JP3711896B2 - 高強度ラインパイプ用鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐水素誘起割れ性(耐HIC性)に優れた、主にAPI規格X65グレード以上の強度を有する鋼板の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、ラインパイプは、厚板ミルや熱延ミルにより製造された鋼板が、UOE成形、プレスべンド成形、ロール成形等で鋼管に成形されて製造される。硫化水素を含む原油や天然ガスの輸送に用いられるラインパイプは、強度、靭性、溶接性の他に、耐水素誘起割れ性(耐HIC性)や耐応力腐食割れ性(耐SCC性)などのいわゆる耐サワー性が必要とされる。鋼材のHIC(水素誘起割れ)は、腐食反応による水素イオンが鋼材表面に吸着し、原子状の水素として鋼内部に侵入し、鋼中のMnSなどの非金属介在物や硬い第2相組織のまわりに拡散・集積して、その内圧により割れを生ずるものとされている。
【0003】
このような水素誘起割れを防ぐためにいくつかの方法が提案されている。例えば、特開昭54-110119号公報には、鋼中のS含有量を下げるとともに、CaやREMなどを適量添加することにより、長く伸展したMnSの生成を抑制し、微細に分散した球状のCaS介在物に形態を変える技術が提案されている。これにより、硫化物系介在物による応力集中を小さくし、割れの発生・伝播を抑制することによって、耐HIC性を改善するというものである。
【0004】
また、特開昭61-60866号公報、特開昭61-165207号公報においては、偏析傾向の高い元素(C,Mn,P等)の低減やスラブ加熱段階での均熱処理による偏析の低減、および圧延後の冷却時の変態途中での加速冷却を行う技術が提案されている。これにより、中心偏析部での割れの起点となる島状マルテンサイトの生成、および割れの伝播経路となるマルテンサイトなどの硬化組織の生成を抑制するというものである。
【0005】
特開昭52-111815号公報には、Cuを添加して、鋼材表面に鋼中への水素侵入を抑制する保護膜を形成した鋼板が提案されている。
【0006】
最近、X80グレードの高強度鋼板に対して、特開平5-9575号公報、特開平5-271766号公報、特開平7-173536号公報等では、低SでCa添加により硫化物系介在物の形態制御を行いつつ、低C-低Mn化により中央偏析を抑制し、それに伴う強度低下をCr,Mo,Ni等の添加と加速冷却により補う方法が提案されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記の従来技術には次のような問題点がある。
【0008】
特開昭54-110119号公報記載の技術のように、硫化物系介在物の形態制御のみでは、高強度化に伴い酸化物系介在物に起因する割れの発生が無視できなくなる。
【0009】
特開昭52-111815号公報記載の技術のように、鋼材表面への水素侵入を抑制する保護膜を形成しても、pHの低い環境ではその効果が期待できない。例えば、低pHであるNACE溶液では、被膜の効果が得られていない。
【0010】
特開昭61-60866号公報、特開昭61-165207号公報、特開平5-9575号公報、特開平5-271766号公報、特開平7-173536号公報等記載の技術は、いずれも中心偏析部が対象となっているが、中心偏析部以外の部分については考慮されていない。加速冷却又は直接焼入れによって製造されるAPI規格X65グレード以上の強度を有する高強度鋼板においては、冷却速度の高い鋼板表面部が内部に比べて硬化するため、表面近傍から水素誘起割れが発生するという問題がある。
【0011】
表面からの割れを防ぐためには、焼戻し(変態点以下に再加熱)によって表面硬度を低下させる必要があるが、従来技術では、ガス燃焼炉により燃焼ガス雰囲気中で鋼板全体を加熱していた。そのため、昇温速度が遅く目的の温度に到達するのに長時間を要しており、鋼板表層部だけでなく、硬化していない鋼板中央部まで強度が低下し、DWTT特性の劣化を招いていた。
【0012】
本発明は、上記の問題を解決し、加速冷却によるAPI規格X65以上の高強度鋼板において、中心偏析部のHIC(水素誘起割れ)とともに表面近傍から発生するHICを防止することが可能な、耐HIC性に優れたラインパイプ用高強度鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明の課題は以下の手段により達成できる。
1.化学成分としてmass%で、C:0.02〜0.08%,Si:0.01〜0.5%、Mn:1.0〜1.8%。P:0.01%以下、S:0.002%以下、Nb:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.02%、Al:0.01〜0.07%、およびCa:0.0005〜0.0025%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物であり、かつ下記の式(1)で表されるCeqが0.26%以上である鋼を、1000〜1200℃に加熱し、950℃以下のオーステナイト温度域で圧下率60%以上の圧延を行った後、冷却開始温度(Ar3−50℃)以上、平均冷却速度10℃/s以上、冷却停止温度650℃以下となる加速冷却を行い、その後、誘導加熱により、鋼板表面における昇温速度10℃/s以上、誘導加熱停止後の鋼板平均温度450℃未満の再加熱処理を行うことを特徴とする高強度ラインパイプ用鋼板の製造方法。
【0014】
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5 (1)
ここで、各元素記号はそれぞれの元素の含有量(mass%)を表す。
【0015】
2.化学成分として、1記載の化学成分に加えて更に、mass%でCu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下の内一種以上を含有していることを特徴とする請求項1記載の高強度ラインパイプ用鋼板の製造方法。
【0016】
3.再加熱処理の際、鋼板表面の最高温度を450〜650℃の範囲内とすることを特徴とする1又は請求項2記載の高強度ラインパイプ用鋼板の製造方法。
【0017】
この発明は、耐HIC特性の向上と高強度・高靭性の両立のために、鋼組成と加速冷却方法を検討し、とりわけ鋼板の表面硬度の低減を目指し、加速冷却後の熱処理(再加熱処理)について鋭意検討した結果なされた。その過程で、誘導加熱に着目し、加速冷却等により硬化した表層部のみを効果的に加熱し、かつ、鋼板中央部の温度上昇を抑制することに成功した。
【0018】
本発明はこれらの知見に基づきなされたものであり、以下、各構成要件について説明する。
【0019】
(1) 化学成分
C: 0.02〜0.08%
Cは、鋼板の強度を確保するために必要であるが、0.02%未満では十分な強度を確保できず、0.08%を超えると靭性および耐HIC性を劣化させる。従って、C量を0.02〜0.08%の範囲内とする。
【0020】
Si: 0.01〜0.5%
Siは脱酸のために添加するが、0.01%未満では脱酸効果が十分ではなく、0.5%を越えると靭性や溶接性を劣化させる。従ってSi量を0.01〜0.5%の範囲内とする。
【0021】
Mn: 1.0〜1.8%
Mnは鋼の強度および靭性の向上のため添加するが、1.0%未満ではその効果が十分ではなく、1.8%を越えると溶接性と耐HIC性が劣化する。従って、Mn量を1.0〜1.8%の範囲内とする。
【0022】
P: 0.01%以下
Pは不可避不純物元素であり、溶接性と耐HIC性とを劣化させる。この傾向は0.01%を超えると顕著となる。従って、P量を0.01%以下とする。
【0023】
S: 0.002%以下
Sは、鋼中においては一般にMnS系の介在物となるが、Ca添加によりMnS系からCaS系介在物に形態制御される。しかしSの含有量が多いとCaS系介在物の量も多くなり、高強度材では割れの起点となり得る。この傾向は、S量が0.002%を超えると顕著となる。従って、S量を0.002%以下とする。
【0024】
Nb: 0.005〜0.05%
Nbは、圧延時や焼入れ時の粒成長を抑制し、微細粒化により靭性を向上させる。しかし、Nb量が0.005%未満ではその効果がなく、0.05%を超えると溶接熱影響部の靭性が劣化する。従って、Nb量を0.005〜0.05%の範囲内とする。
【0025】
Ti: 0.005〜0.02%
Tiは、TiNを形成してスラブ加熱時と焼入れ時の粒成長を抑制し、微細粒化により靭性を向上させる。しかし、Ti量が0.005%未満ではその効果がなく、0.02%を越えると靭性を劣化させる。従って、Ti量を0.005〜0.02%の範囲内とする。
【0026】
Al: 0.01〜0.07%
Alは脱酸剤として添加されるが、0.01%未満ではその効果がなく、0.07%を超えると清浄度の低下により耐HIC性を劣化させる。従って、Al量を0.01〜0.07%の範囲内とする。
【0027】
Ca: 0.0005〜0.0025%
Caは硫化物系介在物の形態制御に不可欠な元素であるが、0.0005%未満ではその効果がなく、0.0025%を超えて添加しても効果が飽和し、むしろ清浄度の低下により耐HIC性を劣化させる。従って、Ca 量を0.0005〜0.0025%の範囲内とする。
【0028】
炭素当量:Ceq≧0.26%
炭素当量Ceq(前述の式(1))は、X65以上の強度を確保するために0.26%以上必要である。従って、Ceqを0.26%以上とする。
【0029】
その他、この発明では、強度と靭性の観点から次の元素を添加することができる。
【0030】
Cu: 添加する場合0.5%以下
Cuは、靭性の改善と強度の上昇に有効な元素であるが、0.5%を超えて添加すると溶接性が劣化する。従って、Cuを添加する場合は0.5%以下とする。
【0031】
Ni: 添加する場合0.5%以下
Niは、靭性の改善と強度の上昇に有効な元素であるが、0.5%を超えて添加すると応力腐食割れが発生しやすくなる。従って、Niを添加する場合は0.5%以下とする。
【0032】
Cr: 添加する場合0.5%以下
Crは、Mnと同様に低Cでも十分な強度を得るために有効な元素であるが、0.5%を超えて添加すると溶接性を劣化させる。従って、Crを添加する場合は0.5%以下とする。
【0033】
Mo: 添加する場合0.5%以下
Moは、靭性の改善と強度の上昇に有効な元素であるが、0.5%を超えて添加すると溶接性や耐HIC性が劣化する。従って、Moを添加する場合は0.5%以下とする。
【0034】
V: 添加する場合0.1%以下
Vは、靭性、溶接性、および耐サワー性を劣化させずに強度を上昇させる元素であるが、0.1%を超えて添加すると溶接性を著しく損なう。従って、Vを添加する場合は、0.1%以下とする。
【0035】
なお、本発明の鋼の残部は実質的に鉄であり、上記以外の元素及び不可避不純物については、本発明の効果を損なわない限り含有することができる。
【0036】
(2) 圧延・冷却条件
スラブ加熱温度:1000〜1200℃
スラブ加熱温度は、1000℃未満では十分な強度が得られず、1200℃を超えると靭性やDWTT特性が劣化する。従って、スラブ加熱温度は1000〜1200℃の範囲内とする。
【0037】
圧延条件:950℃以下のオーステナイト温度域で圧下率60%以上
圧延においては、圧延条件を適切に設定し、結晶粒の微細化を図る。加速冷却前の鋼板の結晶粒が粗大であると、冷却後の鋼板の強度が上昇し、靭性が劣化するとともに耐HIC性も大きく劣化する。これを防止するため、オーステナイト未再結晶温度域に相当する950℃以下の温度域で、合計圧下率60%以上の圧延を行う必要がある。従って、圧延条件を950℃以下のオーステナイト温度域で圧下率60%以上とする。
【0038】
冷却開始温度:(Ar3-50℃)以上
加速冷却の冷却開始温度が低いと、加速冷却前のフェライト生成量が多くなり、Ar3変態点からの温度低下が50℃を超えると耐HIC性が劣化する。従って、冷却開始温度を(Ar3-50℃)以上の温度とする。なお、フェライト変態が開始するAr3変態点は、例えば次の式で求めることができる。
【0039】
Ar3(℃)=910-310C-80Mn-20Cu-15Cr-55Ni-80Mo (2)
ここで、各元素記号はそれぞれの元素の含有量(mass%)を表す。
【0040】
平均冷却速度:10℃/s以上
加速冷却中の鋼板の冷却速度は、速いほど微細で均質な組織が得られるため、耐HIC性が向上する。平均冷却速度が10℃/s未満では、十分な効果が得られず、また冷却過程でパーライトが生成する場合があり、耐HIC性が劣化する。従って、加速冷却中の平均冷却速度を10℃/s以上とする。ここで、平均冷却速度は加速冷却の開始から500℃までの冷却速度の平均値とするが、冷却停止温度が500℃より高い場合は加速冷却の開始から冷却停止までの平均値とする。
【0041】
冷却停止温度:650℃以下
加速冷却における冷却停止温度が高いと、変態が不完全となり十分な強度が得られない。特に、冷却停止温度が650℃より高温では、加速冷却停止後にフェライトやパーライトが生成し強度が低下する。従って、加速冷却の冷却停止温度を650℃以下とする。
【0042】
(3) 加速冷却後の再加熱処理条件
再加熱処理方法:誘導加熱
加速冷却後の鋼板は表層部が硬化し、表面近傍でのHICの原因となる。そこで、再加熱処理においては、誘導加熱により表層部を加熱すると、鋼板中心部に比べて表層部の温度が高くなるような温度分布を与えることができる。さらに、誘導加熱により短時間で加熱することが可能であるため、鋼板中心部の材質を劣化させることなく、表層部の硬度を効果的に低下させることができる。従って、再加熱処理方法としては、従来のようなガス燃焼炉による加熱ではなく誘導加熱を用いる。
【0043】
鋼板表面における昇温速度:10℃/s以上
誘導加熱により、鋼板中心部の温度上昇を所定範囲に制限しつつ表層部のみを加熱することができるが、加熱速度が遅いと鋼板中心部も熱伝導により温度上昇する。鋼板表面における昇温速度が10℃/s未満となる熱処理では、鋼板中心部の温度も上昇するためDWTT特性が劣化する。従って、再加熱時の鋼板表面における昇温速度を10℃/s以上とする。
【0044】
再加熱時の鋼板平均温度:450℃未満
再加熱時の鋼板内部の温度が高くなりすぎると、炭化物等の析出が生じるため、DWTT特性が大きく劣化し、この傾向は鋼板平均温度が450℃以上で顕著となる。従って、再加熱時の鋼板平均温度を450℃未満とする。なおここで、再加熱時の鋼板平均温度とは、誘導加熱後、鋼板内部の温度分布がほぼ均一となった時の温度とする。
【0045】
鋼板表面の最高温度:必要に応じ450〜650℃の範囲内
加速冷却後は鋼板表面が硬化しているが、再加熱により鋼板表面の最高温度を450℃以上とすることにより、この表層部の硬度を十分に低下させることができる。一方、鋼板表面の最高温度が650℃を超えると、炭化物の析出により却って硬度低下が不十分となる場合がある。従って、材質の均一化等、必要に応じて、鋼板表面の最高温度を450〜650℃の範囲内とすることができる。
【0046】
このように、本発明の化学成分の鋼を、圧延、加速冷却、及び誘導加熱により再加熱することにより、優れた耐HIC性およびDWTT特性を有するX65グレード以上の高強度ラインパイプ用鋼板を製造することが可能となる。
【0047】
【発明の実施の形態】
発明の実施に当たっては、前述の成分組成範囲に調整した鋼を溶製し、連続鋳造後、得られた鋼スラブを加熱炉等に装入して加熱して熱間圧延を行う。その他の圧延条件は、本発明の圧延条件を満たす限り任意に選択してよい。なお、熱間圧延終了温度は、加速冷却の冷却開始温度の下限 (Ar3-50℃)以上であればよい。
【0048】
熱間圧延終了後は、本発明の冷却条件により、所定の冷却開始温度以上の温度から、所定の平均冷却速度以上で、所定の冷却停止温度以下の温度まで加速冷却を行う。加速冷却後は、引続き再加熱、あるいは冷却停止温度からさらに冷却床等で冷却した後、再加熱を行う。
【0049】
加速冷却後の再加熱は、誘導加熱装置を用いて実施する。特に、加熱が鋼板表層部に集中するよう、高周波誘導型の加熱装置を用いることが望ましい。このように、誘導加熱により表層部を加熱すると、鋼板中央部に比べて表層部の温度が高くなるような温度分布を与えることができる。高周波で誘導加熱することにより、鋼板の表層部に誘導電流を集中させ、電流密度を内部に比べて高くすることができる。
【0050】
図1は、誘導加熱装置により厚鋼板を加熱したときの鋼板表面と中心部の温度変化を模式的に示す図である。誘導加熱装置を用いれば、鋼板表層部の電流密度が内部より高くなるため、鋼板表面温度が最も高くなり、中心部の温度が最も低くなる。誘導加熱を開始すると、表面温度は急速に上昇するが、誘導加熱を停止すると表面温度は速やかに低下する。それとともに、鋼板の内部は表層部からの伝熱により若干の昇温を生じ、鋼板の表面と内部の温度はほぼ等しい温度となる。
【0051】
なお、板厚方向の温度分布については、従来技術のガス燃焼炉を用いる方法では鋼板の板厚中心部まで均一となり、本発明のように鋼板中央部の材質を劣化させることなく表層部の硬度を低下させることはできなかった。
【0052】
再加熱処理後の冷却については、空冷でもDWTT特性の劣化は見られず、冷却速度を特に規定する必要はない。但し、板厚35mm程度を超えるような厚鋼板において、冷却速度が遅くなり、炭化物の凝集粗大化による靭性劣化が懸念される場合は、再加熱処理後に水冷やミスト冷却を行ってもよい。
【0053】
【実施例】
表1に化学成分を示した供試鋼について、熱間圧延を行い、加速冷却後、再加熱処理を施した。ここで、鋼種A〜Fは本発明鋼、鋼種G〜Mは比較鋼である。
【0054】
【表1】
【0055】
表2に、熱間圧延の圧延条件、加速冷却の冷却条件、再加熱処理の鋼板温度を示す。ここで、No.1〜13は本発明鋼板、No.14〜30は比較鋼板である。比較鋼板の内、No.14〜23は鋼種は本発明鋼であるが製造条件が発明範囲を外れており、No.24〜30は製造条件は本発明範囲内であるが鋼種が発明範囲を外れている(比較鋼)。また、表2の圧下率は950℃以下における合計圧下率を示した。
【0056】
【表2】
【0057】
これらの鋼板について、機械的性質、耐HIC性、及びDWTT特性を調べた。耐HIC性は、pHが約3の硫化水素を飽和させた5%NaCl+0.5%CH3COOH水溶液(通常のNACE溶液)中で行ったHIC試験により調べた。DWTT特性は、API規格のプレスノッチ試験片によるDWTT試験(Drop Weight Tear Test)による延性破面率が85%となる温度(85%SATT)で評価した。
【0058】
鋼板の機械的性質、耐HIC性、及びDWTT特性を表2に併せて示す。強度はAPI X65グレードとして要求される降伏強度448MPa以上を目標とし、耐HIC性はHIC試験で割れ長さ率(CLR)が15%以下となった物を良好(○印)とし、DWTTは-10℃未満を目標とする。
【0059】
表2より明らかなように、本発明鋼板No.1〜13においては、良好な機械的特性、耐HIC性、及びDWTT特性が得られている。これに対して、比較鋼板No.14〜30においては、機械的特性、耐HIC性、又はDWTT特性のいずれかが劣っている。
【0060】
鋼板No.14はスラブ加熱温度が本発明範囲より高いためDWTT特性が劣っており、No.15は逆にスラブ加熱温度が本発明範囲より低いため十分な強度が得られない。鋼板No.16は950℃以下の圧下率が低いためDWTT特性が劣っている。鋼板No.17は加速冷却の冷却開始温度が本発明範囲より低いため耐HIC特性が劣っている。鋼板No.18,19はそれぞれ冷却速度、冷却停止温度が本発明範囲外であるためいずれも十分な強度が得られず、No.18は耐HIC特性も劣っている。
【0061】
鋼板No.20は、再加熱時の鋼板表面の昇温速度が本発明範囲より低いため、鋼板平均温度は本発明範囲内(450℃未満)であっても耐HIC特性が劣っている。鋼板No.20〜23は再加熱時の鋼板平均温度が本発明範囲より高いためDWTT特性が劣っている。鋼板No.24〜30は鋼種が発明範囲外であるため、製造条件が本発明範囲内であっても耐HIC特性又はDWTT特性が劣っている。
【0062】
【発明の効果】
本発明は、加速冷却後の鋼板を誘導加熱により急速加熱するすることにより、加速冷却により硬化した表層部のみを効果的に加熱し、かつ、鋼板中央部の温度上昇を抑制することができる。その結果、耐HIC性およびDWTT特性に優れた高強度ラインパイプ用鋼板を安価に大量生産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】誘導加熱における鋼板表面と中心部の温度変化を模式的に示す図。
Claims (3)
- 化学成分としてmass%で、C:0.02〜0.08%、Si:0.01〜0.5%、Mn:1.0〜1.8%、P:0.01%以下、S:0.002%以下、Nb:0.005〜0.05%、Ti:0.005〜0.02%、Al:0.01〜0.07%、およびCa:0.0005〜0.0025%を含有し、残部Fe及び不可避的不純物であり、かつ下記の式で表されるCeqが0.26%以上である鋼を、1000〜1200℃に加熱し、950℃以下のオーステナイト温度域で圧下率60%以上の圧延を行った後、冷却開始温度(Ar3−50℃)以上、平均冷却速度10℃/s以上、冷却停止温度650℃以下となる加速冷却を行い、その後、誘導加熱により、鋼板表面における昇温速度10℃/s以上、誘導加熱停止後の鋼板平均温度450℃未満の再加熱処理を行うことを特徴とする高強度ラインパイプ用鋼板の製造方法。
Ceq=C+Mn/6+(Cu+Ni)/15+(Cr+Mo+V)/5
ここで、各元素記号はそれぞれの元素の含有量(mass%)を表す。 - 化学成分として、請求項1記載の化学成分に加えて更に、mass%でCu:0.5%以下、Ni:0.5%以下、Cr:0.5%以下、Mo:0.5%以下、V:0.1%以下の内一種以上を含有していることを特徴とする請求項1記載の高強度ラインパイプ用鋼板の製造方法。
- 再加熱処理の際、鋼板表面の最高温度を450〜650℃の範囲内とすることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の高強度ラインパイプ用鋼板の製造方法。
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