JP3632640B2 - 熱間圧延用ロール外層材および熱間圧延用複合ロール - Google Patents
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Description
【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱間圧延用複合ロールに係り、とくに鋼板の熱間圧延仕上後段スタンドに好適な熱間圧延用複合ロールに関する。
【０００２】
【従来の技術】
近年、鋼板や鋼管の熱間圧延技術の進歩はめざましく、それに伴い、使用される熱間圧延ロールの特性、とくに耐摩耗性の向上が強く要求されてきた。このような耐摩耗性向上の要求に対し、外層組成を高速度工具鋼組成に類似した組成とし、硬質な炭化物を析出させて、耐摩耗性を格段に向上させた高性能ロール（ハイス系ロール）が開発され実用化されている。
【０００３】
一方、被圧延材の焼付きが生じやすい圧延スタンドやミルには、黒鉛を含有するグレン鋳鉄ロールが組み込まれて熱間圧延が行われてきた。熱間圧延ロールに黒鉛を含有させることは、黒鉛が潤滑性に富むことから焼付き防止には有効であるが、しかし、黒鉛がロールの摩耗や肌荒れを助長する傾向を有しているため、従来のグレン鋳鉄ロールでは、耐摩耗性および耐肌荒れ性が要求されるレベルに対し十分とはいえず問題を残していた。
【０００４】
このような問題に対し、例えば、特開平１−２８７２４８ 号公報には、Ｎｉグレン鋳鉄に１．０ 〜５．０ ％のＶと、２．０ 〜１０．０％のＭｏを添加し、耐摩耗性を向上させるとした熱間圧延用ロールが提案されている。また、特開平６−３３５７１２ 号公報には、Ｎｉグレン鋳鉄に２．０ 〜８．０ ％のＶを添加し、０．５ 〜５％の黒鉛に加えて０．２ 〜１０％のＭＣ型炭化物を出現させて耐摩耗性を向上させるとした熱間圧延用ロールが提案されている。
【０００５】
しかし、最近では、圧延製品の品質向上と効率的生産の観点から、圧延速度の増加、連続圧延量の増加等、熱間圧延用ロールの使用環境はますます過酷化し、同時に、被圧延材の高合金化など生産される圧延製品の品種が多様化するに伴い、熱間圧延作業ロールに対する要求もさらに高く、しかも多様化している。特開平１−２８７２４８ 号公報、特開平６−３３５７１２号公報に記載された技術によっても、耐焼付き性と耐摩耗性を両立させることは困難となっている。
【０００６】
またさらに、鋼板の熱間圧延においては、圧延用作業ロールとして、グレン鋳鉄ロールとロールクラウンが異なるハイス系ロールの導入により、大きな絞り圧延事故の発生頻度が増加しており、特に仕上げ後段スタンドでは耐事故性の観点から、耐摩耗性に劣るものの耐焼付き性に優れたグレン鋳鉄ロールを使用せざるをえない状況にある。さらに、鋼板の表面品質への要求が厳しくなり、特開平１−２８７２４８ 号公報、特開平６−３３５７１２号公報に記載された技術で利用されているような、Ｖ添加に起因する炭化物偏析が問題視されるようになってきている。また、Ｖを添加したのみでは、オーステナイト（デンドライト）と共晶する形で、コロニー状の粗大なＭＣ炭化物が晶出し、結晶粒を粗大化することによってロールの肌荒れや摩耗を促進するという問題があった。一方、鋼管圧延においても圧延鋼種の高合金化が進んでおり、圧延用ロールへの焼付き防止と耐摩耗性向上のニーズが増大している。
【０００７】
【発明の解決しようとする課題】
本発明は、上記した従来技術の問題を有利に解決し、耐焼付き性と耐摩耗性がともに優れた、熱間圧延用外層材および熱間圧延用複合ロールを提案することを目的とする。
【０００８】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、耐焼付き性と耐摩耗性を同時に向上させるために、熱間圧延用ロールの外層組成について鋭意検討した。その結果、１〜 ３．５％のＶを含有せしめ、さらに特定量のＮｂを添加するとＭＣ型炭化物が微細粒状となり結晶粒の粗大化が抑制されて、炭化物偏析が防止され、耐摩耗と耐肌荒れ性が向上することを見い出した。さらに、ＮｂとＶを含有したうえで、さらにＢとＡｌを共存させて含有することにより、耐摩耗性と耐焼付き性がともに顕著に向上することを新規に見いだした。またさらに、Ｃｒ／Ｃが１以下となるようにＣｒ含有量とＣ含有量を調整することにより、焼付きが発生しがたい低Ｃｒ炭化物量が増加し耐焼付き性がさらに向上することを見いだした。
【０００９】
まず、本発明者らが行った本発明の基礎となったＡｌとＢの複合添加に関する実験結果を説明する。
質量％で、３．３ ％Ｃ−１．２ ％Ｓｉ−０．５ ％Ｍｎ−４．７ ％Ｎｉ−２．０ ％Ｃｒ−０．９ ％Ｍｏ−１．５ ％Ｖ−０．３ ％Ｎｂをベース成分として、Ａｌ：０〜０．０７％、Ｂ：０〜０．１４％の範囲に変化した溶湯を溶製し、遠心鋳造法によりロール外層材に相当するリング状試験材とした。これらリング状試験材から試験片を採取し、焼付き試験、摩耗試験を実施した。
【００１０】
なお、焼付き試験は、図２に示すように、高周波加熱コイルにより８５０ ℃に加熱され、５０ｒｐｍ で回転する円板状の相手材（材質：ＳＴＢＡ２３、大きさ：１９０ｍｍ φ）を２５ｍｍ厚の板状の試験片に１００ｋｇ で１０ｓ間圧接し、図３に示すように、圧接中の相手材のトルク変動から焼付き時間を測定し、この焼付き時間を耐焼付き性の指標とした。なお、焼付き時間が零あるいは２ｓ以下と短い場合を耐焼付き性に優れると評価した。また、摩耗試験は、相手材（材質：Ｓ４５Ｃ， 大きさ：１９０ｍｍ φ）と試験片（大きさ：６０ｍｍφ）の２円盤すべり摩耗方式で実施した。試験片を回転数 ７００ｒｐｍ で回転させながら、相手材を７２０ ℃に加熱し、試験片を水冷し、試験片と相手材のすべり率を１０％として、荷重 １００ｋｇで圧接しながら１２０ｍｉｎ間転動させた。試験後、試験片の摩耗減量を測定した。耐摩耗性は、Ａｌ，Ｂ無添加材 （基準片）の摩耗量を基準値とし、基準値に対する各試験片の摩耗量の比、摩耗比（＝（各試験片の摩耗量）／（基準片の摩耗量））で評価した。
【００１１】
得られた結果を図１に示す。図１から、Ａｌと共存させてＢを０．０２〜０．１０％含有すると、耐焼付き性と耐摩耗性が同時に顕著に向上することがわかる。
本発明は、上記した知見に基づいてさらに検討を加えて構成されたものである。
すなわち、本発明は、熱間圧延用複合ロールの外層に用いられる外層材であって、質量％で、Ｃ：２．５ 〜４．０ ％、Ｓｉ：０．８ 〜２．５ ％、Ｍｎ：０．２ 〜１．５ ％、Ｃｒ：１．０ 〜３．５ ％、Ｍｏ： ０．５ 〜４．０ ％、Ｎｉ：３．０ 〜７．０ ％、Ｖ：１．０ 〜３．５ ％、Ｎｂ：０．２ 〜１．０ ％、Ａｌ：０．０２〜０．２ ％、Ｂ：０．０２０ 〜０．１０％を含み、かつＣｒ／Ｃが１以下を満足し、残部Ｆｅおよび不可避的不純物からなる組成と、黒鉛を面積率で０．６ 〜４％含有する組織を有することを特徴とする耐焼付き性と耐摩耗性に優れた熱間圧延用ロール外層材であり、また，本発明では、前記組成に加えてさらに、質量％で、ＲＥＭ ：０．１０％以下、Ｃａ：０．０１％以下のうちから選ばれた１種または２種を含有することが好ましい。
【００１２】
また、本発明は、外層と内層が溶着一体化してなる熱間圧延用複合ロールであって、前記外層が、質量％で、Ｃ：２．５ 〜４．０ ％、Ｓｉ：０．８ 〜２．５ ％、Ｍｎ：０．２ 〜１．５ ％、Ｃｒ：１．０ 〜３．５ ％、Ｍｏ： ０．５ 〜４．０ ％、Ｎｉ：３．０ 〜７．０ ％、Ｖ：１．０ 〜３．５ ％、Ｎｂ：０．２ 〜１．０ ％、Ａｌ：０．０２〜０．２ ％、Ｂ：０．０２０ 〜０．１０％を含み、かつＣｒ／Ｃが１以下を満足し、残部Ｆｅおよび不可避的不純物からなる組成と、黒鉛を面積率で ０．６〜４％含有する組織を有することを特徴とする耐焼付き性と耐摩耗性に優れた熱間圧延用複合ロールであり、また、本発明では、前記外層の組成に加えてさらに、質量％で、ＲＥＭ ：０．１０％以下、Ｃａ：０．０１％以下のうちから選ばれた１種または２種を含有することが好ましい。また、本発明では、前記内層を球状黒鉛鋳鉄、いも虫状黒鉛鋳鉄あるいは、黒鉛鋼などの、強靱でかつ鋳造性の良い材料で構成することが好ましい。
【００１３】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の熱間圧延用複合ロールの外層（外層材）の組成限定理由について説明する。なお、組成における％は質量％である。
Ｃ：２．５ 〜４．０ ％
Ｃは、Ｖ，Ｎｂ，Ｃｒ，Ｍｏと結合して、ロールの耐摩耗性を向上するための硬質炭化物形成に必須な元素であるとともに、耐焼付き性を向上させる黒鉛を晶出させる必須の元素であり、本発明では ２．５％以上の含有を必要とする。一方、４．０ ％を超えて含有すると脆弱な炭化物が多量に出現し、耐摩耗性が低下する。このため、Ｃは ２．５〜 ４．０％の範囲に限定した。なお、好ましくは、２．８ 〜３．７ ％である。
【００１４】
Ｓｉ：０．８ 〜２．５ ％
Ｓｉは、脱酸剤として作用するとともに、Ｃの活量を低減し黒鉛を晶出させやすくする元素であり、本発明では０．８ ％以上の含有を必要とする。一方、２．５ ％を超えて含有しても、上記した効果は飽和するうえ、かえって耐摩耗性が低下し、含有量に見合う効果を期待できず、経済的に不利となる。このようなことから、Ｓｉは０．８ 〜２．５ ％に限定した。なお、好ましくは１〜 １．８％である。
【００１５】
Ｍｎ： ０．２〜 １．５％
Ｍｎは、溶鋼中のＳをＭｎＳ として固定し、耐摩耗性を阻害するＳを除去するために有用である。また、焼入れ性を向上し硬さを増加させるという効果もある。このような効果を得るためには、０．２ ％以上の含有が必要である。しかし、１．５ ％を超えて含有すると凝固界面に偏析し材料を脆化させる。このため、Ｍｎは ０．２〜 １．５％の範囲に限定した。なお、好ましくは０．２ 〜１．０ ％である。
【００１６】
Ｃｒ：１〜３．５ ％
Ｃｒは、硬質な共晶炭化物を生成し、Ｍｏとともに含有して耐摩耗性を向上させる元素であり、本発明では１％以上の含有を必要とする。一方、３．５ ％を超えて含有すると、黒鉛の晶出が抑制され耐焼付き性が低下する。このため、Ｃｒは１〜３．５ ％に限定した。
【００１７】
Ｍｏ： ０．５ 〜４．０ ％
Ｍｏは、黒鉛の晶出を阻害することなく、耐摩耗性向上に有効な炭化物を生成する元素である。Ｖ，Ｎｂと複合して含有されると、より強靭で硬質な炭化物であるＭＣ炭化物を生成し、顕著に耐摩耗性を向上する効果を有する。このような効果を得るためには０．５ ％以上の含有を必要とする。一方、４．０ ％を超えて含有すると、Ｍｏ主体の脆弱な炭化物を多量に形成して耐摩耗性が顕著に低下する。このため、Ｍｏは０．５ 〜４．０ ％に限定した。なお、好ましくは ０．６〜３％である。
【００１８】
Ｎｉ：３．０ 〜７．０ ％
Ｎｉは、焼入れ性を向上し、材料の硬さを増加させて耐摩耗性を向上させる効果を有する。また、黒鉛の晶出を促進させる効果も有する。このような効果は３．０ ％以上の含有で認められるが、７．０ ％を超えて含有すると、オーステナイトを著しく安定化し、残留オーステナイト量が増加し耐焼付き性を低下させる。このため、Ｎｉは３．０ 〜７．０ ％の範囲に限定した。なお、好ましくは４．０ 〜６．０ ％である。
【００１９】
Ｖ：１．０ 〜３．５ ％
Ｖは、硬質なＭＣ型炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる効果を有する。一定レベル以上の耐摩耗性を得るために、本発明では、１．０ ％以上の含有を必要とする。一方、３．５ ％を超える含有は、耐焼付き性を劣化させるとともに、炭化物の凝固偏析を促進し、ロール表面品質を低下させる。このため、Ｖは１．０ 〜３．５ ％の範囲に限定した。
【００２０】
Ｎｂ：０．２ 〜１．０ ％
Ｎｂは、Ｖ，Ｍｏと複合して含有することにより、硬質なＭＣ型炭化物を強化せしめ、さらに粒状に分散させる極めて重要な作用を持ち、炭化物偏析を抑制すると共に、耐摩耗性を顕著に向上させる。前記効果を得るためには、０．２ ％以上の含有を必要とするが、１．０ ％を超えて含有すると、ＭＣ型炭化物が粗大化して凝固偏析が発生するようになり、ロール表面品質を低下させる。このため、Ｎｂは ０．２〜１．０ ％の範囲に限定した。
【００２１】
Ａｌ：０．０２〜０．２０％
Ａｌは、黒鉛化を強く促進し、かつ、黒鉛形状を改良して耐焼付き性を向上させる作用を有する元素であり、本発明では一定レベル以上の耐焼付き性を確保するために０．０２％以上の含有を必要とする。一方、０．２ ％を超えて含有すると、耐摩耗性に不利な粗大片状の黒鉛が過剰に晶出し耐摩耗性が低下する。このため、Ａｌは０．０２〜０．２０％の範囲に限定した。なお、好ましくは０．０３〜０．１５％である。
【００２２】
Ｂ：０．０２０ 〜０．１０％
Ｂは、黒鉛を微細化、塊状化する作用を有するとともに、さらにＡｌによる過剰な黒鉛の晶出を抑制する作用、および耐摩耗性を低下させることなく耐焼付き性を向上させる作用を有する。このような作用はＡｌ共存下で０．０２０ ％以上の含有で認められるが、０．１０％を超えて含有すると、炭化物が脆弱化し，耐摩耗性が低下するとともに、黒鉛量も低下する。このため、Ｂは０．０２０ 〜０．１０％の範囲に限定した。
【００２３】
Ｃｒ／Ｃ：１以下
Ｃｒ含有量がＣ含有量を超える、すなわちＣｒ／Ｃが１を超えると、基地中および炭化物中のＣｒ濃度が増加して、焼付きが発生しやすくなり、また、黒鉛量も減少する。Ｃｒ／Ｃが１以下であれば、比較的Ｃｒ濃化の少ない炭化物が生成し、黒鉛量も維持でき、耐焼付き性の低下を抑制できる。このため、Ｃｒ／Ｃを１以下に限定した。なお、好ましくは、Ｃｒ／Ｃ：０．８５以下である。
【００２４】
さらに、本発明では、下記の範囲内であれば、ＲＥＭ 、Ｂのうちの１種または２種を含有してもよい。
ＲＥＭ ：０．１％以下
ＲＥＭ は、黒鉛を球状化するとともに微細分散させ、黒鉛の切欠き効果を減少させて耐摩耗性を一層向上させる作用を有しており、必要に応じ含有することが好ましい。このような効果は、０．００５ ％以上の含有で認められるようになるが、０．１ ％を超える含有は黒鉛量が減少し、耐焼付き性を劣化させる。このため、ＲＥＭ は０．１ ％以下に限定することがよい。なお、黒鉛球状化の観点からはＲＥＭ 中の３０質量％以上をＣｅとすることがより好ましい。
【００２５】
Ｃａ：０．０１％以下
Ｃａも、黒鉛を球状化し、黒鉛の切欠き効果を減少させて耐摩耗性を一層向上させる作用を有している。このような効果は、０．０００５％以上の含有で認められるようになるが、０．０１％を超える含有は黒鉛量が減少し、耐焼付き性を劣化させる。このため、Ｃａは０．０１％以下に限定することが好ましい。
【００２６】
上記した成分以外の残部は、Ｆｅおよび不可避的不純物である。不可避的不純物として、Ｐ：０．１ ％以下、Ｓ：０．０５％以下とするのが好適である。
また、本発明の外層材では、上記した組成に加えて、面積率で ０．６〜４％の黒鉛を含有する組織を有する。黒鉛量が ０．６％未満では、潤滑作用が低下し耐焼付き性が低下する。一方、４％を超えると、耐摩耗性および耐肌荒れ性が低下する。このため、黒鉛含有量は上記範囲に限定した。
【００２７】
本発明では、外層材の製造方法は特に限定されないが、上記した組成の溶湯を、遠心鋳造法で所定の寸法形状の外層材とすることが好ましい。そして、外層材の凝固途中あるいは完全凝固後に、鋳型の回転を停止し内層材を静置鋳造して、複合ロールとすることが好ましい。これにより外層材の内面側が再溶解され外層と内層が溶着一体化した、複合ロールとなる。
【００２８】
静置鋳造される内層は、鋳造性と機械的性質に優れた球状黒鉛鋳鉄やいも虫状黒鉛鋳鉄あるいは黒鉛鋼などを用いるのが好ましい。また、外層と内層の間に、黒鉛鋼や高炭素鋼からなる中間層を設けてもよい。遠心鋳造法でロールを製造する場合、中間層は、外層の遠心鋳造に引きつづいて、遠心鋳造すれば良い。
なお、以上の説明は、主として、鋼板の熱間圧延用ロールを対象に説明してきたが、本発明は、鋼板の熱間圧延用複合ロールに限定されることはなく、カリバー付き鋼管圧延用複合ロールに適用しても何ら問題はないことはいうまでもない。なお、鋼管圧延用のスリーブ式ロールを製造する場合は、外層を遠心鋳造後、球状黒鉛鋳鉄や、黒製鋼、高炭素鋼を内層材として、遠心鋳造すればよい。
【００２９】
【実施例】
（実施例１）
表１に示す組成を有する溶湯を溶製し、ロール外層材に相当するリング状試験材（外径：２５０ｍｍ φ、肉厚：６０ｍｍ）を遠心鋳造により作製した。なお、鋳込み温度は１３２０℃、遠心力は、重力倍数で １６０Ｇとした。鋳造後、試験材に４２０ 〜５００ ℃の温度で焼戻し処理を施した。焼戻し後の硬さは、Ｈｓ７８〜８３であった。なお、リング材Ｅは従来材であるＮｉグレン鋳鉄製のリング材である。
【００３０】
これら試験材から試験片を採取し、組織観察、摩耗試験、および焼付き試験を行った。
（１）組織観察
リング状試験材から組織観察用試験片を採取し、リング状試験材断面について、硝酸水溶液で腐食して、試験材断面について、マクロ組織を観察し、炭化物の偏析状況を調査した。偏析模様が観察される場合を偏析あり、その他の場合を偏析なしとした。また、試験片断面について、研磨後、光学顕微鏡により観察し、画像解析装置により黒鉛の面積率を測定した。
（２）摩耗試験
リング状試験材から試験片（大きさ：６０ｍｍφ）を採取し、相手材（材質：Ｓ４５Ｃ， 大きさ：１９０ｍｍ φ）と試験片の２円盤すべり摩耗方式で摩耗試験を実施した。試験片を回転数 ７００ｒｐｍ で回転させながら、相手材を７２０ ℃に加熱し、試験片を水冷し、試験片と相手材のすべり率を１０％として、荷重 １００ｋｇで圧接しながら１２０ｍｉｎ間転動させた。試験後、試験片の摩耗減量を測定した。耐摩耗性は、Ａｌ，Ｂ無添加材 （リング材Ｎｏ． Ａ； ）の摩耗量を基準値とし、基準値に対する各試験片の摩耗量の比、摩耗比（＝（各試験片の摩耗量）／（基準片の摩耗量））で評価した。
（３）焼付き試験
リング状試験材から試験片（２５ｍｍ厚の板状）を採取し焼付き試験を実施した。図２に示すように、高周波加熱コイルにより８５０ ℃に加熱され、５０ｒｐｍ で回転する円板状の相手材（材質：ＳＴＢＡ２３、大きさ：１９０ｍｍ φ）を板状の試験片に１００ｋｇ で１０ｓ間圧接し、図３に示すように、圧接中の相手材のトルク変動から焼付き時間を測定し、この焼付き時間を耐焼付き性の指標とした。なお、焼付き時間が零あるいは２ｓ以下と短い場合を耐焼付き性に優れると評価した。
【００３１】
得られた結果を表２に示す。
【００３２】
【表１】
【００３３】
【表２】
【００３４】
本発明例はいずれも、耐摩耗性と耐焼付き性がともに優れたロール外層材となっている。一方、本発明の範囲から外れる比較例は、耐焼付き性、あるいは耐摩耗性のいずれかあるいは両方が低下している。Ａｌ， Ｂを含有しない比較例（リング材Ｎｏ． Ａ）では耐摩耗性は優れているが、耐焼付き性が低下している。また、Ｃｒ／Ｃが１を超え、ＮｂとＢを含有せず、本発明範囲を外れるＡｌを含有する比較例（リング材Ｎｏ． Ｂ）では、耐摩耗性の劣化に加えて耐焼付き性の著しい低下が認められ、また、炭化物の偏析も観察された。Ｎｂ、ＡｌとＢを含有せず、さらに本発明範囲を外れるＶを含有する比較例（リング材Ｎｏ． Ｃ）では、耐焼付き性の著しい低下に加えて耐摩耗性の劣化、炭化物の偏析が認められた。Ｃｒ／Ｃが１を超え、さらに本発明範囲を外れるＮｂを含有する比較例（リング材Ｎｏ． Ｄ）では、耐焼付き性の著しい低下に加えて、炭化物の著しい偏析が認められた。また、従来材であるリング材Ｎｏ． Ｅは、耐焼付き性にすぐれているが、耐摩耗性が著しく劣化している。
（実施例２）
製品胴径 ６８５ｍｍ、胴長２３８０ｍｍの複合ロールを以下の手順で製造した。
【００３５】
遠心力 １４０Ｇで回転する鋳型内に、外層として肉厚 １２０ｍｍになるように、外層材溶湯を鋳込んだ。外層が凝固した後に鋳型の回転を停止し、鋳型を立てて内層材（球状黒鉛鋳鉄）を鋳造することで、外層−内層を一体溶着させ、外層の表面温度が８０℃以下になるまで冷却した後、鋳型を解体し、外層−内層からなる複合ロールとした。
【００３６】
得られた複合ロールは、４２０ 〜 ５００℃に加熱したのち徐冷する熱処理（焼戻し処理）を実施し、外層の硬さを７９〜８３Ｈｓとした。
熱処理後、ロール胴端部から外層の化学組成分析用試験材、組織観察用試験片を採取した。なお、内層についてはロール軸端の中心部から化学組成分析用試料を採取した。各複合ロールの外層、内層の化学組成を表３に示す。
【００３７】
【表３】
【００３８】
得られた複合ロールを、熱間仕上圧延ミルのＦ７スタンドの作業ロールとして投入し、中炭素鋼１０本の試験圧延を実施した。なお、その中の１本で絞り圧延を再現し、焼付き状況を比較した。
本発明例（ロールＮｏ．１）は、従来ロールであるグレン鋳鉄ロールの １．５倍以上の極めて良好な耐摩耗性を有し、耐肌荒れ性に優れることが確認され、また、絞り圧延においても焼付きは発生しなかった。
【００３９】
【発明の効果】
本発明によれば、鋼板の熱間圧延の後段圧延スタンド用ロールとして、耐焼付き性と耐摩耗性を兼備した複合ロールが安価に製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明の複合ロールは、優れた耐焼付き性と耐摩耗性が要求される鋼管圧延用ロールとしても適用できる。
【図面の簡単な説明】
【図１】耐摩耗性，耐焼付き性におよぼすＡｌ、Ｂの影響を示すグラフである。
【図２】焼付き試験の概要を示す概略説明図である。
【図３】焼付き時間の定義をしめす説明図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、熱間圧延用複合ロールに係り、とくに鋼板の熱間圧延仕上後段スタンドに好適な熱間圧延用複合ロールに関する。
【０００２】
【従来の技術】
近年、鋼板や鋼管の熱間圧延技術の進歩はめざましく、それに伴い、使用される熱間圧延ロールの特性、とくに耐摩耗性の向上が強く要求されてきた。このような耐摩耗性向上の要求に対し、外層組成を高速度工具鋼組成に類似した組成とし、硬質な炭化物を析出させて、耐摩耗性を格段に向上させた高性能ロール（ハイス系ロール）が開発され実用化されている。
【０００３】
一方、被圧延材の焼付きが生じやすい圧延スタンドやミルには、黒鉛を含有するグレン鋳鉄ロールが組み込まれて熱間圧延が行われてきた。熱間圧延ロールに黒鉛を含有させることは、黒鉛が潤滑性に富むことから焼付き防止には有効であるが、しかし、黒鉛がロールの摩耗や肌荒れを助長する傾向を有しているため、従来のグレン鋳鉄ロールでは、耐摩耗性および耐肌荒れ性が要求されるレベルに対し十分とはいえず問題を残していた。
【０００４】
このような問題に対し、例えば、特開平１−２８７２４８ 号公報には、Ｎｉグレン鋳鉄に１．０ 〜５．０ ％のＶと、２．０ 〜１０．０％のＭｏを添加し、耐摩耗性を向上させるとした熱間圧延用ロールが提案されている。また、特開平６−３３５７１２ 号公報には、Ｎｉグレン鋳鉄に２．０ 〜８．０ ％のＶを添加し、０．５ 〜５％の黒鉛に加えて０．２ 〜１０％のＭＣ型炭化物を出現させて耐摩耗性を向上させるとした熱間圧延用ロールが提案されている。
【０００５】
しかし、最近では、圧延製品の品質向上と効率的生産の観点から、圧延速度の増加、連続圧延量の増加等、熱間圧延用ロールの使用環境はますます過酷化し、同時に、被圧延材の高合金化など生産される圧延製品の品種が多様化するに伴い、熱間圧延作業ロールに対する要求もさらに高く、しかも多様化している。特開平１−２８７２４８ 号公報、特開平６−３３５７１２号公報に記載された技術によっても、耐焼付き性と耐摩耗性を両立させることは困難となっている。
【０００６】
またさらに、鋼板の熱間圧延においては、圧延用作業ロールとして、グレン鋳鉄ロールとロールクラウンが異なるハイス系ロールの導入により、大きな絞り圧延事故の発生頻度が増加しており、特に仕上げ後段スタンドでは耐事故性の観点から、耐摩耗性に劣るものの耐焼付き性に優れたグレン鋳鉄ロールを使用せざるをえない状況にある。さらに、鋼板の表面品質への要求が厳しくなり、特開平１−２８７２４８ 号公報、特開平６−３３５７１２号公報に記載された技術で利用されているような、Ｖ添加に起因する炭化物偏析が問題視されるようになってきている。また、Ｖを添加したのみでは、オーステナイト（デンドライト）と共晶する形で、コロニー状の粗大なＭＣ炭化物が晶出し、結晶粒を粗大化することによってロールの肌荒れや摩耗を促進するという問題があった。一方、鋼管圧延においても圧延鋼種の高合金化が進んでおり、圧延用ロールへの焼付き防止と耐摩耗性向上のニーズが増大している。
【０００７】
【発明の解決しようとする課題】
本発明は、上記した従来技術の問題を有利に解決し、耐焼付き性と耐摩耗性がともに優れた、熱間圧延用外層材および熱間圧延用複合ロールを提案することを目的とする。
【０００８】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するために、耐焼付き性と耐摩耗性を同時に向上させるために、熱間圧延用ロールの外層組成について鋭意検討した。その結果、１〜 ３．５％のＶを含有せしめ、さらに特定量のＮｂを添加するとＭＣ型炭化物が微細粒状となり結晶粒の粗大化が抑制されて、炭化物偏析が防止され、耐摩耗と耐肌荒れ性が向上することを見い出した。さらに、ＮｂとＶを含有したうえで、さらにＢとＡｌを共存させて含有することにより、耐摩耗性と耐焼付き性がともに顕著に向上することを新規に見いだした。またさらに、Ｃｒ／Ｃが１以下となるようにＣｒ含有量とＣ含有量を調整することにより、焼付きが発生しがたい低Ｃｒ炭化物量が増加し耐焼付き性がさらに向上することを見いだした。
【０００９】
まず、本発明者らが行った本発明の基礎となったＡｌとＢの複合添加に関する実験結果を説明する。
質量％で、３．３ ％Ｃ−１．２ ％Ｓｉ−０．５ ％Ｍｎ−４．７ ％Ｎｉ−２．０ ％Ｃｒ−０．９ ％Ｍｏ−１．５ ％Ｖ−０．３ ％Ｎｂをベース成分として、Ａｌ：０〜０．０７％、Ｂ：０〜０．１４％の範囲に変化した溶湯を溶製し、遠心鋳造法によりロール外層材に相当するリング状試験材とした。これらリング状試験材から試験片を採取し、焼付き試験、摩耗試験を実施した。
【００１０】
なお、焼付き試験は、図２に示すように、高周波加熱コイルにより８５０ ℃に加熱され、５０ｒｐｍ で回転する円板状の相手材（材質：ＳＴＢＡ２３、大きさ：１９０ｍｍ φ）を２５ｍｍ厚の板状の試験片に１００ｋｇ で１０ｓ間圧接し、図３に示すように、圧接中の相手材のトルク変動から焼付き時間を測定し、この焼付き時間を耐焼付き性の指標とした。なお、焼付き時間が零あるいは２ｓ以下と短い場合を耐焼付き性に優れると評価した。また、摩耗試験は、相手材（材質：Ｓ４５Ｃ， 大きさ：１９０ｍｍ φ）と試験片（大きさ：６０ｍｍφ）の２円盤すべり摩耗方式で実施した。試験片を回転数 ７００ｒｐｍ で回転させながら、相手材を７２０ ℃に加熱し、試験片を水冷し、試験片と相手材のすべり率を１０％として、荷重 １００ｋｇで圧接しながら１２０ｍｉｎ間転動させた。試験後、試験片の摩耗減量を測定した。耐摩耗性は、Ａｌ，Ｂ無添加材 （基準片）の摩耗量を基準値とし、基準値に対する各試験片の摩耗量の比、摩耗比（＝（各試験片の摩耗量）／（基準片の摩耗量））で評価した。
【００１１】
得られた結果を図１に示す。図１から、Ａｌと共存させてＢを０．０２〜０．１０％含有すると、耐焼付き性と耐摩耗性が同時に顕著に向上することがわかる。
本発明は、上記した知見に基づいてさらに検討を加えて構成されたものである。
すなわち、本発明は、熱間圧延用複合ロールの外層に用いられる外層材であって、質量％で、Ｃ：２．５ 〜４．０ ％、Ｓｉ：０．８ 〜２．５ ％、Ｍｎ：０．２ 〜１．５ ％、Ｃｒ：１．０ 〜３．５ ％、Ｍｏ： ０．５ 〜４．０ ％、Ｎｉ：３．０ 〜７．０ ％、Ｖ：１．０ 〜３．５ ％、Ｎｂ：０．２ 〜１．０ ％、Ａｌ：０．０２〜０．２ ％、Ｂ：０．０２０ 〜０．１０％を含み、かつＣｒ／Ｃが１以下を満足し、残部Ｆｅおよび不可避的不純物からなる組成と、黒鉛を面積率で０．６ 〜４％含有する組織を有することを特徴とする耐焼付き性と耐摩耗性に優れた熱間圧延用ロール外層材であり、また，本発明では、前記組成に加えてさらに、質量％で、ＲＥＭ ：０．１０％以下、Ｃａ：０．０１％以下のうちから選ばれた１種または２種を含有することが好ましい。
【００１２】
また、本発明は、外層と内層が溶着一体化してなる熱間圧延用複合ロールであって、前記外層が、質量％で、Ｃ：２．５ 〜４．０ ％、Ｓｉ：０．８ 〜２．５ ％、Ｍｎ：０．２ 〜１．５ ％、Ｃｒ：１．０ 〜３．５ ％、Ｍｏ： ０．５ 〜４．０ ％、Ｎｉ：３．０ 〜７．０ ％、Ｖ：１．０ 〜３．５ ％、Ｎｂ：０．２ 〜１．０ ％、Ａｌ：０．０２〜０．２ ％、Ｂ：０．０２０ 〜０．１０％を含み、かつＣｒ／Ｃが１以下を満足し、残部Ｆｅおよび不可避的不純物からなる組成と、黒鉛を面積率で ０．６〜４％含有する組織を有することを特徴とする耐焼付き性と耐摩耗性に優れた熱間圧延用複合ロールであり、また、本発明では、前記外層の組成に加えてさらに、質量％で、ＲＥＭ ：０．１０％以下、Ｃａ：０．０１％以下のうちから選ばれた１種または２種を含有することが好ましい。また、本発明では、前記内層を球状黒鉛鋳鉄、いも虫状黒鉛鋳鉄あるいは、黒鉛鋼などの、強靱でかつ鋳造性の良い材料で構成することが好ましい。
【００１３】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の熱間圧延用複合ロールの外層（外層材）の組成限定理由について説明する。なお、組成における％は質量％である。
Ｃ：２．５ 〜４．０ ％
Ｃは、Ｖ，Ｎｂ，Ｃｒ，Ｍｏと結合して、ロールの耐摩耗性を向上するための硬質炭化物形成に必須な元素であるとともに、耐焼付き性を向上させる黒鉛を晶出させる必須の元素であり、本発明では ２．５％以上の含有を必要とする。一方、４．０ ％を超えて含有すると脆弱な炭化物が多量に出現し、耐摩耗性が低下する。このため、Ｃは ２．５〜 ４．０％の範囲に限定した。なお、好ましくは、２．８ 〜３．７ ％である。
【００１４】
Ｓｉ：０．８ 〜２．５ ％
Ｓｉは、脱酸剤として作用するとともに、Ｃの活量を低減し黒鉛を晶出させやすくする元素であり、本発明では０．８ ％以上の含有を必要とする。一方、２．５ ％を超えて含有しても、上記した効果は飽和するうえ、かえって耐摩耗性が低下し、含有量に見合う効果を期待できず、経済的に不利となる。このようなことから、Ｓｉは０．８ 〜２．５ ％に限定した。なお、好ましくは１〜 １．８％である。
【００１５】
Ｍｎ： ０．２〜 １．５％
Ｍｎは、溶鋼中のＳをＭｎＳ として固定し、耐摩耗性を阻害するＳを除去するために有用である。また、焼入れ性を向上し硬さを増加させるという効果もある。このような効果を得るためには、０．２ ％以上の含有が必要である。しかし、１．５ ％を超えて含有すると凝固界面に偏析し材料を脆化させる。このため、Ｍｎは ０．２〜 １．５％の範囲に限定した。なお、好ましくは０．２ 〜１．０ ％である。
【００１６】
Ｃｒ：１〜３．５ ％
Ｃｒは、硬質な共晶炭化物を生成し、Ｍｏとともに含有して耐摩耗性を向上させる元素であり、本発明では１％以上の含有を必要とする。一方、３．５ ％を超えて含有すると、黒鉛の晶出が抑制され耐焼付き性が低下する。このため、Ｃｒは１〜３．５ ％に限定した。
【００１７】
Ｍｏ： ０．５ 〜４．０ ％
Ｍｏは、黒鉛の晶出を阻害することなく、耐摩耗性向上に有効な炭化物を生成する元素である。Ｖ，Ｎｂと複合して含有されると、より強靭で硬質な炭化物であるＭＣ炭化物を生成し、顕著に耐摩耗性を向上する効果を有する。このような効果を得るためには０．５ ％以上の含有を必要とする。一方、４．０ ％を超えて含有すると、Ｍｏ主体の脆弱な炭化物を多量に形成して耐摩耗性が顕著に低下する。このため、Ｍｏは０．５ 〜４．０ ％に限定した。なお、好ましくは ０．６〜３％である。
【００１８】
Ｎｉ：３．０ 〜７．０ ％
Ｎｉは、焼入れ性を向上し、材料の硬さを増加させて耐摩耗性を向上させる効果を有する。また、黒鉛の晶出を促進させる効果も有する。このような効果は３．０ ％以上の含有で認められるが、７．０ ％を超えて含有すると、オーステナイトを著しく安定化し、残留オーステナイト量が増加し耐焼付き性を低下させる。このため、Ｎｉは３．０ 〜７．０ ％の範囲に限定した。なお、好ましくは４．０ 〜６．０ ％である。
【００１９】
Ｖ：１．０ 〜３．５ ％
Ｖは、硬質なＭＣ型炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる効果を有する。一定レベル以上の耐摩耗性を得るために、本発明では、１．０ ％以上の含有を必要とする。一方、３．５ ％を超える含有は、耐焼付き性を劣化させるとともに、炭化物の凝固偏析を促進し、ロール表面品質を低下させる。このため、Ｖは１．０ 〜３．５ ％の範囲に限定した。
【００２０】
Ｎｂ：０．２ 〜１．０ ％
Ｎｂは、Ｖ，Ｍｏと複合して含有することにより、硬質なＭＣ型炭化物を強化せしめ、さらに粒状に分散させる極めて重要な作用を持ち、炭化物偏析を抑制すると共に、耐摩耗性を顕著に向上させる。前記効果を得るためには、０．２ ％以上の含有を必要とするが、１．０ ％を超えて含有すると、ＭＣ型炭化物が粗大化して凝固偏析が発生するようになり、ロール表面品質を低下させる。このため、Ｎｂは ０．２〜１．０ ％の範囲に限定した。
【００２１】
Ａｌ：０．０２〜０．２０％
Ａｌは、黒鉛化を強く促進し、かつ、黒鉛形状を改良して耐焼付き性を向上させる作用を有する元素であり、本発明では一定レベル以上の耐焼付き性を確保するために０．０２％以上の含有を必要とする。一方、０．２ ％を超えて含有すると、耐摩耗性に不利な粗大片状の黒鉛が過剰に晶出し耐摩耗性が低下する。このため、Ａｌは０．０２〜０．２０％の範囲に限定した。なお、好ましくは０．０３〜０．１５％である。
【００２２】
Ｂ：０．０２０ 〜０．１０％
Ｂは、黒鉛を微細化、塊状化する作用を有するとともに、さらにＡｌによる過剰な黒鉛の晶出を抑制する作用、および耐摩耗性を低下させることなく耐焼付き性を向上させる作用を有する。このような作用はＡｌ共存下で０．０２０ ％以上の含有で認められるが、０．１０％を超えて含有すると、炭化物が脆弱化し，耐摩耗性が低下するとともに、黒鉛量も低下する。このため、Ｂは０．０２０ 〜０．１０％の範囲に限定した。
【００２３】
Ｃｒ／Ｃ：１以下
Ｃｒ含有量がＣ含有量を超える、すなわちＣｒ／Ｃが１を超えると、基地中および炭化物中のＣｒ濃度が増加して、焼付きが発生しやすくなり、また、黒鉛量も減少する。Ｃｒ／Ｃが１以下であれば、比較的Ｃｒ濃化の少ない炭化物が生成し、黒鉛量も維持でき、耐焼付き性の低下を抑制できる。このため、Ｃｒ／Ｃを１以下に限定した。なお、好ましくは、Ｃｒ／Ｃ：０．８５以下である。
【００２４】
さらに、本発明では、下記の範囲内であれば、ＲＥＭ 、Ｂのうちの１種または２種を含有してもよい。
ＲＥＭ ：０．１％以下
ＲＥＭ は、黒鉛を球状化するとともに微細分散させ、黒鉛の切欠き効果を減少させて耐摩耗性を一層向上させる作用を有しており、必要に応じ含有することが好ましい。このような効果は、０．００５ ％以上の含有で認められるようになるが、０．１ ％を超える含有は黒鉛量が減少し、耐焼付き性を劣化させる。このため、ＲＥＭ は０．１ ％以下に限定することがよい。なお、黒鉛球状化の観点からはＲＥＭ 中の３０質量％以上をＣｅとすることがより好ましい。
【００２５】
Ｃａ：０．０１％以下
Ｃａも、黒鉛を球状化し、黒鉛の切欠き効果を減少させて耐摩耗性を一層向上させる作用を有している。このような効果は、０．０００５％以上の含有で認められるようになるが、０．０１％を超える含有は黒鉛量が減少し、耐焼付き性を劣化させる。このため、Ｃａは０．０１％以下に限定することが好ましい。
【００２６】
上記した成分以外の残部は、Ｆｅおよび不可避的不純物である。不可避的不純物として、Ｐ：０．１ ％以下、Ｓ：０．０５％以下とするのが好適である。
また、本発明の外層材では、上記した組成に加えて、面積率で ０．６〜４％の黒鉛を含有する組織を有する。黒鉛量が ０．６％未満では、潤滑作用が低下し耐焼付き性が低下する。一方、４％を超えると、耐摩耗性および耐肌荒れ性が低下する。このため、黒鉛含有量は上記範囲に限定した。
【００２７】
本発明では、外層材の製造方法は特に限定されないが、上記した組成の溶湯を、遠心鋳造法で所定の寸法形状の外層材とすることが好ましい。そして、外層材の凝固途中あるいは完全凝固後に、鋳型の回転を停止し内層材を静置鋳造して、複合ロールとすることが好ましい。これにより外層材の内面側が再溶解され外層と内層が溶着一体化した、複合ロールとなる。
【００２８】
静置鋳造される内層は、鋳造性と機械的性質に優れた球状黒鉛鋳鉄やいも虫状黒鉛鋳鉄あるいは黒鉛鋼などを用いるのが好ましい。また、外層と内層の間に、黒鉛鋼や高炭素鋼からなる中間層を設けてもよい。遠心鋳造法でロールを製造する場合、中間層は、外層の遠心鋳造に引きつづいて、遠心鋳造すれば良い。
なお、以上の説明は、主として、鋼板の熱間圧延用ロールを対象に説明してきたが、本発明は、鋼板の熱間圧延用複合ロールに限定されることはなく、カリバー付き鋼管圧延用複合ロールに適用しても何ら問題はないことはいうまでもない。なお、鋼管圧延用のスリーブ式ロールを製造する場合は、外層を遠心鋳造後、球状黒鉛鋳鉄や、黒製鋼、高炭素鋼を内層材として、遠心鋳造すればよい。
【００２９】
【実施例】
（実施例１）
表１に示す組成を有する溶湯を溶製し、ロール外層材に相当するリング状試験材（外径：２５０ｍｍ φ、肉厚：６０ｍｍ）を遠心鋳造により作製した。なお、鋳込み温度は１３２０℃、遠心力は、重力倍数で １６０Ｇとした。鋳造後、試験材に４２０ 〜５００ ℃の温度で焼戻し処理を施した。焼戻し後の硬さは、Ｈｓ７８〜８３であった。なお、リング材Ｅは従来材であるＮｉグレン鋳鉄製のリング材である。
【００３０】
これら試験材から試験片を採取し、組織観察、摩耗試験、および焼付き試験を行った。
（１）組織観察
リング状試験材から組織観察用試験片を採取し、リング状試験材断面について、硝酸水溶液で腐食して、試験材断面について、マクロ組織を観察し、炭化物の偏析状況を調査した。偏析模様が観察される場合を偏析あり、その他の場合を偏析なしとした。また、試験片断面について、研磨後、光学顕微鏡により観察し、画像解析装置により黒鉛の面積率を測定した。
（２）摩耗試験
リング状試験材から試験片（大きさ：６０ｍｍφ）を採取し、相手材（材質：Ｓ４５Ｃ， 大きさ：１９０ｍｍ φ）と試験片の２円盤すべり摩耗方式で摩耗試験を実施した。試験片を回転数 ７００ｒｐｍ で回転させながら、相手材を７２０ ℃に加熱し、試験片を水冷し、試験片と相手材のすべり率を１０％として、荷重 １００ｋｇで圧接しながら１２０ｍｉｎ間転動させた。試験後、試験片の摩耗減量を測定した。耐摩耗性は、Ａｌ，Ｂ無添加材 （リング材Ｎｏ． Ａ； ）の摩耗量を基準値とし、基準値に対する各試験片の摩耗量の比、摩耗比（＝（各試験片の摩耗量）／（基準片の摩耗量））で評価した。
（３）焼付き試験
リング状試験材から試験片（２５ｍｍ厚の板状）を採取し焼付き試験を実施した。図２に示すように、高周波加熱コイルにより８５０ ℃に加熱され、５０ｒｐｍ で回転する円板状の相手材（材質：ＳＴＢＡ２３、大きさ：１９０ｍｍ φ）を板状の試験片に１００ｋｇ で１０ｓ間圧接し、図３に示すように、圧接中の相手材のトルク変動から焼付き時間を測定し、この焼付き時間を耐焼付き性の指標とした。なお、焼付き時間が零あるいは２ｓ以下と短い場合を耐焼付き性に優れると評価した。
【００３１】
得られた結果を表２に示す。
【００３２】
【表１】
【表２】
本発明例はいずれも、耐摩耗性と耐焼付き性がともに優れたロール外層材となっている。一方、本発明の範囲から外れる比較例は、耐焼付き性、あるいは耐摩耗性のいずれかあるいは両方が低下している。Ａｌ， Ｂを含有しない比較例（リング材Ｎｏ． Ａ）では耐摩耗性は優れているが、耐焼付き性が低下している。また、Ｃｒ／Ｃが１を超え、ＮｂとＢを含有せず、本発明範囲を外れるＡｌを含有する比較例（リング材Ｎｏ． Ｂ）では、耐摩耗性の劣化に加えて耐焼付き性の著しい低下が認められ、また、炭化物の偏析も観察された。Ｎｂ、ＡｌとＢを含有せず、さらに本発明範囲を外れるＶを含有する比較例（リング材Ｎｏ． Ｃ）では、耐焼付き性の著しい低下に加えて耐摩耗性の劣化、炭化物の偏析が認められた。Ｃｒ／Ｃが１を超え、さらに本発明範囲を外れるＮｂを含有する比較例（リング材Ｎｏ． Ｄ）では、耐焼付き性の著しい低下に加えて、炭化物の著しい偏析が認められた。また、従来材であるリング材Ｎｏ． Ｅは、耐焼付き性にすぐれているが、耐摩耗性が著しく劣化している。
（実施例２）
製品胴径 ６８５ｍｍ、胴長２３８０ｍｍの複合ロールを以下の手順で製造した。
【００３５】
遠心力 １４０Ｇで回転する鋳型内に、外層として肉厚 １２０ｍｍになるように、外層材溶湯を鋳込んだ。外層が凝固した後に鋳型の回転を停止し、鋳型を立てて内層材（球状黒鉛鋳鉄）を鋳造することで、外層−内層を一体溶着させ、外層の表面温度が８０℃以下になるまで冷却した後、鋳型を解体し、外層−内層からなる複合ロールとした。
【００３６】
得られた複合ロールは、４２０ 〜 ５００℃に加熱したのち徐冷する熱処理（焼戻し処理）を実施し、外層の硬さを７９〜８３Ｈｓとした。
熱処理後、ロール胴端部から外層の化学組成分析用試験材、組織観察用試験片を採取した。なお、内層についてはロール軸端の中心部から化学組成分析用試料を採取した。各複合ロールの外層、内層の化学組成を表３に示す。
【００３７】
【表３】
得られた複合ロールを、熱間仕上圧延ミルのＦ７スタンドの作業ロールとして投入し、中炭素鋼１０本の試験圧延を実施した。なお、その中の１本で絞り圧延を再現し、焼付き状況を比較した。
本発明例（ロールＮｏ．１）は、従来ロールであるグレン鋳鉄ロールの １．５倍以上の極めて良好な耐摩耗性を有し、耐肌荒れ性に優れることが確認され、また、絞り圧延においても焼付きは発生しなかった。
【００３９】
【発明の効果】
本発明によれば、鋼板の熱間圧延の後段圧延スタンド用ロールとして、耐焼付き性と耐摩耗性を兼備した複合ロールが安価に製造でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明の複合ロールは、優れた耐焼付き性と耐摩耗性が要求される鋼管圧延用ロールとしても適用できる。
【図面の簡単な説明】
【図１】耐摩耗性，耐焼付き性におよぼすＡｌ、Ｂの影響を示すグラフである。
【図２】焼付き試験の概要を示す概略説明図である。
【図３】焼付き時間の定義をしめす説明図である。
Claims (4)
- 熱間圧延用複合ロールの外層に用いられる外層材であって、質量％で、
Ｃ：２．５ 〜４．０ ％、 Ｓｉ：０．８ 〜２．５ ％、
Ｍｎ：０．２ 〜１．５ ％、 Ｃｒ：１．０ 〜３．５ ％、
Ｍｏ： ０．５ 〜４．０ ％、 Ｎｉ：３．０ 〜７．０ ％、
Ｖ：１．０ 〜３．５ ％、 Ｎｂ：０．２ 〜１．０ ％、
Ａｌ：０．０２〜０．２ ％、 Ｂ：０．０２０ 〜０．１０％
を含み、かつＣｒ／Ｃが１以下を満足し、残部Ｆｅおよび不可避的不純物からなる組成と黒鉛を面積率で０．６ 〜４％含有する組織を有することを特徴とする耐焼付 き性と耐摩耗性に優れた熱間圧延用ロール外層材。 - 前記組成に加えてさらに、質量％で、ＲＥＭ ：０．１０％以下、Ｃａ：０．０１％以下のうちから選ばれた１種または２種を含有することを特徴とする請求項１に記載の熱間圧延用ロール外層材。
- 外層と内層が溶着一体化してなる熱間圧延用複合ロールであって、前記外層が、質量％で、
Ｃ：２．５ 〜４．０ ％、 Ｓｉ：０．８ 〜２．５ ％、
Ｍｎ：０．２ 〜１．５ ％、 Ｃｒ：１．０ 〜３．５ ％、
Ｍｏ： ０．５ 〜４．０ ％、 Ｎｉ：３．０ 〜７．０ ％、
Ｖ：１．０ 〜３．５ ％、 Ｎｂ：０．２ 〜１．０ ％、
Ａｌ：０．０２〜０．２ ％、 Ｂ：０．０２０ 〜０．１０％
を含み、かつＣｒ／Ｃが１以下を満足し、残部Ｆｅおよび不可避的不純物からなる組成と、黒鉛を面積率で０．６ 〜４％含有する組織を有することを特徴とする耐焼付き性と耐摩耗性に優れた熱間圧延用複合ロール。 - 前記外層の組成に加えてさらに、質量％で、ＲＥＭ ：０．１０％以下、Ｃａ：０．０１％以下のうちから選ばれた１種または２種を含有することを特徴とする請求項３に記載の熱間圧延用複合ロール。
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