JP3601200B2 - 高分子電解質およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はイオン伝導性を有する高分子電解質に関し、さらに詳しくは、リチウムイオンをはじめとするアルカリ金属イオン系の伝導性キャリアを含有することにより、高いイオン伝導性を発揮し、かつ、成膜性、機械的強度、柔軟性にも優れた高分子電解質に関する。
【0002】
【従来の技術】
固体の高分子電解質を用いて全固体系の電池を構成した場合、従来の液体を含む電池の問題点である漏液がなくなり、電池の安全性および信頼性が向上し、また、電池の薄型化、積層化も可能となる。そのため、固体電解質は電池に限らず他の電気化学的デバイス材料としても注目されている。
【0003】
ところで、固体電解質として要求される特性としては、一般的にイオン伝導性が高く電子伝導性がないこと、薄く成形できるように成膜性が優れていること、可撓性に優れていること等が挙げられている。
【0004】
また、固体電解質は無機材料からなるものと有機材料からなるものに大きく分けられる。このうち無機材料からなる固体電解質は比較的イオン伝導性は高いが、結晶体であるために機械的強度が乏しく、可撓性のある膜に加工することが困難であり、そのためにデバイスに応用する場合には著しく不利となっている。
【0005】
これに対して、有機高分子からなる高分子電解質は可撓性のある薄膜に成膜することができ、また、成形した薄膜には高分子固有の柔軟性により優れた機械的性質を付与することが可能となる。このため高分子電解質からなる薄膜には、電極−高分子電解質間のイオン電子交換反応過程で生じる体積変化にも柔軟に適応させることもでき、従って、高分子電解質は高エネルギー密度電池、特に薄型電池の電解質材料として有望視されている。また、従来からの有機溶媒を基調とする非水電解液よりも難燃化が図れることから、電池を大型化した場合の安全性確保に関しても大きく貢献できるものとして有望視されている。
【0006】
このような高分子電解質としては、ポリエーテル構造を有するポリエチレンオキサイド〔(−CH2 CH2 O−)n :以下、「PEO」と記す〕とLi塩やNa塩等のアルカリ金属塩との複合体が、高いアルカリ金属イオン伝導性を示すことが知られており、この複合体をはじめとして種々の高分子電解質でのイオン伝導機構や分子構造等の理論的研究、或いは電池等の電気化学デバイスへの応用研究が活発に進められている。
【0007】
ところで、高分子電解質におけるイオン伝導は、高分子マトリックス中のアルカリ金属イオンが高分子マトリックス中の無定形部分において選択的にイオン化し、高分子中の配位性原子と相互作用をしながらマトリックス内を電界に沿って拡散移動することによって達成されるものと考えられている。例えば、PEOとアルカリ金属塩とからなる複合体膜においては、アルカリ金属イオンと主鎖中の誘電率の高いエーテル結合部の酸素とが相互作用をしながら、熱による分子鎖のセグンメント運動によってイオン伝導が示されるようになると考えられている。
【0008】
しかしながら、高分子電解質は一般的に無機材料からなる固体電解質に比べて室温近傍でのイオン導電率が小さいという問題点を有している。更に、イオン導電率を向上させようとすると、逆に成膜性や可撓性が低下するという問題点を有している。
【0009】
例えば、PEOとアルカリ金属塩との複合体膜の場合、それを構成している有機高分子の分子量が10000程度では成膜性に優れ、イオン導電率も100℃以上の温度では10−3〜10−4s/cm程度の比較的高い値を有する。しかし、この複合体膜は結晶性であるために60℃以下の温度では急激にイオン導電率は低下し、室温では10−7s/cm程度以下の非常に低い値を示す。このため、室温を使用温度領域とする通常の電池の材料として組み入れることが不可能となってくる。
【0010】
そこで、化学式(2)に示すように、PEOの末端水酸基をウレタン架橋させるためにジイソシアネートを反応させたり、或いはエステル架橋を形成させることによって、複合体膜の結晶性を抑制させる試みがなされている。この架橋構造は無定形高分子のイオン導電率を大きく低下させることなく、機械的特性を向上させるための手段として非常に有効である。しかしながら、このような手段でも十分な成果を得るには至っていない。
【化4】
【0011】
一方、複合体膜の構成有機高分子PEOの分子量を10000以下にすることによって室温近傍の温度領域でイオン導電率を向上させることができるが、この場合には成膜性が著しく低下し、フィルム化が困難となる。また、イオン導電率を向上させるためにアルカリ金属塩の含有濃度を高くした場合には、複合体膜のガラス転移点Tgも上がってしまい、そのためイオン伝導性が低下することになる。このようにキャリア体の密度の増加とイオン導電率の増加を同時に達成することはできない。
【0012】
また、他の高分子電解質としては、上述のPEOおよびアルカリ金属塩を用いた複合体膜の類似化合物で、化学式(3)で示されるように側鎖にPEO構造を有するアクリル系、およびメタクリル系の有機高分子が知られている。
【化5】
【0013】
また、化学式(4)で示されるように、側鎖にPEO構造を有し、主鎖として−P=N−からなるポリホスファゼン系の有機高分子や、化学式(5)で示されるように、側鎖にPEO構造を有し、主鎖として−Si−O−からなるシロキサン系の有機高分子が知られている。
【化6】
【化7】
【0014】
これらの有機高分子とアルカリ金属塩とからなる高分子電解質のイオン導電率は10−5s/cm程度であり、PEOとアルカリ金属塩とからなる複合体膜に比べてやや改善されているが実用上では不十分である。また、成膜性や可撓性も十分なものとはなっていない。
【0015】
一方、上述した有機高分子と金属塩とからなる固体の高分子電解質以外に、有機高分子と金属塩と更に金属塩を溶解する有機溶媒とからなる高分子電解質、即ち、前述の高分子電解質に有機溶媒を膨潤させたものが開発されている。尚、この際、有機溶媒を膨潤させても高分子自体が溶解してしまうことがないように、活性放射線、光、電子線、加熱等によって架橋させる等の改良も施されている。これらは一般に有機溶媒を含まない固体の高分子電解質に比べて、イオン導電率は10−3s/cm程度と非常に高いものが得られる。更に、有機溶媒は高分子中に膨潤され、高分子ゲルを形成するようになるため、圧力をかけても液体成分がしみ出ることもなく、比較的良好な膜性を有する。
【0016】
しかしながら、従来の有機溶媒と金属塩とからなる電解液に比べ、そのイオン導電率は低く、さらに機械的強度の高いものが求められているのが実情である。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
従って本発明の課題は、室温近傍でも高いイオン伝導性を発揮し、かつ成膜性、機械的強度、柔軟性に優れた高分子電解質を提供しようとするものである。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、5員環状カーボネート基を官能基とする構造を側鎖の一部として有する第一のモノマーユニットと、前記第一のモノマーユニットと共重合可能な第二のモノマーユニットとの共重合体である有機高分子と、金属塩とを含有してなる高分子電解質を形成する。
【0019】
前記有機高分子は化学式(1)で示されるものを用いる。
【化8】
【0020】
前記金属塩はアルカリ金属の塩を用いる。
【0021】
前記金属塩と前記有機高分子との構成割合は、有機高分子の全構成モノマーあたりの金属イオンのモル比、即ち、〔金属イオン〕/〔monomer unit〕が0.02以上、0.80以下とする。
【0022】
5員環状カーボネート基を官能基とする構造を側鎖の一部として有する第一のモノマーユニットと、前記第一のモノマーユニットと共重合可能な第二のモノマーユニットとの共重合体であり、上記化学式(1)に示す有機高分子と、金属塩とを有機系のキャスト溶媒に溶解させてキャスト法によりフィルムとすることを特徴とする高分子電解質の製造方法を提供する。
【0023】
上述した高分子電解質と、これら高分子電解質を溶融することが可能な有機溶媒とからなる高分子電解質を形成し、また、前記有機溶媒はその構造中に酸素原子または窒素原子を少なくとも1つ以上有するものであって、その有機溶媒を単独もしくは複数種の混合溶媒として用いる。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明者らは5員環状カーボネート基を官能基とする構造を側鎖の一部として有するモノマーユニットと、それと共重合可能なモノマーユニットの共重合体である有機高分子が前述した課題を解決する材料として有望と考えた。即ち、この有機高分子は5員環状カーボネート官能基を含有するモノマーユニットを有するために、従来に比べて高密度にキャリアイオンを含有させることができ、更に、その官能基が主鎖よりもより快活なセグメント運動する側鎖部にあるために、低温状態でも結晶化しにくく、そのため無定形状態を保持することによる十分なセグメント運動を確保することができる特徴を有することを見いだした。
【0025】
更に、この5員環状カーボネート基を官能基とする構造を側鎖の一部として有するモノマーユニットと、それと共重合可能なモノマーユニットの共重合体である有機高分子を高分子電解質の構成材料として使用することにより、上述の目的が達成できることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0026】
即ち、本発明は5員環状カーボネート基を官能基とする構造を側鎖の一部として有する有機高分子とアルカリ金属塩とを含有してなることを特徴とする固体の高分子電解質を提供し、また、5員環状カーボネート基を官能基とする構造を側鎖の一部として有するモノマーユニットと、それと共重合可能なモノマーユニットの共重合体である有機高分子と、アルカリ金属塩とからなる固体の高分子電解質に有機溶媒を加えたことを特徴とする高分子電解質を提供するものである。
【0027】
特に、共重合することによって、5員環状カーボネート基を官能基とする構造を側鎖の一部として有するモノマーユニットのホモポリマーにはない物理的性質や化学的性質を付与することが可能であり、なかでも、架橋構造を形成させる目的のために、ある特定のモノマーユニットを共重合させた場合、有機溶媒の含有量を増加しても成膜性を保持することができる。即ち、有機溶媒の含有量が増加しても自己支持性の膜を形成し、膜の機械的強度を確保することができるものである。
【0028】
本発明において使用する有機高分子としては、次の化学式(1)で示される4−(1−プロペニルオキシメチル)−1,3−ジオキサン−2−オン〔通称(プロペニル−プロピ
レンカーボネート−エーテル)、以下、「PpPCE」と記す〕と、これと共重合可能なモノマーとの共重合体である。
【化9】
【0029】
PpPCEは、例えばカチオン重合法や配位重合法等を用いることにより容易に得ることができる。このような5員環状カーボネート基を官能基とする構造を側鎖の一部として有する有機高分子を用いることにより、高分子電解質中にキャリアイオンを高濃度で含有させた状態においても高イオン伝導性を実現でき、さらに良好な成膜性、および可撓性を同時に実現することができる。
更に、有機溶媒をこれに膨潤させることにより、成膜性を低下させることなく、より一層の高伝導性を実現することができる。
【0030】
PpPCEと共重合可能なモノマーユニットである化学式(1)中のXとしては、ビニル系のモノマーユニットを適宜使用することができる。このようなビニル系モノマーユニットを構成するビニル系モノマーとしては、一種類のモノマーを使用してもよいが二種類以上のモノマーを併用してもよい。このようなビニル系モノマーの具体例としては、例えば、CH2 =CHCOOH、CH2 =CHCOOM(ここでMは金属イオンである)、CH2 =CHCOOR(ここでRはアルキル基である)、CH2 =CHCOO(CH2 CH2 O)n CH3 (ここでnは1〜23の整数である)、CH2 =CHCOO(CH2 CH2 O)n H(ここでnは1〜23の整数である)、アクリル酸グリシジル等のアクリル系モノマー、およびこれらの一部置換体であるメタクリル系モノマー、CH2 =C〔COO(CH2 CH2 O)n CH3 〕2 (ここでnは1〜23の整数である)、CH2 =CH(C6 H5 )、CH2 =CH(CN)、CH2 =CH(OH)、CH2 =CHCONH2 、ビニルピロリドン等を好ましく例示することができる。
【0031】
化学式(1)の有機高分子は、有機高分子の物理的性質、および化学的性質をコントロールするためにPpPCEに一種類以上の他のモノマーユニットを含有させたものであるが、この場合、物理的性質、および化学的性質のコントロールの方法としては、これらのモノマーユニットの構成比を変えることにより、各モノマーユニットの特性を所望の程度で発現させればよい。
【0032】
例えば、PpPCE以外のモノマーとして、ポリエーテル骨格を側鎖として有するメタクリル系モノマーを含有させ、そのメタクリル系モノマーの含有率を増加させた場合には有機高分子の結晶性が低下して逆に可撓性が増加し、更に有機溶媒を膨潤させたときの機械的強度は増加する。また、水酸基を側鎖の一部に有するモノマーを含有させた場合、架橋反応させるときにこの水酸基が架橋サイトとして作用するため、そのモノマーの含有率が高くなるほど架橋化度が高くなり、強いては高分子電解質の機械的強度を増加させることができる。但し、化学式(1)の有機高分子中に占めるPpPCEモノマーユニットの割合は20mol%以上、より好ましくは50mol%以上である。PpPCEモノマーユニットの割合が20mol%を下回ると、イオン伝導性、金属塩の溶解度が大きく低下し、また、有機溶媒に対する溶解度が極度に低下してしまい、加工が困難になる。
【0033】
化学式(1)の有機高分子のようにPpPCEとそれと共重合可能なモノマーユニットの共重合体である有機高分子はPpPCEと必要に応じて他の一種類以上のモノマーとを常法により、例えばカチオン重合法や配位重合法等により重合させることにより容易に得ることができる。
【0034】
また、本発明において使用するPpPCE系共重合高分子を単独で用いるだけでなく、これらと相溶性のある他の高分子とブレンドすることにより得られるポリマーブレンドを使用することもできる。このような他の高分子としては、例えばPEOや化学式(2)〜(5)で示される有機高分子、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の従来からの高分子電解質に用いられてきた有機高分子、また、5員環状カーボネート基を官能基とする構造を有する類似高分子や鎖状カーボネート基を介し、直鎖または分岐メチレンにより結合して有機高分子等を使用することができる。ブレンドの割合としては、必要なイオン導電率やフィルムの柔軟性等、必要とする物理的性質および化学的性質に応じて適宜選択することができる。
【0035】
この発明における高分子電解質を構成する金属塩としては、従来より高分子電解質に用いられているものが可能であり、例えばリチウム塩ではLiBr、LiI、LiSCN、LiBF4 、LiAsF6 、LiCF3 SO3 、LiPF6 、LiN(CF3 SO2 )2 、LiC(CF3 SO2 )3 等が挙げられる。また、これらのリチウム塩のアニオンと、リチウム塩以外のアルカリ金属塩、例えばカリウム、ナトリウム等の塩を使用することもできる。この場合、塩としては複数の塩を同時に使用してもよい。
【0036】
高分子電解質を構成する金属塩と有機高分子の比率は、使用する金属塩の種類や有機高分子の誘導体の種類等により異なるが、有機高分子の全構成モノマーユニット当たりの金属塩の分子比(モル比)を〔塩の金属イオン〕/〔monomer unit〕で表した場合に0.02〜0.80の範囲とすることが好ましい。この比が低すぎるとイオン導電率が低下してしまい、高すぎると塩の析出により成膜性が低下する。
【0037】
また、本発明の有機溶媒を膨潤した高分子電解質は常法によって得ることができる。例えば、前述の手法によって得られた高分子電解質フィルムを有機溶媒中に浸し、所期量の有機溶媒を含んだ時点で引き上げる方法や、キャスト溶媒を完全に蒸発させず、適当量の溶媒を残存させた状態で使用する方法等が挙げられる。ここで用いる有機溶媒としては、前述のキャスト溶媒として用いたものや、一般的にリチウム系の非水電解液として用いているような、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、ジメトキシエタン(DME)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジオキソラン、γ−ブチロラクトン、スルホラン、ジメチルホルムアルデヒド等が適宜使用することが可能であり、更に、これら有機溶媒を同時に複数使用することも可能である。
【0038】
有機溶媒の含有量に関しては必ずしも限定されるものではないが、含有量が高くなるほどイオン導電率も高くなる傾向が見られるものの、ある量以上含有されると膜性(自己支持性)が低下し、粘着体の様相を呈するようになる。従って、使用目的に合致する膜性とイオン導電率とにより選択する。尚、有機高分子の平均分子量が高くなるほど、有機溶媒の含有量が高くなっても膜性の低下が抑えられる傾向が見られることから、本発明の有機溶媒を含む高分子電解質の場合には高分子の平均分子量が高いほど有効である。
【0039】
また、架橋構造を付与することが可能なモノマーユニットを共重合させた高分子において、架橋体を得るための手段としては、活性放射線、光、電子線、加熱等が有効である。その際、必要に応じて、トリメチルシリルベンゾフェノン、ベンゾイン、2−メチルベンゾイン等の光重合開始剤、過酸化ベンゾイル、過酸化メチルエチルケトン、アゾイソビスブチロニトリル等の重合開始剤、トルエン−2,4−ジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート等をはじめとする架橋剤を添加することも有効である。
【0040】
高分子電解質を構成する金属塩の有機溶媒に対する比率(濃度)は、使用する金属塩の種類や有機溶媒の種類、更には構造体となる有機高分子の種類等により異なるが、モル濃度で0.2〜2.0Mの範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜1.5Mの範囲である。この濃度は低すぎても、また高すぎてもイオン導電率は低下する。但し、有機溶媒を含まない高分子電解質に、少量なりとも有機溶媒を添加した場合には、著しくイオン導電率は増加する。
【0041】
高分子電解質における金属塩と有機溶媒からなる電解液の膨潤量〔電解液(g)/有機高分子(g)×100〕w%は、使用する金属塩、有機溶媒の種類およびその濃度、更に構造材となる有機高分子の種類等により異なるが、架橋していない高分子を用いる場合は膨潤量を多くするにつれイオン導電率は高くなるが、150w%以上では機械的強度は低下し、200w%以上ではフィルム状にならず、粘着性のゲルになる。一方、架橋した高分子を用いる場合は、架橋化度によって状況は異なるが、概して1000w%程度までは膨潤量を多くしても機械的強度は極度に低下することなく、高導電性のものを得ることができる。
【0042】
一般に、本発明の高分子固体電解質は膜の形態で使用するが、成膜には常法を用いて行うことができる。有機溶媒の配合割合、方法およびその順序は特に制限はないが、例えば、有機溶媒に有機高分子と金属塩とを溶解し、この溶液を平坦な基板に広げ、溶媒を蒸発させることにより複合体フィルムを得るというキャスト法により膜状のものを得ることができる。この場合、キャスト溶媒としては高分子および金属塩を共に溶解させることができる溶媒、例えばジメチルホルムアミド(DMF)やテトラヒドロフラン(THF)等、適度に極性を有する有機溶媒を適宜使用することができる。この際、溶媒を完全に蒸発させず、固体フィルム状態を保持できる程度の溶媒を残留させた状態で作製する手法と、完全に除去した後に有機溶媒、更には金属塩を溶解させたものを膨潤させる手法が挙げられ、いずれの手法を用いても良い。
【0043】
また、本発明の架橋反応を行った高分子固体電解質に関しては、有機溶媒の配合方法およびその順序は特に制限はないが、例えば、有機化合物を架橋反応する際に金属塩と有機溶媒を前述の濃度に調節したものを、共に窒素雰囲気下で加え、架橋反応して高分子固体電解質を作製する手法と、架橋反応させた有機高分子に金属塩を有機溶媒に溶解させた有機電解液を膨潤させて高分子固体電解質を得る手法等が挙げられ、いずれの手法を用いてもよい。
【0044】
本発明の高分子電解質は、カーボネートを官能基として有する有機高分子を構造材とするために、金属塩が溶解した有機溶媒を膨潤、保持させることが可能となり、また金属塩が高イオン解離する。従って、高イオン伝導性と成膜性、可撓性、機械的強度を同時に実現することが可能となる。更に、構造材となるカーボネート基を官能基として有する有機高分子を一部架橋化させることにより、イオン導電率を低下させることなく、機械的強度を増加させることが可能となる。
【0045】
以下、この発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0046】
PpPCE共重合体の合成
三方活せんを付した300mlのガラス反応容器にジクロロメタン100mlを秤取する。そこに、PpPCE、ポリエーテル構造を側鎖に有するメトキシポリエチレングリコールメタクリレート〔CH2 =C(CH3 )COO(CH2 CH2 O)4 :PEM4〕、末端部に水酸基を有するヒドロキエンクリレート〔CH2 =C(CH3 )COOCH2 CH2 OH:HEMA〕、メタクリル酸メチル〔CH2 =C(CH3 )COOCH3 :MMA〕を所定のモノマー構成比(mol%)にしたがって加える。
【0047】
このモノマー混合溶液を−78℃に冷却する。これに0.1mol/lの濃度のBF3 O(C2 H5 )2 のジクロロメタン溶液を2.5ml加える。4時間反応後、反応溶液に冷却したエタノールを添加して重合を停止し、大量の冷却したエタノールに反応溶液を注いで生成した白色の高分子を沈殿させる。その後、エタノールで十分に洗浄し、減圧乾燥によって高分子を生成する。
【0048】
その結果、収率は略100%で所期の有機高分子を得た。この有機高分子をFT−IRおよびCDCl3 中 1H−NMRで同定したところ、各モノマーの共重合化は合成時の仕込み比に準じていることが確認された。
【0049】
また、この有機高分子の平均分子量はモノマーの仕込み濃度、反応時間で制御することが比較的容易であり、種々の条件で作製した有機高分子の平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した結果、1×103 〜106 程度であった。
【0050】
高分子固体電解質フィルムの作製
上述したようにして得られた有機高分子を十分に脱水したDMF中に添加し、十分に撹拌して均一溶液とし、更に撹拌しながらLiClO4 を有機高分子の全構成モノマーに対して、〔Li+ 〕/〔monomer unit〕=0.7となるように加え、更に完全に溶解するまで撹拌を続ける。その後、孔径0.45μmのフィルターに通して不溶物を除去し、キャスト法により成膜した。即ち、溶液を底面が平滑なテフロン製シャーレに移し入れ、窒素雰囲気下、40〜60℃の温度範囲で設定された恒温器中で溶媒を蒸発させ、更に真空加熱下で溶媒を完全に除去し、乾燥させ、高分子電解質フィルムを得た。
【0051】
このフィルム状の高分子膜を、プロピレンカーボネート(PC)にLiClO4 を適当量溶解させた溶液中に浸析し、高分子膜に溶液を膨潤させる。所定の時間経過後、高分子膜を溶液から取り出し、余分な溶液を取り去り、高分子電解質を得た。この時、浸析させる時間、余分な溶液の取り方によって、膨潤させる電解液の量を制御することができる。
【0052】
こうして得られた高分子電解質フィルムは可撓性に富んだ無色、ないしは淡黄色のフィルムであり、その膜厚は目的に応じ、適宜作製することができるが、イオン導電率を評価するものとしては50〜150μmのものを用いた。
【0053】
架橋化高分子電解質フィルムの作製
架橋化高分子電解質フィルムの作製法は電解液を膨潤した高分子電解質フィルムに不活性ガス雰囲気下、加速電圧250kV、電子線量8Mradの電子線を照射することにより得た。HEMA等の端末に水酸基を有するモノマーを含む場合には、ジイソシアネート系の架橋化剤を加えることによって、架橋化の反応効率を促進することができる。
【0054】
こうして得られた架橋化高分子電解質フィルムは可撓性に富んだ無色、ないしは淡黄色のフィルムであり、その膜厚は目的に応じ、適宜作製することができるが、イオン導電率を評価するものとしては50〜150μmのものを用いた。
【0055】
イオン導電率の評価
上述のようにして得られた高分子電解質フィルムのイオン導電率の評価を次のように行った。即ち、高分子電解質フィルムを白金電極、或いはリチウム金属電極に圧着し、数時間90℃で加熱保存することによって、電極とフィルムの接触が十分に保たれるようにする。その後、定電圧複素インピーダンス法により得られた半円弧部からイオン導電率を解析的に算出した。尚、これらの測定は温度可変式の恒温装置の中に評価セルを入れ、任意の温度で約1時間要して定常状態にした後に行った。
【0056】
この場合、得られる複数個の半円弧成分の電極を白金、リチウム金属と変え、またそれらの電極面積を変えることにより高分子固体電解質中のイオン導電に寄与する抵抗部を決定した。このとき測定に用いる交流電圧の振幅は30〜100mV程度に設定し、交流の周波数帯域は10−2〜107 Hzとした。
【0057】
以下に述べる実施例の結果から、本発明の高分子電解質フィルムは従来のPEOおよび他の有機高分子とアルカリ金属塩との複合体フィルムに比べて、室温近傍の温度領域におけるイオン導電率が著しく高いことが確認できた。また、成膜性、機械的強度および柔軟性も十分なものであった。
【0058】
実施例1〜21
PpPCE−PEM4の共重合体を用い、その全構成モノマーユニットに対するPpPCEモノマーユニットの割合を実施例1〜7で80%、実施例8〜14で50%、実施例15〜21で20%とし、それぞれのLiClO4 の添加量を図1の横軸に示すように変えた高分子電解質を作製し、温度30℃におけるイオン導電率の測定を行った。その結果を図1に示す。
【0059】
図1から明らかなように、高分子中のPpPCEユニット比が20%(実施例15〜21)、50%(実施例8〜14)、80%(実施例1〜7)と増加するにつれ、イオン導電率は高くなる傾向を示す。また、LiClO4 の添加量が〔Li+ 〕/〔monomer unit〕=1.0までは添加量と共にイオン導電率が高くなり、それ以上になると僅かながら低下する傾向がある。この際、いずれの共重合比のものでも、〔Li+ 〕/〔monomer unit〕=0.1以下では得られた高分子電解質フィルムはガラス性のもろい状態であるが、〔Li+ 〕/〔monomer unit〕=0.5〜1.0では柔軟性に富んだ良好なフィルムを形成する。また、〔Li+ 〕/〔monomer unit〕=1.5よりも多くなると、キャスト溶媒を完全に除去して得られたフィルムは金属塩の析出による懸濁がおこり、金属塩と有機高分子が相溶したものを得ることができない。更にこの懸濁した状態のフィルムは、柔軟性および機械的強度が著しく低下するものである。従って、この系では〔Li+ 〕/〔monomer unit〕=0.1〜1.0の範囲であることが好ましく、更に、好ましくは〔Li+ 〕/〔monomer unit〕=0.5〜1.0である。
【0060】
また、高分子中のPpPCEユニット比が80%の実施例6と、50%の実施例13と、20%の実施例20の高分子電解質について、−10〜90℃の温度領域でイオン導電率を測定した。その結果を図2に示す。この図2から明らかなように、高分子中のPpPCEユニット比が20%(実施例20)、50%(実施例13)、80%(実施例6)と増加するにつれ、イオン導電率は高くなる傾向を示す。この際、温度による変化率はPpPCEユニット比が増加するにつれ、小さくなる。
【0061】
実施例22、23、24
PpPCE−MMAの共重合体を用い、その全構成モノマーユニットに対するPpPCEモノマーユニットの割合を実施例22で50%、実施例23で20%、実施例24で80%とし、それぞれ1M−LiClO4 /PC電解液を高分子の重量に対して、200w%(2倍)になるように膨潤させた高分子電解質を作製し、30℃の温度におけるイオン導電率を測定した。その結果を図3に示す。この図3から明らかなように、高分子中のPpPCEユニット比が20%(実施例23)、50%(実施例22)、80%(実施例24)と増加するにつれ、イオン導電率は高くなる傾向を示す。
【0062】
実施例22、25、26
また、PpPCEユニット比が50%の高分子を用い、この高分子の重量に対する、1M−LiClO4 /PC電解液の膨潤量を実施例22で200w%、実施例25で100w%、実施例26で50w%とした高分子電解質を作製し、−10〜70℃の温度領域でイオン導電率を測定した。その結果を図4に示す。この図4から明らかなように、膨潤させる電解液の量が50w%(実施例26)、100w%(実施例25)、200w%(実施例22)と増加するにつれ、イオン導電率は高くなる傾向を示す。この際、温度による変化率は膨潤量が増加するにつれ、小さくなる。また、膨潤させる電解液の量が200w%以上になると、高分子電解質フィルムの成膜性が低下する。
【0063】
従って、PpPCE−MMAの共重合体に1M−LiClO4 /PC電解液を膨潤させた系では、膨潤させる電解液量が増加するほどイオン導電率が高くなるが、それに伴って成膜性が低下することから、膨潤させる電解液の量が200w%以下であることが望ましい。しかし、用途上、成膜性が問題とならない場合には、膨潤させる電解液量は多いほどよい。
【0064】
実施例27〜35
PpPCE−HEMAの共重合体を用い、その全構成モノマーユニットに対しするPpPCEモノマーユニットの割合を実施例27、30、33で20%、実施例28、31、34で50%、実施例29、32、35で80%とし、トルエンジイソシアネートを架橋剤として、電子線照射によって架橋化させた高分子に、それぞれ1M−LiClO4 /PC電解液を高分子の重量に対して、実施例27、28、29で1000w%、実施例30、31、32で500w%、実施例33、34、35で200w%(10、5、2倍)となるように膨潤させた高分子電解質を作製し、温度30℃においてイオン導電率を測定した。その測定結果を図5に示す。
【0065】
この図5から明らかなように、いずれの共重合組成の高分子を用いた場合でも、膨潤させる電解液の量が200w%(実施例33、34、35)、500w%(実施例30、31、32)、1000w%(実施例27、28、29)と増加するにつれ、イオン導電率は高くなる傾向を示す。この際、高分子電解質に架橋構造を導入したために、1000w%の電解液を膨潤させた場合でも成膜性の低下はおきない。但し、1000w%以上になると破断等に対する機械的強度が低下する。
【0066】
【発明の効果】
以上の説明からも明らかなように、この発明によれば、従来の高分子電解質と比較して、室温付近でも高いイオン伝導性を発揮し、かつ成膜性、機械的強度、柔軟性にも優れた高分子固体電解質を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】P(PpPCE−PEM4)/LiClO4 系高分子固体電解質における含有リチウム塩濃度を変化させた場合の温度30℃におけるイオン導電率。
【図2】P(PpPCE−PEM4)/LiClO4 系高分子固体電解質における共重合比を変化させた場合のイオン導電率の温度依存性。
【図3】P(PpPCE−MMA)/PC/LiClO4 系高分子電解質におけるPpPCE−MMA共重合比を変化させた場合のイオン導電率(温度30℃、1M−LiClO4 /PCをpolymerに対して200w%膨潤させたもの)。
【図4】P(PpPCE−MMA)/PC/LiClO4 系高分子電解質における1M−LiClO4 /PC電解液の膨潤量と温度に対するイオン導電率の依存性。
【図5】P(PpPCE−MMA)/PC/LiClO4 系高分子電解質におけるPpPCE−HEMA共重合比および膨潤させる電解液量を変化させた場合の30℃におけるイオン導電率。
【符号の説明】
PpPCE…プロペニル−プロピレンカーボネート−エーテル、PEM4…メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、PC…プロピレンカーボネート、MMA…メタクリル酸メチル、HEMA…ヒドロキエンクリレート
【発明の属する技術分野】
本発明はイオン伝導性を有する高分子電解質に関し、さらに詳しくは、リチウムイオンをはじめとするアルカリ金属イオン系の伝導性キャリアを含有することにより、高いイオン伝導性を発揮し、かつ、成膜性、機械的強度、柔軟性にも優れた高分子電解質に関する。
【0002】
【従来の技術】
固体の高分子電解質を用いて全固体系の電池を構成した場合、従来の液体を含む電池の問題点である漏液がなくなり、電池の安全性および信頼性が向上し、また、電池の薄型化、積層化も可能となる。そのため、固体電解質は電池に限らず他の電気化学的デバイス材料としても注目されている。
【0003】
ところで、固体電解質として要求される特性としては、一般的にイオン伝導性が高く電子伝導性がないこと、薄く成形できるように成膜性が優れていること、可撓性に優れていること等が挙げられている。
【0004】
また、固体電解質は無機材料からなるものと有機材料からなるものに大きく分けられる。このうち無機材料からなる固体電解質は比較的イオン伝導性は高いが、結晶体であるために機械的強度が乏しく、可撓性のある膜に加工することが困難であり、そのためにデバイスに応用する場合には著しく不利となっている。
【0005】
これに対して、有機高分子からなる高分子電解質は可撓性のある薄膜に成膜することができ、また、成形した薄膜には高分子固有の柔軟性により優れた機械的性質を付与することが可能となる。このため高分子電解質からなる薄膜には、電極−高分子電解質間のイオン電子交換反応過程で生じる体積変化にも柔軟に適応させることもでき、従って、高分子電解質は高エネルギー密度電池、特に薄型電池の電解質材料として有望視されている。また、従来からの有機溶媒を基調とする非水電解液よりも難燃化が図れることから、電池を大型化した場合の安全性確保に関しても大きく貢献できるものとして有望視されている。
【0006】
このような高分子電解質としては、ポリエーテル構造を有するポリエチレンオキサイド〔(−CH2 CH2 O−)n :以下、「PEO」と記す〕とLi塩やNa塩等のアルカリ金属塩との複合体が、高いアルカリ金属イオン伝導性を示すことが知られており、この複合体をはじめとして種々の高分子電解質でのイオン伝導機構や分子構造等の理論的研究、或いは電池等の電気化学デバイスへの応用研究が活発に進められている。
【0007】
ところで、高分子電解質におけるイオン伝導は、高分子マトリックス中のアルカリ金属イオンが高分子マトリックス中の無定形部分において選択的にイオン化し、高分子中の配位性原子と相互作用をしながらマトリックス内を電界に沿って拡散移動することによって達成されるものと考えられている。例えば、PEOとアルカリ金属塩とからなる複合体膜においては、アルカリ金属イオンと主鎖中の誘電率の高いエーテル結合部の酸素とが相互作用をしながら、熱による分子鎖のセグンメント運動によってイオン伝導が示されるようになると考えられている。
【0008】
しかしながら、高分子電解質は一般的に無機材料からなる固体電解質に比べて室温近傍でのイオン導電率が小さいという問題点を有している。更に、イオン導電率を向上させようとすると、逆に成膜性や可撓性が低下するという問題点を有している。
【0009】
例えば、PEOとアルカリ金属塩との複合体膜の場合、それを構成している有機高分子の分子量が10000程度では成膜性に優れ、イオン導電率も100℃以上の温度では10−3〜10−4s/cm程度の比較的高い値を有する。しかし、この複合体膜は結晶性であるために60℃以下の温度では急激にイオン導電率は低下し、室温では10−7s/cm程度以下の非常に低い値を示す。このため、室温を使用温度領域とする通常の電池の材料として組み入れることが不可能となってくる。
【0010】
そこで、化学式(2)に示すように、PEOの末端水酸基をウレタン架橋させるためにジイソシアネートを反応させたり、或いはエステル架橋を形成させることによって、複合体膜の結晶性を抑制させる試みがなされている。この架橋構造は無定形高分子のイオン導電率を大きく低下させることなく、機械的特性を向上させるための手段として非常に有効である。しかしながら、このような手段でも十分な成果を得るには至っていない。
【化4】
【0011】
一方、複合体膜の構成有機高分子PEOの分子量を10000以下にすることによって室温近傍の温度領域でイオン導電率を向上させることができるが、この場合には成膜性が著しく低下し、フィルム化が困難となる。また、イオン導電率を向上させるためにアルカリ金属塩の含有濃度を高くした場合には、複合体膜のガラス転移点Tgも上がってしまい、そのためイオン伝導性が低下することになる。このようにキャリア体の密度の増加とイオン導電率の増加を同時に達成することはできない。
【0012】
また、他の高分子電解質としては、上述のPEOおよびアルカリ金属塩を用いた複合体膜の類似化合物で、化学式(3)で示されるように側鎖にPEO構造を有するアクリル系、およびメタクリル系の有機高分子が知られている。
【化5】
【0013】
また、化学式(4)で示されるように、側鎖にPEO構造を有し、主鎖として−P=N−からなるポリホスファゼン系の有機高分子や、化学式(5)で示されるように、側鎖にPEO構造を有し、主鎖として−Si−O−からなるシロキサン系の有機高分子が知られている。
【化6】
【化7】
【0014】
これらの有機高分子とアルカリ金属塩とからなる高分子電解質のイオン導電率は10−5s/cm程度であり、PEOとアルカリ金属塩とからなる複合体膜に比べてやや改善されているが実用上では不十分である。また、成膜性や可撓性も十分なものとはなっていない。
【0015】
一方、上述した有機高分子と金属塩とからなる固体の高分子電解質以外に、有機高分子と金属塩と更に金属塩を溶解する有機溶媒とからなる高分子電解質、即ち、前述の高分子電解質に有機溶媒を膨潤させたものが開発されている。尚、この際、有機溶媒を膨潤させても高分子自体が溶解してしまうことがないように、活性放射線、光、電子線、加熱等によって架橋させる等の改良も施されている。これらは一般に有機溶媒を含まない固体の高分子電解質に比べて、イオン導電率は10−3s/cm程度と非常に高いものが得られる。更に、有機溶媒は高分子中に膨潤され、高分子ゲルを形成するようになるため、圧力をかけても液体成分がしみ出ることもなく、比較的良好な膜性を有する。
【0016】
しかしながら、従来の有機溶媒と金属塩とからなる電解液に比べ、そのイオン導電率は低く、さらに機械的強度の高いものが求められているのが実情である。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
従って本発明の課題は、室温近傍でも高いイオン伝導性を発揮し、かつ成膜性、機械的強度、柔軟性に優れた高分子電解質を提供しようとするものである。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、5員環状カーボネート基を官能基とする構造を側鎖の一部として有する第一のモノマーユニットと、前記第一のモノマーユニットと共重合可能な第二のモノマーユニットとの共重合体である有機高分子と、金属塩とを含有してなる高分子電解質を形成する。
【0019】
前記有機高分子は化学式(1)で示されるものを用いる。
【化8】
【0020】
前記金属塩はアルカリ金属の塩を用いる。
【0021】
前記金属塩と前記有機高分子との構成割合は、有機高分子の全構成モノマーあたりの金属イオンのモル比、即ち、〔金属イオン〕/〔monomer unit〕が0.02以上、0.80以下とする。
【0022】
5員環状カーボネート基を官能基とする構造を側鎖の一部として有する第一のモノマーユニットと、前記第一のモノマーユニットと共重合可能な第二のモノマーユニットとの共重合体であり、上記化学式(1)に示す有機高分子と、金属塩とを有機系のキャスト溶媒に溶解させてキャスト法によりフィルムとすることを特徴とする高分子電解質の製造方法を提供する。
【0023】
上述した高分子電解質と、これら高分子電解質を溶融することが可能な有機溶媒とからなる高分子電解質を形成し、また、前記有機溶媒はその構造中に酸素原子または窒素原子を少なくとも1つ以上有するものであって、その有機溶媒を単独もしくは複数種の混合溶媒として用いる。
【0024】
【発明の実施の形態】
本発明者らは5員環状カーボネート基を官能基とする構造を側鎖の一部として有するモノマーユニットと、それと共重合可能なモノマーユニットの共重合体である有機高分子が前述した課題を解決する材料として有望と考えた。即ち、この有機高分子は5員環状カーボネート官能基を含有するモノマーユニットを有するために、従来に比べて高密度にキャリアイオンを含有させることができ、更に、その官能基が主鎖よりもより快活なセグメント運動する側鎖部にあるために、低温状態でも結晶化しにくく、そのため無定形状態を保持することによる十分なセグメント運動を確保することができる特徴を有することを見いだした。
【0025】
更に、この5員環状カーボネート基を官能基とする構造を側鎖の一部として有するモノマーユニットと、それと共重合可能なモノマーユニットの共重合体である有機高分子を高分子電解質の構成材料として使用することにより、上述の目的が達成できることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0026】
即ち、本発明は5員環状カーボネート基を官能基とする構造を側鎖の一部として有する有機高分子とアルカリ金属塩とを含有してなることを特徴とする固体の高分子電解質を提供し、また、5員環状カーボネート基を官能基とする構造を側鎖の一部として有するモノマーユニットと、それと共重合可能なモノマーユニットの共重合体である有機高分子と、アルカリ金属塩とからなる固体の高分子電解質に有機溶媒を加えたことを特徴とする高分子電解質を提供するものである。
【0027】
特に、共重合することによって、5員環状カーボネート基を官能基とする構造を側鎖の一部として有するモノマーユニットのホモポリマーにはない物理的性質や化学的性質を付与することが可能であり、なかでも、架橋構造を形成させる目的のために、ある特定のモノマーユニットを共重合させた場合、有機溶媒の含有量を増加しても成膜性を保持することができる。即ち、有機溶媒の含有量が増加しても自己支持性の膜を形成し、膜の機械的強度を確保することができるものである。
【0028】
本発明において使用する有機高分子としては、次の化学式(1)で示される4−(1−プロペニルオキシメチル)−1,3−ジオキサン−2−オン〔通称(プロペニル−プロピ
レンカーボネート−エーテル)、以下、「PpPCE」と記す〕と、これと共重合可能なモノマーとの共重合体である。
【化9】
【0029】
PpPCEは、例えばカチオン重合法や配位重合法等を用いることにより容易に得ることができる。このような5員環状カーボネート基を官能基とする構造を側鎖の一部として有する有機高分子を用いることにより、高分子電解質中にキャリアイオンを高濃度で含有させた状態においても高イオン伝導性を実現でき、さらに良好な成膜性、および可撓性を同時に実現することができる。
更に、有機溶媒をこれに膨潤させることにより、成膜性を低下させることなく、より一層の高伝導性を実現することができる。
【0030】
PpPCEと共重合可能なモノマーユニットである化学式(1)中のXとしては、ビニル系のモノマーユニットを適宜使用することができる。このようなビニル系モノマーユニットを構成するビニル系モノマーとしては、一種類のモノマーを使用してもよいが二種類以上のモノマーを併用してもよい。このようなビニル系モノマーの具体例としては、例えば、CH2 =CHCOOH、CH2 =CHCOOM(ここでMは金属イオンである)、CH2 =CHCOOR(ここでRはアルキル基である)、CH2 =CHCOO(CH2 CH2 O)n CH3 (ここでnは1〜23の整数である)、CH2 =CHCOO(CH2 CH2 O)n H(ここでnは1〜23の整数である)、アクリル酸グリシジル等のアクリル系モノマー、およびこれらの一部置換体であるメタクリル系モノマー、CH2 =C〔COO(CH2 CH2 O)n CH3 〕2 (ここでnは1〜23の整数である)、CH2 =CH(C6 H5 )、CH2 =CH(CN)、CH2 =CH(OH)、CH2 =CHCONH2 、ビニルピロリドン等を好ましく例示することができる。
【0031】
化学式(1)の有機高分子は、有機高分子の物理的性質、および化学的性質をコントロールするためにPpPCEに一種類以上の他のモノマーユニットを含有させたものであるが、この場合、物理的性質、および化学的性質のコントロールの方法としては、これらのモノマーユニットの構成比を変えることにより、各モノマーユニットの特性を所望の程度で発現させればよい。
【0032】
例えば、PpPCE以外のモノマーとして、ポリエーテル骨格を側鎖として有するメタクリル系モノマーを含有させ、そのメタクリル系モノマーの含有率を増加させた場合には有機高分子の結晶性が低下して逆に可撓性が増加し、更に有機溶媒を膨潤させたときの機械的強度は増加する。また、水酸基を側鎖の一部に有するモノマーを含有させた場合、架橋反応させるときにこの水酸基が架橋サイトとして作用するため、そのモノマーの含有率が高くなるほど架橋化度が高くなり、強いては高分子電解質の機械的強度を増加させることができる。但し、化学式(1)の有機高分子中に占めるPpPCEモノマーユニットの割合は20mol%以上、より好ましくは50mol%以上である。PpPCEモノマーユニットの割合が20mol%を下回ると、イオン伝導性、金属塩の溶解度が大きく低下し、また、有機溶媒に対する溶解度が極度に低下してしまい、加工が困難になる。
【0033】
化学式(1)の有機高分子のようにPpPCEとそれと共重合可能なモノマーユニットの共重合体である有機高分子はPpPCEと必要に応じて他の一種類以上のモノマーとを常法により、例えばカチオン重合法や配位重合法等により重合させることにより容易に得ることができる。
【0034】
また、本発明において使用するPpPCE系共重合高分子を単独で用いるだけでなく、これらと相溶性のある他の高分子とブレンドすることにより得られるポリマーブレンドを使用することもできる。このような他の高分子としては、例えばPEOや化学式(2)〜(5)で示される有機高分子、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の従来からの高分子電解質に用いられてきた有機高分子、また、5員環状カーボネート基を官能基とする構造を有する類似高分子や鎖状カーボネート基を介し、直鎖または分岐メチレンにより結合して有機高分子等を使用することができる。ブレンドの割合としては、必要なイオン導電率やフィルムの柔軟性等、必要とする物理的性質および化学的性質に応じて適宜選択することができる。
【0035】
この発明における高分子電解質を構成する金属塩としては、従来より高分子電解質に用いられているものが可能であり、例えばリチウム塩ではLiBr、LiI、LiSCN、LiBF4 、LiAsF6 、LiCF3 SO3 、LiPF6 、LiN(CF3 SO2 )2 、LiC(CF3 SO2 )3 等が挙げられる。また、これらのリチウム塩のアニオンと、リチウム塩以外のアルカリ金属塩、例えばカリウム、ナトリウム等の塩を使用することもできる。この場合、塩としては複数の塩を同時に使用してもよい。
【0036】
高分子電解質を構成する金属塩と有機高分子の比率は、使用する金属塩の種類や有機高分子の誘導体の種類等により異なるが、有機高分子の全構成モノマーユニット当たりの金属塩の分子比(モル比)を〔塩の金属イオン〕/〔monomer unit〕で表した場合に0.02〜0.80の範囲とすることが好ましい。この比が低すぎるとイオン導電率が低下してしまい、高すぎると塩の析出により成膜性が低下する。
【0037】
また、本発明の有機溶媒を膨潤した高分子電解質は常法によって得ることができる。例えば、前述の手法によって得られた高分子電解質フィルムを有機溶媒中に浸し、所期量の有機溶媒を含んだ時点で引き上げる方法や、キャスト溶媒を完全に蒸発させず、適当量の溶媒を残存させた状態で使用する方法等が挙げられる。ここで用いる有機溶媒としては、前述のキャスト溶媒として用いたものや、一般的にリチウム系の非水電解液として用いているような、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、ジメトキシエタン(DME)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジオキソラン、γ−ブチロラクトン、スルホラン、ジメチルホルムアルデヒド等が適宜使用することが可能であり、更に、これら有機溶媒を同時に複数使用することも可能である。
【0038】
有機溶媒の含有量に関しては必ずしも限定されるものではないが、含有量が高くなるほどイオン導電率も高くなる傾向が見られるものの、ある量以上含有されると膜性(自己支持性)が低下し、粘着体の様相を呈するようになる。従って、使用目的に合致する膜性とイオン導電率とにより選択する。尚、有機高分子の平均分子量が高くなるほど、有機溶媒の含有量が高くなっても膜性の低下が抑えられる傾向が見られることから、本発明の有機溶媒を含む高分子電解質の場合には高分子の平均分子量が高いほど有効である。
【0039】
また、架橋構造を付与することが可能なモノマーユニットを共重合させた高分子において、架橋体を得るための手段としては、活性放射線、光、電子線、加熱等が有効である。その際、必要に応じて、トリメチルシリルベンゾフェノン、ベンゾイン、2−メチルベンゾイン等の光重合開始剤、過酸化ベンゾイル、過酸化メチルエチルケトン、アゾイソビスブチロニトリル等の重合開始剤、トルエン−2,4−ジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート等をはじめとする架橋剤を添加することも有効である。
【0040】
高分子電解質を構成する金属塩の有機溶媒に対する比率(濃度)は、使用する金属塩の種類や有機溶媒の種類、更には構造体となる有機高分子の種類等により異なるが、モル濃度で0.2〜2.0Mの範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜1.5Mの範囲である。この濃度は低すぎても、また高すぎてもイオン導電率は低下する。但し、有機溶媒を含まない高分子電解質に、少量なりとも有機溶媒を添加した場合には、著しくイオン導電率は増加する。
【0041】
高分子電解質における金属塩と有機溶媒からなる電解液の膨潤量〔電解液(g)/有機高分子(g)×100〕w%は、使用する金属塩、有機溶媒の種類およびその濃度、更に構造材となる有機高分子の種類等により異なるが、架橋していない高分子を用いる場合は膨潤量を多くするにつれイオン導電率は高くなるが、150w%以上では機械的強度は低下し、200w%以上ではフィルム状にならず、粘着性のゲルになる。一方、架橋した高分子を用いる場合は、架橋化度によって状況は異なるが、概して1000w%程度までは膨潤量を多くしても機械的強度は極度に低下することなく、高導電性のものを得ることができる。
【0042】
一般に、本発明の高分子固体電解質は膜の形態で使用するが、成膜には常法を用いて行うことができる。有機溶媒の配合割合、方法およびその順序は特に制限はないが、例えば、有機溶媒に有機高分子と金属塩とを溶解し、この溶液を平坦な基板に広げ、溶媒を蒸発させることにより複合体フィルムを得るというキャスト法により膜状のものを得ることができる。この場合、キャスト溶媒としては高分子および金属塩を共に溶解させることができる溶媒、例えばジメチルホルムアミド(DMF)やテトラヒドロフラン(THF)等、適度に極性を有する有機溶媒を適宜使用することができる。この際、溶媒を完全に蒸発させず、固体フィルム状態を保持できる程度の溶媒を残留させた状態で作製する手法と、完全に除去した後に有機溶媒、更には金属塩を溶解させたものを膨潤させる手法が挙げられ、いずれの手法を用いても良い。
【0043】
また、本発明の架橋反応を行った高分子固体電解質に関しては、有機溶媒の配合方法およびその順序は特に制限はないが、例えば、有機化合物を架橋反応する際に金属塩と有機溶媒を前述の濃度に調節したものを、共に窒素雰囲気下で加え、架橋反応して高分子固体電解質を作製する手法と、架橋反応させた有機高分子に金属塩を有機溶媒に溶解させた有機電解液を膨潤させて高分子固体電解質を得る手法等が挙げられ、いずれの手法を用いてもよい。
【0044】
本発明の高分子電解質は、カーボネートを官能基として有する有機高分子を構造材とするために、金属塩が溶解した有機溶媒を膨潤、保持させることが可能となり、また金属塩が高イオン解離する。従って、高イオン伝導性と成膜性、可撓性、機械的強度を同時に実現することが可能となる。更に、構造材となるカーボネート基を官能基として有する有機高分子を一部架橋化させることにより、イオン導電率を低下させることなく、機械的強度を増加させることが可能となる。
【0045】
以下、この発明を実施例に基づいて具体的に説明する。
【0046】
PpPCE共重合体の合成
三方活せんを付した300mlのガラス反応容器にジクロロメタン100mlを秤取する。そこに、PpPCE、ポリエーテル構造を側鎖に有するメトキシポリエチレングリコールメタクリレート〔CH2 =C(CH3 )COO(CH2 CH2 O)4 :PEM4〕、末端部に水酸基を有するヒドロキエンクリレート〔CH2 =C(CH3 )COOCH2 CH2 OH:HEMA〕、メタクリル酸メチル〔CH2 =C(CH3 )COOCH3 :MMA〕を所定のモノマー構成比(mol%)にしたがって加える。
【0047】
このモノマー混合溶液を−78℃に冷却する。これに0.1mol/lの濃度のBF3 O(C2 H5 )2 のジクロロメタン溶液を2.5ml加える。4時間反応後、反応溶液に冷却したエタノールを添加して重合を停止し、大量の冷却したエタノールに反応溶液を注いで生成した白色の高分子を沈殿させる。その後、エタノールで十分に洗浄し、減圧乾燥によって高分子を生成する。
【0048】
その結果、収率は略100%で所期の有機高分子を得た。この有機高分子をFT−IRおよびCDCl3 中 1H−NMRで同定したところ、各モノマーの共重合化は合成時の仕込み比に準じていることが確認された。
【0049】
また、この有機高分子の平均分子量はモノマーの仕込み濃度、反応時間で制御することが比較的容易であり、種々の条件で作製した有機高分子の平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した結果、1×103 〜106 程度であった。
【0050】
高分子固体電解質フィルムの作製
上述したようにして得られた有機高分子を十分に脱水したDMF中に添加し、十分に撹拌して均一溶液とし、更に撹拌しながらLiClO4 を有機高分子の全構成モノマーに対して、〔Li+ 〕/〔monomer unit〕=0.7となるように加え、更に完全に溶解するまで撹拌を続ける。その後、孔径0.45μmのフィルターに通して不溶物を除去し、キャスト法により成膜した。即ち、溶液を底面が平滑なテフロン製シャーレに移し入れ、窒素雰囲気下、40〜60℃の温度範囲で設定された恒温器中で溶媒を蒸発させ、更に真空加熱下で溶媒を完全に除去し、乾燥させ、高分子電解質フィルムを得た。
【0051】
このフィルム状の高分子膜を、プロピレンカーボネート(PC)にLiClO4 を適当量溶解させた溶液中に浸析し、高分子膜に溶液を膨潤させる。所定の時間経過後、高分子膜を溶液から取り出し、余分な溶液を取り去り、高分子電解質を得た。この時、浸析させる時間、余分な溶液の取り方によって、膨潤させる電解液の量を制御することができる。
【0052】
こうして得られた高分子電解質フィルムは可撓性に富んだ無色、ないしは淡黄色のフィルムであり、その膜厚は目的に応じ、適宜作製することができるが、イオン導電率を評価するものとしては50〜150μmのものを用いた。
【0053】
架橋化高分子電解質フィルムの作製
架橋化高分子電解質フィルムの作製法は電解液を膨潤した高分子電解質フィルムに不活性ガス雰囲気下、加速電圧250kV、電子線量8Mradの電子線を照射することにより得た。HEMA等の端末に水酸基を有するモノマーを含む場合には、ジイソシアネート系の架橋化剤を加えることによって、架橋化の反応効率を促進することができる。
【0054】
こうして得られた架橋化高分子電解質フィルムは可撓性に富んだ無色、ないしは淡黄色のフィルムであり、その膜厚は目的に応じ、適宜作製することができるが、イオン導電率を評価するものとしては50〜150μmのものを用いた。
【0055】
イオン導電率の評価
上述のようにして得られた高分子電解質フィルムのイオン導電率の評価を次のように行った。即ち、高分子電解質フィルムを白金電極、或いはリチウム金属電極に圧着し、数時間90℃で加熱保存することによって、電極とフィルムの接触が十分に保たれるようにする。その後、定電圧複素インピーダンス法により得られた半円弧部からイオン導電率を解析的に算出した。尚、これらの測定は温度可変式の恒温装置の中に評価セルを入れ、任意の温度で約1時間要して定常状態にした後に行った。
【0056】
この場合、得られる複数個の半円弧成分の電極を白金、リチウム金属と変え、またそれらの電極面積を変えることにより高分子固体電解質中のイオン導電に寄与する抵抗部を決定した。このとき測定に用いる交流電圧の振幅は30〜100mV程度に設定し、交流の周波数帯域は10−2〜107 Hzとした。
【0057】
以下に述べる実施例の結果から、本発明の高分子電解質フィルムは従来のPEOおよび他の有機高分子とアルカリ金属塩との複合体フィルムに比べて、室温近傍の温度領域におけるイオン導電率が著しく高いことが確認できた。また、成膜性、機械的強度および柔軟性も十分なものであった。
【0058】
実施例1〜21
PpPCE−PEM4の共重合体を用い、その全構成モノマーユニットに対するPpPCEモノマーユニットの割合を実施例1〜7で80%、実施例8〜14で50%、実施例15〜21で20%とし、それぞれのLiClO4 の添加量を図1の横軸に示すように変えた高分子電解質を作製し、温度30℃におけるイオン導電率の測定を行った。その結果を図1に示す。
【0059】
図1から明らかなように、高分子中のPpPCEユニット比が20%(実施例15〜21)、50%(実施例8〜14)、80%(実施例1〜7)と増加するにつれ、イオン導電率は高くなる傾向を示す。また、LiClO4 の添加量が〔Li+ 〕/〔monomer unit〕=1.0までは添加量と共にイオン導電率が高くなり、それ以上になると僅かながら低下する傾向がある。この際、いずれの共重合比のものでも、〔Li+ 〕/〔monomer unit〕=0.1以下では得られた高分子電解質フィルムはガラス性のもろい状態であるが、〔Li+ 〕/〔monomer unit〕=0.5〜1.0では柔軟性に富んだ良好なフィルムを形成する。また、〔Li+ 〕/〔monomer unit〕=1.5よりも多くなると、キャスト溶媒を完全に除去して得られたフィルムは金属塩の析出による懸濁がおこり、金属塩と有機高分子が相溶したものを得ることができない。更にこの懸濁した状態のフィルムは、柔軟性および機械的強度が著しく低下するものである。従って、この系では〔Li+ 〕/〔monomer unit〕=0.1〜1.0の範囲であることが好ましく、更に、好ましくは〔Li+ 〕/〔monomer unit〕=0.5〜1.0である。
【0060】
また、高分子中のPpPCEユニット比が80%の実施例6と、50%の実施例13と、20%の実施例20の高分子電解質について、−10〜90℃の温度領域でイオン導電率を測定した。その結果を図2に示す。この図2から明らかなように、高分子中のPpPCEユニット比が20%(実施例20)、50%(実施例13)、80%(実施例6)と増加するにつれ、イオン導電率は高くなる傾向を示す。この際、温度による変化率はPpPCEユニット比が増加するにつれ、小さくなる。
【0061】
実施例22、23、24
PpPCE−MMAの共重合体を用い、その全構成モノマーユニットに対するPpPCEモノマーユニットの割合を実施例22で50%、実施例23で20%、実施例24で80%とし、それぞれ1M−LiClO4 /PC電解液を高分子の重量に対して、200w%(2倍)になるように膨潤させた高分子電解質を作製し、30℃の温度におけるイオン導電率を測定した。その結果を図3に示す。この図3から明らかなように、高分子中のPpPCEユニット比が20%(実施例23)、50%(実施例22)、80%(実施例24)と増加するにつれ、イオン導電率は高くなる傾向を示す。
【0062】
実施例22、25、26
また、PpPCEユニット比が50%の高分子を用い、この高分子の重量に対する、1M−LiClO4 /PC電解液の膨潤量を実施例22で200w%、実施例25で100w%、実施例26で50w%とした高分子電解質を作製し、−10〜70℃の温度領域でイオン導電率を測定した。その結果を図4に示す。この図4から明らかなように、膨潤させる電解液の量が50w%(実施例26)、100w%(実施例25)、200w%(実施例22)と増加するにつれ、イオン導電率は高くなる傾向を示す。この際、温度による変化率は膨潤量が増加するにつれ、小さくなる。また、膨潤させる電解液の量が200w%以上になると、高分子電解質フィルムの成膜性が低下する。
【0063】
従って、PpPCE−MMAの共重合体に1M−LiClO4 /PC電解液を膨潤させた系では、膨潤させる電解液量が増加するほどイオン導電率が高くなるが、それに伴って成膜性が低下することから、膨潤させる電解液の量が200w%以下であることが望ましい。しかし、用途上、成膜性が問題とならない場合には、膨潤させる電解液量は多いほどよい。
【0064】
実施例27〜35
PpPCE−HEMAの共重合体を用い、その全構成モノマーユニットに対しするPpPCEモノマーユニットの割合を実施例27、30、33で20%、実施例28、31、34で50%、実施例29、32、35で80%とし、トルエンジイソシアネートを架橋剤として、電子線照射によって架橋化させた高分子に、それぞれ1M−LiClO4 /PC電解液を高分子の重量に対して、実施例27、28、29で1000w%、実施例30、31、32で500w%、実施例33、34、35で200w%(10、5、2倍)となるように膨潤させた高分子電解質を作製し、温度30℃においてイオン導電率を測定した。その測定結果を図5に示す。
【0065】
この図5から明らかなように、いずれの共重合組成の高分子を用いた場合でも、膨潤させる電解液の量が200w%(実施例33、34、35)、500w%(実施例30、31、32)、1000w%(実施例27、28、29)と増加するにつれ、イオン導電率は高くなる傾向を示す。この際、高分子電解質に架橋構造を導入したために、1000w%の電解液を膨潤させた場合でも成膜性の低下はおきない。但し、1000w%以上になると破断等に対する機械的強度が低下する。
【0066】
【発明の効果】
以上の説明からも明らかなように、この発明によれば、従来の高分子電解質と比較して、室温付近でも高いイオン伝導性を発揮し、かつ成膜性、機械的強度、柔軟性にも優れた高分子固体電解質を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】P(PpPCE−PEM4)/LiClO4 系高分子固体電解質における含有リチウム塩濃度を変化させた場合の温度30℃におけるイオン導電率。
【図2】P(PpPCE−PEM4)/LiClO4 系高分子固体電解質における共重合比を変化させた場合のイオン導電率の温度依存性。
【図3】P(PpPCE−MMA)/PC/LiClO4 系高分子電解質におけるPpPCE−MMA共重合比を変化させた場合のイオン導電率(温度30℃、1M−LiClO4 /PCをpolymerに対して200w%膨潤させたもの)。
【図4】P(PpPCE−MMA)/PC/LiClO4 系高分子電解質における1M−LiClO4 /PC電解液の膨潤量と温度に対するイオン導電率の依存性。
【図5】P(PpPCE−MMA)/PC/LiClO4 系高分子電解質におけるPpPCE−HEMA共重合比および膨潤させる電解液量を変化させた場合の30℃におけるイオン導電率。
【符号の説明】
PpPCE…プロペニル−プロピレンカーボネート−エーテル、PEM4…メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、PC…プロピレンカーボネート、MMA…メタクリル酸メチル、HEMA…ヒドロキエンクリレート
Claims (5)
- 前記アルカリ金属塩と前記有機高分子との構成割合は、有機高分子の全構成モノマーあたりの金属イオンのモル比、即ち、〔金属イオン〕/〔monomerunit〕が0.02以上、0.80以下であることを特徴とする請求項1に記載の高分子電解質。
- 前記有機溶媒はその構造中に酸素原子または窒素原子を少なくとも1つ以上有するものであって、その有機溶媒を単独もしくは複数種の混合溶媒として用いることを特徴とする請求項4に記載の高分子電解質。
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