JP3596757B2 - 真空チャンバーの減圧方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、超高真空雰囲気下におけるプロセス環境を必要とする半導体製造装置、加速器等に備えられる真空チャンバーを超高真空域の真空度に減圧する真空チャンバーの減圧方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
化合物半導体素子を作製するためのMBE装置等のプロセス装置は、化合物半導体素子を作製する際に、プロセス室となる真空チャンバー内の圧力を超高真空域の真空度まで減圧する必要がある。
【0003】
このプロセス装置に対して、定期的なメンテナンス、あるいは不定期的なトラブルシューティングを行う場合、超高真空域の真空度の圧力となっている真空チャンバー内の圧力を、一旦、大気圧まで昇圧した後、メンテナンス等の作業を行う必要がある。そして、メンテナンス等の作業が終了した後、再び半導体素子等の作製プロセスを実施するためには、真空チャンバー内の空気を排気して、真空チャンバー内の圧力を大気圧から超高真空域の真空度に減圧する。この真空チャンバー内の空気を排気する際の初期排気過程においては、真空チャンバー内を排気しながらチャンバー本体を昇温し、所定の高温状態を維持することにより、真空チャンバー内の内壁面に吸着した吸着ガスを除去するようになっている。このような真空チャンバー本体の昇温及び高温状態の維持により吸着ガスを除去することによって、真空チャンバー内の相当量の残留ガスを低減することができる。そして、真空チャンバーを常温に降温した後に、所望の超高真空域の真空度にすることができる。
【0004】
真空チャンバー内の圧力を超高真空域の真空度に減圧するために、真空チャンバー内の排気を行ないながら、真空チャンバーを昇温し、高温維持し、降温する一連の工程は、ベーキング工程と呼ばれている。このベーキング工程により除去される吸着ガスの主成分は水分である。一般に用いられるステンレス製真空チャンバーでは、ベーキング工程を行わずに、真空排気をするだけでは、真空チャンバーを超高真空域の真空度の圧力環境にすることはできないことが分かっている。
【0005】
このため、このベーキング工程は、真空チャンバーを、大気に開放した後から初期排気過程にわたって、真空チャンバー内に存在する水分を主成分とする残留ガス成分を取り除き、真空チャンバーを超高真空域の真空度の圧力環境にするための必須のプロセスとなっている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
真空チャンバー内の超高真空域の真空度に減圧するために必要な上記のベーキング工程に要する時間は、真空チャンバーの材質、所望とする真空チャンバーの真空度、プロセス条件等により異なるが、一般に、数時間〜数日にわたっている。
【0007】
例えば、ステンレス製の真空チャンバーの場合、上記のベーキング工程は、通常、真空チャンバーの表面温度を200℃〜300℃とし、この温度条件を数時間から数日間にわたって維持することにより行われる。
【0008】
トラブルの発生によって、真空チャンバーを大気に開放すれば、その都度ベーキング工程によって残留ガス成分を除去する操作を行わなければならず、その間、本来のプロセスによる素子作製は停止しなければならないため、長時間にわたるベーキング工程は生産効率の低下を招く。このため、ベーキング工程に要する時間を短縮することが望まれている。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、真空チャンバー内の圧力を超高真空域の真空度の圧力環境にするための必須のプロセスとなっているベーキング工程に要する時間を短縮した真空チャンバーの減圧方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明の真空チャンバーの減圧方法は、真空チャンバー本体を高温状態に昇温する昇温工程と、その高温状態を維持する高温維持工程と、その高温状態から降温させる降温工程とを含む一連のベーキング工程に先行して、または、該一連のベーキング工程と同時に、該真空チャンバーの内部にプロセスガスを供給した状態で、該プロセスガスにより該真空チャンバー内にプラズマを発生させる電力を供給することによりプラズマを発生させ、該プラズマにより該真空チャンバーの内壁に吸着した吸着ガスの相当量をあらかじめ除去し、前記プロセスガスと前記電力の供給を停止することにより前記発生されたプラズマを消滅させた後に、前記ベーキング工程の高温維持工程が継続され、該ベーキング工程によって真空チャンバーを2×10 −8 Pa以下の超真空域の真空度に減圧することを特徴とする。
【0011】
請求項2は、請求項1に記載の真空チャンバーの減圧方法において、前記真空チャンバー内にプラズマを発生させる電力は、該真空チャンバー内に設けられたプラズマ生成電極に、高周波電源から高周波電力を供給することにより発生されるものである。
請求項3は、請求項1または2に記載の真空チャンバーの減圧方法において、前記高温維持工程は、真空チャンバーの表面温度が200℃〜300℃になるように維持するものである。
請求項4は、請求項1〜3のいずれか1つに記載の真空チャンバーの減圧方法において、前記プロセスガスは、アルゴン、窒素、酸素、キセノンから選択される1種または、これらから選択される2種以上の組み合わせであるものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る真空チャンバーを超高真空域の真空度にするためのベーキング工程に要する時間の短縮方法について、図1に示すMBE装置1を一例として説明する。
【0013】
図1に示すMBE装置1は、体積が400L、内表面積が3m2である真空チャンバー2を有している。
【0014】
真空チャンバー2の内部には、RF(高周波)電力を印加するプラズマ生成用電極3が設けられている。また、真空チャンバー2には、プロセスガスであるアルゴンガスを真空チャンバー2内に供給するプロセスガス供給システム4と、真空チャンバー2内の真空度を計測するための電離真空計5と、真空チャンバー2内の残留ガス分析を行う四重極質量分析計6とがそれぞれ接続されている。
【0015】
プラズマ生成用電極3は、真空チャンバー2の内壁と絶縁状態となっている絶縁材料7を介して、真空チャンバー2の外部に設けられたRF電源8に接続されており、このRF電源8から高周波電力がプラズマ生成用電極3に供給される。プラズマ生成用電極3とRF電源8との間には、マッチングボックス9が設けられており、RF電源8とプラズマ生成用電極3とがマッチングするように調節される。真空チャンバー2の内部に設けられたプラズマ生成用電極3と真空チャンバー2の外部に設けられたマッチングボックス9及びRF電源8とは、絶縁材料7を介して接続されているため、真空チャンバー2自体にはRF電力が印加されないようになっている。また、真空チャンバー2は、接地されている。
【0016】
なお、プラズマ生成用電極3には、RF電力を印加する構成に代えて、DC電力による電力の印加、RF電力とDC電力との重量電力による電力の印加によって、プラズマPを生成するようにしてもよい。
【0017】
プラズマ生成用電極3には、ステンレスが用いられている。なお、このプラズマ生成用電極3としては、無酸素銅、アルミニウム、チタン、モリブデン、タンタル、石英等を使用してもよい。
【0018】
プロセスガス供給システム4は、プロセスガスであるアルゴンを供給する高純度アルゴンボンベ10を有し、高純度アルゴンボンベ10が金属配管11によって、真空チャンバー2に接続されている。この高純度アルゴンボンベ10と真空チャンバー2との間には、真空チャンバー2に供給されるアルゴンガスの、金属配管11内での圧力を一定になるように制御するレギュレータ12と、真空チャンバー2に供給されるアルゴンガスの流量を調整する流量計13と、真空チャンバー2内へのアルゴンガスの供給を開閉するバルブ14とがこの順に、金属配管11を介して接続されている。
【0019】
なお、プロセスガスとしては、窒素、酸素、水素、キセノン等を使用してもよく、または、これらの混合ガス種を使用してもよい。
【0020】
MBE装置1の真空チャンバー2には、真空チャンバー2内を真空排気する真空ポンプ、基板を保持するマニピュレータ、分子線を生成する分子線セル、分子線を開閉により制御するセルシャッター、放出ガスを吸着させ、真空度を向上させるためのクライオパネル(液体窒素シュラウド)等の他の要素部品が設けられているが、図1では、図面の煩雑を避けるため図示していない。
【0021】
なお、真空チャンバー2を装備した装置として、上記MBE装置1は一例であって、他に、スパッタ装置、CVD装置、蒸着装置用の真空チャンバー、加速器用真空チャンバー等でもよい。
【0022】
次に、上記構成のMBE装置1を用いて、真空チャンバー2内を超高真空域の真空度に減圧するためのベーキング工程に要する時間を短縮する方法について説明する。
【0023】
(1)まず、大気開放後の真空チャンバー2において、大気圧となっている真空チャンバー2内から真空排気を開始し、10−4Pa程度の真空度が得られた時点で、プラズマイオン種となるアルゴンガスを供給する。
【0024】
このアルゴンガスの供給は、まず、プロセスガス供給システム4のバルブ14を開にし、流量計13を調整することにより、所望の流量のアルゴンガスを真空チャンバー2内に導入することにより行う。
【0025】
(2)次に、マッチングボックス9により印加電圧を制御しながら、RF電源8からプラズマ生成用電極3にRF電力を印加し、真空チャンバー2内にプラズマPを生成させる。
【0026】
(3)そして、生成したプラズマP内に存在するイオン種を真空チャンバー2の内壁面に存在する吸着ガスに相互作用させることにより、吸着ガスを相当量除去する。
【0027】
上記(1)〜(3)の工程をベーキング工程に先行して、あるいはベーキング工程と同時に行うことにより、ベーキング工程に要する時間を短縮することができ、目的の超高真空域の真空度を得るまでの時間を短縮することができる。
【0028】
次に、(1)〜(3)の工程によるプラズマ発生により、ベーキング時間を短縮する効果を確認する実験を行った。
【0029】
この実験は、大気圧となった真空チャンバー2から真空排気を開始し、真空チャンバー2内の真空度が3×10−4Paの圧力になった時点で、プロセスガス供給システム4のバルブ14を開にしてアルゴンガスを導入し、流量計13を調整することにより、真空チャンバー2内の圧力を0.7Paの圧力で一定になるように調整した。
【0030】
次に、RF電源8によって、プラズマ生成用電極3に30Wの電力を供給し、真空チャンバー2内にプラズマPを生成させる。プラズマPが発生した状態を10分間維持し、真空チャンバー2の内壁に吸着した吸着ガスの除去を行った。その後、RF電力の供給、アルゴンガスの供給を停止することにより、真空チャンバー2内のプラズマを消滅させた。
【0031】
次に、真空排気を行いながら、24時間のベーキング工程を行った。ベーキング工程における真空チャンバー2内の温度は、真空チャンバー2の表面が200℃になるように調整した。このときの昇温速度は、約50℃/hであった。200℃の高温状態を24時間にわたって維持した後、真空チャンバー2の加熱を停止し、室温まで自然冷却させた。
【0032】
上記工程中の真空チャンバー2内の真空度を電離真空計5により経時的に測定した。
【0033】
図2に本実験結果である真空チャンバー2内の真空度の経時変化をAにて示す。なお、この場合のベーキング工程は、24時間にわたって行った。また、比較のため、プラズマPによる吸着ガス除去を行わずにベーキング工程をおこなった場合の真空度の変化を図2のB及びCに併せて示す。この場合のベーキング工程のための時間は、図2のBでは、本実験と同じ24時間とし、図2のCでは、本実験より長時間である48時間とした。
【0034】
図2のグラフAに示した結果により、本発明に係るプラズマによる吸着ガス除去をあらかじめ行った場合には、ベーキング工程を24時間にわたって行った後、約8時間経過後に、3×10−9Paの真空度に達し、超高真空域の真空度が得られた。
【0035】
一方、プラズマPを生成させることなく、同様に24時間にわたって、ベーキング工程を行った場合には、図2のBに示すように、2×10−8Paの真空度しか得られなかった。また、プラズマを生成させず48時間の長時間にわたって、ベーキング工程を行った場合には、60時間後に、4×10−9Paの超高真空域の真空度が得られた。
【0036】
この結果、10−9Pa台の超高真空域の真空度を得るためには、プラズマ処理を行わずにベーキング工程を行った場合は、48時間に及ぶ長時間のベーキング工程が必要であるが、プラズマによる吸着ガス除去をあらかじめ行った後に、ベーキング工程を行えば、ベーキング工程に要する時間が、24時間に短縮されることが分かり、真空チャンバー2内で生成させたプラズマによる吸着ガスの脱離効果が確認された。
【0037】
次に、本発明のベーキング工程に要する時間を短縮する方法による効果をさらに明確にするために、プラズマ生成を行った場合と行わなかった場合とについて、真空チャンバー内に存在する残留ガス分析をそれぞれ行った。
【0038】
図3は、プラズマによる吸着ガス除去を行った場合(D)と行わなかった場合(E)について、残留ガスの主成分である水分のイオン強度(電流)の経時変化を、四重極質量分析計6により水分の分子量に相当するマスナンバー(M/e)18を検知することによって測定した結果を示している。
【0039】
水分は、ベーキング工程を行う前に、真空チャンバー2内に存在する残留ガスのうち、最も多く存在するガス種である。したがって、通常、ベーキング工程においては、水分を相当量除去することができれば、超高真空域の真空度を得ることができる。
【0040】
四重極質量分析計6によって測定されるイオン強度は、検知しているガス種の存在割合(分圧)に比例する。このため、真空チャンバー2内に存在する水の分圧の経時変化を比較すれば、真空チャンバー1内の水の残留量をモニターすることができる。
【0041】
図3に示すグラフから、プラズマを生成する前では、Dに示すプラズマを生成させた場合と、Eに示すプラズマを生成させない場合との双方で、水分は、ほぼ同じ割合で時間経過とともに減少している。
【0042】
しかし、その後、Dに示すプラズマを生成した場合には、Eに示すプラズマを生成しない場合に比較して、プラズマ生成終了直後の残留水分の減少に明らかな差異が観察された。
【0043】
これはプラズマ生成により、真空チャンバー2内の相当量の水分が除去されたことを示しており、ベーキング工程前の真空チャンバー2内において、プラズマを生成しない場合に比較して、残留水分量が低くなっており、ベーキング工程に要する時間を短縮できることが明らかとなった。
【0044】
以上の図2、図3に示した結果から、排気初期過程において、残留ガスの主成分として存在する水分を、プラズマの作用により除去することにより、その後のベーキング工程の時間を24時間程度に短縮しても、プラズマを作用させずに、48時間の長時間にわたってベーキング工程を行う場合と同程度の超高真空域の真空度が得られることが明らかとなった。
【0045】
なお、本実施の形態では、ベーキング工程に先行して、真空チャンバーの内壁にプラズマを発生させることにより、前記真空チャンバーの内壁に吸着した吸着ガスを除去しているが、ベーキング工程と同時に、真空チャンバーの内壁にプラズマを発生させることにより、前記真空チャンバーの内壁に吸着した吸着ガスを除去するようにしてもよい。
【0046】
【発明の効果】
本発明によれば、大気開放した後の真空チャンバーを真空排気する際、その初期排気過程において、真空チャンバー内でプラズマを生成させ、真空チャンバーの内壁面に存在する吸着ガスとプラズマとの相互作用により、真空チャンバーの内壁面に吸着した水分を主成分とする吸着ガスを効率良く除去することができるので、ベーキング工程に要する時間を短縮して、超高真空域の真空度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のベーキング工程に要する時間の短縮方法を説明するための真空チャンバーを備えたMBE装置の概略構成図である。
【図2】本発明のベーキング工程に要する時間の短縮方法を用いてベーキング工程を行った場合の真空チャンバー内の真空度を測定した測定結果を示すグラフである。
【図3】本発明のベーキング工程に要する時間の短縮方法を用いた場合のプラズマ生成前後における水分(M/e=18)を四重極質量分析計によって測定した測定結果を示すグラフである。
【符号の説明】
1 MBE装置
2 真空チャンバー
3 プラズマ生成用電極
4 プロセスガス供給システム
5 電離真空計
6 四重極質量分析計
7 絶縁材料
8 RF電源
9 マッチングボックス
10 アルゴンガスボンベ
11 金属配管
12 レギュレータ
13 流量計
14 バルブ
Claims (4)
- 真空チャンバー本体を高温状態に昇温する昇温工程と、その高温状態を維持する高温維持工程と、その高温状態から降温させる降温工程とを含む一連のベーキング工程に先行して、または、該一連のベーキング工程と同時に、該真空チャンバーの内部にプロセスガスを供給した状態で、該プロセスガスにより該真空チャンバー内にプラズマを発生させる電力を供給することによりプラズマを発生させ、該プラズマにより該真空チャンバーの内壁に吸着した吸着ガスの相当量をあらかじめ除去し、前記プロセスガスと前記電力の供給を停止することにより前記発生されたプラズマを消滅させた後に、前記ベーキング工程の高温維持工程が継続され、該ベーキング工程によって真空チャンバーを2×10 −8 Pa以下の超真空域の真空度に減圧することを特徴とする、真空チャンバーの減圧方法。
- 前記真空チャンバー内にプラズマを発生させる電力は、該真空チャンバー内に設けられたプラズマ生成電極に、高周波電源から高周波電力を供給することにより発生される、請求項1に記載の真空チャンバーの減圧方法。
- 前記高温維持工程は、真空チャンバーの表面温度が200℃〜300℃になるように維持する、請求項1または2に記載の真空チャンバーの減圧方法。
- 前記プロセスガスは、アルゴン、窒素、酸素、キセノンから選択される1種または、これらから選択される2種以上の組み合わせである、請求項1〜3のいずれか1つに記載の真空チャンバーの減圧方法。
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