JP3673689B2 - 歯車動的性能の評価システム及び評価方法 - Google Patents

歯車動的性能の評価システム及び評価方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、歯車動的性能の評価システム及び評価方法に係り、特に、離散ウェーブレット変換を用いた歯車動的性能の評価システム及び評価方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
道路を行き交う多くの自動車や自動二輪車、オフィス革命をもたらしたOA機器、産業用ロボットなど、あらゆる分野に歯車が利用されているが、歯車は装置の中に組み込まれており、その姿を直接見ることはほとんどない。歯車は、2軸の間に動力を伝えたいとき、また速度を変えたいとき、大きなトルクを得たいときなどに用いられている重要な機械要素の一つである。歯車工学には、歯形形状および歯形の機構学的問題に関する分野、動力伝達用として必要な強さを有するように設計する設計分野、さらに運転や振動・騒音などに関する分野などがある。歯車における最近の課題は、歯車装置の大きさに対して従来よりも小型で負荷能力の大きいものを安価に作ることと、振動・騒音を低減することである。
【0003】
ここで歯車の動的性能の評価が重要となる。一般に、歯車の動的性能とは、歯車装置の振動、騒音、歯元ひずみ等に関するものである。近年、歯車が高速・高負荷条件下で運転されるようになり、それに伴って歯車装置の振動・騒音への関心が高まっている。従来から歯車の材料としては鋼材が広く用いられているが、近年ではコスト的な面から焼結材の利用も広まっている。焼結歯車はその製造工程上、内部に気孔を有するため強度的には鋼製歯車に劣るが、制振性については優れているといわれている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
歯車の損傷は歯の折損だけではなく、歯面の接触の繰り返しによる疲労が原因で歯面がはく離するピッチングやスポーリング損傷がある。また、歯車材料自体の疲労ではないが長期の運転により潤滑油が劣化することが原因で十分な油膜が歯面間に形成されず、歯面間が金属接触することで焼付き(Scuffing、Scoring)が発生する場合がある。歯車の疲労に伴う故障診断を行う際に、歯の折損を対象とする場合には歯元曲げき裂が生じると歯の剛性の値が大きく変化するので、歯車運転性能も大きく変化する。しかし、歯面の損傷の場合には、多少の歯面はく離が生じても歯の剛性に及ぼす影響は、歯の折損に比べ非常に小さい。そのため、ピッチングやスポーリングなどの歯面はく離の損傷を早期に診断するには、劣化状態をモニターする検出器や歯車運転性能波形の解析方法を工夫しなければならない。
【0005】
従来より、歯車や軸受などの故障診断を時間・周波数解析を用いて行っている研究は国内外に存在する。しかしながら、歯車に関しては、歯の折損に関する故障診断を行っている研究はあるものの、歯面の損傷に関する研究はあまりなされていない。また、従来、歯車動的性能の評価方法としては、高速フーリエ変換などを用いての周波数解析によっていたが、動的性能の時間的周波数変化を捉えることができないため、歯車装置の故障の初期発見や歯車制振特性などを評価し難い状況にあった。
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、連続ならびに離散ウェーブレット変換を用いて、動的性能の時間・周波数解析を行い、得られた時間的変化を統計的手法ならびに時系列的データ処理手法等により総合して評価することを目的とする。また、本発明では、焼結歯車と鋼製歯車の運転時の歯元ひずみ、歯車箱振動加速度、歯車箱近傍音圧等の各種パラメータについて、ウェーブレット変換を用いて時間・周波数解析し、歯車の制振特性を評価することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明において、具体的には、例えば、連続ならびに離散ウェーブレット変換により、歯車の歯元ひずみの時間的変化の波形を任意の周波数ごとに分解し、これからの歯車材料による歯元ひずみの周波数特性の差を明確化した。これにより焼結歯車が鋼製歯車より制振特性に優れていることがわかった。本発明は、歯車材料による制振特性の差の把握、歯車装置の故障の初期発見、故障診断、歯車の損傷・析れの把握等に有用である。
【0008】
本発明の第1の解決手段によると、
少なくとも1組の歯車がトルクの負荷を与えられた状態でかみあわされた被測定歯車と、
前記被測定歯車を駆動する駆動部と、
前記被測定歯車の所定の測定値を測定する測定部と、
前記測定部により測定された測定値を解析する解析部と
を備え、
前記解析部は、
特定の時間の測定値に基づき、離散ウェーブレット変換により、特定の時間及び特定の振動周波数を変数として計算し、ウェーブレット成分を低周波成分及び高周波成分に分解して求め、前記歯車対の動的性能を評価するようにした歯車動的性能の評価システム装置
を提供する。
【0009】
また、本発明の第2の解決手段によると、
少なくとも1組の歯車がトルクの負荷を与えられた状態でかみあわされた被測定歯車の歯車動的性能の評価方法であって、
前記被測定歯車を駆動し、測定された前記被測定歯車の所定の測定値を入力する入力ステップと、
入力された測定値を解析する解析ステップと
を含み、
前記解析ステップは、
特定の時間の測定値に基づき、離散ウェーブレット変換により、特定の時間及び特定の振動周波数を変数として計算し、ウェーブレット成分を低周波成分及び高周波成分に分解して求め、被測定歯車の動的性能を評価するようにした歯車動的性能の評価方法
を提供する。
【0010】
【発明の実施の形態】
(1)歯車のかみあい
図1に、歯車のかみあいの模式図を示す。
歯車は、歯がかみあって動力を伝える機械要素である。歯車のかみあい歯数の状態を表す指標としてかみあい率εがある。かみあい率が1.xxxの場合には、歯bに着目すると、かみあい始めには歯aとbの2対の歯がかみあう。かみあいが進むと歯bのみでかみあい、かみあい終わりには歯bとcの2対の歯でかみあう。かみあい率が2.xxxの場合には3対と2対の歯のかみあいが繰り返されることとなる。このような歯のかみあいを繰り返すことにより歯車は動力を伝えることができ、歯数zの歯車が一定の回転速度n(rpm)で回転する場合には、次式で示すかみあい周波数fあるいはかみあい周期Tで歯がかみあう。
=1/T=zn/60
【0011】
図2に、一般化した歯車対の振動モデルの説明図を示す。歯車の軸のねじり剛性が歯の剛性に比べて充分に大きいときには、軸のねじり剛性を無視することができ、トルクTQiを伝える一対の歯車の回転方向の運動方程式は、歯をばねとして歯車本体の慣性質量を作用線方向に換算した等価慣性質量とする1自由度の非線形運動方程式として表すことができる。
その運動方程式を式に示す。
Mx”+Dx’+ΣK(t,x)x=W+ΣK(t,x)e(t,x)
【0012】
ここで、xは作用線上の相対変位、Mは等価慣性質量、Dは減衰係数、ΣK(t,x)はかみあっている歯の対の剛性、Wは歯面法線に働く静荷重、e(t,x)は歯形誤差である。この式の強制外力はΣK(t,x)e(t,x)である。歯の対の剛性と強制外力はかみあい周期で周期的に変化することとなる。
【0013】
図3に、歯車の運転性能測定についての説明図を示す。
実際に歯車の運転性能を測定する場合、図に示すように歯車箱4の振動や騒音、歯42の歯元にひずみゲージ43を貼り付けて歯元ひずみ(歯元応力)が測定されている。歯元ひずみは、歯車軸を含む歯車の軸系のねじり振動の挙動を間接的に表している。また、歯車箱の振動は歯車のねじり振動が軸、軸受を伝ぱして起こるものであり、その歯車箱の振動が空気を振動させることにより騒音が発生する。
【0014】
以上のことから歯のかみあいによって起こる歯車の運転性能波形は、かみあい周波数あるいはかみあい周期に大きく依存していることがわかる。
【0015】
(2)評価システム
図4に、本発明に係る歯車動的性能の評価システムの構成図を示す。
試験に用いた評価システムは、動力循環式歯車試験機で歯数比と軸間距離を等しくする2組の歯車対(即ち、試験歯車対1、動力伝達用歯車対2)のそれぞれをねじり軸で結んでいる。一方の歯車側のねじり軸4にはトルク負荷用カップリング5が取り付けられており、重錘式レバーを用いてトルクを負荷した状態でカップリングを締結することにより歯車に負荷を加えることができる。コップ式無段変速機6を介して三相誘導電動機7の動力が動力伝達用歯車対2のやまば歯車を駆動し、入力動力は歯車列内を循環する。
【0016】
この例では、大歯車を被動側、小歯車を駆動側として、単位歯幅当たり歯面法線荷重P/b=142N/mm(小歯車の負荷トルク30Nm)を歯車対に負荷し、大歯車回転速度nを1600rpmから10000rpmの範囲で200rpm毎に変化させて、歯車の動的性能を測定した。小歯車の歯車軸に取り付けたトルク負荷用カップリング5を用いて、重錘式レバーによりトルクを負荷することで歯車対に負荷を加えることができる。潤滑油はEP3090ギヤ油で、油温を313±5Kに制御した。
【0017】
歯車箱振動加速度については、試験歯車対1の歯車箱側面中央に取り付けた圧電型振動加速度ピックアップ8(例えば、応答周波数1Hz〜25kHz)によりチャージアンプ16を介して測定した。歯車近傍音圧については歯車箱側面より法線方向に300mm離れた位置にコンデンサ型マイクロフォン9(例えば、応答周波数5Hz〜12.5kHz)を固定し、騒音計14及びペンレコーダ15により測定した。大歯車の歯の圧縮側歯元の最弱断面位置付近にひずみゲージ(例えば、ゲージ抵抗120Ω、ゲージ長0.3mm)を貼付し(図3参照)、一組のブリッジを組み、スリップリング10、ストレインアンプ11(例えば、応答周波数DC〜100kHz)を介して歯元ひずみを測定した。両歯車軸に取り付けたスリット板とフォトセンサ12、13により、歯車の歯の位置及び回転数を測定した。これらの測定結果は、このフォトセンサ12、13の同期信号とともに、データレコーダ17(例えば、4ch)に記録され、信号解析には特定の歯がかみ合うときのデータを、一例として、8回加算平均したものを利用した。さらに、データレコーダ17の出力をコンピュータ18で解析した。
【0018】
ここで、試験歯車対1について説明する。図5は、試験歯車対の諸元を示す説明図である。
試験歯車対は、小歯車(ピニオン)と大歯車(ギヤ)を含み、試験歯車は大歯車である。ここでは、一例として、試験歯車には焼結歯車と鋼製歯車を用いた。相手側小歯車には鋼製浸炭硬化歯車を用いた。ヤング率およびポアソン比は焼結歯車で152GPa、0.25、鋼製歯車で206GPa、0.30である。焼結歯車には、127〜175μmの粉末粒子径を有する合金鋼粉を用い、その鋼粉に黒鉛とステアリン酸亜鉛を混合した後、圧粉成形した。そして、窒素ガス雰囲気中で焼結し、ホブによる歯切りと歯面研削の後、イオン窒化を施した。鋼製歯車の素材にはSCM440鋼を用い、ホブによる歯切りの後、高周波焼入れし、歯面研削を行った。
【0019】
図では、小歯車(ピニオン)及び大歯車(ギヤ)に関して、それぞれ、以下のパラメータが示される。すなわち、モジュール、基準圧力角、歯数、転位係数、歯先円直径、中心間距離、歯幅、かみあい率、精度、歯面仕上げ、研削である。
【0020】
(3)ウェーブレット変換による時間・周波数解析
(3−1)連続ウェーブレット変換
ウェーブレット変換(WT:Wavelet Transform)は、時間的にも周波数的にも局在したアナライジングウェーブレットと呼ばれる関数ψ(t)の相似変形と平行移動を利用した時間・周波数2次元解析であり、入力信号f(t)のWTは(1)式で定義される。このf(t)が時間的変化する(時刻t)各種センサによる測定値を表す。ここで、ψ(t)はψ(t)の複素共役で、a、bはそれぞれ周波数と時間に関するパラメータである。パラメータaは、例えば、周波数0から、測定に使用される各種センサの最高応答周波数まで適宜変化させることができる。パラメータbは、測定する時間の長さ分変化させることができる。また、ウェーブレット逆変換は(2)式で表される。ただし、ψ(t)は、(3)式のアドミッシブル条件を満たされなければならない。ここで、ωは角周波数、ψ(ω)の^(ハット)はフーリエ変換である。
【0021】
【数2】
Figure 0003673689
【0022】
(1)式の計算には台形公式を利用し、その結果はエネルギー強度について次式で示す方法で表した。ここで、ReとImは、それぞれ実数部と虚数部であるウェーブレットマップを表示する際には、マップ中のウェーブレットの最大強度を100として表示した。
【0023】
【数3】
Figure 0003673689
(3−2)離散ウェーブレット変換
【0024】
(1)式の値を平面上の点(b、1/a)にプロットしたウェーブレットマップは、信号の性質を知るのに便利であるが、演算を行うには(1)式の右辺の積分がそれほど簡単ではないこと、さらに(Wψf)(b,a)には多くの情報が重複していることなどのため、必ずしも効率的ではない。このことから、(1)式で示した連続ウェーブレット変換の座標を2つの整数jとkによって(2−jk、2−j)として離散化することにより、ある関数f(t)に関する離散ウェーブレット変換は(1)、(2)式より(Wψf)(b,a)をd (j)とおくと(6)式で与えられる。ここで、jはレベルと呼ばれ、周波数に関するパラメータである。また、kは時間に関するパラメータである。これらパラメータはa、bと同様に変化させる。上述で示したような(b、a)の値を任意にとり、変換を行う方法を連続ウェーブレット変換、後半で示したように(b、a)を(2−jk、2−j)に置き換えて、離散化させて変換を行う方法を離散ウェーブレット変換という。
【0025】
また、離散ウェーブレット逆変換は(7)式で定義される。ここで、g(t)は、(8)式のように定義した。また、f(t)の任意のレベルでの関数をf(t)とすると、(9)式と表すことができる。
【0026】
【数4】
Figure 0003673689
【0027】
ここで、{c (j)}は任意の数列であり、φ(t)はスケーリング関数と呼ばれ、マザーウェーブレット関数ψ(t)とともに(10)、(11)式のトゥースケール関係を満たす。ここで、{p}と{q}はトゥースケール数列である。ウェーブレット変換を用いて関数f(t)を分解するアルゴリズムと再構成するアルゴリズムは、(12)式と(13)式でそれぞれ与えられる。ここで、{a}と{b}は分解アルゴリズムで使用される数列である。あるレベルでの関数g(t)とf(t)は(8)、(9)式から計算することができ、それら関数の間には(14)式の関係が成り立つ。
【0028】
【数5】
Figure 0003673689
【0029】
与えられた離散データを分解するために、レベル0における数列{c (0)}は(16)、(17)式から求めた。数列{β}は|k|>7のとき、0として近似した。
【0030】
【数6】
Figure 0003673689
【0031】
本発明では、アナライジングウェーブレットとして、一例として、連続変換にはGabor関数を、離散変換にはHaar関数を用いた。以下に、Gabor関数とHaar関数について示す。
Gabor関数は次式で与えられる。
【0032】
【数7】
Figure 0003673689
【0033】
ここでωは中心周波数、rは周波数領域での局在の幅を決めるパラメータである。図6には、Gabor関数の時間波形図と周波数特性図を示す。Gabor関数は時間的にも周波数的にも局在性の良い関数であることがわかる。
つぎに、Haar関数は次のように定義される。
【0034】
【数8】
Figure 0003673689
【0035】
図7に、Haar関数の時間波形図を示す。ここではψ(2t−k)の一例を示す。この関数ではレベルjでの矩形波の波長が1/2でk(k=0、1、…2−1)によって位置が決まる。周波数パラメータaは2−j、時間パラメータbは2−jkと置くため、aとbとの間にはb=akという関係が成り立つ。このため時間bと周波数1/aとは反比例の関係になり、同時に細かくとることはできない。つまり、周波数を細かくとると時間の分解能が悪くなり、逆に、時間を細かくとると周波数の分解能が悪くなる。
【0036】
この他に、スケーリング関数に4階のカーディナルBスプライン関数N(t)を用いることができる。m階のカーディナルBスプライン関数N(t)は次式で与えられる。
【0037】
【数9】
Figure 0003673689
【0038】
図8は、4階(=4)のスプライン関数N(t)を用いたφ(t)とψ(t)を示す図である。スプライン関数N(t)が、スケーリング関数φ(t)自身である。N(t)を用いたマザーウェーブレット関数ψ(t)は、滑らかで対称性を有していることがわかる。なお、与えらた関数をN(t)に基づいて分解・再構成する際に必要な(12)、(13)式 中の数列{p}、{q}、{a} 、{b}の値は、一例として、文献、「榊原進, ウェーヴレットビキナーズガイド, (1998), 東京電機大学出版局」、及び、「C. K. Chui著, 桜井・新井訳, ウェーブレット入門, (1994), 東京電機大学出版局」を参照した。
【0039】
つぎに、図9に、離散ウェーブレット変換による評価方法のフローチャートを示す。図示のように、処理が開始されるとまず測定値f(t)を入力する(S10)。測定値f(t)は、上述のように、振動加速度ピックアップ8、マイクロフォン9、ひずみゲージ43、フォトセンサ12、13等の各種センサからの信号の時間的変化量である。つぎに、上述した式に従いd (j)とc (j)を計算する(S13)。つぎにf(t)、g(t)を計算する(S15)。つぎに、計算されたf(t)、g(t)を表示して(S17)、処理を完了する。表示方法としては、表やグラフ等の適宜の手段をとることができる。
【0040】
(4)ウェーブレット変換による解析例
図10は、WTによる解析例を示す図である。解析した信号は以下のように表され、その信号波形は図(a)に示すとおりである。
【0041】
【数10】
Figure 0003673689
【0042】
f(t)は振幅が時間的に変化する周期128μs(周波数7.81kHz)の正弦波形であり、t=1024μsからはその正弦波形に周期32μs(周波数31.25kHz)の余弦波が加わったものである。図(b)はf(t)の信号に対して、Gabor関数を用いたウェーブレットマップを示す。図のスケールがエネルギー強度を示し、濃い部分が強いことを示す。この図より、f(t)には時間的に強度が変化する周波数7.81kHzの成分に加え、t=1024μsからは周波数31.25kHzの成分の強度が現われていることがわかる。
【0043】
次に、上述の信号に対してHaar関数を用いて離散ウェーブレット変換を行う。ここでサンプリング時間をt、サンプリング点数をNとすると、レベルjでの解析周波数fはf=2/(N)で近似できる。図(c)(d)には、f(t)を周波数15.63kHzを境に高周波領域と低周波領域に分割・再構成した波形をそれぞれ示す。周波数15.63kHz以下では、時間的に振幅の変化する周波数7.81kHzの波形が近似的に再構成されており、また高周波領域にはt=1024μsから周波数31.25kHzの波形が再構成されている。以上の結果から、WTにより信号の時間に対する周波数成分の変化を捉えることができ、任意の周波数で波形を分解・再構成できることが確認できた。
【0044】
(5) 制振特性の評価
つぎに、制振特性の評価について述べる。
【0045】
(5−1) 従来の評価法
まず、従来の歯車動荷重評価について説明する。
図11は、大歯車回転速度nに伴う動荷重比σdmax/σsmaxの変化を示す図である。σdmaxは各回転速度での動的歯元応力の最大値であり、σsmaxは静的歯元応力の最大値である。ここでσsmaxはn=6rpmでの歯元応力である。fはかみあい周波数で、fは歯車対のねじり振動の固有振動数であり、その値は約2.56kHzであった。焼結歯車および鋼製歯車ともにnの増加に伴い動荷重比は変動しており、n=4200rpm(f=1.12kHz)、6000rpm(f=1.60kHz)、9000rpm(f=2.40kHz)で極大となっている。n=9000rpm、4200rpmではかみあい周波数がfあるいはその1/2に近い周波数であったため、歯車対が共振し動荷重比が高くなったものと考えられる。また、歯車箱の固有振動数は約5kHzであったため、n=9000rpm、6000rpm、4200rpmのかみあい周波数が歯車箱の固有振動数のほぼ1/2、1/3、1/4に対応して、歯車箱全体が共振し動荷重比が高くなったものと考えられる。同じ大歯車回転速度に対して、焼結歯車の動荷重比のほうが、鋼製歯車よりも概して小さい傾向にある。
【0046】
(5−2)連続ウェーブレット変換による評価法
つぎに、連続ウェーブレット変換による評価について述べる。
図12は、ウェーブレットマップの図である。図(a)は鋼製歯車、図(b)は焼結歯車についての図である。この図は、動荷重比が最大となったn=9000rpmでの歯元ひずみ波形のウェーブレットマップを示す。このマップでは、解析した時間・周波数領域での強度の最大値を100として正規化してある。n=9000rpmにおける1対の歯のかみあう時間は約0.52msであり、この時間を半周期とする波形の周波数は約0.96kHzである。そのため、低周波領域での強度が高いところは歯のかみあいの進行に伴う荷重移動に起因し、高周波領域の強度が高いところは歯車軸を含む歯のねじり振動に起因していると考えられる。両歯車ともに、ピークになる時間はピッチ点付近であるが、焼結歯車の方が非常に小さい強度を示している。
【0047】
(5−3)離散ウェーブレット変換による評価
つぎに、離散ウェーブレット変換による評価について述べる。連続ウェーブレット変換により得られたウェーブレットマップでは、各周波数における波形の形については直感的にわかりづらい。すなわち、連続ウェーブレット変換では、エネルギーの大きさが得られるものの、波形の時間的変化が得られない。そこで離散ウェーブレット変換を用いて、歯元ひずみ波形を特定の周波数で分解して考察する。
【0048】
図13に、歯元ひずみの分解波形図を示す。この図は、n=9000rpmの歯元ひずみ波形を離散ウェーブレット変換し、レベルjごとに再構成した波形g(t)と、そのレベルj未満で再構成した次式で表される波形f(t)を示す。
【0049】
ここで、f(t)は、低周波数成分であり、図中上側の波形を示す。g(t)は、レベルjの周波数における振動を表す高周波数成分であり、図中下側の波形を示す。g(t)は分解されたウェーブレット成分である。これら離散値は、次式の関係にあり、上述のようにコンピュータにより高速に計算することができる。
(t)=fj−1(t)+gj−1(t)
【0050】
例えば、この図のf(t)はほぼ荷重移動による成分のみの歯元ひずみ変動を表していると考えられるが、両歯車ともに大差はない。しかし、レベル5、6、7の高周波成分になると、鋼製歯車の方が大きな振幅を示している。
【0051】
次に高周波領域全体を考察するために、特定の周波数を境に分解・再構成する。
図14に、大歯車回転速度と周波数推移についての図を示す。この図は、各大歯車回転速度における鋼製歯車のウェーブレットマップにおいて、最大の強度(ピーク値)における周波数と、その次に高い強度における周波数を示す。図中の黒色の曲線はfまたはfの整数倍を表し、灰色の曲線は1/(2εT)の周波数を表す。ここでT(=1/f)はかみあい周期で、εはかみあい率である。歯元ひずみ波形の荷重移動に起因する成分と歯車のねじり振動に起因する成分を分離するためには、付近で歯元ひずみを分解するのが妥当であると考えられる。
【0052】
図15に、n=9000rpmにおける歯元ひずみのf以上での再構成波形およびε−εn=6の波形図を示す。この図は、f=9000rpmにおける歯元ひずみについて、fより高い周波数領域で再構成した波形と、n=9000rpmの波形からn=6rpmで測定した静的歯元ひずみ波形を引算した波形ε−εn=6を示す。εとεn=6では波形自体の時間のオーダは異なるが、Tで各波形を正規化してε−εn=6を求めた。静的な歯元ひずみ変化を差し引いたε−εn=6の波形は近似的に歯車のねじり振動を表していると考えられる。各歯車において2つの波形は類似していることがわかる。つまり、離散ウェーブレット変換を用いてfより高い周波数成分を取り出すことで、歯元ひずみ波形に含まれるねじり振動に起因する成分を取り出すことができるといえる。両歯車について比較すると、焼結歯車ではかみあい中の振幅の変化が少ないが、鋼製歯車では振幅が大きく変化し、ピッチ点付近で大きな振幅を示している。
【0053】
図16は、大歯車回転速度に伴う歯元ひずみの変化を示す図である。この図は、fを境に歯元ひずみの波形を高周波領域と低周波領域に分解・再構成した波形の最大値と最小値との差を回転速度毎に示す。低周波領域については、両歯車ともに大きな変動はなく、ほぼ一定の値であり、概して、焼結歯車のほうがひずみの値が大きい。これはヤング率とポアソン比が鋼に比べ小さいことに由来すると考えられる。回転数の増加に伴う高周波領域の変動については、図11の動荷重比に見られた周期的な変動と定性的に同じである。その変動の振幅については、概して焼結歯車のほうが小さい。
【0054】
図17(a)は、大歯車回転速度に伴う歯車箱振動加速度の変化を示す図である。図17(b)は、大歯車回転速度に伴う歯車箱近傍音圧の変化の図を示す図である。これらの図は、同様に、歯車箱振動加速度と歯車箱近傍音圧についても、離散ウェーブレット変換を用いてf付近を境に各波形を分解・再構成し、その最大値と最小値との差を各回転数毎に示す。f以下の低周波領域では両歯車ともに大差はないが、高周波領域では鋼製歯車のほうが大きな値を示している。歯車のかみあいによって生じるねじり振動が、軸と軸受を伝ぱして歯車箱を振動させ、その歯車箱の振動が空気中に放射され騒音となる。このため、歯車のねじり振動を抑えている焼結歯車のほうが、歯車箱振動加速度と歯車箱音圧においても、f以上の高周波領域でともに低い値を示しているといえる。
【0055】
(6)歯車運転性能評価
つぎに、歯車運転性能評価について説明する。WTを用いた歯車の運転性能評価を行うために、異なる歯車材質を用いてそれら歯車の性能を測定する。歯車材質として、鋼の原料粉(クロム・モリブデン鋼に相当)から作られた焼結材と一般的に歯車に使用されている鋼材(JIS:SCM440)を用いた。焼結材は、その内部に気孔を有しているために、鋼に比べ制振性があといわれる材料である。歯車諸元は上述の図に示したとおりで、大歯車の材質を焼結材と鋼材とし、相手小歯車には鋼材を用いた。歯車運転性能の測定方法は、上述のように、大歯車回転速度を1600rpmから10000rpmまで200rpm毎に変化させ、歯元ひずみ、歯車箱振動加速度、歯車箱近傍音圧を測定した。また、動荷重を求める際に動的な歯元応力の最大値σdmaxと静的な歯元応力の最大値σsmaxが必要となる。
そこで、n=6rpmで測定した歯元ひずみから静的歯元応力を求めた。
【0056】
(6―1) 従来の性能評価法
大歯車回転速度nの増加に伴う動荷重比σdmax/σsmaxの変化は上述と同様である。
図18は、(a)大歯車回転速度nの増加に伴う歯車箱振動加速度レベルVALと、(b)歯車箱近傍音圧レベルSPLの変化を示す図である。振動加速度レベルVALおよび音圧レベルSPLは、次の式で定義した。
VAL=20log arms/a
SPL=20log prms/p
ここで、armsは大歯車1回転中の振動加速度波形の実効値であり、aは1x10−2m/sとした。また、prmsは大歯車1回転中の音圧波形の実効値であり、pは2x10−5Paとした。焼結歯車と鋼製歯車ともに、VALとSPLはnの増加とともに変動しながら増加する傾向にある。動荷重比が極大となるn=4200rpm、6000rpm、9000rpmにおいて、VALとSPLは極大値を示す傾向にある。また、鋼製歯車よりも焼結歯車のほうがVALとSPLのレベルの値は概して小さい。したがって、焼結歯車のほうが歯車のねじり振動に関する制振特性が優れている。すなわち、歯車対の回転方向振動を強制振動の運動方程式で表したときの減衰係数は焼結歯車のほうが小さいために、歯車箱の振動と音も焼結歯車のほうが鋼製歯車よりも低下したといえる。
【0057】
(5−2) 連続ウェーブレット変換による性能評価法
図19は、n=1800rpmにおける歯元ひずみ波形ε、そのWTマップとFFTによる周波数分析結果を焼結歯車および鋼製歯車について示す図である。連続ウェーブレット変換には、ガボール関数をマザーウェーブレットとして用いた。WTマップとFFTの結果は、最大値を100として正規化されている。両歯車ともに、n=1800rpmにおける1対の歯のかみあう時間は、2.6msであり、その時間を半周期とする波形の周波数は192Hzである。そのため、WTマップにおいてかみあい周波数f=480Hzより低周波の領域で強度が高いところは歯のかみあいの進行に伴う荷重移動に起因しており、fより高周波の領域で強度が高いところは歯車軸を含む歯車全体のねじり振動に起因していると考えられる。鋼製歯車に比べ、焼結歯車ではfより高周波の領域での強度は相対的に低い。この傾向は、ほかの回転速度においても定性的に同じであった。上記のことから、図11に示した動荷重比に関して焼結歯車のほうが鋼製歯車に比べ低い理由は、歯車材に由来する歯車軸を含む歯車のねじり振動が小さかったことが考えられる。
【0058】
次ぎに、各大歯車回転速度におけるWTマップにおいて強度が最大となる周波数とその次に大きい強度となる周波数を調べた。
図20は、鋼製歯車における大歯車回転速度n増加に伴う各領域でのWTマップ中の周波数変化を示す図である。fを境にして、それよりも高い周波数と低い周波数でWTの強度は極大値を示していることがわかる。特に、fより低い周波数flowは、次式で示すようにnの増加に伴って増す傾向にある。
low=(1/2ε)(z/60)=f/(2ε
ここで、εはかみあい率で、本歯車対の場合1.246である。zは大歯車の歯数で、16枚である。したがって、flow=0.4fとなる。図に示した大歯車回転速度に対する周波数の変化は焼結歯車においても同様であり、fより低い周波数flowは0.4 fで増加していた。このような結果から、歯元ひずみは、かみあい周波数fより低い周波成分(荷重移動に依存)と高い周波数成分(歯車のねじり振動に依存)で構成されていることがわかる。
【0059】
(5−3) 離散ウェーブレット変換による性能評価法
そこで、離散ウェーブレット変換を用いて歯元ひずみ波形を分解し、fを境にして再構成することで、歯元ひずみを利用して歯車材の違いによる歯車制振特性の詳細な検討を行う。離散ウェーブレット変換に用いたスケーリング関数とマザーウェーブレット関数は、4階のBスプライン関数に基づいている。
【0060】
図21は、焼結歯車と鋼製歯車について、大歯車回転速度n=1800rpmにおける歯元ひずみを離散ウェーブレット変換により分解した結果を示す図である。焼結歯車と鋼製歯車の各レベルにおけるgを比べると、特にレベル−3とレベル−4では振幅の値が焼結歯車のほうが明らかに小さい。また、かみあい周波数f以下の周波数成分の波形にほぼ相当するf−6の波形を比べると、その波形の最大値は焼結歯車のほうが大きい。焼結材のヤング率とポアソン比は152GPaと0.25であり、鋼のそれらは206GPaと0.3であるので、同じ荷重が歯に加わった場合、大きいひずみが生じるのは焼結材である。したがって、荷重の移動に依存するf以下の周波数成分の歯元ひずみ波形は焼結歯車のほうが大きくなることが理解できる。
【0061】
図22は、n=1800rpmにおける焼結歯車の歯元ひずみ波形をfを境にして再構成した波形と、n=1800rpmの歯元ひずみ波形からn=6rpmで測定した静的歯元ひずみ波形を引算した波形εn2−ε6rpmを示す図である。1800rpmと6rpmでは、歯元ひずみ波形の時間のオーダは異なるが、かみあい周期Tで各ひずみ波形の時間を正規化してεn2−ε6rpmを求めた。静的な歯元ひずみを差し引いたεn2−ε6rpmの波形は近似的に歯車のねじり振動に起因する波形変化を表していると考えられる。f以上の波形とεn2−ε6rpmの波形を比べると、実際に歯がかみあっている時間範囲では両者の波形の変動の様子は類似していることがわかる。したがって、離散ウェーブレット変換を用いて再構成したf以上の波形は、歯車のねじり振動に起因する歯元ひずみ波形を精度よく表しているといえる。
【0062】
離散ウェーブレット変換を用いて解析した結果から、歯車のねじり振動が支配的であるf以上の周波数成分の歯元ひずみ波形は、歯車材の減衰係数に依存しており、f以下の荷重移動に伴う歯元ひずみ波形は歯車材のヤング率に依存していることがわかる。
【0063】
(7)新しい運転性能評価
図23は、従来の動荷重比、f以下で再構成した歯元ひずみ波形の最大値、f以上で再構成した歯元ひずみ波形の振幅とWTを用いて求めた動荷重比のそれぞれの変化を大歯車回転速度の増加に対して示す図である。f以上で再構成した各回転速度における歯元ひずみ波形の振幅は、回転速度の増加とともに変動しており、その変動の様子は従来の動荷重比の変動と似ている。なお、当然のことであるがn=6rpmでの値はほぼ0に近い。f以下で再構成した各回転速度における歯元ひずみ波形の最大値は、n=6rpmでの値よりもわずかに小さい傾向にあるが、回転速度に関わらずほぼ一定の値であるといえる。このことは、fを境にして再構成したf以下の歯元ひずみ波形の最大値は、静的な歯元ひずみの最大値にほぼ相当すると考えられる。そこで、各回転速度毎に元の歯元ひずみ波形の最大値を再構成したf以下の歯元ひずみの最大値で除して動荷重比を求めた。回転速度に対するWTによる新しい動荷重比の変動の傾向と従来の動荷重比の傾向は概して同じであることがわかる。しかし、従来の動荷重比に比べWTによる動荷重比の値のほうが高い。歯のかみあいにおいて、2対かみあいから1対かみあいへ移行するときの歯元ひずみ波形の変化は急激で、非常に高周波の成分に相当する。したがって、再構成したf以下の歯元ひずみ波形に急激な変化は含まれないことが原因であると考えられる。しかしながら、多くの歯車装置は非常に低速で回転させることが困難である。そのため、設計段階で設定した安全率(動荷重比)が実際に製作された歯車装置に対し妥当であるかを判断する基準にここで提案したWTによる新しい動荷重比評価法を利用することができると考えられる。
【0064】
図24は、焼結歯車に関するn=1800rpmにおける歯車箱振動加速度波形の離散ウェーブレット変換解析結果を示す図である。大歯車1回転(30ms)中の振動波形は低周波成分と高周波成分から構成されていることが理解できる。また、図25は、歯元ひずみ波形と同様に、(a)振動加速度波形と(b)歯車箱近傍音圧波形を、fを境に再構成し、回転速度の増加に対する各波形の実効値の変化を示す図である。焼結歯車ならびに鋼製歯車に関する振動加速度波形と音圧波形ともにf以下で再構成された波形の実行値は回転速度nの2乗に比例して増加している。すなわち、両歯車ともに同じトルクが負荷されているので、荷重移動に依存するf以下の振動と音圧波形は歯車回転エネルギーで決まるといえる。したがって、材質が異なる焼結歯車と鋼製歯車ともにほぼ同じ値を示している。歯車のねじり振動に起因するf以上の振動と音圧の実効値は4200rpm、6000rpm、9000rpmで極大を示しており、元の振動と音圧の実効値の変化の様子と同じである。このことは、各波形の実効値の変動は歯車のねじり振動に依存してことを明確に示している。歯車箱振動加速度は、歯のかみあいによって生じるねじり振動が軸と軸受を伝ぱして歯車箱を振動させることにより起こる。そして、歯車箱振動が空気中に放射され音圧(騒音)が発生する。そのために、歯車のねじり振動が抑えられている焼結歯車のほうが、歯車箱振動と音圧に関しても鋼製歯車より低い値を示していることが理解できる。
【0065】
【発明の効果】
1)本発明の評価システムによると、歯元ひずみ波形において、歯車のねじり振動に起因する歯元ひずみは、かみあい周波数fよりも高い周波数成分で構成されていたということを評価することができる。また、その歯元ひずみの高周波成分は、焼結歯車のほうが鋼製歯車よりも小さな値を示していることから、焼結歯車は制振特性において優れているといえ、歯車運転時の振動・騒音の原因となる歯車のねじり振動を低く抑えていることがわかった。
2)本発明によると、焼結歯車は鋼製歯車に比べ制振特性に優れるため、歯車装置に焼結歯車を適用することは振動・騒音を低減するという点で有効であることが評価することができる。
3)本発明によると、歯元ひずみのウェーブレット変換を行うことで、従来の歯元ひずみを用いた歯車動荷重評価では得ることができない歯車動的性能評価を行うことができた。
【0066】
さらに、本発明の歯車運転性能評価システム及び評価方法については、歯車装置の検査に応用できると考えられる。また、本発明によると、かみあい周波数fを境に歯車装置の性能波形を再構成し、歯車荷重伝達に関する波形と歯車ねじり振動に関する波形から、装置の設計段階で設定した安全率が妥当であるかを、新しい動荷重評価法を用いて判定することが可能である。また、本発明によると、材質の違いによる減衰係数の違いは、主にかみあい周波数f以上の周波数成分の波形に反映され、相対的な減衰係数の差も判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】歯車のかみあいの模式図。
【図2】一般化した歯車対の振動モデルの説明図。
【図3】歯車の運転性能測定についての説明図。
【図4】本発明に係る歯車動的性能の評価システムの構成図。
【図5】試験歯車対の諸元を示す説明図。
【図6】Gabor関数の時間波形図と周波数特性図。
【図7】Haar関数の時間波形図。
【図8】4階のスプライン関数N(t)を用いたφ(t)とψ(t)を示す図。
【図9】離散ウェーブレット変換による評価方法のフローチャートを示す図。
【図10】WTによる解析例を示す図。
【図11】大歯車回転速度nに伴う動荷重比σdmax/σsmaxの変化を示す図。
【図12】ウェーブレットマップを示す図。図(a)は鋼製歯車、図(b)は焼結歯車についての図。
【図13】歯元ひずみの分解波形図。
【図14】大歯車回転速度と周波数推移についての図。
【図15】n=9000rpmにおける歯元ひずみのf以上での再構成波形およびε−εn=6の波形図。
【図16】大歯車回転速度に伴う歯元ひずみの変化を示す図。
【図17】(a)は、大歯車回転速度に伴う歯車箱振動加速度の変化を示す図、及び(b)は、大歯車回転速度に伴う歯車箱近傍音圧の変化の図を示す図。
【図18】(a)は、大歯車回転速度nの増加に伴う歯車箱振動加速度レベルVALと、(b)歯車箱近傍音圧レベルSPLの変化を示す図。
【図19】n=1800rpmにおける歯元ひずみ波形ε、そのWTマップとFFTによる周波数分析結果を焼結歯車および鋼製歯車について示す図。
【図20】鋼製歯車における大歯車回転速度n増加に伴う各領域でのWTマップ中の周波数変化を示す図。
【図21】焼結歯車と鋼製歯車について、大歯車回転速度n=1800rpmにおける歯元ひずみを離散ウェーブレット変換により分解した結果を示す図。
【図22】n=1800rpmにおける焼結歯車の歯元ひずみ波形をfを境にして再構成した波形と、n=1800rpmの歯元ひずみ波形からn=6rpmで測定した静的歯元ひずみ波形を引算した波形εn2−ε6rpmを示す図。
【図23】従来の動荷重比、f以下で再構成した歯元ひずみ波形の最大値、f以上で再構成した歯元ひずみ波形の振幅とWTを用いて求めた動荷重比のそれぞれの変化を大歯車回転速度の増加に対して示す図。
【図24】焼結歯車に関するn=1800rpmにおける歯車箱振動加速度波形の離散ウェーブレット変換解析結果を示す図。
【図25】歯元ひずみ波形と同様に、(a)振動加速度波形と(b)歯車箱近傍音圧波形を、fを境に再構成し、回転速度の増加に対する各波形の実効値の変化を示す図。
【符号の説明】
1 試験歯車対
2 動力伝達用歯車対
3、4 ねじり軸
5 トルク負荷用カップリング
6 コップ式無段変速機
7 三相誘導電動機
8 圧電型振動加速度ピックアップ
9 マイクロフォン
10 スリップリング
11 ストレインアンプ
12,13 フォトセンサ
14 騒音計
15 ペンレコーダ
17 データレコーダ
18 コンピュータ

Claims (7)

  1. 少なくとも1組の歯車がトルクの負荷を与えられた状態でかみあわされた被測定歯車と、
    前記被測定歯車を駆動する駆動部と、
    前記被測定歯車の動的性能に関する所定の時間変化量である測定値f(t)を測定する測定部と、
    前記測定部により測定された測定値f(t)、離散ウェーブレット変換により解析する解析部と
    を備え、
    前記解析部は、
    測定値f(t)に基づき、振動周波数及び時間に関する変数 (j) 及びd (j) を次式(16)、(17)及び(12)に基づき計算し、
    Figure 0003673689
    (ここで、a、bはそれぞれ周波数と時間に関するパラメータ、jはレベルと呼ばれ周波数に関するパラメータ、kは時間に関するパラメータである。)
    マザーウェーブレット関数ψ(t)及びスケーリング関数φ(t)として次式のm階カーディナルBスプライン関数N (t)を用いて、次式(8)及び(9)に基づき離散ウェーブレット変換を行うことにより、ウェーブレット成分を低周波成分 (t)及び高周波成分 (t)に分解して計算し、
    Figure 0003673689
    低周波成分f (t)及び高周波成分g (t)を表示することにより、歯車対の動的性能を評価するようにした歯車動的性能の評価システム。
  2. 前記測定部で測定する所定測定値は、騒音に関するデータ、回転数、歯の位置、振動加速度及び歯元ひずみのいずれかひとつ又は複数であることを特徴とする請求項1に記載の歯車動的性能の評価システム。
  3. 前記測定部で測定する所定測定値は、歯元ひずみであり、
    前記解析部は、振動特性の評価、運転性能の評価又は故障・損傷診断を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の歯車動的性能の評価システム。
  4. 時間tにおける計測値f(t)に関する離散的ウェーブレット変換が、整数jを周波数に相当するパラメータ、整数kが時間に相当するパラメータ、ψはマザーウェーブレット関数としたとき、(Wψf)(2−jk,2−j)=d (j)とおくと、次式で与えられることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の歯車動的性能の評価システム。
    Figure 0003673689
  5. (t)=fj−1(t)+gj−1(t) の関係となる低周波成分f(t)、高周波成分g(t)を求めることを特徴とする4又は5に記載の歯車動的性能の評価システム。
  6. 少なくとも1組の歯車がトルクの負荷を与えられた状態でかみあわされた被測定歯車の歯車動的性能の評価方法であって、
    前記被測定歯車を駆動し、測定された前記被測定歯車の動的性能に関する所定の時間変化量である測定値f(t)を入力する入力ステップと、
    入力された測定値f(t)、離散ウェーブレット変換により解析する解析ステップと
    を含み、
    前記解析ステップは、
    測定値f(t)に基づき、振動周波数及び時間に関する変数c (j) 及びd (j) を次式(16)、(17)及び(12)に基づき計算し、
    Figure 0003673689
    (ここで、a、bはそれぞれ周波数と時間に関するパラメータ、jはレベルと呼ばれ周波数に関するパラメータ、kは時間に関するパラメータである。)
    マザーウェーブレット関数ψ(t)及びスケーリング関数φ(t)として次式のm階カーディナルBスプライン関数N (t)を用いて、次式(8)及び(9)に基づき離散ウェーブレット変換を行うことにより、ウェーブレット成分を低周波成分f (t)及び高周波成分g (t)に分解して計算し、
    Figure 0003673689
    低周波成分f (t)及び高周波成分g (t)を表示することにより、歯車対の動的性能を評価するようにした歯車動的性能の評価方法。
  7. 前記測定部で測定する所定測定値は、騒音に関するデータ、回転数、歯の位置、振動加速度及び歯元ひずみのいずれかひとつ又は複数であることを特徴とする請求項に記載の歯車動的性能の評価方法。
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