JP3623042B2 - 曲面等の立向き溶接方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば造船における船側外板や石油等の流体貯蔵タンクの側板などのように、傾斜角度が連続的に変化する曲面等を有する母材の溶接部を立方向に順次溶接する場合に適用される曲面等の立向き溶接方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
この種の立向き溶接方法としては、一般にエレクトロガスアーク溶接法が採用される。このエレクトロガスアーク溶接法によって、曲面等のように、その傾斜角度が溶接の進行に伴って連続的に変化する母材の溶接部を立向き溶接する場合は、その溶接部の傾斜角度の変化に応じて溶込形状に著しい変化が生じ、溶込み不均一や不良ビートなどの溶接欠陥を発生し、健全良好な溶接を行なうことが困難である。
【0003】
詳述すると、図11は従来のエレクトロガスアーク溶接法を採用した曲面等の立向き溶接方法を示す要部の説明図であり、連続的に変化する傾斜角度θをもつ母材1の開先2の表裏両面に押し当てられて溶融金属の流れ落ちを防ぎ溶融池10を形成する表裏一対の当金3,4および溶接台車(図示省略)を、上記母材1の開先2に沿って上進させつつ、ワイヤ送給ロール5および加圧ロール6からなるワイヤ送給機構7を介して送給される大径(直径3.2mm)の溶接ワイヤ8を上記溶接台車に一定の角度で取り付けられている溶接トーチ9を通して上記表裏一対の当金3,4に囲まれた溶接部に連続的に送給するとともに、溶接電源として交流電源を使用しその垂下特性を利用してアーク長さが一定になるようなアーク電圧制御を組合わせることにより、母材1の溶接部を立方向に順次溶接していた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記したような従来の立向き溶接方法の場合は、溶接トーチ9の溶接台車に対する取付角度が一定であるために、母材1の傾斜角度θの変化に応じて溶融池10の表面に対する溶接ワイヤ8の入射角度θ1(以下、ワイヤ狙い角と称する)が変化し、このワイヤ狙い角θ1の変化に伴い図12に示すように、アーク力によって溶融金属および高温溶融スラグの流れが矢印で示すごとく母材1の裏側1bに多く偏流することになるのみならず、母材1の肉厚dが一定であっても母材1の傾斜角度θの変化によって実効肉厚Dが変化して溶融池10表面の単位面積当りの入熱量も裏側1bに偏ることになる。その結果、図12で明らかなように、母材1の傾斜角度θが大きくなるにしたがって表側1aの溶込み量及び溶着量が減少する反面、裏側1bの溶込み量及び溶着量が増加するといった具合に、表側1aと裏側1bの溶込み比率および溶込み形状が不均一となり、また、溶接部の全長に亘るビード幅も不揃いで溶接欠陥を招くという問題があった。
【0005】
また、このような従来の立向き溶接方法による母材表裏での溶込み比率および溶込み形状の不均一性を改善する方法として、特公昭58−32034号公報や特公昭58−17708号公報に開示されているように、母材の傾斜角度の変化に応じて溶接台車に対する溶接トーチの取付角度を変化させてワイヤ狙い角を常に一定に保持させるようにした曲面等の立向き溶接方法が提案されているが、このようなワイヤ狙い角を一定に保持しての立向き溶接の場合であっても、母材の傾斜角度の増大とともに表裏の溶込み状態において表側の溶込み量及び溶着量が減少して、表裏のビード幅に大きな差が生じ、母材の傾斜角度の変化に対する表裏の溶込み量及び溶着量の均一性という点では不十分であった。その主たる原因は、母材の傾斜角度の増大とともに既述の実効肉厚が大きくなり、それに伴って母材の溶接部側壁の被溶融長が長くなるために、アーク力による高温溶融スラグおよび溶融金属の対流作用が不十分となり、表側の溶込み量及び溶着量が減少することである。
【0006】
上記公報に開示されているような立向き溶接方法の場合においても、実際は表側の溶込み量を十分に確保するために、アーク点(図12のa参照)を母材の肉厚の中央位置よりもできるだけ表側に変位させているが、そのためにはワイヤ狙い角の自動調整機構の他にもアーク点をその位置に保持させるための相当複雑な機構および操作技量を必要とし、また、アーク点を表側に変位保持させる構成の採用にあたっては、溶接ワイヤと表側の当金とが短絡しないように制御しなければならず、大径(3.2mm)の溶接ワイヤを使用するものではそのようなアーク点の変位構成の採用に機構的な難問があり、実用的ではない。
【0007】
そこで、本発明のうち請求項1に記載の発明は上記のような実情に鑑みてなされたもので、母材の傾斜角度のいかなる変化にもかかわらず母材表裏の溶込み量および溶込み形状を常に十分かつ均一に保持して、溶接部の全長に亘って一定幅、一定品質のビードを確実に形成することができ、また、機構的にも簡単に実施しやすい曲面等の立向き溶接方法を提供することを目的としている。
【0008】
また、請求項2に記載の発明は上記請求項1に記載の発明の目的に加えて、母材の傾斜角度が大きいときの表側の溶込み量を十分に確保することができるようにすることを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明のうち請求項1に記載の発明に係る曲面等の立向き溶接方法は、傾斜角度が連続的に変化する母材の溶接部に沿って、溶接台車及び上記溶接部の表裏両面に押し当てられて溶融金属の流れ落ちを防ぐ表裏一対の当金を上進させつつ、上記溶接台車に対して一定角度に設定されている溶接トーチを通して上記溶接部に溶接ワイヤを連続的に送給して溶接部を立方向に順次溶接する曲面等の立向き溶接方法であって、上記溶接ワイヤとして、直径が0.9〜2.0mmの範囲から選ばれた細径のワイヤを使用するとともに、溶接電源として定電圧特性の直流電源を使用し、かつ、上記溶接トーチを母材の厚さ方向にオシレートさせることを特徴とするものである。
【0010】
すなわち、請求項1に記載の発明によれば、細径の溶接ワイヤを使用して、これを溶接台車に対して一定角度に設定されている溶接トーチを通して母材の肉厚方向にオシレートさせることによって、アーク点を移動させ溶融池を攪拌して溶融金属および高温溶融スラグを裏側に偏流させることなく、表側にも十分に流すことが可能である。また、溶接ワイヤを母材肉厚方向にオシレートさせることによって、ワイヤ突出し長さが表側では短く、かつ裏側で長くなるといった変化を呈することになり、ここで溶接電源として、従来のエレクトロガスアーク溶接法に使用していた交流電源に代えて定電圧特性の直流電源を使用することにより、ワイヤ突出し長さが短くなる表側では溶接電流が大きくなり、ワイヤ突出し長さが長くなる裏側では溶接電流が小さくなるという自己制御作用(ワイヤ送給速度の一定制御作用)が発揮されて表側ほど大きな溶込み量が得られる。このように、溶接ワイヤのオシレートと直流溶接電源の使用にともなう自己制御作用との組み合わせによって、母材の傾斜角度がどのように変化したとしても母材表側の溶込み量を常に十分に確保して、表裏の溶込み形状を均一に保持することが可能である。
【0011】
また、請求項2に記載の発明に係る曲面等の立向き溶接方法は、請求項1に記載の発明における構成要件のうち溶接トーチのオシレート速度を、溶接部の裏側での速度よりも表側での速度が小さくなるように設定したものであり、この場合は、溶接部の表側での溶接時間長さが裏側での溶接時間長さよりも長くなり、その時間差分だけ表側の入熱量が裏側よりも大きくなる。このように表裏で入熱量に差をもたせることによって、母材の傾斜角度の変化にともなう実効肉厚の変化に起因して溶融池表面の単位面積当りの入熱量が表側よりも裏側で大きくなるという入熱量のアンバランスを相殺あるいは減少させて、特に母材の傾斜角度が大きいときの表側の溶込み量及び溶着量の不足を十分にカバーすることが可能である。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面にもとづいて説明する。
図1は、本発明に係る曲面等の立向き溶接方法を示す要部の説明図であり、連続的に変化する傾斜角度θをもつ母材1の開先2の表裏両面に押し当てられて溶融金属の流れ落ちを防ぎ溶融池10を形成する表裏一対の当金3,4および溶接台車(同図では省略)を、上記母材1の開先2に沿って上進させつつ、ワイヤ送給ロール5および加圧ロール6からなるワイヤ送給機構7を介して送給される細径(直径が0.9〜2.0mmの範囲から選択される)の溶接ワイヤ8Aを上記溶接台車に対して一定の取付け角度に設定されている溶接トーチ9を通して上記表裏一対の当金3,4に囲まれた溶接部に連続的に送給するとともに、溶接電源として定電圧特性の直流電源(図示省略)を使用し、かつ、上記溶接トーチ9を矢印xで示すように、母材1の肉厚方向にオシレートさせることにより、母材1の溶接部を立方向に順次溶接するのである。
【0013】
図2および図3は上記のような立向き溶接方法に使用される自動エレクトロガスアーク溶接装置における溶接機本体を示す側面図および正面図であり、同図において、11は溶接台車で、当該溶接台車11は、母材1の表側1aに配置されてその上下両端部に中央部が開先2内に嵌合する大径のガイドローラ12a,12aを軸支してなる表台車12と、母材1の裏側1bに配置されてその上下両端部に母材1の裏面に摺接する小径のガイドローラ13a,13aを軸支してなる裏台車13と、これら表裏両台車12,13を母材1に圧着させるように両台車12,13間に亘って架着された加圧機構14とを備えている。上記加圧機構14は、先端ねじ部が表台車12を貫通し、後端部が開先2を通して裏台車13側に延出され、ピン15を介して枢着された連結杆16と、この連結杆16の先端ねじ部に螺合されたナット17と、このナット17と表台車12との間に介装された加圧スプリング18とにより構成されている。
【0014】
上記溶接台車11における表裏両台車12,13の下端部からはそれぞれ下方へ向けて母材1に沿って延びる支持アーム19,20が設けられており、これに支持アーム19,20の下端部に上記母材1の開先2の表裏両面に押し当てられて溶融金属の流れ落ちを防ぎ溶融池10を形成する表裏一対の当金3,4が母材1の曲面に沿うように回動可能に支持されている。21は上記溶接台車11の左右両側および表側を取り囲むように配置されて溶接台車11に固定連結されたキャリッジ本体であり、このキャリッジ本体21の上端部から上方へ延設したアーム22の先端部にワイヤリール23が回転自在に軸支されているとともに、このワイヤリール23から繰り出される溶接ワイヤ8Aを直線状に矯正するワイヤストレーナ24を装備したワイヤ送給機構7が上記キャリッジ本体21の上端部近くにブラケット25を介して固定支持されている。このワイヤ送給機構7は、上述したワイヤ送給ロール5および加圧ロール6と減速機付モータ27とから構成されている。
【0015】
上記溶接トーチ9は上記溶接台車11における表台車12の下端部近くにおいて当該溶接台車11に対して前後、左右調整用スライド機構33,34および角度調整用スライド機構35を介して前後、左右に位置調整可能かつ角度調整可能に取り付けられた筒状のトーチ支持部材36に保持されており、上記ワイヤリール23から繰り出され、ストレーナ24で直線状に矯正されつつ上記ワイヤ送給機構7により可撓性トーチケーブル28内を経て強制送給されてくる細径の溶接ワイヤ8Aを通過させて上記表裏一対の当金3,4に囲まれた溶接部に連続的に供給する。29はオシレート装置で、上記キャリッジ本体21に装着されており、このオシレート装置29における母材1の肉厚方向にストローク運動する可動部材32に上記筒状トーチ支持部材36が支持されて、エレクトロガスアーク溶接時において溶接トーチ9を母材1の肉厚方向にオシレートさせるようになっている。
【0016】
上記オシレート装置29は、周知の構造を有するものであるために、その詳細な構成の説明および図示は省略するが、概要的には、駆動モータ29aとこの駆動モータ29aに連動して正逆駆動回転されるボールネジとこのボールネジの正逆回転に伴ってストローク運動するナット状部材とこのナット状部材のストローク運動を設定範囲に制御するための近接スイッチなどから構成されており、上記可動部材32が上記ナット状部材に一体に固定されている。このオシレート装置29はストローク範囲の両端での運動方向の切替え時において停止されるが、そのうち母材1の表側1aにおける停止時間を裏側1bにおける停止時間よりも長く設定されており、これによって、上記可動部材32を介して母材1の肉厚方向にオシレートされる溶接トーチ9のオシレート実質速度が、溶接部の裏側1bでの速度よりも表側1aでの速度が小さくなるように設定されている。
【0017】
37は上記溶接台車11における表台車12の上部側ガイドローラ12aの軸支部から上方へ向けてその軸支部を中心にして回転可能な状態に延出された延長腕で、その先端部には母材1の表面に摺接するガイドローラ12bが軸支されており、これによって、溶接台車11はその走行方向に沿って3節構造となり、母材1の曲面に沿って走行しやすい構成とされている。38は上記延長腕37の上端部にピン39を介して屈折可能に取り付けられた吊環40付の安全器であり、溶接機本体を後述する電気チェーンブロックおよび吊上げチェーンを介して母材1に沿って吊上げ走行させる際に、吊上げチェーンに一定以上の負荷がかかった時、吊上げ走行を自動停止する機能を有している。なお、図2および図3において、41は操作箱、42は電流検出計箱である。
【0018】
次に、上記のような構成の溶接機本体をもつ自動エレクトロガスアーク溶接装置を用いて、図4〜図7に示すように、例えば船の船首や船尾などの母材1の曲り部Bおよび直線部Aまでを連続して立向き溶接する方法について説明する。
図4及び図5に明示するように、直線部Aの上端部にハンガーパイプ44を介して電気チェーンブロック43を装備し、この電気チェーンブロック43の吊上げモータ減速機45から下方へ繰り出した吊上げチェーン46の下端フック47を上記溶接機本体における安全器38に付設の吊環40に係合させる。
【0019】
この状態で、上記電気チェーンブロック43の吊上げモータ減速機45を駆動すると、吊上げチェーン46を介して溶接機本体における溶接台車11が図4及び図7に示すように、上記母材1の曲り部Bにおける開先2に沿って表裏一対の当金3,4と共に上進されつつ、ワイヤ送給機構7を介して送給されてくる細径の溶接ワイヤ8Aが上記溶接台車11に対して予め一定の取付け角度に設定されている溶接トーチ9を通して上記表裏一対の当金3,4に囲まれた溶接部に連続的に送給され、既述した図1の溶接態勢となって曲り部Bを順次立向き溶接し、この曲り部Bの立向き溶接に続けて、図4及び図6に明示のように、上記直線部Aも連続的に立向き溶接されるに至るのである。
【0020】
そして、上記曲り部Bにおける溶接時において、図7に明示されているように、上記溶接トーチ9は溶接台車11に対する取付け角度を一定に保ったまま、つまり溶接ワイヤ8Aの狙い角を一定にしたままで上記オシレート装置29の作動に伴い可動部材32を介して母材1の肉厚方向に直線的にオシレートされ、これによって、図9の矢印に示すように、アーク点aが母材1の肉厚方向に直線的に移動し溶融池10が攪拌されて溶融金属および高温溶融スラグは裏側1bに偏流されることなく、表側1aにも十分に流されることになる。また、溶接ワイヤ8Aの母材1肉厚方向へのオシレートによって、ワイヤ突出し長さが表側1aでは短く、かつ裏側1bで長くなるといった変化を呈し、このようなワイヤ突出し長さの変化に伴って、図8に示すように、定電圧特性の直流溶接電源による溶接電流Iがワイヤ突出し長さLが短くなる表側1aでは大きくなり、逆にワイヤ突出し長さLが長くなる裏側1bでは小さくなるという自己制御作用(ワイヤ送給速度一定)が発揮されることになって表側1aほど大きな溶込み量及び溶着量が得られる。
【0021】
上記のような溶接ワイヤ8Aのオシレートと直流溶接電源の使用にともなう自己制御作用との組み合わせによって、母材1の傾斜角度θが、例えば−45°〜0°の範囲で連続的に変化する曲り部Bにおいても母材表側1aの溶込み量を常に十分に確保して、図9に示すように、母材1の表裏の溶込み形状が均一で、曲り部Bの全長に亘ってほぼ一定幅のビードbを形成して溶接欠陥の発生を防止することが可能である。
【0022】
その上、上記オシレート装置29のストローク範囲両端での運動方向の切替え時における停止時間の差によって上記溶接トーチ9および溶接ワイヤ8Aのオシレート実質速度が、溶接部の裏側での速度よりも表側での速度が小さくなるように設定されているので、溶接部の表側での溶接時間長さが裏側での溶接時間長さよりも長くなり、その時間差分だけ表側の入熱量が裏側よりも大きくなる。このように表裏で入熱量に差をもたせることによって、母材1の傾斜角度θの変化にともなう実効肉厚Dの変化に起因して溶融池10表面の単位面積当りの入熱量が表側よりも裏側で大きくなるという入熱量のアンバランスが相殺あるいは減少されて、特に母材1の傾斜角度θが大きいときの表側の溶込み量及び溶着量の不足を十分にカバーすることが可能となり、表裏の溶込み形状を一層均一化することができる。
【0023】
なお、上記実施の形態では、曲り部Bの立向き溶接時においてのみ溶接トーチ9および溶接ワイヤ8Aをオシレートさせるように説明したが、直線部Aの立向き溶接時にも溶接トーチ9および溶接ワイヤ8Aをオシレートさせて表裏の溶込み形状を均一なものとしている。
【0024】
また、上記実施の形態では、母材がその表側に突き出た形の曲り部での立向き溶接に適用した場合について説明したが、裏側に突き出た形の曲り部での立向き溶接にも適用可能である。
【0025】
また、上記実施の形態では、溶接部の裏側でのオシレート速度よりも表側でのオシレート速度を小さくする手段として、オシレート装置29のストローク範囲両端での停止時間に差をもたせて実質速度が大小になるようにしたが、例えば駆動モータ29aの回転速度制御によってストローク運動速度そのものを裏側よりも表側を小さくするようにしてもよい。
【0026】
さらに、上記実施の形態では、溶接トーチ9をオシレート装置29の作動に伴い可動部材32を介して母材1の肉厚方向に直線的にオシレートさせて、アーク点をa1〜a2間に亘って母材1の肉厚方向に直線的に移動させたが、図10の矢印に示すように、溶接トーチ9及びアーク点をa1〜a2間とa1〜a3間に亘ってV字状にオシレートさせてもよい。
【0027】
【発明の効果】
以上のように、請求項1に記載の発明によれば、細径の溶接ワイヤを溶接台車に対して一定角度に設定されている溶接トーチを通して母材の肉厚方向にオシレートさせることで、アーク点を移動させ溶融池を攪拌して溶融金属および高温溶融スラグを裏側に偏流させることなく、表側にも十分に流して表側を溶込みやすくすることが可能である。また、溶接ワイヤの母材肉厚方向へのオシレートに伴いワイヤ突出し長さが表側では短く、かつ裏側で長くなるといった変化に着目して溶接電源として定電圧特性の直流電源を使用することにより、ワイヤ突出し長さが短くなる表側では溶接電流が大きく、かつワイヤ突出し長さが長くなる裏側では溶接電流が小さくなるという直流溶接電源の有する自己制御作用(ワイヤ送給速度一定)を有効に活用して、表側は大きな溶込み量及び溶着量を得る。このような溶接ワイヤのオシレートと直流溶接電源の使用にともなう自己制御作用との組み合わせによって、機構的に簡単に実施しやすいものでありながら母材の傾斜角度のいかなる変化にもかかわらず母材表裏の溶込み量、溶着量および溶込み形状を常に十分かつ均一に保持して、溶接部の全長に亘って一定幅、一定品質のビードを確実に形成することができるという効果を奏する。
【0028】
また、請求項2に記載の発明によれば、上記効果に加えて、溶接部の表側での溶接時間長さを裏側での溶接時間長さよりも長くして、その時間差分だけ表側の入熱量を裏側よりも大きくし、このような表裏の入熱量の差によって、母材の傾斜角度の変化にともなう実効肉厚の変化に起因して溶融池表面の単位面積当りの入熱量が表側よりも裏側で大きくなるという入熱量のアンバランスを相殺あるいは減少させて、特に母材の傾斜角度が大きいときの表側の溶込み量及び溶着量の不足を十分にカバーし、一層良好な溶接結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明に係る曲面等の立向き溶接方法を示す要部の説明図である。
【図2】同上立向き溶接方法に使用される自動エレクトロガスアーク溶接装置における溶接機本体を示す側面図である。
【図3】同上溶接機本体の正面図である。
【図4】同上溶接機本体による溶接動作要領を示す概略側面図である。
【図5】図4のうち、溶接機本体を吊上げ走行させるための電気チェーンブロックなどの主要構成を示す側面図である。
【図6】図4のうち、直線部における溶接動作を説明する側面図である。
【図7】図4のうち、曲り部における溶接動作を説明する側面図である。
【図8】定電圧特性の直流溶接電源の自己制御作用を説明する特性図である。
【図9】溶接部における溶接トーチ及びアーク点のオシレート方向の一例とそれによる溶込み形状を示す要部の横断面図である。
【図10】溶接部における溶接トーチ及びアーク点のオシレート方向の他の例とそれによる溶込み形状を示す要部の横断面図である。
【図11】従来の曲面等の立向き溶接方法を示す要部の説明図である。
【図12】従来一般の立向き溶接方法による溶接部の溶込み形状を示す要部の横断面図である。
【符号の説明】
1 母材
3,4 当金
8A 細径の溶接ワイヤ
9 溶接トーチ
11 溶接台車
29 オシレート装置
Claims (2)
- 傾斜角度が連続的に変化する母材の溶接部に沿って、溶接台車及び上記溶接部の表裏両面に押し当てられて溶融金属の流れ落ちを防ぐ表裏一対の当金を上進させつつ、上記溶接台車に対して一定角度に設定されている溶接トーチを通して上記溶接部に溶接ワイヤを連続的に送給して溶接部を立方向に順次溶接する曲面等の立向き溶接方法であって、
上記溶接ワイヤとして、直径が0.9〜2.0mmの範囲から選ばれた細径のワイヤを使用するとともに、
溶接電源として定電圧特性の直流電源を使用し、
かつ、上記溶接トーチを母材の厚さ方向にオシレートさせることを特徴とする曲面等の立向き溶接方法。 - 上記溶接トーチのオシレート速度が、溶接部の裏側での速度よりも表側での速度が小さくなるように設定されている請求項1に記載の曲面等の立向き溶接方法。
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