JP3612735B2 - 車両騒音低減装置及び制御信号設定方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、車両の走行に伴って発生するロードノイズ等の騒音を騒音低減音により低減する装置及び該騒音低減音を発生させるための制御信号を設定する方法に関し、特に車載オーディオ装置のオーディオ音への悪影響を回避する対策に関する。
【0002】
【従来の技術】
この種の騒音低減装置では、例えば実開昭61−1739号公報で知られているように、騒音としてのエンジン騒音を低減する場合に、制御手段によりエンジン騒音に関する騒音源信号(リファレンス信号)に基づいて制御信号を生成し、この制御信号を加振機に入力して該加振機によりエンジン騒音とは逆位相でかつ同振幅の反転音を発生させる一方、上記エンジン騒音を低減すべき箇所にエンジン騒音と加振機からの反転音との合成音を検出する加速度センサを設置し、この加速度センサの出力信号が小さくなるように上記制御手段において制御信号のゲイン調整及び位相調整を行うようにしたものがある。このものでは、上記加速度センサの出力信号が外乱に起因してゲインや位相が収束しなくなった場合に加振機に過大な加振力が生じて安全性が損なわれることを回避するために、上記出力信号の値が所定値以上になったときに制御信号のゲイン調整及び位相調整をやり直すようになされている。
【0003】
一方、本出願人が先に出願したもの(特開平5−232969号公報)では、例えばエンジン騒音を所定箇所において低減するために、該所定箇所でのエンジン騒音を低減させるアンチ騒音を発生するためのスピーカと、上記所定箇所での合成音を検出するマイクロフォンと、このマイクの出力信号をエンジン騒音の周期及びマイク/スピーカ間の音の伝達特性に基づいて補正する制御手段とを備え、この制御手段の制御信号によりスピーカでアンチ騒音を発生させるようにしている。このものでは、マイクの出力信号を利用することでエンジン騒音とのコヒーレンスが良好な制御信号を容易に得られることから、上記制御手段での演算量を従来のLMS(Least Mean Square Method〔=最小二乗法〕)アルゴリズムの数分の1以下に削減して演算時間の大幅な短縮化が図れるという利点がある。
【0004】
これらのものは、何れも騒音とのコヒーレンスが良好な騒音源信号を利用して騒音を低減する、いわゆるフィードフォワード制御による騒音低減装置であり、騒音検出手段の出力信号を効果的に小さくできるものとされている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、車両の走行に伴うロードノイズ等のように騒音源が特定できず、かつその騒音が不規則に変化するものである場合には、上記フィードフォワード制御による騒音低減装置では良好な騒音源信号を得ることが難しく、騒音の低減が困難である。
【0006】
したがって、上記のような騒音を低減するには、騒音検出手段の出力信号が小さくなるように制御信号をフィードバック制御するしかないのであるが、このようなフィードバック制御の場合には、車室内の音響特性が変化すると不安定になるという問題がある。
【0007】
一方、このような騒音低減制御を別の観点から考えた場合に、騒音検出手段の検出する音が全て低減すべき騒音であるとは言えない。すなわち、例えば車両に搭載されているオーディオ装置からのオーディオ音は、今日では、乗員に安らぎや爽快感をもたらす重要な要素の1つであると考えられている。にも拘らず、上記騒音低減のフィードバック制御をより効果的なものにしようと押し進めていくと、上記オーディオ音までもが低減されることとなり、オーディオ音の効果が得られないという問題が生じる。
【0008】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、良好な騒音源信号を得ることが困難なロードノイズ等の騒音を安定して低減できる一方、車載オーディオ装置からのオーディオ音への悪影響が回避できるようにすることにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、請求項1の発明では、低減音発生手段及び騒音検出手段間の音の伝達特性に関して予め行われた測定結果に基づいてモデル化してなる制御音伝達特性モデルHと、上記測定結果と上記制御音伝達特性モデルとの差の絶対値に基づいて予め定められたモデル化誤差値Wuと、騒音伝達特性Gと、該騒音伝達特性の低減騒音レベルを示すために予め定められた騒音低減用しきい値bと、定数Kとが、騒音低減制御を安定させる条件式を満たすように定数Kを求めて、該定数Kと上記騒音検出手段の出力信号とに基づいて制御信号を設定する一方、上記騒音検出手段の出力信号からオーディオ装置のオーディオ信号を除去することで、ロードノイズ等の騒音を安定した制御で効果的に低減しつつオーディオ音への悪影響が回避できるようにした。
【0010】
具体的には、本発明では、オーディオ装置を有する車室内に設置されて該設置位置における騒音源からの騒音を検出する騒音検出手段と、この騒音検出手段の出力信号を受け、上記騒音源及び騒音検出手段間の騒音伝達特性を低下させて乗員に対する騒音を低減するための制御信号を設定する制御手段と、この制御手段からの制御信号を受けて騒音低減音を発生する低減音発生手段とを備えた車両騒音低減装置が前提である。
【0011】
そして、上記オーディオ装置のオーディオ信号は、制御手段に入力されているものとする。その上で、上記制御手段は、上記低減音発生手段及び騒音検出手段間の音の伝達特性に関して予め行われた測定結果に基づいてモデル化してなる制御音伝達特性モデルHと、上記測定結果と上記制御音伝達特性モデルとの差の絶対値に基づいて予め定められたモデル化誤差値Wuと、上記騒音伝達特性Gと、該騒音伝達特性の低減騒音レベルを示すために予め定められた騒音低減用しきい値bと、定数Kとが、下記式(1)を満たすように定数Kを求めて、該定数Kと上記騒音検出手段の出力信号とに基づいて上記制御信号を設定し、かつ上記オーディオ装置の作動時に、騒音検出手段の出力信号からオーディオ装置のオーディオ信号を除去するように構成されているものとする。
【0012】
【数5】
(式(1)中、Wp=1/b、‖Q‖ ∞ は、クローズドループにおける目標値から制御量までの伝達関数Qの最大のゲインであってsup W ‖Q(jw)‖により定義されるものであり、‖・‖は行列のノルムを表す。)
【0013】
請求項2の発明では、上記請求項1の発明において、制御手段は、騒音検出手段の出力信号に代えて制御信号からオーディオ装置のオーディオ信号を除去するように構成されているものとする。
【0014】
請求項3の発明では、上記請求項1の発明において、制御手段は、騒音検出手段の出力信号に加えて制御信号からもオーディオ装置のオーディオ信号を除去可能に構成されているものとする。そして、上記オーディオ装置のオーディオ信号を騒音検出手段の出力信号又は制御手段の制御信号から選択的に除去するために切り換える切換手段を設ける。
【0015】
請求項4の発明では、上記請求項1の発明と同じ前提に立ちかつオーディオ装置のオーディオ信号が制御手段に入力されているものとした上で、上記制御手段は、上記低減音発生手段及び騒音検出手段間の音の伝達特性に関して予め行われた測定結果に基づいてモデル化してなる制御音伝達特性モデルHと、上記測定結果と上記制御音伝達特性モデルとの差の絶対値に基づいて予め定められたモデル化誤差値Wuと、上記騒音伝達特性Gと、該騒音伝達特性の低減騒音レベルを示すために予め定められた騒音低減用しきい値bと、定数Kとが、下記式(1)を満たすように定数Kを求めて、該定数Kと上記騒音検出手段の出力信号とに基づいて上記制御信号を設定し、かつ上記オーディオ装置の作動時には、上記制御信号の設定を中止するように構成されているものとする。
【0016】
【数6】
(式(1)中、Wp=1/b、‖Q‖ ∞ は、クローズドループにおける目標値から制御量までの伝達関数Qの最大のゲインであってsup W ‖Q(jw)‖により定義されるも のであり、‖・‖は行列のノルムを表す。)
【0017】
請求項5の発明では、オーディオ装置を有する車室内に設置位置における騒音源からの騒音を検出する騒音検出手段を設置し、この騒音検出手段の出力信号に基づき、騒音源及び騒音検出手段間の騒音伝達特性を低下させて乗員に対する騒音を低減するための制御信号を設定し、この制御信号を低減音発生手段に出力して騒音低減音を発生させるようにした車両騒音低減装置における上記制御信号の設定方法として、上記低減音発生手段及び騒音検出手段間の音の伝達特性に関して予め行われた測定結果に基づいてモデル化してなる制御音伝達特性モデルを定め、上記測定結果と上記制御音伝達特性モデルとの差の絶対値に基づいてモデル化誤差値を定め、上記騒音伝達特性の低減騒音レベルを示すための騒音低減用しきい値を定めておき、上記制御音伝達特性モデルHと上記モデル化誤差値Wuと上記騒音伝達特性Gと上記騒音低減用しきい値bと定数Kとが、下記式(1)を満たすように定数Kを求めて、該定数Kと上記騒音検出手段の出力信号とに基づいて上記制御信号を設定するとともに、上記オーディオ装置の作動時に、騒音検出手段の出力信号からオーディオ装置のオーディオ信号を除去することとする。
【0018】
【数7】
(式(1)中、Wp=1/b、‖Q‖ ∞ は、クローズドループにおける目標値から制御量までの伝達関数Qの最大のゲインであってsup W ‖Q(jw)‖により定義されるものであり、‖・‖は行列のノルムを表す。)
【0019】
請求項6の発明では、上記請求項5の発明において、騒音検出手段の出力信号に代えて、制御信号からオーディオ装置のオーディオ信号を除去するようにする。
【0020】
請求項7の発明では、上記請求項5の発明において、騒音検出手段の出力信号に加えて、制御信号からもオーディオ装置のオーディオ信号を除去するようにし、上記オーディオ装置のオーディオ信号を騒音検出手段の出力信号又は制御信号から選択的に除去するために切り換えるようにする。
【0021】
請求項8の発明では、上記請求項5の発明と同じ前提に立ち、上記低減音発生手段及び騒音検出手段間の音の伝達特性に関して予め行われた測定結果に基づいてモデル化してなる制御音伝達特性モデルを定め、上記測定結果と上記制御音伝達特性モデルとの差の絶対値に基づいてモデル化誤差値を定め、上記騒音伝達特性の低減騒音レベルを示すための騒音低減用しきい値を定めておき、上記制御音伝達特性モデルHと上記モデル化誤差値Wuと上記騒音伝達特性Gと上記騒音低減用しきい値bと定数Kとが、下記式(1)を満たすように定数Kを求めて、該定数Kと上記騒音検出手段の出力信号とに基づいて上記制御信号を設定するとともに、上記オーディオ装置の作動時には上記制御信号の設定を中止するようにする。
【0022】
【数8】
(式(1)中、Wp=1/b、‖Q‖ ∞ は、クローズドループにおける目標値から制御量までの伝達関数Qの最大のゲインであってsup W ‖Q(jw)‖により定義されるものであり、‖・‖は行列のノルムを表す。)
【0023】
【作用】
請求項1又は5の発明では、車室内において、騒音検出手段により騒音源からの騒音が検出される。そして、上記騒音検出手段の出力信号を受けた制御手段により制御信号が設定され、この制御信号を受けた低減音発生手段により騒音低減音が発生される。この騒音低減音により、上記騒音源及び騒音検出手段間の騒音伝達特性が低下され、このことで、乗員への騒音が低減される。このとき、上記制御手段では、制御音伝達特性モデルHとモデル化誤差値Wuと騒音伝達特性Gと騒音低減用しきい値bと定数Kとが、式(1)を満たすように定数Kが求められ、この定数Kと騒音検出手段の出力信号とに基づいて制御信号が設定される。すなわち、上記制御音伝達特性モデルが用いられることにより、騒音検出手段の設置位置における騒音低減音の騒音に対する低減効果が高められる。このとき、上記モデル化誤差値及び騒音低減用しきい値が考慮されることにより、騒音発生手段の出力信号が小さくなるように制御信号をフィードバック制御する際の外乱に対する安定性が確保される。
【0024】
また、オーディオ装置の作動時には、上記騒音検出手段の出力信号からオーディオ装置のオーディオ信号が制御手段により除去され、このことで、騒音検出手段により検出される音のうち、低減対象である騒音からオーディオ音が除外される。この場合には、制御信号の設定の前にオーディオ装置本体の出力信号が除去されることにより、騒音検出手段がオーディオ音を検出していない状態にあると見做されるので、上記低減音発生手段の騒音低減音がオーディオ音に影響を及ぼすという事態は、騒音検出手段の設置位置において回避される。
【0025】
請求項2又は6の発明では、上記騒音検出手段の出力信号に代えて、制御信号からオーディオ装置のオーディオ信号が制御手段により除去される。この場合には、制御信号の設定の後にオーディオ信号が除去されることにより、低減音発生手段の騒音低減音からオーディオ音に関係する音が除外されるので、この騒音低減音がオーディオ音に影響を及ぼすという事態は、車室内全体において回避される。
【0026】
請求項3又は7の発明では、上記オーディオ装置のオーディオ信号は、騒音検出手段の出力信号からでも制御信号からでも切り換えて除去されるので、騒音検出手段の設置位置に限って騒音低減音のオーディオ音への影響が回避される作用と、車室内全体において騒音低減音のオーディオ音への影響が回避される作用とを、乗員が任意に切り換えることができる。
【0027】
請求項4又は8の発明では、上記オーディオ装置の作動時には、制御信号の設定が停止される。よって、オーディオ装置の非作動時にはロードノイズ等の騒音を効果的に低減する一方、オーディオ装置の作動時には、騒音低減音がオーディオ音に悪影響を及ぼすという事態は完全に回避される。
【0028】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0029】
(実施例1)
図2及び図3は、本発明の実施例1に係る騒音低減装置の全体構成を概略的に示し、この騒音低減装置は、オーディオ装置が搭載された自動車(車両)における各座席の乗員に対するロードノイズ等、数十〜数百Hzの騒音を騒音源信号(リファレンス信号)を用いずに低減するためのものである。
【0030】
同各図において、1は自動車の車体、2は車体1の前後中央部に位置する車室、3,4は車室2を開閉する前後のドアであって、上記車室2内には前後に座席5,6が設置され、前部座席5(図2及び図3のそれぞれ左側の座席)は右側の運転席5a及び左側の助手席5bで、また後部座席6(図2及び図3のそれぞれ右側の座席)は左右2つの後席6a,6aでそれぞれ構成されている。7は、運転席5aの前方位置に設置されたステアリングホイールである。
【0031】
そして、本実施例1では、運転席5a,助手席5b及び後席6aにおける各ヘッドレスト8の左右何れかの側(着座した乗員の左右何れかの耳に近い位置)がそれぞれ騒音低減箇所とされ、これらの箇所にそれぞれ騒音検出手段としてのマイクロフォン10が1個ずつ合計4個取り付けられ、これらのマイクロフォン10,10,…により車室2内の音を乗員の耳近くで検出するようにしている。一方、上記車体1左右の前側ドア3,3の車室2内側面、及び車室2後端のパッケージトレイ11の左右両側部にはそれぞれ車室2内に騒音低減音を発生させる低減音発生手段としてのスピーカ12,12,…が配置され、これら4個のスピーカ12,12,…はオーディオ装置15と兼用されている。そして、インストルメントパネル13の左右中央に、オーディオ装置15が設置されている。
【0032】
上記スピーカ12,12,…及びマイクロフォン10,10,…は、例えば助手席5b側のインストルメントパネル13内に配置した制御手段としてのコントローラ14に接続されている。そして、上記車室2内の騒音と各スピーカ12から発せられる騒音低減音との合成音を各マイクロフォン10で検出し、そのマイクロフォン10から出力されるマイク信号uをコントローラ14に入力するとともに、各スピーカ12にマイク信号uとは逆位相である制御信号としてのスピーカ信号yを出力することにより、各マイクロフォン10の位置で各スピーカ12からの騒音低減音を騒音と干渉させて、各マイクロフォン10により検出される音を低減するようにしている。
【0033】
上記コントローラ14は、図4に詳しく示すように、デジタル信号処理によりマイク信号uを小さくするためのスピーカ信号yを出力する制御手段としてのCPU16(セントラル・プロセシング・ユニット)を有し、該CPU16の入力段には、各マイクロフォン10からのマイク信号uを増幅するマイクアンプ17と、増幅されたマイク信号uの低周波部分(例えば500〜1000Hz以下)を瀘波するローパスフィルタ18と、瀘波されたアナログのマイク信号uをデジタル信号に変換するA/D変換部19とがそれぞれマイクロフォン10,10,…の個数と同じ数だけ順に接続されている。一方、CPU16の出力段には、デジタルのスピーカ信号yをアナログ信号に変換するD/A変換部20と、アナログ信号に変換されたスピーカ信号yの低周波部分を瀘波するローパスフィルタ21と、瀘波されたスピーカ信号yを増幅するスピーカアンプ22とがそれぞれスピーカ12,12,…の個数と同じ数だけ順に接続されている。また、上記CPU16の入力段には、オーディオ装置本体15からのオーディオ信号oを増幅するマイクアンプ23と、増幅されたオーディオ信号oの低周波部分(例えば500〜1000Hz以下)を瀘波するローパスフィルタ24と、瀘波されたアナログのオーディオ信号oをデジタル信号に変換するA/D変換部25とが順に接続されている。上記演算処理ブロック16、A/D変換部19,25及びD/A変換部20の各作動は、図外のサンプリングクロック発生部で発生したサンプリング周期信号により互いに同期して行われる。
【0034】
上記CPU16の構成を図5に基づいてさらに詳しく説明する。マイク信号uはm個(ここではm=4)のマイク信号u1〜umからなる列ベクトルであり、基本的に、これらマイク信号u1〜umに基づいて、該CPU16に設けられた演算ブロック40の持つ定数Kによりl個(ここではl=4)のスピーカ信号y1〜ylからなる列ベクトルとしてのスピーカ信号yが演算される。上記定数Kは、図6に示すように、A〜Dの4つのマトリクス成分からなる行列であり、その演算処理は、図7に示すフローチャートのように行われる。すなわち、ステップS1でマイク信号uを入力した後、ステップS2では、前回のマイク信号xにC成分が乗算された値と、今回のマイク信号uにD成分が乗算された値とを加算して、スピーカ信号yを求める。そして、ステップS3で上記スピーカ信号yをスピーカ12に出力し、次いでステップS4に移る。このステップS4では、前回のマイク信号xにA成分が乗算された値と、今回のマイク信号uにB成分が乗算された値とを加算して、上記ステップS2で処理する際に前回のマイク信号xとなる値を求め、その後、上記ステップS1に戻る。
【0035】
本発明の特徴として、上記CPU16は、図1(a)に示すように、スピーカ12からマイクロフォン10に達する騒音低減音の伝達特性をモデル化してなる制御音伝達特性モデルHについて定められたモデル化誤差値Wu(Uncertainty Weight)と、図1(b)に示すように、騒音源Sから上記マイクロフォン10に入ってくる騒音伝達特性Gの低減すべき騒音レベルを示すために定められた騒音低減用しきい値b(Performance Objective)とにより決定される定数Kに基づいてスピーカ信号yを設定するようになされている(尚、説明の簡単化のためにスピーカ12,12,…及びマイクロフォン10,10,…はそれぞれ1個とし、かつオーディオ装置15及び騒音低減装置は、各々、専用のスピーカを有するものとする)。また、上記オーディオ装置15の作動時には、マイク信号uからオーディオ装置15のオーディオ信号oを除去するように構成されている。
【0036】
具体的には、上記制御音伝達特性モデルHは、CPU16からスピーカ信号yを出力した後に該スピーカ信号yによりスピーカ12,12,…がそれぞれ駆動制御されて車室2内の音に変化があり、この音の変化がマイクロフォン10により検出されてそのマイク信号uがCPU16に入力されるまでの音の伝達特性を実際の測定結果H′に基づいてモデル化したものである。そして、その際のモデル化誤差を考慮して、上記演算ブロック40の定数Kを決定する際に誤差量の絶対値|H−H′|に対するモデル化誤差値Wuを定めている。一方、上記騒音伝達特性Gに対し騒音低減用しきい値bを定めておいて、コントローラ14を含むクローズドループの伝達関数のピークを集中的にラインb以下に落とすようになされている。つまり、騒音低減用重みWp(Performance Weight)を、Wp=1/bとすると、全ての周波数に対して、
【数9】
つまり、
【数10】
の関係式が成り立つようにする。そして、これらモデル化誤差値Wu及び騒音低減用しきい値bを定めることが、上記定数Kを決定してスピーカ信号yを設定することになる。
【0037】
このとき、上記モデル化誤差値Wuと騒音低減用しきい値bとは互いに独立には決められない。例えば、モデル化誤差値Wuを小さくして騒音低減効果を高めようとすると車室2内の音響特性の変化を受け易くなって騒音低減制御が不安定になることから、モデル化誤差値Wuを大きくすると、今度は、騒音低減用しきい値bを下げることができなくなる。そこで、ロバスト制御の1つであるH∞制御理論においてフィードバック特性の場合の混合感度問題として知られている次式(1)を満たすようなモデル化誤差値Wu及び騒音低減用しきい値bを選択して定数Kを決定していく。
【0038】
【数11】
(式(1)中、Wp=1/b、‖Q‖ ∞ は、クローズドループにおける目標値から制御量までの伝達関数Qの最大のゲインであってsup W ‖Q(jw)‖により定義されるものであり、‖・‖は行列のノルムを表す。)
【0039】
次に、上記オーディオ装置15のオーディオ信号oをマイク信号uから除去してスピーカ信号yを設定する回路について図5及び図8に基づいてさらに詳しく説明する。
【0040】
上記CPU16における演算ブロック40の入力段には、図8に原理的に示すように、スピーカ12とマイクロフォン10との間の音の伝達特性をモデル化した制御音伝達特性モデルH1に基づいて、各々のスピーカ12に出力されるオーディオ信号oの位相及びゲインを調整するモデルフィルタ26と、このモデルフィルタ26から出力されたオーディオ信号oをマイク信号uから除去する減算器27とが設けられている。具体的には、図5に示すように、上記モデルフィルタ26はマイク信号uの数(m個)だけ配置され、かつ各モデルフィルタ26はスピーカ信号yと同じ数(l個)だけのモデルフィルタ26a,26a,…が並列に接続されてなっている。これら各モデルフィルタ26aは、各々、スピーカ12の騒音低減音がマイクロフォン10に達するまでの間の音の伝達特性がモデル化された制御音伝達特性モデルH1〜Hlを備えている。つまり、第1のマイクロフォン10については、該マイクロフォン10とl個のスピーカ12,12,…との間の各制御音伝達特性モデルH11,H21,…,Hl1からなるモデルフィルタ26a,26a,…を備えたモデルフィルタ26が、したがって、第mのマイクロフォン10については、該マイクロフォン10とl個のスピーカ12,12,…との間の各制御音伝達特性モデルH1m,H2m,…,Hlmからなるモデルフィルタ26a,26a,…を備えたモデルフィルタ26がそれぞれ連設されている。また、各モデルフィルタ26には、モデルフィルタ26a,26a,…の各出力値を合算してその合算値を上記減算器27に出力する加算器26bが設けられている。
【0041】
したがって、本実施例1によれば、車室2内の運転席5a、助手席5b及び後席6aにおいて、マイクロフォン10により騒音源Sからの騒音が検出される。そして、マイク信号uを受けたCPU16によりスピーカ信号yが設定され、このスピーカ信号yを受けたスピーカ12により騒音低減音が発生される。この騒音低減音により、上記騒音源S及びマイクロフォン10間の騒音伝達特性Gが低下され、このことで、乗員への騒音dが低減される。このとき、上記CPU16において制御音伝達特性モデルHが用いられることにより、マイクロフォン10の設置位置での騒音に対する騒音低減音の低減効果を高めることができる。さらに、上記制御音伝達特性モデルHのモデル化誤差値Wuと騒音低減用しきい値bとが考慮されていることにより、外乱に対する騒音低減制御の安定性を確保することができる。
【0042】
また、オーディオ装置15の作動時には、上記マイク信号uからオーディオ装置15のオーディオ信号oが除去され、このことで、マイクロフォン10により検出される音のうち、低減対象である騒音からオーディオ音が除外される。この場合には、スピーカ信号yの設定の前にオーディオ信号oが除去されることにより、マイクロフォン10がオーディオ音を検出していない状態にあると見做されるので、上記スピーカ12の騒音低減音がオーディオ音に影響を及ぼすという事態は、各マイクロフォン10の設置位置においてのみ回避することができる。
【0043】
(実施例2)
図9は、本発明の実施例2に係る車両騒音低減装置の基本構成を概略的に示し、この車両騒音低減装置では、オーディオ装置15のオーディオ信号oは、CPU16における演算ブロック40の出力側で除去される。
【0044】
すなわち、本発明の特徴として、上記実施例1のマイク信号uに代えて、CPU16のスピーカ信号yからオーディオ装置15のオーディオ信号oを除去するようになっている。
【0045】
具体的には、図10に詳示するように、上記演算ブロック40の出力段には、上記実施例1と同じ構成でかつ同じ数(l個)のモデルフィルタ26と、これらモデルフィルタ26から出力されたオーディオ信号oに対し該演算ブロック40と同じ定数Kを用いて同じ演算処理を施すオーディオ用演算ブロック41と、このオーディオ用演算ブロック41が出力したオーディオ信号oを上記スピーカ信号yから除去する減算器29とが設けられている。
【0046】
したがって、本実施例2によれば、上記実施例1と異なり、マイク信号uに代えて、スピーカ信号yからオーディオ信号oが除去される。この場合には、スピーカ信号yの設定の後にオーディオ信号oが除去されることにより、スピーカ12の低減音からオーディオ音に関係する音が除外されるので、該スピーカ12の騒音低減音がオーディオ音に影響を及ぼすという事態は、車室2内全体において回避することができる。
【0047】
(実施例3)
図11は、本発明の実施例3に係る車両騒音低減装置の基本構成を概略的に示し、この車両騒音低減装置では、上記実施例1のものと実施例2のものとが切換可能に接続されている。
【0048】
つまり、本発明の特徴として、CPU16は、図12に詳しく示すように、マイクロフォン10のマイク信号uに加えてスピーカ信号yからもオーディオ装置15のオーディオ信号oを除去可能に構成されている。また、上記オーディオ装置15のオーディオ信号oをマイク信号u又はスピーカ信号yから選択的に除去するために切り換える切換手段としての切換スイッチ30が設けられている。そして、この切換スイッチ30には、車室2内で手動入力可能なマニュアルスイッチ31が連設されていて、このマニュアルスイッチ31の出力によりオーディオ信号oがマイク信号u又はスピーカ信号yから選択的に除去されるようになっている。尚、本実施例3のその他の構成は上記実施例1及び実施例2と同じであるので、同じ部分には同じ符号を付して示し、その説明は省略する。
【0049】
よって、本実施例3によれば、オーディオ信号oを、マイク信号uからでもスピーカ信号yからでも切り換えて除去できるので、マイクロフォン10の設置位置に限って騒音低減音のオーディオ音への影響が回避されるモードと、車室2内全体において騒音低減音のオーディオ音への影響が回避されるモードとを、乗員が任意に切り換えることができる。
【0050】
(実施例4)
図13は、本発明の実施例4に係る車両騒音低減装置の基本構成を概略的に示し、この低減装置では、オーディオ装置15の作動中にはマイク信号uがCPU16の演算ブロック40に入力されるのを停止するようになっている。
【0051】
すなわち、本発明の特徴として、上記オーディオ装置15の作動時にはCPU16によるスピーカ信号yの設定が中止されるようになされている。具体的には、各マイクロフォン10とCPU16の演算ブロック40との間に、マイク信号uが演算ブロック40に入力されるのをオンオフ切換作動するオンオフスイッチ32が介設されている。また、このオンオフスイッチ32はオーディオ装置15のオーディオ信号oが入力可能に接続されており、該オーディオ信号oが入力されたときに上記マイク信号uの演算ブロック40への入力をオフするようになっている。
【0052】
したがって、本実施例4によると、オーディオ装置15の作動時には、CPU16におけるスピーカ信号yの設定自体が停止されるので、オーディオ装置15の非作動時にはロードノイズ等の騒音を効果的に低減することができる一方、オーディオ装置15の作動時には騒音低減音に起因するオーディオ音への悪影響を完全に回避することができる。
【0053】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1又は5の発明によれば、オーディオ装置を有する車室内に設置されて該設置位置における騒音源からの騒音を検出する騒音検出手段の出力信号に基づき、騒音源及び騒音検出手段間の騒音伝達特性を低下させて乗員に対する騒音を低減するための制御信号を設定し、この制御信号を低減音発生手段に出力して騒音低減音を発生させるようにした車両騒音低減装置において、低減音発生手段及び騒音検出手段間の音の伝達特性に関して予め行われた測定結果に基づいてモデル化してなる制御音伝達特性モデルHと、上記測定結果と上記制御音伝達特性モデルとの差の絶対値に基づいて予め定められたモデル化誤差値Wuと、騒音伝達特性Gと、該騒音伝達特性の低減騒音レベルを示すために予め定められた騒音低減用しきい値bと、定数Kとが、騒音低減制御を安定させる条件式を満たすように定数Kを求めて、該定数Kと上記騒音検出手段の出力信号とに基づいて制御信号を設定するとともに、上記オーディオ装置の作動時には、騒音検出手段の出力信号からオーディオ装置のオーディオ信号を除去するようにしたので、良好な騒音源信号を得ることが困難なロードノイズ等の騒音を安定して低減できる一方、車載オーディオ装置からのオーディオ音への悪影響を騒音検出手段の設置位置において回避することができる。
【0054】
請求項2又は6の発明によれば、上記騒音検出手段の出力信号に代えて制御信号からオーディオ装置のオーディオ信号を除去するようにしたので、低減音発生手段の騒音低減音からオーディオ音に関係する音を一切除外でき、該低減音発生手段の騒音低減音がオーディオ音に影響を及ぼすという事態を車室内全体において回避することができる。
【0055】
請求項3又は7の発明によれば、上記騒音検出手段の出力信号に加えて制御信号からもオーディオ装置のオーディオ信号を除去可能に構成し、上記オーディオ装置のオーディオ信号を騒音検出手段の出力信号又は制御信号から選択的に除去するために切り換えるようにしたので、上記騒音検出手段の設置位置に限って騒音低減音のオーディオ音への影響を回避できる効果と、車室内全体において騒音低減音のオーディオ音への影響を回避できる効果とを、乗員により任意に切り換えることができる。
【0056】
請求項4又は8の発明によれば、オーディオ装置の作動時には上記制御信号の設定を中止するようにしたので、上記オーディオ装置の非作動時にはロードノイズ等の騒音を効果的に低減することができる一方、オーディオ装置の作動時には騒音低減音がオーディオ音に悪影響を及ぼすという事態を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1に係る車両騒音低減装置においてスピーカ信号を設定するために定められるモデル化誤差値及び騒音低減用しきい値をそれぞれ示す特性図である。
【図2】車両騒音低減装置等の各機器の配置構成を概略的に示す平面図である。
【図3】マイクロフォン及びスピーカの設置位置を示す側面図である。
【図4】コントローラの構成を示すブロック図である。
【図5】コントローラにおけるCPUの構成を示すブロック図である。
【図6】CPUにおける演算ブロックの構成を示す行列式の図である。
【図7】CPUにおけるスピーカ信号の設定処理動作を示すフローチャート図である。
【図8】車両騒音低減装置の基本構成を示す概略図である。
【図9】本発明の実施例2に係る車両騒音低減装置の基本構成を示す図8相当図である。
【図10】コントローラにおけるCPUの構成を示す図5相当図である。
【図11】本発明の実施例3に係る車両騒音低減装置の基本構成を示す図8相当図である。
【図12】コントローラにおけるCPUの構成を示す図5相当図である。
【図13】本発明の実施例3に係る車両騒音低減装置のコントローラにおけるCPUの構成を示す図5相当図である。
【符号の説明】
2 車室
10 マイクロフォン(騒音検出手段)
12 スピーカ(低減音発生手段)
15 オーディオ装置
16 CPU(制御手段)
30 切換スイッチ(切換手段)
u マイク信号(出力信号)
y スピーカ信号(制御信号)
o オーディオ信号
S 騒音源
H 制御音伝達特性モデル
Wu モデル化誤差値
G 騒音伝達特性
b 騒音低減用しきい値
K 定数
【産業上の利用分野】
本発明は、車両の走行に伴って発生するロードノイズ等の騒音を騒音低減音により低減する装置及び該騒音低減音を発生させるための制御信号を設定する方法に関し、特に車載オーディオ装置のオーディオ音への悪影響を回避する対策に関する。
【0002】
【従来の技術】
この種の騒音低減装置では、例えば実開昭61−1739号公報で知られているように、騒音としてのエンジン騒音を低減する場合に、制御手段によりエンジン騒音に関する騒音源信号(リファレンス信号)に基づいて制御信号を生成し、この制御信号を加振機に入力して該加振機によりエンジン騒音とは逆位相でかつ同振幅の反転音を発生させる一方、上記エンジン騒音を低減すべき箇所にエンジン騒音と加振機からの反転音との合成音を検出する加速度センサを設置し、この加速度センサの出力信号が小さくなるように上記制御手段において制御信号のゲイン調整及び位相調整を行うようにしたものがある。このものでは、上記加速度センサの出力信号が外乱に起因してゲインや位相が収束しなくなった場合に加振機に過大な加振力が生じて安全性が損なわれることを回避するために、上記出力信号の値が所定値以上になったときに制御信号のゲイン調整及び位相調整をやり直すようになされている。
【0003】
一方、本出願人が先に出願したもの(特開平5−232969号公報)では、例えばエンジン騒音を所定箇所において低減するために、該所定箇所でのエンジン騒音を低減させるアンチ騒音を発生するためのスピーカと、上記所定箇所での合成音を検出するマイクロフォンと、このマイクの出力信号をエンジン騒音の周期及びマイク/スピーカ間の音の伝達特性に基づいて補正する制御手段とを備え、この制御手段の制御信号によりスピーカでアンチ騒音を発生させるようにしている。このものでは、マイクの出力信号を利用することでエンジン騒音とのコヒーレンスが良好な制御信号を容易に得られることから、上記制御手段での演算量を従来のLMS(Least Mean Square Method〔=最小二乗法〕)アルゴリズムの数分の1以下に削減して演算時間の大幅な短縮化が図れるという利点がある。
【0004】
これらのものは、何れも騒音とのコヒーレンスが良好な騒音源信号を利用して騒音を低減する、いわゆるフィードフォワード制御による騒音低減装置であり、騒音検出手段の出力信号を効果的に小さくできるものとされている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、車両の走行に伴うロードノイズ等のように騒音源が特定できず、かつその騒音が不規則に変化するものである場合には、上記フィードフォワード制御による騒音低減装置では良好な騒音源信号を得ることが難しく、騒音の低減が困難である。
【0006】
したがって、上記のような騒音を低減するには、騒音検出手段の出力信号が小さくなるように制御信号をフィードバック制御するしかないのであるが、このようなフィードバック制御の場合には、車室内の音響特性が変化すると不安定になるという問題がある。
【0007】
一方、このような騒音低減制御を別の観点から考えた場合に、騒音検出手段の検出する音が全て低減すべき騒音であるとは言えない。すなわち、例えば車両に搭載されているオーディオ装置からのオーディオ音は、今日では、乗員に安らぎや爽快感をもたらす重要な要素の1つであると考えられている。にも拘らず、上記騒音低減のフィードバック制御をより効果的なものにしようと押し進めていくと、上記オーディオ音までもが低減されることとなり、オーディオ音の効果が得られないという問題が生じる。
【0008】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、良好な騒音源信号を得ることが困難なロードノイズ等の騒音を安定して低減できる一方、車載オーディオ装置からのオーディオ音への悪影響が回避できるようにすることにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、請求項1の発明では、低減音発生手段及び騒音検出手段間の音の伝達特性に関して予め行われた測定結果に基づいてモデル化してなる制御音伝達特性モデルHと、上記測定結果と上記制御音伝達特性モデルとの差の絶対値に基づいて予め定められたモデル化誤差値Wuと、騒音伝達特性Gと、該騒音伝達特性の低減騒音レベルを示すために予め定められた騒音低減用しきい値bと、定数Kとが、騒音低減制御を安定させる条件式を満たすように定数Kを求めて、該定数Kと上記騒音検出手段の出力信号とに基づいて制御信号を設定する一方、上記騒音検出手段の出力信号からオーディオ装置のオーディオ信号を除去することで、ロードノイズ等の騒音を安定した制御で効果的に低減しつつオーディオ音への悪影響が回避できるようにした。
【0010】
具体的には、本発明では、オーディオ装置を有する車室内に設置されて該設置位置における騒音源からの騒音を検出する騒音検出手段と、この騒音検出手段の出力信号を受け、上記騒音源及び騒音検出手段間の騒音伝達特性を低下させて乗員に対する騒音を低減するための制御信号を設定する制御手段と、この制御手段からの制御信号を受けて騒音低減音を発生する低減音発生手段とを備えた車両騒音低減装置が前提である。
【0011】
そして、上記オーディオ装置のオーディオ信号は、制御手段に入力されているものとする。その上で、上記制御手段は、上記低減音発生手段及び騒音検出手段間の音の伝達特性に関して予め行われた測定結果に基づいてモデル化してなる制御音伝達特性モデルHと、上記測定結果と上記制御音伝達特性モデルとの差の絶対値に基づいて予め定められたモデル化誤差値Wuと、上記騒音伝達特性Gと、該騒音伝達特性の低減騒音レベルを示すために予め定められた騒音低減用しきい値bと、定数Kとが、下記式(1)を満たすように定数Kを求めて、該定数Kと上記騒音検出手段の出力信号とに基づいて上記制御信号を設定し、かつ上記オーディオ装置の作動時に、騒音検出手段の出力信号からオーディオ装置のオーディオ信号を除去するように構成されているものとする。
【0012】
【数5】
(式(1)中、Wp=1/b、‖Q‖ ∞ は、クローズドループにおける目標値から制御量までの伝達関数Qの最大のゲインであってsup W ‖Q(jw)‖により定義されるものであり、‖・‖は行列のノルムを表す。)
【0013】
請求項2の発明では、上記請求項1の発明において、制御手段は、騒音検出手段の出力信号に代えて制御信号からオーディオ装置のオーディオ信号を除去するように構成されているものとする。
【0014】
請求項3の発明では、上記請求項1の発明において、制御手段は、騒音検出手段の出力信号に加えて制御信号からもオーディオ装置のオーディオ信号を除去可能に構成されているものとする。そして、上記オーディオ装置のオーディオ信号を騒音検出手段の出力信号又は制御手段の制御信号から選択的に除去するために切り換える切換手段を設ける。
【0015】
請求項4の発明では、上記請求項1の発明と同じ前提に立ちかつオーディオ装置のオーディオ信号が制御手段に入力されているものとした上で、上記制御手段は、上記低減音発生手段及び騒音検出手段間の音の伝達特性に関して予め行われた測定結果に基づいてモデル化してなる制御音伝達特性モデルHと、上記測定結果と上記制御音伝達特性モデルとの差の絶対値に基づいて予め定められたモデル化誤差値Wuと、上記騒音伝達特性Gと、該騒音伝達特性の低減騒音レベルを示すために予め定められた騒音低減用しきい値bと、定数Kとが、下記式(1)を満たすように定数Kを求めて、該定数Kと上記騒音検出手段の出力信号とに基づいて上記制御信号を設定し、かつ上記オーディオ装置の作動時には、上記制御信号の設定を中止するように構成されているものとする。
【0016】
【数6】
(式(1)中、Wp=1/b、‖Q‖ ∞ は、クローズドループにおける目標値から制御量までの伝達関数Qの最大のゲインであってsup W ‖Q(jw)‖により定義されるも のであり、‖・‖は行列のノルムを表す。)
【0017】
請求項5の発明では、オーディオ装置を有する車室内に設置位置における騒音源からの騒音を検出する騒音検出手段を設置し、この騒音検出手段の出力信号に基づき、騒音源及び騒音検出手段間の騒音伝達特性を低下させて乗員に対する騒音を低減するための制御信号を設定し、この制御信号を低減音発生手段に出力して騒音低減音を発生させるようにした車両騒音低減装置における上記制御信号の設定方法として、上記低減音発生手段及び騒音検出手段間の音の伝達特性に関して予め行われた測定結果に基づいてモデル化してなる制御音伝達特性モデルを定め、上記測定結果と上記制御音伝達特性モデルとの差の絶対値に基づいてモデル化誤差値を定め、上記騒音伝達特性の低減騒音レベルを示すための騒音低減用しきい値を定めておき、上記制御音伝達特性モデルHと上記モデル化誤差値Wuと上記騒音伝達特性Gと上記騒音低減用しきい値bと定数Kとが、下記式(1)を満たすように定数Kを求めて、該定数Kと上記騒音検出手段の出力信号とに基づいて上記制御信号を設定するとともに、上記オーディオ装置の作動時に、騒音検出手段の出力信号からオーディオ装置のオーディオ信号を除去することとする。
【0018】
【数7】
(式(1)中、Wp=1/b、‖Q‖ ∞ は、クローズドループにおける目標値から制御量までの伝達関数Qの最大のゲインであってsup W ‖Q(jw)‖により定義されるものであり、‖・‖は行列のノルムを表す。)
【0019】
請求項6の発明では、上記請求項5の発明において、騒音検出手段の出力信号に代えて、制御信号からオーディオ装置のオーディオ信号を除去するようにする。
【0020】
請求項7の発明では、上記請求項5の発明において、騒音検出手段の出力信号に加えて、制御信号からもオーディオ装置のオーディオ信号を除去するようにし、上記オーディオ装置のオーディオ信号を騒音検出手段の出力信号又は制御信号から選択的に除去するために切り換えるようにする。
【0021】
請求項8の発明では、上記請求項5の発明と同じ前提に立ち、上記低減音発生手段及び騒音検出手段間の音の伝達特性に関して予め行われた測定結果に基づいてモデル化してなる制御音伝達特性モデルを定め、上記測定結果と上記制御音伝達特性モデルとの差の絶対値に基づいてモデル化誤差値を定め、上記騒音伝達特性の低減騒音レベルを示すための騒音低減用しきい値を定めておき、上記制御音伝達特性モデルHと上記モデル化誤差値Wuと上記騒音伝達特性Gと上記騒音低減用しきい値bと定数Kとが、下記式(1)を満たすように定数Kを求めて、該定数Kと上記騒音検出手段の出力信号とに基づいて上記制御信号を設定するとともに、上記オーディオ装置の作動時には上記制御信号の設定を中止するようにする。
【0022】
【数8】
(式(1)中、Wp=1/b、‖Q‖ ∞ は、クローズドループにおける目標値から制御量までの伝達関数Qの最大のゲインであってsup W ‖Q(jw)‖により定義されるものであり、‖・‖は行列のノルムを表す。)
【0023】
【作用】
請求項1又は5の発明では、車室内において、騒音検出手段により騒音源からの騒音が検出される。そして、上記騒音検出手段の出力信号を受けた制御手段により制御信号が設定され、この制御信号を受けた低減音発生手段により騒音低減音が発生される。この騒音低減音により、上記騒音源及び騒音検出手段間の騒音伝達特性が低下され、このことで、乗員への騒音が低減される。このとき、上記制御手段では、制御音伝達特性モデルHとモデル化誤差値Wuと騒音伝達特性Gと騒音低減用しきい値bと定数Kとが、式(1)を満たすように定数Kが求められ、この定数Kと騒音検出手段の出力信号とに基づいて制御信号が設定される。すなわち、上記制御音伝達特性モデルが用いられることにより、騒音検出手段の設置位置における騒音低減音の騒音に対する低減効果が高められる。このとき、上記モデル化誤差値及び騒音低減用しきい値が考慮されることにより、騒音発生手段の出力信号が小さくなるように制御信号をフィードバック制御する際の外乱に対する安定性が確保される。
【0024】
また、オーディオ装置の作動時には、上記騒音検出手段の出力信号からオーディオ装置のオーディオ信号が制御手段により除去され、このことで、騒音検出手段により検出される音のうち、低減対象である騒音からオーディオ音が除外される。この場合には、制御信号の設定の前にオーディオ装置本体の出力信号が除去されることにより、騒音検出手段がオーディオ音を検出していない状態にあると見做されるので、上記低減音発生手段の騒音低減音がオーディオ音に影響を及ぼすという事態は、騒音検出手段の設置位置において回避される。
【0025】
請求項2又は6の発明では、上記騒音検出手段の出力信号に代えて、制御信号からオーディオ装置のオーディオ信号が制御手段により除去される。この場合には、制御信号の設定の後にオーディオ信号が除去されることにより、低減音発生手段の騒音低減音からオーディオ音に関係する音が除外されるので、この騒音低減音がオーディオ音に影響を及ぼすという事態は、車室内全体において回避される。
【0026】
請求項3又は7の発明では、上記オーディオ装置のオーディオ信号は、騒音検出手段の出力信号からでも制御信号からでも切り換えて除去されるので、騒音検出手段の設置位置に限って騒音低減音のオーディオ音への影響が回避される作用と、車室内全体において騒音低減音のオーディオ音への影響が回避される作用とを、乗員が任意に切り換えることができる。
【0027】
請求項4又は8の発明では、上記オーディオ装置の作動時には、制御信号の設定が停止される。よって、オーディオ装置の非作動時にはロードノイズ等の騒音を効果的に低減する一方、オーディオ装置の作動時には、騒音低減音がオーディオ音に悪影響を及ぼすという事態は完全に回避される。
【0028】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0029】
(実施例1)
図2及び図3は、本発明の実施例1に係る騒音低減装置の全体構成を概略的に示し、この騒音低減装置は、オーディオ装置が搭載された自動車(車両)における各座席の乗員に対するロードノイズ等、数十〜数百Hzの騒音を騒音源信号(リファレンス信号)を用いずに低減するためのものである。
【0030】
同各図において、1は自動車の車体、2は車体1の前後中央部に位置する車室、3,4は車室2を開閉する前後のドアであって、上記車室2内には前後に座席5,6が設置され、前部座席5(図2及び図3のそれぞれ左側の座席)は右側の運転席5a及び左側の助手席5bで、また後部座席6(図2及び図3のそれぞれ右側の座席)は左右2つの後席6a,6aでそれぞれ構成されている。7は、運転席5aの前方位置に設置されたステアリングホイールである。
【0031】
そして、本実施例1では、運転席5a,助手席5b及び後席6aにおける各ヘッドレスト8の左右何れかの側(着座した乗員の左右何れかの耳に近い位置)がそれぞれ騒音低減箇所とされ、これらの箇所にそれぞれ騒音検出手段としてのマイクロフォン10が1個ずつ合計4個取り付けられ、これらのマイクロフォン10,10,…により車室2内の音を乗員の耳近くで検出するようにしている。一方、上記車体1左右の前側ドア3,3の車室2内側面、及び車室2後端のパッケージトレイ11の左右両側部にはそれぞれ車室2内に騒音低減音を発生させる低減音発生手段としてのスピーカ12,12,…が配置され、これら4個のスピーカ12,12,…はオーディオ装置15と兼用されている。そして、インストルメントパネル13の左右中央に、オーディオ装置15が設置されている。
【0032】
上記スピーカ12,12,…及びマイクロフォン10,10,…は、例えば助手席5b側のインストルメントパネル13内に配置した制御手段としてのコントローラ14に接続されている。そして、上記車室2内の騒音と各スピーカ12から発せられる騒音低減音との合成音を各マイクロフォン10で検出し、そのマイクロフォン10から出力されるマイク信号uをコントローラ14に入力するとともに、各スピーカ12にマイク信号uとは逆位相である制御信号としてのスピーカ信号yを出力することにより、各マイクロフォン10の位置で各スピーカ12からの騒音低減音を騒音と干渉させて、各マイクロフォン10により検出される音を低減するようにしている。
【0033】
上記コントローラ14は、図4に詳しく示すように、デジタル信号処理によりマイク信号uを小さくするためのスピーカ信号yを出力する制御手段としてのCPU16(セントラル・プロセシング・ユニット)を有し、該CPU16の入力段には、各マイクロフォン10からのマイク信号uを増幅するマイクアンプ17と、増幅されたマイク信号uの低周波部分(例えば500〜1000Hz以下)を瀘波するローパスフィルタ18と、瀘波されたアナログのマイク信号uをデジタル信号に変換するA/D変換部19とがそれぞれマイクロフォン10,10,…の個数と同じ数だけ順に接続されている。一方、CPU16の出力段には、デジタルのスピーカ信号yをアナログ信号に変換するD/A変換部20と、アナログ信号に変換されたスピーカ信号yの低周波部分を瀘波するローパスフィルタ21と、瀘波されたスピーカ信号yを増幅するスピーカアンプ22とがそれぞれスピーカ12,12,…の個数と同じ数だけ順に接続されている。また、上記CPU16の入力段には、オーディオ装置本体15からのオーディオ信号oを増幅するマイクアンプ23と、増幅されたオーディオ信号oの低周波部分(例えば500〜1000Hz以下)を瀘波するローパスフィルタ24と、瀘波されたアナログのオーディオ信号oをデジタル信号に変換するA/D変換部25とが順に接続されている。上記演算処理ブロック16、A/D変換部19,25及びD/A変換部20の各作動は、図外のサンプリングクロック発生部で発生したサンプリング周期信号により互いに同期して行われる。
【0034】
上記CPU16の構成を図5に基づいてさらに詳しく説明する。マイク信号uはm個(ここではm=4)のマイク信号u1〜umからなる列ベクトルであり、基本的に、これらマイク信号u1〜umに基づいて、該CPU16に設けられた演算ブロック40の持つ定数Kによりl個(ここではl=4)のスピーカ信号y1〜ylからなる列ベクトルとしてのスピーカ信号yが演算される。上記定数Kは、図6に示すように、A〜Dの4つのマトリクス成分からなる行列であり、その演算処理は、図7に示すフローチャートのように行われる。すなわち、ステップS1でマイク信号uを入力した後、ステップS2では、前回のマイク信号xにC成分が乗算された値と、今回のマイク信号uにD成分が乗算された値とを加算して、スピーカ信号yを求める。そして、ステップS3で上記スピーカ信号yをスピーカ12に出力し、次いでステップS4に移る。このステップS4では、前回のマイク信号xにA成分が乗算された値と、今回のマイク信号uにB成分が乗算された値とを加算して、上記ステップS2で処理する際に前回のマイク信号xとなる値を求め、その後、上記ステップS1に戻る。
【0035】
本発明の特徴として、上記CPU16は、図1(a)に示すように、スピーカ12からマイクロフォン10に達する騒音低減音の伝達特性をモデル化してなる制御音伝達特性モデルHについて定められたモデル化誤差値Wu(Uncertainty Weight)と、図1(b)に示すように、騒音源Sから上記マイクロフォン10に入ってくる騒音伝達特性Gの低減すべき騒音レベルを示すために定められた騒音低減用しきい値b(Performance Objective)とにより決定される定数Kに基づいてスピーカ信号yを設定するようになされている(尚、説明の簡単化のためにスピーカ12,12,…及びマイクロフォン10,10,…はそれぞれ1個とし、かつオーディオ装置15及び騒音低減装置は、各々、専用のスピーカを有するものとする)。また、上記オーディオ装置15の作動時には、マイク信号uからオーディオ装置15のオーディオ信号oを除去するように構成されている。
【0036】
具体的には、上記制御音伝達特性モデルHは、CPU16からスピーカ信号yを出力した後に該スピーカ信号yによりスピーカ12,12,…がそれぞれ駆動制御されて車室2内の音に変化があり、この音の変化がマイクロフォン10により検出されてそのマイク信号uがCPU16に入力されるまでの音の伝達特性を実際の測定結果H′に基づいてモデル化したものである。そして、その際のモデル化誤差を考慮して、上記演算ブロック40の定数Kを決定する際に誤差量の絶対値|H−H′|に対するモデル化誤差値Wuを定めている。一方、上記騒音伝達特性Gに対し騒音低減用しきい値bを定めておいて、コントローラ14を含むクローズドループの伝達関数のピークを集中的にラインb以下に落とすようになされている。つまり、騒音低減用重みWp(Performance Weight)を、Wp=1/bとすると、全ての周波数に対して、
【数9】
つまり、
【数10】
の関係式が成り立つようにする。そして、これらモデル化誤差値Wu及び騒音低減用しきい値bを定めることが、上記定数Kを決定してスピーカ信号yを設定することになる。
【0037】
このとき、上記モデル化誤差値Wuと騒音低減用しきい値bとは互いに独立には決められない。例えば、モデル化誤差値Wuを小さくして騒音低減効果を高めようとすると車室2内の音響特性の変化を受け易くなって騒音低減制御が不安定になることから、モデル化誤差値Wuを大きくすると、今度は、騒音低減用しきい値bを下げることができなくなる。そこで、ロバスト制御の1つであるH∞制御理論においてフィードバック特性の場合の混合感度問題として知られている次式(1)を満たすようなモデル化誤差値Wu及び騒音低減用しきい値bを選択して定数Kを決定していく。
【0038】
【数11】
(式(1)中、Wp=1/b、‖Q‖ ∞ は、クローズドループにおける目標値から制御量までの伝達関数Qの最大のゲインであってsup W ‖Q(jw)‖により定義されるものであり、‖・‖は行列のノルムを表す。)
【0039】
次に、上記オーディオ装置15のオーディオ信号oをマイク信号uから除去してスピーカ信号yを設定する回路について図5及び図8に基づいてさらに詳しく説明する。
【0040】
上記CPU16における演算ブロック40の入力段には、図8に原理的に示すように、スピーカ12とマイクロフォン10との間の音の伝達特性をモデル化した制御音伝達特性モデルH1に基づいて、各々のスピーカ12に出力されるオーディオ信号oの位相及びゲインを調整するモデルフィルタ26と、このモデルフィルタ26から出力されたオーディオ信号oをマイク信号uから除去する減算器27とが設けられている。具体的には、図5に示すように、上記モデルフィルタ26はマイク信号uの数(m個)だけ配置され、かつ各モデルフィルタ26はスピーカ信号yと同じ数(l個)だけのモデルフィルタ26a,26a,…が並列に接続されてなっている。これら各モデルフィルタ26aは、各々、スピーカ12の騒音低減音がマイクロフォン10に達するまでの間の音の伝達特性がモデル化された制御音伝達特性モデルH1〜Hlを備えている。つまり、第1のマイクロフォン10については、該マイクロフォン10とl個のスピーカ12,12,…との間の各制御音伝達特性モデルH11,H21,…,Hl1からなるモデルフィルタ26a,26a,…を備えたモデルフィルタ26が、したがって、第mのマイクロフォン10については、該マイクロフォン10とl個のスピーカ12,12,…との間の各制御音伝達特性モデルH1m,H2m,…,Hlmからなるモデルフィルタ26a,26a,…を備えたモデルフィルタ26がそれぞれ連設されている。また、各モデルフィルタ26には、モデルフィルタ26a,26a,…の各出力値を合算してその合算値を上記減算器27に出力する加算器26bが設けられている。
【0041】
したがって、本実施例1によれば、車室2内の運転席5a、助手席5b及び後席6aにおいて、マイクロフォン10により騒音源Sからの騒音が検出される。そして、マイク信号uを受けたCPU16によりスピーカ信号yが設定され、このスピーカ信号yを受けたスピーカ12により騒音低減音が発生される。この騒音低減音により、上記騒音源S及びマイクロフォン10間の騒音伝達特性Gが低下され、このことで、乗員への騒音dが低減される。このとき、上記CPU16において制御音伝達特性モデルHが用いられることにより、マイクロフォン10の設置位置での騒音に対する騒音低減音の低減効果を高めることができる。さらに、上記制御音伝達特性モデルHのモデル化誤差値Wuと騒音低減用しきい値bとが考慮されていることにより、外乱に対する騒音低減制御の安定性を確保することができる。
【0042】
また、オーディオ装置15の作動時には、上記マイク信号uからオーディオ装置15のオーディオ信号oが除去され、このことで、マイクロフォン10により検出される音のうち、低減対象である騒音からオーディオ音が除外される。この場合には、スピーカ信号yの設定の前にオーディオ信号oが除去されることにより、マイクロフォン10がオーディオ音を検出していない状態にあると見做されるので、上記スピーカ12の騒音低減音がオーディオ音に影響を及ぼすという事態は、各マイクロフォン10の設置位置においてのみ回避することができる。
【0043】
(実施例2)
図9は、本発明の実施例2に係る車両騒音低減装置の基本構成を概略的に示し、この車両騒音低減装置では、オーディオ装置15のオーディオ信号oは、CPU16における演算ブロック40の出力側で除去される。
【0044】
すなわち、本発明の特徴として、上記実施例1のマイク信号uに代えて、CPU16のスピーカ信号yからオーディオ装置15のオーディオ信号oを除去するようになっている。
【0045】
具体的には、図10に詳示するように、上記演算ブロック40の出力段には、上記実施例1と同じ構成でかつ同じ数(l個)のモデルフィルタ26と、これらモデルフィルタ26から出力されたオーディオ信号oに対し該演算ブロック40と同じ定数Kを用いて同じ演算処理を施すオーディオ用演算ブロック41と、このオーディオ用演算ブロック41が出力したオーディオ信号oを上記スピーカ信号yから除去する減算器29とが設けられている。
【0046】
したがって、本実施例2によれば、上記実施例1と異なり、マイク信号uに代えて、スピーカ信号yからオーディオ信号oが除去される。この場合には、スピーカ信号yの設定の後にオーディオ信号oが除去されることにより、スピーカ12の低減音からオーディオ音に関係する音が除外されるので、該スピーカ12の騒音低減音がオーディオ音に影響を及ぼすという事態は、車室2内全体において回避することができる。
【0047】
(実施例3)
図11は、本発明の実施例3に係る車両騒音低減装置の基本構成を概略的に示し、この車両騒音低減装置では、上記実施例1のものと実施例2のものとが切換可能に接続されている。
【0048】
つまり、本発明の特徴として、CPU16は、図12に詳しく示すように、マイクロフォン10のマイク信号uに加えてスピーカ信号yからもオーディオ装置15のオーディオ信号oを除去可能に構成されている。また、上記オーディオ装置15のオーディオ信号oをマイク信号u又はスピーカ信号yから選択的に除去するために切り換える切換手段としての切換スイッチ30が設けられている。そして、この切換スイッチ30には、車室2内で手動入力可能なマニュアルスイッチ31が連設されていて、このマニュアルスイッチ31の出力によりオーディオ信号oがマイク信号u又はスピーカ信号yから選択的に除去されるようになっている。尚、本実施例3のその他の構成は上記実施例1及び実施例2と同じであるので、同じ部分には同じ符号を付して示し、その説明は省略する。
【0049】
よって、本実施例3によれば、オーディオ信号oを、マイク信号uからでもスピーカ信号yからでも切り換えて除去できるので、マイクロフォン10の設置位置に限って騒音低減音のオーディオ音への影響が回避されるモードと、車室2内全体において騒音低減音のオーディオ音への影響が回避されるモードとを、乗員が任意に切り換えることができる。
【0050】
(実施例4)
図13は、本発明の実施例4に係る車両騒音低減装置の基本構成を概略的に示し、この低減装置では、オーディオ装置15の作動中にはマイク信号uがCPU16の演算ブロック40に入力されるのを停止するようになっている。
【0051】
すなわち、本発明の特徴として、上記オーディオ装置15の作動時にはCPU16によるスピーカ信号yの設定が中止されるようになされている。具体的には、各マイクロフォン10とCPU16の演算ブロック40との間に、マイク信号uが演算ブロック40に入力されるのをオンオフ切換作動するオンオフスイッチ32が介設されている。また、このオンオフスイッチ32はオーディオ装置15のオーディオ信号oが入力可能に接続されており、該オーディオ信号oが入力されたときに上記マイク信号uの演算ブロック40への入力をオフするようになっている。
【0052】
したがって、本実施例4によると、オーディオ装置15の作動時には、CPU16におけるスピーカ信号yの設定自体が停止されるので、オーディオ装置15の非作動時にはロードノイズ等の騒音を効果的に低減することができる一方、オーディオ装置15の作動時には騒音低減音に起因するオーディオ音への悪影響を完全に回避することができる。
【0053】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1又は5の発明によれば、オーディオ装置を有する車室内に設置されて該設置位置における騒音源からの騒音を検出する騒音検出手段の出力信号に基づき、騒音源及び騒音検出手段間の騒音伝達特性を低下させて乗員に対する騒音を低減するための制御信号を設定し、この制御信号を低減音発生手段に出力して騒音低減音を発生させるようにした車両騒音低減装置において、低減音発生手段及び騒音検出手段間の音の伝達特性に関して予め行われた測定結果に基づいてモデル化してなる制御音伝達特性モデルHと、上記測定結果と上記制御音伝達特性モデルとの差の絶対値に基づいて予め定められたモデル化誤差値Wuと、騒音伝達特性Gと、該騒音伝達特性の低減騒音レベルを示すために予め定められた騒音低減用しきい値bと、定数Kとが、騒音低減制御を安定させる条件式を満たすように定数Kを求めて、該定数Kと上記騒音検出手段の出力信号とに基づいて制御信号を設定するとともに、上記オーディオ装置の作動時には、騒音検出手段の出力信号からオーディオ装置のオーディオ信号を除去するようにしたので、良好な騒音源信号を得ることが困難なロードノイズ等の騒音を安定して低減できる一方、車載オーディオ装置からのオーディオ音への悪影響を騒音検出手段の設置位置において回避することができる。
【0054】
請求項2又は6の発明によれば、上記騒音検出手段の出力信号に代えて制御信号からオーディオ装置のオーディオ信号を除去するようにしたので、低減音発生手段の騒音低減音からオーディオ音に関係する音を一切除外でき、該低減音発生手段の騒音低減音がオーディオ音に影響を及ぼすという事態を車室内全体において回避することができる。
【0055】
請求項3又は7の発明によれば、上記騒音検出手段の出力信号に加えて制御信号からもオーディオ装置のオーディオ信号を除去可能に構成し、上記オーディオ装置のオーディオ信号を騒音検出手段の出力信号又は制御信号から選択的に除去するために切り換えるようにしたので、上記騒音検出手段の設置位置に限って騒音低減音のオーディオ音への影響を回避できる効果と、車室内全体において騒音低減音のオーディオ音への影響を回避できる効果とを、乗員により任意に切り換えることができる。
【0056】
請求項4又は8の発明によれば、オーディオ装置の作動時には上記制御信号の設定を中止するようにしたので、上記オーディオ装置の非作動時にはロードノイズ等の騒音を効果的に低減することができる一方、オーディオ装置の作動時には騒音低減音がオーディオ音に悪影響を及ぼすという事態を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例1に係る車両騒音低減装置においてスピーカ信号を設定するために定められるモデル化誤差値及び騒音低減用しきい値をそれぞれ示す特性図である。
【図2】車両騒音低減装置等の各機器の配置構成を概略的に示す平面図である。
【図3】マイクロフォン及びスピーカの設置位置を示す側面図である。
【図4】コントローラの構成を示すブロック図である。
【図5】コントローラにおけるCPUの構成を示すブロック図である。
【図6】CPUにおける演算ブロックの構成を示す行列式の図である。
【図7】CPUにおけるスピーカ信号の設定処理動作を示すフローチャート図である。
【図8】車両騒音低減装置の基本構成を示す概略図である。
【図9】本発明の実施例2に係る車両騒音低減装置の基本構成を示す図8相当図である。
【図10】コントローラにおけるCPUの構成を示す図5相当図である。
【図11】本発明の実施例3に係る車両騒音低減装置の基本構成を示す図8相当図である。
【図12】コントローラにおけるCPUの構成を示す図5相当図である。
【図13】本発明の実施例3に係る車両騒音低減装置のコントローラにおけるCPUの構成を示す図5相当図である。
【符号の説明】
2 車室
10 マイクロフォン(騒音検出手段)
12 スピーカ(低減音発生手段)
15 オーディオ装置
16 CPU(制御手段)
30 切換スイッチ(切換手段)
u マイク信号(出力信号)
y スピーカ信号(制御信号)
o オーディオ信号
S 騒音源
H 制御音伝達特性モデル
Wu モデル化誤差値
G 騒音伝達特性
b 騒音低減用しきい値
K 定数
Claims (8)
- オーディオ装置を有する車室内に設置されて該設置位置における騒音源からの騒音を検出する騒音検出手段と、
上記騒音検出手段の出力信号を受け、上記騒音源及び騒音検出手段間の騒音伝達特性を低下させて乗員に対する騒音を低減するための制御信号を設定する制御手段と、
上記制御手段からの制御信号を受けて騒音低減音を発生する低減音発生手段とを備えた車両騒音低減装置において、
上記オーディオ装置のオーディオ信号は制御手段に入力されており、
上記制御手段は、上記低減音発生手段及び騒音検出手段間の音の伝達特性に関して予め行われた測定結果に基づいてモデル化してなる制御音伝達特性モデルHと、上記測定結果と上記制御音伝達特性モデルとの差の絶対値に基づいて予め定められたモデル化誤差値Wuと、上記騒音伝達特性Gと、該騒音伝達特性の低減騒音レベルを示すために予め定められた騒音低減用しきい値bと、定数Kとが、下記式(1)を満たすように定数Kを求めて、該定数Kと上記騒音検出手段の出力信号とに基づいて上記制御信号を設定し、かつ上記オーディオ装置の作動時に、騒音検出手段の出力信号からオーディオ装置のオーディオ信号を除去するように構成されている
ことを特徴とする車両騒音低減装置。
- 請求項1記載の車両騒音低減装置において、
制御手段は、騒音検出手段の出力信号に代えて、制御信号からオーディオ装置のオーディオ信号を除去するように構成されている
ことを特徴とする車両騒音低減装置。 - 請求項1記載の車両騒音低減装置において、
制御手段は、騒音検出手段の出力信号に加えて制御信号からもオーディオ装置のオーディオ信号を除去可能に構成されており、
上記オーディオ装置のオーディオ信号を騒音検出手段の出力信号又は制御手段の制御信号から選択的に除去するために切り換える切換手段が設けられている
ことを特徴とする車両騒音低減装置。 - オーディオ装置を有する車室内に設置されて該設置位置における騒音源からの騒音を検出する騒音検出手段と、
上記騒音検出手段の出力信号を受け、上記騒音源及び騒音検出手段間の騒音伝達特性を低下させて乗員に対する騒音を低減するための制御信号を設定する制御手段と、
上記制御手段からの制御信号を受けて騒音低減音を発生する低減音発生手段とを備えた車両騒音低減装置において、
上記オーディオ装置のオーディオ信号は制御手段に入力されており、
上記制御手段は、上記低減音発生手段及び騒音検出手段間の音の伝達特性に関して予め行われた測定結果に基づいてモデル化してなる制御音伝達特性モデルHと、上記測定結果と上記制御音伝達特性モデルとの差の絶対値に基づいて予め定められたモデル化誤差値W uと、上記騒音伝達特性Gと、該騒音伝達特性の低減騒音レベルを示すために予め定められた騒音低減用しきい値bと、定数Kとが、下記式(1)を満たすように定数Kを求めて、該定数Kと上記騒音検出手段の出力信号とに基づいて上記制御信号を設定し、かつ上記オーディオ装置の作動時には、上記制御信号の設定を中止するように構成されている
ことを特徴とする車両騒音低減装置。
- オーディオ装置を有する車室内に設置位置における騒音源からの騒音を検出する騒音検出手段を設置し、
上記騒音検出手段の出力信号に基づき、騒音源及び騒音検出手段間の騒音伝達特性を低下させて乗員に対する騒音を低減するための制御信号を設定し、
上記制御信号を低減音発生手段に出力して騒音低減音を発生させるようにした車両騒音低減装置における上記制御信号の設定方法であって、
上記低減音発生手段及び騒音検出手段間の音の伝達特性に関して予め行われた測定結果に基づいてモデル化してなる制御音伝達特性モデルを定め、上記測定結果と上記制御音伝達特性モデルとの差の絶対値に基づいてモデル化誤差値を定め、上記騒音伝達特性の低減騒音レベルを示すための騒音低減用しきい値を定めておき、上記制御音伝達特性モデルHと上記モデル化誤差値Wuと上記騒音伝達特性Gと上記騒音低減用しきい値bと定数Kとが、下記式(1)を満たすように定数Kを求めて、該定数Kと上記騒音検出手段の出力信号とに基づいて上記制御信号を設定するとともに、上記オーディオ装置の作動時に、騒音検出手段の出力信号からオーディオ装置のオーディオ信号を除去する
ことを特徴とする制御信号設定方法。
- 請求項5記載の制御信号設定方法において、
騒音検出手段の出力信号に代えて、制御信号からオーディオ装置のオーディオ信号を除去する
ことを特徴とする制御信号設定方法。 - 請求項5記載の制御信号設定方法において、
騒音検出手段の出力信号に加えて、制御信号からもオーディオ装置のオーディオ信号を除去するようにし、
上記オーディオ装置のオーディオ信号を騒音検出手段の出力信号又は制御信号から選択的に除去するために切り換える
ことを特徴とする制御信号設定方法。 - オーディオ装置を有する車室内に設置位置における騒音源からの騒音を検出する騒音検出手段を設置し、
上記騒音検出手段の出力信号に基づき、騒音源及び騒音検出手段間の騒音伝達特性を低下させて乗員に対する騒音を低減するための制御信号を設定し、
上記制御信号を低減音発生手段に出力して騒音低減音を発生させるようにした車両騒音低減装置における上記制御信号の設定方法であって、
上記低減音発生手段及び騒音検出手段間の音の伝達特性に関して予め行われた測定結果に基づいてモデル化してなる制御音伝達特性モデルを定め、上記測定結果と上記制御音伝達特性モデルとの差の絶対値に基づいてモデル化誤差値を定め、上記騒音伝達特性の低減騒音レベルを示すための騒音低減用しきい値を定めておき、上記制御音伝達特性モデルHと上記モデル化誤差値Wuと上記騒音伝達特性Gと上記騒音低減用しきい値bと定数Kとが、下記式(1)を満たすように定数Kを求めて、該定数Kと上記騒音検出手段の出力信号とに基づいて上記制御信号を設定するとともに、上記オーディオ装置の作動時には上記制御信号の設定を中止する
ことを特徴とする制御信号設定方法。
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