JP3691254B2 - サイドメンバー用Al−Mg−Si系合金押出形材及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車の構造用のアルミニウム合金押出形材に関するもので、特に圧潰特性に優れたサイドメンバ−用アルミニウム合金押出形材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車のサイドメンバ−は、自動車の前方のエンジン部分と、後方のトランク部において、衝突時にアコ−ディオン状に座屈変形し、これにより衝突時の衝撃エネルギ−を吸収することにより、乗員の安全性を確保する機能を持つ部材である。この部材としては、従来、冷延鋼板をプレス成形し、スポット溶接により組み立てたものが用いられている。
【0003】
しかし、近年、地球の温暖化などの環境問題から、排ガス低減や燃費向上などを目的として自動車の軽量化が強く要請されており、この軽量化の一環として、鋼板の代わりに、軽量で、かつ複雑形状の構造物を一体で製造できるアルミニウム合金押出形材の使用が検討されている。
このような用途に対しては、現在は主として押出性、機械的性質、および耐食性などのバランスの良いJIS6063合金などのAl−Mg−Si系合金の押出材が使用されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のAl−Mg−Si系合金、例えば代表的な6063合金は耐力が215MPa程度と低いため、軸方向に圧縮荷重を受けた際に変形が進む平均荷重が低く、したがってエネルギ−吸収効率が低いので板厚を厚くする必要があるという問題がある。
また、JIS6061合金などの強度の高いAl−Mg−Si系合金の押出形材は衝突時の変形で割れが発生しやすく、一旦割れが発生するとそれ以降の衝撃は吸収されないので、エネルギ−吸収効率はきわめて低いものとなるという問題がある。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みなされたもので、衝突時の圧縮変形を受けた際に割れが発生することがなく、エネルギ−吸収効率が高い自動車サイドメンバ−材として好適なAl−Mg−Si系合金押出形材を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討の結果、従来のアルミニウム合金押出形材は一般に結晶粒の大きい再結晶組織を有し、このため衝突時の変形で結晶粒界に沿って割れが発生するようになるが、本発明にかかる組成を有するAl−Mg−Si系合金で構成し、特にMnとCrおよび/またはZrの量を適切な範囲に制御し、さらに押出加工直後に押出形材表面を急速に冷却することにより、押出形材の内部に繊維状組織を強く発達させて押出加工による形材表面への再結晶組織の生成を抑制し、衝突時の圧縮変形による割れが極めて発生しにくく、エネルギ−吸収効率の高い、すなわち優れた圧潰特性を有するAl−Mg−Si系合金押出形材が得られることを見い出した。
【0007】
したがって、本発明は、重量%で、Si0.8〜1.2%、Mg0.6〜0.9%、だたし、Si/Mg>1.2、Fe0.1〜0.4%、Mn0.2〜0.5%、Cr0.05〜0.25%および/またはZr0.05〜0.25%、ただし、Mn+Cr+Zr=0.35〜0.7%、Ti0.001〜0.1%、B0.0001〜0.004%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有する押出形材であって、該押出形材の内部組織が主として繊維状組織であるサイドメンバ−用Al−Mg−Si系合金押出形材である。また、本発明において、サイドメンバ−用Al−Mg−Si系合金押出形材の耐力を250〜290MPa、耐力と引張強さの比を0.85以上とすることが望ましい。
【0008】
本発明において、押出形材の組織は、内部組織が主として繊維状組織であることを特徴とし、押出形材の全体に亘って繊維状組織が形成されることが最も望ましいが、押出形材の表層部に再結晶組織層を有している場合であっても、その厚さが100μm以下であれば、割れが極めて発生しにくくなり、優れた圧潰特性が得られる。
本発明において、繊維状組織を強く発達させ、押出形材表面に不可避的に生成される再結晶組織層の厚さを抑制するためには、押出加工直後に押出材の表面に低温液体、例えば液体窒素を吹き付けて急速冷却すればよい。
【0009】
次に、本発明にかかるAl−Mg−Si系合金の組成限定理由について説明する。
本発明にかかるAl−Mg−Si系合金押出形材は、重量%で、Si0.8〜1.2%、Mg0.6〜0.9%、だたし、Si/Mg>1.2、Fe0.1〜0.4%、Mn0.2〜0.5%、Cr0.05〜0.25%および/またはZr0.05〜0.25%、ただし、Mn+Cr+Zr=0.35〜0.7%、Ti0.001〜0.1%、B0.0001〜0.004%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有する。
【0010】
SiおよびMgには、微細なMg2Si化合物として析出して強度を向上させる作用があり、SiおよびMgのいずれかの含有量がSi:0.8%未満およびMg:0.6%未満になると、Mg2Si化合物の析出量が少なくなって所望の強度を確保することができなくなる。一方、その含有量が、Si:1.2%およびMg:0.9%を超えると押出加工性および曲げ加工性が低下するとともに、衝突時の変形による割れが発生しやすくなる。したがって、Si:0.8〜1.2%、Mg:0.5〜0.9%とした。SiおよびMgの望ましい範囲は、Si:0.9 〜1.1 %、Mg:0.6 〜0.8 %である。
また、Si/Mgが1.2以下となると、曲げ加工性が低下するとともに、衝突時の変形による割れが発生しやすくなるので、Si/Mg<1.2とした。
【0011】
Fe、Mn、Cr、Zrには、Feと、Mnと、Crおよび/またはZrとが共存した状態で、均質化処理後に微細な金属間化合物が素地中に分散して押出加工時の再結晶を著しく抑制することにより繊維状組織の発達を促進し、この結果衝突時の変形による割れを発生しにくくする作用がある。しかし、その含有量がFe:0.1%未満、Mn:0.2%未満、Cr:0.05%未満、Zr:0.05%未満、およびMn+Cr+Zrが0.35%未満ではその効果が不十分であり、一方その含有量が、それぞれFe:0.4%、Mn:0.6%、Cr:0.3%、Zr:0.25%、およびMn+Cr+Zrが0.7%を超えると、粗大な金属間化合物が生成するようになり衝突時の変形による割れが発生しやすくなる。したがって、Mn:0.2〜0.6%、Cr:0.05〜0.3%および/またはZr:0.05〜0.25%、Mn+Cr+Zr=0.35〜0.7%とした。Mn、Cr、Zrの望ましい範囲は、Mn:0.25〜0.45%、Cr:0.07〜0.2 %、Zr:0.07〜0.15%、Mn+Cr+Zr=0.4〜0.6%である。なお、CrとZrは、複合添加することが望ましい。
【0012】
TiおよびBは鋳造組織を微細化し、鋳造割れを防止する作用があるが、TiおよびBのいずれかの含有量でもTi:0.001%未満およびB:0.0001%未満になると、所望の効果が得られず、一方TiおよびBのいずれかの含有量でも、Ti:0.1%およびB:0.004%を超えると、粗大な金属間化合物を生成するようになり衝突時の変形による割れが発生しやすくなる。したがって、Ti0.001〜0.1%、B0.0001〜0.004%とした。TiおよびBの望ましい範囲は、Ti:0.005〜0.05%、B:0.0005〜0.001%である。
【0013】
また本発明においては、合金成分および熱処理を制御することにより耐力を250〜290MPa、耐力と引張強さの比を0.85以上とすることが望ましい。耐力が250MPa以上で十分なエネルギ−吸収効率が得られるが、290MPaを超えると衝突時の変形による割れが発生しやすくなる傾向にあるからである。また、耐力と引張強さの比が0.85未満であると、割れが発生しやすいからである。なお、Mg,Si,Cu量の少ない合金組成の場合には、高温で、長時間の時効処理条件とし、一方、Mg,Si,Cu量の多い合金組成の場合には、低温で、短時間の時効処理条件とすることで規定の耐力を得ることが出来る。また、ピーク時効の手前の亜時効ないしはピーク時効を過ぎた過時効の処理を施すことにより、耐力と引張強さの比を規定の範囲とすることが出来る。
更に本発明のサイドメンバ−用Al−Mg−Si系合金押出形材においては、圧縮変形時の吸収エネルギーが4000J以上であることが好ましい。
【0014】
本発明にかかるAl−Mg−Si系合金押出形材は、前記の化学組成を有するアルミニウム合金ビレットを510 〜580℃で、1〜24時間均質化処理し、次いで450〜520℃に加熱した後に押出加工するが、押出しダイス通過直後に形材表面に液体窒素等の低温液体を吹き付けて急速冷却する。この急速冷却により、型材表面の再結晶を抑制する。
こうして得られた押出形材は曲げ加工後時効処理を行うか、時効処理後曲げ加工を行うか、いずれの方法を取っても良い。時効処理は150〜210℃の温度範囲で1〜24時間行えばよい。
【0015】
【発明の実施の形態】
次に、本発明を実施の形態に基づき説明する。
表1に示す試料1〜7の組成を有する204mm径の合金ビレットを常法により溶製し、これらのビレットに545℃で4時間保持する均質化処理を施した後、1650tonの押出し機を用い、押出加工を行った。押出加工は、押出温度:500℃、押出速度:5m/minで実施し、ダイス通過直後に、液体窒素吹き付け後水冷の条件で急速冷却した。引き続いてこれに温度:175℃または205℃に8時間保持の条件で時効処理を施すことにより肉厚2mm、断面54mm×70mmの寸法を持った角パイプ形状の押出形材をそれぞれ製造した。なお、表1において、試料1〜2は本発明例であり、試料3〜7は比較例である。
【0016】
得られた本発明例の押出形材および比較例の押出形材について、ミクロ組織観察、引張試験による耐力測定、および静的圧縮試験による圧潰特性評価を行った。これらの結果を表2に示す。
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】
表2に示した本発明例の押出形材である試料1〜3は、割れが発生することなくアコ−デオン状に圧縮変形し、吸収エネルギ−も4000J以上と圧潰特性に優れていた。
これに対し、比較例の押出形材である試料4〜9は十分な圧潰特性を得ることができなかった。具体的には、合金組成および耐力値が本発明の範囲外の試料3および4、ならびに175℃×8hの時効処理を施した耐力と引張強さの比が本発明範囲外の試料5は、圧縮試験で割れが発生した。試料6、7は、本用途に従来から用いられている6063合金、6061合金であるが、試料6(6063合金)は圧縮試験で割れは発生しないものの吸収エネルギ−が約3500Jと低く、圧潰特性が劣り、試料7(6061合金)には割れが発生した。
【0020】
【発明の効果】
本発明によれば、重量%で、Si0.8〜1.2%、Mg0.6〜0.9%、だたし、Si/Mg>1.2、Fe0.1〜0.4%、Mn0.2〜0.5%、Cr0.05〜0.25%および/またはZr0.05〜0.25%、ただし、Mn+Cr+Zr=0.35〜0.7%、Ti0.001〜0.1%、B0.0001〜0.004%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有し、その内部組織を主として繊維状組織としたので、衝突時の圧縮変形を受けた際に割れが発生することがなく、エネルギ−吸収効率が高い圧潰特性に優れたサイドメンバ−用Al−Mg−Si系合金押出形材が得られた。
Claims (6)
- 重量%で、Si0.8〜1.2%、Mg0.6〜0.9%、だたし、Si/Mg>1.2、Fe0.1〜0.4%、Mn0.2〜0.5%、Cr0.05〜0.25%および/またはZr0.05〜0.25%、ただし、Mn+Cr+Zr=0.35〜0.7%、Ti0.001〜0.1%、B0.0001〜0.004%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有する押出形材であって、該押出形材の内部組織が主として繊維状組織であることを特徴とするサイドメンバ−用Al−Mg−Si系合金押出形材。
- 前記押出形材の表層部の再結晶組織層の厚さが100μm以下である請求項1に記載のサイドメンバ−用Al−Mg−Si系合金押出形材。
- 前記押出形材の耐力が250〜290MPa、耐力と引張強さの比が0.85以上である請求項1または2に記載のサイドメンバ−用Al−Mg−Si系合金押出形材。
- 圧縮変形時の吸収エネルギーが4000J以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のサイドメンバ−用Al−Mg−Si系合金押出形材。
- 重量%で、Si0.8〜1.2%、Mg0.6〜0.9%、だたし、Si/Mg>1.2、Fe0.1〜0.4%、Mn0.2〜0.5%、Cr0.05〜0.25%および/またはZr0.05〜0.25%、ただし、Mn+Cr+Zr=0.35〜0.7%、Ti0.001〜0.1%、B0.0001〜0.004%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有する合金を押出加工するに際し、押出ダイス通過直後に被押出形材表面を急速冷却することを特徴とするサイドメンバ−用Al−Mg−Si系合金押出形材の製造方法。
- 急速冷却を液体窒素を吹き付けることにより行う請求項5に記載のサイドメンバ−用Al−Mg−Si系合金押出形材の製造方法。
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