JP3644218B2 - アンチロックブレーキ制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アンチロックブレーキ制御装置に係り、より詳しくは、ブレーキ力を微小励振したときの車輪速度の振動特性の変化に基づいて平均的なブレーキ力の制御を行うアンチロックブレーキ制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、車輪と路面との間の摩擦係数μがピーク値を超えて車輪がロック状態に移行する直前に、車輪に作用するブレーキトルクを低下させるアンチロックブレーキ制御装置(以下、ABS装置という)が提案されている。即ち、ABS装置は、摩擦係数μがピークμ値に追従するようにブレーキ力を制御して、車輪のロックを防止する。
【0003】
このようなABS装置のうち、正確なピークμ追従制御が可能なものとして、車体と車輪と路面とから構成される振動系の共振特性の変化に基づいてブレーキ力を制御するABS装置が提案されている(特願平7−220920号)。
【0004】
このABS装置の1つの具体例によれば、車体と車輪と路面とから構成される振動系の共振周波数でブレーキ力(ブレーキ圧=ホイールシリンダ油圧)を微小励振する。これにより車輪を微小振動させる。この励振されたブレーキ力の微小振幅に対する車輪速度の微小振幅の比である微小ゲインGd を演算する。そして、微小ゲインGd がピークμ値近傍で急激に減少する特性を利用し、微小ゲインGd を予め定められた基準ゲインGs に一致させるようにブレーキ圧を制御する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来のABS装置では、左右の駆動輪のブレーキ力を微小励振させた場合、次のような問題が発生する。即ち、左右の駆動輪はドライブシャフトで互いに連結されている。このため、このドライブシャフトを介して一方の車輪の振動が他方の車輪の振動へ相互伝達し、左右輪間の車輪速度の微小振幅の干渉を引き起こす。そして、この干渉によって、微小ゲインに誤差が生じる。このため、誤ったアンチロックブレーキ制御を行う可能性がある。
【0006】
本発明は、上記事実に鑑みて成されたもので、各々振動することにより相互干渉する2つの車輪に対するブレーキ力を微小励振させた場合でも、2つの車輪間の非干渉化を図ることにより、正確なアンチロックブレーキ制御を可能としたアンチロックブレーキ制御装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的達成のため本発明は、各々振動することにより相互干渉する2つの車輪に対するブレーキ力各々を、該2つの車輪の相互干渉が低減する予め定められた波形位相差で、微小励振する微小励振手段と、前記2つの車輪の車輪速各々を検出する検出手段と、前記微小励振手段により微小励振されたときの前記検出手段により検出された車輪速各々に基づいて、前記2つの車輪間の干渉率と、一方の車輪の車輪速と他方の車輪の車輪速とのゲイン比と、を演算する演算手段と、前記演算手段により演算された干渉率及びゲイン比に基づいて、前記2つの車輪間の干渉ゲインを推定する推定手段と、前記推定手段により推定された干渉ゲインを用いて、前記検出手段により検出された車輪速各々を、一方の車輪速における他方の車輪振動による干渉成分が小さくなるように、補正する補正手段と、前記補正手段により補正された車輪速の振動特性の変化に基づいて、平均的なブレーキ力を制御する制御手段と、を備えている。
【0008】
ここで、前記ゲイン比は、前記補正手段により補正された車輪速各々に基づいて再度演算されたものであり、前記干渉ゲインは、前記干渉率と該ゲイン比とに基づいて推定されたものであるとしてもよい。
【0009】
最初に、本発明の前提となるアンチロックブレーキ制御の原理を説明する。
重量Wの車体を備えた車両が車体速度ωv で走行している時の車輪での振動現象、すなわち車体と車輪と路面とによって構成される振動系の振動現象を、車輪回転軸で等価的にモデル化した図21に示すモデルを参照して説明する。
【0010】
図21のモデルにおいて、ブレーキ力は、路面と接するタイヤのトレッド115の表面を介して路面に作用する。しかし、このブレーキ力は実際には路面からの反作用(制動力)として車体に作用する。このため、車体重量の回転軸換算の等価モデル117は、タイヤのトレッドと路面との間の摩擦要素116(路面μ)を介して車輪113と反対側に連結したものとなる。これは、シャシーダイナモ装置のように、車輪下の大きな慣性、すなわち車輪と反対側の質量で車体の重量を模擬することができることと同様である。
【0011】
図21でタイヤリムを含んだ車輪113の慣性をJw 、リムとトレッド115との間のばね要素114のばね定数をK、車輪半径をR、トレッド115の慣性をJt 、トレッド115と路面との間の摩擦要素116の摩擦係数をμ、車体の重量の回転軸換算の等価モデル117の慣性をJV とすると、ホイールシリンダ圧により生じるブレーキトルクTb ’から車輪速ωw までの伝達特性は、車輪運動の方程式より、
【0012】
【数1】
Figure 0003644218
【0013】
となる。なお、sはラプラス変換の演算子である。
ここで、タイヤが路面にグリップしている時は、トレッド115と車体等価モデル117とが直結されていると考える。この場合、車体等価モデル117とトレッド115との和の慣性と、車輪113の慣性とが共振する。即ち、この振動系は、車輪と車体と路面とから構成された車輪共振系とみなすことができる。このときの車輪共振系の共振周波数ω∞は、(1) 式の伝達特性において、
【0014】
【数2】
Figure 0003644218
【0015】
となる。
ここで、タイヤと路面との間の摩擦係数μのスリップ率S((車体速度−車輪速度)/車体速度)に対する特性を図22に示す。(2) 式が成立する摩擦状態は、ピークμに達する前の領域A1に対応する。
【0016】
逆に、タイヤの摩擦係数μがピークμに近づく場合には、タイヤ表面の摩擦係数μがスリップ率に対して変化し難くなる。即ち、トレッド115の慣性の振動に伴う成分は車体等価モデル117に影響しなくなる。つまり等価的にトレッド115と車体等価モデル117とが分離され、トレッド115と車輪113とが共振を起こすことになる。このときの車輪共振系は、車輪と路面とから構成されているとみなすことができる。その共振周波数ω∞’は、(2) 式において、車体等価慣性Jv を0とおいたものと等しくなる。すなわち、
【0017】
【数3】
Figure 0003644218
【0018】
となる。この状態は、図22では、ピークμ近傍の領域A2に対応する。なお、ピークμを越えてブレーキ制動されると、領域A3に瞬時に移行し、タイヤがロックされる。
【0019】
ここで、車体等価慣性Jv が車輪慣性Jw 、トレッド慣性Jt より大きいと仮定する。この場合、(3) 式の場合の車輪共振系の共振周波数ω∞’は(2) 式のω∞よりも高周波数側にシフトすることになる。
【0020】
従って、車輪共振系の振動特性の変化を反映する物理量(例えば、上記共振周波数や微小ゲイン等)に基づいて、車輪と路面との間の摩擦状態を判定することが可能となる。
【0021】
そこで、本発明では、微小励振手段手段は、各々振動することにより相互干渉する2つの車輪に対するブレーキ力各々を、該2つの車輪の相互干渉が低減する予め定められた波形位相差で、微小励振する。この励振により、車輪速度に振動成分が現れるが、この車輪速度の振動特性には、上記車輪共振系の振動特性が反映される。従って、車輪速度の振動特性に基づいて、車輪に作用する平均的なブレーキ力を制御することにより、車輪と路面との間の摩擦状態を制御できる。例えば、領域A2の摩擦状態のときの車輪速度の振動特性を維持するように平均的なブレーキ力を制御すれば、ピークμ追従制御が可能となる。
【0022】
次に、測定結果に基づいて、各々振動することにより相互干渉する2つの車輪の相互干渉が低減する予め定められた波形位相差を説明する。なお、この測定結果や測定で用いられた手段に限定されるものではない。
【0023】
本発明の微小励振手段が、ブレーキ圧(ホイールシリンダ圧)を微小励振することにより車輪に作用するブレーキ力を微小励振する場合を例にする。ブレーキ圧の微小振動が、車輪速度の振動成分となって現れる際に、この車輪速度振動は、ブレーキ圧の微小励振振動より、ある波形位相角度だけ遅れて伝達する。
【0024】
ここで、図9の表には、左右の従動輪へのブレーキ力の微小励振の波形位相差角度を同位相(0度)としたときの左右の従動輪の車輪速の位相角度が、路面状態毎(高μ路、中μ路、低μ路)に、それぞれ示されている。この位相関係は、図10に、ベクトル図によって表されている。但し、図10では、左右輪でのブレーキ圧微小振動をPblとPbrとし、左右輪の車輪速をωl 、ωr としている(後述する図11、図20においても同様)。なお、ブレーキ力励振の位相を同位相とした場合、本来、左右輪のブレーキ圧の微小振動Pbl、Pbrは、同位相になるはずである。しかし、信号サンプリング時のデータ取り込み順序の違い等に起因して、PblとPbrとの位相差が20度〜30度となっている(後述する図11、図20においても同様)。
【0025】
また、図9の表には、上記2つの車輪の1例として、左右の駆動輪についてブレーキ力励振の位相差を、同位相(0度)、90度、逆位相(180度)とした場合の、左右の駆動輪の車輪速の位相角度が路面状態毎(高μ路、中μ路、低μ路)にそれぞれ示されている。このうちブレーキ力励振の位相差が90度のときの位相関係は、図11に、ベクトル図によって表されている。
【0026】
図9の測定結果に示されるように、ブレーキ力励振の位相差角度を90度としたときの駆動輪についての位相角度が、各路面において、従動輪についての位相角度に最も近くなっていることがわかる。ここで、左右の従動輪は、ドライブシャフトで連結されていないため、励振伝達による干渉が存在しない。以上より、干渉が存在した場合、相手車輪からの励振振動により車輪速度振動の位相がずれるが、図12の測定結果から理解できるように、ブレーキ力励振の位相差を好適に設定することにより、駆動輪の干渉を低減できる。
【0027】
そこで、本発明では、各々振動することにより相互干渉する2つの車輪に対するブレーキ力各々を、該2つの車輪の相互干渉が低減する予め定められた波形位相差で、微小励振する。これにより、車輪速度の振動特性において干渉の影響が低減され、該2つの車輪、例えば、左右の駆動輪においても従動輪とほぼ同様に正確なアンチロックブレーキ制御が可能となる。ここで、この波形位相差は、車輪共振系の特性などに応じて任意好適に定められるものである。
【0028】
なお、図10の測定結果をふまえ、波形位相差の角度を、90度又は90度近傍、或いは180度又は180度近傍としても良い。
【0029】
ところで、実際に干渉を引き起こすのは、ブレーキ圧励振ではなく車輪共振系の振動成分(車輪速度振動成分、即ち、車輪速)である。従って、ブレーキ圧励振信号の位相差と共に左右の駆動輪の車輪速の位相差を、上記所定角度に維持することにより、さらに干渉を軽減することができる。
【0030】
即ち、演算手段は、微小励振手段により微小励振されたときの検出手段により検出された車輪速各々に基づいて、2つの車輪間の干渉率と、2つの車輪の車輪速のゲイン比と、を演算する。
【0031】
推定手段は、演算手段により演算された干渉率及びゲイン比に基づいて、2つの車輪間の干渉ゲインを推定する。
【0032】
補正手段は、推定手段により推定された干渉ゲインを用いて、検出手段により検出された車輪速各々を、一方の車輪速における他方の車輪振動による干渉成分が小さくなるように、補正する。例えば、一方の車輪速における他方の車輪振動による干渉成分がなくなる、即ち、検出された車輪速各々の波形位相差が、2つの車輪の相互干渉が低減する予め定められた波形位相差となるように、補正する。
【0033】
そして、制御手段は、補正手段により補正された車輪速の振動特性の変化に基づいて、平均的なブレーキ力を制御する。
【0034】
このように、2つの車輪の干渉率と、2つの車輪の車輪速のゲイン比と、に基づいて、2つの車輪間の干渉ゲインを推定するので、2つの車輪が異なるμ勾配の路面を走行しても、該μ勾配が干渉ゲインに反映され、干渉ゲインを精度よく推定でき、よって、車輪速各々を、一方の車輪速における他方の車輪振動による干渉成分が小さくなるように、精度よく補正することができる。従って、2つの車輪の正確なアンチロックブレーキ制御が可能となる。
【0035】
ここで、上記ゲイン比は、補正手段により補正された車輪速各々に基づいて再度演算されたものとし、干渉ゲインを、干渉率と該ゲイン比とに基づいて推定されたものとすれば、干渉ゲインをより精度よく推定することができる。
【0036】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
【0037】
本発明の実施の形態では、上記共振周波数の変化を反映する物理量として、以下のような微小ゲインGd を導入する。
【0038】
まず、車輪と車体と路面とからなる振動系の共振周波数ω∞((2) 式) でブレーキ圧Pb を微小励振すると、車輪速度ωw も平均的な車輪速度の回りに共振周波数ω∞で微小振動する。ここで、このときのブレーキ圧Pb の共振周波数ω∞の微小振幅をPv 、車輪速度の共振周波数ω∞の微小振幅をωwvとした場合、微小ゲインGd
【0039】
【数4】
d =ωwv/Pv ・・・(4)
とする。なお、この微小ゲインGd を、ブレーキ圧Pb に対する車輪速ωw の比(ωw /Pb )の共振周波数ω∞の振動成分とみなし、
【0040】
【数5】
d =((ωw /Pb )|s=jω∞)・・・(5)
と表すこともできる。
【0041】
この微小ゲインGd は、(5) 式に示すように(ωw /Pb )の共振周波数ω∞の振動成分であるので、摩擦状態がピークμ近傍の領域に至ったとき、共振周波数がω∞’にシフトするため急激に減少する。これは、ピークμ近傍で路面μ勾が零近傍に減少することと対応している。
【0042】
図1には、本実施の形態に係るABS装置を、車両に適用した場合の構成ブロック図が示されている。
【0043】
図1に示すように、本実施の形態のABS装置は、右前輪(FR)、左前輪(FL)、右後輪(RR)、左後輪(RL)の各車輪に作用するブレーキ力をそれぞれ制御するための制御バルブ52a,52b,52c,52dを備えている。各制御バルブ52a,52b,52c,52dには、各車輪のブレーキディスク30a,30b,30c,30dへブレーキ圧を印加するためのホイールシリンダ56a,56b,56c,56dがブレーキ油圧配管を介してそれぞれ接続されている。
【0044】
また、ABS装置は、各車輪の車輪速度信号ωi (iは車輪番号:i=1,2,3,4 )をそれぞれ出力する車輪速センサ20a,20b,20c,20dを備えている。更に、ABS装置は、微小ゲインGd1,Gd2,Gd3,Gd4をそれぞれ演算する微小ゲイン演算部22a,22b,22c,22dを備えている。
【0045】
ここで、車輪速センサ20c,20dと微小ゲイン演算部22c,22dとの間には、車輪速センサ20c,20dからの車輪速度信号ωi (ω3 ,ω4 )の位相差を所定角度Δθ(90度)に補正する位相補正部33が接続されている。
【0046】
そして、ABS装置は、所定条件の成立により各車輪のブレーキ圧微小励振信号Pv1,Pv2,Pv3,Pv4を出力すると共に、ブレーキ圧微小励振時に演算された微小ゲインGdiに基づいて、各制御バルブ52a,52b,52c,52dのブレーキ圧低減指令信号Pr1,Pr2,Pr3,Pr4を演算出力するABS制御部10を備えている。
【0047】
なお、図1では、前輪が従動輪、後輪が駆動輪とされており、このため、駆動輪である左右の後輪はドライブシャフトを介して互いに連結されている。これに対応して、ABS制御部10から左後輪の制御バルブ52dへ至る、左後輪のブレーキ圧励振信号Pv4の信号線には、該信号の位相を、右後輪のブレーキ圧励振信号Pv3の位相に対し所定時間ΔT(所定角度Δθ)ずらすための位相差生成器32が介在されている。なお、ABS制御部10から出力された直後のブレーキ圧微小励振信号Pv3とPv4とが同位相であるときには、この位相差生成器32を、所定時間ΔTだけ遅延させる遅延器により実現できる。
【0048】
位相補正部33は、図2に示すように、車輪速センサ20c,20dに接続された干渉率演算部62、干渉率演算部62に接続された干渉ゲイン推定部64、入力側が車輪速センサ20c,20d及び干渉ゲイン推定部64に接続され、出力側が微小ゲイン演算部22c,22dに接続された非干渉化補償部66、及び入力側が非干渉化補償部66に接続され、出力側が干渉ゲイン推定部64に接続された共振ゲイン比演算部68を備えている。なお、位相補正部33は、単一の位相補正回路として構成することもできる。
【0049】
微小ゲイン演算部22は、図6に示すように、振動系の共振周波数ω∞((2) 式)でブレーキ圧を微小励振したときの、車輪速度ωi の共振周波数ω∞での微小振幅(車輪速微小振幅ωwv)を検出する車輪速微小振幅検出部40と、共振周波数ω∞のブレーキ圧の微小振幅Pv を検出するブレーキ圧微小振幅検出部42と、検出された車輪速微小振幅ωwvをブレーキ圧微小振幅Pv で除算することにより微小ゲインGd を出力する除算器44と、から構成される。
【0050】
ここで、車輪速微小振幅検出部40は、共振周波数ω∞の振動成分を抽出するフィルタ処理を行う図4のような演算部として実現できる。例えば、この振動系の共振周波数ω∞が40[Hz]程度であるので、制御性を考慮して1周期を24[ms]、約41.7[Hz]に取り、この周波数を中心周波数とする帯域通過フィルタ75を設ける。このフィルタにより、車輪速度信号ωi から約41.7[Hz]近傍の周波数成分のみが抽出される。さらに、このフィルタ出力を全波整流器76により全波整流、直流平滑化し、この直流平滑化信号から低域通過フィルタ77によって低域振動成分のみを通過させることにより、車輪速微小振幅ωwvを出力する。
【0051】
なお、周期の整数倍、例えば1周期の24[ms]、2周期の48[ms]の時系列データを連続的に取り込み、41.7[Hz]の単位正弦波、単位余弦波との相関を求めることによっても車輪速微小振幅検出部40を実現できる。
【0052】
また、制御バルブ52a、52b、52c、52dによるブレーキ圧の制御は、これらの制御バルブ52回りに構成されたブレーキ部により実現することができる。ここで、このブレーキ部の詳細な構成を図5に示す。なお、図5では、1つの制御バルブ52について示す。
【0053】
図5に示すように、ブレーキ部16は、制御バルブ52以外に、マスタシリンダ48、ホイールシリンダ56、リザーバー58及びオイルポンプ60を備えている。
【0054】
ブレーキペダル46は、ブレーキペダル46の踏力に応じて増圧するマスタシリンダ48を介して制御バルブ52の増圧バルブ50へ接続されている。また、制御バルブ52は、減圧バルブ54を介して低圧源としてのリザーバー58へ接続されている。さらに、制御バルブ52には、該制御バルブによって供給されたブレーキ圧をブレーキディスクに加えるためのホイールシリンダ56が接続されている。この制御バルブ52は、ドライバの踏力によるブレーキ圧Pd をホイールシリンダ56に供給すると共に、入力されたバルブ動作指令(Pr +Pv )に基づいて増圧バルブ50及び減圧バルブ54の開閉を制御する。
【0055】
なお、この制御バルブ52が増圧バルブ50のみを開くように制御されると、ホイールシリンダ56の油圧(ホイールシリンダ圧)は、ドライバがブレーキペダル46を踏み込むことによって得られる圧力に比例したマスタシリンダ48の油圧(マスタシリンダ圧)まで上昇する。逆に減圧バルブ54のみを開くように制御されると、ホイールシリンダ圧は、ほぼ大気圧のリザーバ58の圧力(リザーバ圧)まで減少する。また、両方のバルブを閉じるように制御されると、ホイールシリンダ圧は保持される。
【0056】
ホイールシリンダ56によりブレーキディスクに加えられるブレーキ力(ホイールシリンダ圧に相当)は、マスタシリンダ48の高油圧が供給される増圧時間、リザーバー58の低油圧が供給される減圧時間、及び供給油圧が保持される保持時間の比率と、圧力センサ等により検出されたマスタシリンダ圧及びリザーバー圧とから求められる。
【0057】
従って、制御バルブ52の増減圧時間をマスタシリンダ圧に応じて制御することにより、所望のブレーキトルクを実現することができる。そして、ブレーキ圧の微小励振は、平均ブレーキ力を実現する制御バルブ52の増減圧制御と同時に共振周波数に対応した周期で増圧減圧制御を行うことにより可能となる。
【0058】
具体的な制御の内容として、図6に示すように、微小励振の周期T(1/T=ω、例えば24[ms])の半周期T/2毎に増圧と減圧のそれぞれのモードを切り替え、バルブへの増減圧指令は、モード切り替えの瞬間から増圧時間ti 、減圧時間tr のそれぞれの時間分だけ増圧・減圧指令を出力し、残りの時間は、保持指令を出力する。平均ブレーキ力は、マスタシリンダ圧に応じた増圧時間ti と減圧時間tr との比によって定まると共に、共振周波数に対応した半周期T/2毎の増圧・減圧モードの切り替えによって、平均ブレーキ力の回りに微小振動が印加される。
【0059】
なお、ブレーキ圧微小振幅Pv は、マスタシリンダ圧、図6に示したバルブの増圧時間ti の長さ、及び減圧時間tr の長さによって所定の関係で定まる。よって、図3のブレーキ圧微小振幅検出部42は、マスタシリンダ圧、増圧時間ti 及び減圧時間tr からブレーキ圧微小振幅Pv を出力するテーブルとして構成することができる。
【0060】
次に、第1の実施の形態の作用を説明する。
ABS制御部10が、所定条件の成立により各車輪のブレーキ圧微小励振信号Pv1,Pv2,Pv3,Pv4を、制御バルブ52a,52b,52c,52dへ各々出力する。これにより、各車輪のブレーキ圧が共振周波数ω∞で微小励振される。なお、この所定条件として、通常のABS開始条件、例えば、ドライバがブレーキペダルを踏み込み、かつ車輪減速度が一定値を越えた条件などが挙げられる。
【0061】
ブレーキ圧が微小励振されると、励振された第i輪の微小ゲイン演算部22が、第i輪の微小ゲインGdiを演算する。演算された微小ゲインGdiは、ABS制御部10へそれぞれ入力される。ここで、既に述べたように車輪と路面との間の摩擦状態がピークμに近づくにつれ、共振周波数は高周波数側に移行するので、微小ゲインの値は減少していく。
【0062】
そこで、ABS制御部10では、各車輪の微小ゲインGdiと、予め定められた基準ゲインGs とをそれぞれ比較し、ある車輪の微小ゲインGdiが基準ゲインGs 以下となったとき、ピークμ直前の状態とみなして、当該車輪の制御バルブに対し、直ちに平均ブレーキ力を所定量低減する指令Pr を出力する。なお、この基準ゲインGs は、ピークμ直前の状態における微小ゲインの値として設定されたものである。
【0063】
このブレーキ力の低減指令Pr により、図7に示すように、ドライバの踏力に対応するブレーキ力Pd から、指令Pr に対応したブレーキ力分が低減され、ブレーキ力Pd より小さい平均ブレーキ力Pm の状態となる。これにより、ピークμを越えてブレーキ制動されることによるタイヤロックを防止できる。なお、図7では、この平均ブレーキ力Pm の回りにも励振指令Pv に対応した励振成分が重畳されており、この状態においても微小ゲインに基づく判定が行われる。
【0064】
ところで、この励振指令のうち、左後輪のブレーキ圧励振信号Pv4の位相は、位相差生成器32によって、右後輪のブレーキ圧励振信号Pv3の位相に対し所定時間ΔT(所定角度Δθ)ずらされてから制御バルブ52dへ入力される。ここで、各車輪のブレーキ圧励振信号の増圧減圧2モード切り替えの信号波形例を図8(図6の下図に相当)に示す。
【0065】
図8に示すように、各車輪のブレーキ圧励振信号は、微小励振の周期(例えば24[ms])の半周期T/2毎に増圧と減圧のそれぞれのモードを切り替え出力されるが、従動輪である右前輪と左前輪の励振信号は、同位相で各々出力され、駆動輪である右後輪と左後輪の励振信号は、Δθ(>0)の位相差で各々出力されている。この図8の例では、ブレーキ圧励振信号Pv4は、ブレーキ圧励振信号Pv3より、T/4時間遅延されており、これを角度換算すると位相差Δθ=90度となる。
【0066】
このように本実施の形態では、左右の駆動輪のブレーキ圧励振信号の位相差を90度に設定しているので、図9の表に示すように、駆動輪でのブレーキ圧の励振信号と車輪速振動成分との位相差が、干渉の無い従動輪でのその位相差に近づくことになる。よって、ドライブシャフトで連結された左右の後輪間の干渉を軽減することができる。
【0067】
ところで、ドライブシャフトを伝達して実際に干渉を引き起こすのは、ブレーキ圧励振ではなく車輪共振系の振動成分(車輪速度振動成分)である。従って、ブレーキ圧励振信号の位相差と共に左右の駆動輪の車輪速信号の位相差を、上記所定角度に維持することにより、さらに干渉を軽減することができる。
【0068】
以下、車輪速信号の位相差の補正処理を説明する。
図12(A)〜図12(D)には、左右の車輪が同一のμ勾配の路面を走行しているときに、左右等しい平均ブレーキ油圧で、励振制御試験を行ったときの左右輪の駆動輪における、左右のブレーキ力励振指令の位相差と、各輪の共振ゲインの大きさ及び位相差の関係を示したものである。なお、共振ゲインは、ホイールシリンダ油圧振動ゲインに対する車輪速振動ゲインの比である。
【0069】
図12(A)、図12(B)に示すように、ブレーキ力励振指令の位相差が180度に向かう程、共振ゲインの大きさが減少する傾向にあることが理解できる。
【0070】
この現象は、本発明者の検討の結果、図13に示す簡単なモデルで表現することができることが分かった。図13に示すように、このモデルは、各々振動することにより相互干渉する2つの車輪、即ち、左右の駆動輪であり、左右の駆動輪の車輪速信号が干渉ゲインGを通じて互いに干渉し合うモデルとなっている。干渉前の車輪速信号をωr 、ωl 、干渉後の車輪速信号をωr ′、ωl ′とすると、干渉後の車輪速信号ωr ′、ωl ′は(6)式、(7)式のように表現できる。
【0071】
【数6】
Figure 0003644218
【0072】
【数7】
Figure 0003644218
【0073】
このモデルから得られるブレーキ励振指令の位相差に対する共振ゲインの変化と実験結果とを比較すると、図14に示すように、モデルと実験値とがよく一致している。よって、このモデルが実際の干渉メカニズムをよく記述することが理解できる。
【0074】
従って、上記モデルの干渉ゲインGが分かれば、干渉前の車輪速信号ωr 、ωl を、次式で表される簡単な補正により、得ることができる。
ωr =ωr ′−Gωl
ωl =ωl ′−Gωr
【0075】
共振ゲインGは、片輪のみを励振し、そのときの他方の車輪の車輪速振動ゲインから求めることができるが、ABS制御では、両輪を励振するため、この方法を用いることができない。
【0076】
そこで、本実施の形態では、以下の方法で、共振ゲインGを推定する。
まず、左右輪の励振位相差をθ、非干渉後の車輪速振動ゲイン比をrとすると、(6)式、(7)式より、左右車輪速の関係が、式(8)のように得られる。
【0077】
【数8】
Figure 0003644218
【0078】
ここで、(8)式に励振位相差θ=π/2を代入しかつ整理し、干渉率、即ち、ωl ′/ωr ′の位相角度ψの余弦(cosψ)を求めると、(9)式の関係を得る。
【0079】
【数9】
Figure 0003644218
【0080】
よって、cosψを求めると共に、求めたcosψと(9)式とから、干渉ゲインGを推定することができる。
【0081】
しかし、rは、未知数であるので、(9)式から干渉ゲインGを解析的に求めるのは困難である。
【0082】
そこで、逐次代入法(逐次近似法)等の収束演算により、干渉ゲインGを推定する。なお、rは、初期値としてωl ′とωr ′とのゲイン比を用いる。そして、推定した干渉ゲインGと、(8)式、(9)式を用いて、非干渉化した車輪速信号ωl 、ωr を推定し、これらの共振ゲイン比を求めて改めてrとして、次回の推定周期で用いる。
【0083】
以上の処理は、位相補正部33が実行する。以下、位相補正部33が単一の位相補正回路として構成されているとして説明する。
【0084】
図15には、位相補正部33が上記所定条件成立したとき実行する位相補正処理ルーチンが示されている。
【0085】
図15のステップ122で、干渉率cosψを演算する。
ここで、干渉率cosψは、車輪速信号ωl ′、ωr ′のcos関数とsin関数との相関演算を用いて、各車輪速信号ωl ′、ωr ′の実部(cos関数の相関値)と虚部(sin関数の相関値)を演算し、次式(10)より、干渉率cosψ(k)を演算する。但し、本ルーチンが実行される際、kは0である。
【0086】
【数10】
Figure 0003644218
【0087】
次に、逐次代入法を用いて干渉ゲインG(k)を、次のようにして推定する。即ち、ステップ124で、繰返演算回数を表すNを初期化し、ステップ126で、次式(11)より示される干渉ゲインG(N+1,k−1)を演算する。
【0088】
【数11】
Figure 0003644218
【0089】
但し、G(0,k−1)=G(k−1)、G(0,−1)=0である。また、r(−1)は、前述したように、初期値として、次式(12)より示されるωl ′とωr ′とのゲイン比を用いる。
【0090】
【数12】
Figure 0003644218
【0091】
ステップ128で、繰返演算が無限に実行されないようにするためのerr判定値、即ち、今回演算した干渉ゲインG(N+1,k−1)と前回演算した干渉ゲインG(N,k−1)との差の干渉ゲインG(N,k−1)に対する比を、次式(13)より求める。
【0092】
【数13】
Figure 0003644218
【0093】
ステップ130で、Nを1インクリメントし、ステップ132で、err判定値が、予め定めた値εより大きいか否かを判断する。err>εの場合には、ステップ134で、繰返演算回数Nが予め定めた最大値Nmax より小さいか否かを判断する。N<Nmax の場合には、ステップ126に戻って、繰返演算する。err>εでない場合及びN<Nmax でない場合には、ステップ136で、干渉ゲインG(k)をG(N,k−1)として推定する。
【0094】
ステップ138で、上記のように推定された干渉ゲインG(k)を用いて、車輪速信号を、(8)式、(9)式により、補正して、微小ゲイン演算部22c、22dに出力する。これにより、補正された車輪速信号ωl 、ωr から、微小ゲインが演算され、ピークμ追従制御が行われる。
【0095】
ステップ140で、ステップ138で補正された車輪速信号を用いて、非干渉化車輪速信号のゲイン比r(k)を演算する。即ち、前述したステップ122のように、補正された車輪速信号ωl 、ωr の実部(cos関数の相関値)と虚部(sin関数の相関値)を演算し、次式(14)により演算する。
【0096】
【数14】
Figure 0003644218
【0097】
ステップ142で、kを1インクリメントして、ステップ122に戻って、以上の処理(ステップ122〜ステップ142)を実行する。なお、この場合、ステップ126において、非干渉化車輪速信号のゲイン比rは、ステップ140で演算したものを用いる。
【0098】
以上のように、所定推定周期毎に、干渉ゲインG(k)を逐次代入法を用いて繰返演算により、干渉後の車輪速信号ωl ′、ωr ′を考慮して、推定している。このため、左右の車輪が各々異なるμ勾配の路面を走行しても、μ勾配の違いが車輪速信号ωl 、ωr に反映される。よって、左右の車輪が各々異なるμ勾配の路面を走行しても、干渉ゲインを精度よく推定することができる。よって、左右の車輪が各々異なるμ勾配の路面を走行しても、車輪速信号の位相差を精度よく補正することができる。また、位相補正された車輪速度信号が入力された微小ゲイン演算部では、干渉の影響の無い(或いは軽減された)微小ゲインGd を演算することが可能となる。すなわち、単に制御バルブへのブレーキ圧励振信号の位相差を90度に設定するのみでなく、残存する干渉等に起因する車輪速度振動間の位相差のずれを補正することで干渉の影響をさらに軽減できるので、駆動輪のブレーキ力の制御を、より高精度に実行することができる。
【0099】
ここで、干渉ゲインは、図14に示す実際の干渉メカニズムに精度よく対応するモデルから求めている。よって、干渉率が大きい場合にも、駆動輪のブレーキ力の制御を、より高精度に実行することができる。
【0100】
なお、以上は、位相補正部33が単一の位相補正回路として構成されているとした場合であり、図2に示した構成の場合には、干渉率演算部62がステップ122、ステップ142を、干渉ゲイン推定部64が、ステップ124〜ステップ136を、非干渉化補償部66がステップ138を、共振ゲイン比演算部68がステップ140を実行する。
【0101】
図16(A)に干渉ゲインGの実験結果を、図16(B)に干渉率cosψの実験結果を、それぞれ示す。なお、実験には、左右の車輪が同一の路面において、時速70km/hからブレーキ力を励振させながら制動を行ったときの駆動輪の車輪速信号を用いている。
【0102】
図16(A)より、干渉ゲインGは、片輪を励振して求めた値0.3によく一致しており、干渉ゲインは良好に推定されたことが理解できる。
【0103】
また、図16(B)に示すように、干渉率cosψも、車輪速信号を補正しているため、補正前の波形Aと比較すると、補正後の波形Bは、0付近に落ち着いていることが理解できる。即ち、車輪速信号ωl 、ωr の位相差を90度に精度よく補正していることが理解できる。
【0104】
図17(A)〜図17(F)、 図18(A)〜図18(F)には、右輪が低μ路面、左輪が高μ路面を走行した場合における、上記非干渉化補正処理を行わない場合と行った場合の、車輪速(A)、マスタシリンダ圧及びホイールシリンダ圧(B)、共振ゲイン及び指令ゲイン(C)の実験結果を示している。これらの図から理解されるように、上記非干渉化補正処理を行わない場合の共振ゲイン(図17(C)、図17(F))より、上記非干渉化補正処理を行った場合の共振ゲイン(図18(C)、図18(F))のほうが、その上昇が低く抑えられている。また、上記非干渉化補正処理を行わない場合、図17(A)、図17(D)に示すように、車が停止する前に、車輪速度が0になっている、即ち、車輪がロックしている。しかし、上記非干渉化補正処理を行った場合、図18(A)、図18(D)に示すように、車輪がロックしていない。
【0105】
なお、ABS制御部10のABS制御方法は、任意好適に変更可能である。例えば、次式のΔGを零に一致又は略一致するように制御バルブ52を制御するようにしても良い。
【0106】
【数15】
Figure 0003644218
【0107】
(15)式によれば、ピークμを越えて微小ゲインGd がGs より小さくなると、ΔGの負値が急激に大きくなる。すなわち、感度が高くなるため、タイヤロックに陥る可能性を回避しつつ、ピークμを維持する制御をより高精度に行うことができる。
【0108】
ここで、位相補正部33による位相補正前と位相補正後の駆動輪の車輪速度信号の位相角度の違いを図19の表に示す。なお、図19では、左右の駆動輪のブレーキ圧励振信号の位相差は90度となっており、この駆動輪についての位相補正後の位相関係は、図20により表される。また、比較のため示した従動輪のデータは、図9の表のデータと全く同じである。
【0109】
図19の表に示すように、位相補正後におけるブレーキ圧から車輪速度信号までの位相は、位相補正前と比較して、従動輪の位相に近くなっている(表の下線部)。すなわち、駆動においても従動輪と同様なブレーキ圧微小励振によるABS制御性能を得ることができる。
以上が本発明の各実施の形態であるが、本発明は、上記例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において任意好適に変更可能である。
【0110】
例えば、上記各実施の形態では、前輪が従動輪、後輪が駆動輪の車両を例にしたが、前輪が駆動輪、後輪が従動輪の車両や4輪駆動車にも本発明を適用できる。この場合、位相差生成器32や位相補正部33を、駆動輪側に対応付けて配置する(4輪駆動車の場合は、前輪、後輪側とも配置する)。
【0111】
また、実施の形態では、微小ゲインGd が基準ゲインGs に一致するようにブレーキ力を制御するABS装置を例にしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、ブレーキ圧を微小励振したときの車輪共振系の共振特性の変化に基づいてブレーキ力を制御するすべてのABS装置に適用可能である。このようなABS装置として、例えば、特願平7−220920号の明細書に記載のように、共振周波数を検出し、この共振周波数が基準値以上の周波数に変化したとき、ピークμ直前の状態とみなしてブレーキ力を制御する装置や、ブレーキ圧微小振幅が一定となるように制御し、微小ゲインGd の代わりに車輪速度微小振幅値を用いる装置などが挙げられる。
【0112】
また、ブレーキ圧の微小励振手段を、実施の形態では、制御バルブへの増圧減圧時間の調整により実現したが、本発明は、これに限定されるものではなく、励振指令に応じて伸縮する圧電アクチュエータによりブレーキディスクに直接ブレーキ圧を加える手段を用いることもできる。また、制動力・駆動力を電気的に制御できる電気自動車の場合、電気的な制御により車輪速度に微小励振を印加することも可能である。
【0113】
さらに、実施の形態では、ブレーキ圧の励振信号の位相差Δθを90度としたが、本発明は、この角度に限定されるものではなく、車輪共振系の特性に応じて任意好適に変更可能である。
【0114】
また、実施の形態では、干渉率cosψを、(10)式から求めているが、本発明はこれに限定されず、車輪速信号ωl ′、ωr ′の相関演算により求めてもよい。即ち、(16)式により求めてもよい。
【0115】
【数16】
Figure 0003644218
【0116】
さらに、実施の形態で左右の駆動輪について車輪速信号を補正するようにしているが、本発明はこれに限定されず、図13に示すモデルが成立すれば、前後の車輪にツイテも同様に適用することができる。
【0117】
【発明の効果】
以上説明したように本発明は、2つの車輪の干渉率と、2つの車輪の車輪速のゲイン比と、に基づいて、2つの車輪の干渉ゲインを推定するので、2つの車輪が各々異なるμ勾配の路面を走行しても、該μ勾配が干渉ゲインに反映され、干渉ゲインを精度よく推定でき、よって、車輪速各々を、一方の車輪速における他方の車輪振動による干渉成分が小さくなるように、精度よく補正することができる。従って、2つの車輪の正確なアンチロックブレーキ制御が可能となる、という効果を有する。
【0118】
また、本発明は、上記ゲイン比を、補正された2つの車輪の車輪速各々に基づいて再度演算したものとし、干渉ゲインを、干渉率と該ゲイン比とに基づいて推定したものとするので、干渉ゲインをより精度よく推定することができる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るアンチロックブレーキ制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】位相補正部のブロック図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る微小ゲイン演算部の構成を示すブロック図である。
【図4】上記微小ゲイン演算部の車輪速微小振幅検出部の構成を示すブロック図である。
【図5】ブレーキ部のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図6】ブレーキ圧の微小励振と平均ブレーキ力の制御を同時に行う場合の制御バルブへの指令を示す図である。
【図7】車輪に加えるブレーキ力の概形を示す線図である。
【図8】車輪毎のブレーキ圧励振信号の位相関係を示す図である。
【図9】各車輪のブレーキ圧励振信号から車輪速度振動までの位相を、従動輪及び駆動輪に分けて各路面毎に示した表である。
【図10】左右の従動輪の位相関係を示すベクトル図である。
【図11】左右の駆動輪の位相関係を示すベクトル図である。
【図12】(A)は、左右輪のブレーク励振指令の位相差に対する共振ゲインの大きさ(左輪)を、(B)は、左右輪のブレーク励振指令の位相差に対する共振ゲインの位相差(左輪)を、(C)は、左右輪のブレーク励振指令の位相差に対する共振ゲインの大きさ(右輪)を、(D)は、左右輪のブレーク励振指令の位相差に対する共振ゲインの位相差(右輪)を、示した線図である。
【図13】図3に示した現象を表現するモデルを示した図である。
【図14】(A)は、図4のモデルにおける、左右輪のブレーク励振指令の位相差に対する共振ゲインの大きさの理論値と実験値とを、(B)は、図4のモデルにおける、左右輪のブレーク励振指令の位相差に対する共振ゲインの位相差の理論値と実験値とを、それぞれ示した線図である。
【図15】位相補正処理ルーチンを示したフローチャートである。
【図16】(A)は、干渉ゲインの実験結果を、(B)は、干渉率の実験結果を、それそれ示した図である。
【図17】(A)は、左輪における車輪速、(B)は、左輪におけるホイールシリンダ圧、(C)は、左輪における共振ゲイン、(D)は、左輪における車輪速、(E)は、左輪におけるホイールシリンダ圧、(F)は、左輪における共振ゲインの、位相補正処理しない場合の実験結果を示した図である。
【図18】(A)は、左輪における車輪速、(B)は、左輪におけるホイールシリンダ圧、(C)は、左輪における共振ゲイン、(D)は、左輪における車輪速、(E)は、左輪におけるホイールシリンダ圧、(F)は、左輪における共振ゲインの、位相補正処理した場合の実験結果を示した図である。
【図19】各車輪のブレーキ圧励振信号から車輪速度振動までの位相を、駆動輪での位相補正前と位相補正後の各々の場合について路面毎に示した表である。
【図20】位相補正後の左右の駆動輪の位相関係を示すベクトル図である。
【図21】車輪と車体と路面とから構成される振動系の等価モデルを示す図である。
【図22】タイヤと路面との間の摩擦係数μのスリップ率Sに対する特性を示す線図である。
【符号の説明】
10 ABS制御部
20 車輪速センサ
22 微小ゲイン演算部
32 位相差生成器
33 位相補正部
34 位相補正演算器
35 相関演算器
40 車輪速微小振幅検出部
42 ブレーキ圧微小振幅検出部
52 制御バルブ

Claims (2)

  1. 各々振動すると相互干渉する2つの車輪に対するブレーキ力各々を、該2つの車輪の相互干渉が低減する予め定められた波形位相差で、微小励振する微小励振手段と、
    前記2つの車輪の車輪速各々を検出する検出手段と、
    前記微小励振手段により微小励振されたときの前記検出手段により検出された車輪速各々に基づいて、前記2つの車輪間の干渉率と、前記2つの車輪の車輪速のゲイン比と、を演算する演算手段と、
    前記演算手段により演算された干渉率及びゲイン比に基づいて、前記2つの車輪間の干渉ゲインを推定する推定手段と、
    前記推定手段により推定された干渉ゲインを用いて、前記検出手段により検出された車輪速各々を、一方の車輪速における他方の車輪振動による干渉成分が小さくなるように、補正する補正手段と、
    前記補正手段により補正された車輪速の振動特性の変化に基づいて、平均的なブレーキ力を制御する制御手段と、
    を備えたアンチロックブレーキ制御装置。
  2. 前記ゲイン比は、前記補正手段により補正された車輪速各々に基づいて再度演算されたものであり、前記干渉ゲインは、前記干渉率と該ゲイン比とに基づいて推定されたものであることを特徴とする請求項1記載のアンチロックブレーキ制御装置。
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