JP3618027B2 - 内視鏡下に誘導可能な拡張バルーンカテーテル - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は経内視鏡的に挿入して、総胆管結石等の治療を行うための拡張バルーンカテーテルに関する。
【0002】
【従来の技術】
胆石症は、肝臓、胆嚢、総胆管等に胆石が発生し、炎症等の症状が発生する病気であり、胆石の発生する部位により肝内結石、総胆管結石、胆嚢結石等の名称を有する。総胆管結石は肝臓から分泌された胆汁の通り道である総胆管に胆石が発生したもので、胆石により総胆管が閉塞すると黄疸となったり、可及的速やかなるドレナージ、結石除去を行わなければ細菌感染による化膿性胆管炎を起こし、死に至る場合もある。
【0003】
旧来、総胆管結石の治療手段は開腹手術が主であり、胆石を有する患者にとっては大きな負担となっていた。しかし、近年、技術の発達により、内視鏡を使用した開腹を行わない低侵襲治療手段が開発されてきた。
総胆管結石の内視鏡的療法のひとつである内視鏡的乳頭切開術(以下ESTと略す)は、総胆管の十二指腸への開口部があるファーター乳頭を結石摘出ができる程度に高周波メス(パピロトーム)で切開して、総胆管内の結石を十二指腸内に取り出す方法で、現在広く普及している。
【0004】
しかし、この方法はファーター乳頭にメスを入れて切開するため、切開する位置や方向、切開の程度を誤ると、動脈性の大出血や、十二指腸穿孔等の合併症が発生するという欠点を有する。さらに、これらの合併症には緊急開腹手術が必要になるため、患者の負担は開腹術となんら変わらなくなってしまう。
内視鏡的乳頭バルーン拡張術(以下EPBDと略す)はESTの欠点を克服するために考案されたといってよい。この方法では、バルーンカテーテルを使用してファーター乳頭を拡張する。すなわち、ファーター乳頭を切開するのではなく、経内視鏡的にファーター乳頭にバルーンを配置した後に、バルーンを高圧で膨張して結石摘出ができる程度にファーター乳頭の開口部を拡大しようとするものである。この方法は切開を伴わないため、ESTの欠点であった合併症の発生は皆無となり、ファーター乳頭の機能を温存できるというメリットを有している。
【0005】
さらに、胆道鏡等を使用した検査等、結石摘出以外の症例に対しても、前述したESTでは患者の侵襲が大きく、合併症のリスクが問題であるが、EPBDは安全かつ効果的な方法として適用が始まっている。
しかし、その反面、EPBDはバルーンカテーテルの構造的な欠陥により、挿入操作方法が煩雑であり、術者以外に複数の補助者が必要という欠点を有していた。ここで、図を使用してバルーンカテーテルの挿入方法を詳細に説明し、本発明が解決しようとする問題点を明確にする。
図1は、バルーンカテーテルと、バルーン挿入時の内視鏡とファーター乳頭の位置関係を示す図、図2のa〜dはバルーンカテーテルをファーター乳頭に挿入するための手順を示す図である。
【0006】
ファーター乳頭(5)は十二指腸下行脚後壁に位置しているため、ここへのアプローチには、先端側方に鉗子孔出口(10)、対物レンズ(11)もしくはCCDカメラ(電子スコープ)を有するタイプの内視鏡が使用される。術者はバルーンカテーテル(6)を鉗子チャンネル(12)に通し、対物レンズ(11)を通して得られる内視鏡画像を観察して、鉗子孔出口(10)から出たバルーンカテーテル(6)の先端(9)をファーター乳頭(5)に誘導しようとする。
バルーン(7)は完全に収縮してシャフト(21)に巻き付けられた状態(以後ラッピングという)で保持されて鉗子チャンネル(12)に挿通されるが、いかにうまくバルーンをラッピングしたとしても、バルーンの構造上、ラッピングの戻りによるバルーン部の嵩張りが発生してしまう。
【0007】
図1より明らかなように、バルーン(7)の嵩張りは、対物レンズ(11)から得られる視界を狭めてしまい、先端(9)とファーター乳頭(5)を十分に確認できない不具合が発生する。また、鉗子孔出口(10)とファーター乳頭(5)の隙間は、このタイプの内視鏡の最小可視距離である10mmに設定されるのに対し、バルーン(7)の長さが25〜30mmであるため、バルーン(7)が鉗子孔出口(10)にかかり、挿入操作性が著しく損なわれる不具合が同時に発生する。このため、バルーンカテーテル(6)を直接ファーター乳頭に挿入するのは難しく、術者は以下に述べる煩雑な手技を実施しなければならない。
【0008】
まず、術者はERCPカテーテル(内視鏡的逆行性胆管膵管造影用カテーテル)(2)をファーター乳頭(5)に挿入する(図2−a)。ERCPカテーテル(2)の全長は、内視鏡の有効長(1.0〜1.4m)よりも長く、一般的には、処置等を行う先端部と処置操作を実行する基端部に余裕を持たせるために、少なくとも1.8mの長さを有する。これはERCPカテーテルに限らず、バルーンカテーテル(6)をはじめ、経内視鏡的に挿入する医療用具すべてに共通する。
次に、術者はERCPカテーテル(2)の内腔に、少なくともその2倍の長さを有するガイドワイヤー(4)を挿通し、先端をファーター乳頭(5)に到達させる(図2−b)。この時、ガイドワイヤー(4)の後方部は、内視鏡(1)およびERCPカテーテル(2)に挿通されない状態で保持される。
【0009】
この後、ERCPカテーテル(2)を抜去し(図2−c)、留置されたガイドワイヤー(4)に沿って、バルーンカテーテル(6)を挿入していく。バルーン(7)をファーター乳頭(5)に配置して挿入操作は完了する(図2−d)。
ERCPカテーテル(2)の抜去とバルーンカテーテル(6)の挿入をガイドワイヤー(4)の誘導下に行うためには、ガイドワイヤー(4)には、c、dの使用状態において、抜去、または誘導するカテーテルの内腔に挿通しきれるだけの後方部長さが必要である。すなわち、ガイドワイヤーは使用するカテーテルの少なくとも2倍の長さ、具体的には少なくとも3.6mの長さが必要である。
【0010】
このため、図中bからdの操作を実施する際には、ガイドワイヤー(4)、バルーンカテーテル(6)を空中に保持し、非清潔領域との接触による汚染を防ぐとともに、カテーテルの抜去、ガイドワイヤーのカテーテル内腔への挿通操作を実施する複数の補助者が必要となる。
このようにEPBDは、操作方法が煩雑であり、術者以外に複数の補助者が必要という欠点を有していた。しかし、本手技の合併症がなく、安全性と有効性が高いという特長は、多くの医者、患者が期待するものであり、QOLの向上の観点からも、より簡便に実施できる手段が望まれていた。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ファーター乳頭に直接誘導し、挿入することが可能なバルーンカテーテルを提供し、EPBDに関わる諸操作の簡便化をはかるとともに、EPBDを術者単独でも実施可能な手技とし、本手技の一層の普及を図ることにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ファーター乳頭に直接誘導し、挿入することが可能なバルーンカテーテルであって、前方部にバルーンを有し、長さ方向に貫通する第1ルーメンとバルーン内部に開口する第2ルーメンを有する可撓性チューブ1の先端に別の可撓性チューブ2よりなる先端チップを接合したカテーテルシャフトとからなるバルーンカテーテルであって、バルーン前方には長さ20〜60mmの可撓性チューブ2よりなる誘導部を有するとともに、可撓性チューブ2が200〜1000MPaの曲げ弾性率を有する材料から形成されたことを特徴とする内視鏡下に誘導可能な拡張バルーンカテーテルを提供するものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、実施例を用いて、本発明を詳細に説明する。図3は本発明の1実施例となるバルーンカテーテルの概略を示す図、図4は図3、A−A’における断面形状を示す図、図5は本発明の別の実施例となるバルーンカテーテルの前方部の断面図、図6は本発明によるバルーンカテーテルをファーター乳頭に挿入する時の模式図である。
【0014】
図3、4において、シャフト(21)は長さ方向に貫通する第1ルーメン(25)と膨張用コネクター(23)からバルーン枝管(24)を介してバルーン(7)内に通じる第2ルーメン(26)を有するダブルルーメンチューブである。シャフト(21)の先端には先端チップ(30)が付設され、先端チップ(30)の内腔(33)は第1ルーメン(25)に通じ、主腔枝管(22)のコネクターからガイドワイヤーを挿入したり、造影剤を注入することが可能である。バルーン(7)はバルーンカテーテル(6)前方部のシャフト(21)と先端チップ(30)上の2点において気密的に接合される。
【0015】
図3の実施例ではシャフト(21)に2つの内腔を有するダブルルーメンチューブを使用しているが、本発明はシャフト(21)の構造をこれのみに限定するものではなく、例えば、図5に示したように、内管(31)と外管(32)よりなるコアキシャルタイプのシャフトを使用してもよい。
シャフト(21)を形成する材料に特に限定はなく、例えば、軟質ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、テフロン等、あらゆる可撓性材料を使用することが可能である。ただし、シャフト(21)は鉗子チャンネル(12)内に挿通されるため、摩擦係数が高い材料から形成されたシャフトは内視鏡の鉗子チャンネル(12)をスムーズに通過できなくなり、バルーンカテーテルの操作性が低下するので好ましくない。
【0016】
また、内視鏡(1)の鉗子チャンネル(12)の表面はテフロンで形成されているため不要の場合が多いが、バルーンカテーテルの挿入操作性をいっそう向上させるためにシャフト(21)の表面にテフロンコートやポリパラキシリレンコート等の潤滑性処理を施してもよい。
シャフト(21)にフレキシビリティーを付与する場合は、柔軟な材料よりシャフト(21)を形成する。この場合、バルーンカテーテル(6)を鉗子チャンネル(12)に挿入していく際、鉗子入口(14)でのシャフト(21)の折れが発生するため、第1ルーメン(25)内に、ステンレスワイヤー等よりなるスタイレットが装備される。
【0017】
バルーン(7)は、少なくとも0.8MPaの耐圧性を有する。耐圧性が0.8MPaより小さいとファーター乳頭(5)を十分拡張できないので好ましくない。本発明で使用できるバルーンとしては、例えば、ポリオレフィンよりなるバルーン、特公昭63ー26655号公報に開示されているポリエチレンテレフタレートよりなるバルーン、特開昭63ー212373号公報、特開平3ー57462号公報に開示されているポリアミドエラストマーやナイロンよりなるバルーン、また、特願平7−213848号に開示されたポリウレタンよりなるバルーンが適当である。ただし、本発明は使用するバルーンをこれらに限定するものではない。
【0018】
本発明によれば、先端チップ(31)はバルーン(7)前方部において、長さLの誘導部(34)を構成する。誘導部(34)は、バルーン(7)に先だって鉗子孔出口(10)から突出してファーター乳頭(5)に到達し、バルーン(7)をファーター乳頭(5)に挿入するためのガイドとなる。図6より明らかなように、バルーン(7)は鉗子チャンネル(12)に完全に収納されており、内視鏡の視野には入ってこないため、術者は内視鏡に映るカテーテルの先端(9)やファーター乳頭(5)を容易に確認することができる。また、バルーン(7)が鉗子孔出口(10)にかかり、カテーテルの挿入操作性を低下させることもない。
【0019】
誘導部(34)の長さLは、20〜60mmに設定される。L<20mmでは、先端(9)をファーター乳頭(5)に挿入する時にバルーン(7)が鉗子孔出口(10)にかかり、内視鏡の視野を狭めるとともに挿入操作性が低下するので好ましくなく、L>60mmでは、バルーン(7)を挿入時にカテーテルの先端(9)でファーター乳頭(5)の奥にある総胆管、または膵管を傷つける可能性があるので好ましくない。より好ましい先端部(34)の長さLは30〜50mmで、操作性と安全性のいっそうの向上が可能である。
【0020】
誘導部(34)を構成する先端チップ(30)は、良好な挿入操作性を獲得するために、200〜1000MPaの曲げ弾性率を有する材料から形成される。誘導部(34)は鉗子孔出口(10)を支点としてファーター乳頭(5)の開口部に押し込まれるため、曲げ弾性率が1000MPaより大きい材料よりなる先端チップ(30)では、大きな押し込み力を獲得できる反面、硬度が大きくなるので、誘導部(34)が鉗子孔出口(10)で鉗子チャンネル(12)に対して約90゜方向変換した時に誘導部(34)が折れてしまうので好ましくない。曲げ弾性率が200MPaより小さくなると、誘導部(34)の柔軟性が大きくなり、鉗子孔出口(10)とファーター乳頭(5)の間で誘導部(34)に撓みが発生して挿入が困難になるので好ましくない。より好ましい曲げ弾性率は300〜850MPaであり、この範囲の曲げ弾性率を有する材料を用いることで、優れた押し込み力伝達性と耐屈曲性を高次元で融合した先端チップを獲得することが可能となる。
【0021】
本発明で使用可能な先端チップ(30)の材料としては、上記の条件を満足する材料であれば特に制限はないが、例えば、特願平8−135563号で開示されたポリアミドアロイよりなるチューブは最も好まく材料の1つである。また、造影性材料等のフィラーを練り混んだ材料も使用することが可能である。練り込むフィラーに特に制限はないが、誘導部(34)に造影性を付与する場合は、バリウム化合物、ビスマス化合物、タングステン化合物等のフィラーが好適である。
本発明に基づくバルーンカテーテルには、バルーン(7)の至適挿入レベルを示すマーカー(29)が設けられ、挿入操作の簡易化を可能とする。術者はバルーン(7)の挿入の際、内視鏡下にマーカー(29)とファーター乳頭(5)の位置をあわせるだけで容易にバルーン(7)を至適位置に配置することが可能である。マーカー(29)は、バルーン(7)内の先端チッブ(30)上に印刷、または金属リング等をはめ込むことにより設けられる。
【0022】
【発明の効果】
以上より明らかなように、本発明によるバルーンカテーテルは、ERCPカテーテルやガイドワイヤーを使用せず、バルーンを容易、迅速、かつ安全にファーター乳頭に挿入することが可能であり、EPBDに関わる諸操作の簡便化をはかるとともに、術者単独でも実施可能な手技とする医療用具としてきわめて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】バルーンカテーテルと、バルーン挿入時の内視鏡とファーター乳頭の位置関係を示す図である。
【図2】バルーンカテーテルをファーター乳頭に挿入するための手順を示す図である。
【図3】本発明の1実施例となるバルーンカテーテルの図である。
【図4】図3、A−A’における断面形状を示す図である。
【図5】本発明の別の実施例となるバルーンカテーテルの前方部の断面図である。
【図6】本発明によるバルーンカテーテルをファーター乳頭に挿入する時の模式図である。
Claims (1)
- ファーター乳頭に直接誘導し、挿入することが可能なバルーンカテーテルであって、前方部にバルーンを有し、長さ方向に貫通する第1ルーメンとバルーン内部に開口する第2ルーメンを有する可撓性チューブ1の先端に別の可撓性チューブ2よりなる先端チップを接合したカテーテルシャフトとからなるバルーンカテーテルであり、バルーン前方には長さ20〜60mmの可撓性チューブ2よりなる誘導部を有するとともに、可撓性チューブ2が200〜1000MPaの曲げ弾性率を有する材料から形成されたことを特徴とする内視鏡下に誘導可能な拡張バルーンカテーテル。
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