、0.04wt%以下、好ましくは0.02wt%以下とする。ただし、P量の過度の低減は、製造コストの上昇につながるので望ましくはない。
【0016】
S:0.015 wt%以下
Sは、加工性に悪影響を及ぼす元素である。S量を0.015 wt%以下とすることにより、プレス加工性(特に伸びフランジ特性)を顕著に改善できる。なお、とくに高い局部延性が要求される場合には、0.007 wt%以下に低減することが望ましい。
【0017】
Al:0.005 〜0.150 wt%
Alは、脱酸剤として作用し、清浄度を向上させるために必須の元素であり、概ね0.005 wt%以上の添加が必要である。一方、0.150 wt%を超えて添加すると、清浄度改善効果が飽和するほか、製造コストの上昇、表面欠陥の発生傾向の増大などの問題を生ずる。したがって、Alの添加量は0.005 〜0.150 wt%、好ましくは0.020 〜0.080 wt%とする。
【0018】
N:0.020 wt%以下
Nは、内部材質の低下をもたらすので0.020 wt%以下に制限する必要がある。なお、耐時効性を重視する場合には、0.0050wt%以下、さらに良好なr値レベルと安定した焼き付け硬化性を必要とする場合には、0.0030wt%以下に低減することが望ましい。
【0019】
以上の基本成分の他に、Nb:0.0030〜0.0400wt%、Ti:0.0030〜0.1000wt%およびB:0.0005〜0.0020wt%の群、Cu:0.50wt%以下、Ni:0.50wt%以下およびCr:0.50wt%以下の群から選ばれるいずれか1種または2種以上を添加することができる。
【0020】
Nb:0.0030〜0.0400wt%
Nbは、鋼組織の微細化効果を有し、成形後における外観の美麗さが求められる場合に添加することが望ましい。このような効果は、0.0030wt%以上の添加により得られる。0.0400wt%を超えて添加すると、その機構は必ずしも明らかではないが、鋼板端部の硬度を増加させるので好ましくはない。このため、Nbを添加する場合には、0.0030〜0.0400wt%とする。なお、材質安定の観点からは、0.020 wt%以下の範囲とするのが好ましい。
【0021】
Ti:0.0030〜0.1000wt%
Tiは、Nbと同様に、鋼組織の微細化に有効な元素である。また、析出強化による鋼の高強度化にも、有用である。これらの効果は0.0030wt%以上の添加で発揮されるが、0.1000wt%を超えて添加しても、効果が飽和するのみでなく、表面欠陥が発生する危険性を増す。従って、Tiの添加量は0.0030〜0.1000wt%とする。
【0022】
B:0.0005〜0.0020wt%
Bは、組織の微細化に有効な元素であり、0.0005wt%以上の添加でその効果が得られる。しかし、0.0020wt%を超えて添加すると、鋼板端部の硬さを顕著に高めるので好ましくない。
【0023】
Cu:0.25 〜 0.50wt %
Cuは、鋼の材質の均一性を向上させるのに有用な元素であるが、0.50wt%を超えて添加しても効果は飽和し、コストアップになるので、0.50wt%以下の範囲で添加する。
【0024】
Ni:0.25 〜 0.50wt %
Niは、Cuと同様に、鋼の材質の均一性を向上させるのに有用な元素であるが、0.50wt%を超えて添加しても効果は飽和し、コストアップになるので、0.50wt%以下の範囲で添加する。
【0025】
Cr:0.05 〜 0.50wt %
Crは、Cuと同様に、鋼の材質の均一性を向上させるのに有用な元素であるが、0.50wt%を超えて添加しても効果は飽和し、コストアップになるので、0.50wt%以下の範囲で添加する。
【0026】
(2) 鋼板の板厚、クラウン、硬さ、組織について;
従来の熱延鋼板は、高度な成形用としては、概ね4.0 〜2.3 mm程度の板厚のものが用いられてきた。この板厚が変化した場合に、成形特性も変化するが、その変化は単調ではなく、特に板厚1.2 mm以下の薄物になった場合に、一層高水準の品質、具体的には板幅方向における厚み、硬さなどの均質性が必要なことが明らかとなった。
【0027】
すなわち、1.2 mmを超える比較的厚物の熱延鋼板においては、(板幅方向の中央部の板厚)−(板幅方向の板端部25mmの板厚)で定義するクラウン量が従来レベルの70〜80μm程度でも成形加工の支障にはならなかった。しかし、板厚が1.2 mm以下に減少すると、従来レベルのクラウン量では、特に幅方向の端部から採取した材料で、プレス成形時に、トラブルが頻発する。これは、幅端部の板厚が過薄であるために、プレス成形、特に深絞り成形時に、しわ抑え力をかけることができず、材料の流れ込みに不均一を生ずることなどが原因していると思われる。
このようなプレス成形におけるトラブルを防止し、深絞り成形を可能にするためには、上記定義よりもさらに厳しい、(板幅方向の中央部の板厚)−(板幅方向の板端部5mmの板厚)で定義するクラウン量を、30μm以下に制限し、(クラウン量)/(板厚)を0.030 以下に定める必要がある。
【0028】
また、組織は、プレス成形におけるトラブルを防止するために重要な要件である。すなわち、製品の全板幅方向にわたって、歪みのないフェライト組織または歪みのないフェライトとパーライト組織からなる必要がある。鋼板の幅方向に歪みが残留した組織が存在すると、幅方向の硬さが不均一になるからである。ここで述べる歪みの残留については、よく知られているようなX線回折ピークの幅広がりで判定可能である。本発明鋼では、(200)ピークの半価幅で0.20°以下がこれに相当した。上記組織とも関連するが、鋼板の幅方向の硬度差もプレス成形におけるトラブルを防止するために重要な要件である。すなわち、幅方向板端5mm位置の表面硬さが幅方向中央部の表面硬さよりも小さいこと、すなわち、幅方向板端5mm位置の表面硬さをHeとし、幅方向中央部の表面硬さをHcとした場合に、
Hc−He≧0
を満たす、すなわちHcがHeを下回らない必要がある。この条件が満たされないと、エッジ部を含んだ素材のプレス成形を行った場合に、例えばフランジ部の流れ込み不均一などを生じ、成形不良と判定される。おおむねHR30T硬さでHcがHeを1ポイント以上上回ることが品質の安定性の観点では有利であり望ましいが、10ポイント以上上回ることはプレス成形性の安定の面から好ましくはない。
【0029】
(3) 製造条件について;
圧延素材となるスラブは成分の偏りを最小限にするために連続鋳造法で製造されることが望ましい。
次いで粗圧延と仕上げ圧延とからなる熱間圧延を行う。熱間圧延にあたり、鋳造後のスラブは、通常のように、一旦冷却後に再加熱されても、また、温片のままで加熱炉へ挿入されても良い。このときのスラブの加熱温度は1200℃以下とする必要がある。1200℃以下の低温加熱により、板幅方向の材質変動を小さくすることができる。これは、おそらく、初期組織が均一微細化することによるものと思われる。
【0030】
高温のスラブは、熱間粗圧延により、概ね20〜70mm厚みのシートバーとする。なお、以下の工程では、シートバーキャスターなどで製造したシートバーも同様にして処理することができる。
これらのシートバーは、材質レベルの向上、材質の均一性の向上のために仕上げ圧延に入る前に一旦、コイルに巻き取り保熱する必要がある。この保熱処理と巻き取り時に付与される若干の曲げ歪みとによって、詳細な機構は必ずしも明らかではないが、材質の均質化が促進される。
このコイルを巻き戻して、先端と後端とを逆転させ、さらに逆転後のシートバーの先端を、先行するシートバーの後端と接合することは、シートバーの幅方向のみでなく長手方向における圧延温度の均一化に寄与する。
次いで、このシートバーの幅端部(板端から25〜100mm程度)を、仕上げ圧延機入側で、板幅中央部より50℃以上高い温度(とくに上限は定めないが、150℃以下とするのがよい。)に加熱する。通常の圧延法では、粗圧延工程までに鋼板の幅方向に顕著な温度分布の不均一を生じており、シートバー幅端部の温度は同幅方向中央部よりも50℃以上も低い温度となる。本発明では、この温度を補償すべく、エッジヒーターで加熱することにより、全幅方向にわたり材質の均一化が達成される。なお、加熱手段は特に定めないが、その方法として例えば、高周波誘導加熱やガス加熱などが挙げられる。
【0031】
なお、仕上げ圧延機の入り側にて、シートバーを接合し、連続的に仕上げ圧延を行うことは、仕上げ圧延温度の均一化のほか、先後端への張力付与により、鋼板長手方向における組織の均一化、材質の安定化、圧延形状の安定化に大きく寄与する。シートバーの接合方法は特に規定するものではなく、複数個のシートバーが連続して仕上げ圧延に供給されればよく、いかなる手段によってもよい。
【0032】
仕上げ圧延には、通常、6〜7段よりなるタンデム圧延機を用いる。6〜7段の全段に、ペアクロス圧延機構を適用することがもっとも望ましいが、このうちの少なくとも後段の1段にはペアクロス圧延機構を適用する必要がある。ペアクロス圧延機構の適用は、エッジドロップ、クラウンの低減に極めて有効であり、本発明で定めるクラウン量30μm以下を達成するために必要不可欠である。
【0033】
さらに、鋼板の断面形状の均一性、厚み方向の組織の均一性を改善する手段として、潤滑圧延を適用して仕上げ圧延することが有効である。この際、潤滑に用いる油の種類、塗油の方法などについて特に定めないが、圧延機の荷重データなどから推定される摩擦係数は、0.15程度以下の条件を実現すると顕著な効果が得られるので、この摩擦係数を満たす潤滑油を用いることが推奨される。
【0034】
仕上げ圧延終了温度は材質レベルに応じて定めればよいが、この温度が余りに高いと組織が不均一となり、一方過度に低くなると生成したフェライトに歪みが残留し、圧延荷重が増加し、また製品の延性低下を招くことになる。したがって好ましい圧延終了温度は、(Ar3 変態点−150 ℃) 〜(Ar3 変態点+150 ℃)の範囲である。
【0035】
仕上げ圧延を終了した後、少なくとも2sec 以上の空冷時間(水冷開始の遅れ時間)をもうけることが、熱延コイルの幅方向の材質均一性の改善のために必要である。改善の機構は、必ずしも明らかではないが、仕上げ圧延を終了した直後に水冷を開始すると、低温域の圧延で歪みを付与されたフェライトの歪みの開放が十分に行われないが、一定の経過時間をおけば、ある意味での自己焼鈍効果により、フェライト組織中の歪み開放され、材質均一化が図られるからであると思われる。そこで、熱延終了後水冷前の空冷時間を2sec 以上確保することが必要である。空冷の上限時間は特に定めないが、後述する巻き取り温度が確保できる熱延設備上の拘束により、自ずから決定されるものである。
【0036】
このように所定の時間空冷した鋼板をホットラン上で水冷するにあたり、鋼板の幅方向に均一な冷却を実現する必要がある。冷却水はノズルより噴出し、鋼板に衝突するが、直接水に当たった位置は最も大きな冷却効率を有することと、幅端部は中央部に比して冷却効率が高いという現象が確認された。
このような冷却の不均一を解決する手段として、鋼板の幅端部に、直接には、冷却水が当たらないような設備的な検討をおこなった。その結果、幅端部を50〜150mm 程度の範囲で冷却水のマスキングを行ったところ良好な結果が得られた。このマスキングは上部、下部の両方において行うことがもっとも望ましいが、少なくとも一方でも実施すれば効果が現れる。
【0037】
仕上げ圧延して冷却した後の鋼帯の巻き取り温度は、目標とする材質レベルに応じて変化させるが、材質の安定性と操業の安定性の面から600 〜750 ℃の範囲とするのが好ましい。
上述した方法により、製造した熱延コイルは、通常の方法によりスケールの除去を行い製品となる。
【0038】
【実施例】
実施例1
表1に示す種々の鋼を溶製して、連続鋳造スラブとし、このスラブを1100〜1150℃の温度範囲で加熱した。その後、粗圧延により、35mm厚のシートバーとし、いったん巻き取った後、巻き戻し、誘導加熱し、先行するシートバーの後端と接合した。接合したシートバーの幅端より120 mmの範囲を、エッジヒーターを用いて、板幅中央より50〜100 ℃高い温度に加熱し、これをフィードバック制御することで、圧延終了温度の最適化をはかった。用いた仕上げ圧延機は、7段のタンデムミルであり、全段にペアクロス機能を有するものであるが、そのうちの5〜7段にペアクロス機能を適用した。圧延終了温度はAr3変態点〜(Ar3変態点−50℃)であった。
仕上げ圧延終了後、2〜3秒の空冷の後、水冷却を開始した。このとき、板幅方向の端部100 mmの範囲については、ホットランの上部冷却ノズルからの冷却水が直接鋼板に衝突しないように、樋でマスキングを行った。そして、680 ℃で巻き取り、通常の酸洗を行い、板幅1520mm、板厚1.2 mmの熱延鋼板を製造した。
【0039】
得られた、熱延鋼板を供試材として、クラウン量、組織、ロックウエル硬さHR30T を測定するとともに、板幅方向端部の深絞り特性を調査するために、円筒深絞り試験を行った。
円筒深絞り試験は、ブランクの端部が鋼板の幅端から3mmの位置にくるようにブランキングし、ブランク径:180 mm,パンチ径:95mm,しわ抑え力:700 kgf 、潤滑油:牛脂、ダイス肩半径:5mmの条件で実施した。円筒に絞り抜いた後、円筒の高さを円周方向に測定し、最大高さと最小高さとの差を測定した。この差が大きいと、材料の流れ込みが均一でないことを表している。
以上の各測定、試験結果を表2にまとめて示す。なお、幅方向端部以外の位置から採取したものの深絞り特性は全て問題なく成形できた。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
得られた結果から明らかなように、本発明法によって製造した薄物熱延鋼板は、クラウン量、クラウン/板厚、幅端部と中央部との硬さの差、組織が発明の範囲を満たし、幅端部であっても良好な深絞り特性を有することがわかる。
【0043】
実施例2
表1の成分の鋼Aを用いて、表3に示す各条件で熱間圧延し、通常の酸洗を行い、板幅1250mmの、種々の板厚の薄物熱延鋼板を製造した。
これらの、薄物熱延鋼板について、実施例1と同様に特性を調査するとともに、円筒深絞り試験を行った。ただし、円筒深絞り試験における金型のクリアランスは、板厚×(1+0.2 )になるように、板厚ごとに調整した。
これらの試験結果を表4に併せて示す。
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
以上の結果から、本発明法によって製造した薄物熱延鋼板は、クラウン量、クラウン/板厚、幅端部と中央部との硬さの差、組織が発明の範囲を満たし、幅方向の材質、板厚が均一であって、幅端部であっても良好な深絞り特性を有することが明らかである。
【0047】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明にしたがって、低炭素鋼を素材として、熱間圧延工程および冷却工程を厳密に制御して製造すれば、鋼板のエッジドロップが解消され、鋼板幅方向の組織と硬さの均一化が実現できる。
したがって、本発明によれば、幅方向の端部であっても、中央部と同様なプレス成形が得られ、プレス成形工程におけるトラブルが回避され、また鋼板幅方向の均質化に伴うトリミング代の減少(歩留りの向上)をはかることが可能となる。また、本発明に従う熱延鋼板に、さらに冷間圧延を施して冷延鋼板とする場合に、幅方向に均質で、良好な冷延用素材をも提供できるので、冷延鋼板の形状の向上に寄与する。
Claims (4)
- C:0.02〜0.20wt%、Si:0.005 〜 1.00wt %、Mn:0.05〜1.50wt%、P:0.04wt%以下、S:0.015wt%以下、Al:0.005〜0.150wt%、N:0.020wt%以下を含有し、残部はFe及び不可避的不純物よりなり、板厚が1.2mm以下、クラウン量が30μm以下、クラウン量/板厚が0.030未満であり、全幅方向にわたって歪みのないフェライト組織または歪のないフェライトとパーライト組織からなり、かつ幅方向中央部の表面硬さが幅方向板端5mm位置の表面硬さを下回らない、ことを特徴とする成形性に優れる薄物熱延鋼板。
- C:0.02〜0.20wt%、Si:0.005 〜 1.00wt %、Mn:0.05〜1.50wt%、P:0.04wt%以下、S:0.015wt%以下、Al:0.005〜0.150wt%、N:0.020wt%以下を含み、かつNb:0.0030〜0.0400wt%、Ti:0.0030〜0.1000wt%、B:0.0005〜0.0020wt%から選ばれる1種または2種以上を含有し、残部はFe及び不可避的不純物よりなり、板厚が1.2mm以下、クラウン量が30μm以下、クラウン量/板厚が0.030未満であり、全幅方向にわたって歪みのないフェライト組織または歪のないフェライトとパーライト組織からなり、かつ幅方向中央部の表面硬さが幅方向板端5mm位置の表面硬さを下回らない、ことを特徴とする成形性に優れる薄物熱延鋼板。
- C:0.02〜0.20wt%、Si:0.005 〜 1.00wt %、Mn:0.05〜1.50wt%、P:0.04wt%以下、S:0.015wt%以下、Al:0.005〜0.150wt%、N:0.020wt%以下を含み、かつCu:0.25 〜 0.50wt %、Ni:0.25 〜 0.50wt %、Cr:0.05 〜 0.50wt %から選ばれる1種または2種以上を含有し、残部はFe及び不可避的不純物よりなり、板厚が1.2mm以下、クラウン量が30μm以下、クラウン量/板厚が0.030未満であり、全幅方向にわたって歪みのないフェライト組織または歪のないフェライトとパーライト組織からなり、かつ幅方向中央部の表面硬さが幅方向板端5mm位置の表面硬さを下回らない、ことを特徴とする成形性に優れる薄物熱延鋼板。
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