JP3597437B2 - 血中脂質改善機能を有する食用油脂 - Google Patents
血中脂質改善機能を有する食用油脂 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、血中脂質改善機能を有する食用油脂に関し、詳しくはオリザノール、フィトステロールおよびトリテルペンアルコールの相乗作用により、血中脂質改善機能、すなわち血中コレステロール及び中性脂肪改善機能を有し、かつ風味良好で低温耐性と加熱調理適性を具備した優れた食用油脂に関する。
【0002】
【従来の技術】
血中コレステロールや中性脂肪濃度が高値を示す高脂血症は、動脈硬化症を促進させ、冠動脈疾患や脳卒中の危険因子であることから、血中脂質濃度を適性なレベルに維持あるいは改善することは、成人病の予防に非常に重要なことであることが知られている(家庭の医学 国民医学大辞典 改訂新版、石川中ら編、保健同人社、1990)。
【0003】
国民栄養調査結果によれば、総コレステロール濃度が高値を示す人の割合は、男性4.4%、女性7.4%とそれほど多くないが、やや高値(境界域)を示す人の割合は、男性が22.5%、女性が25.8%と非常に多い(国民栄養の現状 平成9年国民栄養調査結果、厚生省保健医療局監修、第一出版、1999)。血中脂質が境界域の人たちに対しては、薬物治療よりも食事療法により血中脂質濃度を改善していくことが、副作用、医療費の面から見て望ましい。食事療法を継続するためには、風味が良好なだけでなく、使用者が利用しやすく、さらに経済的に安価なことが重要である。すなわち、血中脂質濃度が境界域の人が多く存在する現代の日本においては、風味良好で使用しやすく安価な血中脂質濃度改善作用を有する食品が切望まれている。一方、家庭において食用油脂は非常に使用頻度高いため、特に努力することなく血中脂質改善作用を有する食用油脂を摂取することができる。したがって、血中脂質改善効果を有する食用油脂は、利用価値の非常に高いものであるといえる。
【0004】
オリザノールは米やトウモロコシ等の胚芽に多く含まれる成分であり、天然の抗酸化剤として化粧品(フレグランスジャーナル No.42(1980)91ー95)や食品(油化学 第53巻 第6号(1983)305ー310)に広く利用されている,。一方オリザノールの生理作用については、後述のフィトステロール同様に血中コレステロール低下を始めとする血中脂質低下効果を示すことが、動物またはヒトを用いた数多くの試験(基礎と臨床Vol.17 No.4 Apr.(1983)123−140,Lipid Vol.32 No.3 (1997)303−309)により報告されている。
【0005】
トリテルペンアルコールは、量の大小はあれ大豆油、コーン油、米油などの一般的な植物油脂に含まれる成分である。また、後出のオリザノールを構成するアルコール部分の主要な成分でもあり、生理的作用はオリザノールに類似している。中でもシクロブラノールは、他のトリテルペンアルコールに比較して生理作用が強いことが示されており、ラットを用いた試験にて総コレステロール低下及び動脈硬化指数の改善が確認されている(動脈硬化 Vol.13 No.2 June(1985)273−278)。
【0006】
フィトステロール単独での血中コレステロール低下効果については、古くから知られているところであり、医薬品をはじめ健康食品や一般食品への応用を目的とした報告が数多く成されている(The Lipid vol.5 No.1
1994 101−105)。
【0007】
一方、食品としての観点からみると、大量にこれらの有効成分含量を高めた場合、外観や風味、安定性など品質上好ましくない場合がある。例えば通常の精製食用油脂に対して、それらの有効成分を所望の濃度になるように添加する方法が簡便であるが、この場合、添加濃度によっては食用油脂として好ましくない異味や曇りが発生する。本発明で述べている食用油脂は、一般家庭で汎用される液状油脂と同等以上の品質を有する食用油脂を意味しており、当然の事ながら生食のみならず炒め物や揚げ物にも使用されることを想定しておかなければならない。従って、加熱時に発煙や異常な加熱臭を発するようなものであっては、目的とする食用油脂の品質を達成したとは断じて言えないのである。
【0008】
フィトステロールやトリテルペンアルコールは、食用油脂への応用という点では、比較的高温においては高濃度(%オーダー)添加でも清澄であるが、室温に戻るや否や深刻な結晶析出引き起こし、場合によっては流動性すら失ってしまう欠点がある。特公昭57−26732では、2.0〜6.0質量%といった高濃度のフィトステロールを食用油脂に添加し、低温でも清澄な品質を保持する方法が開示されているが、フィトステロールの可溶化剤としてC6〜18の脂肪酸を0.5〜15質量%添加する必要があり、このような油脂は風味低下や加熱調理時の発煙などが懸念され、本発明で目的としている食用油脂の品質を達成できるとは考えにくい。また、オリザノールについても、油脂への溶解性が問題となり、特に4.0質量%を超える添加濃度では、70℃を越える高温においても、溶解操作に長時間を必要とするので、生産効率や最終製品の風味、酸化安定性といった面で問題が生じてくる。例えば、特開昭55−50094号公報に代表されるように、オリザノールの難溶解性を克服するための取組も行われているが、この場合も、別途スクアレン等の溶解剤を加える必要性があり、風味や食感といった最終的な食用油脂の品質に対して懸念があるばかりか、確実なコストアップ要因となってしまう。
【0009】
オリザノール、トリテルペンアルコール及びフィトステロールのいずれについても、濃度依存的に血中脂質低下効果が高められるものである。従ってその効果を強化させたければ、それぞれの成分濃度をより高めるような処方を用いることがもっとも簡便である。しかしながら、効果を追求するあまり、一方で食用油脂としての品質維持が困難になるという不可避な問題が生じるのが実情なのである。血中脂質低下効果を維持しながら有効成分の含有量を低減させる方法として、有効成分が複数混在する場合の相乗効果を利用する報告も見られる。例えば特公平4−78264号公報では、フィトステロール1部にシクロアルテノール又は24−メチレンシクロアルタノールを0.01〜0.1部併用すると、単独でフィトステロールを使用する場合よりも血漿コレステロール低下効果が強められるといった相乗効果が認められている。この他にも特開平6−298645号公報では、大豆ステロール、オリザノール及びトコフェロールの3成分配合による相乗効果が報告されている。しかしながら、前者においては動植物油にあらかじめ溶解して使用することも記載されてはいるが、風味や外観、耐冷性や加熱調理への適応性といった使い勝手など食用油脂としての大切な機能については全く言及されておらず、また後者に至ってはいわゆる高脂血症治療・予防剤への応用を主とするもので、そもそも食品の開発視点に立ったものではない。これらいずれの場合も本発明で目的としている食用油脂の品質すなわち、風味、外観、耐冷性や加熱調理適性等を満足できるものではないのである。
【0010】
また、高脂血症は、成人病の危険因子であることは前にも述べた。しかしながら、血中脂質濃度は、できるだけ低くすることが望ましいわけではない。極端な血中脂質濃度の低下は、逆に総死亡率やガン死の増加を招くことが疫学的調査により示されている(The Lipid、9巻4号、323〜329、1998年)。したがって、血中脂質改善機能を有する食用油脂の機能としては、適性レベルにある人の血中脂質濃度には影響を及ぼさず、高脂血症の人のみ血中脂質低下効果を有することが必要である。使用する対象を選べない食品においては、健常な人において、好ましくない影響を及ぼさないことも、非常に重要な因子である。しかしながら、従来の技術は、単に血中脂質濃度を低下させる技術であり、健常人が使用することについては、なんら検討されていない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は、血中脂質改善機能を有し、かつ風味良好で低温耐性と加熱調理適性を具備した優れた食用油脂を提供することを課題とする。
【0012】
【発明が解決するための手段】
前記の目的を達成するために、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、オリザノールと、フィトステロールと、トリテルペンアルコールを含む食用油脂が、血中脂質改善機能を有すること、および、フィトステロールとトリテルペンアルコールについて遊離型のものの含量が一定量以下である場合、食用油脂としても優れていることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、オリザノールと、遊離型または脂肪酸エステル型フィトステロールと、遊離型または脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールを含み、オリザノールの含量が0.8〜4.0質量%、遊離型または脂肪酸エステル型フィトステロールと遊離型または脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールの総和が0.5〜6.0質量%であり、かつ、遊離型フィトステロールおよび遊離型トリテルペンアルコールの総和が0.5%質量以下である血中脂質改善機能を有する食用油脂に関する。ここで、オリザノールと、遊離型または脂肪酸エステル型フィトステロールと、遊離型または脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールの3成分の相乗効果により、好適な血中脂質改善効果が得られ、また、遊離型フィトステロールおよび遊離型トリテルペンアルコールの総和が一定量以下である場合、低温保存性等に優れ、食用油脂として好適である。
また、オリザノールについて、フェルラ酸とエステル結合を成している全アルコール部組成のうち、シクロブラノールの組成比が2.0質量%以上含まれていると、前記3成分の相乗効果が予想し得ないほど著しく高まることを見出したことから、本発明において、上記オリザノールを構成する全アルコール組成の内、シクロブラノールの組成比率が2.0質量%以上である場合、血中脂質改善機能が良好であるため好ましい。
さらに、該食用油脂を含有する油脂加工品も好適に血中脂質改善機能を有するため好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下本発明を詳しく説明する。本発明はオリザノール、トリテルペンアルコール及びフィトステロールの3種類の成分を同時に用いることで、血中コレステロール及び中性脂肪改善作用を十分に発揮し、かつ風味良好で低温耐性と加熱耐性を具備した優れた食用油脂を提供するものである。
本発明は、油脂に、好ましくは精製処理された油脂に、オリザノールと、遊離型または脂肪酸エステル型フィトステロールと、遊離型または脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールからなる食用油脂であるが、オリザノールと、遊離型または脂肪酸エステル型フィトステロールと、遊離型または脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールの3成分の相乗効果により、好適な血中脂質改善機能を有すること、つまり、血中コレステロール及び中性脂肪改善作用有することを特徴とする。上記3成分が好適な血中脂質改善機能を有するための含有量は、食用油脂中に、オリザノールの含量が0.8〜4.0質量%、遊離型または脂肪酸エステル型フィトステロールと遊離型または脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールの総和が0.5〜6.0質量%であることが好ましい。ここで、オリザノールは4.0質量%を超えて、また、フィトステロールとトリテルペンアルコールについては、これらの総和含量が6.0質量%を超えて存在すると、外観、風味、低温耐性や加熱耐性といった食用油脂としての機能に問題が生じてくるに止まらず、正常なレベルにあるラットの血中脂質濃度までも低下させてしまうという好ましくない作用のあることがわかった。一方、オリザノール含量が0.8質量%以下といった低いレベルでは、フィトステロールとトリテルペンアルコールの総和含量が0.5〜6.0質量%含まれていても相乗効果が十分に発揮できず、本発明の目的の一つである血中脂質改善機能が消失してしまう。逆にフィトステロールとトリテルペンアルコールの総和含量が0.5%以下である場合も同様にオリザノールとの相乗効果が十分に発揮できないのである。これらの3成分を含有させ、含有量を調整する方法としては、例えば食用油脂に上記3成分を添加することができ、また、オリザノールを含有する油脂に他の2成分を添加することも、さらに、各成分が一定量含有する油脂をブレンドすることで調整することができ、本発明の態様を満たせば、その製造方法は特に限定されない。
ここで、遊離型フィトステロールおよび遊離型トリテルペンアルコールの総和が0.5質量%以下である血中脂質改善機能である場合、風味良好で低温耐性と加熱耐性を具備することができ、食用油脂として好適なものである。
また、さらに、油中に含まれるオリザノールについて、フェルラ酸とエステル結合を成している全アルコール部組成のうち、シクロブラノールの組成比が2.0質量%以上含まれていると、前記3成分の相乗効果が予想し得ないほど著しく高まることを見出し、その結果としてより血中脂質改善機能が強化された食用油脂を獲得することが可能となったのである。オリザノールを構成する全アルコール組成の内、シクロブラノールの組成比率が2.0質量%以上である場合、血中脂質改善機能が良好であるため好ましい。シクロブラノールの組成比率が高いオリザノールを添加するこでも、精製工程により該組成比率を増加させることでも、血中脂質改善機能を好適に向上させることができる。
さらに、該食用油脂を含有する油脂加工品も好適に血中脂質改善効果を有するため好ましい。
【0014】
本発明におけるオリザノールとは、γ−オリザノールに代表されるようなフェルラ酸を母核とした種々のアルコールとのエステル化合物の総称であり、アルコールとしては、例えば後述のトリテルペンアルコールやフィトステロール、その他高級脂肪核アルコール及び直鎖アルコール等が挙げられる。
【0015】
本発明で言うトリテルペンアルコールは、トリメチルステロール或いは四環性トリテルペンアルコールと呼ばれる一連の化合物の総称である。遊離型とはステロイド核上C−3位の水酸基が遊離型のものであり、例えばシクロアルテノール、24メチレンシクロアルタノール、シクロブラノール、パルケオール、シクロアルタノール、シクロサドール、シクロラウデノール及びブチロスペリモール等そのものを指す。エステル型とは、直鎖脂肪酸と前記の遊離型トリテルペンアルコールのエステル結合物を指し、シクロアルテニルオレエートやシクロブラニルリノレートなどが挙げられる。エステル型を形成する直鎖脂肪酸は特に限定されるものではないが、例としては、酢酸、プロピル酸、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸等の飽和脂肪酸、トウハク酸、リンデル酸、ミリストレイン酸、ペンタデセン酸、パルミトレイン酸、ヘキサデカトリエン酸、ヘプタデセン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、γ−リノレン酸、オクタデカテトラエン酸、イコセン酸、イコサジエン酸、イコサトリエン酸、イコサテトラエン酸、アラキドン酸、イコサペンタエン酸、ドコセン酸、ドコサジエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0016】
オリザノールは精製されたものを使用することができ、その精製法として、例えば、米ぬか油の製造工程で得られる脱酸油さいを原料として、pH調整法やシリカゲル等を用いた吸着法(油化学 第53巻 第6号(1983)305ー310)によって製造されるのが一般的であるが、この他にも種々の報告があり、実施にあったては食用の基準を満たすものであればいずれの方法で製造したものであっても良く、これらに限定されない。また、既に商品化されたオリザノールもあるので、市販品を購入し用いることができる。
【0017】
本発明におけるフィトステロールとは、植物を起源とした一連のステロール化合物で、油量種子や穀物類に広く分布しており、日常の食品にも含まれている成分である。遊離型とはステロイド核上C−3位の水酸基が遊離型のものであり、例えばβ−シトステロール、β−シトスタノール、スチグマステロール、スチグマスタノール、カンペステロール、カンペスタノール、フコステロール、イソフコステオール、クレロステロール、22―ジヒドロスピナステロール、22―デヒドロクレロステロール、スピナステロール、アベナステロール、24β―エチルー25―デヒドロラトステロール25−デヒドロコンドリラステロール、ポリナステロールおよびブラシカステロール等である。エステル型とは、直鎖脂肪酸と前記の遊離型フィトステロールのエステル結合物を指し、β−シトステリルオレエートやカンペステリルリノレートなどが挙げられる。エステル型を形成する直鎖脂肪酸は特に限定されるものではないが、例としては、酢酸、プロピル酸、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸等の飽和脂肪酸、トウハク酸、リンデル酸、ミリストレイン酸、ペンタデセン酸、パルミトレイン酸、ヘキサデカトリエン酸、ヘプタデセン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、γ−リノレン酸、オクタデカテトラエン酸、イコセン酸、イコサジエン酸、イコサトリエン酸、イコサテトラエン酸、アラキドン酸、イコサペンタエン酸、ドコセン酸、ドコサジエン酸、ドコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等の不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0018】
フィトステロールの製造方法については、例えば、植物油の脱臭工程より産出される留分をアセトンやn−ヘキサンなどの溶剤に溶かし、これにメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコールまたは含水アルコール加えて冷却し結晶を得ることができる。また、必要に応じて直鎖脂肪酸とのエステル化反応などの処理を行っても差し支えない。また、市販品をエステル化して使用することもできる。
【0019】
トリテルペンアルコールは、米ぬか油由来の不ケン化物からクロマトグラフィーにより分取したもの、またはオリザノールの加水分解物を原料として同様に調製したもののいずれを用いることができる。また、フィトステロール同様、必要に応じて直鎖脂肪酸とのエステル化反応などの処理を行っても差し支えない。好ましくは、前記オリザノールを加水分解し、ゲルカラムクロマトグラフィーにて精製したトリテルペン画分をオレイン酸でエステル化したものを使用することができる。
【0020】
オリザノールと、遊離型または脂肪酸エステル型フィトステロールと、遊離型または脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールの3成分の相乗効果により、本発明の血中脂質改善機能を有する。
上記3成分が好適な血中脂質改善機能を有するための含有量は、食用油脂中に、オリザノールの含量が0.8〜4.0質量%、好ましくは1.0〜3.0質量%、更に好ましくは1.0〜2.5質量%であり、遊離型または脂肪酸エステル型フィトステロールと遊離型または脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールの総和が0.5〜6.0質量%、好ましくは1.0〜5.0質量%、更に好ましくは1.5〜5.0質量%である場合、本発明の血中脂質改善機能を好適に有するため好ましい。
【0021】
オリザノールは4.0質量%を超えて、また、フィトステロールとトリテルペンアルコールについては、これらの総和含量が6.0質量%を超えて存在すると、外観、風味、低温耐性や加熱耐性といった食用油脂としての機能に問題が生じてくるに止まらず、正常なレベルにあるラットの血中脂質濃度までも低下させてしまうとので、本発明においては好ましくない。
一方、オリザノール含量が0.8質量%以下といった低いレベルでは、フィトステロールとトリテルペンアルコールの総和含量が0.5〜6.0質量%含まれていても相乗効果が十分に発揮できず、本発明の目的の一つである血中脂質改善機能が消失してしまうため好ましくない。逆にフィトステロールとトリテルペンアルコールの総和含量が0.5%以下である場合も同様にオリザノールとの相乗効果が十分に発揮できないので同様に好ましくない。
【0022】
本発明の油脂は、オリザノール、フィトステロールおよびトリテルペンアルコールが油脂に含有されているものであるが、ここで油脂とは、動物、植物、魚介類、微生物等から抽出し、あるいは常法によりエステル合成して得ることができるものである。
さらに詳細には、植物体、植物種子、植物果実などを圧搾および/または抽出してなる原料油脂を精製し、または動物性の脂肪を精製してなるものがあげられる。具体的には、大豆油、菜種油、高オレイン酸菜種油、ゴマ油、コーン油、綿実油、紅花油、高オレイン酸紅花油、ヒマワリ油、高オレイン酸ヒマワリ油、パーム油、パームオレイン油、パーム核油、パームステアリン、ヤシ油、カカオ油、米糠油、落花生油、オリーブ油、シソ油、エゴマ油、亜麻仁油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、ボラージ油、ババス油、ツクム油、綿実油、小麦胚芽油、藻類油、牛脂、豚脂、鶏油、魚油、乳脂、卵油、ラード、アザラシ油、品種改良によって低飽和化されたこれらの油脂およびこれらの水素添加油脂などが使用できる。
ここで、好ましくは大豆、菜種、サフラワー、ひまわり、綿実、米、コーン、ごま、フラックスといった油種から製造されるいわゆるサラダ油と呼ばれる低温耐性に優れた食用油脂を用いるのが好適である。もちろんこれらの食用油脂2種以上を任意の濃度で混合した混合油脂、エステル交換油脂、水添油脂、分別油脂等を用いることができる。
さらに、油脂の脂肪酸組成についても何ら限定されるものではなく、エステル交換等の技術により、リノール酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、ステアドリン酸、EPA、DHAといった多価不飽和脂肪酸などの機能性脂肪酸を積極的に導入することも可能であり、好ましい。
【0023】
本発明において、血中脂質改善機能とは、血中コレステロール及び中性脂肪改善作用有することを特徴とする。
本発明における血中脂質とは、血液中に含まれるコレステロールと中性脂肪のことである。血中コレステロールとは、血液中に含まれる全コレステロールのことであり、血中中性脂肪とは、血液中に含まれるトリグリセリドのことである。血清とは、血液中の脂質を分析するために、採血したサンプルを試験管に放置し得られる上清のことであり、血液から血球と血小板を除いた成分である。血清脂質とは、この血清中に含まれるコレステロールと中性脂肪のことを示す。臨床検査や健康診断時には、血液ではなく血清が脂質の分析サンプルとして用いられ、一般に血中脂質と血清脂質は同様の意味で用いられる。
【0024】
本発明における血中脂質改善機能とは、血中コレステロールや中性脂肪濃度が適性レベルである場合にはこれらの濃度低下作用を示さず、血中コレステロールおよび/または中性脂肪濃度が、高めあるいは高い場合にのみ低下効果を示す機能をいう。
【0025】
ここで、遊離型フィトステロールおよび遊離型トリテルペンアルコールの総和が0.5%以下である血中脂質改善機能である場合、風味良好で低温耐性と加熱耐性を具備することができ、食用油脂として好適なものである。前記の遊離型成分の濃度が0.5質量%を超えて高くなると、その溶解力が限界に達し室温においても濁りや結晶の発生し、深刻な場合は固化し容器から注ぎ出すことすらも出来なくなる。使用の度に加温が必要とあっては、外観だけでなく風味・酸化の安定性や使い勝手の面からも到底許容できるものではない。またオリザノールについても、その濃度が4質量%を超えて高くなると低温耐性の低下、また特有の加熱臭の発生が懸念される。本発明の食用油脂であれば、血中脂質改善機能を有しながら風味・外観・加熱適性において、従来食卓で用いられていた汎用サラダ油と同等またはそれ以上の品質を確保できるのである。つまり本発明による食用油脂は日常の食卓で手軽にかつ継続的に使用することができ、その結果として日頃の健康増進・維持に寄与することができる。
【0026】
また、油中に含まれるオリザノールについて、フェルラ酸とエステル結合を成している全アルコール部組成のうち、シクロブラノールの組成比が2.0質量%以上含まれていると、前記3成分の相乗効果が予想し得ないほど著しく高まることを見出し、その結果としてより血中脂質改善機能が強化された食用油脂を獲得することが可能となったのである。
【0027】
シクロブラノール(下記構造式(I))はトリテルペンアルコールの一種であり、一般にはフェルラ酸とのエステル体(オリザノールの構成成分)あるいはそれ自体で抗ストレス作用を示す生理機能の高い、医薬上有用な物質とされている。しかしながら、天然にはシクロブラノールはそれほど多くなく、市販オリザノールの原料となる米糠原油においても、オリザノールを構成するアルコール部に1質量%未満と極僅かに認められる程度に過ぎない。シクロブラノール含量を高める手段として、同じくトリテルペンアルコールの一つである24−メチレンシクロアルタノールを酸性触媒存在下で異性化する方法が知られており、これに関する報告が多数なされている(特許公報 昭51−40077号公報)。
【0028】
【式1】
【0029】
シクロブラノールの組成比率が高いオリザノールを添加するこでも、精製工程により該組成比率を増加させることでも、血中脂質改善機能を好適に向上させることができる。24−メチレンシクロアルタノールは、シクロアルテノールと並んで米糠油由来のオリザノールの主要構成成分とされている。前記の酸触媒による異性化の他にも油脂の精製工程の一つである脱色操作で使用される活性白土が触媒となって、一部の24−メチレンシクロアルタノールがシクロブラノールに異性化(Food Style 21 1999.9(Vol.3 No.9))することが知られている。
【0030】
3成分を含有させ、含有量を調整する方法としては、例えば食用油脂に上記3成分を添加することができ、また、オリザノールを含有する油脂に他の2成分を添加することも、さらに、各成分が一定量含有する油脂をブレンドすることで調整することができ、本発明の態様を満たせば、その製造方法は特に限定されない。
【0031】
油脂に前記3成分を添加する場合で、特に対油1質量%を超えるような添加量にあっては、溶解性を高めるため油脂の温度を40〜80℃まで加温した後、各成分を添加し、攪拌を行うことが作業上好ましい。添加・攪拌が真空条件下または不活性ガスでシールされた状態で空気との接触がない場合においては80℃を超えるような条件で添加・溶解させることも可能である。前記3成分の未精製品を添加した場合で得られる本発明品に関し、食用油脂としての外観や風味の向上が望まれる場合には、必要に応じて脱色・脱臭等を常法に従って実施できるが、例えば260℃を超えるような脱臭条件など、過度の条件設定は油中成分の減少を引き起こすため好ましくない。
【0032】
また、油脂として用いられる食用油脂の中には、前記3成分を比較的多く含んでいるものが見られる。例えば米ぬか油、コーン油等がその代表であるが、市販されている精製油については、前記3成分の含有量が目的とする血中脂質改善機能を十分に発揮するレベルにあるとは言えない。しかしながら、実施にあったては、少しでも有効成分の添加量が抑えられる利点があるので、好適な油脂であるといえる。
【0033】
さらに、米ぬか油についてはその原油中のオリザノール含量が1質量%以上と極めて高いレベルであることは周知のことである。米ぬか油中のオリザノールは一般的な油脂の精製工程の一部である脱酸工程の中で、アルカリ処理によって油さいとともに系外に排出され、結果として精製油中のオリザノール含量は0.2質量%以下と低くなってしまう。この理由から、アルカリ処理を行わず水蒸気蒸留を利用するなどの製造法の工夫により精製油中にオリザノールを高含有させる方法も考案されている。例として特開平6−340889に記載の方法が挙げられる。また、蒸留脱酸法のように特別な設備を用いなくても、脱酸工程で使用するアルカリ剤を強アルカリ水溶液(苛性ソーダ等)から弱アルカリ水溶液(炭酸ソーダ等)に変更または組み合わせて使用することで、遊離脂肪酸の中和除去効率を落とさず、油脂中にオリザノール類を豊富に含有させる脱酸方法を用いることもできる。加えて、一般の食用油脂にもある程度のフィトステロールやトリテルペンアルコールが含まれているので、例えばリパーゼ等でトリグリセライドを加水分解し、それら有効成分を濃縮しても良い。これらの方法によって調製された食用油脂は、血中脂質改善機能を発揮する有効成分の添加量を減少させることが出来るため、本発明を達成するに当たって好適なベース油であり、場合によっては本発明の目的とするところの食用油脂そのもを得ることも可能である。
【0034】
それら油脂に対して前記の有効成分を添加する場合のタイミングについては、原油を含めた製造工程の途中あるいは精製油となってからのいづれでも良い。好ましくは脱色工程の前に添加するのが良い。この理由は、一つには添加するそれら有効成分由来の好ましくない風味を除去することが出来ること、そしてもう一つは前記のように脱色工程の活性白土の作用により24−メチレンシクロアルタノールから血中脂質低下機能が高いシクロブラノールへの一部変換が進むためである(特開昭62―47879)。
【0035】
本発明の食用油脂は、好ましくは精製処理された油脂に、オリザノールと、遊離型または脂肪酸エステル型フィトステロールと、遊離型または脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールからなる食用油脂であるが、オリザノールと、遊離型または脂肪酸エステル型フィトステロールと、遊離型または脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールの3成分の相乗効果により、好適な血中脂質改善機能を有する。上記3成分が好適な血中脂質改善機能を有するための含有量は、食用油脂中に、オリザノールの含量が0.8〜4.0質量%、遊離型または脂肪酸エステル型フィトステロールと遊離型または脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールの総和が0.5〜6.0質量%であることが好ましい。上記の条件を満たすことで、血中脂質が高いレベルの場合はこれを低下させ、正常レベルの場合は低下させることはないという好適な血中脂質低下機能を有し、さらに、外観、風味、低温耐性や加熱耐性といった食用油脂としての機能も好適な食用油脂を得ることができる。
【0036】
本発明の目的とするところの食用油脂としての品質を満たしていれば、例えばトコフェロール、トコトリエノール、リグナンなどの天然の抗酸化剤やモノグリド、ジグリセリド、ポリグリセリド、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングロコール脂肪酸エステル及びレシチンといった各種乳化剤を用いることもできる。
【0037】
本発明の食用油脂は、大豆油、菜種油、コーン油や米油といった一般に市販されている通常の食用油脂と同等あるいはそれ以上の風味を持ち、これら通常の食用油脂と同様に、炒め物、揚げ物、マリネなどのあらゆる調理に使用できることはもちろんのこと、油脂を含有する食品であるドレッシング、マヨネーズ、マーガリン・ショートニング、ファットスプレッド、菓子類、クリーム類、パン、ケーキ、チョコレート、アイスクリーム、飲料、サプリメント等にも使用可能であり、特に油脂加工品として、ドレッシング、マヨネーズ、マーガリン・ショートニング、ファットスプレッド等へ使用された場合、本発明の血中脂質改善機能を好適に発揮することができるため好ましい。
また、用途についても一般家庭用に止まることなく、業務用、給食用、健康食品用、治療用、病院給食用及び病者用など、さらには医薬品原料、食品添加物原料としても使用できる。
つまり、本発明は、食用油脂としてのおいしさと血中脂質改善機能とを利用し、日常の食事を通じて当該食用油脂を適量継続的に摂取出来ることで、血中脂質濃度を正常域に保ち、日々の健康維持に結びつけていくという視点に根ざしたもである。
【0038】
本発明の食用油脂は、好適な血中脂質低下機能を有し、さらに、外観、風味、低温耐性や加熱耐性といった食用油脂としての機能も好適である。
食用油という毎日使用するものであるので、継続使用による効果が期待され、正に生活習慣病の改善・防止効果が期待される。
【0039】
【実施例】
以下に本発明をより具体的に説明するために、製造例および試験例を示す。無論、本発明はそれらによって限定されるものではない。
【0040】
原料調製
1)オリザノールは市販のγ−オリザノール(和光純薬工業製)をそのまま用いた(以下ORZ)。
2)フィトステロール脂肪酸エステルは市販品(タマ生化学工業製、遊離型フィトステロール)を原料としエステル化を行って使用した。エステル化はモル比でフィトステロール(β―シトステロール換算):オレイン酸(和光純薬工業製)=1:1とした混合物に、アルカリ触媒として苛性ソーダを適量添加し、220℃で20時間反応を行った。次いでその反応組成物を水洗・乾燥し、カラムクロマトグラフィーにて精製操作を行い、エステル型フィトステロール画分であるPS−H(高エステル型画分)とPS−L(低エステル型画分)を得た。
3)トリテルペンアルコールは前記オリザノールを2Nエタノールカリ溶液にてケン化分解し、ジエチルエーテルで抽出後、水洗・乾燥を経て遊離型トリテルペンアルコール画分を得た。この遊離型トリテルペンアルコール画分について、フィトステロールと同様のエステル化反応(トリテルペンアルコールのモル比はシクロアルテノール換算)・精製操作を行い遊離型トリテルペンアルコール画分であるTT−H(高エステル型画分)とTT−L(低エステル型画分)を得た。
【0041】
表1に本発明で用いるオリザノール、フィトステロール画分、トリテルペンアルコール画分及びベース油である大豆白絞油(日清製油製)、混合油(菜種白絞油(日清製油製)を各50質量%づつ混合)の分析結果を示す。
【0042】
【表1】
【0043】
製造例1および製造比較例1〜9
大豆油に対して、表1記載の各画分(ORZ、PS−H、PS−L、TT−H及びTT−L)を表2に示すような含量となるように添加し、80℃の温度を保ちながら、攪拌機を用いて全体が清澄になるまで十分に混合・溶解を行った。
【0043】
製造例2
上記と同様に、大豆油に、表1記載の各画分(ORZ、PS−H、PS−L、TT−H及びTT−L)を表2に示すような含量となるように添加し、80℃の温度を保ちながら、攪拌機を用いて全体が清澄になるまで十分に混合・溶解を行った後、画分が添加された油脂全体に対して2.0質量%となるように活性白土(水澤化学製)を添加し、減圧下120℃で15分間脱色操作、次いで200℃で30分間の脱臭操作を行った。
【0044】
製造例3
混合油(菜種白絞油(日清製油製)及びコーンサラダ油(日清製油製)を50質量%づつ混合したベース油)に、製造例2と同様の割合でオリザノール、フィトステロール及びトリテルペンアルコールを添加した後、同様の条件で脱色・脱臭操作を行った。
【0045】
【表2】
【0046】
製造例4
脱ガム米糠油(酸価24、オリザノール含量1.9%)に対し、32%の炭酸ソーダ水溶液を対油9.0質量%となるように添加した。温度85℃、180rpmで20分間攪拌の条件でアルカリ精製を行い、水洗後、遠心分離・乾燥により脱酸油を得た。この脱酸油のについて製造例2と同様に油脂全体に対して2.0質量%となるように活性白土(水澤化学製)を添加し、減圧下120℃で15分間脱色操作をし、次いで250℃×60分間の脱臭操作を行うことで高不ケン化物含有米糠油を得た。
【0047】
製造例1〜4、製造比較例1〜9、および参考例1として大豆油、参考例2として混合油について、オリザノール、フィトステロール及びトリテルペンアルコール含量をそれぞれ測定し、その分析結果を表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
試験例1
参考例1、製造例1〜4、製造比較例1〜9について、食用油脂としての風味、加熱適性および耐冷性の評価を以下の方法にて行った。評価の結果を、表.4に示す。
<風味>家庭用電気フライヤーにサンプル油600gを入れ、180℃で海老の天ぷらを揚げ、調理した海老の天ぷらの風味を評価した。調理品の風味について、良好(○)、やや問題あり(△)、非常に問題あり(×)の3段階で評価した。
<加熱耐性>家庭用電気フライヤーにサンプル油600gを入れ、180℃まで加熱し、その時の加熱臭および発煙を観察した。風味と同様に、3段階にて評価を行った。
<耐冷性>サンプル油を600gのペットボトルに充填した後、低温保管時(5℃で72時間静置)の外観を肉眼にて観察した。風味と同様に3段階にて評価を行った。
【0050】
【表4】
【0051】
オリザノールを4.1質量%以上含有する製造比較例7〜9のサンプル油は、風味および加熱耐性について、問題があるまたは非常に問題があった。トリテルペンアルコール及びフィトステロールのうち遊離型であるものの総和が0.6質量%以上含有する製造比較例1は耐冷性に非常に問題があり、加えて脂肪酸とのエステル型または遊離型のトリテルペンアルコール及び同フィトステロール含量の総和が6.1質量%以上含有する製造比較例6は、耐冷性について非常に問題があった。これらの結果から、オリザノール含量が4.0質量%以下で、脂肪酸とのエステル型または遊離型のトリテルペンアルコール及び同フィトステロール含量の総和が6.0質量%以下、かつトリテルペンアルコール及びフィトステロールのうち遊離型であるものの総和が0.5質量%以下である食用油脂は、風味良好で加熱調理適性および低温耐性を持った食用油脂であることがわかった。
【0052】
試験例2
製造例1、2、製造比較例3、4、6、8および9の食用油脂に関する血中脂質改善機能について、実験動物を用い栄養試験を行った。4週齢のウィスター系雄ラットに、大豆油(参考例、分析値を表1に示した)、製造例1、2、製造比較例3、4、6、8および9を添加した普通食または高脂血症食を2週間自由摂取させた。普通食および高脂血症食の組成を表5に示す。ミネラル混合およびビタミン混合は、ハーパー組成のものを使用した。実験食投与2週間後に、各群6匹ずつ解剖により採血し、血清コレステロールおよび中性脂肪濃度を、市販のキット(和光純薬工業製)を用いて測定した。大豆油食を対照に統計処理を行い、危険率5%以下のものを有意な差とした。普通食を与えたラットの血清脂質濃度(mg/dl)の測定結果を表6に、高脂血症食を与えたラットの血清脂質濃度(mg/dl)の測定結果を表7に示す。
【0053】
【表5】
【0054】
【表6】
【0055】
【表7】
【0056】
普通食の実験において、製造比較例6、8および9の飼料を与えたラットの血清コレステロールおよび中性脂肪濃度は、対照である大豆油に比べて有意に低い値を示した。製造例1、製造例2、製造比較例3および4においては、有意な違いはみとめられかった。このことから、油中のオリザノール含量が4.1質量%以上、または脂肪酸とのエステル型または遊離型のトリテルペンアルコール及び同フィトステロール含量の総和が6.1質量%以上である食用油脂は、正常なレベルにあるラットの血中脂質濃度までも低下させてしまうという好ましくない作用のあることがわかった。高脂血症食の実験においては、製造例1、2、製造比較例6、8および9の飼料を与えたラットの血清コレステロールおよび中性脂肪濃度は、対照である大豆油に比べて、有意に低い値を示した。なかでも、製造例2および製造比較例9の飼料を与えたラットの血清コレステロールおよび中性脂肪は、著しく低値を示した。このことから、油中のオリザノールが0.8質量%以上、かつ脂肪酸とのエステル型または遊離型のトリテルペンアルコール及び同フィトステロール含量の総和が0.5質量%以上含有する食用油脂には、高脂血症時に血中コレステロールおよび中性脂肪を低下させる効果があるということがわかった。さらに、オリザノールにエステル結合した全アルコール組成のうち、シクロブラノールの組成比率が2.0%以上である食用油脂は、より強い血中コレステロールおよび中性脂肪低下効果を有することも明らかとなった。
【0057】
普通食および高脂血症食の実験結果から、血中脂質濃度が適性レベルである場合には血中脂質濃度低下作用を示さず、高脂血症時のみ低下効果を示すためには、オリザノール含量が0.8〜4.0質量%、かつ脂肪酸とのエステル型または遊離型のトリテルペンアルコール及び同フィトステロール含量が0.5〜6.0質量%である食用油脂が適切であることが判明した。さらに、オリザノールにエステル結合した全アルコール組成のうち、シクロブラノールの組成比率が2.0%以上である食用油脂は、高脂血症時のみ非常に強力な血中脂質低下効果を有することも明らかとなった。
【0058】
製造例5および製造比較例10
製造例2の油脂を用いて、表8記載の配合となるようにマヨネーズを試作した。マヨネーズの調製は卵黄全量に食酢の一部を加えペースト状とした後、家庭用のハンドミキサーで攪拌しながら油脂の約半分を少しずつ加えていき、状態を観察しながら残りの食酢と油脂を添加し攪拌した。このように調製したマヨネーズを製造例5とした。また、対照として大豆白絞油を用いて同様の調製を行ったものを用意し、製造比較例10とした。
【0059】
【表8】
【0060】
試験例3
製造例5のマヨネーズの血中脂質改善機能について、実験動物を用い栄養試験を行った。4週齢のウィスター系雄ラットに、大豆油ベースマヨネーズ(対照 製造比較例11)と製造例5を日本クレア社製の配合飼料(CE−2)に添加し、2週間摂取させた。実験食は、毎日新しいものを調製して、午後6時から翌朝9時まで自由に摂取させた。実験食投与2週間後に、各群6匹ずつ解剖により採血し、血清コレステロールおよび中性脂肪濃度を、市販のキット(和光純薬工業製)を用いて測定した。大豆油ベースドレッシング食を対照に統計処理を行い、危険率5%以下のものを有意な差とした。分析した結果を表9に示す。
【0061】
【表9】
【0062】
製造例5食を投与したラットの血清コレステロールおよび中性脂肪濃度は、対照区である製造比較例10と比べて有意に低値をしめした。本結果から、オリザノールと、遊離型または脂肪酸エステル型フィトステロールと、遊離型または脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールを含み、オリザノールの含量が0.8〜4.0質量%、遊離型または脂肪酸エステル型フィトステロールと遊離型または脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールの総和が0.5〜6.0質量%であり、かつ、遊離型フィトステロールおよび遊離型トリテルペンアルコールの総和が0.5質量%以下である血中脂質改善機能を有する食用油脂を含んだドレッシングには、血中脂質改善機能があることがわかった。
【0063】
【発明の効果】
本発明は、食用油脂としてのおいしさと血中脂質改善機能とを利用し、日常の食事を通じて当該食用油脂を適量継続的に摂取出来ることで、血中脂質濃度を正常域に保ち、日々の健康維持に結びつけていく。食用油という毎日使用するものであるので、継続使用による効果が期待され、正に生活習慣病の改善・防止効果が期待される。
Claims (3)
- オリザノールと、遊離型または脂肪酸エステル型フィトステロールと、遊離型または脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールを含み、オリザノールの含量が0.8〜4.0質量%、遊離型または脂肪酸エステル型フィトステロールと遊離型または脂肪酸エステル型トリテルペンアルコールの総和が0.5〜6.0質量%であり、かつ、遊離型フィトステロールおよび遊離型トリテルペンアルコールの総和が0.5質量%以下である血中脂質改善機能を有する食用油脂。
- オリザノールを構成する全アルコール組成の内、シクロブラノールの組成比率が2.0質量%以上である請求項1に記載の食用油脂。
- 請求項1または2に記載の食用油脂を含有する油脂加工品。
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